説明

レジオネラ菌に起因する病態の検査方法

【課題】レジオネラ菌感染が疑われる患者に対して、迅速かつ簡便に侵襲的苦痛を与えることなく、レジオネラ菌により肺炎・気管支炎を罹患している患者の増悪度を反映できる偽陽性の少ないレジオネラ菌に起因する病態の検査方法及び検査キットを提供する。
【解決手段】レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と反応する抗体を用いて、患者の下気道検体、尿又は血液における該抗原を検出することを含む、レジオネラ菌に起因する病態を検査する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レジオネラ菌に起因する病態の検査方法及び検査キットに関する。
【背景技術】
【0002】
微生物感染症の診断は、通常、感染部位などでの原因菌の検出、または、血清、もしくは体液中の原因菌に対する抗体の検出結果に基づいて判断される。特に、この診断のためには、原因菌の検出が患者への迅速な治療を可能にする意味で重要である。
【0003】
感染症原因菌の検出には、原因菌の分離培養を経てその生化学的性状をもとに該原因菌の同定を行う培養法、原因菌に特異的な遺伝子をもとにPCR法などにより増幅し検出する遺伝子法、原因菌の表面抗原マーカーと抗体との特異的反応を利用して原因菌検出を行う免疫法に大別できる。しかしながら、培養法、及び遺伝子法は検出結果を得るまでに時間がかかるので、短時間にしかも高感度に原因菌を検出し、迅速かつ適切な患者への治療につながる点で免疫法による検査結果が診断するための利用価値が高い。従来免疫法による感染症原因菌の検出には、菌種によって様々なマーカー抗原と抗体の組み合わせが使われている。
【0004】
レジオネラ属に属する細菌(以下、単に「レジオネラ菌」という。)は、土壌や河川など自然環境に広く分布するブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌で、細菌や藻類などの代謝産物を栄養源にしたり、アメーバーなどの原生動物の体内に寄生することにより増殖することが確認されているが、人への感染例は稀であるとされてきた。しかし、近年レジオネラ菌による院内感染や循環風呂汚染での感染がもとで、レジオネラ症と呼ばれる肺炎等を引き起こすことが報告され、特に高齢者では死亡例も数多く報告されるに至っている。レジオネラ菌によって起こされる感染症には、βラクタム剤などの通常の一次選択抗生剤が無効であり、有効な治療がほどこされないと重症化しやすいことが知られている。このようにレジオネラ菌の感染は社会的にも問題視されており、臨床サンプルのみならず環境水を対象とした簡便かつ迅速なレジオネラ菌の早期検出方法の確立が望まれている。
【0005】
従来レジオネラ菌の検出のためには培養法が用いられてきたが、レジオネラ菌は日常の検査で使用される培地では生育せず、特殊培地が必要であること、さらにレジオネラ菌は増殖が遅いためこの方法では検査に数日を要するという欠点がある。
【0006】
また、レジオネラ菌の遺伝子情報を基づいた遺伝子法についても開発が試みられている。例えば特許文献1にはレジオネラ菌の23Sあるいは16SのリボゾーマルRNA、あるいはリボゾーマルDNAとハイブリダイズ可能な遺伝子配列情報が開示されている。さらに、レジオネラ菌の遺伝子配列に基づき、PCR(polymerase chain reaction)法、さらにはLAMP(Loop-Mediated Isothermal Amplification)法により種々の遺伝子を増幅させることで検出することも試みられている。
【0007】
近年では、免疫法によるレジオネラ菌の検出も盛んに試みられている。
レジオネラ菌検出用の抗体としては、例えば、特許文献2に報告されているものがある。特許文献2では、本質的にタンパク質非含有のO-糖質抗原またはO-多糖質抗原をレジオネラ菌の種、または種の血清群から分離してクロマトグラフィーカラムに結合し、これを使用してレジオネラ菌のひとつの血清型に対する粗抗体の精製を行っている。このようにして得られる抗原特異的抗体は、レジオネラ症、ポンティアック熱およびその他のレジオネラ菌が起因した疾患の検出のため、ならびに環境試料中のレジオネラ菌の検出のための免疫化学的アッセイ法において使用されることが記載されている。
【0008】
また、非特許文献1には、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)の血清型に特異的な複数のモノクローナル抗体が記載されている。
【0009】
一方、特許文献3には、種特異的であり、かつ同一種内のすべての血清型を検出できる微生物検出用抗体とその作製法、微生物検出方法及び微生物検出用試薬キットが記載されている。特許文献3では、各種の微生物について細胞内のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原に対する抗体を作製し、対象微生物に特異的に反応する抗体を選択する。この抗体を用いて微生物を検出している。
【0010】
さらに特許文献4には、レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12に対する抗体を選択することにより、レジオネラ菌に属する4種の細菌を特異的かつ選択的に検出できること、及び異なる血清型のレジオネラ・ニューモフィラであっても種特異的に検出できることが記載されている。
【0011】
一方、非特許文献2には、レジオネラ菌の一種であるレジオネラ・ニューモフィラの血清1型に感染した患者から、非侵襲的に採取できる尿を検体に、レジオネラ菌由来の抗原に対する抗体を用いたEIA法により測定している。この方法は、臨床上も有用で広く用いられているが、治癒によってレジオネラ菌感染の症状が消失した後も、長いものでは1年もの間、長期間に渡って尿中に当該抗原が検出され続けるという現象が観察されており、臨床症状やレジオネラ菌感染の増悪や治癒を適切に評価することができないという問題点がある。
【0012】
ところで、特許文献5には、肺炎球菌のリボゾーム蛋白質L7/L12に対する抗体を用いて、患者の肺炎球菌に起因する病態を検査する方法が開示されている。この方法は、患者の肺中肺炎球菌数と患者の血清中の肺炎球菌のリボゾーム蛋白質L7/L12の量が相関するとの知見に基づいたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】国際公開WO94/28174号パンフレット
【特許文献2】特表2002−523030号公報
【特許文献3】国際公開WO00/06603号パンフレット
【特許文献4】特開2010−248129号公報
【特許文献5】特開2010−276441号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Helbig J H et al, Zentralblatt fuer Bakteriologie = International journal of medical microbiology : medical microbiology, virology, parasitology, infectious diseases (June 1994), Vol.281, No.1, pp16-23
【非特許文献2】N. Sopena et al, Factors Related to persistence of Legionella Urinary Antigen excretion in Patients with Legionnaires'Disease : Eur J Microbiol Infect Dis (2002) 21:845-848
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記の通り、従来報告されているレジオネラ菌の抗原に対する抗体を用いて尿中のレジオネラ菌を検出する検査方法では、症状が治癒しても、尿中抗原の陽性化が維持されるため、偽陽性の懸念があり、治療の効果を正しく判断することが不可能であった。
【0016】
そこで、本発明の課題は、レジオネラ菌感染が疑われる患者に対して、迅速かつ簡便に侵襲的苦痛を与えることなく、レジオネラ菌により肺炎・気管支炎を罹患している患者の増悪度を反映できる偽陽性の少ないレジオネラ菌に起因する病態の検査方法及び検査キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、前述した臨床応用されているレジオネラ菌由来の尿中抗原の陽性反応が感染の治癒後も持続することに注目し、深く洞察した。すなわち一般に臨床応用されている尿中のレジオネラ・ニューモフィラ血清型1 LPS抗原の検出を行えるキットを用いて、レジオネラ菌感染モデルマウスの肺組織破砕液や血清、尿中抗原を探索したところ、LPS抗原は肺内の生菌数が消失しても肺内に持続して存在しており、これが、尿中に長期にわたって排出されているという事実を見出した。このため、かかる課題を解決するためには、治癒や治療に伴い肺内の生菌数が変化した際に、その濃度が速やかに変化することを特徴とする抗原によって検出する必要があると仮説を立てた。
【0018】
モデルマウスを用いて鋭意研究を重ねた結果、レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原に対する抗体を使用して、肺組織破砕液中の同抗原を検出したところ、肺内の生菌数の増減に伴い速やかにその抗原濃度が変化することおよび、その濃度変化が尿中の抗原濃度にも反映されるという実験事実を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、下記の通りである。
【0019】
(1) レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と反応する抗体を用いて、患者の下気道検体、尿又は血液における該抗原を検出することを含む、レジオネラ菌に起因する病態を検査する方法。
(2) 抗体がモノクローナル抗体である、(1)に記載の方法。
(3) 抗体が、レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と種特異的または属選択的に反応することを特徴とする、(1)又は(2)に記載の方法。
(4) レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と種特異的または属選択的に反応する抗体を少なくとも1種類以上用いてサンドイッチイムノアッセイを行うことを特徴とする、(1)から(3)の何れか1項に記載の方法。
(5) イムノクロマトグラフィーによるサンドイッチイムノアッセイを行うことを特徴とする、(4)に記載の方法。
(6) レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と反応する抗体を用いて、患者の下気道検体、尿又は血液における該抗原を検出し、該検出結果に基づいて、レジオネラ菌の感染の増悪または治癒を評価する、(1)から(5)の何れか1項に記載の方法。
(7) レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と反応する抗体を用いて、レジオネラ菌の感染に対する治療用薬剤を投与した患者の下気道検体、尿又は血液における該抗原を検出することを含む、該治療用薬剤の有効性を評価する方法。
(8) レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と反応する少なくとも1種類の抗体を含む、(1)から(7)の何れか1項に記載の方法を行うための検査キット。
(9) レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と反応する少なくとも1種類の抗体が、水不溶性の基材の表面に固定化されている、(8)に記載の検査キット。
【発明の効果】
【0020】
本発明の検査方法によれば、レジオネラ菌感染患者の下気道検体、尿検体又は血液検体から菌に由来する抗原蛋白質を迅速かつ簡便に検出することができ、これによりレジオネラ菌により肺炎・気管支炎を罹患している患者を特異的に検出することができる。特に、本発明の検査方法によれば、レジオネラ菌による病態との相関性が高いことを特徴とする、レジオネラ菌感染患者の尿検体におけるレジオネラ菌を検出する方法を提供できるため、従来報告されている症状が治癒しても、尿中抗原の陽性化が維持され偽陽性の懸念があるという問題点を克服し、治療の効果を正しく判断することが可能となる。また、本発明の方法においては、その測定される抗原濃度が肺中に感染している生菌数の増減に伴い、速やかに変化することにより、抗菌薬の投与により感染菌が減少した場合、治療効果と直結した検査結果を提供することが可能であり、病態特異性の高いレジオネラ菌検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例における感染後の日数と肺組織破砕液中のレジオネラ菌の生菌数との関係を示す図である。
【図2】比較例における感染後の日数と肺組織破砕液中のLPS抗原の測定値との関係を示す図である。
【図3】比較例におけるLPS抗原の測定値と肺組織破砕液中のレジオネラ菌の生菌数との相関を示す図である。
【図4】実施例における感染後の日数と肺組織破砕液中のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原の測定値との関係を示す図である。
【図5】実施例における肺組織破砕液中のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原の測定値と肺組織破砕液中のレジオネラ菌の生菌数との相関を示す図である。
【図6】実施例における感染後の日数と肺組織破砕液中のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原の測定値との関係を示す図である。
【図7】実施例における感染後の日数と尿中のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原の測定値との関係を示す図である。
【図8】実施例における尿中のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原の測定値と肺組織破砕液中のレジオネラ菌の生菌数との相関を示す図である。
【図9】イムノクロマトグラフィー装置の一例を示す断面模式図である。1は基材、2は標識抗体含浸部材、3はクロマト展開用膜担体、4は吸収用部材、5は試料添加用部材、6は捕捉部位を示す。
【図10】実施例のキットによる尿中のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原の検出結果と肺組織破砕液中のレジオネラ菌の生菌数との関係を示す図である。
【図11】感染48時間後の肺中レジオネラ菌数の血清型及び菌種による差異を示す図である。
【図12】肺組織破砕液中のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原の測定値の血清型及び菌種による差異を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明におけるレジオネラ菌は、レジオネラ属に属する細菌である限り特に限定されず、例えば、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、レジオネラ・サインテレンシ(Legionella sainthelensi)、レジオネラ・ロングビーチェ(Legionella longbeachae)、レジオネラ・デュモフィ(Legionella dumoffi)、レジオネラ・ボゼマニ(Legionella bozemanii)、及びレジオネラ・ミクダデイ(Legionella micdadei)を挙げることができるがこれらに限定されない。
【0023】
レジオネラ・ニューモフィラの血清型1がレジオネラ菌による感染症の起因菌として有名であるが、レジオネラ菌である限り血清型は特に限定されない。
【0024】
本発明で用いる抗体は、好ましくは、レジオネラ菌と種特異的または属選択的に反応し、レジオネラ菌以外の菌と反応しないことを特徴とする。ここでいうレジオネラ菌以外の細菌としては、患者の下気道検体または尿中に混在しうる細菌、例えばEscherichia coli, Enterrococcus faecalis, Haemophilus influenzae, Klebsiella pneumoniae, Moraxella catrrharis, Neisseria gonorrhoeae, Neisseria lactamica, Neisseria meningitides, Pseudomonus aeruginosa, Streptococcus agalactiae, Streptococcus aureus, Streptococcus pneumoniae, Streptococcus pyogenes, Mycoplasma pneumoniae, Chamydia pneumoniae, Streptococcus salivarius, Streptococcus mitis, Streptococcus sanguis, Streptococcus mitior, Streptococcus mutans, Haemophilus parainfluenzae, Haemophilus parahaemoliticus, Serratia marcescens, Baclllus subtilis, Proteus mirabilis, Propionibacterium acens, Stapylococcus epidermidisなどを挙げることができる。
【0025】
好ましくは、本発明で用いる抗体は、レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と種特異的または属選択的に反応する抗体である。ここで、「種に特異的」とは、レジオネラ属に属するある特定の種の細菌(たとえばレジオネラ・ニューモフィラの全血清型)とのみ反応し、レジオネラ属以外の他の属に属する細菌、並びにレジオネラ属に属する上記特定の種以外の種の細菌とは反応しないことを意味する。また、「属に選択的」とは、レジオネラ属に属する一部またはすべての細菌とのみ反応し、レジオネラ属以外の他の属に属する細菌とは反応しないことを意味する。
【0026】
本発明で用いる抗体は、ポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の何れでもよいが好ましくはモノクローナル抗体であることが望ましい。
【0027】
本発明で用いる抗体は、レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12の全長あるいはその部分ペプチドを抗原として用いて作製することができる。レジオネラ・ニューモフィラのリボゾーム蛋白質L7/L12のアミノ酸配列は公知であり、例えば、特開2004−201605号公報の配列番号2に記載されている。
【0028】
抗体を作製するためのペプチドの長さは特に限定されないが、レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原に対する抗体の場合、この蛋白質を特徴づけられる長さがあれば良く、好ましくは5アミノ酸以上、特に好ましくは8アミノ酸以上のペプチドを用いれば良い。このペプチドあるいは全長蛋白質をそのまま、またはKLH(keyhole−limpet hemocyanin)やBSA(bovine serum albumin)といったキャリア蛋白質と架橋した後必要に応じてアジュバントとともに動物へ接種せしめ、その血清を回収することでリボゾーム蛋白質L7/L12抗原を認識する抗体(ポリクローナル抗体)を含む抗血清を得ることができる。また抗血清より抗体を精製して使用することもできる。接種する動物としてはヒツジ、ウマ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等であり、特にポリクローナル抗体作製にはヒツジ、ウサギなどが好ましい。また、ハイブリドーマ細胞を作製する公知の方法によりモノクローナル抗体を得ることも可能であるが、この場合はマウスが好ましい。また該蛋白質の全長またはアミノ酸5残基以上、望ましくは8残基以上の部分ペプチドをGST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)などと融合させたものを精製して、または未精製のまま、抗原として用いることもできる。成書(Antibodies a laboratory manual,E.Harlow et al.,Cold Spring Harbor Labolatory)に示された各種の方法ならびに遺伝子クローニング法などにより分離されたイムノグロブリン遺伝子を用いて、細胞に発現させた遺伝子組み換え抗体によっても作製することができる。
【0029】
本発明で用いるレジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原に対する抗体は、以下のa)またはb)記載の方法、あるいはその他の類似の方法によって取得することができるが、これらの方法に限定されるものではない。
【0030】
a)レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12の遺伝子配列は公知であるため、他のリボゾーム蛋白質L7/L12の遺伝子配列が公知な微生物における該蛋白質のアミノ酸配列との類似性が少ない領域についてアミノ酸数5個から30個ほどのペプチド断片を合成し、それを免疫原としてポリクローナル抗体、あるいはモノクローナル抗体を作製することにより目的の抗体を取得することができる。
【0031】
b)また、既知の該遺伝子の両端部位におけるDNA配列をプローブとしたPCR手法による遺伝子増幅、相同部分配列を鋳型プローブとしたハイブリダイゼーション法など通常の遺伝子操作手法を用いることにより該遺伝子の全長配列を取得することができる。その後、他の蛋白質遺伝子とのフュージョン遺伝子などを構築し、大腸菌等を宿主として公知の遺伝子導入手法により宿主内に該当フュージョン遺伝子を挿入し大量に発現させた後にフュージョン蛋白質として用いた蛋白質に対する抗体アフィニティーカラム法などにより発現蛋白質を精製することにより目的とする蛋白質抗原を取得することができる。
【0032】
この場合、レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12の全長蛋白質が抗原となるため、異なる微生物間で保存されているアミノ酸部分に対する抗体を取得しても本発明の目的に合致しない。従って、本法によって取得した抗原に対しては公知の手法によりモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを取得し、レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12とのみ反応する抗体を産生するクローンを選択することにより目的の抗体を取得することができる。
【0033】
抗原となるリボゾーム蛋白質L7/L12の精製度が不足している場合は、公知の精製手法であるイオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲル濾過などの手法により精製した後、特開2004-201605号公報に記載のすでに作製した抗体によるウェスタンブロットなどの方法によりレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12の溶出画分を同定しさらに精製度の高い蛋白質を得ることができる。得られた精製レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗原を基にして公知の方法によりハイブリドーマあるいはポリクローナル抗体を取得し、同様に目的の微生物に特異的に反応するハイブリドーマあるいはポリクローナル抗体を選択することにより目的の抗体を取得することができる。
【0034】
前記a)などの方法によって取得した本発明で用いる抗体は、例えばポリスチレンラテックス粒子上に該抗体を吸着させた凝集反応、マイクロタイタープレート中で行う公知技術であるELISA法、既存のイムノクロマト法、着色粒子もしくは発色能を有する粒子、または酵素もしくは蛍光体でラベルされた該抗体とともに捕捉(capture)抗体で被覆した磁気微粒子などを用いるサンドイッチアッセイなど既知の免疫測定手法に利用することにより、レジオネラ菌に起因する病態の検査キットとして提供することができる。
【0035】
本発明のレジオネラ菌に起因する病態の検査方法においては、例えばポリスチレンラテックス粒子上にレジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原に対する抗体を吸着させた凝集反応、マイクロタイタープレート中で行う公知技術であるELISA法、既存のイムノクロマト法、着色粒子もしくは発色能を有する粒子、または酵素もしくは蛍光体でラベルされた該抗体とともにcapture抗体で被覆した磁気微粒子などを用いるサンドイッチアッセイなどの既知の免疫測定手法を利用して、レジオネラ菌感染患者の下気道検体、尿又は血液におけるレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗原を検出することができる。
【0036】
下気道検体とは、喀痰、気管支肺胞洗浄液、肺生検組織、肺組織破砕物などを意味する。
【0037】
本発明の検査方法において必要となる微生物からの細胞内マーカー抗原であるリボゾーム蛋白質L7/L12の抽出方法としては、トリトンX−100(Triton X−100)、ツイーン−20(Tween−20)をはじめとする種々の界面活性剤を用いた抽出試薬による処理法、適当なプロテアーゼなどの酵素を用いる酵素処理法、物理的方法による微生物細胞の破砕をはじめ既知の細胞構造の破砕手法が用いられうるが、界面活性剤等の組み合わせにより微生物ごとに試薬による最適な抽出条件を設定することが望ましい。
【0038】
本発明で使用される抗体は、公知の測定手法であるポリスチレンラテックス粒子上に該抗体を吸着させた凝集反応、マイクロタイタープレート中で行う公知技術であるELISA法、既存のイムノクロマト法、着色粒子もしくは発色能を有する粒子、または酵素もしくは蛍光体でラベルされた該抗体とともにcapture抗体で被覆した磁気微粒子などを用いるサンドイッチアッセイなど既知の全ての免疫測定手法に利用できる。
【0039】
公知技術であるサンドイッチELISAやイムノクロマト法を用いる場合、少なくても1種類以上のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12に対する、種または属に特異的な抗体を用いることで、該レジオネラ菌由来の抗原を特異的に検出できる。すなわち2種類の異なるレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12に対するモノクローナル抗体を用いることも可能であるし、また1種類のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12に対するモノクローナル抗体と、他方は広く様々な菌種のリボゾーム蛋白質L7/L12に交差する抗体でサンドイッチイムノアッセイを行うことも本発明には好適であり、さらに上記にレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12に対するポリクローナル抗体を用いることも可能である。
【0040】
サンドイッチイムノアッセイを行うためには、抗原の異なる部位に結合する2種類の抗体(一次抗体と二次抗体)が必要となるが、抗体の組み合わせをスクリーニングすることで得ることができる。
【0041】
また本発明で使用する抗体は全ての免疫測定手法において当該抗原蛋白質を固相あるいは液相中で捕獲するcapture抗体として機能しうると同時にパーオキシダーゼやアルカリフォスファターゼなどの酵素を公知の方法により修飾することによりいわゆる酵素標識抗体としても機能しうる。
【0042】
レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原に対する抗体を使用して、肺組織破砕液中の同抗原を検出したところ、肺内の生菌数の増減に伴い速やかにその抗原濃度が変化することおよび、その濃度変化が尿中の抗原濃度にも反映されるという驚くべき実験事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0043】
本発明においては、レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原に対する抗体を用いて、患者の下気道検体、尿又は血液におけるレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12を測定し、該測定結果に基づいて該患者の肺中の感染菌数を評価して該患者の病態を評価することができる。患者の病態の評価としては、例えば、レジオネラ菌の感染の増悪または治癒を評価することができる。患者の下気道検体または尿中のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12の量の濃度変化が、該患者の肺中の生菌数変化に速やかに追随することは、本発明により初めて見出された知見であり、これにより、患者の下気道検体または尿中のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12を検出することによって、該患者のレジオネラ菌に起因する病態を検査することが可能になった。即ち、本発明によるレジオネラ菌に起因する病態を検査する方法とは、患者の肺中のレジオネラ菌を検出する方法、患者の肺中のレジオネラ菌数を評価する方法、患者の肺中のレジオネラ菌の生菌数の変化を評価する方法、又はレジオネラ菌の感染の増悪または治癒を評価する方法などを包含する概念である。
【0044】
さらに本発明によれば、レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と反応する抗体を用いて、レジオネラ菌の感染に対する治療用薬剤を投与した患者の下気道検体、尿又は血液における該抗原を検出することによって、該治療用薬剤の有効性を評価することも可能である。
【0045】
また、本発明によれば、レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と反応する少なくとも1種類の抗体を含む、上記した本発明による患者のレジオネラ菌に起因する病態の検査方法を行うための検査キットが提供される。好ましくは、上記したレジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と反応する少なくとも1種類の抗体は、水不溶性の基材の表面に固定化することができる。
【0046】
本発明の検査キットで用いることができる基材とは、水溶液と界面を形成することが可能な固体、ならびにそれらの表面を改質してなる固体である。基材の材質としては、入手のしやすさや安定性、安全性、成形性および滅菌性に優れるという点でポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ナイロン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリルアミド、ポリウレタン等の合成高分子、アガロース、セルロース、ニトロセルロース、酢酸セルロース、キチン、キトサン、アルギン酸塩等の天然高分子自体ならびにそれを架橋した構造体や改質した構造体、ヒドロキシアパタイト、ガラス、アルミナ、チタニア等の無機材料、ステンレス、チタン、アルミニウム等の金属を用いることができる。中でも合成高分子や天然高分子誘導体が好ましい。また基材の形状としては平板、メッシュ、織布、不織布、スポンジ状構造体、3次元成型体(ブロック状)等で用いることができる。中でもキットの構成成分として抗体を固定化するために、ELISA用の透明で平板状のプレート基材や、イムノクロマトグラフィー用のニトロセルロース多孔質体は、特に本発明に好適である。
【0047】
本発明において、基材表面への抗体の固定化においては、基材表面に抗体分子が直接結合していてもよいし、または活性基を介して結合していてもよい。基材から抗体分子または活性基が基材表面に固定化された状態であれば、いずれの結合状態であってもよい。結合状態としては、共有結合、イオン結合、ファンデルワールス結合、水素結合または疎水結合の単独またはこれら複数の合力があげられる。特に抗体溶液と基材表面との単純な接触による部物理的な吸着法は、簡便で本発明に特に好適に用いられる。また抗体の吸着後に基材表面を洗浄や乾燥させること、あるいは基材表面に抗体溶液を塗布後に水分を蒸発せしめて基材表面に抗体を固定化する方法も、本発明に極めて好適に使用することができる。
【0048】
本発明の検査キットには、検体を希釈する溶液、及び/またはレジオネラ菌を溶解して細胞内成分を抽出するための溶液を必要に応じて含めてもよいが、これらは必ずしも含めなくてもよい。検体を希釈する溶液としては、リン酸、炭酸、トリス塩酸、各種グッドバッファーなどの緩衝液、トリトンX−100(TritonX−100)やツイーン−20(Tween−20)をはじめとする種々の界面活性剤、アルブミン、カゼインなどの蛋白質などを含む水溶液を用いることができるが、水溶液の成分内容はこれらに限定されない。また、本発明の検査キットには、検体を採取するための綿棒やスポイトまたは容器、希釈溶液と検体を混合するための容器、検体溶液を基材に添加するためのスポイト状または他の形状の容器などを必要に応じて含めてもよいが、これらは必ずしも含めなくてもよい。
【0049】
本発明を以下の実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0050】
<製造例1>
以下の実施例では、レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗原に対する抗体として、特許文献4に記載のRELPAM-8とRELPAM-1、又はRELPAM-14とRELPAM-16を使用した。これらの抗体の取得方法を以下に記載する。
【0051】
(1)レジオネラ・ニューモフィラリボゾーム蛋白質L7/L12抗体を産生するハイブリドーマの取得
特開2004-201605号公報の実施例3に記載のプラスミドpGEX-Leg16.L7/L12を含有する大腸菌DH5α形質転換体を用いて、同報実施例記載の方法に従い抗レジオネラ・ニューモフィラリボゾーム蛋白質L7/L12抗体を産生するハイブリドーマを取得するための免疫源としてのLegionellaリボゾーム蛋白質L7/L12蛋白質精製物を調整した。さらに当該リボゾーム蛋白質L7/L12を用い、特開2004-201605号公報の実施例4に記載の方法に従い、同報記載のハイブリドーマLPAM-1〜4とは別に、新たにレジオネラリボゾーム蛋白質L7/L12に対する抗体を産生するRELPAM-1からRELPAM-18の18株のハイブリドーマを取得した。
【0052】
(2)レジオネラ・ニューモフィラリボゾーム蛋白質L7/L12抗体を産生するハイブリドーマ用いた抗体生産と酵素標識
上記(1)にて取得したRELPAM-1からRELPAM-18のハイブリドーマを定法に従い培養、精製しモノクローナル抗体をそれぞれ回収した。具体的には各ハイブリドーマを種細胞増殖用培地としてウシ胎児血清(FBS)を10%添加したTIL MediaI培地(IBL社製)5mlで1〜2×105個/ml程度となるように希釈し、5%CO2、37℃、25cm2培養フラスコ中で2-3日培養した。5〜10×105個/ml程度に増殖した細胞を、さらに75cm2培養フラスコ中にて同様に増殖させた後、1〜2×105個/ml程度となるように同様のFBS入り培地で希釈しローラーボトル中へ250mlに継代した。5%CO2、37℃で2-3日培養した後、さらに250mlのFBS入り清培地を追加して2-3日間培養を継続した。5〜10×105個/ml程度にまで増殖させた後、すべての細胞を回収し、同量の無血清培養用培地(ASF0104N 味の素社)に置換した。 4〜7日間培養したのち培養液を回収して2500rpm、10分の遠心により目的とする抗体を含む培養上清を取得した。 培養上清は、ポアサイズ0.45μmで無菌濾過し、0.1%のアジ化ソーダ添加後4℃で保存した。取得した培養上清を0.05mole/lリン酸緩衝液(pH7)で5倍希釈後Hitrap-proteinGカラム(アマシャム社製、5ml)に吸着させ、リン酸緩衝液で5ベッドボリューム分洗浄後pH2.5の0.1Mグリシン-塩酸緩衝液で溶出し、フラクションを回収して各ハイブリドーマの産生するモノクローナル抗体を得た。
【0053】
<実施例1>
レジオネラ・ニューモフィラ血清型1感染モデルマウス実験−1:レジオネラ・ニューモフィラ血清型1感染マウスの作製と感染経緯における肺中に感染した菌数の測定
本実験におけるレジオネラ菌感染モデルマウスは以下に記載の条件にて作製した。
実験にはA/J系統の6-7週齢メスのマウスを使用し、それぞれのマウスの気管に1E+07cfu/ml濃度のレジオネラ・ニューモフィラ血清型1を30μl、滅菌した26ゲージの注射針を使用して投与し感染させたのち、傷口をサージカルステープルを使って閉鎖した。使用したレジオネラ・ニューモフィラ血清型1は、BCYE寒天培地で37℃、4日間培養した後、単一コロニーを3mlのBYE培地に添加し、攪拌しながら37℃で一晩培養した菌を、再び新しいBYE培地3mlに添加し、攪拌しながら37℃で一晩培養した。この培養液を、1E+07cfu/ml濃度に生理食塩水で希釈して、感染実験に使用した。菌濃度は、あらかじめ菌濁度から菌数を導き出しておいた係数を用いて計算した。感染後、それぞれ日数を変えて、全肺、血清、尿を採取し、冷凍保存または実験に使用した。
【0054】
以下に記載の条件にて肺組織破砕液を作製して、肺中のレジオネラ・ニューモフィラ感染菌数を測定した。全肺を1mlの生理食塩水中でホモジナイザーを使って破砕し、生理食塩水で1:10ずつ段階的に希釈した液10μlをBCYE寒天培地に添加して培養し、出現したコロニーの数(colony forming unit, cfu)を数えた。図1にはこれらの結果を、縦軸を生菌数の対数表示で示した。
【0055】
図1に示すように、肺中のレジオネラ・ニューモフィラ感染菌数は、レジオネラ・ニューモフィラ血清型1投与後1日目から2日目にかけて増え、レジオネラ肺炎が確認された。その後徐々に菌が減少し2週間後には完全に消失した。
【0056】
<比較例1>
レジオネラ・ニューモフィラ 血清型1 LPS抗原検出イムノクロマトキット(BinaxNOWレジオネラ:インバネス・メディカル・ジャパン株式会社):肺組織破砕液の測定
実施例1で作成したレジオネラ・ニューモフィラ血清型1感染モデルマウスから得た肺組織破砕液中のレジオネラ・ニューモフィラ血清型1由来のLPS抗原を、市販のレジオネラ・ニューモフィラ血清型1 LPS抗原検出イムノクロマトキット(BinaxNOWレジオネラ)に供し評価した。肺組織破砕液は生理食塩水で5-10倍に希釈したものを検体とし、BinaxNOWレジオネラキットの仕様書に記載の方法に従い測定した。
【0057】
キットに出現した赤紫色ラインの濃さは、捕捉した抗原量を反映するため、この赤紫色ラインの濃さをイムノクロマトリーダーを用いて数値化し、評価した。用いた装置は、イムノクロマトリーダーC10066(浜松ホトニクス社製)で反射光の強度を測定しラインの赤紫色を吸光度に換算して表すことで数値化する。なお目視で陽性と判別できるレベルはこの装置で測定した数値が10以上である。
BinaxNOWレジオネラキットで測定したLPS抗原濃度の経時的変化を図2に、LPS抗原濃度と肺中レジオネラ・ニューモフィラ感染菌数の相関を図3に示す。
【0058】
これによると、肺中レジオネラ・ニューモフィラ感染菌数がピークのときは非常に強い陽性を示しているが、その後、肺中レジオネラ・ニューモフィラ感染菌数が減少、消失しても、陽性のシグナルを示した。すなわち、過去にレジオネラ・ニューモフィラ血清型1に感染の経験がある肺中には、長期間レジオネラ・ニューモフィラ血清型1由来のLPS抗原が残存していることが確認された。
【0059】
<実施例2>
レジオネラ・ニューモフィラ血清型1感染モデルマウス実験−2:感染マウスの肺組織破砕液中のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12濃度のELISAによる測定
実施例1に記載の方法で作成したレジオネラ・ニューモフィラ血清型1感染マウスの肺組織破砕液中のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12濃度を、2種類のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗原に対する抗体として、特許文献4記載のRELPAM-8とRELPAM-1とを用いたサンドイッチ系ELISA法にて測定した。この抗体の組合せは、レジオネラ・ニューモフィラのリボゾーム蛋白質L7/L12に特異的または属に選択的な抗体同士の組合せである。
【0060】
具体的には1次抗体RELPAM-8の10μg/ml、PBS溶液50μlを96穴ELISAプレート(Nunc社MaxsorpELISAプレート)に分注し4℃で一晩吸着させた。上澄み除去後、1%牛血清アルブミン溶液(PBS中)200μl添加し室温で1時間反応させてブロッキングした。上澄み除去後洗浄液(0.02%Tween20、PBS)で数回洗浄し、検体としてあらかじめ20分間アルカリ処理した肺組織破砕液の処理液50μl、陰性コントロールには、肺組織破砕液の代わりに生理食塩水を同様に処理したものを添加し室温にて1時間反応させた。肺組織破砕液のアルカリ処理は、検体100μlに抽出液(1% TritonX100)25μlと1N NaOH 5μlを添加して攪拌し、20分放置後、希釈液(0.02%Tween20、PBS)25μlと1N HCl 5μlを添加、攪拌して行った。検体反応後、上澄み除去後洗浄液で数回洗浄し、パーオキシダーゼ標識した2次抗体RELPAM-1を0.02%Tween20、PBSにて最終濃度1μg/mlになるように希釈してそれぞれ50μl添加し室温にて1時間反応させた。上澄み除去後さらに洗浄液で数回洗浄したのち、TMB溶液(KPL社製)を100μlずつ加え室温10分間反応させた後1mol/lの塩酸を100μl添加し反応を停止し、450nmの吸光度を測定した。スタンダードには遺伝子組み換え法によって作製したレジオネラ・ニューモフィラのリボゾーム蛋白質L7/L12を用いて検量線を作成し、肺組織破砕液中のL7/L12濃度を算出した。
【0061】
肺中レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12濃度の経時的変化を図4に、L7/L12濃度と肺中レジオネラ菌数の相関を図5に示す。
肺中のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12濃度は、肺中レジオネラ・ニューモフィラ感染菌数と同じく2日目に最大値となり、その後速やかに減少していき、肺中にレジオネラ・ニューモフィラが存在しない状態では、レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12は検出されないことが証明された。さらに、図5を見て明らかなように、肺中レジオネラ・ニューモフィラ感染菌数と非常によく相関することから、診断指標として好適であることが示唆された。
【0062】
<実施例3>
レジオネラ・ニューモフィラ血清型1感染モデルマウス実験−3:感染マウスの肺組織破砕液中のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12濃度のELISAによる測定
実施例1に記載の方法で作製したレジオネラ・ニューモフィラ血清型1感染マウスの肺組織破砕液中の、レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12濃度を、2種類のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗原に対する抗体として、特許文献4記載のRELPAM-14とRELPAM-16とを用いたサンドイッチ系ELISA法にて測定した。この抗体の組合せは、レジオネラ・ニューモフィラのリボゾーム蛋白質L7/L12に特異的または属に選択的なRELPAM-14と、各種細菌のリボゾーム蛋白質L7/L12と広く反応する抗体であるRELPAM-16との組合せである。具体的には実施例2に記載の方法に準じて行った。
【0063】
図6に示すように、サンドイッチ系ELISA法において少なくとも一方の抗体がレジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12に種または属特異的な抗体であれば、実施例2の図4と同様の挙動を示し、肺中の菌量の動きに合わせてレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12が検出できることが証明された。
【0064】
<実施例4>
レジオネラ・ニューモフィラ血清型1感染モデルマウス実験−4:感染マウスの尿中のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12濃度のELISAによる測定
実施例1に記載の方法で作製したレジオネラ・ニューモフィラ血清型1感染マウスから採取した尿検体中のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12濃度を、実施例2に記載のサンドイッチ系ELISA法にて測定した。
尿中レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12濃度の経時的変化を図7に、リボゾーム蛋白質L7/L12濃度と肺中レジオネラ・ニューモフィラ感染菌数の相関を図8に示す。
【0065】
尿中のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12濃度は、肺中レジオネラ・ニューモフィラ感染菌数および実施例2に示した肺中レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12濃度と同じく2日目に最大値となり、その後速やかに減少していき、肺中にレジオネラ・ニューモフィラが存在しない状態では、レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12は検出されないことが証明された。さらに、図8で明らかなように肺中レジオネラ・ニューモフィラ感染菌数と非常によく相関することから、診断指標として好適であることが示唆された。
【0066】
<実施例5>
レジオネラ・ニューモフィラ血清型1感染モデルマウス実験−5:感染マウスの尿検体を用いた、レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗体を採用したイムノクロマトキットと、レジオネラ・ニューモフィラ血清型1 LPS抗原検出イムノクロマトキット(BinaxNOWレジオネラ)の挙動比較
実施例1に記載の方法で作製したレジオネラ・ニューモフィラ血清型1感染マウスから採取した尿検体を、下記に記載の方法で作製したレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗体を採用したイムノクロマトキットと、レジオネラ・ニューモフィラ血清型1 LPS抗原検出イムノクロマトキット(BinaxNOWレジオネラ)に供し、両キットでの検出の様子すなわちキット上の赤紫色ラインの有無を目視で判定した。
【0067】
1)レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗体を採用したイムノクロマトキットの構成
レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗体を採用したイムノクロマトキットの構成方法を以下に示す。
(a)金コロイド標識レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗体の調整
金コロイド標識するレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗体には特許文献4記載のモノクローナル抗体RELPAM-1を使用した。BBInternational社製金コロイド溶液(粒径60nm)0.9mlに0.1M リン酸カリウム pH7.5を混合し、金コロイド標識するレジオネラ菌リボゾーム蛋白質 L7/L12抗体RELPAM-1, 25μg/mLを加え室温で10分間静置し、この抗体を金コロイド粒子表面に結合させた後、金コロイド溶液における最終濃度が1%となるようにウシ血清アルブミン(BSA)10%水溶液を加え、この金コロイド粒子の残余の表面をBSAでブロッキングして、金コロイド標識抗リボゾーム蛋白質L7/L12抗体(以下、「金コロイド標識抗体」と記す)溶液を調製した。この溶液を遠心分離(15000×rpm、5分間)して金コロイド標識抗体を沈殿せしめ、上清液を除いて金コロイド標識抗体を得た。この金コロイド標識抗体を0.25%BSA、2.5%スクロース、35mM NaClを含有する20mMトリス塩酸緩衝液(pH8.2)に懸濁して金コロイド標識抗体溶液を得た。
【0068】
(b)レジオネラ菌リボゾーム蛋白質 L7/L12抗原測定用イムノクロマトグラフィー装置の作製
図9に示されるイムノクロマトグラフィー装置を下記の手順で作成した。
(b−1)レジオネラ菌リボゾーム蛋白質 L7/L12抗原と金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位
捕捉部位に固定するレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗体には特許文献4記載のモノクローナル抗体RELPAM-8を使用した。
幅25mm、長さ300mmのニトロセルロース膜をクロマトグラフ媒体のクロマト展開用膜担体3として用意した。レジオネラ菌リボゾーム蛋白質 L7/L12抗体RELPAM-8, 1.5mg/mlが含有されてなる溶液を、このクロマト展開用膜担体3におけるクロマト展開開始点側の末端から10mmの位置に1μL/cmでライン状に塗布して、これを50℃で30分間乾燥し、その後、0.5%カゼイン溶液に浸し、次いで0.2%スクロース溶液に浸し、一晩室温で乾燥させた。レジオネラ菌リボゾーム蛋白質 L7/L12抗原と金コロイド標識抗体との複合体の捕捉部位6とした。
【0069】
(b−2)金コロイド標識抗体含浸部材
10mm×300mmの帯状のグラスファイバーパットに、金コロイド標識抗体溶液2mLを含浸せしめ、これを凍結乾燥させて金コロイド標識抗体含浸部材2とした。
(b−3)イムノクロマトグラフィー装置の作製
上記クロマト展開用膜担体3、上記標識抗体含浸部材2の他に、試料添加用部材5として綿布と、吸収用部材4として濾紙を用意した。そして、これらの部材を基材1に貼り合せた後、5mm幅に切断し、図9と同様のイムノクロマトグラフィー装置を作製した。
【0070】
2)試験
イムノクロマトキットによる尿中のレジオネラ・ニューモフィラ血清型1由来LPS抗原(BinaxNOWレジオネラ)とレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12の検出は、それぞれ採取したマウス尿検体をおおよそ2-10倍に生理食塩水で希釈したのち検出に供した。一匹のマウス尿量が必要量に満たない場合は同条件の尿を混合したものをおおよそ2-10倍に生理食塩水で希釈したのち検出に供した。
【0071】
即ち市販のレジオネラ・ニューモフィラ血清型1由来LPS抗原(BinaxNOWレジオネラ)キットの場合はキット仕様書に記載の方法に従い、生理食塩水希釈後の尿サンプルを測定した。また、レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗体を採用したイムノクロマトキットの場合は同生理食塩水希釈後の尿サンプルをさらに1.5倍希釈となるように0.5% Tween40を含む添加液に加えたものを被験試料とした。そして、同被験試料120μlを上記1)で得られたイムノクロマトグラフィー装置の試料添加用部材5にマイクロピペットで滴下してクロマト展開し、室温で15分放置後、上記捕捉部位6で捕捉されたリボゾーム蛋白質 L7/L12抗原と金コロイド標識抗体との複合体の捕捉の有無を赤紫色ライン出現の有無によって、目視で陰性または陽性の判定を行った。
【0072】
レジオネラ・ニューモフィラ血清型1感染モデルマウスの尿検体において、レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12検出イムノクロマトキットと、レジオネラ・ニューモフィラ血清型1 LPS抗原検出イムノクロマトキット(BinaxNOWレジオネラ)にて検出した結果を図10に示す。
【0073】
リボゾーム蛋白質L7/L12検出イムノクロマトキットでは、肺中レジオネラ・ニューモフィラ感染菌数が増えている時期、すなわちレジオネラ肺炎が発生している時期にのみ陽性のシグナルを示し、肺中のレジオネラ菌が消失した状態では陰性を示した。一方、BinaxNOWレジオネラキットにおいては肺中レジオネラ・ニューモフィラ感染菌が消失した後でも長期にわたって陽性を示していることが示された。
【0074】
すなわち、尿検体中のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗原量は肺中レジオネラ・ニューモフィラ感染菌数と非常によく相関するが、レジオネラ・ニューモフィラ血清型1 LPS抗原は必ずしも相関しないという事実から、尿検体中のレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12抗原の検出は、レジオネラ菌に起因する病態について正確な診断を行うための検査指標として好適であることが示された。
【0075】
<実施例6>
レジオネラ菌感染モデルマウス実験:レジオネラ菌(レジオネラ・ニューモフィラ血清型1,2,3,7,8、ならびにレジオネラ・デュモフィ(Legionella dumoffi)およびレジオネラ・ロングビーチェ(Legionella longbeachae))感染マウスにおける肺中の感染菌数とレジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12の測定
実施例1の方法に準じてレジオネラ・ニューモフィラ血清型1,2,3,7,8、(それぞれ、SG1、SG2、SG3、SG7、SG8と略する。)およびレジオネラ・デュモフィとレジオネラ・ロングビーチェの感染マウスを作製し、48時間後の肺中感染菌数と、肺組織破砕液中のレジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12を実施例2に記載のELISA法によって測定した。
【0076】
図11に示すように、48時間後における感染の強弱はレジオネラ・ニューモフィラにおいては各血清型によって異なるが、投与後48時間でレジオネラ菌が増加し肺炎が認められたマウスの肺中には、レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12が検出された(図12)。
【0077】
またレジオネラ属に属する他の2種の細菌であるレジオネラ・デュモフィとレジオネラ・ロングビーチェについては、本実施例で使用した抗体の組合せによると、レジオネラ・ニューモフィラと比べてやや感度は劣るものの、同様にレジオネラ菌の感染を示す指標になることが証明された。
【0078】
市販のレジオネラ菌由来LPS抗原検出用キットではレジオネラ・ニューモフィラ血清型1しか検出できないため、レジオネラ・ニューモフィラ血清型1以外のレジオネラ肺炎の診断には不適である点を、本発明の検査方法では十分カバーできることが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明によれば、レジオネラ菌リボゾーム蛋白質L7/L12に対する抗体を採用することにより、感染局所、尿又は血液におけるレジオネラ菌抗原を肺炎病態特異的に検出することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と反応する抗体を用いて、患者の下気道検体、尿又は血液における該抗原を検出することを含む、レジオネラ菌に起因する病態を検査する方法。
【請求項2】
抗体がモノクローナル抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗体が、レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と種特異的または属選択的に反応することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と種特異的または属選択的に反応する抗体を少なくとも1種類以上用いてサンドイッチイムノアッセイを行うことを特徴とする、請求項1から3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
イムノクロマトグラフィーによるサンドイッチイムノアッセイを行うことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と反応する抗体を用いて、患者の下気道検体、尿又は血液における該抗原を検出し、該検出結果に基づいて、レジオネラ菌の感染の増悪または治癒を評価する、請求項1から5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と反応する抗体を用いて、レジオネラ菌の感染に対する治療用薬剤を投与した患者の下気道検体、尿又は血液における該抗原を検出することを含む、該治療用薬剤の有効性を評価する方法。
【請求項8】
レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と反応する少なくとも1種類の抗体を含む、請求項1から7の何れか1項に記載の方法を行うための検査キット。
【請求項9】
レジオネラ菌のリボゾーム蛋白質L7/L12抗原と反応する少なくとも1種類の抗体が、水不溶性の基材の表面に固定化されている、請求項8に記載の検査キット。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2013−61304(P2013−61304A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−201343(P2011−201343)
【出願日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】