説明

レジンワイヤソー処理方法及びレジンワイヤソー処理装置

【課題】使用後のレジンワイヤソーから砥粒やワイヤなどの構成素材を効率良く分離回収することができ、環境負荷も生じ難い、レジンワイヤソー処理技術を提供する。
【解決手段】レジンワイヤソー処理装置10は、使用後のレジンワイヤソー20をその長手方向に走行させる搬送手段である前段ローラ11及び後段ローラ12と、レジンワイヤソー20の走行経路である前段ローラ11と後段ローラ12との中間に回転自在に配置されたプーリ13と、を備えている。矢線A方向に沿って走行してくる使用後のレジンワイヤソー20は、前段ローラ11からプーリ13に掛け渡され、このプーリ13の外周に10周巻き付けられた後、後段ローラ12に掛け渡されている。プーリ13とともに回転するレジンワイヤソー20から剥離された回収物15(レジンR及びダイヤモンド砥粒D)を電気炉にて加熱処理して、レジンRを燃焼除去し、ダイヤモンド砥粒Dを回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用後のレジンワイヤソーから砥粒、ワイヤ、フィラなどの構成素材を回収する処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池シリコン、半導体シリコン、磁性体、サファイヤ、SiCなどを溶融、固化させて形成されたインゴットなどをスライス加工する際に使用されるワイヤソーには、砥粒をワイヤに電着固定した電着ワイヤソー、あるいは、砥粒をレジンで固着したレジンワイヤソーなどがある。
【0003】
レジンワイヤソー(例えば、特許文献1,2,3参照。)は、弾性率の低いレジンを用いて砥粒をワイヤの外周面に固着しているため、柔軟性が高く、捩れに起因する断線が少なく、加工面の面粗さも良好であるなどの長所を有している。
【0004】
一方、ワイヤソーと異なる技術分野であるが、ビトリファイド研削砥石の砥石片から超砥粒を回収する技術、エナメル線から金属ワイヤを回収する技術、電線などの被覆線の被覆を切断、剥皮する技術あるいは絶縁被覆導線の絶縁被覆を導線から剥離する技術などが提案されている(例えば、特許文献4,5,6,7参照。)。
【0005】
同様に、ワイヤソーと異なる技術分野であるが、研削液の廃液から砥粒を回収する技術あるいは研磨作業に供された後のスラリー液から研磨粒子を回収する技術なども提案されている(例えば、特許文献8,9,10参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3078020号公報
【特許文献2】特開平10−138114号公報
【特許文献3】特開平11−347911号公報
【特許文献4】特開平8−257915号公報
【特許文献5】特開平7−238273号公報
【特許文献6】特開2000−166044号公報
【特許文献7】特開2008−109753号公報
【特許文献8】特開2010−47443号公報
【特許文献9】特許第3961637号公報
【特許文献10】特開2003−238939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1,2,3などに記載されているレジンワイヤソーについては、使用後のこれらのレジンワイヤソーから砥粒を回収する方法として、強い溶解力を有する溶剤を用いてレジンを剥離させる化学的方法あるいは所定の工具を用いてレジンを削ぎ落とす物理的方法などが考えられる。
【0008】
しかしながら、レジンワイヤソーを構成するレジンは、本来、耐薬品性に優れているため、これを溶解することができるような強力な溶剤を見出すのが困難であり、もし強力な溶剤があったとしても、そのような溶剤はレジン溶解過程において砥粒に大きなダメージを与えるので、前述した化学的方法は実施困難である。
【0009】
また、レジンワイヤソーにおいては、切削作業中、被切削材との摺動によってワイヤから砥粒が容易に脱落しないようにレジンで強力に固着されているため、前述した物理的方法を実施した場合、削ぎ取り用の工具の方が短時間のうちに激しく摩耗してしまい、現実的には実施不能である。
【0010】
一方、特許文献4記載の回収技術は、ビトリファイド結合剤中のケイ素、ナトリウム及びカルシウムなどをフッ化物にして除去する工程に多くの時間とコストが必要であり、このフッ化反応工程においては、強力な酸性液であるフッ化水素酸が使用されるため、環境負荷が大きい。
【0011】
また、特許文献5〜10記載の回収技術はそれぞれの技術分野において好適に実施することができ、所定の効果を得ることができるが、本発明とは技術分野が全く異なるため、使用後のレジンワイヤソーから砥粒やワイヤを回収する技術として利用することはできない。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、使用後のレジンワイヤソーから砥粒やワイヤなどの構成素材を効率良く分離回収することができ、環境負荷も生じ難い、レジンワイヤソー処理技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のレジンワイヤソー処理方法は、ワイヤ外周にレジンで砥粒が固着されたレジンワイヤソーを曲げ変形させることにより、前記レジンに引張応力及び圧縮応力を生じさせる変形工程を備えたことを特徴とする。
【0014】
このような構成とすれば、前記変形工程において曲げ変形させることにより、引張応力や圧縮応力が生じた部分のレジンに、多数のクラックが発生して固着力失い、ワイヤ外周から砥粒とともにレジンが剥離していくので、使用後のレジンワイヤソーから砥粒やワイヤなどの構成素材を効率良く分離回収することができる。また、レジンを溶解する溶剤などの化学薬品を一切使用しないので、環境負荷も生じ難い。なお、前記レジンに生じさせる引張応力や圧縮応力の大きさは限定しないが、レジンの破断強度より大きく前記ワイヤの破断強度より小さいことが望ましい。
【0015】
また、ワイヤ外周に砥粒を固着するレジン中にフィラを含むレジンワイヤソーであっても、前記曲げ工程を実行することにより、レジンとともに砥粒及びフィラをワイヤ外周から剥離させることが可能であるため、これらの再利用可能な構成素材を効率良く回収することができる。
【0016】
ここで、前記変形工程において前記ワイヤから剥離させた回収物を加熱し、前記回収物に含まれるレジンを燃焼させる加熱処理工程を設けることが望ましい。
【0017】
このような構成とすれば、ワイヤから剥離させた回収物中のレジンを除去し、砥粒やフィラなどの再利用可能な素材を効率良く回収することができる。
【0018】
一方、前記変形工程においては、前記ワイヤの直径の50〜500倍の直径を有する円形状をなすように前記レジンワイヤソーを曲げ変形させることが望ましい。
【0019】
このような構成とすれば、レジンワイヤソーを構成するレジンにその破断強度より大きくワイヤの破断強度より小さい応力を容易に生じさせることができ、ワイヤ外周からレジン及び砥粒を効率良く剥離させることができる。なお、レジンワイヤソーを円形状に曲げ変形させたときの直径がワイヤの50倍より小さいときはワイヤが塑性変形し、500倍より大きいときはレジンにクラックが生じ難くなるので、前記直径はワイヤの直径の50〜500倍の範囲が好適である。
【0020】
また、前記加熱処理工程における加熱温度が300〜600℃であることが望ましい。
【0021】
このような構成とすれば、ワイヤから剥離させた回収物中に含まれる砥粒やフィラに対して、再利用に不都合な熱影響を与えることなく、レジンのみを効率良く除去することができる。
【0022】
次に、本発明のレジンワイヤソー処理装置は、砥粒をレジンボンドでワイヤ外周に固着したレジンワイヤソーをその長手方向に走行させる搬送手段と、前記レジンワイヤソーを少なくとも1周巻回させた状態で前記レジンワイヤソーの走行経路に回転自在に配置されたプーリと、を備えたことを特徴とする。
【0023】
このような構成とすれば、長手方向に走行するレジンワイヤソーに対して円形状の曲げ変形を連続的に施すことが可能となり、前記曲げ変形により、ワイヤ外周から砥粒とともにレジンを剥離させることができるので、使用後のレジンワイヤソーから砥粒やワイヤなどの構成素材を効率良く分離回収することができる。また、レジンを溶解する溶剤などの化学薬品を一切使用しないので、環境負荷も生じ難い。
【発明の効果】
【0024】
本発明により、使用後のレジンワイヤソーから砥粒やワイヤなどの構成素材を効率良く分離回収することができ、環境負荷も生じ難い、レジンワイヤソー処理技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態であるレジンワイヤソー処理装置の概略構成を示す図である。
【図2】レジンワイヤソーから剥離させた回収物の加熱処理工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1に示すように、本実施形態のレジンワイヤソー処理装置10は、使用後のレジンワイヤソー20をその長手方向に走行させる搬送手段である前段ローラ11及び後段ローラ12と、レジンワイヤソー20の走行経路である前段ローラ11と後段ローラ12との中間に回転自在に配置されたプーリ13と、を備えている。
【0027】
矢線A方向に沿って走行してくる使用後のレジンワイヤソー20は、前段ローラ11からプーリ13に掛け渡され、このプーリ13の外周に10周巻き付けられた後、後段ローラ12に掛け渡されている。なお、プーリ13に対するレジンワイヤソー20の巻き付け回数は10周に限定するものではないので、レジンワイヤソー20の種類、あるいは、後述する、レジン及びダイヤモンド砥粒の剥離状況などに応じて設定することができる。
【0028】
レジンワイヤソー20は、金属被覆されたダイヤモンド砥粒(平均粒子径12.1μm)を砥粒含量が20体積%になるように、UV硬化樹脂にて、金属ワイヤ(線径0.15mm)の外周に固着して形成されたものである。プーリ13の直径(レジンワイヤソー20が巻き付けられている部分の直径)は60mmである。レジンワイヤソー20の走行速度(搬送速度)は850m/分である。
【0029】
レジンワイヤソー20は、プーリ13とともにその外周を10回転する過程で円形状に曲げ変形されることにより(変形工程)、レジンに引張応力及び圧縮応力が生じ、この変形工程において、レジンに多数のクラックが生じ、固着力を失うので、レジンR及びダイヤモンド砥粒Dがワイヤ30から剥離され、ワイヤ30のみの状態となった後、後段ローラ12を経由して矢線B方向に走行していき、所定の回収用ドラム(図示せず)に巻き取られる。
【0030】
プーリ13とともに回転するレジンワイヤソー20のワイヤ30外周から剥離されたレジンR及びダイヤモンド砥粒Dなどの回収物15は、その自重によって落下し、プーリ13の下方に配置された容器14内に収容される。
【0031】
容器14内に収容された回収物15は、図2(a)に示すように、容器14とともに電気炉14内に装入され、大気雰囲気下で400℃に加熱され、所定時間経過後(例えば、10分間経過後)、室温まで徐冷される(加熱処理工程)。回収物15に前記加熱処理を施すことにより、回収物15に含まれるレジンRが燃焼して消失し、図2(b)に示すように、ダイヤモンド砥粒Rが残留する。
【0032】
このように、図1に示すレジンワイヤソー処理装置10を用いて、使用後のレジンワイヤソー20を曲げ変形させること(変形工程)により、ワイヤ30からレジンR及びダイヤモンド砥粒Dを効率良く分離回収することができる。また、図1に示す変形工程においては、レジンRを溶解する溶剤などの化学薬品を一切使用しないので、環境負荷も生じ難い。
【0033】
また、図2に示すように、レジンワイヤソー20を構成するワイヤ30(図1参照)から剥離させた回収物15を電気炉16で加熱し、回収物15中のレジンRを燃焼除去することにより、再利用可能なダイヤモンド砥粒Dのみを効率良く回収することができる。
【0034】
一方、図1に示すレジンワイヤソー処理装置10においては、レジンワイヤソー20を構成する直径0.15mmのワイヤ30に対し、プーリ13の直径を60mmとすることにより、ワイヤ30の直径の400倍の直径を有する円形状をなすようにレジンワイヤソー20を曲げ変形させている。
【0035】
これにより、レジンワイヤソー20を構成するレジンにその破断強度より大きくワイヤ30の破断強度より小さい応力を生じさせることができるので、ワイヤ30外周からレジンR及びダイヤモンド砥粒Dを効率良く剥離させることができる。
【0036】
また、図2(a)に示すように、電気炉16における加熱温度を400℃としたことにより、回収物15中に含まれるダイヤモンド砥粒Dに不都合な熱影響を与えることなく、レジンRを効率良く燃焼除去し、砥粒Dのみを回収することができた。なお、電気炉16における加熱温度が600℃を超えると、ダイヤモンド砥粒Dの表面が緑色から黒色に変色し、加熱温度が300℃未満の場合はレジンRが残留し、ダイヤモンド砥粒Dのみを回収することができなかった。
【0037】
次に、その他の実施形態として、金属被覆されたダイヤモンド砥粒(平均粒子径12.1μm)及びガラスフィラを、砥粒粒含量20体積%及びフィラ含有量10体積%となるように、UV硬化樹脂にて、金属ワイヤ(線径0.15mm)の外周に固着して形成されたレジンワイヤソー(図示せず)の使用後品に対し、図1,図2に示す変形処理及び加熱処理を施したところ、砥粒及びガラスフィラが体積比2:1の割合で混じり合った混合物として回収することができた。前記混合物は、砥粒とガラスフィラとを分離することなく、そのまま再利用することができるので、好都合である。
【0038】
また、比較例1として、針金や電線などを挟み切る工具であるニッパ(図示せず)の刃部に、使用後のレジンワイヤソー20(図1参照)を挟み、レジンワイヤソー20を長手方向に移動させることにより、レジンを物理的に剥離させたところ、約20cm移動させた時点で、レジンワイヤソー20が摺動したニッパの刃部に穴が空いてしまい、それ以降、レジンを剥離することは不可能となった。
【0039】
さらに、比較例2として、使用後のレジンワイヤソー20を塩化水素溶液(34体積%)中に3時間浸漬した後、引上げ、前記ニッパの刃部に挟んで、レジンワイヤソー20を長手方向に移動させ、レジンを剥離させたところ、約23cm移動させた時点で、ニッパの刃部に穴が空いてしまい、それ以降、レジンを剥離することは不可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、使用後のレジンワイヤソーから砥粒、ワイヤ、フィラなどの構成素材を回収する手段として、切削工具製造業などの分野において広く利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
10 レジンワイヤソー処理装置
11 前段ローラ
12 後段ローラ
13 プーリ
14 容器
15 回収物
16 電気炉
20 レジンワイヤソー
30 ワイヤ
D ダイヤモンド砥粒
R レジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤの外周にレジンで砥粒が固着されたレジンワイヤソーを曲げ変形させることにより、前記レジンに引張応力及び圧縮応力を生じさせる変形工程を備えたことを特徴とするレジンワイヤソー処理方法。
【請求項2】
前記変形工程において前記ワイヤから剥離させた回収物を加熱し、前記回収物に含まれるレジンを燃焼除去する加熱処理工程を設けた請求項1記載のレジンワイヤソー処理方法。
【請求項3】
前記変形工程において、前記ワイヤの直径の50〜500倍の直径を有する円形状をなすように前記レジンワイヤソーを曲げ変形させる請求項1または2記載のレジンワイヤソー処理方法。
【請求項4】
前記加熱処理工程における加熱温度が300〜600℃である請求項2または3記載のレジンワイヤソー処理方法。
【請求項5】
砥粒をレジンボンドでワイヤ外周に固着したレジンワイヤソーをその長手方向に走行させる搬送手段と、前記レジンワイヤソーを少なくとも1周巻き付けた状態で前記レジンワイヤソーの走行経路に回転自在に配置されたプーリと、を備えたことを特徴とするレジンワイヤソー処理装置。

【図1】
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【図2】
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