説明

レンズ装置および撮像装置

【課題】比較的簡単な構成で、通常撮影および至近距離での拡大撮影においてフォーカシングと変倍とを操作性良く行えるようにしたレンズ装置および撮像装置を提供する。
【解決手段】レンズ装置1は、物体側のフォーカス系L1〜L3と、該フォーカス系よりも像側に配置され、フォーカス系とアフォーカルに接続された変倍系L5〜L7と、フォーカス機構3,4と、ズーム機構7,8とを有する。フォーカス機構とズーム機構は互いに独立にフォーカシングおよび変倍を行わせる。フォーカス系から変倍系までの光学系のうち該フォーカス系と該変倍系とをアフォーカルに接続する部分に、防振光学素子L4を光軸方向とは異なる方向にシフトさせる光学防振ユニット80を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高倍率での撮像が可能なレンズ装置および撮像装置に関し、特にいわゆる光学手振れ補正機能(光学防振機能)を有するレンズ装置および撮像装置に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ、ビデオカメラ、交換レンズ等の撮影用の光学機器としてはズーム機能を有することが多いが、汎用的な光学機器では数百倍といった高倍率の拡大映像までは得ることはできない。
【0003】
一方、材料や物質の表面を拡大観察する目的のために、極近接(マクロ)撮影用ズーム・レンズ系を備えた撮影装置が特許文献1にて提案されている。
【0004】
特許文献1にて開示された極近接撮影用ズーム・レンズ系では、前方(物体側)から正の合焦系、負の変倍系(リレー系)および正の補正系からなる三系を備え、極近接撮影時には該三系をその背後(像側)に設けられた結像系に対して一体的に前方に変位させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平1−15843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1にて開示された極近接撮影用ズーム・レンズ系においては、通常撮影時および極近接撮像時において変倍系と補正系とを互いに独立に移動させる構造だけでなく、極近接撮像時に正の合焦系、負の変倍系および正の補正系の三系を一体的に前方へ変位させる構造が必要であり、装置の構造が複雑化するという問題がある。また、この光学系に光学防振機能を付加する場合に、装置が大型化するという問題もある。
【0007】
本発明は、比較的簡単な構成で、通常撮影および至近距離での拡大撮影においてフォーカシングと変倍とを操作性良く行え、かつ装置の大型化を抑えつつ光学防振機能を搭載できるようにしたレンズ装置および撮像装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一側面としてのレンズ装置は、物体側に配置されたフォーカス系と、該フォーカス系よりも像側に配置され、フォーカス系とアフォーカルに接続された変倍系と、フォーカス系を移動させてフォーカシングを行わせるフォーカス機構と、変倍系を移動させて変倍を行わせるズーム機構とを有する。そして、フォーカス機構によるフォーカシングとズーム機構による変倍とが互いに独立に行われ、かつフォーカス系から変倍系までの光学系のうち該フォーカス系と該変倍系とをアフォーカルに接続する部分に、防振光学素子を光軸方向とは異なる方向にシフトさせる光学防振ユニットを有することを特徴とする。
【0009】
また、上記レンズ装置と、該レンズ装置により形成された被写体像を光電変換する撮像素子とを有する撮像装置も本発明の他の一側面を構成する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フォーカス系と変倍系とをアフォーカルに接続したので、フォーカス機構によるフォーカシングとズーム機構による変倍とを独立して操作可能な操作性の良いレンズ装置を比較的簡単な構成で実現することができる。特に、本発明は、無限遠での通常撮影および至近距離での拡大撮影においてフォーカシングと変倍とを独立して操作可能な操作性の良いレンズ装置を実現できる。しかも、アフォーカルに接続する部分に光学防振ユニットを配置することで、装置の大型化を抑えつつ光学防振機能を搭載することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例である交換レンズ装置の構成を示す断面図。
【図2】実施例の交換レンズ装置におけるカメラモードとマクロモードでのレンズユニットの配置を示す断面図。
【図3】実施例の交換レンズ装置におけるフォーカスカム曲線を示す図。
【図4】実施例の交換レンズ装置における変倍カム曲線を示す図。
【図5】カメラ振れ(手振れ)の種類を説明する図。
【図6】実施例の交換レンズ装置における光学防振機能の原理を説明する図。
【図7】上記光学防振ユニットの電気的構成を示すブロック図。
【図8】実施例の交換レンズ装置における光学防振ユニットの配置例を示す図。
【図9】実施例の交換レンズ装置における光学防振ユニットの他の配置例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について図面を参照しながら説明する。
【実施例1】
【0013】
図1には、本発明の実施例である交換レンズ装置1を、光軸を含む平面で切ったときの断面を示している。図1の上段には、後述するカメラモードでの広角端状態での断面を示している。図1の中段には、後述するマクロモードの低倍率モードでの最小倍率端状態での断面を示している。さらに、図1の下段には、マクロモードの高倍率モードでの最大倍率端状態での断面を示している。
【0014】
交換レンズ装置1はその後端部(像側の端部)に設けられたマウント部20が、カメラ本体100の前面(被写体側の面)に設けられたマウント部102にバヨネット結合することで、カメラ本体100に取り外し可能に装着される。
【0015】
交換レンズ装置1内には、カメラ本体100の内部に配置された撮像素子101上に被写体像を形成するための撮影光学系が設けられている。撮像素子101は、CCDセンサやCMOSセンサ等の光電変換素子により構成され、その撮像面が撮影光学系の像面に位置するように配置されている。交換レンズ装置1とカメラ本体100とにより撮像装置が構成される。
【0016】
撮影光学系は、被写体側(物体側)から像側に順に、負の第1レンズユニット(第1フォーカスレンズユニット)L1と、正の第2レンズユニット(第2フォーカスレンズユニット)L2と、負の第3レンズユニットL3と、正の第4レンズユニットL4と、負の第5レンズユニットと、正の第6レンズユニットと、負の第7レンズユニットとにより構成されている。
【0017】
第1レンズユニット(第1フォーカスレンズユニット)L1、第2レンズユニット(第2フォーカスレンズユニット)L2および第3レンズユニット(第3フォーカスレンズユニット)L3は、光軸方向にそれぞれ移動してフォーカシングを行うフォーカス系を構成する。第4レンズユニットL4は、フォーカシングおよび変倍に際して光軸方向において不動(固定)のレンズユニットであり、フォーカス系と変倍系とをアフォーカルに接続するアフォーカル接続レンズとして機能する。第5レンズユニット(第1変倍レンズユニット)L5、第6レンズユニット(第2変倍レンズユニット)L6および第7レンズユニット(第3変倍レンズユニット)L7は、光軸方向にそれぞれ移動して変倍を行う変倍系(リレー系)を構成する。ここでいうフォーカス系と変倍系とをアフォーカルに接続するとは、フォーカス系と変倍系とを無焦点(または無焦点系)で接続することを意味するものとする。
【0018】
なお、第4レンズユニットL4を構成する正の物体側レンズコンポーネントと正の像側レンズコンポーネントの間には、光量を調節するための可変絞りAPが配置されている。
【0019】
また、固定鏡筒2は、交換レンズ装置1の本体を構成し、上記撮影光学系を収容する。固定鏡筒2の外周前部には、フォーカス操作環3が回転可能に取り付けられている。そして、このフォーカス操作環3は、連結ピン6を介して、固定鏡筒2の内側に配置されたフォーカスカム環4に連結され、該フォーカスカム環4と光軸回りで一体回転可能である。フォーカスカム環4の内側には、固定鏡筒2に固定されたフォーカス案内筒5が配置されている。
【0020】
このようなフォーカスカム環4には、第1フォーカスカム溝部4a、第2フォーカスカム溝部4bおよび第3フォーカスカム溝部4cが形成されている。
【0021】
また、第1レンズユニットL1、第2レンズユニットL2および第3レンズユニットL3はそれぞれ、第1レンズ保持枠11、第2レンズ保持枠12および第3レンズ保持枠13によって保持されている。第1レンズ保持枠11、第2レンズ保持枠12および第3レンズ保持枠13にはそれぞれ、第1カムフォロア11a,第2カムフォロア12aおよび第3カムフォロア13aが設けられている。そして、第1カムフォロア11aは、フォーカスカム環4に形成された第1フォーカスカム溝部4aに係合し、第2カムフォロア12aは第2フォーカスカム溝部4bに係合し、第3カムフォロア13aは第3フォーカスカム溝部4cに係合している。
【0022】
さらに、フォーカス案内筒5には、光軸方向に延び、第1カムフォロア11a、第2カムフォロア12aおよび第3カムフォロア13aが係合する直進ガイド溝部(符号は付さず)が形成されている。フォーカス操作環3が回転操作されると、第1、第2および第3カムフォロア11a,12a,13aは直進ガイド溝部によって光軸方向にガイドされながら(光軸周りでの回転が阻止されながら)、第1、第2および第3フォーカスカム溝部4a,4b,4cのリフトによって光軸方向に移動される。
【0023】
ここで、第1、第2および第3フォーカスカム溝部4a,4b,4cのカム形状を図3に示す。図3において、横軸はフォーカスカム環4の回転角度を示し、縦軸は第1、第2および第3フォーカスカム溝部4a,4b,4cのリフト量に相当する第1、第2および第3レンズユニットL1,L2,L3の光軸方向移動量(位置)を示している。この図から分かるように、第1、第2および第3フォーカスカム溝部4a,4b,4cは互いに異なるカム形状を有し、フォーカスカム環4の同じ回転量によって第1レンズユニットL1、第2レンズユニットL2および第3レンズユニットL3を互いに異なる移動量、光軸方向に移動させる。なお、フォーカス機構は、フォーカス系を光軸方向に移動させる機構であり、その構成は特に限定されないが、例えば、本実施例では、フォーカスカム環4と、フォーカス系のレンズユニットL1,L2,L3と、フォーカスカム溝部4a,4b,4cとから構成されている。
【0024】
第4レンズユニットL4は、固定鏡筒2に対して光軸方向に移動しないように固定された第4レンズ保持枠14により保持されている。
【0025】
また、固定鏡筒2の外周後部には、ズーム操作環7が回転可能に取り付けられている。ズーム操作環7は、連結ピン10を介して、固定鏡筒2の内側に配置されたズームカム環8に連結されており、ズームカム環8と光軸回りで一体回転が可能である。ズームカム環8の内側には、固定鏡筒2に固定されたズーム案内筒9が配置されている。
【0026】
そして、このようなズームカム環8には、第1ズームカム溝部8a、第2ズームカム溝部8bおよび第3ズームカム溝部8cが形成されている。
【0027】
また、第5レンズユニットL5、第6レンズユニットL6および第7レンズユニットL7はそれぞれ、第5レンズ保持枠15、第6レンズ保持枠16および第7レンズ保持枠17によって保持されている。これら第5レンズ保持枠15、第6レンズ保持枠16および第7レンズ保持枠18にはそれぞれ、第5カムフォロア15a,第6カムフォロア16aおよび第7カムフォロア17aが設けられている。第5カムフォロア15aは、ズームカム環8に形成された第5ズームカム溝部8aに係合し、第6カムフォロア16aは第6ズームカム溝部8bに係合し、第7カムフォロア17aは第7ズームカム溝部8cに係合している。
【0028】
さらに、ズーム案内筒9には、光軸方向に延び、第5カムフォロア15a、第6カムフォロア16aおよび第7カムフォロア17aが係合する直進ガイド溝部(符号は付さず)が形成されている。ズーム操作環7が回転操作されると、第5、第6および第7カムフォロア15a,16a,17aは直進ガイド溝部によって光軸方向にガイドされながら(光軸周りでの回転が阻止されながら)、第5、第6および第7ズームカム溝部8a,8b,8cのリフトによって光軸方向に移動される。
【0029】
ここで、第5、第6および第7ズームカム溝部8a,8b,8cのカム形状を図4に示す。図4において、横軸はズームカム環8の回転角度を示し、縦軸は第5、第6および第7ズームカム溝部8a,8b,8cのリフト量に相当する第5、第6および第7レンズユニットL5,L6,L7の光軸方向移動量(位置)を示している。この図から分かるように、第5、第6および第7ズームカム溝部8a,8b,8cは互いに異なるカム形状を有し、ズームカム環8の同じ回転量によって第5レンズユニットL5、第6レンズユニットL6および第7レンズユニットL7を互いに異なる移動量、光軸方向に移動させる。なお、ズーム機構は、変倍系を光軸方向に移動させる機構であり、その構成は特に限定されないが、例えば、本実施例では、ズームカム環8と、変倍系のレンズユニットL5,L6,L7と、ズームカム溝部8a,8b,8cとから構成されている。
【0030】
そして、フォーカス機構はフォーカス操作環3の回転操作に応じてフォーカス系のみを光軸方向に移動させ、ズーム機構はズーム操作環7の回転操作に応じて変倍系のみを光軸方向に移動させる。つまり、フォーカス機構とズーム機構はそれぞれ、フォーカス系および変倍系を互いに独立に移動させる、つまりはフォーカシングと変倍とを互いに独立に行わせる機構である。
【0031】
すなわち、本実施例では、フォーカス系と変倍系との光学的な接続をアフォーカル接続とすることで、フォーカス機構によるフォーカス系の操作と、ズーム機構による変倍系の操作とが互いに独立して操作可能としている。具体的には、本実施例の交換レンズ装置1では、図1および図2に示すように、フォーカス系を構成するレンズユニットL1〜L3と、変倍系を構成するレンズユニットL5〜L7とが、不動(固定)のレンズユニットL4を介してアフォーカル、つまりは無焦点(または無焦点系)で接続されている。
【0032】
これにより、被写体側(物体側)からフォーカス系を介して変倍系に入射する光成分は、平行光(平行光束又は平行光線)となる。また、本実施例の交換レンズ装置1における倍率は、フォーカス系の焦点距離と変倍系の焦点距離との比で決まるようにしている。このため、レンズユニットL4から変倍系に入射する光線に対し、ズーム機構の操作、つまりは変倍系を構成するレンズユニットL5〜L7の光軸方向への独立操作によって連続的に倍率を可変できる仕組みとなっている。したがって、フォーカス機構を通じて同一物体距離に対する合焦状態が維持されたままで、ズーム機構の独立操作によって連続的に変倍を行うことができる。
【0033】
なお、本実施例では、フォーカス操作環3およびズーム操作環7を通じた手動操作によってフォーカシングと変倍とが行われる場合について説明しているが、交換レンズ装置1又はカメラ本体100に設けられたフォーカススイッチやズームスイッチの操作に応じてフォーカスモータやズームモータが駆動され、フォーカシングと変倍とが電動で行われるようにしてもよい。
【0034】
また、本実施例の交換レンズ装置1は、広角端と望遠端との間で変倍が可能であり、至近距離から無限遠距離に対して合焦可能な第1のモードとしてのカメラモード(通常撮影モード)と、カメラモード(望遠端倍率)よりも高倍率での変倍が可能であり、かつカメラモード(至近距離)よりも短い物体距離に対して合焦した状態で拡大撮影が可能な第2のモードとしてのマクロモード(拡大撮影モード又は顕微鏡モード)とを有する。
【0035】
そして、ズーム機構は、カメラモードでの変倍とマクロモードでの変倍とを連続的に行わせるように構成されている。
【0036】
また、本実施例の交換レンズ装置1は、カメラモードおよびマクロモードのそれぞれにおいて、フォーカス系を移動させることなく同一物体距離(カメラモードでは至近距離から無限遠距離までの物体距離、マクロモードでは該至近距離よりも短い物体距離)に対する合焦状態を維持したまま変倍を行うことができる。さらに、マクロモードでは、低倍率モード(例えば、20〜80倍)と高倍率モード(例えば、50〜200倍)を選択することができる。以下の説明において、合焦する物体距離を合焦距離という。
【0037】
図2には、カメラモードにおける撮影光学系の広角端および望遠端でのレンズ配置を示す。なお、このレンズ配置は、合焦距離が無限遠であるときのものである。また、図2には、マクロモードの低倍率モードと高倍率モードのそれぞれにおける撮影光学系の最小倍率端と最高倍率端でのレンズ配置も示している。低倍率モードのレンズ配置はワークディスタンス(合焦距離に相当)が55mmのときのものを、高倍率モードのレンズ配置はワークディスタンスが35mmのときのものをそれぞれ示している。図2の上段から順に、(A)カメラモードのうち広角端Wでのレンズ配置、(B)同望遠端Tでのレンズ配置、(C)マクロモードのうち低倍率モードにおける広角端でのレンズ配置、(D)同低倍率モードにおける望遠端でのレンズ配置、(E)マクロモードのうち高倍率モードにおける広角端でのレンズ配置、(F)同高倍率モードにおける望遠端でのレンズ配置を示している。
【0038】
また、カメラモードにおいては、ズーム操作環7の回転操作によるズームカム環8の回転に応じて、第5〜第7レンズユニットL5〜L7が光軸方向に移動し、広角端から望遠端までの間で変倍が行われる。また、フォーカス操作環3の回転操作によるフォーカスカム環4の回転に応じて、第1〜第3レンズユニットL1〜L3が光軸方向に移動し、至近端から無限遠端までの間でフォーカシングが行われる。カメラモードでのズームでは、交換レンズ装置1の光軸方向全長は変化しない。
【0039】
一方、マクロモードの低倍率モードと高倍率モードにおいても、ズーム操作環7の回転操作によるズームカム環8の回転に応じて、第5〜第7レンズユニットL5〜L7が光軸方向に移動し、最小倍率端と最大倍率端との間で変倍が行われる。ズームカム環8に形成された第5〜第7ズームカム溝部8a〜8cは、カメラモードとマクロモードでの第5〜第7レンズユニットL5〜L7での移動を連続的に行わせるように形成されている。言い換えれば、第5〜第7ズームカム溝部8a〜8cはそれぞれ、カメラモードでの変倍の延長上でマクロモードでの変倍ができるように連続したカム形状を有する。これにより、カメラモードからマクロモードへの移行(およびその逆の移行)をシームレスで行うことが可能となり、該移行のための操作を簡単とすることができる。
【0040】
なお、マクロモードにおける低倍率モードと高倍率モードは、フォーカス系のレンズ位置の変更によって切り替えられる。
【0041】
また、マクロモードにおいて、フォーカス操作環3の回転操作によるフォーカスカム環4の回転に応じて、第1〜第3レンズユニットL1〜L3が光軸方向に移動し、上記至近端よりも短い物体距離に対してフォーカシングが行われる。ただし、マクロモードでは、第1レンズユニットL1が、カメラモードでの光軸方向位置よりも物体側に突出し、その分、カメラモードに比べて交換レンズ装置1の光軸方向全長が長くなる。しかし、至近端よりも短い物体距離に対して合焦した後は、変倍が行われても、第1〜第3レンズユニットL1〜L3が移動することなく、その物体距離(同一物体距離)に対する合焦状態が維持される。
【0042】
このように、本実施例では、ズーム操作環7の回転操作によってカメラモードとマクロモードとの間の切り替えを行うことができる。したがって、カメラモードでの風景撮影や人物撮影等の通常撮影から、マクロモードでの接写拡大撮影(マクロ撮影)までを容易に行うことができる。さらに言えば、本実施例によれば、拡大アダプタ等の装着による大型化を伴うことなく、カメラモードとマクロモードでのズーム撮影およびこれらモード間の移行を容易に行うことができる。
【0043】
また、本実施例では、マクロモードにおける最大倍率端においても、被写体とレンズ前端との距離であるワークディスタンスがある程度広くとれる。しかも、マクロモードでの焦点深度(被写界深度)をある程度深く確保している。これにより、最大倍率端においても立体物を容易に観察することができる。
【0044】
なお、図1の上段に示すように、本実施例の交換レンズ装置1における最も被写体側の部分(前端部)、具体的には第1レンズ保持枠11における第1レンズユニットL1よりも被写体側(物体側)の部分には、光軸回りにリング状に配置された複数のLED(発光体)30を備えた照明ユニット31が取り付けられている。LED30からの光は、マクロモードで被写体を拡大接写する場合に該被写体を照明するのに使用される。照明ユニット31を交換レンズ装置1の前端部に設けることで、LED30からの光がけられることなく、被写体を明るく照明することができる。なお、照明ユニット31に対する電源供給は、マウント部102,20に設けられた不図示の電気接点を介してカメラ本体100から行われる。
【0045】
また、複数のLED(発光素子)30には、R(赤)、G(緑)、B(青)のLEDと、これらR,G,BのLEDの間に配置されたW(白)のLEDとを含む。ただし、これは例であり、複数色のLEDの配置はこれ以外のものであってもよい。
【0046】
交換レンズ装置1に設けられたLED選択スイッチ(図示せず)の操作により、任意の色のLEDを選択的に発光させることができる。これにより、被写体を色によって部分的に際立たせて撮像することができる。例えば、マクロモードでの被写体が人間の皮膚である場合は、R色のLEDを発光させることで、皮下の組織を際立たせることができる。
【0047】
以上のように構成された交換レンズ装置1には、該交換レンズ装置1およびこれが装着されたカメラ本体100(以下、これらをまとめてカメラという)を持つユーザの手振れに起因する像振れを低減(補正)するための光学防振機能が搭載されている。具体的には、防振光学素子としての防振レンズを光軸方向とは異なる方向(主として光軸に直交する方向)にシフトさせる光学防振システムが搭載されている。
【0048】
図5を用いて、手振れによってカメラに生ずる振れ(カメラ振れ)の方向について説明する。撮影光学系51の光軸をZ軸とし、このZ軸を通り該Z軸に直交する左右方向をX軸とする。また、Z軸を通り該Z軸に直交する上下方向をY軸とする。
【0049】
手振れによって、カメラには、X,Y,Z軸に平行な方向への移動およびX,Y,Z軸回りでの回転(ピッチング、ヨーイングおよびローリング)の計6種類のカメラ振れが発生する。これらのカメラ振れのうち回転成分であるヨーイングとピッチングが、像面(撮像素子101)上に形成される被写体像を大きく変位させる。このため、光学防振機能には、これらの2つの回転振れを打ち消すような機能が求められる。
【0050】
図6には、光学防振機能の原理を示している。図6の(a)に示すように、カメラ振れ(ピッチング又はヨーイング)が発生すると、像面IP上における被写体像の位置(点線で示す)が光軸Zの位置に対して変位する。このときのカメラ振れを角速度として検出し、該角速度からカメラ振れ量を算出する。そして、図6の(b)に示すように、算出したカメラ振れ量から、光軸Zの位置に対する被写体像の位置のずれを戻すための防振レンズISのシフト方向とシフト量を算出し、該シフト方向に該シフト量だけ防振レンズISをシフトさせる。これにより、カメラ振れ(手振れ)に起因する像振れを補正することができる。
【0051】
図7には、本実施例における光学防振システムの電気的構成を示す。光学防振システムは、防振レンズISおよびこれをシフト駆動するアクチュエータ76により構成される光学防振ユニットと、アクチュエータ76の動作(つまりは防振レンズISのシフト動作)を制御する防振回路70とにより構成される。
【0052】
防振回路70は、上述したヨーイングおよびピッチングをそれぞれ検出するための角速度センサ71,72を有する。
【0053】
角速度センサ71,72から出力された角速度を示すアナログ信号は、アナログ信号処理回路73にて増幅され、制御マイクロコンピュータ74に取り込まれる。制御マイクロコンピュータ74は、増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換し、該デジタル信号を積分してカメラ振れ量(角度)を算出する。そして、制御マイクロコンピュータ74は、算出したカメラ振れ量と防振レンズの現在位置を示す位置信号(不図示の位置センサにより検出されて出力される)とから、防振レンズISのシフト量を算出し、そのシフト量に応じて駆動回路75を介してアクチュエータ76を駆動する。
【0054】
アクチュエータ76としては、ボイスコイルモータ等が用いられる。防振回路70は、フキシブル基板に実装されて交換レンズ装置1の内部に搭載される。
【0055】
図8には、本実施例の交換レンズ装置1における光学防振ユニット80の搭載例を示している。図8(A)は、第4レンズユニットL4のうち物体側レンズコンポーネントを防振レンズとし、第4レンズ保持枠14に図7に示したアクチュエータ76を取り付けた例を示す。また、図8(B)は、第4レンズユニットL4のうち像側レンズコンポーネントを防振レンズとし、第4レンズ保持枠14にアクチュエータ76を取り付けた例を示す。いずれの例でも、図7に示した光学防振システム70のうち防振回路70は、フレキシブル基板に実装されて交換レンズ装置1内の適当なスペース(例えば、図8(C)に示すように、第6レンズ保持枠16と第7レンズ保持枠17との間の環状のスペース)に配置される。
【0056】
また、図9には、本実施例の交換レンズ装置1における光学防振ユニット80の別の搭載例を示している。図9(A)は、第4レンズユニットL4よりも物体側にこれに隣り合って配置された第3レンズユニットL3を防振レンズとし、第3レンズ保持枠13にアクチュエータ76を取り付けた例を示す。図9(B)は、第4レンズユニットL4よりも像側にこれに隣り合って配置された第5レンズユニットL5を防振レンズとし、第5レンズ保持枠15にアクチュエータ76を取り付けた例を示す。
【0057】
ここで、第3レンズユニットL3、第4レンズユニットL4および第5レンズユニットL5は、フォーカス系から変倍系(リレー系)までの光学系のうち該フォーカス系と該変倍系とをアフォーカルに接続する部分(以下、アフォーカル接続部という)を構成する。アフォーカル接続部は、言い換えれば、レンズユニット間を平行光束で接続するアフォーカル接続レンズ(又はアフォーカル接続レンズユニット)と、該平行光束で結ばれるレンズユニットのうちアフォーカル接続レンズに物体側もしくは像側にて隣り合うレンズ(又はレンズユニット)により構成される光学系である。
【0058】
このようなアフォーカル接続部を構成する第3,第4および第5レンズユニットL3,L4,L5は、第1,第2,第6および第7レンズユニットL1,L2,L6,L7に比べて径が小さいので、その周辺にスペースの余裕がある。このため、アフォーカル接続部に該スペースを有効利用して光学防振ユニットを配置することで、交換レンズ装置1の大型化を抑えつつ、光学防振機能を搭載することができる。
【0059】
なお、上記実施例では物体側から像側に7つのレンズユニットを含むレンズ装置について説明したが、本発明は、7つ以外の数のレンズユニットを含むレンズ装置にも適用することができる。つまり、上記実施例で説明したフォーカス系および変倍系のレンズ構成は例に過ぎず、他のレンズ構成を採用してもよい。さらに、各レンズユニットが有する屈折力の正負も上記実施例にて説明したものに限られるわけではなく、適宜選択することができる。
【0060】
また、交換レンズ装置において、フォーカス系および変倍系を交換可能としてもよい。
【0061】
さらに、光学防振ユニットが設けられるレンズユニットのレンズ構成は、単レンズのみによるレンズ構成であってもよいし、貼り合わせレンズを含めた複数のレンズによるレンズ構成であってもよい。
【0062】
また、上記実施例では、カメラ本体に対して着脱可能な交換レンズ装置について説明したが、本発明は、レンズ装置が一体に設けられた撮像装置にも適用することができる。
【0063】
以上説明した実施例は代表的な例にすぎず、本発明の実施に際しては、実施例に対して種々の変形や変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
通常撮影時および拡大撮影時にフォーカシングおよび変倍を行えるレンズ装置および撮像装置を提供できる。
【符号の説明】
【0065】
1 交換レンズ装置
2 固定鏡筒
3 フォーカス操作環
4 フォーカスカム環
7 ズーム操作環
8 ズームカム環
80 光学防振ユニット
L1〜L7 レンズユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体側に配置されたフォーカス系と、
該フォーカス系よりも像側に配置され、前記フォーカス系とアフォーカルに接続された変倍系と、
前記フォーカス系を移動させてフォーカシングを行わせるフォーカス機構と、
前記変倍系を移動させて変倍を行わせるズーム機構とを有し、
前記フォーカス機構によるフォーカシングと前記ズーム機構による変倍とが互いに独立に行われ、
かつ前記フォーカス系から前記変倍系までの光学系のうち該フォーカス系と該変倍系とをアフォーカルに接続する部分に、防振光学素子を光軸方向とは異なる方向にシフトさせる光学防振ユニットを有することを特徴とするレンズ装置。
【請求項2】
前記フォーカス系と前記変倍系は、これらフォーカス系と変倍系との間に配置されたアフォーカル接続レンズを介してアフォーカルに接続されており、
前記光学防振ユニットは、前記アフォーカル接続レンズを前記防振光学素子としてシフトさせることを特徴とする請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項3】
前記フォーカス系と前記変倍系は、これらフォーカス系と変倍系との間に配置されたアフォーカル接続レンズを介してアフォーカルに接続されており、
前記光学防振ユニットは、前記フォーカス系のうち前記アフォーカル接続レンズに隣り合って配置されたレンズを前記防振光学素子としてシフトさせることを特徴とする請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項4】
前記フォーカス系と前記変倍系は、これらフォーカス系と変倍系との間に配置されたアフォーカル接続レンズによってアフォーカルに接続されており、
前記光学防振ユニットは、前記変倍系のうち前記アフォーカル接続レンズに隣り合って配置されたレンズを前記防振光学素子としてシフトさせることを特徴とする請求項1に記載のレンズ装置。
【請求項5】
前記フォーカス系は、前記物体側から前記像側に順に、負の第1フォーカスレンズユニット、正の第2フォーカスレンズユニットおよび負の第3フォーカスレンズユニットにより構成され、
前記アフォーカル接続レンズは、正のレンズユニットであることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載のレンズ装置。
【請求項6】
前記変倍系は、前記物体側から前記像側に順に、負の第1変倍レンズユニット、正の第2変倍レンズユニットおよび負の第3変倍レンズユニットにより構成されていることを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載のレンズ装置。
【請求項7】
前記フォーカス系と前記変倍系とが、無焦点で光学的に接続されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載のレンズ装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のレンズ装置と、
該レンズ装置により形成された被写体像を光電変換する撮像素子とを有することを特徴とする撮像装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−220697(P2012−220697A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−85888(P2011−85888)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000104652)キヤノン電子株式会社 (876)
【Fターム(参考)】