説明

亀裂の補修方法

【課題】既設鋼構造物の鋼材に発生した亀裂にレーザ光を照射して亀裂を補修する。
【解決手段】既設鋼構造物1の鋼材3に発生した亀裂5の一端部5aに形成された第一貫通孔20から亀裂5の他端部5bまで、所定のスポット径のレーザ光11を亀裂5に沿って照射し、亀裂5を溶融させて消去することで、既設鋼構造物の鋼材3に発生した亀裂5を容易且つ確実に補修することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設鋼構造物の鋼材に発生した亀裂を補修する亀裂の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、橋梁、建築物及び建造物等の既設鋼構造物の鋼材に、経年劣化や疲労等によって亀裂が発生した場合には、次のような亀裂の補修方法によって、亀裂を補修していた。例えば、図1及び図2に示すように、橋梁1の主桁2などに用いられるI形鋼3の腹板4に発生した亀裂5を補修する場合には、先ず、図17(A)に示すように、亀裂5の応力の集中を緩和して亀裂5の進行を防ぐ為に、亀裂5の端部5a,5bの少なくとも一方又はその近傍に、貫通孔から成るストップホール21を形成する。次いで、図17(B)に示すように、腹板4には、補強の為に、腹板4の表裏面の両側から亀裂を覆うように一対の当て板100,100が配設されて、これら一対の当て板100,100が複数個のボルト及びナット等の締結部材101によって取り付けられる。以上のようにして、従来は、既設鋼構造物の鋼材に発生した亀裂を補修している(特許文献1参照。)。
【0003】
しかしながら、このような亀裂の補修方法では、当て板100や締結部材101を追加する分、以前よりも重くなってしまう。また、このような亀裂の補修方法では、補修作業現場において、腹板4に、予め当て板100に形成されたボルトを挿通するための複数個の挿通孔に対応するように、挿通孔を形成する必要があり、煩雑且つ作業性が悪い。更に、このような亀裂の補修方法では、当て板100を取り付けるので、美観を損なう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4613287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、既設鋼構造物の鋼材に発生した亀裂を、容易且つ確実に補修することが出来る亀裂の補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る亀裂の補修方法は、既設鋼構造物の鋼材に発生した亀裂の一端部にこの亀裂の一端部の幅よりも大きい直径の円形の第一貫通孔を貫穿し、この第一貫通孔から亀裂の他端部まで、所定のスポット径のレーザ光を亀裂に沿って照射し、亀裂を溶融させて消去する。勿論、第一貫通孔は、予め穿設されたものであってもよい。
【0007】
更に、鋼材には、亀裂の他端部に第二貫通孔が形成されるようにしても良い。
【0008】
更に、レーザ光のスポット径は、亀裂の幅よりも大きく設定することが好ましい。更に、レーザ光のスポット径は、第一貫通孔及び第二貫通孔よりも小さくても良い。或いは、レーザ光のスポット径は、第一貫通孔及び第二貫通孔よりも大きくても良い。具体的に、レーザ光のスポット径は、3〜7mmに設定することが好ましい。
【0009】
更に、レーザ光の焦点は、鋼材の外部に位置するようにしても良い。或いは、レーザ光の焦点は、鋼材の内部に位置するようにしても良い。
【0010】
更に、レーザ光は、鋼材の厚さ方向の片側から照射するようにしても良い。また、レーザ光は、鋼材の厚さ方向の両側から照射するようにしても良い。更に、レーザ光を鋼材の厚さ方向の両側から照射する場合、レーザ光は、一回の照射で鋼材の厚さの1/2以上を溶融するようにすることが好ましい。
【0011】
更に、亀裂を補修した後に、減肉部、第一貫通孔、第二貫通孔などに、肉盛り溶接を行うようにしても良い。また、この場合、肉盛り溶接は、レーザホットワイヤ溶接であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、既設鋼構造物の鋼材に発生した亀裂の一端部に形成された第一貫通孔から亀裂の他端部まで、所定のスポット径のレーザ光を亀裂に沿って照射し、亀裂を溶融させて消去することで、既設鋼構造物の鋼材に発生した亀裂を補修することが出来る。
【0013】
また、本発明では、亀裂にレーザ光を照射する際に、所定のスポット径のレーザ光を照射することで、施工裕度が向上し、容易且つ確実に亀裂にレーザ光を照射することが出来、容易且つ確実に亀裂を消去することが出来る。
【0014】
更に、本発明では、亀裂を溶融させて消去する際に、亀裂の一端部に形成された第一貫通孔からレーザ光の照射を開始することで、容易且つ確実に亀裂を消去することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用した亀裂の補修方法で補修する亀裂を示した斜視図である。
【図2】本発明を適用した亀裂の補修方法で補修する亀裂を示しており、(A)は、側面図であり、(B)は、正面図である。
【図3】レーザ亀裂補修装置を概略的に示した模式図である。
【図4】レーザ光の焦点を腹板の内部に位置するように設けた状態を示した正面図である。
【図5】本発明を適用した亀裂の補修方法の工程図である。
【図6】本発明を適用した亀裂の補修方法を示しており、(A)は、補修前の亀裂の状態を模式的に示した側面図であり、(B)は、補修中の亀裂の状態を模式的に示した側面図である。
【図7】一端部にストップホールが形成された亀裂の補修方法を示しており、補修中の亀裂の状態を模式的に示した側面図である。
【図8】他端部にストップホールが形成された亀裂の補修方法を示しており、(A)は、補修前の亀裂の状態を模式的に示した側面図であり、(B)は、補修中の亀裂の状態を模式的に示した側面図である。
【図9】両端部にストップホールが形成された亀裂の補修方法を示しており、補修中の亀裂の状態を模式的に示した側面図である。
【図10】腹板の両側からレーザ光を照射して亀裂を補修する亀裂の補修方法を示しており、(A)は、腹板の一主面側からレーザ光を照射する状態を示した正面図であり、(B)は、腹板の他主面側からレーザ光を照射する状態を示した正面図である。
【図11】亀裂と共に減肉部がある場合の亀裂の補修方法を示しており、(A)は、亀裂を補修する状態を示した正面図であり、(B)は、減肉部を補修する状態を示した正面図である。
【図12】比較例1の補修後の状態を示した図である。
【図13】比較例2の補修後の状態を示した図である。
【図14】実施例1の補修後の状態を示した図である。
【図15】実施例2の補修後の状態を示した図である。
【図16】実施例3の補修後の状態を示した図である。
【図17】従来の亀裂の補修方法を示した側面図であり、(A)は、ストップホールを形成した状態を示し、(B)は、当て板を取り付けた状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を適用した亀裂の補修方法について図面を参照して、次の順に沿って説明する。
【0017】
1.概要
2.レーザ亀裂補修装置
3.亀裂の補修方法
【0018】
[1.概要]
本発明を適用した亀裂の補修方法は、橋梁、建築物及び建造物等の既設鋼構造物の鋼材に、経年劣化や疲労等によって発生した亀裂をレーザ光によって補修する亀裂の補修方法である。以下、図1及び図2に示すように、橋梁1の主桁2に用いられているI形鋼3の腹板4に発生した亀裂5を補修する場合を例に説明していく。
【0019】
なお、本発明を適用した亀裂の補修方法は、橋梁1の主桁2に用いられているI形鋼3の腹板4に発生した亀裂5を補修する以外にも、主桁2の他の部位や、例えば、図1に示すような橋梁1の鋼床版デッキ6に発生した亀裂5を補修する場合にも適用することが出来る。更に、本発明を適用した亀裂の補修方法は、橋梁1以外にも、既設鋼構造物であるその他の建築物及び建造物等の鋼材に発生した亀裂5を補修する場合にも適用することが出来る。
【0020】
[2.レーザ亀裂補修装置]
先ず、本発明を適用した亀裂の補修方法を実施するレーザ亀裂補修装置10について説明する。図3に示すように、本発明を適用した亀裂の補修方法を行うレーザ亀裂補修装置10は、亀裂5にレーザ光11を照射するレーザ発生機構12を有している。このレーザ発生機構12は、レーザ光11を発振するレーザ発振器13と、集光光学系14が内蔵されたレーザートーチ15と、レーザ発振器13から発振されたレーザ光11をレーザートーチ15へ導く光ファイバ16とを備えている。このようなレーザ発生機構12は、レーザ発振器13から発振されて光ファイバ16を介してレーザートーチ15に導かれたレーザ光11を、集光光学系14によって所要の位置で集光させて、腹板4の亀裂5に所定のスポット径で照射する。ここでは、レーザ光11の焦点17は、腹板4の外部に位置するように設けられている。レーザ亀裂補修装置10は、レーザートーチ15が腹板4に対して距離が一定となるように固定手段によって固定されている。これにより、レーザ亀裂補修装置10は、亀裂5の周辺の腹板4を溶融するエネルギのレーザ光を安定して照射することが出来る。
【0021】
なお、亀裂5の部分を溶融するエネルギが一定でレーザ光11を照射するものであればレーザ光のフォーカス位置は特に限定されるものではない。例えば、図4に示すように、レーザ発生機構12は、レーザ光11の焦点17が腹板4の内部に位置するようにして、腹板4の亀裂5に所定のスポット径で照射するようにしても良い。この際、レーザ発生機構12は、レーザートーチ15自体を腹板4側に移動させることで、レーザ光11の焦点17が腹板4の内部に位置するようにしても良く、集光光学系14を腹板4に対して近接又は離間するように上下移動させる焦点調整部(不図示)によって腹板4に対して近接するように移動させて、レーザ光11の焦点17が腹板4の内部に位置するようにしても良い。
【0022】
更に、レーザ発生機構12は、レーザ光11を所定のスポット径で腹板4の亀裂5に照射するものであれば、レーザ光11をデフォーカス状態で腹板4の亀裂5に照射することに限定されるものではなく、レーザ光11をフォーカス状態で腹板4の亀裂5に照射するようにしても良い。更に、レーザ発生機構12は、集光光学系14とは異なる光学系によってレーザ光11を平行光の状態で腹板4の亀裂5に所定のスポット径で照射するようにしても良い。更に、レーザ発生機構12は、レーザ発振器13から直接的にレーザ光11を平行光の状態で腹板4の亀裂5に所定のスポット径で照射するようにしても良い。
【0023】
以上のような構成を有するレーザ亀裂補修装置10は、I形鋼3の腹板4に発生した亀裂5に、所定のスポット径のレーザ光11を照射することで、亀裂5を溶融させて消去することが出来、亀裂5を補修することが出来る。
【0024】
更に、レーザ亀裂補修装置10は、レーザ光11を亀裂5に照射する際に、所定のスポット径のレーザ光を照射することで、施工裕度が向上し、橋梁1が建設された現場において施工するような状況にあっても、容易且つ確実に亀裂5にレーザ光11を照射することが出来、容易且つ確実に亀裂5を消去することが出来る。
【0025】
[3.亀裂の補修方法]
次に、レーザ亀裂補修装置10を用いて亀裂5の補修を行う亀裂の補修方法について、図5の工程図を参照して説明する。
【0026】
先ず、ステップS1では、図6(A)に示すように、I形鋼3の腹板4に発生した亀裂5の一端部5aに、図6(B)に示すように、亀裂5の幅よりも大きな円形状の第一貫通孔となるスタートホール20を形成する。このスタートホール20は、レーザ光11を照射する開始点となる。
【0027】
次いで、ステップS2では、図3に示すように、腹板4の厚さ方向の片側(一方の面)から、レーザ亀裂補修装置10のレーザ発生機構12によって所定のスポット径のレーザ光11を照射する。この際、レーザ光は、図6(B)中の矢印Xに示すように、第一貫通孔となるスタートホール20から亀裂5の他端部5bまで、亀裂5に沿って照射される。これにより、亀裂5は溶融され消去される。ここでのレーザ光11のスポット径は、亀裂5の幅よりも大きくスタートホール20よりも小さく設定されている。具体的に、スポット径は、3〜7mmに設定されている。以上のようにして、I形鋼3の腹板4の亀裂5を補修する。
【0028】
本発明を適用した亀裂の補修方法では、亀裂5の一端部5aにスタートホール20を形成し、このスタートホール20から、亀裂5の幅よりも大きくスタートホール20よりも小さなスポット径のレーザ光11の照射を開始することで、照射が開始されると、レーザ光11がスタートホール20に挿通され、スタートホール20に挿通されたレーザ光11によって、スタートホール20に繋がった亀裂5の基端部が腹板4の厚さ方向において全体が略均等に加熱される。ここで、例えば、スタートホール20を形成せずに、レーザ光11の照射が開始された際に、レーザ光11によって腹板4の一主面に照射された場合では、腹板4の一主面だけが加熱されるので、腹板4の厚さ方向において温度が異なり、腹板4の厚さ方向において均等に溶融させることは難しく、過小入熱状態となって亀裂が残存する虞や、過小及び/又は過大入熱状態となって亀裂の周辺が垂れ落ちする虞がある。本発明を適用した亀裂の補修方法では、上述したようにして亀裂5が腹板4の厚さ方向において略均等に加熱されるので、レーザ光11によって腹板4の一主面だけが加熱される場合よりも、容易且つ確実に亀裂5を腹板4の厚さ方向において均等に溶融させることが出来る。
【0029】
なお、レーザ光11のスポット径は、スタートホール20よりも小さく設けることに限定されるものではなく、スタートホール20よりも大きく設けても良い。
【0030】
ここで、従来から、I形鋼3のような鋼材に亀裂5が発生した場合に、亀裂5の応力の集中を緩和して亀裂5の進行を防ぐ為に、亀裂5の端部5a,5bの少なくとも一方に、貫通孔から成るストップホール21を形成することが知られている。
【0031】
本発明を適用した亀裂の補修方法では、例えば、図7に示すように、亀裂5の一端部5aに第一貫通孔となるストップホール21が形成された後に亀裂5の補修作業を行う場合、このストップホール21をスタートホール20として用いて、レーザ光11を、亀裂5の一端部5aのストップホール21から亀裂5の他端部5bまで亀裂5に沿って照射して、亀裂5を溶融させて消去するようにしても良い。
【0032】
また、本発明を適用した亀裂の補修方法では、例えば、図8(A)に示すように、亀裂5の他端部5bに第二貫通孔となるストップホール21が形成された後に亀裂5の補修作業を行う場合、図8(B)に示すように、亀裂5の一端部5aに第一貫通孔となるスタートホール20を形成し、レーザ光11を、亀裂5の一端部5aのスタートホール20から亀裂5の他端部5bのストップホール21まで亀裂5に沿って照射して、亀裂5を溶融させて消去するようにしても良い。
【0033】
更に、本発明を適用した亀裂の補修方法では、例えば、図9に示すように、亀裂5の両端部5a,5bにストップホール21,21が形成された後に亀裂5の補修作業を行う場合、第一貫通孔となる亀裂5の一端部5aのストップホール21をスタートホール20として用いて、レーザ光11を、亀裂5の一端部5aのストップホール21から第二貫通孔となる亀裂5の他端部5bのストップホール21まで亀裂5に沿って照射して、亀裂5を溶融させて消去するようにしても良い。
【0034】
更に、本発明を適用した亀裂の補修方法では、レーザ光11を、腹板4の片側から照射することに限定されるものではなく、腹板4の両側から照射するようにしても良い。具体的には、図10(A)に示すように、腹板4の一主面4a側から、所定のスポット径のレーザ光11を、亀裂5の一端部5aのスタートホール20から亀裂5の他端部5b又はストップホール21まで亀裂5に沿って照射し、亀裂5を腹板4の板厚の1/2以上溶融させて亀裂5の一部を消去する。次いで、図10(B)に示すように、腹板4の一主面4aとは反対側の他主面4b側から、所定のスポット径のレーザ光11を、亀裂5の一端部5aのスタートホール20から亀裂5の他端部5b又はストップホール21まで亀裂5に沿って照射し、亀裂5を腹板4の板厚の1/2以上溶融させて、残りの亀裂5を消去する。以上のようにして、腹板4の亀裂5を補修するようにしても良い。
【0035】
更に、図11(A)に示すように、腹板4には、亀裂5と共に、腐食により減肉された減肉部7を有する場合がある。このような場合、本発明を適用した亀裂の補修方法では、先ず、減肉部7の汚れや錆を除去してグラインダー研磨する等の下地処理を行い、図11(A)に示すように、上述したような亀裂の補修方法によって亀裂5の補修を行った後に、図11(B)に示すように、減肉部7に肉盛溶接を行い、減肉部7を肉盛部8で埋めて、減肉部7を補修するようにしても良い。
【0036】
例えば、減肉部7を補修する肉盛溶接は、レーザホットワイヤ溶接によって行われる。レーザホットワイヤ溶接を行う場合、レーザ亀裂補修装置10は、図11(B)に示すように、腹板4の亀裂5にレーザ光11をデフォーカス状態で照射して亀裂5を溶融消去する上述したレーザ発生機構12に加え、レーザ発生機構12から照射されるレーザ光11の照射部位に、融点近い温度まで加熱されたフィラーワイヤ31を供給するフィラーワイヤ供給機構30を備えるようにする。
【0037】
フィラーワイヤ供給機構30は、ワイヤドラム32と、ワイヤ矯正機33と、ワイヤホルダ34とを有している。ワイヤドラム32から送出されたフィラーワイヤ31は、ワイヤ矯正機33で巻癖が矯正されてワイヤホルダ34に送出される。ワイヤホルダ34は、フィラーワイヤ31に対する給電部となっており、ワイヤホルダ34と溶接部材の腹板4との間の電源部35によってフィラーワイヤ31に加熱用の電流が供給されている。フィラーワイヤ31に電流が供給されることで、ジュール熱により、フィラーワイヤ31は、先端が溶融池に接触した時点で溶融する程度に加熱される。そして、ワイヤホルダ34から送出されたフィラーワイヤ31は、レーザ光11の照射部位に供給される。以上のようにして、レーザ亀裂補修装置10によって、腹板4の減肉部7に肉盛溶接が行われ、減肉部7を補修するようにしても良い。
【0038】
なお、本発明を適用した亀裂の補修方法では、レーザホットワイヤ溶接によって肉盛溶接を行って減肉部7を補修することに限定されるものではなく、その他の従来公知の肉盛溶接で行うようにしても良い。
【0039】
更に、本発明を適用した亀裂の補修方法では、亀裂5を補修した後に、レーザ亀裂補修装置10によって肉盛溶接を行って、スタートホール20及びストップホール21を埋めるようにしても良い。更に、肉盛溶接以外に、パテ等によってスタートホール20及びストップホール21を埋めるようにしても良い。なお、本発明を適用した亀裂の補修方法は、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更をしてもよい。
【0040】
次に、発明者らは、本発明を適用した亀裂の補修方法についての効果確認を行った。
【0041】
<比較例1>
比較例1では、I形鋼3の腹板4に発生した亀裂5にスタートホール20及び/又はストップホール21を形成せずに、図3に示すように、亀裂5に、腹板4の一主面4a側から所定のスポット径のレーザ光11を照射して、亀裂5を補修した。
【0042】
比較例1において、I形鋼3の腹板4は、材質が炭素鋼(SM400)で、板厚が6mmのものを使用した。更に、レーザ光11は、レーザ出力が10kW、トーチ移動速度が0.30m/min、スポット径がφ5mmとなるように設定した。
【0043】
このような比較例1では、図12に示すように、過大入熱状態となって亀裂の周辺が垂れ落ちてしまった。
【0044】
<比較例2>
比較例2では、I形鋼3の腹板4に発生した亀裂5にスタートホール20及び/又はストップホール21を形成せずに、図3に示すように、亀裂5に、腹板4の一主面4a側から所定のスポット径のレーザ光11を照射して、亀裂5を補修した。
【0045】
比較例2において、I形鋼3の腹板4は、材質が炭素鋼(SM400)で、板厚が6mmのものを使用した。更に、レーザ光11は、レーザ出力が10kW、トーチ移動速度が0.50m/min、スポット径がφ5mmとなるように設定した。
【0046】
このような比較例2では、図13に示すように、過小入熱状態となって亀裂が残存してしまった。
【0047】
<実施例1>
実施例1では、図6(A)及び図6(B)に示すように、I形鋼3の腹板4に発生した亀裂5の一端部5aにスタートホール20を形成して、このスタートホール20から亀裂5に沿って亀裂5の他端部5bまで、図3に示すように、腹板4の一主面4a側から、所定のスポット径のレーザ光11を照射して、亀裂5を補修した。
【0048】
実施例1において、I形鋼3の腹板4は、材質が炭素鋼(SM400)で、板厚が6mmのものを使用した。更に、レーザ光11は、レーザ出力が10kW、トーチ移動速度が0.32m/min、スポット径がφ5mmとなるように設定した。
【0049】
このような実施例1では、図14に示すように、過大入熱状態となって亀裂の周辺が垂れ落ちすることなく、過小入熱状態となって亀裂が残存することなく、亀裂5を腹板4の厚さ方向において均等に溶融させて消去することが出来た。
【0050】
<実施例2>
実施例2では、実施例1と同様に、図6(A)及び図6(B)に示すように、I形鋼3の腹板4に発生した亀裂5の一端部5aにスタートホール20を形成して、このスタートホール20から亀裂5に沿って亀裂5の他端部5bまで、図3に示すように、腹板4の一主面4a側から、所定のスポット径のレーザ光11を照射して、亀裂5を補修した。
【0051】
実施例2において、I形鋼3の腹板4は、材質が炭素鋼(SM400)で、板厚が12mmのものを使用した。更に、レーザ光11は、レーザ出力が10kW、トーチ移動速度が0.40m/min、スポット径がφ3mmとなるように設定した。
【0052】
このような実施例2では、図15に示すように、過大入熱状態となって亀裂の周辺が垂れ落ちすることなく、過小入熱状態となって亀裂が残存することなく、亀裂5を腹板4の厚さ方向において均等に溶融させて消去することが出来た。
【0053】
<実施例3>
実施例3では、図6(A)及び図6(B)に示すように、I形鋼3の腹板4に発生した亀裂5の一端部5aにスタートホール20を形成して、このスタートホール20から亀裂5に沿って亀裂5の他端部5bまで、図10(A)に示すように、腹板4の一主面4a側から、所定のスポット径のレーザ光11を照射した後に、図10(B)に示すように、腹板4の他主面4b側から、所定のスポット径のレーザ光11を照射して、亀裂5を補修した。
【0054】
実施例3において、I形鋼3の腹板4は、材質が炭素鋼(SM400)で、板厚が12mmのものを使用した。更に、レーザ光11は、レーザ出力が10kW、トーチ移動速度が1.00m/min、スポット径がφ3mmとなるように設定した。
【0055】
実施例3では、図16に示すように、過小入熱状態となって亀裂が残存することなく、亀裂5を腹板4の厚さ方向において均等に溶融させて消去することが出来た。
【0056】
なお、本発明を適用した亀裂の補修方法では、上述したような施工条件に限定されるものではなく、例えば、レーザ光11は、レーザ出力が1kW〜20kW、トーチ移動速度が0.2m/min〜1.0m/min、スポット径がφ0.2mm〜φ10mmの範囲内で設定するようにすれば良い。更に、亀裂5の補修が行われる鋼材は、比較例及び実施例1〜4で挙げた他に、板厚が3.2mm〜30mm、材質が炭素鋼(SS、SM)、高強度炭素鋼(HT690、HT780、HT980)、ステンレス鋼(SUS)等であっても良い。
【符号の説明】
【0057】
1 橋梁、2 主桁、3 I形鋼、4 腹板、4a 一主面、4b 他主面、5 亀裂、5a 一端部、5b 他端部、6 鋼床版デッキ、7 減肉部、8 肉盛部、10 レーザ亀裂補修装置、11 レーザ光、12 レーザ発生機構、13 レーザ発振器、14 集光光学系、15 レーザートーチ、16 光ファイバ、17 焦点、20 スタートホール、21 ストップホール、30 フィラーワイヤ供給機構、31 フィラーワイヤ、32 ワイヤドラム、33 ワイヤ矯正機、34 ワイヤホルダ、35 電源部、100 当て板、101 締結部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既設鋼構造物の鋼材に発生した亀裂の一端部に形成された第一貫通孔から該亀裂の他端部まで、所定のスポット径のレーザ光を該亀裂に沿って照射し、該亀裂を溶融させて消去することを特徴とする亀裂の補修方法。
【請求項2】
前記第一貫通孔は、前記亀裂の幅よりも大きな直径の円形に貫設されるものであることを特徴とする請求項1に記載の亀裂の補修方法。
【請求項3】
前記鋼材には、前記亀裂の他端部に第二貫通孔が形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の亀裂の補修方法。
【請求項4】
前記レーザ光のスポット径は、前記亀裂の幅よりも大きいことを特徴とする請求項1−3の何れかに記載の亀裂の補修方法。
【請求項5】
前記レーザ光のスポット径は、前記第一貫通孔及び前記第二貫通孔よりも小さいことを特徴とする請求項1−4の何れかに記載の亀裂の補修方法。
【請求項6】
前記レーザ光のスポット径は、前記第一貫通孔及び前記第二貫通孔よりも大きいことを特徴とする請求項1−4の何れかに記載の亀裂の補修方法。
【請求項7】
前記レーザ光のスポット径は、3〜7mmであることを特徴とする請求項1−6の何れかに記載の亀裂の補修方法。
【請求項8】
前記レーザ光の焦点は、前記鋼材の外部に位置することを特徴とする請求項1−7の何れかに記載の亀裂の補修方法。
【請求項9】
前記レーザ光の焦点は、前記鋼材の内部に位置することを特徴とする請求項1−7の何れかに記載の亀裂の補修方法。
【請求項10】
前記レーザ光は、前記鋼材の厚さ方向の片側から照射することを特徴とする請求項1−9の何れかに記載の亀裂の補修方法。
【請求項11】
前記レーザ光は、前記鋼材の厚さ方向の両側から照射することを特徴とする請求項1−9の何れかに記載の亀裂の補修方法。
【請求項12】
前記レーザ光は、1回の照射で前記鋼材の厚さの1/2以上を溶融することを特徴とする請求項11に記載の亀裂の補修方法。
【請求項13】
前記亀裂を補修した後に、肉盛り溶接を行うことを特徴とする請求項1−12の何れかに記載の亀裂の補修方法。
【請求項14】
前記肉盛り溶接は、レーザホットワイヤ溶接であることを特徴とする請求項13に記載の亀裂の補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−86163(P2013−86163A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231303(P2011−231303)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(509338994)株式会社IHIインフラシステム (104)
【出願人】(000198318)株式会社IHI検査計測 (132)
【Fターム(参考)】