説明

レトルト食品

【課題】レトルト殺菌後も餅特有の粘弾性が持続する餅類又は団子類およびこのような餅類又は団子類を含んだレトルト食品を提供する。
【解決手段】餅米ないし餅粉、ネイティブジェランガム、小麦または大豆タンパク、デンプンを配合した餅類又は団子類、さらに調味液が特定のBrixを有するレトルト食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト殺菌時および保存時に餅ないし団子のような粘弾性が持続し、餅ないし団子の性質を保持できる、レトルト食品に関する。
【背景技術】
【0002】
しるこ、ぜんざい、雑煮などの餅ないし団子入り加熱調理食品は、調味液と餅ないし団子を分けて販売され、暖められた調味液に餅を加えて喫食する形態が一般的である。餅ないし団子は加熱時にやわらかくなり餅ないし団子特有の粘弾性を有する食感が失われることがあり、しるこ、ぜんざい、雑煮などとともにレトルト容器内で長期間保存された場合にも調味液から吸水し、徐々に溶けて形状が崩れる欠点があった。
【0003】
例えば、特許文献1は、ネイティブジェランガムと餅米から、餅様の食感を有するゲルを調整することを開示する。このゲルは耐熱性を有し、レトルト殺菌直後には餅様の食感を保持しているが、餅入りレトルトぜんざい、しるこなどの形態で常温保存すると1〜2週間で餅がふやけて餅の形状が崩れる不具合があった。
【0004】
特許文献2は、デンプン質原料にジェランガムとナトリウム、カルシウムなどの塩類を配合してゲル化させることで、レトルト殺菌後にも良好な食感の餅又は団子が得られ、これを10日間保存したときにも団子の品質・食感は良好であることが記載されているが、この団子は1ヶ月、あるいはそれ以上の長期保存時には形状が崩れ、コシがなくなり、レトルト食品としての保存性は不十分であること、さらに餅や団子のような粘弾性の食感の点で劣っていることが本発明者の研究により明らかにされた。
【0005】
特許文献3は、ジェランガムやネイティブジェランガムなどのゲル化剤を用いることなく、餅粉と乳清タンパク質、デンプンなどを使用して、レトルト食品中での餅ないし団子の耐熱性と老化を向上させているが、このようなレトルト食品は、レトルト殺菌後の保存中に餅ないし団子の保形性、食感が徐々に失われる欠点があった。
【0006】
特許文献4は、餅米粉に対しデンプンと糖類を加え、デンプンで餅の構造を補強し、調味液の糖度を高くすることで餅の水分吸収を抑制することが記載されている。特許文献4の実施例では、37℃で3ヶ月間餅入りレトルトしるこを保存したところ良好な外観と官能評価を得られたことが開示されているが、この評価は従来の製法で製造された保存性の低い餅を用いたものに較べて優れていることを確認しているだけであって、レトルト殺菌をして保存した後の餅入りぜんざいは、レトルトでない餅入りぜんざいよりも明らかに劣っていた。
【0007】
なお、特許文献5は、餅類の製造にタピオカデンプンを使用することで、煮くずれや焼きだれを防止できることが記載されているが、レトルト殺菌時の餅ないし団子の形状と食感の保持については示唆されていない。
【特許文献1】特開平10−215801
【特許文献2】特開平5−236892
【特許文献3】特開平8−289749
【特許文献4】特開平9−28299
【特許文献5】特開平2−207763
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、レトルト処理およびその後の長期間の保存中にも粘弾性と形状を保持できる餅入りレトルト食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記背景技術の問題点に鑑み、検討を重ねた結果、餅米、餅粉などの原料にデンプン、小麦ないし大豆のタンパク質、ネイティブジェランガムを配合することで、レトルト処理などの加熱処理とその後の長期保存時にも餅ないし団子の形状、餅様の粘弾性の食感が非レトルトの餅入りぜんざい、しるこ、雑煮などの食品と遜色ない程度に優れていることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
本発明は、以下のレトルト食品用の餅または団子、このような餅または団子を含むレトルト食品を提供するものである。
項1. 以下の(1)〜(4)の各成分を含む餅類または団子類と、(5)の調味液を含むレトルト食品:
(1) 餅米、餅粉および穀物粉からなる群から選ばれる少なくとも1種
(2) ネイティブジェランガム
(3) 小麦タンパクおよび大豆タンパクからなる群から選ばれる少なくとも1種
(4) デンプンおよび加工デンプンからなる群から選ばれる少なくとも1種
(5) 調味液100gあたりの可溶性固形物重量(Brix)が、30〜70%である調味液。
項2. 前記食品が餅入りのしるこ、ぜんざいまたは雑煮である、項1に記載のレトルト食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明のレトルト食品用の餅または団子を含むレトルト食品は、レトルト殺菌後にも餅や団子に特有の粘弾性を保持するだけでなく、その後、6ヶ月から1年ないし2年程度の長期保存時にもレトルト食品内の餅ないし団子はほとんど食感、形状の変化はなく、餅ないし団子をぜんざい、しるこ、雑煮などの調味液に加えた対応する非レトルト食品と同様な餅/団子の形状、食感を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の餅ないし団子は、(1) 餅米、餅粉および穀物粉からなる群から選ばれる少なくとも1種;(2) ネイティブジェランガム;(3) 小麦タンパクおよび大豆タンパクからなる群から選ばれる少なくとも1種;(4) デンプンおよび加工デンプンからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。
【0013】
なお、本明細書において、各成分の比率は、特に断らない限り、乾燥重量の比率である。
(1) 餅米、餅粉および穀物粉
本発明でいう「餅米」は粒状の餅米を用いてもよいが、粉末状の餅粉を使用するのが好ましい。穀物粉としては、米、麦、粟、きび、大豆などが挙げられる。
【0014】
餅米、餅粉および穀物粉は、餅ないし団子に特有の粘弾性の食感が得られるように十分に吸水させるのが好ましい。使用可能な餅米/餅粉としては、うるち米、餅粉、白玉粉、道明寺粉、上新粉、米粉などが挙げられる。
(2) ネイティブジェランガム
本発明で用いられるネイティブジェランガムは、グルコース2分子、グルクロン酸1分子及びラムノース1分子を構成単位とする多糖類(分子量約60〜70万)であるジェランガム(特開昭55−79397号)の脱アシル処理前の前駆体として得られる微生物起源の高分子多糖類(融点及び固化点:65〜70℃)である。当該ネイティブジェランガムは、一般に微生物の培養によって生産される。具体的には、シュードモナス・エロデア(Pseudomonas elodea:ATCC31461)又はその同等の菌株を、適当な液体培地に接種し、これを好気的条件下で培養して得られる培養物から菌体表面に生産された粘質物を、脱アシル処理することなくそのまま単離・回収することによって製造する方法が例示される。ネイティブジェランガムは天然に起源を有するものであるため、用いる産生微生物や精製条件によっては、その構造も微妙に変わり得る。従って、本発明で用いられるネイティブジェランガムは、特定の構造式(Sanderson,G.R., FOOD GELS, ed. Peter Harris, Elsevier Science Publishers LTD., England, 1990, p.204)に基づいて一義的に限定されることなく、上記方法に従って微生物(ATCC31461)により産生されるネイティブジェランガムの性質を有するものであればよい。
【0015】
ネイティブジェランガムは、餅米、餅粉および穀物粉からなる群から選ばれる少なくとも1種の100重量部に対し、1〜3重量部程度、好ましくは1.5〜2.5重量部程度使用するのが好ましい。ネイティブジェランガムが多すぎると、餅類又は団子類の成形時に生地が硬くて成形しにくく、耐熱性が弱い。少なすぎるとレトルト殺菌もしくは保存時の保形性と粘弾性(餅ないし団子の食感)が低下する。
(3) 小麦タンパクおよび大豆タンパクからなる群から選ばれる少なくとも1種
小麦タンパクは、小麦由来のタンパク質であれば特に制限はなく、その主体はグルテニンとグリアジンである。小麦タンパク質として、小麦粉を使用することもできる。小麦タンパク質は小麦粒の外側に多く分布しているため、小麦粒の外側に由来する小麦粉が好ましい。大豆タンパク質は、大豆由来のタンパク質であれば特に限定されず、脱脂大豆粉(タンパク質含量50〜60%)、濃縮大豆タンパク質(タンパク質含量60〜85%)、分離大豆タンパク質(タンパク質含量85%以上)が挙げられ、粉末、ペースト、粒、繊維のいずれの形状であってもよい。大豆タンパク質は加熱によりゲル形成性を有するため、ネイティブジェランガムを含む混練物を加熱することにより粘弾性の付与に寄与する。小麦タンパク質ないし大豆タンパク質は、他の成分と水とともに混練することで水和し、粘弾性を付与する。
【0016】
小麦タンパクおよび大豆タンパクからなる群から選ばれる少なくとも1種は、餅米、餅粉および穀物粉からなる群から選ばれる少なくとも1種の100重量部に対し、1〜3重量部程度、好ましくは1.5〜2.5重量部程度使用するのが好ましい。これらのタンパク質が多すぎると餅ないし団子の割合が低下して食感が変化し、少なすぎるとレトルト殺菌ないしその後の保存時の保形性が低下する。
(4) デンプンおよび加工デンプンからなる群から選ばれる少なくとも1種
デンプンは、アミロースとアミロペクチンの一方又は両方を含むものであればよく、特
に限定されない。X線回折パターンからデンプンの結晶構造は、A形(トウモロコシなどの種子デンプンなど)、B形(馬鈴薯、片栗、カンナなどの根茎デンプンなど)、これらの中間形のC形(甘藷でんぷん、タピオカデンプン、豆類のデンプンなど)のいずれでもよいが、C形デンプンが好ましく、タピオカデンプンがより好ましい。α化デンプンも使用できる。加工デンプンとしては、加水分解変性物、焙焼デキストリン、酵素処理デキストリン、薄手糊デンプン、酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、デンプンの水酸基にエステル、エーテルなどの置換基を導入したデンプン誘導体などが挙げられる。
【0017】
デンプンおよび加工デンプンからなる群から選ばれる少なくとも1種は、餅米、餅粉および穀物粉からなる群から選ばれる少なくとも1種の100重量部に対し、3〜15重量部程度、好ましくは8〜10重量部程度使用するのが好ましい。これらのデンプンが多すぎると餅ないし団子の割合が低下して粘弾性のある食感が得られなくなり、少なすぎるとレトルト殺菌ないしその後の保存時の保形性が低下する。
【0018】
本発明の餅ないし団子には、各種糖類、塩類、着色料、香料、乳化剤、酵素、油脂、保存料、蛋白質等を含有させることができる。
【0019】
本発明のレトルト食品は、餅ないし団子を含み、かつ、調味液などの水分を有する食品であれば特に限定されず、例えば餅ないし団子入りのぜんざい、しるこ、雑煮などが挙げられる。本発明のレトルト食品用の餅ないし団子は、水分を含む調味液に浸漬された状態でレトルト食品中に含まれる。調味液としてはぜんざい、しるこ、みそ汁(白みそなど、雑煮用)、みつまめ、みたらし団子などの調味液が挙げられる。調味液がぜんざい、しるこなどの場合、調味液のBrix(調味液100gあたりの可溶性固形物重量)は30〜70%程度が好ましく、40〜55%程度がより好ましい。調味液のBrixは、糖分を加えて調整してもよく(ぜんざい、しるこ、みつまめ、みたらし団子などの場合)、濃縮液とすることでBrixを調整することもでき(雑煮、みそ汁など)、このような調味液は喫食時に湯を加えることで、適当な濃度にすることができる。
【0020】
本発明に係る餅類ないし団子類の調製は、4種の必須成分と任意の添加成分を水とともに適当な割合で混合ないし混練することで実施できる。水分の量は、各成分が一体となって成型できる量の範囲内であればよく、当業者が適宜調節・選択し得るものである。水分の量が不足の場合は各成分が一体とならず、水分の量が過剰であると全体が流動的になって、いずれの場合にも成型が困難となる。水分が不足の場合には、加熱時に水蒸気等で水分を補充すればよく、過剰の場合でも、例えば型枠に入れて加熱すればよく、結果として餅ないし団子が調製できればよい。餅類又は団子類の成型後、加熱してもしなくてもよく、加熱する場合は、それをそのまま、あるいは水中で、または調味液に入れて加熱すればよく、加熱の手段は特に制限されない。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
実施例1
以下の表1の配合比率で、餅粉、ネイティブジェランガム、小麦タンパク、タピオカデンプンをよく混合してから水を加えて混練し、餅又は団子(1個9g)を成形した。
【0022】
次に、以下の表2の割合で粒あん、水飴、食塩、水を混合し、ぜんざい(調味液)を得た。その時のBrixは51%であった。
【0023】
以下の表3の割合で餅とぜんざいをレトルトパウチに充填し、121℃、25分間レトルト処理を行い、これを室温に戻した後、20℃及び35℃で保存した。
【0024】
本発明の餅入りぜんざいは、6ヶ月保存後もレトルト処理直後と同様な餅の形状、食感を維持していた。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
なお、Brix(ブリックス)は品温20℃において糖度計(屈折計)で測定した値である。
【0028】
【表3】

【0029】
比較例1
実施例1において、餅を以下の表4の配合比率に変える他は同様にして、餅入りぜんざい(比較例品1)を調製した。
【0030】
この比較例品1をレトルトパウチに充填し、121℃、25分間レトルト処理を行い、これを室温に戻した後、20℃及び35℃で保存した。
【0031】
比較例品1の餅入りぜんざいは、1週間保存後に餅がふやけて餅の形状が崩れる不具合があった。
比較例2
実施例1において、餅を以下の表4の配合比率に変える他は同様にして、餅入りぜんざい(比較例品2)を調製した。
【0032】
この比較例品2をレトルトパウチに充填し、121℃、25分間レトルト処理を行い、これを室温に戻した後、20℃及び35℃で保存した。
【0033】
比較例品2の餅入りぜんざいは、1週間保存後ではレトルト処理直後と同様な餅の形状、食感を維持していたが、3週間保存後には餅がふやけて餅の形状が崩れる不具合があった。
比較例3
実施例1において、餅を以下の表4の配合比率に変える他は同様にして、餅入りぜんざい(比較例品3)を調製した。
【0034】
この比較例品3をレトルトパウチに充填し、121℃、25分間レトルト処理を行い、これを室温に戻した後、20℃及び35℃で保存した。
【0035】
比較例品3の餅入りぜんざいは、1週間保存後ではレトルト処理直後と同様な餅の形状、食感を維持していたが、3週間保存後には餅がふやけて餅の形状が崩れる不具合があった。
【0036】
比較例1、2、3の結果から、小麦タンパク/大豆タンパクと、デンプン/加工デンプンは、いずれも餅類または団子類の製造に必須の成分であることが示された。
【0037】
【表4】

【0038】
比較例4
実施例1において、ぜんざい(調味液)を以下の表5の配合比率に変える他は同様にして、餅入りぜんざい(比較例品3)を調製した。
【0039】
この比較例品4をレトルトパウチに充填し、121℃、25分間レトルト処理を行い、これを室温に戻した後、20℃及び35℃で保存した。
【0040】
比較例品4の餅入りぜんざいは、1週間保存後ではレトルト処理直後と同様な餅の形状、食感を維持していたが、4週間保存後には餅がふやけて餅の形状が崩れる不具合があった。
【0041】
この結果より、Brixが30%以上であることの重要性が実証された。
【0042】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)〜(4)の各成分を含む餅類または団子類と、(5)の調味液を含むレトルト食品:
(1) 餅米、餅粉および穀物粉からなる群から選ばれる少なくとも1種
(2) ネイティブジェランガム
(3) 小麦タンパクおよび大豆タンパクからなる群から選ばれる少なくとも1種
(4) デンプンおよび加工デンプンからなる群から選ばれる少なくとも1種
(5) 調味液100gあたりの可溶性固形物重量(Brix)が、30〜70%である調味液。
【請求項2】
前記食品が餅入りのしるこ、ぜんざいまたは雑煮である、請求項1に記載のレトルト食品。

【公開番号】特開2009−124950(P2009−124950A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300346(P2007−300346)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】