上皮幹細胞および該幹細胞を含むオルガノイドのための培養培地
【課題】上皮幹細胞、該上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞を培養するためのおよびこれらの幹細胞を含むオルガノイドを培養するための培地を提供する。
【解決手段】骨形成タンパク質(BMP)阻害剤、分裂促進増殖因子およびWntアゴニストの存在下で上皮幹細胞および単離組織断片を培養する方法、BMP阻害剤、分裂促進増殖因子およびWntアゴニストを含む細胞培養培地、該培養培地の使用、ならびに該培養培地中で形成される陰窩-絨毛オルガノイド、胃オルガノイドおよび膵臓オルガノイド。
【解決手段】骨形成タンパク質(BMP)阻害剤、分裂促進増殖因子およびWntアゴニストの存在下で上皮幹細胞および単離組織断片を培養する方法、BMP阻害剤、分裂促進増殖因子およびWntアゴニストを含む細胞培養培地、該培養培地の使用、ならびに該培養培地中で形成される陰窩-絨毛オルガノイド、胃オルガノイドおよび膵臓オルガノイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮幹細胞、特に腸および結腸上皮幹細胞を培養するためのおよびこれらの幹細胞を含むオルガノイドを培養するための新規培養培地に関する。本発明はさらに、本発明の培養培地を用いて培養された細胞およびオルガノイドの子孫および毒性アッセイまたは再生医療におけるこの子孫の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
自己再生する小腸上皮は、陰窩および絨毛になるように指令を受ける(Gregorieff and Clevers,2005.Genes Dev 19,877-90(非特許文献1))。細胞は陰窩で新生され、絨毛先端でのアポトーシスにより失われ、結果として、マウスにおいて上皮は5日間でターンオーバーする。自己再生幹細胞は、陰窩底部付近に存在し、全系統に分化可能な、迅速に増殖する一過性増殖(transit amplifying)(TA)細胞を生成させることが長く知られてきた。幹細胞の推定数は、陰窩1個あたり4〜6個である(Bjerknes and Cheng,1999.Gastroenterology 116,7-14(非特許文献2))。3種類の分化細胞型、腸細胞、杯細胞および腸内分泌細胞はTA細胞から生じ、陰窩-絨毛軸に沿ったコヒーレント帯(coherent band)を移動し続ける。各絨毛は、複数の様々な陰窩から細胞を受け取る。第四の主要な分化細胞型であるパネート細胞は陰窩底部に存在する。
【0003】
遺伝子、Lgr5は、最近、第五の細胞型であるサイクル型(cycling)陰窩底部円柱(CBC)細胞(これは、パネート細胞の間に散在する小型の細胞である(図8bで黒矢印で示す))で特異的に発現されることが確認された(Barker et al.,2007.Nature 449:1003-1007(非特許文献3))。GFP/タモキシフェン-誘導型CreリコンビナーゼカセットがLgr5遺伝子座に挿入されたマウスを用いた細胞系譜解析によって、Cre誘導から14ヶ月後に評価した場合でも、Lgr5+CBC細胞が上皮の全細胞型を生じさせる多能性幹細胞を構成することが示された。
【0004】
Lgr5の他にLgr6も(Lgr4は当てはまらない)、成体幹細胞に対する特有のマーカーであることが最近発見された。Lgr5が脳、腎臓、肝臓、網膜、胃、腸、膵臓、乳房、毛包、卵巣、副腎髄質および皮膚の幹細胞で発現される一方で、Lgr6は、脳、肺、乳房、毛包および皮膚の幹細胞で発現される。
【0005】
一般に、上皮幹細胞を繋ぎ止め、支持するためにおよび適正に極性化した三次元構造を生成させるのに必要な正しい配向をもたらすために、上皮幹細胞と上皮下繊維芽細胞との間の密接な接触が必要であると考えられている。
【0006】
腸上皮幹細胞を含む初代上皮幹細胞を培養するために様々な培養系が述べられているが(Bjerknes and Cheng,2006.Methods Enzymol 419:337-83(非特許文献4))、現在まで上皮幹細胞の多分化能を維持する長期培養系は確立されていない。さらに、結腸または腸から単離された陰窩の基本的な陰窩-絨毛生理を保持するかまたは単離膵臓断片もしくは胃組織断片の基本的生理を保持する培養系は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Gregorieff and Clevers,2005.Genes Dev 19,877-90
【非特許文献2】Bjerknes and Cheng,1999.Gastroenterology 116,7-14
【非特許文献3】Barker et al.,2007.Nature 449:1003-1007
【非特許文献4】Bjerknes and Cheng,2006.Methods Enzymol 419:337-83
【発明の概要】
【0008】
従って、本発明は、細胞外マトリクスを提供し、この細胞外マトリクスとともに上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞を恒温放置し、骨形成タンパク質(BMP)阻害剤、5〜500ナノグラム/mlのまたは少なくとも5および500ナノグラム/ml以下の分裂促進増殖因子が添加され、上皮幹細胞および単離組織断片を培養する場合はWntアゴニストが添加される、動物またはヒト細胞用の基本培地を含む細胞培養培地の存在下で、この幹細胞、単離組織断片または腺腫細胞を培養することを含む、上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離上皮組織断片または腺腫細胞を培養するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】陰窩培養の増殖因子の必要性 a.EGF(E;0〜50ng/ml)およびR-スポンジン1(R:0〜500ng/ml)とともに500個の陰窩を三つ組みで播種し、播種から7日後に陰窩オルガノイドを計数した。b:指示された量のノギンと一緒にEGF(50ng/ml)およびR-スポンジン1(500ng/ml)とともに、500個の陰窩/陰窩オルガノイドを培養し、その後3回の継代を行った。各継代時に陰窩オルガノイドを計数した。この実験を3回繰り返した(結果は同等のものであった)。
【図2】腸陰窩培養系の確立。 a:オルガノイドへと成長する単離単一陰窩の経時変化。微分干渉画像から、陰窩底部において顆粒含有パネート細胞が明らかである(矢印)。b、c:単一単離陰窩は、陰窩オルガノイドを効率的に形成する。陰窩分裂の繰り返しを通じて、この構造から、第14日に多くのタコ足様陰窩オルガノイドが形成される。d:培養3週間後の単一オルガノイドの3D再構成共焦点像。Lgr5-GFP+幹細胞(薄灰色)は陰窩様ドメインの先端に局在する。DNAに対する対比染色:ToPro-3(濃灰色)。e:陰窩オルガノイドの概略図。オルガノイドは、絨毛様上皮により内面が覆われている中心内腔および多数の周囲の陰窩様ドメインからなる。陰窩ドメインの先端部の濃灰色細胞はLgr5+幹細胞の位置を指し、これは各陰窩ドメインに存在する。スケールバーは50μmを示す。
【図3】遺伝子発現プロファイリングのクラスター分析。 新たに単離した結腸および小腸陰窩ならびに小腸オルガノイドを用いた発現レベルのクラスター分析から、小腸オルガノイドとそれらが由来する組織である小腸陰窩との間で類似性が高いことが示された。結腸陰窩は個々の枝上に密集しており、このことから、この密接に関連する組織で遺伝子発現パターンが異なることが示される。注目すべきは、発現される全遺伝子の1.2%のみが、小腸陰窩と比較してオルガノイドに顕著に集積しており、一方、逆に小腸陰窩では2%が集積していた。これらの差別的遺伝子におけるIngenuity Pathway分析から、新たに単離した陰窩においてリンパ球痕跡が特異的に存在することが明らかになり、一方で、オルガノイドにおいて濃縮されている少数の遺伝子においては重要な経路を同定することができなかった(図示せず)。本発明者らは、後者のグループが生物学的ノイズに相当し、一方でリンパ球の痕跡は混入した上皮内免疫細胞由来であり、培養時に失われると結論付ける。
【図4】陰窩オルガノイドは基本的な陰窩-絨毛の特徴を保持する。 a〜e.Wnt活性化コードは陰窩ドメイン中で保持される。a:核β-カテニン(濃灰色、矢印)は陰窩ドメインでのみ見られた。図5での高解像度画像。星印、マトリゲル;Lu、内腔。b:CBC細胞およびTA細胞において、傾斜的にEphB2(薄灰色)が発現される。白矢印で示されるようなLgr5-GFP+幹細胞に注意。c:腸細胞により内面が覆われている中心内腔に流れ込むカスパーゼ-3+アポトーシス細胞(濃灰色、矢印)。d:>3ヶ月経過した陰窩培養物からの細胞の拡散における40本の染色体。e〜g:インビトロでのLgr5+幹細胞の細胞系譜解析。e:Lgr5-EGFP-ires-CreERT2/Rosa26-lacZレポーターマウスからの陰窩をインビトロで12時間、タモキシフェンにより刺激し、指示された日数にわたり培養した。LacZ染色(濃灰色)から、インビトロで、拡散した単一LacZ+細胞(第1日)からLacZ+陰窩全体が形成された(第2〜14日)ことが分かる。差し込み図は染色した陰窩オルガノイドのより高倍率の画像を示す。f:組織学的分析から、LacZ+陰窩-ドメイン全体(濃灰色/黒)が絨毛ドメインに流れ込むことが分かる。g:LacZ+細胞がある陰窩オルガノイドの割合は時間が経過しても安定であり続け、このことから、Lgr5+細胞が長期間継続する幹細胞活性を保持することが示される。500個の陰窩を三つ組みで播種し、LacZ+陰窩オルガノイドを計数した。エラーバーは3回の実験の標準偏差である。この実験を3回繰り返し、結果は同等であった。
【図5】図4a、図11mおよび11pのより高解像度の画像。
【図6】陰窩オルガノイドにおいて上皮下繊維芽細胞の証拠はない。 a:平滑筋アクチンに対する免疫染色(SMA;濃灰色、例は黒矢印で示される)から、上皮層の下に上皮下繊維芽細胞が存在することが明らかである。b:マトリゲル(星印)中にSMA+細胞がないことから、培養系において上皮下繊維芽細胞が存在しないことが示される。スケールバー;50μm。
【図7】a〜c:Lgr5-EGFP-ires-CreERT2/Rosa26-YFPレポーターマウスからの陰窩をインビトロでタモキシフェンにより12時間刺激し、指示された日数、画像化した。Lgr5+細胞は薄灰色であり、白色矢印により示される。d:Lgr5-EGFP-ires-CreERT2/Rosa26-YFP陰窩由来の7日間経過オルガノイドをインビトロでタモキシフェンにより12時間刺激し、指示された日数にわたり培養し、画像化した。YFP蛍光(薄灰色)から、拡散した単一YFP+細胞(第1日)から、次の5日間にわたり、インビトロで複数の子孫が生じたことが示される。第1日〜第1.5日の間、絨毛ドメインが破裂し、続いて新しい絨毛ドメインが形成される(白丸)。YFP+細胞が絨毛ドメインに向かって移動していることに注意。
【図8】選別した単一Lgr5+幹細胞から、陰窩-絨毛構造全体が生じる。a:野生型同腹子(上)と比較した、Lgr5-EGFP-ires-CreERT2腸(下)から調製されるLgr5-GFP+細胞。GFP+細胞を2つの集団、GFPhiおよびGFPlowに分けた。b:新たに単離した陰窩の共焦点顕微鏡分析から、CBC細胞中のGFPhi(黒矢印)およびCBC上のGFPlow(白矢印)が示される。c:選別したGFPhi細胞。d:培養14日後の1000個の選別GFPhi細胞(左)およびGFPlow細胞(右)。e〜f:選別から14日後、単一GFPhi細胞から、Lgr5-GFP+細胞(薄灰色の細胞)およびパネート細胞(白矢印)が陰窩底部に局在する、陰窩オルガノイドが形成される。スケールバー;50μm。f:eにおける陰窩底部のより高倍率の画像。g:増殖している細胞を可視化するために、チミジン類似体EdU(薄灰色、白矢印により例が示される)とともに1時間、オルガノイドを培養し、その後これらを固定した。陰窩ドメインのみがEdUを取り込んだことに注意。対比染色:DAPI(濃灰色)。
【図9A】個別のウェル中で選別された単一細胞のコロニー形成効率。4回の個々の実験(各実験において100個の細胞を目視で確認し、次いで増殖について追跡)に対して平均を算出する。
【図9B】良好に増殖する単一GFhi細胞の例。
【図9C】5個の成長オルガノイドに対して、1個のオルガノイドあたりの細胞数の平均を算出した。
【図9D】単一細胞由来オルガノイドからの単一細胞縣濁液を再播種し、2週間増殖させた。
【図10】個別のウェルにおいて選別された単一細胞のコロニー形成能。良好に増殖した単一GFPhi細胞の例。矢印は、目印としての塵埃粒子を指す。スケールバー:50μm。
【図11】単一幹細胞由来オルガノイドの組成。a〜d:a:薄灰色の絨毛(腸細胞で内部が覆われている中心内腔の先端)、b:白矢印により示されるMuc2染色(杯細胞)、c.薄灰色のリゾチーム(パネート細胞)、d:薄灰色のクロモグラニンA(腸内分泌細胞)に対する三次元再構成された共焦点像。核をDAPIで対比染色した。e〜g:パラフィン切片染色。e:アルカリホスファターゼは黒色(腸細胞で内部が覆われている中心内腔の先端)、f:濃灰色のPAS(杯細胞)、g:濃灰色のリゾチーム(パネート細胞)、h:濃灰色のシナプトフィジン(腸内分泌細胞)。i〜p:陰窩オルガノイドの電子顕微鏡切片から、腸細胞が存在することが明らかになる。(i)、杯細胞(j)、パネート細胞(k)および腸内分泌細胞(l)。m/o:低出力陰窩画像は間質細胞がないことを示す。n〜o:mのより高倍率の画像。n:微絨毛の長さの違いにより示されるような、オルガノイドの内腔区画への刷子縁の成熟(黒矢印)。p:絨毛ドメインの低出力画像。Lu、アポトーシス体で満たされ、極性のある腸細胞により内面が覆われている陰窩オルガノイドの内腔。G、杯細胞;EC、腸内分泌細胞;P、パネート細胞;星印、マトリゲル。スケールバー:5μm(m、p)、1μm(n、o)。
【図12】インビボの陰窩とインビトロの培養陰窩との間の電子顕微鏡画像の比較。a、b:下に結合組織(矢印)がある陰窩の底部における正常な腸。比較については、陰窩の底部でも採取したオルガノイドのc-gを参照のこと。d:頂端膜からの高倍率画像;2個の隣接細胞の膜の間に細胞間裂溝がある(矢印)。デスモソーム(矢じり)に続いて細胞間裂溝があることに注意。e:基底部位からの高倍率(2個の隣接細胞の膜に続いて細胞内裂溝があり得る)。これらの画像は、正常マウスの腸からのaおよびbと同等である。これらの細胞間裂溝の原因は、アルデヒド固定中の浸透圧衝撃であり得る。f,g:オルガノイドを構成する全細胞は健康な状態であり、大きな空胞またはストレスのその他の兆候はない。有糸分裂像(c)および各細胞において多くの核孔(f、矢印)および無傷のミトコンドリアを認め得る。膨張の所見なく、ERおよびゴルジ(g)を見ることができる。核崩壊、核融解または核凝縮の兆候はない。従って、細胞溶解またはアポトーシスの兆候は観察されない。オルガノイドの内腔の細胞は、正常マウスの消化管で観察することができるように、予想されるアポトーシスの特性を示す。fは腸内分泌細胞の別の例を示す。Mi:有糸分裂細胞、Lu:内腔、EC:腸内分泌細胞、G:ゴルジ。
【図13】培養において結腸由来の陰窩を維持することもできる。結腸由来の単一単離陰窩は、小腸陰窩に対して使用したものと同じ培養条件を用いて、効率的に陰窩オルガノイドを形成する。陰窩分裂の繰り返しを通じて、第14日にこの構造から多くのタコ足様陰窩オルガノイドが生じる。
【図14】BDNFの添加により培養効率が向上する。EGF、ノギン、R-スポンジンおよびBDNF存在下で単一単離結腸陰窩を培養した。培養開始後第0、4および14日に取得した結腸陰窩オルガノイドの画像。
【図15】Wnt3aを添加することによって、結腸陰窩オルガノイドの培養効率がさらに向上する。EGF、ノギン、R-スポンジン存在下で単一単離結腸陰窩を培養した。Wnt3a馴化培地(+Wnt3a)を使用すると、対照培地(-Wnt3a)中で結腸オルガノイドを培養した場合と比較して、最大30%、培養効率が向上した。
【図16】APC-/-マウスから単離された腺腫はインビトロで成長し得る。APC-/-マウス由来の単一単離腺腫を分離し、R-スポンジンが培養培地中に含まれなかったことを除き上記と同様の条件を用いて培養した。a:第4日にここで示されるように腺腫オルガノイドは通常、アポトーシス細胞を含有する1つの中心内腔を含有する単純な嚢胞として成長する。b:ある1つの腺腫オルガノイドのより高倍率の画像。c:ある1つの腺腫オルガノイドをβ-カテニン(濃灰色)およびヘマトキシリン(内腔中の薄灰色)で染色した。オルガノイドの外層は、核β-カテニン染色がある上皮細胞からなる。内側の内腔は、ヘマトキシリンを取り込んでいる死細胞を含有する(濃灰色に染色)。d:明白な核β-カテニンを示す、上皮細胞の外層のより高倍率の画像。
【図17】Wnt3aを添加すると、オルガノイド形成の効率が向上する。a:Lgr5-GFPhi細胞を選別し、従来の単一細胞培養条件(単一細胞に対して上記で記載のような、EGF、ノギン、R-スポンジン、NotchリガンドおよびY-27632)に加えてWnt3a(100ng/ml)の存在下または非存在下で培養した。Wnt3aの存在下または非存在下でオルガノイドを培養したこれらの培養皿の画像は代表例である。b:細胞100個/ウェルを播種し、オルガノイド数は播種から14日後であった。オルガノイド数/皿をこのグラフで表す。
【図18】R-スポンジン1機能に対するモデル Wnt/β-カテニンシグナル伝達は、Frizzledに対する標準的なWntリガンドの結合およびLRP5/6受容体との会合時に開始される。R-スポンジン1非存在下で、Wntシグナル伝達は、細胞表面上のLRP6の量により制限され、この量はDKK1/Kremen1介在性の内部移行によって低く維持される。R-スポンジン1は、DKK1/Kremen1介在性のLRP6ターンオーバーに拮抗し、その結果、LRP6の細胞表面レベルが向上することによってWntシグナル伝達を促進する。この図はPNAS 104:14700、2007から採用した。
【図19】パネート細胞は、小腸においてLgr5+幹細胞に隣接して位置する。Lgr5-EGFP-ires-CreERT2ノックインマウスの小腸から陰窩を単離した。ここで代表的陰窩の例を示す。GFP+細胞はLgr5+(薄灰色、黒矢印で示す)であり、これらは、通常、パネート細胞(*で示す)に隣接して位置する。
【図20】生存パネート細胞非存在下で、オルガノイド形成効率が低下する。PBS+0.1%Pluronic 127(Sigma)中で1μM Newport Green-DCF(Molecular probe)とともに室温で3分間、単離陰窩を恒温放置し、続いてPBS洗浄を行った。この後、陰窩をマトリゲル中に包埋し、上記のような標準的条件を用いて培養した。
【図21】胃オルガノイド培養の効率。(a)Lgr5-GFPマウスの胃幽門部由来の単離胃腺のGFP(矢印、GFP陽性細胞を示す)およびDIC画像。DAPIで核を染色する。倍率63x。(b)胃腺100個/ウェルをEGF(E)、R-スポンジン1(R)、ノギン(N)、EGF+R-スポンジン1(ER)、EGF+ノギン(EN)、EGF+R-スポンジン1+ノギン(ERN)、EGF+R-スポンジン1+ノギン+Wnt3A(ERNW)またはEGF+R-スポンジン1+ノギン+Wnt3A+KGF(ERNWK)とともに2つ組みで播種した。2、5および7日後に胃オルガノイド数を数えた。結果は、2回の独立した実験の平均±SEMとして示す。(b)Wnt3A組み換えタンパク質(ENRWK)またはaで述べたその他の増殖因子を補充したWnt3A馴化培地(ENRWCMK)とともに、胃腺100個/ウェルを2つ組みで播種した。播種から7日後および最初の継代から2日後に出芽オルガノイド数を数えた。
【図22】インビトロでの胃オルガノイドの形成。(a)オルガノイドへと成長する単離胃腺。播種後第1、2、5および7日の微分干渉画像。倍率10x(第1、2、5日)。第7日倍率4x、挿入図10x。(b)培養物は、機械的に分離して4〜7日ごとに継代した。少なくとも1ヶ月間にわたり培養物を増殖させた。様々な継代時の、オルガノイドから生じた出芽構造を示す代表的画像。継代1(P1)、それぞれ第8、11、20日に相当する継代2(P2)および継代4(P4)。
【図23】胃腺のマーカー。(a)Lgr5-LacZマウスからの胃培養物。播種後第5日に出芽した胃においてLacZ発現が検出され(矢印参照、LacZ陽性(濃灰色)細胞を示す)、このことから、Lgr5陽性細胞の存在が示される。倍率20x。(b)Ki67染色(黒)は、腺様構造の底部の陽性増殖細胞を示す。(c)オルガノイドの内腔の内側に存在するカスパーゼ-3(濃灰色)アポトーシス細胞。(d)胃オルガノイドに存在する胃ムチン5AC(濃灰色)陽性細胞。Lu、オルガノイド内腔。倍率20x。
【図24】膵管はインビトロで膵臓様オルガノイドを形成し得る。EGF、ノギン、R-スポンジン-1およびKGF存在下で、新たに単離した膵管を培養した。播種後第0、4および14日からの微分干渉画像。
【図25】インビトロ培養のおよそ3週間後に膵島様構造が出現する。播種後第21日からの微分干渉画像。
【図26A】アキシン-LacZマウスにビヒクルを単独で(A)またはR-スポンジン(B)を注射した。2日後、膵臓を単離し、X-galでの染色によってLacZ発現の有無を調べた。Bの中央のパネルは、LacZに対して陽性染色を示す管のより高倍率の像を示し、これにより、膵管の裏打ちに沿ったアキシン-LacZの発現が示される。左パネルは、中心腺房における小さい導管細胞または挿入される導管細胞がアキシン2-LacZを発現したことを示す(例を黒矢印で示す)。倍率は各画像の角に示す。野生型マウスにおいて膵管結紮を行った。PDL後の様々な時点で膵臓を摘出し、PDLおよび非PDL領域から得た組織切片をH&Eで染色した。倍率は各時間点に対して示す(C)。wtおよびアキシン2-LacZマウスにおいて膵管結紮を行った。PDLから7日後に、この膵臓を摘出し、固定組織切片(D)またはホールマウントの器官切片(E)のX-galでの染色によってアキシン2-LacZ発現を調べた。白丸は膵臓の結紮部分を示す。PDLから5日後の膵臓組織切片におけるKi67の発現(例を矢印により示す)。倍率を示す(F)。インビボでのR-スポンジンによる処置から2日後の膵臓組織でのBrdUの取り込み(例を矢印により示す)。倍率を示す(G)。PDLまたは偽手術を行ったマウスから得た膵臓組織においてQ-PCRによって、Lgr5 mRNA発現を調べた。PDL膵臓において、PDL領域および非PDL領域をQ-PCRに供した。TATAボックス結合タンパク質(tbp)、ハウスキーピング遺伝子と比較した、Lgr5発現の上昇(倍)を示す(H)。PDLから13日後に膵臓を摘出し、固定組織切片のX-galでの染色によってLgr5-LacZ発現を調べた。染色細胞の例は黒矢印(I)で示される。
【図26C】図26Aの続きを示す図である。
【図26D】図26Cの続きを示す図である。
【図26E】図26Dの続きを示す図である。
【図26F】図26Eの続きを示す図である。
【図26G】図26Fの続きを示す図である。
【図26H】図26Gの続きを示す図である。
【図26I】図26Hの続きを示す図である。
【図27A】野生型マウスからの摘出後、様々な時点で取得したEM中にてインビトロで増殖させた膵管断片の画像(A、上段パネル)。腺房中心細胞は7日を超えて増殖せず、その後崩壊した(A、下段パネル)。
【図27B】EGF(50ng/ml)、R-スポンジン(1μg/ml)、FGF10(100ng/ml)またはノギン(100ng/ml)の存在下または非存在下で膵臓断片を成長させた。新たに単離した膵臓断片とともに培養を開始してから7日および14日後に、培養物の画像を取得した。EGF非存在下で培養物は10日を超えて生存することはなかった(B)。
【図27C】R-スポンジン(1μg/ml)の非存在下または存在下で、3日間、アキシン2-LacZマウスから単離した膵臓断片を培養した。X-gal染色から、R-スポンジンの存在下でのみ、3日および14日後、管細胞におけるWnt-応答性アキシン-LacZの発現が示された(例を白矢印で示す)。腺房または膵島細胞でX-gal染色は検出されなかった(C)。
【図27D】Lgr5-LacZマウスから管断片を単離し、R-スポンジン非存在下または存在下で3日間にわたり培養した。X-gal染色により示されるとおりのLgr5-LacZの発現から、PDL後のその発現と同様に、出芽部の先端でLgr5+細胞が示される(D)。
【図27E】WntアゴニストであるR-スポンジンの存在下で培養した膵臓断片由来の細胞のFACS染色。EpCAM、汎上皮細胞マーカーおよびLacZ(フルオレセイン-ジ-ガラクトピラノシド、FDG)に対して細胞を染色した。Wntシグナルの存在下で膵臓断片を培養するとLgr5+細胞の割合が顕著に増加する(E)。
【図28】PDL処置から7日後、マウスから膵臓を単離し、膵臓細胞をEpCAM-APCおよびLacZに対する蛍光基質(FluoroReporterキット)で染色し、選別し、50%Wnt3A馴化培地および10mM Y-27632を含むEM中で4日間培養した。4日後、培養培地をWntおよびY-27632不含のEM培地に交換した。指定した日に画像を取得し、4Ox倍率を示す。
【図29A】膵臓オルガノイドをEMからDMに移した。FGF10の増幅用培地からの除去(その結果、DMとなる)の影響により、膵島への分化が誘導された。DM中で10日間にわたり膵臓オルガノイドを培養し、その後、インビトロで膵島様構造を検出することができた。FGF10の存在下および非存在下での培養物の画像を示すが(A)、これは、PCRにより測定した場合の、ある一定の分化マーカー、Ngn3およびソマトスタチンの発現上昇を示す。Hprtはハウスキーピング遺伝子である(B)。DMへ移した後のいくつかの時点で、PCRにより多くのマーカーの発現を評価した(C)。膵臓嚢胞からβ細胞様構造への形態変化(D)は、免疫蛍光により検出されるように、インスリンおよびC-ペプチドなどのある一定のβ細胞マーカーの出現に付随して起こった(E)。Ngn3に対する陽性免疫蛍光染色により示されるように、DM中にR-スポンジンが存在することは、β細胞の前駆細胞の再生に不可欠である(例を白矢印により示す)(F)。
【図29B】図29Aの続きを示す図である。
【図29C】図29Bの続きを示す図である。
【図29D】図29Cの続きを示す図である。
【図29E】図29Dの続きを示す図である。
【図29F】図29Eの続きを示す図である。
【図30】ヒト膵臓断片を新たに単離し、EM中で培養した。培養開始後の指定された時点で培養物の画像を取得した。
【図31】インビトロで陰窩培養物はWntリガンドを産生する。 (A)Wnt経路の概略図。Wntリガンドが分泌される場合、これらは、自己分泌または傍分泌であり、Wntシグナル伝達経路を活性化し得る。ポーキュパインは、適正なWntリガンド分泌のために重要である。IWP阻害剤により、Wntリガンド分泌が阻害される。 (B)実施例1で示すような通常の条件下で培養したマウスオルガノイド。 (C)1μM IWPとのマウスオルガノイド培養物の恒温放置の結果、オルガノイド培養物の細胞死が起こる。 (D)Wnt3a馴化培地を添加すると、マウスオルガノイドの培養が促進される。 (E)IWP誘導性のオルガノイドの死は、Wnt3a馴化培地の添加により救出される。 10xの倍率を示す(B〜E)。
【図32】ヒト腸陰窩培養の確立。 Wnt3a馴化培地あり(A、B、E、F)およびなし(C、D、G、H)で、EGF、ノギンおよびRスポンジンが補充された培地中での3日後(A、C、E、G)および5日後(B、D、F、H)の、小腸(A〜D)および結腸(E〜H)から培養されたヒトオルガノイド。
【図33A】胃オルガノイド培養の確立。 (A)EGF(E);R-スポンジン1(R);ノギン(N);EGF+R-スポンジン1(ER);EGF+ノギン(EN);EGF+R-スポンジン1+ノギン(ERN);EGF+R-スポンジン1+ノギン+Wnt3A(ERNW);EGF+R-スポンジン1+ノギン+Wnt3A+FGF10(ERNWF);EGF+R-スポンジン1+ノギン+対照馴化培地+FGF10(ERNCCMF)またはEGF+R-スポンジン1+ノギン+Wnt3A馴化培地+FGF10(ERNWCMF)とともに、全部で胃腺100個/ウェルを2つ組で播種した。2、5および7日後、胃オルガノイド数を数えた。結果は、2回の独立した実験の平均±SEMとして示す。
【図33B】胃オルガノイド培養の確立。 (B)Wnt3A馴化培地(ENRWCM)またはFGF10を補充したWnt3A馴化培地(ENRWCMF)とともに、全部で胃腺100個/ウェルを2つ組で播種した。培養7、15(継代2)および60日(継代10)後、出芽オルガノイド数を数えた。
【図33C】胃オルガノイド培養の確立。 (C)FGF7/KGF(K)またはFGF10(F)の何れか(100および1000ng/mlの両方を試験した)を補充したWnt3A馴化培地(WCM)+EGF+ノギンおよびR-スポンジン中で、全部で胃腺100個/ウェルを播種した。培養4日後(継代7)に、出芽オルガノイド数を数えた。代表的実験を示した。
【図33D】胃オルガノイド培養の確立。 (D)単離胃腺のオルガノイドへの発生。播種後第1、2、3、4、7日からの微分干渉画像。1週間後、培養物を1:5または1:6に分割する必要があった。補足資料および方法セクションに記載のように継代培養および維持を行った。培養中15日、3ヶ月、4.5および6ヶ月後の培養物の代表的画像(10x倍率)。
【図33E】胃オルガノイド培養の確立。 (E)対照馴化培地中で増殖させた5日経過培養物の例。培養物は増殖しておらず、腺ドメインを形成できなかったことに注意。これらの条件下で、培養物は7日を超えて生存しなかった。
【図33F】胃オルガノイド培養の確立。 (F)3ヶ月経過した胃オルガノイドにおけるホールマウントE-カドヘリン染色。
【図34A】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (A)Lgr5-EGFP-ires-CreERT2マウスの胃から新たに単離した幽門部胃ユニットの共焦点分析。矢印はGFPhi(灰色)、GFPlo(黒)およびGFP-ve(白)の別個の集団を示す。
【図34B】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (B)Lgr5-EGFP+ve細胞はそれらのGFP発現レベルに従い、GFPloおよびGFP-ve集団から区別される。FSC、前方散乱。
【図34C】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (C)単一Lgr5+ve細胞が起源である成長オルガノイドの代表例。矢印は第7日腺様ドメイン出芽部の形成を示す。最初の倍率:第1〜4日;4Ox倍率、第5〜6日;2Ox倍率、第7〜8日;10x倍率および第9日;5x倍率。
【図34D】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (D)単一Lgr5+ve細胞由来のオルガノイドを分離し、5〜7日ごとに分割した。3ヶ月経過培養物の代表的画像。本来の倍率:左パネル;4x倍率、右パネル;10x倍率。
【図34E】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (E)単一GFPhi細胞から増殖した14日経過胃培養物におけるLgr5EGFP発現細胞の共焦点分析。Lgr5-GFP+ve細胞が腺ドメインの底部に位置することに注意(白矢印;10x倍率)。
【図34F】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (F)チミジン類似体EdU(赤)とともに1.5時間培養したオルガノイド。腺ドメインのみがEdUを取り込む(白矢印;20x倍率)。対比染色、4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI;核)。
【図34G】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (G)Lgr5-EGFP-ires-CreERT2/Rosa26-YFPレポーターマウスの単一細胞培養物から2週間培養した培養物をインビトロでタモキシフェンにより20時間刺激し、指定の日に画像化した。YFP蛍光(黄色)は、拡散した単一の黄色の細胞(第1.5日)から、インビトロで複数の子孫が生じていることを示す。YFP+ve細胞が中心内腔(白色点線丸)に向かって移動することに注意。
【図34H】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (H)Lgr5+ve単一細胞由来の2ヶ月経過培養物からの胃特異的な遺伝子の発現分析。高(左パネル)または低(中央パネル)Wnt3A培地で維持される培養物。胃由来培養物が腸特異的な遺伝子について陰性であることに注意(右パネル)。
【図34I】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (I)少なくとも10日間にわたり低Wnt3A培地中で維持される培養物。上部パネル:ECad染色の共焦点像(赤、上皮由来オルガノイド)。対比染色、Hoescht 33345(青)。下パネル:Tff2(茶色、頚部粘液細胞)、過ヨウ素酸シッフ(赤、ピット細胞)、MUC5AC(茶色、ピット細胞)およびクロモグラニンA(茶色、腸内分泌細胞)に対して染色されたパラフィン切片。
【発明を実施するための形態】
【0010】
驚くべきことに、本発明の方法が、未分化の表現型および自己維持能を保つ幹細胞を存在させ続けながら、上皮幹細胞、この幹細胞を含む小腸、結腸、胃および膵臓からの単離断片および腺腫細胞の培養を可能にするということが、本発明者らによって発見された。例えば、本発明の方法に従い培養される単離陰窩は、絨毛様上皮により内面が覆われている中心内腔を含む陰窩-絨毛オルガノイドになる。単離陰窩の増殖は、陰窩に存在する幹細胞により刺激された。得られるオルガノイドで複数の陰窩分裂事象が起こる。さらにまた驚くべきことに、本発明の方法によって、幹細胞ニッチの非存在下で、1個の単離上皮幹細胞が陰窩-絨毛オルガノイドへ成長するという観察はさらに驚くべきことであった。胃の幽門部由来の単離胃断片は、腸陰窩オルガノイドのように働く。このユニットの開放上部が密閉され、内腔にアポトーシス細胞が満たされた。新しく形成された胃オルガノイド(gastric organoid)で、中心内腔とともにそれらの極性を維持しながら、連続的な発芽事象(腺分裂を連想させる)が起こった。さらに、膵臓断片を培養すると、その結果、ランゲルハンス膵島に類似した、インスリンおよびその他の膵島特異的なマーカーを発現する膵島様構造が出現した。
【0011】
小腸および大腸の幽門部を覆う上皮は、管腔内突起、絨毛および陥入部、陰窩を包含する。陰窩-絨毛軸に沿った各細胞は極性があり、それにより、腸絨毛の先端部または結腸陰窩の上部位置の細胞は最もよく分化しており、連続的に内腔へと向かって失われる。陰窩の基底部に存在する幹細胞の連続的増殖および陰窩の中ほどに存在する前駆細胞の大規模な増殖によって、確実に脱落細胞の正しい置き換えが行われるようになる。
【0012】
幹細胞は、成人および成体マウスの多くの器官で見られる。個々の組織の成体幹細胞の正確な特徴は非常に多様ではあり得るが、成体幹細胞は共通する次の特徴を有する。成体幹細胞は未分化表現型を保持し、それらの子孫は、適切な組織に存在する全ての系統に分化し得、それらは一生を通じて自己維持能を保持し、それらは損傷後に適切な組織を再生することが可能である。幹細胞は、特定の場所に存在し、この幹細胞ニッチは、適切な細胞-細胞接触およびこれらの幹細胞集団の維持のためのシグナルを供給する。
【0013】
上皮幹細胞は、上皮を構成する全く異なる細胞型を形成することができる。ある一部の上皮、例えば皮膚または腸などの細胞ターンオーバーは迅速であり、このことから、存在する幹細胞は継続的に増殖するに違いないことが示唆される。その他の上皮、例えば肝臓または膵臓などのターンオーバーは正常状態下で非常に遅い。
【0014】
当業者にとって公知のプロトコールによって、十二指腸、小腸および大腸(空腸、回腸および結腸を含む)ならびに胃の幽門部から陰窩を単離することができる。例えば、キレート剤(基底膜および間質細胞型とのそれらのカルシウムおよびマグネシウム依存性相互作用から細胞を解放する)と単離組織を恒温放置することによって、陰窩を単離することができる。この組織を洗浄した後、硝子スライドで上皮細胞層を粘膜下層から剥離し、細切する。この後、続いて、トリプシンまたは、より好ましくはEDTAおよび/またはEGTA中で恒温放置し、例えばろ過および/または遠心段階を用いて、未消化の組織断片と陰窩由来の単一細胞とを分離する。トリプシンの代わりに、その他のタンパク質分解酵素、例えばコラゲナーゼおよび/またはディスパーゼIを使用することができる。膵臓および胃の断片を単離するために同様の方法が使用される。
【0015】
上皮組織から幹細胞を単離する方法は当技術分野において公知である。好ましい方法は、幹細胞がその表面上でLgr5および/またはLgr6(これらは大型のGタンパク質共役受容体(GPCR)スーパーファミリーに属する)を発現するという事実に基づく。Lgrサブファミリーは、リガンド結合に重要な大きなロイシンリッチ細胞外ドメインを輸送するという点で特有である。Lgr5およびLgr6に対するリガンドは未だ文献に記載されていない。従って、好ましい方法は、上皮組織から細胞縣濁液を調製し、この細胞縣濁液をLgr5および/または6結合化合物と接触させ、このLgr5および/または6結合化合物を分離し、この結合化合物から幹細胞を単離することを含む。この段階でトリプシン処理した上皮幹細胞の生存率がやや低いことが分かったので、上皮幹細胞を含む単一細胞の縣濁液を単離陰窩から機械的に生成させることが好ましい。
【0016】
好ましいLgr5および/または6結合化合物には、抗体、例えばLgr5またはLgr6の何れかの細胞外ドメインを特異的に認識し、それに結合するモノクローナル抗体(例えば、マウスおよびラットモノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体など)が含まれる。当業者にとって当然のことながら、このような抗体を用いて、例えば磁性ビーズを活用してまたは蛍光活性化細胞ソーターを通じて、Lgr5および/またはLgr6発現幹細胞を単離することができる。
【0017】
本発明の好ましい方法において、このような上皮幹細胞は、陰窩、胃断片または膵臓断片から単離される。例えばこのような上皮幹細胞は、腸から単離される陰窩から単離される。好ましい上皮幹細胞は、十二指腸、空腸および回腸を含む小腸、膵臓または胃から単離される。
【0018】
単離幹細胞は、好ましくは、このような幹細胞が天然に存在する細胞ニッチを少なくとも一部模倣する微小環境で培養される。マトリクス、足場および、幹細胞運命を調節するキーとなる制御シグナルに相当する培養基質などの生体物質存在下でこの幹細胞を培養することによって、このような細胞ニッチを模倣する。このような生体物質には、天然、半合成および合成生体物質および/またはそれらの混合物が含まれる。足場は二次元または三次元ネットワークを提供する。この足場のための適切な合成物質は、多孔質体、ナノ繊維およびハイドロゲル、例えば、自己集合ペプチドを含むペプチド、ポリエチレングリコールホスフェート、ポリエチレングリコールフマレート、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリセルロースアセテートおよび/またはそれらのコポリマーから構成されるハイドロゲルから選択されるポリマーを含む(例えば、Saha et al.,2007.Curr Opin Chem Biol.11(4)381-387;Saha et al.,2008.Biophysical Journal 95:4426-4438;Little et al.,2008 Chem Rev.108、1787-1796参照)。当業者にとって公知であるように、例えば足場の弾性などの力学的特性は、幹細胞の増殖、分化および移動に影響を与える。好ましい足場には、例えば組織再生および/または損傷治癒を促進するために対象において移植後に天然成分に置き換えられる生体分解性(コ)ポリマーが含まれる。さらに、この足場が対象において移植後に免疫原性反応を実質的に誘導しないことが好ましい。この足場には、天然、半合成または合成リガンドが補充されるが、これらは、幹細胞の増殖および/または分化、および/または移動に必要とされるシグナルをもたらす。好ましい態様において、このようなリガンドは規定のアミノ酸断片を含む。このような合成ポリマーの例には、Pluronic(登録商標)F127ブロックコポリマー界面活性剤(BASF)およびEthisorb(登録商標)(Johnson and Johnson)が含まれる。
【0019】
細胞ニッチは、一部、幹細胞および周囲の細胞により定められ、細胞外マトリクス(ECM)はこのニッチの細胞により形成される。本発明の好ましい方法において、単離陰窩または上皮幹細胞をECMに接着させる。ECMは様々な多糖類、水、エラスチンおよび糖タンパク質から構成されるが、この糖タンパク質は、コラーゲン、エンタクチン(ニドゲン)、フィブロネクチンおよびラミニンを含む。ECMは結合組織細胞により分泌される。様々なタイプのECMが知られており、これには、様々なタイプの糖タンパク質および/または糖タンパク質の様々な組み合わせを含む様々な組成が含まれる。このECMは、ECM産生細胞、例えば繊維芽細胞などを、これらの細胞の除去および単離陰窩または上皮幹細胞の添加前に容器中で培養することにより提供され得る。細胞外マトリクス産生細胞の例には、主にコラーゲンおよびプロテオグリカンを産生する軟骨細胞、主にIV型コラーゲン、ラミニン、間質性プロコラーゲンおよびフィブロネクチンを産生する繊維芽細胞および、主にコラーゲン(I、IIIおよびV型)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロン酸、フィブロネクチンおよびテネイシン-Cを産生する結腸筋繊維芽細胞が含まれる。あるいは、このようなECMは市販されている。市販の細胞外マトリクスの例は、細胞外マトリクスタンパク質(Invitrogen)およびマトリゲル(Matrigel)(商標)(BD Biosciences)である。幹細胞を培養するためにECMを使用することによって、幹細胞の長期生存が促進され、未分化幹細胞が継続的に存在し易くなった。ECMの非存在下では、幹細胞培養物を長期間培養することができず、未分化幹細胞の継続的な存在は観察されなかった。さらに、ECMが存在することにより、三次元組織オルガノイドを培養できるようになった(ECMの非存在下では培養できなかった)。
【0020】
本発明の方法での使用に好ましいECMには、少なくとも2種類の個別の糖タンパク質、例えば2種類の様々なタイプのコラーゲンまたはコラーゲンおよびラミニンなどが含まれる。このようなECMは合成ハイドロゲル細胞外マトリクスまたは天然のECMであり得る。最も好ましいECMはマトリゲル(商標)(BD Biosciences)により提供されるが、これは、ラミニン、エンタクチンおよびIV型コラーゲンを含む。
【0021】
本発明の方法で使用される細胞培養培地には、あらゆる細胞培養培地が含まれる。好ましい細胞培養培地は、炭酸系の緩衝液で7.4のpH(好ましくは7.2〜7.6の間または少なくとも7.2であり7.6以下)に緩衝化されている規定の合成培地であり、一方で、この細胞は、5%〜10%の間のCO2または少なくとも5%および10%以下のCO2、好ましくは5%CO2を含む雰囲気下で培養される。好ましい細胞培養培地は、グルタミン、インスリン、ペニシリン/ストレプトマイシンおよびトランスフェリンが補充されたDMEM/F12およびRPMI1640から選択される。さらに好ましい態様において、アドバンスト-DMEM/F12またはアドバンストRPMIが使用されるが、これは血清不含培養に対して最適化されており、インスリンを既に含む。この場合、アドバンスト-DMEM/F12またはアドバンストRPMI培地には、好ましくはグルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンが補充される。さらに好ましくは、この細胞培養培地には、精製された、天然、半合成および/または合成増殖因子が補充され、ウシ胎仔血清(fetal bovine serumまたはfetal calf serum)などの不確定な成分は含まれない。例えば、B27(Invitrogen)、N-アセチルシステイン(Sigma)およびN2(Invitrogen)などの補充成分は一部の細胞の増殖を刺激し、必要に応じてこれらを培地にさらに添加することができる。
【0022】
基本培地に添加される成分はBMP阻害剤である。BMPは、二量体リガンドとして2種類の異なる受容体セリン/スレオニンキナーゼ、I型およびII型受容体からなる受容体複合体に結合する。II型受容体はI型受容体をリン酸化し、その結果、この受容体キナーゼが活性化される。このI型受容体は、続いて特異的な受容体基質(SMAD)をリン酸化し、その結果、シグナル伝達経路によって転写活性が導かれる。
【0023】
このBMP阻害剤は、例えばBMP受容体へのBMP分子の結合を阻止または阻害することによってBMP活性を中和する複合体を形成するためにBMP分子に結合する薬剤として定義される。あるいは、この阻害剤は、アンタゴニストまたは逆アゴニストとして作用する薬剤である。このタイプの阻害剤はBMP受容体と結合し、BMPのその受容体への結合を阻止する。後者の薬剤の例は、BMP受容体に結合し、抗体結合受容体へのBMPの結合を阻止する抗体である。
【0024】
このBMP阻害剤は、この阻害剤の非存在下でのBMP活性レベルと比較して、最大で90%、より好ましくは最大で80%、より好ましくは最大で70%、より好ましくは最大で50%、より好ましくは最大で30%、より好ましくは最大で10%、より好ましくは0%まで、細胞においてBMP依存性活性を阻害する。当業者にとって公知のように、例えばZilberberg et al.,2007.BMC Cell Biol.8:41で例示されるように、BMPの転写活性を測定することによって、BMP活性を調べることができる。
【0025】
いくつかのクラスの天然のBMP結合タンパク質が知られており、これには、ノギン(Noggin)(Peprotech)、コーディン(Chordin)および、コーディンドメインを含むコーディン様タンパク質(R&D systems)、ホリスタチン(Follistatin)および、ホリスタチンドメインを含むホリスタチン関連タンパク質(R&D systems)、DANおよびDANシステイン-ノットドメインを含むDAN様タンパク質(R&D systems)、スクレロスチン/SOST(R&D systems)、デコリン(R&D systems)およびα-2マクログロブリン(R&D systems)が含まれる。
【0026】
本発明の方法での使用に好ましいBMP阻害剤は、ノギン、DANおよびDAN様タンパク質(サーベラス(Cerberus)およびグレムリン(Gremlin)(R&D systems)を含む)から選択される。これらの拡散性タンパク質は、様々な親和度でBMPリガンドに結合し、シグナル伝達受容体へのそれらの接近を阻害することができる。これらのBMP阻害剤の何れかを基本培地に添加することによって、幹細胞の喪失が妨げられる(BMP阻害剤の何れかがない場合、培養の約2-3週間後に喪失が起こる)。
【0027】
最も好ましいBMP阻害剤はノギンである。ノギンは、好ましくは少なくとも10ng/ml、より好ましくは少なくとも20ng/ml、より好ましくは少なくとも50ng/ml、より好ましくは少なくとも100ng/mlの濃度で基本培地に添加される。最も好ましい濃度は、およそ100ng/mlまたは100ng/mlである。幹細胞の培養中、好ましくは2日ごとにBMP阻害剤を培養培地に添加し、一方、好ましくは4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換される。
【0028】
基本培地に添加されるさらなる成分はWntアゴニストである。Wntシグナル伝達経路は、Wntタンパク質がFrizzled受容体ファミリーメンバーの細胞表面受容体に結合した際に起こる一連の事象により定義される。この結果、アキシン、GSK-3およびタンパク質APCを含むタンパク質の複合体を阻害して細胞内β-カテニンを分解するDishevelledファミリータンパク質の活性化が起こる。結果として得られる濃縮された核β-カテニンは、TCF/LEFファミリー転写因子によって転写を促進する。
【0029】
Wntアゴニストは、細胞中でTCF/LEF介在性の転写を活性化する薬剤として定義される。従ってWntアゴニストは、Wntファミリータンパク質のありとあらゆるものを含むFrizzled受容体ファミリーメンバーに結合し、活性化する真のWntアゴニスト、細胞内β-カテニン分解の阻害剤およびTCF/LEFの活性化物質から選択される。このWntアゴニストは、この分子の非存在下でのWnt活性のレベルと比較して、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも100%、細胞においてWnt活性を刺激する。当業者にとって公知のように、Wnt活性は、例えばpTOPFLASHおよびpFOPFLASH Tcfルシフェラーゼレポーターコンストラクトによって、Wntの転写活性を測定することにより調べることができる(Korinek et al.,1997.Science 275:1784-1787)。
【0030】
Wntアゴニストは、Wnt-1/Int-1;Wnt-2/Irp(Int-1関連タンパク質);Wnt-2b/13、Wnt-3/Int-4;Wnt-3a(R&D systems);Wnt-4;Wnt-5a;Wnt-5b;Wnt-6(Kirikoshi H et al.2001.Biochem Biophys Res Com 283:798-805);Wnt-7a(R&D systems);Wnt-7b、Wnt-8a/8d;Wnt-8b;Wnt-9a/14;Wnt-9b/14b/15;Wnt-10a;Wnt-10b/12;Wnt-11およびWnt-16を含む分泌糖タンパク質を含む。ヒトWntタンパク質の概要は「THE WNT FAMILY OF SECRETED PROTEINS」、R&D Systems Catalog、2004)で提供される。さらに、Wntアゴニストは、分泌タンパク質のR-スポンジンファミリー(これは、Wntシグナル伝達経路の活性化および制御に関わり、4種類のメンバー(R-スポンジン1(NU206,Nuvelo,San Carlos,CA)、R-スポンジン2((R&D systems)、R-スポンジン3およびR-スポンジン-4)からなる)および、高親和性でFrizzled-4受容体に結合し、Wntシグナル伝達経路の活性化を誘導するという点でWntタンパク質のように機能する分泌性制御タンパク質であるノリン(Norrin、ノリー病タンパク質(Norrie Disease Protein)またはNDPとも呼ばれる)(R&D systems)を含む(Kestutis Planutis et al.(2007)BMC Cell Biol.8:12)。Wntシグナル伝達経路の小分子アゴニスト、アミノピリミジン誘導体が最近同定されたが、これもまたWntアゴニストとして明確に含まれる(Liu et al.(2005)Angew Chem Int Ed Engl.44,1987-90)。
【0031】
既知のGSK-阻害剤には、低分子干渉RNA(siRNA、Cell Signaling)、リチウム(Sigma)、ケンパウロン(Biomol International;Leost,M et al.(2000)Eur J Biochem.267,5983-5994)、6-ブロモインジルビン-30-アセトキシム(Meijer,L et al.(2003)Chem Biol.10,1255-1266)、SB216763およびSB415286(Sigma-Aldrich)およびFRAT-ファミリーメンバーおよびアキシンとのGSK-3の相互作用を阻止するFRAT由来ペプチドが含まれる。概要は、Meijer et al.(2004)Trends in Pharmacological Sciences 25,471-480(参照により本明細書に組み入れられる)により提供される。GSK-3阻害レベルを調べるための方法およびアッセイは当業者にとって公知であり、例えば、Liao et al.2004,Endocrinology,145(6):2941-9)に記載のような方法およびアッセイを含む。
【0032】
好ましい態様において、このWntアゴニストは、Wntファミリーメンバー、R-スポンジン1〜4、ノリンおよびGSK-阻害剤の1以上から選択される。少なくとも1つのWntアゴニストを基本培地に添加することが上皮幹細胞または単離陰窩の増殖に必須であることが本発明者らにより発見された。
【0033】
さらに好ましい態様において、このWntアゴニストは、R-スポンジン1を含むかまたはR-スポンジン1からなる。R-スポンジン1は、好ましくは、少なくとも50ng/ml、より好ましくは少なくとも100ng/ml、より好ましくは少なくとも200ng/ml、より好ましくは少なくとも300ng/ml、より好ましくは少なくとも500ng/mlの濃度で基本培地に添加される。R-スポンジン1の最も好ましい濃度は、およそ500ng/mlまたは500ng/mlである。幹細胞の培養中、好ましくは2日ごとにこのWntファミリーメンバーを培養培地に添加し、好ましくは4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換する。
【0034】
好ましい態様において、Wntアゴニストは、R-スポンジン、Wnt-3aおよびWnt-6からなる群より選択される。より好ましくは、WntアゴニストとしてR-スポンジンおよびWnt-3aの両者が使用される。この組み合わせは、驚くべきことにオルガノイド形成に対して相乗効果を有するので、特に好ましい。好ましい濃度は、R-スポンジンの場合およそ500ng/mlまたは500ng/mlであり、Wnt3aの場合およそ100ng/mlまたは100ng/mlである。
【0035】
基本培地に添加されるまたさらなる成分は、上皮増殖因子(EGF;(Peprotech)、形質転換増殖因子-α(TGF-α、Peprotech)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF、Peprotech)、脳由来神経栄養因子(BDNF;R&D Systems)およびケラチン生成細胞増殖因子(KGF、Peprotech)を含む増殖因子のファミリーから選択される分裂促進増殖因子である。EGFは、様々な培養外胚葉性細胞および中胚葉性細胞に対する強力な分裂促進因子であり、細胞インビボおよびインビトロでの、および細胞培養における一部の繊維芽細胞の、特異的細胞の分化に顕著な影響を有する。EGF前駆体は、タンパク質分解により切断されて、細胞を刺激する53-アミノ酸ペプチドホルモンを生成させる、膜結合分子として存在する。好ましい分裂促進増殖因子はEGFである。EGFは、好ましくは、5〜500ng/mlのまたは少なくとも5および500ng/ml以下の濃度で基本培地に添加される。好ましい濃度は、10、20、25、30、40、45または50ng/ml以上500、450、400、350、300、250、200、150または100ng/ml以下である。より好ましい濃度は、少なくとも50であり、100ng/ml以下である。さらにより好ましい濃度は、約50ng/mlまたは50ng/mlである。同じ濃度をFGFに対して、好ましくはFGF10またはFGF7に対して使用し得る。複数のFGF、例えばFGF7およびFGF10を使用する場合、FGFの濃度は上記で指定されるとおりであり、この濃度は使用されるFGFの総濃度を指す。幹細胞の培養中、好ましくは2日ごとに分裂促進増殖因子を培養培地に添加し、一方、好ましくは4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換する。bFGFファミリーの何れのメンバーも使用することができる。好ましくは、FGF7および/またはFGF10を使用する。FGF7はまたKGF(ケラチン生成細胞増殖因子)として知られている。さらに好ましい態様において、分裂促進増殖因子の組み合わせ、例えばEGFおよびKGFまたはEGFおよびBDNFなどを基本培地に添加する。さらに好ましい態様において、分裂促進増殖因子の組み合わせ、例えばEGFおよびKGFまたはEGFおよびFGF10などを基本培地に添加する。
【0036】
本発明による方法のさらなる態様は、Rock(Rho-キナーゼ)阻害剤を含む培養培地を含む。Rock阻害剤の添加によって、特に単一幹細胞を培養する場合、アノイキスが阻止されることが分かった。このRock阻害剤は、好ましくは、R)-(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド二塩酸塩一水和物(Y-27632、Sigma-Aldrich)、5-(1,4-ジアゼパン-1-イルスルホニル)イソキノリン(ファスジルまたはHA1077;Cayman Chemical)および(S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピン二塩酸塩(H-1152;Tocris Bioschience)から選択される。Rho-キナーゼ阻害剤、例えばY-27632は、好ましくは、この幹細胞の培養の最初の7日間、2日ごとに培養培地に添加される。Y27632に対する好ましい濃度は10□Mである。
【0037】
またさらなる態様において、本発明による方法は、Notchアゴニストをさらに含む培養培地を含む。Notchシグナル伝達は、細胞運命決定ならびに細胞生存および増殖において重要な役割を果たすことが示されている。Notch受容体タンパク質は、以下に限定されないが、Delta 1、Jagged 1および2ならびにDelta様1、Delta様3、Delta様4を含む多くの表面結合型または分泌性リガンドと相互作用し得る。リガンド結合時、ADAMプロテアーゼファミリーのメンバーを含む連続的な切断事象ならびにγセクレターゼプレシニリンにより制御される膜内切断によってNotch受容体が活性化される。この結果として、Notchの細胞内ドメインが核に移動し、ここで、これが下流遺伝子の転写を活性化する。好ましいNotchアゴニストは、Jagged 1およびDelta 1またはそれらの活性のある断片もしくは誘導体から選択される。最も好ましいNotchアゴニストは、配列:
を有するDSLペプチドである(Dontu et al.,2004、Breast Cancer Res 6:R605-R615)。このDSLペプチド(ANA spec)は、好ましくは10μM〜100nMまたは少なくとも10μMおよび100nM以下の濃度で使用される。特に培養の第一週中にNotchアゴニストを添加すると、培養効率が2〜3倍上昇する。このNotchアゴニストは、好ましくは、この幹細胞の培養の最初の7日間、2日ごとに培養培地に添加される。
【0038】
Notchアゴニストは、この分子の非存在下でのNotch活性レベルと比較して、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも100%、細胞においてNotch活性を刺激する分子として定義される。当業者にとって公知のように、Notch活性は、Notchの転写活性を測定することによって、例えば記載のような(Hsieh et al.,1996 Mol Cell Biol.16,952-959)4xwtCBF1-ルシフェラーゼレポーターコンストラクトによって、調べることができる。
【0039】
本発明は、骨形成タンパク質(BMP)阻害剤、Wntアゴニスト;および、EGF、TGF□、KGF、FGF10およびaFGFからなる群より選択される5〜500ナノグラム/mlまたは少なくとも5および500ナノグラム/ml以下の分裂促進増殖因子が添加されている、動物またはヒト細胞用の基本培地を含む細胞培養培地をさらに提供する。好ましくは、分裂促進因子は、EGF、TGF-□およびKGFからなる群よりまたはEGF、TGF-□およびFGF7からまたはEGF、TGF-□およびFGFからまたはEGFおよびKGFからまたはEGFおよびFGF7からまたはEGFおよびFGFからまたはTGF□およびKGFからまたはTGF□およびFGF7からまたはTGF□およびFGFから選択される。EGFはTGF□により置き換えることができる。いくつかの好ましい培養培地は、得ようとするオルガノイドに依存して後で特定される。本発明による細胞培養培地によって、細胞外マトリクス上での上皮幹細胞または単離陰窩の生存および/または増殖および/または分化が可能となる。細胞培養培地という用語は、培地、培養培地または細胞培地と同義である。
【0040】
本発明による好ましい方法において、第一の培養培地は、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子およびケラチン生成細胞増殖因子の両者(分裂促進増殖因子として)およびR-スポンジン1(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインが補充される。KGFは、FGFによりまたはFGF10により置き換えられ得る。[Leu15]-ガストリンI、エキセンジンおよび/またはニコチンアミドもまたこの第一の培地に添加し得る。
【0041】
別の好ましい態様において、第二の培地と呼ばれる培養培地は、ノギン不含であることおよび好ましくは[Leu15]-ガストリンI、エキセンジンおよび/またはニコチンアミド不含であることを除き、第一の培地と同一である。従ってこの第二の培養培地は、上皮増殖因子およびケラチン生成細胞増殖因子の両者(分裂促進増殖因子として)およびR-スポンジン1(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインが補充されている。KGFはまたFGFによってまたはFGF10によっても置き換えられ得る。これらの2種類の細胞培養培地は、マトリゲル細胞外マトリクスにおいてこれらの培地中で増殖させられ、細胞外マトリクス上で膵島様構造を含む膵臓オルガノイド(pancreatic organoid)を形成する膵臓幹細胞を含む膵臓断片を支持する。ノギン不含の第二の培地は、最小培地であり、一方で、ノギン含有の第一の培地により、膵臓断片を増幅させるための改良培地が得られる。増幅用培地は、好ましくは、培養の少なくとも2日間、細胞の生存および/または増殖を促進する培地である。
【0042】
第三の培地は、少なくとも5日以内に、膵臓オルガノイドへ細胞が分化するのを促進、誘導することができるように設計されている。膵臓オルガノイド形成に対するある好ましい分化マーカーは、ニューロゲニン-3であり、その発現はRT-PCRによるかまたは免疫組織化学によって検出し得る。例えば第三または第四の培地のような分化培地は、この培地での培養の少なくとも5日後にニューロゲニン-3がRT-PCRによるかまたは免疫組織化学によって検出され得る場合、機能的であると言われる。この分化段階は、好ましくは、上記で定義されるとおりの第一または第二の培地のような培地中での第一の増幅段階後に行われる。この第三の培地は、FGFまたはKGFあるいはFGF10不含であることを除き、上記で特定される第二の培地と同一である。この第三の培地は、上皮増殖因子およびR-スポンジン1(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインが補充されている。
【0043】
第四の培地は既に述べた第一の培地と同一であるように設計されているが、この第四の培地には[Leu15]-ガストリンIおよび/またはエキセンジンも補充されている。第三の培地は最小分化培地であり、一方、この第四の培地は改良分化培地である。分化培地は、好ましくは、培養の少なくとも5日間、細胞の特異的分化を誘導または促進する培地である。膵臓オルガノイドの場合、本明細書中で前に定義されるような膵臓系統に付随する特異的なマーカーの存在を検出することによって、分化を測定し得る。膵臓系統に付随するその他のマーカーの例には、分化培地中での培養の少なくとも7、8、9、10日後にRTPCRまたは免疫組織化学により検出可能であるインスリンの分泌が含まれる。
【0044】
従って、膵臓オルガノイドを得るためのおよび/または培養するための好ましい方法において、第一段階で、第一または第二の培地の何れかの中で、続いて第二段階で第三または第四の培地の何れかの中で、上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞を培養する。この第一段階は少なくとも2週間の期間であり得るかまたはそれを超えてもよい。第一段階は、1、2、3、4、5、6、7、8、9ヶ月を超えるかまたは10ヶ月を超えて行われ得る。第二段階は、8、9、10、11、12、13、14、15、16日間以上の期間であり得る。各段階は、好ましくは、本明細書中で定義されるような細胞外マトリクスを用いて行われる。各培地中に存在する各化合物の好ましい濃度は、本明細書中の説明または実施例で既に指定されている。好ましい態様において、再生医療用に膵臓オルガノイドを使用しようとする場合、上皮細胞からまたは単離膵臓断片から開始する。別の好ましい態様において、薬物探索系として膵臓オルガノイドを使用しようとする場合、腺腫から開始する。従って、本発明の方法によって取得可能な膵臓オルガノイドは本発明のさらなる局面である。従って、本発明のさらなる局面において、本発明は、本明細書中で定義されるような、第一、第二、第三、第四の培地を提供する。
【0045】
本発明者らが知る限り、少なくとも培養10ヶ月後、機能的で生存している膵臓オルガノイドが得られたのはこれが最初である(実験パート参照)。機能性は、好ましくはインスリン分泌を特徴とする。得られる膵臓オルガノイドの最終量は培養期間に相関するので、当業者は、本発明が新開拓発明であり、例えば再生医療において新しい可能性を開く可能性があることを理解する。
【0046】
従って、膵臓オルガノイドを得るためのおよび/または培養するための好ましい方法において、第一段階において、EGF、KGFまたはFGFおよびR-スポンジン1(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインが補充されている培地中で、続いて第二段階で、EGFおよびR-スポンジン1(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインが補充された培地中で、細胞外マトリクスと接触させて上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞を培養する。
【0047】
本発明によるさらに好ましい方法において、培養培地は、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子(分裂促進増殖因子として)、R-スポンジン1および/またはWnt3a(Wntアゴニストとして)を含む。この細胞培養培地は、細胞外マトリクスとしてマトリゲルを含む三次元培養において単離小腸陰窩の培養を支持する。
【0048】
本発明によるさらに好ましい方法において、培養培地は、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子(分裂促進増殖因子として)、R-スポンジン1(Wntアゴニストとして)、Notch Jagged-DSLペプチド(アゴニストとして)およびRhoキナーゼ阻害剤Y-27632を含む。この細胞培養培地は、細胞外マトリクスとしてマトリゲルを含む三次元培養における単離単一上皮幹細胞の培養を支持する。
【0049】
本発明によるさらなる好ましい方法において、培養培地は、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子および/またはBDNF(分裂促進増殖因子として)、R-スポンジン1および/またはWnt-3a(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインの少なくとも1つが補充されている。Wnt-3aは、この好ましい方法において、好ましいWntアゴニストである。この細胞培養培地は、細胞外マトリクスとしてマトリゲルを含む三次元培養での単離結腸陰窩の培養を支持する。この培地は、培養の少なくとも2日間、細胞の生存および/または増殖および/または分化を促進することができる。結腸陰窩の形成に対する好ましい分化マーカーは次の群から選択され得る:腸細胞の存在を示すアルカリホスファタイズ(alkaline phosphatise)、杯細胞の存在を示すMuc2および内分泌細胞の存在を示すニューロジェニック3またはクロモグラニン。これらの各マーカーの発現は、RTPCRによってまたは免疫組織化学によって検出し得る。結腸陰窩を得るための細胞の生存および/または増殖および/または分化を促進するために機能的である培地は、特定されるマーカーの少なくとも1つが培養の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10日以上後に検出され得るようなものである。好ましい培地は、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子(分裂促進増殖因子として)およびR-スポンジン1および/またはWnt-3a(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインの少なくとも1つが補充されている。この培地は、本発明のさらなる局面に相当する本発明の第五の培地と呼ばれる。
【0050】
従って、結腸陰窩を得るためのおよび/または培養するための好ましい方法において、上記で特定されるような培地、好ましくはこの第五の培地中で、上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞を培養する。この方法は、好ましくは、本明細書中で定義されるように細胞外マトリクスを用いて行われる。この培地中に存在する各化合物の好ましい濃度は、本明細書中の説明または実施例で既に規定されている。従って、本発明の方法により取得可能な結腸陰窩は本発明のさらなる局面である。本発明者らの知る限り、少なくとも培養1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月後、機能的で生存している結腸陰窩が得られたのはこれが最初である(実験パート参照)。機能性とは、好ましくは、上記で特定されるようなマーカーの少なくとも1つが存在することを特徴とする。本発明は新開拓発明であり、例えば再生医療において新しい可能性を開く可能性がある
【0051】
従って、結腸陰窩を得るためのおよび/または培養するための好ましい方法において、上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞は、ノギン、EGFおよびR-スポンジン1および/またはWnt-3(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインが補充された培地中で細胞外マトリクスと接触させて培養される。
【0052】
本発明によるまたさらなる好ましい方法において、培養培地は、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子(分裂促進増殖因子として)、R-スポンジン1(Wntアゴニストとして)を含み、Wnt-3aまたはKGFの何れかが補充され、B27、N2、N-アセチルシステインをさらに含む。この培地は、第六の培地と呼ばれ、従って本発明のさらなる局面に相当する。KGFはFGFによってまたはFGF10によって置き換えられ得る。この培地は、好ましくは、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子およびFGF10(分裂促進増殖因子として)、R-スポンジン1およびWnt-3a(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2、N-アセチルシステインをさらに含む。FGF10は、例えばFGF7よりも良好な結果を与えるので、FGFとして好ましい(図32)。この細胞培養培地は、細胞外マトリクスとしてマトリゲルを含む三次元培養中での単離胃断片または胃オルガノイドの培養を支持する。
【0053】
この第六の培地は胃断片を増幅させるための培地である。増幅用培地は、好ましくは培養の少なくとも2日間、細胞の生存および/または増殖を促進する培地である。さらなる培地、即ち第七の培地は、少なくとも2日間以内に、胃オルガノイドまたは胃断片への細胞の分化を促進、誘導することができるように設計されている。この第七の培地は、第六の培地中に存在するものと比較してWnt-3aの濃度が低いことを除き、上記で特定される第六の培地と同一である。この濃度は、第六の培地中に存在するWnt-3a濃度と比較して、少なくとも25%、50%、100%、200%、300%、400%、500%、600%以上低くなっている。この第七の培地は、上皮増殖因子、およびR-スポンジン1およびWnt-3a(Wntアゴニストとして)、ノギンならびにFGF10を含み、B27、N2、N-アセチルシステインおよびガストリンが補充されている。ガストリンは、好ましくは1nMの濃度で使用される。
【0054】
この第七の培地は、分化培地である。分化培地は、好ましくは、培養の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10日間以上、細胞の特異的分化を誘導または促進する培地である。胃オルガノイドまたは胃断片の場合、胃系統に付随する特異的マーカーの存在を検出することによって、分化を評価し得る。胃系統に付随するマーカーの例には、MUC5AC(ピット細胞マーカー)、ガストリンおよび/またはソマトスタチン(両者とも内分泌細胞マーカー)が含まれる。これらのマーカーのうち少なくとも1つの存在は、好ましくはRT-PCRおよび/または免疫組織化学または免疫蛍光を用いて行われる。これらのマーカーのうち少なくとも1つの存在は、好ましくは、分化条件下で少なくとも6日後、より好ましくは少なくとも10日後、検出可能である。例えば第七の培地のような分化培地は、その培地での培養の少なくとも6日後にRT-PCRによりまたは免疫組織化学により、上記で特定されるマーカーのうち少なくとも1つが検出され得る場合、機能的であると言われる。この分化段階は、好ましくは、上記で定義されるとおりの第六の培地のような培地中での第一の増幅段階後に行われる。
【0055】
従って、胃断片を得るためのおよび/または培養するための好ましい方法において、第一段階において第六の培地中で、続いて第二段階で第七の培地中で、上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞を培養する。各段階は好ましくは本明細書中で定義されるとおり、細胞外マトリクスを用いて行われる。この第一段階は、少なくとも3日の期間を有し得、より長くてもよい。第一段階は、3、4、5、6、7、8、9以上にわたり行われ得る。第二段階は、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16日以上の期間を有し得る。各培地に存在する各化合物の好ましい濃度は本明細書中の説明または実施例で既に規定されている。従って、本発明の方法により取得可能な胃断片は本発明のさらなる局面である。
【0056】
従って、胃断片を得るためのおよび/または培養するための好ましい方法において、第一段階で、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子およびFGF10(分裂促進増殖因子として)、R-スポンジン1およびWnt-3a(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2、N-アセチルシステインをさらに含む培地中で、続いて第二段階で上皮増殖因子、およびR-スポンジン1およびWnt-3a(Wntアゴニストとして)、ノギンならびにFGF10を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインが補充されている培地(ここで、Wnt-3濃度は、第二段階では、第一段階で存在するWnt-3濃度と比較して低い)中で、上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞を細胞外マトリクスと接触させて培養する。
【0057】
本発明によるまたさらなる好ましい方法において、培養培地はノギン(BMP阻害剤として)および上皮増殖因子(分裂促進増殖因子として)を含む。この細胞培養培地は、細胞外マトリクスとしてマトリゲルを含む三次元培養における、単離腺腫断片または単離された単一腺腫細胞の培養を支持する。
【0058】
例えばWnt3aなどのリガンドを培養培地に新しく添加し得る。あるいは、リガンドは、細胞株に対してこのリガンドを発現する適切な発現コンストラクトを遺伝子移入または感染させることによって、その細胞株で発現される。この細胞株を培養し、分泌されたリガンドを含む培養培地を適切な時間間隔で回収する。例えば、細胞は、それらが密集状態に到達して増殖を停止するとすぐにWnt3aを産生するようになる。この発現コンストラクトを遺伝子移入しなかったかまたは感染させなかった細胞からの培養培地を対照として使用する。馴化培地を回収し、例えば、Wnt3aなどのWntアゴニストの存在について試験するための、ルシフェラーゼ発現がTCF応答配列により調節されるアッセイにおいて試験する(Korinek et al.,1997 Science 275:1784-1787)。組織を再生するための培養で使用する場合、培地を希釈する。当業者とって公知であるように、リガンドの過剰な添加は、リガンド添加量が過少である場合と同じように培養に対して悪影響がある。従って、馴化培地の実際の希釈は、試験で測定されるリガンド量に依存する。
【0059】
本発明は、細胞外マトリクス上でこれらの幹細胞を含む上皮幹細胞または単離オルガノイド構造を培養するための本発明による培地の使用をさらに提供する(この幹細胞は好ましくはヒト胚性幹細胞を含まない)。ヒト成人幹細胞が好ましい。さらに、小腸、結腸および胃由来の選別単一上皮幹細胞は、本発明による培養培地中でこれらの三次元オルガノイドを惹起することも可能である。本発明は、膵島様構造を含む膵臓オルガノイドを形成する幹細胞を含む膵臓断片を培養するための、本発明による培養培地の使用をさらに提供する。
【0060】
このような幹細胞が膵臓、胃、腸または結腸上皮幹細胞であることが好ましく、最も好ましい幹細胞は小腸幹細胞である。本発明による培養培地により、全ての分化細胞型が存在する絨毛様上皮ドメインを同時に形成しながら、単一の陰窩が複数の陰窩分裂事象を受ける長期培養条件が確立できた。本発明による培養方法を用いて、少なくとも7ヶ月、少なくとも8ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも10ヶ月の培養期間が可能となった。
【0061】
培養された陰窩において、それらが培養に供された後、劇的な形態変化が起こる。新たに単離した陰窩の上部の開口部が密閉され、この領域が徐々に膨らみ、アポトーシス細胞で満たされ、アポトーシス細胞が絨毛端でくびれ切られるように見える。陰窩領域では、継続的に出芽事象が起こり、これによりさらなる陰窩が形成される(陰窩分裂に似たプロセス)ことが分かった。この陰窩様伸展は、増殖性細胞、パネート細胞、腸細胞および杯細胞を含む、全ての分化上皮細胞型を含む。このオルガノイドにおいて、何れの段階でも、筋繊維芽細胞またはその他の非上皮細胞は同定されなかった。
【0062】
出芽陰窩構造の増幅によって、絨毛様上皮で内部が覆われ、アポトーシス細胞体で満たされた中心内腔を囲む>40個の陰窩様構造を含むオルガノイドが形成された。陰窩-絨毛オルガノイドは、絨毛様上皮により内面が覆われている中心内腔を含む。この内腔は、連続的な時間間隔で開口し、培地中に内容物を放出する。少なくとも6ヶ月間、不可欠な特徴を喪失することなく、このオルガノイドを継代し、培養中で維持することができる。継代は、好ましくはオルガノイドの手作業の断片化を含む。
【0063】
単一上皮幹細胞を培養した場合、同様の陰窩-絨毛オルガノイド構造が形成される。約1週間後、無傷の陰窩により得られる陰窩-絨毛オルガノイド構造と強い類似性がある構造が形成される。これらのオルガノイドの組織学的分析によってまた、基本的な陰窩-絨毛構造が維持されること、全ての分化細胞型が存在することおよび非上皮エレメントがないことも明らかになった。
【0064】
従って、ある局面において、本発明は、本発明の培養培地中での上皮幹細胞または単離陰窩の培養の結果得られる、絨毛様上皮により内面が覆われている中心内腔を含む陰窩-絨毛オルガノイドを提供する。好ましくは、この陰窩-絨毛オルガノイドは、本発明の方法を用いて得ることができる。
【0065】
さらなる局面において、本発明は、本発明の方法に従い膵臓断片を培養することにより形成されるかまたは得ることができる膵臓オルガノイドを提供する。膵臓オルガノイドのおよそ20%が培養開始から7日後に出芽構造を形成する。成長が非常に遅い腺房組織と比較して膵管は急激に増殖する。膵臓オルガノイドの継代後、健康な膵臓組織に存在するランゲルハンス膵島と類似する、インスリンを分泌する膵臓の膵島様構造が観察される。本発明は、中心内腔を含む胃オルガノイドをさらに提供する。好ましくはこの胃オルガノイドは本発明の方法により得ることができる。
【0066】
培養培地に添加することができるさらなる増殖因子には、例えば、オルガノイド中の膵島の存在を増加させるためのものまたは胃断片などの単離断片の培養をさらに支持するためのもの、シクロパミン(ソニック−ヘッジホッグ阻害剤;Tocris Bioscience)、アクチビン、GLP(グルカゴン様ペプチド)およびその誘導体(エキセンジン4;California Peptide Research)、ガストリン(Genscript)、Notchアゴニスト(Jagged Peptide Ana Spec)、ニコチンアミドおよびWntアゴニスト(例えばWnt-3aなど)などが含まれる。Wnt-3aは、単一細胞を用いて培養を開始する場合に使用するのに魅力的である。
【0067】
本発明は、それぞれ、10個を超える、好ましくは20個を超える、より好ましくは40個を超えるオルガノイドを含む、陰窩-絨毛、胃または膵臓オルガノイドの回収さらに提供する。この陰窩-絨毛オルガノイドは、絨毛様上皮により内面が覆われている中心内腔を取り囲んでいる。この内腔にはアポトーシス細胞体が満たされている。陰窩-絨毛オルガノイドの細胞は極性があり、この構造の基底部に幹細胞が存在する。陰窩様構造の先端部は、内腔に流されるアポトーシス細胞を含む。この陰窩-絨毛オルガノイドの収集物は、好ましくは少なくとも10%の生存細胞、より好ましくは少なくとも20%の生存細胞、より好ましくは少なくとも50%の生存細胞、より好ましくは少なくとも60%の生存細胞、より好ましくは少なくとも70%の生存細胞、より好ましくは少なくとも80%の生存細胞、より好ましくは少なくとも90%の生存細胞を含む。細胞の生存能力は、FACSにおいてヘキスト染色またはヨウ化プロピジウム染色を用いて評価することができる。
【0068】
さらなる局面において、本発明は、薬物探索スクリーニング、毒性アッセイにおけるまたは再生医療における、本発明による、陰窩-絨毛オルガノイド、胃オルガノイドまたは膵臓オルガノイドの使用を提供する。
【0069】
ハイスループット目的のために、この陰窩-絨毛、胃または膵臓オルガノイドを例えば96ウェルプレートまたは384ウェルプレートなどのマルチウェルプレート中で培養する。分子のライブラリを使用して、このオルガノイドに影響を与える分子を同定する。好ましいライブラリは、抗体断片ライブラリ、ペプチドファージディスプレイライブラリ、ペプチドライブラリ(例えばLOPAP(商標)、Sigma Aldrich)、脂質ライブラリ(BioMol)、合成化合物ライブラリ(例えばLOP AC(商標)、Sigma Aldrich)または天然化合物ライブラリ(Specs、TimTec)を含む。さらに、腺腫細胞の子孫においてより多い遺伝子の1つの発現を誘導または抑制する遺伝子ライブラリを使用することができる。これらの遺伝子ライブラリには、cDNAライブラリ、アンチセンスライブラリおよびsiRNAまたはその他の非コードRNAライブラリが含まれる。好ましくはある一定の時間にわたり細胞を試験薬剤の複数の濃度に曝露する。曝露時間終了時に、培養物を評価する。「影響を与える」という用語は、以下に限定されないが、増殖の低下または停止、形態変化および細胞死を含む、細胞における何らかの変化を包含するために使用される。この陰窩-絨毛、胃または膵臓オルガノイドはまた、上皮癌細胞を特異的に標的とするが、陰窩-絨毛、胃または膵臓オルガノイドを標的としない薬物を同定するために使用することもできる。
【0070】
この陰窩-絨毛、胃または膵臓オルガノイドは、さらに、新規候補薬物または既知もしくは新規栄養補助食品の毒性アッセイにおいてCaco-2細胞などの細胞株の使用に代わるものとなり得る。
【0071】
さらに、この陰窩-絨毛、胃または膵臓オルガノイドは、現在のところ適切な組織培養または動物モデルがないノロウイルスなどの病原体を培養するために使用することができる。
【0072】
陰窩-絨毛オルガノイドを含む培養は、再生医療において、例えば、放射線照射後および/または術後の腸上皮の修復において、クローン病および潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患に罹患している患者の腸上皮の修復において、および短腸症候群に罹患している患者の腸上皮の修復において、有用である。さらなる使用は、小腸/結腸の遺伝性疾患の患者における腸上皮の修復にある。膵臓オルガノイドを含む培養もまた、再生医療において、例えば膵臓切除後の移植片またはその一部としておよびI型糖尿病およびII型糖尿病などの糖尿病の治療のために有用である。
【0073】
代替的な態様において、増幅させた上皮幹細胞は、関連組織運命、例えば膵臓β-細胞を含む膵臓細胞および肝臓細胞などに再プログラムされる。今までのところ、成体の幹細胞から、膵臓細胞または肝臓幹細胞を再生することはできていない。本発明の培養法によって、膵臓β-細胞を含む膵臓細胞および肝臓細胞へと、密接に関連する上皮幹細胞を分化転換させる因子に関する分析を可能にするであろう。
【0074】
当業者にとって当然のことながら、損傷または疾患組織の修復のための方法において遺伝子治療をさらに使用することができる。例えば、DNAおよび/またはRNAのような遺伝子情報を幹細胞に送達するために、アデノウイルスまたはレトロウイルス遺伝子送達ビヒクルを使用することができる。当業者は、遺伝子治療において標的となる特定の遺伝子を置き換えるかまたは修復することができる。例えば、非機能的遺伝子を置き換えるために、正常遺伝子をゲノム内の非特異的位置に挿入することができる。別の例において、相同組み換えを通じて、異常な遺伝子配列を正常な遺伝子配列に置き換えることができる。あるいは、選択的復帰突然変異により、遺伝子をその正常機能に戻すことができる。さらなる例は、特定の遺伝子の制御(遺伝子がオンまたはオフにされる度合い)を変化させることである。好ましくは、幹細胞は、遺伝子治療アプローチによりエクスビボで処理され、続いて哺乳動物、好ましくは治療を必要とするヒトに遺伝子移入される。
【0075】
別の局面において、本発明は、細胞外マトリクスを提供し、上皮腺腫細胞を細胞外マトリクスに接着させ、骨形成タンパク質(BMP)阻害剤および、EGF、TGF-αおよびKGFから選択される5〜500ナノグラム/mlのまたは少なくとも5および500ナノグラム/ml以下の分裂促進増殖因子が添加されている、動物またはヒト細胞用の基本培地を含む細胞培養培地の存在下で細胞を培養することを含む、上皮腺腫細胞を培養するための方法を提供する。KGFはFGFまたはFGF10で置き換え得る。
【0076】
上皮結腸腺腫細胞は、APCタンパク質をコードする遺伝子の変化を含み、その結果、APCを含むタンパク質の複合体化により、細胞内β-カテニンの効果的な分解が低下している。結腸腺腫に共通するその他の突然変異には、β-カテニンまたはアキシン2における突然変異が含まれる。全体的な結果として、核中のβ-カテニン量が増加するためにTCF/LEFシグナル伝達が促進される。Wntアゴニスト不含の培養培地は、腺腫細胞の増殖に十分であることが分かった。
【0077】
この腺腫細胞は、EDTAなどの解離剤の使用を含む、当技術分野において公知である方法を用いて、上皮腺腫から単離することができる。あるいは、Lgr5-結合化合物を使用し、続いて磁性ビーズまたはFACS分析を使用することにより、腺腫から、単一Lgr5-またはLgr-6-陽性腺腫細胞を単離することができる。
【0078】
本発明は、骨形成タンパク質(BMP)阻害剤および5〜500ナノグラム/mlのまたは少なくとも5および500ナノグラム/ml以下の上皮増殖因子(EGF)が添加されている動物またはヒト細胞用の基本培地を含む細胞培養培地の存在下で培養された上皮腺腫細胞の子孫をさらに提供する。培養された腺腫細胞は、陰窩-絨毛様構造などの極性のある三次元構造を発達させることができない。むしろ、腺腫細胞は、末端または中心内腔の何れかに対して細胞の向きが不規則である空胞様構造を形成する。その他の上皮細胞型への分化の兆候はない。この結果から、陰窩-絨毛様構造の三次元構成におけるAPCに関する役割が示唆される。
【0079】
さらに、本発明は、同じ培養培地中で培養される増幅正常上皮細胞と比較して腺腫細胞に特異的に影響を与える薬物を同定するための標的化薬物探索スクリーニング用の腺腫細胞子孫の使用を提供する。ハイスループット目的のために、腺腫細胞の子孫を例えば96ウェルプレートまたは384ウェルプレートなどのマルチウェルプレート中で培養する。分子のライブラリを使用して、この子孫に影響を与える分子を同定する。好ましいライブラリは、抗体断片ライブラリ、ペプチドファージディスプレイライブラリ、ペプチドライブラリ(例えばLOPAP(商標)、Sigma Aldrich)、脂質ライブラリ(BioMol)、合成化合物ライブラリ(例えばLOP AC(商標)、Sigma Aldrich)または天然化合物ライブラリ(Specs、TimTec)を含む。さらに、腺腫細胞の子孫におけるより多い遺伝子の1つの発現を誘導または抑制する遺伝子ライブラリを使用することができる。これらの遺伝子ライブラリには、cDNAライブラリ、アンチセンスライブラリおよびsiRNAまたはその他の非コードRNAライブラリが含まれる。腺腫細胞に影響を与える化合物は、続いてまたは平行して、増幅正常上皮細胞への影響について試験する。「影響を与える」という用語は、増殖の低下または停止、形態変化および細胞死を含む、細胞における何らかの変化を包含するために使用される。子孫はまた、癌細胞の復帰を含め、上皮腺腫細胞と比較して特異的に上皮癌細胞を標的とする薬物を同定するために使用することもできる。
【0080】
候補薬物のインビトロでの代謝安定性および代謝プロファイルを調べるために、この子孫をハイスループットアプローチにおいて使用することもできることが明らかとなろう。
【0081】
本発明は、毒性アッセイでの、本発明による腺腫細胞の子孫の、本発明の膵臓オルガノイド、胃オルガノイドおよび陰窩-絨毛オルガノイドの使用をさらに提供する。この子孫および陰窩-絨毛オルガノイドは、容易に培養され、例えば、現在毒性アッセイに使用されているCaco-2(ATCC HTB-37)、I-407(ATCC CCL6)およびXBF(ATCC CRL 8808)などの上皮細胞株よりも初代上皮細胞によく似ている。初代腺腫培養物を用いてまたは陰窩-絨毛オルガノイドを用いて得られた毒性結果は、患者において得られる結果とより類似性が高いと予想される。細胞を用いた毒性試験は、器官特異的な細胞毒性を調べるために使用される。この試験で試験される化合物には、化学抗癌剤、環境化学物質、栄養補助食品および毒性を有する可能性がある物質が含まれる。ある一定の時間にわたり、試験薬剤の複数の濃度に細胞を曝露する。アッセイにおける試験化合物に対する濃度範囲は、5日間曝露し、最大可溶濃度から対数的に希釈する予備アッセイで決定される。曝露時間終了時に、増殖の阻害について培養物を評価する。データを分析して、エンドポイントを50パーセント阻害した濃度(TC50)を判定する。
【0082】
本明細書およびその特許請求の範囲において、「含むこと(to comprise)」という語およびその活用形は、その語の後の事柄が含まれるが、具体的に言及されない事柄が排除されないということを意味するように非限定的な意味で使用される。さらに、「からなる(to consist)」という語は、本明細書中で定義される物質が、具体的に特定されるもの以外のさらなる成分を含み得、この追加成分が本発明の特有の特徴を変化させないことを意味する、「基本的に、からなる(to consist essentially of)」という語で置き換えることができる。さらに、本明細書中で定義される方法は、具体的に特定されるもの以外のさらなる段階を含み得、この追加の段階は本発明の特有の特徴を変化させない。さらに、不定冠詞「a」または「an」による要素に対する言及は、内容によって1つまたはただ1つの要素があることが明確に要求されない限り、複数の要素が存在する可能性を排除しない。従って、不定冠詞「a」または「an」は通常、「少なくとも1つ」を意味する。「約」または「およそ」という語は、数値と連結して使用される場合(約10)、好ましくは、その値が、10という値よりその値の1%大きいかまたは小さいある値であり得ることを意味する。
【0083】
本明細書中で引用される全ての刊行物および参考文献は、それらの全体において参照により本明細書に組み入れられる。
【0084】
以下の実施例は、単なる例示目的のために与えられるものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0085】
実施例1:インビトロでの小腸陰窩および絨毛の培養
材料および方法
マウス:6〜12週齢の非近交系マウスを使用した。Lgr5-EGFP-Ires-CreERT2対立遺伝子1の作製および遺伝子型解析は既に記載されている1。Rosa26-lacZまたはYFP CreレポーターマウスはJackson Labsから得た。
【0086】
陰窩単離、細胞分離および培養:2mM EDTA/PBS中で4℃にて30分間恒温放置することによって、マウス小腸から陰窩を放出させた。単離陰窩を計数し、ペレット化した500個の陰窩を50μlマトリゲル(BD Bioscience)と混合し、24ウェルプレートに播種した。マトリゲルの重合後、500μlの陰窩培養培地(増殖因子(10〜50ng/ml EGF(Peprotech)、500ng/ml R-スポンジン111および100ng/mlノギン(Peprotech)入りのアドバンスト-DMEM/F12)を添加した。選別実験に対して、培養培地中で37℃にて45分間、単離陰窩を恒温放置し、続いて硝子ピペットで再懸濁した。分離した細胞を20-μm細胞ストレイナーに通した。フローサイトメトリー(MoFlo,Dako)によってGFPhi、GFPlowまたはGFP細胞を選別した。前方散乱、側方散乱およびパルス幅パラメーターによっておよびヨウ化プロピジウムについて陰性染色して、単一生存上皮細胞にゲートをかけた。選別した細胞を陰窩培養培地中で回収し、細胞1個/ウェル(96ウェルプレート中、5μlマトリゲル)となるようにJagged-1ペプチド(Ana Spec、1μM)を含むマトリゲル中で包埋した。Y-27632(10μM)を含む陰窩培養培地(48ウェルプレートに対して250μl、96ウェルプレートに対して100μl)で覆った。1日おきに増殖因子を添加し、全培地を4日ごとに交換した。継代のために、オルガノイドをマトリゲルから取り出し、単一陰窩ドメインになるように機械的に分離し、新しいマトリゲルへと移した。1:5の分割比で1〜2週間ごとに継代を行った。
【0087】
試薬:マウス組み換えEGFおよびノギンはPeprotechから購入した。培養実験のために、ヒト組み換えR-スポンジン111、Y-27632(Sigma)、4-ヒドロキシタモキシフェン(Sigma)およびEdu(Invitrogen)を使用した。免疫染色のために次の抗体を使用した:抗リゾチーム(Dako)、抗シナプトフィジン(Dako)、抗BrdU(Roche)、抗β-カテニン(BD Bioscience)、抗E-カドヘリン(BD Bioscience)、抗平滑筋アクチン(Sigma)、抗EphB2およびB3(R&D)、抗ビリン、抗Muc2、抗クロモグラニンA(Santa Cruz)、抗カスパーゼ-3(Cell Signaling)。
【0088】
陰窩単離:摘出した小腸を縦方向に切開し、冷PBSで洗浄した。この組織を5mm前後の小片になるように刻み、さらに冷PBSで洗浄した。この組織断片をPBSとともに氷上で2mM EDTA中で30分間恒温放置した。EDTA培地の除去後、10mlピペットによりこの組織断片を冷PBSにとともに激しく縣濁した。上清は絨毛分画であり、廃棄し、沈殿物をPBSで再懸濁した。さらに激しく縣濁し、遠心した後、上清には陰窩が濃縮された。この分画を70μm細胞ストレイナー(BD bioscience)に通して、残存絨毛物質を除去した。単離陰窩を300rpmで3分間遠心し、単一細胞から陰窩を分離した。最終分画は基本的に純粋な陰窩からなり、培養または単一細胞分離のために使用した。
【0089】
タモキシフェン誘導およびX-gal染色:CreERT2を活性化するために、12時間にわたり低用量4-ヒドロキシタモキシフェン(10OnM)とともに陰窩を恒温放置し、陰窩培養培地中で培養した。既に記載のようにX-gal染色を行った1。4-ヒドロキシタモキシフェン非処理では染色は見られなかった。
【0090】
電子顕微鏡分析:既に記載のように1、室温にて5時間、カルノフスキー固定液(2%パラホルムアルデヒド、2.5%グルタルアルデヒド、0.1Mカコジル酸ナトリウム、2.5mM CaCl2および5mM MgCl2、pH7.4)中で陰窩オルガノイドを含むマトリゲルを固定した。エポン樹脂中で試料を包埋し、Phillips CM10顕微鏡(Eindhoven、The Netherlands)を用いて調べた。
【0091】
マイクロアレイ分析:結腸陰窩、小腸陰窩およびオルガノイドの遺伝子発現分析。2匹のマウスから新たに単離した小腸陰窩を2つに分割した。一方からRNAを直接単離し(RNeasy Mini Kit、Qiagen)、他方を1週間培養し、続いてRNAを単離した。本発明者らは、製造者の説明書(Agilent Technologies)に従い、標識cRNAを調製した。2回のダイスワップ実験において、4X44k Agilent Whole Mouse Genome二色マイクロアレイ(G4122F)上で、小腸陰窩およびオルガノイド由来の、標識が異なるcRNAをその2匹のマウスに対して個別にハイブリッド形成させ、その結果、4種類の個別のアレイを得た。さらに、2回のダイスワップ実験において、標識が異なる小腸陰窩に対して、単離結腸陰窩をハイブリッド形成させ、その結果、4種類の個別のマイクロアレイを得た。Feature Extraction(V.9.5.3、Agilent Technologies)を用いて、マイクロアレイシグナルおよびバックグラウンド情報を収集した。ArrayAssist(5.5.1、Stratagene Inc.)およびMicrosoft Excel(Microsoft Corporation)を用いて全データ解析を行った。ローカルバックグラウンドを差し引くことによって未加工シグナル強度を補正した。ある1つのチャネルにのみ存在する特性に対する強度間の比率(小腸陰窩またはオルガノイド)または(小腸陰窩または結腸陰窩)を計算できるようにするために、負の値をゼロに近い正の値に変換した(ローカルバックグラウンドの標準偏差)。Lowessアルゴリズムを適用することによって正規化を行い、(小腸陰窩またはオルガノイド)もしくは(小腸陰窩または結腸陰窩)強度の両者が変化した場合、または両強度がバックグラウンドシグナルの2倍未満であった場合、個々の特性をフィルターにかけた。さらに、不均一な特性をフィルターにかけた。データは公開されており、GEO(Gene Expression Omnibus、number GSE 14594)で入手可能である。クラスター3(距離:シティーブロック、相関:平均連結法)を用いて、小腸/結腸陰窩およびオルガノイドの正規化した強度(特徴抽出における処理済みシグナル)において教師なし階層的クラスター分析を行い、TreeViewで視覚化した。遺伝子は、それらが全アレイにおいて一貫してオルガノイドまたは陰窩で3倍を超えて濃縮された場合、顕著に変化したとみなした。
【0092】
画像解析:共焦点顕微鏡(Leica、SP5)、倒立顕微鏡(Nikon DM-IL)または実体顕微鏡(Leica、MZl6-FA)の何れかで陰窩オルガノイドの画像を取得した。免疫組織化学のために、試料を4%パラホルムアルデヒド(PFA)で室温にて1時間固定し、標準技術1によりパラフィン切片を処理した。以前記載されたように1免疫組織化学を行った。ホールマウント免疫染色に対して、ディスパーゼ(Invitrogen)を用いて陰窩オルガノイドをマトリゲルから分離し、4%PFAで固定し、続いて0.1%Triton-Xで透過処理した。製造者のプロトコール(Click-IT、Invitrogen)に従い、EdU染色を行った。DAPIまたはToPro-3(Molecular Probe)によりDNAを染色した。共焦点顕微鏡(Leica、SP5)により3D画像を取得し、Volocity Software(Improvision)を用いて再構成した。
【0093】
結果:腸上皮は、成体哺乳動物において最速で自己再生する組織である。本発明者らは、最近、小腸陰窩の底部におよそ6個のサイクル型(cycling)Lgr5+幹細胞があることを明らかにした1。本発明者らは、今回、単一陰窩において複数の陰窩分裂事象が起こり、一方で、同時に、全分化細胞型が存在する絨毛様上皮ドメインが生じる、長期培養条件を確立した。単一選別Lgr5+幹細胞もまた、これらの陰窩-絨毛オルガノイドを惹起することができる。追跡実験は、オルガノイドにおいてLgr5+幹細胞ヒエラルキーが維持されることを示す。本発明者らは、腸陰窩-絨毛ユニットが自己組織化構造であり、これが非上皮細胞ニッチ非存在下で単一幹細胞から形成され得ると結論付ける。
【0094】
小腸の自己再生上皮は陰窩および絨毛になる2。細胞が陰窩で新たに生じ、マウスでは5日間のターンオーバー時間で絨毛の先端部でアポトーシスにより失われる。自己再生幹細胞は陰窩底部の付近にあり、急速に増殖する一過性増殖(transit amplifying)(TA)細胞を生成させることが長く知られてきた。幹細胞の推定数は陰窩1個あたり4〜6個である。腸細胞、杯細胞および腸内分泌細胞はTA細胞から発生し、陰窩-絨毛軸に沿ったコヒーレント帯(coherent band)を移動し続ける。第四の主要な分化細胞型であるパネート細胞は陰窩底部に存在する。本発明者らは、最近、パネート細胞間に散在するサイクル型(cycling)陰窩底部円柱細胞で特異的に発現される遺伝子、Lgr5を同定した1。GFP/タモキシフェン誘導型CreリコンビナーゼカセットがLgr5遺伝子座に挿入されたマウスを用いて、本発明者らは、細胞系譜解析により、Lgr5+細胞が、Cre誘導から14ヶ月後に評価した場合でも3、上皮の全細胞型を生成させる多能性幹細胞を構成する1ことを示した。
【0095】
様々な培養系が記載されているが4〜7、基本的な陰窩-絨毛生理を維持する長期培養系は確立されていない2。
【0096】
マウス陰窩調製物をマトリゲル中で縣濁した。陰窩成長にはEGFおよびR-スポンジン1が必要であった(図1a)。継代から、ノギンの必要性が明らかになった(図1b)。培養した陰窩は、定型的に挙動した(図2a)。上部の開口部は速やかに閉じられ、内腔がアポトーシス細胞で満たされた。陰窩領域では連続的な出芽事象が起こり、陰窩分裂を連想させた17。パネート細胞は常に出芽部位に存在した。陰窩の殆どを培養することができた(図2b)。さらなる増幅によって、絨毛様上皮により内面が覆われている中心内腔を取り囲む>40個の陰窩-ドメイン(「絨毛ドメイン」)を含むオルガノイドが形成された(図2c〜e)。E-カドヘリン染色から、単一細胞層が明らかになった(データを示さず)。毎週、オルガノイドを機械的に分離し、播種前の密度の1/5で再播種した。下記の特徴を喪失せずに、>6ヶ月間、オルガノイドを培養した。マイクロアレイによる発現分析から、例えば新鮮な結腸陰窩と比較した場合、オルガノイドは、新たに単離した小腸陰窩と依然として非常に類似していたことが明らかになった(図3)。
【0097】
Lgr5-EGFP-ires-CreERT2陰窩の培養から、Lgr5-GFP+幹細胞が陰窩底部でパネート細胞と混ざり合うことが明らかになった。核β-カテニン(図4a、図5)およびWnt標的遺伝子Lgr5(図2d)およびEphB218(図4b)の発現により明らかにされるように、Wnt活性化は陰窩に限定された。アポトーシス細胞は中心内腔に流れ込むが、これはインビボでの絨毛先端におけるアポトーシス細胞の脱落を連想させるプロセスである(図4c)。>3ヶ月経過したオルガノイドの分裂中期スプレッドは、一貫して、40本の染色体/細胞(n=20)を示す(図4d)。驚くことに、本発明者らは、筋繊維芽細またはその他の非上皮細胞の存在に関する証拠を見出さなかった(図6)。
【0098】
本発明者らは、細胞系譜解析を可能にするためにCre活性化可能なRosa26-LacZレポーターと交配させたLgr5-EGFP-ires-CreERT2マウスから陰窩を培養した。低用量タモキシフェンによる誘導の直後、本発明者らは単一の標識細胞(図4e、g)に注目した。これらの90%超が全体に青い陰窩を生成し(図4e〜g)、このことから、Lgr5-GFP+細胞が実際に幹細胞特性を保持していたことが示唆される。Cre活性化可能なRosa26-YFPレポーター19マウスからの陰窩によって、共焦点分析による細胞系譜解析が可能となった。タモキシフェン処理直後、本発明者らは、新たに単離した陰窩(図7a〜c)および確立されたオルガノイド(図7d)の両方において、続く数日間にわたり、細胞系譜解析を誘導した単一の標識細胞に注目した。
【0099】
最近、インビトロで単一幹細胞から乳腺上皮構造が確立された21。単一Lgr5-GFPhi細胞を選別した場合、これらはすぐに死んだ。Rhoキナーゼ阻害剤Y-27632は、この細胞死を顕著に抑制した。Notchアゴニスト性ペプチド24は、増殖性の陰窩の維持を支えることが分かった23。これらの条件下で、多数のLgr5-GFPhi細胞が生存し、大きな陰窩オルガノイドを形成した。GFPlow娘細胞を播種した場合はオルガノイドの形成は稀であった(図8d)。複数のLgr5-GFPhi細胞は陰窩底部でパネート細胞と混ざり合った(図8e〜f)。EdU(チミジン類似体)取り込みから、陰窩でS期の細胞が明らかになった(図8g)。
【0100】
本発明者らは、ウェルあたり1個の細胞の割合で細胞を選別し、単一細胞の存在を目視により確認し、その結果の成長について追跡した。4回の個別の各実験において、本発明者らは、100個の単一細胞を特定し、追跡した。平均して、Lgr5-GFPhi細胞のおよそ6%が成長してオルガノイドになり、一方で残りの細胞は一般的には最初の12時間以内に死に至ったが、これはおそらく単離手順に固有の物理的および/または生物学的ストレスによるものである。GFPlow細胞が増殖するのは稀であった(図9a)。図9bおよび図10は、単一Lgr5-GFPhi細胞からのオルガノイドの成長を示す。培養4日までに、この構造は100個前後の細胞から構成されるようになり、これは、増殖性陰窩細胞の12時間の細胞周期と一致する25(図9c)。2週間後、このオルガノイドを単一細胞になるように分離し、再播種して、新しいオルガノイドを形成させた(図9d)。再播種効率の明らかな低下なく、この手順を2週間に1回の頻度で少なくとも4回繰り返すことができた。
【0101】
単一幹細胞由来オルガノイドは、陰窩全体由来のものと区別できないと思われる。パネート細胞および幹細胞は陰窩底部に位置していた(図8e、f、図11c、g)。ビリン+成熟刷子縁および先端のアルカリホスフェーゼ(alkaline phosphase)により明らかとされるように、完全に極性化した腸細胞が中心内腔の内側を覆っていた(図11a、e、i)。杯細胞(Muc2+、図11b;PAS+、図11f)および腸内分泌細胞(クロモグラニンA+、図11d;シナプトフィジン+、図11h)はオルガノイド構造全体に拡散していた。電子顕微鏡により4種類の成熟細胞が認められた(図11i〜l)。非上皮(間質/間葉)細胞はなく、EM画像解析によって観察を確認した(図11i〜p、図12c〜g)。陰窩(図11m、o)および中心内腔上皮(図11p)の両者とも、マトリゲル支持体のすぐ上にある極性化した上皮細胞の単層から構成されていた。これらのEM像の高解像度画像を図5で与える。E-カドヘリンに対して赤で染色し、核を青で対比染色したオルガノイドから、オルガノイド上皮の単層性が明らかになる(データを示さず)。
【0102】
上皮陰窩が上皮下筋繊維芽細胞と密接に接触していることは周知であり26〜28、後者の細胞が陰窩底部で特殊化した細胞ニッチを形成すると一般に考えられている27、29、30。このようなニッチは、腸幹細胞を繋ぎ止め、支持するための特有の環境を作り出す。本発明者らは、ここで、均一に与えられる限られた一連の成長シグナルにより自己再生上皮を確立できることを示す。これにもかかわらず、単離幹細胞は、非常に定型的な方式で自律的に非対象性を作り出す。これにより、新たに生成された幹細胞および陰窩様構造の底部に位置し、TA細胞で満たされたパネート細胞とともに陰窩様構造が速やかに形成される。これらの陰窩様構造は、有糸分裂後腸細胞からなる絨毛様内腔ドメインに流れ込み、ここで、アポトーシス細胞が内腔に向かってくびれ切られるが、これは絨毛先端での細胞喪失を連想させる。均一な成長促進環境に曝露された単一細胞が非対称構造を生じさせ得るという逆説的な所見は、Wnt経路を精査すると特に明らかである。全細胞がR-スポンジン1に曝露される一方で、陰窩中の細胞のみが活性のあるWntシグナル伝達の顕著な特徴(即ち、核β-カテニンおよびWnt標的遺伝子の発現)を示す。明らかに、細胞外Wntシグナルへの特異的な曝露ではなくWntシグナル伝達に対する特異的な反応性が、陰窩-絨毛軸の形成の中心にある。
【0103】
要約すると、本発明者らは、単一Lgr5+ve腸幹細胞がその環境からの位置的合図と独立して機能し得、これが、正常な消化管を連想させる、継続的に増幅する自己組織化上皮構造を形成し得ると結論付ける。記載の培養系により、幹細胞主導の陰窩-絨毛生物学の研究が簡素化されよう。さらに、これにより、再生医療および遺伝子治療に対する新しい道筋が開かれ得る。
【0104】
実施例2:インビトロでの結腸陰窩および絨毛の培養
材料および方法
Wnt3a馴化培地
Wnt3aリガンド発現細胞株およびWnt3aリガンドのない同じ細胞株(対照培地)を3〜4週間培養する。これらの細胞は、密集状態となり増殖を停止するとすぐにWnt3aを産生するようになる。この培地を回収し、TCF応答配列-lucコンストラクト(TOP)および同じであるがTCF応答配列中に突然変異があるコンストラクト(FOP)を用いて、TOPフラッシュアッセイ、ルシフェラーゼアッセイで試験する。TOP/FOP間の比は、培養で使用しようとする培地に対して20を超えるはずである。組織を再生するための培養で使用する場合は、この培地を25〜50%希釈する。
【0105】
新たに摘出した結腸を切開し、PBSまたはDMEMで洗浄し、刻んで小片にした。穏やかに振盪しながら、断片を2mM EDTA/PBSとともに4℃で1時間恒温放置した。EDTA溶液を除去した後、10mlピペットを用いて組織断片を10mlの冷PBS中で激しく縣濁した。破片を含有する最初の上清を廃棄し、10〜15ml PBSで沈殿物を縣濁した。組織断片をさらに激しく縣濁した後、上清には結腸陰窩が濃縮されている。この分画をペレット化し、マトリゲルと混合し、小腸オルガノイド培養系として培養した。このマトリゲルを37℃で5〜10分間恒温放置した。マトリゲル重合後、500μlの組織培養培地(200ng/ml N-アセチルシステイン、50ng/ml EGF、1μg/mlR-スポンジン1、100ng/mlノギン、10Ong/ml BDNF(Peprotech)を補充した50%アドバンスト-DMEM/F12/50%Wnt-3a馴化培地)を添加した。2〜3日ごとに全培地を交換した。継代のために、1000μlピペットを用いてマトリゲルから胃オルガノイドを取り出し、小断片になるように機械的に分離し、新しいマトリゲルに移した。少なくとも2週間に1回、1:4分割比で継代を行った。これらの条件下で、少なくとも3ヶ月にわたり培養を維持した。
【0106】
結果
小腸オルガノイドと比較して、結腸オルガノイドの増殖はより遅く、効率が低い。小腸と同じ増殖因子条件を用いて、増殖し、胃オルガノイド構造を形成したのは、遠位結腸から単離した結腸陰窩の5%未満であった(図13)。結腸の近位部からの結腸陰窩を増殖させるのは困難であった。本発明者らは、マイクロアレイ分析(結腸Lgr5-GFPhi細胞対結腸Lgr5-GFPlow細胞)において、BDNF(脳由来神経栄養因子)の受容体であるtrkBの上方制御を見出したので、本発明者らは、結腸オルガノイドに対するBDNFの影響を調べた。本発明者らは、常に、BDNF+培養において、BDNF-培養よりも2倍前後高い培養効率を認めた。一般には、1個の結腸オルガノイドは、およそ10個の陰窩ドメインを含有する(図14)。それらの起源と一致して、パネート細胞は検出できなかった。小腸オルガノイドと対照的に、結腸陰窩では陰窩底部にWnt-3a産生パネート細胞がなく、従ってWnt-3を補充することによって結腸陰窩の培養効率が上昇するが、小腸陰窩の培養効率は上昇しない。一般には、本発明者らがWnt-3a馴化培地を添加した場合、本発明者らは、最大で30%の培養効率を得た(図15)。
【0107】
結論として、上述の条件を用いて、小腸由来および結腸由来陰窩の両者ともインビトロで維持し、増殖させることができ、この方法が、人工的な系での腸上皮の生成を可能とするための、最初に述べられた培養法となる。
【0108】
実施例3:インビトロでの腺腫の培養
材料および方法(実施例1参照)
結果
腺腫は歴史的にインビトロで培養することが困難であった。小腸ならびに結腸由来の健康な陰窩を首尾よく培養するために上述の条件を使用したので、同様の条件がインビトロで腺腫を持続させ得るか否かを判断した。2.5mM EDTAを用いてAPC-/-マウスから腺腫を単離した後、上述と同様の条件下で単一腺腫を培養した。重要なこととして、これらの条件はインビトロで腺腫の増殖を維持するために適切であったが、しかし、R-スポンジンは不必要となった。これは、これらの細胞にAPCがなく、その結果、自動的に核β-カテニンが得られるので、Wntシグナル伝達経路を誘導する必要がもはやないという事実によって容易に説明できる。これにより、インビトロでの腺腫の培養においてR-スポンジン、Wntアゴニストが不必要となる。図16aおよび図16bの高倍率像は、正常な陰窩オルガノイド(中心内腔のある陰窩出芽部分を見ることができる)と比較して、腺腫オルガノイドが単純に嚢胞として成長することを示す。内腔内部に大量の死細胞が存在することから結論付けられ得るように、死細胞は内腔に流れ出す。正常な陰窩オルガノイドにおいて、核β-カテニンは陰窩ドメインの底部でのみ見られる(図4a参照)。腺腫オルガノイドにおいて(図16cおよび図16dの高倍率像)、遺伝子のAPC突然変異と一致して、全ての上皮細胞で核β-カテニンが見られた。これらのオルガノイドを永続的に継代することができる。
【0109】
上述の培養条件(R-スポンジンなし)を用いて、Lgr5-EGFP-Ires-CreERT2/APCflox/floxマウスの腺腫由来の単一Lgr5+選別細胞がインビトロで同様の腺腫オルガノイドを形成させることができるか否かをさらに調べた。実際に、これはその事例であり、得られたオルガノイドは、インビトロ培養のための出発材料として完全な腺腫を用いて得られたものと構造が非常に類似していた(データを示さず)。
【0110】
実施例4:その他のWntアゴニストの影響の試験
その他のWntアゴニストがR-スポンジン用量と同じ効果を有するか、即ちインビトロで陰窩-絨毛オルガノイドの形成を促進するか否かを調べるために、可溶性Wnt3aをLgr5+選別単一細胞に添加し、インビトロでの陰窩-絨毛形成における影響を評価した。
【0111】
材料および方法
Lgr5-GFPhi細胞を選別し、従来の単一細胞培養条件(単一細胞に対して上記で記載のとおり、EGF、ノギン、R-スポンジン、NotchリガンドおよびY-27632)に加えてWnt3a(100ng/ml)を添加してまたは添加せずに培養した。本発明者らは、細胞100個/ウェルを播種し、播種から14日後にオルガノイド数を数えた。
【0112】
PBS+0.1%Pluronic127(Sigma)中の1μM Newport Green-DCF(Molecular Probes)とともに室温で3分間、単離陰窩を恒温放置し、続いてPBSで洗浄した。この後、陰窩をマトリゲル中に包埋し、上述のような標準的条件を用いて培養した。
【0113】
結果
R-スポンジン非存在下でWnt3aを添加してもコロニー形成において効果はなく、R-スポンジン非存在下で結腸の形成は皆無かそれに近かった。しかし、R-スポンジンの存在下では、Wnt3a存在下でのみ、オルガノイド形成効率の向上が認められた(図17)。このことから、両因子が、完全な上皮細胞層の形成に必要な全ての細胞への幹細胞の分化を刺激し、支持するというそれらの能力を互いに支え合うことが示される。現在の仮説は、R-スポンジンが、Frizzledを通じてシグナル伝達前にFrizzledの共受容体であるLRP6の内部移行の阻害に関与するというものである。Frizzledおよび共受容体LRP6にWnt因子が結合すると、Wntシグナル伝達経路が活性化される31。LRP6が細胞表面に存在する場合、Wnt活性化が起こる(図18)。従って、R-スポンジンが培養培地中に存在しない場合、Wnt3aはWnt経路を活性化できないが、これは、LRP6が内部に取り込まれ、Wnt因子と組み合わせてシグナル伝達に利用できず、それによりWnt経路の活性化が阻止されるからである。
【0114】
Wnt3aは可溶性因子であり、生理的状態下でパネート細胞により産生される。これらの細胞は一般に幹細胞に隣接して位置しており(図19)、これらの細胞が進行中の腸上皮細胞層の分化の維持を支える、という仮説が立てられている。パネート細胞によってまた分泌されるその他のWnt因子は、Wnt6、9bおよび11である。Wnt6が幹細胞分化にWnt3a用量と同様の効果を有することが予想される。これらの知見は、パネート細胞が幹細胞ニッチの形成に重要であるという考えを支持する。幹細胞ニッチが広範に推測されているので、これらのデータは驚くべきことであるが、現在のところ、このようなニッチの存在を裏付ける実験データはない。幹細胞ニッチの存在に対するさらなる裏付けは、パネート細胞を選択的に死滅させた実験から得られる。マウス小腸から陰窩を単離し、パネート細胞を特異的に絶滅させる亜鉛キレート剤の存在下でインビトロで培養した32。パネート細胞にのみ影響を与え、陰窩内のその他の細胞には影響を与えないような低濃度および短時間で、これを使用した。亜鉛キレート剤での処理後、オルガノイド形成を評価した。元の陰窩においてパネート細胞がもはや存在しなかった場合、オルガノイド形成の顕著な低下が認められた(図20)。Wnt3aの存在下で、この減少は幾分回復した(データを示さず)。これは、陰窩でLgr5+幹細胞の分化を支える幹細胞ニッチの維持におけるパネート細胞に関する役割を裏付ける。
【0115】
実施例5:培養条件はオルガノイドの成長も支持する。
胃は3つの形状領域(底部、体部および洞部)および2つの機能的腺領域(酸分泌部および幽門部)からなる。酸分泌腺領域はこの臓器の80%を構成し、幽門部領域はこの臓器の20%を構成する。哺乳動物胃上皮は、平面表面上皮、短い窩および長い腺からなる胃ユニットに編成される。この窩は、内側を粘液分泌細胞に覆われており、一方で腺は、3つの領域、峡部、頚部および底部に分けられる分泌細胞からなる。胃上皮は絶えず再生される。本発明者らの研究室で行われた追跡試験から、腺底部に位置するLGR5陽性細胞が幹細胞性の定義を満たすことが分かった(Barker et al.,準備中)。
【0116】
現在のところ、胃単層培養は、いくつかの分化した胃細胞により形成される胃ユニットの特性を再現できない。さらに、報告されている3-D培養法系は、内分泌細胞を示すことなく、高度に分化した胃表面粘液細胞のみを再構成する。さらに、これらの培養は、7日間にわたってのみ行われており、従って自己再生能の欠如が示唆される(Ootani A,Toda S,Fujimoto K,Sugihara H.Am J Pathol.2003 Jun;162(6):1905-12)。今回、本発明者らは、マウス胃幽門部から胃ユニットを単離するための方法を開発し、より長期間にわたる維持を示す3D-培養系を開発することができた。
【0117】
材料および方法
胃ユニット単離
単離した胃を長軸方向に切開し、冷アドバンスト-DMEM/F12(Invitrogen)中で洗浄した。立体顕微鏡下で、幽門部を切り取り、胃体部から切り離し、ピンセットで噴門洞および幽門部粘膜を慎重に筋肉層から分離した。次に、組織を細切して5mm前後の小片にし、冷分離用緩衝液(Na2HPO4 28mM+KH2PO4 40mM+NaCl 480mM+KCl 8mM+スクロース 220mM+D-ソルビトール 274mM+DL-ジチオトレイトール(Dithiotreitol)2.6mM)でさらに洗浄した。穏やかに振盪させながら、単離緩衝液とともに4℃で2時間、5mM EDTA中で組織断片を恒温放置した。EDTA溶液を除去した後、10mlピペットを用いて10mlの冷分離用緩衝液中で組織断片を激しく縣濁した。死細胞を含有する最初の上清を廃棄し、10〜15ml冷分離用緩衝液で沈殿物を縣濁した。組織断片をさらに激しく縣濁した後、上清には胃ユニットが濃縮されている。10〜20回の縣濁ごとに、上清を新鮮な冷分離用緩衝液に交換し、氷上で維持し、胃ユニットの存在について調べる。胃ユニットが完全に放出されるまでこの手順を繰り返す(通常は4〜5回)。濃縮された胃ユニット縣濁液を600rpmで2〜3分間遠心し、単一細胞から単離胃ユニットを分離し、沈殿物を培養で使用する。
【0118】
胃の培養
前のセクションで示されているように、4℃で2時間、5mM EDTAとともに恒温放置することによって、腺、峡部および窩領域を含有する胃ユニット全体をマウス胃幽門部から単離した。単離した胃ユニットを数え、ペレット化した。100個の胃ユニットを25μlのマトリゲル(BD Bioscience)と混合し、48ウェル組織培養プレート上に播種し、マトリゲルが完全に重合するまで37℃で5〜10分間恒温放置した。重合後、250μlの組織培養培地(B27、N2、200ng/ml N-アセチルシステイン、50ng/ml EGF、1μg/ml R-スポンジン1、100ng/ml ノギン、100ng/ml Wnt3A、50または100ng/ml KGFを補充したアドバンスト-DMEM/F12)を添加した。2日ごとに全培地を交換した。継代のために、1000μlピペットを用いてオルガノイドをマトリゲルから取り出し、小断片になるように機械的に分離し、新しいマトリゲルに移した。週に1回または2回、1:4の分割比で継代を行った。これらの条件下で、少なくとも1ヶ月間、培養物を維持した。
【0119】
試薬
アドバンスト-DMEM/F12および補助剤N2およびB-27血清不含サプリメントをInvitrogenから購入し、N-アセチルシステインをSigmaから購入した。マウス組み換えEGF、ノギンおよびヒトKGFはPeprotechから購入し、Wnt3A組み換えタンパク質はStem Cell Researchから購入した。言及した増殖因子から、R-スポンジン1およびKGFに対してのみ様々な濃度を試験した。50ng/mlで、R-スポンジン1は培養物成長を阻害する。50または100ng/mlの何れかでKGFを使用することができるが、出芽効率は100ng/mlの条件でより高くなる。既に記載のようにWnt3A馴化培地を調製した(Willert K,Brown JD,Danenberg E,Duncan AW,Weissman IL,Reya T,Yates JR 3rd,Nusse R.Nature 2003 May 22;423(6938):448-52)。
【0120】
免疫組織化学および画像分析
X-gal染色のために、室温で1〜2時間、100mM MgCl2を含むPBS中の0.25%グルタルアルデヒド(Sigma)とともにマトリゲル中でオルガノイドを直接固定した。その後、洗浄溶液(PBS中、0.01%デオキシコール酸ナトリウム+0.02%NP40+5mM MgCl2)で3回培養物を洗浄し、0.21%K4Fe(CN)6および0.16%K3Fe(CN)6の存在下で1mg/ml X-Gal(Invitrogen)とともに37℃で16時間恒温放置した。PBS中での洗浄後、PBS中の2%PFAにより室温にて15分間、培養物を後固定した。全ての試薬をSigmaから得た。
【0121】
免疫組織化学のために、トリプシン(Tryple Select、Invitrogen)を用いてオルガノイドをマトリゲルから分離し、4%PFAで室温にて1時間固定し、パラフィン中で包埋した。パラフィン切片を標準技術で処理し、既に記載のように免疫組織化学を行った。次の抗体を使用した:抗マウスKi67(クローンMM1、Monosan)(1:200)、カスパーゼ-3切断抗ウサギ(Cell Signaling Technology)(1:400)および抗ヒト胃ムチン5AC(Novocastra クローン45M1)(1:200)。全例でクエン酸緩衝液抗原回復を行った。マイヤーのヘマトキシリンで切片を対比染色した。倒立顕微鏡(Nikon DM-IL)または共焦点顕微鏡(Leica SP5)の何れかで胃オルガノイドおよび単離胃腺の画像を取得した。
【0122】
結果
現在まで、胃培養物が単層で増殖されてきた。しかし、単層培養は、いくつかの分化した胃細胞(ピット粘液細胞、腸内分泌細胞および増殖性の粘液不含細胞)により形成される胃ユニット全体の特性を再現する能力を欠く。最近、本発明者らの研究室は、インビボ細胞系譜解析により、腸陰窩の底部に存在するLgr5陽性細胞が真の腸幹細胞であることを明らかにした(Barker N,van Es JH,Kuipers J,Kujala P,van den Born M,Cozijnsen M,Haegebarth A,Korving J,Begthel H,Peters PJ,Clevers H.Nature.2007;449:1003-7)。腸上皮のように、胃上皮は絶えず再生される。Lgr5陽性細胞が幽門部胃腺ユニットの底部で見出されており、追跡実験から、自己再生および多分化能を示すことにより、これらのLGR5陽性細胞が幹細胞性の定義を満たすことが分かった(Barker et al.,準備中)。本発明者らは、3-D構造で単一Lgr5+細胞から腸陰窩を培養することができたので、同様の条件が、インビトロで幽門部胃ユニットの成長を維持できるか否かを調べた。
【0123】
5mM EDTAを用いた胃腺ユニットの単離後、胃腺(図21a)をマトリゲル中で縣濁した。胃培養物の成長には、EGF(50ng/ml)、ノギン(100ng/ml)、R-スポンジン1(1μg/ml)およびWnt3A(100ng/ml)(図21b)が必要であった。KGF(50または100ng/ml)は出芽事象の生成、従って培養物の増幅に不可欠であった。このようにして、培養した幽門部ユニットは腸陰窩オルガノイドとして働いた。このユニットの開放上部が閉じ、内腔がアポトーシス細胞で満たされる。新たに形成された胃オルガノイドにおいて、中心内腔のある胃腺出芽とともにそれらの極性を維持しながら、継続的な出芽事象が起こった(腺分裂を連想させる)。組み換えWnt3A組み換えタンパク質と比較したときに10〜100倍高いWnt活性を示すWnt3A馴化培地を使用した場合、出芽形成効率の顕著な上昇が検出され(図21c)、このことから、出芽形成および形態形成に対するWnt用量依存性が明らかになった。
【0124】
記載の特性を喪失することなく、少なくとも1ヶ月間、オルガノイドを培養した。毎週、機械的に分離することによって、オルガノイドを1:4で継代する(図22)。Lgr5-LacZ幽門部胃ユニットの培養から、胃オルガノイドにLgr5陽性幹細胞が存在することが明らかになった(図23a)。Ki67染色により明らかにされるように、増殖性の細胞は腺様構造の底部にあり(図23b)、一方、アポトーシスカスパーゼ3陽性細胞は、内腔に押し出されることが分かる(図23c)。胃ムチン5AC(MUC5AC)は、小窩細胞とも呼ばれる胃ピット細胞の特異的なマーカーである。MUC5AC陽性細胞はオルガノイドで見出され、このことから、少なくとも1つの分化型胃細胞系統の存在が示される(図23d)。しかし、内分泌由来細胞は検出されていない。従って、さらなる因子が必要とされる。これらには、ガストリン放出ペプチド、HedgehogおよびNotchファミリーの活性化因子または阻害剤、Wnt経路のその他の活性化因子およびBMPファミリーのその他の阻害剤、TGFファミリーの活性化因子が含まれる。
【0125】
実施例6a:膵臓オルガノイドをインビトロで成長させることができる。
材料および方法
新たに単離した膵臓を刻んで小片にし、オービタルシェーカーにおいて(80rpm、37℃)10分間、消化酵素混合物(300U/ml XI型コラゲナー(Sigma)、0.01mgディスパーゼI(Roche)および0.1mg DNase)とともにDMEM(Invitrogen)中で恒温放置した。恒温放置後、機械的なピペッティング操作によって組織断片を穏やかに分離させた。標準重力で1分間、未消化断片を沈殿させ、新しい試験管に上清を移した。上清を70μm細胞ストレイナーに通し、残渣をDMEMで洗浄した。逆向きにした細胞ストレイナーをDMEMですすぐことによって細胞ストレイナーに残存する断片を回収し、ペレット化した。この分画は殆ど膵臓腺房組織からなり、膵管を含んでいだ。このペレットをマトリゲルと混合し、小腸オルガノイド培養系として培養した(実施例1の材料および方法を参照)。37℃で5〜10分間、マトリゲルを恒温放置した。マトリゲルの重合後、500μlの組織培養培地(B27、N2、200ng/ml N-アセチルシステイン、50ng/ml EGF、1μg/ml R-スポンジン1、100ng/ml ノギン、50または100ng/ml KGF(Peprotech)を補充したアドバンスト-DMEM/F12)を添加した。2日ごとに増殖因子を添加した。4-6日ごとに全培地を交換した。継代のために、1000μlピペットを用いてオルガノイドをマトリゲルから取り出し、機械的に分離させて小片にし、新しいマトリゲルに移した。週に1回または2回、1:4の分割比で継代を行った。これらの条件下で、少なくとも2ヶ月間、培養を維持した。
【0126】
結果
EGFの存在下で、培養から3〜4日後、膵臓組織は単純な嚢胞構造を形成した。ノギンおよびR-スポンジン培養は嚢胞構造の大きさを相乗的に拡大したが、オルガノイドの形態形成には影響しなかった。KGFは、出芽形成ならびに培養効率を顕著に誘導した。増殖因子の最適の組み合わせ(EGF、ノギン、R-スポンジン-1およびKGF)を用いて、膵管の80%超が増殖因子の最良の組み合わせで成長した。
【0127】
培養中に膵管が取り込まれると、その管構造の両端が速やかに閉じ、単純な構造を形成する。オルガノイドのおよそ20%が、培養開始から7日後に出芽構造を形成し始めた(図24)。増殖が非常に遅い腺房組織と対比して、膵管は急速に成長する。
【0128】
興味深いことに、オルガノイドの継代後、培養開始からおよそ2〜3週間後に膵島様構造が観察された(図25)。これらの膵島様構造は、通常は継代前に観察されない。膵島は少なくとも7日間生存するが、増殖は非常に遅いかまたは皆無である。これらの膵島様構造は、健康な膵臓組織に存在するランゲルハンス膵島に似ている。このような膵島は、とりわけ、グルカゴンおよびインスリンをそれぞれ産生するα細胞およびβ細胞を含有する。観察された膵島様構造は、インスリン、ニューロゲニン3およびPdx-1を発現する細胞を含有する。いくつかの増殖因子を試験して、それらが膵臓組織に由来するオルガノイドにおいて膵臓β細胞の存在を増加させるか否かを調べる。候補増殖因子は、シクロパミン(ソニック-ヘッジホッグ阻害剤)、アクチビン、GLP(グルカゴン様ペプチド)およびその誘導体(エキセンジン4)、ガストリンおよびニコチンアミドを含む。
【0129】
実施例6b:膵臓オルガノイドをインビトロで成長させることができる。
材料および方法
新たに単離した膵臓を刻んで小片にし、オービタルシェーカー(80rpm、37℃)において10分間、消化酵素混合物(300U/ml XI型コラゲナー(Sigma)、0.01mg/ml ディスパーゼI(Roche)および0.1mg/ml DNase)とともにDMEM(Invitrogen)中で恒温放置した。恒温放置後、機械的なピペッティング操作によって組織断片を穏やかに分離させた。標準重力で1分間、未消化断片を沈殿させた。消化酵素混合物で10分間、未消化断片をさらに消化した。未消化断片が殆ど膵管から構成されるようになるまでこの消化手順を繰り返した。顕微鏡下で膵管構造を未消化断片から手作業で拾った。膵管をマトリゲルと混合し、小腸オルガノイド培養系のように培養した(実施例1の材料および方法を参照)。37℃で5〜10分間、マトリゲルを恒温放置した。マトリゲルの重合後、500μlの組織培養培地(1xGlutamax、ペニシリン/ストレプトマイシン、10mM Hepes、B27、N2、10mM N-アセチルシステイン、10nM [Leu15]-ガストリンI、100nM エキセンジン4、10mMニコチンアミド、50ng/ml EGF、1μg/ml R-スポンジン1、100ng/ml ノギン、50もしくは100ng/ml FGF7(KGF)またはFGF10(Peprotech)を補充したアドバンスト-DMEM/F12)を添加した。この培養培地を2日ごとに交換した。継代のために、1000μlピペットを用いてオルガノイドをマトリゲルから取り出し、機械的に分離させて小片にし、新しいマトリゲルに移した。週に1回または2回、1:4の分割比で継代を行った。これらの条件下で、少なくとも10ヶ月間、培養を維持した。
【0130】
結果
EGFの存在下で、培養から3〜4日後、膵臓組織は単純な嚢胞構造を形成した。ノギンおよびR-スポンジン培養は嚢胞構造の大きさを相乗的に拡大したが、オルガノイドの形態形成に影響しなかった。FGF7(KGF)/FGF10は、出芽形成ならびに培養効率を顕著に誘導した。増殖因子の最適の組み合わせ(EGF、ノギン、R-スポンジン-1およびFGF7(KGF)/FGF10)を用いて、膵管の80%超が増殖因子の最良の組み合わせで成長した。
【0131】
培養中に膵管が取り込まれると、その管構造の両端が速やかに閉じ、単純な構造を形成する。オルガノイドのおよそ80%が、培養開始から7日後、出芽構造を形成し始めた(図24)。増殖が非常に遅い腺房組織と対比して、膵管は急速に成長する。興味深いことに、オルガノイドの継代後、培養開始からおよそ2-3週間後、膵島様構造が観察された(図25)。これらの膵島様構造は一般に、継代前には観察されない。膵島は少なくとも14日間生存するが、増殖は非常に遅いかまたは皆無である。これらの膵島様構造は、健康な膵臓組織に存在するランゲルハンス膵島に似ている。このような膵島は、とりわけ、グルカゴンおよびインスリンをそれぞれ産生するα細胞およびβ細胞を含有する。観察された膵島様構造は、インスリン、ニューロゲニン3およびPdx-1を発現する細胞を含有する。いくつかの増殖因子を試験を試験して、それらが膵臓組織に由来するオルガノイドにおいて膵臓β細胞の存在を増加させるか否かを調べる。候補増殖因子は、シクロパミン(ソニック−ヘッジホッグ阻害剤)、アクチビン、GLP(グルカゴン様ペプチド)およびその誘導体(エキセンジン4)、ガストリンおよびニコチンアミドを含む。
【0132】
実施例7:Wnt/Lgr5再生反応を推進することによるインビトロにおける成体膵臓前駆細胞のスムーズな増幅
材料および方法
マウス、試薬および組織
次のマウス、アキシン-LacZノックイン(Lustig et al.Mol Cell Biol.2002)、Lgr5-LacZノックイン(Barker et al.,2007)、Lgr5-GFP(Barker et al.,2007)から膵臓組織を得た。アキシン-LacZマウスに100μgの精製ヒトR-スポンジン1(A.Abo、Nuvelo Inc、CA、USAの好意により提供)をIP注射し、膵臓でのLacZ発現分析のために48時間後に屠殺した。
【0133】
一部小さな改変を行い、ラットにおいて記載されているように(Wang et al.,1995)膵管結紮を行った。PDLに対する実験手順は次のとおりであった:フルアニソン:フェンタニル:ミダゾラムの混合物をそれぞれ3.3mg/Kg、0.105mg/Kgおよび1.25mg/Kgの投与量で腹腔内注射して動物に麻酔をかける。動物を仰臥位で寝かせ、腹部表面を剃毛し、消毒液(ヨード液)で清浄する。続いて、剣状突起から上前腹壁で正中切開し、膵臓を露出させる。解剖顕微鏡下で膵臓脾臓葉を見つけ出し、胃葉の管との結合部よりおよそ1mm遠位で7-0ポリプロピレンモノフィラメント縫合糸で膵管を結紮する。術後、0.01〜0.05mg/Kgの用量で鎮痛剤ブプレノルフィンをs.c投与する。その後5-0の絹糸で腹壁および皮膚を閉じた。
【0134】
新たに単離した膵臓を実施例6で記載のように処理し、得られた膵臓断片を下記のような条件下で培養した。主要な膵管および管の第一枝を機械的に分離した。この断片を刻んで小片にし、オービタルシェーカー(80rpm、37°C)において30分間、消化酵素混合物(300U/ml XI型コラゲナーゼ(Sigma)、0.01mg/ml ディスパーゼI(Roche)および0.1mg/ml DNase)とともにDMEM(Invitrogen)中で恒温放置した。消化後、断片から殆どの腺房細胞が放出された。殆ど膵管細胞からなる未消化断片を標準重力で1分間沈殿させ、上清を廃棄した。PBSで3回洗浄した後、室温で30分間、2mM EDTA/PBSとともに未消化断片を恒温放置した。断片を激しくピペッティング処理し、標準重力で1分間沈殿させた。導管細胞が濃縮された上清を新しい試験管に移し、PBSで3回洗浄した。導管細胞をペレット化し、マトリゲルと混合した。このマトリゲルを37℃で5〜10分間恒温放置した。マトリゲルの重合後、500μlの増幅用培地(1xGlutamax、ペニシリン/ストレプトマイシン、10mM Hepes、B27、N2、1mM N-アセチルシステイン、10nM[Leu15]-ガストリンI、100nMエキセンジン4、10mMニコチンアミド、50ng/ml EGF、1μg/ml R-スポンジン1、100ng/mlノギン、50または100ng/ml FGF7(KGF)またはFGF10(Peprotech)を補充したアドバンスト-DMEM/F12)を添加した。2日ごとに全培地を交換した。継代のために、1000μlピペットを用いてオルガノイドをマトリゲルから取り出し、機械的に分離させて小片にし、新しいマトリゲルに移した。週に1回、1:4の分割比で継代を行った。少なくとも2ヶ月間、これらの条件下で培養を維持した。分化のために、増幅用培地を分化培地(Glutamax、ペニシリン/ストレプトマイシン、10mM Hepes、B27、N2、200ng/ml N-アセチルシステイン、10nM[Leu15]-ガストリンI、100nMエキセンジン4、50ng/ml EGF、1μg/ml R-スポンジン1、100ng/mlノギンを補充したアドバンスト-DMEM/F12)に交換した。
【0135】
FGF10はPeprotechから得た。BrdUはSigmaから得た。
【0136】
Q-PCR
RNA easyミニキット(Quiagen)によりRNAを単離し、Moloneyマウス白血病ウイルス逆転写酵素(Promega)を用いて逆転写した。サーマルサイクラー中でcDNAを増幅した。
【0137】
使用したプライマーは下記で示す。
【0138】
PCR
ゲノムDNAを区別するために、イントロン配列に隣接するかまたは及ぶように全てのプライマーを設計した。
【0139】
画像分析
Leica SP5を備える共焦点顕微鏡、倒立顕微鏡(Nikon DM-IL)または実体顕微鏡(Leica、MZ16-FA)の何れかにより、陰窩オルガノイドの画像を取得した。免疫組織化学のために、室温にて1時間、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で試料を固定し、標準技術(Barker et al.,Nature 2007)でパラフィン切片を処理した。既に記載のように(Barker et al.,Nature 2007)免疫組織化学を行った。ホールマウント免疫染色のために、ディスパーゼ(Invitrogen)を用いて膵臓オルガノイドをマトリゲルから単離し、4%PFAで固定し、次いで0.1%Triton X-100で透過処理した。次に、免疫組織化学のために抗体を使用した;抗BrdU(Amersham)、抗Ki67(Dako)、抗インスリン(Sigma)、抗C-ペプチド(Cell Signaling)、抗Ngn3(Developmental hybridoma studies bank)。
【0140】
DAPIまたはToPro-3(Molecular Probes)でDNAを染色した。共焦点顕微鏡により三次元画像を得た。免疫組織化学および画像分析のもと、実施例5で記載のように、X-galでの染色を行った。
【0141】
FACS
R-スポンジン(1μg/ml)存在下または非存在下で膵臓オルガノイドを培養し、マトリゲルから機械的にまたは酵素(TrypLE)により取り出した。37℃で10分間にわたりTrypLEによって単離オルガノイドをさらに消化した。分離させた細胞を40μm細胞ストレイナー(BD bioscience)に通し、APC結合抗EpCAM(eBioscience)で染色した。製造者のプロトコールに従って、FluoReporterキット(Invitrogen)によりLacZを染色した。パルス幅パラメーター、側方散乱パラメーターおよびヨウ化プロピジウム染色により単一生存細胞にゲートをかけた。
【0142】
単一アキシン2-LacZ陽性膵臓細胞のインビトロでの増幅
PDL処理から7日後、マウスから膵臓を摘出し、上述のように膵管を単離した。37℃で20分間、TrypLE Express(Invitrogen)とともに単離膵管を恒温放置し、続いて40μm細胞ストレイナー(BD bioscience)に通した。実施例7に記載のようにLacZ(FluoroReporterキット)に対してEpCAM-APCおよび蛍光基質を用いて細胞を染色した。細胞を分析し、フローサイトメーター(MoFlo;Dako Cytomation)によって単一生存上皮細胞を選別し、EM培地中で回収した。選別細胞をペレット化し、マトリゲルと混合し、4日間にわたり50%Wnt馴化培地および10mM Y-27632を含むEM培地とともに培養した。4日後、培養培地をWntおよびY-27632不含のEM培地に交換した。
【0143】
結果
増幅する消化管様オルガノイドを継続的に生成させるために、小腸由来の単一Wnt依存性Lgr5+幹細胞を培養することができる(Sato et al.,2009)。健康な成体膵臓において、Wnt経路は活性があり、その結果、Lgr5は発現されない。部分的管結紮(PDL)による損傷において、本発明者らは、Wnt経路が確実に活性化されるようになり、一方でLgr5発現が再生管の出芽部で出現することに気付く。腸培養系から改変された条件下で、新たに単離した成体の管断片はLgr5の発現を惹起し、>30週間にわたり1週間で10倍増幅する出芽嚢胞を形成する。成長刺激の除去によって、これらの嚢胞は、内分泌およびβ細胞マーカーを発現する、未熟な膵島形態を有する構造に変換される。損傷膵臓由来のWnt刺激を受けた単一細胞もこれらの長期培養を開始させることができる。本発明者らは、最適条件下で培養される場合、成体前駆細胞にはヘイフリックの限界が当てはまらないと結論付ける。従って、器官特異的な成体幹細胞の増幅に有利である培養法は、ES-またはiPS-に基づく組織生成に対する代替法となり得る。
【0144】
胚性膵臓の外分泌および内分泌区画の発生は詳細に理解されているが(Jensen,2004)、一方で、出生後の膵臓における膵島細胞の生成に関してはあまり分かっていない(Bonner-Weir and Weir,2005,BouwensおよびRooman,2005)。遺伝子細胞系譜解析から、正常な生理的条件下および部分的膵切除後の両方で、成体マウスにおいて幹/前駆細胞ではなく既存のβ細胞が新しいβ細胞を生成させるという証拠が提供されている(Dor et al.,2004;Teta et al.,2007)。成体マウスの膵臓の管の裏打ちに多能性前駆細胞が存在することが最近述べられたが、これは、損傷膵臓において活性化され、機能的β細胞質量を増加させることができる(Xu et al.,2008)。胚性膵島前駆細胞に対するマスタースイッチをコードし(Apelqvist et al.,1999;Gradwohl et al.,2000;Gu et al.,2002;Schwitzgebel et al.,2000)、正常な出生後膵臓で活性がない(Gu et al.,2002)Ngn3のプロモーターレポーターを有する成体マウス膵臓においてPDLを行うことによって、対照損傷を得た。これらのβ細胞前駆細胞の分化は、Ngn3-依存性であり、グルコース応答性β細胞を含む全ての膵島細胞型を生ずる(Xu et al.,2008)。損傷時にこれらの前駆細胞の出現をどのシグナルが推進するかについては現在のところ分かっていない。このような洞察は、前駆細胞増幅に対するインビトロのアプローチの設計を導き得るので重要であると思われる。
【0145】
Wntシグナル伝達がβ細胞前駆細胞の誘導に関与するか否かを調べるために、成体膵臓においてAxin2-LacZ対立遺伝子の発現を追跡した。アキシン2-LacZ対立遺伝子は、Wntシグナル伝達に対する正確で一般的なレポーターであることが判明している(Lustig et al.,Mol Cell Biol.2002)。予想されるように、このレポーターは、成体膵臓において不活性であった(図26A)。しかし、Wntシグナル伝達経路を活性化するために、本発明者らがWntアゴニストRspol(Kim et al.,2005)をアキシン2-LacZマウスに注射した場合、本発明者らは、管に沿ってWnt応答性細胞の存在を認めたが、膵臓の腺房または膵島では見られなかった(図26B)。β細胞前駆細胞は以前、膵臓の損傷時のみ検出されたので、本発明者らは、PDLの遂行による損傷時にこれらの細胞においてWnt応答が生理的に活性化されるか否かを調べた。図26Cは、PDLおよび非PDL領域から単離した膵臓組織切片のH&E染色を示す。以前に報告されているように(Abe et al.1995)、腺房細胞は5日後にアポトーシスとなり、完全には理解されていない機構によって、新たに形成された管構造で置き換えられる。7日後、膵島数の増加(膵島新生)も、その上膵島サイズの拡大も認められる(星印により示される)。このことから、PDLが成功したことが示される。実際に、膵臓の結紮部の管に沿ってアキシン2-LacZレポーターが特異的に活性化され、一方、非結紮部はこの反応を示さなかった(図26DおよびE)。さらに、Ki67染色により測定されるような増殖反応が結紮部の管に殆ど限定された一方で、非結紮部の管において核Ki67は検出できなかった(図26F)。これは、R-スポンジンでの処理後、膵臓において増殖性のBrdU陽性細胞が検出されることと類似している(図26G)。
【0146】
本発明者らは以前、腸において、Wnt応答性細胞のある一定の集団が幹細胞であることを示した(Barker et al.,2007)。細胞集団に対するマーカーはLgr5であった。Lgr5遺伝子は、アキシン2のように、Wnt-応答性遺伝子である。腸および皮膚でも、これはWnt-刺激を受けた幹細胞においてのみ発現され、一過性増殖(transit amplifying)細胞では発現されない(Barker et al.,2007;Jaks et al.,2008))。従って、これは真の幹細胞マーカーであるとみなされる。本発明者らは、腸におけるLgr5+細胞と同様に、膵臓のLgr5+細胞も、損傷後に検出されるようなβ細胞前駆細胞の起源であり得るという仮説を立てた。この仮説を試験するために、本発明者らは、アキシン-LacZおよびLgr5-LacZマウスの膵臓においてPDLを行い、Lgr5 mRNA発現およびLacZ染色を調べた。興味深いことに、Lgr5は、PDL後の経時変化においてqPCRによって容易に検出可能になった(図26H)。さらに、Lgr5-LacZノックインマウスにおいてPDLを行った結果、X-gal染色により明らかとされるように、再生している管の出芽部(星印により示す)においてレポーターの特異的な活性が見られた(図26I)。活性のある再生部位におけるLgr5発現の出現から、生理的な自己再生において(例えば腸、胃または毛包において)Lgr5が幹細胞をマークし得るだけでなく、その発現がまた、損傷時の再生幹細胞/前駆細胞のWntによる活性化の前兆ともなり得ることが示唆された。
【0147】
Wnt依存性のLgr5幹細胞マーカーの出現を前提として、本発明者らは、成体膵臓前駆細胞が、既に規定された消化管胃オルガノイド培養条件において増幅させられ得ると推論した(Sato et al.,2009)。膵臓細胞の不均一集団の培養は既に確立されており、一般的には、EGF(Githens et al.In Vitro Cell Dev Biol.1989)、FGF10(Miralles et al.Proc Natl Acad Sci USA.1999)およびHGF(Lefebvre et al.Diabetes.1998;Suzuki et al.Diabetes.53,2004)などの増殖因子およびガストリン(Rooman et al.Gastroenterology 2001)、ニコチンアミド(Rooman et al.Diabetologia.2000)などの血清サプリメントを含む。多くのこのような培養の結果、糖尿病マウスに移植された場合にある一定の条件下で高血糖を改善することができた(Hao et al.,2006;Ramiya et al.,2000)、β細胞様の表現型を有する細胞がインビトロで生じた(Bonner-Weir et al.,2000;Seaberg et al.,2004;Suzuki et al.,2004)。これらのアプローチの殆どは、時間とともに老化する混合細胞集団を用いて開始する。内分泌系統に沿った分化能を維持する規定の非形質転換成体膵臓前駆細胞の強い増幅を長期にわたり維持する強固な長期培養系は現在のところないといってもよいだろう。
【0148】
本発明者らは、最初に、増幅用培地(EM)中で精製管断片を増殖させる試みを行った。図27Aで示されるように、小さな管断片においてすぐに継続的な出芽が起こる嚢胞様構造への増幅が起こり、一方で、膵島(データを示さず)および腺房(下部パネル)は徐々に崩壊した。この培養は、30週間にわたり10倍/週増幅する(週に1回継代)。インビトロでの膵臓細胞の最適な増幅に必要なシグナルを調べるために、複数の増殖因子を試験した(図27B)。明らかに、EGF非存在下で、7日後に培養物が崩壊した。R-スポンジンまたはFGF10がないことによってもまた、14日後に培養物の生存能力が低下した。対照的に、BMP阻害剤であるノギンは膵臓断片の持続的増殖に何ら影響がなかった。増幅用培地へのニコチンアミド、エキセンジン4、ガストリンの添加は不可欠ではなかったが、添加すると培養効率が向上した(データを示さず)。
【0149】
本発明者らは、Wntシグナル伝達がPDL時に活性化されることを明らかにしたので、インビトロでの、新たに単離した膵臓断片へのWntアゴニスト添加の、持続的成長に対する効果を調べた。管をアキシン2-LacZマウスから単離した場合、WntアゴニストであるRスポンジン1の存在下でのみ出芽嚢胞全体が青色に染色された(図27C)(PDL後のインビボの状況と類似している(図26DおよびE))。アキシン2-LacZ膵臓から新たに単離した膵島または腺房では青色の染色は観察されなかった。PDL時のインビボでの観察と一致して、Lgr5-LacZ嚢胞の出芽部のみが青色に染色された(図27D)。さらに、R-スポンジンの存在下で14日間にわたり膵臓Lgr5-LacZオルガノイドを培養することによって、Lgr5+細胞の割合が顕著に上昇した(図27E)。重要なこととして、EM中、R-スポンジン非存在下で膵臓断片を培養した場合、オルガノイドは1ヶ月以内に増殖を停止し、一方で、R-スポンジンの存在下では、それらは時間的に無制限に増幅させることができる。これらの観察から、管の付近にあるWnt-応答性前駆細胞が出芽嚢胞の増殖を推進し、続いてこの出芽嚢胞が、幹細胞様の特性を有するLgr5-発現細胞により維持されたことが示唆される。
【0150】
この見解を直接調べるために、本発明者らは、PDLから7日後にマウスからアキシン2-LacZ陽性細胞を選別し、これらの細胞が、管で惹起された嚢胞と区別できなかった出芽嚢胞を効率的に惹起することが分かった(図28)。単一細胞は培地中にWnt3aが含まれることを必要とする。単一細胞分離後のWnt3Aの存在下または非存在下での培養効率の比較から、Wnt3A非存在下で培養された単一細胞は最初に小さな嚢胞構造として増殖するが、2〜4日後に増殖を停止することが分かった。これは、単離膵臓断片から出発した膵臓培養には当てはまらない。興味深いことに、Wnt3Aは4日後に除去され得、このことから、このシグナルの何れも、増殖を刺激するためにはもはや必要でないことまたは培養が開始された単一選別細胞由来の細胞によりWnt3Aの産生が開始されたことが示される。
【0151】
次に、本発明者らは、出芽嚢胞が内分泌系統細胞を生ずる可能性を評価することを試みた。この目的に対して、本発明者らは、分化培地(DM)を規定するためにEMに対する多くの改変を試験した。内分泌系統への分化における一連の因子の影響について、それらを試験した。FGF10の除去は、分化の誘導に重要であると思われた。FGF10の非存在下でのみ、膵島様構造が出現し(図29A)、これは、β細胞前駆細胞(Ngn3)、β細胞(インスリン)に対するいくつかの分化マーカー、グルカゴン(α細胞)およびソマトスタチン(δ細胞)の出現と対応した(図29BおよびC)。さらに、グルコキナーゼ、Pax6およびクロモグラニンAなどの分化マーカーを上方制御した(DM培地への曝露から10日後開始。従って、DMは、最適には、少なくともEGFおよびR-スポンジンからなり、FGF7または10は存在しなかった。分化条件下での幹細胞マーカーであるLgr5の持続的発現は、Lgr5がWnt応答性遺伝子なので、DM中にR-スポンジン、Wntアゴニストが存在することにより説明することができる。EM中のニコチンアミドの存在下で細胞を培養した場合、完全な分化を行わせるためにこれを培地から除去することも重要であった。任意の期間の培養後の出芽嚢胞をEMからDMに移した場合、この嚢胞で定型的な「退縮」プロセスが起こった。壁が進行性に内向きに折り畳まれることにより、嚢胞が嵌入して、膵島と類似した形態を有する、より小型の緻密なものになる(図29D)。インスリンおよびC-ペプチドなどのβ細胞膵島に対するマーカーによって、膵島様形態を確認した(図29E)。Wntシグナル伝達における再生プロセスのこの段階の依存性を確認するために、R-スポンジン非存在下または存在下でDM中で膵臓断片を培養した。重要なこととして、Ngn3の発現により明らかにされるように、β細胞前駆細胞のみがR-スポンジンの存在下で検出可能であった(図29F)。
【0152】
実施例8:ヒト膵臓断片のインビトロでの増幅
胚性膵臓発生の間、膵管ネットワークにおいてニューロゲニン3+またはインスリン発現細胞が見られ、膵管細胞が内分泌前駆細胞および、結果として成熟内分泌細胞を生じさせることが示唆された。ヒト膵管細胞がインビトロでグルコース応答性インスリン産生細胞に分化することが示されており(Bonner-Weir,S et al 2000 PNAS)、この知見により膵管細胞がβ細胞補充療法に対する魅力的なソースとなった。しかし、内分泌分化能を喪失せずに導管細胞を増幅させることは困難であった。既に報告された培養系において、ヒト膵管細胞は、上皮の特性を失うかまたは2週間〜5週間後に老化が起こった(Trautmann B et al.Pancreas vol.8 248-254)。従って、内分泌分化能を保持するヒト膵管細胞を増殖させるための強固な培養系はない。マウス膵臓オルガノイド培養系の確立を生かし、ここで、本発明者らはヒト膵臓オルガノイド培養系の確立を試みた。
【0153】
インビトロでのヒト膵臓前駆細胞の増殖
Leiden University Medical Center,The Netherlandsからヒト膵臓を得た。重要なこととして、上記(実施例7)でマウス膵臓断片に対して記載されているものと同じ条件下で、新たに単離したヒト膵臓断片もインビトロで増殖させることができる(図30)。
【0154】
これらの増殖実験下で、膵臓断片の培養効率はおよそ80%であり、これは、新たに単離した膵臓断片の80%が長期間にわたりインビトロで効率的に増殖したことを意味する。マウス膵臓と比較した場合、腺房組織はより容易に嚢胞構造を形成するが、しかし、これらの構造は4週間以内に増殖を停止した。より大きな細管ネットワークからの膵管細胞はより効率的に嚢胞構造を生じさせ、最終的に出芽部のあるオルガノイドを形成する。この膵臓オルガノイドを週に1回、1:5の比で分割し、増殖能を喪失することなく、インビトロで少なくとも5週間維持した。
【0155】
まとめると、本発明者らは、ヒト膵臓オルガノイド培養系を確立し、元の体積から少なくとも3000倍に膵管細胞を増殖させることに成功した。本発明者らは、ヒト膵管細胞に対して内分泌分化培養条件を最適化しており、このインビトロアプローチは、最適化すれば、1型および2型糖尿病の多くの人々に対してβ細胞補充療法を利用可能とするための重要な意義を持つものになり得る。
【0156】
参考文献
【0157】
実施例9:インビトロでのヒト小腸または結腸陰窩の培養
実施例1および2に記載のように、今回初めて、マウス小腸および結腸上皮に対する長期培養条件を生み出すことが可能となった。陰窩-絨毛オルガノイドは、一連の推測される増殖因子および細胞外マトリクスを補充することにより増殖する。このオルガノイドは、活発に分裂し、腸に存在する全ての主要な分化細胞系統を生ずる腸幹細胞を含有する。この実施例において、本発明者らは、これらの培養条件がマウス腸上皮に特異的なものではなく、ヒト腸上皮を増殖させるためにも使用できることを示す。
【0158】
材料および方法
マウス結腸オルガノイド培養
実施例1に記載のようにマウスオルガノイド培養物を培養した。Wnt分泌を阻害するために、Wnt産生阻害剤(IWP-2)を使用した(Chen et al.,Nat Chem Biol.2009 Feb;5(2)100-7)。
【0159】
ヒト結腸オルガノイド培養
切除した正常結腸標本からヒト結腸陰窩を単離し、確立されたオルガノイド培養系(Sato et al.,2009 Nature May 14;459(7244):262-5)を用いて7日間にわたりオルガノイド構造として培養した。このプロトコールはマウス由来オルガノイド培養に対して最適化されたものなので、本発明者らは、ヒト結腸オルガノイドの最適な成長を確実にするために、Wnt3a馴化培地の添加により僅かな改変を行った。この馴化培地を得るために、このリガンドをコードする適切な発現コンストラクトを遺伝子移入することによって、細胞株においてWnt3aを発現させる。この細胞株を培養し、分泌されたリガンドを含む培養培地を適切な時間間隔で回収する。例えば、細胞は、それらが密集状態に到達し、増殖を停止した瞬間にWnt3Aの産生を開始する。空の発現コンストラクトを遺伝子移入または感染させなかった細胞からの培養培地を陰性対照として使用した。馴化培地を回収し、例えばWnt3aなどのWntアゴニストの存在を定量するための、ルシフェラーゼ発現がTCF応答性エレメントによる制御下にあるアッセイにおいて試験した(Korinek et al.,1997.Science 275 1784-1787)。
【0160】
結果
腸上皮の増殖はWntシグナル伝達経路に依存する。しかしWntソースの正確な位置は不明である(Gregorieff and Clevers,2005,Genes Dev.Apr 15;19(8):877-90)。マウス腸オルガノイドが独立してニッチで増殖したので(Sato et al.,2009 Nature May 14;459(7244):262-5)、本発明者らは、これらのオルガノイドがそれら自身のWntリガンドを産生し得ると仮定した。これを調べるために、本発明者らは、ポーキュパイン阻害剤と恒温放置することによってWnt分泌を阻害した。ポーキュパインはWnt分泌に重要である(概略図31A)。1μM IWPとの恒温放置(Chen et al.,Nat Chem Biol.2009 Feb;5(2):100-7)の結果、オルガノイドが死滅した(図31BおよびC)。Wnt3a馴化培地を添加することによりオルガノイドを救出し得、このことから、オルガノイドが実際にWntリガンドを産生することが示される(図31DおよびE)。
【0161】
本発明者らは、次に、ヒト腸オルガノイドの培養を試みた。Wnt3aなしでは陰窩オルガノイドは出芽構造を形成せず、小腸の場合5〜10日以内におよび結腸の場合3〜4日で死滅したので、Wnt3aを培地に添加することが必要であることが分かった(図32)。全体として、ヒト腸陰窩オルガノイドは、マウスオルガノイド培養と同様の方式で成長した。一般的には、本発明者らは、Wnt-3a馴化培地の活性に依存して、最高で80%の培養効率を得た。このヒト腸培養物を最長で3ヶ月間にわたり培養した。マウス結腸オルガノイド培養物における影響を促進することも観察されたので、ヒト結腸におけるWnt-3aの影響が予想された。ヒト小腸および結腸においてWnt-3aが必要となるが、これは、マウス腸と比較した場合、ヒト消化管に存在するパネート細胞数が少ないために、ヒトオルガノイドによる内因性Wntリガンド産生が少なくなるからであり得る。知る限り、再生可能な長期ヒト腸培養系はなく、本発明者らの培養系は、ヒト腸幹細胞の生物学を理解するためだけでなく、薬物スクリーニングなど、臨床向けの試験に適用するためにも有用である。
【0162】
実施例10:オルガノイドの増殖のための最適化培養条件
実施例5に記載のように、長期にわたり胃上皮を培養するために使用できる培養培地を確認した。ここで、本発明者らは、オルガノイド培養に対する最適化条件を記載する。
【0163】
材料および方法
胃ユニット単離、単一細胞分離およびEGFP+ve細胞選別
一部改変して、既に記載のようにマウス幽門部から胃腺を単離した(Bjerknes and Cheng,2002,Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol.Sep;283(3):G767-77)。簡潔に述べると、顕微鏡下で、大弯に沿って胃を切開し、食塩水で洗浄し、幽門を単離した。胃の筋層を除去し、残存した上皮を5mmの小片に分け、10mM EDTA(培養または染色の場合)または5mM EGTA(RNA単離の場合)を含有する緩衝食塩水溶液(Na2HPO4 28mM、KH2PO4 40mM、NaCl 480mM、KCl 8mM、スクロース 220mM、D-ソルビトール 274mM、DL-ジチオトレイトール(Dithiotreitol)2.6mM)中で3〜5時間、4℃で恒温放置した。キレート剤を除去した後、10mlピペットを用いて緩衝液中で組織断片を激しく縣濁した。縣濁および遠心後、沈殿物中に胃腺が濃縮された。腺単離後、細胞を回収し、10mg/mlトリプシンおよび0.8単位/μl DNAseI(マイクロアレイ分析に対して)を補充したカルシウム不含SMEM培地(Invitrogen)中で再懸濁するかまたは0.8単位/μl DNAase(培養用)を補充したTrypleExpress(GIBCO)中で再懸濁した。両事例において、37℃で20〜25分間恒温放置した後、細胞を沈降させ、40μMメッシュに通してろ過した。フローサイトメトリー(MoFlo、Beckman Coulter)によりEGFPhiおよびEGFPlo細胞を選別した。前方散乱およびパルス幅パラメーターにより単一生存上皮細胞にゲートをかけた。定められる場合、ヨウ化プロピジウムの陰性染色に対して細胞にゲートをかけ、Trizol LS(Invitrogen)中で回収し、製造者のプロトコールに従いRNAを単離するかまたは胃培養培地中で回収し、マトリゲル(BD Bioscience)中で包埋し、下記で詳述するプロトコールに従い培養した。
【0164】
胃の培養
培養のために、単離した胃腺を計数し、全部で100個の腺を50μlのマトリゲル(BD Bioscience)と混合し、24ウェルプレート中に播種した。マトリゲルの重合後、胃培養培地(増殖因子(50ng/m EGF(Peprotech)、1μg/ml R-スポンジン1、100ng/ml ノギン(Peprotech)、100ng/ml FGF10(Preprotech)およびWnt3A馴化培地を含有する、B27、N2およびnアセチルシステイン(Invitrogen)を補充したアドバンスト-DMEM/F12)で表面を覆った。単一細胞培養のために、全部で選別EGFPhi細胞100個/ウェルを胃培養培地中で回収し、マトリゲル(BD Bioscience)中で包埋した。マトリゲルの重合後、胃培養培地で表面を覆った。播種後の最初の2日間、アノイキスを回避するために、この培地に10μM ROCK阻害剤であるY-27632(Sigma Aldrich)も補充した。2日ごとに増殖因子を添加し、4日ごとに全培地を交換した。継代のために、胃オルガノイドをマトリゲルから取り出し、機械的に分離し、新しいマトリゲルへと移した。1:5〜1:8の分割比で1〜2週間ごとに継代を行った。Wnt3Aの必要性を確認するために、Wnt3A馴化培地の代わりに、マウスWnt3A組み換えタンパク質(Stem cell technologies)を補充した。インビトロでの追跡実験のために、2週間経過した胃オルガノイドを胃培養培地中の100nMの4-ヒドロキシタモキシフェンとともに20時間恒温放置し、Lgr5-CreERT2を活性化した。続いてYFPを可視化し、共焦点顕微鏡(Leica、SP5)を用いて生存オルガノイドにおいて記録した。
【0165】
Wnt3a馴化培地
他所に記載のプロトコール(Willert et al.,2003,Nature,May 22;423(6938):448-52)に従いWnt3a培地を調製した。van de Weteringおよび共同研究者らにより記載されるように(van de Wetering et al.,2001 Cancer Res Jan 1;61(1):278-84)、Wnt3a馴化培地および対照馴化培地のWnt活性を試験するために、TOP/FOPアッセイを使用した。TOP/FOP比≧50を高Wnt培地とみなし、胃オルガノイド培養培地で1:1希釈した。この高Wnt3a培地(TOP/FOP比〜5)の1:10希釈物は低Wnt培地とみなし、分化目的に使用した。
【0166】
胃オルガノイドの免疫組織化学
免疫組織化学に対して、胃オルガノイドをPBSで1回洗浄し、RTで15-20分間、パラホルムアルデヒド4%を用いてすぐに固定した。言及される場合、胃オルガノイドをパラフィン中で包埋し、標準技術を用いて処理した。ホールマウント染色に対して、試料をPBS0.5%Triton-X100-1%BSAで透過処理し、一次抗体とともにo/nで恒温放置した。PBS 0.3%Triton X100で数回洗浄した後、試料を二次抗体とともに恒温放置した。製造者の説明書(Click-IT;Invitrogen)に従い、EdU染色を行った。TOPRO3ヨウ素またはHoescht33342で核を染色した。共焦点顕微鏡(Leica、SP5)を用いて胃腺および胃オルガノイドの画像を取得した。Volocity Software(Improvision)を用いて三次元再構成を行った。
【0167】
RT-PCR
RNeasy Mini RNA抽出キット(Qiagen)を用いて胃細胞培養物または新たに単離した組織からRNAを抽出し、Moloneyマウス白血病ウイルス逆転写酵素(Promega)を用いて逆転写した。既に記載のように(Huch et al.,2009)、サーマルサイクラー(GeneAmp PCR System 9700;Applied Biosystems,London,UK)でcDNAを増幅した。使用したプライマーを下記で示す(遺伝子シンボルの次にフォワード(5'-3')およびリバース(5'-3')プライマーが続く)。
【0168】
結果
インビトロでの胃ユニットの最適成長を調べるために、本発明者らは、胃腺ユニットを単離し、これをマトリゲル中で縣濁し、様々な条件下で培養した。胃培養物の成長条件は、馴化培地の形でのWnt3Aへの強い依存を除き、小腸培養の条件と同様であった(EGF、ノギンおよびR-スポンジン1を含む)。精製Wnt3aタンパク質を用いてこの必要性を確認した(図33A)。さらに、FGF10は、出芽事象を推進するためのおよび培養物の多ユニットオルガノイドへの増幅のための必須成分であることが分かった(図33B)。実施例5で使用したFGF7(KGF)の代わりにFGF10を使用することができ、その場合でも結果として、培養開始から4日後、出芽オルガノイドの割合が2倍上昇した(図33C)。新たに形成された胃オルガノイドでは、それらの極性を維持しながら、胃腺-ドメイン出芽部が中心内腔周囲に分布する、継続的な出芽事象が起こった(図33D)。Wnt3A馴化培地非存在下で、胃オルガノイドは急速に衰退した(図33E)。各週に、オルガノイドを機械的に分離し、それらの播種前密度の1/5に分割した。E-Cad染色により明らかにされるように、培養した幽門部ユニットは単層上皮構造であった(図33F)。本発明者らは、上記特性の検出可能な喪失なく、少なくとも8ヶ月間にわたり胃オルガノイドを首尾よく培養した。
【0169】
胃Lgr5+ve細胞(図34A)がインビトロで幽門部胃腺ユニットを生成させ、維持することが可能か否かを調べるために、本発明者らはLgr5-EGFP high 細胞を選別した(図34B)。単一Lgr5-EGFP high 細胞を選別した場合、平均8%の細胞がオルガノイドへと増殖し、一方で、残存細胞は最初の24時間以内に死滅した。選別したLgr5-EGFPhi細胞は、速やかに分裂し始め、5日後には既に小さい嚢胞様構造が見えた。続く数日の間、新たに形成された(嚢胞様)構造が、腺様ドメインを生成し始めた(図34C)。培養9〜11日後、胃オルガノイドを手作業で単離し、新しいオルガノイドを生成させるために分割した。記載の特性を喪失することなく、少なくとも3ヶ月間にわたり、単一細胞由来の胃オルガノイドを週に1回首尾よく再播種した(図34D)。第7日から、Lgr5-EGFP発現が腺様ドメインの底部に限定された(図34E)。EdU染色により明らかにされるように、増殖細胞はこれらの腺様ドメインの底部に位置しており(図34F)、一方、アポトーシスカスパーゼ3-陽性細胞は、内腔に押し出されるのが分かった(データを示さず)。Lgr5-EGFP-ires-CreERT2/Rosa26-YFPレポーターマウスから単離された単一Lgr5+ve細胞由来の確立されたオルガノイドにおいて細胞系譜を調べた。タモキシフェン誘導後、腺様ドメイン内で単一Lgr5+ve細胞においてYFP+veレポーター遺伝子が速やかに活性化された。続く数日にわたり、増殖するオルガノイド内でYFP発現ドメインが相当に増幅し、このことから、インビトロでのオルガノイド増殖に対するLgr5+ve幹細胞の関与が確認された(図34G)。E-カドヘリン染色により明らかにされるように、単一細胞培養物由来のオルガノイドは単層上皮構造であった(図34I)。Lgr5に加えて、この培養物は胃上皮マーカー、胃内因子、ムチン6およびペプシノゲンCを発現した。これらの培養条件下で、窩または腸内分泌系統への分化は観察されなかった(これはピット細胞系統が観察された実施例5とは異なる。しかしその実施例において、活性がより低いWnt馴化培地の代わりにWnt3aタンパク質を使用した。Wnt馴化培地濃度を低下させると、その結果、ピット細胞系統に分化する、下記参照)。培養培地中のWnt3A濃度を低下させると、その結果、胃ムチン5AC(MUC5AC)および過ヨウ素酸シッフ(PAS)の発現により明らかにされるような極性のあるピット細胞、Tff2発現により明らかにされるような頚部粘液細胞および幾分拡散した未熟な腸内分泌細胞(クロモグラニンA)を有する類似の胃構造が形成される(図34H,I)。RA、IGFおよびエキセンジン4のようなさらなる増殖因子を添加すると、その結果、様々な細胞系統への胃培養物のより成熟した分化が起こり得る。まとめると、これらのインビボおよびインビトロの観察から、Lgr5が、以前には認識されていなかった、胃幽門部での自己再生する多能性成体幹細胞の集団を特徴付けることが明らかとなる。
【0170】
参考文献
【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮幹細胞、特に腸および結腸上皮幹細胞を培養するためのおよびこれらの幹細胞を含むオルガノイドを培養するための新規培養培地に関する。本発明はさらに、本発明の培養培地を用いて培養された細胞およびオルガノイドの子孫および毒性アッセイまたは再生医療におけるこの子孫の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
自己再生する小腸上皮は、陰窩および絨毛になるように指令を受ける(Gregorieff and Clevers,2005.Genes Dev 19,877-90(非特許文献1))。細胞は陰窩で新生され、絨毛先端でのアポトーシスにより失われ、結果として、マウスにおいて上皮は5日間でターンオーバーする。自己再生幹細胞は、陰窩底部付近に存在し、全系統に分化可能な、迅速に増殖する一過性増殖(transit amplifying)(TA)細胞を生成させることが長く知られてきた。幹細胞の推定数は、陰窩1個あたり4〜6個である(Bjerknes and Cheng,1999.Gastroenterology 116,7-14(非特許文献2))。3種類の分化細胞型、腸細胞、杯細胞および腸内分泌細胞はTA細胞から生じ、陰窩-絨毛軸に沿ったコヒーレント帯(coherent band)を移動し続ける。各絨毛は、複数の様々な陰窩から細胞を受け取る。第四の主要な分化細胞型であるパネート細胞は陰窩底部に存在する。
【0003】
遺伝子、Lgr5は、最近、第五の細胞型であるサイクル型(cycling)陰窩底部円柱(CBC)細胞(これは、パネート細胞の間に散在する小型の細胞である(図8bで黒矢印で示す))で特異的に発現されることが確認された(Barker et al.,2007.Nature 449:1003-1007(非特許文献3))。GFP/タモキシフェン-誘導型CreリコンビナーゼカセットがLgr5遺伝子座に挿入されたマウスを用いた細胞系譜解析によって、Cre誘導から14ヶ月後に評価した場合でも、Lgr5+CBC細胞が上皮の全細胞型を生じさせる多能性幹細胞を構成することが示された。
【0004】
Lgr5の他にLgr6も(Lgr4は当てはまらない)、成体幹細胞に対する特有のマーカーであることが最近発見された。Lgr5が脳、腎臓、肝臓、網膜、胃、腸、膵臓、乳房、毛包、卵巣、副腎髄質および皮膚の幹細胞で発現される一方で、Lgr6は、脳、肺、乳房、毛包および皮膚の幹細胞で発現される。
【0005】
一般に、上皮幹細胞を繋ぎ止め、支持するためにおよび適正に極性化した三次元構造を生成させるのに必要な正しい配向をもたらすために、上皮幹細胞と上皮下繊維芽細胞との間の密接な接触が必要であると考えられている。
【0006】
腸上皮幹細胞を含む初代上皮幹細胞を培養するために様々な培養系が述べられているが(Bjerknes and Cheng,2006.Methods Enzymol 419:337-83(非特許文献4))、現在まで上皮幹細胞の多分化能を維持する長期培養系は確立されていない。さらに、結腸または腸から単離された陰窩の基本的な陰窩-絨毛生理を保持するかまたは単離膵臓断片もしくは胃組織断片の基本的生理を保持する培養系は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Gregorieff and Clevers,2005.Genes Dev 19,877-90
【非特許文献2】Bjerknes and Cheng,1999.Gastroenterology 116,7-14
【非特許文献3】Barker et al.,2007.Nature 449:1003-1007
【非特許文献4】Bjerknes and Cheng,2006.Methods Enzymol 419:337-83
【発明の概要】
【0008】
従って、本発明は、細胞外マトリクスを提供し、この細胞外マトリクスとともに上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞を恒温放置し、骨形成タンパク質(BMP)阻害剤、5〜500ナノグラム/mlのまたは少なくとも5および500ナノグラム/ml以下の分裂促進増殖因子が添加され、上皮幹細胞および単離組織断片を培養する場合はWntアゴニストが添加される、動物またはヒト細胞用の基本培地を含む細胞培養培地の存在下で、この幹細胞、単離組織断片または腺腫細胞を培養することを含む、上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離上皮組織断片または腺腫細胞を培養するための方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】陰窩培養の増殖因子の必要性 a.EGF(E;0〜50ng/ml)およびR-スポンジン1(R:0〜500ng/ml)とともに500個の陰窩を三つ組みで播種し、播種から7日後に陰窩オルガノイドを計数した。b:指示された量のノギンと一緒にEGF(50ng/ml)およびR-スポンジン1(500ng/ml)とともに、500個の陰窩/陰窩オルガノイドを培養し、その後3回の継代を行った。各継代時に陰窩オルガノイドを計数した。この実験を3回繰り返した(結果は同等のものであった)。
【図2】腸陰窩培養系の確立。 a:オルガノイドへと成長する単離単一陰窩の経時変化。微分干渉画像から、陰窩底部において顆粒含有パネート細胞が明らかである(矢印)。b、c:単一単離陰窩は、陰窩オルガノイドを効率的に形成する。陰窩分裂の繰り返しを通じて、この構造から、第14日に多くのタコ足様陰窩オルガノイドが形成される。d:培養3週間後の単一オルガノイドの3D再構成共焦点像。Lgr5-GFP+幹細胞(薄灰色)は陰窩様ドメインの先端に局在する。DNAに対する対比染色:ToPro-3(濃灰色)。e:陰窩オルガノイドの概略図。オルガノイドは、絨毛様上皮により内面が覆われている中心内腔および多数の周囲の陰窩様ドメインからなる。陰窩ドメインの先端部の濃灰色細胞はLgr5+幹細胞の位置を指し、これは各陰窩ドメインに存在する。スケールバーは50μmを示す。
【図3】遺伝子発現プロファイリングのクラスター分析。 新たに単離した結腸および小腸陰窩ならびに小腸オルガノイドを用いた発現レベルのクラスター分析から、小腸オルガノイドとそれらが由来する組織である小腸陰窩との間で類似性が高いことが示された。結腸陰窩は個々の枝上に密集しており、このことから、この密接に関連する組織で遺伝子発現パターンが異なることが示される。注目すべきは、発現される全遺伝子の1.2%のみが、小腸陰窩と比較してオルガノイドに顕著に集積しており、一方、逆に小腸陰窩では2%が集積していた。これらの差別的遺伝子におけるIngenuity Pathway分析から、新たに単離した陰窩においてリンパ球痕跡が特異的に存在することが明らかになり、一方で、オルガノイドにおいて濃縮されている少数の遺伝子においては重要な経路を同定することができなかった(図示せず)。本発明者らは、後者のグループが生物学的ノイズに相当し、一方でリンパ球の痕跡は混入した上皮内免疫細胞由来であり、培養時に失われると結論付ける。
【図4】陰窩オルガノイドは基本的な陰窩-絨毛の特徴を保持する。 a〜e.Wnt活性化コードは陰窩ドメイン中で保持される。a:核β-カテニン(濃灰色、矢印)は陰窩ドメインでのみ見られた。図5での高解像度画像。星印、マトリゲル;Lu、内腔。b:CBC細胞およびTA細胞において、傾斜的にEphB2(薄灰色)が発現される。白矢印で示されるようなLgr5-GFP+幹細胞に注意。c:腸細胞により内面が覆われている中心内腔に流れ込むカスパーゼ-3+アポトーシス細胞(濃灰色、矢印)。d:>3ヶ月経過した陰窩培養物からの細胞の拡散における40本の染色体。e〜g:インビトロでのLgr5+幹細胞の細胞系譜解析。e:Lgr5-EGFP-ires-CreERT2/Rosa26-lacZレポーターマウスからの陰窩をインビトロで12時間、タモキシフェンにより刺激し、指示された日数にわたり培養した。LacZ染色(濃灰色)から、インビトロで、拡散した単一LacZ+細胞(第1日)からLacZ+陰窩全体が形成された(第2〜14日)ことが分かる。差し込み図は染色した陰窩オルガノイドのより高倍率の画像を示す。f:組織学的分析から、LacZ+陰窩-ドメイン全体(濃灰色/黒)が絨毛ドメインに流れ込むことが分かる。g:LacZ+細胞がある陰窩オルガノイドの割合は時間が経過しても安定であり続け、このことから、Lgr5+細胞が長期間継続する幹細胞活性を保持することが示される。500個の陰窩を三つ組みで播種し、LacZ+陰窩オルガノイドを計数した。エラーバーは3回の実験の標準偏差である。この実験を3回繰り返し、結果は同等であった。
【図5】図4a、図11mおよび11pのより高解像度の画像。
【図6】陰窩オルガノイドにおいて上皮下繊維芽細胞の証拠はない。 a:平滑筋アクチンに対する免疫染色(SMA;濃灰色、例は黒矢印で示される)から、上皮層の下に上皮下繊維芽細胞が存在することが明らかである。b:マトリゲル(星印)中にSMA+細胞がないことから、培養系において上皮下繊維芽細胞が存在しないことが示される。スケールバー;50μm。
【図7】a〜c:Lgr5-EGFP-ires-CreERT2/Rosa26-YFPレポーターマウスからの陰窩をインビトロでタモキシフェンにより12時間刺激し、指示された日数、画像化した。Lgr5+細胞は薄灰色であり、白色矢印により示される。d:Lgr5-EGFP-ires-CreERT2/Rosa26-YFP陰窩由来の7日間経過オルガノイドをインビトロでタモキシフェンにより12時間刺激し、指示された日数にわたり培養し、画像化した。YFP蛍光(薄灰色)から、拡散した単一YFP+細胞(第1日)から、次の5日間にわたり、インビトロで複数の子孫が生じたことが示される。第1日〜第1.5日の間、絨毛ドメインが破裂し、続いて新しい絨毛ドメインが形成される(白丸)。YFP+細胞が絨毛ドメインに向かって移動していることに注意。
【図8】選別した単一Lgr5+幹細胞から、陰窩-絨毛構造全体が生じる。a:野生型同腹子(上)と比較した、Lgr5-EGFP-ires-CreERT2腸(下)から調製されるLgr5-GFP+細胞。GFP+細胞を2つの集団、GFPhiおよびGFPlowに分けた。b:新たに単離した陰窩の共焦点顕微鏡分析から、CBC細胞中のGFPhi(黒矢印)およびCBC上のGFPlow(白矢印)が示される。c:選別したGFPhi細胞。d:培養14日後の1000個の選別GFPhi細胞(左)およびGFPlow細胞(右)。e〜f:選別から14日後、単一GFPhi細胞から、Lgr5-GFP+細胞(薄灰色の細胞)およびパネート細胞(白矢印)が陰窩底部に局在する、陰窩オルガノイドが形成される。スケールバー;50μm。f:eにおける陰窩底部のより高倍率の画像。g:増殖している細胞を可視化するために、チミジン類似体EdU(薄灰色、白矢印により例が示される)とともに1時間、オルガノイドを培養し、その後これらを固定した。陰窩ドメインのみがEdUを取り込んだことに注意。対比染色:DAPI(濃灰色)。
【図9A】個別のウェル中で選別された単一細胞のコロニー形成効率。4回の個々の実験(各実験において100個の細胞を目視で確認し、次いで増殖について追跡)に対して平均を算出する。
【図9B】良好に増殖する単一GFhi細胞の例。
【図9C】5個の成長オルガノイドに対して、1個のオルガノイドあたりの細胞数の平均を算出した。
【図9D】単一細胞由来オルガノイドからの単一細胞縣濁液を再播種し、2週間増殖させた。
【図10】個別のウェルにおいて選別された単一細胞のコロニー形成能。良好に増殖した単一GFPhi細胞の例。矢印は、目印としての塵埃粒子を指す。スケールバー:50μm。
【図11】単一幹細胞由来オルガノイドの組成。a〜d:a:薄灰色の絨毛(腸細胞で内部が覆われている中心内腔の先端)、b:白矢印により示されるMuc2染色(杯細胞)、c.薄灰色のリゾチーム(パネート細胞)、d:薄灰色のクロモグラニンA(腸内分泌細胞)に対する三次元再構成された共焦点像。核をDAPIで対比染色した。e〜g:パラフィン切片染色。e:アルカリホスファターゼは黒色(腸細胞で内部が覆われている中心内腔の先端)、f:濃灰色のPAS(杯細胞)、g:濃灰色のリゾチーム(パネート細胞)、h:濃灰色のシナプトフィジン(腸内分泌細胞)。i〜p:陰窩オルガノイドの電子顕微鏡切片から、腸細胞が存在することが明らかになる。(i)、杯細胞(j)、パネート細胞(k)および腸内分泌細胞(l)。m/o:低出力陰窩画像は間質細胞がないことを示す。n〜o:mのより高倍率の画像。n:微絨毛の長さの違いにより示されるような、オルガノイドの内腔区画への刷子縁の成熟(黒矢印)。p:絨毛ドメインの低出力画像。Lu、アポトーシス体で満たされ、極性のある腸細胞により内面が覆われている陰窩オルガノイドの内腔。G、杯細胞;EC、腸内分泌細胞;P、パネート細胞;星印、マトリゲル。スケールバー:5μm(m、p)、1μm(n、o)。
【図12】インビボの陰窩とインビトロの培養陰窩との間の電子顕微鏡画像の比較。a、b:下に結合組織(矢印)がある陰窩の底部における正常な腸。比較については、陰窩の底部でも採取したオルガノイドのc-gを参照のこと。d:頂端膜からの高倍率画像;2個の隣接細胞の膜の間に細胞間裂溝がある(矢印)。デスモソーム(矢じり)に続いて細胞間裂溝があることに注意。e:基底部位からの高倍率(2個の隣接細胞の膜に続いて細胞内裂溝があり得る)。これらの画像は、正常マウスの腸からのaおよびbと同等である。これらの細胞間裂溝の原因は、アルデヒド固定中の浸透圧衝撃であり得る。f,g:オルガノイドを構成する全細胞は健康な状態であり、大きな空胞またはストレスのその他の兆候はない。有糸分裂像(c)および各細胞において多くの核孔(f、矢印)および無傷のミトコンドリアを認め得る。膨張の所見なく、ERおよびゴルジ(g)を見ることができる。核崩壊、核融解または核凝縮の兆候はない。従って、細胞溶解またはアポトーシスの兆候は観察されない。オルガノイドの内腔の細胞は、正常マウスの消化管で観察することができるように、予想されるアポトーシスの特性を示す。fは腸内分泌細胞の別の例を示す。Mi:有糸分裂細胞、Lu:内腔、EC:腸内分泌細胞、G:ゴルジ。
【図13】培養において結腸由来の陰窩を維持することもできる。結腸由来の単一単離陰窩は、小腸陰窩に対して使用したものと同じ培養条件を用いて、効率的に陰窩オルガノイドを形成する。陰窩分裂の繰り返しを通じて、第14日にこの構造から多くのタコ足様陰窩オルガノイドが生じる。
【図14】BDNFの添加により培養効率が向上する。EGF、ノギン、R-スポンジンおよびBDNF存在下で単一単離結腸陰窩を培養した。培養開始後第0、4および14日に取得した結腸陰窩オルガノイドの画像。
【図15】Wnt3aを添加することによって、結腸陰窩オルガノイドの培養効率がさらに向上する。EGF、ノギン、R-スポンジン存在下で単一単離結腸陰窩を培養した。Wnt3a馴化培地(+Wnt3a)を使用すると、対照培地(-Wnt3a)中で結腸オルガノイドを培養した場合と比較して、最大30%、培養効率が向上した。
【図16】APC-/-マウスから単離された腺腫はインビトロで成長し得る。APC-/-マウス由来の単一単離腺腫を分離し、R-スポンジンが培養培地中に含まれなかったことを除き上記と同様の条件を用いて培養した。a:第4日にここで示されるように腺腫オルガノイドは通常、アポトーシス細胞を含有する1つの中心内腔を含有する単純な嚢胞として成長する。b:ある1つの腺腫オルガノイドのより高倍率の画像。c:ある1つの腺腫オルガノイドをβ-カテニン(濃灰色)およびヘマトキシリン(内腔中の薄灰色)で染色した。オルガノイドの外層は、核β-カテニン染色がある上皮細胞からなる。内側の内腔は、ヘマトキシリンを取り込んでいる死細胞を含有する(濃灰色に染色)。d:明白な核β-カテニンを示す、上皮細胞の外層のより高倍率の画像。
【図17】Wnt3aを添加すると、オルガノイド形成の効率が向上する。a:Lgr5-GFPhi細胞を選別し、従来の単一細胞培養条件(単一細胞に対して上記で記載のような、EGF、ノギン、R-スポンジン、NotchリガンドおよびY-27632)に加えてWnt3a(100ng/ml)の存在下または非存在下で培養した。Wnt3aの存在下または非存在下でオルガノイドを培養したこれらの培養皿の画像は代表例である。b:細胞100個/ウェルを播種し、オルガノイド数は播種から14日後であった。オルガノイド数/皿をこのグラフで表す。
【図18】R-スポンジン1機能に対するモデル Wnt/β-カテニンシグナル伝達は、Frizzledに対する標準的なWntリガンドの結合およびLRP5/6受容体との会合時に開始される。R-スポンジン1非存在下で、Wntシグナル伝達は、細胞表面上のLRP6の量により制限され、この量はDKK1/Kremen1介在性の内部移行によって低く維持される。R-スポンジン1は、DKK1/Kremen1介在性のLRP6ターンオーバーに拮抗し、その結果、LRP6の細胞表面レベルが向上することによってWntシグナル伝達を促進する。この図はPNAS 104:14700、2007から採用した。
【図19】パネート細胞は、小腸においてLgr5+幹細胞に隣接して位置する。Lgr5-EGFP-ires-CreERT2ノックインマウスの小腸から陰窩を単離した。ここで代表的陰窩の例を示す。GFP+細胞はLgr5+(薄灰色、黒矢印で示す)であり、これらは、通常、パネート細胞(*で示す)に隣接して位置する。
【図20】生存パネート細胞非存在下で、オルガノイド形成効率が低下する。PBS+0.1%Pluronic 127(Sigma)中で1μM Newport Green-DCF(Molecular probe)とともに室温で3分間、単離陰窩を恒温放置し、続いてPBS洗浄を行った。この後、陰窩をマトリゲル中に包埋し、上記のような標準的条件を用いて培養した。
【図21】胃オルガノイド培養の効率。(a)Lgr5-GFPマウスの胃幽門部由来の単離胃腺のGFP(矢印、GFP陽性細胞を示す)およびDIC画像。DAPIで核を染色する。倍率63x。(b)胃腺100個/ウェルをEGF(E)、R-スポンジン1(R)、ノギン(N)、EGF+R-スポンジン1(ER)、EGF+ノギン(EN)、EGF+R-スポンジン1+ノギン(ERN)、EGF+R-スポンジン1+ノギン+Wnt3A(ERNW)またはEGF+R-スポンジン1+ノギン+Wnt3A+KGF(ERNWK)とともに2つ組みで播種した。2、5および7日後に胃オルガノイド数を数えた。結果は、2回の独立した実験の平均±SEMとして示す。(b)Wnt3A組み換えタンパク質(ENRWK)またはaで述べたその他の増殖因子を補充したWnt3A馴化培地(ENRWCMK)とともに、胃腺100個/ウェルを2つ組みで播種した。播種から7日後および最初の継代から2日後に出芽オルガノイド数を数えた。
【図22】インビトロでの胃オルガノイドの形成。(a)オルガノイドへと成長する単離胃腺。播種後第1、2、5および7日の微分干渉画像。倍率10x(第1、2、5日)。第7日倍率4x、挿入図10x。(b)培養物は、機械的に分離して4〜7日ごとに継代した。少なくとも1ヶ月間にわたり培養物を増殖させた。様々な継代時の、オルガノイドから生じた出芽構造を示す代表的画像。継代1(P1)、それぞれ第8、11、20日に相当する継代2(P2)および継代4(P4)。
【図23】胃腺のマーカー。(a)Lgr5-LacZマウスからの胃培養物。播種後第5日に出芽した胃においてLacZ発現が検出され(矢印参照、LacZ陽性(濃灰色)細胞を示す)、このことから、Lgr5陽性細胞の存在が示される。倍率20x。(b)Ki67染色(黒)は、腺様構造の底部の陽性増殖細胞を示す。(c)オルガノイドの内腔の内側に存在するカスパーゼ-3(濃灰色)アポトーシス細胞。(d)胃オルガノイドに存在する胃ムチン5AC(濃灰色)陽性細胞。Lu、オルガノイド内腔。倍率20x。
【図24】膵管はインビトロで膵臓様オルガノイドを形成し得る。EGF、ノギン、R-スポンジン-1およびKGF存在下で、新たに単離した膵管を培養した。播種後第0、4および14日からの微分干渉画像。
【図25】インビトロ培養のおよそ3週間後に膵島様構造が出現する。播種後第21日からの微分干渉画像。
【図26A】アキシン-LacZマウスにビヒクルを単独で(A)またはR-スポンジン(B)を注射した。2日後、膵臓を単離し、X-galでの染色によってLacZ発現の有無を調べた。Bの中央のパネルは、LacZに対して陽性染色を示す管のより高倍率の像を示し、これにより、膵管の裏打ちに沿ったアキシン-LacZの発現が示される。左パネルは、中心腺房における小さい導管細胞または挿入される導管細胞がアキシン2-LacZを発現したことを示す(例を黒矢印で示す)。倍率は各画像の角に示す。野生型マウスにおいて膵管結紮を行った。PDL後の様々な時点で膵臓を摘出し、PDLおよび非PDL領域から得た組織切片をH&Eで染色した。倍率は各時間点に対して示す(C)。wtおよびアキシン2-LacZマウスにおいて膵管結紮を行った。PDLから7日後に、この膵臓を摘出し、固定組織切片(D)またはホールマウントの器官切片(E)のX-galでの染色によってアキシン2-LacZ発現を調べた。白丸は膵臓の結紮部分を示す。PDLから5日後の膵臓組織切片におけるKi67の発現(例を矢印により示す)。倍率を示す(F)。インビボでのR-スポンジンによる処置から2日後の膵臓組織でのBrdUの取り込み(例を矢印により示す)。倍率を示す(G)。PDLまたは偽手術を行ったマウスから得た膵臓組織においてQ-PCRによって、Lgr5 mRNA発現を調べた。PDL膵臓において、PDL領域および非PDL領域をQ-PCRに供した。TATAボックス結合タンパク質(tbp)、ハウスキーピング遺伝子と比較した、Lgr5発現の上昇(倍)を示す(H)。PDLから13日後に膵臓を摘出し、固定組織切片のX-galでの染色によってLgr5-LacZ発現を調べた。染色細胞の例は黒矢印(I)で示される。
【図26C】図26Aの続きを示す図である。
【図26D】図26Cの続きを示す図である。
【図26E】図26Dの続きを示す図である。
【図26F】図26Eの続きを示す図である。
【図26G】図26Fの続きを示す図である。
【図26H】図26Gの続きを示す図である。
【図26I】図26Hの続きを示す図である。
【図27A】野生型マウスからの摘出後、様々な時点で取得したEM中にてインビトロで増殖させた膵管断片の画像(A、上段パネル)。腺房中心細胞は7日を超えて増殖せず、その後崩壊した(A、下段パネル)。
【図27B】EGF(50ng/ml)、R-スポンジン(1μg/ml)、FGF10(100ng/ml)またはノギン(100ng/ml)の存在下または非存在下で膵臓断片を成長させた。新たに単離した膵臓断片とともに培養を開始してから7日および14日後に、培養物の画像を取得した。EGF非存在下で培養物は10日を超えて生存することはなかった(B)。
【図27C】R-スポンジン(1μg/ml)の非存在下または存在下で、3日間、アキシン2-LacZマウスから単離した膵臓断片を培養した。X-gal染色から、R-スポンジンの存在下でのみ、3日および14日後、管細胞におけるWnt-応答性アキシン-LacZの発現が示された(例を白矢印で示す)。腺房または膵島細胞でX-gal染色は検出されなかった(C)。
【図27D】Lgr5-LacZマウスから管断片を単離し、R-スポンジン非存在下または存在下で3日間にわたり培養した。X-gal染色により示されるとおりのLgr5-LacZの発現から、PDL後のその発現と同様に、出芽部の先端でLgr5+細胞が示される(D)。
【図27E】WntアゴニストであるR-スポンジンの存在下で培養した膵臓断片由来の細胞のFACS染色。EpCAM、汎上皮細胞マーカーおよびLacZ(フルオレセイン-ジ-ガラクトピラノシド、FDG)に対して細胞を染色した。Wntシグナルの存在下で膵臓断片を培養するとLgr5+細胞の割合が顕著に増加する(E)。
【図28】PDL処置から7日後、マウスから膵臓を単離し、膵臓細胞をEpCAM-APCおよびLacZに対する蛍光基質(FluoroReporterキット)で染色し、選別し、50%Wnt3A馴化培地および10mM Y-27632を含むEM中で4日間培養した。4日後、培養培地をWntおよびY-27632不含のEM培地に交換した。指定した日に画像を取得し、4Ox倍率を示す。
【図29A】膵臓オルガノイドをEMからDMに移した。FGF10の増幅用培地からの除去(その結果、DMとなる)の影響により、膵島への分化が誘導された。DM中で10日間にわたり膵臓オルガノイドを培養し、その後、インビトロで膵島様構造を検出することができた。FGF10の存在下および非存在下での培養物の画像を示すが(A)、これは、PCRにより測定した場合の、ある一定の分化マーカー、Ngn3およびソマトスタチンの発現上昇を示す。Hprtはハウスキーピング遺伝子である(B)。DMへ移した後のいくつかの時点で、PCRにより多くのマーカーの発現を評価した(C)。膵臓嚢胞からβ細胞様構造への形態変化(D)は、免疫蛍光により検出されるように、インスリンおよびC-ペプチドなどのある一定のβ細胞マーカーの出現に付随して起こった(E)。Ngn3に対する陽性免疫蛍光染色により示されるように、DM中にR-スポンジンが存在することは、β細胞の前駆細胞の再生に不可欠である(例を白矢印により示す)(F)。
【図29B】図29Aの続きを示す図である。
【図29C】図29Bの続きを示す図である。
【図29D】図29Cの続きを示す図である。
【図29E】図29Dの続きを示す図である。
【図29F】図29Eの続きを示す図である。
【図30】ヒト膵臓断片を新たに単離し、EM中で培養した。培養開始後の指定された時点で培養物の画像を取得した。
【図31】インビトロで陰窩培養物はWntリガンドを産生する。 (A)Wnt経路の概略図。Wntリガンドが分泌される場合、これらは、自己分泌または傍分泌であり、Wntシグナル伝達経路を活性化し得る。ポーキュパインは、適正なWntリガンド分泌のために重要である。IWP阻害剤により、Wntリガンド分泌が阻害される。 (B)実施例1で示すような通常の条件下で培養したマウスオルガノイド。 (C)1μM IWPとのマウスオルガノイド培養物の恒温放置の結果、オルガノイド培養物の細胞死が起こる。 (D)Wnt3a馴化培地を添加すると、マウスオルガノイドの培養が促進される。 (E)IWP誘導性のオルガノイドの死は、Wnt3a馴化培地の添加により救出される。 10xの倍率を示す(B〜E)。
【図32】ヒト腸陰窩培養の確立。 Wnt3a馴化培地あり(A、B、E、F)およびなし(C、D、G、H)で、EGF、ノギンおよびRスポンジンが補充された培地中での3日後(A、C、E、G)および5日後(B、D、F、H)の、小腸(A〜D)および結腸(E〜H)から培養されたヒトオルガノイド。
【図33A】胃オルガノイド培養の確立。 (A)EGF(E);R-スポンジン1(R);ノギン(N);EGF+R-スポンジン1(ER);EGF+ノギン(EN);EGF+R-スポンジン1+ノギン(ERN);EGF+R-スポンジン1+ノギン+Wnt3A(ERNW);EGF+R-スポンジン1+ノギン+Wnt3A+FGF10(ERNWF);EGF+R-スポンジン1+ノギン+対照馴化培地+FGF10(ERNCCMF)またはEGF+R-スポンジン1+ノギン+Wnt3A馴化培地+FGF10(ERNWCMF)とともに、全部で胃腺100個/ウェルを2つ組で播種した。2、5および7日後、胃オルガノイド数を数えた。結果は、2回の独立した実験の平均±SEMとして示す。
【図33B】胃オルガノイド培養の確立。 (B)Wnt3A馴化培地(ENRWCM)またはFGF10を補充したWnt3A馴化培地(ENRWCMF)とともに、全部で胃腺100個/ウェルを2つ組で播種した。培養7、15(継代2)および60日(継代10)後、出芽オルガノイド数を数えた。
【図33C】胃オルガノイド培養の確立。 (C)FGF7/KGF(K)またはFGF10(F)の何れか(100および1000ng/mlの両方を試験した)を補充したWnt3A馴化培地(WCM)+EGF+ノギンおよびR-スポンジン中で、全部で胃腺100個/ウェルを播種した。培養4日後(継代7)に、出芽オルガノイド数を数えた。代表的実験を示した。
【図33D】胃オルガノイド培養の確立。 (D)単離胃腺のオルガノイドへの発生。播種後第1、2、3、4、7日からの微分干渉画像。1週間後、培養物を1:5または1:6に分割する必要があった。補足資料および方法セクションに記載のように継代培養および維持を行った。培養中15日、3ヶ月、4.5および6ヶ月後の培養物の代表的画像(10x倍率)。
【図33E】胃オルガノイド培養の確立。 (E)対照馴化培地中で増殖させた5日経過培養物の例。培養物は増殖しておらず、腺ドメインを形成できなかったことに注意。これらの条件下で、培養物は7日を超えて生存しなかった。
【図33F】胃オルガノイド培養の確立。 (F)3ヶ月経過した胃オルガノイドにおけるホールマウントE-カドヘリン染色。
【図34A】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (A)Lgr5-EGFP-ires-CreERT2マウスの胃から新たに単離した幽門部胃ユニットの共焦点分析。矢印はGFPhi(灰色)、GFPlo(黒)およびGFP-ve(白)の別個の集団を示す。
【図34B】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (B)Lgr5-EGFP+ve細胞はそれらのGFP発現レベルに従い、GFPloおよびGFP-ve集団から区別される。FSC、前方散乱。
【図34C】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (C)単一Lgr5+ve細胞が起源である成長オルガノイドの代表例。矢印は第7日腺様ドメイン出芽部の形成を示す。最初の倍率:第1〜4日;4Ox倍率、第5〜6日;2Ox倍率、第7〜8日;10x倍率および第9日;5x倍率。
【図34D】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (D)単一Lgr5+ve細胞由来のオルガノイドを分離し、5〜7日ごとに分割した。3ヶ月経過培養物の代表的画像。本来の倍率:左パネル;4x倍率、右パネル;10x倍率。
【図34E】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (E)単一GFPhi細胞から増殖した14日経過胃培養物におけるLgr5EGFP発現細胞の共焦点分析。Lgr5-GFP+ve細胞が腺ドメインの底部に位置することに注意(白矢印;10x倍率)。
【図34F】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (F)チミジン類似体EdU(赤)とともに1.5時間培養したオルガノイド。腺ドメインのみがEdUを取り込む(白矢印;20x倍率)。対比染色、4,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI;核)。
【図34G】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (G)Lgr5-EGFP-ires-CreERT2/Rosa26-YFPレポーターマウスの単一細胞培養物から2週間培養した培養物をインビトロでタモキシフェンにより20時間刺激し、指定の日に画像化した。YFP蛍光(黄色)は、拡散した単一の黄色の細胞(第1.5日)から、インビトロで複数の子孫が生じていることを示す。YFP+ve細胞が中心内腔(白色点線丸)に向かって移動することに注意。
【図34H】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (H)Lgr5+ve単一細胞由来の2ヶ月経過培養物からの胃特異的な遺伝子の発現分析。高(左パネル)または低(中央パネル)Wnt3A培地で維持される培養物。胃由来培養物が腸特異的な遺伝子について陰性であることに注意(右パネル)。
【図34I】単一Lgr5+ve細胞からインビトロで長命の胃オルガノイドが形成される。 (I)少なくとも10日間にわたり低Wnt3A培地中で維持される培養物。上部パネル:ECad染色の共焦点像(赤、上皮由来オルガノイド)。対比染色、Hoescht 33345(青)。下パネル:Tff2(茶色、頚部粘液細胞)、過ヨウ素酸シッフ(赤、ピット細胞)、MUC5AC(茶色、ピット細胞)およびクロモグラニンA(茶色、腸内分泌細胞)に対して染色されたパラフィン切片。
【発明を実施するための形態】
【0010】
驚くべきことに、本発明の方法が、未分化の表現型および自己維持能を保つ幹細胞を存在させ続けながら、上皮幹細胞、この幹細胞を含む小腸、結腸、胃および膵臓からの単離断片および腺腫細胞の培養を可能にするということが、本発明者らによって発見された。例えば、本発明の方法に従い培養される単離陰窩は、絨毛様上皮により内面が覆われている中心内腔を含む陰窩-絨毛オルガノイドになる。単離陰窩の増殖は、陰窩に存在する幹細胞により刺激された。得られるオルガノイドで複数の陰窩分裂事象が起こる。さらにまた驚くべきことに、本発明の方法によって、幹細胞ニッチの非存在下で、1個の単離上皮幹細胞が陰窩-絨毛オルガノイドへ成長するという観察はさらに驚くべきことであった。胃の幽門部由来の単離胃断片は、腸陰窩オルガノイドのように働く。このユニットの開放上部が密閉され、内腔にアポトーシス細胞が満たされた。新しく形成された胃オルガノイド(gastric organoid)で、中心内腔とともにそれらの極性を維持しながら、連続的な発芽事象(腺分裂を連想させる)が起こった。さらに、膵臓断片を培養すると、その結果、ランゲルハンス膵島に類似した、インスリンおよびその他の膵島特異的なマーカーを発現する膵島様構造が出現した。
【0011】
小腸および大腸の幽門部を覆う上皮は、管腔内突起、絨毛および陥入部、陰窩を包含する。陰窩-絨毛軸に沿った各細胞は極性があり、それにより、腸絨毛の先端部または結腸陰窩の上部位置の細胞は最もよく分化しており、連続的に内腔へと向かって失われる。陰窩の基底部に存在する幹細胞の連続的増殖および陰窩の中ほどに存在する前駆細胞の大規模な増殖によって、確実に脱落細胞の正しい置き換えが行われるようになる。
【0012】
幹細胞は、成人および成体マウスの多くの器官で見られる。個々の組織の成体幹細胞の正確な特徴は非常に多様ではあり得るが、成体幹細胞は共通する次の特徴を有する。成体幹細胞は未分化表現型を保持し、それらの子孫は、適切な組織に存在する全ての系統に分化し得、それらは一生を通じて自己維持能を保持し、それらは損傷後に適切な組織を再生することが可能である。幹細胞は、特定の場所に存在し、この幹細胞ニッチは、適切な細胞-細胞接触およびこれらの幹細胞集団の維持のためのシグナルを供給する。
【0013】
上皮幹細胞は、上皮を構成する全く異なる細胞型を形成することができる。ある一部の上皮、例えば皮膚または腸などの細胞ターンオーバーは迅速であり、このことから、存在する幹細胞は継続的に増殖するに違いないことが示唆される。その他の上皮、例えば肝臓または膵臓などのターンオーバーは正常状態下で非常に遅い。
【0014】
当業者にとって公知のプロトコールによって、十二指腸、小腸および大腸(空腸、回腸および結腸を含む)ならびに胃の幽門部から陰窩を単離することができる。例えば、キレート剤(基底膜および間質細胞型とのそれらのカルシウムおよびマグネシウム依存性相互作用から細胞を解放する)と単離組織を恒温放置することによって、陰窩を単離することができる。この組織を洗浄した後、硝子スライドで上皮細胞層を粘膜下層から剥離し、細切する。この後、続いて、トリプシンまたは、より好ましくはEDTAおよび/またはEGTA中で恒温放置し、例えばろ過および/または遠心段階を用いて、未消化の組織断片と陰窩由来の単一細胞とを分離する。トリプシンの代わりに、その他のタンパク質分解酵素、例えばコラゲナーゼおよび/またはディスパーゼIを使用することができる。膵臓および胃の断片を単離するために同様の方法が使用される。
【0015】
上皮組織から幹細胞を単離する方法は当技術分野において公知である。好ましい方法は、幹細胞がその表面上でLgr5および/またはLgr6(これらは大型のGタンパク質共役受容体(GPCR)スーパーファミリーに属する)を発現するという事実に基づく。Lgrサブファミリーは、リガンド結合に重要な大きなロイシンリッチ細胞外ドメインを輸送するという点で特有である。Lgr5およびLgr6に対するリガンドは未だ文献に記載されていない。従って、好ましい方法は、上皮組織から細胞縣濁液を調製し、この細胞縣濁液をLgr5および/または6結合化合物と接触させ、このLgr5および/または6結合化合物を分離し、この結合化合物から幹細胞を単離することを含む。この段階でトリプシン処理した上皮幹細胞の生存率がやや低いことが分かったので、上皮幹細胞を含む単一細胞の縣濁液を単離陰窩から機械的に生成させることが好ましい。
【0016】
好ましいLgr5および/または6結合化合物には、抗体、例えばLgr5またはLgr6の何れかの細胞外ドメインを特異的に認識し、それに結合するモノクローナル抗体(例えば、マウスおよびラットモノクローナル抗体を含むモノクローナル抗体など)が含まれる。当業者にとって当然のことながら、このような抗体を用いて、例えば磁性ビーズを活用してまたは蛍光活性化細胞ソーターを通じて、Lgr5および/またはLgr6発現幹細胞を単離することができる。
【0017】
本発明の好ましい方法において、このような上皮幹細胞は、陰窩、胃断片または膵臓断片から単離される。例えばこのような上皮幹細胞は、腸から単離される陰窩から単離される。好ましい上皮幹細胞は、十二指腸、空腸および回腸を含む小腸、膵臓または胃から単離される。
【0018】
単離幹細胞は、好ましくは、このような幹細胞が天然に存在する細胞ニッチを少なくとも一部模倣する微小環境で培養される。マトリクス、足場および、幹細胞運命を調節するキーとなる制御シグナルに相当する培養基質などの生体物質存在下でこの幹細胞を培養することによって、このような細胞ニッチを模倣する。このような生体物質には、天然、半合成および合成生体物質および/またはそれらの混合物が含まれる。足場は二次元または三次元ネットワークを提供する。この足場のための適切な合成物質は、多孔質体、ナノ繊維およびハイドロゲル、例えば、自己集合ペプチドを含むペプチド、ポリエチレングリコールホスフェート、ポリエチレングリコールフマレート、ポリアクリルアミド、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリセルロースアセテートおよび/またはそれらのコポリマーから構成されるハイドロゲルから選択されるポリマーを含む(例えば、Saha et al.,2007.Curr Opin Chem Biol.11(4)381-387;Saha et al.,2008.Biophysical Journal 95:4426-4438;Little et al.,2008 Chem Rev.108、1787-1796参照)。当業者にとって公知であるように、例えば足場の弾性などの力学的特性は、幹細胞の増殖、分化および移動に影響を与える。好ましい足場には、例えば組織再生および/または損傷治癒を促進するために対象において移植後に天然成分に置き換えられる生体分解性(コ)ポリマーが含まれる。さらに、この足場が対象において移植後に免疫原性反応を実質的に誘導しないことが好ましい。この足場には、天然、半合成または合成リガンドが補充されるが、これらは、幹細胞の増殖および/または分化、および/または移動に必要とされるシグナルをもたらす。好ましい態様において、このようなリガンドは規定のアミノ酸断片を含む。このような合成ポリマーの例には、Pluronic(登録商標)F127ブロックコポリマー界面活性剤(BASF)およびEthisorb(登録商標)(Johnson and Johnson)が含まれる。
【0019】
細胞ニッチは、一部、幹細胞および周囲の細胞により定められ、細胞外マトリクス(ECM)はこのニッチの細胞により形成される。本発明の好ましい方法において、単離陰窩または上皮幹細胞をECMに接着させる。ECMは様々な多糖類、水、エラスチンおよび糖タンパク質から構成されるが、この糖タンパク質は、コラーゲン、エンタクチン(ニドゲン)、フィブロネクチンおよびラミニンを含む。ECMは結合組織細胞により分泌される。様々なタイプのECMが知られており、これには、様々なタイプの糖タンパク質および/または糖タンパク質の様々な組み合わせを含む様々な組成が含まれる。このECMは、ECM産生細胞、例えば繊維芽細胞などを、これらの細胞の除去および単離陰窩または上皮幹細胞の添加前に容器中で培養することにより提供され得る。細胞外マトリクス産生細胞の例には、主にコラーゲンおよびプロテオグリカンを産生する軟骨細胞、主にIV型コラーゲン、ラミニン、間質性プロコラーゲンおよびフィブロネクチンを産生する繊維芽細胞および、主にコラーゲン(I、IIIおよびV型)、コンドロイチン硫酸プロテオグリカン、ヒアルロン酸、フィブロネクチンおよびテネイシン-Cを産生する結腸筋繊維芽細胞が含まれる。あるいは、このようなECMは市販されている。市販の細胞外マトリクスの例は、細胞外マトリクスタンパク質(Invitrogen)およびマトリゲル(Matrigel)(商標)(BD Biosciences)である。幹細胞を培養するためにECMを使用することによって、幹細胞の長期生存が促進され、未分化幹細胞が継続的に存在し易くなった。ECMの非存在下では、幹細胞培養物を長期間培養することができず、未分化幹細胞の継続的な存在は観察されなかった。さらに、ECMが存在することにより、三次元組織オルガノイドを培養できるようになった(ECMの非存在下では培養できなかった)。
【0020】
本発明の方法での使用に好ましいECMには、少なくとも2種類の個別の糖タンパク質、例えば2種類の様々なタイプのコラーゲンまたはコラーゲンおよびラミニンなどが含まれる。このようなECMは合成ハイドロゲル細胞外マトリクスまたは天然のECMであり得る。最も好ましいECMはマトリゲル(商標)(BD Biosciences)により提供されるが、これは、ラミニン、エンタクチンおよびIV型コラーゲンを含む。
【0021】
本発明の方法で使用される細胞培養培地には、あらゆる細胞培養培地が含まれる。好ましい細胞培養培地は、炭酸系の緩衝液で7.4のpH(好ましくは7.2〜7.6の間または少なくとも7.2であり7.6以下)に緩衝化されている規定の合成培地であり、一方で、この細胞は、5%〜10%の間のCO2または少なくとも5%および10%以下のCO2、好ましくは5%CO2を含む雰囲気下で培養される。好ましい細胞培養培地は、グルタミン、インスリン、ペニシリン/ストレプトマイシンおよびトランスフェリンが補充されたDMEM/F12およびRPMI1640から選択される。さらに好ましい態様において、アドバンスト-DMEM/F12またはアドバンストRPMIが使用されるが、これは血清不含培養に対して最適化されており、インスリンを既に含む。この場合、アドバンスト-DMEM/F12またはアドバンストRPMI培地には、好ましくはグルタミンおよびペニシリン/ストレプトマイシンが補充される。さらに好ましくは、この細胞培養培地には、精製された、天然、半合成および/または合成増殖因子が補充され、ウシ胎仔血清(fetal bovine serumまたはfetal calf serum)などの不確定な成分は含まれない。例えば、B27(Invitrogen)、N-アセチルシステイン(Sigma)およびN2(Invitrogen)などの補充成分は一部の細胞の増殖を刺激し、必要に応じてこれらを培地にさらに添加することができる。
【0022】
基本培地に添加される成分はBMP阻害剤である。BMPは、二量体リガンドとして2種類の異なる受容体セリン/スレオニンキナーゼ、I型およびII型受容体からなる受容体複合体に結合する。II型受容体はI型受容体をリン酸化し、その結果、この受容体キナーゼが活性化される。このI型受容体は、続いて特異的な受容体基質(SMAD)をリン酸化し、その結果、シグナル伝達経路によって転写活性が導かれる。
【0023】
このBMP阻害剤は、例えばBMP受容体へのBMP分子の結合を阻止または阻害することによってBMP活性を中和する複合体を形成するためにBMP分子に結合する薬剤として定義される。あるいは、この阻害剤は、アンタゴニストまたは逆アゴニストとして作用する薬剤である。このタイプの阻害剤はBMP受容体と結合し、BMPのその受容体への結合を阻止する。後者の薬剤の例は、BMP受容体に結合し、抗体結合受容体へのBMPの結合を阻止する抗体である。
【0024】
このBMP阻害剤は、この阻害剤の非存在下でのBMP活性レベルと比較して、最大で90%、より好ましくは最大で80%、より好ましくは最大で70%、より好ましくは最大で50%、より好ましくは最大で30%、より好ましくは最大で10%、より好ましくは0%まで、細胞においてBMP依存性活性を阻害する。当業者にとって公知のように、例えばZilberberg et al.,2007.BMC Cell Biol.8:41で例示されるように、BMPの転写活性を測定することによって、BMP活性を調べることができる。
【0025】
いくつかのクラスの天然のBMP結合タンパク質が知られており、これには、ノギン(Noggin)(Peprotech)、コーディン(Chordin)および、コーディンドメインを含むコーディン様タンパク質(R&D systems)、ホリスタチン(Follistatin)および、ホリスタチンドメインを含むホリスタチン関連タンパク質(R&D systems)、DANおよびDANシステイン-ノットドメインを含むDAN様タンパク質(R&D systems)、スクレロスチン/SOST(R&D systems)、デコリン(R&D systems)およびα-2マクログロブリン(R&D systems)が含まれる。
【0026】
本発明の方法での使用に好ましいBMP阻害剤は、ノギン、DANおよびDAN様タンパク質(サーベラス(Cerberus)およびグレムリン(Gremlin)(R&D systems)を含む)から選択される。これらの拡散性タンパク質は、様々な親和度でBMPリガンドに結合し、シグナル伝達受容体へのそれらの接近を阻害することができる。これらのBMP阻害剤の何れかを基本培地に添加することによって、幹細胞の喪失が妨げられる(BMP阻害剤の何れかがない場合、培養の約2-3週間後に喪失が起こる)。
【0027】
最も好ましいBMP阻害剤はノギンである。ノギンは、好ましくは少なくとも10ng/ml、より好ましくは少なくとも20ng/ml、より好ましくは少なくとも50ng/ml、より好ましくは少なくとも100ng/mlの濃度で基本培地に添加される。最も好ましい濃度は、およそ100ng/mlまたは100ng/mlである。幹細胞の培養中、好ましくは2日ごとにBMP阻害剤を培養培地に添加し、一方、好ましくは4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換される。
【0028】
基本培地に添加されるさらなる成分はWntアゴニストである。Wntシグナル伝達経路は、Wntタンパク質がFrizzled受容体ファミリーメンバーの細胞表面受容体に結合した際に起こる一連の事象により定義される。この結果、アキシン、GSK-3およびタンパク質APCを含むタンパク質の複合体を阻害して細胞内β-カテニンを分解するDishevelledファミリータンパク質の活性化が起こる。結果として得られる濃縮された核β-カテニンは、TCF/LEFファミリー転写因子によって転写を促進する。
【0029】
Wntアゴニストは、細胞中でTCF/LEF介在性の転写を活性化する薬剤として定義される。従ってWntアゴニストは、Wntファミリータンパク質のありとあらゆるものを含むFrizzled受容体ファミリーメンバーに結合し、活性化する真のWntアゴニスト、細胞内β-カテニン分解の阻害剤およびTCF/LEFの活性化物質から選択される。このWntアゴニストは、この分子の非存在下でのWnt活性のレベルと比較して、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも100%、細胞においてWnt活性を刺激する。当業者にとって公知のように、Wnt活性は、例えばpTOPFLASHおよびpFOPFLASH Tcfルシフェラーゼレポーターコンストラクトによって、Wntの転写活性を測定することにより調べることができる(Korinek et al.,1997.Science 275:1784-1787)。
【0030】
Wntアゴニストは、Wnt-1/Int-1;Wnt-2/Irp(Int-1関連タンパク質);Wnt-2b/13、Wnt-3/Int-4;Wnt-3a(R&D systems);Wnt-4;Wnt-5a;Wnt-5b;Wnt-6(Kirikoshi H et al.2001.Biochem Biophys Res Com 283:798-805);Wnt-7a(R&D systems);Wnt-7b、Wnt-8a/8d;Wnt-8b;Wnt-9a/14;Wnt-9b/14b/15;Wnt-10a;Wnt-10b/12;Wnt-11およびWnt-16を含む分泌糖タンパク質を含む。ヒトWntタンパク質の概要は「THE WNT FAMILY OF SECRETED PROTEINS」、R&D Systems Catalog、2004)で提供される。さらに、Wntアゴニストは、分泌タンパク質のR-スポンジンファミリー(これは、Wntシグナル伝達経路の活性化および制御に関わり、4種類のメンバー(R-スポンジン1(NU206,Nuvelo,San Carlos,CA)、R-スポンジン2((R&D systems)、R-スポンジン3およびR-スポンジン-4)からなる)および、高親和性でFrizzled-4受容体に結合し、Wntシグナル伝達経路の活性化を誘導するという点でWntタンパク質のように機能する分泌性制御タンパク質であるノリン(Norrin、ノリー病タンパク質(Norrie Disease Protein)またはNDPとも呼ばれる)(R&D systems)を含む(Kestutis Planutis et al.(2007)BMC Cell Biol.8:12)。Wntシグナル伝達経路の小分子アゴニスト、アミノピリミジン誘導体が最近同定されたが、これもまたWntアゴニストとして明確に含まれる(Liu et al.(2005)Angew Chem Int Ed Engl.44,1987-90)。
【0031】
既知のGSK-阻害剤には、低分子干渉RNA(siRNA、Cell Signaling)、リチウム(Sigma)、ケンパウロン(Biomol International;Leost,M et al.(2000)Eur J Biochem.267,5983-5994)、6-ブロモインジルビン-30-アセトキシム(Meijer,L et al.(2003)Chem Biol.10,1255-1266)、SB216763およびSB415286(Sigma-Aldrich)およびFRAT-ファミリーメンバーおよびアキシンとのGSK-3の相互作用を阻止するFRAT由来ペプチドが含まれる。概要は、Meijer et al.(2004)Trends in Pharmacological Sciences 25,471-480(参照により本明細書に組み入れられる)により提供される。GSK-3阻害レベルを調べるための方法およびアッセイは当業者にとって公知であり、例えば、Liao et al.2004,Endocrinology,145(6):2941-9)に記載のような方法およびアッセイを含む。
【0032】
好ましい態様において、このWntアゴニストは、Wntファミリーメンバー、R-スポンジン1〜4、ノリンおよびGSK-阻害剤の1以上から選択される。少なくとも1つのWntアゴニストを基本培地に添加することが上皮幹細胞または単離陰窩の増殖に必須であることが本発明者らにより発見された。
【0033】
さらに好ましい態様において、このWntアゴニストは、R-スポンジン1を含むかまたはR-スポンジン1からなる。R-スポンジン1は、好ましくは、少なくとも50ng/ml、より好ましくは少なくとも100ng/ml、より好ましくは少なくとも200ng/ml、より好ましくは少なくとも300ng/ml、より好ましくは少なくとも500ng/mlの濃度で基本培地に添加される。R-スポンジン1の最も好ましい濃度は、およそ500ng/mlまたは500ng/mlである。幹細胞の培養中、好ましくは2日ごとにこのWntファミリーメンバーを培養培地に添加し、好ましくは4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換する。
【0034】
好ましい態様において、Wntアゴニストは、R-スポンジン、Wnt-3aおよびWnt-6からなる群より選択される。より好ましくは、WntアゴニストとしてR-スポンジンおよびWnt-3aの両者が使用される。この組み合わせは、驚くべきことにオルガノイド形成に対して相乗効果を有するので、特に好ましい。好ましい濃度は、R-スポンジンの場合およそ500ng/mlまたは500ng/mlであり、Wnt3aの場合およそ100ng/mlまたは100ng/mlである。
【0035】
基本培地に添加されるまたさらなる成分は、上皮増殖因子(EGF;(Peprotech)、形質転換増殖因子-α(TGF-α、Peprotech)、塩基性繊維芽細胞増殖因子(bFGF、Peprotech)、脳由来神経栄養因子(BDNF;R&D Systems)およびケラチン生成細胞増殖因子(KGF、Peprotech)を含む増殖因子のファミリーから選択される分裂促進増殖因子である。EGFは、様々な培養外胚葉性細胞および中胚葉性細胞に対する強力な分裂促進因子であり、細胞インビボおよびインビトロでの、および細胞培養における一部の繊維芽細胞の、特異的細胞の分化に顕著な影響を有する。EGF前駆体は、タンパク質分解により切断されて、細胞を刺激する53-アミノ酸ペプチドホルモンを生成させる、膜結合分子として存在する。好ましい分裂促進増殖因子はEGFである。EGFは、好ましくは、5〜500ng/mlのまたは少なくとも5および500ng/ml以下の濃度で基本培地に添加される。好ましい濃度は、10、20、25、30、40、45または50ng/ml以上500、450、400、350、300、250、200、150または100ng/ml以下である。より好ましい濃度は、少なくとも50であり、100ng/ml以下である。さらにより好ましい濃度は、約50ng/mlまたは50ng/mlである。同じ濃度をFGFに対して、好ましくはFGF10またはFGF7に対して使用し得る。複数のFGF、例えばFGF7およびFGF10を使用する場合、FGFの濃度は上記で指定されるとおりであり、この濃度は使用されるFGFの総濃度を指す。幹細胞の培養中、好ましくは2日ごとに分裂促進増殖因子を培養培地に添加し、一方、好ましくは4日ごとに培養培地を新鮮なものに交換する。bFGFファミリーの何れのメンバーも使用することができる。好ましくは、FGF7および/またはFGF10を使用する。FGF7はまたKGF(ケラチン生成細胞増殖因子)として知られている。さらに好ましい態様において、分裂促進増殖因子の組み合わせ、例えばEGFおよびKGFまたはEGFおよびBDNFなどを基本培地に添加する。さらに好ましい態様において、分裂促進増殖因子の組み合わせ、例えばEGFおよびKGFまたはEGFおよびFGF10などを基本培地に添加する。
【0036】
本発明による方法のさらなる態様は、Rock(Rho-キナーゼ)阻害剤を含む培養培地を含む。Rock阻害剤の添加によって、特に単一幹細胞を培養する場合、アノイキスが阻止されることが分かった。このRock阻害剤は、好ましくは、R)-(+)-トランス-4-(1-アミノエチル)-N-(4-ピリジル)シクロヘキサンカルボキサミド二塩酸塩一水和物(Y-27632、Sigma-Aldrich)、5-(1,4-ジアゼパン-1-イルスルホニル)イソキノリン(ファスジルまたはHA1077;Cayman Chemical)および(S)-(+)-2-メチル-1-[(4-メチル-5-イソキノリニル)スルホニル]-ヘキサヒドロ-1H-1,4-ジアゼピン二塩酸塩(H-1152;Tocris Bioschience)から選択される。Rho-キナーゼ阻害剤、例えばY-27632は、好ましくは、この幹細胞の培養の最初の7日間、2日ごとに培養培地に添加される。Y27632に対する好ましい濃度は10□Mである。
【0037】
またさらなる態様において、本発明による方法は、Notchアゴニストをさらに含む培養培地を含む。Notchシグナル伝達は、細胞運命決定ならびに細胞生存および増殖において重要な役割を果たすことが示されている。Notch受容体タンパク質は、以下に限定されないが、Delta 1、Jagged 1および2ならびにDelta様1、Delta様3、Delta様4を含む多くの表面結合型または分泌性リガンドと相互作用し得る。リガンド結合時、ADAMプロテアーゼファミリーのメンバーを含む連続的な切断事象ならびにγセクレターゼプレシニリンにより制御される膜内切断によってNotch受容体が活性化される。この結果として、Notchの細胞内ドメインが核に移動し、ここで、これが下流遺伝子の転写を活性化する。好ましいNotchアゴニストは、Jagged 1およびDelta 1またはそれらの活性のある断片もしくは誘導体から選択される。最も好ましいNotchアゴニストは、配列:
を有するDSLペプチドである(Dontu et al.,2004、Breast Cancer Res 6:R605-R615)。このDSLペプチド(ANA spec)は、好ましくは10μM〜100nMまたは少なくとも10μMおよび100nM以下の濃度で使用される。特に培養の第一週中にNotchアゴニストを添加すると、培養効率が2〜3倍上昇する。このNotchアゴニストは、好ましくは、この幹細胞の培養の最初の7日間、2日ごとに培養培地に添加される。
【0038】
Notchアゴニストは、この分子の非存在下でのNotch活性レベルと比較して、少なくとも10%、より好ましくは少なくとも20%、より好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも70%、より好ましくは少なくとも90%、より好ましくは少なくとも100%、細胞においてNotch活性を刺激する分子として定義される。当業者にとって公知のように、Notch活性は、Notchの転写活性を測定することによって、例えば記載のような(Hsieh et al.,1996 Mol Cell Biol.16,952-959)4xwtCBF1-ルシフェラーゼレポーターコンストラクトによって、調べることができる。
【0039】
本発明は、骨形成タンパク質(BMP)阻害剤、Wntアゴニスト;および、EGF、TGF□、KGF、FGF10およびaFGFからなる群より選択される5〜500ナノグラム/mlまたは少なくとも5および500ナノグラム/ml以下の分裂促進増殖因子が添加されている、動物またはヒト細胞用の基本培地を含む細胞培養培地をさらに提供する。好ましくは、分裂促進因子は、EGF、TGF-□およびKGFからなる群よりまたはEGF、TGF-□およびFGF7からまたはEGF、TGF-□およびFGFからまたはEGFおよびKGFからまたはEGFおよびFGF7からまたはEGFおよびFGFからまたはTGF□およびKGFからまたはTGF□およびFGF7からまたはTGF□およびFGFから選択される。EGFはTGF□により置き換えることができる。いくつかの好ましい培養培地は、得ようとするオルガノイドに依存して後で特定される。本発明による細胞培養培地によって、細胞外マトリクス上での上皮幹細胞または単離陰窩の生存および/または増殖および/または分化が可能となる。細胞培養培地という用語は、培地、培養培地または細胞培地と同義である。
【0040】
本発明による好ましい方法において、第一の培養培地は、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子およびケラチン生成細胞増殖因子の両者(分裂促進増殖因子として)およびR-スポンジン1(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインが補充される。KGFは、FGFによりまたはFGF10により置き換えられ得る。[Leu15]-ガストリンI、エキセンジンおよび/またはニコチンアミドもまたこの第一の培地に添加し得る。
【0041】
別の好ましい態様において、第二の培地と呼ばれる培養培地は、ノギン不含であることおよび好ましくは[Leu15]-ガストリンI、エキセンジンおよび/またはニコチンアミド不含であることを除き、第一の培地と同一である。従ってこの第二の培養培地は、上皮増殖因子およびケラチン生成細胞増殖因子の両者(分裂促進増殖因子として)およびR-スポンジン1(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインが補充されている。KGFはまたFGFによってまたはFGF10によっても置き換えられ得る。これらの2種類の細胞培養培地は、マトリゲル細胞外マトリクスにおいてこれらの培地中で増殖させられ、細胞外マトリクス上で膵島様構造を含む膵臓オルガノイド(pancreatic organoid)を形成する膵臓幹細胞を含む膵臓断片を支持する。ノギン不含の第二の培地は、最小培地であり、一方で、ノギン含有の第一の培地により、膵臓断片を増幅させるための改良培地が得られる。増幅用培地は、好ましくは、培養の少なくとも2日間、細胞の生存および/または増殖を促進する培地である。
【0042】
第三の培地は、少なくとも5日以内に、膵臓オルガノイドへ細胞が分化するのを促進、誘導することができるように設計されている。膵臓オルガノイド形成に対するある好ましい分化マーカーは、ニューロゲニン-3であり、その発現はRT-PCRによるかまたは免疫組織化学によって検出し得る。例えば第三または第四の培地のような分化培地は、この培地での培養の少なくとも5日後にニューロゲニン-3がRT-PCRによるかまたは免疫組織化学によって検出され得る場合、機能的であると言われる。この分化段階は、好ましくは、上記で定義されるとおりの第一または第二の培地のような培地中での第一の増幅段階後に行われる。この第三の培地は、FGFまたはKGFあるいはFGF10不含であることを除き、上記で特定される第二の培地と同一である。この第三の培地は、上皮増殖因子およびR-スポンジン1(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインが補充されている。
【0043】
第四の培地は既に述べた第一の培地と同一であるように設計されているが、この第四の培地には[Leu15]-ガストリンIおよび/またはエキセンジンも補充されている。第三の培地は最小分化培地であり、一方、この第四の培地は改良分化培地である。分化培地は、好ましくは、培養の少なくとも5日間、細胞の特異的分化を誘導または促進する培地である。膵臓オルガノイドの場合、本明細書中で前に定義されるような膵臓系統に付随する特異的なマーカーの存在を検出することによって、分化を測定し得る。膵臓系統に付随するその他のマーカーの例には、分化培地中での培養の少なくとも7、8、9、10日後にRTPCRまたは免疫組織化学により検出可能であるインスリンの分泌が含まれる。
【0044】
従って、膵臓オルガノイドを得るためのおよび/または培養するための好ましい方法において、第一段階で、第一または第二の培地の何れかの中で、続いて第二段階で第三または第四の培地の何れかの中で、上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞を培養する。この第一段階は少なくとも2週間の期間であり得るかまたはそれを超えてもよい。第一段階は、1、2、3、4、5、6、7、8、9ヶ月を超えるかまたは10ヶ月を超えて行われ得る。第二段階は、8、9、10、11、12、13、14、15、16日間以上の期間であり得る。各段階は、好ましくは、本明細書中で定義されるような細胞外マトリクスを用いて行われる。各培地中に存在する各化合物の好ましい濃度は、本明細書中の説明または実施例で既に指定されている。好ましい態様において、再生医療用に膵臓オルガノイドを使用しようとする場合、上皮細胞からまたは単離膵臓断片から開始する。別の好ましい態様において、薬物探索系として膵臓オルガノイドを使用しようとする場合、腺腫から開始する。従って、本発明の方法によって取得可能な膵臓オルガノイドは本発明のさらなる局面である。従って、本発明のさらなる局面において、本発明は、本明細書中で定義されるような、第一、第二、第三、第四の培地を提供する。
【0045】
本発明者らが知る限り、少なくとも培養10ヶ月後、機能的で生存している膵臓オルガノイドが得られたのはこれが最初である(実験パート参照)。機能性は、好ましくはインスリン分泌を特徴とする。得られる膵臓オルガノイドの最終量は培養期間に相関するので、当業者は、本発明が新開拓発明であり、例えば再生医療において新しい可能性を開く可能性があることを理解する。
【0046】
従って、膵臓オルガノイドを得るためのおよび/または培養するための好ましい方法において、第一段階において、EGF、KGFまたはFGFおよびR-スポンジン1(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインが補充されている培地中で、続いて第二段階で、EGFおよびR-スポンジン1(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインが補充された培地中で、細胞外マトリクスと接触させて上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞を培養する。
【0047】
本発明によるさらに好ましい方法において、培養培地は、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子(分裂促進増殖因子として)、R-スポンジン1および/またはWnt3a(Wntアゴニストとして)を含む。この細胞培養培地は、細胞外マトリクスとしてマトリゲルを含む三次元培養において単離小腸陰窩の培養を支持する。
【0048】
本発明によるさらに好ましい方法において、培養培地は、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子(分裂促進増殖因子として)、R-スポンジン1(Wntアゴニストとして)、Notch Jagged-DSLペプチド(アゴニストとして)およびRhoキナーゼ阻害剤Y-27632を含む。この細胞培養培地は、細胞外マトリクスとしてマトリゲルを含む三次元培養における単離単一上皮幹細胞の培養を支持する。
【0049】
本発明によるさらなる好ましい方法において、培養培地は、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子および/またはBDNF(分裂促進増殖因子として)、R-スポンジン1および/またはWnt-3a(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインの少なくとも1つが補充されている。Wnt-3aは、この好ましい方法において、好ましいWntアゴニストである。この細胞培養培地は、細胞外マトリクスとしてマトリゲルを含む三次元培養での単離結腸陰窩の培養を支持する。この培地は、培養の少なくとも2日間、細胞の生存および/または増殖および/または分化を促進することができる。結腸陰窩の形成に対する好ましい分化マーカーは次の群から選択され得る:腸細胞の存在を示すアルカリホスファタイズ(alkaline phosphatise)、杯細胞の存在を示すMuc2および内分泌細胞の存在を示すニューロジェニック3またはクロモグラニン。これらの各マーカーの発現は、RTPCRによってまたは免疫組織化学によって検出し得る。結腸陰窩を得るための細胞の生存および/または増殖および/または分化を促進するために機能的である培地は、特定されるマーカーの少なくとも1つが培養の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10日以上後に検出され得るようなものである。好ましい培地は、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子(分裂促進増殖因子として)およびR-スポンジン1および/またはWnt-3a(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインの少なくとも1つが補充されている。この培地は、本発明のさらなる局面に相当する本発明の第五の培地と呼ばれる。
【0050】
従って、結腸陰窩を得るためのおよび/または培養するための好ましい方法において、上記で特定されるような培地、好ましくはこの第五の培地中で、上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞を培養する。この方法は、好ましくは、本明細書中で定義されるように細胞外マトリクスを用いて行われる。この培地中に存在する各化合物の好ましい濃度は、本明細書中の説明または実施例で既に規定されている。従って、本発明の方法により取得可能な結腸陰窩は本発明のさらなる局面である。本発明者らの知る限り、少なくとも培養1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12ヶ月後、機能的で生存している結腸陰窩が得られたのはこれが最初である(実験パート参照)。機能性とは、好ましくは、上記で特定されるようなマーカーの少なくとも1つが存在することを特徴とする。本発明は新開拓発明であり、例えば再生医療において新しい可能性を開く可能性がある
【0051】
従って、結腸陰窩を得るためのおよび/または培養するための好ましい方法において、上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞は、ノギン、EGFおよびR-スポンジン1および/またはWnt-3(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインが補充された培地中で細胞外マトリクスと接触させて培養される。
【0052】
本発明によるまたさらなる好ましい方法において、培養培地は、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子(分裂促進増殖因子として)、R-スポンジン1(Wntアゴニストとして)を含み、Wnt-3aまたはKGFの何れかが補充され、B27、N2、N-アセチルシステインをさらに含む。この培地は、第六の培地と呼ばれ、従って本発明のさらなる局面に相当する。KGFはFGFによってまたはFGF10によって置き換えられ得る。この培地は、好ましくは、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子およびFGF10(分裂促進増殖因子として)、R-スポンジン1およびWnt-3a(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2、N-アセチルシステインをさらに含む。FGF10は、例えばFGF7よりも良好な結果を与えるので、FGFとして好ましい(図32)。この細胞培養培地は、細胞外マトリクスとしてマトリゲルを含む三次元培養中での単離胃断片または胃オルガノイドの培養を支持する。
【0053】
この第六の培地は胃断片を増幅させるための培地である。増幅用培地は、好ましくは培養の少なくとも2日間、細胞の生存および/または増殖を促進する培地である。さらなる培地、即ち第七の培地は、少なくとも2日間以内に、胃オルガノイドまたは胃断片への細胞の分化を促進、誘導することができるように設計されている。この第七の培地は、第六の培地中に存在するものと比較してWnt-3aの濃度が低いことを除き、上記で特定される第六の培地と同一である。この濃度は、第六の培地中に存在するWnt-3a濃度と比較して、少なくとも25%、50%、100%、200%、300%、400%、500%、600%以上低くなっている。この第七の培地は、上皮増殖因子、およびR-スポンジン1およびWnt-3a(Wntアゴニストとして)、ノギンならびにFGF10を含み、B27、N2、N-アセチルシステインおよびガストリンが補充されている。ガストリンは、好ましくは1nMの濃度で使用される。
【0054】
この第七の培地は、分化培地である。分化培地は、好ましくは、培養の少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10日間以上、細胞の特異的分化を誘導または促進する培地である。胃オルガノイドまたは胃断片の場合、胃系統に付随する特異的マーカーの存在を検出することによって、分化を評価し得る。胃系統に付随するマーカーの例には、MUC5AC(ピット細胞マーカー)、ガストリンおよび/またはソマトスタチン(両者とも内分泌細胞マーカー)が含まれる。これらのマーカーのうち少なくとも1つの存在は、好ましくはRT-PCRおよび/または免疫組織化学または免疫蛍光を用いて行われる。これらのマーカーのうち少なくとも1つの存在は、好ましくは、分化条件下で少なくとも6日後、より好ましくは少なくとも10日後、検出可能である。例えば第七の培地のような分化培地は、その培地での培養の少なくとも6日後にRT-PCRによりまたは免疫組織化学により、上記で特定されるマーカーのうち少なくとも1つが検出され得る場合、機能的であると言われる。この分化段階は、好ましくは、上記で定義されるとおりの第六の培地のような培地中での第一の増幅段階後に行われる。
【0055】
従って、胃断片を得るためのおよび/または培養するための好ましい方法において、第一段階において第六の培地中で、続いて第二段階で第七の培地中で、上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞を培養する。各段階は好ましくは本明細書中で定義されるとおり、細胞外マトリクスを用いて行われる。この第一段階は、少なくとも3日の期間を有し得、より長くてもよい。第一段階は、3、4、5、6、7、8、9以上にわたり行われ得る。第二段階は、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16日以上の期間を有し得る。各培地に存在する各化合物の好ましい濃度は本明細書中の説明または実施例で既に規定されている。従って、本発明の方法により取得可能な胃断片は本発明のさらなる局面である。
【0056】
従って、胃断片を得るためのおよび/または培養するための好ましい方法において、第一段階で、ノギン(BMP阻害剤として)、上皮増殖因子およびFGF10(分裂促進増殖因子として)、R-スポンジン1およびWnt-3a(Wntアゴニストとして)を含み、B27、N2、N-アセチルシステインをさらに含む培地中で、続いて第二段階で上皮増殖因子、およびR-スポンジン1およびWnt-3a(Wntアゴニストとして)、ノギンならびにFGF10を含み、B27、N2およびN-アセチルシステインが補充されている培地(ここで、Wnt-3濃度は、第二段階では、第一段階で存在するWnt-3濃度と比較して低い)中で、上皮幹細胞、この上皮幹細胞を含む単離組織断片または腺腫細胞を細胞外マトリクスと接触させて培養する。
【0057】
本発明によるまたさらなる好ましい方法において、培養培地はノギン(BMP阻害剤として)および上皮増殖因子(分裂促進増殖因子として)を含む。この細胞培養培地は、細胞外マトリクスとしてマトリゲルを含む三次元培養における、単離腺腫断片または単離された単一腺腫細胞の培養を支持する。
【0058】
例えばWnt3aなどのリガンドを培養培地に新しく添加し得る。あるいは、リガンドは、細胞株に対してこのリガンドを発現する適切な発現コンストラクトを遺伝子移入または感染させることによって、その細胞株で発現される。この細胞株を培養し、分泌されたリガンドを含む培養培地を適切な時間間隔で回収する。例えば、細胞は、それらが密集状態に到達して増殖を停止するとすぐにWnt3aを産生するようになる。この発現コンストラクトを遺伝子移入しなかったかまたは感染させなかった細胞からの培養培地を対照として使用する。馴化培地を回収し、例えば、Wnt3aなどのWntアゴニストの存在について試験するための、ルシフェラーゼ発現がTCF応答配列により調節されるアッセイにおいて試験する(Korinek et al.,1997 Science 275:1784-1787)。組織を再生するための培養で使用する場合、培地を希釈する。当業者とって公知であるように、リガンドの過剰な添加は、リガンド添加量が過少である場合と同じように培養に対して悪影響がある。従って、馴化培地の実際の希釈は、試験で測定されるリガンド量に依存する。
【0059】
本発明は、細胞外マトリクス上でこれらの幹細胞を含む上皮幹細胞または単離オルガノイド構造を培養するための本発明による培地の使用をさらに提供する(この幹細胞は好ましくはヒト胚性幹細胞を含まない)。ヒト成人幹細胞が好ましい。さらに、小腸、結腸および胃由来の選別単一上皮幹細胞は、本発明による培養培地中でこれらの三次元オルガノイドを惹起することも可能である。本発明は、膵島様構造を含む膵臓オルガノイドを形成する幹細胞を含む膵臓断片を培養するための、本発明による培養培地の使用をさらに提供する。
【0060】
このような幹細胞が膵臓、胃、腸または結腸上皮幹細胞であることが好ましく、最も好ましい幹細胞は小腸幹細胞である。本発明による培養培地により、全ての分化細胞型が存在する絨毛様上皮ドメインを同時に形成しながら、単一の陰窩が複数の陰窩分裂事象を受ける長期培養条件が確立できた。本発明による培養方法を用いて、少なくとも7ヶ月、少なくとも8ヶ月、少なくとも9ヶ月、少なくとも10ヶ月の培養期間が可能となった。
【0061】
培養された陰窩において、それらが培養に供された後、劇的な形態変化が起こる。新たに単離した陰窩の上部の開口部が密閉され、この領域が徐々に膨らみ、アポトーシス細胞で満たされ、アポトーシス細胞が絨毛端でくびれ切られるように見える。陰窩領域では、継続的に出芽事象が起こり、これによりさらなる陰窩が形成される(陰窩分裂に似たプロセス)ことが分かった。この陰窩様伸展は、増殖性細胞、パネート細胞、腸細胞および杯細胞を含む、全ての分化上皮細胞型を含む。このオルガノイドにおいて、何れの段階でも、筋繊維芽細胞またはその他の非上皮細胞は同定されなかった。
【0062】
出芽陰窩構造の増幅によって、絨毛様上皮で内部が覆われ、アポトーシス細胞体で満たされた中心内腔を囲む>40個の陰窩様構造を含むオルガノイドが形成された。陰窩-絨毛オルガノイドは、絨毛様上皮により内面が覆われている中心内腔を含む。この内腔は、連続的な時間間隔で開口し、培地中に内容物を放出する。少なくとも6ヶ月間、不可欠な特徴を喪失することなく、このオルガノイドを継代し、培養中で維持することができる。継代は、好ましくはオルガノイドの手作業の断片化を含む。
【0063】
単一上皮幹細胞を培養した場合、同様の陰窩-絨毛オルガノイド構造が形成される。約1週間後、無傷の陰窩により得られる陰窩-絨毛オルガノイド構造と強い類似性がある構造が形成される。これらのオルガノイドの組織学的分析によってまた、基本的な陰窩-絨毛構造が維持されること、全ての分化細胞型が存在することおよび非上皮エレメントがないことも明らかになった。
【0064】
従って、ある局面において、本発明は、本発明の培養培地中での上皮幹細胞または単離陰窩の培養の結果得られる、絨毛様上皮により内面が覆われている中心内腔を含む陰窩-絨毛オルガノイドを提供する。好ましくは、この陰窩-絨毛オルガノイドは、本発明の方法を用いて得ることができる。
【0065】
さらなる局面において、本発明は、本発明の方法に従い膵臓断片を培養することにより形成されるかまたは得ることができる膵臓オルガノイドを提供する。膵臓オルガノイドのおよそ20%が培養開始から7日後に出芽構造を形成する。成長が非常に遅い腺房組織と比較して膵管は急激に増殖する。膵臓オルガノイドの継代後、健康な膵臓組織に存在するランゲルハンス膵島と類似する、インスリンを分泌する膵臓の膵島様構造が観察される。本発明は、中心内腔を含む胃オルガノイドをさらに提供する。好ましくはこの胃オルガノイドは本発明の方法により得ることができる。
【0066】
培養培地に添加することができるさらなる増殖因子には、例えば、オルガノイド中の膵島の存在を増加させるためのものまたは胃断片などの単離断片の培養をさらに支持するためのもの、シクロパミン(ソニック−ヘッジホッグ阻害剤;Tocris Bioscience)、アクチビン、GLP(グルカゴン様ペプチド)およびその誘導体(エキセンジン4;California Peptide Research)、ガストリン(Genscript)、Notchアゴニスト(Jagged Peptide Ana Spec)、ニコチンアミドおよびWntアゴニスト(例えばWnt-3aなど)などが含まれる。Wnt-3aは、単一細胞を用いて培養を開始する場合に使用するのに魅力的である。
【0067】
本発明は、それぞれ、10個を超える、好ましくは20個を超える、より好ましくは40個を超えるオルガノイドを含む、陰窩-絨毛、胃または膵臓オルガノイドの回収さらに提供する。この陰窩-絨毛オルガノイドは、絨毛様上皮により内面が覆われている中心内腔を取り囲んでいる。この内腔にはアポトーシス細胞体が満たされている。陰窩-絨毛オルガノイドの細胞は極性があり、この構造の基底部に幹細胞が存在する。陰窩様構造の先端部は、内腔に流されるアポトーシス細胞を含む。この陰窩-絨毛オルガノイドの収集物は、好ましくは少なくとも10%の生存細胞、より好ましくは少なくとも20%の生存細胞、より好ましくは少なくとも50%の生存細胞、より好ましくは少なくとも60%の生存細胞、より好ましくは少なくとも70%の生存細胞、より好ましくは少なくとも80%の生存細胞、より好ましくは少なくとも90%の生存細胞を含む。細胞の生存能力は、FACSにおいてヘキスト染色またはヨウ化プロピジウム染色を用いて評価することができる。
【0068】
さらなる局面において、本発明は、薬物探索スクリーニング、毒性アッセイにおけるまたは再生医療における、本発明による、陰窩-絨毛オルガノイド、胃オルガノイドまたは膵臓オルガノイドの使用を提供する。
【0069】
ハイスループット目的のために、この陰窩-絨毛、胃または膵臓オルガノイドを例えば96ウェルプレートまたは384ウェルプレートなどのマルチウェルプレート中で培養する。分子のライブラリを使用して、このオルガノイドに影響を与える分子を同定する。好ましいライブラリは、抗体断片ライブラリ、ペプチドファージディスプレイライブラリ、ペプチドライブラリ(例えばLOPAP(商標)、Sigma Aldrich)、脂質ライブラリ(BioMol)、合成化合物ライブラリ(例えばLOP AC(商標)、Sigma Aldrich)または天然化合物ライブラリ(Specs、TimTec)を含む。さらに、腺腫細胞の子孫においてより多い遺伝子の1つの発現を誘導または抑制する遺伝子ライブラリを使用することができる。これらの遺伝子ライブラリには、cDNAライブラリ、アンチセンスライブラリおよびsiRNAまたはその他の非コードRNAライブラリが含まれる。好ましくはある一定の時間にわたり細胞を試験薬剤の複数の濃度に曝露する。曝露時間終了時に、培養物を評価する。「影響を与える」という用語は、以下に限定されないが、増殖の低下または停止、形態変化および細胞死を含む、細胞における何らかの変化を包含するために使用される。この陰窩-絨毛、胃または膵臓オルガノイドはまた、上皮癌細胞を特異的に標的とするが、陰窩-絨毛、胃または膵臓オルガノイドを標的としない薬物を同定するために使用することもできる。
【0070】
この陰窩-絨毛、胃または膵臓オルガノイドは、さらに、新規候補薬物または既知もしくは新規栄養補助食品の毒性アッセイにおいてCaco-2細胞などの細胞株の使用に代わるものとなり得る。
【0071】
さらに、この陰窩-絨毛、胃または膵臓オルガノイドは、現在のところ適切な組織培養または動物モデルがないノロウイルスなどの病原体を培養するために使用することができる。
【0072】
陰窩-絨毛オルガノイドを含む培養は、再生医療において、例えば、放射線照射後および/または術後の腸上皮の修復において、クローン病および潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患に罹患している患者の腸上皮の修復において、および短腸症候群に罹患している患者の腸上皮の修復において、有用である。さらなる使用は、小腸/結腸の遺伝性疾患の患者における腸上皮の修復にある。膵臓オルガノイドを含む培養もまた、再生医療において、例えば膵臓切除後の移植片またはその一部としておよびI型糖尿病およびII型糖尿病などの糖尿病の治療のために有用である。
【0073】
代替的な態様において、増幅させた上皮幹細胞は、関連組織運命、例えば膵臓β-細胞を含む膵臓細胞および肝臓細胞などに再プログラムされる。今までのところ、成体の幹細胞から、膵臓細胞または肝臓幹細胞を再生することはできていない。本発明の培養法によって、膵臓β-細胞を含む膵臓細胞および肝臓細胞へと、密接に関連する上皮幹細胞を分化転換させる因子に関する分析を可能にするであろう。
【0074】
当業者にとって当然のことながら、損傷または疾患組織の修復のための方法において遺伝子治療をさらに使用することができる。例えば、DNAおよび/またはRNAのような遺伝子情報を幹細胞に送達するために、アデノウイルスまたはレトロウイルス遺伝子送達ビヒクルを使用することができる。当業者は、遺伝子治療において標的となる特定の遺伝子を置き換えるかまたは修復することができる。例えば、非機能的遺伝子を置き換えるために、正常遺伝子をゲノム内の非特異的位置に挿入することができる。別の例において、相同組み換えを通じて、異常な遺伝子配列を正常な遺伝子配列に置き換えることができる。あるいは、選択的復帰突然変異により、遺伝子をその正常機能に戻すことができる。さらなる例は、特定の遺伝子の制御(遺伝子がオンまたはオフにされる度合い)を変化させることである。好ましくは、幹細胞は、遺伝子治療アプローチによりエクスビボで処理され、続いて哺乳動物、好ましくは治療を必要とするヒトに遺伝子移入される。
【0075】
別の局面において、本発明は、細胞外マトリクスを提供し、上皮腺腫細胞を細胞外マトリクスに接着させ、骨形成タンパク質(BMP)阻害剤および、EGF、TGF-αおよびKGFから選択される5〜500ナノグラム/mlのまたは少なくとも5および500ナノグラム/ml以下の分裂促進増殖因子が添加されている、動物またはヒト細胞用の基本培地を含む細胞培養培地の存在下で細胞を培養することを含む、上皮腺腫細胞を培養するための方法を提供する。KGFはFGFまたはFGF10で置き換え得る。
【0076】
上皮結腸腺腫細胞は、APCタンパク質をコードする遺伝子の変化を含み、その結果、APCを含むタンパク質の複合体化により、細胞内β-カテニンの効果的な分解が低下している。結腸腺腫に共通するその他の突然変異には、β-カテニンまたはアキシン2における突然変異が含まれる。全体的な結果として、核中のβ-カテニン量が増加するためにTCF/LEFシグナル伝達が促進される。Wntアゴニスト不含の培養培地は、腺腫細胞の増殖に十分であることが分かった。
【0077】
この腺腫細胞は、EDTAなどの解離剤の使用を含む、当技術分野において公知である方法を用いて、上皮腺腫から単離することができる。あるいは、Lgr5-結合化合物を使用し、続いて磁性ビーズまたはFACS分析を使用することにより、腺腫から、単一Lgr5-またはLgr-6-陽性腺腫細胞を単離することができる。
【0078】
本発明は、骨形成タンパク質(BMP)阻害剤および5〜500ナノグラム/mlのまたは少なくとも5および500ナノグラム/ml以下の上皮増殖因子(EGF)が添加されている動物またはヒト細胞用の基本培地を含む細胞培養培地の存在下で培養された上皮腺腫細胞の子孫をさらに提供する。培養された腺腫細胞は、陰窩-絨毛様構造などの極性のある三次元構造を発達させることができない。むしろ、腺腫細胞は、末端または中心内腔の何れかに対して細胞の向きが不規則である空胞様構造を形成する。その他の上皮細胞型への分化の兆候はない。この結果から、陰窩-絨毛様構造の三次元構成におけるAPCに関する役割が示唆される。
【0079】
さらに、本発明は、同じ培養培地中で培養される増幅正常上皮細胞と比較して腺腫細胞に特異的に影響を与える薬物を同定するための標的化薬物探索スクリーニング用の腺腫細胞子孫の使用を提供する。ハイスループット目的のために、腺腫細胞の子孫を例えば96ウェルプレートまたは384ウェルプレートなどのマルチウェルプレート中で培養する。分子のライブラリを使用して、この子孫に影響を与える分子を同定する。好ましいライブラリは、抗体断片ライブラリ、ペプチドファージディスプレイライブラリ、ペプチドライブラリ(例えばLOPAP(商標)、Sigma Aldrich)、脂質ライブラリ(BioMol)、合成化合物ライブラリ(例えばLOP AC(商標)、Sigma Aldrich)または天然化合物ライブラリ(Specs、TimTec)を含む。さらに、腺腫細胞の子孫におけるより多い遺伝子の1つの発現を誘導または抑制する遺伝子ライブラリを使用することができる。これらの遺伝子ライブラリには、cDNAライブラリ、アンチセンスライブラリおよびsiRNAまたはその他の非コードRNAライブラリが含まれる。腺腫細胞に影響を与える化合物は、続いてまたは平行して、増幅正常上皮細胞への影響について試験する。「影響を与える」という用語は、増殖の低下または停止、形態変化および細胞死を含む、細胞における何らかの変化を包含するために使用される。子孫はまた、癌細胞の復帰を含め、上皮腺腫細胞と比較して特異的に上皮癌細胞を標的とする薬物を同定するために使用することもできる。
【0080】
候補薬物のインビトロでの代謝安定性および代謝プロファイルを調べるために、この子孫をハイスループットアプローチにおいて使用することもできることが明らかとなろう。
【0081】
本発明は、毒性アッセイでの、本発明による腺腫細胞の子孫の、本発明の膵臓オルガノイド、胃オルガノイドおよび陰窩-絨毛オルガノイドの使用をさらに提供する。この子孫および陰窩-絨毛オルガノイドは、容易に培養され、例えば、現在毒性アッセイに使用されているCaco-2(ATCC HTB-37)、I-407(ATCC CCL6)およびXBF(ATCC CRL 8808)などの上皮細胞株よりも初代上皮細胞によく似ている。初代腺腫培養物を用いてまたは陰窩-絨毛オルガノイドを用いて得られた毒性結果は、患者において得られる結果とより類似性が高いと予想される。細胞を用いた毒性試験は、器官特異的な細胞毒性を調べるために使用される。この試験で試験される化合物には、化学抗癌剤、環境化学物質、栄養補助食品および毒性を有する可能性がある物質が含まれる。ある一定の時間にわたり、試験薬剤の複数の濃度に細胞を曝露する。アッセイにおける試験化合物に対する濃度範囲は、5日間曝露し、最大可溶濃度から対数的に希釈する予備アッセイで決定される。曝露時間終了時に、増殖の阻害について培養物を評価する。データを分析して、エンドポイントを50パーセント阻害した濃度(TC50)を判定する。
【0082】
本明細書およびその特許請求の範囲において、「含むこと(to comprise)」という語およびその活用形は、その語の後の事柄が含まれるが、具体的に言及されない事柄が排除されないということを意味するように非限定的な意味で使用される。さらに、「からなる(to consist)」という語は、本明細書中で定義される物質が、具体的に特定されるもの以外のさらなる成分を含み得、この追加成分が本発明の特有の特徴を変化させないことを意味する、「基本的に、からなる(to consist essentially of)」という語で置き換えることができる。さらに、本明細書中で定義される方法は、具体的に特定されるもの以外のさらなる段階を含み得、この追加の段階は本発明の特有の特徴を変化させない。さらに、不定冠詞「a」または「an」による要素に対する言及は、内容によって1つまたはただ1つの要素があることが明確に要求されない限り、複数の要素が存在する可能性を排除しない。従って、不定冠詞「a」または「an」は通常、「少なくとも1つ」を意味する。「約」または「およそ」という語は、数値と連結して使用される場合(約10)、好ましくは、その値が、10という値よりその値の1%大きいかまたは小さいある値であり得ることを意味する。
【0083】
本明細書中で引用される全ての刊行物および参考文献は、それらの全体において参照により本明細書に組み入れられる。
【0084】
以下の実施例は、単なる例示目的のために与えられるものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0085】
実施例1:インビトロでの小腸陰窩および絨毛の培養
材料および方法
マウス:6〜12週齢の非近交系マウスを使用した。Lgr5-EGFP-Ires-CreERT2対立遺伝子1の作製および遺伝子型解析は既に記載されている1。Rosa26-lacZまたはYFP CreレポーターマウスはJackson Labsから得た。
【0086】
陰窩単離、細胞分離および培養:2mM EDTA/PBS中で4℃にて30分間恒温放置することによって、マウス小腸から陰窩を放出させた。単離陰窩を計数し、ペレット化した500個の陰窩を50μlマトリゲル(BD Bioscience)と混合し、24ウェルプレートに播種した。マトリゲルの重合後、500μlの陰窩培養培地(増殖因子(10〜50ng/ml EGF(Peprotech)、500ng/ml R-スポンジン111および100ng/mlノギン(Peprotech)入りのアドバンスト-DMEM/F12)を添加した。選別実験に対して、培養培地中で37℃にて45分間、単離陰窩を恒温放置し、続いて硝子ピペットで再懸濁した。分離した細胞を20-μm細胞ストレイナーに通した。フローサイトメトリー(MoFlo,Dako)によってGFPhi、GFPlowまたはGFP細胞を選別した。前方散乱、側方散乱およびパルス幅パラメーターによっておよびヨウ化プロピジウムについて陰性染色して、単一生存上皮細胞にゲートをかけた。選別した細胞を陰窩培養培地中で回収し、細胞1個/ウェル(96ウェルプレート中、5μlマトリゲル)となるようにJagged-1ペプチド(Ana Spec、1μM)を含むマトリゲル中で包埋した。Y-27632(10μM)を含む陰窩培養培地(48ウェルプレートに対して250μl、96ウェルプレートに対して100μl)で覆った。1日おきに増殖因子を添加し、全培地を4日ごとに交換した。継代のために、オルガノイドをマトリゲルから取り出し、単一陰窩ドメインになるように機械的に分離し、新しいマトリゲルへと移した。1:5の分割比で1〜2週間ごとに継代を行った。
【0087】
試薬:マウス組み換えEGFおよびノギンはPeprotechから購入した。培養実験のために、ヒト組み換えR-スポンジン111、Y-27632(Sigma)、4-ヒドロキシタモキシフェン(Sigma)およびEdu(Invitrogen)を使用した。免疫染色のために次の抗体を使用した:抗リゾチーム(Dako)、抗シナプトフィジン(Dako)、抗BrdU(Roche)、抗β-カテニン(BD Bioscience)、抗E-カドヘリン(BD Bioscience)、抗平滑筋アクチン(Sigma)、抗EphB2およびB3(R&D)、抗ビリン、抗Muc2、抗クロモグラニンA(Santa Cruz)、抗カスパーゼ-3(Cell Signaling)。
【0088】
陰窩単離:摘出した小腸を縦方向に切開し、冷PBSで洗浄した。この組織を5mm前後の小片になるように刻み、さらに冷PBSで洗浄した。この組織断片をPBSとともに氷上で2mM EDTA中で30分間恒温放置した。EDTA培地の除去後、10mlピペットによりこの組織断片を冷PBSにとともに激しく縣濁した。上清は絨毛分画であり、廃棄し、沈殿物をPBSで再懸濁した。さらに激しく縣濁し、遠心した後、上清には陰窩が濃縮された。この分画を70μm細胞ストレイナー(BD bioscience)に通して、残存絨毛物質を除去した。単離陰窩を300rpmで3分間遠心し、単一細胞から陰窩を分離した。最終分画は基本的に純粋な陰窩からなり、培養または単一細胞分離のために使用した。
【0089】
タモキシフェン誘導およびX-gal染色:CreERT2を活性化するために、12時間にわたり低用量4-ヒドロキシタモキシフェン(10OnM)とともに陰窩を恒温放置し、陰窩培養培地中で培養した。既に記載のようにX-gal染色を行った1。4-ヒドロキシタモキシフェン非処理では染色は見られなかった。
【0090】
電子顕微鏡分析:既に記載のように1、室温にて5時間、カルノフスキー固定液(2%パラホルムアルデヒド、2.5%グルタルアルデヒド、0.1Mカコジル酸ナトリウム、2.5mM CaCl2および5mM MgCl2、pH7.4)中で陰窩オルガノイドを含むマトリゲルを固定した。エポン樹脂中で試料を包埋し、Phillips CM10顕微鏡(Eindhoven、The Netherlands)を用いて調べた。
【0091】
マイクロアレイ分析:結腸陰窩、小腸陰窩およびオルガノイドの遺伝子発現分析。2匹のマウスから新たに単離した小腸陰窩を2つに分割した。一方からRNAを直接単離し(RNeasy Mini Kit、Qiagen)、他方を1週間培養し、続いてRNAを単離した。本発明者らは、製造者の説明書(Agilent Technologies)に従い、標識cRNAを調製した。2回のダイスワップ実験において、4X44k Agilent Whole Mouse Genome二色マイクロアレイ(G4122F)上で、小腸陰窩およびオルガノイド由来の、標識が異なるcRNAをその2匹のマウスに対して個別にハイブリッド形成させ、その結果、4種類の個別のアレイを得た。さらに、2回のダイスワップ実験において、標識が異なる小腸陰窩に対して、単離結腸陰窩をハイブリッド形成させ、その結果、4種類の個別のマイクロアレイを得た。Feature Extraction(V.9.5.3、Agilent Technologies)を用いて、マイクロアレイシグナルおよびバックグラウンド情報を収集した。ArrayAssist(5.5.1、Stratagene Inc.)およびMicrosoft Excel(Microsoft Corporation)を用いて全データ解析を行った。ローカルバックグラウンドを差し引くことによって未加工シグナル強度を補正した。ある1つのチャネルにのみ存在する特性に対する強度間の比率(小腸陰窩またはオルガノイド)または(小腸陰窩または結腸陰窩)を計算できるようにするために、負の値をゼロに近い正の値に変換した(ローカルバックグラウンドの標準偏差)。Lowessアルゴリズムを適用することによって正規化を行い、(小腸陰窩またはオルガノイド)もしくは(小腸陰窩または結腸陰窩)強度の両者が変化した場合、または両強度がバックグラウンドシグナルの2倍未満であった場合、個々の特性をフィルターにかけた。さらに、不均一な特性をフィルターにかけた。データは公開されており、GEO(Gene Expression Omnibus、number GSE 14594)で入手可能である。クラスター3(距離:シティーブロック、相関:平均連結法)を用いて、小腸/結腸陰窩およびオルガノイドの正規化した強度(特徴抽出における処理済みシグナル)において教師なし階層的クラスター分析を行い、TreeViewで視覚化した。遺伝子は、それらが全アレイにおいて一貫してオルガノイドまたは陰窩で3倍を超えて濃縮された場合、顕著に変化したとみなした。
【0092】
画像解析:共焦点顕微鏡(Leica、SP5)、倒立顕微鏡(Nikon DM-IL)または実体顕微鏡(Leica、MZl6-FA)の何れかで陰窩オルガノイドの画像を取得した。免疫組織化学のために、試料を4%パラホルムアルデヒド(PFA)で室温にて1時間固定し、標準技術1によりパラフィン切片を処理した。以前記載されたように1免疫組織化学を行った。ホールマウント免疫染色に対して、ディスパーゼ(Invitrogen)を用いて陰窩オルガノイドをマトリゲルから分離し、4%PFAで固定し、続いて0.1%Triton-Xで透過処理した。製造者のプロトコール(Click-IT、Invitrogen)に従い、EdU染色を行った。DAPIまたはToPro-3(Molecular Probe)によりDNAを染色した。共焦点顕微鏡(Leica、SP5)により3D画像を取得し、Volocity Software(Improvision)を用いて再構成した。
【0093】
結果:腸上皮は、成体哺乳動物において最速で自己再生する組織である。本発明者らは、最近、小腸陰窩の底部におよそ6個のサイクル型(cycling)Lgr5+幹細胞があることを明らかにした1。本発明者らは、今回、単一陰窩において複数の陰窩分裂事象が起こり、一方で、同時に、全分化細胞型が存在する絨毛様上皮ドメインが生じる、長期培養条件を確立した。単一選別Lgr5+幹細胞もまた、これらの陰窩-絨毛オルガノイドを惹起することができる。追跡実験は、オルガノイドにおいてLgr5+幹細胞ヒエラルキーが維持されることを示す。本発明者らは、腸陰窩-絨毛ユニットが自己組織化構造であり、これが非上皮細胞ニッチ非存在下で単一幹細胞から形成され得ると結論付ける。
【0094】
小腸の自己再生上皮は陰窩および絨毛になる2。細胞が陰窩で新たに生じ、マウスでは5日間のターンオーバー時間で絨毛の先端部でアポトーシスにより失われる。自己再生幹細胞は陰窩底部の付近にあり、急速に増殖する一過性増殖(transit amplifying)(TA)細胞を生成させることが長く知られてきた。幹細胞の推定数は陰窩1個あたり4〜6個である。腸細胞、杯細胞および腸内分泌細胞はTA細胞から発生し、陰窩-絨毛軸に沿ったコヒーレント帯(coherent band)を移動し続ける。第四の主要な分化細胞型であるパネート細胞は陰窩底部に存在する。本発明者らは、最近、パネート細胞間に散在するサイクル型(cycling)陰窩底部円柱細胞で特異的に発現される遺伝子、Lgr5を同定した1。GFP/タモキシフェン誘導型CreリコンビナーゼカセットがLgr5遺伝子座に挿入されたマウスを用いて、本発明者らは、細胞系譜解析により、Lgr5+細胞が、Cre誘導から14ヶ月後に評価した場合でも3、上皮の全細胞型を生成させる多能性幹細胞を構成する1ことを示した。
【0095】
様々な培養系が記載されているが4〜7、基本的な陰窩-絨毛生理を維持する長期培養系は確立されていない2。
【0096】
マウス陰窩調製物をマトリゲル中で縣濁した。陰窩成長にはEGFおよびR-スポンジン1が必要であった(図1a)。継代から、ノギンの必要性が明らかになった(図1b)。培養した陰窩は、定型的に挙動した(図2a)。上部の開口部は速やかに閉じられ、内腔がアポトーシス細胞で満たされた。陰窩領域では連続的な出芽事象が起こり、陰窩分裂を連想させた17。パネート細胞は常に出芽部位に存在した。陰窩の殆どを培養することができた(図2b)。さらなる増幅によって、絨毛様上皮により内面が覆われている中心内腔を取り囲む>40個の陰窩-ドメイン(「絨毛ドメイン」)を含むオルガノイドが形成された(図2c〜e)。E-カドヘリン染色から、単一細胞層が明らかになった(データを示さず)。毎週、オルガノイドを機械的に分離し、播種前の密度の1/5で再播種した。下記の特徴を喪失せずに、>6ヶ月間、オルガノイドを培養した。マイクロアレイによる発現分析から、例えば新鮮な結腸陰窩と比較した場合、オルガノイドは、新たに単離した小腸陰窩と依然として非常に類似していたことが明らかになった(図3)。
【0097】
Lgr5-EGFP-ires-CreERT2陰窩の培養から、Lgr5-GFP+幹細胞が陰窩底部でパネート細胞と混ざり合うことが明らかになった。核β-カテニン(図4a、図5)およびWnt標的遺伝子Lgr5(図2d)およびEphB218(図4b)の発現により明らかにされるように、Wnt活性化は陰窩に限定された。アポトーシス細胞は中心内腔に流れ込むが、これはインビボでの絨毛先端におけるアポトーシス細胞の脱落を連想させるプロセスである(図4c)。>3ヶ月経過したオルガノイドの分裂中期スプレッドは、一貫して、40本の染色体/細胞(n=20)を示す(図4d)。驚くことに、本発明者らは、筋繊維芽細またはその他の非上皮細胞の存在に関する証拠を見出さなかった(図6)。
【0098】
本発明者らは、細胞系譜解析を可能にするためにCre活性化可能なRosa26-LacZレポーターと交配させたLgr5-EGFP-ires-CreERT2マウスから陰窩を培養した。低用量タモキシフェンによる誘導の直後、本発明者らは単一の標識細胞(図4e、g)に注目した。これらの90%超が全体に青い陰窩を生成し(図4e〜g)、このことから、Lgr5-GFP+細胞が実際に幹細胞特性を保持していたことが示唆される。Cre活性化可能なRosa26-YFPレポーター19マウスからの陰窩によって、共焦点分析による細胞系譜解析が可能となった。タモキシフェン処理直後、本発明者らは、新たに単離した陰窩(図7a〜c)および確立されたオルガノイド(図7d)の両方において、続く数日間にわたり、細胞系譜解析を誘導した単一の標識細胞に注目した。
【0099】
最近、インビトロで単一幹細胞から乳腺上皮構造が確立された21。単一Lgr5-GFPhi細胞を選別した場合、これらはすぐに死んだ。Rhoキナーゼ阻害剤Y-27632は、この細胞死を顕著に抑制した。Notchアゴニスト性ペプチド24は、増殖性の陰窩の維持を支えることが分かった23。これらの条件下で、多数のLgr5-GFPhi細胞が生存し、大きな陰窩オルガノイドを形成した。GFPlow娘細胞を播種した場合はオルガノイドの形成は稀であった(図8d)。複数のLgr5-GFPhi細胞は陰窩底部でパネート細胞と混ざり合った(図8e〜f)。EdU(チミジン類似体)取り込みから、陰窩でS期の細胞が明らかになった(図8g)。
【0100】
本発明者らは、ウェルあたり1個の細胞の割合で細胞を選別し、単一細胞の存在を目視により確認し、その結果の成長について追跡した。4回の個別の各実験において、本発明者らは、100個の単一細胞を特定し、追跡した。平均して、Lgr5-GFPhi細胞のおよそ6%が成長してオルガノイドになり、一方で残りの細胞は一般的には最初の12時間以内に死に至ったが、これはおそらく単離手順に固有の物理的および/または生物学的ストレスによるものである。GFPlow細胞が増殖するのは稀であった(図9a)。図9bおよび図10は、単一Lgr5-GFPhi細胞からのオルガノイドの成長を示す。培養4日までに、この構造は100個前後の細胞から構成されるようになり、これは、増殖性陰窩細胞の12時間の細胞周期と一致する25(図9c)。2週間後、このオルガノイドを単一細胞になるように分離し、再播種して、新しいオルガノイドを形成させた(図9d)。再播種効率の明らかな低下なく、この手順を2週間に1回の頻度で少なくとも4回繰り返すことができた。
【0101】
単一幹細胞由来オルガノイドは、陰窩全体由来のものと区別できないと思われる。パネート細胞および幹細胞は陰窩底部に位置していた(図8e、f、図11c、g)。ビリン+成熟刷子縁および先端のアルカリホスフェーゼ(alkaline phosphase)により明らかとされるように、完全に極性化した腸細胞が中心内腔の内側を覆っていた(図11a、e、i)。杯細胞(Muc2+、図11b;PAS+、図11f)および腸内分泌細胞(クロモグラニンA+、図11d;シナプトフィジン+、図11h)はオルガノイド構造全体に拡散していた。電子顕微鏡により4種類の成熟細胞が認められた(図11i〜l)。非上皮(間質/間葉)細胞はなく、EM画像解析によって観察を確認した(図11i〜p、図12c〜g)。陰窩(図11m、o)および中心内腔上皮(図11p)の両者とも、マトリゲル支持体のすぐ上にある極性化した上皮細胞の単層から構成されていた。これらのEM像の高解像度画像を図5で与える。E-カドヘリンに対して赤で染色し、核を青で対比染色したオルガノイドから、オルガノイド上皮の単層性が明らかになる(データを示さず)。
【0102】
上皮陰窩が上皮下筋繊維芽細胞と密接に接触していることは周知であり26〜28、後者の細胞が陰窩底部で特殊化した細胞ニッチを形成すると一般に考えられている27、29、30。このようなニッチは、腸幹細胞を繋ぎ止め、支持するための特有の環境を作り出す。本発明者らは、ここで、均一に与えられる限られた一連の成長シグナルにより自己再生上皮を確立できることを示す。これにもかかわらず、単離幹細胞は、非常に定型的な方式で自律的に非対象性を作り出す。これにより、新たに生成された幹細胞および陰窩様構造の底部に位置し、TA細胞で満たされたパネート細胞とともに陰窩様構造が速やかに形成される。これらの陰窩様構造は、有糸分裂後腸細胞からなる絨毛様内腔ドメインに流れ込み、ここで、アポトーシス細胞が内腔に向かってくびれ切られるが、これは絨毛先端での細胞喪失を連想させる。均一な成長促進環境に曝露された単一細胞が非対称構造を生じさせ得るという逆説的な所見は、Wnt経路を精査すると特に明らかである。全細胞がR-スポンジン1に曝露される一方で、陰窩中の細胞のみが活性のあるWntシグナル伝達の顕著な特徴(即ち、核β-カテニンおよびWnt標的遺伝子の発現)を示す。明らかに、細胞外Wntシグナルへの特異的な曝露ではなくWntシグナル伝達に対する特異的な反応性が、陰窩-絨毛軸の形成の中心にある。
【0103】
要約すると、本発明者らは、単一Lgr5+ve腸幹細胞がその環境からの位置的合図と独立して機能し得、これが、正常な消化管を連想させる、継続的に増幅する自己組織化上皮構造を形成し得ると結論付ける。記載の培養系により、幹細胞主導の陰窩-絨毛生物学の研究が簡素化されよう。さらに、これにより、再生医療および遺伝子治療に対する新しい道筋が開かれ得る。
【0104】
実施例2:インビトロでの結腸陰窩および絨毛の培養
材料および方法
Wnt3a馴化培地
Wnt3aリガンド発現細胞株およびWnt3aリガンドのない同じ細胞株(対照培地)を3〜4週間培養する。これらの細胞は、密集状態となり増殖を停止するとすぐにWnt3aを産生するようになる。この培地を回収し、TCF応答配列-lucコンストラクト(TOP)および同じであるがTCF応答配列中に突然変異があるコンストラクト(FOP)を用いて、TOPフラッシュアッセイ、ルシフェラーゼアッセイで試験する。TOP/FOP間の比は、培養で使用しようとする培地に対して20を超えるはずである。組織を再生するための培養で使用する場合は、この培地を25〜50%希釈する。
【0105】
新たに摘出した結腸を切開し、PBSまたはDMEMで洗浄し、刻んで小片にした。穏やかに振盪しながら、断片を2mM EDTA/PBSとともに4℃で1時間恒温放置した。EDTA溶液を除去した後、10mlピペットを用いて組織断片を10mlの冷PBS中で激しく縣濁した。破片を含有する最初の上清を廃棄し、10〜15ml PBSで沈殿物を縣濁した。組織断片をさらに激しく縣濁した後、上清には結腸陰窩が濃縮されている。この分画をペレット化し、マトリゲルと混合し、小腸オルガノイド培養系として培養した。このマトリゲルを37℃で5〜10分間恒温放置した。マトリゲル重合後、500μlの組織培養培地(200ng/ml N-アセチルシステイン、50ng/ml EGF、1μg/mlR-スポンジン1、100ng/mlノギン、10Ong/ml BDNF(Peprotech)を補充した50%アドバンスト-DMEM/F12/50%Wnt-3a馴化培地)を添加した。2〜3日ごとに全培地を交換した。継代のために、1000μlピペットを用いてマトリゲルから胃オルガノイドを取り出し、小断片になるように機械的に分離し、新しいマトリゲルに移した。少なくとも2週間に1回、1:4分割比で継代を行った。これらの条件下で、少なくとも3ヶ月にわたり培養を維持した。
【0106】
結果
小腸オルガノイドと比較して、結腸オルガノイドの増殖はより遅く、効率が低い。小腸と同じ増殖因子条件を用いて、増殖し、胃オルガノイド構造を形成したのは、遠位結腸から単離した結腸陰窩の5%未満であった(図13)。結腸の近位部からの結腸陰窩を増殖させるのは困難であった。本発明者らは、マイクロアレイ分析(結腸Lgr5-GFPhi細胞対結腸Lgr5-GFPlow細胞)において、BDNF(脳由来神経栄養因子)の受容体であるtrkBの上方制御を見出したので、本発明者らは、結腸オルガノイドに対するBDNFの影響を調べた。本発明者らは、常に、BDNF+培養において、BDNF-培養よりも2倍前後高い培養効率を認めた。一般には、1個の結腸オルガノイドは、およそ10個の陰窩ドメインを含有する(図14)。それらの起源と一致して、パネート細胞は検出できなかった。小腸オルガノイドと対照的に、結腸陰窩では陰窩底部にWnt-3a産生パネート細胞がなく、従ってWnt-3を補充することによって結腸陰窩の培養効率が上昇するが、小腸陰窩の培養効率は上昇しない。一般には、本発明者らがWnt-3a馴化培地を添加した場合、本発明者らは、最大で30%の培養効率を得た(図15)。
【0107】
結論として、上述の条件を用いて、小腸由来および結腸由来陰窩の両者ともインビトロで維持し、増殖させることができ、この方法が、人工的な系での腸上皮の生成を可能とするための、最初に述べられた培養法となる。
【0108】
実施例3:インビトロでの腺腫の培養
材料および方法(実施例1参照)
結果
腺腫は歴史的にインビトロで培養することが困難であった。小腸ならびに結腸由来の健康な陰窩を首尾よく培養するために上述の条件を使用したので、同様の条件がインビトロで腺腫を持続させ得るか否かを判断した。2.5mM EDTAを用いてAPC-/-マウスから腺腫を単離した後、上述と同様の条件下で単一腺腫を培養した。重要なこととして、これらの条件はインビトロで腺腫の増殖を維持するために適切であったが、しかし、R-スポンジンは不必要となった。これは、これらの細胞にAPCがなく、その結果、自動的に核β-カテニンが得られるので、Wntシグナル伝達経路を誘導する必要がもはやないという事実によって容易に説明できる。これにより、インビトロでの腺腫の培養においてR-スポンジン、Wntアゴニストが不必要となる。図16aおよび図16bの高倍率像は、正常な陰窩オルガノイド(中心内腔のある陰窩出芽部分を見ることができる)と比較して、腺腫オルガノイドが単純に嚢胞として成長することを示す。内腔内部に大量の死細胞が存在することから結論付けられ得るように、死細胞は内腔に流れ出す。正常な陰窩オルガノイドにおいて、核β-カテニンは陰窩ドメインの底部でのみ見られる(図4a参照)。腺腫オルガノイドにおいて(図16cおよび図16dの高倍率像)、遺伝子のAPC突然変異と一致して、全ての上皮細胞で核β-カテニンが見られた。これらのオルガノイドを永続的に継代することができる。
【0109】
上述の培養条件(R-スポンジンなし)を用いて、Lgr5-EGFP-Ires-CreERT2/APCflox/floxマウスの腺腫由来の単一Lgr5+選別細胞がインビトロで同様の腺腫オルガノイドを形成させることができるか否かをさらに調べた。実際に、これはその事例であり、得られたオルガノイドは、インビトロ培養のための出発材料として完全な腺腫を用いて得られたものと構造が非常に類似していた(データを示さず)。
【0110】
実施例4:その他のWntアゴニストの影響の試験
その他のWntアゴニストがR-スポンジン用量と同じ効果を有するか、即ちインビトロで陰窩-絨毛オルガノイドの形成を促進するか否かを調べるために、可溶性Wnt3aをLgr5+選別単一細胞に添加し、インビトロでの陰窩-絨毛形成における影響を評価した。
【0111】
材料および方法
Lgr5-GFPhi細胞を選別し、従来の単一細胞培養条件(単一細胞に対して上記で記載のとおり、EGF、ノギン、R-スポンジン、NotchリガンドおよびY-27632)に加えてWnt3a(100ng/ml)を添加してまたは添加せずに培養した。本発明者らは、細胞100個/ウェルを播種し、播種から14日後にオルガノイド数を数えた。
【0112】
PBS+0.1%Pluronic127(Sigma)中の1μM Newport Green-DCF(Molecular Probes)とともに室温で3分間、単離陰窩を恒温放置し、続いてPBSで洗浄した。この後、陰窩をマトリゲル中に包埋し、上述のような標準的条件を用いて培養した。
【0113】
結果
R-スポンジン非存在下でWnt3aを添加してもコロニー形成において効果はなく、R-スポンジン非存在下で結腸の形成は皆無かそれに近かった。しかし、R-スポンジンの存在下では、Wnt3a存在下でのみ、オルガノイド形成効率の向上が認められた(図17)。このことから、両因子が、完全な上皮細胞層の形成に必要な全ての細胞への幹細胞の分化を刺激し、支持するというそれらの能力を互いに支え合うことが示される。現在の仮説は、R-スポンジンが、Frizzledを通じてシグナル伝達前にFrizzledの共受容体であるLRP6の内部移行の阻害に関与するというものである。Frizzledおよび共受容体LRP6にWnt因子が結合すると、Wntシグナル伝達経路が活性化される31。LRP6が細胞表面に存在する場合、Wnt活性化が起こる(図18)。従って、R-スポンジンが培養培地中に存在しない場合、Wnt3aはWnt経路を活性化できないが、これは、LRP6が内部に取り込まれ、Wnt因子と組み合わせてシグナル伝達に利用できず、それによりWnt経路の活性化が阻止されるからである。
【0114】
Wnt3aは可溶性因子であり、生理的状態下でパネート細胞により産生される。これらの細胞は一般に幹細胞に隣接して位置しており(図19)、これらの細胞が進行中の腸上皮細胞層の分化の維持を支える、という仮説が立てられている。パネート細胞によってまた分泌されるその他のWnt因子は、Wnt6、9bおよび11である。Wnt6が幹細胞分化にWnt3a用量と同様の効果を有することが予想される。これらの知見は、パネート細胞が幹細胞ニッチの形成に重要であるという考えを支持する。幹細胞ニッチが広範に推測されているので、これらのデータは驚くべきことであるが、現在のところ、このようなニッチの存在を裏付ける実験データはない。幹細胞ニッチの存在に対するさらなる裏付けは、パネート細胞を選択的に死滅させた実験から得られる。マウス小腸から陰窩を単離し、パネート細胞を特異的に絶滅させる亜鉛キレート剤の存在下でインビトロで培養した32。パネート細胞にのみ影響を与え、陰窩内のその他の細胞には影響を与えないような低濃度および短時間で、これを使用した。亜鉛キレート剤での処理後、オルガノイド形成を評価した。元の陰窩においてパネート細胞がもはや存在しなかった場合、オルガノイド形成の顕著な低下が認められた(図20)。Wnt3aの存在下で、この減少は幾分回復した(データを示さず)。これは、陰窩でLgr5+幹細胞の分化を支える幹細胞ニッチの維持におけるパネート細胞に関する役割を裏付ける。
【0115】
実施例5:培養条件はオルガノイドの成長も支持する。
胃は3つの形状領域(底部、体部および洞部)および2つの機能的腺領域(酸分泌部および幽門部)からなる。酸分泌腺領域はこの臓器の80%を構成し、幽門部領域はこの臓器の20%を構成する。哺乳動物胃上皮は、平面表面上皮、短い窩および長い腺からなる胃ユニットに編成される。この窩は、内側を粘液分泌細胞に覆われており、一方で腺は、3つの領域、峡部、頚部および底部に分けられる分泌細胞からなる。胃上皮は絶えず再生される。本発明者らの研究室で行われた追跡試験から、腺底部に位置するLGR5陽性細胞が幹細胞性の定義を満たすことが分かった(Barker et al.,準備中)。
【0116】
現在のところ、胃単層培養は、いくつかの分化した胃細胞により形成される胃ユニットの特性を再現できない。さらに、報告されている3-D培養法系は、内分泌細胞を示すことなく、高度に分化した胃表面粘液細胞のみを再構成する。さらに、これらの培養は、7日間にわたってのみ行われており、従って自己再生能の欠如が示唆される(Ootani A,Toda S,Fujimoto K,Sugihara H.Am J Pathol.2003 Jun;162(6):1905-12)。今回、本発明者らは、マウス胃幽門部から胃ユニットを単離するための方法を開発し、より長期間にわたる維持を示す3D-培養系を開発することができた。
【0117】
材料および方法
胃ユニット単離
単離した胃を長軸方向に切開し、冷アドバンスト-DMEM/F12(Invitrogen)中で洗浄した。立体顕微鏡下で、幽門部を切り取り、胃体部から切り離し、ピンセットで噴門洞および幽門部粘膜を慎重に筋肉層から分離した。次に、組織を細切して5mm前後の小片にし、冷分離用緩衝液(Na2HPO4 28mM+KH2PO4 40mM+NaCl 480mM+KCl 8mM+スクロース 220mM+D-ソルビトール 274mM+DL-ジチオトレイトール(Dithiotreitol)2.6mM)でさらに洗浄した。穏やかに振盪させながら、単離緩衝液とともに4℃で2時間、5mM EDTA中で組織断片を恒温放置した。EDTA溶液を除去した後、10mlピペットを用いて10mlの冷分離用緩衝液中で組織断片を激しく縣濁した。死細胞を含有する最初の上清を廃棄し、10〜15ml冷分離用緩衝液で沈殿物を縣濁した。組織断片をさらに激しく縣濁した後、上清には胃ユニットが濃縮されている。10〜20回の縣濁ごとに、上清を新鮮な冷分離用緩衝液に交換し、氷上で維持し、胃ユニットの存在について調べる。胃ユニットが完全に放出されるまでこの手順を繰り返す(通常は4〜5回)。濃縮された胃ユニット縣濁液を600rpmで2〜3分間遠心し、単一細胞から単離胃ユニットを分離し、沈殿物を培養で使用する。
【0118】
胃の培養
前のセクションで示されているように、4℃で2時間、5mM EDTAとともに恒温放置することによって、腺、峡部および窩領域を含有する胃ユニット全体をマウス胃幽門部から単離した。単離した胃ユニットを数え、ペレット化した。100個の胃ユニットを25μlのマトリゲル(BD Bioscience)と混合し、48ウェル組織培養プレート上に播種し、マトリゲルが完全に重合するまで37℃で5〜10分間恒温放置した。重合後、250μlの組織培養培地(B27、N2、200ng/ml N-アセチルシステイン、50ng/ml EGF、1μg/ml R-スポンジン1、100ng/ml ノギン、100ng/ml Wnt3A、50または100ng/ml KGFを補充したアドバンスト-DMEM/F12)を添加した。2日ごとに全培地を交換した。継代のために、1000μlピペットを用いてオルガノイドをマトリゲルから取り出し、小断片になるように機械的に分離し、新しいマトリゲルに移した。週に1回または2回、1:4の分割比で継代を行った。これらの条件下で、少なくとも1ヶ月間、培養物を維持した。
【0119】
試薬
アドバンスト-DMEM/F12および補助剤N2およびB-27血清不含サプリメントをInvitrogenから購入し、N-アセチルシステインをSigmaから購入した。マウス組み換えEGF、ノギンおよびヒトKGFはPeprotechから購入し、Wnt3A組み換えタンパク質はStem Cell Researchから購入した。言及した増殖因子から、R-スポンジン1およびKGFに対してのみ様々な濃度を試験した。50ng/mlで、R-スポンジン1は培養物成長を阻害する。50または100ng/mlの何れかでKGFを使用することができるが、出芽効率は100ng/mlの条件でより高くなる。既に記載のようにWnt3A馴化培地を調製した(Willert K,Brown JD,Danenberg E,Duncan AW,Weissman IL,Reya T,Yates JR 3rd,Nusse R.Nature 2003 May 22;423(6938):448-52)。
【0120】
免疫組織化学および画像分析
X-gal染色のために、室温で1〜2時間、100mM MgCl2を含むPBS中の0.25%グルタルアルデヒド(Sigma)とともにマトリゲル中でオルガノイドを直接固定した。その後、洗浄溶液(PBS中、0.01%デオキシコール酸ナトリウム+0.02%NP40+5mM MgCl2)で3回培養物を洗浄し、0.21%K4Fe(CN)6および0.16%K3Fe(CN)6の存在下で1mg/ml X-Gal(Invitrogen)とともに37℃で16時間恒温放置した。PBS中での洗浄後、PBS中の2%PFAにより室温にて15分間、培養物を後固定した。全ての試薬をSigmaから得た。
【0121】
免疫組織化学のために、トリプシン(Tryple Select、Invitrogen)を用いてオルガノイドをマトリゲルから分離し、4%PFAで室温にて1時間固定し、パラフィン中で包埋した。パラフィン切片を標準技術で処理し、既に記載のように免疫組織化学を行った。次の抗体を使用した:抗マウスKi67(クローンMM1、Monosan)(1:200)、カスパーゼ-3切断抗ウサギ(Cell Signaling Technology)(1:400)および抗ヒト胃ムチン5AC(Novocastra クローン45M1)(1:200)。全例でクエン酸緩衝液抗原回復を行った。マイヤーのヘマトキシリンで切片を対比染色した。倒立顕微鏡(Nikon DM-IL)または共焦点顕微鏡(Leica SP5)の何れかで胃オルガノイドおよび単離胃腺の画像を取得した。
【0122】
結果
現在まで、胃培養物が単層で増殖されてきた。しかし、単層培養は、いくつかの分化した胃細胞(ピット粘液細胞、腸内分泌細胞および増殖性の粘液不含細胞)により形成される胃ユニット全体の特性を再現する能力を欠く。最近、本発明者らの研究室は、インビボ細胞系譜解析により、腸陰窩の底部に存在するLgr5陽性細胞が真の腸幹細胞であることを明らかにした(Barker N,van Es JH,Kuipers J,Kujala P,van den Born M,Cozijnsen M,Haegebarth A,Korving J,Begthel H,Peters PJ,Clevers H.Nature.2007;449:1003-7)。腸上皮のように、胃上皮は絶えず再生される。Lgr5陽性細胞が幽門部胃腺ユニットの底部で見出されており、追跡実験から、自己再生および多分化能を示すことにより、これらのLGR5陽性細胞が幹細胞性の定義を満たすことが分かった(Barker et al.,準備中)。本発明者らは、3-D構造で単一Lgr5+細胞から腸陰窩を培養することができたので、同様の条件が、インビトロで幽門部胃ユニットの成長を維持できるか否かを調べた。
【0123】
5mM EDTAを用いた胃腺ユニットの単離後、胃腺(図21a)をマトリゲル中で縣濁した。胃培養物の成長には、EGF(50ng/ml)、ノギン(100ng/ml)、R-スポンジン1(1μg/ml)およびWnt3A(100ng/ml)(図21b)が必要であった。KGF(50または100ng/ml)は出芽事象の生成、従って培養物の増幅に不可欠であった。このようにして、培養した幽門部ユニットは腸陰窩オルガノイドとして働いた。このユニットの開放上部が閉じ、内腔がアポトーシス細胞で満たされる。新たに形成された胃オルガノイドにおいて、中心内腔のある胃腺出芽とともにそれらの極性を維持しながら、継続的な出芽事象が起こった(腺分裂を連想させる)。組み換えWnt3A組み換えタンパク質と比較したときに10〜100倍高いWnt活性を示すWnt3A馴化培地を使用した場合、出芽形成効率の顕著な上昇が検出され(図21c)、このことから、出芽形成および形態形成に対するWnt用量依存性が明らかになった。
【0124】
記載の特性を喪失することなく、少なくとも1ヶ月間、オルガノイドを培養した。毎週、機械的に分離することによって、オルガノイドを1:4で継代する(図22)。Lgr5-LacZ幽門部胃ユニットの培養から、胃オルガノイドにLgr5陽性幹細胞が存在することが明らかになった(図23a)。Ki67染色により明らかにされるように、増殖性の細胞は腺様構造の底部にあり(図23b)、一方、アポトーシスカスパーゼ3陽性細胞は、内腔に押し出されることが分かる(図23c)。胃ムチン5AC(MUC5AC)は、小窩細胞とも呼ばれる胃ピット細胞の特異的なマーカーである。MUC5AC陽性細胞はオルガノイドで見出され、このことから、少なくとも1つの分化型胃細胞系統の存在が示される(図23d)。しかし、内分泌由来細胞は検出されていない。従って、さらなる因子が必要とされる。これらには、ガストリン放出ペプチド、HedgehogおよびNotchファミリーの活性化因子または阻害剤、Wnt経路のその他の活性化因子およびBMPファミリーのその他の阻害剤、TGFファミリーの活性化因子が含まれる。
【0125】
実施例6a:膵臓オルガノイドをインビトロで成長させることができる。
材料および方法
新たに単離した膵臓を刻んで小片にし、オービタルシェーカーにおいて(80rpm、37℃)10分間、消化酵素混合物(300U/ml XI型コラゲナー(Sigma)、0.01mgディスパーゼI(Roche)および0.1mg DNase)とともにDMEM(Invitrogen)中で恒温放置した。恒温放置後、機械的なピペッティング操作によって組織断片を穏やかに分離させた。標準重力で1分間、未消化断片を沈殿させ、新しい試験管に上清を移した。上清を70μm細胞ストレイナーに通し、残渣をDMEMで洗浄した。逆向きにした細胞ストレイナーをDMEMですすぐことによって細胞ストレイナーに残存する断片を回収し、ペレット化した。この分画は殆ど膵臓腺房組織からなり、膵管を含んでいだ。このペレットをマトリゲルと混合し、小腸オルガノイド培養系として培養した(実施例1の材料および方法を参照)。37℃で5〜10分間、マトリゲルを恒温放置した。マトリゲルの重合後、500μlの組織培養培地(B27、N2、200ng/ml N-アセチルシステイン、50ng/ml EGF、1μg/ml R-スポンジン1、100ng/ml ノギン、50または100ng/ml KGF(Peprotech)を補充したアドバンスト-DMEM/F12)を添加した。2日ごとに増殖因子を添加した。4-6日ごとに全培地を交換した。継代のために、1000μlピペットを用いてオルガノイドをマトリゲルから取り出し、機械的に分離させて小片にし、新しいマトリゲルに移した。週に1回または2回、1:4の分割比で継代を行った。これらの条件下で、少なくとも2ヶ月間、培養を維持した。
【0126】
結果
EGFの存在下で、培養から3〜4日後、膵臓組織は単純な嚢胞構造を形成した。ノギンおよびR-スポンジン培養は嚢胞構造の大きさを相乗的に拡大したが、オルガノイドの形態形成には影響しなかった。KGFは、出芽形成ならびに培養効率を顕著に誘導した。増殖因子の最適の組み合わせ(EGF、ノギン、R-スポンジン-1およびKGF)を用いて、膵管の80%超が増殖因子の最良の組み合わせで成長した。
【0127】
培養中に膵管が取り込まれると、その管構造の両端が速やかに閉じ、単純な構造を形成する。オルガノイドのおよそ20%が、培養開始から7日後に出芽構造を形成し始めた(図24)。増殖が非常に遅い腺房組織と対比して、膵管は急速に成長する。
【0128】
興味深いことに、オルガノイドの継代後、培養開始からおよそ2〜3週間後に膵島様構造が観察された(図25)。これらの膵島様構造は、通常は継代前に観察されない。膵島は少なくとも7日間生存するが、増殖は非常に遅いかまたは皆無である。これらの膵島様構造は、健康な膵臓組織に存在するランゲルハンス膵島に似ている。このような膵島は、とりわけ、グルカゴンおよびインスリンをそれぞれ産生するα細胞およびβ細胞を含有する。観察された膵島様構造は、インスリン、ニューロゲニン3およびPdx-1を発現する細胞を含有する。いくつかの増殖因子を試験して、それらが膵臓組織に由来するオルガノイドにおいて膵臓β細胞の存在を増加させるか否かを調べる。候補増殖因子は、シクロパミン(ソニック-ヘッジホッグ阻害剤)、アクチビン、GLP(グルカゴン様ペプチド)およびその誘導体(エキセンジン4)、ガストリンおよびニコチンアミドを含む。
【0129】
実施例6b:膵臓オルガノイドをインビトロで成長させることができる。
材料および方法
新たに単離した膵臓を刻んで小片にし、オービタルシェーカー(80rpm、37℃)において10分間、消化酵素混合物(300U/ml XI型コラゲナー(Sigma)、0.01mg/ml ディスパーゼI(Roche)および0.1mg/ml DNase)とともにDMEM(Invitrogen)中で恒温放置した。恒温放置後、機械的なピペッティング操作によって組織断片を穏やかに分離させた。標準重力で1分間、未消化断片を沈殿させた。消化酵素混合物で10分間、未消化断片をさらに消化した。未消化断片が殆ど膵管から構成されるようになるまでこの消化手順を繰り返した。顕微鏡下で膵管構造を未消化断片から手作業で拾った。膵管をマトリゲルと混合し、小腸オルガノイド培養系のように培養した(実施例1の材料および方法を参照)。37℃で5〜10分間、マトリゲルを恒温放置した。マトリゲルの重合後、500μlの組織培養培地(1xGlutamax、ペニシリン/ストレプトマイシン、10mM Hepes、B27、N2、10mM N-アセチルシステイン、10nM [Leu15]-ガストリンI、100nM エキセンジン4、10mMニコチンアミド、50ng/ml EGF、1μg/ml R-スポンジン1、100ng/ml ノギン、50もしくは100ng/ml FGF7(KGF)またはFGF10(Peprotech)を補充したアドバンスト-DMEM/F12)を添加した。この培養培地を2日ごとに交換した。継代のために、1000μlピペットを用いてオルガノイドをマトリゲルから取り出し、機械的に分離させて小片にし、新しいマトリゲルに移した。週に1回または2回、1:4の分割比で継代を行った。これらの条件下で、少なくとも10ヶ月間、培養を維持した。
【0130】
結果
EGFの存在下で、培養から3〜4日後、膵臓組織は単純な嚢胞構造を形成した。ノギンおよびR-スポンジン培養は嚢胞構造の大きさを相乗的に拡大したが、オルガノイドの形態形成に影響しなかった。FGF7(KGF)/FGF10は、出芽形成ならびに培養効率を顕著に誘導した。増殖因子の最適の組み合わせ(EGF、ノギン、R-スポンジン-1およびFGF7(KGF)/FGF10)を用いて、膵管の80%超が増殖因子の最良の組み合わせで成長した。
【0131】
培養中に膵管が取り込まれると、その管構造の両端が速やかに閉じ、単純な構造を形成する。オルガノイドのおよそ80%が、培養開始から7日後、出芽構造を形成し始めた(図24)。増殖が非常に遅い腺房組織と対比して、膵管は急速に成長する。興味深いことに、オルガノイドの継代後、培養開始からおよそ2-3週間後、膵島様構造が観察された(図25)。これらの膵島様構造は一般に、継代前には観察されない。膵島は少なくとも14日間生存するが、増殖は非常に遅いかまたは皆無である。これらの膵島様構造は、健康な膵臓組織に存在するランゲルハンス膵島に似ている。このような膵島は、とりわけ、グルカゴンおよびインスリンをそれぞれ産生するα細胞およびβ細胞を含有する。観察された膵島様構造は、インスリン、ニューロゲニン3およびPdx-1を発現する細胞を含有する。いくつかの増殖因子を試験を試験して、それらが膵臓組織に由来するオルガノイドにおいて膵臓β細胞の存在を増加させるか否かを調べる。候補増殖因子は、シクロパミン(ソニック−ヘッジホッグ阻害剤)、アクチビン、GLP(グルカゴン様ペプチド)およびその誘導体(エキセンジン4)、ガストリンおよびニコチンアミドを含む。
【0132】
実施例7:Wnt/Lgr5再生反応を推進することによるインビトロにおける成体膵臓前駆細胞のスムーズな増幅
材料および方法
マウス、試薬および組織
次のマウス、アキシン-LacZノックイン(Lustig et al.Mol Cell Biol.2002)、Lgr5-LacZノックイン(Barker et al.,2007)、Lgr5-GFP(Barker et al.,2007)から膵臓組織を得た。アキシン-LacZマウスに100μgの精製ヒトR-スポンジン1(A.Abo、Nuvelo Inc、CA、USAの好意により提供)をIP注射し、膵臓でのLacZ発現分析のために48時間後に屠殺した。
【0133】
一部小さな改変を行い、ラットにおいて記載されているように(Wang et al.,1995)膵管結紮を行った。PDLに対する実験手順は次のとおりであった:フルアニソン:フェンタニル:ミダゾラムの混合物をそれぞれ3.3mg/Kg、0.105mg/Kgおよび1.25mg/Kgの投与量で腹腔内注射して動物に麻酔をかける。動物を仰臥位で寝かせ、腹部表面を剃毛し、消毒液(ヨード液)で清浄する。続いて、剣状突起から上前腹壁で正中切開し、膵臓を露出させる。解剖顕微鏡下で膵臓脾臓葉を見つけ出し、胃葉の管との結合部よりおよそ1mm遠位で7-0ポリプロピレンモノフィラメント縫合糸で膵管を結紮する。術後、0.01〜0.05mg/Kgの用量で鎮痛剤ブプレノルフィンをs.c投与する。その後5-0の絹糸で腹壁および皮膚を閉じた。
【0134】
新たに単離した膵臓を実施例6で記載のように処理し、得られた膵臓断片を下記のような条件下で培養した。主要な膵管および管の第一枝を機械的に分離した。この断片を刻んで小片にし、オービタルシェーカー(80rpm、37°C)において30分間、消化酵素混合物(300U/ml XI型コラゲナーゼ(Sigma)、0.01mg/ml ディスパーゼI(Roche)および0.1mg/ml DNase)とともにDMEM(Invitrogen)中で恒温放置した。消化後、断片から殆どの腺房細胞が放出された。殆ど膵管細胞からなる未消化断片を標準重力で1分間沈殿させ、上清を廃棄した。PBSで3回洗浄した後、室温で30分間、2mM EDTA/PBSとともに未消化断片を恒温放置した。断片を激しくピペッティング処理し、標準重力で1分間沈殿させた。導管細胞が濃縮された上清を新しい試験管に移し、PBSで3回洗浄した。導管細胞をペレット化し、マトリゲルと混合した。このマトリゲルを37℃で5〜10分間恒温放置した。マトリゲルの重合後、500μlの増幅用培地(1xGlutamax、ペニシリン/ストレプトマイシン、10mM Hepes、B27、N2、1mM N-アセチルシステイン、10nM[Leu15]-ガストリンI、100nMエキセンジン4、10mMニコチンアミド、50ng/ml EGF、1μg/ml R-スポンジン1、100ng/mlノギン、50または100ng/ml FGF7(KGF)またはFGF10(Peprotech)を補充したアドバンスト-DMEM/F12)を添加した。2日ごとに全培地を交換した。継代のために、1000μlピペットを用いてオルガノイドをマトリゲルから取り出し、機械的に分離させて小片にし、新しいマトリゲルに移した。週に1回、1:4の分割比で継代を行った。少なくとも2ヶ月間、これらの条件下で培養を維持した。分化のために、増幅用培地を分化培地(Glutamax、ペニシリン/ストレプトマイシン、10mM Hepes、B27、N2、200ng/ml N-アセチルシステイン、10nM[Leu15]-ガストリンI、100nMエキセンジン4、50ng/ml EGF、1μg/ml R-スポンジン1、100ng/mlノギンを補充したアドバンスト-DMEM/F12)に交換した。
【0135】
FGF10はPeprotechから得た。BrdUはSigmaから得た。
【0136】
Q-PCR
RNA easyミニキット(Quiagen)によりRNAを単離し、Moloneyマウス白血病ウイルス逆転写酵素(Promega)を用いて逆転写した。サーマルサイクラー中でcDNAを増幅した。
【0137】
使用したプライマーは下記で示す。
【0138】
PCR
ゲノムDNAを区別するために、イントロン配列に隣接するかまたは及ぶように全てのプライマーを設計した。
【0139】
画像分析
Leica SP5を備える共焦点顕微鏡、倒立顕微鏡(Nikon DM-IL)または実体顕微鏡(Leica、MZ16-FA)の何れかにより、陰窩オルガノイドの画像を取得した。免疫組織化学のために、室温にて1時間、4%パラホルムアルデヒド(PFA)で試料を固定し、標準技術(Barker et al.,Nature 2007)でパラフィン切片を処理した。既に記載のように(Barker et al.,Nature 2007)免疫組織化学を行った。ホールマウント免疫染色のために、ディスパーゼ(Invitrogen)を用いて膵臓オルガノイドをマトリゲルから単離し、4%PFAで固定し、次いで0.1%Triton X-100で透過処理した。次に、免疫組織化学のために抗体を使用した;抗BrdU(Amersham)、抗Ki67(Dako)、抗インスリン(Sigma)、抗C-ペプチド(Cell Signaling)、抗Ngn3(Developmental hybridoma studies bank)。
【0140】
DAPIまたはToPro-3(Molecular Probes)でDNAを染色した。共焦点顕微鏡により三次元画像を得た。免疫組織化学および画像分析のもと、実施例5で記載のように、X-galでの染色を行った。
【0141】
FACS
R-スポンジン(1μg/ml)存在下または非存在下で膵臓オルガノイドを培養し、マトリゲルから機械的にまたは酵素(TrypLE)により取り出した。37℃で10分間にわたりTrypLEによって単離オルガノイドをさらに消化した。分離させた細胞を40μm細胞ストレイナー(BD bioscience)に通し、APC結合抗EpCAM(eBioscience)で染色した。製造者のプロトコールに従って、FluoReporterキット(Invitrogen)によりLacZを染色した。パルス幅パラメーター、側方散乱パラメーターおよびヨウ化プロピジウム染色により単一生存細胞にゲートをかけた。
【0142】
単一アキシン2-LacZ陽性膵臓細胞のインビトロでの増幅
PDL処理から7日後、マウスから膵臓を摘出し、上述のように膵管を単離した。37℃で20分間、TrypLE Express(Invitrogen)とともに単離膵管を恒温放置し、続いて40μm細胞ストレイナー(BD bioscience)に通した。実施例7に記載のようにLacZ(FluoroReporterキット)に対してEpCAM-APCおよび蛍光基質を用いて細胞を染色した。細胞を分析し、フローサイトメーター(MoFlo;Dako Cytomation)によって単一生存上皮細胞を選別し、EM培地中で回収した。選別細胞をペレット化し、マトリゲルと混合し、4日間にわたり50%Wnt馴化培地および10mM Y-27632を含むEM培地とともに培養した。4日後、培養培地をWntおよびY-27632不含のEM培地に交換した。
【0143】
結果
増幅する消化管様オルガノイドを継続的に生成させるために、小腸由来の単一Wnt依存性Lgr5+幹細胞を培養することができる(Sato et al.,2009)。健康な成体膵臓において、Wnt経路は活性があり、その結果、Lgr5は発現されない。部分的管結紮(PDL)による損傷において、本発明者らは、Wnt経路が確実に活性化されるようになり、一方でLgr5発現が再生管の出芽部で出現することに気付く。腸培養系から改変された条件下で、新たに単離した成体の管断片はLgr5の発現を惹起し、>30週間にわたり1週間で10倍増幅する出芽嚢胞を形成する。成長刺激の除去によって、これらの嚢胞は、内分泌およびβ細胞マーカーを発現する、未熟な膵島形態を有する構造に変換される。損傷膵臓由来のWnt刺激を受けた単一細胞もこれらの長期培養を開始させることができる。本発明者らは、最適条件下で培養される場合、成体前駆細胞にはヘイフリックの限界が当てはまらないと結論付ける。従って、器官特異的な成体幹細胞の増幅に有利である培養法は、ES-またはiPS-に基づく組織生成に対する代替法となり得る。
【0144】
胚性膵臓の外分泌および内分泌区画の発生は詳細に理解されているが(Jensen,2004)、一方で、出生後の膵臓における膵島細胞の生成に関してはあまり分かっていない(Bonner-Weir and Weir,2005,BouwensおよびRooman,2005)。遺伝子細胞系譜解析から、正常な生理的条件下および部分的膵切除後の両方で、成体マウスにおいて幹/前駆細胞ではなく既存のβ細胞が新しいβ細胞を生成させるという証拠が提供されている(Dor et al.,2004;Teta et al.,2007)。成体マウスの膵臓の管の裏打ちに多能性前駆細胞が存在することが最近述べられたが、これは、損傷膵臓において活性化され、機能的β細胞質量を増加させることができる(Xu et al.,2008)。胚性膵島前駆細胞に対するマスタースイッチをコードし(Apelqvist et al.,1999;Gradwohl et al.,2000;Gu et al.,2002;Schwitzgebel et al.,2000)、正常な出生後膵臓で活性がない(Gu et al.,2002)Ngn3のプロモーターレポーターを有する成体マウス膵臓においてPDLを行うことによって、対照損傷を得た。これらのβ細胞前駆細胞の分化は、Ngn3-依存性であり、グルコース応答性β細胞を含む全ての膵島細胞型を生ずる(Xu et al.,2008)。損傷時にこれらの前駆細胞の出現をどのシグナルが推進するかについては現在のところ分かっていない。このような洞察は、前駆細胞増幅に対するインビトロのアプローチの設計を導き得るので重要であると思われる。
【0145】
Wntシグナル伝達がβ細胞前駆細胞の誘導に関与するか否かを調べるために、成体膵臓においてAxin2-LacZ対立遺伝子の発現を追跡した。アキシン2-LacZ対立遺伝子は、Wntシグナル伝達に対する正確で一般的なレポーターであることが判明している(Lustig et al.,Mol Cell Biol.2002)。予想されるように、このレポーターは、成体膵臓において不活性であった(図26A)。しかし、Wntシグナル伝達経路を活性化するために、本発明者らがWntアゴニストRspol(Kim et al.,2005)をアキシン2-LacZマウスに注射した場合、本発明者らは、管に沿ってWnt応答性細胞の存在を認めたが、膵臓の腺房または膵島では見られなかった(図26B)。β細胞前駆細胞は以前、膵臓の損傷時のみ検出されたので、本発明者らは、PDLの遂行による損傷時にこれらの細胞においてWnt応答が生理的に活性化されるか否かを調べた。図26Cは、PDLおよび非PDL領域から単離した膵臓組織切片のH&E染色を示す。以前に報告されているように(Abe et al.1995)、腺房細胞は5日後にアポトーシスとなり、完全には理解されていない機構によって、新たに形成された管構造で置き換えられる。7日後、膵島数の増加(膵島新生)も、その上膵島サイズの拡大も認められる(星印により示される)。このことから、PDLが成功したことが示される。実際に、膵臓の結紮部の管に沿ってアキシン2-LacZレポーターが特異的に活性化され、一方、非結紮部はこの反応を示さなかった(図26DおよびE)。さらに、Ki67染色により測定されるような増殖反応が結紮部の管に殆ど限定された一方で、非結紮部の管において核Ki67は検出できなかった(図26F)。これは、R-スポンジンでの処理後、膵臓において増殖性のBrdU陽性細胞が検出されることと類似している(図26G)。
【0146】
本発明者らは以前、腸において、Wnt応答性細胞のある一定の集団が幹細胞であることを示した(Barker et al.,2007)。細胞集団に対するマーカーはLgr5であった。Lgr5遺伝子は、アキシン2のように、Wnt-応答性遺伝子である。腸および皮膚でも、これはWnt-刺激を受けた幹細胞においてのみ発現され、一過性増殖(transit amplifying)細胞では発現されない(Barker et al.,2007;Jaks et al.,2008))。従って、これは真の幹細胞マーカーであるとみなされる。本発明者らは、腸におけるLgr5+細胞と同様に、膵臓のLgr5+細胞も、損傷後に検出されるようなβ細胞前駆細胞の起源であり得るという仮説を立てた。この仮説を試験するために、本発明者らは、アキシン-LacZおよびLgr5-LacZマウスの膵臓においてPDLを行い、Lgr5 mRNA発現およびLacZ染色を調べた。興味深いことに、Lgr5は、PDL後の経時変化においてqPCRによって容易に検出可能になった(図26H)。さらに、Lgr5-LacZノックインマウスにおいてPDLを行った結果、X-gal染色により明らかとされるように、再生している管の出芽部(星印により示す)においてレポーターの特異的な活性が見られた(図26I)。活性のある再生部位におけるLgr5発現の出現から、生理的な自己再生において(例えば腸、胃または毛包において)Lgr5が幹細胞をマークし得るだけでなく、その発現がまた、損傷時の再生幹細胞/前駆細胞のWntによる活性化の前兆ともなり得ることが示唆された。
【0147】
Wnt依存性のLgr5幹細胞マーカーの出現を前提として、本発明者らは、成体膵臓前駆細胞が、既に規定された消化管胃オルガノイド培養条件において増幅させられ得ると推論した(Sato et al.,2009)。膵臓細胞の不均一集団の培養は既に確立されており、一般的には、EGF(Githens et al.In Vitro Cell Dev Biol.1989)、FGF10(Miralles et al.Proc Natl Acad Sci USA.1999)およびHGF(Lefebvre et al.Diabetes.1998;Suzuki et al.Diabetes.53,2004)などの増殖因子およびガストリン(Rooman et al.Gastroenterology 2001)、ニコチンアミド(Rooman et al.Diabetologia.2000)などの血清サプリメントを含む。多くのこのような培養の結果、糖尿病マウスに移植された場合にある一定の条件下で高血糖を改善することができた(Hao et al.,2006;Ramiya et al.,2000)、β細胞様の表現型を有する細胞がインビトロで生じた(Bonner-Weir et al.,2000;Seaberg et al.,2004;Suzuki et al.,2004)。これらのアプローチの殆どは、時間とともに老化する混合細胞集団を用いて開始する。内分泌系統に沿った分化能を維持する規定の非形質転換成体膵臓前駆細胞の強い増幅を長期にわたり維持する強固な長期培養系は現在のところないといってもよいだろう。
【0148】
本発明者らは、最初に、増幅用培地(EM)中で精製管断片を増殖させる試みを行った。図27Aで示されるように、小さな管断片においてすぐに継続的な出芽が起こる嚢胞様構造への増幅が起こり、一方で、膵島(データを示さず)および腺房(下部パネル)は徐々に崩壊した。この培養は、30週間にわたり10倍/週増幅する(週に1回継代)。インビトロでの膵臓細胞の最適な増幅に必要なシグナルを調べるために、複数の増殖因子を試験した(図27B)。明らかに、EGF非存在下で、7日後に培養物が崩壊した。R-スポンジンまたはFGF10がないことによってもまた、14日後に培養物の生存能力が低下した。対照的に、BMP阻害剤であるノギンは膵臓断片の持続的増殖に何ら影響がなかった。増幅用培地へのニコチンアミド、エキセンジン4、ガストリンの添加は不可欠ではなかったが、添加すると培養効率が向上した(データを示さず)。
【0149】
本発明者らは、Wntシグナル伝達がPDL時に活性化されることを明らかにしたので、インビトロでの、新たに単離した膵臓断片へのWntアゴニスト添加の、持続的成長に対する効果を調べた。管をアキシン2-LacZマウスから単離した場合、WntアゴニストであるRスポンジン1の存在下でのみ出芽嚢胞全体が青色に染色された(図27C)(PDL後のインビボの状況と類似している(図26DおよびE))。アキシン2-LacZ膵臓から新たに単離した膵島または腺房では青色の染色は観察されなかった。PDL時のインビボでの観察と一致して、Lgr5-LacZ嚢胞の出芽部のみが青色に染色された(図27D)。さらに、R-スポンジンの存在下で14日間にわたり膵臓Lgr5-LacZオルガノイドを培養することによって、Lgr5+細胞の割合が顕著に上昇した(図27E)。重要なこととして、EM中、R-スポンジン非存在下で膵臓断片を培養した場合、オルガノイドは1ヶ月以内に増殖を停止し、一方で、R-スポンジンの存在下では、それらは時間的に無制限に増幅させることができる。これらの観察から、管の付近にあるWnt-応答性前駆細胞が出芽嚢胞の増殖を推進し、続いてこの出芽嚢胞が、幹細胞様の特性を有するLgr5-発現細胞により維持されたことが示唆される。
【0150】
この見解を直接調べるために、本発明者らは、PDLから7日後にマウスからアキシン2-LacZ陽性細胞を選別し、これらの細胞が、管で惹起された嚢胞と区別できなかった出芽嚢胞を効率的に惹起することが分かった(図28)。単一細胞は培地中にWnt3aが含まれることを必要とする。単一細胞分離後のWnt3Aの存在下または非存在下での培養効率の比較から、Wnt3A非存在下で培養された単一細胞は最初に小さな嚢胞構造として増殖するが、2〜4日後に増殖を停止することが分かった。これは、単離膵臓断片から出発した膵臓培養には当てはまらない。興味深いことに、Wnt3Aは4日後に除去され得、このことから、このシグナルの何れも、増殖を刺激するためにはもはや必要でないことまたは培養が開始された単一選別細胞由来の細胞によりWnt3Aの産生が開始されたことが示される。
【0151】
次に、本発明者らは、出芽嚢胞が内分泌系統細胞を生ずる可能性を評価することを試みた。この目的に対して、本発明者らは、分化培地(DM)を規定するためにEMに対する多くの改変を試験した。内分泌系統への分化における一連の因子の影響について、それらを試験した。FGF10の除去は、分化の誘導に重要であると思われた。FGF10の非存在下でのみ、膵島様構造が出現し(図29A)、これは、β細胞前駆細胞(Ngn3)、β細胞(インスリン)に対するいくつかの分化マーカー、グルカゴン(α細胞)およびソマトスタチン(δ細胞)の出現と対応した(図29BおよびC)。さらに、グルコキナーゼ、Pax6およびクロモグラニンAなどの分化マーカーを上方制御した(DM培地への曝露から10日後開始。従って、DMは、最適には、少なくともEGFおよびR-スポンジンからなり、FGF7または10は存在しなかった。分化条件下での幹細胞マーカーであるLgr5の持続的発現は、Lgr5がWnt応答性遺伝子なので、DM中にR-スポンジン、Wntアゴニストが存在することにより説明することができる。EM中のニコチンアミドの存在下で細胞を培養した場合、完全な分化を行わせるためにこれを培地から除去することも重要であった。任意の期間の培養後の出芽嚢胞をEMからDMに移した場合、この嚢胞で定型的な「退縮」プロセスが起こった。壁が進行性に内向きに折り畳まれることにより、嚢胞が嵌入して、膵島と類似した形態を有する、より小型の緻密なものになる(図29D)。インスリンおよびC-ペプチドなどのβ細胞膵島に対するマーカーによって、膵島様形態を確認した(図29E)。Wntシグナル伝達における再生プロセスのこの段階の依存性を確認するために、R-スポンジン非存在下または存在下でDM中で膵臓断片を培養した。重要なこととして、Ngn3の発現により明らかにされるように、β細胞前駆細胞のみがR-スポンジンの存在下で検出可能であった(図29F)。
【0152】
実施例8:ヒト膵臓断片のインビトロでの増幅
胚性膵臓発生の間、膵管ネットワークにおいてニューロゲニン3+またはインスリン発現細胞が見られ、膵管細胞が内分泌前駆細胞および、結果として成熟内分泌細胞を生じさせることが示唆された。ヒト膵管細胞がインビトロでグルコース応答性インスリン産生細胞に分化することが示されており(Bonner-Weir,S et al 2000 PNAS)、この知見により膵管細胞がβ細胞補充療法に対する魅力的なソースとなった。しかし、内分泌分化能を喪失せずに導管細胞を増幅させることは困難であった。既に報告された培養系において、ヒト膵管細胞は、上皮の特性を失うかまたは2週間〜5週間後に老化が起こった(Trautmann B et al.Pancreas vol.8 248-254)。従って、内分泌分化能を保持するヒト膵管細胞を増殖させるための強固な培養系はない。マウス膵臓オルガノイド培養系の確立を生かし、ここで、本発明者らはヒト膵臓オルガノイド培養系の確立を試みた。
【0153】
インビトロでのヒト膵臓前駆細胞の増殖
Leiden University Medical Center,The Netherlandsからヒト膵臓を得た。重要なこととして、上記(実施例7)でマウス膵臓断片に対して記載されているものと同じ条件下で、新たに単離したヒト膵臓断片もインビトロで増殖させることができる(図30)。
【0154】
これらの増殖実験下で、膵臓断片の培養効率はおよそ80%であり、これは、新たに単離した膵臓断片の80%が長期間にわたりインビトロで効率的に増殖したことを意味する。マウス膵臓と比較した場合、腺房組織はより容易に嚢胞構造を形成するが、しかし、これらの構造は4週間以内に増殖を停止した。より大きな細管ネットワークからの膵管細胞はより効率的に嚢胞構造を生じさせ、最終的に出芽部のあるオルガノイドを形成する。この膵臓オルガノイドを週に1回、1:5の比で分割し、増殖能を喪失することなく、インビトロで少なくとも5週間維持した。
【0155】
まとめると、本発明者らは、ヒト膵臓オルガノイド培養系を確立し、元の体積から少なくとも3000倍に膵管細胞を増殖させることに成功した。本発明者らは、ヒト膵管細胞に対して内分泌分化培養条件を最適化しており、このインビトロアプローチは、最適化すれば、1型および2型糖尿病の多くの人々に対してβ細胞補充療法を利用可能とするための重要な意義を持つものになり得る。
【0156】
参考文献
【0157】
実施例9:インビトロでのヒト小腸または結腸陰窩の培養
実施例1および2に記載のように、今回初めて、マウス小腸および結腸上皮に対する長期培養条件を生み出すことが可能となった。陰窩-絨毛オルガノイドは、一連の推測される増殖因子および細胞外マトリクスを補充することにより増殖する。このオルガノイドは、活発に分裂し、腸に存在する全ての主要な分化細胞系統を生ずる腸幹細胞を含有する。この実施例において、本発明者らは、これらの培養条件がマウス腸上皮に特異的なものではなく、ヒト腸上皮を増殖させるためにも使用できることを示す。
【0158】
材料および方法
マウス結腸オルガノイド培養
実施例1に記載のようにマウスオルガノイド培養物を培養した。Wnt分泌を阻害するために、Wnt産生阻害剤(IWP-2)を使用した(Chen et al.,Nat Chem Biol.2009 Feb;5(2)100-7)。
【0159】
ヒト結腸オルガノイド培養
切除した正常結腸標本からヒト結腸陰窩を単離し、確立されたオルガノイド培養系(Sato et al.,2009 Nature May 14;459(7244):262-5)を用いて7日間にわたりオルガノイド構造として培養した。このプロトコールはマウス由来オルガノイド培養に対して最適化されたものなので、本発明者らは、ヒト結腸オルガノイドの最適な成長を確実にするために、Wnt3a馴化培地の添加により僅かな改変を行った。この馴化培地を得るために、このリガンドをコードする適切な発現コンストラクトを遺伝子移入することによって、細胞株においてWnt3aを発現させる。この細胞株を培養し、分泌されたリガンドを含む培養培地を適切な時間間隔で回収する。例えば、細胞は、それらが密集状態に到達し、増殖を停止した瞬間にWnt3Aの産生を開始する。空の発現コンストラクトを遺伝子移入または感染させなかった細胞からの培養培地を陰性対照として使用した。馴化培地を回収し、例えばWnt3aなどのWntアゴニストの存在を定量するための、ルシフェラーゼ発現がTCF応答性エレメントによる制御下にあるアッセイにおいて試験した(Korinek et al.,1997.Science 275 1784-1787)。
【0160】
結果
腸上皮の増殖はWntシグナル伝達経路に依存する。しかしWntソースの正確な位置は不明である(Gregorieff and Clevers,2005,Genes Dev.Apr 15;19(8):877-90)。マウス腸オルガノイドが独立してニッチで増殖したので(Sato et al.,2009 Nature May 14;459(7244):262-5)、本発明者らは、これらのオルガノイドがそれら自身のWntリガンドを産生し得ると仮定した。これを調べるために、本発明者らは、ポーキュパイン阻害剤と恒温放置することによってWnt分泌を阻害した。ポーキュパインはWnt分泌に重要である(概略図31A)。1μM IWPとの恒温放置(Chen et al.,Nat Chem Biol.2009 Feb;5(2):100-7)の結果、オルガノイドが死滅した(図31BおよびC)。Wnt3a馴化培地を添加することによりオルガノイドを救出し得、このことから、オルガノイドが実際にWntリガンドを産生することが示される(図31DおよびE)。
【0161】
本発明者らは、次に、ヒト腸オルガノイドの培養を試みた。Wnt3aなしでは陰窩オルガノイドは出芽構造を形成せず、小腸の場合5〜10日以内におよび結腸の場合3〜4日で死滅したので、Wnt3aを培地に添加することが必要であることが分かった(図32)。全体として、ヒト腸陰窩オルガノイドは、マウスオルガノイド培養と同様の方式で成長した。一般的には、本発明者らは、Wnt-3a馴化培地の活性に依存して、最高で80%の培養効率を得た。このヒト腸培養物を最長で3ヶ月間にわたり培養した。マウス結腸オルガノイド培養物における影響を促進することも観察されたので、ヒト結腸におけるWnt-3aの影響が予想された。ヒト小腸および結腸においてWnt-3aが必要となるが、これは、マウス腸と比較した場合、ヒト消化管に存在するパネート細胞数が少ないために、ヒトオルガノイドによる内因性Wntリガンド産生が少なくなるからであり得る。知る限り、再生可能な長期ヒト腸培養系はなく、本発明者らの培養系は、ヒト腸幹細胞の生物学を理解するためだけでなく、薬物スクリーニングなど、臨床向けの試験に適用するためにも有用である。
【0162】
実施例10:オルガノイドの増殖のための最適化培養条件
実施例5に記載のように、長期にわたり胃上皮を培養するために使用できる培養培地を確認した。ここで、本発明者らは、オルガノイド培養に対する最適化条件を記載する。
【0163】
材料および方法
胃ユニット単離、単一細胞分離およびEGFP+ve細胞選別
一部改変して、既に記載のようにマウス幽門部から胃腺を単離した(Bjerknes and Cheng,2002,Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol.Sep;283(3):G767-77)。簡潔に述べると、顕微鏡下で、大弯に沿って胃を切開し、食塩水で洗浄し、幽門を単離した。胃の筋層を除去し、残存した上皮を5mmの小片に分け、10mM EDTA(培養または染色の場合)または5mM EGTA(RNA単離の場合)を含有する緩衝食塩水溶液(Na2HPO4 28mM、KH2PO4 40mM、NaCl 480mM、KCl 8mM、スクロース 220mM、D-ソルビトール 274mM、DL-ジチオトレイトール(Dithiotreitol)2.6mM)中で3〜5時間、4℃で恒温放置した。キレート剤を除去した後、10mlピペットを用いて緩衝液中で組織断片を激しく縣濁した。縣濁および遠心後、沈殿物中に胃腺が濃縮された。腺単離後、細胞を回収し、10mg/mlトリプシンおよび0.8単位/μl DNAseI(マイクロアレイ分析に対して)を補充したカルシウム不含SMEM培地(Invitrogen)中で再懸濁するかまたは0.8単位/μl DNAase(培養用)を補充したTrypleExpress(GIBCO)中で再懸濁した。両事例において、37℃で20〜25分間恒温放置した後、細胞を沈降させ、40μMメッシュに通してろ過した。フローサイトメトリー(MoFlo、Beckman Coulter)によりEGFPhiおよびEGFPlo細胞を選別した。前方散乱およびパルス幅パラメーターにより単一生存上皮細胞にゲートをかけた。定められる場合、ヨウ化プロピジウムの陰性染色に対して細胞にゲートをかけ、Trizol LS(Invitrogen)中で回収し、製造者のプロトコールに従いRNAを単離するかまたは胃培養培地中で回収し、マトリゲル(BD Bioscience)中で包埋し、下記で詳述するプロトコールに従い培養した。
【0164】
胃の培養
培養のために、単離した胃腺を計数し、全部で100個の腺を50μlのマトリゲル(BD Bioscience)と混合し、24ウェルプレート中に播種した。マトリゲルの重合後、胃培養培地(増殖因子(50ng/m EGF(Peprotech)、1μg/ml R-スポンジン1、100ng/ml ノギン(Peprotech)、100ng/ml FGF10(Preprotech)およびWnt3A馴化培地を含有する、B27、N2およびnアセチルシステイン(Invitrogen)を補充したアドバンスト-DMEM/F12)で表面を覆った。単一細胞培養のために、全部で選別EGFPhi細胞100個/ウェルを胃培養培地中で回収し、マトリゲル(BD Bioscience)中で包埋した。マトリゲルの重合後、胃培養培地で表面を覆った。播種後の最初の2日間、アノイキスを回避するために、この培地に10μM ROCK阻害剤であるY-27632(Sigma Aldrich)も補充した。2日ごとに増殖因子を添加し、4日ごとに全培地を交換した。継代のために、胃オルガノイドをマトリゲルから取り出し、機械的に分離し、新しいマトリゲルへと移した。1:5〜1:8の分割比で1〜2週間ごとに継代を行った。Wnt3Aの必要性を確認するために、Wnt3A馴化培地の代わりに、マウスWnt3A組み換えタンパク質(Stem cell technologies)を補充した。インビトロでの追跡実験のために、2週間経過した胃オルガノイドを胃培養培地中の100nMの4-ヒドロキシタモキシフェンとともに20時間恒温放置し、Lgr5-CreERT2を活性化した。続いてYFPを可視化し、共焦点顕微鏡(Leica、SP5)を用いて生存オルガノイドにおいて記録した。
【0165】
Wnt3a馴化培地
他所に記載のプロトコール(Willert et al.,2003,Nature,May 22;423(6938):448-52)に従いWnt3a培地を調製した。van de Weteringおよび共同研究者らにより記載されるように(van de Wetering et al.,2001 Cancer Res Jan 1;61(1):278-84)、Wnt3a馴化培地および対照馴化培地のWnt活性を試験するために、TOP/FOPアッセイを使用した。TOP/FOP比≧50を高Wnt培地とみなし、胃オルガノイド培養培地で1:1希釈した。この高Wnt3a培地(TOP/FOP比〜5)の1:10希釈物は低Wnt培地とみなし、分化目的に使用した。
【0166】
胃オルガノイドの免疫組織化学
免疫組織化学に対して、胃オルガノイドをPBSで1回洗浄し、RTで15-20分間、パラホルムアルデヒド4%を用いてすぐに固定した。言及される場合、胃オルガノイドをパラフィン中で包埋し、標準技術を用いて処理した。ホールマウント染色に対して、試料をPBS0.5%Triton-X100-1%BSAで透過処理し、一次抗体とともにo/nで恒温放置した。PBS 0.3%Triton X100で数回洗浄した後、試料を二次抗体とともに恒温放置した。製造者の説明書(Click-IT;Invitrogen)に従い、EdU染色を行った。TOPRO3ヨウ素またはHoescht33342で核を染色した。共焦点顕微鏡(Leica、SP5)を用いて胃腺および胃オルガノイドの画像を取得した。Volocity Software(Improvision)を用いて三次元再構成を行った。
【0167】
RT-PCR
RNeasy Mini RNA抽出キット(Qiagen)を用いて胃細胞培養物または新たに単離した組織からRNAを抽出し、Moloneyマウス白血病ウイルス逆転写酵素(Promega)を用いて逆転写した。既に記載のように(Huch et al.,2009)、サーマルサイクラー(GeneAmp PCR System 9700;Applied Biosystems,London,UK)でcDNAを増幅した。使用したプライマーを下記で示す(遺伝子シンボルの次にフォワード(5'-3')およびリバース(5'-3')プライマーが続く)。
【0168】
結果
インビトロでの胃ユニットの最適成長を調べるために、本発明者らは、胃腺ユニットを単離し、これをマトリゲル中で縣濁し、様々な条件下で培養した。胃培養物の成長条件は、馴化培地の形でのWnt3Aへの強い依存を除き、小腸培養の条件と同様であった(EGF、ノギンおよびR-スポンジン1を含む)。精製Wnt3aタンパク質を用いてこの必要性を確認した(図33A)。さらに、FGF10は、出芽事象を推進するためのおよび培養物の多ユニットオルガノイドへの増幅のための必須成分であることが分かった(図33B)。実施例5で使用したFGF7(KGF)の代わりにFGF10を使用することができ、その場合でも結果として、培養開始から4日後、出芽オルガノイドの割合が2倍上昇した(図33C)。新たに形成された胃オルガノイドでは、それらの極性を維持しながら、胃腺-ドメイン出芽部が中心内腔周囲に分布する、継続的な出芽事象が起こった(図33D)。Wnt3A馴化培地非存在下で、胃オルガノイドは急速に衰退した(図33E)。各週に、オルガノイドを機械的に分離し、それらの播種前密度の1/5に分割した。E-Cad染色により明らかにされるように、培養した幽門部ユニットは単層上皮構造であった(図33F)。本発明者らは、上記特性の検出可能な喪失なく、少なくとも8ヶ月間にわたり胃オルガノイドを首尾よく培養した。
【0169】
胃Lgr5+ve細胞(図34A)がインビトロで幽門部胃腺ユニットを生成させ、維持することが可能か否かを調べるために、本発明者らはLgr5-EGFP high 細胞を選別した(図34B)。単一Lgr5-EGFP high 細胞を選別した場合、平均8%の細胞がオルガノイドへと増殖し、一方で、残存細胞は最初の24時間以内に死滅した。選別したLgr5-EGFPhi細胞は、速やかに分裂し始め、5日後には既に小さい嚢胞様構造が見えた。続く数日の間、新たに形成された(嚢胞様)構造が、腺様ドメインを生成し始めた(図34C)。培養9〜11日後、胃オルガノイドを手作業で単離し、新しいオルガノイドを生成させるために分割した。記載の特性を喪失することなく、少なくとも3ヶ月間にわたり、単一細胞由来の胃オルガノイドを週に1回首尾よく再播種した(図34D)。第7日から、Lgr5-EGFP発現が腺様ドメインの底部に限定された(図34E)。EdU染色により明らかにされるように、増殖細胞はこれらの腺様ドメインの底部に位置しており(図34F)、一方、アポトーシスカスパーゼ3-陽性細胞は、内腔に押し出されるのが分かった(データを示さず)。Lgr5-EGFP-ires-CreERT2/Rosa26-YFPレポーターマウスから単離された単一Lgr5+ve細胞由来の確立されたオルガノイドにおいて細胞系譜を調べた。タモキシフェン誘導後、腺様ドメイン内で単一Lgr5+ve細胞においてYFP+veレポーター遺伝子が速やかに活性化された。続く数日にわたり、増殖するオルガノイド内でYFP発現ドメインが相当に増幅し、このことから、インビトロでのオルガノイド増殖に対するLgr5+ve幹細胞の関与が確認された(図34G)。E-カドヘリン染色により明らかにされるように、単一細胞培養物由来のオルガノイドは単層上皮構造であった(図34I)。Lgr5に加えて、この培養物は胃上皮マーカー、胃内因子、ムチン6およびペプシノゲンCを発現した。これらの培養条件下で、窩または腸内分泌系統への分化は観察されなかった(これはピット細胞系統が観察された実施例5とは異なる。しかしその実施例において、活性がより低いWnt馴化培地の代わりにWnt3aタンパク質を使用した。Wnt馴化培地濃度を低下させると、その結果、ピット細胞系統に分化する、下記参照)。培養培地中のWnt3A濃度を低下させると、その結果、胃ムチン5AC(MUC5AC)および過ヨウ素酸シッフ(PAS)の発現により明らかにされるような極性のあるピット細胞、Tff2発現により明らかにされるような頚部粘液細胞および幾分拡散した未熟な腸内分泌細胞(クロモグラニンA)を有する類似の胃構造が形成される(図34H,I)。RA、IGFおよびエキセンジン4のようなさらなる増殖因子を添加すると、その結果、様々な細胞系統への胃培養物のより成熟した分化が起こり得る。まとめると、これらのインビボおよびインビトロの観察から、Lgr5が、以前には認識されていなかった、胃幽門部での自己再生する多能性成体幹細胞の集団を特徴付けることが明らかとなる。
【0170】
参考文献
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絨毛様上皮または結腸陰窩オルガノイドにより内面が覆われている中心内腔を含む、陰窩−絨毛オルガノイド。
【請求項2】
細胞外マトリクスを提供する段階と、
上皮幹細胞、該上皮幹細胞を含む単離組織断片、または腺腫細胞を、細胞外マトリクスと一緒に恒温放置する段階と、
動物またはヒト細胞用の基本培地であって、
骨形成タンパク質(BMP)阻害剤、
5〜500ナノグラム/mlの分裂促進増殖因子、
が添加され、
上皮幹細胞および単離組織断片を培養する場合はWntアゴニストが添加される前記基本培地を含む細胞培養培地の存在下で、該幹細胞、単離組織断片、または腺腫細胞を培養する段階と
を含む、上皮幹細胞、該上皮幹細胞を含む単離組織断片、または腺腫細胞を培養するための方法。
【請求項3】
前記BMP阻害剤がノギン(Noggin)であり、前記分裂促進増殖因子が上皮増殖因子およびケラチン生成細胞増殖因子であり、かつ前記WntアゴニストがR-スポンジン1である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記BMP阻害剤が、ノギン、DAN、およびサーベラス(Cerberus)およびグレムリン(Gremlin)を含むDAN様タンパク質から選択される、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記Wntアゴニストが、Wnt、R-スポンジン1〜4、ノリン(Norrin)、およびGSK-阻害剤の1以上から選択される、請求項2または請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記Wntアゴニストが、R-スポンジン1およびWnt-3aを含み、かつ/または分裂促進増殖因子がEGFである、請求項2および請求項3〜5記載の方法。
【請求項7】
前記培養培地が、Y-27632、ファスジル、およびH-1152から選択されるRock(Rho-キナーゼ)阻害剤をさらに含む、請求項2〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記培養培地がnotchアゴニストをさらに含む、請求項2〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
上皮幹細胞、該上皮幹細胞を含む単離組織断片、または腺腫細胞を、B27、N2、およびN-アセチルシステインが補充された、ノギン、EGF、ならびにWntアゴニストとしてR-スポンジン1および/またはWnt-3を含む培地中で、細胞外マトリクスと接触させて培養する、好ましくは請求項2〜8のいずれか一項記載の、結腸陰窩を取得および/または培養するための方法。
【請求項10】
上皮幹細胞、該上皮幹細胞を含む単離組織断片、または腺腫細胞を、細胞外マトリクスと接触させて、
第一段階で、B27、N2、およびN-アセチルシステインが補充された、EGF、KGFもしくはFGF、およびR-スポンジン1をWntアゴニストとして含む培地中で、
続いて第二段階で、B27、N2、およびN-アセチルシステインが補充された、EGFおよびR-スポンジン1をWntアゴニストとして含む培地中で
培養する段階を含む、膵臓オルガノイドを取得および/または培養するための、好ましくは請求項2〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
上皮幹細胞、該上皮幹細胞を含む単離組織断片、または腺腫細胞が、細胞外マトリクスと接触させて、
第一段階でノギンをBMP阻害剤として、上皮増殖因子およびFGF10を分裂促進増殖因子として、R-スポンジン1およびWnt-3aをWntアゴニストとして含み、さらにB27、N2、N-アセチルシステインを含む培地中で、
続いて第二段階で、B27、N2、およびN-アセチルシステインが補充された、上皮増殖因子、およびWntアゴニストとしてR-スポンジン1およびWnt-3a、ノギンならびにFGF10を含む培地であって、第二段階でのWnt-3の濃度が、第一段階で与えられるWnt-3a濃度と比較して低い、前記培地中で、
培養する段階を含む、好ましくは請求項2〜8のいずれか一項記載の、胃断片を取得および/または培養するための方法。
【請求項12】
骨形成タンパク質(BMP)阻害剤、
Wntアゴニスト、および
5〜500ナノグラム/mlの上皮増殖因子(EGF)
が添加されている基本培地であって、動物またはヒト細胞用の基本培地を含む、細胞培養培地。
【請求項13】
細胞外マトリクス上で上皮幹細胞または単離組織断片を培養するための、請求項12記載の培養培地の使用。
【請求項14】
請求項2〜9記載の方法により取得可能な絨毛様上皮または結腸陰窩オルガノイドによって内面が覆われている中心内腔を含む、陰窩-絨毛オルガノイド。
【請求項15】
好ましくは請求項2〜8または請求項10記載の方法により取得可能な、膵島様構造を含む、膵臓オルガノイド。
【請求項16】
好ましくは請求項2〜8または請求項11記載の方法により取得可能な、中心内腔を含む、胃オルガノイド。
【請求項17】
薬物探索スクリーニング、毒性アッセイ、または再生医療における、請求項1または請求項14記載の陰窩-絨毛オルガノイドまたは結腸陰窩、請求項15記載の膵臓オルガノイドまたは請求項16記載の胃オルガノイドの使用。
【請求項18】
骨形成タンパク質(BMP)阻害剤、および
5〜500ナノグラム/mlの上皮増殖因子(EGF)、
が添加されている基本培地であって、動物またはヒト細胞用の基本培地を含む細胞培養培地の、腺腫細胞を培養するための使用。
【請求項1】
絨毛様上皮または結腸陰窩オルガノイドにより内面が覆われている中心内腔を含む、陰窩−絨毛オルガノイド。
【請求項2】
細胞外マトリクスを提供する段階と、
上皮幹細胞、該上皮幹細胞を含む単離組織断片、または腺腫細胞を、細胞外マトリクスと一緒に恒温放置する段階と、
動物またはヒト細胞用の基本培地であって、
骨形成タンパク質(BMP)阻害剤、
5〜500ナノグラム/mlの分裂促進増殖因子、
が添加され、
上皮幹細胞および単離組織断片を培養する場合はWntアゴニストが添加される前記基本培地を含む細胞培養培地の存在下で、該幹細胞、単離組織断片、または腺腫細胞を培養する段階と
を含む、上皮幹細胞、該上皮幹細胞を含む単離組織断片、または腺腫細胞を培養するための方法。
【請求項3】
前記BMP阻害剤がノギン(Noggin)であり、前記分裂促進増殖因子が上皮増殖因子およびケラチン生成細胞増殖因子であり、かつ前記WntアゴニストがR-スポンジン1である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記BMP阻害剤が、ノギン、DAN、およびサーベラス(Cerberus)およびグレムリン(Gremlin)を含むDAN様タンパク質から選択される、請求項2記載の方法。
【請求項5】
前記Wntアゴニストが、Wnt、R-スポンジン1〜4、ノリン(Norrin)、およびGSK-阻害剤の1以上から選択される、請求項2または請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記Wntアゴニストが、R-スポンジン1およびWnt-3aを含み、かつ/または分裂促進増殖因子がEGFである、請求項2および請求項3〜5記載の方法。
【請求項7】
前記培養培地が、Y-27632、ファスジル、およびH-1152から選択されるRock(Rho-キナーゼ)阻害剤をさらに含む、請求項2〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
前記培養培地がnotchアゴニストをさらに含む、請求項2〜7のいずれか一項記載の方法。
【請求項9】
上皮幹細胞、該上皮幹細胞を含む単離組織断片、または腺腫細胞を、B27、N2、およびN-アセチルシステインが補充された、ノギン、EGF、ならびにWntアゴニストとしてR-スポンジン1および/またはWnt-3を含む培地中で、細胞外マトリクスと接触させて培養する、好ましくは請求項2〜8のいずれか一項記載の、結腸陰窩を取得および/または培養するための方法。
【請求項10】
上皮幹細胞、該上皮幹細胞を含む単離組織断片、または腺腫細胞を、細胞外マトリクスと接触させて、
第一段階で、B27、N2、およびN-アセチルシステインが補充された、EGF、KGFもしくはFGF、およびR-スポンジン1をWntアゴニストとして含む培地中で、
続いて第二段階で、B27、N2、およびN-アセチルシステインが補充された、EGFおよびR-スポンジン1をWntアゴニストとして含む培地中で
培養する段階を含む、膵臓オルガノイドを取得および/または培養するための、好ましくは請求項2〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項11】
上皮幹細胞、該上皮幹細胞を含む単離組織断片、または腺腫細胞が、細胞外マトリクスと接触させて、
第一段階でノギンをBMP阻害剤として、上皮増殖因子およびFGF10を分裂促進増殖因子として、R-スポンジン1およびWnt-3aをWntアゴニストとして含み、さらにB27、N2、N-アセチルシステインを含む培地中で、
続いて第二段階で、B27、N2、およびN-アセチルシステインが補充された、上皮増殖因子、およびWntアゴニストとしてR-スポンジン1およびWnt-3a、ノギンならびにFGF10を含む培地であって、第二段階でのWnt-3の濃度が、第一段階で与えられるWnt-3a濃度と比較して低い、前記培地中で、
培養する段階を含む、好ましくは請求項2〜8のいずれか一項記載の、胃断片を取得および/または培養するための方法。
【請求項12】
骨形成タンパク質(BMP)阻害剤、
Wntアゴニスト、および
5〜500ナノグラム/mlの上皮増殖因子(EGF)
が添加されている基本培地であって、動物またはヒト細胞用の基本培地を含む、細胞培養培地。
【請求項13】
細胞外マトリクス上で上皮幹細胞または単離組織断片を培養するための、請求項12記載の培養培地の使用。
【請求項14】
請求項2〜9記載の方法により取得可能な絨毛様上皮または結腸陰窩オルガノイドによって内面が覆われている中心内腔を含む、陰窩-絨毛オルガノイド。
【請求項15】
好ましくは請求項2〜8または請求項10記載の方法により取得可能な、膵島様構造を含む、膵臓オルガノイド。
【請求項16】
好ましくは請求項2〜8または請求項11記載の方法により取得可能な、中心内腔を含む、胃オルガノイド。
【請求項17】
薬物探索スクリーニング、毒性アッセイ、または再生医療における、請求項1または請求項14記載の陰窩-絨毛オルガノイドまたは結腸陰窩、請求項15記載の膵臓オルガノイドまたは請求項16記載の胃オルガノイドの使用。
【請求項18】
骨形成タンパク質(BMP)阻害剤、および
5〜500ナノグラム/mlの上皮増殖因子(EGF)、
が添加されている基本培地であって、動物またはヒト細胞用の基本培地を含む細胞培養培地の、腺腫細胞を培養するための使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26A】
【図26C】
【図26D】
【図26E】
【図26F】
【図26G】
【図26H】
【図26I】
【図27A】
【図27B】
【図27C】
【図27D】
【図27E】
【図28】
【図29A】
【図29B】
【図29C】
【図29D】
【図29E】
【図29F】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33A】
【図33B】
【図33C】
【図33D】
【図33E】
【図33F】
【図34A】
【図34B】
【図34C】
【図34D】
【図34E】
【図34F】
【図34G】
【図34H】
【図34I】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図9D】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26A】
【図26C】
【図26D】
【図26E】
【図26F】
【図26G】
【図26H】
【図26I】
【図27A】
【図27B】
【図27C】
【図27D】
【図27E】
【図28】
【図29A】
【図29B】
【図29C】
【図29D】
【図29E】
【図29F】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33A】
【図33B】
【図33C】
【図33D】
【図33E】
【図33F】
【図34A】
【図34B】
【図34C】
【図34D】
【図34E】
【図34F】
【図34G】
【図34H】
【図34I】
【公開番号】特開2012−254081(P2012−254081A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−158676(P2012−158676)
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2011−547839(P2011−547839)の分割
【原出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(511183559)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年7月17日(2012.7.17)
【分割の表示】特願2011−547839(P2011−547839)の分割
【原出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(511183559)
【Fターム(参考)】
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