説明

一部に透水性を有する裏込め層、及び、その形成方法

【課題】透水性を有する裏込め層を容易に形成する。
【解決手段】
本発明は、地盤Gの内部に構築された覆工体2と地盤Gとの隙間(テールボイド3)に流動状態の裏込め材(U1、U2)を注入して硬化させることで、覆工体2の外周面を覆う状態に形成される裏込め層4であって、透水性裏込め材U1の注入によって周方向における或る部分に形成され、水の通り路を層内部に有する透水部分5と、非透水性裏込め材U2の注入によって周方向における他の部分に形成され、水の通り路を層内部に有さない非透水部分6とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一部に透水性を有する裏込め層、及び、その形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
以前から、覆工体の外周に水流の迂回路を形成するために、セグメントと地盤との間に、硬化後に透水性を発現する裏込め材を充填する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、アルカリ性の硬化材と、アルカリ性の環境で脱水して収縮する吸水性材料と、アルカリ性の環境で反応してガスを発生する膨張剤とが混合された裏込め材が記載されている。この裏込め材を、地盤と覆工体の隙間に充填して硬化させると、透水性を有する裏込め層が覆工体の全周に亘って形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−57876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
覆工体の全周に亘って透水性を有する裏込め層は、透水性を有さない裏込め層よりも、形成のために必要な製作工程が多く、また高価な材料を使用する必要もある。このため、コスト高になってしまうという問題がある。
【0005】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、透水性を有する裏込め層を容易に形成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため、本発明は、地盤内に構築された覆工体と前記地盤との隙間に流動状態の裏込め材を注入して硬化させることで、前記覆工体の外周面を覆う状態に形成される裏込め層であって、透水性裏込め材の注入によって周方向における或る部分に形成され、水の通り路を層内部に有する透水部分と、非透水性裏込め材の注入によって周方向における他の部分に形成され、前記水の通り路を層内部に有さない非透水部分とを有することを特徴とする。
【0007】
この裏込め層によれば、裏込め層における必要な箇所が透水部分として構成されるので、全体に透水性を備えた裏込め層を形成するよりも、製作工程の合理化が図れる。
【0008】
本発明において、前記透水部分が、硬化状態の硬化材内に形成された複数の空隙同士を連通させることで設けられる場合には、空隙同士を連通させて透水性を付与するので、水の通り路を確実に形成できる。
【0009】
本発明において、前記非透水部分が、前記覆工体の外表面における、前記透水部分よりも上側の部分に形成されている場合には、非透水部分が透水部分よりも上側に形成されているので、地盤内を流下する地下水に対してトンネルの止水性を高めることができる。
【0010】
本発明において、前記透水性裏込め材は、流動状態から時間の経過とともに硬化するアルカリ性の硬化材と、アルカリ性の環境で脱水して収縮する吸水性材料と、アルカリ性の環境で反応してガスを発生する膨張剤とを含み、前記非透水性裏込め材は、流動状態から時間の経過とともに硬化する硬化材を含むことが好ましい。
【0011】
この裏込め層によれば、硬化材がアルカリ性であることを利用して、吸水性材料を脱水させ、かつ、ガスを発生させているので、特別な処理を必要としない。このため、工程を容易化できる。
【0012】
本発明において、前記透水部分は、前記硬化材、前記吸水性材料、及び、前記膨張剤が混合された前記透水性裏込め材を、前記覆工体と前記地盤との隙間に注入することで形成され、前記非透水部分は、前記透水性裏込め材用の硬化材を含む前記非透水性裏込め材を、前記覆工体と前記地盤との隙間に注入することで形成されることが好ましい。
【0013】
この裏込め層によれば、透水性裏込め材用の硬化材が、非透水性裏込め材の硬化材として用いられる。このため、透水性裏込め材と非透水性裏込め材との切り換え作業を容易化できる。
【0014】
また、本発明は、地盤内に構築された覆工体と前記地盤との隙間に、前記覆工体に設けられた注入口を通じて流動状態の裏込め材を注入して硬化させることで、前記覆工体の外周面を覆う状態に裏込め層を形成する裏込め層の形成方法であって、透水性裏込め材と非透水性裏込め材の一方を、前記注入口を通じて前記覆工体と前記地盤との隙間に注入する第1注入作業を行った後、前記透水性裏込め材と前記非透水性裏込め材の他方を、前記注入口を通じて前記覆工体と前記地盤との隙間に注入する第2注入作業を行なうことで、水の通り路を層内部に有する透水部分と前記水の通り路を層内部に有さない非透水部分の一方を、前記覆工体と前記地盤との隙間における周方向の下端を含んだ或る部分に形成し、前記透水部分と前記非透水部分の他方を、前記覆工体と前記地盤との隙間における周方向の上端を含んだ残りの部分に形成することを特徴とする。
【0015】
この形成方法では、注入口が第1注入作業と第2注入作業で共用されているため、注入口の数を抑えることができ、覆工体の構成を簡素化できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、透水性を有する裏込め層を容易に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】透水部分と非透水部分を有する裏込め層を説明する断面図である。
【図2】シールドマシンの構成を説明する断面図である。
【図3】(a)は裏込め材製造部を説明する図である。(b)は裏込め材製造部で用いられるA材、B材、C材の配合を説明する図である。
【図4】透水性裏込め材の注入工程を説明する図である。
【図5】非透水性裏込め材の注入工程を説明する図である。
【図6】裏込め材の注入が完了した状態を説明する図である。
【図7】透水部分を非透水部分よりも上側に設けた実施形態を説明する図である。
【図8】シールドトンネルの長手方向における一部に透水部分と非透水部分を有する裏込め層を形成した実施形態を説明する図である。
【図9】透水部分と非透水部分を有する裏込め層と非透水部分のみを有する裏込め層とを、シールドリング毎に交互に形成した実施形態を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。図1に示すシールドトンネル1は、覆工体2と、この覆工体2と地盤Gとの隙間であるテールボイド3に形成される裏込め層4とを備えている。裏込め層4は、覆工体2の外周面の全体を覆う状態に形成されており、水の通り路を層内部に有する透水部分5と、水の通り路を層内部に有さない非透水部分6とを有している。
【0019】
この実施形態では、裏込め層4における周方向の一部分を透水部分5とし、残りの部分を非透水部分6としている。すなわち、透水部分5よりも上方に非透水部分6が形成されている。具体的には、時計の文字盤における2時と10時の位置で透水部分5と非透水部分6とが分けられており、覆工体2の外周下端(6時の位置)を通る下側の部分に透水部分5が形成され、外周上端(12時の位置)を通る上側の部分に非透水部分6が形成されている。
【0020】
このシールドトンネル1は、地盤Gにおける透水層Gaの深さに埋設されているが、裏込め層4が透水部分5を有していることにより、図中矢印で示すように、シールドトンネル1よりも上流側の地下水は、透水部分5に沿って反時計回りに流れ、シールドトンネル1の下面側を通って下流側に流入する。このため、構築されたシールドトンネル1によって地下水の流れが堰き止められることはない。
【0021】
このシールドトンネル1では、裏込め層4の周方向における必要な箇所が透水部分5として構成されているので、全体に透水性を備えた従来の裏込め層を形成するよりも、製作工程の合理化が図れる。また、この裏込め層4では、覆工体2の上側部分に透水部分5よりも強度が大きい非透水部分6が形成されているので、従来の透水性裏込め層に比べ、鉛直方向の土圧に対する耐力を高めることができる。さらに、シールドトンネル1の上方から地盤Gの中を浸透してきた地下水(雨水等)に対してトンネルの止水性を高めることができる。このように、非透水部分6を遮水層として機能させることもできる。
【0022】
次に、本実施形態の裏込め層4の形成について説明する。まず、図2を参照して、シールドマシン10について説明する。例示したシールドマシン10は、フード部11と、ガーダ部12と、テール部13とを有する。フード部11は、地中を掘削するためのカッター14が回転可能な状態で取り付けられる部分である。ガーダ部12は、カッター14の駆動装置15、カッター14により掘削された土砂を排出するための排土機構(図示せず)、及びシールドマシン10を前進させるための複数のシールドジャッキ16が内部空間に取り付けられた部分である。テール部13はフード部11と連結された筒状部分であり、内部にはセグメントSGを組み立てるためのエレクター17が設置されている。そして、テール部13よりも後方(図2における左側)には裏込め材製造部20が設けられている。
【0023】
裏込め材製造部20は裏込め材を製造するものであり、本実施形態では図3(a)に示すように、A材製造部21、B材製造部22、及び、C材製造部23を有している。A材製造部21は、A材を製造する部分であり、A材アジテータ21aとA材ポンプ21bとを有している。そして、A材アジテータ21aで混合されたA材をA材ポンプ21bにより、配管を通じて送出する。同様に、B材製造部22は、B材を製造する部分であり、B材タンク22aとB材ポンプ22bとを有しており、C材製造部23は、C材を製造する製造する部分であり、C材アジテータ23aとC材ポンプ23bとを有している。なお、A材製造部21は、坑外に設置してもよい。
【0024】
A材、B材、及び、C材はそれぞれ、裏込め材を構成する材料である。図3(b)に示すように、A材はスラグセメント系モルタルと膨張剤とが混合されたものであり、B材は凝結材が含有されたものであり、C材は吸水性材料が含有されたものである。そして、A材に含まれるスラグセメント系モルタルとB材に含まれる凝結材とが硬化材として機能する。
【0025】
A材は、主材、助材、膨張剤、及び、安定剤を含有している。そして、膨張剤を除く主材、助材、及び、安定剤がスラグセメント系モルタルを構成する。本実施形態では、スラグセメント系モルタルとして、太平洋シールドメカニクス株式会社の製品を用いた。具体的には、主材としてエスハイトを用い、助材として助材−Sを用い、安定剤としてSP−Rを用いた。
【0026】
膨張剤は反応によって膨張する性質を有する。このような膨張剤として、アルカリ性の環境で吸水性を有するアクリル酸供重合体塩やマレイン酸供重合体塩を用いることができる。本実施形態では、太平洋シールドメカニクス株式会社が販売しているFフォーマー(セルテック株式会社製)を用いた。このFフォーマーは、アルカリ性の環境で反応して水素ガスを発生し、それに伴って膨張する性質を有する。
【0027】
A材製造部21では、主材、助材、膨張剤、安定剤、及び、水道水をA材アジテータ21aに投入して混合することでA材を製造し、A材ポンプ21bによって送出する。このようなA材は、アルカリ成分(水酸化カルシウムや生石灰等)を主材に含有していることからアルカリ性を示す。
【0028】
B材に含まれる凝結材は、A材に含まれるスラグセメント系モルタルを短時間で硬化させるものであり、例えば特殊水ガラスが用いられる。本実施形態では、凝結材として、太平洋シールドメカニクス株式会社製のSP−70を用いた。そして、B材製造部22では、B材タンク22aに貯留された特殊水ガラスをB材ポンプ22bによって送出する。
【0029】
C材に含まれる吸水性材料は、高い水分保持性能を有するとともに、反応によって保持した水を放出して収縮する性質を有する。このような吸水性材料として、ポリアクリル酸塩架橋体重合物からなる吸水性ポリマーを用いることができる。この吸水性ポリマーでは、自重の数十倍から数百倍の水を吸収して保持できる一方、アルカリ性の環境では保持していた水分を放出して収縮する。そして、C材製造部23では、吸水性ポリマーと水道水とをC材アジテータ23aに投入し、混合することでC材を製造し、C材ポンプ23bによって送出する。
【0030】
これらのA材、B材、及び、C材は、テールボイド3に注入される直前に混合される。図3(b)に示すように、この裏込め材製造部20では、第1ラインミキサー24と第2ラインミキサー25とが直列に設けられており、第1ラインミキサー24によってA材とC材とが混合され、第2ラインミキサー25によってA材とC材の混合物にB材がさらに混合されて、裏込め材が製造される。
【0031】
ここで、本実施形態では、A材、B材、及び、C材の全てを混合することで、透水部分5を形成するための透水性裏込め材を製造し、A材とB材とを混合することで非透水部分6を形成するための非透水性裏込め材を製造している。
【0032】
すなわち、A材からC材の全てを混合すると、硬化材(A材のスラグセメント系モルタル+B材の凝結材)が、吸水状態の吸水性材料(C材の吸水性ポリマー)を抱き込んだまま硬化する一方、吸水性材料がアルカリ成分によって水を放出して収縮し、硬化材内に空隙が形成される。さらに、膨張剤(A材)がアルカリ成分によって水素ガスを発生して空隙を押し広げ、空隙同士を連通するひび割れが形成される。これらの空隙同士とひび割れとで水の通り路が形成され、透水性を有する透水部分5となる。
【0033】
一方、A材とB材のみを混合すると、膨張剤が水素ガスを発生するが、吸水性材料が存在しないので、この水素ガスによって硬化材が押圧され、硬化材の内部はより充填性が高まる。これにより、水の通り路は形成されず、透水性を有さない非透水部分6となる。
【0034】
従って、透水性裏込め材を製造する際には、A材ポンプ21bとB材ポンプ22bとC材ポンプ23bを動作させる。一方、非透水性裏込め材を製造する際には、C材ポンプ23bを停止させてA材ポンプ21bとB材ポンプ22bを動作させる。このように構成すると、C材ポンプ23bを選択的に動作させることにより、透水性裏込め材の製造と非透水性裏込め材の製造とを容易に切り換えることができる。
【0035】
図2に示すように、裏込め材製造部20で製造された裏込め材(透水性裏込め材,非透水性裏込め材)は、注入用ホース26を通じて送出されてテールボイド3に注入される。すなわち、注入用ホース26の先端を既設のセグメントSGに設けられた注入口2aに装着し、裏込め材製造部20から裏込め材を送出する。これにより、裏込め材は、注入口2aを通ってテールボイド3に注入される。
【0036】
本実施形態では、テールボイド3に注入される直前に各材料(A材〜C材)を混合しているので、硬化材が硬化する時期と、吸水性材料を収縮させる時期と、膨張剤がガスを発生させる時期とを調和させることができる。すなわち、硬化材がある程度硬化した状態で吸水性材料を収縮させることができるので、硬化材の内部に吸水性材料の収縮に伴う空隙を形成することができる。また、空隙が形成された状態で膨張剤による水素ガスを発生させることができるので、硬化材中にひび割れを形成でき、このひび割れによって空隙同士を連通させることができる。
【0037】
次に、裏込め層4の形成手順について説明する。図4に示すように、複数のセグメントSGを接合してリング状の部分(便宜上、セグメントリングSLという)を構築したならば、このセグメントリングSLの外表面と地盤Gとの隙間であるテールボイド3に透水性裏込め材U1を注入する。この場合、2時と10時の位置に設けられた2つの注入口2aに注入用ホース26を取り付け、注入用ホース26の途中に設けられたバルブ26aを開く。そして、A材ポンプ21b、B材ポンプ22b、及び、C材ポンプ23bを動作させることで、A材とB材とC材とが混合された透水性裏込め材U1を製造し、テールボイド3に注入する(第1注入作業)。
【0038】
供給量と供給圧力とをモニターしつつ透水性裏込め材U1の注入を継続し、必要量の透水性裏込め材U1が注入されたならば(例えばテールボイド3における各注入口2aよりも下の範囲が透水性裏込め材U1で満たされたならば)、非透水性裏込め材U2の注入を開始する(第2注入作業)。前述したように、本実施形態の裏込め材製造部20では、C材の供給を停止することによって非透水性裏込め材U2を製造する。これにより、図5に示すように、テールボイド3における各注入口2aよりも上の部分に非透水性裏込め材U2が注入される。
【0039】
図6に示すように、テールボイド3の頂部まで非透水性裏込め材U2で満たされたならば、非透水性裏込め材U2の注入を停止する。すなわち、A材ポンプ21bとB材ポンプ22bを停止させ、注入用ホース26のバルブ26aを閉じる。
【0040】
テールボイド3に注入された透水性裏込め材U1と非透水性裏込め材U2は、時間の経過に伴って硬化し、それぞれ透水部分5と非透水部分6とになる。
【0041】
まず、透水部分5について説明すると、最初に透水性裏込め材U1が含有する硬化材、すなわちA材中のスラグセメント系モルタルとB材中の凝結材とが反応し、C材に含まれる吸水性ポリマーを抱き込んだ状態で硬化する。その後、A材中のアルカリ成分によって、C材中の吸水性ポリマーが水を放出して収縮し、硬化材の内部に空隙が形成される。また、A材中の膨張剤が、A材中のアルカリ成分によって反応し、水素ガスを発生する。この水素ガスは、吸水性ポリマーの収縮で形成された各空隙を押し広げるように作用し、空隙同士の間にひび割れを生じさせる。このひび割れと、ひび割れによって連通された各空隙とが水の通り路を形成し、透水部分5では透水性が発現される。
【0042】
次に、非透水部分6について説明する。非透水性裏込め材U2でも、硬化材(A材中のスラグセメント系モルタル及びB材中の凝結材)が反応して硬化する。ここで、非透水性裏込め材U2にはC材(吸水性材料)が混合されていないため、硬化材内において空隙は形成されない。このため、A材中の膨張剤が反応して水素ガスを発生しても、非透水性部分6には水の通り路は形成されない。その結果、非透水部分6は透水性を有さない。
【0043】
このようにして、或るセグメントリングSLに対応するテールボイド3に裏込め材U1,U2を注入する。セグメントリングSL毎に裏込め材U1,U2を注入するので、先に形成された裏込め層4に打ち継がれて連続性が保たれる。従って、覆工体2における外周面の全体に亘って裏込め層4を確実に形成できる。
【0044】
以上説明したように、本実施形態では、注入口2aから透水性裏込め材U1を注入した後、同じ注入口2aから非透水性裏込め材U2を注入することで、透水部分5と非透水性部分6とを形成している。このように注入口2aが共用されているので、注入口2aの数を抑えることができ、セグメントリングSL(覆工体2)の構成を簡素化することができる。
【0045】
また、本実施形態では、硬化材がアルカリ性であることを利用して、吸水性材料を収縮(脱水)させ、かつ、水素ガスを発生させているので、裏込め層4における透水部分5を形成するに際し、透水性裏込め材U1を注入するだけで足り、加熱や材料の追添加などの特別な処理を必要としない。このため、透水性を有する裏込め層4を容易に形成することができる。そして、空隙同士を連通させて透水性を付与するので、水の通り路を確実に形成できる。
【0046】
また、透水部分5(透水性裏込め材U1)に含まれる膨張剤が水素ガスを発生する場合に、非透水部分6(非透水性裏込め材U2)も硬化が進んでいる。このため、非透水部分6が、透水部分5を上方から抑え込んで水素ガスの逃げ道を塞ぐ。これにより、水素ガスが空隙を押し広げるように作用し易くなり、空隙同士の間に生じるひび割れの数を増やすことができる。前述したように、このひび割れは水の通り路となるので、透水部分5の透水性を高めることができる。
【0047】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。例えば、次のように構成してもよい。
【0048】
前述した裏込め層4は、覆工体2の上部に非透水部分6を形成し、非透水部分6よりも下側に透水部分5を形成したが、この構成に限定されない。例えば、図7に示すように、覆工体2の上部に透水部分5を形成し、透水部分5よりも下側に非透水部分6を形成してもよい。この構成は、非透水層に挟まれた透水層Gaが、シールドトンネル1の頂部に存在する場合に有利である。なお、覆工体2の外周部分におけるどの範囲に透水部分5と非透水部分6を形成するかについては、任意に定めることができる。
【0049】
また、図8に示すように、シールドトンネル1の長手方向における一部に、透水部分5と非透水部分6を有する部分透水性の裏込め層4を形成し、他の部分には非透水性の裏込め層4´を形成するようにしてもよい。この形態は、例えば地盤内の透水層Gaを横断するようにシールドトンネル1を構築した場合において好適に用いられる。さらに、図9に示すように、部分透水性の裏込め層4と非透水性の裏込め層4´とを交互に形成してもよい。
【0050】
また、前述の実施形態では、アルカリ性の硬化材と、アルカリ性の環境で脱水して収縮する吸水性材料と、アルカリ性の環境で反応してガスを発生する膨張剤とを含む透水性裏込め材を例示したが、他の種類の透水性裏込め材を用いてもよい。例えば、生分解されるセルロース系増粘材を有する透水性裏込め材を用いてもよい。また、コンクリートの基材に、ゼラチンやニカワなどのコラーゲンからなる水溶性もしくは熱溶解性を有する溶解性繊維を水で膨潤させたものを加えたものを、透水性裏込め材として用いてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…シールドトンネル,2…覆工体,2a…裏込め材の注入口,3…テールボイド,4…部分透水性の裏込め層,4´…非透水性の裏込め層,5…透水部分,6…非透水部分,10…シールドマシン,11…フード部,12…ガーダ部,13…テール部,14…カッター,15…カッターの駆動装置,16…シールドジャッキ,17…エレクター,20…裏込め材製造部,21…A材製造部,21a…A材アジテータ,21b…A材ポンプ,22…B材製造部,22a…B材タンク,22b…B材ポンプ,23…C材製造部,23a…C材アジテータ,23b…C材ポンプ,24…第1ラインミキサー,25…第2ラインミキサー,26…注入用ホース,26a…バルブ,G…地盤,Ga…透水層,SG…セグメント,SL…セグメントリング,U1…透水性裏込め材,U2…非透水性裏込め材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤内に構築された覆工体と前記地盤との隙間に流動状態の裏込め材を注入して硬化させることで、前記覆工体の外周面を覆う状態に形成される裏込め層であって、
透水性裏込め材の注入によって周方向における或る部分に形成され、水の通り路を層内部に有する透水部分と、
非透水性裏込め材の注入によって周方向における他の部分に形成され、前記水の通り路を層内部に有さない非透水部分とを有することを特徴とする裏込め層。
【請求項2】
前記透水部分は、硬化状態の硬化材内に形成された複数の空隙同士を連通させることで設けられることを特徴とする請求項1に記載の裏込め層。
【請求項3】
前記非透水部分は、前記覆工体の外表面における、前記透水部分よりも上側の部分に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の裏込め層。
【請求項4】
前記透水性裏込め材は、流動状態から時間の経過とともに硬化するアルカリ性の硬化材と、アルカリ性の環境で脱水して収縮する吸水性材料と、アルカリ性の環境で反応してガスを発生する膨張剤とを含み、
前記非透水性裏込め材は、流動状態から時間の経過とともに硬化する硬化材を含むことを特徴とする請求項1から3の何れか1項に記載の裏込め層。
【請求項5】
前記透水部分は、前記硬化材、前記吸水性材料、及び、前記膨張剤が混合された前記透水性裏込め材を、前記覆工体と前記地盤との隙間に注入することで形成され、
前記非透水部分は、前記透水性裏込め材用の硬化材を含む前記非透水性裏込め材を、前記覆工体と前記地盤との隙間に注入することで形成されることを特徴とする請求項4に記載の裏込め層。
【請求項6】
地盤内に構築された覆工体と前記地盤との隙間に、前記覆工体に設けられた注入口を通じて流動状態の裏込め材を注入して硬化させることで、前記覆工体の外周面を覆う状態に裏込め層を形成する裏込め層の形成方法であって、
透水性裏込め材と非透水性裏込め材の一方を、前記注入口を通じて前記覆工体と前記地盤との隙間に注入する第1注入作業を行った後、
前記透水性裏込め材と前記非透水性裏込め材の他方を、前記注入口を通じて前記覆工体と前記地盤との隙間に注入する第2注入作業を行なうことで、
水の通り路を層内部に有する透水部分と前記水の通り路を層内部に有さない非透水部分の一方を、前記覆工体と前記地盤との隙間における周方向の下端を含んだ或る部分に形成し、
前記透水部分と前記非透水部分の他方を、前記覆工体と前記地盤との隙間における周方向の上端を含んだ残りの部分に形成することを特徴とする裏込め層の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−7169(P2013−7169A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138721(P2011−138721)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【出願人】(511153345)太平洋シールドメカニクス株式会社 (1)
【Fターム(参考)】