説明

ワーク加工装置およびワーク加工方法

【課題】例えば免震部材等を構成するフランジ等のワークを熟練者の技術を必要とせず、短時間で効率的に加工・矯正することが可能であり、さらに、従来の加工方法に比べ、材料の鋼材の歪み・撓みに対する加工精度・矯正量が良好となるようなワーク加工装置およびワーク加工方法を提供する。
【解決手段】略平板形状の鋼材の加工・矯正を行いワークを製造するワーク加工装置であって、鋼材を配置する加工テーブルと、前記加工テーブルにおいて鋼材の位置合わせを行う位置決めピンと、鋼材の外周部を前記加工テーブルに対して押し当てることで鋼材を前記加工テーブルに固定させる固定用クランプと、鋼材の上面中央部の所定の範囲を覆うように取り付けられる蓋部材と、鋼材に垂直に孔を空け、切削を行う加工機構と、を備えるワーク加工装置が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば建造物・構造物等の免震性能向上のために用いられる免震部材を構成するフランジ等のワークを加工・矯正するワーク加工装置およびワーク加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、例えば建造物や各種構造物等の建造時には、地震の際の安全性向上のために免震部材が施工される。免震部材は構造物の基礎部分や中間階等に配設され、地震によって下部構造から上部構造に伝播しようとする振動を絶縁して、上部構造の躯体に生じる応力や変形を抑制するものである。
【0003】
従来より一般的に用いられている免震部材として、例えば図1に示すように、ゴム部材と中間鋼板とを積層させて形成される円筒形状の積層ゴムを、円板形状のフランジで挟んで固着させたものが知られている。ここで、図1(a)は免震部材100の平面図、図1(b)は縦断面図を示している。図1に示す免震部材100は、円板形状のゴム部材と円形の中間鋼板とを複数段積層させた円筒形状の積層ゴム102と、積層ゴム102の上面102aおよび下面102bにそれぞれ取り付けられる鋼製のフランジ部材103(上フランジ104、下フランジ105)から構成されている。上フランジ104と下フランジ105の形状は同様の円板形状であり、フランジ部材103の中央には、積層ゴム102の上下面を押さえる肉厚部106が設けられている。
【0004】
図1に示す構成をとる免震部材100を建造物や各種構造物の建造時に基礎部分や中間階に設置することで、地震による振動の伝播を最小限に留めることが可能となる。
【0005】
また、図1(a)に示されるように、免震部材100のフランジ部材103には、免震部材100を構造物等に取り付ける際に用いるボルト孔110が、外周部近傍に複数(図1(a)では12箇所として図示)設けられ、またフランジ部材103の中央には、中心軸となる軸部材を通すための中心孔111が設けられる。ここで、フランジ部材103は一般的に円板形状の鋼材115を成型・加工して製造されるが、上記ボルト孔110および中心孔111を空ける作業と共に、鋼材115の有する歪みや撓みを矯正し平坦化する作業が必要とされる。これは、例えば鉄である鋼材115は、その製造工程において、熱処理や冷却が施されているため歪みや撓みを有した状態でフランジ部材103の材料となるが、フランジ部材103を用いた免震部材100は構造物等に誤差なく正確に配設される必要があり、フランジ部材103における歪みや撓みは、その配設精度を悪化させてしまう要因となるからである。
【0006】
以下には従来一般的に行われてきた鋼材115からフランジ部材103を成型・加工する例について説明する。図2(a)〜(e)はフランジ部材103の材料である略円板形状の鋼材115をフランジの形状に成型・加工する従来の方法の説明図である。図2(a)と図2(b)は同じ加工工程における鋼材115を示しており、図2(a)は鋼材115の加工の様子を正面から見た概略図、図2(b)は鋼材115の加工の様子を横から見た概略図である。また、図2(c)と図2(d)は同じ加工状態における鋼材115を示しており、図2(c)は鋼材115の加工の様子を正面から見た概略図、図2(d)は鋼材115の加工の様子を横から見た概略図である。また、図2(e)は加工後の鋼材115、即ちフランジ部材103を示す説明図である。
【0007】
図2(a)、(b)に示すように、加工前の鋼材115は正面盤120に四方四箇所の固定用爪121によって固定され配置される。そして、鋼材115の歪み・撓み等の状態を確認後、固定用爪121でもって鋼材115を正面盤120に押し付け、正面盤120に備えられた矯正用ボルト125を押し当て、正面盤120を鋼材115に押し付けた状態で正面盤120を回転させ、鋼材115の歪み・撓みを矯正する。さらに、正面盤120に固定された矯正後の鋼材115に でもって肉厚部106の形成を行う。
【0008】
次いで、図2(c)、(d)に示すように、肉厚部106の形成された状態の鋼材115が、水平な加工テーブル126に固定用爪127によって固定される。また、加工テーブル126の上面には、ジャッキ128が複数設置され、鋼材115は、図2(c)、(d)に示すような状態で固定され、ジャッキ128でリフトアップした状態で鋼材115の上面の歪み等を測定しながら、さらなるその歪み・撓みの矯正が行われる。そして、加工テーブル126に固定された状態で図示しない例えば門型マシニングセンタ等の加工機によってボルト孔110および中心孔111が鋼材115の例えば外周部近傍12箇所に空けられる。図2(e)は、以上述べた加工が行われた後の、ボルト孔110および中心孔111が空けられた鋼材115、即ちフランジ部材103の正面図である。フランジ部材103を上下フランジ(104、105)として、これら上下フランジ(104、105)の肉厚部106に挟まれるように積層ゴム102を固着させて免震部材100が構成され、ボルト孔110を介した接合によって建造物・構造物等に取り付けられ、免震性能を発揮することとなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上述した従来の成型・加工方法でもって鋼材115を成型・加工する場合、正面盤を用いた鋼材の歪み・撓みの矯正はその発生箇所を適確かつ迅速に検出して矯正を行う必要があるため、熟練者でなければ効率的に矯正が行えないといった問題点があった。また、鋼材のリフトアップによって矯正を行う際に、そのリフトアップ方向にリミットが無いために上昇量の調整が非常に困難となっていた。さらに、免震部材のフランジ材料として用いる鋼材の重量は、例えば重量300kg〜1000kg程度の大重量であり、上述した従来の加工・矯正方法では、鋼材を正面盤に立てて取り付ける等の作業が必要であったため、1つの鋼材から1枚のフランジを製作するのに3時間〜4時間以上かかるといった、難易度や加工時間の面での非効率性が問題であった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、例えば免震部材等を構成するフランジ等のワークを熟練者の技術を必要とせず、短時間で効率的に加工・矯正することが可能であり、さらに、従来の加工方法に比べ、材料の鋼材の歪み・撓みに対する加工精度・矯正量が良好となるようなワーク加工装置およびワーク加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的に鑑み、本発明によれば、略平板形状の鋼材の加工・矯正を行いワークを製造するワーク加工装置であって、鋼材を配置する加工テーブルと、前記加工テーブルにおいて鋼材の位置合わせを行う位置決めピンと、鋼材の外周部を前記加工テーブルに対して押し当てることで鋼材を前記加工テーブルに固定させる固定用クランプと、鋼材の上面中央部の所定の範囲を覆うように取り付けられる蓋部材と、鋼材に垂直に孔を空け、切削を行う加工機構と、を備えるワーク加工装置が提供される。
【0012】
前記固定用クランプは、固定用ボルトによって前記加工テーブルとの間隔が調整可能な押し当て部と、前記押し当て部の外側端部を前記加工テーブルに支持させる支持部材から構成され、前記支持部材の下端部には可動部材が取り付けられていても良い。また、前記蓋部材には中央に軸孔が設けられ、前記蓋部材は前記軸孔と鋼材中央に設けられた孔を通じて前記加工テーブルと接続用ボルトによって接続可能であり、前記蓋部材の外周近傍には鋼材を前記加工テーブルに固定する固定用ネジが円周状に備えられていても良い。また、前記蓋部材には中央に軸孔が設けられ、前記蓋部材は前記軸孔と鋼材中央に設けられた孔を通じて前記加工テーブルと接続用ボルトによって接続可能であり、前記蓋部材の外周近傍には鋼材を前記加工テーブルに固定する固定用ネジが円周状に備えられていても良い。前記固定用ネジの下端部には可動部材が取り付けられていても良く、前記加工機構は門型マシニングセンタであっても良い。
【0013】
別な観点からの本発明によれば、上記記載のワーク加工装置を用いたワーク加工方法であって、前記加工テーブルに鋼材を前記位置決めピンを用いて位置合わせして配置し、鋼材を前記固定用クランプを用いて上から下に押し付けて固定し、前記加工機構を用いて鋼材の外周部近傍および中心部に孔を空け、前記固定用クランプで固定された鋼材の上面に前記蓋部材を配置し、前記蓋部材を鋼材上面に配置した後、前記固定用クランプを鋼材から取り外し、前記蓋部材を固定用ネジでもって前記加工テーブルに固定させ、前記加工機構を用いて鋼材の周縁部を切削して鋼材中央部に肉厚部を形成させる、ワーク加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、例えば免震部材等を構成するフランジ等のワークを熟練者の技術を必要とせず、短時間で効率的に加工・矯正することが可能であり、さらに、従来の加工方法に比べ、材料の鋼材の歪み・撓みに対する加工精度・矯正量が良好となるようなワーク加工装置およびワーク加工方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】免震部材100の説明図である。
【図2】フランジ部材103の材料である円板形状の鋼材115をフランジの形状に成型・加工する従来の方法の説明図である。
【図3】ワーク加工装置1の概略正面図である。
【図4】加工テーブル15の概略平面図である。
【図5】(a)固定用クランプ20の概略斜視図である。 (b)固定用クランプ20の概略側面断面図である。
【図6】中間材A1の概略平面図である。
【図7】(a)蓋部材40を取り付けた際の中間材A1の平面図である。 (b)蓋部材40を取り付けた際の中間材A1の側面断面図(b)である。
【図8】(a)フランジ製品60の平面図である。 (b)フランジ製品60の側面断面図である。
【図9】フランジ製品60を用いて免震部材70を製作する場合の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0017】
図3は本発明の実施の形態にかかる鋼材Aをフランジ部材2(ワーク)に加工するワーク加工装置1の概略正面図である。図3に示すように、ワーク加工装置1には、略門型形状の支持部6と、支持部6の中央部近傍に支持される加工部8から構成される加工機構10が備えられる。加工機構10としては例えば門型のマシニングセンタが例示される。また、加工部8の下方には加工テーブル15が設けられ、図3に示すように鋼材Aの加工時には、鋼材Aが加工テーブル15の上面に載置され、固定用クランプ20によって固定される。ここで、加工部8下端部(鋼材Aと対向する端部)には、適宜、図示しない穴あけ器具(ドリル等)や切削器具が取り付け可能となっており、また、加工部8は昇降・移動自在となっている。
【0018】
図4は、ワーク加工装置1に設けられた加工テーブル15の概略平面図である。なお、図4は鋼材Aが配置された状態での加工テーブル15の様子を示しており、本実施の形態では加工テーブル15の形状は四角形状、鋼材Aの形状は円板形状であり、中心に中心穴Oが空いている場合を説明する。
【0019】
加工テーブル15上面には、鋼材Aを載置した際の位置合わせを行うための位置決めピン16を配置するための位置決め用のピン穴17が所定の箇所に複数設けられている。加工時には、鋼材Aを所定の位置に設置した複数の位置決めピン16に押し当てることで位置決めが行われる。用いるピン穴17は鋼材Aの大きさ(半径等)によって異なるが、基本的には加工テーブル15の中心位置と鋼材Aの中心点を一致させるように位置決めすることが好ましい。
【0020】
また、加工テーブル15には、鋼材Aを固定させるための固定用クランプ20を取り付けるためのボルト孔22が所定の位置に複数設けられている。本実施の形態では加工テーブル15の外縁部、即ち、鋼材Aの周縁部に対応する位置に、放射状に12列のボルト孔22が設けられているものとし、鋼材Aの大きさに応じて固定用クランプ20の取り付け位置は異なるため1列に複数のボルト孔22が設けられている。加工テーブル15への鋼材Aの固定は、鋼材Aを加工テーブル15に載置した後、固定用クランプ20の押し当て部20aを、鋼材Aを挟むように配置し、固定用ボルト21で下方に押し付けるようにボルトを締めることで行われる。なお、本実施の形態では12個の固定用クランプ20を等間隔でもって使用し、鋼材Aの固定を行うものとしているが、鋼材Aの大きさやその歪み・撓みの程度に応じて適宜固定用クランプ20の使用個数や使用箇所は変更することが好ましい。例えば以下に説明する加工位置の近傍に固定用クランプ20を取り付けても良い。これにより鋼材Aの固定がより強固に行われる。
【0021】
また、加工テーブル15には、鋼材Aの上面から例えばドリル等の穴あけ器具で穴あけを行う場合に、鋼材Aを貫通した後の穴あけ器具の退避場所としての窪み25が所定の位置に設けられている。鋼材Aに対して加工を行う際の加工位置(穴あけ位置)は求められる製品によって所定の位置に決まっているため、予め加工テーブル15の所定の位置に窪み25を設けておくことが可能である。従来の加工方法ではジャッキ等で鋼材を浮かせることで鋼材の下方に隙間を作り、穴あけ器具による貫通加工を行っていた。しかしながら、従来の加工方法では鋼材の接地面がジャッキ等の上面に支持されている部分のみであったため、その固定が不十分である恐れがあった。これに対し、本実施の形態にかかるワーク加工装置1を用いて、窪み25を設けた加工テーブル15に鋼材Aを接地させて加工を行うことで、鋼材Aの接地面が加工テーブル15の窪み25以外の全ての面となるため、従来の方法より強固に鋼材Aを加工テーブル15に固定することができ、効率的に加工が実施可能となる。なお、本実施の形態では加工テーブル15の中心近傍から放射状に直線に伸びる12本の窪み25が設けられているものとする。
【0022】
図5は、固定用クランプ20の概略図であり、図5(a)は概略斜視図、図5(b)は概略側面断面図である。図5に示すように、固定用クランプ20は鋼材Aに押し当てる押し当て部20aと押し当て部20aの外側端部に取り付けられる支持部材20bから構成される。押し当て部20aは長方形形状であり、一方の短辺部から中央部にかけて長手方向に伸びる切り込み部26が設けられている。固定用クランプ20によって鋼材Aを加工テーブル15に固定する場合には、鋼材Aの内側方向へ向けた切り込み部26を通して固定用ボルト21を加工テーブル15に接続させることで固定が行われる。また、支持部材20bの下端部には下面が平面である可動部材20b’が取り付けられており、例えば、上記図4や図5(b)に示すような鋼材Aを加工テーブル15に固定させる場合、可動部材20b’の角度が支持部材20bの下端部を中心に変化する。支持部材20bの下端部は球体状であり、そこに取り付けられる可動部材20b’の角度が可変であることから、支持部材20bの下端部と可動部材20b’との接触は線あたりであり、可動部材20b’の加工テーブル15との接触は面あたりでの接触である。そのため、可動部材20b’の下面と加工テーブル15との角度が可変である状態でもって固定が可能であり、その際の負荷を常に一定とすることができる。
【0023】
以上図3〜5を参照して説明したワーク加工装置1において、以下のように鋼材Aの加工が行われる。まず、鋼材Aを例えばマグネット運搬機構等の搬送機構によってワーク加工装置1の加工テーブル15上に載置し、その中央部へ位置合わせする。そして、図4に示すように鋼材Aを固定用クランプ20(押し当て部20a)によって加工テーブル15中央部に固定する。このとき固定用クランプ20による鋼材Aの固定は上述した固定用ボルト21を締めることによって行われる。ここで、支持部材20bは固定用ボルト21を締めた際に固定用クランプを支持する役割である。そのため、支持部材20bの長さは鋼材Aの厚みよりも長い、適当な長さである必要がある。次いで、加工機構10によって鋼材Aの外周近傍に、円周状の所定の複数個の設置用ボルト孔30を空ける加工が行われる。なお、この設置用ボルト孔30は、鋼材Aを加工した後の製品であるフランジ部材2を備える免震部材を構造物等に施工する際に用いられるものである。
【0024】
以上述べた加工工程を第1工程とし、第1工程終了時の鋼材を中間材A1とし、図6に中間材A1の概略平面図を示す。図6に示すように、設置用ボルト孔30は中間材A1の外周近傍に円周状に複数加工される。本実施の形態で加工される中間材A1には設置用ボルト孔30が12箇所に等間隔で設けられる場合を図6に例示しているがこれに限られるものではなく、最終戦品である免震部材に必要とされるボルト孔の数に応じて第1工程で加工されるボルト孔の数や大きさ、配置等は適宜好ましいものへ変更される。また、図6に示す中間材A1の中心には中心穴Oが空いており、中心穴Oは、材料である鋼材Aに既に空いているものとして説明したが、材料である円板形状の鋼材Aに中心穴Oが空いていない場合には、第1工程において空けても良い。
【0025】
続いて、上述した固定用クランプ20による中間材A1(鋼材A)の固定をそのままにした状態で、中間材A1の上面中央に蓋部材40を載置する。蓋部材40には中心部に穴41が空いており、蓋部材40の穴41、中間材A1の中心穴Oを通る蓋固定用ボルト45によって加工テーブル15に接続される。蓋部材40の取り付け後、固定用クランプ20は取り外される。蓋部材40の外周近傍には、円周状に固定用ネジ48が等間隔で複数取り付けられている。固定用ネジ48は、蓋部材40の中間材A1への取り付け時に中間材A1にその先端が接触するように取り付けられており、固定用ネジ48を蓋部材40の上面側から締めることで、中間材A1は加工テーブル15に押し付けられる構成となっている。
【0026】
図7は蓋部材40を取り付けた際の中間材A1の平面図(a)および側面断面図(b)である。図7に示すように、蓋部材40は蓋固定用ボルト45によって加工テーブル15に接続し、固定用ネジ48を蓋部材40上方から締めることで固定用ネジ48の下端部が中間材A1に押し付けられ、その結果、中間材A1が加工テーブル15に押し付けられる。この固定用ネジ48の下端部にも上記支持部材20bと同様に可動部材が取り付けられており、その可動部材の角度は変化可能である。
【0027】
そして、中間材A1が上記固定用ネジ48の締め付けによって固定・押圧された状態で、平坦化された中間材A1に対し、加工機構10によって、その外周部を円環状に切削する加工が行われる。この切削により中間材A1の中央部には肉厚部50が形成され、この肉厚部50は蓋部材40より多少大きな径の円形状である。免震部材を製造する際には、2枚のフランジ部材2の肉厚部50を対向させた状態で積層ゴムをこの2枚のフランジ部材2によって挟んで固着させる。この製造された免震部材が建造物等に施工され、積層ゴムが地震の振動によって揺れ動いた場合を想定すると、肉厚部50が形成されていることにより免震部材を建造物等に施工(例えば設置用ボルト等によって固定)するための固定具(設置用ボルト等)と積層ゴムが接触する危険性を回避することができる。
以上が第2工程であり、上述してきた第1・第2工程を施工された鋼材Aが最終的なワーク製品である免震部材のフランジ部に用いられる略円板形状のフランジ部材2となる。
【0028】
図8は第1・第2工程を経て加工された免震部材のフランジに用いられるフランジ部材2の説明図であり、図8(a)は平面図、図8(b)は側面断面図である。また、図9はフランジ部材2を用いて免震部材70を製作する場合の説明図である。図8に示すようにフランジ部材2は略円板形状の鋼板であり、上記第1工程において加工された設置用ボルト孔30が外周近傍(周縁部62)に複数個設けられている。また、上記第2工程での加工により、フランジ部材2の中央部には円形状の肉厚部50が形成され、この肉厚部50は周縁部62より一段高さが高い構成となっている。このようなフランジ部材2を2枚用意し、図9に示すように、各フランジ部材2、2の肉厚部50を対向させた状態で、円柱形状の積層ゴム75(略円板形状のゴム部材と略円形の中間鋼板とを複数段積層させたもの)の上面および下面を肉厚部50に例えば加硫成型によって固着させ挟み、免震部材70が製造される。なお、免震部材70を製造する際に、フランジ部材2の中心穴Oに対応させるように積層ゴム75の中心部に円筒形状の空洞を設けておき、例えば鉛プラグ等の中心軸(基柱)となる部材を該空洞に入れた状態で免震部材70を製造することも考えられる。
【0029】
以上説明してきた、ワーク加工装置1を用いて鋼材Aからフランジ部材2を加工する工程(上記第1工程および第2工程)においては、従来の加工方法と異なり、熟練者の技術を必要とせずに鋼材Aの平坦化(矯正)や設置用ボルト孔30の加工、肉厚部50の形成等の加工が短時間で効率的に行われる。また、第1工程、第2工程の両方で鋼材Aの上から下方向への圧下力を加えており、加工工程において常時鋼材Aの平坦化が行われているため、従来の加工方法に比べ、平坦化における矯正効率は本発明の方が優れている。また、上から下方向への圧下力でもって鋼材の加工テーブルへの接地固定を行うと同時に、上から下方向への穴あけ加工を行っているため鋼材が作業中に動いてしまうといった懸念もない。
【0030】
また、例えば図2を参照して説明した従来の加工方法のように、大きく、大重量である鋼材を立てて加工作業を行う必要がないため、作業の難易度が極めて易しいものとなり、特に熟練した技術者でなくとも、鋼材の加工が容易に行える。
【0031】
以上、本発明の実施の形態の一例を説明したが、本発明は図示の形態に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0032】
上記本発明の実施の形態において、加工対象である鋼材は略円板形状であり、製造されるフランジ製品も円板状である場合について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、加工対象として例えば四角形状や三角形状等の様々な形状の鋼板を用いることができる。また、加工・製造される製品についても免震部材に用いられるフランジに限られず、様々な金属鋼板等からなる製品を加工・製造することが可能である。また、加工テーブルの形状についても実施の形態で述べた四角形状に限られるものではなく、加工対象の鋼板の大きさや形状に応じたものを用いることが好ましい。
【実施例】
【0033】
中心穴の設けられた略円板形状の材料を用意し、本発明にかかるワーク加工装置でもってフランジ製品の加工を行い、従来の正面盤を用いた加工方法でフランジ製品を加工した場合とのフランジ製品における加工精度や加工に要する時間について比較を行った。材料である鋼材としては、厚さ38mm、直径1500mmの中心穴の空いた略円板形状の鉄鋼板を用意した。この鉄鋼板の重量は約524kgであった。また、この鉄鋼板は熱処理等がなされた鋼板であり、熱処理や冷却の過程で歪みが発生しており、平坦度で約2mm程度の歪みの発生が確認された。
【0034】
先ず、従来の方法として、鉄鋼板に対し、図2(a)、(b)を参照して説明した正面盤での加工・矯正を行い、次いで、図2(c)、(d)を参照して説明した加工テーブルでの切削および加工(穴あけ)を行った。このとき正面盤での加工精度の設定は平坦度1mm以内とした。その結果、従来の方法での加工時間は約4時間強であり、また、加工された最終製品の平坦度は約0.8mm〜1.0mmであった。
【0035】
次に、上記実施の形態で説明した本発明にかかるワーク加工装置を用いた加工方法でもって同じ材料の加工・矯正を行った。その結果、加工時間は約1.5時間であった。また、加工された最終製品の平坦度は0.5mm以内であった。
【0036】
以上の従来の加工方法と本発明との比較により、加工効率・加工精度の両面において、本発明にかかるワーク加工装置を用いた加工方法が優れていることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、例えば建造物・構造物等の免震性能向上のために用いられる免震部材を構成するフランジ等のワークを加工・矯正するワーク加工装置およびワーク加工方法に適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1…ワーク加工装置
2…フランジ部材
6…支持部
8…加工部
10…加工機構
15…加工テーブル
16…位置決めピン
17…ピン穴
20…固定用クランプ
20a…押し当て部
20b…支持部材
21…固定用ボルト
22…ボルト孔
25…窪み
26…切り込み部
30…設置用ボルト孔
40…蓋部材
41…穴
45…蓋固定用ボルト
48…固定用ネジ
50…肉厚部
62…周縁部
70…免震部材
75…積層ゴム
A…鋼材
A1…中間材
O…中心穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略平板形状の鋼材の加工・矯正を行いワークを製造するワーク加工装置であって、
鋼材を配置する加工テーブルと、
前記加工テーブルにおいて鋼材の位置合わせを行う位置決めピンと、
鋼材の外周部を前記加工テーブルに対して押し当てることで鋼材を前記加工テーブルに固定させる固定用クランプと、
鋼材の上面中央部の所定の範囲を覆うように取り付けられる蓋部材と、
鋼材に垂直に孔を空け、切削を行う加工機構と、を備えるワーク加工装置。
【請求項2】
前記固定用クランプは、固定用ボルトによって前記加工テーブルとの間隔が調整可能な押し当て部と、前記押し当て部の外側端部を前記加工テーブルに支持させる支持部材から構成され、
前記支持部材の下端部には可動部材が取り付けられている、請求項1に記載のワーク加工装置。
【請求項3】
前記蓋部材には中央に軸孔が設けられ、前記蓋部材は前記軸孔と鋼材中央に設けられた孔を通じて前記加工テーブルと接続用ボルトによって接続可能であり、前記蓋部材の外周近傍には鋼材を前記加工テーブルに固定する固定用ネジが円周状に備えられる、請求項1または2に記載のワーク加工装置。
【請求項4】
前記固定用ネジの下端部には可動部材が取り付けられている、請求項3に記載のワーク加工装置。
【請求項5】
前記加工機構は門型マシニングセンタである、請求項1〜4のいずれかに記載のワーク加工装置。
【請求項6】
請求項1に記載のワーク加工装置を用いたワーク加工方法であって、
前記加工テーブルに鋼材を前記位置決めピンを用いて位置合わせして配置し、
鋼材を前記固定用クランプを用いて上から下に押し付けて固定し、
前記加工機構を用いて鋼材の外周部近傍および中心部に孔を空け、
前記固定用クランプで固定された鋼材の上面に前記蓋部材を配置し、
前記蓋部材を鋼材上面に配置した後、前記固定用クランプを鋼材から取り外し、前記蓋部材を固定用ネジでもって前記加工テーブルに固定させ、
前記加工機構を用いて鋼材の周縁部を切削して鋼材中央部に肉厚部を形成させる、ワーク加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−104727(P2011−104727A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−263235(P2009−263235)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(509320047)
【出願人】(509319720)
【Fターム(参考)】