説明

二つのフランジを有する圧延形鋼の製造方法及び製造装置

【課題】圧延H形鋼の曲がり、特に大きな曲がりを、作業能率の低下を生じることなく、簡便かつ迅速にプレスにより矯正して圧延H形鋼を製造する。
【解決手段】曲がりが発生した圧延H形鋼0のフランジ2a,2bの間に配置された、ウェブ高さ方向への張力を発生する張力負荷装置11によって、ウェブ1にウェブ高さ方向への張力を発生しながら、フランジ2a,2bの外面にウェブ高さ方向への押圧力を付加することによって、曲がりを矯正して圧延H形鋼0を製造する。張力の値F1と押圧力の値F0とが、(1)式:F1<A、及び(2)式:F0−F1<Bをいずれも満足する。Aはフランジの変形限界荷重であり、Bはウェブの座屈荷重である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばH形鋼といった二つのフランジを有する圧延形鋼に生じた曲がりを矯正する製造方法及び製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
二つのフランジを有する形鋼としては、H形鋼、I形鋼、溝形鋼等が知られる。以降の説明では代表例としてH形鋼を例にとる。図2はフランジ2、2を有するH形鋼0の断面図であり、図3はH形鋼0の曲がりを示す説明図であり、さらに、図4はH形鋼0の反りを示す説明図である。
【0003】
図2に示すように、H形鋼0は、ウェブ1とその両端のフランジ2、2とから構成される。H形鋼0を圧延により製造する場合には、図3に示すようにウェブ1の高さ方向の曲がりや、図4に示すようにフランジ2の幅方向の反りが、圧延H形鋼0に全体的あるいは局部的に生じることがある。
【0004】
これらの曲がりや反りを減少させる方法として圧延条件を調整する方法が知られている。しかし、圧延での圧下のアンバランスや被圧延材の形状不良といった様々な上下左右での非対象圧延要素が曲がりや反りの発生に影響するため、これら全ての要因に対応して圧延条件を的確に調整することは非常に困難である。
【0005】
そのため、これらの曲がりや反りを圧延後に温間や冷間で矯正することが行われる。図4に示す反りに対する矯正は、主にオンラインのローラー矯正機により行われる。これに対し、図3に示す曲がりに対する矯正は、反りと比較して矯正荷重が過大となるためにローラー矯正機では十分に行うことができないことから、圧延後にオフラインでプレス矯正機により行われることが多い。
【0006】
図5は、圧延H形鋼0に対してプレスによる曲がり矯正を行う状況を示す説明図である。図5に示すように、圧延H形鋼0の曲がりをプレス矯正する場合には、曲がりの内側に位置する弦側フランジ2aの外面であって圧延H形鋼0の長手方向へ離間した二箇所2a−1、2a−2を、支持金型3、3により支持し、曲がりの外側に位置する弧側フランジ2bの外面であって二つの支持金型3、3の中間位置2b−1を、対向方向(弦側フランジ2aの外面方向)に押圧可能な押圧金型4により押圧して矯正する方法が採用される。
【0007】
しかし、図5に示すプレス矯正により圧延H形鋼0の曲がりを矯正しようとすると、曲がりの程度が大きい場合には、押圧金型4により押圧された弧側フランジ2bの中間位置2b−1の近傍のウェブ1に座屈が発生し、矯正が不可能になることがあった。
【0008】
特許文献1には、H形鋼0の弦側フランジ2aの内面を押圧金型により押圧することによってウェブ1の座屈を防止しながらH形鋼0の曲がりを矯正する方法が開示されている。特許文献1に開示された方法によれば、ウェブ1を座屈させることなくH形鋼0に生じた大きな曲がりを矯正することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−30090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1により開示された方法を実施するためには、H形鋼の弦側フランジ2aの内面を押圧する押圧金型の位置がH形鋼の両フランジの間になる位置となるように調整した上で、H形鋼を矯正装置(プレス設備)の内部に送り込む必要がある。このため、矯正のための段取り作業を、プレス設備を損傷させないために慎重に行う必要があり、作業能率の低下は避けられない。
【0011】
また、図5に示すように、従来のプレス矯正による圧延H形鋼0の曲がりの矯正は、圧延H形鋼0の両サイドに、それぞれ支持金型3、3及び押圧金型4を配置しておくことにより、圧延H形鋼0の曲がり方向に応じて押圧方向を簡単に変更することができ、圧延H形鋼0の曲がりの矯正作業を迅速に行うことができる。これに対し、特許文献1により開示された方法では、矯正可能な曲がりは一方向に限定されるため、圧延H形鋼0の曲がりが反対方向である場合には、矯正しようとする圧延H形鋼自体を反転しなければならず、この面からも作業能率の低下は避けられない。
【0012】
本発明の目的は、例えばH形鋼、I形鋼又は溝形鋼といった二つのフランジを有する圧延形鋼の曲がり、特に大きな曲がりを、作業能率の低下を生じることなく、簡便かつ迅速にプレスにより矯正して圧延形鋼を製造する方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、例えば圧延H形鋼といった二つのフランジを有する圧延形鋼のウェブにウェブ高さ方向に張力を加えることができる装置(以降本明細書では「張力付加装置」という)を備えたプレス矯正装置を用いて、曲がりのプレス矯正を行えば、圧延形鋼の曲がり、特に大きな曲がりを、作業能率の低下を生じることなく、簡便かつ迅速に矯正できる、という知見に基づくものである。
【0014】
本発明は、曲がりが発生した形鋼の二つのフランジの間に配置された、圧延形鋼のウェブにウェブ高さ方向への張力を発生する張力負荷装置によって、ウェブにウェブ高さ方向への張力を発生しながら、フランジの外面にウェブ高さ方向への押圧力を付加することによって、曲がりを矯正して圧延形鋼を製造する方法であって、張力の値をF1とするとともに押圧力の値をF0とするときに、(1)式:F1<A、及び(2)式:F0−F1<Bをいずれも満足することを特徴とする二つのフランジを有する圧延形鋼の製造方法である。(1)式及び(2)式において、Aはフランジの変形限界荷重であり、Bはウェブの座屈荷重である。
【0015】
別の観点からは、本発明は、曲がりが発生した圧延形鋼の二つのフランジの外面に圧延形鋼のウェブ高さ方向への押圧力を付加することによって曲がりを矯正して圧延形鋼を製造するための装置であって、圧延形鋼のウェブを境とする一方側又は両方側であって圧延形鋼の二つのフランジの間に配置された、圧延形鋼のウェブにウェブ高さ方向への張力を発生する張力負荷装置を備え、張力をF1とするとともにフランジ外面から加える押圧力をF0とするときに、上記(1)式、及び上記(2)式をいずれも満足することを特徴とする二つのフランジを有する圧延形鋼の製造装置である。
【0016】
これらの本発明では、二つのフランジを有する圧延形鋼として、圧延H形鋼、圧延I形鋼又は圧延溝形鋼が例示される。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、例えば圧延H形鋼、圧延I形鋼又は圧延溝形鋼といった二つのフランジを有する圧延形鋼の曲がり、特に大きな曲がりを、作業能率の低下を生じることなく、簡便かつ迅速にプレスにより矯正して圧延形鋼を製造することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1(a)は、本発明に係る圧延H形鋼の製造装置を示す上面図であり、図1(b)は、図1(a)におけるA−A断面図である。
【図2】図2は、二つのフランジを有する圧延H形鋼の断面図である。
【図3】図3は、圧延H形鋼の曲がりを示す説明図である。
【図4】図4は、圧延H形鋼の反りを示す説明図である。
【図5】図5は、圧延H形鋼に対してプレスによる曲がり矯正を行う状況を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照しながら、本発明を説明する。なお、以降の説明では、二つのフランジを有する圧延形鋼としては圧延H形鋼を例にとるが、本発明は圧延H形鋼に限定されるものではなく、圧延I形鋼や圧延溝形鋼といった二つのフランジを有する圧延形鋼に等しく適用される。
【0020】
図1(a)は、本発明に係る圧延H形鋼0の製造装置10を示す上面図であり、図1(b)は、図1(a)におけるA−A断面図である。なお、図1(a)及び図1(b)では、図5と共通する要素には同一の符号を付してあり、以降の説明では重複する説明を適宜省略する。
【0021】
図1(a)及び図1(b)に示すように、製造装置10は、曲がりが発生した圧延H形鋼0の二つのフランジ2a、2bの外面に圧延H形鋼0のウェブ高さ方向への押圧力を付加することによって曲がりを矯正するための支持金型3、3及び押圧金型4を、圧延H形鋼0の両サイドにそれぞれ備えている。
【0022】
支持金型3、3及び押圧金型4は、図5を参照しながら説明した公知のものであればよく、特定の型式のものには限定されない。支持金型3、3及び押圧金型4は、当業者にとっては周知であるので、支持金型3、3及び押圧金型4の説明は省略する。
【0023】
製造装置10は張力負荷装置11を備える。張力負荷装置11は、圧延H形鋼0のウェブ1にウェブ高さ方向への張力を発生することができる装置であればよく、特定のものには限定されない。張力負荷装置11として、ジャッキもしくは油圧シリンダー等が例示される。
【0024】
張力負荷装置11は、圧延H形鋼0のウェブ1を境とする一方側(上面側又は下面側)、又は両方側(上面側及び下面側)であって、圧延H形鋼0の二つのフランジ2a、2bの間に配置される。図1(a)及び図1(b)に示す製造装置10では、張力負荷装置11がH形鋼0のウェブ1を境とする上面側にだけ配置されているが、下面側にだけ配置されていてもよいし、上面側及び下面側の双方に配置されていてもよい。
【0025】
張力負荷装置11は、圧延H形鋼0の長手方向について支持金型3、3及び押圧金型4間の上部に、圧延H形鋼0のフランジ高さ方向(上下方向)の位置を自在に変えることができる伸縮装置12によって支持されている。伸縮装置12としてエアーシリンダーや電動ジャッキを用いることが例示される。さらに、張力負荷装置11は、押圧金型4、4のセンターライン上に設置されている。
【0026】
張力負荷装置11によって圧延H形鋼0のウェブ1にウェブ高さ方向へ発生する張力F1と、支持金型3、3及び押圧金型4によって圧延H形鋼0のフランジ2a、2bの外面に加えられる押圧力F0とは、(1)式:F1<A、及び(2)式:F0−F1<Bをいずれも満足する。
【0027】
(1)式及び(2)式において、Aはフランジの変形限界荷重であり、Bはウェブの座屈荷重である。なお、A及びBの値は、圧延H形鋼0のウェブ1やフランジ2a、2bの厚さによって変わるため、矯正する圧延H形鋼0毎に予め測定しておけばよい。
【0028】
また、押圧力F0及び張力F1が(1)及び(2)式の関係をいずれも満足するためには、例えば油圧制御装置を用いて制御すればよい。
製造装置10は以上のように構成される。次に、この製造装置10を用いて圧延H形鋼0の曲がりを矯正して圧延H形鋼を製造する方法を説明する。
【0029】
製造装置10により曲がりを矯正して圧延H形鋼0を製造する場合、はじめに、伸縮装置12によって張力負荷装置11を、曲がりが発生した圧延H形鋼0の両フランジ2a、2bの間に降下し、張力負荷装置11を起動することによって圧延H形鋼0のウェブ1に張力F1を負荷する。負荷する張力の上限Aは、フランジ2a、2bが変形しないフランジ変形限界荷重以下とする。上限Aを超えるとフランジ2a、2bが外側に変形するからである。
【0030】
製造装置10は、その後、図5に示す従来の矯正装置と同様に、押圧金型4及び支持金型3、3により圧延H形鋼0の曲がりの矯正を行う。押圧金型4によって圧延H形鋼0の弧側フランジ2bの外側へ加えられた矯正荷重F0は、圧延H形鋼0のウェブ1と張力負荷装置11に分散されて、圧延H形鋼0の弦側フランジ2aへ伝達され、これにより、圧延H形鋼0の曲がりが矯正される。
【0031】
この際、矯正荷重F0は、ウェブ1が座屈する荷重Bとの間で、Fo−F1<Bの関係を満足する。この関係を満足しないとウェブ1が座屈するからである。なお、製造装置10では、上述したように例えば油圧制御装置によって、押圧力F0及び張力F1が、上記(1)式及び(2)式の関係をいずれも満足するように、制御される。
【0032】
このようにして、製造装置10では、支持金型3、3及び押圧金型4によって圧延H形鋼0のフランジ2a、2bの外面にウェブ高さ方向への押圧力を付加することによって、圧延H形鋼0の曲がりを矯正して圧延H形鋼を製造する。
【0033】
図5に示す従来の矯正装置による曲がりの矯正は、弧側フランジ2bの外面であって二つの支持金型3、3の中間位置2b−1を、対向方向(弦側フランジ2aの方向)に押圧可能な押圧金型4により押圧することによって、行われる。このために、押圧されていないもう一方の弦側フランジ2aには押圧力が加わらないために、弦側フランジ2aを矯正するための力も弧側フランジ2bに加える必要があるが、押圧力は弧側フランジ2bの変形限界までしか加えられないため、大きな曲がりを矯正することができない
これに対し、製造装置10では、フランジ2aの内側と、もう一方のフランジ2bの外側から同時に力を加えることができ,従来の矯正技術とはウェブの座屈荷重分多くの荷重を加えることができるため、大きな曲がりを矯正することが可能になる。
【0034】
このように製造装置10によれば、図5に示す従来の矯正装置と同様の構成に張力負荷装置11を付加した構成を有するので、圧延H形鋼0の曲がり、特に大きな曲がりを、作業能率の低下を生じることなく、簡便かつ迅速にプレスにより矯正して圧延H形鋼を製造することができるようになる。
【符号の説明】
【0035】
0 圧延H形鋼
1 ウェブ
2 フランジ
2a 弦側フランジ
2b 弧側フランジ
2a−1、2a−2 二箇所の位置
2b−1 中間位置
3 支持金型
4 押圧金型
10 本発明に係る圧延H形鋼の製造装置
11 張力負荷装置
12 伸縮装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲がりが発生した圧延形鋼の二つのフランジの間に配置された、当該圧延形鋼のウェブにウェブ高さ方向への張力を発生する張力負荷装置によって、前記ウェブにウェブ高さ方向への張力を発生しながら、前記フランジの外面に前記ウェブ高さ方向への押圧力を付加することによって、前記曲がりを矯正して圧延形鋼を製造する方法であって、前記張力の値をF1とするとともに前記押圧力の値をF0とするときに、下記(1)式及び(2)式をいずれも満足することを特徴とする二つのフランジを有する圧延形鋼の製造方法。
F1<A ・・・・・・・(1)
F0−F1<B ・・・・・・・(2)
(1)式及び(2)式において、Aは前記フランジの変形限界荷重であり、Bは前記ウェブの座屈荷重である。
【請求項2】
曲がりが発生した圧延形鋼の二つのフランジの外面に当該圧延形鋼のウェブ高さ方向への押圧力を付加することによって前記曲がりを矯正して圧延形鋼を製造するための装置であって、
前記圧延形鋼のウェブを境とする一方側又は両方側であって当該圧延形鋼の二つのフランジの間に配置された、当該圧延形鋼のウェブにウェブ高さ方向への張力を発生する張力負荷装置を備え、前記張力をF1とするとともにフランジ外面から加える押圧力をF0とするときに、下記(1)式及び(2)式をいずれも満足することを特徴とするフランジを有する圧延形鋼の製造装置。
F1<A ・・・・・・・(1)
F0−F1<B ・・・・・・・(2)
(1)式及び(2)式において、Aは前記フランジの変形限界荷重であり、Bは前記ウェブの座屈荷重である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−250256(P2012−250256A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124148(P2011−124148)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)