説明

ロールイン用油中水型乳化組成物

【課題】焼き上げ直後にさくく、且つ経日的に水分が戻ってもさくい食感を維持でき、また、長期間保存した後にベーカリー製品の原料として用いても、浮きや内層が良好で形状にばらつきが生じないベーカリー製品が得られるロールイン用油中水型乳化組成物を提供する。
【解決手段】グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを0.2〜4質量%、及びポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.01〜1.5質量%含有し、且つ該ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと該グリセリンコハク酸脂肪酸エステルとの含有質量比率が1:1〜20であるロールイン用油中水型乳化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼き上げ直後にさくく、且つ経日的に水分が戻ってもさくい食感を維持できるベーカリー製品が安定して得られるロールイン用油中水型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ロールイン用油脂組成物を折り込んだペストリー等のベーカリー製品は、風味、内層、浮きが良好で、さくい食感(低水分ペストリーではサクサクし、中〜高水分ペストリーでは歯切れが良いこと)が求められ、このさくい食感は焼き上げ直後だけではなく、経日的に水分が戻っても維持されることが求められている。乳化剤によりこれらの点を解決しようとした先行技術として特許文献1〜3を挙げることができる。
【0003】
特許文献1には、モノグリセリド有機酸エステルを0.05〜10重量%含有し、SFCが40℃で2〜40重量%である油相からなるロールイン用油脂組成物が記載されている。特許文献1のロールイン用油脂組成物は、焼き上げ食後にさくく、且つ経日的に水分が戻ってもさくい食感を持続できるペストリーを提供することを課題としているが、さらに焼き上げ直後にさくく、且つ経日的に水分が戻ってもさくい食感を維持できるペストリーが得られるロールイン用油脂組成物が求められていた。
【0004】
特許文献2には、脂肪酸モノグリセリド40〜50重量%、ジアセチル酒石酸モノグリセリド20〜30重量%、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル20〜30重量%、レシチン5〜10重量%を配合してなるロールイン用マーガリンに使用される乳化剤組成物が記載されている。しかし、特許文献2に記載の配合の乳化剤を用いたロールイン用マーガリンは、ジアセチル酒石酸モノグリセリドを使用していることに起因して、ロールイン用マーガリンの保存中に遊離の酢酸が発生するため、長期間(6ヶ月以上)保存したロールイン用マーガリンを用いたベーカリー製品において、風味が悪化したり、浮きが不安定であったり、形状にばらつきが生じるという欠点があった。
【0005】
特許文献3には、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを乳化剤成分の55重量%以上用いた油中水型乳化組成物をロールイン用油脂として用いた、層状食品の製造法が記載されている。しかし、特許文献3に記載の層状食品の製造法では、内層、浮きは向上するものの、さくい食感のペストリー製品を得ることはできなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−253816号公報
【特許文献2】特開昭58−155043号公報
【特許文献3】特開昭60−234533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、焼き上げ直後にさくく、且つ経日的に水分が戻ってもさくい食感を維持でき、また、長期間保存した後にベーカリー製品の原料として用いても、浮きや内層が良好で形状にばらつきが生じないベーカリー製品が得られるロールイン用油中水型乳化組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討した結果、特定の乳化剤を用いたロールイン用油中水型乳化組成物を用いることにより、上記目的を達成し得ることを知見した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づきなされたもので、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを0.2〜4質量%、及びポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.01〜1.5質量%含有し、且つ該ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと該グリセリンコハク酸脂肪酸エステルとの質量比率が1:1〜20であることを特徴とするロールイン用油中水型乳化組成物を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、得られる乳化組成物中、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを0.2〜4質量%、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.01〜1.5質量%、且つ該ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと該グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの質量比率が1:1〜20となるように、該ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及びグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを油脂に添加した油相と、水相とを乳化し、急冷可塑化することを特徴とするロールイン用油中水型乳化組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のロールイン用油中水型乳化組成物により、焼き上げ直後にさくく、且つ経日的に水分が戻ってもさくい食感を持続できるベーカリー製品を得ることができる。また、本発明のロールイン用油中水型乳化組成物を長期間保存しても、浮きや内層が良好で、形状にばらつきが生じないベーカリー製品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明のロールイン用油中水型乳化組成物(以下、単に、乳化組成物ともいう)について詳細に説明する。本発明の乳化組成物は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを0.2〜4質量%、及びポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.01〜1.5質量%含有することが必要である。
【0013】
上記両成分を含有する油中水型乳化組成物において、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量が上記の範囲内(0.01〜1.5質量%)であっても、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量が0.2質量%よりも少ないと、さくい食感を得ることができず、また、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量が4質量%よりも多いと、斯かる乳化組成物を用いて得られたベーカリー製品の浮きが不均一であったり、焼き縮みのため該ベーカリー製品の形状が不均一となる。
【0014】
また、上記両成分を含有する油中水型乳化組成物において、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量が上記の範囲内(0.2〜4質量%)であっても、ポリグリセリン縮合シリノレイン酸エステルの含有量が0.01質量%よりも少ないと、乳化が不安定となり、生地のベタつきが発生し、良好なさくい食感、内層、浮きのペストリー製品を得ることができず、また、ポリグリセリン縮合シリノレイン酸エステルの含有量が1.5質量%よりも多いと、例えば斯かる乳化組成物をロールイン用マーガリンとして用いた場合に、該マーガリンの物性が軟らかくなるため作業性が低下し、良好な内層、浮きのペストリー製品を得ることができない。
【0015】
本発明の乳化組成物において、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは0.3〜3.5質量%、さらに好ましくは0.4〜3質量%、最も好ましくは0.5〜2.5質量%である。本発明の乳化組成物において、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量は、好ましくは0.05〜1.25質量%、さらに好ましくは0.07〜1質量%、最も好ましくは0.1〜0.75質量%である。
【0016】
また、本発明の乳化組成物において、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとグリセリンコハク酸脂肪酸エステルとの質量比率(前者:後者)は、1:1〜20、好ましくは1:2〜9、さらに好ましくは1:2〜7、最も好ましくは1:3〜5である。
【0017】
上記両成分を含有する油中水型乳化組成物において、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルとグリセリンコハク酸脂肪酸エステルとの含有質量比率が上記の範囲(1:1〜20)外である場合、例えば、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量がポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量の20倍を超えると、斯かる乳化組成物を用いて得られたベーカリー製品の浮きが不均一となったり、焼き縮みのため該ベーカリー製品の形状が不均一となり、また例えば、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量がポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量の1倍未満であると、斯かる乳化組成物を用いて得られたベーカリー製品にさくい食感を付与することができない。
【0018】
本発明の乳化組成物は、上記両成分(グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル)に加えてさらに、プロピレングリコール脂肪酸エステルを含有することが好ましい。本発明の乳化組成物において、プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量は、好ましくは0.01〜1.5質量%、さらに好ましくは0.05〜1.25質量%、一層好ましくは0.07〜1質量%、最も好ましくは0.1〜0.75質量%である。プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量を0.01質量%以上とすることで、特に、乳化組成物中におけるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの分散性が向上し、それによりさくい食感が得られやすくなり、また、プロピレングリコール脂肪酸エステルの含有量を1.5質量%以下とすることで、特に、乳化組成物の物性がより安定し、それにより作業性が向上すると共に、内層や浮きがより良好になる。
【0019】
本発明の乳化組成物には、必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲において、上記の特定の乳化剤(グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル)以外の他の乳化剤を含有させることができる。本発明で使用可能な他の乳化剤としては、例えば、グリセリンモノ脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリン酒石酸脂肪酸エステル、グリセリンクエン酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、例えば大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、サポニン、植物ステロール類、乳脂肪球皮膜等の天然乳化剤が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の乳化剤を上記の特定の乳化剤と併用することができる。
【0020】
本発明の乳化組成物において、上記の他の乳化剤の含有量は、好ましくは0.03〜3質量%、さらに好ましくは0.2〜2.5質量%、最も好ましくは0.3〜2質量%である。
【0021】
本発明の乳化組成物は、通常、油脂を含有する。本発明で使用可能な油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油、キャノーラ油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油、落花生油、カポック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂、イリッペ脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂及び動物油脂、並びにこれらの油脂に水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の油脂を用いることができる。尚、上記の「油脂」には、必要に応じて含有させる後述の他の成分に由来する油分も含めるものとする。
【0022】
本発明の乳化組成物において、上記の油脂の含有量は、好ましくは19.5〜94.5質量%、さらに好ましくは39.5〜89.5質量%、最も好ましくは59.5〜89.5質量%である。油脂の含有量を19.5質量%以上とすることで、乳化組成物の安定性がより向上し、また、油脂の含有量を94.5質量%以下とすることで、一層良好な可塑性が得られるようになる。
【0023】
本発明の乳化組成物は、通常、水を含有する。本発明の乳化組成物において、水の含有量は、好ましくは5〜80質量%、さらに好ましくは10〜60質量%、最も好ましくは10〜40質量%である。尚、上記の「水」には、水道水や天然水等の水のほか、必要に応じて含有させる後述の他の成分に由来する水分も含めるものとする。
【0024】
本発明の乳化組成物には、必要に応じて、本発明の効果を妨げない範囲において、上述した各種成分以外の他の成分を含有させることができる。本発明で使用可能な他の成分としては、乳製品、糖類・甘味料、澱粉、グアーガム・ローカストビーンガム・カラギーナン・アラビアガム・アルギン酸類・ペクチン・キサンタンガム・プルラン・タマリンドシードガム・サイリウムシードガム・結晶セルロース・CMC・メチルセルロース・寒天・グルコマンナン・ゼラチン等の増粘安定剤、アミラーゼ・プロテアーゼ・アミログルコシダーゼ・プルラナーゼ・ペントサナーゼ・セルラーゼ・リパーゼ・ホスフォリパーゼ・カタラーゼ・リポキシゲナーゼ・アスコルビン酸オキシダーゼ・スルフィドリルオキシダーゼ・ヘキソースオキシダーゼ・グルコースオキシダーゼ等の酵素、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、β―カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料類、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、調味料、アミノ酸、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、ナッツペースト、香辛料、アルコール、カカオマス、ココアパウダー、コーヒー、紅茶、緑茶、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材、卵類、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、着香料等が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の他の成分を用いることができる。
【0025】
上記乳製品としては、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、部分脱脂乳、脱脂乳、加工乳、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、アイスクリーム類、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖れん乳、加糖脱脂れん乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリーム、クリームパウダー、サワークリーム、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物(WPC及び/又はWPI)、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、バターミルク、バターミルクパウダー、加糖粉乳、調製粉乳、はっ酵乳、ヨーグルト、乳酸菌飲料、乳飲料、カゼインカルシウム、カゼインナトリウム、カゼインカリウム、カゼインマグネシウム、ホエイプロテインコンセートレート、トータルミルクプロテイン、乳清ミネラル等が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の乳製品を用いることができる。上記乳製品の含有量は、本発明の乳化組成物中、固形物換算で好ましくは0.01〜10質量%、さらに好ましくは0.1〜1質量%である。
【0026】
上記糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、はちみつ、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、還元乳糖、ソルビトール、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、トレハロース等が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の糖類を用いることができる。
【0027】
上記甘味料としては、スクラロース、ステビア、アスパルテーム、ソーマチン、サッカリン、ネオテーム、アセスルファムカリウム、甘草、羅漢果等が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の甘味料を用いることができる。
【0028】
上記澱粉としては、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、モチ米澱粉等の澱粉や、これらの澱粉をアミラーゼ等の酵素で処理したものや、これらの澱粉にα化処理、分解処理、エーテル化処理、エステル化処理、架橋処理、グラフト化処理等の中から選ばれた1種又は2種以上の処理を施した化工澱粉等が挙げられる。本発明では、これらの中から選ばれた1種又は2種以上の澱粉を用いることができる。
【0029】
次に、本発明のロールイン用油中水型乳化組成物の好ましい製造方法について説明する。
【0030】
先ず、得られる乳化組成物中、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを0.2〜4質量%、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.01〜1.5質量%、且つ該ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと該グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの質量比率が1:1〜20となるように、該ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及びグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを油脂に添加し、必要に応じ、さらにプロピレングリコール脂肪酸エステルや他の成分を添加して、油相とする。
【0031】
また別途、水相を用意する。水相は、水道水や天然水等の水を主体とし、必要に応じ、水に加えて他の成分を含有していても良い。
【0032】
こうして用意した油相と水相とを混合し、油中水型に乳化して、油中水型乳化組成物とする。油相と水相とを混合する前に、油相を加熱溶解させておいても良い。油相と水相との質量比率(前者:後者)は、好ましくは20〜95:5〜80、より好ましくは40〜90:10〜60、さらに好ましくは60〜90:10〜40である。本発明において、油相が20質量%よりも少なく水相が80質量%よりも多いと、乳化が不安定となる場合があり、また、油相が95質量%よりも多く水相が5質量%よりも少ないと、良好な可塑性を有することができない場合がある。
【0033】
本発明ではこうして得られた上記油中水型乳化組成物を急冷可塑化するが、その前に、該油中水型乳化組成物に殺菌処理を施すことが望ましい。殺菌処理としては、例えば、油中水型乳化組成物を所定の加熱温度で加熱する加熱処理が挙げられる。殺菌処理(加熱処理)の方式は、タンクを用いたバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続方式でも構わない。また、殺菌温度(加熱温度)は、好ましくは80〜100℃、さらに好ましくは80〜95℃、最も好ましくは80〜90℃とする。殺菌処理後、必要に応じ、油中水型乳化組成物に対し、油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行なう。予備冷却の温度は、好ましくは40〜60℃、さらに好ましくは40〜55℃、最も好ましくは40〜50℃とする。
【0034】
次に、上記油中水型乳化組成物を急冷可塑化する。この急冷可塑化の実施により、可塑性を有する本発明の乳化組成物が得られる。この急冷可塑化を行う装置としては、公知の装置を用いることができ、例えば、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター、ケムテーター等の密閉型連続式掻き取りチューブラー冷却機(Aユニット)、プレート型熱交換機等の他、開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターとの組み合わせ等が挙げられる。急冷可塑化の際に、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用しても良い。
【0035】
尚、本発明の乳化組成物には、窒素、空気等を含気させても良く、含気させなくても構わない。含気させる場合は、以上の製造工程に、常法による含気工程を適宜追加すればよい。
【0036】
このようにして得られた本発明の乳化組成物は、その形状に関して、シート状、ブロック状、円柱状、直方体等の形状としても良い。各々の形状についての好ましいサイズは、シート状:縦50〜1000mm、横50〜1000mm、厚さ1〜50mm、ブロック状:縦50〜1000mm、横50〜1000mm、厚さ50〜500mm、円柱状:直径1〜25mm、長さ5〜100mm、直方体:縦5〜50mm、横5〜50mm、高さ5〜100mmである。
【0037】
本発明の乳化組成物は、デニッシュ・ペストリー、クロワッサン、パイ等のベーカリー生地に用いられ、該ベーカリー生地を焼成することにより、層状構造を有する本発明のベーカリー製品を製造することができる。
【0038】
本発明の乳化組成物を用いた本発明のベーカリー製品において、上記ベーカリー生地における該乳化組成物の使用量(含有量)は、特に限定されるものではないが、ロールインを行なう前の生地100質量部に対し、該乳化組成物を好ましくは10〜200質量部、さらに好ましくは20〜100質量部の割合で用いる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
パームオレインのランダムエステル交換油62.4質量部、パームスーパーオレインのランダムエステル交換油10.4質量部、パームステアリン5.2質量部、及び大豆油22質量部で配合した配合油(油脂)を調製した。上記配合油80質量部に、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル2質量部、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.5質量部及びプロピレングリコール脂肪酸エステル0.5質量部を配合し、油相を調製した。この油相83質量部に、水相として水17質量部を加えて、油中水型に乳化し、得られた油中水型乳化組成物を85℃で殺菌処理(加熱処理)した後、50℃まで予備冷却した。次に、予備冷却した油中水型乳化組成物を、6本のAユニット及びレスティングチューブを通過させることにより、急冷可塑化した。こうして得られた可塑性を有する乳化組成物を、縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、さらに5℃にて2週間保管したものを、本発明のロールイン用油中水型乳化組成物である実施例1のロールイン用油脂組成物とした。
【0041】
(実施例2)
パーム油70質量%とパーム核油24質量%とハイエルシン菜種極度硬化油6質量%とからなる油脂配合物のランダムエステル交換油75質量部、大豆極度硬化油7.5質量部、及び大豆油17.5質量部で配合した配合油(油脂)を調製した。上記配合油80質量部に、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル2質量部、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.5質量部及びプロピレングリコール脂肪酸エステル0.5質量部を配合し、油相を調製した。この油相83質量部に、水相として水17質量部を加えて、油中水型に乳化し、得られた油中水型乳化組成物を85℃で殺菌処理(加熱処理)した後、50℃まで予備冷却した。次に、予備冷却した油中水型乳化組成物を、6本のAユニット及びレスティングチューブを通過させることにより、急冷可塑化した。こうして得られた可塑性を有する乳化組成物を、縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、さらに5℃にて2週間保管したものを、本発明のロールイン用油中水型乳化組成物である実施例2のロールイン用油脂組成物とした。
【0042】
(実施例3)
パーム油70質量%とパーム核油24質量%とハイエルシン菜種極度硬化油6質量%とからなる油脂配合物のランダムエステル交換油75質量部、大豆極度硬化油7.5質量部、及び大豆油17.5質量部で配合した配合油(油脂)を調製した。上記配合油57質量部に、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル2量部、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.5質量部及びプロピレングリコール脂肪酸エステル0.5質量部を配合し、油相を調製した。この油相60質量部に、水相として水40質量部を加えて、油中水型に乳化し、得られた油中水型乳化組成物を85℃で殺菌処理(加熱処理)した後、50℃まで予備冷却した。次に、予備冷却した油中水型乳化組成物を、6本のAユニット及び、レスティングチューブを通過させることにより、急冷可塑化した。こうして得られた可塑性を有する乳化組成物を、縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、さらに5℃にて2週間保管したものを、本発明のロールイン用油中水型乳化組成物である実施例3のロールイン用油脂組成物とした。
【0043】
(実施例4〜28)
パーム油70質量%とパーム核油24質量%とハイエルシン菜種極度硬化油6質量%とからなる油脂配合物のランダムエステル交換油75質量部、大豆極度硬化油7.5質量部、及び大豆油17.5質量部で配合した配合油(油脂)を調製した。上記配合油と、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルとを、下記表1〜3に記載の配合量にて配合して油相を調製した。この油相83質量部に、水相として水17質量部を加えて、油中水型に乳化し、得られた油中水型乳化組成物を85℃で殺菌処理(加熱処理)した後、50℃まで予備冷却した。次に、予備冷却した油中水型乳化組成物を、6本のAユニット及び、レスティングチューブを通過させることにより、急冷可塑化した。こうして得られた可塑性を有する乳化組成物を、縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、さらに5℃にて2週間保管したものを、それぞれ、本発明のロールイン用油中水型乳化組成物である実施例4〜28のロールイン用油脂組成物とした。
【0044】
(実施例29)
実施例2において急冷可塑化後に成形して得られたシート状の乳化組成物を5℃にて6ヶ月保管したものを、本発明のロールイン用油中水型乳化組成物である実施例29のロールイン用油脂組成物とした。
【0045】
(比較例1〜15)
パーム油70質量%とパーム核油24質量%とハイエルシン菜種極度硬化油6質量%とからなる油脂配合物のランダムエステル交換油75質量部、大豆極度硬化油7.5質量部、及び大豆油17.5質量部で配合した配合油(油脂)を調製した。上記配合油と、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及びプロピレングリコール脂肪酸エステルとを、下記表4及び5に記載の配合量にて配合して油相を調製した。この油相83質量部に、水相として水17質量部を加えて、油中水型に乳化し、得られた油中水型乳化組成物を85℃で殺菌処理(加熱処理)した後、50℃まで予備冷却した。次に、予備冷却した油中水型乳化組成物を、6本のAユニット及び、レスティングチューブを通過させることにより、急冷可塑化した。こうして得られた可塑性を有する乳化組成物を、縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、さらに5℃にて2週間保管したものを、それぞれ、ロールイン用油中水型乳化組成物である比較例1〜15のロールイン用油脂組成物とした。
【0046】
(比較例16)
パーム油70質量%とパーム核油24質量%とハイエルシン菜種極度硬化油6質量%とからなる油脂配合物のランダムエステル交換油75質量部、大豆極度硬化油7.5質量部、及び大豆油17.5質量部で配合した配合油(油脂)を調製した。上記配合油80質量部に、ジアセチル酒石酸モノグリセリド2質量部、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル0.5質量部及びプロピレングリコール脂肪酸エステル0.5質量部を配合し、油相を調製した。この油相83質量部に、水相として水17質量部を加えて、油中水型に乳化し、得られた油中水型乳化組成物を85℃で殺菌処理(加熱処理)した後、50℃まで予備冷却した。次に、予備冷却した油中水型乳化組成物を、6本のAユニット及び、レスティングチューブを通過させることにより、急冷可塑化した。こうして得られた可塑性を有する乳化組成物を、縦420mm、横285mm、厚さ9mmのシート状に成形し、さらに5℃にて2週間保管したものを、ロールイン用油中水型乳化組成物である比較例16のロールイン用油脂組成物とした。
【0047】
(比較例17)
比較例16において急冷可塑化後に成形して得られたシート状の乳化組成物を5℃にて6ヶ月保管したものを、ロールイン用油中水型乳化組成物である比較例17のロールイン用油脂組成物とした。
【0048】
(評価)
実施例1〜29及び比較例1〜17で得られたロールイン用油脂組成物を用いて、下記配合と製法によりデニッシュペストリー(ベーカリー製品)をそれぞれ製造し、さくさ、内層及び浮きを下記方法により評価した。その結果を下記表1〜5に示した。尚、比較例17のロールイン用油脂組成物を用いて製造されたデニッシュペストリーは強い酢酸臭が感じられた。
【0049】
<デニッシュペストリーの配合>
強力粉80質量部、薄力粉20質量部、イースト4質量部、イーストフード0.2質量部、上白糖15質量部、全卵10質量部、練り込み用マーガリン5質量部、水45質量部、ロールイン用油脂組成物(各実施例又は各比較例)45質量部。
【0050】
<デニッシュペストリーの製法>
練り込み用マーガリンとロールイン用油脂組成物以外の原料をミキサーボールに入れ、ビーターを用い、縦型ミキサーにてL3、M3にてミキシングを行った後、練り込み用マーガリンを入れ、さらにL3、M3にてミキシングを行い、生地を調製した。この生地をフロアタイム20分、−5℃の冷凍庫で24時間リタードさせた。この生地にロールイン用油脂組成物をのせ、常法により、ロールイン(3つ折り3回)し、成型(縦10センチ、横10センチ、厚さ3ミリ)した。そしてホイロ(32℃、50分)をとり、200℃15分にて焼成して、デニッシュペストリーを得た。
【0051】
<さくさの評価方法>
得られたデニッシュペストリーを焼き上げ直後及び3日後にそれぞれ食し、下記評価基準によりさくさを評価した。
評価基準
・○○○:焼き上げ直後、3日後共に、極めてさくい。
・○○:焼き上げ直後、3日後共に、非常にさくい。
・○:焼き上げ直後、3日後共に、さくい。
・△:焼き上げ直後はややさくいが、3日後にひきがあり、さくさがない。
・×:焼き上げ直後にさくさがなく、3日後にもひきがあり、さくさがない。
【0052】
<内層の評価方法>
得られたデニッシュペストリーを焼き上げ直後に目視観察し、下記評価基準により内層を評価した。
評価基準
・○○○:きれいな層状で且つ膜がとても薄い。
・○○:きれいな層状で且つ膜が薄い。
・○:きれいな層状であるが膜がやや薄い。
・△:層状の部分とパン目の部分がある。
【0053】
<浮きの評価方法>
得られたデニッシュペストリーを焼き上げ直後に目視観察し、下記評価基準により浮きを評価した。
評価基準
・○○○:層の暴れがなく、層毎の浮きも均質である。
・○○:層の暴れはないが、やや層毎の浮きが均質でない。
・○:層の暴れはないが、層毎の浮きが不均一である。
・△:層の暴れがややみられ、層毎の浮きが不均一である。
【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
【表3】

【0057】
【表4】

【0058】
【表5】

【0059】
表1〜5に示す通り、実施例1〜29は、さくさ、内層及び浮きの3つの評価項目のうちの少なくとも1つが○○以上であるのに対し、比較例1〜17には評価が○○以上のものが無く、各実施例は各比較例に比して高評価であった。また、実施例2と実施例29とは乳化組成物の保管期間のみが異なるところ、保管期間2週間(実施例2)と6ヶ月(実施例29)とで各評価結果に変わりが無く、このことから、本発明の乳化組成物が長期保存性に優れるものであることがわかる。また、実施例2と実施例4との比較から、プロピレングリコール脂肪酸エステルの使用は、特にさくさ(さくい食感)の向上に有効であることがわかる。
これに対し、比較例1〜17においては、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルの含有量、及び両者の質量比率のいずれかが、本発明で規定する特定範囲外にあるため、それぞれ、実施例に劣る結果となったと推察される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを0.2〜4質量%、及びポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.01〜1.5質量%含有し、且つ該ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと該グリセリンコハク酸脂肪酸エステルとの質量比率が1:1〜20であることを特徴とするロールイン用油中水型乳化組成物。
【請求項2】
さらにプロピレングリコール脂肪酸エステルを含有する請求項1記載のロールイン用油中水型乳化組成物。
【請求項3】
得られる乳化組成物中、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを0.2〜4質量%、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.01〜1.5質量%、且つ該ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルと該グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの質量比率が1:1〜20となるように、該ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル及びグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを油脂に添加した油相と、水相とを乳化し、急冷可塑化することを特徴とするロールイン用油中水型乳化組成物の製造方法。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のロールイン用油中水型乳化組成物を用いたベーカリー製品。

【公開番号】特開2013−13374(P2013−13374A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149219(P2011−149219)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】