説明

上被り制御剤、及びそれを用いた繊維の加工方法

【課題】繊維に機能性を付与するための機能加工において、熱処理時のマイグレートに起因する上被りを制御して繊維製品の外観・品質を向上する。
【解決手段】100〜150℃の温度域に融点を持つ機能加工用有機化合物(例えば、難燃剤や紫外線吸収剤など)が水中に分散されてなる処理液に、25℃での10質量%水溶液粘度が10〜5000mPa・sである水溶性高分子からなる上被り制御剤を含ませておき、該処理液を繊維に対して浸漬により付与し、100〜200℃の熱処理を施した後、30〜100℃の水若しくは水溶液への浸漬処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維に機能加工を施す際に上被りを制御するために使用する上被り制御剤、及び、それを利用した繊維の加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
繊維の機能加工に関する技術は、染色加工に技術的なルーツを持ち、水媒体に化学物質を分散させた状態で繊維にそれを付与し、脱水、乾燥することで機能を発現する技術である。本明細書では、染料や顔料をはじめ、紫外線吸収剤(耐光剤)や難燃剤といった各種の機能性を繊維に付与する加工を機能加工と称し、該機能性を付与する化学物資又は有機化合物を機能加工剤又は機能加工用有機化合物と称する。
【0003】
上記機能加工剤の中でも、疎水性の機能加工剤は、界面活性剤などを用いて水に乳化又は分散されて加工に供されるのが一般的である。こうした疎水性機能加工剤を用いた機能加工において、上記乾燥工程で機能加工剤が水と共に繊維表面に移行する現象(マイグレート現象)が起こることはよく知られている。マイグレート現象が起こると、乾燥工程後、機能加工剤が繊維の表面に特に多く存在することになり、これを上被りという。なお、上被りは、元々は染色時の染料付着が繊維表面に集中している状態を指す(「繊維染色加工辞典」(日刊工業新聞社発行、昭和37年4月30日)には「繊維、糸、織物などの表面だけ染色されて内部まで十分染色されないことをいう。また染料が繊維内部に吸着されず表面に付着している場合にもいう。」と記載されている)が、染料や顔料だけでなく、その他の繊維に付与する化学物質に対しても、同様に繊維内部に吸着されずに繊維表面に付着している状態を上被りと称する場合があり、本明細書において、上被りはこのような場合も含む広い概念で用いる。
【0004】
上被りは種々の問題を引き起こす。たとえば、染色における上被りは未染着染料であるといえる。未染着染料をそのままにして繊維を製品化すると洗濯時に染料が落ちて他の衣類を染めてしまったり、重ね着したときに色移りしたりする汚染の問題を引き起こす。また、紫外線吸収剤や難燃剤が上被りしている場合は、表面をつめなどで引っ掻いたときにこれらの機能加工剤がはがれて粉になり白い線が出る(これはチョークマークと呼ばれる)などの問題を起こす。チョークマークは繊維製品の外観や品位を損ねるため、繊維製品にとって重大な欠点となる。さらには、上被りした機能加工剤が繊維同士を橋渡ししてつなげてしまう現象(繊維の収束現象という)も起こる。こうした場合は、繊維本来のしなやかさが損なわれ、これもまた素材のもつ品位を損ねるため重大な欠点となる。このように、繊維製品における機能加工剤の上被り現象は対策を要する重要な問題である。
【0005】
これに対して、例えば未染着染料の場合は、染色後の界面活性剤を用いた洗浄によって、上被りした未染着染料を除去して対処している(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平06−207384号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、紫外線吸収剤や難燃剤といった機能加工剤の場合、洗浄だけでは十分にチョークマークや繊維の収束現象を緩和することができない。特に、融解温度が100〜150℃である機能加工用有機化合物を使用するとき、繊維の機能加工の乾燥温度が通常この温度領域であるため、乾燥温度で機能加工剤は融解している。その結果、表面へのマイグレート現象は更に起こりやすくなり、上記のような上被りがより発生しやすい条件になる。
【0008】
本発明は、以上の点に鑑みてなされたものであり、融点が100〜150℃である機能加工用有機化合物の上被りを制御することかできる上被り制御剤と、該上被り制御剤を利用した繊維の加工方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る上被り制御剤は、100〜150℃の温度域に融点を持つ機能加工用有機化合物を含有する水分散体を繊維に加工する際に使用する上被り制御剤であって、25℃での10質量%水溶液粘度が10〜5000mPa・sである水溶性高分子を含有するものである。
【0010】
本発明に係る繊維の加工方法は、100〜150℃の温度域に融点を持つ機能加工用有機化合物が水中に分散されてなる処理液に、前記上被り制御剤を含ませておき、該処理液を繊維に対して浸漬により付与し、100〜200℃の熱処理を施した後、30〜100℃の水若しくは水溶液への浸漬処理を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
上記上被り制御剤を使用することにより、機能加工本来の目的である耐光性や難燃性といった機能性を阻害することなく、上被りを制御することができ、例えば、繊維表面に上被りした機能加工剤を取り除いて、機能加工後の生地のチョークマークや繊維の収束を緩和することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例11および比較例6のキュアーリング後とソーピング後のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施に関連する事項について詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係る上被り制御剤は、25℃での10質量%水溶液粘度が10〜5000mPa・sである水溶性高分子を含有するものである。このような水溶性高分子を用いることにより、疎水性の強い機能加工用有機化合物との相溶性を確保しつつ、水相に容易に溶解させることができる。そのため、機能加工時における熱処理後の洗浄工程において、水溶性高分子が容易に水相に溶解し、マイグレート現象により繊維表面に移行した機能加工用有機化合物が該水溶性高分子とともに水相側に出て行きやすくなるので、上被りを抑制することができる。
【0015】
より詳細には、10質量%水溶液粘度が10mPa・sよりも低い水溶性高分子であると、親水性が非常に強く、疎水性の強い機能加工用有機化合物との相溶性が悪いため、100〜200℃の温度での熱処理した際に、機能加工用有機化合物の微粒子は溶融し、各々が吸着し強固な連続層となる。その後の洗浄工程では水溶性高分子のみが溶解除去され、機能加工用有機化合物は上被り物として残る為、上被りの除去を十分に制御することができない。一方、10質量%水溶液粘度が5000mPa・sよりも高い水溶性高分子では、水相に対する溶解性に劣るので、熱処理後の洗浄工程時に繊維表面に上被りした機能加工剤を取り除く効果が不十分であり、また、機能加工のための加工浴の粘度が高くなり、加工性に劣る。
【0016】
水溶性高分子の25℃での10質量%水溶液粘度は、50〜3000mPa・sであることがより好ましい。ここで、10質量%水溶液粘度は、B型粘度計(回転数60rpm)を用いて測定される。より詳細には、後述する実施例では、次のようにして測定した。500mlビーカーに水溶性高分子40g、水360gを仕込み10分間攪拌溶解し、2時間放置した後、さらに水100g仕込み10分間攪拌溶解し、一夜放置した後、完全溶解を確認し、10質量%水溶液を得る。10質量%水溶液の必要量を25±0.2℃の恒温水槽に一時間浸して、恒温にしB型粘度計を用いて回転数60rpm、3分後の指度を読取り、10質量%水溶液粘度とする。
【0017】
該水溶性高分子としては、例えば、カルボキシメチルセルロース塩、キサンタンガム(ザンタンガム)、アラビアガム、ローカストビーンガム、アルギン酸ナトリウム、自己乳化型ポリエステル化合物、水溶性ポリエステル、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキシド、ポリアクリルアミド、メトキシエチレン無水マレイン酸共重合体、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、可溶性でんぷん、カルボキシメチルでんぷん、及び、カチオン化でんぷん等などを挙げることができる。これらはいずれか1種単独で用いても2種以上併用してもよい。これらの中でも、カルボキシメチルセルロース塩、水溶性ポリエステル、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及び、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが、加工面や性能面などの観点から好ましい。
【0018】
カルボキシメチルセルロース塩としては、ナトリウム塩が好ましく用いられるが、カリウム、アンモニウム、リチウム、その他の塩であってもよい。
【0019】
水溶性ポリエステルとしては、数平均分子量が3000〜50000であること、また、ジカルボン酸とアルキレンジオールからなるエステル結合を含むポリエステル部分と、数平均分子量600〜6000のポリアルキレングリコールからなるポリエーテル部分とを含有し、分子中におけるポリエステル部分/ポリエーテル部分の質量比率が20/80〜50/50であるものが好ましい。上記ジカルボン酸としては、例えば、ジメチルアジピン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、及びフタル酸が挙げられ、また、スルホテレフタル酸、スルホイソフタル酸、スルホフタル酸などのスルホン酸基を有する芳香族ジカルボン酸のアルカリ金属塩などが挙げられる。上記アルキレンジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1、3−プロパジオール、1,4−ブタジオールなどの2価アルコールが挙げられる。上記ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレンアルコール、及びエチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体などが挙げられる。これらのジカルボン酸、ポリアルキレングリコールは夫々、単独若しくは混合物を使用することができる。特には、水溶性ポリエステルの数平均分子量が5000〜20000であり、含有するポリアルキレングリコールが数平均分子量2000〜4000のポリエチレングリコールであることが好ましい。さらには、分子中にスルホテレフタル酸、スルホイソフタル酸、スルホフタル酸などのスルホン酸基の金属塩を含有するものが好ましい。ここで、ポリアルキレングリコールの数平均分子量は、JIS K 0070に準じた末端基測定法により水酸基価を測定する事で求めることができる。また、水溶性ポリエステルの数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて、ポリエチレングリコールを標準試料として測定することができる。
【0020】
本実施形態に係る上被り制御剤は、上記水溶性高分子のみからなるものであってもよく、また、該水溶性高分子を水に溶解させてなる水溶液であってもよい。また、該水溶性高分子とともに、界面活性剤、キャリア成分、キレート剤、有機溶剤などを含有するものであってもよい。
【0021】
本実施形態に係る上被り制御剤は、繊維を機能加工する際に用いられるものであり、より詳細には、100〜150℃の温度域に融点を持つ機能加工用有機化合物を含有する水分散体を繊維に加工する際に用いられる。
【0022】
機能加工の対象となる繊維としては、ポリエステル、ポリアミド(ナイロン)、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン)、アクリル、ポリウレタン等の合成繊維、綿、絹、羊毛等の天然繊維、およびこれらの混合繊維などが挙げられる。好ましくは合成繊維を用いることである。また、機能加工対象となる繊維としては、繊維自体であってもよく、またそれを用いた糸状、織物、編物、不織布、衣服、寝具、インテリア用品、エクステリア用品、スポーツ用品などの各種繊維製品であってもよい。
【0023】
機能加工用有機化合物としては、融点(融解温度)が100〜150℃の範囲内にあるものが用いられる。このような融点を持つ機能加工用有機化合物は、繊維の機能加工における乾燥温度(熱処理温度)が通常この温度域にあることから、乾燥温度で機能加工剤は融解している。そのため、上記のように上被り現象が生じやすいので、上記水溶性高分子を用いた上被り制御が効果的である。ここで、融点は、示差走査熱量計を用いて測定され、ここでは、(株)リガク製の示差走査熱量計「Thermo plus EVO II/DSC8230」を用いて決定した。
【0024】
このような融点を持つ機能加工用有機化合物としては、特に限定されないが、例えば、2−(2−ヒドロキシ−3,5−ビス(メチルベンジル)フェノール)ベンゾトリアゾール(融点130℃)、2−(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェノール)−5−クロロベンゾトリアゾール(融点140℃)、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−(ヘキシルオキシ)フェノール(融点148℃)などの紫外線吸収剤、トリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(融点110℃)、ジブロモネオペンチルグリコール(融点115℃)、テトラブロモシクロオクタン(融点111℃)、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)(融点117℃)、テトラブロモビスフェノールAビス(2,3−ジブロモメチルプロピルエーテル)(融点116℃)、テトラブロモビスフェノールSビス(2,3−ジブロモプロピルエーテル)(融点100℃)、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド(融点118℃)などの難燃剤などが挙げられる。これらはいずれか1種単独または2種以上組み合わせて用いることができる。これらの機能加工用有機化合物は疎水性機能加工剤であり、水中に分散させることにより、該機能加工用有機化合物を含有する水分散体が得られる。
【0025】
該機能加工用有機化合物を水中に分散させるに当たっては界面活性剤が使用できる。界面活性剤としては、使用する機能加工用有機化合物を水中に安定的に分散させることができるものであれば特に限定されず、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤等の公知の種々の界面活性剤を、いずれか1種または2種以上組み合わせて用いることができる。特に限定するものではないが、後記実施例で用いた紫外線吸収剤や難燃剤を分散させるための界面活性剤としては、スチレン化フェノールアルキレンオキサイド付加物、その硫酸エステル塩やリン酸エステル塩、又はこれらの混合物を用いることが好ましい。
【0026】
また、該機能加工用有機化合物を含む水分散体には、その粘度を調整したり分散状態を安定化させたりするために、水溶性高分子を添加してもよく、また、キャリヤー成分やキレート剤の他、アルコール類、芳香族系溶剤類、グリコールエーテル類などの有機溶剤を含有させてもよく、その他の添加剤を加えてもよい。
【0027】
上記上被り制御剤を用いた繊維の機能加工方法としては、機能加工用有機化合物が水中に分散されてなる処理液に、上被り制御剤を含ませておき、該処理液を繊維に対して浸漬により付与し、100〜200℃の熱処理を施した後、30〜100℃の水若しくは水溶液への浸漬処理を行うことが、好ましい態様として挙げられる。
【0028】
上記処理液は、機能加工用有機化合物を含有する水分散体からなるものであり、本実施形態ではこれに上記上被り制御剤を含有させたものを用いる。上被り制御剤は、上記水溶性高分子を予め水に溶解させた水溶液の形態で上記水分散体に添加してもよく、あるいはまた、上記水分散体に水溶性高分子を直接添加して溶解させてもよい。
【0029】
上被り制御剤の使用量は、水溶性高分子の固形量換算で、上記機能加工用有機化合物に対して1〜80質量%使用することが好ましく、より好ましくは2〜50質量%使用することである。このような使用量とすることにより、繊維表面に上被りした機能加工用有機化合物を除去する効果を高めることができる。なお、上被り制御剤の使用量が多すぎると、上被りやチョークマークなどは発生しないものの、水溶性高分子が繊維表面に残存したり、機能加工用有機化合物が繊維に収着しにくくなったりして、耐光性や難燃性といった機能加工用有機化合物本来の機能が阻害されるおそれがある。
【0030】
また、上記処理液中における上被り制御剤の濃度は、特に限定されず、例えば、水溶性高分子の固形分換算で0.01〜10質量%とすることができ、より好ましくは0.1〜6質量%である。
【0031】
上記処理液を繊維に付与する方法、即ち繊維の機能加工の方法としては、例えば、パディング法、スプレー法、高温吸浸尽法などが挙げられる。これらの中でもパディング法が好ましく、特に好ましくはパッドサーモ法である。
【0032】
パッドサーモ法では、上記処理液を繊維に対して浸漬により付与した後、所定の付着量になるようにマングル等で絞り、乾熱処理や、加熱スチーム処理などの蒸熱処理によって熱処理を行うことにより、機能加工用有機化合物を繊維に収着させる。より好ましくは、浸漬後、マングルで絞り、乾燥、熱処理(熱セット、キュアーリング)を行うパッド・ドライ・サーモキュア法により処理することである。熱処理温度は100〜200℃の範囲内で行うことができる。
【0033】
このように熱処理した後、上被りを制御(除去)するための洗浄処理(ソーピング又はすすぎ工程と称することもできる。)として、30〜100℃の水もしくは水溶液への浸漬処理を行う。浸漬処理は1〜20分間行うことができる。液温30〜100℃のソーピング浴に1〜20分間浸漬した場合、10質量%水溶液粘度が10〜5000mPa・sの水溶性高分子であると、容易に水相に溶解し、機能加工用有機化合物はすすぎの外力により除去されるので、上被りの除去を効果的に行うことができる。更には、液流機等ですすぐ時に揉み効果を加えることにより、上被りをより効果的に除去することができる。
【0034】
一方、工場で一般に使用される工業用井戸水の場合は、水温が15〜20℃と低いため、水溶性高分子の水への溶解により時間がかかり、上被りの除去を十分に制御することができない。かかる洗浄処理での水又は水溶液の液温は、50〜100℃であることがより好ましく、更に好ましくは50〜90℃である。
【0035】
該洗浄工程においては、温水をそのまま用いてもよく、あるいはまた水溶液を用いてもよい。水溶液としては、特に限定されず、例えば、通常のソーピング工程において使用される洗剤などの各種薬剤の水溶液が挙げられる。
【0036】
このようにして洗浄処理を行った後、乾燥することにより、機能加工された繊維ないし繊維製品が得られる。なお、乾燥前に必要に応じて濯ぎ工程を入れてもよく、また、乾燥後に必要に応じて熱処理(熱セット)を行ってもよい。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0038】
[上被り制御剤の調製]
下記の水溶性高分子10gに水90gを添加し、10質量%水溶液になるよう溶解し、上被り制御剤1〜7を得た。
【0039】
・上被り制御剤1:カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、第一工業製薬(株)製「セロゲン5A」、10質量%水溶液粘度(25℃)=104mPa・s)
・上被り制御剤2:カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、第一工業製薬(株)製「セロゲン7A」、10質量%水溶液粘度(25℃)=2300mPa・s)
・上被り制御剤3:カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、第一工業製薬(株)製「セロゲンWS−A」、10質量%水溶液粘度(25℃)=13000mPa・s)
・上被り制御剤4:メチルセルロース(MC、信越化学(株)製「メトローズSM−4」、10質量%水溶液粘度(25℃)=174mPa・s)
・上被り制御剤5:ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC、信越化学(株)製「メトローズ60SH−06」、10質量%水溶液粘度(25℃)=370mPa・s)
・上被り制御剤6:ポリビニルアルコール(PVA、クラレ(株)製「PVA105」、10質量%水溶液粘度(25℃)=45mPa・s)
・上被り制御剤7:ポリエチレングリコール(PEG、第一工業製薬(株)製「PEG10000」、10質量%水溶液粘度(25℃)=4mPa・s)。
【0040】
また、下記の水溶性ポリエステルを上被り制御剤8、9として用いた。
【0041】
・上被り制御剤8:水溶性ポリエステル(互応化学工業(株)製「プラスコートFR−550」、固形分:20質量%、10質量%水溶液粘度(25℃)=38mPa・s)
・上被り制御剤9:分子内にスルホン酸基の金属塩を含有する水溶性ポリエステル(互応化学工業(株)製「プラスコートFR−600」、固形分:10質量%、10質量%水溶液粘度(25℃)=233mPa・s)
【0042】
[界面活性剤の調製]
オートクレーブに、スチレン化フェノール(三光(株)製:TSP)415g、水酸化カリウム1gを仕込み、均一に混合した。その後、反応系の温度を130℃まで昇温させた。次いで、反応系の温度を130℃に保ったまま、エチレンオキシド660gを4時間かけて反応系に滴下した。エチレンオキシドの滴下終了後、130℃にて1時間熟成させて、スチレン化フェノール15EO付加物1054g(収率98質量%)を得た。
【0043】
次いで、1Lセパラブルフラスコに、上記で得たスチレン化フェノール15EO付加物753gを仕込んだ。その後、反応系の温度を120℃まで昇温させた。次いで、スルファミン酸68g、および尿素5gを反応系に添加した。添加後、110〜120℃にて2時間反応させた。これにより、スチレン化フェノール15EO付加物硫酸エステルアンモニウム塩805g(収率98質量%)を得た。
【0044】
[機能加工用有機化合物の水分散体の調製]
・耐光剤水分散体1:
耐光剤としての2−(2−ヒドロキシ−3,5−ビス(メチルベンジル)フェノール)ベンゾトリアゾール(BASF社製:TINUVIN 234、融点:130℃)160gに対し、上記で得られたスチレン化フェノール15EO付加物硫酸エステルアンモニウム塩12g、水148gを仕込み処方液を混合撹拌し、スラリーを得た。このスラリーと同じ容積の直径1.0mmのガラスビーズを混合攪拌し、これをバッチ式ビーズミル(アイメックス(株)製:レディミル)に充填し、2時間粉砕処理したのち、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、第一工業製薬(株)製:セロゲンBS)1質量%水溶液80gにて粘度調整を行った。その後、100メッシュのろ布によりガラスビーズと分散体とを分離し分散状態が良好な機能加工用有機化合物(耐光剤)の水分散体1を得た。
【0045】
・難燃剤水分散体2:
難燃剤としてのトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(日本化成(株)製:TAIC−6B、融点110℃)160gに対し、上記で得られたスチレン化フェノール15EO付加物硫酸エステルアンモニウム塩12g、水148gを仕込み処方液を混合撹拌し、スラリーを得た。このスラリーと同じ容積の直径1.0mmのガラスビーズを混合攪拌し、これをバッチ式ビーズミル(アイメックス(株)製:レディミル)に充填し、2時間粉砕処理したのち、カルボキシメチルセルロースナトリウム(CMC、第一工業製薬(株)製:セロゲンBS)1質量%水溶液80gにて粘度調整を行い。その後、100メッシュのろ布によりガラスビーズと分散体とを分離し分散状態が良好な機能加工用有機化合物(難燃剤)の水分散体2を得た。
【0046】
・難燃剤水分散体3:
難燃剤としてのトリス(2,3−ジブロモプロピル)イソシアヌレート(日本化成(株)製:TAIC−6B、融点110℃)160gに対し、上記で得られたスチレン化フェノール15EO付加物硫酸エステルアンモニウム塩12g、水148gを仕込み処方液を混合撹拌し、スラリーを得た。このスラリーと同じ容積の直径1.0mmのガラスビーズを混合攪拌し、これをバッチ式ビーズミル(アイメックス(株)製:レディミル)に充填し、2時間粉砕処理したのち、上被り制御剤としての水溶性ポリエステル(互応化学工業(株)製「プラスコートFR−550」、固形分:20質量%、10質量%水溶液粘度(25℃)=38mPa・s)80gを添加し、その後、100メッシュのろ布によりガラスビーズと分散体とを分離し分散状態が良好な機能加工用有機化合物(難燃剤)の水分散体3を得た。この水分散体3は、上被り制御剤としての水溶性高分子を固形分換算で、難燃剤に対して10質量%含有するものである。
【0047】
[パッドサーモ法(パッド・ドライ・サーモキュア法)による評価]
上記で調製した機能加工用有機化合物の水分散体1〜3、及び上被り制御剤1〜9を用いて、ポリエステル系繊維織物(レギュラーポリエステル100%織物トロピカル:黒色)に対し、パッド・ドライ・サーモキュア法により繊維加工を施した。
【0048】
詳細には、下記表1および2に示す配合に従って、水分散体と上被り制御剤を混合して処理液を作製した。表1および2における配合量は、処理液中に配合した水分散体1〜3および上被り制御剤1〜9の量(質量%)であり、水を用いて濃度調整した。例えば、実施例2では、水分散体1を20質量%と、上被り制御剤1を10質量%配合しており、従って、処理液中の耐光剤の濃度は8質量%であり、水溶性高分子の濃度は1質量%である。
【0049】
このようにして作製した処理液に、上記織物を浸漬した後、マングルで絞り率70質量%に絞り、110℃で2分間乾燥し、180℃で2分間キュア(キュアーリング)した。その後、薬剤としてソーダ灰1.0g/L及びトライポールTK(第一工業製薬(株)製)1.0g/Lを用い、浴比1:30、80℃で10分間ソーピングを行い、更に、湯水洗5分間の後、乾燥後、120℃で30秒間ヒートセットを行った。これにより、機能加工されたポリエステル系繊維織物を得た。得られた機能加工後の織物について、下記評価方法に従い、上被りの有無、チョークマークの有無、耐光性または難燃性を調べた。また、ソーピング条件の違いによる上被り物の制御効果について、温度、時間の影響確認も行った(表1,2のソーピング温度および時間を参照)。さらに、ブランクとして、未処理についても測定した。結果を表1および2に示す。
【0050】
・上被りの評価:
上被り(繊維間の収束状態)の評価は、SEM(走査型電子顕微鏡)を使用して、写真観察を行い、ブランクを対照として相対比較を行い、対照とほぼ同じ場合を「◎」、対照より若干上被りがある場合を「○」、対照より明らかに上被りがある場合を「×」とした。
【0051】
・チョークマークの評価:
白化性の評価は、JIS L1096摩擦強さB法(スコット形法)に準じて、生地が100回往復した後の状態を観察し、ブランクを対照として比較を行い、対照とほぼ同じ場合を「◎」、対照より若干白い場合を「○」、対照より明らかに白い場合を「×」とした。
【0052】
・耐光性の評価:
耐光堅牢性の評価は、JIS L7751(紫外線カーボンアーク灯光に対する染色堅ろう度試験方法)に準じ、ブラックパネル温度63℃×24時間照射後に、JIS L0804(変退色用グレースケール)にて評価した。
【0053】
・難燃性の評価:
難燃加工した織物について、加工上りのものと、これを下記条件で水洗濯又はドライクリーニングしたものについて、JIS L 1091 A−1法(45°ミクロバーナー法)及びJIS L 1091 D法(45°コイル法)にて難燃性を測定した。45°ミクロバーナー法で1分加熱後及び着炎3秒後ともに、残炎が3秒以下で、残塵が5秒以下であり、かつ炭化面積が30cm以下であり、更に45°コイル法において接炎回数が3回以上であるものを合格とし、加工上がり、水洗濯、ドライクリーニングしたもの全てについて合格するものを「○」とし、それ以外を「×」とした。
【0054】
(水洗濯) JIS K 3371に従って、弱アルカリ性第1種洗剤を1g/Lの割合で用い、浴比1:40として、60℃±2℃で15分間水洗濯した後、40℃±2℃で5分間のすすぎを3回行い、遠心脱水を2分間行い、その後、60℃±5℃で熱風乾燥する処理を1回として、これを5回行った。
【0055】
(ドライクリーニング) 試料1gにつき、テトラクロロエチレン12.6mL、チャージソープ(ノニオン界面活性剤/アニオン界面活性剤/水=10/10/1(質量比))0.265gを用いて、30℃±2℃で15分間の処理を1回とし、これを5回行った。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
表1は、機能加工用有機化合物として耐光剤を用いた例であり、表2は、機能加工用有機化合物として難燃剤を用いた例である。また、上被りによる繊維の収束状態の評価について、代表例として、実施例11と比較例6につき、SEM写真を図1に示した。
【0059】
表1に示すように、上被り制御剤を使用していない比較例1では、上被りが起こり、チョークマークが発生していたのに対して、上被り制御剤を用いた実施例1〜7では、耐光剤による本来の機能性である耐光性を維持しつつ、上被りおよびチョークマークの発生が無い良好な効果が認められた。
【0060】
一方、水溶液粘度が高すぎる上被り制御剤3を用いた比較例2では、加工浴の粘度が高くなり、加工が不可能であった。また、水溶液粘度が低すぎる上被り制御剤7を用いた比較例3では、十分に上被りを除去することができず、チョークマークも発生していた。比較例4では、熱処理後のソーピング温度が低すぎたため、上被り制御剤である水溶性高分子の溶解力が低くなり、そのため、十分に上被りを除去することができなかった。
【0061】
また、表2に示すように、機能加工用有機化合物として難燃剤を用いた場合についても、耐光剤を用いた場合と同様に、上被り制御剤を使用していない比較例6では、上被りが起こり、チョークマークが発生していたのに対して、上被り制御剤を用いた実施例8〜19では、難燃剤による本来の機能性である難燃性を維持しつつ、上被りおよびチョークマークの発生が無い良好な効果が認められた。また、比較例7に示すように熱処理後のソーピング温度が低すぎると、水溶性高分子の溶解力が低くなる為、十分に上被りを除去することができなかった。
【0062】
図1に示すように、上被り制御剤を使用していない比較例6では、キュアーリング後はもちろんのこと、ソーピング後についても、上被りによる繊維の収束が認められたが、上被り制御剤を使用した実施例11では、ソーピング後に繊維の収束はほとんど見られず、上被りが明らかに改善されていた。
【0063】
なお、耐光剤水分散体1および難燃剤水分散体2では、ともに粘度調整のため、CMC(第一工業製薬(株)製:セロゲンBS)を加えているが、このCMCは水溶液粘度が上記上被り制御剤としての粘度範囲を大幅に超えるものであり、そのため、比較例1および6では、上記のように上被り制御効果は得られていない。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、繊維に機能性を付与するための様々な機能加工において、その機能加工剤による上被りを制御するために利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
100〜150℃の温度域に融点を持つ機能加工用有機化合物を含有する水分散体を繊維に加工する際に使用する上被り制御剤であって、25℃での10質量%水溶液粘度が10〜5000mPa・sである水溶性高分子を含有することを特徴とする上被り制御剤。
【請求項2】
前記水溶性高分子が、カルボキシメチルセルロース塩、水溶性ポリエステル、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースからなる群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする請求項1記載の上被り制御剤。
【請求項3】
100〜150℃の温度域に融点を持つ機能加工用有機化合物が水中に分散されてなる処理液に、請求項1又は2記載の上被り制御剤を含ませておき、該処理液を繊維に対して浸漬により付与し、100〜200℃の熱処理を施した後、30〜100℃の水若しくは水溶液への浸漬処理を行うことを特徴とする繊維の加工方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−76190(P2013−76190A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217355(P2011−217355)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】