説明

ワイヤーソー用多溝ローラー

【課題】 ワイヤーソー用多溝ローラーの軸部の損傷を防止して耐用期間の延長を図ると共に、多溝ローラーの偏心による加工ワイヤーのぶれや振動を解消し加工精度を向上する。
【解決手段】 多溝ローラーの主体をセラミックスで形成し、ワイヤーソーの軸受部に装着する軸部の表面に、金属スリーブを焼きバメまたは圧入により取り付けたワイヤーソー用多溝ローラーとする。

【考案の詳細な説明】
【0001】
【考案の属する技術分野】
本考案は、複数の多溝ローラーを配置し、該多溝ローラーのワイヤー溝にワイヤーを巻き付け張設することにより多数のワイヤー列を形成し、シリコン、水晶、磁性体等の被加工物に該ワイヤー列を砥粒と共に押しつけながら摺動させ、切断または溝入れ等の加工を行うワイヤーソーに用いる多溝ローラーに関する。
【0002】
【従来の技術】
ワイヤーソー用の多溝ローラーの耐用寿命を延ばすために耐摩耗性のある材料としてセラミックスが用いられているが、該セラミックス製多溝ローラーにおいては、ワイヤーソーの軸受部に装着される軸部も含めてセラミックスしたものは、該部の軸受(ローラベアリング、ニードルベアリング等)に異常摩耗、異常音等が発生し問題となる。そのため多溝部をセラミックスとし軸芯や軸部を金属で構成したものが多く用いられている。しかしセラミックスと金属とは熱膨張係数に差があるため、加工中の温度上昇に伴う熱膨張差からセラミックスと金属との位置関係が設計値から狂ってしまい加工精度の低下が問題となることがあった。
このため出願人は、セラミックス製多溝ローラーの軸部の表面に金属スリーブを接着剤を用いて接着固定することにより軸部の表面を金属とする改善を考案し先に提案した。
【0003】
【考案が解決しようとする課題】
この考案によって上記の問題解決が図られ改善効果がもたらされるが、該考案はセラミックスと金属間に接着剤を介して固定されているために、接着剤および接着方法によってはなお以下のような問題を生ずる場合があった。
【0004】
ワイヤーソーは、複数の多溝ローラー間に加工用ワイヤーを張設しローラーの回転と共に移動するワイヤーを砥粒と共に被加工物に押しつけて切断、溝切り等の加工が行われる。多溝ローラーはワイヤーソー軸受部に該多溝ローラーの軸部を挿入することにより装着される。この際該多溝ローラーには加工用ワイヤーの張力による荷重が作用する。その荷重は各ローラー毎に一定の方向となるが、ローラーが回転するためにローラー自身の軸部には回転曲げ荷重が繰り返し作用する。
【0005】
しかるに金属スリーブを接着剤により接着した軸部には接着層が存在するが、この繰り返しの荷重によって接着層には圧縮、引張が繰り返され、これが長期にわたり繰り返されるために接着層が剥がれて接着不良を起こし、ローラーは使用不能となる。本来ワイヤーソー用多溝ローラーの耐用期間は加工用ワイヤーが接触する多溝部の摩耗によって決まるものであるが、軸部の損傷が原因で使用不能となると、ローラーとしての耐用期間は著しく短縮されるという問題がある。
【0006】
本考案は、かかる問題を解決して、出願人が先に考案した接着による多溝ローラーをさらに改善し、被加工物を精度よく加工が出来しかも耐用期間の長いワイヤーソー用多溝ローラーを提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本考案は、表面に複数のワイヤー溝を形成した多溝部およびワイヤーソーの軸受部に装着する軸部を有するワイヤーソー用多溝ローラーにおいて、該多溝ローラーの主体をセラミックスで形成し、軸部の表面に金属スリーブを焼バメまたは圧入により取り付けたワイヤーソー用多溝ローラーである。
さらには、上記において軸部の表面に高炭素クロム軸受鋼からなる金属スリーブを焼きバメにより取り付けたワイヤーソー用多溝ローラーである。
【0008】
【考案の実施の形態】
通常ワイヤーソーには、複数の多溝ローラーを多角形形状に、例えば3本のローラーを三角形状に4本のローラーを四角形状などに、配置して複数の多溝ローラーが使用されている。その多溝ローラーには加工用ワイヤーを走行移動させるための駆動用ローラー、あるいは被加工物の移動空間を確保するためのローラーと、加工用ワイヤーに所定の寸法のワイヤー列を形成するための2本のローラーが設けられている。
これらのローラーは、種々の構造によりワイヤーソーに取り付けられている。
本考案はその中で、多溝ローラー自体に軸部を有し該部にて軸支される構造の多溝ローラーである。
【0009】
以下、本考案の詳細について図1の実施例および多溝ローラーのワイヤーソー軸受部への取り付け状態の1例を示す図2に基づいて説明する。多溝ローラー1は、ローラー本体がアルミナで形成されていて、外周にワイヤー溝が形成されている多溝部1aと、ワイヤーソーに軸支される軸部1bを有している。中心部には軸方向の貫通孔1cが設けられ中空になっており、ワイヤーソーに取り付ける際に取り付け金具13が貫通する。貫通孔1cの片端部には取り付け時の軸振れを防ぎ適切な取り付けが可能なようにテーパー部1dが設けている。
【0010】
この多溝ローラーの本体はセラミックスで形成されるが、上記実施例のアルミナに限られるものでなく、その他炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア等が用いられる。
【0011】
つぎに、該多溝ローラーの軸部1bは軸受11に装着されるよう多溝部1aより小径になっており、該部の外周には金属スリーブ2が取り付けられている。この金属スリーブ2の取り付けは、焼きバメまたは圧入によって行われる。本実施例では、金属スリーブ2には高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)が用いられ、多溝ローラー軸部1bに焼きバメによって取り付けられている。この金属スリーブ2に用いられる金属としては、装着される軸受11に適合するものであれば特に限定されるものではなく、その他の炭素鋼、ステンレス鋼、特殊鋼等や、場合によってはニッケル合金、銅合金、アルミニウム合金等が用いられる。また金属の種類や軸受の構造および取り付け方法に適合した寸法、形状のものを適宜選定して焼きバメまたは圧入によって多溝ローラーの軸部1bに取り付けられる。これによって、金属スリーブ2と軸部のセラミックスとの密着性が確保される。
【0012】
多溝ローラーの軸部に金属スリーブを焼きバメまたは圧入によって取り付けたことによって、先の考案の接着剤を用いる場合のように軸部におけるセラミックスと金属間に接着剤が存在しないので、回転曲げ荷重が繰り返しかかることによる接着剤の疲労剥離は発生しない。したがって多溝ローラーの長時間安定した使用が可能となる。
【0013】
つぎに、軸部に金属スリーブが焼きバメまたは圧入によって取り付けられた本考案のワイヤーソー用多溝ローラーは、金属スリーブの外側に来る軸受を介してワイヤーソーに軸支される。この取り付けは従来のワイヤーソー用多溝ローラーと何ら変わることなく行うことが出来る。
【0014】
図2に、本考案のワイヤーソー用多溝ローラーをワイヤーソーの軸受部に取り付ける際の1例を示す。ワイヤーソーの多溝ローラー用の軸受11としては、ボールベアリング、ローラーベアリング、ニードルベアリング等の転がり軸受が多く用いられる。表面に金属スリーブ2を焼きバメまたは圧入した多溝ローラー1の軸部1bが軸受11にはめ込まれる。金属スリーブ2の軸芯と軸受11の軸芯とが一致していないと多溝ローラーはスムースな回転が出来ず、異常な振動を起こしたり、軸受11や多溝ローラーの軸部1bが損傷して使用不可能となる。したがって、焼きバメまたは圧入した後両者の軸芯の一致が不十分である場合には、焼きバメまたは圧入した後金属スリーブ2の外周表面を加工して軸芯を一致させることも出来る。
【0015】
一方、該多溝ローラーの他の端部側は、多溝ローラー1のテーパー部1dにローラー軸15がはめ込まれ、該ローラー軸15の端部に装着される軸受12を介してワイヤーソー(支持部材)の軸受部16に支持されている。
【0016】
図2に示す取付例においては、ワイヤーソーの軸受部10に多溝ローラー1を軸支する軸受11のローラー11aに、直接多溝ローラー1の金属スリーブ2が接する構造であるため、金属スリーブ2の回転に異常をきたすと軸受11に直接影響する。したがってこのような取り付けをする場合には、金属スリーブ2の材質を一般の軸受に使用される高炭素クロム軸受鋼とし、さらに焼バメにより取り付けるのが軸受けの性能を十分に発揮出来るので望ましい。
【0017】
本考案の多溝ローラーのワイヤーソーの軸受部への取り付けは、図2に示す実施例に限定されるものではなく、例えば図3に示すような多溝ローラー1の軸部1bの反対側のテーパ部1dにはめ込み固定されたローラー軸15を、ワイヤーソーの軸受部10に装着し、他端の金属スリーブ2の方はワイヤーソー(支持部材)の軸受部16にて軸支することも可能である。また多溝ローラーの軸部を軸受に装着する場合に、図2のごとく軸受のローラー11aに直接挿入する場合の他、図3のごとく内輪を有する軸受を装着することも可能である。
【0018】
さらにセラミックス部分に金属スリーブを焼きバメする場合において、密着性を高めるため金属スリーブとセラミックスの接合面の面粗度をある程度荒く、例えば12S以上とすると金属スリーブとセラミックスとの接合強度はより強力になる。この密着性の向上によって、多溝ローラー間に張設された加工用ワイヤーの張力による曲げ荷重を受ける軸部にあって、従来の接着剤の場合のような接着不良に起因する軸部の破損が解消され、多溝ローラーの耐用期間が著しく延長される。
【0019】
【考案の効果】
セラミックス製ワイヤーソー用ローラーの、セラミックスの軸部と金属スリーブとの密着性が向上し、接着剤を使用する多溝ローラーのような接着不良に起因する該部の損傷が解消され、多溝部分の磨耗によるローラーの寿命まで使用が可能となり、耐用期間が著しく延長される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本考案のワイヤーソー用多溝ローラーの外観、および断面を示す説明図である。
【図2】本考案の多溝ローラーのワイヤーソーへの取り付けの1例の要部を示す説明図である。
【図3】本考案の多溝ローラーのワイヤーソーへの他の取り付け例の要部を示す説明図である。
【符号の説明】
1 多溝ローラー
1a 多溝部
1b 軸部
1d テーパ部
2 金属スリーブ
10 ワイヤーソーの軸受部
11、12 軸受
13 取り付け金具
15 ローラー軸
16 ワイヤーソー(支持部材)の軸受部

【実用新案登録請求の範囲】
【請求項1】 表面に複数のワイヤー溝を形成した多溝部およびワイヤーソーの軸受部に装着する軸部を有するワイヤーソー用多溝ローラーにおいて、該多溝ローラーの主体をセラミックスで形成し、軸部の表面に金属スリーブを焼バメまたは圧入により取り付けたことを特徴とするワイヤーソー用多溝ローラー。
【請求項2】 軸部の表面に高炭素クロム軸受鋼からなる金属スリーブを焼きバメにより取り付けたことを特徴とする請求項1記載のワイヤーソー用多溝ローラー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【登録番号】第3038477号
【登録日】平成9年(1997)4月2日
【発行日】平成9年(1997)6月20日
【考案の名称】ワイヤーソー用多溝ローラー
【国際特許分類】
【評価書の請求】有
【出願番号】実願平8−12879
【出願日】平成8年(1996)12月4日
【出願人】(000000240)秩父小野田株式会社 (1,449)