説明

乾燥剤組成物、乾燥剤成型品、及びその平衡湿度制御方法、並びに平衡湿度維持時間の制御方法

【課題】 熱可塑性樹脂に乾燥剤を混練してなる乾燥剤組成物、乾燥剤成型品において、同一種の樹脂でも樹脂の比重を変更することによって異なる平衡湿度を発現させ、多様化する商品の好適な保存環境を容易に形成可能とする技術を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂に乾燥剤を混練してなる乾燥剤組成物において、乾燥剤の分散時における2次粒子径が1〜40μmとなるように、乾燥剤を混練して、熱可塑性樹脂の比重を選定することにより、平衡湿度を制御して乾燥剤組成物を得るようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥剤組成物、乾燥剤成型品に関し、特に湿度を一定湿度に保持し得る調湿機能のある乾燥剤組成物、乾燥剤成型品、さらにはその平衡湿度の制御方法、平衡湿度維持時間の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食品、医薬品、電子部品、精密機械等のあらゆる分野において吸湿に起因する酸化等による商品等の品質劣化を防ぐ目的で、シリカゲル、塩化カルシウム、生石灰、ゼオライト等の乾燥剤が使用されている。これらの乾燥剤は、粒状あるいは粉状の状態で、紙、不織布等によって包装されるか、もしくは、容器等に封入された状態で商品とともに包材へ投入されて用いられている。
これに対して、熱可塑性樹脂に特定の乾燥剤(例えば硫酸マグネシウム)を混練して、高い吸湿力及び保水力を有するとともに、飛散性、吸湿性、潮解性による液体漏洩等の欠点を生じないようにした乾燥剤組成物、及び乾燥剤成型品を提供しようとしたものとして、例えば特許文献1、2がある。
【0003】
一方、近年の商品ニーズの多様化、製造技術の高度化等によって、様々な商品の開発が進んでおり、それに伴って商品等の保存環境も多様化する傾向に有る。例えば、穀物の類は、含有水分が低すぎると割れ等が発生し、逆に水分が多すぎると酵素反応が進んで品質の劣化が生じるため、その平衡湿度域(RH50%前後)で保存できる環境が望ましい保存環境といえる。また、茶葉の様に水分をある程度飛ばした製品は、吸湿により含水率が上昇すると酵素反応や酸化で品質劣化が生じてしまうため、その平衡湿度域(RH20%前後)で保存できる環境が望ましい保存環境となる。
【0004】
ところが、従来より乾燥剤として使用されているシリカゲル、塩化カルシウム、生石灰、ゼオライト等の乾燥剤はその物理的、化学的性質により乾燥力や吸湿力が強く、密封した容器及び袋等に入れると短期間にその内部の水分を取り、湿度0%になるまで限りなく内部の水分を取り続けるものであり、湿度調節機能を有しておらず、多様化する商品の保存に対応できないという問題があった。
これに対して、熱可塑性樹脂に特定の乾燥剤(硫酸マグネシウム)を混練して、調湿機能を有する調湿性組成物、及び調湿性成形品を提供しようとしたものとして、例えば特許文献3がある。
【0005】
【特許文献1】特公平7−53222
【特許文献2】特公平7−96092
【特許文献3】特開平5−39379
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
熱可塑性樹脂に特定の乾燥剤として硫酸マグネシウムを練り込んだ場合、樹脂と硫酸マグネシウムの複合体が一定の蒸気圧を示すようになるが、上記特許文献3においては、この時の蒸気圧が、硫酸マグネシウム単体によるものとは異なり、練り込まれた樹脂によって影響を受けるという点に着眼している。そして、樹脂の種類を変えることによって、保持すべき一定湿度を適宜制御するようにしていた。
つまり、上記特許文献3に記載されるものは、樹脂の種類によってその透湿度が異なるということを利用して、樹脂の種類を変更することにより、平衡湿度の違う組成物や成型品を得るという考え方に基いたものであり、樹脂の比重そのものについては何ら着眼し得なかったものである。これは、以下の理由に拠るものと考えられる。
【0007】
気体透過量は、一般に次のような計算式、(気体透過量)=(気体透過係数)×(気体の圧力差)×(面積)×(時間)÷(膜厚)によって求められる。この式において圧力差、面積、時間、膜厚を一定にして測定したものが気体透過度(透湿度)である。
気体透過度は気体透過係数によって違いが出る値であり、更に気体透過係数は、一般に次のような計算式、(気体透過係数)=(拡散係数)×(溶解度係数)によって求められる。従って、樹脂の膜を通して気体が移動する量(気体透過量)は、膜厚が等しく、同一面積、同一時間、同一気体の分圧差で比較するとき、膜への気体の取り込まれやすさ(溶解度係数)と膜内での移動のしやすさ(拡散係数)の積によって定まることとなる。
溶解度係数は、気体の種類が定まれば、樹脂(高分子)の種類が変わっても大きくは変わらないが、所定の高分子膜に対しては気体によって桁違いに変化する値である。
拡散係数は、同一の気体に対して高分子膜を構成する樹脂(高分子)の種類によって桁外れに変化する値であり、同一種の高分子膜では気体の種類、すなわち分子径、分子量とは定量的な関係を持たない値である。
【0008】
さらに、樹脂内にヒドロキシループ(−OH)やアミドループ(−CONH−)を有する樹脂は、水素結合によりポリマー同士が強固に結合しているが、水蒸気には敏感である。
この様な樹脂中に水が入ると、水素結合は破壊されて無くなり、樹脂の分子間力はきわめて弱いものとなる。即ち、樹脂鎖は水によって可塑化され、ガス透過度が大きくなって、樹脂鎖の運動も活発になる為、ガスが拡散し易くなる。表1は水に敏感なポリマーが水を吸収した場合にガス透過度がどのように大きくなるかを示している(社団法人日本包装技術協会「食品包装便覧」より抜粋)。他方、疎水性の構造のポリマー(ポリエチレン、ポリプロピレン)及び極性の低いポリマー(PVC,PVCD,PET)、双極子相互作用によりガス透過性の低いポリマー(PAN)などは、水分吸収量も低く、水分を含有してもガス透過度は変化しない。
【0009】
【表1】

【0010】
表2には、現在一般に使用されている樹脂のO及びHO透過度を示す(社団法人日本包装技術協会「食品包装便覧」より抜粋)。これから明らかなように、O透過度とHO透過度との間には何ら一般化されるような関係は無い。
ガス透過度の場合には、拡散がコントロールファクターであり、水蒸気透過度の場合には水と樹脂との親和性がコントロールファクターとなる。即ち、疎水性の樹脂は常に水蒸気透過度が小さく、親水性の樹脂は常に水蒸気透過度が大きい。
【0011】
【表2】

【0012】
以上のように、気体透過度、特に水蒸気透過度は、気体と樹脂の種類によって値が変動するものであり、樹脂の比重の違いとは無関係な値であることが理解される。このため、従来、平衡湿度の異なる組成物や成型品を得ようとする際に、樹脂の比重について考慮されることがなかったものと考えられる。
【0013】
また、樹脂メーカーの技術資料(住友化学(株)「ポリエチレンフィルムの透湿度」PE技術資料3−4.1)によれば、例えば図18に示すように(検体:LDPE60μ単層フィルム、測定条件:40℃、RH90%)、同一樹脂内での比重差で比重の大きいものほど透湿度が小さいということは一応推察され得るが、「比重の差による透湿度の差はきわめて小さい為、比重に関しては考慮する必要が無い」とするのが従来の技術常識であり、同一樹脂内の比重差について明確な関係式が無く、比重差で大きな差異を生じないことから、樹脂の比重について殆ど顧みられない状況であった。
【0014】
かかる状況の下、従来技術では、樹脂一種に付き一つの平衡湿度しか設定することができず、保持すべき一定湿度(平衡湿度)を変更したい場合には、樹脂の種類を変更する必要があった。
しかしながら、樹脂の種類を変更することで、ガスバリア性や物性等の異なるものができてしまい、保存すべき商品に要求される風合いを確保することが困難となる場合や、加工方法が複雑になりすぎてコスト的、技術的な弊害が発生する場合が多々あり、多様化する商品の好適な保存環境を形成し難いという問題が生じていた。
【0015】
そこで、本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、熱可塑性樹脂に乾燥剤を混練してなる乾燥剤組成物、乾燥剤成型品において、同一種の樹脂でも比重の異なるものを選択することによって、異なる平衡湿度を発現させ、多様化する商品の好適な保存環境を容易に形成可能とする技術を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の乾燥剤組成物は、
熱可塑性樹脂に乾燥剤を混練してなる乾燥剤組成物において、
乾燥剤の分散時における2次粒子径が1〜40μmとなるように、乾燥剤を混練して、
熱可塑性樹脂の比重を選定することにより、平衡湿度を制御して得られたことを要旨とする。
【0017】
また、請求項2に吉舎の乾燥剤組成物は、請求項1に記載の構成において、
該2次粒子径の樹脂の膜厚に対する比率が0.0003〜4となるように、乾燥剤を混練してなることを要旨とする。
【0018】
また、請求項3に記載の乾燥剤組成物は、請求項1又は2に記載の構成において、
該乾燥剤が、式MgSO・nHO(但し0≦n≦3)で表される硫酸マグネシウムであることを要旨とする。
【0019】
また、請求項4に記載の乾燥剤組成物は、請求項1又は2に記載の構成において、
該乾燥剤が、無水硫酸マグネシウムであることを要旨とする。
【0020】
また、請求項5に記載の乾燥剤成型品は、請求項1乃至4の何れかに記載された構成の乾燥剤組成物を用いて形成されたことを要旨とする。
【0021】
また、請求項6に記載の平衡湿度制御方法は、
熱可塑性樹脂に乾燥剤を混練してなる乾燥剤組成物における平衡湿度の制御方法であって、
乾燥剤の分散時における2次粒子径が1〜40μmとなるように、乾燥剤を混練して、
熱可塑性樹脂の比重を選定することにより、平衡湿度を制御するようにしたことを要旨とする。
【0022】
また、請求項7に記載の平衡湿度維持時間の制御方法は、
熱可塑性樹脂に乾燥剤を混練してなる乾燥剤組成物における平衡湿度維持時間の制御方法であって、
乾燥剤の分散時における2次粒子径が1〜40μmとなるように、乾燥剤を混練して、
乾燥剤の含有率を変更することにより、平衡湿度の維持時間を制御するようにしたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、熱可塑性樹脂に乾燥剤を混練してなる乾燥剤組成物において、
乾燥剤の分散時における2次粒子径が1〜40μmとなるように、乾燥剤を混練して、熱可塑性樹脂の比重を選定することにより、平衡湿度を制御するようにしたため、同一種の樹脂であっても、容易に異なる平衡湿度を発現させることができる。従って、保存する商品に適した平衡湿度を具備させるために、樹脂の種類を変更したり、それに応じた新たな加工方法や弊害の除去等を検討する必要がなく、保存する商品に最適な保存環境を容易に形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、熱可塑性樹脂に乾燥剤を混練してなる乾燥剤組成物において、熱可塑性樹脂の比重を選定することにより、平衡湿度を制御するようにしたものである、
本発明により得られる乾燥剤組成物は、フィルム状、シート状、プレート状、更には袋状、ペレット状、容器状等用途に応じ任意の形状に容易に加工成型することができる。こうして得られる成型品は、それ自体乾燥剤であり、しかも包材となり得るものである。
【0025】
熱可塑性樹脂としては、選定可能な二以上の比重グレードを有するものであれば、特に限定されず公知のものを使用できる。例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリアミド、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メタアクリレート共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ABS、ポリ乳酸、ポリアセタール、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のうち一種又は二種以上を用いることができる。
【0026】
また、熱可塑性樹脂の基本比重によって異なるが、発現する平衡湿度に十分な差異が出るように、熱可塑性樹脂としては概ね、比重幅0.01以上、より好ましくは0.02以上のものを用いることが好ましい。
このような観点から、例えばLLDPE、LDPE、ABS、PS、PA等を好適に用いることができ、特にLLDPE、ABSが好ましい。中でもLLDPEは、現在市販されている樹脂の中では比重幅が広く、加工出来る製品の種類も多く、さらに簡便な方法で加工が可能であるため適している。
【0027】
例えば、LLDPEであれば、比重幅0.900〜0.930であり、ABSであれば比重幅1.07〜1.15であり、ポリアミド(6ナイロン)であれば比重幅1.09〜1.17であり、ポリプロピレンであれば比重幅0.90〜0.92であり、ポリスチレンであれば比重幅1.04〜1.10であり、メタクリル酸メチル樹脂であれば比重幅1.17〜1.20であり、塩化ビニル樹脂(硬質)であれば比重幅1.35〜1.45であり、塩化ビニル(軟質)であれば比重幅1.15〜1.70であり、塩化ビリニデン樹脂であれば比重幅1.7〜1.8であり、ポリビニルアルコールであれば比重幅1.17〜1.18であり、セルロースアセテートであれば比重幅1.22〜1.34であり、ニトロセルロースであれば比重幅1.35〜1.40であり、いずれも本発明に用いることができる。
【0028】
本発明の大きな特徴のひとつは、熱可塑性樹脂の比重を選定することにより、乾燥剤組成物の平衡湿度を制御するようにした点にある。
「熱可塑性樹脂の比重を選定する」とは、熱可塑性樹脂が有する二以上の比重グレードの中から所定の比重のものを選択して用いることをいうものとする。
樹脂に平衡蒸気圧を持つ物質(乾燥剤)を練り込んだ場合、樹脂と乾燥剤とによる組成物は樹脂の影響を受け、乾燥剤単体の場合とは異なった平衡蒸気圧を有することとなるが、樹脂と乾燥剤とによる組成物の蒸気圧と外部環境の水蒸気分圧とが等しくなる分圧を平衡蒸気圧といい、このときの水蒸気分圧が示す相対湿度を「平衡湿度」というものとする。
【0029】
本発明に係る乾燥剤組成物が具備すべき「平衡湿度」は、保存される商品や製品等の被保存物を、その本来の性能を発揮し得る状態で保存するための最適な湿度(相対湿度)に基づくものであり、被保存物に対応して固有に定めることができる。このような最適な湿度は、被保存物によって相違するものであるが、概ねRH10%〜RH60%である。上記具備すべき「平衡湿度」は、この最適な湿度に対して±10%の範囲内にあることが好ましく、さらに±5%の範囲内にあればより好ましい。このような範囲内にあれば、被保存物にとって非常に好都合な保存環境を形成することが可能となる。
【0030】
「平衡湿度を制御する」とは、「平衡湿度」を、乾燥剤組成物が具備すべき「平衡湿度」に保持し得るようにすることをいうものとする。被保存物にとって最適な湿度にも、原料管理幅、加工時の季節要因等によって、ある程度の幅があり、「平衡湿度」の幅を余り小さく制御しすぎると、1つの被保存物に対し数種の組成物(成型品)で対応せねばならなくなり、製品管理や包材選定等が複雑になりすぎて、好ましくない。
【0031】
熱可塑性樹脂に混練される乾燥剤としては、平衡蒸気圧(平衡湿度)を有するもので、結晶水を取る物質の無水物であればよく、例えば硫酸マグネシウム、硫酸銅、塩化コバルト、塩化カルシウム、塩化マグネシウム等を用いることができるが、樹脂に対する卓越した分散性、吸湿効率、吸湿最終段階での状態(潮等が無い)、熱安定性等の点で、特に、式MgSO4・nH2 O(但し0≦n≦3)で表される硫酸マグネシウム、中でも無水硫酸マグネシウムが適している。
3水和物をこえた硫酸マグネシウム水和物は樹脂に混練するときに、混練時の加温によって自己の持つ水和水を放出し、製造中の障害が生じ、有効な機能を発揮し得る調湿性組成物を得ることができず、また、この組成物からフィルム、シ−ト、容器等の成形品を作製しようとしても、商品価値のある成形品を得ることができない。無水硫酸マグネシウムを用いることとすれば、樹脂加工温度域(100℃〜400℃)において、加工時の放湿量を少なくでき、成型品での吸湿量を向上させることが可能となり、熱安定性が高い(加工時に分解しない)ため特に好ましい。
【0032】
本発明において熱可塑性樹脂に混練される乾燥剤が果たす役割を、特に硫酸マグネシウムの場合を例にして説明すると、以下の通りである。
本発明で用いる硫酸マグネシウムは、恒温条件で吸湿を出発していくと、水和段階が進むにつれて蒸気圧が上昇し、これに伴い環境の水蒸気の分圧との差が小さくなり、したがって吸湿速度が低下していき、その結果一定の湿度を保ち調湿機能を有する組成物とすることができる。また、本発明で用いる硫酸マグネシウムは、湿気を吸収すると、最初に6水塩が生成し、吸湿量の増加に従い6水塩のみが増え、その間に1〜5水塩の生成はなく、無水の硫酸マグネシウムが僅かになった時点、すなわち吸水率が43〜48%の時に7水塩に変化する。この事実により、他の水和物形成性の塩を利用した乾燥剤と異なり、高吸湿時においても無水物が存在し、吸湿力を一定に保持し調湿機能のある組成物となる。
【0033】
さらに、本発明で用いる硫酸マグネシウムは、それ自体がある一定の蒸気圧を示し、外界の水蒸気の分圧と、自己の蒸気圧とが平衡となるところまで吸湿を行うことができる。上記の硫酸マグネシウムを樹脂に練り込んだ場合、硫酸マグネシウムと樹脂との複合体が一定の蒸気圧を示すようになる。この時の蒸気圧は、硫酸マグネシウム単体のものとは異なり、練り込まれた樹脂の透湿度によって影響を受け、樹脂によって異なつた値となる。そして、本発明ではさらに、同一種の樹脂であっても、樹脂の比重が異なったものを選定することによって、当該蒸気圧を異なった値に制御し得ることを見出したものである。この場合当然、平衡に至る点も異なったものとなり、吸湿できなくなる平衡湿度も異なつたものとなり、したがって、保持すべき一定湿度(平衡湿度)を樹脂の比重を適宜選定することによって、制御可能としたものである。
【0034】
乾燥剤は、吸湿前後の寸法変化が小さい(あるいは無い)ことが好ましい。吸湿後の膨張が有ると成型品自体が膨張し、製品としての形態を保てなくなるためである。
また、乾燥剤は空気中において帯電や吸湿、圧力等の要因により凝集物が生じるが、本発明では、乾燥剤を樹脂に練り込む段階において、乾燥剤の2次粒子を所定の大きさに保ち、且つできるだけ均一に分散させるようにする。
【0035】
樹脂の比重幅程度の差で性能(平衡湿度)に差異を生じさせるために、より具体的には、樹脂に練り込んで分散させた際の乾燥剤の2次粒子径を、1〜40μmの範囲内とすることが好ましい。特に平均粒子径20μm、最大粒子径−最小粒子径=30μmとなるように構成することが好ましい。そのため、乾燥剤の1次粒子の粒子径は1〜30μmの範囲で、平均粒子径を4〜6μmとすることが好ましい。
【0036】
乾燥剤を混練させるために使用可能な熱可塑性樹脂の膜厚は、通常、10μm〜3mmの範囲である。乾燥剤の分散時における2次粒子径の、熱可塑性樹脂の膜厚に対する比率は、好ましくは0.0003〜4、より好ましくは0.0004〜1の範囲である。当該比率がこのような範囲にあり、且つ乾燥剤の2次粒子径が上記した範囲内にある場合には、乾燥剤を、熱可塑性樹脂に十分に被覆させることができ、本発明の効果をより確実に得ることが可能となる。
【0037】
硫酸マグネシウム等の乾燥剤は、上述の通り、分散が困難な強固な凝集物を生じる傾向があるが、従来、乾燥剤を樹脂に練り込み分散させる段階において、2次粒子を一定の大きさに小さく揃えるという点については注目されていなかった。このため、1次粒子段階で、仮に乾燥剤の粒子径が1〜40μm程度であっても、練り込みを行う際に、凝集が発生し易く、最大で数百μm程度の塊状物が生じていた。
そして、このような凝集物を樹脂内に分散して組成物、成型品を得ていたが、かかる分散状態の下では、乾燥剤が練り込まれた樹脂層の界面において、乾燥剤の粗大な2次粒子が、練り込まれた樹脂層内に収まりきらずに飛び出している部分が多く生じていた。
また、乾燥剤の2次粒子が樹脂層内に収まっている部分でも、粒子の大きさに差があり過ぎ、樹脂層表面から、練り込まれた乾燥剤までの距離にばらつきが生じるため、樹脂内での乾燥剤の吸湿能力についてもばらつきが生じていた。
このような状況にあっては、樹脂内での乾燥剤の性能が不均一となり、樹脂の比重差でその性能差を発揮し得る状態ではなかった。
【0038】
本発明では、乾燥剤が熱可塑性樹脂に練り込まれ分散された際における、乾燥剤の2次粒子径の均一化を図るようにしたものであり、吸湿を抑えて細かい1次粒子をつくることにより、凝集物が生じ難く、生じても崩れ易い状態に管理しておき、さらに練り込み段階において、樹脂成分と乾燥剤との親和性を高め、乾燥剤をより馴染み易い状態で樹脂に練り込むことで、2次粒子が粒子径1〜40μmの範囲で均一に分散されるようにしたものである。そのため、界面活性剤系の分散剤(例えば金属石けん等の脂肪酸の金属塩)など、樹脂との相溶性の高い物質を用いて、乾燥剤の表面を被覆しておくことが好ましい。
【0039】
分散される乾燥剤の2次粒子径を所定の大きさにコントロールすることで、乾燥剤を熱可塑性樹脂に十分に被覆させることができ、樹脂表面から乾燥剤までの距離も略均一とすることができる。そしてこのような分散状況を得ることによってはじめて、樹脂の比重差という微妙な差異で、その性能(平衡湿度)に違いを持たせることが可能となったものである。
乾燥剤の2次粒子が、練り込まれた樹脂に被覆されずにその表面から飛び出している場合、その粒子は樹脂の影響を受けず、乾燥剤自体の平衡湿度(無水硫酸マグネシウムであればRH4%)で吸湿活動を行う。分散不良の乾燥剤が多くなると、このように樹脂の影響を受けないものが多くなり、樹脂の影響を受けたものとの割合によっては、組成物全体として、全ての乾燥剤粒子が樹脂に十分に被覆された状態での平衡湿度とは著しく異なった平衡湿度を発現することとなる。また、その性能も一定せず、製造する毎に分散状況等に影響され、性能の異なった製品が形成されてしまうこととなる。
【0040】
乾燥剤の熱可塑性樹脂への練り込み加工に際しては、乾燥剤と樹脂とが流動状態にされるが、双方の流動性の違いに起因してか、粗大粒子は、流路内壁面との摩擦等によって樹脂表面から浮き上がる傾向がある。本発明者らの実験観察によれば、乾燥剤の2次粒子径が40μmを超えると、この傾向が顕著となり、特に30μm以下であれば粒子が樹脂表面付近に分散され得る場合であっても、全ての粒子を樹脂によって十分に被覆できることが明らかとなった。
【0041】
本発明において混練する原料の割合は、熱可塑性樹脂100重量部に対し、乾燥剤5〜400重量部程度の範囲であり、組成物の用途に応じ適宜変更してよい。乾燥剤の割合が上記範囲にある場合には、乾燥剤の樹脂中での分散性がよく、高い吸湿性及び保水性を有し、しかも成型適性に優れた乾燥剤組成物を得ることができる。
【0042】
また、本発明の乾燥剤組成物には、上記熱可塑性樹脂及び乾燥剤のほかに、所定の発泡剤や添加剤を、本発明の目的を阻害しない程度に適宜加えることとしてもよい。発泡剤としては、例えばアゾイソブチルニトリル、アゾジカルボンアミド、4,4’−オキシベンゼンスルホニルヒドラジッド等、添加剤としては、可塑剤、安定剤、滑剤、着色剤等の公知のものを用いることができる。
【0043】
本発明の乾燥剤組成物の製造方法について、特に制限はないが、通常次のような方法で製造することができる。即ち、熱可塑性樹脂、乾燥剤及びその他の添加剤をミキシングロール等を用い約100〜350℃のもと約5〜40分間混練する。ただし、高分散で高濃度のペレットを得るために、特にペレット段階での分散性が良い加工機を用いて製造することが好ましい。
また、上記によって得られる組成物は、押出成型、共押出成型、射出成型、中空成型、押出コーティング成型、架橋発泡成型等により、任意の形状に加工成型することができる。さらに、必要に応じて、他の積層材を積層したラミネート体とすることもできる。積層材としては、上記の熱可塑性樹脂等の樹脂類、紙類、繊維類、金属類、各種塗料、各種接着剤の他、組成の異なる本発明乾燥剤成型品等が使用できる。
【実施例1】
【0044】
LLDPE(リニア低密度ポリエチレン)(比重0.909)100重量部、及び1次粒子の平均粒子径が4〜6μmの無水硫酸マグネシウム50重量部を混合し、実験用ミキシングロールにて180℃で10分間加熱混練して、ペレットを試作した。分散時の硫酸マグネシウムの2次粒子径は1〜40μm(平均10〜20μm)とした。
このペレットを用い、インフレーション成型機により、外層をLLDPE、中間層を上記試作ペレット、内層をLLDPEとして、3層インフレーションフィルム(LLDPE20μm/試作ペレット30μm/LLDPE10μm)を得た。
次に、上記3層インフレーションフィルムを用い、プレスロールによって、ポリエチレンとアルミニウム箔でドライラミネート加工して、厚さ0.81mmのシート(PET 12μm/D/AL9μm/D/LLDPE20μm/試作ペレット30μm/LLDPE10μm:Dはドライラミ層)を得た。そして、このシートを加工してA4版の大きさ(容量2.4リットル)の包装用袋を作製し、検体Aとした。
【0045】
LLDPE(リニア低密度ポリエチレン)(比重0.920)100重量部、及び1次粒子の平均粒子径が4〜6μmの無水硫酸マグネシウム50重量部を混合し、以下検体Aと同様にしてペレットを試作し、3層インフレーションフィルム(LLDPE20μm/試作ペレット30μm/LLDPE10μm)を得た。分散時の硫酸マグネシウムの2次粒子径は1〜40μm(平均10〜20μm)とした。
そして、この3層インフレーションフィルムにより、検体Aと同様にして、ポリエチレンとアルミニウム箔とでラミネートされたシート(PET12μm/D/AL9μm/D/LLDPE20μm/試作ペレット30μm/LLDPE10μm:Dはドライラミ層)を得、このシートを加工して検体Aと同じ大きさの包装用袋を作製し、検体Bとした。
なお、検体Aと検体Bとにおいて、試作ペレットを挟層するLLDPEとしては、同一のもの(比重0.922)を用いて加工を行った。
【0046】
上記検体A、Bを試料として、25℃恒温の条件下にて、それぞれ袋内に温湿度センサーを設置し、RH100%からの吸湿を行わせて、平衡湿度を測定した。測定は、平衡湿度に到達後再びRH100%の状態に戻し、吸湿を繰り返させることにより行った。その結果を図1に示す。
【0047】
図1から明らかなように、検体Aでは平衡湿度16〜17%、検体Bでは平衡湿度29〜30%を発現した。このように、硫酸マグネシウムの含有率が同一であっても、硫酸マグネシウムを練り込む樹脂LLDPEの比重として異なったものを選択することで、異なった平衡湿度を発現する乾燥剤組成物を得ることができた。本実施例においては、LLDPEの比重0.011の差異で、平衡湿度13〜14%の差異が生じ、LLDPEの比重のより小さい方が、より低湿度で平衡が保たれた。
【0048】
本実施例によれば、LLDPEの比重として適宜のものを選択することで、具備すべき平衡湿度を容易に制御できるため、被保存物に応じて好適な保存環境を容易に得ることが可能となる。
例えば、本実施例に係る検体Aの組成を持つ包装用袋を用いて、抗体、酵素を用いた薬剤や診断薬、ソフトカプセル等を被保存物とし、検体Bの組成を持つ包装用袋を用いて、経皮吸収薬剤、ソフトカプセル(平衡湿度が近い物)等を被保存物とする用途に有効に用いることができる。従来、これらの最適な保存環境の形成に際しては、樹脂の種類を変更して対応する必要があったが、本実施例によれば、被保存物に応じて樹脂の比重を変更するだけで、被保存物に適した平衡湿度の発現を制御することが可能となり、利便性が高い。
【実施例2】
【0049】
実施例1における検体Aの作製途中で得られる3層インフレーションフィルム(LLDPE20μm/試作ペレット30μm/LLDPE10μm)を、検体Cとした。
【0050】
実施例1における検体Bの作製途中で得られる3層インフレーションフィルム(LLDPE20μm/試作ペレット30μm/LLDPE10μm)を、検体Dとした。
【0051】
上記検体C、Dを試料として、温度25℃で、RH20%、50%、75%の3種類の恒温恒湿の条件下に、試料をそれぞれ設置し、重量変化を測定した。図2は、その測定結果を能力消費率で表したものである。
一般に、乾燥剤の能力を表す表示は吸湿率(増加重量を初期重量で割り100を掛けた値(%))で表されることが多いが、同じ厚さの吸湿層でも吸湿剤の含有率や他の層の構成で吸湿率が異なってくるため、本実施例では、組成物・成型品の持つ全能力を100%と換算してその消費状況を表した能力消費率を用いて、比較を容易にしている。
【0052】
図2において、RH20%条件下での能力消費状態をみると、検体Cでは重量変化があり能力消費があったことが伺えるが、これに対し、検体Dでは終始重量変化が無く能力の消費が無かったことが伺える。本テストは、環境条件が恒湿条件であるため、その環境で吸湿が行えるということは検体の吸湿限界である平衡湿度が環境条件以下にあることを示し、その逆に、その環境条件で吸湿を行えないということは検体の吸湿限界である平衡湿度が環境条件以上にあることを示すものである。
このことから、検体Cは、平衡湿度がRH20%以下、検体Dは、平衡湿度がRH20〜50%の間にあるものであり、従って、検体C,Dは異なった平衡湿度を発現し得るものであることが理解される。
【0053】
以上、本実施例からも、硫酸マグネシウムの含有率が同一であっても、硫酸マグネシウムを練り込む樹脂LLDPEの比重として異なったものを選択することで、異なった平衡湿度を発現する乾燥剤組成物が得られることを裏付けることができると考えられる。
【実施例3】
【0054】
LDPE(低密度ポリエチレン)(比重0.922)100重量部、及び1次粒子の平均粒子径が4〜6μmの無水硫酸マグネシウム150重量部を混合し、以下実施例1と同様にしてペレットを試作し、3層インフレーションフィルム(LDPE20μm/試作ペレット30μm/LDPE10μm)を得た。分散時の硫酸マグネシウムの2次粒子径は1〜40μm(平均10〜20μm)とした。
そして、この3層インフレーションフィルムにより、実施例1と同様にして、ポリエチレンとアルミニウム箔とでラミネートされたシート(PET12μm/D/AL9μm/D/LDPE20μm/試作ペレット30μm/LDPE10μm:Dはドライラミ層)を得、このシートを21×30cmの大きさに切断して、検体Eとした。
【0055】
LDPE(比重0.922)100重量部、及び1次粒子の平均粒子径が4〜6μmの無水硫酸マグネシウム50重量部を混合し、以下検体Eと同様にしてペレットを試作し、3層インフレーションフィルム(LDPE20μm/試作ペレット30μm/LDPE10μm)を得た。分散時の硫酸マグネシウムの2次粒子径は1〜40μm(平均10〜20μm)とした。
そして、この3層インフレーションフィルムにより、検体Eと同様にして、ポリエチレンとアルミニウム箔とでラミネートされたシート(PET12μm/D/AL9μm/D/LDPE20μm/試作ペレット30μm/LDPE10μm:Dはドライラミ層)を得、このシートを検体Eと同じ大きさに加工して、検体Fとした。
【0056】
上記検体E、Fを試料として、別々のガラス容器(容量0.9リットル)に詰め、25℃恒温の条件下にて、それぞれ容器内に温湿度センサーを設置し、RH100%からの吸湿を行わせて、平衡湿度を測定した。測定は、平衡湿度到達後再びRH100%の状態に戻し、吸湿を繰り返させることにより行った。その結果を図3に示す。
【0057】
図3から明らかなように、検体E、Fは、互いに略等しい平衡湿度26〜29%を発現した。
このように、硫酸マグネシウムの含有率を変化させても、硫酸マグネシウムを練り込む樹脂LDPEの比重が同一であれば、略同一の平衡湿度を発現する乾燥剤組成物となった。
【実施例4】
【0058】
実施例3における検体Eの作製途中で得られる3層インフレーションフィルム(LDPE20μm/試作ペレット30μm/LDPE10μm)を、検体Gとした。
【0059】
実施例3における検体Fの作製途中で得られる3層インフレーションフィルム(LDPE20μm/試作ペレット30μm/LDPE10μm)を、検体Hとした。
【0060】
上記検体G、Hを試料として、温度25℃で、RH20%、50%、75%の3種類の恒温恒湿の条件下に、試料をそれぞれ設置し、重量変化を測定した。図4は、その測定結果を能力消費率で表したものである。
【0061】
図4から明らかなように、検体G、Hは共に環境湿度がRH20%の場合は吸湿が無く、環境湿度がRH50%で有れば吸湿があり能力を消費している。能力消費率の進行時間は異なるものの、吸湿の有無の状態は同じ動きを示しており、両検体の吸湿限界である平衡湿度は、RH20%以上でRH50%以下であることがわかる。
【0062】
以上、本実施例からも、硫酸マグネシウムの含有率を変化させても、硫酸グネシウムを練り込む樹脂LDPEの比重が同一であれば、平衡湿度に差異を生じさせることは困難であることを裏付けることができると考えられる。
【参考例】
【0063】
LDPE(低密度ポリエチレン)(比重0.920)100重量部、及び1次粒子の平均粒子径が4〜6μmの無水硫酸マグネシウム150重量部を混合し、以下実施例1と同様にしてペレットを試作し、3層インフレーションフィルム(LDPE20μm/試作ペレット30μm/LDPE10μm)を得た。硫酸マグネシウムの分散状態としては、2次粒子を小さくコントロールする管理を行わず、粒子径が40μ超〜100μm程度の粗大な2次粒子を約30%含んだものである。
次に、上記3層インフレーションフィルムを用い、プレスロールによって、ポリエチレンとアルミニウム箔でドライラミネート加工して、厚さ0.81mmのシート(PET 12μm/D/AL9μm/D/LDPE20μm/試作ペレット30μm/LDPE10μm:Dはドライラミ層)を得た。そして、このシートを加工してA4版の大きさ(容量2.4リットル)の包装用袋を作製し、検体Pとした。
【0064】
また、上記試作ペレットを用い、射出成型を行ってプレート(85mm×54mm、厚さ1.5mm)を作製し、これを検体Qとした。
【0065】
上記検体Pを試料として、25℃恒温の条件下にて、袋内に温湿度センサーを設置し、RH100%からの吸湿を行わせて、平衡湿度を測定した。測定は、平衡湿度に到達後再びRH100%の状態に戻し、吸湿を繰り返させることにより行った。その結果を図5に示す。
【0066】
上記検体Qを試料として、ガラス容器(容量0.9リットル)に詰め、25℃恒温の条件下にて、容器内に温湿度センサーを設置し、RH100%からの吸湿を行わせて、平衡湿度を測定した。測定は、平衡湿度到達後再びRH100%の状態に戻し、吸湿を繰り返させることにより行った。その結果を図6に示す。
【0067】
図5、6から明らかなように、検体P,Qは、最初RH20%程度の平衡湿度を発現するが、その後の吸湿降下では、RH30%以上の平衡までの繰り返しとなっている。
硫酸マグネシウムの2次粒子径が1〜40μmである場合には、本来約30%前後の平衡湿度を安定して発現するはずであるが、上記測定では、各回の平衡湿度が著しく不安定な結果となった。
【0068】
これは、樹脂表面に存在する硫酸マグネシウムの粗大粒子が、樹脂の影響を受けることなく吸湿を行い、全体として最初の平衡湿度が下がったものである。2回目以降の吸湿は、粗大粒子が既に吸湿能力を失ったことで、樹脂に被覆された硫酸マグネシウム粒子のみによって平衡湿度が左右されたものと考えられる。
【0069】
このように、硫酸マグネシウムの2次粒子径として40μmを超える粗大なものを含むと、2段〜数段階の平衡湿度を持つ組成物、成型品となってしまう。この状況は粗大粒子の含有率や成型品の厚さ等によっても異なり、安定した性能のものを得ることは困難である。結果として、樹脂の比重差程度の微妙な差で平衡湿度に違いを持たせることも不可能となる。
【実施例5】
【0070】
ABS(比重1.05)100重量部、及び1次粒子の平均粒子径が4〜6μmの無水硫酸マグネシウム50重量部を混合し、以下実施例1と同様にしてペレットを試作した。分散時の硫酸マグネシウムの2次粒子径は1〜40μm(平均10〜20μm)とした。
このペレットを用い、射出成型を行ってプレート(54mm×84mm、厚さ2mm)を作製し、これを検体Iとした。
【0071】
ABS(比重1.01)100重量部、及び1次粒子の平均粒子径が4〜6μmの無水硫酸マグネシウム50重量部を混合し、以下実施例1と同様にしてペレットを試作した。分散時の硫酸マグネシウムの2次粒子径は1〜40μm(平均10〜20μm)とした。
このペレットを用い、射出成型を行ってプレート(54mm×84mm、厚さ2mm)を作製し、これを検体Jとした。
【0072】
上記検体I、Jを試料として、別々のガラス容器(容量0.9リットル)に同種のものを2枚ずつ詰め、25℃恒温の条件下にて、それぞれ容器内に温湿度センサーを設置し、RH100%からの吸湿を行わせて、平衡湿度を測定した。測定は、平衡湿度到達後再びRH100%の状態に戻し、吸湿を繰り返させることにより行った。その結果を図7に示す。
【0073】
図7から明らかなように、検体Iでは平衡湿度20〜21%、検体Jは平衡湿度8〜9%を発現した。
なお、検体Iにおいて、1,2回目と3回目とで平衡湿度が10%程度異なっているように見えるが、これは今回の検体のように厚さが厚く表面積の少ない場合に見られる現象であり、吸湿が表面から進行し、徐々に検体内側で吸湿が行われるようになって、次第に平衡までの到達時間が長くなるためである。つまり、平衡湿度が上昇したのではなく降下速度が遅くなったものであり、より長時間のデータを取れば、1、2回目と同程度の平衡(20〜21%)まで降下することとなる。
【0074】
このように、実施例1と同様、硫酸マグネシウムを練り込む樹脂ABSの比重として異なったものを選択することで、異なった平衡湿度を発現する乾燥剤組成物を得ることができた。本実施例においては、ABSの比重0.04の差異で、平衡湿度11〜13%の差異が生じ、ABSの比重のより小さい方が、より低湿度で平衡が保たれた。
【実施例6】
【0075】
本実施例は、実施例3における検体E、検体Fを用いて、実施例3と同様の試験を行い、能力初期段階と、能力50%消費段階とにおける、平衡湿度への到達状況をそれぞれ観察したものである。その結果を図8に示す。
【0076】
図8から明らかなように、硫酸マグネシウムの含有率(重量%)が高い検体Eの方が、検体Fに比べて、平衡湿度に到達する時間が短い。さらに、通常、平衡湿度には一定の幅があり、この幅内において、能力消費が進行するにつれて平衡湿度は上昇する傾向があるが、検体Eでは、吸湿が進み能力消費が進行しても、初期と殆ど同じ状態で、平衡湿度を長時間維持可能となっている。
【0077】
このように、乾燥剤としての硫酸マグネシウムの含有率を上昇させることによって、能力消費段階が進行しても、平衡湿度の上昇を低く抑え、初期の平衡湿度と実質的に同一の値を長時間維持することが可能となる。逆に言えば、乾燥剤の含有率を低下させることによって、初期の平衡湿度の維持時間を短くすることができる。
つまり、乾燥剤が所定の分散状態にある下では、乾燥剤の含有率を変更することにより、平衡湿度の維持時間を制御し得るということが明らかとなった。このことは、本発明によって、乾燥剤の2次粒子の分散状態が改良されたことによって、はじめて導き出すことができたものである。
【実施例7】
【0078】
本実施例は、従来技術に係る乾燥剤の分散状況と、本発明に係る乾燥剤の分散状況とを、後述する試験体a〜jを用いて、電子顕微鏡で観察し測定分析したものである。
表3は、その測定結果を示したものであり、乾燥剤が混練される樹脂(吸湿層)の膜厚の測定結果(α)、乾燥剤の2次粒子径の測定結果(β)、及びその比率(β/α)を記載している。また、図9〜図17には、各試験体における乾燥剤の分散状況を示す拡大写真のうち、代表的なものを示した。
【0079】
【表3】

【0080】
上記において、試験体a、bが、従来技術に係るものであり、乾燥剤の2次粒子径を所定の大きさにコントロールしていないものである。試験体c〜jは、本発明に係るものであり、乾燥剤の2次粒子径を所定の大きさにコントロールしたものである。
各試験体は、以下によって構成した。なお、乾燥剤は全て無水硫酸マグネシウムを用い、吸湿層の厚みは設計値を示している。
・試験体a
LDPE20μ/吸湿層30μ/LDPE10μ
(吸湿層:LDPE(比重=0.922)ベース、乾燥剤含有率(重量%:以下同様)33%)
・試験体b
PET12μ//AL9μ//LDPE17μ/吸湿層50μ/LDPE17μ
(吸湿層:LDPE(比重=0.920)ベース、乾燥剤含有率33%)
・試験体c
LDPE20μ/吸湿層30μ/LDPE10μ
(吸湿層:LDPE(比重=0.922)ベース、乾燥剤含有率33%)
・試験体d
PET12μ//AL9μ//LDPE17μ/吸湿層50μ/LDPE17μ
(吸湿層:LDPE(比重=0.922)ベース、乾燥剤含有率33%)
・試験体e
吸湿層単層50μ
(吸湿層:LDPE(比重=0.922)ベース、乾燥剤含有率33%)
・試験体f
吸湿層単層60μ
(吸湿層:LLDPE(比重=0.909)ベース、乾燥剤含有率33%)
・試験体g
吸湿層単層1.5mm
(吸湿層:LLDPE(比重=0.909)ベース、乾燥剤含有率33%)
・試験体h
吸湿層単層2.5mm
(吸湿層:LDPE(比重=0.922)ベース、乾燥剤含有率33%)
・試験体i
吸湿層単層1.5mm
(吸湿層:ABS(比重1.05)ベース、乾燥剤含有率33%)
・試験体j
吸湿層単層2.5mm
(吸湿層:ABS(比重1.05)ベース、乾燥剤含有率33%)
【0081】
図9〜図17に示すように、従来技術に係る試験体a、bにおいては、硫酸マグネシウムの粒子が吸湿層を突き破り表面に露出しているものが観察されたが、その一方で、本発明に係る試験体c〜jにおいては、全ての試験体において硫酸マグネシウムの粒子が、吸湿層内に包含されていた。
【0082】
表3から明らかなように、本発明に係る試験体c〜jにおいては、硫酸マグネシウムの粒子径(2次粒子径)は1〜30μmの範囲内である。また、硫酸マグネシウムの粒子径(2次粒子径)の樹脂(吸湿層)の膜厚に対する比率は、最大で0.4、最小で0.00192である。
但し、試験体c〜jにおいて、硫酸マグネシウムの樹脂への練り込み・分散は、全て同一の方法によって行っていることから、現実には、樹脂の膜厚が最も薄い試験体c(30μm)においても、30μm程度の粒子径の硫酸マグネシウムが分散され、同様に、樹脂の膜厚が最も厚い試験体h(2.6mm)においても、1μm程度の粒子径の硫酸マグネシウムが分散されているものと予測される。従って、本実施例において、硫酸マグネシウムの粒子径(2次粒子径)の樹脂(吸湿層)の膜厚に対する比率は、最大で1(=30μm/30μm)、最小で0.00038(=1μm/2.6mm)程度と予測できる。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明は、熱可塑性樹脂に乾燥剤を混練してなる乾燥剤組成物、乾燥剤成型品において、同一種の樹脂でも樹脂の比重を選定することによって異なる平衡湿度を発現させ、多様化する商品の好適な保存環境を容易に形成可能とする技術を提供するものであって、食品、電子部品、精密機械等の様々な分野において利用することができるものであり、産業上の利用可能性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施例1に係る平衡湿度の測定結果を示す図である。
【図2】実施例2に係る能力消費率の測定結果を示す図である。
【図3】実施例3に係る平衡湿度の測定結果を示す図である。
【図4】実施例4に係る能力消費率の測定結果を示す図である。
【図5】参考例(検体P)に係る平衡湿度の測定結果を示す図である。
【図6】参考例(検体Q)に係る平衡湿度の測定結果を示す図である。
【図7】実施例5に係る平衡湿度の測定結果を示す図である。
【図8】実施例6に係る平衡湿度の測定結果を示す図である。
【図9】実施例7(試験体a)に係る乾燥剤の分散状態を示す拡大写真である。
【図10】実施例7(試験体a)に係る乾燥剤の分散状態を示す拡大写真である。
【図11】実施例7(試験体b)に係る乾燥剤の分散状態を示す拡大写真である。
【図12】実施例7(試験体b)に係る乾燥剤の分散状態を示す拡大写真である。
【図13】実施例7(試験体c)に係る乾燥剤の分散状態を示す拡大写真である。
【図14】実施例7(試験体c)に係る乾燥剤の分散状態を示す拡大写真である。
【図15】実施例7(試験体d)に係る乾燥剤の分散状態を示す拡大写真である。
【図16】実施例7(試験体d)に係る乾燥剤の分散状態を示す拡大写真である。
【図17】実施例7(試験体i)に係る乾燥剤の分散状態を示す拡大写真である。
【図18】樹脂の比重と透湿度との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂に乾燥剤を混練してなる乾燥剤組成物において、
乾燥剤の分散時における2次粒子径が1〜40μmとなるように、乾燥剤を混練して、
熱可塑性樹脂の比重を選定することにより、平衡湿度を制御して得られた乾燥剤組成物。
【請求項2】
該2次粒子径の樹脂の膜厚に対する比率が0.0003〜4となるように、乾燥剤を混練してなる請求項1に記載の乾燥剤組成物。
【請求項3】
該乾燥剤が、式MgSO・nHO(但し0≦n≦3)で表される硫酸マグネシウムである請求項1又は2に記載の乾燥剤組成物。
【請求項4】
該乾燥剤が、無水硫酸マグネシウムである請求項1又は2に記載の乾燥剤組成物。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載の乾燥剤組成物を用いて形成された乾燥剤成型品。
【請求項6】
熱可塑性樹脂に乾燥剤を混練してなる乾燥剤組成物における平衡湿度の制御方法であって、
乾燥剤の分散時における2次粒子径が1〜40μmとなるように、乾燥剤を混練して、
熱可塑性樹脂の比重を選定することにより、平衡湿度を制御するようにした平衡湿度制御方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂に乾燥剤を混練してなる乾燥剤組成物における平衡湿度維持時間の制御方法であって、
乾燥剤の分散時における2次粒子径が1〜40μmとなるように、乾燥剤を混練して、
乾燥剤の含有率を変更することにより、平衡湿度の維持時間を制御するようにした平衡湿度維持時間の制御方法。





【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−56784(P2008−56784A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−234507(P2006−234507)
【出願日】平成18年8月30日(2006.8.30)
【特許番号】特許第3979542号(P3979542)
【特許公報発行日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【出願人】(591192720)佐々木化学薬品株式会社 (4)
【出願人】(000237972)富田製薬株式会社 (30)
【Fターム(参考)】