説明

ルシフェラーゼ結合性アプタマー

【課題】B/F分離の操作をすることなく、疾病マーカーを簡便・迅速・高感度に検出するための手段を提供する。
【解決手段】特定の塩基配列を有し、ルシフェラーゼに結合する新規なアプタマー分子、特に、ルシフェラーゼに結合すると共に、ルシフェラーゼの酵素活性を抑制する新規なアプタマー分子。AES(Aptameric Enzyme Subunit)の酵素制御アプタマーとしても採用し得るルシフェラーゼ結合性アプタマー。ルシフェラーゼ活性を制御できるアプタマーと、疾病マーカー等の所望の標的物質を認識する他のアプタマーとを組み合わせた、ルシフェラーゼの発光を利用した非常に高感度な検出系。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルシフェラーゼに結合するアプタマーに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な疾病の早期診断・早期治療を行う上で、疾病マーカーとなるタンパク質等の検出は極めて重要である。現在、最も一般的にこのような疾病マーカーを検出する技術として用いられているのが、抗体を利用したELISA(Enzyme Linked Immunosorbent Assay)である。ELISA法とは、サンプル中に含まれる微量の目的物質を、酵素標識した抗体または抗原を用い、抗原抗体反応を利用して定量的に検出する方法である。ELISA法は(1)目的物質を1 attomole(=10の18乗分の1モル)という高感度で検出することができ、定量性にも優れている、(2)抗原抗体反応を利用して検出するため粗抽出段階で測定が可能であり、試料の調製に関しては、他の検査法で必要とされる精製や前処理といった煩雑なステップを必要としない、(3)短時間で大量のサンプルを測定できる、などのメリットがある。
【0003】
しかしながら、ELISAには次のような問題点がある。まず、一点目として、抗体は標的と結合した際に信号発信を行わないので、標的分子の異なる箇所に結合する二種類の抗体が必要となる点である。一つの標的分子の異なる箇所に結合する二種類の抗体を作製することは難しく、また抗体はそもそも作製に時間と労力がかかり、値段も高価である。二点目としては、一つの抗体に酵素などの分子を修飾することで信号発信を行うので、標的分子に結合しなかった抗体を除去する、煩雑なB/F分離の操作が必須な点である。
【0004】
疾病を早期治療するためには、早期診断が必須であり、その為には採取した血液をその場で測定することが可能な簡便・迅速な検出システムが求められる。しかし、ELISAでは分離操作が必要であるため、その分時間がかかり、迅速な系とは言えない。
【0005】
一方、任意の分子と特異的に結合するオリゴヌクレオチドであるアプタマーが知られている。アプタマーは、市販の核酸合成機を用いて化学的に全合成できるので、特異抗体に比べてはるかに安価であり、修飾が容易であるため、センシング素子としての応用が期待されている。所望の標的分子と特異的に結合するアプタマーは、SELEX (Systematic Evolution of Ligands by EXponential Enrichment)と呼ばれる方法により作出可能である(非特許文献1)。この方法では、標的分子を担体に固定化し、これに膨大な種類のランダムな塩基配列を有する核酸から成る核酸ライブラリを添加し、標的分子に結合する核酸を回収し、これをPCRにより増幅して再び標的分子を固定化した担体に添加する。この工程を10回程度繰り返すことにより、標的分子に対して結合力の高いアプタマーを濃縮し、その塩基配列を決定して、標的分子を認識するアプタマーを取得する。なお、上記核酸ライブラリーは、核酸の自動化学合成装置により、ランダムにヌクレオチドを結合していくことにより容易に調製可能である。このように、ランダムな塩基配列を有する核酸ライブラリーを用いた、偶然を積極的に利用する方法により、任意の標的物質と特異的に結合するアプタマーを作出できる。
【0006】
本願発明者らは、B/F分離の操作が不要な疾病マーカー検出技術として、対象分子を認識する認識アプタマーと、酵素に結合してその酵素の活性に変化を及ぼす酵素制御アプタマーとを連結することで、アプタマーを酵素のサブユニットとして用いたセンシング技術であるAES(Aptameric Enzyme Subunit)を構築している(特許文献1、2)。検出原理は、測定対象の分子が存在した場合、その分子が認識アプタマーに結合することで、これに連結されている酵素制御アプタマーの構造に変化が生じ、その結果AES中に含まれる酵素の活性に変化が生じるので、その活性の変化を測定することにより対象分子を検出するというものである。この検出法の利点として、ELISAによる検出と異なり、標的分子の結合を直接、酵素活性のシグナルとして検出するため、B/F分離を必要としない、迅速で簡便な検出が可能である点が挙げられる。また、一度、酵素活性を阻害するアプタマーを獲得してしまえば、検出したい標的分子に結合するアプタマーを任意に選択し、様々な標的分子の検出が可能になる。さらに、アプタマーは抗体に比べ、作成が簡単で安価である。
【0007】
ただし、特許文献1及び2に記載のAESは、酵素制御アプタマーとしてトロンビンアプタマーを用いたものであって、標的分子をフィブリン凝固時間の変化により検出するものである。かかる検出方法は、測定に比較的時間がかかるため迅速性に欠けるという欠点がある。
【0008】
以上のように、安価で迅速な検出技術を提供するためには、AESにおいて酵素活性の測定を容易にすることが課題となっている。すなわち、活性の測定が容易な酵素を制御するアプタマーを創製することが課題となっている。
【0009】
しかしながら、アプタマーの創製方法は、上記した通り偶然を積極的に利用する方法であるので、標的物質に対して高い結合能を有するアプタマーが得られるかどうかは、実際に膨大な実験を行なってみなければわからない。特に、AESを構築する場合、酵素制御アプタマーとしては、センシング素子として利用する酵素との結合能を有し、かつ、結合した酵素の活性を阻害又は上昇させる能力が高いアプタマーを創製しなければならないため、AESの酵素制御アプタマーに利用し得るアプタマーを取得することは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開WO2005/049826号公報
【特許文献2】国際公開WO2007/032359号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Tuerk, C. and Gold L. (1990), Science, 249, 505-510
【非特許文献2】Kazunori Ikebukuro et al., Nucleic Acids Research, 2005, Vol.33, No.12 e108
【非特許文献3】Kazunori Ikebukuro et al., Biotechnol Lett (2006) 28:1933-1937
【非特許文献4】Takashi Noma et al., Biochemical and Biophysical Research Communications 347 (2006) 226-231
【非特許文献5】Hasegawa et al., Sensors 2008, 8, p.1090-1098; Muller et al., Chembiochem. 2007, 8, p.2223-2226
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明の目的は、B/F分離の操作をすることなく、疾病マーカー等の所望の測定対象物を簡便・迅速・高感度に検出し得る手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは、AESに適用する酵素としてルシフェラーゼに着目し、鋭意研究の結果、ルシフェラーゼへの結合能を有するアプタマーを新規に取得した。さらに、該アプタマーの中から、ルシフェラーゼの活性を望ましく阻害できるアプタマーを見出し、本願発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明は、以下のいずれかのポリヌクレオチドから成り、ルシフェラーゼと結合する能力を有するアプタマーを提供する:
(a) 配列番号4ないし24のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチド、
(b) (a)のポリヌクレオチドにおいて1個又は十数個の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリヌクレオチド、
(c) (a)又は(b)のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
また、本発明は、の複数のアプタマー同士を交差及び/又はシャッフルする工程と、得られたアプタマーのうち、ルシフェラーゼと結合する能力を有するアプタマーを選択する工程を含む、ルシフェラーゼと結合する能力を有するアプタマーの作出方法を提供する。さらに、本発明は、該方法により作出されたアプタマーを製造することを含む、ルシフェラーゼ結合性アプタマーの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、AESの酵素制御アプタマーとしても採用し得るルシフェラーゼ結合性アプタマーが初めて提供された。ルシフェラーゼ活性を制御できるアプタマーと、疾病マーカー等の所望の標的物質を認識する他のアプタマーとを組み合わせれば、ルシフェラーゼの発光を利用した非常に高感度な検出系を構築することができる。ルシフェラーゼの酵素活性は、基質との反応により生じる発光を市販のルミノメーター等の発光検出器を用いて測定することにより、容易に測定することができるので、迅速な検出が可能になる。アプタマーはDNA合成機を用いて化学的に合成することができるため、抗体に比べると作製に労力がかからず、費用も安価であり、測定キットそのものの価格を下げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】スクリーニングにより取得したssDNAのうち、二次構造が安定していると考えられる24種類のssDNAについて、アプタマーブロッティングによりルシフェラーゼへの結合能を調べた結果を示す図である。
【図2】アプタマーLap 1-6の濃度を変えてルシフェラーゼ阻害効果を調べた結果を示す図である。
【図3】ルシフェラーゼ活性阻害能が高いアプタマーLap 1-6の二次構造図である。
【図4】ルシフェラーゼ活性阻害能が高いアプタマーLap 1-20の二次構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
ルシフェラーゼは、ホタルなどの生物発光を触媒する酵素の総称であり、遺伝子発現アッセイ等のレポーター遺伝子として一般的に用いられている。ルシフェリン/ルシフェラーゼ反応は大きく二段階に分けることができ(T. Nakatsu, S Ichiyama, J Hiratake, A Saldanha, N Kobashi, K Sakata, H Kato: Structural basis for the spectral difference in luciferase bioluminescence. Nature. 2006 Mar 16;440(7082):372-6)、第一段階では、ルシフェラーゼの中で、発光基質ルシフェリンがMg2+存在下ATPと反応してルシフェリルAMP中間体が生成する。続く第二段階で、ルシフェリルAMP中間体と酸素分子が反応し、励起状態のオキシルシフェリンとCO2に分解する。ルシフェラーゼと結合した励起状態のオキシルシフェリンが基低状態に戻る時に562nmの光を発する。従って、公知のルミノメーター等の発光検出器を用いてこの発光量を測定することにより、該発光量を指標としてルシフェラーゼの活性を測定することができる。ルシフェラーゼをレポーターとして用いる検出系では、この反応を利用するため、通常、基質となるルシフェリン、およびATP、Mgの添加が必要となる。また、酵素活性は発光量を指標に測定するため、ルミノメーター等の発光検出器が必要である。なお、ルシフェラーゼを利用するアッセイ系自体は既に周知であり、そのようなアッセイ系に好ましく用いることができる、ルシフェラーゼ基質を含む試薬も、種々のものが市販されている。
【0018】
本発明のアプタマーは、ルシフェラーゼと結合する能力を有するものであり、下記いずれかのポリヌクレオチドから成る(consists essentially of)。
(a) 配列番号4ないし24のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチド。
(b) (a)のポリヌクレオチドにおいて1個ないし十数個(最大19個)、好ましくは1個又は数個(最大9個)、さらに好ましくは1個又は2個の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリヌクレオチド。
(c) (a)又は(b)のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
なお、「塩基配列を有する」とは、そのポリヌクレオチドにおいて塩基がその配列で並んでいることを意味し、例えば、ポリヌクレオチドが「配列番号4に示す塩基配列を有する」とは、そのポリヌクレオチドにおいて、その塩基が、配列番号4に示される配列で並んでいる66個の塩基から構成されるという意味である。
【0019】
ポリヌクレオチドは、DNAでもRNAでもよく、またPNA等の人工核酸でもよいが、安定性の観点からDNAが好ましい。
【0020】
配列番号4ないし24に示す塩基配列は、30merのランダム領域を含むssDNAライブラリー(配列番号1)のスクリーニングにより得られたssDNAのうち、アプタマーブロッティング法による結合能評価において、配列番号1のイニシャルライブラリーよりもルシフェラーゼへの結合能が高かったssDNAの塩基配列である(下記実施例参照)。これらのアプタマーが所定の条件下(フォールディング条件下)で形成する立体構造は、コンピューターを用いた常法により容易に決定することができる。核酸の立体構造予測に用いられるプログラムは種々のものが公知であり、例えば最近接塩基対法を用いた周知の核酸構造予測プログラムであるm-fold(商品名、Nucleic Acids Res. 31 (13), 3406-15, (2003)、The Bioinformatics Center at Rensselaer and Wadsworth のウェブサイトからダウンロード可能)を利用することができるが、これに限定されない。図3及び図4に、配列番号5及び9に示す塩基配列を有するアプタマーのm-fold(商品名)による二次構造予測図を示す。
【0021】
なお、「フォールディング条件」とは、1分子のアプタマーの一部の相補的な領域同士が分子内で塩基対合して二本鎖から成るステム部を形成する条件であり、公知の通常のアプタマーの使用条件でもある。通常、室温下で、所定の塩濃度を有し、所望により界面活性剤を含む水系緩衝液中である。例えば、下記実施例で採用したTBS(10 mM Tris/HCl, pH 7.0, 100 mM NaCl)やTBST(0.05% v/v Tween 20を含むTBS)の他、10mM MOPS及び1mM CaCl2を含む水溶液、20mM Tris-HCl及び150mM NaClを含む水溶液などの緩衝液を用いることができ、これらの緩衝液中で95℃程度に加熱して熱変性した後、室温まで徐々に(100μL程度の量であれば30分間程度かけて)冷却することにより、アプタマー分子のフォールディングを行なうことができる。なお、本明細書において、「フォールディングする」という語は、1分子のアプタマーの分子内において相補的な塩基同士を対合させることによりステム部を形成させるという意味の他、後述する分割アプタマーにあっては、分割アプタマーを構成する複数のポリヌクレオチド分子の分子内及び/又は分子間において、相補的な塩基同士を対合させることにより、所期の立体構造を形成させることも包含する。
【0022】
本発明のアプタマーの結合能は、ルシフェラーゼへの結合能がある限り、ルシフェラーゼ以外の他のタンパク質にも結合し得るものであってよいが、ルシフェラーゼへの特異性及び親和性が高く、他のタンパク質への結合が全くないか、あるとしても相対的に無視できるほど少量しか結合しないことが好ましい(以下、このような結合能を「特異的に結合する」と表現することがある)。ルシフェラーゼ結合性アプタマーの特異性及び親和性は、例えば下記実施例に記載されるアプタマーブロッティング法により評価することができる。具体的には、例えば、ルシフェラーゼと、それ以外の任意のタンパク質(競合タンパク質)とを、ニトロセルロース膜等の支持体に常法により固定化し、このタンパク質固定化支持体とアプタマーとをTBS等の適当な緩衝液中で反応させ、ルシフェラーゼと競合タンパク質とのそれぞれにどの程度のアプタマー分子が結合しているかを調べることにより、アプタマーのルシフェラーゼに対する特異性及び親和性を評価することができる。アプタマー分子の結合量は、例えば、アプタマー分子を予めビオチンやFITC等で標識しておき、タンパク質固定化支持体との反応後、該標識物質に対する抗体を用いた常法による免疫測定法により、アプタマー結合量を調べることができる。
【0023】
アプタマーは、その立体構造において、ステム部及びループ部の位置関係及びサイズが等しいものであれば、通常、同様のアプタマー活性(標的分子に対する結合能、及び、標的分子が酵素である場合には酵素制御能)を発揮し得る。例えば、末端から少数の塩基を欠失させても、もとのアプタマー活性を維持し得る。ステム部を形成する塩基については、対合する塩基の位置を相互に入れ替えた塩基配列としてもよいし、また、対合する塩基対を例えばa-t対からg-c対に置き換えてもよい。また、ループ部を形成する塩基については、その位置に同じサイズのループが形成される限り、他の塩基配列を採用してもよい。また、アプタマーの結合能に重要ではない領域であれば、少数の塩基を挿入しても、通常、もとのアプタマーと同様のアプタマー活性を維持し得る。従って、上記(a)のポリヌクレオチドにおいて、1ないし十数個(最大19個、好ましくは1個又は数個(最大9個)、さらに好ましくは1又は2個)の塩基が上記に例示したように置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリヌクレオチド(上記(b)のポリヌクレオチド)から成るアプタマーも、もとの塩基配列を有するアプタマーと同様のアプタマー活性を有する限り、本発明の範囲に包含される。
【0024】
(b)のポリヌクレオチドからなるルシフェラーゼ結合性アプタマーとしては、(a)のポリヌクレオチドの一端又は両端の塩基が1個ないし十数個(好ましくは1個又は数個(最大9個)、さらに好ましくは1個又は2個)欠失したポリヌクレオチドからなるアプタマーが好ましい。一般にアプタマーの一端又は両端の塩基が少数欠失しても元のアプタマーの活性が維持される場合が多い。
【0025】
また、本願発明者らは、ある物質に結合するアプタマーの一部の領域をランダム化し、物質との結合性を指標としてスクリーニングすることにより、元のアプタマーよりも該物質との結合性を高める方法を発明している(非特許文献2〜4)。また、アプタマーが結合する物質が酵素等の活性を有する物質である場合には、該物質に結合するとともに該物質の機能を阻害するアプタマーもこの方法により作出することが可能である。従って、(a)のアプタマー内の一部の領域、好ましくは6個〜十数個(最大19個)の領域の配列をランダム化して物質との結合能や阻害能を指標としてスクリーニングすることにより、もとのアプタマーよりも結合能又は阻害能に優れたアプタマーを作出することが可能である。特に、非特許文献2〜4に具体的に記載されている通り、アプタマーの二本鎖部分を、他の塩基配列で構成される二本鎖(すなわち、二本鎖部分が維持されるように、それぞれ対合する他の塩基対によりその二本鎖領域を形成する)とすることにより、アプタマーの立体構造を変化させることなく、塩基配列を変更することができるので、アプタマーの結合活性を維持したままさらに高い結合能を有していたり阻害能を有するアプタマーが得られる確率が高い。本発明の上記(b)に規定される「1個又は十数個の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリヌクレオチド」にはこのようなポリヌクレオチドも包含される。
【0026】
上記(c)のポリヌクレオチドは、(a)又は(b)のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドである。これには、(a)又は(b)のポリヌクレオチドを連続した部分領域として含むもののみならず、(a)又は(b)のポリヌクレオチドを任意の部位で分断した断片を部分領域として含むポリヌクレオチドも包含される。分断した断片を部分領域として含む場合には、1分子のポリヌクレオチド中に全ての断片が部分領域として含まれていてもよいし、また、複数のポリヌクレオチド分子中に分かれて含まれていてもよい。アプタマーの一端又は両端に任意の塩基配列を付加させても、アプタマー領域においてステム部及びループ部の位置関係及びサイズが等しい限り、同様のアプタマー活性を有し得る。さらに、特許文献2に記載されるように、アプタマーをその標的分子との結合に関与しないループ領域内で分断し、その分断部位に互いに相補な塩基配列をそれぞれ連結させて2分子のポリヌクレオチドを調製しても、これをフォールディングさせて用いると、もとの1分子のポリヌクレオチドから成るアプタマーと同様のアプタマー活性を発揮できることが知られている。従って、本発明のルシフェラーゼ結合性アプタマーも同様に、ループ領域内で分断して、2分子性のアプタマーとして用いることが可能である。なお、上述した通り、ある塩基配列を有するポリヌクレオチドがとる立体構造は、公知のプログラムを用いて常法により容易に知ることができるので、ある塩基配列中でいずれの領域がループ領域となるかは容易に知ることができる。従って、上記(c)のポリヌクレオチドから成るアプタマーも、(a)及び(b)のポリヌクレオチドから成るアプタマーと同様に、本発明の範囲に包含される。
【0027】
(c)のポリヌクレオチドとしては、(a)又は(b)のポリヌクレオチドの一端又は両端に任意の配列が付加されたポリヌクレオチド、及び(a)又は(b)のポリヌクレオチドをループ領域内で2つに分断した断片をそれぞれ含む2分子のポリヌクレオチドが好ましい。中でも、(a)又は(b)のポリヌクレオチドの一端又は両端に任意の配列が付加されたポリヌクレオチドがより好ましい。ただし、本発明のアプタマーをAESの酵素制御アプタマーとして用いる場合には、後者の分断断片をそれぞれ含む2分子のポリヌクレオチドがより好ましい(後述)。(a)若しくは(b)のポリヌクレオチド又はその断片に付加する配列のサイズは、特に限定されないが、全長があまりに長くなるとアプタマー合成の手間とコストがかかる。従って、付加配列のサイズは、通常、合計で40mer以下、好ましくは10mer以下、より好ましくは1〜2mer程度である。アプタマー分子全長のサイズとしては、100mer程度以下であることが好ましい。ルシフェラーゼ結合性アプタマーを分割して複数分子のポリヌクレオチドから成るアプタマーを作成する場合には、各分子のサイズが100mer程度以下であることが好ましい。ただし、付加配列が他のアプタマー配列である場合にはこの限りではなく、付加されるアプタマーの鎖長に応じてサイズが定まる。例えば、本発明のルシフェラーゼ結合性アプタマーを用いてAESを構築する場合には、アプタマー分子のサイズは、AESによる測定対象物を認識するアプタマーの鎖長に応じて100mer以上にもなり得る。
【0028】
また、例えば、アプタマーの結合能を上昇させる手法として、同一の標的分子に対するアプタマーを複数連結する方法が公知である(非特許文献5)。本発明のルシフェラーゼ結合性アプタマーにおいても、上記(a)又は(b)のポリヌクレオチドから成るルシフェラーゼ結合性アプタマー(以下、「モノマー」ということがある)を2個又は3個以上連結することで、ルシフェラーゼへの結合能を上昇させ、好ましくはルシフェラーゼ制御能(後述)も強化することができる。このような連結アプタマーも、上記(c)のポリヌクレオチドから成るアプタマーとして本発明の範囲に包含される。連結アプタマーのサイズは、連結するモノマーの個数に応じて定まり、100mer以上のサイズにもなり得る。
【0029】
ルシフェラーゼは単量体タンパク質なので、連結アプタマーを調製する場合には、ルシフェラーゼタンパク質上の異なる部位に結合するモノマー同士を連結することが好ましい。モノマー同士を直接連結した構造にしてもよいし、所望により例えばアデニンのみ又はチミンのみ(好ましくはチミンのみ)から成るリンカーを介して連結させてもよい。リンカーの鎖長は特に限定されないが、通常は1mer〜30mer程度、特には5mer〜15mer程度である。
【0030】
なお、本発明において、「Xnt」(Xは数字)は、その配列における、5'末端からX番目の塩基を示す。また、「mer」はヌクレオチド数を示す。
【0031】
好ましくは、本発明のルシフェラーゼ結合性アプタマーは、結合したルシフェラーゼの酵素活性を変化させる能力をさらに有する。ここで、「酵素活性を変化させる」とは、アプタマーが結合したルシフェラーゼの酵素活性が、アプタマーが結合していない状態のルシフェラーゼと比較して上昇又は低下することを言い、特に限定されないが、通常は酵素活性が低下することを言う。このようなルシフェラーゼ活性制御能を有するアプタマー(以下、「ルシフェラーゼ制御アプタマー」ということがある)は、公知のAESにおける酵素制御アプタマーとして好ましく採用することができる。アプタマーがルシフェラーゼ活性制御能を有するか否かは、例えば、アプタマーをルシフェラーゼ、基質となるルシフェリン、並びに、ルシフェラーゼ反応に必要なATP及びMgと混合して、市販の発光検出器を用いて常法により発光量を測定し、アプタマー非添加の場合の発光量と比較してどの程度変化したかを調べることにより評価することができる。
【0032】
下記実施例に記載される通り、ランダムssDNAライブラリーのスクリーニングにより得られたルシフェラーゼ結合性アプタマーは、ルシフェラーゼ活性を変化させる能力を有する。特に、配列番号5及び9にそれぞれ示される塩基配列を有するアプタマーは、ルシフェラーゼ活性を阻害する能力が高く、本発明のルシフェラーゼ制御アプタマーとして特に好ましい。
【0033】
配列番号5及び9にそれぞれ示される塩基配列を有するアプタマーのm-fold(商品名)による二次構造予測図を図3及び図4に示す。ルシフェラーゼ阻害能が特に高い配列番号5及び9のアプタマー(Lap 1-6及びLap 1-20)では、10nt〜20ntの領域に同一サイズのステムループ構造が存在しているが、このステムループ構造と全く同一の構造は下記実施例で取得された他のアプタマーには存在しない。従って、配列番号5及び9のアプタマーが有する高いルシフェラーゼ活性阻害能には、この10nt〜20ntに存在する、5merのループを有するステムループ構造が重要であると考えられる。そのため、配列番号5及び9のアプタマーを分割して用いる場合には、この領域に存在するループ部(13nt〜17ntのループ部)以外のループ部位で分断することが好ましい。例えば、配列番号5のアプタマーLap 1-6であれば、32nt〜34ntの領域と49nt〜53ntの領域にもループが存在するので、これらの領域内のいずれかの部位で分断することが好ましい。また、配列番号9のアプタマーLap 1-20であれば、23nt〜26ntの領域と35nt〜39ntの領域にもループが存在するので、これらの領域内のいずれかの部位で分断することが好ましい。
【0034】
分割アプタマーを用いてAESを構築する方法は、特許文献2に記載されるように公知である。具体的に説明すると、例えば、本発明のルシフェラーゼ制御アプタマーを、アプタマー活性に重要ではないループ部位で2つに分断し、一方の断片の分断部位に、所望の測定対象物に対するアプタマー(認識アプタマー)配列を連結する。他方の断片の分断部位には、認識アプタマー配列の全長の半分以下程度(あるいは3mer〜20mer程度)の相補配列を連結する。分断部位に直接連結してもよいし、例えばアデニンのみ又はチミンのみから成る1mer〜10mer程度のリンカーを介して連結してもよい。このような配列から成る2分子のポリヌクレオチドを混合してフォールディングさせ、これとルシフェラーゼとを混合してルシフェラーゼ制御アプタマー部位にルシフェラーゼを結合させることにより、特許文献2に記載されるようないわゆる分割AESを構築することができる。なお、認識アプタマーとしては、所望の測定対象物に特異的に結合できるいかなるアプタマーをも用いることができる。公知のアプタマーの例を挙げると、例えば特許文献1及び特許文献2に記載されるアデノシンアプタマー、IgEアプタマー等がある。
【0035】
本発明のルシフェラーゼ制御アプタマーを採用したAESを用いて、検体中の測定対象物を測定(検出、定量及び半定量を含む)する方法は、例えば以下のようにして行なうことができる。すなわち、フォールディングさせルシフェラーゼを結合させたAESを検体と接触させ、ルシフェラーゼの基質となるルシフェリン、及びルシフェラーゼ反応に必要なATP、Mgを混合し、公知の発光検出器で発光量を測定する。この発光量を、検体と接触させないAES単体で基質と反応させた際の発光量(コントロール)と比較し、発光量の変化量を調べる。例えば、配列番号5及び9のアプタマーは、いずれもルシフェラーゼを阻害する作用があるため、該アプタマーを酵素制御部位に採用したAESは、測定対象物の存在により、該アプタマーのルシフェラーゼ阻害作用が低下し、見かけ上ルシフェラーゼ活性が上昇することになる。この場合、コントロールの発光量からどの程度発光量が増大したかを調べることで、検体中の測定対象物を測定することができる。測定対象物の濃度が既知の溶液を用いて検量線を作成すれば、測定対象物の定量も可能である。なお、ルシフェラーゼ制御アプタマーがルシフェラーゼ活性上昇能を有する場合には、これを酵素制御アプタマーとして採用したAESでは、当然ながら、測定対象物の存在により見かけ上ルシフェラーゼの活性が低下することになる。
【0036】
また、非特許文献2〜4に記載されているように、ある物質に対する結合能を有する複数のアプタマーを交差又はシャッフルすることにより、さらに結合能の高いアプタマーや、結合する物質に対して阻害能等の機能を発揮するアプタマーを作出できることが知られている。ここで、「交差」及び「シャッフル」は、異なるアプタマー分子の部分領域同士を連結することであり、連結する部分領域の数が多い場合(特に決まりはないが通常3以上)がシャッフルである。上記した本発明の複数のアプタマー交差又はシャッフルする工程と、得られたアプタマーのうち、ルシフェラーゼと結合する能力を有するアプタマーを選択することにより、ルシフェラーゼと結合する能力が元のアプタマーよりもさらに高いアプタマーを作出することが可能である。また、この方法において、ルシフェラーゼの活性を阻害できるアプタマーを選択することにより、ルシフェラーゼ阻害能を有するアプタマーを作出することも可能である。このようなアプタマーが一旦得られれば、その塩基配列を解析し、それをDNA合成機等を用いた化学合成等により製造することにより、このような望ましいアプタマーを製造することができる。
【0037】
本発明のアプタマーは、市販の核酸合成機を用いて常法により容易に調製することができる。本発明のアプタマーを採用したAESのポリヌクレオチド部分も、測定対象物に対する認識アプタマーとしては配列が特定されたアプタマーを採用することになるため、同様に市販の核酸合成機を用いて常法により容易に調製することができる。
【0038】
本発明のアプタマーの好ましい用途は、バイオセンサーのセンシング素子としての利用であり、具体的には、特許文献1及び2に記載されるようなAESへの利用である。ただし、本発明のアプタマーの用途はこれに限定されず、ルシフェラーゼへの結合能を利用して、それ自体周知の方法により、ルシフェラーゼの測定に用いることもできる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0040】
1.ルシフェラーゼ結合性アプタマーのスクリーニング
[スクリーニングで用いたオリゴヌクレオチド]
ランダムライブラリー(5'末端にFITCが修飾):
5'-FITC-ATAGTCTATCCATCAATT-(N30)-AGATAGCAAGTGTATTCA-3'(配列番号1)
フォワードプライマー(5'末端にFITCが修飾):
5'-FITC-ATAGTCTATCCATCAATT-3'(配列番号2)
リバースプライマー(5'末端にBiotinが修飾):
5'-Biotin-TGAATACACTTGCTATCT-3'(配列番号3)
(以上のライブラリーおよびプライマーは全てInvitrogenで依託合成した)
【0041】
[用いた試薬]
グルコースデヒドロゲナーゼ(PQQGDH)、Hybond(商標)-ECL(商標) Nitrocellulose membrane (Amersham Bioscience)、精度管理用凍結プール血清L-コンセーラI EX(日水製薬(株))、2-アミノ-2-ヒドロキシエチル-1,3-プロパンジオール、NaCl、Tween21 (いずれも関東化学(株))、EDTA(同仁化学(株))、抗-FITC抗体HRP (Dako Cytomation)、Immobilon(商標) Western Chemiluminescent HRP Substrate (MILLIPORE)、尿素、クロロホルム(いずれも関東化学(株))、フェノール(和光純薬工業(株))、HCl、酢酸ナトリウム、イソプロパノール、エタノール、NaOH (いずれも関東化学(株))、グリコーゲン(Roche)、20bpラダー(Takara)、AmpliTaq Gold with Gene Amp(Applied Biosystems)、アガロース21(ニッポンジーン(株))、グリコーゲン(Roche)
【0042】
[用いた機器]
蛍光スキャナーTyphoon8600、定量ソフトImage Quant (Amaersham Pharmacia Biotech)、遠心分離機、分光光度計UV-1200、UV-1600(島津製作所(株))、高速振とう機(EYELA)、サーマルサイクラーPC-700、PC-801-05(アステック(株))、ABI Prizm 3100 Genetic Analyzer (Applied Biosystem)、サーマルサイクラーPC-700、PC-801-05(アステック(株))、Sequence Software (Genetics)、Hybond-ECL ニトロセルロースメンブレン(Amersham Biosciences)、自動蛍光偏光解消装置(日本分光(株))、BIAcore X (BIACORE)、センサーチップSA(BIACORE)、センサーチップCM5(BIACORE)、遠心分離機、分光光度計UV-1200、UV-1600(島津製作所(株))、サーマルサイクラーPC-700、PC-801-05(アステック(株))、蛍光スキャナーTyphoon8600、定量ソフトImage Quant (Amaersham Pharmacia Biotech)
【0043】
[方法及び結果]
アプタマーのスクリーニングは、以下に記載の方法を用いて合計2回行なった(スクリーニング 1、スクリーニング 2)。ランダムライブラリーとして、30merのランダム配列の両端にプライマー結合領域を付加した、下記の66merのssDNA(配列番号1)を用いた。スクリーニングのBinding bufferにはTBS (10 mM Tris/HCl, pH 7.0, 100 mM NaCl) およびTBSに界面活性剤を添加したTBST (0.05% v/v Tween 20を含むTBS) を用いた。
【0044】
(a) ルシフェラーゼに結合するDNAの選択とDNAライブラリーの結合能評価
ニトロセルロース膜の各面にルシフェラーゼ、PQQGDHをそれぞれ22.5 pmolずつ滴下し (直径2 mmのスポットになるように滴下)、自然乾燥させることで固定化した。TBSTにより10%に調製した血清中にタンパク質を固定した膜を浸し、室温で1時間インキュベートすることで膜をブロッキングした。その後、TBSTで10分間洗浄し、続いて5分の洗浄を2回行った。
【0045】
5'末端にFITCが修飾されたDNAライブラリーをTBS bufferで1 nmol/100μLに調製し、95℃で3分間加熱した後、30分かけてゆっくり25℃まで冷却することで、フォールディングさせた。このDNAライブラリーを終濃度が90 nMになるよう調製し、上記タンパク質固定化膜と室温で1時間インキュベートした。その後、Binding buffer(TBST、固定化膜1 cm2当たり5 ml量)中に膜を浸し軽く手洗浄する操作を2回繰り返してから、Binding buffer(TBST)で10分間撹拌しながら洗浄し、続いて5分間の洗浄を2回行った。
【0046】
(b) ルシフェラーゼに結合したDNAの抽出
ライブラリーとインキュベートし洗浄した後のニトロセルロース膜において、ルシフェラーゼをブロットした部分を切り抜き、222μlの7 M尿素および666μlのフェノールクロロホルムを添加し、3分間攪拌した後に、30分間室温で静置した。ここへ111μlのMilliQを加え、3分間攪拌し、遠心分離(12000 rpm, 10〜20℃)して得られた上清を新しいエッペンに移した。ここへ上清と同量のクロロホルムを加え、3分間攪拌した後に、遠心分離(12000 rpm, 10〜20℃)し、上清を新しいエッペンに移し、この中に含まれるssDNA分子をエタノール沈殿により回収した。得られたペレットを30μlのTE buffer(10 mM Tris、1 mM EDTA)で溶解した。
【0047】
(c) 抽出したDNAの増幅
20 molのdNTP、0.1 nmolのプライマー(配列番号2及び3)、2.5 Uの Taq DNAポリメラーゼ、60 fmolのテンプレートDNAを含んだPCR反応液100μlを30本調製した。サーマルサイクラーで、95℃で30分加熱した後、95℃で1分、56℃で1分、72℃で1分を1サイクルとし、40サイクル繰り返した。各PCR産物は、3.5%アガロース21ゲルでTAE buffer中で電気泳動を行い、テンプレートとして用いた上記(b)で得られたDNAが増幅されていることを確認した。確認の際は、20bpラダーを電気泳動用のマーカーとした。
【0048】
(d) 増幅したDNAの1本鎖化
アビジン固定化アガロース75μlを5倍量のColumn buffer (30 mM HEPES、500 mM NaCl、5mM EDTA、pH7.0)で2回洗浄した。PCR産物に、その1/10倍量の×50 TE Bufferおよび1/5倍量の5 M NaClを添加し、この溶液を、洗浄したアビジン固定化アガロースに加え、30分インキュベートした。インキュベート後、上清を取り除き、アガロースを5倍量のColumn bufferで2回洗浄した後、アガロースの1.5倍量の0.15 M NaOHを加えて10分間攪拌した。上清を回収した後、再びアガロースに同量の0.15 M NaOHを加えて10分間攪拌し、ssDNAを溶出させ上清を回収した。ssDNAを含む上清を2M HClで中和し、エタノール沈殿によりssDNAを回収した。得られたペレットを30μlのTE bufferで溶解し、分光光度計を用いて260 nmの吸収を測定することで、DNA濃度を算出した。なお、操作はすべて室温で行った。ここで得られたDNAを次のラウンドのライブラリーとした。
【0049】
上記(a)〜(d)の操作を1ラウンドとし、合計4ラウンドを行なって1回のスクリーニングとした。このスクリーニング操作を2回反復して行なった(スクリーニング1、スクリーニング2)。各ラウンドにおいて、タンパク質に結合したDNA量を確認するため、(a)の工程でライブラリーとインキュベートし洗浄した後のニトロセルロース膜と、HRP(セイヨウワサビペルオキシダーゼ)修飾された抗FITC抗体(1000倍希釈)とを、1000μlのBinding buffer(TBST)中で室温にて1時間インキュベートした。ライブラリーとのインキュベート後と同様の洗浄を行った後、ECL Plus Western blotting detection reagentsを膜に添加し、化学発光によりssDNA分子の蛋白質への結合を観察した。その結果、いずれのラウンドにおいても、ルシフェラーゼを固定化した部分からPQQGDHを固定化した部分よりも強いシグナルが検出された。また、ラウンドが進む毎にルシフェラーゼ固定化部位からのシグナルが強くなる傾向が認められた。
【0050】
2.スクリーニングにより得られたssDNAの塩基配列解析
[用いた試薬]
Marmaid kit(フナコシ(株))、アガロース21(ニッポンジーン(株))、EDTA(同仁化学(株))、pGEM T-Vector System (Promega)、アンピシリン(シグマ)、IPTG(Takara)、X-gal、培地用寒天〔INAAGAR(BA-10)〕(伊那食品工業(株))、バクトトリプシン、イーストエクストラクト(DIFCO)、NaCl、Tris、エタノール (いずれも関東化学(株))、ホルムアミド、RNase(ニッポンジーン(株))、DNA sequence kit、M13 primer(Applied Biosystem(株))、DH5αコンピテントセル
【0051】
[方法及び結果]
(a) TAクローニング
1-(c)と同様の組成でPCR溶液を10本調製し、PCR増幅を行ったのちエタノール沈殿を行った(プライマーは修飾されていないものを用いた)。沈殿を溶解し、3 %アガロースXゲルを用いてTAE バッファー中で電気泳動し、MERmaid(登録商標) kitを用いてゲルから約66 bpのDNAを抽出し、10μlのDNA抽出液を得た。ゲルからのDNAの抽出についてはキット付属のプロトコールに従った。3μlのDNA抽出液、5μl Rapid Ligation バッファー、1μlのpGEM T-Vector(50 ng)、1μlのT4 DNA ligaseを加え、16℃で一時間かけてライゲーションを行った。ライゲーション反応液を用いてJM109コンピテントセルをヒートショック法により形質転換し、アンピシリン(Amp)およびX-gal(ともに終濃度100μg/ml)を含むLB寒天培地に播種し37℃で一晩培養した。
【0052】
(b) シークエンス
TAクローニングしたプレートより白色のコロニーを選択し、LB培地で一晩インキュベートした後、アルカリ-SDS法によりプラスミドを抽出した。抽出したプラスミドを制限酵素消化した後、上記と同様に電気泳動し、目的の断片が挿入されていることを確認した。
【0053】
挿入断片が確認されたプラスミドについて、キットを用いたダイデオキシ法により挿入断片(すなわちスクリーニングにより得られたDNA)の塩基配列を決定した。スクリーニング1では15本の塩基配列が得られ、その中で重複はなかった。スクリーニング2では22本の塩基配列が得られ、その中で2種類の配列が2本ずつ重複していた。スクリーニング1と2との間で塩基配列の重複はなかった。すなわち、スクリーニング1及び2により35種類の塩基配列が得られた。
【0054】
3.アプタマーブロッティング法による各ssDNAのルシフェラーゼに対する結合能とPQQGDHを用いた特異性の評価
[用いた試薬]
グルコースデヒドロゲナーゼ、ヒトトロンビン(Sigma Aldrich)、Hybond(商標)-ECL(商標) Nitrocellulose membrane (Amersham Bioscience)、2-アミノ-2-ヒドロキシエチル-1,3-プロパンジオール、NaCl、Tween21 (いずれも関東化学(株))、EDTA(同仁化学(株))、抗-FITC抗体HRP (Dako Cytomation)、NeutrAvidin Horseradish Peroxidase Conjugated (PIERCE)、Immobilon(商標) Western Chemiluminescent HRP Substrate (MILLIPORE)、PQQGDH、NaCl、Tris、Tween21、尿素、クロロホルム、HCl、酢酸ナトリウム、イソプロパノール、エタノール、NaOH (いずれも関東化学(株))、EDTA(同仁化学(株))、Ponceau S (メルク)、グリコーゲン(Roche)、フェノール(和光純薬工業(株))、20 bp ladder (Takara)、AmpliTaq Gold with Gene Amp(Applied Biosystems)、アガロース21(ニッポンジーン(株))、ImmunoPure Immobilized Avidin (PIERCE)
【0055】
[用いた機器]
蛍光スキャナーTyphoon8600、定量ソフトImage Quant (Amaersham Pharmacia Biotech)、Mild Mixer SI-36 (TAITEC)、PLUS SHAKER EP-1 (TAITEC)
【0056】
上記シークエンス解析の結果得られた35種類の塩基配列について、二次構造予測プログラムm-fold(商品名)を用いて、プライマー配列を含む66merの塩基配列の二次構造を予測した。その結果、ΔG値およびTm値から二次構造が安定していると考えられる塩基配列がスクリーニング1から9本、スクリーニング2から15本得られた。これらの合計24本について、アプタマーブロッティング法によってルシフェラーゼに対する結合能の評価を行った。アプタマーブロッティングには、66merのオリゴヌクレオチドの5'末端をビオチン又はFITC修飾したものを合成して用いた。また、競合タンパク質として、スクリーニング時と同様にPQQGDHを用いた。
【0057】
アプタマーブロッティングの結果を図1に示す。評価を行った24種すべてのポリヌクレオチドのルシフェラーゼへの結合能を確認した。配列間でスポットの強度に差が見られたことから、結合能に差があると考えられる。24本のうちの21本(表1)でイニシャルライブラリーよりも高い結合能が確認された。これら21本の塩基配列を配列番号4〜24に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
4.アプタマーのルシフェラーゼ活性制御能の検討
スクリーニング1及び2で得られたssDNAのうち、イニシャルライブラリーよりもルシフェラーゼへの結合能が高いもの(Lap 2-14、1-20、1-6)及びルシフェラーゼ結合能が低いもの(Lap 2-26、2-3)を選択し、ルシフェラーゼ活性制御能を検討した。Lap 2-26及びLap 2-3の塩基配列をそれぞれ配列番号25及び26に示す。
【0060】
ルシフェラーゼ(終濃度0.9μM)、各ssDNA(終濃度9μM)、Tris(10 mM)、NaCl(150 mM)、KCl(5 mM)を混合して全量18μLとし、室温で10分間静置した。このサンプル5μLに対してピッカジーン発光基質(東洋ビーネット)75μLを添加し、1分間静置後10秒間振とうし、発光量をルミノメータを用いて1秒間測定した。コントロールの発光量を100%として、各ssDNAサンプルの発光量を相対評価することにより、各ssDNAのルシフェラーゼ活性制御能を評価した。その結果を下記表2に示す。なお、表2中の「Δスポット強度」とは、図1に示すアプタマーブロッティングのスポットを、蛍光スキャナーTyphoon8600及び定量ソフトImage Quant (Amaersham Pharmacia Biotech)を用いて数値化した結果である。
【0061】
【表2】

【0062】
表2に示される通り、ルシフェラーゼへの結合能が高いLap 1-20及びLap 1-6でルシフェラーゼ活性の大きな阻害が認められた。
【0063】
ルシフェラーゼ活性阻害能が最も高かったLap 1-6について、ssDNA濃度を0、0.9、9.0、45μMに変えて上記と同様に発光量を測定、評価したところ、Lap 1-6は濃度比1:1でもルシフェラーゼ活性を40%阻害した(図2)。
【0064】
ルシフェラーゼ活性阻害能が高かったLap 1-6及びLap 1-20について、m-fold(商品名)により予測した二次構造図を図3及び図4に示す。高いルシフェラーゼ阻害能が確認されたLap 1-6及びLap 1-20では、10nt〜20ntの領域に全く同一のステムループ構造が存在した。このステムループ構造は、上記で活性制御能を検討したこれ以外のアプタマーをはじめ、上記スクリーニングで取得されたその他のアプタマーのいずれにも存在しなかった(データ示さず)。従って、Lap 1-6及びLap 1-20が有する高いルシフェラーゼ活性阻害能には、10nt〜20ntに存在するこのステムループ構造が重要であると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のいずれかのポリヌクレオチドから成り、ルシフェラーゼと結合する能力を有するアプタマー。
(a) 配列番号4ないし24のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチド。
(b) (a)のポリヌクレオチドにおいて1個ないし十数個の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリヌクレオチド。
(c) (a)又は(b)のポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチド。
【請求項2】
前記(b)のポリヌクレオチドが、前記(a)のポリヌクレオチドのうち1個又は数個の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリヌクレオチドである請求項1記載のアプタマー。
【請求項3】
前記(b)のポリヌクレオチドが、前記(a)のポリヌクレオチドのうち1個又は2個の塩基が置換し、欠失し及び/又は挿入されたポリヌクレオチドである請求項2記載のアプタマー。
【請求項4】
配列番号4ないし24のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドから成る請求項1記載のアプタマー。
【請求項5】
前記ポリヌクレオチドのサイズが100mer以下である請求項4記載のアプタマー。
【請求項6】
配列番号4ないし24のいずれかに示される塩基配列を有するポリヌクレオチドから成る請求項5記載のアプタマー。
【請求項7】
結合したルシフェラーゼの酵素活性を変化させる能力をさらに有する請求項1ないし6のいずれか1項に記載のアプタマー。
【請求項8】
配列番号5又は9に示される塩基配列を有するポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドを含むポリヌクレオチドから成る請求項7記載のアプタマー。
【請求項9】
前記ポリヌクレオチドのサイズが100mer以下である請求項8記載のアプタマー。
【請求項10】
配列番号5又は9に示される塩基配列を有するポリヌクレオチドから成る請求項9記載のアプタマー。
【請求項11】
請求項1記載の複数のアプタマー同士を交差又はシャッフルする工程と、得られたアプタマーのうち、ルシフェラーゼと結合する能力を有するアプタマーを選択する工程を含む、ルシフェラーゼと結合する能力を有するアプタマーの作出方法。
【請求項12】
ルシフェラーゼ活性を阻害する能力を有するアプタマーを選択することをさらに含む請求項11記載の方法。
【請求項13】
請求項11又は12記載の方法により作出されたアプタマーを製造することを含む、ルシフェラーゼ結合性アプタマーの製造方法。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−240306(P2009−240306A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−57424(P2009−57424)
【出願日】平成21年3月11日(2009.3.11)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【出願人】(000004477)キッコーマン株式会社 (212)
【Fターム(参考)】