中敷および中底
【課題】あらゆるキックの局面において生じ得る水平方向の力に対して、中敷の表面摩擦以上の係合力を発揮でき、ランニングや球技も含めたあらゆるスポーツにおいて主として方向転換やダッシュのような水平方向の力が大きく作用する際に力を発揮し易い中敷および中底を提供する。
【解決手段】硬質エリアHは、第2趾および第3趾の基節骨B32 ,B33 の骨体と、第2趾および第3趾のMP関節MP2 ,MP3 と、第2趾および第3趾の中足骨B42 ,B43 の骨体の各部の一部を含む。中敷上層材2Aの下面に中敷下層材3Aが積層され、かつ、中敷上層材2Aが中敷下層材3Aの概ね全域を覆うことで、各軟質エリアS1〜S3および硬質エリアHが形成されている。
【解決手段】硬質エリアHは、第2趾および第3趾の基節骨B32 ,B33 の骨体と、第2趾および第3趾のMP関節MP2 ,MP3 と、第2趾および第3趾の中足骨B42 ,B43 の骨体の各部の一部を含む。中敷上層材2Aの下面に中敷下層材3Aが積層され、かつ、中敷上層材2Aが中敷下層材3Aの概ね全域を覆うことで、各軟質エリアS1〜S3および硬質エリアHが形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、あらゆるスポーツにおいて方向転換やダッシュ力を有効に働かせることを目的にした、主として競技用靴に好適な中敷および中底に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、陸上のトラック競技において、コーナリングの際、うまく曲がっていくためにはコーナー外側へのキックが必要となる。このとき中敷は、左足なら小趾球側(第3〜5趾の腹および小趾球の部分)で強い圧力が加わり、右足なら母趾球側(第1〜第2趾の腹および母趾球の部分)で強い圧力が加わる。この圧力によって中敷は圧縮されて凹みを生じる。
【0003】
一方、足趾の関節部やMP関節中央部(母趾球と小趾球の間)にはあまり強い圧力がかからないため、この領域では中敷はあまり圧縮変形しない。この変形している部分としない部分とで段差が生じる。しかし、この段差は足趾が係合するほど大きいものでも、強いものでもない。
【0004】
下記の特許文献1〜3のソールは、足趾が係合し得る段差を持つ。また下記の特許文献4はコーナリングに適した傾斜を持つ。
【特許文献1】実公昭57−60323号
【特許文献2】特許第3462092号
【特許文献3】特開2004−275659
【特許文献4】特許第3302534号
【発明の開示】
【0005】
しかし、前記特許文献1〜3のソールでは、中敷の表面に段差が直接的に存在している。かかる構造では、通常の荷重においても強く段差が感じられ、そのため、違和感を感じるとともに、段のエッジによりマメが出来易いという問題がある。
【0006】
たとえば、特許文献1の発明では、強靭な弾力性を持つ下層基底板が足裏に直接接触するので、前述の問題が生じる。また、特許文献2の発明では中底の趾球部に貫通孔を設けており、そのため、足の蹴り出し時に最も力の必要な趾球部の中心に接地圧を感じないので、キック力が低下し易い。
また、特許文献3の発明では、単に段差が設けられているだけであるため、荷重によってエッジが柔軟につぶれ、強い水平方向の力に対して係合効果が出にくい。
【0007】
一方、特許文献4の発明では、ソールの上面が傾斜しているので、コーナリングの方向が一定である200m走などには適しているが、その他の競技では走り難くなる。
【0008】
したがって、本発明は、あらゆるキックの局面において生じ得る水平方向の力に対して、中敷の表面摩擦以上の係合力を発揮でき、ランニングや球技も含めたあらゆるスポーツにおいて主として方向転換やダッシュのような水平方向の力が大きく作用する際に力を発揮し易い中敷および中底を提供することである。
【0009】
前記目的を達成する中敷および中底の構造の説明に先だって、足趾の構造や部位の名称について説明する。
5本の足趾は、それぞれ、先端から末節骨B1i ,基節骨B3i および中足骨B4i が趾節関節Ji およびMP関節MPi 等で屈曲する。
【0010】
前記基節骨B3i および中足骨B4i は、骨の付け根の太く膨らんだ部分を骨底、先端の太く膨らんだ部分を骨頭、その間の細い部分を骨体という。
前記骨頭のうち、第1趾の中足骨B41 の骨頭を母趾球O1といい、第5趾の中足骨B45 の骨頭を小趾球O5という。
【0011】
本明細書において、各足趾のうち特定の足趾を表す場合には下付数字の「1 〜5 」を付し、任意の1つの足趾を表す場合には、下付の「i 」を付し、全ての足趾を表す場合には下付数字や「i 」を付さない。
【0012】
中敷(ソックライナー)
図1に示すように本発明の中敷Aは、中敷上層材2Aおよび中敷下層材3Aを備える。 中敷上層材2Aは、エラストマーで形成された軟質エラストマーからなり、少なくとも前足部の概ね全域を覆う。
中敷下層材3Aは、前記軟質エラストマーよりも硬度の大きいエラストマーで形成され、下記の硬質エリアHに相当する部位に設けられ、かつ、下記の第1、第2および第3軟質エリアS1〜S3を覆わない硬質エラストマーからなる。
【0013】
前記第1軟質エリアS1は、第1趾〜第4趾の末節骨B11 〜B14 および第1趾〜第3趾の趾節関節J1 〜J3 を含み、好ましくは第5趾の末節骨B15 を含む。
前記第2軟質エリアS2は、母趾球O1の中心Ocおよび母趾球O1の外側部分O1outを含む。
前記第3軟質エリアS3は、小趾球O5の中心Ocおよび小趾球O5の内側部分O5inを含む。
本明細書において、「内側」とは足の内側INをいい、「外側」とは足の外側OUTをいう。たとえば、図1の右足の場合には、左側が内側であり、右側が外側である。
前記硬質エリアHは、第2趾および第3趾の各基節骨B32 ,B33 の骨体の少なくとも一部と、第2趾および第3趾の各MP関節MP2 ,MP3 の少なくとも一部と、第2趾および第3趾の各中足骨B42 ,B43 の骨体の少なくとも一部を含む。
【0014】
図2に示すように、前記中敷上層材2Aの下面に前記中敷下層材3Aが積層され、かつ、前記中敷上層材2Aが前記中敷下層材3Aの概ね全域を覆うことで、前記各軟質エリアS1〜S3および硬質エリアHが形成されている。
なお、中敷Aの場合、通常、吸湿性に優れた表面材(布)1が前記中敷上層材2Aの概ね全面を覆う。
【0015】
前記構成において、柔らかい中敷上層材2Aが硬い中敷下層材3Aを覆っているので、中敷Aに通常の荷重が負荷されると、中敷上層材2Aおよび中敷下層材3Aは差程大きく圧縮変形せず、また、硬い中敷下層材3Aは横アーチの中央部等の荷重のかかりにくい部位に存在するため、違和感が生じにくい。
【0016】
カーブを走行する際等においては、前記荷重があまりかからない部分に硬い中敷下層材3Aが仕込まれているので、図2(b)の圧力が強くかかる軟質の中敷上層材2Aは圧縮されて凹み50を生じるが、硬質の中敷下層材3Aは差程圧縮変形せず、また、ある程度の硬度を持っているから、中敷Aに足趾や趾球部を係合させるのに十分な硬さと大きさを持った段差51が生じる。しかしながら係る段差51は、硬質の中敷下層材3Aにより圧縮されて緩やかな曲面を呈するため、エッジによるマメの発生のおそれもない。また個人差のある足裏にも違和感なく対応できる。
【0017】
また、蹴り出す力や踏ん張る力が最も大きい図1の母趾球O1の中心Ocや小趾球O5の中心Ocは、中敷上層材2Aによって覆われているので、これらの中心Ocが浮くことがなく、これらの部位に接地圧を生じ、したがって、キック力を発揮し易い上、マメの生じる恐れもない。
【0018】
すなわち、図2(b)の第2軟質エリアS2や第3軟質エリアS3と硬質エリアHとの境界近傍においては、キック時、前記段差51に足趾や趾球部が係合することにより、内外方向の力がより発揮されやすくなり、コーナーを曲がりやすくなる。
一方、図1の第1軟質エリアS1と硬質エリアHとの境界近傍においては、前方へのキックについて前記段差51(図2(b))が同様に有効に作用するので、直走路においてキック力を発揮し易い。
【0019】
しかも、硬質エリアHの内外および前方の3つの領域S1〜S3を設けたので、斜め前方や斜め後方への蹴り出し時等にも係合力が発揮される。
【0020】
以上から、あらゆるキックの局面において生じる水平方向の力に対して、中敷Aの表面摩擦以上の係合効果が発揮されるので、ランニングや球技も含めたあらゆるスポーツシューズの中敷として適用可能で、主として、方向転換やダッシュのような水平方向の力が大きく作用する際に有効に作用する。
【0021】
本中敷の好ましい実施例では、前記第2軟質エリアS2には前記母趾球O1の全域および第1趾基節骨B31 の骨底の全域が含まれる。一方、前記第3軟質エリアS3には前記小趾球O5の全域および第5趾基節骨B35 の骨底の全域が含まれている。
【0022】
この実施例では、蹴り出す力の最も大きい母趾球O1および小趾球O5等の全体が、柔らかい中敷上層材2Aを介して強く接地するので、前記水平方向の力を更に増大することが可能となる。
【0023】
本中敷の別の好ましい実施例では、前記第2軟質エリアS2には前記母趾球O1よりも内側INの領域Sinおよび第1趾基節骨B31 の骨底よりも内側INの領域Sinが含まれる。一方、前記第3軟質エリアS3には前記小趾球O5よりも外側OUTの領域Soutおよび第5趾基節骨B35 の骨底の外側OUTの領域Soutが含まれる。
【0024】
この実施例では、母趾球O1の内側INや小趾球O5の外側OUTに硬い中敷下層材3Aが存在しないので、母趾球O1の内側INや小趾球O5の外側OUTに違和感やマメの生じるおそれがない。
【0025】
本中敷の更に別の好ましい実施例では、前記中敷下層材3Aは前記母趾球O1の外側OUTに沿って括れた内側括れ部31を有し、かつ、前記小趾球O5の内側INに沿って括れた外側括れ部32を有する。
【0026】
かかる湾曲した括れ部31,32は、母趾球O1や小趾球O5の側面と前記段差51(図2(b))との係合長さを長くする上、斜め前方や斜め後方の係合にも役立つ。
【0027】
本中敷の他の好ましい実施例においては、前記第2および第3軟質エリアS2,S3が、それぞれ、前記第1軟質エリアS1に連なって略逆U字状のU字エリアSが形成されている。
【0028】
この実施例では、MP関節MPよりも前方において硬い硬質エリアHが足の横アーチの中央部分にのみ存在するので、直線走行時に中敷Aが屈曲し易く、また、前記違和感等も生じにくい。
【0029】
本発明の技術思想は、図3(a)の中敷Aの他に中底Bについても適用し得る。
ここで、中底Bとはインソールのことで、アッパー100に縫着ないし接着される。
一方、中敷Aは、前記中底Bや硬質板(ソール)の上に配置され、通常、粘着等されていないが、本中敷Aにおいては、下面がソールに粘着ないし接着されている方が、中敷A自体のズレが生じないので好ましい。
【0030】
本発明において、図2の中敷Aの場合には、硬い中敷下層材3Aが柔らかい中敷上層材2Aの下方に配置されたが、図3の中底Bの場合には硬い中底上層材3Bが柔らかい中底下層材2Bの上方に配置される。
前記中底Bの上には、一般的な中敷が配置され、当該一般的な中敷と前記中底上層材3Bとが協働して、本中敷Aと同様の作用・効果を呈する。
【0031】
なお、中底において、硬質エラストマーを軟質エラストマーの下方に配置したり、ミッドソールにおいて上層に硬質材を配置した場合にも、若干ではあるが、本発明の前記効果に近似した効果が得られるであろう。しかし、その効果は小さく、したがって、本発明の範囲には含まれない。
【0032】
中底(インソール)
本発明の中底Bは、図1にかっこ書きで示すように、前記中敷Aと近似した構造を備える。すなわち、本発明の中底Bは、エラストマーで形成された軟質エラストマーからなり、少なくとも前足部の概ね全域を覆う中底下層材2Bと、前記軟質エラストマーよりも硬度の大きいエラストマーで形成され、前記硬質エリアHに相当する部位に設けられ、かつ、前記第1、第2および第3軟質エリアS1〜S3を覆わない硬質エラストマーからなる中底上層材3Bとを備え、前記中底下層材2Bの上面に前記中底上層材3Bが積層され、かつ、前記中底下層材2Bが中底上層材3Bの概ね全域を覆うことで、前記各軟質エリアS1〜S3および硬質エリアHが形成されている。
【0033】
本中底の好ましい実施例においては、前記第2軟質エリアS2には前記母趾球O1の全域および第1趾基節骨B31 の骨底の全域が含まれ、前記第3軟質エリアS3には前記小趾球O5の全域および第5趾基節骨B35 の骨底の全域が含まれている。
【0034】
本中底の別の好ましい実施例においては、前記第2軟質エリアS2には前記母趾球O1よりも内側INの領域Sinおよび第1趾基節骨B31 の骨底よりも内側INの領域Sinが含まれ、前記第3軟質エリアS3には前記小趾球O5よりも外側OUTの領域Soutおよび第5趾基節骨B35 の骨底の外側OUTの領域Soutが含まれている。
【0035】
本中底の好ましい実施例では、前記中底上層材3Bは前記母趾球O1の外側OUTに沿って括れた内側括れ部31を有し、かつ、前記小趾球O5の内側INに沿って括れた外側括れ部32を有する。
【0036】
本中底の更に好ましい実施例では、前記第2および第3軟質エリアS2,S3が、それぞれ、前記第1軟質エリアS1に連なって略逆U字状のU字エリアSが形成されている。
【0037】
前記各エラストマーとしては、樹脂またはゴムや両者をブレンドした発泡体および非発泡体を採用することが可能である。
かかるエラストマーの材料としては、PE、PU、EVAなどの熱可塑性樹脂を採用するのが、コストおよび軽量化などの観点から好ましい。
足裏の安定した支持と適度のクッション性(圧縮に対するヤング率)および前記係合力を発揮するには、各エラストマーを発泡体で形成するのが好ましい。
前記各層2A,2B,3A,3Bのエラストマーを発泡体で形成する場合、硬い中敷下層材3A(中底上層材3B)を柔らかい中敷上層材2A(中底下層材2B)に比べ発泡の倍率を小さくするのが好ましい。
【0038】
前記各層を形成するエラストマーの硬度は、特に限定されないが、図11の表1および表2に示すような硬度を採用し得る。表の各欄において、下限値は必要な安定性と耐圧縮性等の観点から定められ、一方、上限値はクッション性等の観点から定められる。
エラストマーの硬度差の下限値および上限値は、係合するのに適当な段差51(図2)が生じるように設定されるべきであり、硬度差が小さいと段差51が生じにくく、一方、硬度差が大きいと段差51が大きくなって違和感の生じる原因となる。
【0039】
図2および図3の前記各層を形成するエラストマーの厚さT,T2,T3は、特に限定されないが、図11の表1および表2に示すような厚さを採用し得る。表の各欄において、上限値は必要な安定性等の観点から定められ、一方、下限値はクッション性等の観点から定められる。
【0040】
各層2A(2B),3A(3B)の厚さT2,T3は、図2(a),図2(c)の場合には中敷(中底)を形成するエラストマーの総厚Tよりも0.5mm以上薄くする必要があり、また、少なくとも各層自体が0.5mm以上の厚さを有する必要がある。
【0041】
硬質層3A,3Bが厚すぎたり又は硬すぎたり、あるいは、軟質層2A,2Bが薄すぎると、足裏に違和感を生じる原因となる。一方、硬質層3A,3Bが薄すぎたり又は柔らかすぎたり、あるいは、軟質層2A,2Bが硬すぎると、十分な係合力が発揮されない。
【0042】
図2(a)に示すように、中敷下層材3Aは中敷上層材2Aに向かって一部が埋もれ、残部が突出していてもよい。中敷下層材3Aと中敷上層材2Aとを一体に成形した場合、硬い中敷下層材3Aが中敷上層材2Aに埋もれたような構造となるであろう。
【0043】
図2(c)に示すように、中敷上層材2Aの平坦な下面に中敷下層材3Aが配置されてもよいし、図2(d)のように、中敷下層材3Aが中敷上層材2A内に埋設されていてもよい。
【0044】
図3(b)に示すように、中底上層材3Bは中底下層材2Bに向かって一部が埋もれ、一部が突出していてもよい。
【0045】
図3(c)に示すように、中底下層材2Bの平坦な上面に中底上層材3Bが配置されていてもよいし、図3(d)のように、中底上層材3Bが中底下層材2B内に埋設されていてもよい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
本発明において、図1の各エリアS1〜S3,Hや硬質材(中敷下層材3Aおよび中底上層材3B)の平面的な配置については、中敷Aと中底Bとで同様であり、したがって、主として中敷Aについて説明する。
なお、図1および図4〜図10において、中敷上層材2A(中底下層材2B)は2点鎖線で示す。
【0047】
図1は実施例1を示す。
実施例1の中敷Aは、前足部に“ひょうたん形”の中敷下層材3Aを備える。
【0048】
中敷下層材3Aの前縁は、第2〜第4趾の趾節関節J2 〜J4 の若干手前、つまり、基節骨B32 〜B34 の骨頭と骨体との間に位置している。
中敷下層材3Aの前部の内側縁は、第1趾の基節骨B31 に概ね沿っている。
中敷下層材3Aの後部の内側部分は、第1趾の中足骨B41 を覆わず、かつ、第2趾の中足骨B41 の概ね全部を覆う。
【0049】
中敷下層材3Aの前部の外側縁は、第5趾の基節骨B35 の上に配置されている。中敷下層材3Aの後部の外側縁は、第4趾の中足骨B44 の上に配置されている。
【0050】
図4は実施例2を示す。
この実施例では、中敷下層材3Aが前足部から中足部に連なっている。すなわち、中敷下層材3Aは中足部の足のアーチを覆っており、硬質エリアHが中足部まで延びている。これにより、シューズ自体の安定性および反発性が増大する。
後足部は中敷下層材3Aにより覆われていない。
【0051】
中敷下層材3Aの中央前縁は、第2および第3趾の趾節関節J2 、J3 の若干手前、つまり、基節骨B32 、B33 の骨頭と骨体との間に位置している。
中敷下層材3Aの前部の内側縁は、第1趾のB31 と第2趾のB32 との間から後方に延び、第2趾のMP関節MP2 およびその前後において内側括れ部31を有している。
【0052】
中敷下層材3Aの内側の前縁は、第1趾の中足骨B41 を横断する。一方、中敷下層材3Aの外側の前縁は第4趾および第5趾の中足骨B44 、B45 を外側に向かって斜め後方に横断する。
【0053】
中敷下層材3Aの前部の外側縁は、概ね第3趾基節骨B33 と第4趾基節骨B34 との間に位置し、第3趾のMP関節MP3 ないし中足骨B43 の骨頭付近に括れ部32を有し、これらの部位の外側は中敷下層材3Aに覆われていない。
なお、本実施例においても、中敷下層材3AはMP関節MPの若干後方において最も幅が狭くなっている。
【0054】
また、前記中敷下層材3AにおけるMP関節およびそのMP関節の前後の部位には、複数の第1貫通孔41が形成されている。この貫通孔41は、足の外側OUTから内側INに向かって若干前方に傾斜した横長の楕円形状であり、これにより、MP関節MPにおける足の屈曲性が阻害されないようにしている。
【0055】
図5の実施例3に示すように、中敷下層材3Aには多数の小さな第2貫通孔42を設けて、中敷下層材3Aを更に屈曲し易くしてもよい。また、中敷下層材3Aには意匠上の第3貫通孔43を設けてもよい。これらの貫通孔41〜43は中敷下層材3Aの軽量化にも役立つ。
なお、中敷上層材2Aにも多数の貫通孔を設けてもよいし、切欠き等により足裏の一部を覆っていなくてもよい。
【0056】
前記中敷下層材3Aの前端部分は、図6のように足の内外に張り出して(突出して)いてもよいし、更に、図7のように、足の前方に向かって張り出していてもよい。また、中敷下層材3Aは、中足部の内側および外側の縁部を覆っていない形状としてもよい。
【0057】
また、図8のように、中敷下層材3Aが3つ叉状で、母趾球O1(図4)の内側や小趾球O5(図4)の外側にも配置されていてもよい。更に、第1軟質エリアS1と第2軟質エリアS2および第3軟質エリアS3とが中敷下層材3Aで分離されていてもよい。
【0058】
また、図5の貫通孔41に代えて、図9のような足の前後に長い第4貫通孔44を設けてもよい。また、図10のように、中敷下層材3Aを逆T字状に形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は種々の運動競技に適した靴の中敷および中底に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施例1にかかる中敷および中底の前足および中足部の前部と足の骨格との関係を示す平面図である。
【図2】中敷の横断面図である。
【図3】(a)は本底を除いた靴の概略横断面図、(b)〜(d)は中底の横断面図である。
【図4】本発明の実施例2にかかる中敷および中底と足の骨格との関係を示す平面図である。
【図5】本発明の実施例3にかかる中敷および中底を示す平面図である。
【図6】同実施例4を示す平面図である。
【図7】同実施例5を示す平面図である。
【図8】同実施例6を示す平面図である。
【図9】同実施例7を示す平面図である。
【図10】同実施例8を示す平面図である。
【図11】中敷および中底の部材の硬度および厚さを示す図表である。
【符号の説明】
【0061】
A:中敷
B:中底
B1i :末節骨
B3i :基節骨
B4i :中足骨
MPi :MP関節
Ji :趾節関節
O1:母趾球
O5:小趾球
Oc:中心
1:表面材
2A:中敷上層材,2B:中底下層材
3A:中敷下層材,3B:中底上層材
50:凹部
51:段差
100:アッパー
IN:内側
OUT:外側
【技術分野】
【0001】
本発明は、あらゆるスポーツにおいて方向転換やダッシュ力を有効に働かせることを目的にした、主として競技用靴に好適な中敷および中底に関するものである。
【背景技術】
【0002】
たとえば、陸上のトラック競技において、コーナリングの際、うまく曲がっていくためにはコーナー外側へのキックが必要となる。このとき中敷は、左足なら小趾球側(第3〜5趾の腹および小趾球の部分)で強い圧力が加わり、右足なら母趾球側(第1〜第2趾の腹および母趾球の部分)で強い圧力が加わる。この圧力によって中敷は圧縮されて凹みを生じる。
【0003】
一方、足趾の関節部やMP関節中央部(母趾球と小趾球の間)にはあまり強い圧力がかからないため、この領域では中敷はあまり圧縮変形しない。この変形している部分としない部分とで段差が生じる。しかし、この段差は足趾が係合するほど大きいものでも、強いものでもない。
【0004】
下記の特許文献1〜3のソールは、足趾が係合し得る段差を持つ。また下記の特許文献4はコーナリングに適した傾斜を持つ。
【特許文献1】実公昭57−60323号
【特許文献2】特許第3462092号
【特許文献3】特開2004−275659
【特許文献4】特許第3302534号
【発明の開示】
【0005】
しかし、前記特許文献1〜3のソールでは、中敷の表面に段差が直接的に存在している。かかる構造では、通常の荷重においても強く段差が感じられ、そのため、違和感を感じるとともに、段のエッジによりマメが出来易いという問題がある。
【0006】
たとえば、特許文献1の発明では、強靭な弾力性を持つ下層基底板が足裏に直接接触するので、前述の問題が生じる。また、特許文献2の発明では中底の趾球部に貫通孔を設けており、そのため、足の蹴り出し時に最も力の必要な趾球部の中心に接地圧を感じないので、キック力が低下し易い。
また、特許文献3の発明では、単に段差が設けられているだけであるため、荷重によってエッジが柔軟につぶれ、強い水平方向の力に対して係合効果が出にくい。
【0007】
一方、特許文献4の発明では、ソールの上面が傾斜しているので、コーナリングの方向が一定である200m走などには適しているが、その他の競技では走り難くなる。
【0008】
したがって、本発明は、あらゆるキックの局面において生じ得る水平方向の力に対して、中敷の表面摩擦以上の係合力を発揮でき、ランニングや球技も含めたあらゆるスポーツにおいて主として方向転換やダッシュのような水平方向の力が大きく作用する際に力を発揮し易い中敷および中底を提供することである。
【0009】
前記目的を達成する中敷および中底の構造の説明に先だって、足趾の構造や部位の名称について説明する。
5本の足趾は、それぞれ、先端から末節骨B1i ,基節骨B3i および中足骨B4i が趾節関節Ji およびMP関節MPi 等で屈曲する。
【0010】
前記基節骨B3i および中足骨B4i は、骨の付け根の太く膨らんだ部分を骨底、先端の太く膨らんだ部分を骨頭、その間の細い部分を骨体という。
前記骨頭のうち、第1趾の中足骨B41 の骨頭を母趾球O1といい、第5趾の中足骨B45 の骨頭を小趾球O5という。
【0011】
本明細書において、各足趾のうち特定の足趾を表す場合には下付数字の「1 〜5 」を付し、任意の1つの足趾を表す場合には、下付の「i 」を付し、全ての足趾を表す場合には下付数字や「i 」を付さない。
【0012】
中敷(ソックライナー)
図1に示すように本発明の中敷Aは、中敷上層材2Aおよび中敷下層材3Aを備える。 中敷上層材2Aは、エラストマーで形成された軟質エラストマーからなり、少なくとも前足部の概ね全域を覆う。
中敷下層材3Aは、前記軟質エラストマーよりも硬度の大きいエラストマーで形成され、下記の硬質エリアHに相当する部位に設けられ、かつ、下記の第1、第2および第3軟質エリアS1〜S3を覆わない硬質エラストマーからなる。
【0013】
前記第1軟質エリアS1は、第1趾〜第4趾の末節骨B11 〜B14 および第1趾〜第3趾の趾節関節J1 〜J3 を含み、好ましくは第5趾の末節骨B15 を含む。
前記第2軟質エリアS2は、母趾球O1の中心Ocおよび母趾球O1の外側部分O1outを含む。
前記第3軟質エリアS3は、小趾球O5の中心Ocおよび小趾球O5の内側部分O5inを含む。
本明細書において、「内側」とは足の内側INをいい、「外側」とは足の外側OUTをいう。たとえば、図1の右足の場合には、左側が内側であり、右側が外側である。
前記硬質エリアHは、第2趾および第3趾の各基節骨B32 ,B33 の骨体の少なくとも一部と、第2趾および第3趾の各MP関節MP2 ,MP3 の少なくとも一部と、第2趾および第3趾の各中足骨B42 ,B43 の骨体の少なくとも一部を含む。
【0014】
図2に示すように、前記中敷上層材2Aの下面に前記中敷下層材3Aが積層され、かつ、前記中敷上層材2Aが前記中敷下層材3Aの概ね全域を覆うことで、前記各軟質エリアS1〜S3および硬質エリアHが形成されている。
なお、中敷Aの場合、通常、吸湿性に優れた表面材(布)1が前記中敷上層材2Aの概ね全面を覆う。
【0015】
前記構成において、柔らかい中敷上層材2Aが硬い中敷下層材3Aを覆っているので、中敷Aに通常の荷重が負荷されると、中敷上層材2Aおよび中敷下層材3Aは差程大きく圧縮変形せず、また、硬い中敷下層材3Aは横アーチの中央部等の荷重のかかりにくい部位に存在するため、違和感が生じにくい。
【0016】
カーブを走行する際等においては、前記荷重があまりかからない部分に硬い中敷下層材3Aが仕込まれているので、図2(b)の圧力が強くかかる軟質の中敷上層材2Aは圧縮されて凹み50を生じるが、硬質の中敷下層材3Aは差程圧縮変形せず、また、ある程度の硬度を持っているから、中敷Aに足趾や趾球部を係合させるのに十分な硬さと大きさを持った段差51が生じる。しかしながら係る段差51は、硬質の中敷下層材3Aにより圧縮されて緩やかな曲面を呈するため、エッジによるマメの発生のおそれもない。また個人差のある足裏にも違和感なく対応できる。
【0017】
また、蹴り出す力や踏ん張る力が最も大きい図1の母趾球O1の中心Ocや小趾球O5の中心Ocは、中敷上層材2Aによって覆われているので、これらの中心Ocが浮くことがなく、これらの部位に接地圧を生じ、したがって、キック力を発揮し易い上、マメの生じる恐れもない。
【0018】
すなわち、図2(b)の第2軟質エリアS2や第3軟質エリアS3と硬質エリアHとの境界近傍においては、キック時、前記段差51に足趾や趾球部が係合することにより、内外方向の力がより発揮されやすくなり、コーナーを曲がりやすくなる。
一方、図1の第1軟質エリアS1と硬質エリアHとの境界近傍においては、前方へのキックについて前記段差51(図2(b))が同様に有効に作用するので、直走路においてキック力を発揮し易い。
【0019】
しかも、硬質エリアHの内外および前方の3つの領域S1〜S3を設けたので、斜め前方や斜め後方への蹴り出し時等にも係合力が発揮される。
【0020】
以上から、あらゆるキックの局面において生じる水平方向の力に対して、中敷Aの表面摩擦以上の係合効果が発揮されるので、ランニングや球技も含めたあらゆるスポーツシューズの中敷として適用可能で、主として、方向転換やダッシュのような水平方向の力が大きく作用する際に有効に作用する。
【0021】
本中敷の好ましい実施例では、前記第2軟質エリアS2には前記母趾球O1の全域および第1趾基節骨B31 の骨底の全域が含まれる。一方、前記第3軟質エリアS3には前記小趾球O5の全域および第5趾基節骨B35 の骨底の全域が含まれている。
【0022】
この実施例では、蹴り出す力の最も大きい母趾球O1および小趾球O5等の全体が、柔らかい中敷上層材2Aを介して強く接地するので、前記水平方向の力を更に増大することが可能となる。
【0023】
本中敷の別の好ましい実施例では、前記第2軟質エリアS2には前記母趾球O1よりも内側INの領域Sinおよび第1趾基節骨B31 の骨底よりも内側INの領域Sinが含まれる。一方、前記第3軟質エリアS3には前記小趾球O5よりも外側OUTの領域Soutおよび第5趾基節骨B35 の骨底の外側OUTの領域Soutが含まれる。
【0024】
この実施例では、母趾球O1の内側INや小趾球O5の外側OUTに硬い中敷下層材3Aが存在しないので、母趾球O1の内側INや小趾球O5の外側OUTに違和感やマメの生じるおそれがない。
【0025】
本中敷の更に別の好ましい実施例では、前記中敷下層材3Aは前記母趾球O1の外側OUTに沿って括れた内側括れ部31を有し、かつ、前記小趾球O5の内側INに沿って括れた外側括れ部32を有する。
【0026】
かかる湾曲した括れ部31,32は、母趾球O1や小趾球O5の側面と前記段差51(図2(b))との係合長さを長くする上、斜め前方や斜め後方の係合にも役立つ。
【0027】
本中敷の他の好ましい実施例においては、前記第2および第3軟質エリアS2,S3が、それぞれ、前記第1軟質エリアS1に連なって略逆U字状のU字エリアSが形成されている。
【0028】
この実施例では、MP関節MPよりも前方において硬い硬質エリアHが足の横アーチの中央部分にのみ存在するので、直線走行時に中敷Aが屈曲し易く、また、前記違和感等も生じにくい。
【0029】
本発明の技術思想は、図3(a)の中敷Aの他に中底Bについても適用し得る。
ここで、中底Bとはインソールのことで、アッパー100に縫着ないし接着される。
一方、中敷Aは、前記中底Bや硬質板(ソール)の上に配置され、通常、粘着等されていないが、本中敷Aにおいては、下面がソールに粘着ないし接着されている方が、中敷A自体のズレが生じないので好ましい。
【0030】
本発明において、図2の中敷Aの場合には、硬い中敷下層材3Aが柔らかい中敷上層材2Aの下方に配置されたが、図3の中底Bの場合には硬い中底上層材3Bが柔らかい中底下層材2Bの上方に配置される。
前記中底Bの上には、一般的な中敷が配置され、当該一般的な中敷と前記中底上層材3Bとが協働して、本中敷Aと同様の作用・効果を呈する。
【0031】
なお、中底において、硬質エラストマーを軟質エラストマーの下方に配置したり、ミッドソールにおいて上層に硬質材を配置した場合にも、若干ではあるが、本発明の前記効果に近似した効果が得られるであろう。しかし、その効果は小さく、したがって、本発明の範囲には含まれない。
【0032】
中底(インソール)
本発明の中底Bは、図1にかっこ書きで示すように、前記中敷Aと近似した構造を備える。すなわち、本発明の中底Bは、エラストマーで形成された軟質エラストマーからなり、少なくとも前足部の概ね全域を覆う中底下層材2Bと、前記軟質エラストマーよりも硬度の大きいエラストマーで形成され、前記硬質エリアHに相当する部位に設けられ、かつ、前記第1、第2および第3軟質エリアS1〜S3を覆わない硬質エラストマーからなる中底上層材3Bとを備え、前記中底下層材2Bの上面に前記中底上層材3Bが積層され、かつ、前記中底下層材2Bが中底上層材3Bの概ね全域を覆うことで、前記各軟質エリアS1〜S3および硬質エリアHが形成されている。
【0033】
本中底の好ましい実施例においては、前記第2軟質エリアS2には前記母趾球O1の全域および第1趾基節骨B31 の骨底の全域が含まれ、前記第3軟質エリアS3には前記小趾球O5の全域および第5趾基節骨B35 の骨底の全域が含まれている。
【0034】
本中底の別の好ましい実施例においては、前記第2軟質エリアS2には前記母趾球O1よりも内側INの領域Sinおよび第1趾基節骨B31 の骨底よりも内側INの領域Sinが含まれ、前記第3軟質エリアS3には前記小趾球O5よりも外側OUTの領域Soutおよび第5趾基節骨B35 の骨底の外側OUTの領域Soutが含まれている。
【0035】
本中底の好ましい実施例では、前記中底上層材3Bは前記母趾球O1の外側OUTに沿って括れた内側括れ部31を有し、かつ、前記小趾球O5の内側INに沿って括れた外側括れ部32を有する。
【0036】
本中底の更に好ましい実施例では、前記第2および第3軟質エリアS2,S3が、それぞれ、前記第1軟質エリアS1に連なって略逆U字状のU字エリアSが形成されている。
【0037】
前記各エラストマーとしては、樹脂またはゴムや両者をブレンドした発泡体および非発泡体を採用することが可能である。
かかるエラストマーの材料としては、PE、PU、EVAなどの熱可塑性樹脂を採用するのが、コストおよび軽量化などの観点から好ましい。
足裏の安定した支持と適度のクッション性(圧縮に対するヤング率)および前記係合力を発揮するには、各エラストマーを発泡体で形成するのが好ましい。
前記各層2A,2B,3A,3Bのエラストマーを発泡体で形成する場合、硬い中敷下層材3A(中底上層材3B)を柔らかい中敷上層材2A(中底下層材2B)に比べ発泡の倍率を小さくするのが好ましい。
【0038】
前記各層を形成するエラストマーの硬度は、特に限定されないが、図11の表1および表2に示すような硬度を採用し得る。表の各欄において、下限値は必要な安定性と耐圧縮性等の観点から定められ、一方、上限値はクッション性等の観点から定められる。
エラストマーの硬度差の下限値および上限値は、係合するのに適当な段差51(図2)が生じるように設定されるべきであり、硬度差が小さいと段差51が生じにくく、一方、硬度差が大きいと段差51が大きくなって違和感の生じる原因となる。
【0039】
図2および図3の前記各層を形成するエラストマーの厚さT,T2,T3は、特に限定されないが、図11の表1および表2に示すような厚さを採用し得る。表の各欄において、上限値は必要な安定性等の観点から定められ、一方、下限値はクッション性等の観点から定められる。
【0040】
各層2A(2B),3A(3B)の厚さT2,T3は、図2(a),図2(c)の場合には中敷(中底)を形成するエラストマーの総厚Tよりも0.5mm以上薄くする必要があり、また、少なくとも各層自体が0.5mm以上の厚さを有する必要がある。
【0041】
硬質層3A,3Bが厚すぎたり又は硬すぎたり、あるいは、軟質層2A,2Bが薄すぎると、足裏に違和感を生じる原因となる。一方、硬質層3A,3Bが薄すぎたり又は柔らかすぎたり、あるいは、軟質層2A,2Bが硬すぎると、十分な係合力が発揮されない。
【0042】
図2(a)に示すように、中敷下層材3Aは中敷上層材2Aに向かって一部が埋もれ、残部が突出していてもよい。中敷下層材3Aと中敷上層材2Aとを一体に成形した場合、硬い中敷下層材3Aが中敷上層材2Aに埋もれたような構造となるであろう。
【0043】
図2(c)に示すように、中敷上層材2Aの平坦な下面に中敷下層材3Aが配置されてもよいし、図2(d)のように、中敷下層材3Aが中敷上層材2A内に埋設されていてもよい。
【0044】
図3(b)に示すように、中底上層材3Bは中底下層材2Bに向かって一部が埋もれ、一部が突出していてもよい。
【0045】
図3(c)に示すように、中底下層材2Bの平坦な上面に中底上層材3Bが配置されていてもよいし、図3(d)のように、中底上層材3Bが中底下層材2B内に埋設されていてもよい。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例を図面にしたがって説明する。
本発明において、図1の各エリアS1〜S3,Hや硬質材(中敷下層材3Aおよび中底上層材3B)の平面的な配置については、中敷Aと中底Bとで同様であり、したがって、主として中敷Aについて説明する。
なお、図1および図4〜図10において、中敷上層材2A(中底下層材2B)は2点鎖線で示す。
【0047】
図1は実施例1を示す。
実施例1の中敷Aは、前足部に“ひょうたん形”の中敷下層材3Aを備える。
【0048】
中敷下層材3Aの前縁は、第2〜第4趾の趾節関節J2 〜J4 の若干手前、つまり、基節骨B32 〜B34 の骨頭と骨体との間に位置している。
中敷下層材3Aの前部の内側縁は、第1趾の基節骨B31 に概ね沿っている。
中敷下層材3Aの後部の内側部分は、第1趾の中足骨B41 を覆わず、かつ、第2趾の中足骨B41 の概ね全部を覆う。
【0049】
中敷下層材3Aの前部の外側縁は、第5趾の基節骨B35 の上に配置されている。中敷下層材3Aの後部の外側縁は、第4趾の中足骨B44 の上に配置されている。
【0050】
図4は実施例2を示す。
この実施例では、中敷下層材3Aが前足部から中足部に連なっている。すなわち、中敷下層材3Aは中足部の足のアーチを覆っており、硬質エリアHが中足部まで延びている。これにより、シューズ自体の安定性および反発性が増大する。
後足部は中敷下層材3Aにより覆われていない。
【0051】
中敷下層材3Aの中央前縁は、第2および第3趾の趾節関節J2 、J3 の若干手前、つまり、基節骨B32 、B33 の骨頭と骨体との間に位置している。
中敷下層材3Aの前部の内側縁は、第1趾のB31 と第2趾のB32 との間から後方に延び、第2趾のMP関節MP2 およびその前後において内側括れ部31を有している。
【0052】
中敷下層材3Aの内側の前縁は、第1趾の中足骨B41 を横断する。一方、中敷下層材3Aの外側の前縁は第4趾および第5趾の中足骨B44 、B45 を外側に向かって斜め後方に横断する。
【0053】
中敷下層材3Aの前部の外側縁は、概ね第3趾基節骨B33 と第4趾基節骨B34 との間に位置し、第3趾のMP関節MP3 ないし中足骨B43 の骨頭付近に括れ部32を有し、これらの部位の外側は中敷下層材3Aに覆われていない。
なお、本実施例においても、中敷下層材3AはMP関節MPの若干後方において最も幅が狭くなっている。
【0054】
また、前記中敷下層材3AにおけるMP関節およびそのMP関節の前後の部位には、複数の第1貫通孔41が形成されている。この貫通孔41は、足の外側OUTから内側INに向かって若干前方に傾斜した横長の楕円形状であり、これにより、MP関節MPにおける足の屈曲性が阻害されないようにしている。
【0055】
図5の実施例3に示すように、中敷下層材3Aには多数の小さな第2貫通孔42を設けて、中敷下層材3Aを更に屈曲し易くしてもよい。また、中敷下層材3Aには意匠上の第3貫通孔43を設けてもよい。これらの貫通孔41〜43は中敷下層材3Aの軽量化にも役立つ。
なお、中敷上層材2Aにも多数の貫通孔を設けてもよいし、切欠き等により足裏の一部を覆っていなくてもよい。
【0056】
前記中敷下層材3Aの前端部分は、図6のように足の内外に張り出して(突出して)いてもよいし、更に、図7のように、足の前方に向かって張り出していてもよい。また、中敷下層材3Aは、中足部の内側および外側の縁部を覆っていない形状としてもよい。
【0057】
また、図8のように、中敷下層材3Aが3つ叉状で、母趾球O1(図4)の内側や小趾球O5(図4)の外側にも配置されていてもよい。更に、第1軟質エリアS1と第2軟質エリアS2および第3軟質エリアS3とが中敷下層材3Aで分離されていてもよい。
【0058】
また、図5の貫通孔41に代えて、図9のような足の前後に長い第4貫通孔44を設けてもよい。また、図10のように、中敷下層材3Aを逆T字状に形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は種々の運動競技に適した靴の中敷および中底に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の実施例1にかかる中敷および中底の前足および中足部の前部と足の骨格との関係を示す平面図である。
【図2】中敷の横断面図である。
【図3】(a)は本底を除いた靴の概略横断面図、(b)〜(d)は中底の横断面図である。
【図4】本発明の実施例2にかかる中敷および中底と足の骨格との関係を示す平面図である。
【図5】本発明の実施例3にかかる中敷および中底を示す平面図である。
【図6】同実施例4を示す平面図である。
【図7】同実施例5を示す平面図である。
【図8】同実施例6を示す平面図である。
【図9】同実施例7を示す平面図である。
【図10】同実施例8を示す平面図である。
【図11】中敷および中底の部材の硬度および厚さを示す図表である。
【符号の説明】
【0061】
A:中敷
B:中底
B1i :末節骨
B3i :基節骨
B4i :中足骨
MPi :MP関節
Ji :趾節関節
O1:母趾球
O5:小趾球
Oc:中心
1:表面材
2A:中敷上層材,2B:中底下層材
3A:中敷下層材,3B:中底上層材
50:凹部
51:段差
100:アッパー
IN:内側
OUT:外側
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前足部の概ね全域を覆う軟質エラストマーからなる中敷上層材(2A)と、
前記軟質エラストマーよりも硬度の大きいエラストマーで形成され、下記の硬質エリア(H)に相当する部位に設けられ、かつ、下記の第1、第2および第3軟質エリア(S1〜S3)を覆わない硬質エラストマーからなる中敷下層材(3A)とを備え、
前記第1軟質エリア(S1)は、第1趾〜第4趾の末節骨(B11 〜B14 )および第1趾〜第3趾の趾節関節(J1 〜J3 )を含み、
前記第2軟質エリア(S2)は、母趾球(O1)の中心(Oc)および母趾球(O1)の外側部分(O1out)を含み、
前記第3軟質エリア(S3)は、小趾球(O5)の中心(Oc)および小趾球(O5)の内側部分(O5in)を含み、
前記硬質エリア(H)は、第2趾および第3趾の各基節骨(B32 ,B33 )の骨体の少なくとも一部と、第2趾および第3趾の各MP関節(MP2 ,MP3 )の少なくとも一部と、第2趾および第3趾の各中足骨(B42 ,B43 )の骨体の少なくとも一部を含み、
前記中敷上層材(2A)の下面に前記中敷下層材(3A)が積層され、かつ、前記中敷上層材(2A)が中敷下層材(3A)の概ね全域を覆うことで、前記各軟質エリア(S1〜S3)および硬質エリアHが形成されている中敷。
【請求項2】
請求項1において、前記第2軟質エリア(S2)には前記母趾球(O1)の全域および第1趾基節骨(B31 )の骨底の全域が含まれ、
前記第3軟質エリア(S3)には前記小趾球(O5)の全域および第5趾基節骨(B35 )の骨底の全域が含まれていることを特徴とする中敷。
【請求項3】
請求項1もしくは2において、前記第2軟質エリア(S2)には前記母趾球(O1)よりも内側(IN)の領域(Sin)および第1趾基節骨(B31 )の骨底よりも内側(IN)の領域(Sin)が含まれ、
前記第3軟質エリア(S3)には前記小趾球(O5)よりも外側(OUT)の領域(Sout)および第5趾基節骨(B35 )の骨底の外側(OUT)の領域(Sout)が含まれていることを特徴とする中敷。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記中敷下層材(3A)は前記母趾球(O1)の外側(OUT)に沿って括れた内側括れ部(31)を有し、かつ、前記小趾球(O5)の内側(IN)に沿って括れた外側括れ部(32)を有することを特徴とする中敷。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記第2および第3軟質エリア(S2,S3)が、それぞれ、前記第1軟質エリア(S1)に連なって略逆U字状のU字エリア(S)が形成されていることを特徴とする中敷。
【請求項6】
少なくとも前足部の概ね全域を覆う軟質エラストマーからなる中底下層材(2B)と、
前記軟質エラストマーよりも硬度の大きいエラストマーで形成され、下記の硬質エリア(H)に相当する部位に設けられ、かつ、下記の第1、第2および第3軟質エリア(S1〜S3)を覆わない硬質エラストマーからなる中底上層材(3B)とを備え、
前記第1軟質エリア(S1)は、第1趾〜第4趾の末節骨(B11 〜B14 )および第1趾〜第3趾の趾節関節(J1 〜J3 )を含み、
前記第2軟質エリア(S2)は、母趾球(O1)の中心(Oc)および母趾球(O1)の外側部分(O1out)を含み、
前記第3軟質エリア(S3)は、小趾球(O5)の中心(Oc)および小趾球(O5)の内側部分(O5in)を含み、
前記硬質エリア(H)は、第2趾および第3趾の各基節骨(B32 ,B33 )の骨体の少なくとも一部と、第2趾および第3趾の各MP関節(MP2 ,MP3 )の少なくとも一部と、第2趾および第3趾の各中足骨(B42 ,B43 )の骨体の少なくとも一部を含み、
前記中底下層材(2B)の上面に前記中底上層材(3B)が積層され、かつ、前記中底下層材(2B)が中底上層材(3B)の概ね全域を覆うことで、前記各軟質エリア(S1〜S3)および硬質エリア(H)が形成されている中底。
【請求項7】
請求項6において、前記第2軟質エリア(S2)には前記母趾球(O1)の全域および第1趾基節骨(B31 )の骨底の全域が含まれ、
前記第3軟質エリア(S3)には前記小趾球(O5)の全域および第5趾基節骨(B35 )の骨底の全域が含まれていることを特徴とする中底。
【請求項8】
請求項6もしくは7において、前記第2軟質エリア(S2)には前記母趾球(O1)よりも内側(IN)の領域(Sin)および第1趾基節骨(B31 )の骨底よりも内側(IN)の領域(Sin)が含まれ、
前記第3軟質エリア(S3)には前記小趾球(O5)よりも外側(OUT)の領域(Sout)および第5趾基節骨(B35 )の骨底の外側(OUT)の領域(Sout)が含まれていることを特徴とする中底。
【請求項9】
請求項6ないし8のいずれか1項において、前記中底上層材(3B)は前記母趾球(O1)の外側(OUT)に沿って括れた内側括れ部(31)を有し、かつ、前記小趾球(O5)の内側(IN)に沿って括れた外側括れ部(32)を有することを特徴とする中底。
【請求項10】
請求項6ないし9のいずれか1項において、前記第2および第3軟質エリア(S2,S3)が、それぞれ、前記第1軟質エリア(S1)に連なって略逆U字状のU字エリア(S)が形成されていることを特徴とする中底。
【請求項1】
少なくとも前足部の概ね全域を覆う軟質エラストマーからなる中敷上層材(2A)と、
前記軟質エラストマーよりも硬度の大きいエラストマーで形成され、下記の硬質エリア(H)に相当する部位に設けられ、かつ、下記の第1、第2および第3軟質エリア(S1〜S3)を覆わない硬質エラストマーからなる中敷下層材(3A)とを備え、
前記第1軟質エリア(S1)は、第1趾〜第4趾の末節骨(B11 〜B14 )および第1趾〜第3趾の趾節関節(J1 〜J3 )を含み、
前記第2軟質エリア(S2)は、母趾球(O1)の中心(Oc)および母趾球(O1)の外側部分(O1out)を含み、
前記第3軟質エリア(S3)は、小趾球(O5)の中心(Oc)および小趾球(O5)の内側部分(O5in)を含み、
前記硬質エリア(H)は、第2趾および第3趾の各基節骨(B32 ,B33 )の骨体の少なくとも一部と、第2趾および第3趾の各MP関節(MP2 ,MP3 )の少なくとも一部と、第2趾および第3趾の各中足骨(B42 ,B43 )の骨体の少なくとも一部を含み、
前記中敷上層材(2A)の下面に前記中敷下層材(3A)が積層され、かつ、前記中敷上層材(2A)が中敷下層材(3A)の概ね全域を覆うことで、前記各軟質エリア(S1〜S3)および硬質エリアHが形成されている中敷。
【請求項2】
請求項1において、前記第2軟質エリア(S2)には前記母趾球(O1)の全域および第1趾基節骨(B31 )の骨底の全域が含まれ、
前記第3軟質エリア(S3)には前記小趾球(O5)の全域および第5趾基節骨(B35 )の骨底の全域が含まれていることを特徴とする中敷。
【請求項3】
請求項1もしくは2において、前記第2軟質エリア(S2)には前記母趾球(O1)よりも内側(IN)の領域(Sin)および第1趾基節骨(B31 )の骨底よりも内側(IN)の領域(Sin)が含まれ、
前記第3軟質エリア(S3)には前記小趾球(O5)よりも外側(OUT)の領域(Sout)および第5趾基節骨(B35 )の骨底の外側(OUT)の領域(Sout)が含まれていることを特徴とする中敷。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記中敷下層材(3A)は前記母趾球(O1)の外側(OUT)に沿って括れた内側括れ部(31)を有し、かつ、前記小趾球(O5)の内側(IN)に沿って括れた外側括れ部(32)を有することを特徴とする中敷。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、前記第2および第3軟質エリア(S2,S3)が、それぞれ、前記第1軟質エリア(S1)に連なって略逆U字状のU字エリア(S)が形成されていることを特徴とする中敷。
【請求項6】
少なくとも前足部の概ね全域を覆う軟質エラストマーからなる中底下層材(2B)と、
前記軟質エラストマーよりも硬度の大きいエラストマーで形成され、下記の硬質エリア(H)に相当する部位に設けられ、かつ、下記の第1、第2および第3軟質エリア(S1〜S3)を覆わない硬質エラストマーからなる中底上層材(3B)とを備え、
前記第1軟質エリア(S1)は、第1趾〜第4趾の末節骨(B11 〜B14 )および第1趾〜第3趾の趾節関節(J1 〜J3 )を含み、
前記第2軟質エリア(S2)は、母趾球(O1)の中心(Oc)および母趾球(O1)の外側部分(O1out)を含み、
前記第3軟質エリア(S3)は、小趾球(O5)の中心(Oc)および小趾球(O5)の内側部分(O5in)を含み、
前記硬質エリア(H)は、第2趾および第3趾の各基節骨(B32 ,B33 )の骨体の少なくとも一部と、第2趾および第3趾の各MP関節(MP2 ,MP3 )の少なくとも一部と、第2趾および第3趾の各中足骨(B42 ,B43 )の骨体の少なくとも一部を含み、
前記中底下層材(2B)の上面に前記中底上層材(3B)が積層され、かつ、前記中底下層材(2B)が中底上層材(3B)の概ね全域を覆うことで、前記各軟質エリア(S1〜S3)および硬質エリア(H)が形成されている中底。
【請求項7】
請求項6において、前記第2軟質エリア(S2)には前記母趾球(O1)の全域および第1趾基節骨(B31 )の骨底の全域が含まれ、
前記第3軟質エリア(S3)には前記小趾球(O5)の全域および第5趾基節骨(B35 )の骨底の全域が含まれていることを特徴とする中底。
【請求項8】
請求項6もしくは7において、前記第2軟質エリア(S2)には前記母趾球(O1)よりも内側(IN)の領域(Sin)および第1趾基節骨(B31 )の骨底よりも内側(IN)の領域(Sin)が含まれ、
前記第3軟質エリア(S3)には前記小趾球(O5)よりも外側(OUT)の領域(Sout)および第5趾基節骨(B35 )の骨底の外側(OUT)の領域(Sout)が含まれていることを特徴とする中底。
【請求項9】
請求項6ないし8のいずれか1項において、前記中底上層材(3B)は前記母趾球(O1)の外側(OUT)に沿って括れた内側括れ部(31)を有し、かつ、前記小趾球(O5)の内側(IN)に沿って括れた外側括れ部(32)を有することを特徴とする中底。
【請求項10】
請求項6ないし9のいずれか1項において、前記第2および第3軟質エリア(S2,S3)が、それぞれ、前記第1軟質エリア(S1)に連なって略逆U字状のU字エリア(S)が形成されていることを特徴とする中底。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
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【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−12203(P2008−12203A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−188834(P2006−188834)
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000000310)株式会社アシックス (57)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年7月10日(2006.7.10)
【出願人】(000000310)株式会社アシックス (57)
【Fターム(参考)】
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