説明

三塩化ホウ素の製造方法

【課題】 本発明の課題は、三塩化ホウ素を製造するに当り、炭化ホウ素の比表面積と炭化ホウ素当りの塩素量の調整することによって、安定して高い生産速度を確保できる工業的に好適な三塩化ホウ素の製造方法を提供することにある。
【解決手段】 本発明の課題は、炭化ホウ素と塩素とを反応させて三塩化ホウ素を製造する方法において、炭化ホウ素の比表面積X(g/m2)と炭化ホウ素1kg当りの塩素量Y(L/(kg*min.))との積(X×Y)を0.06〜0.6g/m2にすることを特徴とする三塩化ホウ素の製造方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ホウ素と塩素とを反応させて三塩化ホウ素を製造する方法に関する。三塩化ホウ素は、半導体製造工程におけるエッチングガスとして有用な化合物である。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化ホウ素と塩素とを反応させて三塩化ホウ素を製造する方法としては、例えば、炭化ホウ素と塩素ガスを高温で反応させる方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法では、炭化ホウ素と塩素とを反応させる際の詳細な検討については不十分であり、安定して高い生産速度を確保できる工業的に好適な製造方法は未達であった。
【特許文献1】独国特許公開第2304104号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、上記問題点に鑑み、三塩化ホウ素を製造するに当り、炭化ホウ素の比表面積と炭化ホウ素当りの塩素量の調整することによって、安定して高い生産速度を確保できる工業的に好適な三塩化ホウ素の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の課題は、炭化ホウ素と塩素とを反応させて三塩化ホウ素を製造する方法において、炭化ホウ素の比表面積X(g/m2)と炭化ホウ素1kg当りの塩素量Y(L/(kg*min.))との積(X×Y)を0.06〜0.6にすることを特徴とする三塩化ホウ素の製造方法によって解決される。
【発明の効果】
【0005】
本発明により、安定して高い生産速度を確保できる工業的に好適な三塩化ホウ素の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明では、炭化ホウ素と塩素とを反応させて三塩化ホウ素を製造する方法において、炭化ホウ素の比表面積X(g/m2)と炭化ホウ素1kg当りの塩素量Y(L/(kg*min.))との積(X×Y)を0.06〜0.6にすることによって、安定して高い速度で三塩化ホウ素が製造できる。なお、0.06より小さければ十分な生産速度が確保できず、0.6よりも大きければ激しい発熱が起こり反応を制御できない可能性がある。又、0.6以上では発熱反応による発熱で反応制御が困難になり、反応容器等の破壊の危険性が増大し、又、未反応の塩素量が増大することで精製工程での分離に負担がかかる。
【0007】
本発明において使用する炭化ホウ素は、市販の炭化ホウ素粉末を使用することができるが、その粒径は、好ましくは1〜4mm、更に好ましくは2〜3mmであり、炭化ホウ素の比表面積X(g/m2)は、好ましくは0.0006〜0.0024g/m2、更に好ましくは0.0008〜0.0012g/m2である。なお、粒子径は塩素との接触面積を考慮すれば、一般的に小さい方が望ましいが、1mm未満の粒径のものでは、粉末の製造コストが大きくなり工業的に不利である。これに対し、4mmより大きい粒径のものでは、塩素との接触面積が小さくなり生産速度が低下する。
【0008】
前記比表面積は、下記の計算式によって算出することができる。
【0009】
比表面積(m2/g)=6/(ρ×d)
【0010】
(ρ;粉末の密度(炭化ホウ素;2.52g/cm3)、d;粉末の直径(mm))
【0011】
本発明において使用する塩素ガスは、純塩素ガスが好ましいが、反応性を調節するために、不活性ガス等で50%まで希釈されていても良い。前記炭化ホウ素1kg当りの塩素量Y(L/(kg*min.))は、好ましくは25〜1000L/(kg*min.)、更に好ましくは100〜500L/(kg*min.)である。なお、25L/(kg*min.)未満では極端に生産速度が低下し、1000L/(kg*min.)を超えた場合には温度制御が困難となり、反応容器等の破損が生じる危険性がある。
【0012】
本発明の反応は、炭化ホウ素粉末を反応炉(例えば、石英製等)に加え、塩素ガスを導入しながら加熱して反応させる等の方法によって行われる。その際の反応温度は、好ましくは600〜1200℃、更に好ましくは700〜1000℃であり、反応圧力は特に制限されない。
【実施例】
【0013】
以下に本発明について具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。なお、反応の終点については、炭素ホウ素の重量減少を基に判断した。
【0014】
実施例1(三塩化ホウ素の製造)
比表面積(X)0.0008m2/g(平均直径;約3mm)の炭化ホウ素粉末1kgを石英製の反応炉に加え、800℃まで加熱した後、塩素ガスを塩素量(Y)120L/(kg*min.)で導入した。なお、この時のXとYの積は0.096であった。その結果、70分で反応は終了し、8.5kgの三塩化ホウ素を製造した。この結果、分単位の製造量は0.12kg/min.と高い生産速度であった。
【0015】
比較例1(三塩化ホウ素の製造)
比表面積(X)0.0008m2/g(平均直径;約3mm)の炭化ホウ素粉末1kgを石英製の反応炉に加え、800℃まで加熱した後、塩素ガスを塩素量(Y)60L/(kg*min.)で導入した。なお、この時のXとYの積は0.048であった。その結果、100分で反応は終了し、8.5kgの三塩化ホウ素を製造した。この結果、分単位の製造量は0.085kg/min.と単位時間の生産速度が30%低下した。
【0016】
実施例2〜3、比較例2(三塩化ホウ素の製造)
実施例1において、比表面積(X)、塩素量(Y)、反応時間及び塩素ガス濃度を変えたこと以外は、実施例1と同様に反応を行った。
【0017】
【表1】

【0018】
表1の結果から分かる通り、炭化ホウ素の比表面積X(g/m2)と炭化ホウ素1kg当りの塩素量Y(L/(kg*min.))との積(X×Y)を0.06〜0.6g/m2にすることで、0.1kg/min.以上の高い生産速度を達成することができた。一方、0.06g/m2未満では高い生産速度は得られず、0.6g/m2より大きいと反応菅が破損する等の問題が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明により、安定して高い生産速度を確保できる工業的に好適な三塩化ホウ素の製造方法を提供することができる。三塩化ホウ素は、半導体製造工程におけるエッチングガスとして有用な化合物である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化ホウ素と塩素とを反応させて三塩化ホウ素を製造する方法において、炭化ホウ素の比表面積X(g/m2)と炭化ホウ素1kg当りの塩素量Y(L/(kg*min.))との積(X×Y)を0.06〜0.6g/m2にすることを特徴とする三塩化ホウ素の製造方法。
【請求項2】
炭化ホウ素の比表面積X(g/m2)が0.0006〜0.0024g/m2である請求項1記載の三塩化ホウ素の製造方法。
【請求項3】
炭化ホウ素1kg当りの塩素量Y(L/(kg*min.))が25〜1000L/(kg*min.)である請求項1記載の三塩化ホウ素の製造方法。
【請求項4】
炭化ホウ素の粒径が1〜4mmである請求項1乃至3にいずれか記載の三塩化ホウ素の製造方法。
【請求項5】
反応温度を700〜1000℃とする請求項1乃至4にいずれか記載の三塩化ホウ素の製造方法。

【公開番号】特開2009−227517(P2009−227517A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75213(P2008−75213)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)