説明

ロックボルト

【課題】最も腐食を受けやすい環境に置かれる頭部側部分の耐久性を向上させた二重防錆構造のロックボルトを提供する。
【解決手段】ロックボルト1は、ネジ節棒鋼からなる異形棒鋼の外周面に、一次防錆層として溶融亜鉛メッキ皮膜3を被覆し、さらにその外側にpH値が12.0以上の強アルカリ性環境下で耐性を有するポリビニルブチラール樹脂皮膜4を二次防錆層として積層した防錆構造であって、ポリビニルブチラール樹脂皮膜4は、少なくともその先端側の端面4aがセメントミルク16に対して確実に埋没される位置まで頭部側の端面から連続して設けたものである。セメントミルク16が硬化する際に上昇した強アルカリ性のブリージング水15に対してポリビニルブチラール樹脂皮膜4は変質することなく、頭部側部分を内側にある亜鉛メッキ皮膜3とによる二重防錆構造により、異形棒鋼を錆から保護する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟弱な土砂斜面の安定化などを図る目的で地山斜面に打設するロックボルトに関し、特に頭部付近の防錆性能が向上したロックボルトに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般の鉄筋コンクリート構造物に使われている竹節棒鋼やネジ節棒鋼などの異形棒鋼からなるロックボルトは、経済性や入手の容易さ等の理由により、法面や自然斜面などの地山斜面の地盤安定化の手段として多用されている。これらのロックボルトは、地山斜面に設けた掘削孔にほぼ大半部分を挿入した状態で周囲にセメントミルクを注入充填し、その硬化により地盤に定着される。この場合、ロックボルトはスペーサ(センタライザ)を介して掘削孔の中心に設置され、セメントミルクの硬化体(以下、「セメント硬化体」という。)による適宜の被り厚を確保することで防錆が図られている。図5は、施工途中のロックボルト10の頭部付近の状態を示したものである。この場合、ロックボルト10を掘削孔11の内部に挿入した状態でセメントミルクを掘削孔11の開口付近に到達するまで注入することになる。ところが、掘削孔11が傾斜面12に対してほぼ直角に穿孔されている関係から、掘削孔11の開口縁の最下部位置11aよりも上方空間にセメントミルクを充填することが困難であり、硬化後にやや沈下したセメント硬化体13の上面13aの上方に空隙部14が残ることが避けられない。
【0003】
そして、このような空隙部14には雨水や浸透水が浸入し、ロックボルト10の露出部分が貫通する空隙部14の内部は、水が溜まりやすい状況にある。一方、ロックボルト10の埋没部分、特にセメント硬化体13の上面13aに近い内部では、ブリージング現象や注入途中での土砂の混入などが原因でロックボルト10と周囲の硬化体13との密着性が他の部分に比べて低下し、両者の境界面に微小な隙間が生じやすい。このため、空隙部14に近い埋没部分も含め、ロックボルト10の頭部は、きわめて厳しい腐食環境下に置かれることになる。
【0004】
このような状況を踏まえ、近年ではロックボルトの防錆性能を向上させる手段として、二重防錆構造が検討されている。掘削孔内部でセメント硬化体中に完全に埋没される部分に対しては、予め異形棒鋼の表面全体に溶融亜鉛メッキ処理を施し、このメッキ皮膜とその周囲のセメント硬化体とによる二重防錆が基本である。一方、周囲にセメント硬化体が存在しない異形棒鋼の頭部側部分に関しては、異形棒鋼の表面全体に溶融亜鉛メッキ処理を施すとともに、腐食を最も受けやすい前記空隙部付近を中心とする上下の領域に防錆被覆を積層することでこれに対応している。具体的には、異形棒鋼の頭部側端部から連続し、セメント硬化体の上面付近に埋没する可能性がある部分までの区間、凡そ一端側から50cm程度の部分を対象とし、流動浸漬法または静電塗装法による数百μm程度の飽和ポリエステル樹脂層を外側の防錆被覆層として設ける二重防錆技術が提案されている(特許文献1)。また、前記ロックボルトと同様に頭部側に相当する部分として、異形棒鋼の一端側から一定の区間の外周面に対してペトロラタム系などのグリスを塗布し、さらにこのグリス層を低摩擦性の合成樹脂からなる熱収縮チューブで被覆する技術も提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4211946号公報
【特許文献2】特許第4173511号公報
【0006】
この種のロックボルトの定着に使用される注入充填材としては、普通ポルトランドセメントや早強ポルトランドセメントに水を加えて懸濁液状としたセメントミルクが一般的である。本発明者らは、ロックボルトの防錆性能を向上させるために幾多の実験を重ねたところ、その過程において、新たな事実を確認するに至った。すなわち、セメントミルクのpH値は一般に12.0程度以下とされているが、硬化中のセメントミルクではその上限値を超えるきわめて強いアルカリ性(pH12.0〜13.0)を示すことが確認されたのである。特に、硬化中のセメントミルクの液面に近い上層域は、撹拌をしない自然状態において下層よりもpH値が高くなるという傾向が見られた。この液面付近に見られる強アルカリ性状態が、以下に説明するロックボルトの頭部定着構造において、重大な影響を及ぼしているのである。なお、このようなpH値の偏りは、セメントが水和反応により硬化する過程で液面付近に上昇したブリージング水中に含まれるナトリウムやカリウムなど、強アルカリ性を呈するアルカリ金属の影響によるものと推察される。
【0007】
ところで、特許文献1に記載の亜鉛メッキ層と飽和ポリエステル樹脂層からなる積層皮膜による防錆であるが、実験によるとpH値が12.0を超えた条件下では、飽和ポリエステル樹脂皮膜にアルカリ成分による劣化、浸食が見られた。斯かる状況に至った場合には、実質的に飽和ポリエステル樹脂皮膜の内側に存在する亜鉛メッキ皮膜のみの防錆構造となってしまい、場合によっては亜鉛メッキ皮膜も溶解することも予想される。なお、掘削孔の内部では硬化中のセメントミルク液のpH値が12.0を超えることはほとんどないことから、それら二重の防錆皮膜は変質することなく機能する。ところが、上昇したブリージング水が集まるセメントミルクの液面付近では、pH値が12.0を超える可能性が多分にある。このため、いずれの防錆皮膜もセメントミルクの硬化中に劣化、損傷する虞があった。すなわち、ロックボルトの頭部側に位置し、上記空隙部の下方でセメントミルク中に埋没する部位は、上述した強アルカリ性のブリージング水との接触による防錆皮膜の浸蝕が一段と懸念される場所となっているのである。また、飽和ポリエステル樹脂とセメント硬化体との密着性があまり良くないことは、特許文献1等により既に知られているが、セメントミルクの硬化中にブリージング水とともに上昇して両者の境界面に堆積したレイタンス層が、密着性の低下を助長していることも確認された。このように、ロックボルトの全長において、特にセメント硬化体の上面付近に埋没している部位は、二重の防錆被覆層がブリージング水によって化学的に変質されやすく、しかも防錆被覆層とセメント硬化体との間に隙間が生じやすい状況にあると言える。このため、上記空隙部に溜まった雨水等が両者の境界面に沿って内部に浸入しやすいことに加え、防錆被覆層が十分に機能しない状況に置かれることから、ロックボルト頭部の耐食性に大きな問題点があった。
【0008】
一方、特許文献2に記載のロックボルトは、グリスの塗布工程や熱収縮チューブの収縮工程を含むために作業性に難があり、大量生産には適さない構造である。しかも、予め適宜倍率に拡径加工を施した合成樹脂チューブを、加熱によって元の内径にまで収縮させてグリス層の外側に被覆層を形成するものであるから、特許文献1のような皮膜形成手段に比べると、熱収縮チューブと内側の異形棒鋼との間の密着性が本質的に低くならざるをえないといった大きな問題がある。この場合、外周面にネジ節などの多数の突条が突設された異形棒鋼が被覆対象であるだけに、被覆対象物表面に対する密着性が格段に悪く、両者の間に大きな隙間が形成されることが避けられない。このため、夏季の粘度低下などによってグリス層が熱収縮チューブ内から流出しやすく、長期間に渡ってこれを所定の部位に保持することが困難であり、二重防錆構造の維持がきわめて難しいものとなっている。さらに、熱収縮チューブが低摩擦性の合成樹脂によって形成されているから、セメント硬化体に埋没した部分では、熱収縮チューブと周囲のセメント硬化体との密着性もほとんど期待できない。したがって、熱収縮チューブの内外周面には多くの隙間が生じやすくなり、前記特許文献1に記載のロックボルト以上に耐食性の点で劣るものであった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、以上のような従来技術の状況に鑑み、新たな知見に基づきながら鋭意検討を重ねた結果、本発明に想到したのである。すなわち本発明では、最も腐食を受けやすい環境に置かれる頭部側部分に対して、pH値が12.0以上の強アルカリ性の環境下でも耐性を有する被覆層を表面に設けることにより、防錆機能を格段に向上させた二重防錆構造のロックボルトの提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明では上記課題を解決するため、法面等の傾斜面に対してほぼ直角に設けたボルト孔に挿入され、該ボルト孔の開口近くまで注入したセメントミルク層の上面から傾斜状態で突出して定着される亜鉛メッキ処理された異形棒鋼からなるロックボルトにおいて、前記異形棒鋼に対して、その頭部側端部から連続して前記セメントミルク層の上面下で周方向の少なくとも一部が埋没する部分に至る区間の全周に渡り、pH12.0以上の強アルカリ性環境下で耐性を有する防錆被覆層を設けた点に技術的に大きな特徴がある。なお、防錆被覆層に使用する素材としては、各種合成樹脂の中ではポリビニルアセタール樹脂が好適であり、その中でもポリビニルブチラール樹脂が特に好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るロックボルトでは、上記のような構成を採用したことにより、次の効果が得られる。
(1)異形棒鋼の頭部側部分の外周面に存在し、pH12.0以上の強アルカリ性環境下で耐性を有する防錆被覆層は、その他端側部分がセメントミルク内に埋没され、上昇してきた強アルカリ性のブリージング水と接触したときにも変質や劣化をすることがなく、内側の亜鉛メッキ皮膜とでロックボルト頭部での二重防錆構造を確実に維持することができる。
(2)異形棒鋼の頭部側端部から、他端側の端部となるセメント硬化体中への埋没部分までの区間が、連続した上記防錆被覆層より包囲されているので、掘削孔の開口付近に必然的に形成される空隙部内に雨水等が浸入した場合でも、異形棒鋼と浸入水との接触を確実に遮断し、酸素と水の共存により腐食を最も受けやすいロックボルト頭部での防錆性能を向上させることができる。
(3)防錆被覆層としてポリビニルアセタール樹脂を使用した場合には、埋没部分における周囲のセメント硬化体との密着性がきわめて良好であることから、その大きな付着力によってセメント硬化体との境界面付近での微小亀裂の発生を抑制し、両者の境界面に隙間の発生がなくなるので、空隙部に溜まった水がロックボルト表面を伝わって埋没部分の内部まで浸入することを有効に阻止できる。
(4)防錆被覆層にポリビニルアセタール樹脂を使用すれば、異形棒鋼表面にある亜鉛メッキ皮膜との密着性が良好であり、しかも粉体塗装などの方法で簡単に被覆できるという利点がある。その中でもポリビニルブチラール樹脂は、密着性や作業性などの点でバランスが良く、この種の用途において特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るロックボルトの一実施形態を示し、一部を切り欠いた正面図である。
【図2】図1に示したロックボルトの頭部側から見た側面図である。
【図3】図1に示したロックボルトの一部を拡大した断面図である。
【図4】施工途中における本発明に係るロックボルトの頭部付近の状態を示した断面図である。
【図5】施工途中における従来技術に係るロックボルトの頭部付近の状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るロックボルトは、竹節棒鋼やネジ節棒鋼などの各種の異形棒鋼を使用することができる。これら異形棒鋼の表面には、溶融亜鉛メッキ、電気亜鉛メッキなどによる一次防錆被覆層を予め形成しておく。そして、合成樹脂やセラミックスなどのpH値が12.0以上の強アルカリ性環境下で耐性を有する素材を二次防錆被覆層として一次防錆被覆層の外側に設けることにより、二重防錆構造としている。二次防錆被覆層には、被覆作業やコスト等の点から合成樹脂の使用が好ましい。合成樹脂の具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、フッ素樹脂、ポリビニルアセタール樹脂などが挙げられる。この中でもポリビニルアセタール樹脂は、異形棒鋼やセメント硬化体に対する皮膜の密着性に優れ、かつ粉体塗装に適していることなどからして特に好適である。粉体塗装の方法としては、流動浸漬法、静電塗装法、溶射法等が挙げられる。
【0014】
上記二次防錆被覆層の最小被覆範囲は、異形棒鋼の頭部側の端面から先端側に向けて、先端方向の端面がセメント硬化体の上面付近において完全に埋没する位置まである。すなわち、セメントミルクが硬化した後のロックボルトは、セメント硬化体から突出した部分では上記のような2種の防錆皮膜による二重防錆構造となり、またセメント硬化体の内部では亜鉛皮膜とセメント硬化体による二重防錆構造となる。ただし、掘削孔の開口近くで上面が水平状態で固化するセメントミルクに対して、上記二次防錆被覆層の先端側部分が傾斜状態で埋没されることと、強アルカリ性のブリージング水が硬化中のセメントミルクの液面近くに集まることからして、二次防錆被覆層の先端側を確実に埋没させるための被覆区間の設定が特に重要である。そこで、本発明では二次防錆被覆層の先端側部分が傾斜状態で埋没されることを考慮し、頭部側端面を起点として、少なくとも周方向の一部が埋没する部分までの区間に連続して被覆するのが基本である。なお、ポリビニルアセタール樹脂を二次防錆被覆層に適用するとともに、セメント硬化体に対する二次防錆被覆層の埋没深さを異形棒鋼の中間部分まで延長して十分に確保した場合には、セメント硬化体と良好に密着している部分がその分だけ長くなることから、空隙部に溜まった雨水等の内部への浸入をより確実に阻止し、防錆性能の向上につながる。さらには、このポリビニルアセタール樹脂被覆層を異形棒鋼の全長に渡って設けてもよく、この場合には、その優れた付着力によってセメント硬化体の亀裂を抑制し、頭部側から先端側に至るすべての部位において、防錆性能が確保され、より信頼性の高いものとなる。
【0015】
二次防錆被覆層として特に好適な上記ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールとアルデヒドを酸性条件下でアセタール化したもので、ビニルアセタール単位とビニルアルコール単位とビニルエステル単位から構成される三元重合体である。この場合、粉体塗装に適したそれぞれの含有率は、ビニルアセタール単位40〜85モル%、ビニルアルコール単位10〜50モル%、ビニルエステル単位0.1〜30モル%である。さらに好ましくは、ビニルアセタール単位50〜85モル%、ビニルアルコール単位20〜40モル%、ビニルエステル単位0.5〜20モル%である。また、重合度は200〜1700、好適には300〜1300、最適には400〜1000である。なお、ポリビニルアセタールの重合度は、ポリビニルアセタールの原料であるポリビニルアルコールの重合度と同じである。
【0016】
なお、本発明で使用するポリビニルアセタール樹脂は、炭素数2〜6のアルデヒドでアセタール化されたものが好ましい。斯かるアルデヒドとしては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、n−ブチルアルデヒド、イソブチルアルデヒド、n−ヘキシルアルデヒド、2−エチルブチルアルデヒドなどが挙げられる。これらは単独で使用する他に、二種以上を併用してもよい。これらの中でも炭素数4〜6のアルデヒド、特にn−ブチルアルデヒドが好適であり、このアルデヒドを使用するポリビニルブチラール樹脂が最適である。以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明するが、もちろんこれらの実施形態に限定されるものではなく、異形棒鋼の形状、防錆被覆層の材質の変更など、本発明の技術思想内での種々の変更実施はもちろん可能である。
【0017】
図1ないし図3は、それぞれ本発明に係るロックボルトの一実施形態を示した正面図、側面図および拡大断面図である。図示のロックボルト1は、図1等に示したように、異形棒鋼2の外周面に一次防錆被覆層としての溶融亜鉛メッキ皮膜3を被覆し、さらに頭部側に相当する長手方向の一端側部分に対して、溶融亜鉛メッキ皮膜3の外側にpH値が12.0以上の強アルカリ性環境下で耐性を有する素材であるポリビニルブチラール樹脂皮膜4を二次防錆被覆層として積層した構成である。
【0018】
上記異形棒鋼2はネジ節棒鋼からなり、ネジ節2aが軸心と平行で軸心に対して対向位置にある2箇所の平坦面2bにより分断され、図2から明らかなように、略小判形状の横断面に形成されたものである。実施形態では、異形棒鋼2の先端側端面が軸心に対して直交する平坦面となっているが、掘削孔への挿入性を考慮して約45度の傾斜面とし、あるいは先端部分にコーン状のキャップを被せるなどしてもよい。この場合、溶融亜鉛メッキ皮膜3は異形棒鋼2の全面(外周面と端面)に渡って設けられている。
【0019】
また、ポリビニルブチラール樹脂皮膜4は、図1から明らかなように、異形棒鋼2の頭部側(図では左側)の端面から所定長Lの区間の外周面に対して連続的に設けられている。すなわち、ポリビニルブチラール樹脂皮膜4で囲まれた部分は、図3に一部を拡大して示したように、上記溶融亜鉛メッキ皮膜3と一体になって、ロックボルト自体で二重防錆構造を形成している。この場合、所定長Lはセメントミルクの硬化等に起因する沈下、あるいは設置条件などを考慮して決定すればよいが、ポリビニルブチラール樹脂皮膜4の挿入方向側の端面4aが確実にセメント硬化体の内部に埋没することが重要である。一般的には30cm程度であるが、設置条件に応じて適宜増減することができる。
【0020】
図4は、本発明に係るロックボルト1の施工途中の頭部付近の状態を示した断面図である。図から明らかなように、ポリビニルブチラール樹脂皮膜4の挿入方向側の端面4aは、上昇したブリージング水15を越えて硬化中のセメントミルク16の内部にまで到達している。すなわち、ポリビニルブチラール樹脂皮膜4の被覆区間Lは、セメントミルク16の硬化後においても確実にセメント硬化体の内部に埋没されるように設定することが重要である。このような設置状態において、空隙部14内に位置する部分は溶融亜鉛メッキ皮膜3とポリビニルブチラール樹脂皮膜4による二重防錆構造となり、セメントミルク16に埋没した部分では、最終的に溶融亜鉛メッキ皮膜3とセメント硬化体による二重防錆構造となる。セメントミルク16内に埋没するポリビニルブチラール樹脂皮膜4の先端側部分では、その外周面と硬化後のセメント硬化体との密着性が高いことから、両者の境界面に隙間が形成されにくく、空隙部14内に溜まった雨水等のセメント硬化体内部への浸入を有効に阻止することができる。
【0021】
次に、溶融亜鉛メッキ皮膜の外側にポリビニルブチラール樹脂被覆層を設けた二重防錆構造のボルト(以下、「実施例」という。)と、最外周の被覆層を飽和ポリエステル樹脂に代えたもの(以下、「比較例」という。)を対象とし、それぞれ以下の条件で耐アルカリ性試験および付着性試験を行った。
【0022】
<耐アルカリ性試験>
直径150mm、高さ300mmのモールド缶に上記構成の被覆ボルト(全長350mm)を固定した状態でセメントミルク(普通ポルトランドセメント、W/C50%)を流し込み、2週間の養生を行って十分に硬化させたものを試験体とした。ボルトの固定は、モールド缶の底面から50mm浮かせた位置とした。なお、セメントミルクの硬化中でのpHを測定したところ、12.6であった。そして、所定の養生期間が経過した後、モールド缶から試験体を脱型し、セメント硬化体を割ってボルト表面の腐食状況を観察した。それぞれセメント硬化体の内部に埋没した部分の樹脂被覆層の状態を目視で観察したところ、実施例のボルトではセメント硬化体の接触面付近から剥離したものが被覆層表面全体に付着しているものの、それらを注意深く除去した後の樹脂被覆層には劣化が認められなかった。これに対して、比較例のボルトでは樹脂被覆層の表面に多数の貫通孔が形成され、セメントミルクの強アルカリ成分による浸食が確認された。したがって、両者の間には、防食性に大きな差があった。
【0023】
<付着性試験>
直径150mm、高さ300mmのモールド缶に上記構成の被覆ボルト(全長350mm)を固定した状態でセメントミルク(普通ポルトランドセメント、W/C50%)を流し込み、2週間の養生を行って十分に硬化させたものを試験体とした。ボルトの固定は、モールド缶の上面から100mm沈めた位置とした。そして、所定の養生期間が経過した後、モールド缶から試験体を脱型し、セメント硬化体を固定した状態でボルトの露出部分を把持して引張試験機により引き抜き、引抜中の状況と引き抜いた後のボルト表面の状態を観察した。その結果、実施例のボルトの引抜力は比較例よりも大幅に高く、引抜後の埋没部分の被覆層表面の状態は、異形棒鋼表面(亜鉛メッキ皮膜)からの剥離個所が全く認められないばかりか、上記のとおりセメント硬化体からの剥離物が被覆層の全面に付着していた。これに対して、比較例ではセメント硬化体が被覆層表面に全く付着することなく抜けた。これらの結果から、実施例で使用したポリビニルブチラール樹脂被覆層が異形棒鋼とセメント硬化体の両方に対して優れた密着性を有することが確認された。
【0024】
本発明に係るロックボルト1は、図4に示すような使用条件において、ポリビニルブチラール樹脂皮膜4の先端側端面4aが、少なくともセメントミルク16の液面付近に埋没するように区間Lを設定すればよい。これにより、硬化中に上昇したブリージング水15による内側の亜鉛メッキ皮膜3が浸食されることがなくなり、さらにその硬化後のセメント硬化体中への埋没部分に亀裂が発生した場合でも、ポリビニルブチラール樹脂皮膜4によって雨水等と異形棒鋼2との接触を効果的に遮断し、防錆性能が大幅に向上する。さらに、ポリビニルブチラール樹脂皮膜4の良好な密着性は、セメント硬化体の表面を拘束し、微小亀裂の発生を抑止する効果も期待できることから、セメント硬化体内部への水の浸入を有効に阻止する。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上説明したように、本発明に係る二重防錆構造のロックボルトによれば、少なくとも頭部側部分での防錆性能の向上により、耐久性や信頼性を高めることができる。
【符号の説明】
【0026】
1,10…ロックボルト、2…異形棒鋼、3…亜鉛メッキ皮膜、4…防錆被覆層、11…掘削孔、12…傾斜面、13…セメント硬化体、14…空隙部、15…ブリージング水、16…セメントミルク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面等の傾斜面に対してほぼ直角に設けたボルト孔に挿入され、該ボルト孔の開口近くまで注入したセメントミルク層の上面から傾斜状態で突出して定着される亜鉛メッキ処理された異形棒鋼からなるロックボルトにおいて、前記異形棒鋼は、その頭部側端部から連続して前記セメントミルク層の上面下で周方向の少なくとも一部が埋没する部分に至る区間の全周に渡り、pH12.0以上の強アルカリ性環境下で耐性を有する防錆被覆層を備えていることを特徴とするロックボルト。
【請求項2】
前記防錆被覆層がポリビニルアセタール樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載のロックボルト。
【請求項3】
前記防錆被覆層がポリビニルブチラール樹脂からなることを特徴とする請求項2に記載のロックボルト。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2011−127358(P2011−127358A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−287760(P2009−287760)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)