説明

上皮型ナトリウムチャネル発現抑制剤

【課題】優れた上皮型ナトリウムチャネル発現抑制効果を有する上皮型ナトリウムチャネル発現抑制剤、腎ナトリウム再吸収抑制剤、腎機能改善剤及び高血圧改善剤を提供する。
【解決手段】特定のジガラクトシルジグリセリド、及び/又はフィセチンは優れた上皮型ナトリウムチャネル発現抑制作用を奏し、腎臓へのナトリウムの再吸収を抑制し、腎機能の改善や高血圧症の予防・改善に有用であるので、ジガラクトシルジグリセリド及びフィセチンからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮型ナトリウムチャネル発現抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトの腎皮質集合管(腎遠位尿細管)は、結合尿細管と、皮質・髄質外層・髄質内層集合管とで構成されている。このうち、尿細管腔膜には、α、β、γ、δの各サブユニットからなる上皮型ナトリウムチャネル(epithelial Na+ channel、以下、本明細書において「ENaC」ともいう)が発現している。ENaCの腎臓での生理機能として、腎皮質集合管においてナトリウムを再吸収することにより体内ナトリウム量を緻密に制御することが知られており、体液量、血漿浸透圧、血圧等の調節に非常に重要な役割を有するものである。特に、ENaCは腎皮質集合管細胞内へのナトリウム流入過程を担うものである。
【0003】
一方、鉱質コルチコイドの1種で、副腎皮質球状層で合成・分泌されるアルドステロンは、血液中のナトリウムイオン及びカリウムイオンのバランスを制御する機能を有する。具体的には、アルドステロンは体液喪失により賦活化され、ENaC数を著明に増大させてナトリウムポンプを活性化することにより、ENaCを介して尿細管細胞に取り込まれたナトリウムイオンを基底膜側のナトリウムポンプで汲み出し、腎皮質集合管細胞へのナトリウムの再吸収を亢進し、尿中へのナトリウムの排泄を減少させる。また、ナトリウムの腎皮質集合管細胞内への流入は、尿細管腔側を電気的に陰性へ傾け、カリウムチャンネルを介したカリウムの分泌を促進する。したがって、ENaCの発現が過度に亢進し、腎ナトリウムの再吸収が促進されると、Liddle症候群(高血圧症、低カリウム血症、代謝性アルカローシス)が惹起され、腎機能が悪化する場合がある(例えば、非特許文献1〜2参照)。
ENaCの過剰な発現(機能亢進型変異)による疾患としては、上記高血圧症や腎機能悪化に加えて、過活動膀胱炎、うっ血性心不全、胃粘膜炎症、副鼻腔炎、眼乾燥症(ドライアイ)、遠位腸閉塞、口腔乾燥症、乾皮症、便秘症、喘息(咳)、慢性気管支炎、中耳炎、嚢胞性線維症、食道炎等が知られている(例えば、特許文献1〜3参照)。
したがって、ENaCを介して発症する上記症状の予防・改善に、効果的なENaC発現抑制剤が望まれている。
【0004】
一方、ジガラクトシルジグリセリドは葉緑体膜を構成する主要な糖脂質であり、その生理作用としては、ジガラクトシルジグリセリドを含む糖脂質におけるDNA合成酵素阻害活性や癌細胞増殖抑制活性(例えば、特許文献4参照)、抗アレルギー作用(例えば、特許文献5参照)が知られている。また、フィセチンはフラボノール類の一種であり、その生理作用としては、筋肉の糖取り込み促進作用(例えば、特許文献6参照)、神経変性障害の改善効果(例えば、特許文献7参照)、肥満及びインスリン耐性障害改善効果(例えば、特許文献8参照)等が知られている。また、フィセチンを含むフラボン化合物には利尿効果があり、浮腫の治療に利用できることが知られている(例えば、特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2010−526118号公報
【特許文献2】特表2009−520729号公報
【特許文献3】特表2005−530692号公報
【特許文献4】国際公開第2005/027937号
【特許文献5】特開2003−146884号公報
【特許文献6】特開2011−140457号公報
【特許文献7】特表2008−527002号公報
【特許文献8】特表2007−527418号公報
【特許文献9】特開2003−95940号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】F.R.Perez et al.,Hypertension,vol.53,p.1000-1007,2009
【非特許文献2】T.Nakayama et al.,Am.J.Physiol.Renal.Physiol.,vol.296,p.F317-F327,2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、優れたENaC発現抑制効果を有するENaC発現抑制剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、ジガラクトシルジグリセリド及びフィセチンが、優れたENaC発現抑制作用を奏し、腎臓へのナトリウムの再吸収を抑制し、腎機能の改善や高血圧症の予防・改善に有用であることを見い出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至った。
【0009】
本発明は、下記一般式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする、ENaC発現抑制剤に関する。
【0010】
【化1】

【0011】
(一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ炭素数3〜19のアルキル基又は炭素数15〜21のアルケニル基を表す。)
【0012】
【化2】

【0013】
また、本発明は、前記一般式(1)で表される化合物及び前記式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする、腎ナトリウム再吸収抑制剤に関する。
また、本発明は、前記一般式(1)で表される化合物及び前記式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする、腎機能改善剤に関する。
さらに、本発明は、前記一般式(1)で表される化合物及び前記式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする、高血圧改善剤に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、優れたENaC発現抑制効果を有するENaC発現抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の上皮型ナトリウムチャネル発現抑制剤、腎ナトリウム再吸収抑制剤、腎機能改善剤及び高血圧改善剤は、下記一般式(1)で表される化合物(本明細書において、「ジガラクトシルジグリセリド」ともいう。)及び下記式(2)で表される化合物(3,3,4,7-テトラヒドロキシフラボン、本明細書において、「フィセチン」ともいう。)からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする。
【0016】
【化3】

【0017】
【化4】

【0018】
一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ炭素数3〜19(好ましくは炭素数11〜17、より好ましくは炭素数13〜17、さらに好ましくは炭素数15〜17)のアルキル基(好ましくは直鎖アルキル基)又は炭素数15〜21(好ましくは炭素数15〜19、より好ましくは炭素数15〜19)のアルケニル基(好ましくは直鎖アルケニル基)を表す。
【0019】
前述の通り、ジガラクトシルジグリセリド及びフィセチンは、DNA合成酵素阻害活性、癌細胞増殖抑制活性、抗アレルギー作用、筋肉の糖取り込み促進作用、神経変性障害の改善効果、肥満及びインスリン耐性障害改善効果、利尿効果等を有することが知られている。しかし、これまでに、ジガラクトシルジグリセリド及びフィセチンがENaC発現抑制効果を有することは全く知られておらず、特定のジガラクトシルジグリセリド、及び/又はフィセチンを有効成分とすることで、ENaC発現抑制剤を提供できることを本発明者らが見出した。さらに、ENaCを介して尿細管細胞に取り込まれたナトリウムイオンを基底膜側のナトリウムポンプで汲み出し、腎皮質集合管細胞へのナトリウムの再吸収が行われる。したがって、特定のジガラクトシルジグリセリド、及び/又はフィセチンを有効成分とすることで、腎ナトリウム再吸収抑制剤の提供が可能となる。さらに、ENaCの発現が過度に亢進し、腎ナトリウムの再吸収が促進されると、Liddle症候群(高血圧症、低カリウム血症、代謝性アルカローシス)が惹起され、腎機能が悪化する場合がある。したがって、特定のジガラクトシルジグリセリド、及び/又はフィセチンを有効成分とすることで、腎機能改善剤及び高血圧改善剤の提供が可能となる。
【0020】
一般式(1)で表される化合物(本明細書において、「ジガラクトシルジグリセリド」ともいう)において、R1-C(=O)-O-及びR2-C(=O)-O-は、一般式(1)で表される化合物(糖脂質)を構成する脂肪酸残基を表す。本発明において、前記脂肪酸残基としては特に制限はなく、飽和脂肪酸残基及び不飽和脂肪酸残基のいずれであってもよい。具体例としては、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、ヘキサン酸(カプロン酸)、オクタン酸(カプリル酸)、デカン酸(カプリン酸)、ドデカン酸(ラウリン酸)、テトラデカン酸(ミリスチン酸)、ヘキサデカン酸(パルミチン酸)、オクタデカン酸(ステアリン酸)、オクタデセン酸(オレイン酸)、オクタデカジエン酸(リノール酸)、オクタデカトリエン酸(リノレン酸)、イコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、ドコサヘキサエン酸等の脂肪酸残基が挙げられる。このうち、デカン酸(C10:0)、ドデカン酸(C12:0)、ヘキサデカン酸(C16:0)、オクタデカン酸(C18:0)、オクタデセン酸(C18:1)、オクタデカジエン酸(C18:2)、オクタデカトリン酸(C18:3)、イコサテトラエン酸(C20:4)、エイコサペンタエン酸(C20:5)、エルカ酸(C22:1)、ドコサヘキサエン酸(C22:6)等の脂肪酸残基が好ましく、ヘキサデカン酸、オクタデカン酸、オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリン酸等の脂肪酸残基がより好ましい。また、R1及びR2のうち少なくとも一方がアルケニル基であるのが好ましい。
【0021】
本発明に用いる、前記一般式(1)で表される化合物及び前記式(2)で表される化合物は、広く一般に入手できる。例えば、通常の合成方法により化学的に合成してもよいし、天然物から抽出してもよい。また、市販のものを用いてもよい。
前記一般式(1)で表される化合物を天然物から抽出する場合には、小麦や豆類(ダイズ、アズキ、エンドウ、インゲンマメ及びキントキなど)から抽出することが好ましい。具体的には、マメ(Fabaceae)科ダイズ(Glycine)属のダイズ(Glycine max)、マメ科ササゲ(Vigna)属のアズキ(Vigna angularis)、マメ科エンドウ(Pisum)属のエンドウ(Pisum sativum)、マメ科インゲンマメ(Phaseolus)属のインゲンマメ(Phaseolus vulgaris)等から抽出することができる(Res.Bull.ObihiroUniv.,9,335(1975)等参照)。これらの植物から一般式(1)で表される化合物を抽出する場合の抽出部位に特に制限はなく、植物体の全体又はその一部分(例えば、種子、果実、花、葉、茎、塊茎、根、塊根、球根など)から抽出することができる。好ましい植物の部分の例としては、果実、種子などが挙げられる。
前記式(2)で表される化合物又はその塩を天然物から抽出する場合には、リンゴやいちごから抽出することが好ましい。具体的には、バラ(Rosaceae)科リンゴ(Malus)属のリンゴ(Malus pumila Mill.)、バラ科オランダイチゴ(Fragaria)属のオランダイチゴ(Fragaria L.)等から抽出することができる。これらの植物から式(2)で表される化合物を抽出する場合の抽出部位に特に制限はなく、植物体の全体又はその一部分(例えば、種子、果実、花、葉、茎、塊茎、根、塊根、球根など)から抽出することができる。好ましい植物の部分の例としては、果実、種子などが挙げられる。
【0022】
上記植物から本発明に用いる化合物を抽出する抽出条件としては特に制限はなく、室温(例えば、4〜50℃)又は加温(室温〜溶媒沸点)下にて抽出する、ソックスレー抽出器等の抽出器具を用いて抽出する、等の通常の方法により抽出することができる。得られる化合物又はその塩の形態に特に制限はなく、各種溶剤抽出液、及びその希釈液、濃縮液、ペースト並びに乾燥末等の何れの形態でもよい。
【0023】
本発明に用いる化合物を植物より抽出するために用いられる抽出溶剤としては特に制限はなく、極性溶剤、非極性溶剤のいずれも使用することができる。抽出溶剤の具体例としては、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等の脂肪族カルボン酸エステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状又は環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;スクワラン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;トルエン等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;超臨界二酸化炭素;ピリジン類;油脂、ワックス等その他オイル類等の有機溶剤が挙げられる。これらの抽出溶剤は単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0024】
前記一般式(1)で表される化合物を天然物から抽出する具体的方法について説明する。前記植物を細断した後、水溶性成分をできるだけ除去するために、60℃の温水で洗浄する。次に、濾紙を使用して濾過後、水分を除去し、得られた固形物(残渣)に水、熱水、アルコール(エタノール等)等の溶媒を加え、撹拌しながら60℃で還流抽出を行う。抽出液を濾過し、減圧下で濃縮を行うことで、オイル状の一般式(1)で表される化合物を得ることができる。
前記式(2)で表される化合物を天然物から抽出する具体的方法について説明する。前記式(2)で表される化合物を抽出するための溶媒は、エタノール/水の混合溶液を用いるのが好ましい。溶媒としてエタノールを用いることにより、前記式(2)で表される化合物のようなフラボノイド類を効率的に抽出することができる。また、エタノールを用いることにより、溶媒除去作業を行なうことなく又は溶媒除去作業を簡易に行なうことによって、本発明の上皮型ナトリウムチャネル発現抑制剤、腎ナトリウム再吸収抑制剤、腎機能改善剤及び高血圧改善剤を飲食品に安全に且つ容易に適用することができる。
【0025】
植物抽出物から本発明に用いる化合物を精製するため、クロマトグラフィーや液々分配等の分離技術を用いてもよい。植物組織又はその抽出物(好ましくは有機溶剤抽出物)をクロマトグラフィーに付すのが、本発明に用いる化合物が高純度化される点から好ましい。
【0026】
本発明によれば、ENaCの発現抑制及び/又は腎ナトリウムの再吸収抑制が治療に有効な組織障害又は病態が予防又は改善される。ENaCの過剰発現や腎ナトリウムの再吸収亢進により障害を受ける組織は、生体内の任意の組織であり得、例えば、眼、耳、皮膚、上皮、血液、リンパ、食道、消化管、胃、血管、皮膚、心臓、腎臓、膀胱、小腸、大腸等が挙げられる。組織障害及び病態の例としては、高血圧症、過活動膀胱炎、うっ血性心不全、胃粘膜炎症、副鼻腔炎、眼乾燥症(ドライアイ)、遠位腸閉塞、口腔乾燥症、乾皮症、便秘症、喘息(咳)、慢性気管支炎、中耳炎、嚢胞性線維症、食道炎等が挙げられる(例えば、生体の科学、56巻5号(2005.10)、p.446-447;The Autonomic nervous system,43(4),p.309-314;特開2010−59210号公報;特表2010−502738号公報;国際公開第2003/070184号;特表2009−520700号公報;特開2006−232684号公報等参照)。
【0027】
本発明の上皮型ナトリウムチャネル発現抑制剤、腎ナトリウム再吸収抑制剤、腎機能改善剤及び高血圧改善剤には、前記一般式(1)で表される化合物及び前記式(2)で表される化合物のうちのいずれか1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明の上皮型ナトリウムチャネル発現抑制剤、腎ナトリウム再吸収抑制剤、腎機能改善剤及び高血圧改善剤は、医薬品としてヒト又は動物に投与できる。医薬品として使用する場合は、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤や、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤とすることができる。また、本発明の上皮型ナトリウムチャネル発現抑制剤、腎ナトリウム再吸収抑制剤、腎機能改善剤及び高血圧改善剤は、各種の医薬品や、飲食品、ペットフード等に有効成分として配合することができる。なお、前記飲食品は、一般飲食品の他、ENaCの過剰な発現により発症し、ENaCの発現抑制が治療に有効な症状の予防若しくは改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した美容食品、病者用食品、栄養機能食品又は特定保健用食品等の機能性飲食品の形態とすることができる。
なお、経口用固形製剤を調製する場合は、前記一般式(1)で表される化合物及び前記式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、矯味剤、矯臭剤等とを混合した後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル等を製造することができる。また、経口用液体製剤を調製する場合は、前記一般式(1)で表される化合物及び前記式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物と、矯味剤、緩衝剤、安定化剤等とを混合した後、常法により内服液剤、シロップ剤等を製造することができる。
【0029】
本発明の上皮型ナトリウムチャネル発現抑制剤、腎ナトリウム再吸収抑制剤、腎機能改善剤及び高血圧改善剤中の前記一般式(1)で表される化合物及び前記式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物の配合量は、その使用形態により異なるが、医薬品、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤の場合は、0.0001〜40質量%が好ましく、0.001〜10質量%がより好ましく、0.01〜4質量%がさらに好ましい。飲食品やペットフード等に配合する場合は、0.00002〜20質量%が好ましく、0.0001〜5質量%がより好ましく、0.001〜1質量%がさらに好ましい。
【0030】
本発明の上皮型ナトリウムチャネル発現抑制剤、腎ナトリウム再吸収抑制剤、腎機能改善剤及び高血圧改善剤の投与又は摂取量は、個体の状態、体重、性別、年齢、又はその他の要因に従って変動し得る。成人(体重60kg)の1日当りの投与又は摂取量は、0.01mg〜1gが好ましく、0.1mg〜0.5gがより好ましく、1mg〜0.3gがさらに好ましい。本発明の上皮型ナトリウムチャネル発現抑制剤、腎ナトリウム再吸収抑制剤、腎機能改善剤及び高血圧改善剤は、1日に3回、1日に2回、1日1回、2日に1回、3日に1回、1週間に1回、又は任意の期間及び間隔で投与又は摂取され得る。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0032】
製造例1
和光純薬社よりジガラクトシルジグリセリド(商品番号:59-1210-5)を購入し、濃度が10μg/mLとなるようジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解し、サンプルを調製した。
【0033】
製造例2
関東化学社よりフィセチン(商品番号:11915-1A)を購入し、濃度が10μg/mLとなるようDMSOに溶解し、サンプルを調製した。
【0034】
実施例1 ENaC発現の抑制
培養液として、増殖因子添加培地(D-MEM/Ham’s F-12(1:1、インビトロジェン社製)に10%ウシ胎児血清(FBS、インビトロジェン社製)及び1%ペニシリンストレプトマイシン溶液(インビトロジェン社製)を添加したもの)を用いた。マウス腎皮質集合管細胞(商品名:M-1、DSファーマバイオメディカル社製)を細胞数が1×104cells/wellとなるように24well細胞培養用マルチウェルプレート(平底、ファルコン社製)に播き、前記培養液で3日間培養した。その後、FBSを添加していないD-MEM/Ham’s F-12(FBS(-))で1日培養し、培地交換を行った。
【0035】
前記のように培養し、グルココルチコイドレセプター(GR)を介した経路でシグナル伝達が行われるという報告がされているM-1細胞に、GRに作用し、ミネラロコルチコイドレセプター(MR)に作用するアルドステロンと同様にENaC発現促進作用を有するデキサメタゾン(50nM)、及び製造例1で調製したジガラクトシルジグリセリドのDMSO溶液又は製造例2で調製したフィセチンのDMSO溶液を濃度が10μg/mLとなるように添加し、24時間培養した。また、コントロールとして、DMSOを添加した以外は同様に試験を行った。
【0036】
培養細胞を回収し、RNeasy(登録商標)mini kit(キアゲン社)を用いてtotal RNAを抽出した。さらに、得られたRNAを鋳型として用い、Omniscript(登録商標)Reverse Transcriptase(インビトロジェン社製)(RNase-free water 1.6μL、5×First strant bffer 4μL、0.1M dTT 2μL、10mM sNTP Mix 1μL、0.5μg/μL oligo(dT) 0.4μL、200unit/μL M-MLVRT 1μL)を混合して逆転写反応を行い、cDNAサンプルを合成した。合成したcDNAサンプルを鋳型とし、ENaCのαサブユニット(αENaC)の遺伝子発現量をTaqMan Fast Universal PCR Master Mix(商品名、アプライドバイオシステムズ社製)を用いて解析した(試薬:TaqMan Fast Universal PCR Master Mix、装置:ABIPRISM7500Sequence Detector(商品名、アプライドバイオシステムズ社製))を用いた。αENaC遺伝子の発現量は、内部標準として36B4(ハウスキーピング遺伝子)を用いて補正し、36B4の発現量に対する相対値とした。また、PCRプライマー及びTaqManプローブとして、TaqMan(登録商標)gene expression assays(商品番号:Mm00803386_m1(αENaC)、Mm99999223_gH(36B4))を用いた。得られた解析結果は、平均値±標準偏差を用いて示し、dunnettによりコントロール群に対する有意差検定を行った。
結果を表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
表1の結果から明らかなように、αENaC遺伝子の発現量は、一般式(1)で表される化合物及び式(2)で表される化合物それぞれにより有意に抑制される。
【0039】
上記実施例から明らかなように、一般式(1)で表される化合物及び式(2)で表される化合物は、それぞれαENaC遺伝子の発現抑制作用を奏し、ENaCの発現を抑制する。したがって、一般式(1)で表される化合物及び/又は式(2)で表される化合物を有効成分とするENaC発現抑制剤は、優れたENaC発現抑制効果を有する。さらには、ENaCを介して、腎皮質集合管細胞へのナトリウムの再吸収が行われ、ENaCの発現が過度に亢進し、腎ナトリウムの再吸収が促進されると、高血圧症が惹起され、腎機能が悪化する場合がある。したがって、ENaC発現抑制作用を奏する一般式(1)で表される化合物及び/又は式(2)で表される化合物を有効成分とすることで、腎ナトリウム再吸収抑制剤、腎機能改善剤及び高血圧改善剤の提供が可能となる。
【0040】
(処方例)
前記一般式(1)及び前記式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする腎ナトリウム再吸収抑制剤、腎機能改善剤及び高血圧改善剤として、下記に示す組成の軟カプセル剤、コーヒー飲料、キャンディを常法により各々調製した。
【0041】
1.軟カプセル剤の調製
ゼラチン70質量%、グリセリン22.9質量%、パラオキシ安息香酸メチル0.15質量%、パラオキシ安息香酸プロピル0.51質量%、水6.44質量%の組成からなる軟カプセル剤皮の中に、大豆油400mgとジガラクトシルジグリセリド及び/又はフィセチン50mgを充填し、軟カプセル剤を製造した。
【0042】
2.コーヒー飲料の調製
(成分) (配合:質量%)
ジガラクトシルジグリセリド又はフィセチン 0.00002
コーヒー豆 5.5
牛乳 7.0
砂糖 6.0
香料 適量
水 残分
【0043】
3.キャンディの調製
(成分) (配合:質量%)
ジガラクトシルジグリセリド又はフィセチン 0.002%
ショ糖エステル 0.2
水飴 35
砂糖 35
小麦粉 5
練乳 17
ミルク 6
バター 2
香料 適量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする、上皮型ナトリウムチャネル発現抑制剤。
【化1】

(一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ炭素数3〜19のアルキル基又は炭素数15〜21のアルケニル基を表す。)
【化2】

【請求項2】
一般式(1)において、R1-C(=O)-O-及びR2-C(=O)-O-で表される脂肪酸残基がそれぞれヘキサデカン酸、オクタデカン酸、オクタデセン酸、オクタデカジエン酸又はオクタデカトリン酸残基である、請求項1記載の上皮型ナトリウムチャネル発現抑制剤。
【請求項3】
下記一般式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする、腎ナトリウム再吸収抑制剤。
【化3】

(一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ炭素数3〜19のアルキル基又は炭素数15〜21のアルケニル基を表す。)
【化4】

【請求項4】
一般式(1)において、R1-C(=O)-O-及びR2-C(=O)-O-で表される脂肪酸残基がそれぞれヘキサデカン酸、オクタデカン酸、オクタデセン酸、オクタデカジエン酸又はオクタデカトリン酸残基である、請求項3記載の腎ナトリウム再吸収抑制剤。
【請求項5】
下記一般式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする、腎機能改善剤。
【化5】

(一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ炭素数3〜19のアルキル基又は炭素数15〜21のアルケニル基を表す。)
【化6】

【請求項6】
一般式(1)において、R1-C(=O)-O-及びR2-C(=O)-O-で表される脂肪酸残基がそれぞれヘキサデカン酸、オクタデカン酸、オクタデセン酸、オクタデカジエン酸又はオクタデカトリン酸残基である、請求項5記載の腎機能改善剤。
【請求項7】
下記一般式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を有効成分とする、高血圧改善剤。
【化7】

(一般式(1)において、R1及びR2はそれぞれ炭素数3〜19のアルキル基又は炭素数15〜21のアルケニル基を表す。)
【化8】

【請求項8】
一般式(1)において、R1-C(=O)-O-及びR2-C(=O)-O-で表される脂肪酸残基がそれぞれヘキサデカン酸、オクタデカン酸、オクタデセン酸、オクタデカジエン酸又はオクタデカトリン酸残基である、請求項7記載の高血圧改善剤。

【公開番号】特開2013−91613(P2013−91613A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234453(P2011−234453)
【出願日】平成23年10月25日(2011.10.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】