説明

ルチル型酸化チタンナノ粒子及びその製造方法

【課題】優れた透明性を有し、溶媒への分散安定性にも優れているルチル型酸化チタンナノ粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
アルカリ性水溶液にチタン含有水溶液を添加して、7以上のpH下で析出させたアモルファスチタン化合物を、ろ過し、溶媒に懸濁させて懸濁液を得る第一の工程と、前記の懸濁液に、酸性化合物を加えて熟成する第二の工程とを経る。前記の第一の工程では、pHを7以上に維持してアモルファスチタン化合物を析出させるのが重要であり、pHを7以上に維持するために、別に用意したアルカリ性水溶液を必要に応じて添加しても良い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ルチル型酸化チタンナノ粒子及びその製造方法に関する。また、本発明は、前記のルチル型酸化チタンナノ粒子を溶媒に分散した分散体に関する。更に、本発明は、ルチル型酸化チタンナノ粒子やルチル型酸化チタンナノ粒子の分散体を含む組成物、塗料、塗膜、光学フィルム、光学部材等に関する。
【背景技術】
【0002】
ルチル型酸化チタンナノ粒子は、可視光を透過して透明性を示すとともに、紫外線を遮蔽するため、日焼け止め化粧料、紫外線遮蔽塗料、紫外線遮蔽インキ、紫外線遮蔽フィルムなどに配合して用いられている。また、ルチル型酸化チタンナノ粒子は元来、屈折率が高いので、所謂フリップフロップ効果を有するメタリック塗料、光学フィルムの高屈折率層、光学部材の屈折率調整剤などに用いられている。更に、ルチル型酸化チタンナノ粒子は化学的耐久性、機械的耐久性に優れており、耐薬品皮膜、耐磨耗皮膜、耐チッピング性皮膜などの保護皮膜を形成するためなどにも利用されている。
【0003】
ルチル型酸化チタンナノ粒子は、例えば、チタンに対するスズのモル比(Sn/Ti)が0.001〜2のスズ化合物共存下、Ti濃度が0.07〜5mol/lのチタン化合物溶液をpHが−1〜3の範囲で反応させる方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−132706公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ルチル型酸化チタンナノ粒子は、用途に応じて種々の性能の向上が望まれている。例えば、光学フィルムや光学部材に用いられる場合は可視光の透明性により一層優れたものが望まれている。また、ルチル型酸化チタンナノ粒子を含む塗料、分散体とする場合には、溶媒への分散性により一層優れたもの、光触媒活性が抑制され、耐候性がより一層改善されたものなどが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ルチル型酸化チタンナノ粒子の性能改良、特に透明性改良を目的に種々研究したところ、アルカリ性水溶液にチタン含有水溶液を添加して、7以上のpH下で析出させたアモルファスチタン化合物を、ろ過し、溶媒に懸濁させて懸濁液を得る第一の工程と、前記の懸濁液に、酸性化合物を加えて熟成する第二の工程とを経ることにより、優れた透明性を有するルチル型酸化チタンナノ粒子が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、(1)アルカリ性水溶液にチタン含有水溶液を添加して、7以上のpH下で析出させたアモルファスチタン化合物を、ろ過し、溶媒に懸濁させて懸濁液を得る第一の工程と、前記の懸濁液に、酸性化合物を加えて熟成する第二の工程とを含むルチル型酸化チタンナノ粒子の製造方法であり、また、(2)前記の方法で得られたルチル型酸化チタンナノ粒子、(3)前記のルチル型酸化チタンナノ粒子を水性溶媒及び/又は有機溶媒に分散した分散体、(4)前記のルチル型酸化チタンナノ粒子又は前記の分散体を含む塗料、塗膜、光学フィルム、光学部材、組成物等である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子は、優れた透明性を有するものである。また、溶媒への分散安定性などにも優れていることから、透明塗料、保護皮膜形成用塗料、メタリック塗料、光学フィルム、光学部材、日焼け止め化粧料など種々の用途に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】実施例1で得られたルチル型酸化チタンナノ粒子の、透過型電子顕微鏡により撮影した画像を示す図である。
【図2】実施例2で得られたルチル型酸化チタンナノ粒子の、透過型電子顕微鏡により撮影した画像を示す図である。
【図3】実施例3で得られたルチル型酸化チタンナノ粒子の、透過型電子顕微鏡により撮影した画像を示す図である。
【図4】実施例4で得られたルチル型酸化チタンナノ粒子の、透過型電子顕微鏡により撮影した画像を示す図である。
【図5】実施例5で得られたルチル型酸化チタンナノ粒子の、透過型電子顕微鏡により撮影した画像を示す図である。
【図6】実施例6で得られたルチル型酸化チタンナノ粒子の、透過型電子顕微鏡により撮影した画像を示す図である。
【図7】実施例3、4で得られた試料C、D及び比較例で得られた試料Hの分光透過率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、ルチル型酸化チタンナノ粒子の製造方法であって、アルカリ性水溶液にチタン含有水溶液と必要に応じてアルカリ性水溶液とを添加して、7以上のpH下で析出させたアモルファスチタン化合物を、ろ過し、溶媒に懸濁させて懸濁液を得る第一の工程と、前記の懸濁液に、酸性化合物を加えて熟成する第二の工程とを含む。第一の工程によりルチル結晶となり易い構造を有するアモルファスチタン化合物を製造し、次の第二の工程によって容易にルチル型酸化チタンナノ粒子を生成する。
【0011】
本発明の第一の工程において、チタン含有水溶液が添加されるアルカリ性水溶液は、pHが8以上の水溶液であり、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩、アンモニア、炭酸アンモニウムや、エタノールアミン、プロパノールアミン等のアミン類などを溶解した水溶液を用いることができる。
【0012】
チタン含有水溶液は、硫酸チタン、硫酸チタニル、塩化チタン、オキシ塩化チタン、フッ化チタン、酢酸チタン、シュウ酸チタン等のチタン化合物を溶解した水溶液を用いることができる。前記のアルカリ性水溶液にチタン含有水溶液を添加するとアモルファスチタン化合物が析出する。
【0013】
アルカリ性水溶液にチタン含有水溶液を添加すると、チタン含有水溶液は酸性であるためpHは徐々に低下するが、pHを7以上に維持してアモルファスチタン化合物を析出させるのが重要である。pHが7より低くなる場合は、別に用意したアルカリ性水溶液を添加して、pHを7以上に維持して、アモルファスチタン化合物を析出させるのが重要である。pHの維持に用いるアルカリ性水溶液は、前記のチタン含有水溶液が添加されるアルカリ性水溶液と同じものでも異なるものでも良く、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の水酸化物や炭酸塩、アンモニア、炭酸アンモニウムや、エタノールアミン、プロパノールアミン等のアミン類などを溶解した水溶液を用いることができる。
【0014】
アモルファスチタン化合物は、X線回折では明確なピークを有さない非晶質チタン化合物であって、それを好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上含むものである。X線回折でピークを有する結晶質のものは好ましくは30重量%以下であれば含んでいてもよく、10重量%以下がより好ましい。
【0015】
次いで、中和析出したアモルファスチタン化合物をろ過し、必要に応じて、洗浄し、乾燥する。ろ過機は、通常の真空ろ過機、加圧ろ過機、精密ろ過機、逆浸透ろ過機等公知のろ過機を用いることができる。
【0016】
このようにして得られたアモルファスチタン化合物を、溶媒に懸濁し、懸濁液を得る。
【0017】
溶媒は、水溶媒、アルコール等の有機溶媒を用いることができ、後述する酸性化合物を添加するために水溶媒、アルコール溶媒又は水とアルコールの混合溶媒が好ましい。
【0018】
次に、本発明の第二の工程では、前記の懸濁液に酸性化合物を加えて熟成して、ルチル型酸化チタンナノ粒子を得る。
【0019】
酸性化合物は、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸、炭酸等の無機酸、クエン酸、リンゴ酸、酢酸、乳酸等の有機酸を用いることができ、酸性化合物を添加して懸濁液のpHを6以下にするのが好ましく、4以下にするのがより好ましい。
【0020】
懸濁液に酸性化合物を加えた後、熟成してその状態を保持する。熟成時間は適宜設定することができ、例えば10分以上が好ましく、1時間以上がより好ましい。熟成温度も適宜設定することができ、温度が高いと過度に結晶成長が進み粒子が大きくなりやすいため、結晶成長が進みにくい温度が好ましく、例えば70℃以下がより好ましく、60℃以下がより好ましい。一方、熟成温度の下限は溶媒が凍らない温度であればよく、1℃が好ましい。
【0021】
第二の工程において、前記の懸濁液に、前記の酸性化合物とともにスズ化合物とを加えて熟成すると、スズの媒晶作用により軸比の小さいルチル型酸化チタンナノ粒子が析出しやすいため、好ましい方法である。
【0022】
スズ化合物は、塩化スズ、硫酸スズ、硝酸スズ、酢酸スズ等の水溶性化合物や、酸化スズ、水酸化スズ等の溶解度の低い化合物を用いることができ、その水溶液や懸濁液として添加することができる。スズの添加量は適宜設定することができるが、ルチル型酸化チタンよりも屈折率の低いスズ化合物の添加によって粒子全体の屈折率が低下するためスズ化合物の添加量は多すぎないのが好ましく、例えば、スズ化合物をSnOに、アモルファスチタン化合物をTiOに換算して、SnO/TiOが0.01〜100重量%が好ましく、0.03〜50重量%がより好ましく、0.03〜30重量%がより好ましい。
【0023】
第二の工程において、前記の懸濁液に水溶性有機溶剤を添加して熟成してもよい。水溶性有機溶剤を添加するとルチル型酸化チタンナノ粒子の粒径等を制御したりすることができる。水溶性有機溶剤としては、エタノール等の低級アルコールや、グリセリン、ジエチレングリコールなどの粘性溶剤等を用いることができる。水溶性有機溶剤の添加量は適宜設定することができ、例えば、水溶媒に対して、0.1〜100重量%が好ましく、5〜20重量%がより好ましい。
【0024】
第二の工程において、前記の懸濁液にシランカップリング剤及び/又は有機表面修飾剤を更に添加して熟成すると、ルチル型酸化チタンナノ粒子の生成に応じて、粒子表面にシランカップリング剤及び/又は有機表面修飾剤等の有機化合物を被覆することができるため好ましい方法である。
【0025】
シランカップリング剤としては、アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、β−(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどを用いることができる。
【0026】
有機表面修飾剤は、溶媒、塗料、プラスチックスへの分散性及び塗膜の耐久性を一層向上させるためなどに用いるものであって、その目的に応じて有機表面修飾剤の種類は適宜選定することができ、例えば、シリコーン、レシチン、樹脂、粘材、シラン化合物、フッ素化合物、紫外線吸収材、多価アルコール、アミノ酸、色素、脂肪酸、カルボン酸塩、金属石鹸、油剤、ワックスなどを用いるのが好ましく、更に、効果の異なる複数の処理剤を組み合わせることも可能である。
【0027】
シランカップリング剤及び/又は有機表面修飾剤の処理量は、目的に応じて適宜設定することができ、ルチル型酸化チタンナノ粒子に対して、有機化合物総量で表して0.1〜100重量%の範囲が適当である。
【0028】
このようにして得られるルチル型酸化チタンナノ粒子は、ルチル型結晶形を持つ二酸化チタンであり、1〜100nmの平均粒子径を有する。粒子径は個々の粒子の最大直径で表し、ルチル型酸化チタン粒子が棒状形状の場合、棒状の長軸径を粒子径とする。粒子径は透明性の観点から小さいものが好ましく、1〜50nmがより好ましく、1〜30nmが更に好ましい。また、分散性の観点から棒状形状でも軸比の小さいものが好ましく、軸比が1〜10程度が好ましく、1〜5程度がより好ましい。
【0029】
ルチル型酸化チタンナノ粒子は、前記のようにシランカップリング剤、有機表面修飾剤等の有機化合物を被覆してもよい。また、有機化合物の被覆に先立ち、あるいは、有機化合物の被覆に代えて、ルチル型二酸化チタンナノ粒子の表面に無機化合物の表面処理をしても良い。無機化合物の表面処理の効果により、更に耐候性を改善することができるため好ましい態様である。
【0030】
ルチル型二酸化チタンナノ粒子に表面処理される無機化合物としては、例えば、アルミニウム、ケイ素、チタニウム、ジルコニウム、スズ、アンチモン、コバルト及びマンガンの群から選ばれる少なくとも一種の元素の含水酸化物及び/又は酸化物(それぞれの元素の水酸化物を含む)が好ましく、特に、アルミニウム、ケイ素、チタニウム、ジルコニウム、スズ、コバルト及びマンガンの群から選ばれる少なくとも一種の元素の含水酸化物及び/又は酸化物(それぞれの元素の水酸化物を含む)が好ましい。この無機化合物の表面処理の量は、二酸化チタンに対して、各元素の酸化物(Al、SiO、TiO、ZrO、SnO、CoO、MnOなど)に換算した総量で表して0.1〜100重量%の範囲であり、好ましくは5〜20重量%の範囲である。
【0031】
また、本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子の結晶内部には、コバルト、アルミニウム、ケイ素、マンガン、リン、ナトリウム、カリウム、リチウム、銅、カルシウム、マグネシウム、亜鉛、バナジウム、鉄、ニッケルなどの元素を更に含有してもよく、コバルト、アルミニウム、ケイ素及びマンガンの群から選ばれる少なくとも一種の元素を更に含有すると耐候性を抑制することができるためより好ましい態様である。結晶内部に含有する元素の含有量は任意に設定することができ、コバルト、アルミニウム、ケイ素又はマンガンの含有量は、二酸化チタンに対して、コバルトをCoO、アルミニウムをAl、ケイ素をSiO、マンガンをMnOの酸化物に換算した総量で表して0.01〜30重量%の範囲であり、好ましくは0.05〜15重量%である。
【0032】
本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子は、優れた透明性を有するものであり、溶媒への分散安定性などにも優れていることから、透明塗料、保護皮膜形成用塗料、メタリック塗料、光学フィルム、光学部材、日焼け止め化粧料など種々の用途に利用することができる。
【0033】
本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子を水性溶媒及び/又は有機溶媒に分散して、分散体とすることができる。溶媒としては、水性溶媒、アルコール、トルエン等の有機溶媒を用いることができ、ルチル型酸化チタンナノ粒子の含有量は適宜設定することができる。分散体を製造する際には、必要に応じて湿式粉砕や分級処理してもよい。
【0034】
本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子、それを含有した分散体は、紫外線遮蔽剤として用いることができるため、それらを含む組成物に、紫外線遮蔽能を付与することができる。このような組成物の態様としては、例えば塗料、インキやフィルム等のプラスチック成形物などが挙げられる。
【0035】
この組成物に紫外線遮蔽能を付与するには、本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子を任意の量、好ましくは20重量%以上を配合し、そのほかに、組成物の態様に応じ、それぞれの分野で使用される組成物形成材料を配合し、更に各種の添加剤を配合してもよい。
【0036】
組成物の態様が塗料やインキであれば、塗膜形成材料又はインキ膜形成材料、溶剤、分散剤、顔料、充填剤、増粘剤、フローコントロール剤、レベリング剤、硬化剤、架橋剤、硬化用触媒などを配合する。
【0037】
塗膜形成材料としては例えば、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂などの有機系成分や、オルガノシリケート、オルガノチタネートなどの無機系成分を用いることができる。インキ膜形成材料としては、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド樹脂、塩酢ビ樹脂、塩素化プロピレン樹脂などを用いることができる。
【0038】
これらの塗膜形成材料、インキ膜形成材料には、熱硬化性樹脂、常温硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂など各種のものを用いることができ特に制限はないが、モノマーやオリゴマーの紫外線硬化性樹脂を用い、光重合開始剤や光増感剤を配合し、塗布後に紫外光を照射して硬化させると、基材に熱負荷を掛けず、硬度や密着性の優れた塗膜が得られるので好ましい。
【0039】
組成物の態様がプラスチック成形物であれば、プラスチック、顔料、染料、分散剤、滑剤、酸化防止材、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、難燃剤、殺菌剤などを本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子とともに練り込み、フィルム状などの任意の形状に成形する。
【0040】
プラスチックとしては、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ポリ乳酸樹脂などの熱可塑性樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0041】
本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子は高屈折率であり、透明性を有することから、種々の光学フィルム、光学部材として用いることができる。
【0042】
本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子を配合した光学フィルムは、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、CRT等の表示装置、特に好適に液晶ディスプレイに用いられ、具体的には、反射防止性及び視認性に優れた反射防止フィルム、偏光フィルム等として用いられる。また、本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子を配合した光学フィルムは、視野角によりカラーシフトする偽造防止フィルム、紫外線を遮蔽するフィルムなどにも適用することができる。
【0043】
また、本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子を含有した光学部材は、カメラ、ビデオカメラ、カメラ付携帯電話、テレビ電話を始めとする撮像モジュール等の固体撮像素子、眼鏡レンズなどのレンズ等に用いることができる。
【0044】
また、本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子を含む塗膜を、種々の固体撮像素子、眼鏡レンズなどのレンズ等の光学基材の表面に形成することにより、その部材の機能を更に強化したり、保護したりすることができる。例えば、レンズ基材の耐久性を確保するためのハードコート層、ゴーストやちらつきを防止するための反射防止層などの形成に用いることができる。
【0045】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
以下の実施例における粒子の結晶相の同定は、対象となる試料をアンモニアで中和し、ろ過水洗乾燥後にX線回折測定することにより行った。
【0047】
実施例1
(第一の工程)
炭酸ナトリウム水溶液に、TiCl水溶液を添加して中和した。この時、懸濁液のpHが7.5以上を維持するように、適宜炭酸ナトリウム水溶液を追加添加した。次いで、この中和生成物をろ過水洗して余分なイオンを除去し、再度イオン交換水に分散してアモルファスチタン化合物の懸濁液を得た。
(第二の工程)
第一の工程で得られたアモルファスチタン化合物の懸濁液に、HCl/TiOとして3倍molの塩酸を添加し、TiOとして3.5重量%の濃度に調整して室温で撹拌した。アモルファスチタン化合物が解膠し透明な分散体となったところで、50℃に昇温して更に5時間攪拌を続け熟成した。熟成の間にアモルファスチタン化合物は全てルチルに結晶化すると共に凝集し、ルチル型酸化チタンナノ粒子の沈殿を生成した。得られた沈殿を純水に再分散することで、本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子の水分散体Aを得た。
【0048】
実施例2
実施例1の第一の工程と同様にしてアモルファスチタン化合物の懸濁液を得た後、HCl/TiOとして3倍molの塩酸を添加して室温で攪拌して解膠し透明な分散体を得た。この透明な分散体に更にSnO/TiOとして3重量%のSnCl・5HOを加えて完全に溶解した後、TiOとして3.5重量%の濃度に調整して50℃に昇温し5時間撹拌して熟成し、ルチル型酸化チタンナノ粒子の沈殿を得た。得られた沈殿を純水に再分散し、本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子の水分散体Bを得た。
【0049】
実施例3
実施例1の第一の工程と同様にしてアモルファスチタン化合物の懸濁液を得た後、HCl/TiOとして3倍molの塩酸を添加して室温で攪拌して解膠し、透明な分散体を得た。一方でSnCl・5HOを予め純水に溶解しSnOとして1重量%の濃度に調整した後、50℃で1時間加水分解して懸濁液とした。次いでこの懸濁液を、前記アモルファスチタン化合物の透明な分散体にSnO/TiOとして3重量%となるよう添加し、TiOとして3.5重量%の濃度に調整して室温で3日間撹拌して熟成し、ルチル型酸化チタンナノ粒子の沈殿を得た。得られた沈殿を純水に再分散し、本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子の水分散体Cを得た。
【0050】
実施例4
実施例1の第一の工程と同様にしてアモルファスチタン化合物の懸濁液を得た後、HCl/TiOとして3倍molの塩酸を添加して室温で攪拌して解膠し、透明な分散体を得た。一方でSnCl・5HOを予め純水に溶解しSnOとして1重量%の濃度に調整した後、超音波を15分照射して加水分解した。次いでこのSnCl・5HO加水分解液を、前記アモルファスチタン化合物の透明な分散体にSnO/TiOとして3重量%となるよう添加し、TiOとして3.5重量%の濃度に調整後50℃で5時間撹拌して熟成し、ルチル型酸化チタンナノ粒子の沈殿を得た。得られた沈殿を純水に再分散し、本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子の水分散体Dを得た。
【0051】
実施例5
実施例1の第一の工程と同様にしてアモルファスチタン化合物の懸濁液を得た後、HCl/TiOとして3倍molの塩酸を添加して室温で攪拌して解膠し、透明な分散体を得た。この透明な分散体をTiOとして3.5重量%の濃度に調整し、室温で3日間熟成してルチル型酸化チタンナノ粒子の沈殿を得た。得られた沈殿を純水に再分散し、本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子の水分散体Eを得た。
【0052】
実施例6
実施例1の第一の工程と同様にしてアモルファスチタン化合物の懸濁液を得た後、HCl/TiOとして3倍molの塩酸を添加して室温で攪拌して解膠し、透明な分散体を得た。次いでこの透明な分散体をTiOとして3.5重量%の濃度に調整後4℃以下まで冷却し、数日間熟成してルチル型酸化チタンナノ粒子の沈殿を得た。得られた沈殿を純水に再分散することで本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子の水分散体Fを得た。
【0053】
実施例7
実施例1の第一の工程と同様にしてアモルファスチタン化合物の懸濁液を得た後、HCl/TiOとして3倍molの塩酸を添加して室温で攪拌して解膠し、透明な分散体を得た。この透明な分散体をTiOとして3.5重量%の濃度に調整後、分散体中の水溶媒に対して20重量%のエタノールを更に添加し、室温で2日間熟成してルチル型酸化チタンナノ粒子の沈殿を得た。得られた沈殿を脱イオンすることで再分散し、本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子の水−エタノール分散体Gを得た。
【0054】
評価
分散体C、D、Hについて、各々、固形分濃度が0.5重量%となるように、純水で希釈して調整し、10mm厚の石英セルに入れ、分光光度計(V−660:日本分光社製)を用いて正透過での分光スペクトル(波長300〜800nm)を測定した。得られた結果を図7に示す。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のルチル型酸化チタンナノ粒子は、可視光を透過して透明性を示すとともに、紫外線を遮蔽するため、日焼け止め化粧料、紫外線遮蔽塗料、紫外線遮蔽インキ、紫外線遮蔽フィルムなどに配合して用いられる。また、屈折率が高いので、所謂フリップフロップ効果を有するメタリック塗料、光学フィルムの高屈折率層、光学部材の屈折率調整剤などに用いられる。更に、化学的耐久性、機械的耐久性に優れており、耐薬品皮膜、耐磨耗皮膜、耐チッピング性皮膜などの保護皮膜を形成するためなどにも利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ性水溶液にチタン含有水溶液を添加して、7以上のpH下で析出させたアモルファスチタン化合物を、ろ過し、溶媒に懸濁させて懸濁液を得る第一の工程と、
前記の懸濁液に、酸性化合物を加えて熟成する第二の工程とを含むルチル型酸化チタンナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記の第一の工程において、前記のアルカリ性水溶液に、前記のチタン含有水溶液とともにアルカリ性水溶液を添加する請求項1に記載のルチル型酸化チタンナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記の第二の工程において、前記の懸濁液に、更にスズ化合物を加えて熟成する請求項1又は2に記載のルチル型酸化チタンナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
第二の工程における熟成温度が70℃以下である請求項1〜3のいずれか一項に記載のルチル型酸化チタンナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
第二の工程において、前記の懸濁液に、更に水溶性有機溶剤を添加して熟成する請求項1〜4のいずれか一項に記載のルチル型酸化チタンナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
第二の工程において、前記の懸濁液に、更にシランカップリング剤及び/又は有機表面修飾剤を添加して熟成する請求項1〜5のいずれか一項に記載のルチル型酸化チタンナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で得られたルチル型酸化チタンナノ粒子。
【請求項8】
粒子表面を無機化合物及び/又は有機化合物で被覆した請求項7に記載のルチル型酸化チタンナノ粒子。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法で得られたルチル型酸化チタンナノ粒子を水性溶媒及び/又は有機溶媒に再分散した分散体。
【請求項10】
請求項7又は8に記載のルチル型酸化チタンナノ粒子又は請求項9に記載の分散体を含む組成物。
【請求項11】
塗料である請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
塗膜である請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
請求項7に記載のルチル型酸化チタンナノ粒子を含む光学フィルム。
【請求項14】
請求項7に記載のルチル型酸化チタンナノ粒子を含む光学部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−180241(P2012−180241A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44855(P2011−44855)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000000354)石原産業株式会社 (289)
【Fターム(参考)】