説明

上部ベッドを備える横編機

【課題】 上部ベッドの高さ調整を容易かつ高精度で行うことが可能な、上部ベッドを備える横編機を提供する。
【解決手段】 調整部材25は、上部ベッド34の下面に設ける蟻溝24aに装着され、台形断面の短辺側25aが上部ベッド24の下面からニードルベッド22側の上部ベッド支持面27bの側に突出する。調整部材25の突出部分の表面である短辺側25aと上部ベッド支持面27bとの当接で支持が行われる際に、調整部材25の厚さで上部ベッドの高さが調整される。予め複数の異なる厚さとなる調整部材25を用意しておくことで、容易に上部ベッド24の高さ調整を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯口を挟んで逆V字状に対向する前後一対のニードルベッドの上方にも上部ベッドを備える横編機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、横編機では、ニードルベッドとともに、さらに上部ベッドを設けて、ループプレッサーやトランスファージャックを使用するベッドとして利用している(たとえば、特許文献1参照)。このような、上部ベッド支持構造には、構成要素の材料として、金属が用いられる。
【0003】
図4に示す横編機1は、ニードルベッド2を、歯口3を挟む前後の両側に備えているけれども、図では一方のみ示し、左方となる他方は省略している。ニードルベッド2のうちの少なくとも一方の上方には、上部ベッド4が設けられる。上部ベッド4は、軸線が紙面に垂直となるシャフト5で、ニードルベッド2に対して回動可能なように支持される。ニードルベッド2では、長手方向が紙面に垂直な板状の基板6に、複数のニードルプレート7A,7B,7Cが一定のピッチで列設されて、間隙に針溝を形成している。針溝に収容される編針は、先端のフックに、歯口3から編糸の供給を受け、編地が編成される。ニードルベッド2は、歯口3側が高くなるような傾斜を有し、両側では逆V字状に配設されている。
【0004】
一部のニードルプレート7A,7Bは部分的に延長され、透孔7aまたは上部ベッド支持面7bがそれぞれ形成される上部ベッド支持部7c,7dとなる。歯口3から遠い位置の透孔7aには、シャフト5が挿通される。上部ベッド4は、シャフト5が挿通する支持ブロック8にボルト9で固定される。ニードルベッド2の歯口3側には、シンカー10が取付けられる。シンカー10の先端付近に設ける透孔には、ワイヤ11が挿通されて、上部ベッド4の高さの基準としても機能する。
【0005】
図4(a)に示す編成時の状態で、上部ベッド4は、下面4aを上部ベッド支持面7bに当接させて、ニードルベッド2との間を閉じている。図4(b)に示す上部ベッド4が回動してニードルベッド2との間を開いた状態では、ニードルベッド2の掃除などのメンテナンスや、針溝に収容される編針の交換などの作業を、容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3542256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ニードルベッド2に収容する編針と、上部ベッド4で使用するループプレッサーやトランスファージャックが円滑な相互作用を行うためには、上部ベッド4の高さなどを、高精度に保つ必要がある。
【0008】
このため、図4(a)の状態で、ワイヤ11を基準とする上部ベッド4の高さを測定し、精度が出ていない場合は、上部ベッド4の下面4aを研磨加工するなどの調整が必要となる。
【0009】
本発明の目的は、上部ベッドの高さ調整を容易かつ高精度で行うことが可能な、上部ベッドを備える横編機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、歯口を挟んで先端部を対向させ、逆V字状に配設される前後一対のニードルベッドと、
少なくとも一方のニードルベッド上方に配設される上部ベッドと、
各ニードルベッドの長手方向に一定のピッチで複数列設されて、間隙に針溝を形成し、一部に上方への延長部分としての上部ベッド支持部が歯口付近に形成され、上部ベッド支持部には、歯口に近い位置の上部ベッド支持面、または歯口から遠い位置の透孔、のうちの少なくとも一方が形成されるニードルプレートと、
軸線方向がニードルベッドの長手方向に平行となるように、上部ベッド支持部の透孔を貫通し、上部ベッドを軸線まわりの回動、および軸線方向のラッキングが可能な状態で支持するシャフトとを有し、
上部ベッドは、シャフトの軸線まわりに回動してニードルベッドとの間を閉じる状態で、歯口付近の下面を上部ベッド支持部の上部ベッド支持面に当接させて支持される、上部ベッドを備える横編機において、
帯状の形状を有し、ニードルプレートの上部ベッド支持面での上部ベッドの支持部分に設けられ、ニードルプレートの上部ベッド支持面、または上部ベッドの下面のうちのいずれか一方の表面に、ニードルベッドの長手方向と平行に装着され、他方の表面に当接する調整部材を含み、
該一方の表面には、開口部分の溝幅よりも奥での溝幅が大きくなる蟻溝がニードルベッドの長手方向と平行に形成されており、
調整部材は、蟻溝に嵌合する台形の断面形状を有し、蟻溝への嵌合時に、台形断面の短辺側が該一方の表面から該他方の表面の側に突出し、
突出部分の表面と該他方の表面との当接で支持が行われる際に、調整部材の厚さで上部ベッドの位置決めが行われる、
ことを特徴とする上部ベッドを備える横編機である。
【0011】
また本発明で、前記調整部材は、予め厚さを異ならせて複数用意され、位置決めに必要な厚さの調整部材が選択されて前記蟻溝に装着される、
ことを特徴とする。
【0012】
また本発明で、前記調整部材は、前記長手方向で複数に分割される部分の組合せとして、前記蟻溝に装着される、
ことを特徴とする。
【0013】
また本発明で、前記調整部材は、前記分割される部分の端面が、前記長手方向に対して傾斜している、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ニードルベッドに対し上部ベッドを、ニードルプレートの一部の延長部分である上部ベッド支持部で、歯口から遠い位置に設ける透孔に、挿通されて支持されるシャフトで回動可能に支持する。上部ベッドは、さらに、ニードルベッド支持部の歯口から近い位置の上部ベッド支持面で、上部ベッドの下面との間に、帯状の調整部材を介在させて支持するので、上部ベッドの高さは、調整部材の厚さで調整することができる。調整部材は、上部ベッドの下面、またはニードルプレートの上部ベッド支持面のいずれか一方に設ける蟻溝に装着されるので、上部ベッドをニードルベッドから取外さなくても、蟻溝から容易に取外すことができる。調整部材の交換や追加工後に蟻溝に再装着すれば、高精度かつ容易に上部ベッドの高さを調整することができる。
【0015】
また本発明によれば、調整部材の交換で、上部ベッドの高さ調整を容易かつ短時間で行うことができる。
【0016】
また本発明によれば、調整部材は長手方向で複数に分割されるので、長手方向で上部ベッドの高さに変動があっても、異なる厚さの部分を組合せて、容易に調整を行うことができる。
【0017】
また本発明によれば、調整部材は、分割される部分の端面が長手方向に対して傾斜しているので、隣接する部分の厚さが異なっていても、ニードルベッドに対して上部ベッドを相対的に長手方向に移動させるラッキング時などで、部分間の継目を越えても引っ掛からないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施例としての上部ベッド24を備える横編機21の基本的な構成を示す、簡略化した側面断面図である。
【図2】図2は、図1のニードルプレート27A,27B,27Cの先端部分の形状を示す、簡略化した正面図である。
【図3】図3は、図1の調整部材25の構成を示す、簡略化した平面図である。
【図4】図4は、従来からの上部ベッド4を備える横編機1の基本的な構成を示す、簡略化した側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1〜図3で本発明の一実施例の構成を説明する。重複する説明を省略するため、本実施例で、図4に対応する部分には同一の参照符を付して示し、各図の説明では、当該図面には存在せずに先に説明する図には存在する符号を用いて説明したり、先に説明する図に示す部分と対応する部分には同一の参照符を付して示す場合がある。
【実施例】
【0020】
図1は、本発明の一実施例として上部ベッド24を備える横編機21の構成を、上部ベッド24がニードルベッド22に対し、(a)では閉じている状態、(b)では開いている状態として、それぞれ示す。ニードルベッド22に対する上部ベッド24の支持は、歯口3から遠い方の位置では、ニードルベッド22側に設ける透孔27aに挿通されるシャフト5で行われ、歯口3から近い方の位置では、調整部材25を介在させて行われる。
【0021】
調整部材25は、帯状の形状で、上部ベッド24の下面に設ける蟻溝24aに装着される。蟻溝24aは、下面側への開口部分の溝幅よりも奥での溝幅が大きくなるような断面形状で、紙面に垂直な長手方向に平行に形成される。調整部材25は、蟻溝24aに嵌合する台形の断面形状を有し、蟻溝24aへの嵌合時に、台形断面の短辺側25aが上部ベッド24の下面からニードルベッド22側の上部ベッド支持面27bの側に突出する。調整部材25の突出部分の表面である短辺側25aと上部ベッド支持面27bとの当接で支持が行われる際に、調整部材25の厚さで上部ベッドの高さが決定される。
【0022】
本実施例では、予め複数の異なる厚さとなる調整部材25を用意しておく。まず、上部ベッド24を、シャフト5を介してニードルベッド22に取付けた状態で、一つの厚さの調整部材25を蟻溝24aに装着して上部ベッド24の高さを測定する。測定結果が基準の範囲内に入れば、調整は不要となる。測定結果が基準の範囲内に入らない場合、測定結果に応じて上部ベッド24の高さが基準の範囲内に入る厚さの調整部材25に交換すれば、容易に上部ベッド24の高さを調整することができる。厚さが不足するような場合は、不足する厚さに対応する調整部材を追加して調整することもできる。厚さが過剰となるような場合は、調整部材25を研磨して、調整を行うようにすることもできる。
なお、ニードルベッド22には、図4のニードルプレート7A,7B,7Cと同様に、三種類のニードルプレート27A,27B,27Cを列設する。三種類のうちの一部のニードルプレート27A,27Bには、透孔27aおよび上部ベッド支持面27bを、上部ベッド支持部27c,27dにそれぞれ設ける。
【0023】
図2は、(a),(b),(c)で、三種類のニードルプレート27A,27B,27Cの形状をそれぞれ示す。ニードルプレート27Aの上部ベッド支持部27cには透孔27aが形成されるので、上部ベッド24側に突出し、支持ブロック8やボルト9などと干渉するおそれがある。したがって、ニードルプレート27Aは、ニードルベッド22の長手方向に間隔をあけて配置され、ニードルプレート27A間には、ニードルプレート27Bまたはニードルプレート27Cが配置される。ニードルプレート27Bには、上部ベッド支持部27dとして、上部ベッド支持面27bが先端付近に設けられる。上部ベッド支持面27bは、他のニードルプレート27A,27Cの先端付近の対応部分よりも、歯口3側に突出し、図1(a)の状態で、調整部材25の短辺側25aに当接する。
【0024】
なお、上部ベッド支持部27cとして、透孔27aおよび上部ベッド支持面27bは、異なるニードルプレート27A,27Bの上部ベッド支持部27c,27dに片方ずつ分けて設けているけれども、同一のニードルプレートに両方設けるようにしてもよい。
【0025】
図3は、調整部材25の構成を示す平面図である。調整部材25は、(a)に示すように、一本の連続した帯の状態で使用することができる。帯の状態では、長手方向の端面25bは、中心線25cに対して垂直になる。しかしながら、調整部材25の長さは、ニードルベッド22の長手方向の長さに対応させる必要があり、この長さは、1〜3m程度に達する。このような長さに対して、上部ベッド24の高さは均一ではなく、変動する場合がある。このため、本実施例の調整部材25は、(b)に示すように、複数の部分25A,25B,25C,25Dに分割しておき、組合せて使用する。各部分25A,25B,25C,25Dを同形にしておき、予め厚さが異なるものを複数用意しておけば、上部ベッド24の高さが長手方向で変動しても、部分25A,25B,25C,25Dを組合せて、変動を抑えるような調整を行うことができる。なお、調整部材25の分割数は、適宜選択すればよい。
【0026】
調整部材25を複数の部分25A,25B,25C,25Dに分ける場合、長手方向の端面25dが、長手方向に平行な中心線25c対して傾斜するようにしておく。調整部材25は、隣接する部分25A,25B,25C,25Dの厚さが異なっていても、端面25dが傾斜しているので、ニードルベッド22に対する上部ベッド24のラッキング時などでも、部分25A,25B,25C,25D間の継目を越えても引っ掛からないようにすることができる。
【0027】
以上で説明した実施例では、調整部材25を装着する蟻溝24aを上部ベッド24に設けているけれども、ニードルベッド22側の上部ベッド支持面27bに設けることもできる。また、上部ベッド支持面27bは、間隔をあけて列設されるニードルプレート27Bの先端部に形成されるので、板状や帯状の部材を支持し、その部材に蟻溝を形成して調整部材25を支持するようにすることもできる。
【0028】
また、上部ベッド24は、特許文献1と同様に、前後のニードルベッド22の上方に設けて、ループプレッサーおよびトランスファージャックをそれぞれ使用することができるけれども、いずれか一方のみでもよい。さらに、上部ベッド24として、編針を使用するためのニードルベッドを配設することもできる。
【符号の説明】
【0029】
3 歯口
5 シャフト
21 横編機
22 ニードルプレート
24 上部ベッド
24a 蟻溝
25 調整部材
27A,27B,27C ニードルプレート
27a 透孔
27b 上部ベッド支持面
27c,27d 上部ベッド支持部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯口を挟んで先端部を対向させ、逆V字状に配設される前後一対のニードルベッドと、
少なくとも一方のニードルベッド上方に配設される上部ベッドと、
各ニードルベッドの長手方向に一定のピッチで複数列設されて、間隙に針溝を形成し、一部に上方への延長部分としての上部ベッド支持部が歯口付近に形成され、上部ベッド支持部には、歯口に近い位置の上部ベッド支持面、または歯口から遠い位置の透孔、のうちの少なくとも一方が形成されるニードルプレートと、
軸線方向がニードルベッドの長手方向に平行となるように、上部ベッド支持部の透孔を貫通し、上部ベッドを軸線まわりの回動が可能な状態で支持するシャフトとを有し、
上部ベッドは、シャフトの軸線まわりに回動してニードルベッドとの間を閉じる状態で、歯口付近の下面を上部ベッド支持部の上部ベッド支持面に当接させて支持される、上部ベッドを備える横編機において、
帯状の形状を有し、ニードルプレートの上部ベッド支持面での上部ベッドの支持部分に設けられ、ニードルプレートの上部ベッド支持面、または上部ベッドの下面のうちのいずれか一方の表面に、ニードルベッドの長手方向と平行に装着され、他方の表面に当接する調整部材を含み、
該一方の表面には、開口部分の溝幅よりも奥での溝幅が大きくなる蟻溝がニードルベッドの長手方向と平行に形成されており、
調整部材は、蟻溝に嵌合する台形の断面形状を有し、蟻溝への嵌合時に、台形断面の短辺側が該一方の表面から該他方の表面の側に突出し、
突出部分の表面と該他方の表面との当接で支持が行われる際に、調整部材の厚さで上部ベッドの高さが調整される、
ことを特徴とする上部ベッドを備える横編機。
【請求項2】
前記調整部材は、予め厚さを異ならせて複数用意され、位置決めに必要な厚さの調整部材が選択されて前記蟻溝に装着される、
ことを特徴とする請求項1記載の上部ベッドを備える横編機。
【請求項3】
前記調整部材は、前記長手方向で複数に分割される部分の組合せとして、前記蟻溝に装着される、
ことを特徴とする請求項1または2記載の上部ベッドを備える横編機。
【請求項4】
前記調整部材は、前記分割される部分端面が、前記長手方向に対して傾斜している、
ことを特徴とする請求項3記載の上部ベッドを備える横編機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−57141(P2013−57141A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−196228(P2011−196228)
【出願日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】