説明

乾式摩擦材及びその製造方法

【課題】乾式摩擦材及びその製造方法において、乾式摩擦材の全体としての材料歩留まりを大きく向上させるとともに、裏面の研磨工程を省略して製造工程を短縮できること。
【解決手段】ガラス繊維を束ねたガラスロービング2に含浸液3を含浸させて樹脂含浸紐4が形成され、配合ゴム5を付着させて配合ゴム樹脂含浸紐6とし、所定の大きさに巻取られて巻取り品7となる。一方、フェノール樹脂粉末8に、粉体としての炭酸カルシウム微粉末9が混合されて、ミキサーで均一に分散させられ、混合粉体10となる。続いて、この混合粉体10が金型内に均一な厚さになるように充填され、その上から巻取り品7が充填される充填工程が実施される。最終的には、金型の下層に充填された混合粉体10が裏面層1Bを構成し、上層に充填された巻取り品7が摩擦層1Aを構成して、摩擦層1Aの表面のみが研磨される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式の摩擦材、例えば、自動車等に用いられるクラッチフェーシング、ダンパー、ブレーキフェーシング、トルクリミッター等を構成する乾式摩擦材及びその製造方法に関し、特に、裏面の研磨工程を省略することができる乾式摩擦材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クラッチフェーシング、ダンパー、ブレーキフェーシング、トルクリミッター等を始めとする乾式摩擦材を含むシステムにおいて、乾式摩擦材の製造方法としては、基材となるガラス長繊維を束ねた繊維束(ガラスロービング)に熱硬化性樹脂を含む含浸液を含浸させて樹脂含浸紐を形成する樹脂含浸工程と、樹脂含浸紐に配合ゴムを付着させるゴム付着工程とを有する方法が知られている。
その後、樹脂含浸紐に配合ゴムを付着させたものを所定寸法に巻き取り、金型に押し込んで熱成形をした後に熱処理を行う。そして、この熱処理品の表裏を研磨することによって乾式摩擦材が製造される。
【0003】
このようにして製造される乾式摩擦材においては、熱処理品の表裏両面を0.5mm程度ずつ研磨するため、材料の歩留まりが低いものであった。
そこで、特許文献1においては、熱処理品の表裏にSBR(スチレン−ブタジエンゴム)等の安価な研磨部材を積層し、0.5mmの研磨代に安価な研磨部材を含めることによって、最終的に乾式摩擦材(クラッチフェーシング)を構成する高価な材料の歩留まりを向上させるクラッチフェーシングの製造方法の発明が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平08−135700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献2に記載の技術においては、やはり表裏両面を研磨するため製造工程を短縮することができず、また研磨された安価な研磨部材の粉(研磨粉)を再利用することが困難であることから、研磨粉が廃材となってしまい、製造工程全体としての材料歩留まりは余り向上していないという問題点があった。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであって、乾式摩擦材の全体としての材料歩留まりを大きく向上させるとともに、裏面の研磨工程を省略して製造工程を短縮することができる乾式摩擦材及びその製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明に係る乾式摩擦材は、摩擦にかかる特性を有する摩擦層と前記摩擦にかかる特性を有しない裏面層とを具備する乾式摩擦材であって、前記摩擦層はガラス繊維とガラス繊維含浸用合成樹脂と配合ゴムとを含有し、前記裏面層は合成樹脂と粉体とを含有するものである。
【0008】
ここで、ガラス繊維含浸用合成樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂を始めとする熱硬化性樹脂等を用いることができ、特に、メラミン変性フェノール樹脂を始めとする変性フェノール樹脂を用いることができる。
また、配合ゴムとは、乾式摩擦材を構成する材料であって、合成ゴム・天然ゴム等のゴム、カーボンブラック等の顔料、硫黄、加硫促進剤、レジンダスト・炭酸カルシウム等の充填材等を含有するゴムを主体とし、必要に応じて顔料、硫黄、加硫促進剤、充填材等を含有する混合物である。
更に、合成ゴムとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR,二トリルゴムとも言う)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)等を単独で、または混合して用いるものである。
【0009】
また、裏面層の合成樹脂としては、熱硬化性樹脂を始めとして、耐熱性を有するものであれば、熱可塑性樹脂の中でもエンジニアリング・プラスチック(以下、「エンプラ」ともいう。)、スーパー・エンジニアリング・プラスチック(以下、「スーパーエンプラ」ともいう。)を用いることができる。
【0010】
熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等がある。
また、エンプラとしては、ポリアミド(ナイロン等)、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン等がある。
そして、スーパーエンプラとしては、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド等がある。
【0011】
請求項2の発明に係る乾式摩擦材は、請求項1の構成において、前記粉体は、前記摩擦層の表面を研磨する際に生ずる研磨粉であるものである。
【0012】
請求項3の発明に係る乾式摩擦材は、請求項1または請求項2の構成において、前記摩擦層の厚さは、1.2mm〜2.5mmの範囲内、より好ましくは1.5mm〜2.0mmの範囲内であるものである。
【0013】
請求項4の発明に係る乾式摩擦材は、請求項1乃至請求項3の何れか1つの構成において、前記乾式摩擦材は芯金の表面に接合してなるものである。
【0014】
ここで、芯金の材質としては金属が主として用いられるが、金属に限られるものではなく、耐熱性及び強度を有するものであれば、熱硬化性樹脂や、上述したエンプラ、スーパーエンプラ等の高強度・高耐熱性の熱可塑性樹脂を用いることもできる。
【0015】
金属としては、鉄、炭素鋼、ステンレス鋼、真鍮、黄銅等を用いることができる。
また、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、ポリウレタン、熱硬化性ポリイミド等を用いることができる。
【0016】
更に、エンプラとしては、ナイロンを始めとするポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ガラス繊維強化ポリエチレンテレフタレート、環状ポリオレフィン等を用いることができる。
また、スーパーエンプラとしては、ポリフェニレンスルフィド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルサルフォン、非晶ポリアリレート、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。
【0017】
請求項5の発明に係る乾式摩擦材の製造方法は、ガラス繊維を束ねたガラスロービングに熱硬化性樹脂を含む含浸液を含浸させて樹脂含浸紐を形成する樹脂含浸工程と、前記樹脂含浸紐に配合ゴムを付着させて配合ゴム樹脂含浸紐とするゴム付着工程と、前記配合ゴム樹脂含浸紐を円形に巻きながら巻取り品とする巻取り工程と、合成樹脂粉末と粉体とを均一に混合して混合粉体とする混合工程と、前記混合粉体を金型に充填し、その上から前記巻取り品を充填する充填工程と、前記金型をプレスして前記混合粉体及び前記巻取り品を成形してプレス成形体とするプレス成形工程と、前記金型を加熱して前記プレス成形体を熱処理品とする熱処理工程と、前記熱処理品の前記巻取り品側の表面を研磨する研磨工程とを具備するものである。
【0018】
請求項6の発明に係る乾式摩擦材の製造方法は、請求項5の構成において、更に、芯金の表面に前記熱処理品の研磨されていない側の面を接合する接合工程を具備するものである。
【0019】
請求項7の発明に係る乾式摩擦材の製造方法は、請求項5または請求項6の構成において、前記粉体は、前記研磨工程において生ずる研磨粉としたものである。
【0020】
請求項8の発明に係る乾式摩擦材の製造方法は、請求項5乃至請求項7の何れか1つの構成において、前記研磨工程において研磨された後の前記巻取り品側の厚さは、1.2mm〜2.5mmの範囲内、より好ましくは1.5mm〜2.0mmの範囲内であるものである。
【発明の効果】
【0021】
請求項1の発明に係る乾式摩擦材は、摩擦層と裏面層とを具備する乾式摩擦材であって、摩擦層はガラス繊維とガラス繊維含浸用合成樹脂と配合ゴムとを含有し、裏面層は合成樹脂(合成樹脂粉末)と粉体とを含有する。
この構成について、図1及び図2を参照して説明する。
【0022】
従来の乾式摩擦材は、摩擦材部分の全体がガラス繊維とガラス繊維含浸用合成樹脂と配合ゴムとから構成されており、これを金型に充填してプレス成形し、熱処理した後に表裏両面を研磨してプレート(芯金)に固着されていた。
このうち、摩擦面の表面の研磨は、プレス成形−熱処理の際に生成する摩擦には適していないスキン層を除去するためにも、また摩擦面の平滑性を確保するためにも必要な工程である。
これに対して、裏面は摩擦には関与しないため、摩擦に適さないスキン層が残っていても問題はなかった。
【0023】
しかしながら、裏面の研磨工程を廃止しようとすると、図1に示されるように、ガラス繊維+含浸用合成樹脂Aと配合ゴムBとの熱収縮率の違いによる裏面の凹凸が問題となる。
一方、図2に示されるように、厚さ3mm〜4mmの乾式摩擦材の摩擦材部分のうち、実際の使用時に摩擦に関与して摩耗する部分の摩擦代の厚さは1.2mm〜1.8mmに過ぎないという事実がある。
そこで、本発明者は、摩擦代に含まれない層の部分を摩擦代とは異なる材料で構成することによって、裏面の平面性を確保して裏面の研磨工程を廃止することにした。
【0024】
即ち、図2に示される実際に摩擦に関与する摩擦層は、従来通りガラス繊維とガラス繊維含浸用合成樹脂と配合ゴムとで構成し、裏面層は合成樹脂(合成樹脂粉末)と粉体とで構成することによって、裏面層は成形性に優れた合成樹脂(合成樹脂粉末)でプレス成形−熱処理の工程で平面性を確保して研磨を不要とし、摩擦層は従来と同様に研磨してスキン層を除去するとともに摩擦面の平滑性を確保するものである。
これによって、裏面を研磨しないため材料の歩留まりが大幅に向上し、裏面の研磨工程が廃止されることから製造工程が短縮される。
【0025】
このようにして、乾式摩擦材の全体としての材料歩留まりを大きく向上させるとともに、裏面の研磨工程を省略して製造工程を短縮することができる乾式摩擦材となる。
【0026】
請求項2の発明に係る乾式摩擦材においては、粉体として摩擦層の表面を研磨する際に生ずる研磨粉を使用することから、請求項1に係る発明の効果に加えて、研磨粉をリサイクルすることができ、材料の歩留まりを更に大幅に向上させることができる。また、研磨粉を再利用することで材料費の低減が可能となる。
【0027】
請求項3の発明に係る乾式摩擦材においては、摩擦層の厚さが1.2mm〜2.5mmの範囲内であることから、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加えて、より確実に低コストで高性能の乾式摩擦材を得ることができる。
即ち、摩擦層の厚さが1.2mm未満であると、摩擦層が薄過ぎて実際の使用時に摩擦に関与して摩耗する部分(摩擦代)の厚さを確保することができない恐れがあり、一方、摩擦層の厚さが2.5mmを超えると、摩擦層が厚過ぎて実際の使用時に摩擦に関与しない部分に高価な材料を使用することになり、材料費の低減ができない。したがって、摩擦層の厚さは、1.2mm〜2.5mmの範囲内であることが好ましい。
【0028】
なお、摩擦層の厚さが1.5mm〜2.0mmの範囲内であれば、より一層確実に低コストで高性能の乾式摩擦材を得ることができることから、より好ましい。
【0029】
請求項4の発明に係る乾式摩擦材においては、乾式摩擦材は芯金の表面に接合されることから、請求項1乃至請求項3に係る発明の効果に加えて、構造がより簡単になるため、更に低コストで製造することができる。
また、裏面層は成形性に優れた合成樹脂(合成樹脂粉末)でプレス成形−熱処理の工程で平面性が確保されているから、芯金の表面に密着性を保持しながら接合することができ、摩擦特性に不具合をもたらすことなく優れた摩擦特性を有する乾式摩擦材となる。
【0030】
請求項5の発明に係る乾式摩擦材の製造方法は、樹脂含浸工程において、ガラス繊維を束ねたガラスロービングに熱硬化性樹脂を含む含浸液を含浸させて樹脂含浸紐が形成され、ゴム付着工程において樹脂含浸紐に配合ゴムが付着させられて配合ゴム樹脂含浸紐とされ、巻取り工程において配合ゴム樹脂含浸紐が円形に巻かれながら巻取り品とされる。
【0031】
続いて、混合工程において、合成樹脂粉末と粉体とが均一に混合されて混合粉体となり、充填工程において、混合粉体が金型に充填されて、その上から巻取り品が充填される。そして、プレス成形工程において、金型がプレスされて混合粉体及び巻取り品が成形されてプレス成形体とされ、更に熱処理工程において金型が加熱されてプレス成形体が熱処理品とされる。
これによって、合成樹脂粉末と粉体からなる混合粉体は、金型の平滑度を転写した平滑面を有する裏面層を形成するため、裏面の研磨工程が不要となる。
【0032】
その後、研磨工程において熱処理品の巻取り品側の表面が研磨されて、摩擦面が形成される。これによって、裏面の研磨工程を省略して乾式摩擦材を製造することができる。
このようにして、乾式摩擦材の全体としての材料歩留まりを大きく向上させるとともに、裏面の研磨工程を省略して製造工程を短縮することができる乾式摩擦材の製造方法となる。
【0033】
請求項6の発明に係る乾式摩擦材の製造方法においては、更に、芯金の表面に前記熱処理品の研磨されていない側の面を接合する接合工程を具備することから、請求項5に係る発明の効果に加えて、裏面層は成形性に優れた合成樹脂でプレス成形工程及び熱処理工程において平面性が確保されているため、芯金の表面に密着性を保持しながら接合することができ、摩擦特性に不具合をもたらすことがなく、優れた摩擦特性を有する乾式摩擦材の製造方法となる。
【0034】
請求項7の発明に係る乾式摩擦材の製造方法においては、粉体が研磨工程において生ずる研磨粉であることから、請求項5または請求項6に係る発明の効果に加えて、研磨粉をリサイクルすることができ、材料の歩留まりを更に大幅に向上させることができる。また、研磨粉を再利用することで材料費の低減が可能となる。
【0035】
請求項8の発明に係る乾式摩擦材の製造方法においては、研磨工程において研磨された後の巻取り品側の厚さが1.2mm〜2.5mmの範囲内であることから、請求項5乃至請求項7に係る発明の効果に加えて、より確実に低コストで高性能の乾式摩擦材を得ることができる。
即ち、巻取り品側(摩擦層)の厚さが1.2mm未満であると、摩擦層が薄過ぎて実際の使用時に摩擦に関与して摩耗する部分(摩擦代)の厚さを確保することができない恐れがあり、一方、摩擦層の厚さが2.5mmを超えると、摩擦層が厚過ぎて実際の使用時に摩擦に関与しない部分に高価な材料を使用することになり、材料の歩留まりを大幅に向上させることができない。
したがって、巻取り品側(摩擦層)の厚さは、1.2mm〜2.5mmの範囲内であることが好ましい。
【0036】
なお、巻取り品側(摩擦層)の厚さが1.5mm〜2.0mmの範囲内であれば、より一層確実に低コストで高性能の乾式摩擦材を得ることができることから、より好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は従来の製造方法による乾式摩擦材の熱処理品の片面のみを研磨処理したものの縦断面の一部を示す部分縦断面図である。
【図2】図2は本発明に係る乾式摩擦材の製造方法による乾式摩擦材の部分縦断面図である。
【図3】図3は本発明の実施例に係る乾式摩擦材の製造工程を示すフローチャートである。
【図4】図4は本発明の実施例に係る乾式摩擦材の縦断面を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明を実施する形態について、図面を参照しながら説明する。
なお、実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は同一または相当する機能部分を意味するものであるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
[基本的構成]
まず、本発明に係る乾式摩擦材及びその製造方法を実施するための基本的構成について図3及び図4を参照して概略を説明する。
本発明に係る乾式摩擦材1は、用途によって決定される摩擦特性を有する摩擦層1Aと、その摩擦特性を有しない裏面層1Bとが一体に形成されてなり、摩擦層1Aは少なくともガラスロービング2等のガラス繊維と、ガラス繊維含浸用合成樹脂としてのフェノール樹脂等の含浸液3と、合成ゴムを主体とし添加剤、充填材を配合付着させた配合ゴム5とを含有し、また、裏面層1Bはフェノール樹脂粉末からなる合成樹脂粉末8と炭酸カルシウム微粉末等の粉体9とを含有するものである。
【0039】
ガラス繊維としては、強度と成形しやすさの点から、ガラスの長繊維を束にしたガラスロービング2を用いるのが好ましい。
ガラス繊維含浸用合成樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂を始めとする熱硬化性樹脂等を用いることができ、特に、メラミン変性フェノール樹脂を用いるのが好ましい。
配合ゴム5としては、合成ゴムを主体として、これに種々の添加剤や充填材を配合して付着させた材料を用いるのが好ましい。合成ゴムとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)またはスチレン−ブタジエンゴム(SBR)を単独で、或いはこれら両者を混合して用いるのが好ましい。
【0040】
また、合成樹脂粉末8としては、高強度及び耐熱性の点から熱硬化性樹脂を用いるのが好ましく、特に、汎用性があって低コストである点からフェノール樹脂またはエポキシ樹脂を用いるのが好ましい。更に、これらの熱硬化性樹脂は微細粉状で用いるのが、成形性の点からより好ましい。
粉体9としては、従来の乾式摩擦材に添加剤及び充填材として用いられる炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、酸化亜鉛、硫酸バリウム、珪藻土、シリカ、シラスバルーン、マイカ(雲母)、クレイ等の粉体を用いるのが好ましい。
【0041】
以下、本発明に係る乾式摩擦材及びその製造方法の具体的な実施の形態について、図3及び図4を参照して詳述する。まず、本実施の形態に係る乾式摩擦材の製造方法について、図3のフローチャートを参照して説明する。
【0042】
図3に示されるように、最初に、樹脂含浸工程(ステップS1)において、ガラス繊維を束ねたガラスロービング2にガラス繊維含浸用合成樹脂としてのフェノール樹脂(より詳しくはメラミン変性フェノール樹脂)を含む含浸液3を含浸させて樹脂含浸紐4が形成される。この樹脂含浸紐4に配合ゴム5を付着させるゴム付着工程(ステップS2)において、配合ゴム5が付着した樹脂含浸紐4からなる配合ゴム樹脂含浸紐6とする。
続いて、巻取り工程(ステップS3)において、配合ゴム樹脂含浸紐6が所定の大きさに巻取られて巻取り品7となる。
【0043】
なお、配合ゴム5としては、合成ゴム、カーボンブラック等の顔料、硫黄、加硫促進剤、レジンダスト・炭酸カルシウム等の充填材を含有するゴムを主体とする混合物を用いており、合成ゴムとしては、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)とスチレン−ブタジエンゴム(SBR)を混合して用いている。
【0044】
一方、混合工程(ステップS4)においては、合成樹脂粉末8としてのフェノール樹脂粉末に、粉体9としての炭酸カルシウム微粉末が混合されて、ミキサーで均一に分散させられ、混合粉体10となる。
続いて、この混合粉体10が金型内に均一な厚さになるように充填され、その上から巻取り品7が充填される充填工程(ステップS5)が実施される。ここで、金型の下層に充填された混合粉体10が裏面層1B、上層に充填された巻取り品7が摩擦層1Aとなる。
【0045】
そして、プレス成形工程(ステップS6)において、充填工程(ステップS5)で充填された巻取り品7及び混合粉体10が金型によってプレス成形され、プレス成形体11となる。プレス成形工程(ステップS6)においては、面圧15〜20MPa、温度150〜200℃で、数回のガス抜きを行って、2〜3分間加熱加圧成形する。
【0046】
このプレス成形体11を金型から取り出して、180〜220℃で4〜6時間熱処理を行う熱処理工程(ステップS7)を実施し、その後、常温まで放冷してから、この熱処理品12の巻取り品7側(表面側)のみを研磨する研磨工程(ステップS8)を実施して、本実施の形態に係る乾式摩擦材1が製造される。
【0047】
ここで、上層に充填された巻取り品7のプレス成形・熱処理後の厚さは2.0mmであり、下層に充填された混合粉体10のプレス成形・熱処理後の厚さも2.0mmであって、ステップS8の研磨工程においては、巻取り品7側(表面側)の0.5mmが研磨されて、厚さ3.5mmの乾式摩擦材1が得られる。
この乾式摩擦材1を芯金に接合する接合工程(ステップS9)が実施されて、本実施の形態に係る乾式摩擦材1の接合が完成する。
【0048】
次に、本実施の形態に係る乾式摩擦材1の製造方法における配合成分について、詳細に説明する。
摩擦層1Aを構成する巻取り品7の配合成分としては、ガラスロービング(ガラス繊維)2、ガラス繊維含浸用フェノールからなる含浸液3、配合ゴム5が主なものであり、これらの配合割合は体積%でガラスロービング(ガラス繊維)2が23vol%、ガラス繊維含浸用フェノールからなる含浸液3が12vol%、配合ゴム5が64vol%であり、他に金属線として銅線1vol%を配合して合計100vol%としている。
【0049】
更に、配合ゴム5の成分の内訳としては、ゴム(アクリロニトリル−ブタジエンゴムとスチレン−ブタジエンゴムの混合物)20vol%、カーボンブラック3vol%、硫黄2vol%、酸化亜鉛1vol%、加硫促進剤1vol%、フェノール樹脂粉末12vol%、レジンダスト13vol%、炭酸カルシウム10vol%、珪藻土2vol%を用いている。
【0050】
一方、裏面層1Bを構成する混合粉体10の配合成分としては、合成樹脂粉末8としてのフェノール樹脂粉末が体積%で30vol%、粉体9としての炭酸カルシウムが70vol%で、合計100vol%としている。以上の配合を有する乾式摩擦材1を、実施例1とした。
これに対して、実施例2として、粉体9としての炭酸カルシウムの代わりに、図3のステップS7の研磨工程において巻取り品7側(表面側)を研磨して得られた研磨粉を70vol%用いたものを製造した。
本発明の実施例1及び実施例2に係る乾式摩擦材の各配合を、表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示されるように、実施例2に係る配合が実施例1に係る配合と異なるのは、裏面層1Bに炭酸カルシウムを70vol%用いる代わりに、研磨粉を70vol%用いた点のみであり、その他は裏面層1Bにフェノール樹脂粉末を30vol%用いる点も、摩擦層1Aの成分と配合量も、全て同一である。
【0053】
これらの配合成分を、図3で説明した製造工程に従って、樹脂含浸工程(S1)、ゴム付着工程(S2)、巻取り工程(S3)、粉体の混合工程(S4)、金型への充填工程(S5)、プレス成形工程(S6)、熱処理工程(S7)、そして摩擦面の研磨工程(S8)を行うことによって、図4に示されるような摩擦層1A及び裏面層1Bからなる摩擦材基材が製造される。
【0054】
ここで、裏面層1Bの表面(裏面)は研磨されていないが、合成樹脂粉末8としてのフェノール樹脂粉末の優れた成形性によって、金型の平滑面が転写された平滑面となっているために、芯金1Cの平滑な表面に密着させて接合することができる。
したがって、乾式摩擦材1として使用された場合にも、摩擦層1Aの摩擦面の全面に亘って均一に圧力を掛けることができ、優れた摩擦特性を得ることができる。
なお、乾式摩擦材1を芯金1Cに接合する方法としては、接着剤による接着やリベット等を用いた機械的な固定方法等を採用することができる。
【0055】
ここで、混合粉体10の配合成分として研磨粉を用いた実施例2の乾式摩擦材においても、図4に示されるように、裏面層1Bの表面(裏面)として平滑な面が得られており、実施例1及び実施例2のいずれの乾式摩擦材も、摩擦層1Aの摩擦面は従来の乾式摩擦材と同様の製造工程によっていることから、従来の乾式摩擦材と同等以上の摩擦特性を得ることができる。
したがって、裏面層1Bの70vol%を占める粉体として、本来なら廃棄物となる研磨粉を使用して、従来の乾式摩擦材と同等以上の摩擦特性を有する乾式摩擦材1を製造できることから、材料の歩留まりを限りなく100%に近づけることができる。
【0056】
このようにして、本実施の形態に係る乾式摩擦材1及びその製造方法においては、乾式摩擦材の全体としての材料歩留まりを大きく向上させることができるとともに、裏面の研磨工程を省略して製造工程を短縮することができる。
【0057】
本実施の形態においては、含浸液3にガラス繊維含浸用合成樹脂としてメラミン変性フェノール樹脂を用いた場合について説明したが、その他の変性フェノール樹脂、エポキシ樹脂を始めとするその他の熱硬化性樹脂等を用いることもできる。特に、メラミン変性フェノール樹脂は容易に入手できるとともに耐熱性に優れているため、乾式摩擦材の材料としてのガラス繊維含浸用合成樹脂として好ましい。
【0058】
また、本実施の形態においては、配合ゴム5として、合成ゴムに、カーボンブラック、硫黄、酸化亜鉛、加硫促進剤、フェノール樹脂粉末、レジンダスト、炭酸カルシウム、珪藻土を添加したものを用いた場合について説明したが、配合ゴム5としてはこれらの添加物を添加したものに限られるものではなく、合成ゴムを主体として、これに種々の添加剤や充填材を配合して付着させた材料を用いることができる。
【0059】
更に、本実施の形態においては、合成ゴムとして、アクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR,二トリルゴム)とスチレン−ブタジエンゴム(SBR)の混合物を用いた場合について説明したが、NBR、SBRを始めとするその他の種々の合成ゴムを単独で、または混合して用いることもできる。
【0060】
本発明を実施するに際しては、乾式摩擦材1のその他の部分の組成、成分、配合量、材質、大きさ、製造方法等についても、また、乾式摩擦材の製造方法のその他の工程についても、本実施の形態に限定されるものではない。
【0061】
なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、臨界値を示すものではなく、実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0062】
1 乾式摩擦材
1A 摩擦層
1B 裏面層
2 ガラスロービング
3 含浸液
4 樹脂含浸紐
5 配合ゴム
6 配合ゴム樹脂含浸紐
7 巻取り品
8 合成樹脂粉末
9 粉体
10 混合粉体
11 プレス成形体
12 熱処理品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦にかかる特性を有する摩擦層と前記摩擦にかかる特性を有しない裏面層とが一体に形成されてなる乾式摩擦材であって、
前記摩擦層はガラス繊維とガラス繊維含浸用合成樹脂と配合ゴムとを含有し、前記裏面層は合成樹脂と粉体とを含有することを特徴とする乾式摩擦材。
【請求項2】
前記粉体は、前記摩擦層の表面を研磨する際に生ずる研磨粉であることを特徴とする請求項1に記載の乾式摩擦材。
【請求項3】
前記摩擦層の厚さは、1.2mm〜2.5mmの範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乾式摩擦材。
【請求項4】
前記乾式摩擦材は、芯金の表面に接合したことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の乾式摩擦材。
【請求項5】
ガラス繊維を束ねたガラスロービングに熱硬化性樹脂を含む含浸液を含浸させて樹脂含浸紐を形成する樹脂含浸工程と、
前記樹脂含浸紐に配合ゴムを付着させて配合ゴム樹脂含浸紐とするゴム付着工程と、
前記配合ゴム樹脂含浸紐を円形に巻きながら巻取り品とする巻取り工程と、
合成樹脂粉末と粉体とを均一に混合して混合粉体とする混合工程と、
前記混合粉体を金型に充填し、その上から前記巻取り品を充填する充填工程と、
前記金型をプレスして前記混合粉体及び前記巻取り品を成形してプレス成形体とするプレス成形工程と、
前記金型を加熱して前記プレス成形体を熱処理品とする熱処理工程と、
前記熱処理品の前記巻取り品側の表面を研磨する研磨工程と
を具備することを特徴とする乾式摩擦材の製造方法。
【請求項6】
更に、芯金の表面に前記熱処理品の研磨されていない側の面を接合する接合工程を具備することを特徴とする請求項5に記載の乾式摩擦材の製造方法。
【請求項7】
前記粉体は、前記研磨工程において生ずる研磨粉であることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の乾式摩擦材の製造方法。
【請求項8】
前記研磨工程において研磨された後の前記巻取り品側の厚さは、1.2mm〜2.5mmの範囲内であることを特徴とする請求項5乃至請求項7の何れか1つに記載の乾式摩擦材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−252126(P2011−252126A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−128617(P2010−128617)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)