説明

リン酸基含有ブロックコポリマー、顔料分散剤、及び顔料着色剤組成物

【課題】微粒子化された顔料を高度に微分散させることができるとともに、塗布特性及び長期保存安定性に優れた顔料着色剤組成物を調製可能な新規なリン酸基含有ブロックコポリマーを提供する。
【解決手段】メタクリレート系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上含む、Aポリマーブロック及びBポリマーブロックからなるA−Bブロック型のコポリマーであり、AポリマーブロックとBポリマーブロックのうち、Bポリマーブロックのみが、リン酸基を有するリン酸基含有メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を含むことを特徴とするリン酸基含有ブロックコポリマーである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顔料分散剤として有用で新規なリン酸基含有ブロックコポリマー及びその製造方法、並びにリン酸基含有ブロックコポリマーを用いた顔料分散剤及び顔料着色剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今の情報化機器の急速な発展に伴い、情報化機器の情報表示部材として液晶カラーディスプレーが多岐にわたって使用されている。液晶カラーディスプレーの用途としては、例えば、テレビジョン、プロジェクター、パーソナル・コンピューター、モバイル情報機器、モニター、カーナビゲーション、携帯電話、電子計算機、及び電子辞書等の表示画面;情報掲示板、案内掲示板、機能表示板、及び標識板等のディスプレー;デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影画面等を挙げることができる。液晶カラーディスプレーには、通常、カラーフィルターが搭載されている。このカラーフィルターは、精細性、色濃度、光透過性、及びコントラスト性等の画像性能の色彩特性、並びに光学特性に優れたものであることが要求されている。
【0003】
従来のカラーフィルターの三原色画素に使用されるカラーフィルター用の着色剤(以下、「カラーフィルター用カラー」とも記す)には、顔料とともに分散安定剤が使用されている。分散安定剤としては、(a)通常「シナジスト」と称される、顔料に類似した骨格を有するとともに、この骨格にスルホン酸基等の酸性基が導入された色素誘導体(以下、「色素誘導体」を単に「シナジスト」とも記す)と、(b)このシナジストの酸性基と対になるアミノ基を有する塩基性ポリマー型の顔料分散剤を組み合わせたもの、が用いられる場合が多い(例えば、特許文献1参照)。このような(a)シナジストと(b)塩基性ポリマー型の顔料分散剤とを組み合わせて使用することによって、有機溶媒中における顔料の分散安定性を向上させることができる。さらには、得られる顔料インキの粘度を下げ、インクの長期保存安定性を向上させることができる。
【0004】
しかしながら、液晶カラーテレビジョン用のカラーフィルターについては、例えば、色濃度、光透過性、及びコントラスト比等のカラー表示性能(画素の性能)をより向上させることが要求されており、従来技術では十分に対応できていない。このような要求に対しては、使用する顔料の粒子径を小さくして超微粒子化することで、画素の性能を改良しようとする傾向にある。しかしながら、超微粒子化された顔料は、超微粒子化されない顔料と質量が同じであっても粒子個数が増加しているので、表面積も拡大している。このため、従来の技術では、超微粒子化した顔料の分散安定性を十分に維持することが困難である。
【0005】
超微粒子化した顔料の分散安定性を向上させる方法として、酸性基を有するシナジストと顔料分散剤の使用量を増加させる方法がある(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、シナジストと顔料分散剤の使用量を増加させると、顔料濃度が相対的に低下するので、色濃度(画素の高色濃度)が低下してしまう。すなわち、画素を高色濃度化して適切な画素塗膜組成とするために顔料含有率を高めるといった要求と、顔料の分散安定性とが両立したインクを提供することは非常に困難である。
【0006】
また、顔料濃度の相対的な低下を抑制する方法として、顔料分散剤の分子構造中に酸性基を導入する方法がある(例えば、特許文献3参照)。しかしながら、この方法はアミノ基を有する塩基性の顔料分散剤に適用することは困難である。これは、酸性基を有するシナジストとともに用いる塩基性ポリマー型の顔料分散剤の分子構造中に酸性基を導入してしまうと、酸性基とアミノ基がイオン結合してしまう場合があるからである。酸性基とアミノ基がイオン結合してしまうと、有機溶媒中で顔料分散剤が分子内や分子間でゲル化してしまう。また、顔料分散剤がゲル化しない場合であっても、顔料分散剤の分子内又は分子間のイオン結合が存在するので、顔料分散剤とシナジストがイオン結合しにくくなる。このため、イオン結合を有する顔料分散剤は、顔料分散剤として十分機能しない場合がある。
【0007】
ところで、カラーフィルターは、通常、カラーフィルター用カラーをガラス上に塗布した後、フォトマスク等を用いて必要部分のみ露光して不溶化させ、次いで、アルカリ現像液で未露光部分(不要部分)を除去する方法によって製造される。なお、カラーフィルター用カラーには、一般的に、カルボキシル基等の酸性基を有する現像用ポリマーが添加されている。アルカリ現像液は現像用ポリマーの酸性基を中和して、現像用ポリマーを水に可溶化させて除去している。しかしながら、アミノ基を有する塩基性の顔料分散剤は、その分子構造中に酸性基を導入することができないので、アルカリ現像液には溶解しない。このため、塩基性の顔料分散剤は、現像時間が長い、或いは画素エッジがシャープではない等、現像性を低下させる原因となっていた。
【0008】
このような状況下、近年、リビングラジカル重合によるブロックコポリマーの製造方法が開発されている。また、そのような製造方法を利用した、構造や分子量を容易に制御しうる重合方法が種々開発されている。具体的には、以下に列挙した方法等が幅広く研究開発されている。
・アミンオキシドラジカルの解離と結合を利用するニトロキサイド法(Nitroxide mediated polymerization:NMP法)(非特許文献1参照)
・銅、ルテニウム、ニッケル、鉄等の重金属と、これらの重金属と錯体を形成するリガンドとを使用し、ハロゲン化合物を開始化合物として用いて重合する原子移動ラジカル重合(Atom transfer radical polymerization:ATRP法)(特許文献4及び5、非特許文献2参照)
・ジチオカルボン酸エステルやザンテート化合物等を開始化合物として使用するとともに、付加重合性モノマーとラジカル開始剤を使用して重合する可逆的付加解裂型連鎖移動重合(Reversible addition- fragmentation chain transfer:RAFT法)(特許文献6参照)、及びMacromolecular Design via Interchange of Xanthate(MADIX法)(特許文献7参照)
・有機テルル、有機ビスマス、有機アンチモン、ハロゲン化アンチモン、有機ゲルマニウム、ハロゲン化ゲルマニウム等の重金属を用いる方法(Degenerative transfer:DT法)(特許文献8、非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−176511号公報
【特許文献2】特開2001−240780号公報
【特許文献3】特開2008−298967号公報
【特許文献4】特表2000−500516号公報
【特許文献5】特表2000−514479号公報
【特許文献6】特表2000−515181号公報
【特許文献7】国際公開第1999−05099号
【特許文献8】特開2007−277533号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Chemical Review(2001)101, p3661
【非特許文献2】Chemical Review(2001)101, p3689
【非特許文献3】Journal of American Chemical Society(2002)124, p2874、同(2002)124, p13666、同(2003)125, p8720
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記の特許文献5〜8並びに非特許文献2及び3に記載の方法によれば、樹脂の構造や分子量を容易に制御することができる。しかしながら、リビングラジカル重合においては、以下に示すような実用上の問題がある。例えば、NMP法では、テトラメチルピペリジンオキシドラジカルを使用するが、100℃以上の高温条件下で重合することが必要とされる。また、重合率を上げるには、溶剤を使用せずにモノマー単独で重合する必要がある。このため、重合条件がさらに厳しくなる。さらに、メタクリレート系モノマーを用いた場合には、重合が進行しないといった問題もある。なお、重合温度を下げたり、メタクリレート系モノマーを重合させたりすることも可能ではあるが、特殊なニトロキシド化合物を用いることが必要になる。
【0012】
また、ATRP法では、重金属を使用する必要がある。このため、重合後には微量といえども重金属をポリマーから除去し、ポリマーを精製する必要がある。また、ポリマーを精製して生じた排水や廃溶剤中には、環境への負荷が高い重金属が含まれているので、重金属を除去して浄化する必要がある。なお、触媒として銅を使用するATRP法では、酸素による触媒の失活を防止すべく、不活性ガス下で重合する必要がある。第二錫化合物やアスコルビン酸等の還元剤を添加して触媒の失活を防ぐ方法もある。しかしながら、還元剤を添加するだけでは重合が途中で停止してしまう可能性があるので、重合雰囲気から酸素を十分除去することが必須となる。さらに、アミン化合物をリガンドとして錯体を形成させて重合する方法では、重合系に酸性物質が存在すると錯体の形成が阻害されてしまうので、酸基を有する付加重合性モノマーを重合させることは困難である。なお、ATRAP法によってポリマー中に酸基を導入するには、保護基で酸基を保護したモノマーを重合し、重合後に保護基を脱離させる必要がある。このため、酸基をポリマーブロックに導入することは容易なことではない。以上の通り、ATRP法においては銅等の重金属を使用するので、重合後にこれらの重金属を除去し、ポリマーを精製することが必要である。また、重金属とリガンドの錯体形成を阻害する酸が存在すると重合が進行しないので、ATRP法では、酸基を有するモノマーを直接重合することができないといった問題がある。
【0013】
また、RAFT法及びMADIX法では、先ずジチオカルボン酸エステルやザンテート化合物などの特殊な化合物を合成しておき、合成したこれらの化合物を使用する必要がある。また、これらの特殊な化合物は硫黄系の化合物であるので、得られるポリマーには硫黄系の不快な臭気が残りやすく、着色されている場合もある。このため、得られたポリマーから臭気や着色を除去する必要がある。
【0014】
さらに、DT法では、ATRP法と同様に重金属を使用する必要がある。このため、得られたポリマーから重金属を除去する必要があるとともに、発生した重金属を含む排水を浄化しなければならないといった問題がある。
【0015】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、微粒子化された顔料を高度に微分散させることができるとともに、塗布特性及び長期保存安定性に優れた顔料着色剤組成物を調製可能な新規なリン酸基含有ブロックコポリマーを提供することにある。さらに、本発明の課題とするところは、得られるポリマーに臭気や着色がなく、重金属を使用する必要がなく、分子量分布(PDI)が狭く、容易でコスト面でも有利なリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法を提供することにある。また、本発明の課題とするところは、塗布特性及び長期保存安定性に優れた顔料着色剤組成物を調製可能な顔料分散剤を提供することにある。
【0016】
さらに、本発明の課題とするところは、塗布特性及び長期保存安定性に優れるとともに、液晶カラーテレビジョン等の情報表示機器に装備される画素の色濃度、精細性、コントラスト性、及び透明性等の光学的特性に優れたカラーフィルターを製造するのに好適な顔料着色剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、ポリマー構造を、AポリマーブロックとBポリマーブロックからなるA−Bブロック型とし、溶媒可溶性鎖と、吸着性鎖とからなるA−Bブロック型とし、Bポリマーブロックのみに、リン酸基を有するリン酸基含有メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を含ませることで、Aポリマーブロックが溶媒可溶性鎖として機能するとともに、Bポリマーブロックが吸着性鎖として機能することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0018】
すなわち、本発明によれば、以下に示すリン酸基含有ブロックコポリマーが提供される。
[1]メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上含む、Aポリマーブロック及びBポリマーブロックからなるA−Bブロック型のコポリマーであり、前記Aポリマーブロックと前記Bポリマーブロックのうち、前記Bポリマーブロックのみが、リン酸基を有するリン酸基含有メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を含むことを特徴とするリン酸基含有ブロックコポリマー。
[2]前記Aポリマーブロックが、カルボキシル基を有するカルボキシル基含有メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を含み、前記Aポリマーブロックの酸価が10〜200mgKOH/gである前記[1]に記載のリン酸基含有ブロックコポリマー。
[3]前記カルボキシル基含有メタクリル酸系モノマーがメタクリル酸である前記[2]に記載のリン酸基含有ブロックコポリマー。
[4]前記Aポリマーブロックの数平均分子量が3,000〜20,000であるとともに、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.6以下であり、前記Bポリマーブロックの数平均分子量が200〜3,000であり、その数平均分子量が4,000〜23,000であるとともに、その分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.6以下である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のリン酸基含有ブロックコポリマー。
[5]前記Bポリマーブロックの酸価が50〜500mgKOH/gであり、前記Bポリマーブロックの含有量が5〜40質量%である前記[1]〜[4]のいずれかに記載のリン酸基含有ブロックコポリマー。
【0019】
また、本発明によれば、以下に示すリン酸基含有コポリマーの製造方法が提供される
[6]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法であって、重合開始化合物及び触媒の存在下、前記メタクリル酸系モノマーを含有するモノマー成分をリビングラジカル重合する工程を含み、前記重合開始化合物が、ヨウ素とヨウ素化合物の少なくともいずれかであることを特徴とするリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法。
[7]前記触媒が、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート化合物、イミド系化合物、フェノール系化合物、ジフェニルメタン系化合物、及びシクロペンタジエン系化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物である前記[6]に記載のリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法。
[8]前記リビングラジカル重合する際の重合温度が30〜50℃である前記[6]又は[7]に記載のリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法。
【0020】
さらに、本発明によれば、以下に示す顔料分散剤が提供される。
[9]前記[1]〜[5]のいずれかに記載のリン酸基含有ブロックコポリマーを主成分として含有することを特徴とする顔料分散剤。
【0021】
また、本発明によれば、以下に示す顔料着色剤組成物が提供される。
[10]前記[9]に記載の顔料分散剤と、その数平均粒子径が10〜150nmである顔料と、を含有することを特徴とする顔料着色剤組成物。
[11]塩基性官能基を有する色素誘導体をさらに含有する前記[10]に記載の顔料着色剤組成物。
[12]前記顔料100部に対する、前記リン酸基含有ブロックコポリマーの含有量が10〜100部であり、前記顔料100部に対する、前記色素誘導体の含有量が5〜100部である前記[11]に記載の顔料着色剤組成物。
[13]カラーフィルター用の着色剤として用いられる前記[10]〜[12]のいずれかに記載の顔料着色剤組成物。
【発明の効果】
【0022】
本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーは、Aポリマーブロックが、分散媒体に対する相溶性を有するポリマーブロックであるとともに、Bポリマーブロックが、強酸性のリン酸基を有するポリマーブロックである。すなわち、Bポリマーブロックのリン酸基が、顔料の構造中の活性水素基(水酸基、アミド基、カルボキシル基、チオール基、ウレタン基等)塩基性基と強固にイオン結合するので、本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーは顔料に着実に吸着する。また、本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーを用いれば、顔料が樹脂にて処理された樹脂処理顔料を容易に得ることができる。すなわち、本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーによれば、微粒子化された顔料を高度に微分散させることができるとともに、塗布特性及び長期保存安定性に優れた顔料着色剤組成物を調製することができる。なお、本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーの用途としては、イオン交換樹脂等の様々なものが考えられる。なかでも、顔料分散剤とすることが特に好適である。すなわち、本発明の顔料分散剤は、上記のリン酸基含有ブロックコポリマーを主成分として含有するので、塗布特性及び長期保存安定性に優れた顔料着色剤組成物を調製することができる。
【0023】
本発明の顔料着色剤組成物は、低い粘度が長期間安定に保持されうるものであり、塗布特性及び長期保存安定性に優れたものである。そして、本発明の顔料着色剤組成物は、塗料、インク、コーティング剤、文具、トナー、プラスチック等に利用できる。なかでも、カラーフィルター用の着色剤として特に好適である。すなわち、本発明の顔料着色剤組成物を、カラーフィルター用の着色剤として用いると、画素の色濃度、精細性、コントラスト性、及び透明性等の光学的特性に優れた、液晶カラーテレビジョン等の情報表示機器に装備されるカラーフィルターを製造することができる。そして、本発明の顔料着色剤組成物を用いれば、アルカリ現像の際の現像性に優れたカラーフィルター用レジストを得ることができる。
【0024】
本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法においては、重金属化合物の使用が必須でなく、ポリマーの精製が必須でなく、特殊な化合物を合成する必要がない。このため、本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法によれば、市場にある比較的安価な材料を用いるだけで、目的物であるリン酸基含有ブロックコポリマーを容易に製造することができる。さらに、本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法は、以下に示す利点がある。重合条件が穏和であり、従来のラジカル重合方法と同様の条件で重合することができる。すなわち、従来のラジカル重合設備を使用可能であるので、特殊な設備が不要である。しかも、重合中に酸素、水、及び光の影響をそれほど受けない。また、使用するモノマーや溶媒なども精製する必要がなく、様々な官能基を有するモノマーを使用することができる。このため、所望する様々な官能基をポリマー中に導入することができる。さらには、重合率も非常に高いので、リン酸基含有ブロックコポリマーを大量かつ容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
1.リン酸基含有ブロックコポリマー
(リン酸基含有ブロックコポリマー)
以下、本発明の詳細について、本発明を実施するための形態を例に挙げて説明する。本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーは、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上含む、Aポリマーブロック及びBポリマーブロックからなるA−Bブロック型のコポリマーである。そして、AポリマーブロックとBポリマーブロックのうち、Bポリマーブロックのみが、リン酸基を有するメタクリル酸系モノマー(リン酸基含有メタクリル酸系モノマー)に由来する構成単位を含む。以下、リン酸基含有ブロックコポリマーのことを「A−Bブロックコポリマー」とも記す。
【0026】
本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーは、A−Bブロック型のコポリマーである。Aポリマーブロックは、分散させる媒体に溶解又は相溶する機能を示すブロックであると考えられる。一方、Bポリマーブロックは、その構造中にリン酸基を有するため、このリン酸基が、顔料、又は塩基性基含有色素誘導体で処理された顔料に結合して吸着する機能を示すと考えられる。顔料とBポリマーブロックの吸着は、例えば、顔料の構造中の活性水素基(水酸基、アミド基、カルボキシル基、チオール基、ウレタン基等)と、リン酸基との水素結合、或いは塩基性顔料又は塩基性基含有色素誘導体で処理された顔料の塩基性基と、リン酸基とのイオン結合によるものと推測される。このようなA−Bブロック型のコポリマーに特有の構造と作用によって、微粒子化された顔料の表面にBポリマーブロックがイオン結合等で吸着するとともに、Aポリマーブロックが、分散媒体に溶解又は相溶し、かつ、Aポリマーブロックの立体的反発や電気的反発で顔料の凝集を防止する。このため、本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーは、微粒子化された顔料を高度に微分散させることができるとともに、塗布特性及び長期保存安定性に優れた顔料着色剤組成物を調製することができると考えられる。なお、以降、単に「顔料」というときは、(i)顔料自体、及び(ii)塩基性基含有色素誘導体で表面処理された顔料、のいずれをも意味する。
【0027】
リン酸基含有ブロックコポリマーが、カルボキシル基を有するAポリマーブロックと、リン酸基を有するBポリマーブロックとからなるものである場合には、いずれの酸基も顔料にイオン結合吸着するのではないかとの推測も成り立つ可能性がある。しかしながら、リン酸基は、カルボキシル基よりも強い酸性を示す基である。すなわち、リン酸基のpKa値は、カルボキシル基のpKaに比して低いために、リン酸基を有するBポリマーブロックが選択的に顔料に吸着すると考えられる。
【0028】
リン酸基含有ブロックコポリマーは、メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上、好ましくは95質量%以上含むものであり、さらに好ましくはメタクリル酸系モノマーに由来する構成単位100%からなるものである。後述する本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法(重合方法)では、モノマーとして、メタクリル酸系モノマーが特に好ましく適用される。スチレン等のビニル系モノマー、アクリレート系モノマー、及びビニルエーテル系モノマーなどは、重合末端に結合したヨウ素が安定化しすぎてしまい、解離させるのに加温する必要がある、或いは解離しないなどの不都合が生ずる可能性がある。このため、メタクリル酸系モノマー以外のモノマーを多量に用いた場合は、目的とする特有の構造にならない、或いは分子量分布が広がってしまうなどの不具合が生ずる可能性がある。ただし、メタクリル酸系モノマー以外のモノマーであっても、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で用いてもよい。
【0029】
(Aポリマーブロック)
Aポリマーブロックを構成するために用いられるメタクリル酸系モノマーとしては、従来公知のものを挙げることができ、特に限定はない。具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、2−メチルプロパンメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、テトラデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、ベへニルメタクリレート、イソステアリルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、シクロデシルメタクリレート、シクロデシルメチルメタクリレート、トリシクロデシルメタクリレート、ベンジルメタクリレートなどの(シクロ)アルキルメタクリレート;フェニルメタクリレート、ナフチルメタクリレートなどのアリールメタクリレート;アリルメタクリレートなどのアルケニルメタクリレート;(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノラウリルエーテルメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートなどのグリコールモノアルキルエーテル系メタクリレート;
【0030】
グリシジルメタクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメタクリレート、メタクリロイロキシエチルグリシジルエーテル、メタクリロイロキシエトキシエチルグリシジルエーテルなどのグリシジル基含有メタクリレート;(メタ)アクリロイロキシエチルイソシアネート、2−(2−イソシアナトエトキシ)エチルメタクリレート、及びこれらの化合物のイソシアネート基をε−カプロラクトン、MEKオキシム、及びピラゾールなどでブロックしたイソシアネート基含有メタクリレート;テトラヒドロフルフリルメタクリレート、オキセタニルメチルメタクリレートなどの環状メタクリレート;オクタフルオロオクチルメタクリレート、テトラフルオロエチルメタクリレートなどのハロゲン元素含有メタクリレート;2−(4−ベンゾキシ−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルメタクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5−メタクリロイロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールなどの紫外線を吸収するメタクリレート;トリメトキシシリル基やジメチルシリコーン鎖を持ったケイ素原子含有メタクリレートなどを挙げることができる。また、これらのモノマーを重合して得られるオリゴマーの片末端に(メタ)アクリル基を導入して得られるマクロモノマーなどを用いることができる。
【0031】
ただし、ジメチルアミノエチルメタクリレートなどのアミノ基を有するメタクリレートは、カルボキシル基やリン酸基とイオン結合しやすい。このため、ゲル化などが起こる、或いは顔料の塩基性基等との吸着性を阻害してしまうので、用いるべきではない。
【0032】
Aポリマーブロックは、カルボキシル基を有するメタクリル酸系モノマー(カルボキシル基含有メタクリル酸系モノマー)に由来する構成単位を含むことが好ましい。
カルボキシル基が導入されているAポリマーブロックは、アルカリで中和することでイオン化して水に溶解するようになる。このため、カラーフィルターの製造工程におけるアルカリ現像において好適に用いることができる。カルボキシル基含有メタクリル酸系モノマーの具体例としては、メタクリル酸;メタクリル酸2−ヒドロキシエチルにフタル酸などの二塩基酸を反応して得られるメタクリレート;グリシジルメタクリレートにフタル酸を反応させた水酸基とカルボキシル基を有するメタクリレートなどを挙げることができる。なかでも、分子量が小さく、重合性が高いメタクリル酸が好ましい。カルボキシル基含有メタクリル酸系モノマーとしてメタクリル酸を用いると、重合せずに残存してしまうなどの不具合が生じにくい。
【0033】
リン酸基含有ブロックコポリマーのAポリマーブロックがカルボキシル基を有する場合には、Aポリマーブロックの酸価は10〜200mgKOH/gであることが好ましく、20〜150mgKOH/gであることがさらに好ましい。Aポリマーブロックの酸価が上記の数値範囲内であると、例えばカラーフィルターの製造工程におけるアルカリ現像に好適な成分として用いることができる。Aポリマーブロックの酸価が10mgKOH/g未満であると、アルカリで中和した場合であっても溶解しない又は溶解速度が遅くなる傾向にある。一方、Aポリマーブロックの酸価が200mgKOH/g超であると、露光硬化部分の親水性までもが向上してしまって耐水性が低下してしまい、形成される画素が乱雑になってしまう場合がある。
【0034】
Aポリマーブロックの数平均分子量は3,000〜20,000であることが好ましく、4,000〜10,000であることがさらに好ましい。Aポリマーブロックの数平均分子量が3,000未満であると、顔料に吸着したリン酸基含有ブロックコポリマーのうち、Aポリマーブロックの立体的反発が作用せず、安定性に欠ける場合がある。一方、Aポリマーブロックの数平均分子量が20,000超であると、分散媒体に溶解又は相溶する部分が多くなるので、粘度が過度に上昇したり、現像性が低下したりする場合がある。
【0035】
Aポリマーブロックの分子量分布(PDI=重量平均分子量/数平均分子量)は1.6以下であることが好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。後述する本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法によれば、このような狭い分子量分布のリン酸基含有ブロックコポリマーを製造することができる。Aポリマーブロックの分子量分布(PDI)が1.6超であると、数平均分子量が3,000未満の成分や、20,000を超える成分を多く含むことにつながるので、安定性や現像性が低下したり、粘度が過度に上昇したりする場合がある。
【0036】
(Bポリマーブロック)
Bポリマーブロックを構成するために用いられるリン酸基を有するメタクリル酸系モノマー(リン酸基含有メタクリル酸系モノマー)としては、従来公知のものを挙げることができ、特に限定はない。具体例としては、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル、メタクリル酸3−クロロ−2−(ホスホノオキシ)プロピル、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)プロピル、メタクリル酸2−(フェノキシホスホニルオキシ)エチル、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートなどを挙げることができる。また、リン酸ビス(2−メタクリロイルオキシエチル)などの2官能メタクリレートも得られるリン酸基含有ブロックコポリマーがゲル化しない範囲で用いることができる。さらに、前述のAポリマーブロックを構成するために用いられる一種以上のモノマー(他のモノマー)と、リン酸基含有メタクリル酸系モノマーとを共重合させてもよい。リン酸基含有メタクリル酸系モノマーは、他のモノマーに比して重合性が低いので、他のモノマーと共重合させることがより好ましい。
【0037】
また、水酸基を有するメタクリル酸系モノマーを用いて、水酸基を有するポリマーブロックを調製した後、この水酸基にリン酸化試薬を反応させてリン酸基を導入し、リン酸基を有するBポリマーブロックを製造してもよい。さらには、水酸基を有するメタクリル酸系モノマーとリン酸化試薬を反応させて得られたリン酸基含有メタクリル酸系モノマーを重合して、Bポリマーブロックを製造してもよい。水酸基を有するメタクリル酸系モノマーの具体例としては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレートなどを挙げることができる。リン酸化試薬の具体例としては、五酸化リン、オキシ塩化リン、ポリリン酸、リン酸などを挙げることができる。
【0038】
Bポリマーブロックの数平均分子量は200〜3,000であることが好ましく、500〜2,000であることがさらに好ましい。なお、Bポリマーブロックの数平均分子量は、リン酸基含有ブロックコポリマー(A−Bブロックコポリマー)の数平均分子量から、Aポリマーブロックの数平均分子量を差し引いた値で表される。Bポリマーブロックの数平均分子量が200未満であると、顔料に対する吸着力が弱く、安定性に欠ける場合がある。一方、Bポリマーブロックの数平均分子量が3,000超であると、大きすぎるために、顔料の粒子同士で吸着してしまい、安定性に欠ける場合がある。
【0039】
Bポリマーブロックの酸価は50〜500mgKOH/gであることが好ましく、100〜350mgKOH/gであることがさらに好ましい。Bポリマーブロックの酸価が50mgKOH/g未満であると、顔料への吸着性が不足する場合がある。一方、Bポリマーブロックの酸価が500mgKOH/g超であると、顔料に吸着する部分が過剰になるため、顔料がむしろ凝集してしまう場合がある。
【0040】
リン酸基含有ブロックコポリマー中のBポリマーブロックの含有量は5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。Bポリマーブロックの含有量が5質量%未満であると、顔料に吸着する部分が小さすぎるために脱離しやすく、顔料の分散性が低下する傾向にある。一方、Bポリマーブロックの含有量が40質量%超であると、分散媒に溶解又は相溶する部分であるAポリマーブロックの含有量が相対的に少なくなるので分散安定性が低下する傾向にある。
【0041】
以上より、リン酸基含有ブロックコポリマーの数平均分子量は、4,000〜23,000であることが好ましく、5,000〜14,000であることがさらに好ましい。また、リン酸基含有ブロックコポリマーの分子量分布(PDI)は、1.6以下であることが好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。
【0042】
本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーは、リン酸基を有することから、様々な用途に適用することが期待される。具体的には、顔料分散剤、樹脂処理顔料用の樹脂成分として好適に用いることができる。
【0043】
2.リン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法
本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法は、前述のリン酸基含有ブロックコポリマーを製造する方法であり、重合開始化合物及び触媒の存在下、メタクリル酸系モノマーを含有するモノマー成分をリビングラジカル重合する工程(重合工程)を含む。そして、重合開始化合物が、ヨウ素とヨウ素化合物の少なくともいずれかである。なお、本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーは、従来のリビングラジカル重合方法によっても合成(製造)することはできる。しかしながら、本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法によって製造することが好ましい。
【0044】
(重合工程)
重合工程では、ヨウ素とヨウ素化合物の少なくともいずれかを重合開始化合物として使用して、メタクリル酸系モノマーを含有するモノマー成分をリビングラジカル重合によって重合する工程である。重合開始化合物として用いられるヨウ素やヨウ素化合物に熱や光を与えると、ヨウ素ラジカルが解離する。そして、ヨウ素ラジカルが解離した状態でモノマーが挿入された後、直ちにヨウ素ラジカルがポリマー末端ラジカルと再度結合して安定化し、停止反応を防止しながら重合反応が進行する。
【0045】
ヨウ素化合物の具体例としては、2−アイオド−1−フェニルエタン、1−アイオド−1−フェニルエタンなどのアルキルヨウ化物;2−シアノ−2−アイオドプロパン、2−シアノ−2−アイオドブタン、1−シアノ−1−アイオドシクロヘキサン、2−シアノ−2−アイオド−2,4−ジメチルペンタン、2−シアノ−2−アイオド−4−メトキシ−2,4−ジメチルペンタンなどのシアノ基含有ヨウ化物などを挙げることができる。
【0046】
これらのヨウ素化合物は、市販品をそのまま使用してもよいが、従来公知の方法で調製したものを使用することもできる。例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物とヨウ素とを反応させることで、ヨウ素化合物を得ることができる。また、上記のヨウ素化合物のヨウ素が臭素又は塩素などのハロゲン原子に置換した有機ハロゲン化物に、第4級アンモニウムアイオダイドやヨウ化ナトリウムなどのヨウ化物塩を反応させ、ハロゲン交換させることでもヨウ素化合物を得ることができる。
【0047】
重合工程では、重合開始化合物とともに、重合開始化合物のヨウ素を引き抜くことができる触媒を使用する。触媒としては、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート化合物などのリン系化合物;イミド系化合物などの窒素系化合物;フェノール系化合物などの酸素系化合物;ジフェニルメタン系化合物、シクロペンタジエン系化合物などの炭化水素系化合物を用いることが好ましい。なお、これらの触媒は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
リン系化合物の具体例としては、三ヨウ化リン、ジエチルフォスファイト、ジブチルフォスファイト、エトキシフェニルフォスフィネート、フェニルフェノキシフォスフィネートなどを挙げることができる。窒素系化合物の具体例としては、スクシンイミド、2,2−ジメチルスクシンイミド、マレイミド、フタルイミド、N−アイオドスクシンイミド、ヒダントインなどを挙げることができる。酸素系化合物の具体例としては、フェノール、ヒドロキノン、メトキシヒドロキノン、t−ブチルフェノール、カテコール、ジ−t−ブチルヒドロキシトルエンなどを挙げることができる。炭化水素系化合物の具体例としては、シクロヘキサジエン、ジフェニルメタンなどを挙げることができる。
【0049】
この触媒の使用量(モル数)は、重合開始化合物の使用量(モル数)未満とすることが好ましい。触媒の使用量(モル数)が多すぎると、重合が制御されすぎてしまい、重合が進行しにくくなる場合がある。また、リビングラジカル重合の際の温度(重合温度)は30〜50℃とすることが好ましい。重合温度が高すぎると、重合末端のヨウ素がメタクリル酸によって分解してしまい、末端が安定せずにリビング重合とならない場合がある。
【0050】
また、重合工程においては、通常、ラジカルを発生しうる重合開始剤を添加する。重合開始剤としては、従来公知のアゾ系開始剤や過酸化物系開始剤が使用される。なお、上記の重合温度の範囲で十分にラジカルが発生する重合開始剤を用いることが好ましい。具体的には、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤の使用量は、モノマーに対して0.001〜0.1モル倍とすることが好ましく、0.002〜0.05モル倍とすることがさらに好ましい。重合開始剤の使用量が少なすぎると重合反応が十分に進行しない場合がある。一方、重合開始剤の使用量が多すぎると、リビングラジカル重合反応ではない通常のラジカル重合反応が副反応として進行してしまう場合がある。
【0051】
リビングラジカル重合は、有機溶剤を使用しないバルク重合であってもよいが、有機溶剤を使用する溶液重合とすることが好ましい。有機溶剤としては、重合開始化合物、触媒、モノマー成分、及び重合開始剤などの成分を溶解しうるものであることが好ましい。有機溶剤の具体例としては、ヘキサン、オクタン、デカン、イソデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、エチルベンゼンなどの炭化水素系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノールなどのアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジグライム、トリグライム、ジプロピリングリコールジメチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルトリエチレングリコール、メチルジプロピレングリコール、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコール系溶剤;
【0052】
ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルシクロプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アニソールなどのエーテル系溶剤;メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセトフェノンなどのケトン系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、カプロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチルなどのエステル系溶剤;クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン化溶剤;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N−メチルピロリドン、カプロラクタムなどのアミド系溶剤の他、ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、炭酸ジメチルなどを挙げることができる。なお、これらの有機溶剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
溶液重合する場合において、重合液の固形分濃度(モノマー濃度)は5〜80質量%とすることが好ましく、20〜60質量%とすることがさらに好ましい。重合液の固形分濃度が5質量%未満であると、モノマー濃度が低すぎて重合が完結しない場合がある。一方、重合液の固形分濃度が80質量%超又はバルク重合であると、重合液の粘度が高すぎてしまい、撹拌が困難になって重合収率が低下する傾向にある。リビングラジカル重合は、モノマーがなくなるまで行うことが好ましい。具体的には、重合時間は0.5〜48時間とすることが好ましく、実質的には1〜24時間とすることがさらに好ましい。また、重合雰囲気は特に限定されず、通常の範囲内で酸素が存在する雰囲気であっても、窒素気流雰囲気であってもよい。また、重合に使用する材料(モノマーなど)は、蒸留、活性炭処理、又はアルミナ処理などにより不純物を除去したものを用いてもよいし、市販品をそのまま用いてもよい。さらに、遮光下で重合を行ってもよいし、ガラスなどの透明容器中で重合を行ってもよい。
【0054】
A−Bブロックコポリマーの重合順序としては、(i)Aポリマーブロックを構成するモノマーを重合してAポリマーブロックを形成した後、(ii)Bポリマーブロックを構成するモノマーを添加してさらに重合することが好ましい。Bポリマーブロックを構成するモノマーを先に重合すると、重合が完結せずにリン酸基を有するモノマーが反応系内に残存する場合がある。このような場合、リン酸基を有するモノマーがAポリマーブロックに導入されやすくなる場合がある。これに対して、Aポリマーブロックを構成するモノマーを先に重合すれば、重合が完結せずにモノマーが反応系内に残存した場合であっても、得られるA−Bブロックコポリマーの構成成分の90質量%以上が(メタ)アクリレート系モノマーとなるようにBポリマーブロックを導入すれば、A−Bブロックコポリマーを容易に得ることができる。なお、好ましくは重合率50%以上、さらに好ましくは重合率80%以上、特に好ましくは重合率100%となるまでAポリマーブロックを構成するモノマーを重合してAポリマーブロックを形成した後、Bポリマーブロックを構成するモノマーを添加してBポリマーブロックを形成すればよい。
【0055】
重合開始化合物の使用量を調整することによって、得られるA−Bブロックコポリマーの分子量を制御することができる。具体的には、重合開始化合物のモル数に対して、モノマーのモル数を適切に設定することで、任意の分子量のA−Bブロックコポリマーを得ることができる。例えば、重合開始化合物を1モル使用し、分子量100のモノマーを500モル使用して重合した場合、「1×100×500=50,000」の理論分子量を有するA−Bブロックコポリマーを得ることができる。すなわち、A−Bブロックコポリマーの理論分子量を下記式(1)で算出することができる。なお、上記の「分子量」は、数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)のいずれをも含む概念である。
「A−Bブロックコポリマーの理論分子量」=「重合開始化合物1モル」×「モノマー分子量」×「モノマーのモル数/重合開始化合物のモル数」 ・・・(1)
【0056】
なお、重合工程においては、二分子停止や不均化の副反応を伴う場合があるので、上記の理論分子量を有するA−Bブロックコポリマーが得られない場合がある。A−Bブロックコポリマーは、これらの副反応が起こらずに得られたものであることが好ましい。ただし、カップリングによって得られるA−Bブロックコポリマーの分子量が多少大きくなっても、重合反応が途中で停止して得られるA−Bブロックコポリマーの分子量が多少小さくなってもよい。また、重合率は100%でなくてもよい。さらに、重合を一旦終了した後、重合開始化合物や触媒を添加して残存するモノマーを消費させて重合を完結させてもよい。すなわち、A−Bブロックコポリマーが生成していればよい。
【0057】
得られたA−Bブロックコポリマーは、重合開始化合物に由来するヨウ素原子が結合した状態のままであってもよいが、ヨウ素原子を脱離させることが好ましい。ヨウ素原子をA−Bブロックコポリマーから脱離させる方法としては、従来公知の方法であれば特に限定されない。具体的には、A−Bブロックコポリマーを加熱したり、酸やアルカリで処理したりすればよい。また、A−Bブロックコポリマーをチオ硫酸ナトリウムなどで処理してもよい。脱離したヨウ素は、活性炭やアルミナなどのヨウ素吸着剤で処理して除去するとよい。
【0058】
3.顔料分散剤及び顔料着色剤組成物
本発明の顔料分散剤は、前述のリン酸基含有ブロックコポリマーを主成分として含有するものである。なお、顔料分散剤は、実質的にリン酸基含有ブロックコポリマーからなるものであることが好ましい。また、本発明の顔料着色剤組成物は、この顔料分散剤と、その数平均粒子径が10〜150nmである顔料とを含有する。リン酸基含有ブロックコポリマーの構造中(Bポリマーブロック中)のリン酸基は、塩基性顔料又は塩基性基含有色素誘導体で処理された顔料の塩基性基と強固に結合し、Bポリマーブロックが顔料に吸着することで、顔料の分散性を高める作用を発揮する。すなわち、本発明の顔料分散剤は、この作用によって顔料を分散させる成分であるので、分散させる顔料の種類については特に限定はない。
【0059】
(顔料)
顔料としては、有機顔料、無機顔料、金属粉末又は微粒子などの金属系顔料、無機フィラーなどを用いることができる。有機顔料及び無機顔料の具体例としては、キナクリドン系顔料、アンスラキノン系顔料、ジケトピロロピロール顔料、ペリレン系顔料、フタロシアニンブルー系顔料、フタロシアニングリーン系顔料、イソインドリノン系顔料、インジゴ・チオインジゴ顔料、ジオキサジン系顔料、キノフタロン顔料、ニッケルアゾ顔料、不溶性アゾ系顔料、溶性アゾ系顔料、高分子量アゾ系顔料、カーボンブラック顔料、複合酸化物系黒色顔料、酸化鉄ブラック顔料、酸化チタン系黒色顔料、アゾメチンアゾ系黒色顔料、及び酸化チタン系顔料からなる群より選択される、赤色、緑色、青色、黄色、橙色、紫色、黒色、及び白色顔料を挙げることができる。金属系顔料の具体例としては、銅粉末、アルミフレークなどを挙げることができる。また、無機フィラーの具体例としては、マイカ系顔料、天然鉱物、シリカなどを挙げることができる。
【0060】
なお、カラーフィルター用の顔料としては、有機顔料やブラックマトリックス用無機顔料を用いることが好ましい。赤色顔料としては、カラーインデックス(以下、C.I.)ピグメントレッド(PR)56、58、122、166、168、176、177、178、224、242、254、255を挙げることができる。緑色顔料としては、C.I.ピグメントグリーン(PG)7、36、58、ポリ(14〜16)ブロム銅フタロシアニン、ポリ(12〜15)ブロム化−ポリ(4〜1)クロル化銅フタロシアニンを挙げることができる。青色顔料としては、C.I.ピグメントブルー(PB)15:1、15:3、15:6、60、80などを挙げることができる。
【0061】
また、上記のカラーフィルター用の顔料に対する補色顔料又は多色型の画素用顔料として、以下のものを挙げることができる。黄色顔料としては、C.I.ピグメントイエロー(PY)12、13、14、17、24、55、60、74、83、90、93、126、128、138、139、150、154、155、180、185、216、219、C.I.ピグメントバイオレット(PV)19、23を挙げることができる。また、ブラックマトリックス用の黒色顔料としては、C.I.ピグメントブラック(PBK)6、7、11、26、銅・マンガン・鉄系複合酸化物を挙げることができる。
【0062】
顔料の数平均粒子径は10〜150nmであり、好ましくは20〜80nmである。このように微粒子化された顔料を分散させて得られる顔料着色剤組成物は、高透明性及び高コントラスト性を有するカラーフィルターを製造しうる着色剤として特に好適である。また、本発明の顔料着色剤組成物には、微粒子化された顔料を安定して高度に微分散させることが可能な顔料分散剤(リン酸基含有ブロックコポリマー)が含有されている。このため、本発明の顔料着色剤組成物は、上記のような極めて微細な顔料が良好な状態で分散されており、しかも長期保存安定性にも優れたものである。なお、顔料着色剤組成物に含有される顔料の割合は、顔料着色剤組成物の全体を100質量%とした場合に5〜40質量%であることが好ましく、10〜30質量%であることがさらに好ましい。
【0063】
(色素誘導体)
顔料着色剤組成物には、顔料分散剤に用いられるリン酸基含有ブロックコポリマー中のリン酸基とイオン結合させて吸着させるために、塩基性官能基を有する塩基性の色素誘導体を含有させることが好ましい。この色素誘導体は、色素骨格に塩基性官能基が導入されたものである。色素骨格としては、顔料と同一又は類似の骨格、顔料の原料となる化合物と同一又は類似の骨格が好ましい。色素骨格の具体例としては、アゾ系色素骨格、フタロシアニン系色素骨格、アントラキノン系色素骨格、トリアジン系色素骨格、アクリジン系色素骨格、ペリレン系色素骨格などを挙げることができる。
【0064】
色素骨格に導入される塩基性官能基としては、アミノ基が好ましい。導入されるアミノ基としては、1級、2級、及び3級アミノ基のいずれであってもよく、第4級アンモニウム塩であってもよい。また、アミノ基等の塩基性官能基は、色素骨格に直接結合していてもよいが、アルキル基やアリール基などの炭化水素基;エステル、エーテル、スルホンアミド、ウレタン結合を介して色素骨格に結合していてもよい。なお、合成の都合上、及び結合の強さから、塩基性官能基はスルホンアミドを介して色素骨格に結合していることが好ましい。
【0065】
顔料着色剤組成物中のリン酸基含有ブロックコポリマーの含有量は、顔料100質量部に対して10〜100質量部であることが好ましく、10〜50質量部であることがさらに好ましい。リン酸基含有ブロックコポリマーの含有量が10質量部未満であると、顔料の分散性が不十分になる場合がある。一方、リン酸基含有ブロックコポリマーの含有量が100質量部超であると、分散に寄与しない樹脂が生成する場合がある。また、顔料着色剤組成物中の色素誘導体の含有量は、顔料100質量部に対して5〜100質量部であることが好ましく、10〜30質量部であることがさらに好ましい。色素誘導体の含有量が5質量部未満であると、顔料の表面を覆う塩基性基が少なくなるので、顔料分散剤の吸着が不十分になる場合がある。一方、色素誘導体の含有量が100質量部超であると、色素誘導体の色が出やすくなってしまい、目的とする色相にならない場合がある。
【0066】
(アルカリ現像性ポリマー)
本発明の顔料着色剤組成物は、前述のリン酸基含有ブロックコポリマーを顔料分散剤として使用し、顔料、及び必要に応じて用いられる色素誘導体を液媒体に分散して得られるものである。なお、顔料着色剤組成物をカラーフィルター用の着色剤として用いる場合には、アルカリ現像性ポリマーを添加することが好ましい。顔料分散剤として用いるリン酸基含有ブロックコポリマーは、その構造中にカルボキシル基を有する場合は中和してイオン化して水に可溶性となるので、アルカリ現像可能であることが特徴の一つである。
【0067】
アルカリ現像性ポリマーは、その構造中にカルボキシル基などの酸基を有し、アルカリ水溶液で酸基が中和されて水に可溶性となって現像できるものである。このため、アルカリ現像性ポリマーにも、リン酸基含有ブロックコポリマーと同様に、顔料の表面とイオン結合して吸着するものがあると考えられる。ただし、リン酸基含有ブロックコポリマー中のリン酸基が、カルボキシル基に比して強酸性を示す基である。このため、リン酸基含有ブロックコポリマーと、カルボキシル基を有するアルカリ現像性ポリマーとが併存している場合であっても、リン酸基の方が選択的に顔料の表面とイオン結合すると考えられる。したがって、リン酸基以外の酸基をその構造中に有するアルカリ現像性ポリマーなどが存在する場合であっても、リン酸基含有ブロックコポリマーは微粒子化された顔料を高度に微分散させることができる。
【0068】
アルカリ現像性ポリマーとしては、不飽和結合基などの感光性基を有する感光性樹脂や、非感光性樹脂を用いることができる。感光性樹脂の具体例としては、感光性環化ゴム系樹脂、感光性フェノール系樹脂、感光性ポリアクリレート系樹脂、感光性ポリアミド系樹脂、感光性ポリイミド系樹脂、及び不飽和ポリエステル系樹脂、ポリエステルアクリレート系樹脂、ポリエポキシアクリレート系樹脂、ポリウレタンアクリレート系樹脂、ポリエーテルアクリレート系樹脂、ポリオールアクリレート系樹脂などを挙げることができる。非感光性樹脂の具体例としては、セルロースアセテート系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、スチレン系(共)重合体、ポリビニルブチラール系樹脂、アミノアルキッド系樹脂、ポリエステル系樹脂、アミノ樹脂変性ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリルポリオールウレタン系樹脂、可溶性ポリアミド系樹脂、可溶性ポリイミド系樹脂、可溶性ポリアミドイミド系樹脂、可溶性ポリエステルイミド系樹脂、ヒドロキシエチルセルロース、スチレン−マレイン酸エステル系共重合体、(メタ)アクリル酸エステル系(共)重合体などを挙げることができる。これらのアルカリ現像性ポリマーは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。なお、顔料着色剤組成物中のアルカリ現像性バインダーの含有量は、顔料100質量部に対して5〜300質量部であることが好ましく、10〜100質量部であることがさらに好ましい。
【0069】
また、グリシジル基又はイソシアネート基を有する(メタ)アクリレートを反応して得られる不飽和結合基含有ブロックコポリマーを顔料着色剤組成物に含有させることが好ましい。この不飽和結合基含有ブロックコポリマーは、光硬化して膜を形成しうる成分である。このため、カラーフィルターの画素の強度(耐性)を向上させることができる。また、画素のエッジをシャープに形成できるとともに、形成される画素の溶剤耐性を向上させることができる。なお、不飽和結合基含有ブロックコポリマー中の不飽和結合基は、アクリル基又はメタクリル基が好適である。これらの不飽和結合基は、従来公知の方法で不飽和結合基含有ブロックコポリマー中に導入される。
【0070】
顔料着色剤組成物に用いられる液媒体としては、有機溶剤が好ましい。有機溶剤の具体例としては、ヘキサン、トルエンなどの炭化水素系溶剤;ブタノールなどのアルコール系溶剤;酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤;シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶媒;ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール系溶剤;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジブチルエーテルなどのグリコール系エステル又はエーテル溶剤;N−メチルピロリドン、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶剤;エチレンカーボネート、プロピオンカーボネートなどのカーボネート系溶剤などを挙げることができる。これらの有機溶剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
顔料着色剤組成物には、さらに、従来公知の添加剤を添加してもよい。添加剤の具体例としては、紫外線吸収剤、レベリング剤、消泡剤、光重合開始剤などを挙げることができる。また、反応性希釈剤として、メタクリレートやアクリレートなどの不飽和結合を有するモノマーを添加してもよい。
【0072】
(顔料着色剤組成物の製造方法)
顔料着色剤組成物の製造するに際しては、各成分を一度に配合してもよく、個別に配合してもよい。なお、顔料の原料化合物を顔料化して顔料とする際、或いは顔料を微細化する際に色素誘導体を添加することが好ましい。これにより、色素誘導体の作用でその表面が塩基性となった顔料(表面処理顔料)を得ることができる。さらに、後述する樹脂処理顔料を用いる場合には、樹脂処理顔料に液媒体やアルカリ現像性ポリマーなどの成分を添加して分散させる。なお、必要に応じて他の顔料分散剤を添加してもよい。
【0073】
顔料を分散させる方法は従来公知の方法であればよく、特に限定されない。顔料を分散させるために用いる装置の具体例としては、縦型・横型メディアミル、サンドミル、アトライター、マイクロフルイダイザー、超音波分散機、三本ロールなどを挙げることができる。これらの装置を使用して、顔料が所定の数平均粒子径となるまで分散させることが好ましい。
【0074】
顔料を微細化させる際に顔料分散剤(リン酸基含有ブロックコポリマー)を使用することもできる。具体的には、顔料の混練中にリン酸基含有ブロックコポリマーを添加し、混練によって、リン酸基含有ブロックコポリマーのリン酸基を顔料にイオン結合させ、顔料分散剤を顔料に吸着させる。顔料の混練方法としては、特に限定されない。具体的には、ニーダー、押出機、ボールミル、二本ロール、三本ロール、フラッシャーなどの従来公知の混練機を使用し、常温又は加熱条件下、通常0.5〜60時間、好ましくは1〜12時間混練する。また、必要に応じて、顔料を微細化するためのメディアとして炭酸塩や塩化物塩などの塩を併用することが好ましい。用いる塩の量は、顔料に対して好ましくは1〜30質量倍、さらに好ましくは2〜20質量倍である。
【0075】
また、グリセリン、エチレングリコール、ジエチレングリコールなどの粘性を有する有機溶剤を併用し、潤滑性を付与することが好ましい。リン酸基含有ブロックコポリマーは、これらの粘性を有する有機溶剤に溶解するので、リン酸基含有ブロックコポリマーが析出することなく、顔料を微細化することができる。粘性を有する有機溶剤の使用量は、混練物の粘度に応じて調整すればよい。このようにして得られた樹脂処理顔料は、脱塩後、水ペーストとしてもよいし、粉砕して粉末としてもよい。また、得られた樹脂処理顔料は、液媒体に分散させて顔料分散体とすることができる。
【0076】
本発明の顔料着色剤組成物は、様々な物品の着色剤として使用することができる。例えば、本発明の顔料着色剤組成物は、グラビアインキ、オフセットインキ、UVインクジェットインクなどとして用いることができる。特に、低粘度化と顔料の高微細化が可能であるとともに、長期保存安定性が良好であることから、カラーフィルター用の着色剤(カラーフィルター用顔料着色剤組成物)として好適である。
【実施例】
【0077】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。以下、文中の「部」及び「%」は、特に断りのない限り質量基準である。
【0078】
(合成例1:PP−1)
還流管、ガス導入装置、温度計、及び撹拌装置を取り付けた1Lセパラブルフラスコに、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、「PGMAc」と記す)230部、ヨウ素4.1部、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(以下、「V−70」と記す)19.7部、メタクリル酸メチル(以下、「MMA」と記す)57.6部、メタクリル酸ブチル(以下、「BMA」と記す)57.6部、メタクリル酸2−エチルヘキシル(以下、「EHMA」と記す)28.8部、メタクリル酸メトキシポリエチレングリコール(n=3〜5)(以下、「PME200」と記す)28.8部、メタクリル酸ベンジル(以下、「BzMA」と記す)14.4部、メタクリル酸(以下、「MAA」と記す)20部、及び3,5−ジt−ブチル−4−ヒドロキシトルエン(以下、「BHT」と記す)0.9部を仕込んだ。窒素を流しながら40℃で7時間重合し、Aポリマーブロックの溶液を得た。固形分から算出したAポリマーブロックの重合率は87.2%であった。また、GPCにて測定したMnは4,800、PDIは1.25、ピークトップの分子量は6,000であった。さらに、酸価は61.7mgKOH/gであった。
【0079】
得られたAポリマーブロックの溶液に、MMA26.0部、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル(商品名「ライトエステルP−1M」、共栄社化学社製、以下、「P1M」と記す)13.4部、V−70を0.9部、及びPGMAc39部の混合液を添加した。4時間重合してBポリマーブロックを形成した。窒素の流通を停止した後に80℃に加温し、ポリマー鎖の末端に結合したヨウ素を遊離させて、A−Bブロックコポリマーを含有するポリマー溶液を得た。なお、ポリマー溶液が褐色透明の液体となったことによりヨウ素が遊離したことを確認した。
【0080】
得られたポリマー溶液の固形分は48.3%であった。また、固形分から算出したBポリマーブロックの重合率はほぼ100%であった。A−BブロックコポリマーのMnは5,500、PDIは1.35、ピークトップ分子量は7,400、酸価は80.5mgKOH/gであった。また、BポリマーブロックのMn(「A−BブロックコポリマーのMn」−「AポリマーブロックのMn」)は700であった。得られたA−Bブロックコポリマーを「PP−1」と称する。
【0081】
(合成例2:PP−2)
PGMAc280部、ヨウ素3.6部、V−70を17.7部、MMA77.7部、BMA77.7部、EHMA38.8部、PME200を38.8部、BzMA19.4部、MAA27.0部、及びBHT0.9部を用いたこと以外は、前述の合成例1の場合と同様にしてAポリマーブロックの溶液を得た。固形分から算出したAポリマーブロックの重合率は90.1%であった。また、AポリマーブロックのMnは7,000、PDIは1.36、ピークトップ分子量は9,500、酸価は62.2mgKOH/gであった。
【0082】
次いで、MMA23.1部、P1M12.0部、V−70を0.8部、及びPGMAc35部の混合液を用いたこと以外は、前述の合成例1の場合と同様にしてBポリマーブロックを形成し、A−Bブロックコポリマーを含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液の固形分は48.5%であり、固形分から算出したBポリマーブロックの重合率はほぼ100%であった。A−BブロックコポリマーのMnは7,500、PDIは1.40、ピークトップ分子量は10,500、酸価は76.3mgKOH/gであった。また、BポリマーブロックのMnは500であった。得られたA−Bブロックコポリマーを「PP−2」と称する。
【0083】
(合成例3:PP−3)
PGMAc280部、ヨウ素3.6部、V−70を17.7部、MMA77.7部、BMA77.7部、EHMA38.8部、PME200を38.8部、BzMA19.4部、MAA27.0部、及びBHT0.9部を用いたこと以外は、前述の合成例1の場合と同様にしてAポリマーブロックの溶液を得た。固形分から算出したAポリマーブロックの重合率は90.4%であった。また、AポリマーブロックのMnは7,000、PDIは1.36、ピークトップ分子量は9,500、酸価は62.0mgKOH/gであった。
【0084】
次いで、MMA28.9部、P1M18.0部、V−70を0.9部、及びPGMAc46.9部の混合液を用いたこと以外は、前述の合成例1の場合と同様にしてBポリマーブロックを形成し、A−Bブロックコポリマーを含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液の固形分は48.8%であり、固形分から算出したBポリマーブロックの重合率はほぼ100%であった。A−BブロックコポリマーのMnは8,500、PDIは1.44、ピークトップ分子量は11,200、酸価は82.9mgKOH/gであった。また、BポリマーブロックのMnは1,500であった。得られたA−Bブロックコポリマーを「PP−3」と称する。
【0085】
(合成例4:PP−4)
PGMAc280部、ヨウ素3.6部、V−70を17.7部、MMA77.7部、BMA77.7部、EHMA38.8部、PME200を38.8部、BzMA19.4部、MAA27.0部、及びBHT0.9部を用いたこと以外は、前述の合成例1の場合と同様にしてAポリマーブロックの溶液を得た。固形分から算出したAポリマーブロックの重合率は90.9%であった。また、AポリマーブロックのMnは6,900、PDIは1.34、ピークトップ分子量は9,500、酸価は61.9mgKOH/gであった。
【0086】
次いで、MMA34.7部、P1M24.0部、V−70を1.2部、及びPGMAc58.7部の混合液を用いたこと以外は、前述の合成例1の場合と同様にしてBポリマーブロックを形成し、A−Bブロックコポリマーを含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液の固形分は48.6%であり、固形分から算出したBポリマーブロックの重合率はほぼ100%であった。A−BブロックコポリマーのMnは9,600、PDIは1.45、ピークトップ分子量は14,000、酸価は89.9mgKOH/gであった。また、BポリマーブロックのMnは2,700であった。得られたA−Bブロックコポリマーを「PP−4」と称する。
【0087】
(合成例5:PP−5)
PGMAc280部、ヨウ素3.6部、V−70を17.7部、MMA77.7部、BMA77.7部、EHMA38.8部、PME200を38.8部、BzMA19.4部、及びBHT0.9部を 用いたこと以外は、前述の合成例1の場合と同様にしてAポリマーブロックの溶液を得た。固形分から算出したAポリマーブロックの重合率は88.5%であった。また、AポリマーブロックのMnは6,500、PDIは1.33、ピークトップ分子量は8,600であった。
【0088】
次いで、MMA23.1部、P1M12.0部、V−70を0.8部、及びPGMAc35部の混合液を用いたこと以外は、前述の合成例1の場合と同様にしてBポリマーブロックを形成し、A−Bブロックコポリマーを含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液の固形分は48.4%であり、固形分から算出したBポリマーブロックの重合率はほぼ100%であった。A−BブロックコポリマーのMnは7,000、PDIは1.40、ピークトップ分子量は9,800、酸価は22.1mgKOH/gであった。また、BポリマーブロックのMnは500であった。得られたA−Bブロックコポリマーを「PP−5」と称する。
【0089】
(比較合成例1:HG−1)
還流管、温度計、及び撹拌装置を取り付けた1LセパラブルフラスコにPGMAc300部を投入し、80℃に加温した。予め別容器に調製しておいた、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル7.5部、及び連鎖移動剤としてラウリルメルカプタン6部を溶解させた、MMA95部、BMA74部、EHMA37部、PME200を37部、BzMA18部、MAA27部、及びP1M12部を含有するモノマー溶液を、上記の1Lセパラブルフラスコ中に1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、さらに同温度で5時間重合させて、ポリマーを含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液の固形分は50.3%であった。ポリマーのMnは6,300、PDIは1.92、酸価は79.5mgKOH/gであった。得られたポリマーを「HG−1」と称する。
【0090】
(比較合成例2:HG−2)
PGMAc154部、ヨウ素3.6部、V−70を17.7部、MMA42.3部、BMA42.3部、EHMA21.3部、PME200を21.3部、BzMA12部、MAA15部、及びBHT0.9部を用いたこと以外は、前述の合成例1の場合と同様にしてAポリマーブロックの溶液を得た。固形分から算出したAポリマーブロックの重合率は93.2%であった。また、AポリマーブロックのMnは4,500、PDIは1.26、ピークトップ分子量は5,700、酸価は59.2mgKOH/gであった。
【0091】
次いで、MMA67.5部、2−メタクリロイロキシエチルフタル酸(以下、「MEPA」と記す)11.9部、V−70を1.6部、及びPGMAc79.4部の混合液を用いたこと以外は、前述の合成例1の場合と同様にしてBポリマーブロックを形成し、A−Bブロックコポリマーを含有するポリマー溶液を得た。得られたポリマー溶液の固形分は48.3%であり、固形分から算出したBポリマーブロックの重合率はほぼ100%であった。A−BブロックコポリマーのMnは7,300、PDIは1.45、ピークトップ分子量は12,000、酸価は52.1mgKOH/gであった。また、BポリマーブロックのMnは2,800であった。得られたA−Bブロックコポリマーを「HG−2」と称する。
【0092】
上記の各合成例で得られたポリマーの組成及び物性を表1〜3に示す。
【0093】

【0094】

【0095】

【0096】
(実施例1〜6、比較例1及び2:顔料着色剤組成物)
(a)顔料の微細化処理
カラーフィルター用の顔料として、PR254、PG58、PY138、PY150、PB15−6、及びPV23を準備し、以下に示す方法で微細化処理を行なった。顔料100部、塩化ナトリウム400部、及びジエチレングリコール130部を、加圧蓋を装着したニーダーに仕込んだ。ニーダー内に均一に湿潤された塊ができるまで予備混合した。加圧蓋を閉じて、圧力6kg/cm2で内容物を押さえ込みながら、7時間混練及び摩砕処理を行って摩砕物を得た。得られた摩砕物を2%硫酸3,000部に投入し、1時間撹拌処理した。ろ過して塩化ナトリウム及びジエチレングリコールを除去した後、十分水洗し、次いで、乾燥及び粉砕して顔料粉末を得た。得られた顔料粉末の数平均粒子径は約30nmであった。
【0097】
(b)顔料着色剤組成物の調製
表4に示す各成分を表4に示す量(部)で配合し、ディゾルバーで2時間撹拌した。顔料の塊がなくなったことを確認した後、横型メディア分散機を使用して分散処理して顔料着色剤組成物(顔料分散液)を調製した。なお、表4中、「シナジスト1」は下記構造式(1)(n=1〜2(実質的には1.5))、「シナジスト2」は下記構造式(2)、及び「シナジスト3」は下記構造式(3)(n=1〜2(実質的には1.5))でそれぞれ表される、いずれもアミノ基を有する色素誘導体である。また、表4中の「アクリル樹脂」は、モノマー組成がBzMA/MAA=80/20(質量比)であり、GPC測定によるMnが5,500、PDIが2.02であるもの(PGMAc溶液(固形分濃度:30%))を使用した。
【0098】

【0099】

【0100】

【0101】

【0102】
(顔料着色剤組成物の評価(1))
得られた顔料着色剤組成物(顔料分散液)に含まれる顔料の数平均粒子径の測定結果、顔料分散液の初期の粘度、及び45℃で3日間放置した後の粘度(保存後の粘度)の測定結果を表5に示す。
【0103】

【0104】
表5に示すように、実施例1〜6の顔料着色剤組成物(顔料分散液)に含まれる顔料の数平均粒子径は、いずれも50nm以下であり、微細化された顔料が十分に微分散されていることが判明した。また、実施例1〜6の顔料分散液のいずれも、初期の粘度は10mPa・s以下であった。また、初期の粘度と保存後の粘度を比較すると、粘度変化が極めて小さいことが分かる。以上より、実施例1〜6の顔料分散液は十分な分散安定性を有することが明らかである。
【0105】
これに対して、比較例1の顔料分散液は、実施例1の顔料分散液と比較した場合、顔料の数平均粒子径が大きく、十分に微分散されていないことが分かる。さらに、保存後の粘度が大きく増加していることから、分散安定性も不十分であることが分かる。また、比較例2の顔料分散液は、Bのポリマーブロックの構成成分としてリン酸基含有メタクリレートを含まないため、顔料への吸着力が弱く、分散初期の粘度は良好であるが、保存中に顔料の凝集が起こり、分散安定性が不十分であることが分かった。
【0106】
(実施例7〜9:カラーフィルター用顔料着色剤組成物)
表6に示す各成分を表6に示す量(部)で配合し、混合機で十分混合して、カラーレジストである各色のカラーフィルター用顔料着色剤組成物(顔料インク)を得た。なお、表6中の「感光性アクリル樹脂ワニス」は、BzMA/MAA共重合物にメタクリル酸グリシジルを反応させて得られたアクリル樹脂を含むワニスである。このアクリル樹脂は、Mnが6,000、PDIが2.38であり、酸価が110mgKOH/gであった。また、「TMPTA」はトリメチロールプロパントリアクリレートを示し、「HEMPA」は2−ヒドロキシエチル−2−メチルプロピオン酸を示し、「DEAP」は2,2−ジエトキシアセトフェノンを示す。
【0107】

【0108】
シランカップリング剤で処理したガラス基板をスピンコーターにセットした。実施例7の赤色顔料インク−1を300rpmで5秒間の条件でガラス基板上にスピンコートした。80℃で10分間プリベークした後、超高圧水銀灯を用いて100mJ/cm2の光量で露光し、赤色ガラス基板を製造した。また、実施例8の緑色顔料インク−1、及び実施例9の青色顔料インク−1をそれぞれ用いたこと以外は、上記の赤色ガラス基板を製造した場合と同様にして、緑色ガラス基板及び青色ガラス基板を製造した。
【0109】
得られた各色のガラス基板(カラーガラス基板)は、いずれも優れた分光カーブ特性を有するとともに、耐光性や耐熱性等の堅牢性に優れていた。また、いずれのカラーガラス基板も、光透過性やコントラスト比等の光学特性に優れていた。
【0110】
(比較例3及び4:カラーフィルター用顔料着色剤組成物)
(i)「PP−2」に代えて、リン酸基を有しないポリエステル系分散剤(12−ヒドロキシステアリン酸を開始化合物とする、ポリε−カプロラクトンとポリエチレンイミンとの縮合物、Mn:12,000、アミン価:12mgKOH/g)を用いたこと、及び(ii)「シナジスト1」に代えて、モノスルホン化ジケトピロロピロールを用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして比較用赤色顔料分散液を調製した。また、(i)「PP−4」に代えて、上記のポリエステル系分散剤を用いたこと、(ii)「シナジスト3」に代えて、モノスルホン化銅フタロシアニンを用いたこと以外は、前述の実施例5と同様にして比較用青色顔料分散液を調製した。
【0111】
そして、調製したこれらの比較用顔料分散液を用いたこと以外は、前述の実施例7の場合と同様にして、赤色顔料インク(比較例3)及び青色顔料インク(比較例4)を調製するとともに、比較用の赤色ガラス基板及び青色ガラス基板を製造した。
【0112】
(アルカリ現像性試験)
実施例7〜9並びに比較例3及び4の顔料インクを用いて製造したカラーガラス基板のそれぞれに、0.1Nのテトラメチルアンモニウムハイドロキサイド水溶液を5秒ごとにスポットした。そして、「何秒後に塗膜の露光部が溶解するか」について、目視することにより確認した。結果を表7に示す。
【0113】

【0114】
表7に示すように、実施例7の赤色顔料インク−1、実施例8の緑色顔料インク−1、及び実施例9の青色顔料インク−1を用いて製造したガラス基板では、いずれも短時間で露光部の塗膜が溶解するとともに、溶解残渣(膜状のカス)が生ずることなく、良好な現像性を示した。なお、溶解せずに残存した塗膜の端部(エッジ)を顕微鏡で観察したところ、いずれもシャープであることが確認できた。すなわち、実施例7〜9の顔料着色剤組成物(顔料インク)を用いれば、現像時間を短縮することができるので、生産性の向上が期待される。
【0115】
これに対して、製造した比較例3の赤色顔料インク及び比較例4の青色顔料インクを用いて製造したガラス基板では、塗膜の露光部が完全に無くなるのにいずれも60秒以上を要した。このように現像時間が長くなったのは、アルカリ現像に不適な顔料分散剤を用いたためであると考えられる。また、いずれのガラス基板についても、塗膜の露光部は膜状に脱離しており、残渣が生じていた。これは、顔料分散剤がアルカリ溶解性ではないためであると考えられる。以上より、実施例1、2、及び5の顔料分散剤を用いた実施例7〜9の顔料インクを使用して形成した塗膜は、アルカリ現像性に優れることが判明した。
【0116】
(参考例1〜3:樹脂処理した顔料粉末の調製)
PR254(顔料)100部、塩化ナトリウム400部、及びジエチレングリコール130部を、加圧蓋を装着したニーダーに仕込んだ。ニーダー内に均一に湿潤された塊ができるまで予備混合した。次いで、「PP−2」を61.5部添加し、加圧蓋を閉じて、圧力6kg/cm2で内容物を押さえ込みながら、7時間混練及び摩砕処理を行って摩砕物を得た。得られた摩砕物を2%硫酸3,000部に投入し、1時間撹拌処理した。ろ過して塩化ナトリウム及びジエチレングリコールを除去した後、十分水洗し、次いで、乾燥及び粉砕して赤色の顔料粉末(参考例1)を得た。得られた顔料粉末の数平均粒子径は30nmであった。
【0117】
PR254をPG58に代えたこと、及び「PP−2」を「PP−1」に代えたこと以外は、上記の参考例1と同様にして緑色の顔料粉末(参考例2)を得た。得られた顔料粉末の数平均粒子径は35nmであった。また、PR254をPB15:6に代えたこと、及び「PP−2」を「PP−4」に代えたこと以外は、上記の参考例1と同様にして青色の顔料粉末(参考例3)を得た。得られた顔料粉末の数平均粒子径は30nmであった。
【0118】
(実施例10〜12:顔料着色剤組成物)
表8に示す各成分を表8に示す量(部)で配合し、ディゾルバーで2時間撹拌した。顔料の塊がなくなったことを確認した後、横型メディア分散機を使用して分散処理して顔料着色剤組成物(顔料分散液)を調製した。
【0119】

【0120】
(顔料着色剤組成物の評価(2))
得られた顔料着色剤組成物(顔料分散液)に含まれる顔料の数平均粒子径の測定結果、顔料分散液の初期の粘度、及び45℃で3日間放置した後の粘度(保存後の粘度)の測定結果を表9に示す。
【0121】

【0122】
表9に示すように、実施例10〜12の顔料着色剤組成物(顔料分散液)は、初期及び保存後の粘度が良好であった。以上より、本発明の顔料分散剤は、顔料を微細化する際に添加して用いた場合であっても、十分な顔料分散性を発揮可能であることが確認された。
【0123】
(実施例13〜15:カラーフィルター用顔料着色剤組成物)
表10に示す各成分を表10に示す量(部)で配合し、混合機で十分混合して、カラーレジストである各色のカラーフィルター用顔料着色剤組成物(顔料インク)を得た。
【0124】

【0125】
シランカップリング剤で処理したガラス基板をスピンコーターにセットした。実施例13の赤色顔料インク−2を300rpmで5秒間の条件でガラス基板上にスピンコートした。80℃で10分間プリベークした後、超高圧水銀灯を用いて100mJ/cm2の光量で露光し、赤色ガラス基板を製造した。また、実施例14の緑色顔料インク−2、及び実施例15の青色顔料インク−2をそれぞれ用いたこと以外は、上記の赤色ガラス基板を製造した場合と同様にして、緑色ガラス基板及び青色ガラス基板を製造した。
【0126】
得られた各色のガラス基板(カラーガラス基板)は、いずれも色相調整を行っていないので、確実なフィルター色相とはいえない。しかしながら、いずれのカラーガラス基板も優れた分光カーブ特性を有するとともに、耐光性や耐熱性等の堅牢性に優れていた。また、いずれのカラーガラス基板も、光透過性やコントラスト比等の光学特性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーは、特に顔料分散剤として優れた特性を有する。このため、本発明のリン酸基含有ブロックコポリマーを用いれば、低粘度で長期保存安定性に優れた顔料着色剤組成物を調製することができる。そして、この顔料着色剤組成物(顔料インク)は、塗布特性や現像性に優れているので、精細性、色濃度、光透過性、及びコントラスト性等の光学的特性に優れたカラーフィルターを製造するための材料として有用である。なお、このようにして製造されたカラーフィルターを備えた画素表示装置は、精細性、色濃度、光透過性、及びコントラスト性等の画像性能に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を90質量%以上含む、Aポリマーブロック及びBポリマーブロックからなるA−Bブロック型のコポリマーであり、
前記Aポリマーブロックと前記Bポリマーブロックのうち、前記Bポリマーブロックのみが、リン酸基を有するリン酸基含有メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を含むことを特徴とするリン酸基含有ブロックコポリマー。
【請求項2】
前記Aポリマーブロックが、カルボキシル基を有するカルボキシル基含有メタクリル酸系モノマーに由来する構成単位を含み、
前記Aポリマーブロックの酸価が10〜200mgKOH/gである請求項1に記載のリン酸基含有ブロックコポリマー。
【請求項3】
前記カルボキシル基含有メタクリル酸系モノマーがメタクリル酸である請求項2に記載のリン酸基含有ブロックコポリマー。
【請求項4】
前記Aポリマーブロックの数平均分子量が3,000〜20,000であるとともに、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.6以下であり、
前記Bポリマーブロックの数平均分子量が200〜3,000であり、
その数平均分子量が4,000〜23,000であるとともに、その分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が1.6以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のリン酸基含有ブロックコポリマー。
【請求項5】
前記Bポリマーブロックの酸価が50〜500mgKOH/gであり、
前記Bポリマーブロックの含有量が5〜40質量%である請求項1〜4のいずれか一項に記載のリン酸基含有ブロックコポリマー。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法であって、
重合開始化合物及び触媒の存在下、前記メタクリル酸系モノマーを含有するモノマー成分をリビングラジカル重合する工程を含み、
前記重合開始化合物が、ヨウ素とヨウ素化合物の少なくともいずれかであることを特徴とするリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記触媒が、ハロゲン化リン、フォスファイト系化合物、フォスフィネート化合物、イミド系化合物、フェノール系化合物、ジフェニルメタン系化合物、及びシクロペンタジエン系化合物からなる群より選択される少なくとも一種の化合物である請求項6に記載のリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記リビングラジカル重合する際の重合温度が30〜50℃である請求項6又は7に記載のリン酸基含有ブロックコポリマーの製造方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のリン酸基含有ブロックコポリマーを主成分として含有することを特徴とする顔料分散剤。
【請求項10】
請求項9に記載の顔料分散剤と、その数平均粒子径が10〜150nmである顔料と、を含有することを特徴とする顔料着色剤組成物。
【請求項11】
塩基性官能基を有する色素誘導体をさらに含有する請求項10に記載の顔料着色剤組成物。
【請求項12】
前記顔料100質量部に対する、前記リン酸基含有ブロックコポリマーの含有量が10〜100質量部であり、
前記顔料100質量部に対する、前記色素誘導体の含有量が5〜100質量部である請求項11に記載の顔料着色剤組成物。
【請求項13】
カラーフィルター用の着色剤として用いられる請求項10〜12のいずれか一項に記載の顔料着色剤組成物。

【公開番号】特開2013−103993(P2013−103993A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248673(P2011−248673)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000002820)大日精化工業株式会社 (387)
【Fターム(参考)】