説明

二酸化炭素マイクロバブル含有水供給方法および二酸化炭素マイクロバブル含有水供給装置

【課題】この発明は、栽培植物の葉の近傍に十分な二酸化炭素を効率よく供給できる二酸化炭素マイクロバブル含有水供給方法および二酸化炭素マイクロバブル含有水供給装置を提供することを目的とする。
【解決手段】上記の目的を解決するために、この発明の二酸化炭素マイクロバブル含有水供給方法は、マイクロバブル発生装置2に二酸化炭素と水を導入して二酸化炭素マイクロバブル含有水を生成し、この二酸化炭素マイクロバブル含有水を噴霧ノズル4で栽培植物xの局所に対して微小水滴として吐出することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、栽培植物の局所に対して二酸化炭素を供給する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素(CO2)は光合成の基質である。農産物生産において、二酸化炭素ガス(CO2濃度の高い空気やCO2を溶かしこんだ水<炭酸水>も含む)を栽培植物へ施用して、栽培環境CO2濃度を高く保ち、光合成量を増大させ、生育を促進することで収量増加および品質向上を達成することを二酸化炭素(CO2)施用という。一般に、二酸化炭素ガスは、栽培施設内全域に張り巡らされたエアダクトを通して供給される。
【0003】
CO2施用は、ヨーロッパの比較的冷涼で日射が強くない地域において、栽培施設を閉め切って管理する期間の長いガラス温室で実用化された技術である。わが国の大規模トマト生産植物工場においてもCO2施用のための設備が導入されている。たとえば、LPGを燃焼した際に生じたCO2濃度の高い空気(CO2濃度は約1500 ppm)を、植物工場内全域に設置したエアダクトにより供給している。このCO2供給用ダクトは、トマトを栽培しているガターの直下にガターと平行に設置されており、ダクト表面の直径約1mmの小孔より施用される。
【0004】
また、特許文献1には、炭酸水を植物体に噴霧することによるCO2施用方法も提案されている。その要約によれば、給水配管に介装されたインラインミキサーに炭酸ガスと水を供給して炭酸水を製造する炭酸水の製造工程と、この炭酸水の製造工程で製造された炭酸水をハウス内あるいはハウス内の植物へ噴霧する炭酸水の噴霧工程とで植物への炭酸ガスの供給方法を構成している。ここで、炭酸水は、高圧下でバブリング装置により製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−199920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
わが国の大規模トマト生産植物工場におけるCO2施用の最も大きな課題は、換気が必要な夏季における効率のよいCO2施用方法の確立である。CO2施用技術が実用化されたヨーロッパの比較的冷涼で日射が強くない地域に対し、わが国の夏季は、高温・強光・多湿であるため、太陽光利用型植物工場では、気温が上昇しすぎないように換気を行う必要がある。これは、高温となった気体を植物工場外へ送り出し、冷涼な外気を取り入れることで過剰な熱を植物工場外へ排出することを目的としている。このような条件下において、CO2施用を行っても、植物工場内に施用されたCO2は速やかに植物工場外へ拡散・排出されることになる。実際、夏季の換気を盛んに行う時期において、200 kgCO2ha-1 h-1の能力を持つCO2施用システムをフル稼働させても、植物工場内のCO2濃度は600〜700ppm程度までしか上昇しないことが知られている。
【0007】
夏季に換気を行うことを前提とすると(現時点の技術では、夏季昼間の無換気状態の維持はコスト的に不可能)、エアダクトにより植物工場内にCO2ガス(または、高CO2濃度の空気)を供給する形体をとる以上、施用されたCO2は作業通路など、葉などが疎となっている空間を優先して通過し、植物工場外へ逃げて行くことになる。この様なCO2施用を続ける限り、CO2施用の費用対効果をあげることは困難であり、さらに、温暖化ガスであるCO2を大気中へ放出する農業生産形体は、未来型の持続可能な農業生産としては望ましくない。
【0008】
一方、特許文献1に記載された発明は、CO2ガスをバブリングして炭酸水を作成し、これを作成群落上部から噴霧し、水滴をファンで送付して、効率よく水滴を植物葉に付着させようとするものである。しかし、発明者らが、このような方法を試みたとき、植物葉付近の二酸化炭素濃度を十分に向上できないことが判明した。作成した炭酸水から二酸化炭素が急激に放出され、植物体に水滴が付着するときには水滴に含まれていた二酸化炭素の相当量が消失するためである。
【0009】
さらに、従来のCO2施用は、植物体のどの部分がどの程度の量のCO2を欲しているのかは考慮せず、植物群落全体に対してCO2付与を行うものである。この場合、施用したCO2量が過少(CO2固定機会の損逸)または過大(CO2施用コストの無駄)となってしまう。そこで、SPA(Speaking plant approach)コンセプトに基づき、各種植物生体情報計測技術を用いて植物体のCO2要求量を評価し(トマト群落の上層と下層では必要とするCO2量が異なる)、さらに、リアルタイムに計測される環境情報も利用して、植物体の適切な部位に適切な量のCO2を適切なタイミングで施用できることが好ましい。
【0010】
この発明は、栽培植物の葉の近傍に十分な二酸化炭素を効率よく供給できる二酸化炭素マイクロバブル含有水供給方法および二酸化炭素マイクロバブル含有水供給装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を解決するために、この発明の二酸化炭素マイクロバブル含有水供給方法は、マイクロバブル発生装置に二酸化炭素と水を導入して二酸化炭素マイクロバブル含有水を生成し、この二酸化炭素マイクロバブル含有水を噴霧ノズルで栽培植物の局所に対して微小水滴として吐出することを特徴とする。二酸化炭素マイクロバブルの大きさを30μm未満とし、微小水滴の大きさを30μm以上とすることが好ましい。さらに、SPAの原理を適用し、夜間において光を植物体に照射し、異なる測定時間tにおいて植物体からのクロロフィル蛍光強度データd(t)を測定し、クロロフィル蛍光強度データd(t)を時系列に並べたときの最大値となる点Pにおける最大蛍光強度P=データd(t)を求め、点Pの後に現れる極小点Sとさらにその後に現れる極大点Mの間の平均蛍光強度ave(S:M)を求め、最大蛍光強度Pと平均蛍光強度ave(S:M)の比P/ave(S:M)を求めて、得られたP/ave(S:M)に基づいて二酸化炭素マイクロバブル含有水の供給を制御することにより、栽培植物の光合成活性に応じた二酸化炭素の供給が行える。
【0012】
この発明の二酸化炭素マイクロバブル含有水供給装置は、マイクロバブル発生装置と、マイクロバブル発生装置へ二酸化炭素を供給する酸化炭素供給源と、マイクロバブル発生装置により生成された二酸化炭素マイクロバブル含有水を栽培植物の局所に対して微小水滴として吐出する噴霧ノズルとを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
この発明の二酸化炭素マイクロバブル含有水供給方法および二酸化炭素マイクロバブル含有水供給装置は、二酸化炭素を植物体の葉に対して効率よく供給することができる。植物の二酸化炭素要求量に応じて必要となる二酸化炭素量を供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】二酸化炭素マイクロバブル含有水供給装置の概要を示す概念図である。
【図2】二酸化炭素の濃度の時間変化を示すグラフである。
【図3】二酸化炭素マイクロバブル含有水の水量と二酸化炭素放出量の関係を示すグラフである。
【図4】二酸化炭素マイクロバブル含有水噴霧と二酸化炭素の濃度の時間変化を示すグラフである。
【図5】光合成活性評価装置の例を示す模式図である。
【図6】LEDパネル光源の発光スペクトルとCCDカメラに装着したロングバスフィルタの透過スペクトルを示すグラフである。
【図7】光量子センサを用いて測定したLEDパネル光源の照射光強度分布を示すグラフである。
【図8】クロロフィル蛍光画像解析プログラムの表示画面の例を示す模式図である。
【図9】植物工場内の測定対象個体の配置を模式的に示す平面図である。
【図10】植物工場内のトマト個体を対象として計測されたインダクションカーブを示すグラフである。
【図11】植物工場内の複数のトマト個体を対象として計測されたインダクションカーブの測定例を示すグラフである。
【図12】Chl a/b比とP/ave(S:M)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明を実施するための形態について説明する。図1は二酸化炭素マイクロバブル含有水供給装置の概要を示す概念図である。
【0016】
二酸化炭素マイクロバブル含有水供給装置1は、マイクロバブル発生装置2と、マイクロバブル発生装置2へ二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給源3と、マイクロバブル発生装置2により生成された二酸化炭素マイクロバブル含有水を栽培植物xの局所に対して微小水滴として吐出する噴霧ノズル4とを有する。マイクロバブル発生装置2は市販の製品が利用でき、ここでは高濃度マイクロバブル発生装置((株)ウィンコーポレーション、小型業務用 B-02)を使用する。二酸化炭素供給源3も通常の二酸化炭素ボンベを使用した。
【0017】
マイクロバブル発生装置2は、給水管5および排水管6で水槽7と接続されている。また、マイクロバブル発生装置2は、密閉容器8の中に収納される。ここでは、密閉容器8として透明なプラスティックバッグを使用した。二酸化炭素供給源3に取り付けられた二酸化炭素供給チューブ9の出口が密閉容器8に挿入されている。
【0018】
二酸化炭素供給源3から二酸化炭素供給チューブ9に送られる二酸化炭素ガスは密閉容器8に入り、二酸化炭素取込口10よりマイクロバブル発生装置2に取り込まれる。水槽7の水は給水管5によってマイクロバブル発生装置2に取り込まれる。マイクロバブル発生装置2は直径30μm以下の二酸化炭素マイクロバブルを発生させ、二酸化炭素マイクロバブル含有水を生成し、排水管6を通して水槽7へ送る。水は給水管5および排水管6を介して循環し、水槽7に二酸化炭素マイクロバブルが作られる。この例の装置によれば、100%の二酸化炭素ガスを供給しながらマイクロバブル発生装置2を約10分間連続運転することにより、水道水(pH7.2)を用いて10リットル以上の二酸化炭素マイクロバブル含有水を製造できる。このときの二酸化炭素マイクロバブル含有水のpHは4.9であり、弱酸性となっていた。市販の飲料用炭酸水のpHが4.4程度であることを考えると、二酸化炭素マイクロバブル含有水中には多量の炭酸が生じていることがわかる。また、二酸化炭素マイクロバブル含有水中の炭酸は飽和状態であると考えられるので、多量の二酸化炭素も溶けていると考えられる。マイクロバブル発生装置2を密閉容器8で覆い、さらに給水管5および排水管6で水を循環させることにより、二酸化炭素のロスを最小限にし、効率よく二酸化炭素マイクロバブル含有水を製造できる。
【0019】
水槽7は、配水管11により噴霧ノズル4に接続されている。配水管11には、動力ポンプ13が設けられており、水槽7の二酸化炭素マイクロバブル含有水を噴霧ノズル4へ送る。噴霧ノズル4は微細な水滴を吐出するもので、例えば細霧冷房用として市販されているノズルを使用することができる。また、配水管11に電磁弁14を設けてもよい。
【0020】
二酸化炭素マイクロバブル含有水供給装置1には、二酸化炭素マイクロバブル含有水の噴霧を制御するための制御器15が設けられている。制御器15には、マイクロバブル発生装置2、動力ポンプ13、電磁弁14が接続されている。さらに、周囲には、葉温計(サーモグラフィ)など植物の状態を観察する計測器や、温度計、湿度計、日射センサなど環境を観察する計測器を配置し、これらも制御器15に接続することができる。さらに、実施例で説明するように光合成活性評価装置を併設することもできる。また、動力ポンプ13や噴霧ノズル4を台車に乗せ、移動可能な装置として構成してもよい。
【0021】
図2は、二酸化炭素の濃度の時間変化を示すグラフである。二酸化炭素発生量測定用チャンバを用いて、二酸化炭素マイクロバブル含有水からの二酸化炭素の放出によるチャンバ内の二酸化炭素濃度の経時変化を測定している。これより、二酸化炭素マイクロバブル含有水から多量の二酸化炭素が放出され、チャンバ内の二酸化炭素濃度が高くなっていることが確認できる。また、チャンバ内空気の二酸化炭素濃度が長時間高く維持されていることも示されている。
【0022】
図3は、二酸化炭素マイクロバブル含有水の水量と二酸化炭素放出量の関係を示すグラフである。ここでは、3.5分間の総放出量を表示している。二酸化炭素マイクロバブル含有水の水量にほぼ比例して二酸化炭素放出量が増加している。
【0023】
図4は、二酸化炭素マイクロバブル含有水噴霧と二酸化炭素の濃度の時間変化を示すグラフである。噴霧ノズル4により30μm以上の比較的大きな水滴を吐出させて、栽培植物の葉の表面に直接吹き付ける。このときの葉の周辺の二酸化炭素濃度の変化を測定した。2分間隔での30秒間噴霧、5分間連続噴霧、5分間隔での30秒間噴霧、の3種類の噴霧を行っているが、どの場合にも葉の周辺の二酸化炭素濃度の上昇が確認できる。
【0024】
一方、栽培植物の群落の上方においても、二酸化炭素マイクロバブル含有水の噴霧を行った。しかし、5〜10分間隔で30秒〜2分間の噴霧を行ったが、葉の周辺の二酸化炭素濃度の上昇は認められなかった。したがって、植物体へ直接噴霧を行うことが有効であることが確認できる。また、このように局所的に二酸化炭素マイクロバブル含有水を供給することにより、大きな温室内でも、特定の個体の特定の部位に二酸化炭素を供給することができ、選択的に効果的な制御が行いやすい。また、温室以外でも、露地植えの場合にも適用できる。
【実施例1】
【0025】
この発明の実施例について説明する。光合成活性評価装置を併設した例である。図5は光合成活性評価装置の例を示す模式図である。この光合成活性評価装置21は、コンピュータ22と、植物体に光を照射する面光源23と、植物体から発せられる光(反射光とクロロフィル蛍光)からクロロフィル蛍光成分のみを通過させるロングパスフィルタ(図示省略)と、ロングパスフィルタを通して植物体のクロロフィル蛍光画像を撮影する撮影装置として赤外線領域に感度を有するCCDカメラ24とを有する。また、コンピュータ22と面光源23とロングパスフィルタと赤外線領域に感度を有するCCDカメラ24を搭載する移動台車25を備えている。
【0026】
コンピュータ22は、特に限定はなく、市販のパーソナルコンピュータなどが使用できる。制御器15のコンピュータを使用してもよく、別途コンピュータを設け、制御器15と接続してもよい。コンピュータ22には光合成活性評価プログラムがインストールされている。この光合成活性評価プログラムでは、さほど大きな情報処理を必要としないので、小型のコンピュータで十分であり、ノート型PCやモバイルと呼ばれるような種類のものが、移動のために便利である。
【0027】
植物のクロロフィル蛍光を励起する面光源23として65cm×65cmのLEDパネル光源((株)セネコム, M5510A)を用いた。この例では、ロングパスフィルタ(富士フィルム(株)、SC 70)を装着した赤外線領域に感度を有するCCDカメラ24(Allied Vision Technologies GmbH, Stingray F145B ASG)を用いてクロロフィル蛍光画像を撮像する。図6に、LEDパネル光源(面光源23)の発光スペクトルとロングバスフィルタの透過スペクトルを示す。面光源23の反射光成分はロングバスフィルタによって遮断され、長波長であるクロロフィル蛍光成分のみがロングバスフィルタを通って赤外線領域に感度を有するCCDカメラ24に検知される。
【0028】
図7は、光量子センサ(LI-COR, LI-250A)を用いて測定した面光源23の照射光強度分布を示す。光源からの距離によらず、比較的均一(±11%)に照射されていることが確認された。この面光源23により、近距離から広範囲に均一な光を投射することができる。
【0029】
CCDカメラ24はIEEE1394bケーブルにてコンピュータ22に接続されている。CCDカメラ24により撮影された画像データは、IEEE1394bケーブルによってコンピュータ22に送信される。
【0030】
ここで、光合成活性評価プログラムについて説明する。この光合成活性評価プログラムはコンピュータ22にインストールされており、コンピュータ22やCCDカメラ24を光合成活性評価装置として作用させるものである。
【0031】
光合成活性評価プログラムにより、コンピュータ22はCCDカメラ24に所定の時間間隔で撮影し、その画像データをコンピュータ22に送信するように指令する。
【0032】
画像を構成する画素データは、それぞれがインダクションカーブを得るためのデータとして使用できるものではあるが、この例では、一つの画像データより1個の蛍光強度データを抽出する。そのために、各画像データについて、植物体領域の抽出を行う。植物体以外の領域にあるものは、照射された光と同じ波長の光を反射するのみなので、ロングパスフィルタを通して撮影された画像上では、強度はほとんどゼロである。したがって、比較的低い閾値で、植物体領域とそれ以外の領域とを簡単に識別できる。各画素の輝度値と閾値を比較し、輝度値が閾値を超えた画素を植物体領域の画素としてカウントするとともに、その画素の輝度値の積算も行う。輝度値の積算値を植物体領域の画素数で除することによって、その画像における平均の蛍光強度を算出することができる。
【0033】
得られた蛍光強度データdを時間の順にd1、d2、d3、…dn、…と蓄積していくことにより、インダクションカーブの基データが形成される。撮影間隔をΔtとすれば、dnは時間t=n・Δtにおける蛍光強度データd(t)ということになる。
【0034】
一連の撮影が終了すれば、その撮影対象の植物体のインダクションカーブを決定する蛍光強度データd(t)が得られる。この一連の蛍光強度データd(t)より、最大値となる点Pにおける最大蛍光強度P=データd(t)を求める。また、点Pの後に現れる極小点Sとさらにその後に現れる極大点Mの間の平均蛍光強度ave(S:M)を求める。そして、最大蛍光強度Pと平均蛍光強度ave(S:M)の比P/ave(S:M)を求める。この値を撮影対象となった植物体の光合成活性を評価する値とする。
【0035】
ここで、平均蛍光強度ave(S:M)を求める方法として、極小値Sと極大値Mを探すことが考えられる。しかし、インダクションカーブの形状は常に一定ではなく、明瞭な極大・極小が現れないときもある。そこで、ここでは次のような簡便で実用性の高いアルゴリズムを用いた。
【0036】
あらかじめ、測定対象の植物や栽培環境におけるインダクションカーブを測定しておく。そうすると、共通した植物・栽培環境においては、ほぼ同じ時間に最大値P、極小値S、極大値Mが現れることがわかる。そこで、極小値Sが現れる付近の時間を所定の時間範囲の開始時間tsとし、極大値Mが現れる付近の時間を終了時間teとしてこれらの値を保存しておく。そして、開始時間tsと終了時間teの間の時間に対応する蛍光強度データd(t)の平均値を平均蛍光強度ave(S:M)として求める。
【0037】
一方、最大値Pは比較的明瞭に現れることが多いので、一連の蛍光強度データd(t)の最大値をPとして採用してもよい。また、予め測定したインダクションカーブより最大値となる点Pが現れると想定される時間Pを決定し、この時間Pにおける蛍光強度データd(P)を最大蛍光強度Pとしてもよい。
【0038】
この実施例についてさらに具体的に説明する。蛍光画像計測は、日没後1時間以上経過した後、暗期条件下にて行った。計測対象となる個体の成長点が画像に収まるように手動でCCDカメラ24の位置を調節した後、LEDパネル光源(面光源23)を作動させ、30秒間励起光を照射し、この間のインダクション現象をノート型PCの内蔵ハードディスクに記録した。成長点とCCDカメラの距離は約60cmであり、カメラのシャッタースピードは0.06秒、フレームレートは15 枚/秒であった。
【0039】
記録されたクロロフィル蛍光画像は、Visual Basic6.0にて作成した画像解析プログラムを用いて解析した。図8は画像解析プログラムの表示画面の例を示す模式図である。画像解析プログラムでは、植物体領域の抽出および画像毎の平均蛍光強度の算出を自動的に行い、1個体毎にインダクションカーブを出力する。
【0040】
LEDパネル光源、CCDカメラおよびノート型PCを手動式台車に搭載し、植物工場内の作業通路を移動しながらクロロフィル蛍光画像計測を行い、群落全体を対象とした光合成機能診断を行う。計測は、愛媛大学農学部内の太陽光利用型知的植物工場で栽培されているトマト(Salarum lycopersicum L., 品種: 桃太郎ファイト)群落を対象に、2008年12月17日に開始した。Chl蛍光画像計測の対象個体は、植物工場内に均一に分布するように60個体を選択した。図9は植物工場内の測定対象個体の配置を模式的に示す平面図である。
【0041】
また、この発明により得られる診断値の妥当性を確認するために、測定対象の植物のクロロフィル(以下、Chlと示す)の濃度およびChl a/b比の測定を行った。Chl蛍光画像計測の対象となる個体の中から18個体(図9の●の個体)を対象とし、Chl濃度およびChl a/b比の測定を行った。各個体から採取した3枚の葉からそれぞれコルクボーラーで直径1.15cmの葉片を切り抜き、これらを試験管に入れ、冷暗所にてDMFに24時間浸して得られたChl抽出液をセルに分注し、分光光度計((株)日立製作所, U-1100)を用いて646.8nm、 663.8nm、 750.0nmの吸光度A646.8、A663.8、A750を測定し、Porra et al.(1989)の式を用いてChl aおよびb濃度を算出した。この式は、次の通りである。
Chl a 量(μg ml-1)=12.00 × (A663.8 − A750) − 3.11 × (A646.8 − A750)
Chl b 量(μg ml-1)=20.78 × (A646.8 − A750) − 4.88 × (A663.8 − A750)
【0042】
図10に植物工場内のトマト個体を対象として計測されたインダクションカーブを示す。インダクションカーブの形状の変化を数値評価するために、S〜Mの間のChl蛍光強度の平均値に対するPのChl蛍光強度の比を算出することとし、これをP/ave(S:M)と定義した。励起光照射開始からSおよびMの出現までにかかる時間を調べるために、20個体を対象としてインダクションカーブを測定したところ、Sは励起光照射開始から約13.5秒後(開始時間ts)、Mは約20.7秒後(終了時間te)に出現することがわかった。図11はこのインダクションカーブの測定例を示すグラフである。この結果に基づき、ave(S:M)は、励起光照射開始から13.5秒後から20.7秒後のChl蛍光強度の平均値とした。
【0043】
図12はChl a/b比とP/ave(S:M)の関係を示すグラフである。両者には有意な相関(R=0.82,p<0.05)が確認された。すなわち、この発明で得られる値P/ave(S:M)は植物の光合成活性評価の指標となりうる根拠が確認された。Chl aとChl bの構成比と光合成機能の関係は、光合成を行う他の植物にも共通であるので、この光合成活性評価方法は、さまざまな種の栽培植物に適用できることが示された。
【0044】
この光合成活性評価方法によって得られた評価に基づいて、二酸化炭素マイクロバブル含有水の供給を制御することによって、植物の光合成活性に応じた二酸化炭素の供給が行える。例えば、P/ave(S:M)の値が高い区域や個体の植物に対して優先的に二酸化炭素マイクロバブル含有水を供給することができる。また、P/ave(S:M)の値が高い時期により多くの二酸化炭素マイクロバブル含有水を供給してもよい。
【0045】
この実施例は、SPAの原理に基づく二酸化炭素供給の一例である。それ以外にも、たとえばサーモグラフィなどで葉温を測定し、葉温が所定値を超えたときに二酸化炭素マイクロバブル含有水を噴霧することができる。これによって、葉を冷却して熱ストレスを軽減するとともに、より多くの光を受けているときに多くの二酸化炭素を供給し、効果的に光合成を促進できる。また、日射センサの値に基づいて、より日射の強いときに、より多くの二酸化炭素マイクロバブル含有水を噴霧するように制御することもできる。
【符号の説明】
【0046】
1.二酸化炭素マイクロバブル含有水供給装置
2.マイクロバブル発生装置
3.二酸化炭素供給源
4.噴霧ノズル
5.給水管
6.排水管
7.水槽
8.密閉容器
9.二酸化炭素供給チューブ
10.二酸化炭素取込口
11.配水管
13.動力ポンプ
14.電磁弁
15.制御器
21.光合成活性評価装置
22.コンピュータ
23.面光源(LEDパネル光源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロバブル発生装置に二酸化炭素と水を導入して二酸化炭素マイクロバブル含有水を生成し、この二酸化炭素マイクロバブル含有水を噴霧ノズルで栽培植物の局所に対して微小水滴として吐出する二酸化炭素マイクロバブル含有水供給方法。
【請求項2】
二酸化炭素マイクロバブルの大きさを30μm未満とし、微小水滴の大きさを30μm以上とする請求項1に記載の二酸化炭素マイクロバブル含有水供給方法。
【請求項3】
夜間において光を植物体に照射し、異なる測定時間tにおいて植物体からの蛍光強度データd(t)を測定し、蛍光強度データd(t)を時系列に並べたときの最大値となる点Pにおける最大蛍光強度P=データd(t)を求め、点Pの後に現れる極小点Sとさらにその後に現れる極大点Mの間の平均蛍光強度ave(S:M)を求め、最大蛍光強度Pと平均蛍光強度ave(S:M)の比P/ave(S:M)を求めて、得られたP/ave(S:M)に基づいて二酸化炭素マイクロバブル含有水の供給を制御する請求項1または請求項2に記載の二酸化炭素マイクロバブル含有水供給方法。
【請求項4】
マイクロバブル発生装置と、マイクロバブル発生装置へ二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給源と、マイクロバブル発生装置により生成された二酸化炭素マイクロバブル含有水を栽培植物の局所に対して微小水滴として吐出する噴霧ノズルとを有する二酸化炭素マイクロバブル含有水供給装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−50293(P2011−50293A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201192(P2009−201192)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】