説明

一体型の半音階調律器を備える時計

分を表示するための針2および時を表示するための針3を少なくとも1つ備え、楽器の半音階調律のための電子ユニット100を含む、持ち運び可能な計時器1。電子ユニット100は、音響信号センサ101と、受信された電気音響信号10を処理する手段102とを含み、計時器1は、針2、3の少なくとも1つが、前記受信された信号10に関するデータを表示することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調律すべき楽器によって発せられた音響周波数を測定して、調律の正確さを特徴付ける量を時計(例えば腕時計)に表示する、楽器用の半音階調律器に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、楽器は、音程の合った音を確実に生み出すことができるように定期的に調律する必要がある。これは一般に、第4オクターブの基準音として440ヘルツのA音を発する音叉を使用する技法によって実現される。
【0003】
音叉の特性を歪めることがある湿度や温度などのパラメータの影響を受けずに音高が厳密に正確であることを保証するために、今日、音高に対応する周波数をより高精度で求めることができる電子調律器が存在する。これらの調律器は、音響信号を電気信号に変換するマイクロフォンと、検出された音響信号および得られた電気信号に従って、最も近い音高と、前記音高の正確さも示す、デジタル表示デバイスとを含む。
【0004】
いくつかの調律器は、典型的には440Hzの固定基準周波数で較正される。しかし、調律器の中には、例えば建物やコンサートホールの共鳴特性など特定の音響条件に楽器の音を適合させるために、440Hz前後の周波数で調節されるものもある。
【0005】
持ち運び可能な電子半音階調律器の1つの欠点は、比較的大型であることが多く、また、音楽家が忘れたり紛失したりしやすいことである。さらに、デジタル表示で提供される情報は、較正操作中にも実際の調律中にも、特に音高および調節の正確さに関して直観的に読み取ることはできない。したがって、従来技術の限界を克服する半音階調律器が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、音楽家が通常利用できる持ち運び可能な機器に一体化された半音階調律器を提案することである。
【0007】
本発明の別の目的は、調律中に受け取る周波数の読取り、および較正周波数の調節をより簡単に行えるようにする半音階調律器を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
これらの目的は、本発明によれば、以下に記載するデバイスに関する独立請求項の特徴を備える持ち運び可能な計時器によって達成される。
【0009】
また、これらの目的は、本発明によれば、本発明による持ち運び可能な計時器を使用した半音階調律器表示方法によって達成される。
【0010】
提案される解決策の1つの利点は、それにより半音階調律器を時計に一体化することができるようになることであり、これは、調律器を必要とする音楽家が機器を別途必要としないことを意味し、この調律ツールを含む時計を着用していれば調律ツールをほぼいつでも使うことができる。
【0011】
提案される解決策の別の利点は、調律器が一体化されている時計の針によって調律結果をより簡単に読み取ることができることである。
【0012】
本発明の例示的実装形態を以下の説明で提示し、添付図面に図示する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明による半音階調律器の電子モジュールのブロック図である。
【図2】本発明の半音階調律器による音高の検出およびそれらの正確さを示すブロック図である。
【図3】本発明の1つの好ましい変形形態による一体型の半音階調律器を備える時計を示す図である。
【図4】本発明の別の好ましい実施形態による一体型の半音階調律器を備える時計の文字盤を示す図である。
【図5】本発明の別の変形形態による表示デバイスを備える一体型の半音階調律器を備える時計を示す図である。
【図6】基準周波数を較正することができる、本発明の別の変形形態による一体型の半音階調律器を備える時計を示す図である。
【図7a−7d】平均律音階の音高を表示するための様々な変形形態を示す図である。
【図8】検出された音高の正確さを表示するための変形形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、通常は現在の時間を指し示すために専ら用いられる時計の1つまたは複数の針を使用する一体型の半音階調律器を備える持ち運び可能な計時器、典型的には腕時計(しかし例えばペンダント、懐中時計、または任意の他の持ち運び可能な時間表示デバイスでもよい)に関する。したがって、この計時器は、通常の時間表示モードとは異なる調律モードを必然的に含み、調律モードにおいて、針の少なくとも1つは、時間表示の目的では使用されなくなる。
【0015】
この調律器は、調律すべき楽器から発せられた音響周波数の値を計算するための電子モジュールを含み、この周波数値と、音階、例えば平均律音階の音高(ド、ド♯、レ、レ♯、ミ、ファ、ファ♯、ソ、ソ♯、ラ、ラ♯、シ(基準周波数はラ音での440Hzである))に対するその周波数の正確さとが計時器に表示される。本発明の好ましい実施形態による表示デバイスについて本明細書で以下に見るように、平均律音階に関する英語での表記体系では、「ラ」が「A」、「シ」が「B」、「ド」が「C」、「レ」が「D」、「ミ」が「E」、「ファ」が「F」、「ソ」が「G」である。本発明による一体型調律器を任意の種類の音階(自然音階、ピタゴラス音階)および任意のトニックシステムに適合させることも考えられることが、当業者には理解されよう。
【0016】
図1に、本発明の好ましい一変形形態で使用される電子デバイス100の論理演算素子を示す。この変形形態によれば、電子デバイス100は、まず音響信号センサ101、すなわちマイクロフォンを含み、したがってこの音響信号センサ101が外部環境からの音響波を拾う。次いで、受信された電気音響信号10が信号処理手段102に伝送され、信号処理手段102が、マイクロフォンからの電気音響信号10をパルス列108に変換する。パルス列108の状態変化は、マイクロフォンからの電気音響信号10の符号の変化によって引き起こされる。したがって、アナログ信号である電気音響信号10とは異なり、パルス列108は2値信号である。
【0017】
信号処理手段102はフィルタ1021を含み、フィルタ1021は、規定の信号帯域幅外の周波数成分をカットする。次いで、信号10は、増幅器1022および比較器1023(例えばシュミット(Schmitt)トリガヒステリシス比較器)に伝送される。
【0018】
パルス列108は、マイクロコントローラ103の入出力インターフェースの1つに伝送される。便宜上、入出力インターフェースをまとめて参照番号115で表す。マイクロコントローラ103は、信号処理手段102に供給電流106を送るための少なくとも1つの出力と、電池107と、水晶振動子104、典型的には定期的な抑制補正によって振動数が温度補償された32KHz振動子とを有する。また、マイクロコントローラ103は、RC振動子105、好ましくは4MHz振動子を組み込み、これは、主に調律機能の作動中、大量の計算または迅速な測定を行わなければならないときに、マイクロコントローラ103の処理装置113のクロックをより速い周波数に切り替えることができるようにする。
【0019】
図1に示されるように、電子デバイス100はユーザインターフェース手段112も含み、ユーザインターフェース手段112は、特に図3および図4に示される本発明の好ましい代替形態によれば例えば押しボタン(これらの図に参照番号16、17、18で表される)からなる。しかし、このユーザインターフェース手段112は、竜頭(例えば図5〜図7に参照番号9で表される)、または触知性クリスタル(tactile crystal)からなっていてもよい。ただし、触知性クリスタルを用いる変形形態は図示しない。本明細書で以下に見るように、このユーザインターフェース手段112は、特に、モードの変更を要求する、調節を行う、および調節を有効にするためにユーザとの対話を可能にする。インターフェース手段は、マイクロコントローラ103の入出力インターフェース115で対話を行う。
【0020】
図1に示される好ましい実施形態によれば、電子デバイス100は、アナログ表示手段111に関連付けられた少なくとも1つの双方向モータから形成されたモータモジュール114をさらに含む。本発明の様々な実施形態による様々な表示デバイスを例示する図3〜図7において本明細書で以下に見るように、アナログ表示手段111は、受信された信号に関する情報を指し示すための少なくとも1つの独立した針を含み、この針は時針3または分針2である。
【0021】
本発明による一体型の半音階調律器を備える計時器1は、完全にアナログの表示システム、または一部デジタルの表示を備えるハイブリッドシステムを含む。これらの実施形態は、本明細書で以下に説明する図3および図4にそれぞれ例示されている。第1の表示システムによれば、電子デバイス100のモータモジュール114は、計時器1の時針3と分針2に個別に作用し、それぞれ、電気音響信号10に関して識別された音高に関する情報と、前記音高の正確さに関する情報とを提供する。一部デジタルの表示システムでは、針を使用せずに、例えば好ましいデジタル表示手段を成す液晶画面(LCD)上に音高自体がデジタル表示される。このハイブリッド表示を使用する本発明の好ましい実施形態を例示する図4において、デジタル表示手段は参照番号116で示されている。しかし、このデジタル表示手段116は、識別された音高に対する正確さなど他の情報を提供することもでき、この情報は、より直観的に読み取れるように、時計文字盤4上にある1つまたは複数の針によって裏付けることもできる。
【0022】
図2に、本発明の半音階調律器の好ましい変形形態による、音高およびその正確さを識別するプロセス20を例示する。
【0023】
この好ましい実施形態によれば、最初にステップ201でRC振動子105を較正する。なぜなら、RC振動子105の周波数は、供給電圧および温度に応じて経時変化するからである。較正は、温度補償されたベースクロック104から導出される信号の周期によって設定される時間窓内でRC振動子105のクロックパルスの数を数えるプロセスである。音響信号測定周波数の安定性を保証するために、例えば3秒および33秒で較正を定期的に行う。振動子の較正により、音高識別プロセス中の設定周波数のずれを補償するための補正係数25が得られる。
【0024】
ステップ202は、マイクロコントローラ103(図2には図示せず)が、電気音響信号処理手段102の出力で得られた2値信号108を測定するプロセスを行うステップであり、これは、前記信号102の各立ち上がりエッジ間の時間を計測し、信号の各周期22をデータメモリ109に連続的に記憶することによって行われる。マイクロコントローラによって取得された周期が列231を成し、次いでステップ2031で、この列231を、例えば列231の最大値によって始めに定義されたしきい値と比較する。しきい値よりも高い値を有するサンプルのインデックスが、縮減された列232を成し、その間で、ステップ2032で各要素間の時間間隔を計算する。これらの時間間隔が列233を成し、ステップ2033で、この列233を昇順に並べ替えて列234を形成する。
【0025】
次いで、列234の要素間の周期関係を見つけ出すことによって、電気音響信号10の基本周期を識別するステップ204を行う。このプロセスは、列の最小要素から始め、次いで列を昇順に進んで、この要素の倍数を見つけ出す。列の各要素を、最小要素の値に達するまで、小さい整数から順に整数で除算する。列の1要素がこの最小要素の倍数に近くなるとすぐに、この要素を基本信号周期とみなす。しかし、倍数が見つからない場合には、列内で周期関係が見つかるまで列の次の要素に対してプロセスを繰り返す。ステップ2041は、基本周期が実際に見つかったかどうかチェックするステップである。見つかっている場合、結果24に補正係数25を乗算し、測定周期26を得る。見つかっていない場合、ステップ2034で、ステップ2031で使用されたしきい値を最初のしきい値の半値と比較し、次いでステップ2035で、所定の値、例えば10だけ減分し、基本周波数を抽出するプロセス203を再度繰り返す際に使用すべき新たなしきい値を決定する。したがって、新たなしきい値を用いて、前述のステップを2031からすべて繰り返す。ステップ2034後に、しきい値が最初のしきい値の半値未満である場合、ステップ206で基本周波数識別プロセス203は終了し、ここで周波数は識別されていない。したがって、ステップ206では、基本周波数抽出プロセス203は不成功である。
【0026】
プロセス203によって、識別された信号周期24を出力し、補正係数25を乗算すること(図2には、丸で囲んだ乗算記号によってこの乗算ステップを表す)によって補正を行った後、ステップ207で、測定周期26を、メモリ109に保存されている音高に対応する周期値と比較する。この音高の値のテーブル21から、比較によって、最も近い音高11を離散的に求めることができる。好ましい一変形形態によれば、表示される結果は、音高に対応する周期のテーブル21に保存されている周期の1つに対応しなければならないので、音響信号周波数分析の結果の少なくとも一部は離散的に表示される。しかし、本発明によれば、図5に示される実施形態を基にして分かるように、例えば音階6に対する分針2によって、前記受信された電気音響信号10の本来の周波数19を連続的に指し示すこともできる。
【0027】
最も近い音高11が識別された後、前記音高に対する識別された周期の正確さをさらに求めなければならない。このステップ205は、音高11と受信された信号10との相対周波数差12を求めるステップであり、この相対周波数差12は、好ましくは以下のようにして計算することができる。
【0028】
・音響信号周波数が最も近い音高11の周波数よりも低い場合、周波数差12は、音高11の周波数から、測定周期26に対応する周波数、すなわち測定周期26の逆数(定義により周波数は周期の逆数である)を引いた値であり、その値全体を、音高11とそのすぐ下の音高、すなわち平均律音階で半音低い音高との周波数差で除算する。次いで、その値全体に100を乗算してパーセンテージを得る。図2の図を単純にかつ見やすくするために、信号19の本来の周波数、したがって測定周期26の逆数は示していない。
【0029】
・同じことが、音響信号周波数が最も近い音高11の周波数よりも高いときにも当てはまる。この場合には、周波数差12を、音響信号周波数と最も近い音高との差として測定し、その値全体を、すぐ上の音高、すなわち平均律音階で半音上の音高と、最も近い音高11との周波数差で除算する。
【0030】
平均律音階に関して、区別できる異なる音高の差は常に半音であるので、音高の正確さのこの計算により、半音1つ分の周波数差に対する精度が示されることを当業者は理解されよう。したがって、これは1/4音下から1/4音上までの範囲である。この精度は、好ましくは−50〜+50%の間のパーセンテージによって示される。
【0031】
図3は、一体型の半音階調律器のマイクロフォンによって受信された電気音響信号10のデータを表示するための純粋にアナログの手段を設けられた、本発明による計時器1の好ましい一実施形態を示す。ここでは、計時器は、分針2と時針3を設けられた腕時計であり、これらの針が、上述して図1に示したアナログ表示手段111を成す。また、この時計は、ベゼル5と文字盤4を設けられ、文字盤4の縁部に、平均律音階の12音を成す半音A♭、A、B♭、B、C、D♭、D、E♭、E、F、G♭、およびGからなる音階6が表記されている。この変形形態で選択される表示方式はフラット方式であるが、すべての音高をシャープ方式(♯)で表示することも考えられ、その場合には、音階6は、G♯、A、A♯、B、C、C♯、D、D♯、E、F、F♯、Gとなる。音階6がブランクインジケータ61を含むことが見られ、このインジケータ61は、音高を識別することができなかったことを示す。すなわち、このインジケータ61は、図2に示されるステップ206が行われたときに使用される。また、インジケータ61は、文字盤4またはベゼル5上で、音階6が表記されている場所とは別個の場所に配置してもよい。
【0032】
図3に示される実施形態によれば、音階6は、分針2に対して、文字盤4の周縁部で文字盤の下半分(3時の位置から9時の位置)に表記されていることに留意されたい。最も近い音高11を決定するためにより大きな針2を使用することにより、結果を迅速にかつ直観的に読み取ることができるようになり、一方、ここで時針3は、音高と受信された電気音響信号10との周波数差12を示すために使用される。表示デバイスは、音高の正確さのインジケータ7を含み、このインジケータ7はここでは目盛りによって成され、時計が調律モードのとき、この目盛りに対して時針3が配置される。インジケータは、最も近い音高11よりも1/4音下から1/4音上の範囲内の音を表示し、目盛りに対して移動する時針3とサイズが適合されていることにより、正確さを直観的に読み取ることができるようにする。目盛りは、好ましくは時計文字盤の上半分、すなわち9時の位置から3時の位置まで広がり、この情報が音高のピッチに関する情報に重ならないようにする。したがって、最も近い音高11のピッチに関する情報と音高の正確さに関する情報とは完全に別々になっている。
【0033】
時針を用いた正確さの表示は、好ましくは円弧状に構成され、その角度値は好ましくは180度よりもわずかに小さく、好ましくは図3に示されるように約120度であることに留意されたい。さらに、約50%の最大偏差パーセンテージ値が、インジケータ7を構成する目盛りによって成される円弧に示される。また、正しい音高を表す緑色から変化していくカラースケールの形態でインジケータ7を形成することもできる。このスケールの縁部は赤色であり、音が正しくないことを示す。また、このグラデーションカラーインジケータを、眉毛のように一端が細く他端が太い円弧の形状にすることもできる。この場合、好ましくは、尖った端部が低すぎた音を示し、眉毛の太い端部が高すぎた音を示す。
【0034】
音高の正確さを容易に読み取れるようにするために、図3の実施形態は、最も近い音高11の周波数に対する目標区域8も示す。例えば、正確さを直観的に示すために異なる色(例えば緑色)の非常に太いスケールによって示されるこの目標区域8は、好ましくは文字盤4に対して中央にあり、所望の音高に十分に近い値、例えば3%未満の範囲内に音響信号周波数があり、追加の調律が必要ないことを示す。この目標区域は、音高正確さインジケータ7の目盛りの中央にあることが好ましいが、目盛りによって形成される円弧の外にあってもよい。
【0035】
また、図3の実施形態は3つの押しボタンも示す。図6を参照して詳細に見られるように、第1の押しボタン16は、例えば較正値14などの値を増分するために使用され、第2の押しボタンは、値を減分するために使用される。図3に示される最後の押しボタン18は、好ましくはモードを変更するため、特に調律モードに移行するために使用され、誤って較正モードが開始されるのを防止するために、例えば2秒以上押し続けると調律モードがアクティブになるようにすることができる。これは、一方では、調律モードが針を使用し、したがって同時に時間を指し示すことができなくなるからである。他方では、調律モードは、マイクロフォンに通電しなければならず、またマイクロコントローラ103が多数の計算を実施しなければならず、ベースクロックまたは中央処理装置(CPU)104を酷使するので、大きなエネルギーを使用するからである。また、好ましくは、このボタンは、例えば較正の際に維持される値などの調節を有効にするために使用することもできる。時計文字盤4の12時の位置で分針と時針を互いに重ねて位置させることによって、調律モードへの移行を有効にすることが考えられる。
【0036】
図4は、本発明による計時器1の文字盤を示し、この計時器1は、例えばハイブリッド表示手段、すなわちデジタル表示とアナログ表示の両方を備えた腕時計である。この実施形態によれば、アナログ表示手段111はやはり時針3と分針2によって形成されるが、このとき、アナログ手段111は、音高の正確さ、すなわち最も近い音高に対する周波数差12を単純に示すためには使用されず、最も近い音高11のピッチは、デジタル表示手段116を成すLCD画面上にデジタル表示される。図4では、このデジタル表示手段116は、音高E♭が識別されたことを示す。針2と3は重なり合って、文字盤4の上半分に設けられたインジケータ7の目盛り上で値−44%を指す。図3のアナログ実施形態と同様に、目標区域8がインジケータの目盛りの中央に位置される。デジタル表示手段116は、ここでは、示されている音高11の左に、正確さのデータを冗長的に表示する。したがって、LCD画面は、前述した完全にアナログの変形形態の音階6の代わりとなるだけでなく、それと同時に、信号センサ101によって受信された電気音響信号10に関する追加または冗長データも示す。
【0037】
図示しない一変形形態によれば、通常のA音の周波数である440Hz以外の周波数に基準周波数を調節することができるときには、デジタル表示手段116によって示される追加のデータはピッチ、すなわち音高の周波数測定に際して使用される基準周波数でよい。好ましくは、この手段は、調律モードにおいて最も近い音高11の正確さを示すために針2と3が使用されるときには、前記針よりも下方で文字盤4の下側部分に配置される。
【0038】
図5は、図3と同様の実施形態を示し、すなわち表示は完全にアナログであり、分針2と時針3からなる手段111によって行われる。しかし、この実施形態によれば、本来の音響信号周波数19が、分針2によって音階に対して連続的に指し示され、音高識別プロセス20中に最も近い音高11を求めるために比較は行われない。したがって、この針2は、文字盤の縁部の音階6で示される離散的な音高の値だけでなく、任意の値を指すことができる。この変形形態によれば、時針3は、分針2のある種の「拡大」であり、これについて離散的な値は特定されない。したがって、一方では、分針が、最も近い音高11に関するデータに加えて正確さのデータを既に本来的に含むので、読取りがより直観的なものとなる。他方では、値を離散的なものにする必要がなくなるので、音高識別プロセスにおいて処理ステップが省かれる。インジケータ7、目標区域8、および音階は、図3の変形形態と同一の形態で文字盤上に配置される。しかし、目盛り7と音階の位置を逆にすることもでき、あるいは、文字盤のより大きな角度部分、例えば270度以上、またはさらには文字盤全体に音階6を広げることもできる。それにより、より大きな角度部分が各半音の表示に利用可能になるため、信号10の周波数値に関する最初の本来のデータをより明瞭にすぐに読み取ることができるようになる。様々なボタン16、17、および18、ならびにそれらの機能は、図3に示されるものとあらゆる点で同一であるので、この図に関しては説明しない。
【0039】
信号10の本来の周波数19を表示するためのより基本的な変形形態では、検出された周波数の表示中に時針3と分針2を重ねることができ、両方の針が、音階6上で読み取られる値を指す。しかし、この変形形態では、使用者が、それ以外のいかなるインジケータ7も使用せずに正確さを把握することが必要となる。
【0040】
図6は、本発明の別の実施形態を示し、この実施形態では、文字盤上ではなくベゼル5上に表記された音階6での各音高11の角度位置が、時間の角度位置に一致する。1オクターブの角度分布は360度であり、すなわち半音当たり30度である。したがって、この変形形態は、図1〜図4に示される実施形態による最も近い音高11の表示に使用することができるだけでなく、各半音に関する角度空間が大きければ、有利には図5の連続表示方法にも使用することができる。さらに、音階の各音高と時間との表示が一致しているので、時間に関する情報を音高に置き換えることができるようになり、したがって通常モードでの読取りの直観的な性質が失われず、しかも調律モードのために文字盤上に追加のデータを何も示す必要がない。この変形形態によれば、ボタンの代わりに、調節およびモード変更を行うための竜頭9が使用されていることに留意されたい。
【0041】
図6の変形形態と他の例示的実施形態との重要な相違点は、分針2(これはさらに時針3に重ね合わされることもある)が較正値14を指し示すことができることである。この較正値14は、例えば音響的文脈(acoustic context)に従った使用者の嗜好および所望の音響効果に応じて、好ましくは435〜445Hzの範囲を取ることがある。基準周波数13は、公称値である440Hzのデフォルト設定で較正され、好ましくは1Hz刻みで上下に調節することができる。しかし、竜頭9は、較正値14の連続的な調節を可能にすることもできる。較正値14に対するこれらの操作は、電気音響信号10の本来の周波数19の計算に影響を及ぼす。
【0042】
較正値は、針2または3の一方、好ましくは分針2に対して、好ましくは文字盤の下半分に配置された較正値スケール15上で指し示され、前述した変形形態と同様に、音高正確さインジケータ7に利用できるスペースを残しておく。
【0043】
図6の変形形態では、較正値4を調節するために竜頭9を使用するが、図3と同様に押しボタン16および17を使用して較正値14を増分または減分させることも考えられる。
【0044】
図7a〜図7dに示される変形形態は、本発明による他の可能な変形形態であり、これらはすべて共通して、時計ベゼル5上に音階が表記され、竜頭9が使用される。さらに、これらの変形形態はすべて、前述した変形形態とは異なり、音高の正確さを指し示すために分針2を使用し、時針は使用しない。分針2は、文字盤の上半分にある円弧の目盛りによって成されるインジケータ7に対して周波数差12を示し、この目盛りは、好ましくは12時の位置にその中心を取り、好ましくは120〜180度の間の角度にわたって広がる。
【0045】
変形形態7aは、図6に示されるものと同じ音階6を採用し、この音階6は、ベゼル5の全周にわたってフラット方式とシャープ方式を混在させて音高を表す。これは、図3の実施形態と同様に完全にアナログの表示モードである。同様に、図7bも、表示が完全にアナログである実施形態に関するものであり、分針2と時針3はどちらも図7aと同じ機能を有するが、音階6での音高表示方式は、フラット方式とシャープ方式の両方を単純に合わせており、すなわち、すべての音高について、選択が可能であるときには下の音高のシャープとしての表記と上の音高のフラットとしての表記がどちらも記してある。
【0046】
図7cは、ハイブリッド表示モードに関し、このモードは、音響信号に最も近い音高11のためにデジタル表示を使用する。したがって、ここでは再び、ベゼル5は、図7aおよび図7bの変形形態における音高の位置に、代わりに時間の数値を表記することができる。デジタル表示手段116は、好ましくは文字盤の下側部分に配置されたLCD画面である。
【0047】
図7dは、やはりアナログ表示実施形態に関し、この実施形態は、ベゼル上での音高の配置に関して図7aおよび図7bの実施形態とは異なり、音階6が、A♭音(Aフラット)に関する3時と、G音に関する8時半との間でベゼル5の下側部分に配置される。したがって、音高に関連付けられる12の半音が互いに続いてはいるものの、音階6は中央に位置してはおらず、音高識別プロセス20中に周波数を識別することができなかった場合には何も表示しない。
【0048】
図8は、分針2に対する時針3の位置の読取りを使用して音高の正確さを表示し、したがって専用の正確さインジケータ7は必要ない一実施形態を示す。この実施形態によれば、最も近い音高11が分針2によって指し示され、分針2は、ここではベゼル5の全周にわたって分布された音階6での音高を指す。このとき、音高の正確さは時針3によって指し示され、時針3は、分針2の周りで30度の振れ幅を有する角度域内に位置される。時針3の最大振れは、分針2の両側で15度である。この変形形態によれば、各半音が30度の角度空間を占めるので、この振れは実際には1/4音に対応する。したがって、音高の正確さは、音階6の音高の1つ、ここでは文字盤4上で1時の位置に当たるA音での2つの針2、3の重なりによって確認される。
【0049】
本発明の他の実施形態と比較して、音高の正確さを示すための角度空間が小さいことに鑑みて、特定の形状または特定の色を使用することもできる。例えば、時針3であるか分針2であるかにかかわらず(それぞれの機能を逆にすることができる)、音高を指し示す針と正確さを指し示す針を緑色にすることができ、周波数が合致するときに針が重なり合うと、正確さを示す色(例えば赤色)が、音高を示す色(例えば緑色)によって隠される。形状に関しては、例えば中抜きの針が好ましいことがあり、時針3よりも大きい分針2を中抜きの針にすることが好ましい。このとき、周波数が合致すると、時針3が分針2の中抜き領域71に入る。この変形形態には、正確さのデータの表示が文字盤4を過剰に占有せず、したがって他のタイプのデータのためにスペースを空けておけるという利点がある。しかし、中抜き針は標準の針よりも作製が難しく、機械加工コストがより高いという欠点がある。
【0050】
図8の変形形態は、モードを変更するために竜頭9を備えるものとして示されている。しかし、この変形形態が図3および図5の実施形態による押しボタンを備えることも問題なく考えられることは明らかであろう。
【0051】
より一般には、説明する様々な実施形態は例示として提示したものであり、限定的なものと解釈すべきでは決してない。例えば、本発明の範囲から逸脱することなく、説明した様々な実施形態の特徴を組み合わせる、または当業者に知られている他の特徴を追加することも考えられる。
【符号の説明】
【0052】
1 持ち運び可能な計時器
2 分針
3 時針
4 文字盤
5 ベゼル
6 音階
61 音高が識別されなかったことを示すマーク
7 音高正確さインジケータ
71 中抜き領域
8 目標区域
9 竜頭(図6)
10 受信された電気音響信号
11 受信された音高に最も近い音高
12 周波数差
13 調律器の基準周波数
14 基準周波数較正値
15 較正値のスケール
16 第1の押しボタン
17 第2の押しボタン
18 第3の押しボタン
19 本来の音響信号周波数
100 電子デバイス
101 音響信号センサ
102 電気音響信号処理手段
1021 フィルタ
1022 増幅器
1023 比較器
103 マイクロコントローラ
104 ベースクロック
105 RC振動子
106 供給電流
107 電池
108 2値信号(パルス列)
109 データメモリ
110 プログラムメモリ
111 アナログ表示手段
112 ユーザインターフェース手段
113 処理装置(CPU)
114 モータモジュール
115 マイクロコントローラの入出力インターフェース
116 デジタル表示手段
20 音高識別プロセス
21 音高周期テーブル
22 2値信号周期
231 マイクロコントローラによって取得される周期の第1の列
232 しきい値よりも大きいサンプルの第2の縮減された列
233 最初の2つの列から求められる第3の列
234 第3の列を並べ替えた第4の列
24 識別された周期
25 補正係数
26 測定周期
201 RC振動子(105)の周波数較正
202 2値信号周期108の測定
203 基本周期抽出プロセス
2031 決定されたしきい値との比較
2032 しきい値よりも高いピーク間の時間間隔の計算
2033 列233の要素の並べ替え
2034 しきい値の比較
2035 しきい値の減分
204 基本周期の識別
2041 周期が求められたことの検証
205 音高正確さ計算
206 基本周波数抽出プロセスの不成功
207 測定周期と音高を比較するステップ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分を表示するための針(2)および/または時を表示するための針(3)を少なくとも1つ備えた持ち運び可能な計時器(1)であって、
楽器の半音階調律のための電子ユニット(100)を含み、
前記電子ユニット(100)は、音響信号センサ(101)と、受信された電気音響信号(10)を処理する手段(102)とを含み、
前記針(2、3)の少なくとも1つは、前記受信された信号(10)の周波数に最も近い周波数を有する音高(11)、および前記音高(11)と前記受信された信号(10)の相対周波数差(12)を表示する、持ち運び可能な計時器(1)において、
時計文字盤の上半分にある、前記時針(3)に対して前記音高(11)の正確さを表示するためのインジケータ(7)と、前記文字盤の下半分にある、前記分針(2)に対して配置された音階(6)とを含むことによって、前記最も近い音高(11)のピッチと前記音高の正確さとに関するデータが完全に別々になっていることを特徴とする、計時器(1)。
【請求項2】
前記針(2、3)の少なくとも1つは、前記調律器の基準周波数(13)の較正値(14)も示すことを特徴とする、請求項1に記載の持ち運び可能な計時器(1)。
【請求項3】
前記較正値(14)を増分するための第1の押しボタン(16)と、前記較正値(14)を減分するための第2の押しボタン(17)とをさらに含む、請求項1または2に記載の持ち運び可能な計時器(1)。
【請求項4】
前記針(2、3)の1つに対する較正値スケール(15)をさらに含む、請求項2または3に記載の持ち運び可能な計時器(1)。
【請求項5】
前記インジケータ(7)は、前記最も近い音高(11)の1/4音下から1/4音上の範囲内の音を表示することを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の計時器。
【請求項6】
前記最も近い音高(11)の周波数に対する目標区域(8)をさらに含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の持ち運び可能な計時器(1)。
【請求項7】
前記音階(6)は、前記計時器(1)の文字盤(4)の周縁部またはベゼル(5)に表記される、請求項1から6のいずれか一項に記載の持ち運び可能な計時器(1)。
【請求項8】
モードを変更するためおよび調節を有効にするための第3の押しボタン(18)をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の持ち運び可能な計時器(1)。
【請求項9】
請求項1に記載の持ち運び可能な計時器を使用した、半音階調律器のための表示方法。
【請求項10】
前記受信された電気音響信号(10)の本来の周波数(19)が、音階(6)に対して前記分針(2)によって連続的に示され、かつ前記最も近い音高(11)と前記電気音響信号(10)の前記周波数(19)との周波数差(12)が示されることを特徴とする、請求項9に記載の表示方法。
【請求項11】
前記音高の正確さは、前記分針(2)に対する前記時針(3)の相対位置によって示される、請求項9に記載の表示方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7a】
image rotate

【図7b】
image rotate

【図7c】
image rotate

【図7d】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2013−504096(P2013−504096A)
【公表日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−528308(P2012−528308)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【国際出願番号】PCT/EP2010/062582
【国際公開番号】WO2011/026798
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(591048416)ウーテーアー・エス・アー・マニファクチュール・オロロジェール・スイス (63)
【Fターム(参考)】