ローラーモールドの作製装置および作製方法
【課題】温度変化によりマスクとローラーモールドの相対位置にズレが生じたとしても当該ローラーモールドのレジスト上での描画位置のズレを最小化できるようにする。
【解決手段】温度変化による影響を受けない系として扱うことができる絶対系を規準としてローラーモールド100の位置を測定し、さらに、電子ビーム照射装置2から照射された電子ビームの一部を透過させるマスク3の位置を測定し、ローラーモールド100と、該ローラーモールド100を支持するローラー支持治具20と、マスク3と、該マスク3を支持するマスク架台30とのうちの少なくとも一つにおいて相対的位置ズレが生じた場合に、ローラーモールド100およびマスク3の位置の絶対系との差分に基づく相対的ズレ量を検出し、ローラーモールド100およびマスク3の少なくとも一方を動かし、電子ビームによるローラーモールド100のレジスト上での描画位置のズレを最小化する。
【解決手段】温度変化による影響を受けない系として扱うことができる絶対系を規準としてローラーモールド100の位置を測定し、さらに、電子ビーム照射装置2から照射された電子ビームの一部を透過させるマスク3の位置を測定し、ローラーモールド100と、該ローラーモールド100を支持するローラー支持治具20と、マスク3と、該マスク3を支持するマスク架台30とのうちの少なくとも一つにおいて相対的位置ズレが生じた場合に、ローラーモールド100およびマスク3の位置の絶対系との差分に基づく相対的ズレ量を検出し、ローラーモールド100およびマスク3の少なくとも一方を動かし、電子ビームによるローラーモールド100のレジスト上での描画位置のズレを最小化する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラーモールドの作製装置および作製方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、ローラーモールドへの描画の精度を向上させるための技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LEDやLDなどの光学デバイスの表面、あるいは内部に光の波長程度の周期構造をつくることによって光学デバイスの特性を制御する、あるいは改良することが行われている。このような目的の周期構造はいろいろな微細加工によってつくられるが、その中でも現在もっとも有力視されている技術の1つにナノインプリント技術がある。ナノインプリントの押し型転写に使われるモールド(押し型)は、一般に光学的な露光装置によって作製されている。
【0003】
ここで、押し型転写に使われるモールドとしては、平板プレスに用いられる平板状のモールドの他、回転しながらフィルムに連続転写することが可能なローラー状のモールド(ローラーモールド)が開発されている。従来、ローラーモールドは、例えば金属薄膜などの可撓性材料をローラーに貼り付けることによって作製されているが、この場合には貼り付けるモールドに切れ目があるため、ローラーの1回転でパターンに継ぎ目が残る場合がある。この点、ローラーモールドを回転させながら露光してパターンを描画する手法によれば、このような問題を回避することが可能である。
【0004】
ところで、ローラーモールドを回転させながらの露光の際には、従来、電子ビームをレンズによって集束させてレジスト上に照射し描画する手法(図6参照)が行われているが、この他、レンズによってほぼ平行光とした電子ビームを、開口パターンが形成されたステンシルマスクに照射し、透過した複数本の電子ビームをレジスト上に照射して同時描画する手法(図7参照)が提案されてもいる(例えば特許文献1参照)。前者の場合は、電子ビームを集束させることによって当該集束位置における出力を高めることができるので、レジスト上への一度の照射で所定の描画を行うこと(1回転描画)が可能であるが、一度に描画できる範囲が狭いので所望のパターン全体を描画するのにある程度の時間を要する(スループットが小さい)。一方、後者の場合には、広い範囲に電子ビームを照射するのでスループットを大きくすることが可能である。ただし、後者の場合、ビームを集束させずに照射するので各照射箇所における出力は高くない。したがって、ローラーモールドを何回も周回させながら溝状パターン(図8、図9参照)を徐々に深く形成する多回転描画や、周回数は少ないながらも低速回転にて描画を行う(なお、このようなモールドパターンはその態様からラインアンドスペースとも呼ばれる。図8参照)など、描画対象領域へのビーム照射時間をある程度長くする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−274347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、温度変化によるローラーモールド等の変形に起因してステンシルマスクとローラーモールドの相対位置がずれると、描画パターンが不鮮明になってしまう。特に、ロール面長(ローラーモールドの軸方向長さ)が長いと、描画パターンのズレは顕著である。
【0007】
そこで、本発明は、温度変化によりマスクとローラーモールドの相対位置にズレが生じたとしても当該ローラーモールドのレジスト上での描画位置のズレを最小化できるようにしたローラーモールドの作製方法および作製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するべく本発明者は温度変化による影響について種々検討した。ローラーモールドの作製装置において例えば+0.1℃の温度変化があった場合、材料がSUS304であれば100mm当り約173nmの寸法変化があり、パターン描画の大きさが数十〜数百ナノメートルの場面では、たとえ温度変化が0.01℃のレベルであっても描画精度への悪影響が大きい。また、温度制御(温調)によってこのレベルの温度変化を抑えようとすれば、例えば装置外部の超高精密空調や装置内部(真空内)に流体を導入しての温調など装置の複雑化や高コスト化が想定され、現実的ではない。しかも、電子ビームの静電気対策といった観点からローラーモールドには線膨張係数が高い金属材料が使われることが多いことを加味すれば、温度変化による影響は避けられず、温調だけで温度変化を抑えることは困難である。
【0009】
このような実情に基づき、温度変化による描画精度への影響をいかに抑制するかについてさらに検討を重ねた本発明者は、課題の解決に結び付く知見を得るに至った。本発明はかかる知見に基づくものであり、パターンを転写するためのローラー状の押し型であるローラーモールドを作製する方法において、温度変化による影響を受けない系として扱うことができる絶対系を規準としてローラーモールドの位置を測定し、さらに絶対系を規準として、電子ビーム照射装置から照射された電子ビームの一部を透過させるマスクの位置を測定し、ローラーモールドとマスクの相対的位置ズレが生じた場合に、ローラーモールドの位置およびマスクの位置の絶対系との差分に基づく相対的ズレ量を検出し、ローラーモールドおよびマスクの少なくとも一方を動かし、電子ビームによるローラーモールドのレジスト上での描画位置のズレを最小化するというものである。
【0010】
温度が変化した場合の例えばローラーモールドとマスクとの相対的なズレ量は、直接検出することができるものであれば簡便であり手間が少ないが、実際には、温度変化の影響を受けて検出手段自体にも位置ズレが生じるおそれがある。この点、本発明においては、温度変化の影響がきわめて少ない絶対系を設定し、この絶対系を規準としてローラーモールド等の相対的位置ズレを測定する。測定された位置ズレ量は絶対系における量として測定されるので、これらの差分を算出することでマスクとローラーモールドとのズレ量を常に正確に検出することができる。この検出結果に基づけば、マスクとローラーモールドの相対位置のズレを最小化するよう補正し、描画パターンが不鮮明になってしまうのを回避することができる。
【0011】
上述したローラーモールドの作製方法において、絶対系は、ローラーモールド、ローラー支持治具、マスク及び該マスクを支持するマスク架台の線膨張係数と比較して、温度変化時の影響を無視して差し支えない程度またはそれ以下の線膨張係数を有する材料からなることが好ましい。
【0012】
また、かかる作成方法において、ローラーモールドの回転軸方向両端面の位置を常に測定することが好ましい。熱変形等によりローラーモールド及びその周辺部品に変形が生じた場合にも、ローラーモールドの回転軸方向の位置ずれ量及び回転軸方向への伸縮量を検出することができる。
【0013】
さらに、上述したローラーモールドの作製方法においては、マスクを優先的に動かすことにより描画位置のズレを最小化することが好ましい。マスクがシリコンといった低比重の材料からなる場合には、ローラーモールドを動かすよりもより軽量な当該マスクを動かすことのほうが動作させやすいことがある。
【0014】
また、本発明にかかるローラーモールドの作製装置は、パターンを転写するためのローラー状の押し型であるローラーモールドを作製する装置において、レジストが塗布されたローラーモールドに対して電子ビームを照射する電子ビーム照射装置と、該電子ビーム照射装置から照射された電子ビームの一部を透過させる開口部を有し、レジスト上に同時描画する複数本のビームを形成するマスクと、ローラーモールドを支持するローラー支持治具と、ローラーモールドを回転軸周りに回転させる回転駆動装置と、温度変化による影響を受けない系として扱うことができる絶対系と、該絶対系を規準としてマスクの位置を測定するマスク位置測定センサと、絶対系を規準としてローラーモールドの位置を測定するローラーモールド位置測定センサと、該ローラーモールド位置測定センサおよびマスク位置測定センサによる測定信号を受信し、電子ビームによるローラーモールドのレジスト上での描画位置のズレを最小化するための制御信号を送信する制御装置と、該制御装置からの制御信号に基づいてローラーモールドおよびマスクの少なくとも一方を動かし、電子ビームによる描画位置を移動させるアクチュエータと、を備えるものである。
【0015】
本発明においては、温度変化の影響がきわめて少ない絶対系を設定し、この絶対系を規準としてローラーモールド等の相対的位置ズレを測定する。測定された位置ズレ量は絶対系における量として測定されるので、これらの差分を算出することでマスクとローラーモールドとのズレ量を常に正確に検出することができる。この検出結果に基づけば、マスクとローラーモールドの相対位置のズレを最小化するよう補正し、描画パターンが不鮮明になってしまうのを回避することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、温度変化によりマスクとローラーモールドの相対位置にズレが生じたとしても当該ローラーモールドのレジスト上での描画位置のズレを最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態におけるローラーモールド製造装置の構成を示す図である。
【図2】ローラーモールドの作製方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】図1における静電容量変位計およびその周辺の構成を拡大して示す図である。
【図4】変位量検出センサの設置態様の一例を示すローラーモールド作製装置の部分拡大図である。
【図5】変位量検出センサの検出対象例である回転軸の端面における測定モデルを示す図である。
【図6】ローラーモールドを露光する際、電子ビームをレンズによって集束させてレジスト上に照射し描画する様子を示す参考図である。
【図7】ローラーモールドを露光する際、レンズによってほぼ平行光とした電子ビームを開口パターンが形成されたステンシルマスクに照射し、透過した複数本の電子ビームをレジスト上に照射して同時描画する様子を示す図である。
【図8】ローラーモールドに形成されるパターン例を示す(A)回転軸上のローラーモールドの全体図と、(B)ローラーモールド表面の展開図である。
【図9】ローラーモールドに形成された溝状パターンの一例を拡大して示す断面図である。
【図10】ロール規準端面(ローラーモールドのディファレンシャル干渉計寄りの端面)から距離Pの位置を露光している様子を示すローラーモールド等の図である。
【図11】露光開始から一定時間経過後、変形の影響によりステンシルマスクの中心位置と描画位置とにズレが生じている様子を示すローラーモールド等の図である。
【図12】本発明の実施例におけるローラーモールド、ステンシルマスク等を示す図である。
【図13】露光テスト開始から6時間が経過するまでの変位計測定値α、βの測定結果を示すグラフである。
【図14】ローラーモールドの露光部の現像後の一例を表すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1等に本発明にかかるローラーモールド作製装置および作製方法を示す。本発明にかかるローラーモールド作製装置1は、パターンを転写するためのローラー状の押し型であるローラーモールド100を作製する装置であって、電子ビーム照射装置2、ステンシルマスク3、回転駆動用モータ(回転駆動装置)4、変位量検出センサ5、制御装置6、アクチュエータ7、回転軸8、ステージ9、試料室10、軸移動モータ11等を備えている。ローラーモールド作製装置1は、電子ビームをステンシルマスク3に照射して当該ステンシルマルク3上に形成された開口パターンを透過した電子ビームを、円筒状のローラーモールド100に塗布されたレジストに照射して露光する。
【0020】
作製対象であるローラーモールド100は、回転しながらフィルムに連続転写することが可能なローラー状のモールドである。本実施形態のローラーモールド100は円筒状に形成されているモールドで、ローラーモールド作製装置1の回転軸8に取り付けられる。ローラーモールド100の表面には、電子ビームに感光する樹脂(レジスト)が均一に塗布されている。
【0021】
電子ビーム照射装置2は、レジストが塗布されたローラーモールド100に対して電子ビームを照射する。本実施形態における電子ビームは、ローラーモールド100に近接して配置されたステンシルマスク3の上部から下部に向けて照射される。
【0022】
ステンシルマスク3は、電子ビーム照射装置2から照射された電子ビームの一部を透過させ、レジスト上に同時描画する複数本のビームを形成する。このステンシルマスク3には、開口部においてのみ電子ビームを透過させる微小なパターンが形成されている。ステンシルマスク自体は、少なくとも電子ビームを透過させない程度の厚さを有し、一定面積の一様な膜に部分的に電子ビームを透過する開口のパターンを加工したものである。ステンシルマスク3は、ローラーモールド100の表面に近接した位置に配置される。
【0023】
また、本実施形態ではこのステンシルマスク3を例えばリニアガイドで案内する等して回転軸方向へ移動可能な状態でマスク架台30に設けている(図1参照)。このステンシルマスク3は、アクチュエータ7からの力を受けて軸方向へ移動する。特に図示していないが、ステンシルマスク3の位置ないし変位は例えば静電容量式変位計などによって検出されて制御装置6へフィードバックされる(図1参照)。
【0024】
回転駆動用モータ(回転駆動装置)4は、ローラーモールド100を所定回転角度のピッチで回転軸周りに回転させる。所定回転角度のピッチは、例えば当該回転駆動用モータ4に接続されたエンコーダで検出することができる。
【0025】
変位量検出センサ5は、ローラーモールド100の回転時における当該ローラーモールド100の回転軸方向への回転振れ変位量(アキシャル変位量)を検出するセンサである。例えば本実施形態では、該ローラーモールド100が取り付けられている回転軸8の端面の軸方向変位量を検出し、当該検出値をローラーモールド100のアキシャル変位量として扱う。
【0026】
変位量検出センサ5としては、静電容量式の変位計(コンデンサの原理を応用した微小変位センサの一種であり、電極間の距離に逆比例して静電容量が変化することを利用して変位を測定する。)などを利用することができる(図4参照)。静電容量式の変位計は、スポット径が比較的大きい(測定対象領域が比較的大きい)ものであることが好ましい。
【0027】
また、上述のように回転軸8の端面を測定して軸方向変位を検出する場合、当該端面の表面粗さの影響を受けないことが好ましい。本実施形態では、回転軸8の端面の回転中心部分の変位量を検出することにより、検出対象となる範囲を絞り込んで表面粗さの影響を受けないようにしている。具体例を挙げて説明すると、本実施形態では、対向する測定面が常に変化する領域である測定モデルではなく、軸を中心とした領域を常時測定する領域とする測定モデルにより、表面粗さの影響を極力抑えるようにしている。
【0028】
制御装置6は、変位量検出センサ5による検出信号(アキシャル変位量)を受信し、電子ビームによるローラーモールド100のレジスト上での描画位置を当該ローラーモールド100に追従させるための制御信号を送信する装置である。本実施形態の制御装置6は、変位量検出センサ5からアキシャル変位量の信号を受信すると、アクチュエータ7に制御信号(移動指令)を送信してステンシルマスク3を軸方向に移動させる。さらに、本実施形態の制御装置6は、後述するディファレンシャル干渉計12および静電容量変位計13による測定信号を受信し、電子ビームによるローラーモールド100のレジスト上での描画位置のズレを最小化するための制御信号を送信する。
【0029】
アクチュエータ7は、制御装置6からの制御信号に基づいて電子ビームによる描画位置をローラーモールド100の回転軸方向への変位に追従させる。電子ビームによる描画位置を移動させてローラーモールド100の変位に追従させるにあたっては、電子ビーム照射装置2とステンシルマスク3の両方を同時に同量移動させることも可能だが、応答性を向上させる観点からすれば電子ビーム照射装置2に比して軽量であるステンシルマスク3のみを移動させることが好ましい。上述したように、本実施形態では、ステンシルマスク3に照射されて開口パターンを透過した電子ビームをローラーモールド100に照射する構成としているため、電子ビーム照射装置2を移動させなくてもステンシルマスク3を移動させれば電子ビームによる描画位置を移動して変更することができる(図1参照)。
【0030】
本実施形態では、アクチュエータ7として圧電素子(ピエゾ素子)を含む圧電アクチュエータ(ピエゾアクチュエータ)を用いている。圧電アクチュエータは他のアクチュエータよりも応答性に優れるため、ローラーモールド100が回転軸方向に変位した場合に、電子ビームによる描画位置が当該変位に同期するよう素早く追従させることが可能である。
【0031】
ステージ9は、ローラーモールド100を回転可能な状態で搭載し、当該ローラーモールド100を回転軸方向に精密に移動させるステージである。ステージ9は例えばリニアガイド等でスライド可能に設けられており、軸移動モータ11の回転方向および回転量に応じてローラーモールド100の回転軸方向へ所定量移動する。ステージ9の移動量は、例えばレーザー干渉計(例えば後述するディファレンシャル干渉計12)などで計測することができる。
【0032】
試料室10は、室内を真空状態に保持するための室である。上述したステンシルマスク3、回転駆動用モータ4等はこの試料室10内に収容されている(図1参照)。
【0033】
ローラー支持治具20は、ローラーモールド100を支持する治具である。本実施形態のローラー支持治具20は、回転軸8、該回転軸8の軸受22、該軸受22等を支持する架台21等で構成されている(図1参照)。架台21は、上述のステージ9に設置されている。また、架台21には回転駆動用モータ4も間接的に取り付けられている(図1参照)。
【0034】
ここで、本実施形態では、ローラーモールド作製装置1に、温度変化による変位等の影響を0(ゼロ)として取り扱うことができるようにする系(本明細書では絶対系とも呼ぶ)を構築している。絶対系の具体例は特に限定されるものではないが、例えば本実施形態では、極低線膨張係数(線膨張係数≒0ppm)の材料であるセラミックス材料(一例としてニューセラミックス)を用いて上述の架台21を形成し、当該架台21の所定箇所に、温度変化による変位が0である(常温下での微少な温度変化による影響が0である)として取り扱うあるいは無視することが可能な絶対系を構築している(図1のドット部分参照)。かかる絶対系においては、ローラーモールド100、当該ローラー支持治具(回転軸8、軸受22等を含む)20、およびマスク架台30のいずれかにおいて常温下での微少な温度変化に起因する相対的位置ズレが生じたとしても、当該絶対系に設定された規準面などの変位を0(ゼロ)として取り扱うことができる。なお、本実施形態では、セラミックス製架台21の一方の端面(後述するディファレンシャル干渉計12が設置されている側の端面)を規準面に設定している(図1参照)。
【0035】
ディファレンシャル干渉計12は、異なった光路を通した光の干渉縞を解析して光源の距離を測定する装置であり、上述した絶対系(の規準面)を規準としてステンシルマスク3の位置を測定するマスク位置測定センサとして機能する。本実施形態のディファレンシャル干渉計12は、規準面と当該ステンシルマスク3の両方に対してレーザー光を照射し、反射光を解析してこれらの相対距離を測定する(図1参照)。このようにして測定される規準面とステンシルマスク3との距離は相対的なものであるから、温度変化等の影響でディファレンシャル干渉計12の位置等に変化があったとしてもその影響を受けることのない正確なステンシルマスクの位置(絶対位置)を検出することが可能となっている。
【0036】
ローラーモールド位置測定センサ13は、絶対系を規準としてローラーモールド100の位置を測定するセンサである。本実施形態では、このようなローラーモールド位置測定センサ13として静電容量変位計(以下符号13を付して表す)を用い、当該静電容量変位計13をセラミックス製の架台21に取り付け、ローラーモールド100の位置を測定する(図1、図3参照)。この場合、ローラーモールド100の回転軸方向両端面の軸方向位置を測定することが好ましい。本実施形態では、一対の静電容量変位計13a,13bを対向するように配置し、ローラーモールド100の両端面の位置をそれぞれ測定するようにしている(図1参照)。ローラーモールド100の両端面の位置を絶対系のセンサ(静電容量変位計13)で測定することにより、当該ローラーモールド100の回転軸方向の位置、および当該ローラーモールド100の回転軸方向への伸縮量を常に計測することが可能となる。
【0037】
続いて、上述のローラーモールド作製装置1を用いたローラーモールド作製方法の一例を以下に示す(図2等参照)。
【0038】
まず、シリコンウェハにレジストを塗布する(ステップSP1)。例えば、シリコンウェハを高速回転した状態で中心にレジストの液を垂らして遠心力で広げる等することにより、シリコンウェハにレジストを均一に塗布することができる。このようにしてシリコンウェハにレジストを塗布して乾燥した後、該レジストに電子ビームを照射して所定のパターンを描画する(ステップSP2)。その後、レジストの現像、およびシリコンウェハのエッチングを行い、パターンの部分(あるいはパターン以外の部分)に孔が開いたシリコンウェハ(すなわちステンシルマスク3)を得る(ステップSP3)。例えば本実施形態では、シリコンウェハを材料にし、パターンを作製する必要領域を、0.001mm程度の薄膜に加工した上で、この領域内に必要な開口パターンを作製して電子ビームが通過するパターンとする。
【0039】
次に、ローラーモールド作製装置1でローラーモールド100にパターン転写する(ステップSP4)。ここでは、上述のように作製したステンシルマスク3に近接して配置したローラーモールド100を回転駆動用モータ4で回転させ、ステンシルマスク3の上から電子ビームを照射し、当該ステンシルマスク3のパターンをローラーモールド100に塗布したレジストに転写する。照射された電子ビームは、ステンシルマスク3の開口部を透過し、レジスト上に同時描画する複数本のビームとなる。
【0040】
また、ローラーモールド100を回転させながら電子ビームを照射している間、ローラーモールド100の回転軸8方向への回転振れを変位量検出センサ5によって検出し(ステップSP5)、制御装置6に送信する。該検出信号を受信した制御装置6はアクチュエータ7にフィードバック信号を送信する(ステップSP6)。このフィードバック信号を受信したアクチュエータ7は、電子ビームによる描画位置をローラーモールド100に追従させ、回転振れ変位に起因するレジスト露光位置のズレを抑制する(ステップSP7)。
【0041】
ここで、本実施形態では、レンズ(コンデンサレンズ等)によってほぼ平行光とした電子ビームをステンシルマスク3に照射し、開口パターンを透過した複数本の電子ビームをレジスト上に照射して同時描画することとしている(図1、図7参照)。こうした場合、集束ビームを利用する場合よりも広い範囲に電子ビームを照射することができるためスループットを大きくすることが可能である。ただし、このようにビームを集束させずに照射するので各照射箇所における出力は高くないので、その分、照射時間を長くする必要がある。なお、各箇所において所定の照射時間を達成することができれば、ローラーモールド100(および回転軸8)の回転速度は速くても遅くても構わない(回転速度はスループットに影響しない)。
【0042】
ローラーモールド100の所定範囲に描画したら、軸移動モータ11を駆動してステージ9を所定量移動させ(ステップSP8)、所定範囲への描画が終了していなければ(ステップSP9にてNO)、次の描画範囲に電子ビームを照射して描画する(ステップSP4)。この後、ステージ9の移動と電子ビーム照射・描画とを繰り返し、レジスト上の所定範囲に対する描画を終えたら(ステップSP9にてYES)、レジストの現像とエッチングを行い(ステップSP10)、レジストを除去し、ローラーモールド100の作製を終了する。
【0043】
ここまで説明したように、本実施形態のローラーモールド作製装置1においては、ローラーモールド100の軸方向変位(アキシャル変位)に電子ビームによる描画位置を同期させるように追従させるので、当該ローラーモールド100の回転振れ変位に起因する露光位置のズレを抑制することができる。これによれば、ローラーモールド100の回転軸方向への回転振れに起因して描画パターンが不鮮明になるのを抑制することができる。しかも、空気静圧軸受を利用した場合のような大型化やコスト増を招くようなこともない。
【0044】
また、集束ビーム等でレジスト上に直接描画する装置においては、ローラーモールド100上でのレジスト露光位置にズレが生じた場合、当該ローラーモールド100自体を軸方向へ随時移動させて位置ズレを防ぐことも一つの手段たり得るが、これに比べ、本実施形態のローラーモールド作製装置1の場合には、比較的重量のあるローラーモールド100を動かすのではなく、これによりも軽量なステンシルマスク3のみを動かして追従させるようにしているので、応答性に優れ、追従性のよい同期動作を実現することができる。
【0045】
続いて、ローラーモールド作製装置1を用いたローラーモールド作製時における、温度変化に起因する相対的位置ズレの補正手法について説明する(図1等参照)。
【0046】
一般に、電子ビームの静電気対策といった観点から、ローラーモールド100の材料には金属を使うことが多い。金属材料は線膨張係数が比較的大きいことから、パターン描画の大きさが数十〜数百ナノメートル場合によっては数ナノメートル程度のパターン描画に際しては、たとえ0.01℃レベルの温度変化であっても当該ローラーモールド100の変位や伸縮が生じ、そうすると描画精度に悪影響を及ぼすおそれがある。温度変化により、さらにローラー支持治具20、回転軸8、マスク架台30においても変位や伸縮が生じれば描画精度への影響は尚更である。この点、本実施形態では、温度変化に起因する相対的位置ズレが生じた場合に、以下のようにして位置ズレを補正する。
【0047】
まず、ステンシルマスク3については、上述した規準面から当該ステンシルマスク3の所定箇所(例えば中心位置)までの距離(X1)をディファレンシャル干渉計12にて随時測定する。ディファレンシャル干渉計12による測定結果(測定信号)は、制御装置6へ送信される(図1参照)。
【0048】
また、ローラーモールド100については、その両端面の位置を、一対の静電容量変位計13によってそれぞれ測定する。本実施形態では、第1の静電容量変位計(ディファレンシャル干渉計12寄りの変位計)13aでローラーモールド100のディファレンシャル干渉計12寄りの端面(以下、「ロール規準端面」ともいう)の位置を測定し、第2の静電容量変位計13bで他方の端面の位置を測定する。静電容量変位計13a,13bによる測定結果(測定信号)は、制御装置6へ送信される。
【0049】
ここで、本実施形態では、
X:規準面〜マスクセンター(描画位置)間の距離
A:規準面〜変位計間の距離
Y:規準面から露光位置までの距離
とおく(図1、図3参照)。距離Xはディファレンシャル干渉計で測定可能である。距離Aは温度変化の影響を受けないため不変である。
【0050】
さらに、本実施形態では、
α:変位計測定値(第1の静電容量変位計13aの先端からローラーモールド100の一方の端面(ロール規準端面)までの距離)
β:変位計測定値(第2の静電容量変位計13bの先端からローラーモールド100の他方の端面までの距離)
L:ロール面長(ローラーモールド100の一方の端面(ロール規準端面)と他方の端面との距離(幅))
P:ローラーモールド100の一方の端面(ロール規準端面)から任意の露光位置までの距離
とおき、これら符号に、<ロール規準端面から距離Pの位置を露光している時>は添字1を、それから<一定時間経過後>は添字2をそれぞれ付して示す。
【0051】
<ロール規準端面から距離Pの位置を露光している時(露光開始時点)>
変位計測定値はα1,β1、ロール面長はL1、ロール規準端面から任意の設定位置(露光位置P)までの距離はP1である(図10参照)。この時、規準面から露光位置Pまでの距離Y1は以下の数式1により求められる。
[数式1]
Y1=A+α1+P1
このようにして初期状態の規準面から露光位置までの距離Y(Y1)を求めることができる。
【0052】
<一定時間経過後>
続いて、一定時間経過後、ローラーモールド(回転軸8を含む)100が軸方向に変形した場合の相対的位置ズレの補正手法を一例を挙げつつ以下に説明する(図11参照)。回転軸8の端面が例えば回転駆動用モータ4などに接している場合、温度上昇に伴い回転軸8が伸びると、当該回転軸8に支持されているローラーモールド100の位置が変位する。
【0053】
ここでは、ローラーモールド100の変形後におけるロール規準端面〜露光位置Pまでの距離P2を求める。このために、まず、ローラーモールド100の変形量L2−L1を以下の数式2で求める。
[数式2]
L2−L1=−{(α2−α1)+(β2−β1)}
【0054】
ローラーモールド100の変形量はロール面長内で均一と考えられるので、比例配分によりP2は以下のように求められる。
[数式3]
P2=P1+(L2−L1)×(P1/L1)
=P1−{(α2−α1)+(β2−β1)}×(P1/L1)
【0055】
よって、変形後の規準面から露光位置Pまでの距離Y2は以下の数式4で求められる。
[数式4]
Y2=A+α2+P2
=A+α2+P1−{(α2−α1)+(β2−β1)}×(P1/L1)
【0056】
ここで、変形前後での規準面から露光位置Pまでの距離の差は、以下の数式5のようにして求められる。
[数式5]
Y2−Y1=A+α2+P1−{(α2−α1)+(β2−β1)}×(P1/L1)−(A+α1+P1)
=(α2−α1)−{(α2−α1)+(β2−β1)}×(P1/L1)
【0057】
上記数式5の右辺(最終)における各数値は既知もしくは測定可能な値であることから、(Y2−Y1)は計算により求めることが可能である。この結果、当該数式5から求められる(Y2−Y1)分だけステンシルマスク3を動かせばX=Yの関係を維持することができるから、ローラーモールド100等に変形(例えば熱変形)が生じても露光位置Pとステンシルマスク3(の中心)との相対位置を変化させずに露光することが可能となる。
【0058】
なお、距離α,βは、ローラーモールド100の表面の状態による影響を受けて誤差を含む場合があるので、このような影響を極力排除しうる状態で測定されることが好ましい。例えば本実施形態では、制御装置6により、ローラーモールド100が数回転する間の測定結果の平均値(時間平均)を算出し、該平均値に基づき変化量を判断することとしている。
【0059】
また、所定時間内における平均値(時間平均)の算出方法には種々があるが、例えば、直近の所定時間の測定データを、比較的短い時間毎に更新しながら平均値を求めることは好適な一例である。具体例を挙げれば、直近10分間の測定データを1分毎に更新する(換言すれば、もっとも古い1分間の測定データを最新の1分間データに置き換える)ことにより平均値を求める手法などである。
【0060】
ここまで説明したように、本実施形態におけるローラーモールド作製装置1においては、微少な温度変化に伴う変位がない(として取り扱うことができる)絶対系を規準として各測定センサ(ディファレンシャル干渉計12、静電容量変位計13)で変位量を測定することで、ステンシルマスク3およびロールモールド100の絶対系における位置(絶対位置)を把握し、相対的位置ズレ量を常に正確に算出し、該ズレ量に合わせてステンシルマスク3を従動させる。これによれば、ステンシルマスク3とローラーモールド100の相対位置のズレを最小化するよう補正し、温度変化の影響で描画パターンが不鮮明になってしまうのを回避することができる。
【0061】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では位置ズレを補正するためにステンシルマスク3を軸方向に移動させるようにしたが、これとは逆にローラーモールド100を軸方向に移動させることによっても位置ズレを補正することができる。ただし、ステンシルマスク3がシリコンといった低比重の材料からなる場合には、ローラーモールド100を動かすよりも、比較的軽量なステンシルマスク3を動かすほうが応答性を向上させることができる。
【実施例1】
【0062】
上述したローラーモールド作製装置1を用いて露光テストを実施した。以下に実施例としてその結果を示す。
【0063】
この露光テストでは約6時間をかけ、ローラーモールド100を約4000周させる間、熱変形等の影響で露光位置にずれが生じるかどうかテストした。使用したステンシルマスク3の開口部寸法は開口幅が200nm、露光ピッチが2000nmである。露光テスト時のロール条件(露光位置、ロール面長)は図12に示すとおりである。
【0064】
テスト開始から6時間が経過するまでの変位計測定値α(第1の静電容量変位計13aの先端からローラーモールド100の一方の端面(ロール規準端面)までの距離)と、変位計測定値β(第2の静電容量変位計13bの先端からローラーモールド100の他方の端面までの距離)の変化を、露光開始時点を0として調べた(図13参照)。この結果も踏まえると、時間経過に伴い、熱変形によって種々の位置ズレが生じていると考えられた。なお、制御しない場合の露光位置の推定ズレ量は1136nmであった(図12参照)。
【0065】
温度補正制御手法に基づいてステンシルマスク3の位置制御を実施したところ、ステンシルマスク3の開口幅200nmに対して、ライン幅がほぼ200nmのラインを描画することができた(図14参照)。この結果から、露光位置とステンシルマスク3の位置との間の相対的なズレを最小化して露光できたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、パターンを転写するためのローラー状の押し型であるローラーモールドを作製する装置およびその作製方法に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0067】
1…ローラーモールド作製装置、2…電子ビーム照射装置、3…ステンシルマスク(マスク)、4…回転駆動用モータ(回転駆動装置)、5…変位量検出センサ、6…制御装置、7…アクチュエータ、8…回転軸、12…ディファレンシャル干渉計(マスク位置測定センサ)、13…静電容量変位計(ローラーモールド位置測定センサ)、20…ローラー支持治具、21…架台(絶対系)、30…マスク架台、100…ローラーモールド
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラーモールドの作製装置および作製方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、ローラーモールドへの描画の精度を向上させるための技術の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、LEDやLDなどの光学デバイスの表面、あるいは内部に光の波長程度の周期構造をつくることによって光学デバイスの特性を制御する、あるいは改良することが行われている。このような目的の周期構造はいろいろな微細加工によってつくられるが、その中でも現在もっとも有力視されている技術の1つにナノインプリント技術がある。ナノインプリントの押し型転写に使われるモールド(押し型)は、一般に光学的な露光装置によって作製されている。
【0003】
ここで、押し型転写に使われるモールドとしては、平板プレスに用いられる平板状のモールドの他、回転しながらフィルムに連続転写することが可能なローラー状のモールド(ローラーモールド)が開発されている。従来、ローラーモールドは、例えば金属薄膜などの可撓性材料をローラーに貼り付けることによって作製されているが、この場合には貼り付けるモールドに切れ目があるため、ローラーの1回転でパターンに継ぎ目が残る場合がある。この点、ローラーモールドを回転させながら露光してパターンを描画する手法によれば、このような問題を回避することが可能である。
【0004】
ところで、ローラーモールドを回転させながらの露光の際には、従来、電子ビームをレンズによって集束させてレジスト上に照射し描画する手法(図6参照)が行われているが、この他、レンズによってほぼ平行光とした電子ビームを、開口パターンが形成されたステンシルマスクに照射し、透過した複数本の電子ビームをレジスト上に照射して同時描画する手法(図7参照)が提案されてもいる(例えば特許文献1参照)。前者の場合は、電子ビームを集束させることによって当該集束位置における出力を高めることができるので、レジスト上への一度の照射で所定の描画を行うこと(1回転描画)が可能であるが、一度に描画できる範囲が狭いので所望のパターン全体を描画するのにある程度の時間を要する(スループットが小さい)。一方、後者の場合には、広い範囲に電子ビームを照射するのでスループットを大きくすることが可能である。ただし、後者の場合、ビームを集束させずに照射するので各照射箇所における出力は高くない。したがって、ローラーモールドを何回も周回させながら溝状パターン(図8、図9参照)を徐々に深く形成する多回転描画や、周回数は少ないながらも低速回転にて描画を行う(なお、このようなモールドパターンはその態様からラインアンドスペースとも呼ばれる。図8参照)など、描画対象領域へのビーム照射時間をある程度長くする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−274347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、温度変化によるローラーモールド等の変形に起因してステンシルマスクとローラーモールドの相対位置がずれると、描画パターンが不鮮明になってしまう。特に、ロール面長(ローラーモールドの軸方向長さ)が長いと、描画パターンのズレは顕著である。
【0007】
そこで、本発明は、温度変化によりマスクとローラーモールドの相対位置にズレが生じたとしても当該ローラーモールドのレジスト上での描画位置のズレを最小化できるようにしたローラーモールドの作製方法および作製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するべく本発明者は温度変化による影響について種々検討した。ローラーモールドの作製装置において例えば+0.1℃の温度変化があった場合、材料がSUS304であれば100mm当り約173nmの寸法変化があり、パターン描画の大きさが数十〜数百ナノメートルの場面では、たとえ温度変化が0.01℃のレベルであっても描画精度への悪影響が大きい。また、温度制御(温調)によってこのレベルの温度変化を抑えようとすれば、例えば装置外部の超高精密空調や装置内部(真空内)に流体を導入しての温調など装置の複雑化や高コスト化が想定され、現実的ではない。しかも、電子ビームの静電気対策といった観点からローラーモールドには線膨張係数が高い金属材料が使われることが多いことを加味すれば、温度変化による影響は避けられず、温調だけで温度変化を抑えることは困難である。
【0009】
このような実情に基づき、温度変化による描画精度への影響をいかに抑制するかについてさらに検討を重ねた本発明者は、課題の解決に結び付く知見を得るに至った。本発明はかかる知見に基づくものであり、パターンを転写するためのローラー状の押し型であるローラーモールドを作製する方法において、温度変化による影響を受けない系として扱うことができる絶対系を規準としてローラーモールドの位置を測定し、さらに絶対系を規準として、電子ビーム照射装置から照射された電子ビームの一部を透過させるマスクの位置を測定し、ローラーモールドとマスクの相対的位置ズレが生じた場合に、ローラーモールドの位置およびマスクの位置の絶対系との差分に基づく相対的ズレ量を検出し、ローラーモールドおよびマスクの少なくとも一方を動かし、電子ビームによるローラーモールドのレジスト上での描画位置のズレを最小化するというものである。
【0010】
温度が変化した場合の例えばローラーモールドとマスクとの相対的なズレ量は、直接検出することができるものであれば簡便であり手間が少ないが、実際には、温度変化の影響を受けて検出手段自体にも位置ズレが生じるおそれがある。この点、本発明においては、温度変化の影響がきわめて少ない絶対系を設定し、この絶対系を規準としてローラーモールド等の相対的位置ズレを測定する。測定された位置ズレ量は絶対系における量として測定されるので、これらの差分を算出することでマスクとローラーモールドとのズレ量を常に正確に検出することができる。この検出結果に基づけば、マスクとローラーモールドの相対位置のズレを最小化するよう補正し、描画パターンが不鮮明になってしまうのを回避することができる。
【0011】
上述したローラーモールドの作製方法において、絶対系は、ローラーモールド、ローラー支持治具、マスク及び該マスクを支持するマスク架台の線膨張係数と比較して、温度変化時の影響を無視して差し支えない程度またはそれ以下の線膨張係数を有する材料からなることが好ましい。
【0012】
また、かかる作成方法において、ローラーモールドの回転軸方向両端面の位置を常に測定することが好ましい。熱変形等によりローラーモールド及びその周辺部品に変形が生じた場合にも、ローラーモールドの回転軸方向の位置ずれ量及び回転軸方向への伸縮量を検出することができる。
【0013】
さらに、上述したローラーモールドの作製方法においては、マスクを優先的に動かすことにより描画位置のズレを最小化することが好ましい。マスクがシリコンといった低比重の材料からなる場合には、ローラーモールドを動かすよりもより軽量な当該マスクを動かすことのほうが動作させやすいことがある。
【0014】
また、本発明にかかるローラーモールドの作製装置は、パターンを転写するためのローラー状の押し型であるローラーモールドを作製する装置において、レジストが塗布されたローラーモールドに対して電子ビームを照射する電子ビーム照射装置と、該電子ビーム照射装置から照射された電子ビームの一部を透過させる開口部を有し、レジスト上に同時描画する複数本のビームを形成するマスクと、ローラーモールドを支持するローラー支持治具と、ローラーモールドを回転軸周りに回転させる回転駆動装置と、温度変化による影響を受けない系として扱うことができる絶対系と、該絶対系を規準としてマスクの位置を測定するマスク位置測定センサと、絶対系を規準としてローラーモールドの位置を測定するローラーモールド位置測定センサと、該ローラーモールド位置測定センサおよびマスク位置測定センサによる測定信号を受信し、電子ビームによるローラーモールドのレジスト上での描画位置のズレを最小化するための制御信号を送信する制御装置と、該制御装置からの制御信号に基づいてローラーモールドおよびマスクの少なくとも一方を動かし、電子ビームによる描画位置を移動させるアクチュエータと、を備えるものである。
【0015】
本発明においては、温度変化の影響がきわめて少ない絶対系を設定し、この絶対系を規準としてローラーモールド等の相対的位置ズレを測定する。測定された位置ズレ量は絶対系における量として測定されるので、これらの差分を算出することでマスクとローラーモールドとのズレ量を常に正確に検出することができる。この検出結果に基づけば、マスクとローラーモールドの相対位置のズレを最小化するよう補正し、描画パターンが不鮮明になってしまうのを回避することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、温度変化によりマスクとローラーモールドの相対位置にズレが生じたとしても当該ローラーモールドのレジスト上での描画位置のズレを最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態におけるローラーモールド製造装置の構成を示す図である。
【図2】ローラーモールドの作製方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】図1における静電容量変位計およびその周辺の構成を拡大して示す図である。
【図4】変位量検出センサの設置態様の一例を示すローラーモールド作製装置の部分拡大図である。
【図5】変位量検出センサの検出対象例である回転軸の端面における測定モデルを示す図である。
【図6】ローラーモールドを露光する際、電子ビームをレンズによって集束させてレジスト上に照射し描画する様子を示す参考図である。
【図7】ローラーモールドを露光する際、レンズによってほぼ平行光とした電子ビームを開口パターンが形成されたステンシルマスクに照射し、透過した複数本の電子ビームをレジスト上に照射して同時描画する様子を示す図である。
【図8】ローラーモールドに形成されるパターン例を示す(A)回転軸上のローラーモールドの全体図と、(B)ローラーモールド表面の展開図である。
【図9】ローラーモールドに形成された溝状パターンの一例を拡大して示す断面図である。
【図10】ロール規準端面(ローラーモールドのディファレンシャル干渉計寄りの端面)から距離Pの位置を露光している様子を示すローラーモールド等の図である。
【図11】露光開始から一定時間経過後、変形の影響によりステンシルマスクの中心位置と描画位置とにズレが生じている様子を示すローラーモールド等の図である。
【図12】本発明の実施例におけるローラーモールド、ステンシルマスク等を示す図である。
【図13】露光テスト開始から6時間が経過するまでの変位計測定値α、βの測定結果を示すグラフである。
【図14】ローラーモールドの露光部の現像後の一例を表すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1等に本発明にかかるローラーモールド作製装置および作製方法を示す。本発明にかかるローラーモールド作製装置1は、パターンを転写するためのローラー状の押し型であるローラーモールド100を作製する装置であって、電子ビーム照射装置2、ステンシルマスク3、回転駆動用モータ(回転駆動装置)4、変位量検出センサ5、制御装置6、アクチュエータ7、回転軸8、ステージ9、試料室10、軸移動モータ11等を備えている。ローラーモールド作製装置1は、電子ビームをステンシルマスク3に照射して当該ステンシルマルク3上に形成された開口パターンを透過した電子ビームを、円筒状のローラーモールド100に塗布されたレジストに照射して露光する。
【0020】
作製対象であるローラーモールド100は、回転しながらフィルムに連続転写することが可能なローラー状のモールドである。本実施形態のローラーモールド100は円筒状に形成されているモールドで、ローラーモールド作製装置1の回転軸8に取り付けられる。ローラーモールド100の表面には、電子ビームに感光する樹脂(レジスト)が均一に塗布されている。
【0021】
電子ビーム照射装置2は、レジストが塗布されたローラーモールド100に対して電子ビームを照射する。本実施形態における電子ビームは、ローラーモールド100に近接して配置されたステンシルマスク3の上部から下部に向けて照射される。
【0022】
ステンシルマスク3は、電子ビーム照射装置2から照射された電子ビームの一部を透過させ、レジスト上に同時描画する複数本のビームを形成する。このステンシルマスク3には、開口部においてのみ電子ビームを透過させる微小なパターンが形成されている。ステンシルマスク自体は、少なくとも電子ビームを透過させない程度の厚さを有し、一定面積の一様な膜に部分的に電子ビームを透過する開口のパターンを加工したものである。ステンシルマスク3は、ローラーモールド100の表面に近接した位置に配置される。
【0023】
また、本実施形態ではこのステンシルマスク3を例えばリニアガイドで案内する等して回転軸方向へ移動可能な状態でマスク架台30に設けている(図1参照)。このステンシルマスク3は、アクチュエータ7からの力を受けて軸方向へ移動する。特に図示していないが、ステンシルマスク3の位置ないし変位は例えば静電容量式変位計などによって検出されて制御装置6へフィードバックされる(図1参照)。
【0024】
回転駆動用モータ(回転駆動装置)4は、ローラーモールド100を所定回転角度のピッチで回転軸周りに回転させる。所定回転角度のピッチは、例えば当該回転駆動用モータ4に接続されたエンコーダで検出することができる。
【0025】
変位量検出センサ5は、ローラーモールド100の回転時における当該ローラーモールド100の回転軸方向への回転振れ変位量(アキシャル変位量)を検出するセンサである。例えば本実施形態では、該ローラーモールド100が取り付けられている回転軸8の端面の軸方向変位量を検出し、当該検出値をローラーモールド100のアキシャル変位量として扱う。
【0026】
変位量検出センサ5としては、静電容量式の変位計(コンデンサの原理を応用した微小変位センサの一種であり、電極間の距離に逆比例して静電容量が変化することを利用して変位を測定する。)などを利用することができる(図4参照)。静電容量式の変位計は、スポット径が比較的大きい(測定対象領域が比較的大きい)ものであることが好ましい。
【0027】
また、上述のように回転軸8の端面を測定して軸方向変位を検出する場合、当該端面の表面粗さの影響を受けないことが好ましい。本実施形態では、回転軸8の端面の回転中心部分の変位量を検出することにより、検出対象となる範囲を絞り込んで表面粗さの影響を受けないようにしている。具体例を挙げて説明すると、本実施形態では、対向する測定面が常に変化する領域である測定モデルではなく、軸を中心とした領域を常時測定する領域とする測定モデルにより、表面粗さの影響を極力抑えるようにしている。
【0028】
制御装置6は、変位量検出センサ5による検出信号(アキシャル変位量)を受信し、電子ビームによるローラーモールド100のレジスト上での描画位置を当該ローラーモールド100に追従させるための制御信号を送信する装置である。本実施形態の制御装置6は、変位量検出センサ5からアキシャル変位量の信号を受信すると、アクチュエータ7に制御信号(移動指令)を送信してステンシルマスク3を軸方向に移動させる。さらに、本実施形態の制御装置6は、後述するディファレンシャル干渉計12および静電容量変位計13による測定信号を受信し、電子ビームによるローラーモールド100のレジスト上での描画位置のズレを最小化するための制御信号を送信する。
【0029】
アクチュエータ7は、制御装置6からの制御信号に基づいて電子ビームによる描画位置をローラーモールド100の回転軸方向への変位に追従させる。電子ビームによる描画位置を移動させてローラーモールド100の変位に追従させるにあたっては、電子ビーム照射装置2とステンシルマスク3の両方を同時に同量移動させることも可能だが、応答性を向上させる観点からすれば電子ビーム照射装置2に比して軽量であるステンシルマスク3のみを移動させることが好ましい。上述したように、本実施形態では、ステンシルマスク3に照射されて開口パターンを透過した電子ビームをローラーモールド100に照射する構成としているため、電子ビーム照射装置2を移動させなくてもステンシルマスク3を移動させれば電子ビームによる描画位置を移動して変更することができる(図1参照)。
【0030】
本実施形態では、アクチュエータ7として圧電素子(ピエゾ素子)を含む圧電アクチュエータ(ピエゾアクチュエータ)を用いている。圧電アクチュエータは他のアクチュエータよりも応答性に優れるため、ローラーモールド100が回転軸方向に変位した場合に、電子ビームによる描画位置が当該変位に同期するよう素早く追従させることが可能である。
【0031】
ステージ9は、ローラーモールド100を回転可能な状態で搭載し、当該ローラーモールド100を回転軸方向に精密に移動させるステージである。ステージ9は例えばリニアガイド等でスライド可能に設けられており、軸移動モータ11の回転方向および回転量に応じてローラーモールド100の回転軸方向へ所定量移動する。ステージ9の移動量は、例えばレーザー干渉計(例えば後述するディファレンシャル干渉計12)などで計測することができる。
【0032】
試料室10は、室内を真空状態に保持するための室である。上述したステンシルマスク3、回転駆動用モータ4等はこの試料室10内に収容されている(図1参照)。
【0033】
ローラー支持治具20は、ローラーモールド100を支持する治具である。本実施形態のローラー支持治具20は、回転軸8、該回転軸8の軸受22、該軸受22等を支持する架台21等で構成されている(図1参照)。架台21は、上述のステージ9に設置されている。また、架台21には回転駆動用モータ4も間接的に取り付けられている(図1参照)。
【0034】
ここで、本実施形態では、ローラーモールド作製装置1に、温度変化による変位等の影響を0(ゼロ)として取り扱うことができるようにする系(本明細書では絶対系とも呼ぶ)を構築している。絶対系の具体例は特に限定されるものではないが、例えば本実施形態では、極低線膨張係数(線膨張係数≒0ppm)の材料であるセラミックス材料(一例としてニューセラミックス)を用いて上述の架台21を形成し、当該架台21の所定箇所に、温度変化による変位が0である(常温下での微少な温度変化による影響が0である)として取り扱うあるいは無視することが可能な絶対系を構築している(図1のドット部分参照)。かかる絶対系においては、ローラーモールド100、当該ローラー支持治具(回転軸8、軸受22等を含む)20、およびマスク架台30のいずれかにおいて常温下での微少な温度変化に起因する相対的位置ズレが生じたとしても、当該絶対系に設定された規準面などの変位を0(ゼロ)として取り扱うことができる。なお、本実施形態では、セラミックス製架台21の一方の端面(後述するディファレンシャル干渉計12が設置されている側の端面)を規準面に設定している(図1参照)。
【0035】
ディファレンシャル干渉計12は、異なった光路を通した光の干渉縞を解析して光源の距離を測定する装置であり、上述した絶対系(の規準面)を規準としてステンシルマスク3の位置を測定するマスク位置測定センサとして機能する。本実施形態のディファレンシャル干渉計12は、規準面と当該ステンシルマスク3の両方に対してレーザー光を照射し、反射光を解析してこれらの相対距離を測定する(図1参照)。このようにして測定される規準面とステンシルマスク3との距離は相対的なものであるから、温度変化等の影響でディファレンシャル干渉計12の位置等に変化があったとしてもその影響を受けることのない正確なステンシルマスクの位置(絶対位置)を検出することが可能となっている。
【0036】
ローラーモールド位置測定センサ13は、絶対系を規準としてローラーモールド100の位置を測定するセンサである。本実施形態では、このようなローラーモールド位置測定センサ13として静電容量変位計(以下符号13を付して表す)を用い、当該静電容量変位計13をセラミックス製の架台21に取り付け、ローラーモールド100の位置を測定する(図1、図3参照)。この場合、ローラーモールド100の回転軸方向両端面の軸方向位置を測定することが好ましい。本実施形態では、一対の静電容量変位計13a,13bを対向するように配置し、ローラーモールド100の両端面の位置をそれぞれ測定するようにしている(図1参照)。ローラーモールド100の両端面の位置を絶対系のセンサ(静電容量変位計13)で測定することにより、当該ローラーモールド100の回転軸方向の位置、および当該ローラーモールド100の回転軸方向への伸縮量を常に計測することが可能となる。
【0037】
続いて、上述のローラーモールド作製装置1を用いたローラーモールド作製方法の一例を以下に示す(図2等参照)。
【0038】
まず、シリコンウェハにレジストを塗布する(ステップSP1)。例えば、シリコンウェハを高速回転した状態で中心にレジストの液を垂らして遠心力で広げる等することにより、シリコンウェハにレジストを均一に塗布することができる。このようにしてシリコンウェハにレジストを塗布して乾燥した後、該レジストに電子ビームを照射して所定のパターンを描画する(ステップSP2)。その後、レジストの現像、およびシリコンウェハのエッチングを行い、パターンの部分(あるいはパターン以外の部分)に孔が開いたシリコンウェハ(すなわちステンシルマスク3)を得る(ステップSP3)。例えば本実施形態では、シリコンウェハを材料にし、パターンを作製する必要領域を、0.001mm程度の薄膜に加工した上で、この領域内に必要な開口パターンを作製して電子ビームが通過するパターンとする。
【0039】
次に、ローラーモールド作製装置1でローラーモールド100にパターン転写する(ステップSP4)。ここでは、上述のように作製したステンシルマスク3に近接して配置したローラーモールド100を回転駆動用モータ4で回転させ、ステンシルマスク3の上から電子ビームを照射し、当該ステンシルマスク3のパターンをローラーモールド100に塗布したレジストに転写する。照射された電子ビームは、ステンシルマスク3の開口部を透過し、レジスト上に同時描画する複数本のビームとなる。
【0040】
また、ローラーモールド100を回転させながら電子ビームを照射している間、ローラーモールド100の回転軸8方向への回転振れを変位量検出センサ5によって検出し(ステップSP5)、制御装置6に送信する。該検出信号を受信した制御装置6はアクチュエータ7にフィードバック信号を送信する(ステップSP6)。このフィードバック信号を受信したアクチュエータ7は、電子ビームによる描画位置をローラーモールド100に追従させ、回転振れ変位に起因するレジスト露光位置のズレを抑制する(ステップSP7)。
【0041】
ここで、本実施形態では、レンズ(コンデンサレンズ等)によってほぼ平行光とした電子ビームをステンシルマスク3に照射し、開口パターンを透過した複数本の電子ビームをレジスト上に照射して同時描画することとしている(図1、図7参照)。こうした場合、集束ビームを利用する場合よりも広い範囲に電子ビームを照射することができるためスループットを大きくすることが可能である。ただし、このようにビームを集束させずに照射するので各照射箇所における出力は高くないので、その分、照射時間を長くする必要がある。なお、各箇所において所定の照射時間を達成することができれば、ローラーモールド100(および回転軸8)の回転速度は速くても遅くても構わない(回転速度はスループットに影響しない)。
【0042】
ローラーモールド100の所定範囲に描画したら、軸移動モータ11を駆動してステージ9を所定量移動させ(ステップSP8)、所定範囲への描画が終了していなければ(ステップSP9にてNO)、次の描画範囲に電子ビームを照射して描画する(ステップSP4)。この後、ステージ9の移動と電子ビーム照射・描画とを繰り返し、レジスト上の所定範囲に対する描画を終えたら(ステップSP9にてYES)、レジストの現像とエッチングを行い(ステップSP10)、レジストを除去し、ローラーモールド100の作製を終了する。
【0043】
ここまで説明したように、本実施形態のローラーモールド作製装置1においては、ローラーモールド100の軸方向変位(アキシャル変位)に電子ビームによる描画位置を同期させるように追従させるので、当該ローラーモールド100の回転振れ変位に起因する露光位置のズレを抑制することができる。これによれば、ローラーモールド100の回転軸方向への回転振れに起因して描画パターンが不鮮明になるのを抑制することができる。しかも、空気静圧軸受を利用した場合のような大型化やコスト増を招くようなこともない。
【0044】
また、集束ビーム等でレジスト上に直接描画する装置においては、ローラーモールド100上でのレジスト露光位置にズレが生じた場合、当該ローラーモールド100自体を軸方向へ随時移動させて位置ズレを防ぐことも一つの手段たり得るが、これに比べ、本実施形態のローラーモールド作製装置1の場合には、比較的重量のあるローラーモールド100を動かすのではなく、これによりも軽量なステンシルマスク3のみを動かして追従させるようにしているので、応答性に優れ、追従性のよい同期動作を実現することができる。
【0045】
続いて、ローラーモールド作製装置1を用いたローラーモールド作製時における、温度変化に起因する相対的位置ズレの補正手法について説明する(図1等参照)。
【0046】
一般に、電子ビームの静電気対策といった観点から、ローラーモールド100の材料には金属を使うことが多い。金属材料は線膨張係数が比較的大きいことから、パターン描画の大きさが数十〜数百ナノメートル場合によっては数ナノメートル程度のパターン描画に際しては、たとえ0.01℃レベルの温度変化であっても当該ローラーモールド100の変位や伸縮が生じ、そうすると描画精度に悪影響を及ぼすおそれがある。温度変化により、さらにローラー支持治具20、回転軸8、マスク架台30においても変位や伸縮が生じれば描画精度への影響は尚更である。この点、本実施形態では、温度変化に起因する相対的位置ズレが生じた場合に、以下のようにして位置ズレを補正する。
【0047】
まず、ステンシルマスク3については、上述した規準面から当該ステンシルマスク3の所定箇所(例えば中心位置)までの距離(X1)をディファレンシャル干渉計12にて随時測定する。ディファレンシャル干渉計12による測定結果(測定信号)は、制御装置6へ送信される(図1参照)。
【0048】
また、ローラーモールド100については、その両端面の位置を、一対の静電容量変位計13によってそれぞれ測定する。本実施形態では、第1の静電容量変位計(ディファレンシャル干渉計12寄りの変位計)13aでローラーモールド100のディファレンシャル干渉計12寄りの端面(以下、「ロール規準端面」ともいう)の位置を測定し、第2の静電容量変位計13bで他方の端面の位置を測定する。静電容量変位計13a,13bによる測定結果(測定信号)は、制御装置6へ送信される。
【0049】
ここで、本実施形態では、
X:規準面〜マスクセンター(描画位置)間の距離
A:規準面〜変位計間の距離
Y:規準面から露光位置までの距離
とおく(図1、図3参照)。距離Xはディファレンシャル干渉計で測定可能である。距離Aは温度変化の影響を受けないため不変である。
【0050】
さらに、本実施形態では、
α:変位計測定値(第1の静電容量変位計13aの先端からローラーモールド100の一方の端面(ロール規準端面)までの距離)
β:変位計測定値(第2の静電容量変位計13bの先端からローラーモールド100の他方の端面までの距離)
L:ロール面長(ローラーモールド100の一方の端面(ロール規準端面)と他方の端面との距離(幅))
P:ローラーモールド100の一方の端面(ロール規準端面)から任意の露光位置までの距離
とおき、これら符号に、<ロール規準端面から距離Pの位置を露光している時>は添字1を、それから<一定時間経過後>は添字2をそれぞれ付して示す。
【0051】
<ロール規準端面から距離Pの位置を露光している時(露光開始時点)>
変位計測定値はα1,β1、ロール面長はL1、ロール規準端面から任意の設定位置(露光位置P)までの距離はP1である(図10参照)。この時、規準面から露光位置Pまでの距離Y1は以下の数式1により求められる。
[数式1]
Y1=A+α1+P1
このようにして初期状態の規準面から露光位置までの距離Y(Y1)を求めることができる。
【0052】
<一定時間経過後>
続いて、一定時間経過後、ローラーモールド(回転軸8を含む)100が軸方向に変形した場合の相対的位置ズレの補正手法を一例を挙げつつ以下に説明する(図11参照)。回転軸8の端面が例えば回転駆動用モータ4などに接している場合、温度上昇に伴い回転軸8が伸びると、当該回転軸8に支持されているローラーモールド100の位置が変位する。
【0053】
ここでは、ローラーモールド100の変形後におけるロール規準端面〜露光位置Pまでの距離P2を求める。このために、まず、ローラーモールド100の変形量L2−L1を以下の数式2で求める。
[数式2]
L2−L1=−{(α2−α1)+(β2−β1)}
【0054】
ローラーモールド100の変形量はロール面長内で均一と考えられるので、比例配分によりP2は以下のように求められる。
[数式3]
P2=P1+(L2−L1)×(P1/L1)
=P1−{(α2−α1)+(β2−β1)}×(P1/L1)
【0055】
よって、変形後の規準面から露光位置Pまでの距離Y2は以下の数式4で求められる。
[数式4]
Y2=A+α2+P2
=A+α2+P1−{(α2−α1)+(β2−β1)}×(P1/L1)
【0056】
ここで、変形前後での規準面から露光位置Pまでの距離の差は、以下の数式5のようにして求められる。
[数式5]
Y2−Y1=A+α2+P1−{(α2−α1)+(β2−β1)}×(P1/L1)−(A+α1+P1)
=(α2−α1)−{(α2−α1)+(β2−β1)}×(P1/L1)
【0057】
上記数式5の右辺(最終)における各数値は既知もしくは測定可能な値であることから、(Y2−Y1)は計算により求めることが可能である。この結果、当該数式5から求められる(Y2−Y1)分だけステンシルマスク3を動かせばX=Yの関係を維持することができるから、ローラーモールド100等に変形(例えば熱変形)が生じても露光位置Pとステンシルマスク3(の中心)との相対位置を変化させずに露光することが可能となる。
【0058】
なお、距離α,βは、ローラーモールド100の表面の状態による影響を受けて誤差を含む場合があるので、このような影響を極力排除しうる状態で測定されることが好ましい。例えば本実施形態では、制御装置6により、ローラーモールド100が数回転する間の測定結果の平均値(時間平均)を算出し、該平均値に基づき変化量を判断することとしている。
【0059】
また、所定時間内における平均値(時間平均)の算出方法には種々があるが、例えば、直近の所定時間の測定データを、比較的短い時間毎に更新しながら平均値を求めることは好適な一例である。具体例を挙げれば、直近10分間の測定データを1分毎に更新する(換言すれば、もっとも古い1分間の測定データを最新の1分間データに置き換える)ことにより平均値を求める手法などである。
【0060】
ここまで説明したように、本実施形態におけるローラーモールド作製装置1においては、微少な温度変化に伴う変位がない(として取り扱うことができる)絶対系を規準として各測定センサ(ディファレンシャル干渉計12、静電容量変位計13)で変位量を測定することで、ステンシルマスク3およびロールモールド100の絶対系における位置(絶対位置)を把握し、相対的位置ズレ量を常に正確に算出し、該ズレ量に合わせてステンシルマスク3を従動させる。これによれば、ステンシルマスク3とローラーモールド100の相対位置のズレを最小化するよう補正し、温度変化の影響で描画パターンが不鮮明になってしまうのを回避することができる。
【0061】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では位置ズレを補正するためにステンシルマスク3を軸方向に移動させるようにしたが、これとは逆にローラーモールド100を軸方向に移動させることによっても位置ズレを補正することができる。ただし、ステンシルマスク3がシリコンといった低比重の材料からなる場合には、ローラーモールド100を動かすよりも、比較的軽量なステンシルマスク3を動かすほうが応答性を向上させることができる。
【実施例1】
【0062】
上述したローラーモールド作製装置1を用いて露光テストを実施した。以下に実施例としてその結果を示す。
【0063】
この露光テストでは約6時間をかけ、ローラーモールド100を約4000周させる間、熱変形等の影響で露光位置にずれが生じるかどうかテストした。使用したステンシルマスク3の開口部寸法は開口幅が200nm、露光ピッチが2000nmである。露光テスト時のロール条件(露光位置、ロール面長)は図12に示すとおりである。
【0064】
テスト開始から6時間が経過するまでの変位計測定値α(第1の静電容量変位計13aの先端からローラーモールド100の一方の端面(ロール規準端面)までの距離)と、変位計測定値β(第2の静電容量変位計13bの先端からローラーモールド100の他方の端面までの距離)の変化を、露光開始時点を0として調べた(図13参照)。この結果も踏まえると、時間経過に伴い、熱変形によって種々の位置ズレが生じていると考えられた。なお、制御しない場合の露光位置の推定ズレ量は1136nmであった(図12参照)。
【0065】
温度補正制御手法に基づいてステンシルマスク3の位置制御を実施したところ、ステンシルマスク3の開口幅200nmに対して、ライン幅がほぼ200nmのラインを描画することができた(図14参照)。この結果から、露光位置とステンシルマスク3の位置との間の相対的なズレを最小化して露光できたことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、パターンを転写するためのローラー状の押し型であるローラーモールドを作製する装置およびその作製方法に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0067】
1…ローラーモールド作製装置、2…電子ビーム照射装置、3…ステンシルマスク(マスク)、4…回転駆動用モータ(回転駆動装置)、5…変位量検出センサ、6…制御装置、7…アクチュエータ、8…回転軸、12…ディファレンシャル干渉計(マスク位置測定センサ)、13…静電容量変位計(ローラーモールド位置測定センサ)、20…ローラー支持治具、21…架台(絶対系)、30…マスク架台、100…ローラーモールド
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パターンを転写するためのローラー状の押し型であるローラーモールドを作製する方法において、
温度変化による影響を受けない系として扱うことができる絶対系を規準として前記ローラーモールドの位置を測定し、
さらに前記絶対系を規準として、電子ビーム照射装置から照射された電子ビームの一部を透過させるマスクの位置を測定し、
前記ローラーモールドと前記マスクの相対的位置ズレが生じた場合に、前記ローラーモールドの位置および前記マスクの位置の前記絶対系との差分に基づく相対的ズレ量を検出し、
前記ローラーモールドおよび前記マスクの少なくとも一方を動かし、前記電子ビームによる前記ローラーモールドのレジスト上での描画位置のズレを最小化する、ローラーモールドの作製方法。
【請求項2】
前記絶対系は、前記ローラーモールド、前記ローラー支持治具、前記マスクおよび該マスクを支持するマスク架台の線膨張係数と比較して、温度変化時の影響を無視して差し支えない程度またはそれ以下の線膨張係数を有する材料からなる、請求項1に記載のローラーモールドの作製方法。
【請求項3】
前記ローラーモールドの回転軸方向両端面の位置を測定し、当該ローラーモールドの回転軸方向の位置及び伸縮量を常に測定する、請求項1または2に記載ローラーモールドの作製方法。
【請求項4】
前記マスクを優先的に動かすことにより描画位置のズレを最小化する、請求項1から3のいずれか一項に記載のローラーモールドの作製方法。
【請求項5】
パターンを転写するためのローラー状の押し型であるローラーモールドを作製する装置において、
レジストが塗布された前記ローラーモールドに対して電子ビームを照射する電子ビーム照射装置と、
該電子ビーム照射装置から照射された電子ビームの一部を透過させる開口部を有し、前記レジスト上に同時描画する複数本のビームを形成するマスクと、
前記ローラーモールドを支持するローラー支持治具と、
前記ローラーモールドを回転軸周りに回転させる回転駆動装置と、
温度変化による影響を受けない系として扱うことができる絶対系と、
該絶対系を規準として前記マスクの位置を測定するマスク位置測定センサと、
前記絶対系を規準として前記ローラーモールドの位置を測定するローラーモールド位置測定センサと、
該ローラーモールド位置測定センサおよび前記マスク位置測定センサによる測定信号を受信し、前記電子ビームによる前記ローラーモールドの前記レジスト上での描画位置のズレを最小化するための制御信号を送信する制御装置と、
該制御装置からの制御信号に基づいて前記ローラーモールドおよび前記マスクの少なくとも一方を動かし、前記電子ビームによる描画位置を移動させるアクチュエータと、
を備える、ローラーモールドの作製装置。
【請求項1】
パターンを転写するためのローラー状の押し型であるローラーモールドを作製する方法において、
温度変化による影響を受けない系として扱うことができる絶対系を規準として前記ローラーモールドの位置を測定し、
さらに前記絶対系を規準として、電子ビーム照射装置から照射された電子ビームの一部を透過させるマスクの位置を測定し、
前記ローラーモールドと前記マスクの相対的位置ズレが生じた場合に、前記ローラーモールドの位置および前記マスクの位置の前記絶対系との差分に基づく相対的ズレ量を検出し、
前記ローラーモールドおよび前記マスクの少なくとも一方を動かし、前記電子ビームによる前記ローラーモールドのレジスト上での描画位置のズレを最小化する、ローラーモールドの作製方法。
【請求項2】
前記絶対系は、前記ローラーモールド、前記ローラー支持治具、前記マスクおよび該マスクを支持するマスク架台の線膨張係数と比較して、温度変化時の影響を無視して差し支えない程度またはそれ以下の線膨張係数を有する材料からなる、請求項1に記載のローラーモールドの作製方法。
【請求項3】
前記ローラーモールドの回転軸方向両端面の位置を測定し、当該ローラーモールドの回転軸方向の位置及び伸縮量を常に測定する、請求項1または2に記載ローラーモールドの作製方法。
【請求項4】
前記マスクを優先的に動かすことにより描画位置のズレを最小化する、請求項1から3のいずれか一項に記載のローラーモールドの作製方法。
【請求項5】
パターンを転写するためのローラー状の押し型であるローラーモールドを作製する装置において、
レジストが塗布された前記ローラーモールドに対して電子ビームを照射する電子ビーム照射装置と、
該電子ビーム照射装置から照射された電子ビームの一部を透過させる開口部を有し、前記レジスト上に同時描画する複数本のビームを形成するマスクと、
前記ローラーモールドを支持するローラー支持治具と、
前記ローラーモールドを回転軸周りに回転させる回転駆動装置と、
温度変化による影響を受けない系として扱うことができる絶対系と、
該絶対系を規準として前記マスクの位置を測定するマスク位置測定センサと、
前記絶対系を規準として前記ローラーモールドの位置を測定するローラーモールド位置測定センサと、
該ローラーモールド位置測定センサおよび前記マスク位置測定センサによる測定信号を受信し、前記電子ビームによる前記ローラーモールドの前記レジスト上での描画位置のズレを最小化するための制御信号を送信する制御装置と、
該制御装置からの制御信号に基づいて前記ローラーモールドおよび前記マスクの少なくとも一方を動かし、前記電子ビームによる描画位置を移動させるアクチュエータと、
を備える、ローラーモールドの作製装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−213984(P2012−213984A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−81978(P2011−81978)
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月1日(2011.4.1)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】
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