説明

リーチ式フォークリフトの転倒防止装置

【課題】転倒を、電気的ではなく機械的に確実に100%防止でき、さらに簡単な構成で部品点数が少なく、低コスト化を図ることができ、メンテナンス性を向上できるリーチ式フォークリフトの転倒防止装置を提供することを目的とする。
【解決手段】マスト部17が後方へ移動しリーチイン状態となると、車両本体14の左右一対のアウトリガー部13の底面より、走行面23の近くまで下降され、マスト部17が前方へ移動しリーチアウト状態となると、アウトリガー部13の底面まで上昇される左右一対の車体支持体43を備え、車両本体14が左右方向に傾くと、車体支持体43が走行面23へ接地して車両本体14のそれ以上の傾きを阻止し、車両本体14の転倒を防止する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リーチ式フォークリフトの転倒防止装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リーチ式フォークリフトは、旋回半径が小さく小回りが利くために、倉庫や工場内など屋内の比較的狭い場所での使用に適している。しかし、旋回半径が小さいことにより、走行速度および換向角によっては、リーチ式フォークリフトが転倒(横転)する恐れがあることから、様々なリーチ式フォークリフトの転倒(横転)防止方法・装置が提案されている。
【0003】
特許文献1に開示されている、転倒(横転)防止装置を備えたリーチ式フォークリフトについて説明する。
この特許文献1に開示されているリーチ式フォークリフトは、後方の本体部及び本体部から前方に突出された左右一対のアウトリガー部を有する車両本体と、車両本体のアウトリガー部に前後方向で設けられたガイド溝に移動可能に案内される荷役装置とを有しており、荷役装置は、両側面にガイド溝に案内される前後一対のガイドローラが夫々設けられた移動体と、移動体に昇降自在に設けられた荷物保持用のフォーク部とから構成されている。そして、転倒(横転)防止装置として、フォーク部の高さを検出するリミットスイッチと、フォーク部に作用する荷重を検出する圧力計及び荷重演算部と、これらリミットスイッチの検出信号と荷重演算部により演算された荷重(フォーク部に作用する荷重)に基づいて、荷役装置の前後方向における移動速度(リーチ速度)と車両本体の走行速度(車速)とを制限する速度制御部を備えている。
【0004】
上記構成により、荷物をフォーク部に載置して上昇させると、フォーク部に作用する荷重による油圧が圧力計で検出され、この油圧に基づいて上記荷重が荷重演算部で算出されて、速度制御部に入力される。一方、フォーク部がリミットスイッチに接触することにより、フォーク部の揚高が検出されて、速度制御部に入力される。この速度制御部では、上記荷重および揚高に基づいて、荷役装置のリーチ速度と車速が制限され、リーチ速度および車速は、揚高が高いほど遅くされ、さらに、荷重が大きいほど一層遅くされる。
【0005】
このように、揚高および荷重に応じてリーチ速度および車速を適切に制限することにより、転倒することなく、迅速且つ安全に高揚高での荷役作業を行うことを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−132002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のリーチ式フォークリフトの転倒防止装置では、揚高および荷重に応じてリーチ速度および車速を適切に制限することにより転倒を防止しているが、このような速度の制限だけでは、その制限の度合いによって転倒の恐れがあり、また速度の制限により、結果として転倒の恐れを回避しているのであって、直接的には転倒そのものの防止をしているわけではなかった。また電気的に対応しているため、電線のショート等により速度を落すこと(減速すること)ができない事態が発生し、転倒してしまう恐れがあった。
【0008】
また転倒防止装置は、リミットスイッチと、圧力計及び荷重演算部と、速度制御部(コントローラ)から構成され、速度の制限を速度制御部(コンピュータ)に依存しているため、装置として複雑で、コストが高く、メンテナンスにも時間がかかる恐れがあった。
【0009】
そこで、本発明は、転倒を電気的ではなく機械的に確実に100%防止でき、さらに簡単な構成で部品点数が少なく、低コスト化を図ることができ、メンテナンス性を向上できるリーチ式フォークリフトの転倒防止装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述した目的を達成するために、本発明のうち請求項1に記載の発明は、後部の本体部およびこの本体部から前方へ突出された左右一対のアウトリガー部を有する車両本体と、前記各アウトリガー部にそれぞれ前後方向に設けられた溝に沿って前後移動するマスト部およびこのマスト部に沿って昇降し荷を載置するフォーク部を有する荷役装置とを備え、前記車両本体の本体部に操舵可能な駆動輪を設け、前記車両本体の各アウトリガー部の前端部にそれぞれ従動輪を設け、これら前記従動輪および駆動輪に支持されて走行するリーチ式フォークリフトにおける転倒防止装置であって、
前記荷役装置のマスト部が後方へ移動し格納状態となると、前記車両本体の左右一対のアウトリガー部の底部あるいは底部付近より、走行面の近くまで下降され、前記マスト部が前方へ移動し突出状態となると、前記アウトリガー部の底部あるいは底部付近まで戻される左右一対の車体支持体を備え、
前記左右一対の車体支持体はそれぞれ、前記左右一対のアウトリガー部の底部あるいは底部付近で、前記マスト部が前記格納状態となった位置より後方に配置されており、前記左右一対の車体支持体が走行面の近くまで下降されているとき、前記車両本体が左右方向へ傾くと、前記車体支持体が走行面へ接地し、前記車両本体を支持する構成としたことを特徴とするものである。
【0011】
上記構成によれば、マスト部が後方へ移動し格納状態となると、左右一対の車体支持体は下降されて走行面近くまで下降され、この状態で、車両本体が左右方向へ傾くと、車体支持体が走行面へ接地して車両本体が支持される。このとき、車体支持体の走行面への接地位置は、車体支持体がアウトリガー部の底部あるいは底部付近で、マスト部が格納状態となった位置より後方に配置されていることにより、車両本体の傾いた側の略中心に位置し、よって、効果的に、それ以上の傾きが阻止され、その結果、車両本体の転倒が、電気的ではなく機械的に確実に100%防止される。
【0012】
またマスト部が前方へ移動し突出状態となると、車体支持体は前記アウトリガー部の底部あるいは底部付近まで戻される。また、リーチ式フォークリフトの横安定性が確保される重心位置の領域は、左右の従動輪と駆動輪により形成される三角形の範囲であることから、マスト部が前方へ移動し重心位置が左右の従動輪側へ移動しても、左右に横安定性が確保される安定領域が広くあるために、左右方向へ倒れる恐れは小さい。
【0013】
また請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明であって、前記車体支持体を、前記アウトリガー部の底部あるいは底部付近より走行面に下降し、前記アウトリガー部の底部あるいは底部の付近へ戻す駆動機構として、一端に、前記車体支持体を左右方向に向けて支持する支持部材と、前記支持部材を上下方向に回転自在に支持する固定部材と、前記支持部材を上方へ付勢し、前記車体支持体をアウトリガー部の底部あるいは底部の付近に位置させる付勢部材と、前記マスト部の後部に前記支持部材に対向して配置され、前記マスト部が後方へ移動すると、前記支持部材に作用してこの支持部材を前記付勢部材の付勢力に抗して下方へ回動させ、マスト部が前方へ移動すると、支持部材より外れて支持部材を付勢部材により上方へ回動させる駆動手段を備えることを特徴とするものである。
【0014】
上記構成によれば、マスト部が後方へ移動すると、駆動手段により付勢部材の付勢力に抗して支持部材が下方へ回動されることにより、この支持部材に支持される車体支持体は、アウトリガー部の底部あるいは底部付近より走行面近くへ下降され、またマスト部が前方へ移動すると、駆動手段は支持部材より外れ、支持部材は付勢部材により上昇されアウトリガー部の底部あるいは底部付近へ戻される。また、支持体の駆動機構は、支持部材、左右一対の固定部材、付勢部材、駆動手段の簡単な部品で構成されることにより、メンテナンス性がよく、また部品点数が少ないため低コスト化が図られる。
【0015】
また請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明であって、前記車体支持体は、前記支持部材に水平に固定された棒状の部材、あるいは前記支持部材に水平かんに支持された板状の部材、あるいは前記支持部材に水平に支持された、第1板材とこの第1板材の前後端下方にそれぞれ垂設された第2板材から形成される部材からなることを特徴とするものである。
【0016】
上記構成によれば、車体支持体が、アウトリガー部の底部あるいは底部付近より走行面近くへ下降されると、車体支持体が棒状の部材のとき、部材の外周の円弧部が走行面に接して車両本体が支持され、また車体支持体が板状の部材のとき、部材の1面の面全体が走行面に接して車両本体が支持され、車体支持体が第1板材と第2板材からなる部材のとき、部材の前後の第2板材がそれぞれ走行面に接して車両本体が支持される。
【0017】
また請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の発明であって、前記荷役装置のマスト部が格納状態となったことを検出する検出手段を備え、前記検出手段により前記マスト部の格納状態が検出されると、前記駆動輪の駆動による走行速度を制限することを特徴とするものである。
【0018】
上記構成によれば、マスト部が格納状態となると、リーチ式フォークリフトの左右方向の横安定性が確保される重心位置の領域が狭くなるために、急加速や急旋回により横安定性が脅かされる恐れがあるが、検出手段によりマスト部の格納状態が検出されると、駆動輪の駆動による走行速度が制限されることにより解消される。
【発明の効果】
【0019】
本発明のリーチ式フォークリフトの転倒防止装置は、マスト部が後方へ移動し格納状態となると、左右一対の車体支持体は下降されて走行面近くまで下降され、この状態で、車両本体が左右方向へ傾くと、車体支持体が走行面へ接地して車両本体を支持され、このとき車体支持体の走行面への接地位置が、車両本体の傾いた側の略中心に位置することによって、効果的にそれ以上の傾きが阻止されることにより、車両本体の転倒を、電気的ではなく機械的に確実に100%防止できる、という効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態における転倒防止装置を備えたリーチ付ウォーキーフォークリフトの斜視図である。
【図2】同リーチ付ウォーキーフォークリフトの側面構成図である。
【図3】同リーチ付ウォーキーフォークリフトの平面構成図である。
【図4】同リーチ付ウォーキーフォークリフトの転倒防止装置の斜視図である。
【図5】同リーチ付ウォーキーフォークリフトの転倒防止装置のリーチアウト状態における動作説明図であり、リーチアウト時の(a)は側面概略図、(b)は平面概略図である。
【図6】同リーチ付ウォーキーフォークリフトの転倒防止装置のリーチイン状態における動作説明図であり、リーチイン時の(a)は側面概略図、(b)は平面概略図である。
【図7】本発明の他の実施の形態における転倒防止装置を備えたリーチ付フォークリフトの側面構成図である。
【図8】本発明の他の実施の形態における転倒防止装置の車体支持体の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の実施の形態における転倒防止装置を備えたハンド式のリーチ付ウォーキーフォークリフトの斜視図、図2は同リーチ付ウォーキーフォークリフトの側面構成図、図3は同リーチ付ウォーキーフォークリフトの平面構成図である。
【0022】
図1〜図3に示すように、ハンド式のリーチ付ウォーキーフォークリフト(リーチ式フォークリフトの一例)11は、後部の本体部12およびこの本体部12から前方へ突出された左右一対のアウトリガー部13を有する車両本体14と、前記アウトリガー部13に前後方向に設けられたレール部(溝の一例)16に沿って前後移動するマスト部17およびこのマスト部17に沿って昇降し荷を載置するフォーク部18を有する荷役装置19とを備えている。
【0023】
また車両本体14の本体部12の中央には、駆動輪で操舵可能な一輪のドライブホイール21が設けられ、車両本体14の各アウトリガー部13の前端部にはそれぞれ固定輪であるトレールホイール(従動輪)22が設けられ、これらドライブホイール21およびトレールホイール22に支持されてリーチ付ウォーキーフォークリフト11は走行面23上を走行する。
【0024】
また一対のアウトリガー部13間で、その後部(本体部12側)上には、油圧装置24が備えられ、この油圧装置24から供給される圧油により伸縮しマスト部17を前後に移動するリーチシリンダ25が設けられている。またマスト部17には、油圧装置24からホース26を介して供給される圧油により伸縮しフォーク部18を昇降するリフトシリンダ27が設けられている。
【0025】
また本体部12上の前側には、バッテリ、油タンクおよびバッテリの充電コントローラ(いずれも図示せず)を収納したバッテリ・油タンクボックス28が設けられ、その後方に制御ボックス30が配置されている。
【0026】
この制御ボックス30の上部には、マスト部17を前後に移動操作する前後操作レバー32とフォーク部18を昇降操作する昇降操作レバー33が配置され、内部に、前後操作レバー32の操作に応じてリーチシリンダ25を駆動する油圧機構と、昇降操作レバー33の操作に応じてリフトシリンダ27を駆動する油圧機構(いずれも図示せず)が設けられている。
【0027】
またドライブホイール21の上方を覆うカバー体36が設けられ、カバー体36の内部に、ドライブホイール21の駆動モータ37およびドライブホイール21の向き左右方向に回動する操舵装置38が配置され、カバー体36の後方に、これらドライブホイール21の駆動モータ37および操舵装置38を操作するバーハンドル形態のハンドル装置39が配置されている。またこのハンドル装置39のハンドフレーム40が垂直な姿勢のときドライブホイール21のブレーキがかかり、ハンドフレーム40が後方へ倒されることでブレーキが解除され、ハンドル装置39のスイッチ(図示せず)により前後走行が指示され、ハンドル装置39の向きにより左右旋回が指示される。
【0028】
またハンドル装置39には運転キー部(図示せず)が設けられ、運転キーが差し込まれ操作されると、バッテリ・油タンクボックス28内のバッテリから油圧装置24へ給電され、圧油がリーチシリンダ25とリフトシリンダ27へ供給可能とされ、また前記バッテリからドライブホイール21の駆動モータ37および操舵装置38へ給電可能とされる。
【0029】
このような構成により、ハンドル装置39には運転キー部に運転キーが差し込まれて操作され、ハンドフレーム40が後方へ倒され、ハンドル装置39が操作されると、ドライブホイール21の駆動モータ37と操舵装置38が駆動されて、リーチ式ウォーキーフォークリフト11は前後走行または左右旋回される。またハンドフレーム40が垂直な姿勢に戻されるとブレーキがかかる。
【0030】
また停止した状態で、前後操作レバー32が操作されると、リーチシリンダ25が油圧により駆動されて、マスト部17は、アウトリガー部13に前後方向に設けられたレール部16に沿って前後移動し、また昇降操作レバー33が操作されると、リフトシリンダ27が油圧により駆動されて、フォーク部18は、マスト部17に沿って昇降する。
【0031】
上記リーチ式ウォーキーフォークリフト11の走行(前後走行または左右旋回)の動作、マスト部17の前後移動の動作、およびフォーク部18の昇降の動作を組合せることにより、荷の搬送が実行される。なお、リーチ式ウォーキーフォークリフト11が走行するとき、マスト部17はリーチイン状態(マスト部17が後方へ移動した格納状態)とされ、フォーク部18は可能な限り低い位置まで下降される。
【0032】
以下、本発明の要部である転倒防止装置を構成する左右一対の転倒防止機構41について説明する。
リーチ式ウォーキーフォークリフト11の安定性が確保される重心位置の領域Sは、図5(b)と図6(b)に2点鎖線で示すように、左右のトレールホイール22とドライブホイール21により形成される三角形の範囲である。
【0033】
図5(b)に示すように、マスト部17が前方へ移動し重心位置Gが左右のトレールホイール22側へ移動したときには、重心位置Gから左右方向の上記領域Sの転角(傾けても横転しない安定角度)のライン(転角ライン)Xまでの最短の距離(以下、安定距離と称す)Lは、左右方向には安定領域(横安定性が確保される領域)が広くあるために長くなり(安定角度は大きな角度となり)、左右方向への揺れ(力)が、例えば急加速や急旋回により発生しても、左右方向へ転倒する恐れは小さい。
【0034】
しかし、フォーク部18に荷を搭載し、リーチイン状態となると、すなわち図6(b)に示すように、重心位置Gが後方へ移動すると、安定距離Lは、左右方向の安定領域が狭くなるために短くなり(安定角度は小さな角度となり)、左右方向への揺れ(力)が発生すると、左右方向へ転倒する恐れ(横安定性が脅かされる恐れ)が発生する。そこで、フォーク部18に荷を搭載し、且つリーチイン状態となったときに、左右方向への転倒を確実に防止し、横安定性を確実に確保する目的で、左右一対の転倒防止機構41を設けている。
【0035】
各転倒防止機構41はそれぞれ、左右の各アウトリガー部13に沿ってその内側に、本体部12より前方で、且つマスト部17のリーチイン位置(マスト部17が格納状態となったとき位置)より後方に配置されている。
【0036】
各転倒防止機構41は、図4に詳細に示すように、第1支持部材(車体支持体の支持部材)42と、第1支持部材42の前端に一端が固定され、左右の外方に向けて水平に支持された車体支持体(スキッダ)43と、後端が油圧装置24の下面に固定され、前端において第1支持部材42を上下方向に回転自在に支持する左右一対の固定部材44と、第1支持部材42を前方へ付勢するバネ体(付勢部材の一例)47と、第1支持部材42をバネ体47に抗して下方へ駆動する駆動手段48から構成されている。
【0037】
前記車体支持体43は、アウトリガー13の左右方向の外端に延びる長さの棒体(棒状の部材)であり、駆動手段48により第1支持部材42が駆動されていないとき、バネ体47によりアウトリガー13の底面(底部)13aに接触し保持されている。
【0038】
またマスト部17がリーチイン状態となったことを検出するリミットスイッチ(検出手段の一例)49を設けている。
前記駆動手段48は、それぞれマスト部17の後部に、第1支持部材42に対向して配置されており、マスト部17の下部後端に固定された左右一対の第2支持部材53と、これら第2支持部材53の後端に、左右方向の水平軸54aが前後方向に回転自在に支持された駆動輪54から構成されている。
【0039】
前記第2支持部材53の上面53aは、前方から後方(本体部12側)に向かって下方へ傾斜された傾斜面に形成され、駆動輪54の外周の回転面が、この上面53aから上方へ表れ、さらに後方(本体部12側)へ表れ、さらに第2支持部材53の下面53bから下方に表れるように、駆動輪54は第2支持部材53の後端に取り付けられている。
【0040】
したがって、マスト部17が後方へ移動すると、それに伴って、駆動手段48の駆動輪54が支持部材42の上部前端に接触し、支持部材42の上面に沿って案内され、バネ体47に抗して支持部材42が下方へ徐々に回動され、マスト部17がリーチイン位置に移動すると、車体支持体43が走行面23近くまで下降される。またマスト部17が前方へ移動すると、駆動輪54は支持部材42の先端側へ移動し支持部材42はバネ体47の付勢力により上方へ徐々に回動し、駆動輪54が外れると、車体支持体43はアウトリガー13の底面13aに接地して保持される。
【0041】
上記転倒防止機構41の構成により、図5に示すように、マスト部17が前方へ移動しリーチアウト状態(マスト部17が前方へ移動した突出状態)のとき、左右一対の車体支持体43は、車両本体14の左右一対のアウトリガー部13の底面13aに接触し、上方に格納された状態とされている。このとき、重心位置Gは前方へ移動しており、左右に横安定性が確保される安定領域が広くあるために、安定距離Lは長く、左右方向へ転倒(横転)する恐れは小さい。
【0042】
そして、図6に示すように、マスト部17が後方へ移動すると左右一対の車体支持体43はアウトリガー部13の底面13aより徐々に下降し、リーチイン状態となると、左右一対の車体支持体43は走行面23の近くまで下降される。このとき、重心位置Gは後方へ移動し、上記領域Sにおいて左右方向の幅が狭い領域へ移動して安定距離L’は短くなるため、左右方向への揺れ(力)が、例えば急加速や急旋回により発生すると、横安定性が脅かされ車両本体14が横方向に姿勢が傾く。しかし、車両本体14が横方向に傾いても、車体支持体43(部材の外周の円弧部)が走行面23に接地して車両本体14が支持される。このとき車体支持体43の接地位置は、車体支持体43がアウトリガー部13に沿ってその内側に、本体部12より前方で、且つマスト部17のリーチイン位置より後方に配置されていることによって、車両本体14の傾いた側の略中心に位置することにより、効果的にそれ以上の傾きが阻止され、よって車両本体14の転倒が、電気的ではなく機械的に確実に100%防止される。
【0043】
上記のように左右一対の車体支持体43が接地するような状態では、リーチ式ウォーキーフォークリフト11の安定性が確保される重心位置の領域Sは、図6(b)に2点鎖線で示すように、左右のトレールホイール22と一対の車体支持体43とドライブホイール21により形成される五角形の範囲となり、重心位置Gと左右方向の領域Sの転角ラインXまでの最短の距離、すなわち安定距離Lは、安定距離L’と比較して長くなり、車両本体14の横安定性が保証される。
【0044】
またリミットスイッチ49によりマスト部17のリーチイン状態が検出されると、ドライブホイール21の駆動による走行速度が、ハンドル装置39のスイッチの操作に関らず所定の低速速度以下に制限される。
【0045】
以上のように本実施の形態によれば、マスト部17が後方へ移動しリーチイン状態となると、左右一対の車体支持体43は下降されて走行面23近くに配置されることにより、車両本体14が横方向に傾いても、車体支持体43が走行面23に接して車両本体14が支持され、このとき車体支持体43の接地位置が、車両本体14の傾いた側の略中心に位置することにより、効果的にそれ以上の傾きが阻止されることにより、車両本体14の転倒を電気的ではなく機械的に確実に100%防止でき、このとき、重心位置Gから左右方向の領域Sの転角ラインXまでの最も短い安定距離Lは、転倒防止機構41を有していない従来の安定距離L’と比較して長くなり、車両本体14の横安定性を保証することができる。
【0046】
またマスト部17が前方へ移動しリーチアウト状態となると、左右一対の車体支持体43はアウトリガー部13の底面13aに接するように戻されることにより、走行時に車体支持体43が走行面23に接地して車両本体14が傾いたり、振動したりして、フォーク部18により荷が落下するなどの恐れを回避することができる。
【0047】
また本実施の形態によれば、リミットスイッチ49によりマスト部17のリーチイン状態が検出されると、ドライブホイール21の駆動による走行速度が制限されることにより、横安定性を確保できる。すなわち、リーチイン状態では、リーチ式ウォーキーフォークリフト11の横安定性が確保される重心位置の領域が狭くなるために、急加速や急旋回により横安定性が脅かされる恐れがあるが、走行速度を制限されることによりその恐れを小さくできる。
【0048】
また本実施の形態によれば、転倒防止機構41は、車体支持体43、支持部材42、固定部材44、バネ体47、駆動手段43の簡単な部品で構成されることにより、メンテナンス性がよく、また、部品点数が少ないため低コスト化を図ることができる。
【0049】
なお、本実施の形態では、リーチ式フォークリフトを、ハンド式のリーチ付ウォーキーフォークリフト11としているが、ハンド式に限ることはなく、図7に示すように、マスト部17がアウトリガー部13のレール部(図示せず)に沿って前後方向に移動するリーチ式のフォークリフトであればよい。
【0050】
図7に示すリーチ式フォークリフト56は、上記ハンドル装置39に代えて、本体部12に、作業者の乗降部を有する運転操作部57を備えており、運転操作部57に、アクセルレバー、マスト部17のリーチレバー、フォーク部18の昇降用リフトレバーなどの操作レバー装置58が配置され、ステアリングハンドル59が設けられ、上記転倒防止機構41(転倒防止装置)が設けられている。
【0051】
このように、転倒防止装置を備えることにより、作業者が乗車して操作レバー装置58のリーチレバーによりマスト部17をリーチイン位置へ退入させ、車体支持体43を走行面23近くに降ろすことにより、旋回時に横転することを防止することができる。
【0052】
また本実施の形態では、マスト部17が前方へ移動しリーチアウト状態となると、左右一対の車体支持体43を、アウトリガー部13の底面13aに接するように戻しているが、必ずしもアウトリガー部13の底面13aに接するように戻す必要はなく、底面13aの付近(底部付近)まで戻すことができればよい。
【0053】
また本実施の形態では、車体支持体43を棒体(棒状の部材)により形成しているが、走行面23に接地すると車両本体14を支持できる形状であればよい。例えば、図8(a)に示すように、板状の部材61bからなり、前後端に姿勢を水平に維持する錘61cを取り付けた車体支持体61、あるいは図8(b)に示すように、第1板材62bとこの第1板材62bの前後端下方にそれぞれ垂設された第2板材62cとから形成される車体支持体62としてもよい。このとき、車体支持体61は、車体支持体61の中心に設けた水平回転軸61aが回転自在に支持部材42に水平に支持され、部材61bの1面の面全体が走行面23に接することにより車両本体14が広い面積で安定して支持され、また車体支持体62は、車体支持体62の中心に設けた水平回転軸62aが回転自在に支持部材42に水平に支持され、前後の第2板材62cがそれぞれ走行面23に接することにより車両本体14が確実に支持される。
【符号の説明】
【0054】
11 リーチ付ウォーキーフォークリフト
12 本体部
13 アウトリガー部
13a アウトリガー部の底面
14 車両本体
16 レール部
17 マスト部
18 フォーク部
19 荷役装置
21 ドライブホイール
22 トレールホイール
23 走行面
25 リーチシリンダ
27 リフトシリンダ
32 前後操作レバー
33 昇降操作レバー
37 駆動モータ
38 操舵装置
39 ハンドル装置
41 転倒防止機構
42 第1支持部材
43,61,62 車体支持体
44 固定部材
47 バネ体
48 駆動手段
49 リミットスイッチ
53 第2支持部材
54 駆動輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
後部の本体部およびこの本体部から前方へ突出された左右一対のアウトリガー部を有する車両本体と、前記各アウトリガー部にそれぞれ前後方向に設けられた溝に沿って前後移動するマスト部およびこのマスト部に沿って昇降し荷を載置するフォーク部を有する荷役装置とを備え、前記車両本体の本体部に操舵可能な駆動輪を設け、前記車両本体の各アウトリガー部の前端部にそれぞれ従動輪を設け、これら前記従動輪および駆動輪に支持されて走行するリーチ式フォークリフトにおける転倒防止装置であって、
前記荷役装置のマスト部が後方へ移動し格納状態となると、前記車両本体の左右一対のアウトリガー部の底部あるいは底部付近より、走行面の近くまで下降され、前記マスト部が前方へ移動し突出状態となると、前記アウトリガー部の底部あるいは底部付近まで戻される左右一対の車体支持体
を備え、
前記左右一対の車体支持体はそれぞれ、前記左右一対のアウトリガー部の底部あるいは底部付近で、前記マスト部が前記格納状態となった位置より後方に配置されており、
前記左右一対の車体支持体が走行面の近くまで下降されているとき、前記車両本体が左右方向へ傾くと、前記車体支持体が走行面へ接地し、前記車両本体を支持する構成としたこと
を特徴とするリーチ式フォークリフトの転倒防止装置。
【請求項2】
前記車体支持体を、前記アウトリガー部の底部あるいは底部付近より走行面に下降し、前記アウトリガー部の底部あるいは底部の付近へ戻す駆動機構として、
一端に、前記車体支持体を左右方向に向けて支持する支持部材と、
前記支持部材を上下方向に回転自在に支持する固定部材と、
前記支持部材を上方へ付勢し、前記車体支持体をアウトリガー部の底部あるいは底部の付近に位置させる付勢部材と、
前記マスト部の後部に前記支持部材に対向して配置され、前記マスト部が後方へ移動すると、前記支持部材に作用してこの支持部材を前記付勢部材の付勢力に抗して下方へ回動させ、マスト部が前方へ移動すると、支持部材より外れて支持部材を付勢部材により上方へ回動させる駆動手段
を備えること
を特徴とする請求項1に記載のリーチ式フォークリフトの転倒防止装置。
【請求項3】
前記車体支持体は、前記支持部材に水平に固定された棒状の部材、あるいは前記支持部材に水平に支持された板状の部材、あるいは前記支持部材に水平に支持された、第1板材とこの第1板材の前後端下方にそれぞれ垂設された第2板材から形成される部材からなること
を特徴とする請求項1または請求項2に記載のリーチ式フォークリフトの転倒防止装置。
【請求項4】
前記荷役装置のマスト部が格納状態となったことを検出する検出手段を備え、
前記検出手段により前記マスト部の格納状態が検出されると、前記駆動輪の駆動による走行速度を制限すること
を特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のリーチ式フォークリフトの転倒防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−103805(P2013−103805A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−249207(P2011−249207)
【出願日】平成23年11月15日(2011.11.15)
【出願人】(000003241)TCM株式会社 (319)
【Fターム(参考)】