説明

二酸化塩素配合眼科用剤用容器

【課題】 眼科用剤用防腐剤である二酸化塩素の光分解を抑制し、かつ、内容物である眼科用剤の視覚的検査の容易ならしめる眼科用剤用の容器を提供する。
【解決手段】 容器の材料として、波長200nm〜500nmの光の透過率が10%以下であり、かつ、波長540nm〜800nmの光の透過率が80%以上である色材含有有色透明樹脂を用いる。当該容器は、充填された眼科用剤を外部から視認しやすい色を呈するので、容器外部からの視覚的検査を容易ならしめることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二酸化塩素配合眼科用剤用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
点眼剤をはじめとする眼科用剤には、防腐剤として塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン等のカチオン基含有化合物、クロロブタノール、p−アミノ安息香酸エステル及びソルビン酸等が単独で又は組み合わされて配合されている。
これらの防腐剤の中でも、カチオン基含有化合物は防腐効果に優れるため点眼剤用防腐剤として汎用されてきた。しかしながら、カチオン基含有化合物は、コンタクトレンズ(特にソフトコンタクトレンズ)との親和性が高いので、当該化合物を配合した点眼剤をコンタクトレンズ装着状態で点眼適用すると、カチオン基含有化合物がコンタクトレンズへ吸着し蓄積されて、コンタクトレンズの変質や物理的変化が生じることがある。更に、カチオン基含有化合物が蓄積したコンタクトレンズの装用は、眼障害発生の危険性がある。
このような背景から、点眼適用時に光へ曝露されることによって光分解する二酸化塩素が、ソフトコンタクトレンズに影響を与えず且つ安全性が高い防腐剤として注目されている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
しかしながら、光曝露による二酸化塩素の分解は急速に進行するので、二酸化塩素を配合した眼科用剤を製造し及び流通させる際には、二酸化塩素の光分解を抑制する手段を講ずる必要がある。
かかる手段の一つとして、不透明な遮光性容器を使用することが考えられる。しかしながら、不透明遮光性容器を用いた場合、容器内における眼科用剤(特に一般用点眼剤)の残存量、汚染状態及び眼科用剤組成物の分解(用剤中の粒子、溶状、色調により検出される)等の視覚的判断(視覚的検査)をユーザーが行えないという問題がある。
かかる問題に対処すべく、光透過特性の異なる複数種類の樹脂を組み合わせることにより、波長420nm〜500nmの光のみを透過するように構成した眼科用剤用容器が開発されている(例えば、特許文献3参照)。
しかしながら、二酸化塩素の光分解抑制と眼科用剤の視覚的検査の容易性とを同時に高いレベルで提供するという点で満足のいくものではなかった。
【0003】
【特許文献1】特開昭57−14821号公報
【特許文献2】特許第2820744号明細書
【特許文献3】特開2003−327279号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって、本発明は、眼科用剤に配合した二酸化塩素の光分解を抑制しつつ、かつ、眼科用剤の容易な視覚的検査を可能ならしめる眼科用剤用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、波長200nm〜500nmの光の透過率が10%以下であり、かつ、波長540nm〜800nmの光の透過率が80%以上である有色透明な色材含有熱可塑性樹脂を眼科用剤用容器として用いると、当該容器内において二酸化塩素の光分解が有意に抑制されること、及び、当該容器が充填された眼科用剤の視覚的検査をしやすい色を呈することを見出した。本発明は、この知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、二酸化塩素配合眼科用剤用の容器であって、波長200nm〜500nmの光の透過率が10%以下であり、かつ、波長540nm〜800nmの光の透過率が80%以上である、有色透明な色材含有熱可塑性樹脂からなることを特徴とする容器に関するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の眼科用剤用容器は、後述する実施例で示されるように、眼科用剤に配合された二酸化塩素の光分解を抑制して、その防腐効果を長期間発揮させることができる。更に、当該容器は、充填された眼科用剤を外部から視認しやすい色を呈するので、容器外部からの視覚的検査を容易ならしめることができる。したがって、本発明は二酸化塩素配合眼科用剤用の容器として好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の眼科用剤用容器(以下、単に「容器」ともいう)は、波長200nm〜500nmの光の透過率が10%以下であり、かつ、波長540nm〜800nmの光の透過率が80%以上であるという光透過特性を有する樹脂から構成される。
「波長200nm〜500nmの光の透過率が10%以下」とは、200nm〜500nmの波長域における光透過率の平均値が10%以下であることをいう。また、「波長200nm〜500nmの光の透過率が10%以下」には、200nm〜500nmの全波長域において透過率が10%以下である場合も含まれる。
「波長540nm〜800nmの光の透過率が80%以上」とは、540nm〜800nmの波長域における光透過率の平均値が80%以上であることをいう。また、「波長540nm〜800nmの光の透過率が80%以上」には、540nm〜800nmの全波長域において透過率が80%以上である場合も含まれる。
本発明の容器を構成する樹脂では、波長200nm〜500nmの光の透過率が10%以下、好ましくは5%以下、特に好ましくは2%以下である。波長200nm〜500nmの光の透過率が10%以下であると、眼科用剤に配合された二酸化塩素の光分解を有意に抑制することができる。
【0008】
本発明の容器を構成する樹脂では、波長540nm〜800nmの光の透過率が80%以上、好ましくは82%以上、特に好ましくは85%以上である。波長540nm〜800nmの光の透過率は80%以上であると、前述の波長200nm〜500nmの光のカットとの組み合わせにより、容器を充填された眼科用剤の視覚的検査をしやすい色とすることができる。
樹脂の透過率の測定方法は公知であり、例えば、JIS K7105にしたがい測定することができる。
【0009】
本発明の容器を構成する樹脂としては、公知であり市場において容易に入手可能な熱可塑性樹脂を使用することができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)及びポリエチレン(PE)等が挙げられる。これらの樹脂の中では、透明性に優れ、容器内の眼科用剤の視覚的検査を容易ならしめるPETが特に好ましい。
これらの樹脂には、本発明の容器を構成する樹脂に要求される光透過特性(波長200nm〜500nmの光の透過率が10%以下、かつ、波長540nm〜800nmの光の透過率が80%以上)に影響を与えない添加量範囲で、公知の紫外線吸収剤、着色剤(1種類単独でもよく、2種類以上の組み合わせでもよい)等を配合してもよい。
【0010】
本発明の容器を構成する樹脂に要求される光透過特性(波長200nm〜500nmの光の透過率が10%以下、かつ、波長540nm〜800nmの光の透過率が80%以上)は、前述の樹脂へ色材を配合することにより達成することができる。
「色材」とは、前述の光透過特性を樹脂へ付与することができる物質をいう。具体例としては顔料及び染料が挙げられる。
顔料としては、イソインドリノン系、アンスラキノン系、縮合アゾ系、モノアゾ系、ジスアゾ系の有機顔料等が挙げられる。具体的には、アンスラキノン系の有機顔料であるPigment Yellow 147が挙げられる。
染料としては、複素環系、チオインジコ系、アンスラキノン系、ペリノン系の染料等が挙げられる。具体的には、ペリノン系の染料であるSolvent Red 180が挙げられる。
これらの色材は、単独で又は2種以上の組み合わせ(例:2種以上の顔料の組み合わせ、2種以上の染料の組み合わせ、顔料と染料との組み合わせ)で使用することができる。 本発明では、Solvent Red 180(染料)とPigment Yellow 147(顔料)との組み合わせを好適に使用することができる。
前記の色材はいずれも公知物質であり、市場において容易に入手することができる。
色材の樹脂への配合量は、容器に要求される光透過特性を達成できる量であれば特に制限されない。例えば、樹脂としてPETを用い、色材として顔料と染料との組み合わせを用いる場合、色材の配合量は0.01%〜1.5%、好ましくは0.01〜1.0%、特に好ましくは0.01〜0.5%である。
本発明の容器を構成する樹脂は、前述の色材の配合により所定の光透過特性(波長200nm〜500nmの光の透過率が10%以下、かつ、波長540nm〜800nmの光の透過率が80%以上)を有するので、有色かつ透明である。
【0011】
本発明の容器は、公知の着色樹脂容器の製造法を用いて製造することができる。
例えば、以下の工程:
(1)色材を樹脂へ配合する工程;及び
(2)着色樹脂を眼科用剤用容器へと成形する工程
を含む方法により製造することができる。
本発明の容器の形状は、眼科用剤の保存及び投与に適する任意の形状、例えばボトル形状や平面状の側壁を有するボトル形状等にすることができる。
また、本発明の容器には、充填される眼科用剤を封止するための封止手段(例えば、キャップ)を適宜設けることができる。
【0012】
本発明の容器を適用する眼科用剤は、必須の防腐剤成分として光分解性の二酸化塩素が配合されている。
二酸化塩素としては、二酸化塩素(例えば、Ocupure(登録商標)として販売されているもの)、安定化した二酸化塩素(例えば、Purite(登録商標)、Purogene(登録商標)として販売されているもの)、亜塩素酸ナトリウム、水成二酸化塩素等が挙げられる。
これらの二酸化塩素は公知化合物であり、市場において容易に入手可能である。
尚、眼科用剤は、前記の二酸化塩素を単独で、又は2種以上を組み合わせて含んでいてもよい。
二酸化塩素の眼科用剤への配合量は、防腐効果を発揮しつつ、かつ、使用者への悪影響を及ぼさない量であれば特に制限されない。例えば、眼科用剤が点眼剤の場合、通常、点眼剤全体の0.0001〜0.1%(w/v)(重量/容量%)であり、好ましくは0.001〜0.02%(w/v)である。0.0001%(w/v)以上であると二酸化塩素が防腐作用を十分発揮することができ、0.1%(w/v)以下であると点眼適用時の眼刺激を起こすことなく、良好な使用感を維持することができる。
眼科用剤は、使用目的に応じて必要とされる種々の成分をその通常の使用量において配合することができる。例えば、抗炎症剤、ビタミン剤、抗ヒスタミン剤等の有効成分及びpH調節剤、緩衝剤、等張化剤、可溶化剤、保存剤等の添加剤を配合することができる。
眼科用剤の剤型としては、目薬(点眼剤)、洗眼剤及びコンタクトレンズ用装着液等が挙げられる。本発明の容器によって光分解が抑制される二酸化塩素は、コンタクトレンズ(特に、ソフトコンタクトレンズ)用剤の防腐剤として好適に用いられる。したがって、眼科用剤の用途としては、コンタクトレンズ用目薬及びコンタクトレンズ用装着液が好ましく、特にソフトコンタクトレンズ用目薬及びソフトコンタクトレンズ用装着液が好ましい。
【0013】
次に、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0014】
実施例1
色材としてのSolvent Red 180(市販品)及びPigment Yellow 147(市販品)を、樹脂としてのポリエチレンテレフタレート(市販品)へ公知の配合手段を用いて配合した。各色材の樹脂への配合量は、Solvent Red 180が0.00025%(w/w)であり、Pigment Yellow 147が0.22%(w/w)であった。得られた樹脂を公知のブロー成形手段により成形して、平面状の側壁を有するボトル形状の容器(容量15ml)を製造した。
【0015】
比較例1
色材を配合しなかったことを除いて、実施例1と同様の工程により容器を製造した。
【0016】
比較例2
色材の代わりにベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(商品名:バイオソーブ550)0.1%(w/w)を樹脂へ配合したことを除いて、実施例1と同様の工程により容器を製造した。
【0017】
実施例及び比較例の容器の光透過特性
実施例及び比較例の容器の光透過特性を、JIS K7105に準じて測定した。結果を表1に示す。更に表1の結果を図示したものを図1に示す。























表1

実施例1の容器において、200nm〜500nmの波長域における光透過率の平均値は0.7%であり、540nm〜800nmの波長域における光透過率の平均値は85.5%であった。したがって、実施例1の容器は、本発明の容器に要求される光透過特性(波長200nm〜500nmの光の透過率が10%以下、かつ、波長540nm〜800nmの光の透過率が80%以上)の要件を満たしていることが理解される。
【0018】
眼科用剤へ配合した二酸化塩素の光分解抑制
本試験例では、眼科用剤へ配合した二酸化塩素の光分解に対する容器の影響を評価した。試験には、二酸化塩素(Purite(登録商標))を亜塩素酸ナトリウムとして0.005%(w/v)、ポリビニルアルコール(PVA)を1.4%(w/v)並びに添加物としてのエデト酸ナトリウム(EDTA)及び塩化ナトリウム含有燐酸緩衝液を含む二酸化塩素配合眼科用剤を調製して使用した。次いで、実施例1及び比較例1〜2の各容器へ、眼科用剤をそれぞれ12ml充填した。
得られた眼科用剤充填容器を、ICH(日米EU医薬品規制調和国際会議)の「新原薬及び新製剤の光安定性ガイドライン」に準じて12万ルクスでの10時間照射を1サイクルとする光照射を合計で6サイクル行い、照射開始時、照射3サイクル後及び照射6サイクル後に眼科用剤中の二酸化塩素濃度を測定した。二酸化塩素濃度の測定は滴定法を用いて行った。結果を表2に示す。

表2.各容器中における二酸化塩素濃度(ppm)

表2のデータに基づき、照射開始時の二酸化塩素濃度を100%とする二酸化塩素の残存率を算出した(例えば、比較例1の照射6サイクル後の二酸化塩素残存率:34.8/52.2×100=67%)。結果を図2に示す。
色材を全く添加しなかった比較例1の容器では、二酸化塩素の光分解が激しく起こり、照射6サイクル後の残存率が67%まで低下した。
紫外線吸収剤を添加した比較例2の容器でも、二酸化塩素の光分解が起こり、照射6サイクル後の残存率が84%まで低下した。
一方、実施例1の容器では、二酸化塩素の光分解がほとんど起こらず、照射6サイクル後であっても、暗所保管(99%)と同程度の残存率(98%)であった。
以上より、本発明の容器は、眼科用剤に配合された二酸化塩素の光分解を抑制し、その防腐効果を長期間発揮させることができることが理解される。
【0019】
視覚的検査の容易性
実施例1及び比較例1〜2の容器へ前述の眼科用剤を充填することによって得た眼科用剤充填容器について、用剤中の異物を検出する方法としてSD方式を採用する全自動検査装置(エーザイマシナリー社製AIM)を用いて、容器充填状態の眼科用剤の視覚的検査の容易性を評価した。
実施例1の容器はアンバー色(琥珀色)かつ透明であった。この場合、容器外から容器内の眼科用剤の液量、異物の確認が可能であった。
比較例1の容器は無色透明であった。この場合、容器外から容器内の眼科用剤の液量、異物の確認が可能であった。
比較例2の容器は無色透明であった。この場合、容器外から容器内の眼科用剤の液量、異物の確認が可能であった。
以上より、実施例1の容器は、無色透明の比較例1及び2の容器と同様に、充填された眼科用剤の視覚的検査を容易に行うことができることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明の容器は、二酸化塩素配合眼科用剤用の容器として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、実施例及び比較例の容器の光透過特性を示す図である。
【図2】図2は、実施例及び比較例の容器に充填した眼科用剤中の二酸化塩素の光分解を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長200nm〜500nmの光の透過率が10%以下であり、かつ、波長540nm〜800nmの光の透過率が80%以上である、有色透明な色材含有熱可塑性樹脂からなることを特徴とする二酸化塩素配合眼科用剤用容器。
【請求項2】
波長200nm〜500nmの光の透過率が5%以下であり、かつ、波長540nm〜800nmの光の透過率が82%以上である、請求項1記載の容器。
【請求項3】
波長200nm〜500nmの光の透過率が2%以下であり、かつ、波長540nm〜800nmの光の透過率が85%以上である、請求項2記載の容器。
【請求項4】
熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートである、請求項1〜3のいずれかに記載の容器。
【請求項5】
色材がペリノン系染料及びアンスラキノン系有機顔料である、請求項1〜4のいずれかに記載の容器。
【請求項6】
色材がSolvent Red 180及びPigment Yellow 147である、請求項5に記載の容器。
【請求項7】
波長200nm〜500nmの光の透過率が2%以下であり、かつ、波長540nm〜800nmの光の透過率が85%以上であり、
熱可塑性樹脂がポリエチレンテレフタレートであり、かつ、
色材がSolvent Red 180及びPigment Yellow 147である、請求項1記載の容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−61192(P2007−61192A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−248017(P2005−248017)
【出願日】平成17年8月29日(2005.8.29)
【出願人】(301005795)エイエムオー・ジャパン株式会社 (1)
【Fターム(参考)】