説明

リン脂質酸化体を用いた疲労の判定方法

【課題】被験体より容易に入手し得る生体試料を用いた被験体の疲労の程度を判定する方法、被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法、疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法、及び疲労判定試薬又はキットを提供すること。
【解決手段】被験体由来の生体試料における、リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較することを含む、疲労の程度を判定する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を解析することによる(1)被験体の疲労の程度を判定する方法、(2)被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法、(3)疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法、及び(4)疲労判定試薬又はキットに関する。
【背景技術】
【0002】
生活者の6割以上の人は、日常的に疲労を感じており、以前と比較して十分な作業活動を維持できないと感じている(非特許文献1)。疲労に悩む生活者は、企業間競争の激化や成果主義の導入による労働環境変化、生活習慣の乱れによる睡眠不足や栄養不足などによる心身負担の増大などに伴って、年々増加している。
【0003】
生活者は、日々の疲労を回復するために、入浴、コーヒーの飲用、一般用医薬品及び食品・サプリメントの摂取、アロマグッズの使用など、さまざまな方法を試行しているが(非特許文献2)、日々の疲労に対して適切に対処できなかった際においては、疲労は蓄積していく。今や、疲労の蓄積に関連する健康障害及び経済損失は大きく、社会的問題になっている。これらの社会的問題を解決するためには、生活者の疲労の程度を判定し、疲労の程度に応じた適切な対処方法を選択し、早期に疲労を改善又は回復することが必要である。
【0004】
疲労の程度を判定する方法については公的な対策も推進されており、広く知られている公的対策の一つとしては、睡眠の時間や質、労働時間、疲労感や抑うつ感などの項目からなる簡易な自己判断方法(労働者の疲労蓄積度チェックリストなど)が挙げられる(非特許文献3)。しかし、国内外における多数の研究にもかかわらず、疲労感などの自覚症状によることなく、疲労の程度を客観的に判定することが可能な方法として、広く認められた方法は未だにない。
【0005】
これまでにも、栄養素、サイトカインやその受容体、さらにはシグナルを受け取ってからの細胞内シグナル伝達機構などの研究から、疲労の程度を客観的に判定するための方法の開発が試みられている(非特許文献4)。例えば、血液中の複数のアミノ酸(特許文献1)、TGF-β(特許文献2)、網羅的ヒドロキシリノール酸(tHODE)など、唾液中のヒトヘルペスウイルス6型(HHV−6)の遺伝子の発現量(特許文献3)、コルチゾール、副腎性ホルモン又はそれらの代謝物、クロモグラニンA、モノアミン類など、尿中のイソプラスタン、8-ハイドロキシ−2’−デオキシグアノシン(8−OHdG)などの分析や測定などが挙げられる。
【0006】
これまでの研究において、尿中のイソプラスタンや8−OHdGは、運動による疲労時において増加することが報告されている。しかし、イソプラスタンや8−OHdGは糖尿病や動脈硬化などの生活習慣病と密接に関係しており、疲労の判定方法としての使用において課題が残されている。
また、血漿中のtHODEは、短時間睡眠を伴う連続デスクワーク作業により増加し、精神的疲労評価指標であるフリッカー値と関係することが知られているが、アルツハイマー患者、血管性痴呆患者の血漿においても、著しい上昇が認められている。
さらに、これら多くの疲労の判定方法は精神機能に大きく影響され、単にエネルギー代謝を反映している場合もあり、疲労の程度を客観的に判定していないと考えられる。
【0007】
上記の疲労の判定方法の多くは、免疫機能の乱れを背景とする中期的・長期的な疲労と関係するが、短期的な疲労によっては引き起こされ難いという課題がある。また、病的疲労の一つである慢性疲労症候群と深く関係しており、カルバマゼピン、フェニトイン、フェノバルビタール、ゾニサミド、サラゾスルファピリジン、メキシレチン、アロプリノールなどによる薬剤性過敏症症候群とも密接に関係していることが知られている(非特許文献5)。
【0008】
従って、生活習慣病やリンパ腺の腫れなどを伴う病的疲労や薬剤由来の疲労の判定方法として活用することは可能であるが、日常生活における疲労の判定方法としては、使用において課題が残されている。
【0009】
疲労の蓄積などによる社会的問題を解決するため、生理学的な特徴に立脚した疲労の程度の客観的な判定方法が望まれている。また、疲労の状態を確実に改善できる物質や医薬品も依然開発途上にあり、疲労の程度の判定に有用な方法は、そのような医薬品などの疲労に対する有効性の判定のためにも必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO2005/078448号公報
【特許文献2】WO2007/094472号公報
【特許文献3】特開2007−330263号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】疲労の実態調査と予防策、P222−228、疲労の科学 株式会社講談社、2001年
【非特許文献2】疲労回復ホームページ、P229−233、疲労の科学 株式会社講談社、2001年
【非特許文献3】厚生労働省 労働者の疲労蓄積度チェックリスト
【非特許文献4】疲労の生化学バイオマーカー(血液、尿)、P71−75、最新・疲労の科学、別冊・医学のあゆみ、医歯薬出版株式会社、2010年
【非特許文献5】薬剤性過敏症症候群とヒトヘルペスウイルス、臨床免疫・アレルギー科、50巻3号、P302−306、2008年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
疲労感に頼ることなく、日常生活における疲労の程度を客観的に判定することは、睡眠や休息の確保、栄養補給や摂取、さらには、医薬品投与を適切に行うことを可能とし、疲労の回復、改善及び予防が容易に可能となり、国民の健康維持・増進に大きく寄与することとなる。
従って、疲労の程度の判定などに有用な方法は、国民の健康維持・増進のためにも重要なものであり、医薬品などの疲労に対する有効性を判定するためにも必要である。
しかしながら、上述のように、疲労の程度の判定方法は提案されているが、客観的な判定方法としては極めて不十分であり、真に疲労の程度の判定に用いることが可能な判定方法は開発されていない。また、疲労状態を確実に治療できる医薬品も依然として開発途上にあり、学問上も大きな問題である。
【0013】
本発明は、被験体より容易に入手し得る生体試料を用いた被験体の疲労の程度を判定する方法、疲労を回復、改善又は予防し得る物質(被験物質)の疲労に対する有効性を判定する方法、疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法、及び疲労判定試薬又はキットを提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、生理学的な特徴に立脚した手法によって、日常生活における疲労、特に生理的疲労により発現量が変動する特定のリン脂質の酸化体を見出し、特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を解析することにより疲労の程度を判定することに成功し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明に係る疲労の程度の判定方法は、上記の課題を解決するために、被験体より容易に入手し得る生体試料を用い、特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量の変動(発現変動)を指標として疲労の程度を判定することを特徴とする。
【0015】
上記の方法では、疲労の程度を簡便かつ客観的に判定でき、疲労を回復、改善又は予防し得る物質の疲労に対する有効性を判定でき、これらの物質を探索することも可能である。さらに、疲労の程度が未知である被験体の疲労の程度を客観的に判定することにより、疲労の状態と判定された被験体は睡眠や休息の確保、栄養補給や摂取、さらには、医薬品投与を適切に行うことが可能となり、疲労の回復、改善及び予防が容易に可能となり、国民の健康維持・増進に大きく寄与することとなる。即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0016】
(1)被験体由来の生体試料におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較することを含む、疲労の程度を判定する方法。
(2)被験体に被験物質を投与し、被験体由来の生体試料におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較することを含む、被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法。
(3)被験体に被験物質を投与し、被験体由来の生体試料におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較し、当該リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を変動させる物質を、疲労を回復、改善又は予防し得る候補物質として選択することを含む、疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法。
【0017】
(4)被験体由来の生体試料が、ヒト又は非ヒト哺乳動物由来の血液、肝臓、心筋、骨格筋又は細胞である、(1)から(3)のいずれか1項に記載の方法。
(5)疲労が生理的疲労である、(1)から(4)のいずれか1項に記載の方法。
記載の方法。
【0018】
(6)リン脂質酸化体及び/又はその代謝物が、ホスファチジルコリン酸化体及び/又はその代謝物である、(1)から(5)のいずれか1項に記載の方法。
(7)リン脂質酸化体及び/又はその代謝物が、ヒドロペルオキシド体、ヒドロキシ体、アルデヒド体及び/又はカルボン酸体である、(1)から(6)のいずれか1項に記載の方法。
(8)リン脂質酸化体及び/又はその代謝物のC1位脂肪酸がパルミチン酸及び/又はステアリン酸であり、リン脂質酸化体及び/又はその代謝物のC2位脂肪酸がリノール酸、アラキドン酸及び/又はドコサヘキサエン酸の酸化体である、(1)から(7)のいずれか1項に記載の方法。
【0019】
(9)被験体由来の生体試料におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量が非疲労状態の被験体と比較して増加及び/又は減少している場合に、被験体は疲労の状態であると判定することを特徴とする、(1)から(8)のいずれか1項に記載の方法。
(10)被験物質の疲労に対する有効性を判定するにおいて、被験物質の投与に伴って被験体由来の生体試料におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量の増加及び/又は減少が低減している場合に、被験物質は疲労に対して有効であると判定することを特徴とする、(1)から(9)のいずれか1項に記載の方法。
【0020】
(11)(1)から(10)のいずれか1項に記載の方法において上記リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較するための疲労判定試薬又は疲労判定キット。
【発明の効果】
【0021】
生理的疲労モデルとして運動負荷を行った被験体由来の骨格筋において、リン脂質酸化体及び/又はその代謝物であるヒドロペルオキシド体、ヒドロキシ体、アルデヒド体及びカルボン酸体の発現量に増加又は減少が認められた。さらに、被験体由来の血漿においても、リン脂質のヒドロキシ体及びカルボン酸体の発現量に増加又は減少が認められた。このことから、被験体の生体試料を用いて、これらのリン脂質酸化体を分析及び/又は比較することによって、疲労の程度を判定することができた。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明による、被験体の疲労の程度を判定する方法、被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法、疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法においては、被験体由来の生体試料における、特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較する。
本発明の実施の形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
<疲労>
【0023】
本発明における「疲労」とは、一般的な意味としては、例えば、身体作業あるいは精神作業などにより、身体あるいは精神に負荷を与えた際に生じる作業効率(パフォーマンス)が低下した状態を示す。この場合、「疲労の程度(疲労度)」とは作業効率の低下の程度(度合い)を意味する。
【0024】
本発明において、判定の対象となる疲労は、好ましくは生理的疲労であり、より好ましくは末梢性の疲労(末梢性疲労)であり、肉体疲労、身体疲労、筋肉疲労、運動疲労などがさらに好ましく、身体に負荷を与える作業(身体作業)により末梢組織(肝臓、心筋、骨格筋など)が疲労することに起因する肉体疲労(身体作業による肉体疲労)などが特に好ましい。ここで言う「身体作業」には、産業活動における労働作業のみでなく、日常生活における作業や運動、走行、自転車こぎ、階段の昇降などの動作も含む。
【0025】
「生理的疲労」とは、睡眠や休息の確保、栄養の摂取などを適切に得ることにより、自然の状態で回復が可能な範囲での疲労であり、病的疲労や薬剤由来の疲労を含まない疲労を示す。
「末梢性疲労」とは、脳が主体となって疲労を感じている中枢性疲労の状態でなく、脳以外の末梢組織に起因する疲労を示す。
「病的疲労」とは、慢性疲労症候群、悪性腫瘍、細菌又はウイルス感染、糖尿病、うつ病などの疾病に伴う疲労を示す。
「薬剤由来の疲労」とは、抗ガン剤、免疫抑制剤、向精神剤などの薬剤の使用によって引き起こされる疲労を示す。
「肉体疲労」、「身体疲労」、「筋肉疲労」、「運動疲労」などは、日常生活における生理的疲労及び末梢性疲労に含まれる疲労を示す。
従って、「非疲労の状態」とは、十分な睡眠や休息が確保されており、栄養摂取量を満たしており、精神あるいは身体などへの負荷が少なく、日常的に適度な運動を行い、さらに、生理的疲労、中枢性疲労、末梢性疲労、病的疲労又は薬剤由来の疲労を呈していない状態を意味する。
<被験体、及び生体試料>
【0026】
本発明における「被験体」とは、好ましくは、生体試料を採取することが可能なヒト又は非ヒト哺乳動物であり、ヒトであることが特に好ましい。
「非ヒト哺乳動物」とは、げっ歯類(例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモットなど)、霊長類(例えば、サルなど)、並びにイヌなど、医薬品、食品又は被験物質などの薬理試験や毒性試験などに汎用される動物が好ましく、上記の中でもマウス及びラットが特に好ましい。
【0027】
本発明における「生体試料」とは、特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物を発現しており、それらの発現量を分析及び/又は比較できる試料であれば、その種類は特に限定されない。
生体試料としては、血液、唾液、精液などの体液、肝臓、心筋、骨格筋などの組織や細胞が挙げられる。これらの試料は、倫理的な問題が生じないように採血、採取又はバイオプシーなどにより、被験体から分離されることが望ましい。好ましくは、生体試料は、血液、肝臓、心筋又は骨格筋であり、より好ましくは血液又は骨格筋であり、さらに好ましくは血液であり、特に好ましくは血漿である。
【0028】
尚、身体作業による生体への刺激は、骨格筋などの末梢組織において、酸化傷害(酸化ストレス)を引き起こす。これに伴い、骨格筋などの末梢組織の細胞膜などに存在するリン脂質の酸化体の発現量が変動し、これらのリン脂質酸化体及び/又はその代謝物が血液中へ移行する可能性が高い。
【0029】
また、本発明における「細胞」とは、特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物を発現しており、それらの発現量を分析及び/又は比較できる細胞である。
細胞としては、例えば、血液細胞、肝細胞、筋細胞、神経細胞、グリア細胞、骨髄細胞、繊維芽細胞、繊維細胞、間質細胞、又はこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。細胞は、好ましくは、筋細胞、肝細胞、血液細胞、又はそれらの前駆細胞もしくは幹細胞であり、ヒト由来の細胞であることがより好ましい。
<リン脂質>
【0030】
本発明における「リン脂質」とは、一般的に、構造中にリン酸エステル部位をもつ脂質を意味する。両親媒性を持ち、脂質二重層を形成して糖脂質やコレステロールと共に細胞膜の主要な構成成分となる。
リン脂質は、大きく分けて(1)グリセリンを骨格とするホスファチジン酸、ホスファチジルコリン (レシチン)、ホスファチジルエタノールアミン (セファリン、ケファリン)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトールなどのグリセロリン脂質と、(2)スフィンゴシンを骨格とするスフィンゴミエリンなどのスフィンゴリン脂質が存在する。
【0031】
リン脂質のC3位においてリン酸にエステル結合するアルコールの種類としては、コリン、エタノールアミン、イノシトール、セリン、グリセリンなどがある。
【0032】
また、リン脂質のC1位には飽和脂肪酸が、C2位には不飽和脂肪酸が結合している場合が多い。
【0033】
リン脂質における「飽和脂肪酸」としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸(酪酸、ブチル酸)、ペンタン酸(吉草酸、バレリアン酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、ヘプタン酸(エナント酸、ヘプチル酸)、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸(ペラルゴン酸)、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ペンタデカン酸(ペンタデシル酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、ヘプタデカン酸(マルガリン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、ノナデカン酸(ツベルクロステアリン酸)、イコサン酸(アラキジン酸)、ドコサン酸(ベヘン酸)、テトラドコサン酸(リグノセリン酸)、ヘキサドコサン酸(セロチン酸)、オクタドコサン酸(モンタン酸)又はメリシン酸などが挙げられる。
【0034】
リン脂質における「不飽和脂肪酸」としては、モノ不飽和脂肪酸であるクロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エルカ酸、ネルボン酸など、ジ不飽和脂肪酸であるリノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸など、トリ不飽和脂肪酸であるリノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、ミード酸、ジホモ-γ-リノレン酸、エイコサトリエン酸など、テトラ不飽和脂肪酸であるステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、アドレン酸など、ペンタ不飽和脂肪酸であるボセオペンタエン酸、エイコサペンタエン酸、オズボンド酸、イワシ酸、テトラコサペンタエン酸など、ヘキサ不飽和脂肪酸であるドコサヘキサエン酸、ニシン酸などが挙げられる。
【0035】
発明における好ましいリン脂質はグリセロリン脂質であり、より好ましくはホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン及び/又はホスファチジルイノシトールであり、さらに好ましくはホスファチジルコリンである。
また、好ましいC1位の飽和脂肪酸は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸及び/又はステアリン酸であり、パルミチン酸及び/又はステアリン酸がより好ましい。
また、好ましいC2位の不飽和脂肪酸は、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸及び/又はエイコサペンタエン酸であり、リノール酸、アラキドン酸及び/又はドコサヘキサエン酸がより好ましい。
<リン脂質酸化体>
【0036】
本発明における「リン脂質の酸化体(リン脂質酸化体)及び/又はその代謝物」とは、リン脂質C2位の不飽和脂肪酸が酸化された構造及び/又は代謝分解された構造を示し、リン脂質酸化体及び/又はその代謝物としては、ヒドロペルオキシド体(−OOH体)、ヒドロキシ体(−OH体)、アルデヒド体(−CHO体)、カルボン酸体(−COOH体)などが挙げられる。
【0037】
従って、本発明におけるリン脂質酸化体とは、複合脂質酸化体であり、より好ましくはグリセロリン脂質酸化体であり、より好ましくはホスファチジン酸酸化体、ホスファチジルコリン酸化体、ホスファチジルエタノールアミン酸化体、ホスファチジルセリン酸化体及び/又はホスファチジルイノシトール酸化体であり、さらに好ましくはホスファチジルコリン酸化体である。
また、本発明において好ましいリン脂質酸化体及び/又はその代謝物とは、C1位の飽和脂肪酸がパルミチン酸/又はステアリン酸であり、C2位の不飽和脂肪酸がリノール酸のヒドロペルオキシド体、リノール酸のヒドロキシ体、リノール酸のアルデヒド体、リノール酸のカルボン酸体、アラキドン酸のヒドロペルオキシド体、アラキドン酸のヒドロキシ体、アラキドン酸のアルデヒド体、アラキドン酸のカルボン酸体、ドコサヘキサエン酸のヒドロペルオキシド体、ドコサヘキサエン酸のヒドロキシ体、ドコサヘキサエン酸のアルデヒド体及び/又はドコサヘキサエン酸のカルボン酸体である。
<リン脂質酸化体の代謝物>
【0038】
本発明における「リン脂質酸化体の代謝物」には、C2位の脂肪酸が外れた分子である「リゾリン脂質」又は外れた「脂肪酸」や「脂肪酸の酸化体」を含む。
「リゾリン脂質」とは、好ましくは、リゾホスファチジン酸、リゾホスファチジルコリンなどである。
「脂肪酸の酸化体」とは、好ましくは、リノール酸のヒドロペルオキシド体、リノール酸のヒドロキシ体、リノール酸のアルデヒド体又はリノール酸のカルボン酸体、アラキドン酸のヒドロペルオキシド体、アラキドン酸のヒドロキシ体、アラキドン酸のアルデヒド体又はアラキドン酸のカルボン酸体、ドコサヘキサエン酸のヒドロペルオキシド体、ドコサヘキサエン酸のヒドロキシ体、ドコサヘキサエン酸のアルデヒド又はドコサヘキサエン酸のカルボン酸体であり、それらの代謝物を含む。
【0039】
リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の多くは、日本国のLIPIDBANK、米国のLIPIDMAPS、欧州のEuropean Lipidomics Initiativeなどにて公知の脂質であり、化学構造は公知であり、当業者に利用可能な脂質である。
また、リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の多くは、代謝パスウェイにも登録されており、機能的情報を容易に得ることもできる。
<リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量の測定>
【0040】
リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を測定する方法としては、公知の二次元電気泳動、TLC法、LC/MSなどの質量分析法、クロマトグラフィー、核磁気共鳴分光法、免疫沈降法、ELISAなどの方法でもよく、特に限定されない。このましい方法としては、質量分析法である。
【0041】
質量分析法とは、試料の質量電荷比を求めるときに使用される分析法である。
試料導入部(試料を装置内に導入する部位)としては、高速液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動を用いることが可能である。また、オートサンプラーなどと組み合わせることもできる。
イオン源(試料物質に何らかの作用を行って電荷を持たせる部位)としては、目的に応じて、電子イオン化(EI)法、化学イオン化(CI)法、電界脱離(FD)法、高速原子衝突(FAB)法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)法、エレクトロスプレーイオン化(ESI)法、大気圧化学イオン化(APCI)法、ペニングイオン化(DART)法、イオン付着 (IA) 法など、様々な手法を用いることが可能である。
分析部(イオン化された試料を分離する部位)としては、磁場偏向型、四重極型、イオントラップ型、飛行時間型、フーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴型、加速器質量分析型、タンデム型、などの方法が使い分けられる。
検出部としては、分析部で選別されたイオンを電子増倍管やマイクロチャンネルプレートで増感して検出する方法、ファラデーカップで検出してカウントする方法が挙げられる。
【0042】
以上の「試料導入部」、「イオン源」、「分析部」、「検出部」を、適宜組み合わせ、もっとも検出感度がよい組み合わせにて用いる。特に通常の手法では検出が困難であることが判った微量脂質成分については、網羅的手法・包括的手法(分子を特定の予見なしに解析)、フォーカスした手法(LCと三連四重極質量分析との組み合わせによる高感度化された解析手法、プレカーサーイオンスキャンやニュートラルロススキャンなどの特定の構造群に対象を絞った解析手法)、ターゲットした手法(特定の個別分子に対象を絞った定量的解析手法)を基に、複数の測定モードを組み合わせた高感度検出法を用いることが望ましい。
【0043】
リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を測定する他の方法としては、リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の生理活性を測定してもよいし、抗体を用いて特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量などを測定する方法を用いてもよい。
【0044】
リン脂質酸化体及び/又はその代謝物を認識する抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体のどちらでもよい。リン脂質酸化体及び/又はその代謝物に対する抗体が市販されている場合には、市販の抗体を用いてもよい。ポリクローナル抗体やモノクローナル抗体は、当該分野で周知の方法によって作製することができる。これらの抗体は修飾されていてもよい。
<リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量の補正>
【0045】
リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較する場合には、予め発現量などの測定値を公知の方法によって補正することができる。補正により、独立した複数の生体試料におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量をより正確に比較することが可能となる。
測定値の補正は、内部標準試料を用いて補正する方法、疲労の状態の有無において発現量などが大きく変動しない脂質などの測定値に基づいて、特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量などの測定値を補正することにより行われる方法や、リン脂質、リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の全測定値に基づいて補正する方法などがあり、その他にも公知の方法がある。
<疲労の程度の判定方法>
【0046】
本発明においては、疲労の程度が未知である被験体由来の生体試料における、特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較することによって“疲労の程度”を判定する。
具体的には、被験体由来の生体試料における特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量が非疲労の状態の被験体(健常対照体)における当該リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量と比較して増加又は減少している場合に、被験体は疲労の状態であると判定することができる。
【0047】
リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量の“増加”又は“減少”の判断をする際には、一定の倍率をもって“増加”又は“減少”と判断するFold Change比較の方法と統計処理により判断する方法が好ましい。例えば、一定の倍率を「1.3倍」とした場合には、被験体由来の生体試料における特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量が非疲労の状態の被験体(健常対照体)における当該リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量と比較して1.3倍以上の増加(30%以上に増加)又は減少(−23.1%以下に減少)している場合に、“増加”又は“減少”と判断し、被験体は疲労の状態であると判定することができる。一定の倍率は1.3倍以上が好ましいが、特には限定されない。
【0048】
また、統計的処理によってリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量の“増加”又は“減少”の判断をすることも可能である。例えば、T−検定(2群の場合)、分散分析(3群以上の場合)、多変量解析、クラスタリング、判別分析などの方法、回帰直線を求める方法、相関係数を求める方法など、公知の方法が広く知られている。これらの統計的処理における基準の設定は、当業者であれば、適宜行うことができる。
また、本発明にかかる疲労の程度の判定方法の一部あるいは全部をコンピューター等の従来公知の演算装置(情報処置装置)を利用して用いることも可能であることは、当業者には明らかである。
また、疲労の程度の判定のために用いる特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物は、リン脂質非酸化体(リン脂質酸化前駆体)、コレステロール(HDLコレステロール、LDLコレステロール、酸化LDLコレステロール)、中性脂肪、遊離脂肪酸、ケトン体、他の脂質酸化ストレスマーカーなどや疾患診断のための諸種検査項目などと組み合わせて用いてもよい。
<被験物質の疲労に対する有効性の判定方法>
【0049】
本発明によれば、被験体に被験物質を投与し、当該被験体由来の生体試料における特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較し、被験物質を投与した被験体の疲労の程度の判定をすることによって、当該被験物質の疲労に対する有効性(効果)を判定することができる。
【0050】
本発明における「被験物質」とは、本発明の方法を用いて被験体の疲労を回復、改善又は予防し得るか否かを評価するために用いる物質を意味し、ヒトを含む哺乳動物に投与可能な物質であれば特に限定されず、微生物、動物、植物などの天然成分、有機化合物、ビタミン類、アミノ酸類、ミネラル類、脂質類、糖質類、タンパク質類、核酸類などを挙げることができる。
【0051】
被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法としては、例えば、疲労の状態である被験体において、被験物質の投与前と投与後における特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を比較し、薬物投与により特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量が減少又は増加している場合に、被験物質は疲労に対して有効であると判定することができる。
また、被験物質を投与する前に、疲労の状態である被験体を被験物質投与群と被験物質非投与群に分け、これらの群における特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を比較し、被験物質を投与した群の発現量が、被験物質を投与しなかった群の発現量より減少又は増加している場合に、被験物質は疲労に対して有効であると判定することができる。
ここで、被験物質投与群においては、複数の投与用量又は複数の被験物質の疲労に対する有効性を判定するために、群の数を適宜増減してもよい。
【0052】
被験物質の疲労に対する有効性の判定はリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を変動させる行為と組み合わせて行うことも可能である。リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を変動させる行為としては、例えば身体作業による身体への負荷が挙げられ、走行、遊泳、跳躍などの運動を身体に負荷させることにより疲労を惹起し得る方法や随意収縮及び電気刺激により筋疲労を惹起し得る方法、睡眠や休息を除去する方法、栄養を低減する方法などが含まれる。
ヒト又は非ヒト哺乳動物への被験物質の投与は、経口投与又は非経口投与のいずれでもよく、身体作業による身体への負荷と組み合わせる場合は、被験物質の特性に応じて、身体作業の前でも後でもよく、前後でもよく、投与の時期は特に限定されない。細胞培養培地への被験物質の添加においても、リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を変動させる処置の前でも後でもよく、前後に添加してもよい。
【0053】
<疲労を回復、改善又は予防し得る物質又はこれを含む製剤の探索方法>
【0054】
本発明においては、疲労状態の被験体に被験物質を投与し、被験体由来の生体試料におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較し、当該リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を低減又は消失させる物質を、疲労を回復、改善又は予防し得る候補物質として選択することによって、疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索することができる。
【0055】
被験物質の疲労に対する有効性の判定はリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を変動させる行為と組み合わせて行うことも可能である。リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を変動させる行為としては、例えば身体作業による身体への負荷が挙げられ、走行、遊泳、跳躍などの運動を身体に負荷させることにより疲労を惹起し得る方法や随意収縮及び電気刺激により筋疲労を惹起し得る方法、睡眠や休息を除去する方法、栄養を低減する方法などが含まれる。
ヒト又は非ヒト哺乳動物への被験物質の投与は、経口投与又は非経口投与のいずれでもよく、身体作業による身体への負荷と組み合わせる場合は、被験物質の特性に応じて、身体作業の前でも後でもよく、前後でもよく、投与の時期は特に限定されない。細胞培養培地への被験物質の添加においても、リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を変動させる処置の前でも後でもよく、前後に添加してもよい。
【0056】
<疲労判定試薬及び疲労判定キット>
【0057】
本発明によれば、リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較するための疲労判定試薬又は疲労判定キットが提供される。
本発明の疲労判定試薬又は疲労判定キットには、リン脂質酸化体及び/又はその代謝物に特異的な抗体、標識、標識二次抗体、担体、サンプル希釈液、酵素基質、反応停止液、標準物質、リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量や特徴などから疲労の程度を判定するための資料などを含めてもよい。さらに必要に応じて、洗浄バッファー、保存剤、防腐剤などを加えることもできる。
本発明の疲労判定試薬又は疲労判定キットに含まれる抗体などは、1種のみでもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。これらは、固体でも液体でもよく、単一又複数の固相上に固定されているもの、例えば、マイクロタイタープレートのようなプレートに個別に分注された状態となっていてもよい。
【0058】
本発明にかかる疲労判定キットは、被験体の血液などの生体試料を採取するための手段を含んでいてもよい。
また、疲労判定キットの包装材に付されたラベル又は添付された文書に、生体試料におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を指標として被験体の疲労の程度を判定するために使用できることを表示していてもよい。
さらに、本発明にかかる疲労判定キットは、コンピューターなどの従来公知の演算装置を用いてなるキットとなっていてもよい。
<疲労のバイオマーカー>
【0059】
本発明においては、疲労の程度が未知の被験体由来の生体試料において、特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較することにより、被験体の疲労の程度を判定することができる。従って、特定のリン脂質酸化体及び/又はその代謝物は、疲労のバイオマーカー(生物学的指標)として用いることができる。
【0060】
「バイオマーカー」とは、例えば、通常の生物学的過程、病理学的過程、もしくは治療介入に対する薬理学的応答の指標として、客観的に測定され評価される特性である。即ち、正常なプロセスや病的プロセス、あるいは治療に対する薬理学的な反応の指標として客観的に測定・評価される項目であり、治癒の程度を特徴づけるバイオマーカーは新薬の臨床試験での有効性を確認するためのサロゲートマーカーとして使われる項目である。
バイオマーカーは、疾患にかかった後の治療効果の判定だけでなく、疾患を未然に防ぐための日常的な指標として疾患の予防にも用いることができる。
【0061】
以下の実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない
【実施例】
【0062】
試験例1:リン脂質酸化体及び/又はその代謝物による疲労の程度の判定
身体作業による肉体疲労の状態としたマウス由来の骨格筋におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を、脂質メタボローム解析により解析し、疲労の状態において発現量が増加又は減少するリン脂質酸化体及び/又はその代謝物を選定し、疲労の程度の判定方法を開発した。
【0063】
実験動物には、7から11週齢のBALB/c系マウス、オス(日本エスエルシー(株))を用いた。実験動物は入荷後、試験期間を通して標準飼料(オリエンタル酵母工業(株))及び滅菌水を自由に摂取させ、少なくとも1週間の馴化を行った。疲労の程度の判定方法の開発は、(1)走行運動の負荷、(2)骨格筋の採取、(3)脂質の抽出、(4)リン脂質酸化体の発現量の分析及び比較、及び(5)疲労の程度の判定、の工程よりなる。
【0064】
(1)走行運動の負荷
実験には、安静(非疲労)マウス(2匹)、走行運動負荷直後マウス(2匹)、走行運動負荷1時間後マウス(2匹)、及び走行運動負荷24時間後マウス(2匹)を用いた。
走行運動の負荷は、マウス・ラット用トレッドミル走行装置(バイオリサーチセンター(株))を用いて行った。走行運動の負荷条件は、傾斜角度10度、走行開始速度9メートル/分、漸増ステップ3メートル/4分とし、高強度(高速)運動を負荷した。
走行訓練における走行時間は20分間とし、疲労を惹起させるための走行時間は40分間とした。
尚、走行訓練を3から4日間隔で4回実施し、疲労を惹起させる走行運動の負荷は最終走行訓練の3から4日後に実施した。走行訓練は全てのマウスに行った。
【0065】
(2)骨格筋の採取
走行運動終了の直後、1時間後又は24時間後にマウスを安楽死させ、後肢骨格筋(速筋及び遅筋より構成されているヒフク筋部位)を採取した。安静(非疲労)マウスは運動負荷をすることなく安楽死させ、同様の方法を行った。
【0066】
(3)脂質の抽出
ヒフク筋を重量測定後、メタノール中でホモジナイズし、固相抽出法にて総脂質を抽出した。具体的には、酸性条件下、SEP-PAK C18にアプライし、水で洗浄後、ヘキサン(中性脂質)、ギ酸メチル(酸化脂肪酸)、メタノール(リン脂質、酸化リン脂質)でそれぞれ溶出し、メタノール画分を濃縮し、サンプルとした。
【0067】
(4)リン脂質酸化体の発現量の分析及び比較
リン脂質酸化体の発現量は、網羅的解析手法及びフォーカスした解析手法を用いて分析した。具体的には、生体内の酸化リン脂質の測定には、LCを用いた三連四重極型の質量分析計を用い、プレカーサーイオンと特徴的なプロダクトイオンの組み合わせで分子特徴的に検出するマルチプル リアクション モニタリング法を用いた。
リン脂質としては、細胞膜の主なリン脂質であり、リン脂質の約60%を占めるホスファチジルコリン(PC)を選定した。
リン脂質の分子種としては、C1位に結合している飽和脂肪酸がパルミチン酸(16:0)又はステアリン酸(18:0)を選定し、C2位に結合している不飽和脂肪酸がリノール酸(18:2)、アラキドン酸(20:4)又はドコサヘキサエン酸(22:6)を選択し、計6分子種のリン脂質を分析の対象とした。
リン脂質酸化体としては、C2位に結合している不飽和脂肪酸の酸化体がヒドロペルオキシド体(−OOH)、ヒドロキシ体(−OH)、アルデヒド体(−CHO)、カルボン酸体(−COOH)を選択し、計4リン脂質酸化体を分析の対象とした。
【0068】
リン脂質酸化体の分子種の解析は、Nanomate−4000QTRAPを用いて測定した。サンプル調製としては、抽出液を窒素気流下で乾固し、Nanomate測定用buffer(クロロホルム:メタノール=1:2、5mM ギ酸アンモニウム含)で3倍希釈となるよう再溶解した。
【0069】
リン脂質酸化体は非常に微量であることから、解析感度を上げるためMRM法を解析に用い、常法に従い実施した。
リン脂質酸化体の解析は、サンプルを適宜濃縮し、LC−ESI−MS/MSにインジェクションし、次の測定条件にて実施した。
MS:4000Q−TRAP (ABI)
Pump:UPLC (Waters)
カラム:AQUITY UPLC BEH C18 1.7 m (1.0 x 150mm)
移動相A:アセトニトリル/メタノール/水 (2/2/1)、0.1%ギ酸 0.028% アンモニア水)
移動相B:イソプロパノール(0.1%ギ酸 0.028% アンモニア水)
(グラジエント)
流速:70μL/min
測定モード:negative ion mode、MRM (Multiple Reaction Monitoring)
【0070】
安静マウスの骨格筋におけるリン脂質酸化体の発現量(6分子種、4酸化体)を表1−1から表1−4に示す。
【0071】
【表1−1】

【0072】
【表1−2】

【0073】
【表1−3】

PC(16:0/18:2)-CHO:PC(16:0/18:2)由来の9CHO酸化体を示す。
PC(16:0/20:4)-CHO:PC(16:0/20:4)由来の5CHO酸化体を示す。
PC(16:0/22:6)-CHO:PC(16:0/22:6)由来の4CHO酸化体を示す。
PC(18:0/18:2)-CHO:PC(18:0/18:2)由来の9CHO酸化体を示す。
PC(18:0/20:4)-CHO:PC(18:0/20:4)由来の5CHO酸化体を示す。
PC(18:0/22:6)-CHO:PC(18:0/22:6)由来の4CHO酸化体を示す。
【0074】
【表1−4】


(*1) リン脂質酸化体の分子種 = PC(C1位飽和脂肪酸/C2位不飽和脂肪酸)-酸化体
PC=ホスファチジルコリン、16:0=パルミチン酸、18:0=ステアリン酸
18:2=リノール酸、20:4=アラキドン酸、22:6=ドコサヘキサエン酸
(*2) 各分子種の発現量は2サンプルの平均値とした。
PC(16:0/18:2)-COOH:PC(16:0/18:2)由来の9COOH酸化体を示す。
PC(16:0/20:4)-COOH:PC(16:0/20:4)由来の5COOH酸化体を示す。
PC(16:0/22:6)-COOH:PC(16:0/22:6)由来の4COOH酸化体を示す。
PC(18:0/18:2)-COOH:PC(18:0/18:2)由来の9COOH酸化体を示す。
PC(18:0/20:4)-COOH:PC(18:0/20:4)由来の5COOH酸化体を示す。
PC(18:0/22:6)-COOH:PC(18:0/22:6)由来の4COOH酸化体を示す。
【0075】
これらより、安静マウス骨格筋において、24種のリン脂質酸化体を比較すると、C1位パルミチン酸であるリン脂質酸化体の発現量はC1位ステアリン酸であるリン脂質酸化体と比較して多く発現しており、ヒドロペルオキシド体及びヒドロキシ体のリン脂質酸化体はアルデヒド体及びカルボン酸体のリン脂質酸化体と比較して多く発現していた。
【0076】
次に、運動負荷前と運動負荷後のリン脂質酸化体の発現量について、Fold Change比較の方法を用いて、安静(非疲労)時の発現量を分母とし、運動負荷後の発現量を分子として、それぞれ変動率(%)を次の数式により求めた。
変動率(%)={(走行運動負荷後の発現量/安静時の発現量)−1} x 100%
【0077】
運動による疲労時のマウス骨格筋におけるリン脂質酸化体分子種の安静マウスに対する変動率(%)を表2−1から表2−4に示す。
【0078】
【表2−1】

【0079】
【表2−2】

【0080】
【表2−3】

PC(16:0/18:2)-CHO:PC(16:0/18:2)由来の9CHO酸化体を示す。
PC(16:0/20:4)-CHO:PC(16:0/20:4)由来の5CHO酸化体を示す。
PC(16:0/22:6)-CHO:PC(16:0/22:6)由来の4CHO酸化体を示す。
PC(18:0/18:2)-CHO:PC(18:0/18:2)由来の9CHO酸化体を示す。
PC(18:0/20:4)-CHO:PC(18:0/20:4)由来の5CHO酸化体を示す。
PC(18:0/22:6)-CHO:PC(18:0/22:6)由来の4CHO酸化体を示す。

【0081】
【表2−4】


(*1) リン脂質酸化体の分子種 = PC(C1位飽和脂肪酸/C2位不飽和脂肪酸)-酸化体
PC=ホスファチジルコリン、16:0=パルミチン酸、18:0=ステアリン酸
18:2=リノール酸、20:4=アラキドン酸、22:6=ドコサヘキサエン酸
(*2) 各分子種の変動率(%)={(走行運動負荷後の発現量/安静時の発現量)−1} x 100%
PC(16:0/18:2)-COOH:PC(16:0/18:2)由来の9COOH酸化体を示す。
PC(16:0/20:4)-COOH:PC(16:0/20:4)由来の5COOH酸化体を示す。
PC(16:0/22:6)-COOH:PC(16:0/22:6)由来の4COOH酸化体を示す。
PC(18:0/18:2)-COOH:PC(18:0/18:2)由来の9COOH酸化体を示す。
PC(18:0/20:4)-COOH:PC(18:0/20:4)由来の5COOH酸化体を示す。
PC(18:0/22:6)-COOH:PC(18:0/22:6)由来の4COOH酸化体を示す。
【0082】
(5)疲労の程度の判定
ホスファチジルコリンのヒドロペルオキシド体の走行運動後のマウス骨格筋における発現量(6分子種平均<6分子種の発現量補正後の平均値>)は、安静(非疲労)マウスと比較して、直後:117.2%(増加)、1時間後:32.5%(増加)、24時間後:−24.9%(減少)であった。
これらより、骨格筋におけるホスファチジルコリンのヒドロペルオキシド体は、運動による疲労時において著しく増加し、休息により低減することが認められた。
【0083】
ホスファチジルコリンのヒドロキシ体は、直後:−26.7%(減少)、1時間後:−25.0%(減少)、24時間後:−41.4%(減少)であった。
これらより、骨格筋におけるホスファチジルコリンのヒドロキシ体は、運動による疲労からの回復時において著しく減少することが認められた。
【0084】
ホスファチジルコリンのアルデヒド体は、直後:10.5%、1時間後:4.5%、24時間後:−27.5%(減少)であった。
これらより、骨格筋におけるホスファチジルコリンのアルデヒド体は、運動による疲労からの回復時において減少することが認められた。
【0085】
ホスファチジルコリンのカルボン酸体は、直後:−25.1%(減少)、1時間後:63.7%(増加)、24時間後:−4.3%であった。
これらより、骨格筋におけるホスファチジルコリンのカルボン酸体は、運動による疲労時において著しく増加し、休息により低減することが認められた。
【0086】
運動による生理的疲労の早期においては、骨格筋におけるホスファチジルコリンのヒドロペルオキシド体の発現量増加、ヒドロキシ体及びカルボン酸体の発現量減少が認められ、1時間後においてはヒドロペルオキシド体及びカルボン酸体の発現量増加、回復時のヒドロキシ体の発現量減少が認められた。これらにより、走行運動負荷1時間後のマウスは疲労の状態であると判定することができた。
【0087】
試験例2:疲労時に発現変動する血漿中リン脂質酸化体の特定
身体作業による肉体疲労の状態としたマウス由来の血漿におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を、脂質メタボローム解析により解析し、疲労の状態において発現量が増加又は減少するリン脂質酸化体を特定した。
【0088】
実験動物には、7から11週齢のBALB/c系マウス、オス(日本エスエルシー(株))を用いた。実験動物は入荷後、試験期間を通して標準飼料(オリエンタル酵母工業(株))及び滅菌水を自由に摂取させ、少なくとも1週間の馴化を行った。血漿中リン脂質酸化体の特定は、(1)走行運動の負荷、(2)採血、(3)脂質の抽出、(4)リン脂質酸化体の発現量の分析及び比較、の工程よりなる。
【0089】
(1)走行運動の負荷
実験には、安静(非疲労)マウス(5匹)、走行運動負荷直後マウス(5匹)、及び走行運動負荷4時間後マウス(4匹)を用いた。
走行運動の負荷は、マウス・ラット用トレッドミル走行装置(バイオリサーチセンター(株))を用いて行った。走行運動の負荷条件は、傾斜角度10度、走行開始速度9メートル/分、漸増ステップ3メートル/4分とし、高強度(高速)運動を負荷した。
走行訓練における走行時間は20分間とし、疲労を惹起させるための走行時間は40分間とした。
尚、走行訓練を3から4日間隔で4回実施し、疲労を惹起させる走行運動の負荷は最終走行訓練の3から4日後に実施した。走行訓練は全てのマウスに行った。
【0090】
(2)採血
走行運動終了の直後、又は4時間後に深麻酔条件下にて、EDTA-2K添加チューブを用いて採血し、遠心分離後に血漿を得た。安静(非疲労)マウスは運動負荷をすることなく、同様の方法にて採血した。
【0091】
(3)脂質の抽出
一定量の血漿にメタノール、クロロホルム、リン酸緩衝液、水を添加し、遠心分離後にクロロホルム層を回収し、酸化リン脂質画分の測定サンプルとした。
【0092】
(4)リン脂質酸化体の発現量の分析及び比較
実施例1と同様の方法を用いて分析した。
リン脂質としては、細胞膜の主なリン脂質であり、リン脂質の約60%を占めるホスファチジルコリン(PC )を選定した。
リン脂質の分子種としては、C1位に結合している飽和脂肪酸がパルミチン酸(16:0)を選定し、C2位に結合している不飽和脂肪酸がリノール酸(18:2)、アラキドン酸(20:4)又はドコサヘキサエン酸(22:6)を分析の対象とした。
リン脂質酸化体としては、血漿中リン脂質酸化体として解析可能である、C2位に結合している不飽和脂肪酸の酸化体がヒドロキシ体(−OH)、カルボン酸体(−COOH)を分析の対象とした。
【0093】
内部標準物質として16:0−d3 リゾホスファチジルコリンを添加し、全てのデータを補正した。
【0094】
運動負荷前と運動負荷直後又は運動負荷4時間後のリン脂質酸化体の発現量について、Fold Change比較の方法を用いて、安静(非疲労)時の発現量を分母とし、運動負荷後の発現量を分子として、それぞれ変動率(%)を次の数式により求めた。
変動率(%)={(走行運動負荷後の発現量/安静時の発現量)−1} x 100%
【0095】
運動による疲労時のマウス血漿におけるリン脂質酸化体の安静マウスに対する変動率(%)を表3−1及び表3−2に示す。
【0096】
【表3−1】

【0097】
【表3−2】


(*1) リン脂質酸化体の分子種=PC(C1位飽和脂肪酸/C2位不飽和脂肪酸)-酸化体
PC=ホスファチジルコリン、16:0=パルミチン酸
18:2=リノール酸、20:4=アラキドン酸、22:6=ドコサヘキサエン酸
(*2) 各分子種の変動率(%)={(走行運動負荷後の発現量/安静時の発現量)−1} x 100%

PC(16:0/18:2)-11:1CO0H:PC(16:0/18:2)由来のPC(16:0/11:1CO0H)を示す。
PC(16:0/18:2)-13:2CO0H:PC(16:0/18:2)由来のPC(16:0/13:2CO0H)を示す。
PC(16:0/20:4)- 7:1CO0H:PC(16:0/20:4)由来のPC(16:0/7:1CO0H)を示す。
PC(16:0/20:4)-12:3CO0H:PC(16:0/20:4)由来のPC(16:0/12:3CO0H)を示す。
PC(16:0/22:6)-10:2CO0H:PC(16:0/22:6)由来のPC(16:0/10:2CO0H)を示す。
PC(16:0/22:6)-15:4CO0H:PC(16:0/22:6)由来のPC(16:0/15:4CO0H)を示す。
PC(16:0/22:6)-17:5CO0H:PC(16:0/22:6)由来のPC(16:0/17:5CO0H)を示す。
【0098】
走行運動負荷直後において、ホスファチジルコリンのリノール酸(18:2)(p<0.05、スチューデントのt検定)、アラキドン酸(20:4)(p<0.1)又はドコサヘキサエン酸(22:6)(p<0.05)のヒドロキシ体の発現量は、著しく増加していた。しかし、走行運動負荷4時間後において、これらの発現増加は低減していた(表3−1)。
【0099】
走行運動負荷直後において、ホスファチジルコリンのアラキドン酸由来7:1カルボン酸体及びドコサヘキサエン酸由来10:2カルボン酸体の発現量は増加していた。
また、走行運動負荷4時間後において、リノール酸由来11:1カルボン酸体、リノール酸由来13:2カルボン酸体、アラキドン酸由来12:3カルボン酸体、ドコサヘキサエン酸由来15:4カルボン酸体、及びドコサヘキサエン酸由来17:5カルボン酸体の発現量は増加していた(表3−2)。特に13:2カルボン酸体(p<0.05)及び15:4カルボン酸体(p<0.05)は著しく増加していた。
しかし、走行運動負荷4時間後において、アラキドン酸由来7:1カルボン酸体の発現は減少していた。
【0100】
運動による生理的疲労の早期(運動負荷直後)においては、血漿におけるホスファチジルコリンのヒドロキシ体およびカルボン酸体の発現量の増加が認められ、後期から回復期(運動負荷4時間後)においてはカルボン酸体の発現量の増加又は減少が認められた。
これらにより、疲労の判定に用いることができる血漿中のホスファチジルコリンの酸化体及びその代謝物を特定することができた。
【0101】
上記のホスファチジルコリン酸化体は、生理的疲労であり、末梢性疲労であり、運動などの身体作業に伴う、いわゆる肉体疲労の状態において、発現量が増減するリン脂質酸化体であることから、被験体の生体試料を用いて、これらのリン脂質酸化体を分析及び/又は比較することによって、疲労の程度を判定することが可能であり、疲労の程度を客観的に判定する方法を開発することができた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明は、疲労の研究や判定などの分野、疲労を改善するための医薬や食品の評価などの分野、そのためのキットの製造の分野などにおいて利用可能である。例えば、本発明を利用することにより、疲労感に頼ることなく、日常生活における生理的疲労、末梢性疲労、特に肉体疲労の程度を客観的に判定することが可能になる。また、医薬品や食品等による疲労の回復、改善及び予防の予測が容易になる。さらには、本発明により、疲労の程度の判定するために使用するバイオマーカーやサロゲートマーカーの提供が可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体由来の生体試料におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較することを含む、疲労の程度を判定する方法。
【請求項2】
被験体に被験物質を投与し、被験体由来の生体試料におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較することを含む、被験物質の疲労に対する有効性を判定する方法。
【請求項3】
被験体に被験物質を投与し、被験体由来の生体試料におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較し、当該リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を変動させる物質を、疲労を回復、改善又は予防し得る候補物質として選択することを含む、疲労を回復、改善又は予防し得る物質を探索する方法。
【請求項4】
被験体由来の生体試料が、ヒト又は非ヒト哺乳動物由来の血液、肝臓、心筋、骨格筋又は細胞である、請求項1から3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
疲労が生理的疲労である、請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
リン脂質酸化体及び/又はその代謝物が、ホスファチジルコリン酸化体及び/又はその代謝物である、請求項1から5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
リン脂質酸化体及び/又はその代謝物が、ヒドロペルオキシド体、ヒドロキシ体、アルデヒド体及び/又はカルボン酸体である、請求項1から6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
リン脂質酸化体及び/又はその代謝物のC1位脂肪酸がパルミチン酸及び/又はステアリン酸であり、リン脂質酸化体のC2位脂肪酸がリノール酸、アラキドン酸及び/又はドコサヘキサエン酸の酸化体である、請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
被験体由来の生体試料におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量が非疲労状態の被験体と比較して増加及び/又は減少している場合に、被験体は疲労の状態であると判定することを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
被験物質の疲労に対する有効性を判定するにおいて、被験物質の投与に伴って被験体由来の生体試料におけるリン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量の増加及び/又は減少が低減している場合に、被験物質は疲労に対して有効であると判定することを特徴とする、請求項1から9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の方法において上記リン脂質酸化体及び/又はその代謝物の発現量を分析及び/又は比較するための疲労判定試薬又は疲労判定キット。