説明

三室型電解水生成装置のスケール防止方法及び三室型電解水生成装置

【課題】三室型電解水生成装置において、原水として硬度成分を含むものを使用した場合であっても、陰極などへのスケール付着を防止する。
【解決手段】陽極15を配した陽極室14と、陰極12を配した陰極室11と、陽極室14に対して陰イオン交換膜17によって隔てられ陰極室11に対して陽イオン交換膜16によって隔てられた中間室13と、から構成された三室構造の電解槽1を有する三室型電解水生成装置を使用し、陽極室14及び陰極室11に原水を供給し中間室13に塩類の水溶液を供給しつつ陽極15と陰極12との間に電圧を印加して陽極室14及び陰極室11から電解水を得る際に、電圧を印加しているときの中間室の溶液のpHが酸性になるように制御する。さらに、電解水の生成を停止して電圧の印加を停止する期間を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三室型の電解槽を用いて電解水を生成する技術に関し、特に、電極等にスケールが付着することを防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、臭化ナトリウム(NaBr)、臭化カリウム(KBr)などの塩類(アルカリ金属ハロゲン化物)の水溶液を電解することによって、陰極側からは、例えば、アルカリ金属の水酸化物などを成分とするアルカリ性電解水が得られ、陽極側からは、例えば、次亜塩素酸や塩酸などのハロゲン酸を成分とする酸性電解水が得られる。酸性電解水及びアルカリ性電解水を総称して電解水と呼ぶ。電解水は、例えば、食品工場などにおいて、洗浄、殺菌、脱臭などの各種の用途に使用されている。
【0003】
電解水を生成する装置は、塩類の水溶液を電解する電解装置にほかならない。水または水溶液等を電気分解する電解装置は、一般に、電解槽内において陽極と陰極とを隔膜で隔て配置した隔膜式のものと、隔膜を有さない無隔膜式のものとに分類される。隔膜式の電解装置に用いられる隔膜としては、多孔質セラミックスなどの無機素材あるいはポリエチレンやポリスチレンなどの高分子多孔質膜などよりなる不導電性隔膜と、イオン交換膜等の導電性隔膜とがある。このうちイオン交換膜には、陰イオンを選択的に透過させる陰イオン交換膜と、陽イオンを選択的に透過させる陽イオン交換膜とがあり、陽極室や陰極室に特定のイオン種を移動させ、また両極の電極反応生成物を隔離することにより、電解効率を向上させる効果がある。
【0004】
イオン交換膜を用いる電解装置としては、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜の両方を用いる三室型電解装置が知られている。三室型電解装置は、電解槽を、陰極を備えた陰極室と陽極を備えた陽極室とこれらの電極室の中間に位置する中間室とを備える3室構成とし、陰極室と中間室との隔膜に陽イオン交換膜を使用し、中間室と陽極室との隔膜に陰イオン交換膜を使用したものである。三室型電解装置では、中間室に充填または通液された電解質溶液(塩溶液)から、陰イオンまたは陽イオンを選択的に、それぞれ陽極または陰極に接触させて電極反応を行い、電極反応生成物を未反応物と隔離して取り出すことができる。したがって三室型電解装置は、高効率な電解が可能となるのと同時に、余分な塩類を含まないという特徴を有する。陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を有する三室型電解装置を電解水製造に用いた例として、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載されたものがある。
【0005】
しかしながら、水溶液の電解を行う電解装置では、隔膜の有無に関わらず、水の電気分解によって陰極近傍では水酸化物イオン(OH-)が生成する。その結果、無隔膜式のものでは陰極近傍のpH(水素イオン濃度指数)が、隔膜式のものでは陰極室内が、アルカリ性を示す。このとき、電解の対象となる原水中にカルシウムイオン(Ca2+)やマグネシウムイオン(Mg2+)などの硬度成分が含まれていると、陰極近傍でこれらの硬度成分の炭酸塩や水酸化物等が生成する。硬度成分の炭酸塩や水酸化物は水に対する溶解度が極めて小さいので、それらはスケールとして陰極表面などに付着する。陰極にスケールが付着することにより、電気分解に使用できる有効電極面積が小さくなり、その結果、定電流電解を行っている場合には、有効な電極の面積当たりの通電電流すなわち電流密度が徐々に高くなるため電極間の印加電圧も高くなり、消費電力が増大する。また、高すぎる電流密度は、電極の寿命を低下させる要因ともなる。
【0006】
電解装置におけるスケール付着を防止する方法として、無隔膜式の電解装置や1枚の隔膜しか有しない二室型電解装置では、陽極と陰極との間に印加する電圧に関し、一定時間ごとにその極性を反転させる方法が知られている。極性を反転し本来の陰極に正の電圧を印加して電解を行うことにより、本来の陰極の近傍では水素イオン(H+イオン)が生成して酸性となり、電極に付着しているスケール成分を溶解・剥離させることができる。しかしながら、陰イオン交換膜と陽イオン交換膜とを有する三室型電解装置では、電解槽に設けられているイオン交換膜の配置の関係上、電極に印加する電圧の極性を逆転させた場合に中間室から陽極室及び陰極室へのイオン移動ができなくなるために、スケール溶解に行うのに十分な電解を行わせることができない。そこで特許文献1及び特許文献2に記載されている三室型電解装置では、硬度成分すなわちスケールの原因となる成分を含まない水を電解槽に供給することで、陰極等へのスケール付着を防いでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−212787号公報
【特許文献2】特開2009−050797号公報
【特許文献3】特開2010−133007号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜を有する三室型の電解装置を使用して電解水を生成する三室型電解水生成装置では、電極に印加する電圧の極性を反転させることによりスケールの溶解・剥離を行わせることが難しいため、陰極等へのスケールの付着を防止するためには、カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどのスケール成分(硬度成分)を除去する前処理装置を電解装置の前段に配置する必要があり、装置全体が大がかりとなって、ランニングコスト等も増加する。
【0009】
本発明の目的は、前処理装置等を必要とせず、また、電極間に印加する電圧を反転させることなく、スケールの溶解除去を行うことができる、三室型電解水生成装置におけるスケール防止方法を提供することにある。
【0010】
本発明の別の目的は、前処理装置等を必要とせず、また、電極間に印加する電圧を反転させることなく、スケールの溶解除去を行うことができる、三室型電解水生成装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる実情において、本発明者らは鋭意検討を行った結果、原水として硬度成分を含む水を使用した場合であっても、三室型電解水生成装置の陰極室に生成するスケールを溶解する方法を確立し、これにより、スケールの発生が要因となって起こる電解性能の低下を防止できるようにした。以下、本発明者らが見出したスケール溶解方法について説明する。
【0012】
本発明者ら見出した方法を行うための必要条件は、三室型電解水生成装置における中間室を酸性に制御することである。中間室が酸性であると、電解の停止時(すなわち電解水の非生成時)に中間室と陰極室との水素イオンの濃度差により、陽イオン交換膜を通過して中間室から陰極室への水素イオンの移動が起こる。この現象を利用すると、ある程度の長さの時間にわたって電解水生成を停止することで、陰極室溶液のpHが酸性側にシフトし、陰極室の内部、例えば電極に付着しているスケールを溶解させることが可能になる。このとき、中間室溶液が滞留していると陽イオン交換膜近傍での水素イオン濃度差が小さくなるため、水素イオンの移動速度が遅くなる。したがって、電解停止時(電解水非生成時)であっても中間室溶液を流動させることで、水素イオンの効率の良い移動が可能となり、流動させないときに比べて短時間でのスケール溶解が可能となる。
【0013】
また、電解を停止した時点、すなわち電解水の生成を終了した時点では、陰極室内部にはアルカリ性電解水が残留しており、陰極室内部の溶液のpHはアルカリ性となっている。この状態において水素イオンを陰極室に移動させたとしてもこの水素イオンは当初はアルカリ性電解水の中和のために消費されることとなって、陰極室内部のpHをなかなか酸性側にすることができない。そこで、スケール溶解のために装置を停止した後、原水を陰極室に通水して陰極室内からアルカリ性電解水を排出し、陰極室内のpHをいったん中性にすることで、陰極室内のpHを酸性にするまでの時間が短縮できる。
【0014】
以上のようなスケール溶解方法を確立することにより、本発明者らは本発明を完成するに至った。
【0015】
したがって本発明の三室型電解水生成装置のスケール防止方法は、陽極を配した陽極室と、陰極を配した陰極室と、陽極室に対して陰イオン交換膜によって隔てられ陰極室に対して陽イオン交換膜によって隔てられた中間室と、から構成された三室構造の電解槽を有し、中間室に塩類の水溶液を供給しつつ陽極と陰極との間に電圧を印加して陽極室及び陰極室から電解水を得る三室型電解水生成装置におけるスケール防止方法において、電圧を印加しているときに中間室の溶液のpHが酸性になるように制御し、電解水の生成を停止して電圧の印加を停止する期間を設けることを特徴とする。
【0016】
本発明の三室型電解水生成装置は、陽極を配した陽極室と、陰極を配した陰極室と、塩類の水溶液が供給される中間室と、陽極室と中間室との間の隔膜となる陰イオン交換膜と、陽極室と中間室との間の隔膜となる陰イオン交換膜と、陽極と陰極との間に電圧を印加する直流電源と、陽極室及び陰極室に原水を供給する手段と、を備え、電圧を印加しているときに、塩類を構成する陽イオンの陽イオン交換膜での輸率が塩類を構成する陰イオンの陰イオン交換膜での輸率よりも大きくなって中間室の溶液のpHが酸性になるように、陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜が選択され、電解水の生成を停止して電圧の印加を停止する期間が設けられるように直流電源が制御されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、硬度成分を含んだ水を三室型電解水生成装置の電解槽に供給した場合であっても、スケールの付着を抑制することができて長期に安定した電解水の提供が可能となる。さらに、硬度成分を除去するための軟水器などの前処理装置を必要としないため、装置構成としてもコンパクトな三室型電解水生成装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の一形態の三室型電解水生成装置の構成を示す図である。
【図2】本発明に基づくスケール溶解方法の原理を示す図であって、(a)はナトリウムイオンの輸率と塩化物イオンの輸率が等しい場合を示す図、(b)はナトリウムイオンの方が塩化物イオンよりも輸率が大きい場合を示す図である。
【図3】中間室の水素イオン濃度指数(pH)の時間変化の一例を示すグラフである。
【図4】スケール溶解操作を反復して実施した場合のセル電圧の時間変化の一例を示すグラフである。
【図5】スケール溶解操作を行わなかった場合のセル電圧の時間変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0020】
図1に示す本発明の第1の実施の形態の三室型電解水生成装置は、電解水を生成する三室構造の電解槽1を備えている。電解槽1は、陰極12を配した陰極室11と、中間室13と、陽極15を配した陽極室14と、陰極室11と中間室13の間の隔膜となる陽イオン交換膜16と、中間室13と陽極室14の間の隔膜となる陰イオン交換膜17と、を備えている。ここに示したものでは、電圧利用効率の向上などを目的として、陰極室11内において陽イオン交換膜16に密着するように陰極12を設置し、陽極室14内において陰イオン交換膜17に密着するように陽極15を設置している。電解槽1の外部には、陰極12が負となり陽極15が正となるようにこれらの電極間に電圧を印加する直流電源2が設けられている。
【0021】
中間室13に対しては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウムあるいは臭化カリウムなどの塩類の飽和水溶液すなわち飽和塩水が供給されている。ここでは、塩類はアルカリ金属ハロゲン化物であるものとする。本発明において中間室13に供給される飽和水溶液を構成する塩類のアルカリ金属としてはリチウムイオン(Li+)、ナトリウムイオン(Na+)、カリウムイオン(K+)、ルビジウムイオン(Rb+)及びセシウムイオン(Cs+)のうちの1種または2種以上が挙げられ、ハロゲンとしては、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)及びヨウ化物イオン(I-)のうちの1種または2種以上が挙げられている。
【0022】
電解水の生成に伴って中間室13内の溶液内の塩類が消費されるから、固形状体の塩類を投入することができてそれを貯える塩溶解槽3が設けられており、ポンプ4によって中間室13と塩溶解槽3との間で飽和塩水が循環供給されるようになっている。ポンプ4による中間室13と塩溶解槽3との間の循環ラインを飽和塩水循環ライン5と呼ぶ。
【0023】
陰極室11及び陽極室15には、硬度成分を含む水が原水として供給される。原水としては、市水の他に例えば井水を用いてもよい。ここに示したものでは、原水として市水が用いられており、市水は、バルブ6を経て、陰極室11及び陽極室15に供給され、さらに、塩溶解槽3にも送られている。陰極室11には、陰極室11からユースポイントにアルカリ性電解水を供給する配管18が取り付けられている。なお、アルカリ性電解水を供給する配管18は、通常、陰極室11内のアルカリ性電解水等を排水する配管としての機能を兼ね備えるが、図示したように、別途、陰極室11内のアルカリ性電解水等を排水するために用いられる配管19を分岐して設けてもよい。この場合、配管18と配管19の間で流路を切り替えるために、配管18及び配管19に、それぞれ補助バルブ8a,8bを設けるか、あるいは、配管18と配管19との分岐点に三方弁を設けるようにする。
【0024】
陽極室15には、陽極室15からユースポイントに酸性電解水を供給するための配管20が取り付けられている。
【0025】
さらに、起動及び停止を含む3室型電解水生成装置の全体の動作制御を行い、ユースポイントへの各電解水の供給を制御する制御装置7が設けられている。制御装置7は、上述したスケール除去方法を実施するために、特に、直流電源2、ポンプ4、バルブ6、補助バルブ8a及び補助バルブ8bを制御する。
【0026】
次に、本実施形態の3室型電解水生成装置の動作について説明する。以下では、説明の簡単のため、中間室13に供給される飽和塩水を構成する塩類が塩化ナトリウム(食塩)であるとするが、本実施形態において使用できる塩類はこれに限られるものではない。
【0027】
陰極室11及び陽極室14に原水である市水を供給し、中間室13には飽和食塩水を供給する。この状態で陰極12及び陽極15の間に直流電圧を印加すると、中間室13の溶液中の陽イオン(この場合、ナトリウムイオン:Na+)は陽イオン交換膜16を通過して陰極室11側に、陰イオン(この場合、塩化物イオン:Cl-)は陰イオン交換膜17を通過して陽極室14側に移動する。その結果、電解水生成に関する公知の反応により、陰極室11からはアルカリ性電解水が得られ、陽極室14からは酸性電解水が得られることになる。ユースポイントに各電解水が供給されると、その分を補うように、バルブ6を経て市水が陰極室11や陽極室14に供給される。
【0028】
この構成では、各イオン交換膜16,17を介して中間室13から陰極室11及び陽極室14に移動するイオンを使用して、電解を効率良く行うことができる。さらに本実施形態では、中間室13内の溶液を制御する。このとき、ナトリウムイオンに対する陽イオン交換膜16の輸率tNaに対して、塩化物イオンに対する陰イオン交換膜17の輸率tClが小さくなるように、陽イオン交換膜16及び陰イオン交換膜17を選択すれば、中間室13内の溶液を酸性にすることができる。輸率とは、下記式で示されるように、通電電流に対してあるイオンが電荷を運ぶ割合を示す数値である。
【0029】
輸率=(対象イオンの移動量[mol]×F)/(通電電流[A]×通電時間[s])
ここでFは、ファラデー定数であり、値として9.65×104C/molである。
【0030】
図2(a)は、tNa=tClである場合における各室のイオン分布を一例を概略的に示しており、図2(b)は、tNa>tClである場合における各室のイオン分布を一例を概略的に示している。図2(a),(b)では、説明のため、各イオン交換膜16,17から離して陰極12及び陽極15を描いている。
【0031】
図2(a)に示すように、ナトリウムイオンと塩化物イオンの輸率が等しい場合、中間室13からは、陰極室11に移動するナトリウムイオンの物質量と陽極室14に移動する塩化物イオン量の物質量は等しく、中間室13内は食塩水で満たされることとなって、そのpHも中性である。これに対し、tNa>tClである場合、すなわち、陰極室11に移動するナトリウムイオン量に対して陽極室14に移動する塩化物イオン量が少ない場合、その足りない電荷分を補うために陰イオン交換膜17の表面で水(H2O)の水素イオン(H+)と水酸化物イオン(OH-)への分解が起こり、生成した水酸化物イオンが電荷を運ぶ役割を果たすために陰イオン交換膜17内を移動する。その結果、この生成した水酸化物イオンは陽極室14へ移動し、水素イオンは中間室13側に移動するため、中間室13内での水素イオン濃度が上昇して、中間室13内のpHを酸性に制御することができる。飽和塩水循環ライン5を介し中間室13には飽和塩水が循環しているので、塩溶解槽3内も含めて飽和塩水循環ライン5内の溶液の全体が酸性となる。スケールを溶解するためには中間室13のpHを3以下に制御することが好ましい。
【0032】
上述したように本発明に基づくスケール溶解方法では、電解水生成を休止する比較的長い期間を設定し、その期間内に中間室13から陰極室11に向けて陽イオン交換膜15を介して中間室13内の水素イオンが陰極室11内に移動するようにする。水素イオンが陰極室11内に移動するにつれて陰極室11内のpHは徐々に低下し、最終的には陰極室11内が酸性となって、陰極12などに付着していたスケールが溶解する。
【0033】
本実施形態の三室型電解水生成装置において、制御装置7には、電解水生成開始と停止とを行うためのスイッチ(不図示)が設けられており、使用者はこのスイッチを操作することで電解水を得ることができる。ただし、制御装置7には、時計機構(不図示)も設けられており、1日(24時間)のうちある一定時間、例えば連続する12時間(一例として午後8時から翌朝午前8時まで)は、スケールを溶解するための期間として予め定められている。このスケールを溶解する期間中では、使用者がスイッチを押しても電解水を得られないようになっている。制御装置7は、スケールを溶解するための期間として電解水の生成を停止しているときであっても、循環用のポンプ4を動作させ続けており、これにより、中間室13には継続的に飽和食塩水が循環・供給されている。
【0034】
スケールを溶解するための期間の長さは、陰極室11の容積、中間室13のpHがどの程度まで酸性に制御されるか、中間室13や塩溶解槽3を含めた飽和塩水循環ライン5の容積などに基づいて、定めることができる。
【0035】
スケール溶解のための期間に入ると、まず、制御装置7は、直流電源2の動作を停止させ、次に、市水のバルブ6及び陰極室11の排水用の補助バルブ8bを開通させ、補助バルブ8aを閉として、陰極室11内に市水を通水する。これは、電解水生成直後の陰極室11内は、pH11〜13程度のアルカリ性になっており、この状態で中間室13から水素イオンを移動させたとしても、電解水生成停止後の数時間はその水素イオンが陰極室内の水酸化物イオンとの反応で消費されるため、実質的なスケール溶解時間を十分にとることができないからである。市水はpHがほぼ7の中性であると考えられるから、陰極室11の容積に対して10〜100倍程度の容積の市水を陰極室11に流すことで、予め陰極室内の溶液のpHを中性にし、その後、短時間で陰極室11内のpHを酸性にシフトすることを可能にする。陰極室11内への市水の通水が終了したら、制御装置7はバルブ6及び補助バルブ8bを閉鎖状態とする。その結果、電解槽1内では、中間室13と陰極室11との水素イオンの濃度差により、陽イオン交換膜16を通過して中間室13から陰極室11への水素イオンの移動が起こり、陰極室11内の溶液のpHが酸性側にシフトし、陰極室11の内部、例えば陰極12に付着しているスケールが溶解する。
【0036】
このように本実施形態では、イオンの輸率などを考慮して陽イオン交換膜16及び陰イオン交換膜17を選択し中間室13内の液体が酸性となるようにするとともに、例えば数時間にわたって電解水の製造を停止する期間を定期的あるいは随時に設定することにより電解水の製造を停止する期間内に中間室13から水素イオンが陰極室11に移動して陰極室11内のpHが酸性となって、陰極室11内に付着していたスケールを溶解させることができる。
【0037】
以下、本実施形態の三室型電解水生成装置において好ましく用いられる陰イオン交換膜及び陽イオン交換膜について説明する。
【0038】
本実施形態の三室型電解水生成装置では、電圧利用効率を高めて消費電力量を抑えるために、陰極及び陽極を陽イオン交換膜及び陰イオン交換膜にそれぞれ密着して配設している。この場合、陽極近傍で生成される次亜塩素酸が陰イオン交換膜と接触し、さらに、次亜塩素酸の一部が陰イオン交換膜を通過して中間室側に移動する。そのため、陽イオン交換膜、陰イオン交換膜ともに、耐酸化性のあるフッ素系イオン交換膜を使用する必要がある。このような膜として、陽イオン交換膜については、例えば、デュポン製ナフィオン115,117,324,424や旭硝子製セレミオンCMFがある。
【0039】
本実施形態において使用できる陰イオン交換膜としては、特開2010−133007号公報(特許文献3)の請求項1〜3に記載されている構造の陰イオン交換膜が挙げられる。すなわち、下記一般式(1)
【0040】
【化1】

【0041】
(ただし、Rは炭素数6〜12の環状構造を有するポリアミン化合物から誘導される官能基であって、このポリアミン化合物を構成する窒素原子の一つが4級化して隣接するアルキレン基に化学結合してなる4級アンモニウム基であり、Xは陰イオンであり、nは1〜8の整数である。)で表される構成単位を含む4級アンモニウム基含有架橋重合体とフッ素系重合体とを含有するポリマーブレンドからなる陰イオン交換膜を使用することができる。ここで、環状構造を有するポリアミン化合物としては、例えばトリエチレンジアミン、8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデ−7−エン(通称ジアザビシクロウンデセン)や、ヘキサメチレンテトラミンがある。またこの場合、4級アンモニウム基含有架橋重合体が、少なくとも2つのビニル基を有する架橋性構成単位をさらに含み、4級アンモニウム基含有架橋重合体中における架橋性構成単位の含有割合が0.1〜10質量%であってもよく、さらには、フッ素系重合体が、ポリフッ化ビニリデン、ポリ四フッ化エチレンおよびこれらの混合物から選ばれる1種以上であり、4級アンモニウム基含有架橋重合体とフッ素系重合体の合計量に対するフッ素系重合体の含有割合が20〜80質量%であってもよい。
【0042】
本実施形態において使用可能な陰イオン交換膜としては、さらに、下記一般式(2)
【0043】
【化2】

【0044】
(ただし、R’は炭素数4〜8の環状構造を有するモノアミノ化合物から誘導される官能基であり、Xは陰イオンであり、mは1〜8の整数である。)で表される構造単位を含む3級アミノ基及び/または4級アンモニウム基含有架橋重合体とフッ素系重合体とを含有するポリマーブレンドからなる陰イオン交換膜がある。R’とアルキレン基との結合は、環状構造を有するアミノ化合物中のいずれの部位で結合してもかまわない。たとえば、アミノ化合物中の窒素原子と結合する場合、窒素原子は三級アミノ基であっても四級アンモニウム基であってもよい。一方、アミノ化合物中の炭素原子と結合しても良く、結合部位は特に限定されない。このような環状構造を有するモノアミノ化合物としては、ピペリジン、(4−)ピペコリン、モリホリン、ピロリジン、ピロール、インドールなどがある。
【実施例】
【0045】
次に、上述した三室型電解水生成装置を実際に製作し、電解水を製造した例について説明する。
【0046】
(1)陰イオン交換膜
陰イオン交換膜17として、特開2010−133007(特許文献3)の段落0135に記載された手順によって得られたものを使用した。ただし、陰イオン交換膜17のサイズは縦12cm、横11cmとした。
【0047】
(2)陽イオン交換膜
陽イオン交換膜16として、フッ素系陽イオン交換膜(デュポン製ナフィオンN−115、厚さ127μm)を縦12cm、横11cmに切断したものを使用した。
【0048】
(3)電解水生成装置
上記(1),(2)に示された各イオン交換膜を用いて電解水生成装置を作製した。陽極15としては、チタン基板に酸化イリジウムと白金を被覆したパンチングメタル形状の電極を選定し、陰極12としては、チタン基板に白金を被覆したパンチングメタル形状の電極を使用した。各電極は、有効面積が100cm2で、開口率が47.2%となるように表面に直径3mmの孔を有している。陽極15と陰極12を、それぞれ陰イオン交換膜17と陽イオン交換膜16に密着するように配設して、電解槽1内を仕切ることで3槽式電解槽を作製した。中間室13の容積は50cm3、陽極室15と陰極室11の容積は各々100cm3とした。得られた3槽式電解槽の中間室13には、塩溶解槽3内の電解質溶液を槽の下部から上部へ通液する供給及び排出配管を設けるとともに、陽極室および陰極室には水道水(市水)を槽の下部から上部へ通液する供給及び排出配管を設けた。
【0049】
中間室13には飽和食塩水をポンプ4によって400mL/分で循環通水した。陰極室11及び陽極室14の各々には、硬度100mg−CaCO3/Lの水道水を流速60L/時で通水した。
【0050】
電解水生成装置は、24時間を1サイクルとして連続運転した。24時間のうち、8時間は、電解水を生成する期間であり、ここでは、電解電流を14Aとする定電流電解を行い、電解水を生成した。残りの16時間は、電解水の生成を停止してスケールを溶解させるための期間とした。電解水生成のための8時間の電解動作の終了後、5分間、陰極室11への水道水の通水を行った。電解水生成を停止しているときもポンプ4を動作させ続け、中間室13に飽和食塩水を循環させた。このような電解槽構成と電解条件で電解水生成を行った場合、電解中に陽イオン交換膜16を通過して陰極室11に移動するナトリウムイオンの輸率は0.98、陰イオン交換膜17を通過し陽極室14に移動する塩化物イオンの輸率は0.76であった。
【0051】
このような運転条件で、約550時間運転(このうち電解時間は160時間)を行ったときの中間室溶液pHの経時変化を図3、セル電圧の経時変化を図4に示す。セル電圧とは、陽極15と陰極12の間に印加される電圧のことであり、セル電圧が0であることは、その時には電解水の生成を行っていないことを示している。0でないセル電圧は、そのとき電解水の生成を行っていることを示しており、そのときのセル電圧は定電流電解での電解電圧となる。
【0052】
図3に示すように、中間室13内の溶液のpHを0付近で酸性に保つことができた。図4より、8時間の電解水生成運転時にはスケール付着によって、電解電圧が徐々に上昇しているが、16時間にわたる電解水生成の停止後は、電解電圧が低い状態から再び電解を開始していることから、スケール溶解を行うことができたことが確認できた。したがって、ここで示したような条件で運転を行うことにより、硬度を含む水を電解槽1に供給した場合でもスケールの堆積を防止できて長期間にわたって安定した運転を行えることが分かった。
【比較例】
【0053】
上記の実施例で説明した三室型電解水生成装置を使用し、スケール溶解のために電解水の生成を停止する期間を設けることなく、連続して電解水生成を行った場合のセル電圧の経時変化を調べた。結果を図5に示す。ここでは連続して電解水生成を行っているので、セル電圧の全ての測定値は電解電圧を示している。電解水生成のための運転開始から電解電圧が上昇し、160時間後には初期電圧の2.5倍となった。さらに、得られる電解水の水質が低下した。
【符号の説明】
【0054】
1 電解槽
2 直流電源
3 塩溶解槽
4 ポンプ
5 飽和塩水循環ライン
6 バルブ
7 制御装置
8a,8b 補助バルブ
11 陰極室
12 陰極
13 中間室
14 陽極室
15 陽極
16 陽イオン交換膜
17 陰イオン交換膜
18,19,20 配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極を配した陽極室と、陰極を配した陰極室と、前記陽極室に対して陰イオン交換膜によって隔てられ前記陰極室に対して陽イオン交換膜によって隔てられた中間室と、から構成された三室構造の電解槽を有し、前記陽極室及び前記陰極室に原水を供給し前記中間室に塩類の水溶液を供給しつつ前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加して前記陽極室及び前記陰極室から電解水を得る三室型電解水生成装置におけるスケール防止方法において、
前記電圧を印加しているときに前記中間室の溶液のpHが酸性になるように制御し、
電解水の生成を停止して前記電圧の印加を停止する期間を設けることを特徴とする、スケール防止方法。
【請求項2】
前記塩類を構成する陽イオンの前記陽イオン交換膜での輸率が前記塩類を構成する陰イオンの前記陰イオン交換膜での輸率よりも大きくなるように前記陽イオン交換膜及び前記陰イオン交換膜を選択することにより、前記中間室の溶液のpHが酸性になるように制御する、請求項1に記載のスケール防止方法。
【請求項3】
前記電圧の印加を停止する期間において前記中間室内の溶液を流動させる、請求項1または2に記載のスケール防止方法。
【請求項4】
前記電圧を印加して前記電解水を生成している期間から前記電圧の印加を停止する期間に切り替わった際に、前記陰極室に前記原水を供給して前記陰極室内の溶液のpHを中性にする、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のスケール防止方法。
【請求項5】
前記電圧を印加しているときの前記中間室の溶液のpHを3以下に制御する、請求項1乃至4のいずれか1項に記載のスケール防止方法。
【請求項6】
前記塩類は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムの中から選択された1種以上と塩素、臭素及びヨウ素の中から選択された1種以上との塩である、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のスケール防止方法。
【請求項7】
陽極を配した陽極室と、
陰極を配した陰極室と、
塩類の水溶液が供給される中間室と、
前記陽極室と前記中間室との間の隔膜となる陰イオン交換膜と、
前記陽極室と前記中間室との間の隔膜となる陰イオン交換膜と、
前記陽極と前記陰極との間に電圧を印加する直流電源と、
前記陽極室及び前記陰極室に原水を供給する手段と、
を備え、
前記電圧を印加しているときに、前記塩類を構成する陽イオンの前記陽イオン交換膜での輸率が前記塩類を構成する陰イオンの前記陰イオン交換膜での輸率よりも大きくなって前記中間室の溶液のpHが酸性になるように、前記陽イオン交換膜及び前記陰イオン交換膜が選択され、
電解水の生成を停止して前記電圧の印加を停止する期間が設けられるように前記直流電源が制御されることを特徴とする、三室型電解水生成装置。
【請求項8】
前記電圧の印加を停止する期間において前記中間室内の溶液が流動させられる、請求項7に記載の三室型電解水生成装置。
【請求項9】
前記電圧を印加して前記電解水を生成している期間から前記電圧の印加を停止する期間に切り替わった際に、前記供給する手段は、前記陰極室に前記原水を供給して前記陰極室内の溶液のpHを中性にするように制御される、請求項7または8に記載の三室型電解水生成装置。
【請求項10】
前記電圧を印加しているときの前記中間室の溶液のpHを3以下とするように、前記陽イオン交換膜及び前記陰イオン交換膜が選択される。請求項7乃至9のいずれか1項に記載の三室型電解水生成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−57229(P2012−57229A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−203253(P2010−203253)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000004400)オルガノ株式会社 (606)
【Fターム(参考)】