説明

二重巻バンドブレーキ装置

【課題】自動変速機等の実機におけるドラムの回転特性に適合するように、簡単な構成で効果的に引き摺りトルクを低減することができる二重巻バンドブレーキ装置を提供すること。
【解決手段】内径側に摩擦面が形成された環状の中間バンドと、中間バンドの両側に配設され、それぞれの内径側に摩擦面が形成された環状の一対の外側バンドとからなる二重巻きブレーキバンドを有し、該二重巻きブレーキバンドに内嵌した回転体の制動に供される二重巻きバンドブレーキ装置であって、前記中間バンドの幅寸法をWcとし、前記一対の外側バンドの一方側の幅寸法をWsとしたとき、前記中間バンドおよび前記一対の外側バンドが次式の条件を満たすように構成されていることを特徴とする。
50(%)≦(Wc/2Ws)×100(%)≦150(%)
(ただし、(Wc/2Ws)×100=100(%)を除く。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用自動変速機等に用いられる二重巻バンドブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用の自動変速機や一般産業機械では、変速要素や回転要素を制動するため、バンドブレーキ装置が多く用いられている。バンドブレーキ装置は、通常、環状に形成された一枚の鋼板の内周面に摩擦材を貼着させてブレーキバンドとし、このブレーキバンドをアクチュエータによって縮径させることにより、内径側に配置された変速要素や回転要素を締め付けて制動を行う。そして、近年、アクチュエータの作動力の低減や制動制御性の向上を図るべく、二重巻ブレーキバンドを用いた二重巻バンドブレーキ装置が提案されている。
【0003】
図9、図10(図9中のY矢視図)に自動車用自動変速機に採用された例を示したように、二重巻バンドブレーキ装置501の二重巻ブレーキバンド505は、環状の中間バンド511と、中間バンド511の両側に配設された環状の一対の同一幅の外側バンド515、515とを主要構成部材としている。中間バンド511の一方側の端部である自由端には、外側バンド515、515のそれぞれの一方側の端部である自由端が軸方向に並んだ状態で連結プレート513を介して溶接されている。中間バンド511の内周面および外側バンド515、515の内周面には摩擦材517が貼着されている。摩擦材517は、中間バンド511側も外側バンド515、515側も同一の材質で構成され、一体に形成されている。また、外側バンド515、515の他方側の端部である作用端には、本体ケーシング503側のアンカピン507に係止されるアンカブラケット521が溶接される一方、中間バンド511の他方側の端部である作用端には、アプライブラケット525が溶接されており、中間バンド511および外側バンド515、515が縮径する方向の力をアクチュエータ509のプッシュロッド(アプライピン)523から受けるようになっている。このような構成の二重巻ブレーキバンド505では、アクチュエータ509のアプライピン523が図9中矢印で示した方向に作動すると、中間バンド511および外側バンド515、515が縮径して、二重巻ブレーキバンド505に内嵌した変速要素(以下、ドラムと記す)527が制動される。
【0004】
ここで、図10に示すように、二重巻きブレーキバンド505の中間バンド511の幅寸法をWc、各外側バンド515の幅寸法をWsとする。そうすると、一対の外側バンド515、515の合計の幅寸法(2×Ws)に対する中間バンド511の幅寸法Wcの割合をR(%)とすると、Rは次の式(1)で表される。
【0005】
(1) R=(Wc/2Ws)×100(%)
従来の二重巻きブレーキバンド505は、式(1)の値が、R=100(%)となるように構成されていた。つまり、中間バンド511の幅寸法Wcと一対の外側バンド515、515の合計の幅寸法(2×Ws)とは等しく形成されていた。言い換えると、中間バンド511の幅寸法Wcは、外側バンド515各々の幅寸法Wsに対して2倍の幅に形成されていた。
【0006】
ところで、二重巻きブレーキバンド505の非制動時、すなわち解放時においてドラム527が回転すると、ドラム527と二重巻きブレーキバンド505との間に介在する潤滑油の粘性抵抗や流体抵抗よって、二重巻きブレーキバンド505がドラム527に近づく方向に引き込まれ、ドラム527と二重巻きブレーキバンド505との間の隙間が狭まってしまう。一般的に、図9においてドラム527が実線矢印方向に回転(正転)すると、外側バンド515、515のアンカブラケット521側がドラム527に近づく方向に引き込まれ、ドラム527が破線の矢印方向に回転(逆転)すると、中間バンド511のアプライブラケット525側がドラム527に近づく方向に引き込まれる傾向がある。そうすると、ドラム527の回転方向が正転、逆転の何れの方向であっても、二重巻きブレーキバンド505が潤滑油の粘性抵抗や流体抵抗によってドラム527の回転に引き摺られ、ドラム527の回転に対する抵抗となる。このような抵抗を引き摺りトルクという。
【0007】
二重巻バンドブレーキ装置501が自動車用自動変速機に内装される場合は、引き摺りトルクが発生すると、二重巻バンドブレーキ装置501の制動時を除き、自動車の走行中にドラム527の回転に対して常に回転を妨げる力が加わることとなり、自動車の走行燃費が悪化したり、伝達トルクの損失が発生したりする。二重巻きブレーキバンド505がさらにドラム527に近づく方向に引き込まれて摩擦材517がドラム527に接触してしまう場合、摩擦材517の表面が摩擦熱により劣化する等の不具合が生じる。
【0008】
従来、このような引き摺りトルクを低減する技術が提案されている。例えば特許文献1においては、中間バンドの摩擦材に動圧発生用の溝を設け、ドラムの回転によって当該動圧発生用の溝に流入する潤滑油の動圧により中間バンドを外径側に膨らませることによりドラムとブレーキバンド間に隙間を形成し、これにより引き摺りトルクを低減している。また、特許文献2においては、中間バンドの作用端に固着されたアプライブラケットに、中間バンドの自由端方向に向けて、内面が外側バンドの外周面に摺接している芯ずれ矯正部材が延設されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−332841号公報
【特許文献2】特開2003−065370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現在、さらなる燃費の向上やトルク伝達の効率化のため、引き摺りトルクの一層の低減が求められている。
【0011】
従来は、上述したように、摩擦材に溝を設けたり、中間バンドあるいは外側バンドに所定の作用を持つ部品を追加したりして引き摺りトルクを低減していた。これらは何れも、摩擦材や中間バンドあるいは外側バンドに対して細かく複雑な加工を施す必要があった。また、部品を追加する場合にあっては、追加部品の製作をする必要もあった。
【0012】
そこで本願の発明者は、複雑な加工や部品の追加を必要とせず、従来の二重巻きバンドブレーキ装置の基本的な構成において引き摺りトルクを低減することができないかと考えた。そして本願の発明者は中間バンドおよび外側バンドの幅とドラムの回転方向との関係に着目した。中間バンドあるいは外側バンドの幅を広くすると、幅が広くなった分当該バンドの剛性が高くなり、ドラムに近づく方向に引き込まれにくくなる。また、自動変速機等の実機においては二重巻バンドブレーキ装置を設ける場所によってドラムの回転特性、すなわちドラムの正転および逆転の頻度が異なっている。
【0013】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、自動変速機等の実機におけるドラムの回転特性に適合するように、簡単な構成で効果的に引き摺りトルクを低減することができる二重巻バンドブレーキ装置および引き摺りトルクの大きさを調節する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明に係る二重巻バンドブレーキ装置は、内径側に摩擦面が形成された環状の中間バンドと、前記中間バンドの自由端にそれぞれの自由端が対向した状態で連結されると共に、それぞれの内径側に摩擦面が形成された環状の一対の外側バンドと、前記一対の外側バンドの作用端側に固着され、本体ケーシング側に係止されるアンカブラケットと、前記中間バンドの作用端側に固着され、前記中間バンドおよび前記一対の外側バンドが縮径する方向の力をアクチュエータにより受けるアプライブラケットとを構成要素とする二重巻きブレーキバンドを有し、当該二重巻きブレーキバンドに内嵌した回転体の制動に供される二重巻きバンドブレーキ装置であって、前記中間バンドの幅寸法をWcとし、前記一対の外側バンドの一方側の幅寸法をWsとしたとき、前記中間バンドおよび前記一対の外側バンドが次式の条件を満たすように構成されていることを特徴とする。
50(%)≦(Wc/2Ws)×100(%)≦150(%)
(ただし、(Wc/2Ws)×100=100(%)を除く。)
【0015】
また、本発明に係る二重巻きバンドブレーキ装置の回転体に対する前記二重巻きブレーキバンドの抵抗の大きさを調節する方法は、内径側に摩擦面が形成された環状の中間バンドと、前記中間バンドの自由端にそれぞれの自由端が対向した状態で連結されると共に、それぞれの内径側に摩擦面が形成された環状の一対の外側バンドと、前記一対の外側バンドの作用端側に固着され、本体ケーシング側に係止されるアンカブラケットと、前記中間バンドの作用端側に固着され、前記中間バンドおよび前記一対の外側バンドが縮径する方向の力をアクチュエータにより受けるアプライブラケットとを構成要素とする二重巻きブレーキバンドを有し、当該二重巻きブレーキバンドに内嵌した回転体の制動に供される二重巻きバンドブレーキ装置における前記回転体の回転に対する前記二重巻きブレーキバンドの抵抗の大きさを調節する方法であって、前記中間バンドの幅寸法をWcとし、前記一対の外側バンドの一方の幅寸法をWsとしたとき、前記中間バンドおよび前記一対の外側バンドを次式の条件を満たすように構成することで前記抵抗の大きさを調節することを特徴とする。
50(%)≦(Wc/2Ws)×100(%)≦150(%)
(ただし、(Wc/2Ws)×100=100(%)を除く。)
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、自動変速機等の実機におけるドラムの回転特性に適合するように、簡単な構成で効果的に引き摺りトルクを低減することができる二重巻バンドブレーキ装置および引き摺りトルクの大きさを調節する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係る二重巻きバンドブレーキ装置の側面図である。
【図2】内径側から見た二重巻きブレーキバンドの展開図である。
【図3】図1における矢印Xの矢視図である。
【図4】外側バンドの合計幅に対する中間バンドの幅の比率と、引き摺りトルクの大きさとの関係を示すグラフである。
【図5】第1実施例に係る二重巻きブレーキバンドを内径側から見た展開図である。
【図6】第2実施例に係る二重巻きブレーキバンドを内径側から見た展開図である。
【図7】第3実施例に係る二重巻きブレーキバンドを内径側から見た展開図である。
【図8】第4実施例に係る二重巻きブレーキバンドを内径側から見た展開図である。
【図9】従来の二重巻きバンドブレーキ装置を示す側面図である。
【図10】図9における矢印Yの矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、自動車用自動変速機に採用した例を、図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る二重巻きバンドブレーキ装置の側面図である。図2は、二重巻きブレーキバンドを内径側から見た展開図である。図3は、図1における矢印Xの矢視図である。
【0020】
図1に示すように、二重巻バンドブレーキ装置1は、本体ケーシング3と、本体ケーシング3内にセットされた二重巻きブレーキバンド5と、二重巻きブレーキバンド5を本体ケーシング3に固定するアンカピン7と、二重巻きブレーキバンド5を駆動するアクチュエータ9とを備えている。
【0021】
二重巻きブレーキバンド5は、図1〜3に示すように、環状の中間バンド11と、中間バンド11の両側に配設された環状の一対の外側バンド15、15とを主要構成部材としている。中間バンド11の一方側の端部である自由端には、外側バンド15、15のそれぞれの一方側の端部である自由端が軸方向に並んだ状態で連結プレート13を介して溶接接合されている。一対の外側バンド15、15はそれぞれ同じ幅に構成されている。中間バンド11の内周面および外側バンド15、15の内周面には摩擦材17が貼着されている。摩擦材17は、中間バンド11側も外側バンド15、15側も同一の材質で構成され、一体に形成されている。
【0022】
外側バンド15、15の他方側の端部である作用端には、本体ケーシング3側のアンカピン7に係止されるアンカブラケット21が溶接されている。中間バンド11の他方側の端部である作用端には、アプライブラケット25が溶接されており、中間バンド11および外側バンド15、15が縮径する方向の力をアクチュエータ9のプッシュロッド(アプライピン)23から受けるようになっている。このような構成の二重巻ブレーキバンド5は、アクチュエータ9のアプライピン23が図1中矢印Zで示した方向に作動すると、中間バンド11および外側バンド15、15が縮径して、二重巻ブレーキバンド5に内嵌した変速要素(以下、ドラムと記す)27に摩擦材17が摺接し、ドラム27が制動される。
【0023】
ドラム27は双方向に回転可能な構成となっている。ここで、本実施形態におけるドラム27の回転方向について定義する。二重巻きバンドブレーキ装置1の制動時には、アプライピン23がドラム27のアプライブラケット25側の略接線上を直線状に駆動し、アプライブラケット25に対して当該略接線方向に沿って荷重するが、ドラム27のアプライブラケット25側において、ドラム27が制動時のアプライピン23のアプライブラケット25への荷重方向と同じ方向へ回転している場合、この回転方向をドラム27の正転とする(図1において実線の矢印方向)。一方、ドラム27のアプライブラケット25側において、ドラム27が制動時のアプライピン23のアプライブラケット25への荷重方向と逆の方向へ回転している場合、この回転方向をドラム27の逆転とする(図1において破線の矢印方向)。なお、ここで定義したドラム27の回転方向は、後述する各実施例において同様である。
【0024】
二重巻きバンドブレーキ装置1においては、図2、3に示すように、中間バンド11の幅寸法をWc、各外側バンド15の幅寸法をWsとすると、一対の外側バンド15、15の合計幅、すなわち2×Wsに対する中間バンドの幅Wcの比率R(%)は、次式(1)で表される。
(1) R=(Wc/2Ws)×100(%)
【0025】
従来技術の説明でも述べたが、一般的に、二重巻きバンドブレーキ装置1の非制動時(解放時)において、ドラム27が正転すると、ドラム27と二重巻きブレーキバンド5との間に介在する潤滑油の粘性抵抗や流体抵抗よって、外側バンド15、15のアンカブラケット21側がドラム27に近づく方向に引き込まれ、ドラム27と外側バンド15、15側の摩擦材17との隙間が狭くなる。一方、ドラム27が逆転すると、中間バンド11のアプライブラケット25側がドラム27に近づく方向に引き込まれ、ドラム27と中間バンド11側の摩擦材17との隙間が狭くなる傾向がある。そうすると、ドラム27の回転方向が正転、逆転の何れの方向であっても、二重巻きブレーキバンド5が潤滑油の粘性抵抗や流体抵抗によってドラム27の回転に引き摺られ、ドラム27の回転に対する抵抗、すなわち引き摺りトルクが生じる。引き摺りトルクはドラム27と摩擦材17との隙間が狭くなるほど大きくなる。
【0026】
本願の発明者は、中間バンド11、外側バンド15、15のそれぞれの強度およびトルク容量を基に、外側バンド15、15のそれぞれの幅寸法を合計した値(以後、外側バンド15、15の合計幅という)に対する中間バンド11の幅寸法の比率が様々なタイプの二重巻きブレーキバンド5を設計した。そして、外側バンド15、15の合計幅に対する中間バンド11の幅の比率(式(1)の値(R))を様々に変化させた二重巻きブレーキバンド5について、ドラム27を正転および逆転させたときの引き摺りトルクを測定した。
【0027】
図4は、これらの設計および測定結果から得られた、二重巻きブレーキバンド5における、外側バンド15、15の合計幅に対する中間バンド11の幅の比率と、引き摺りトルクの大きさとの関係を示すグラフである。図4において、横軸は外側バンド15、15の合計幅に対する中間バンド11の幅の比率を示し、縦軸は引き摺りトルクの大きさを示している。また、実線のグラフはドラム27が正転時の場合を示し、破線のグラフはドラムが逆転時の場合を示している。なお、図4のグラフは、外側バンド15、15の合計幅に対する中間バンド11の幅の比率が約30%から約170%の範囲にわたって記載されているが、本実施形態では当該比率の下限を50%とし、上限を150%とした。これら下限値および上限値は設計上の限界値であり、下限値を下回る場合は、中間バンド11の幅が狭くなることにより、中間バンド11の強度不足、ブレーキ締結時のショック、中間バンド11側の摩擦材17の劣化等の不具合が発生する畏れがあり好ましくない。また、上限値を上回る場合は、外側バンド15、15のそれぞれの幅が狭くなることにより、外側バンド15、15の強度不足の他、ブレーキ締結時のショック、外側バンド15、15側の摩擦材17の劣化等の不具合が発生する畏れがあり好ましくない。
【0028】
本実施形態に係る二重巻きバンドブレーキ装置1は、式(1)の値が次式(2)の条件を満たすように構成されている。
(2) 50(%)≦R(%)≦150(%)(ただし、R=100(%)を除く。)
【0029】
図4のグラフに示すように、外側バンド15、15の合計幅に対する中間バンド11の幅の比率すなわち式(1)の値(R)が50%のときは、ドラム27が正転時の引き摺りトルクが最も小さく、逆転時の引き摺りトルクは最も大きい。外側バンド15、15の合計幅に対する中間バンド11の幅の比率が増すに従い、ドラム27の正転時の引き摺りトルクは大きくなり、同時に逆転時の引き摺りトルクは小さくなる。そして、中間バンド11の幅の比率が約100%のときにドラム27の正転時と逆転時の引き摺りトルクが同じ大きさとなり、中間バンド11の幅の比率が150%のときは、ドラム27が正転時の引き摺りトルクは最も大きくなり、逆転時の引き摺りトルクは最も小さくなる。
【0030】
本実施形態においては、二重巻きバンドブレーキ装置1は、図4のグラフを用いて、実機での設置箇所におけるドラム27の回転特性に合わせて、外側バンド15、15の合計幅に対する中間バンド11の幅の比率を50〜150%の範囲で自由に設定することが可能である。言い換えると、二重巻きバンドブレーキ装置1は、図4のグラフを用いて外側バンド15、15の合計幅に対する中間バンド11の幅の比率を50〜150%の範囲で設定することにより、実機での設置箇所におけるドラム27の回転特性に合わせて引き摺りトルクの大きさを調節することができる。
【0031】
以下、図4のグラフに基づく各実施例について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態および各実施例において、中間バンドの内周面および外側バンドの内周面に貼着された摩擦材は、中間バンド側も外側バンド側も同一の材質で構成され、一体に形成されている。また、中間バンドと外側バンドとは、幅を除いて同一の仕様である。また、各実施例に係る二重巻きバンドブレーキ装置の構成は、外側バンドの合計幅に対する中間バンドの幅の比率が実施例ごとに異なる他は、上述した二重巻きバンドブレーキ装置1の構成と同様であり、同様の構成については同じ符号を用いて説明する。
【0032】
(第1実施例)
図5は、第1実施例に係る二重巻きブレーキバンドを内径側から見た展開図である。
第1実施例に係る二重巻きブレーキバンド105は、環状の中間バンド111と、環状の一対の同一幅の外側バンド115、115とを主要構成部材としている。中間バンド111の一方側の端部である自由端には、外側バンド115、115のそれぞれの一方側の端部である自由端が軸方向に並んだ状態で連結プレート13を介して溶接接合されている。中間バンド111の内周面および外側バンド115、115の内周面には摩擦材117が貼着されている。摩擦材117は、中間バンド111側も外側バンド115、115側も同一の材質で構成され、一体に形成されている。他の構成は上記実施形態と同様である。
【0033】
図5に示すように、中間バンド111の幅をWc、各外側バンド115の幅をWsとすると、第1実施例に係る二重巻きブレーキバンド105において、外側バンド115、115の合計幅に対する中間バンド111の幅の比率R(%)は、式(1)の値が次の値となるように形成されている。すなわち、
(1) R=(Wc/2Ws)×100=50(%)
【0034】
つまり、中間バンド111の幅と外側バンド115、115のそれぞれの幅とは、図5に示すように全て同じ幅に形成されている。この幅の割合による構成は、従来のもの(式(1)の値R=100(%)、以下同じ。)と比較すると、中間バンド111は幅が狭く、外側バンド115、115は幅が広くなっている。外側バンド115、115は、それぞれ幅が広く構成されているで、その分それぞれの剛性が高くなっている。そうすると、非制動時のドラム27の回転に対する引き摺りトルクの大きさは、図4のグラフによると次のようになる。
【0035】
まず、ドラム27が正転するときは、外側バンド115、115は剛性が高いためドラム27に近づく方向に引き込まれにくくなり、ドラム27と外側バンド115、115側の摩擦材117との隙間の減少を抑えることができる。すなわち、引き摺りトルクは小さくなる。一方ドラム27が逆転するときは、中間バンド111の幅は狭くなっているので、中間バンド111はドラム27に近づく方向に引き込まれ、引き摺りトルクは大きくなる。したがって、本実施例におけるバンド幅の比率の二重巻きブレーキバンド105は、実機においてドラム27の回転方向が正転の割合が高い箇所に適用すれば、実機の運転時の引き摺りトルクをより効果的に低減することができる。
【0036】
(第2実施例)
図6は、第2実施例に係る二重巻きブレーキバンドを内径側から見た展開図である。
第2実施例に係る二重巻きブレーキバンド205は、環状の中間バンド211と、環状の一対の同一幅の外側バンド215、215とを主要構成部材としている。中間バンド211の一方側の端部である自由端には、外側バンド215、215のそれぞれの一方側の端部である自由端が軸方向に並んだ状態で連結プレート13を介して溶接接合されている。中間バンド211の内周面および外側バンド215、215の内周面には摩擦材217が貼着されている。摩擦材217は、中間バンド211側も外側バンド215、215側も同一の材質で構成され、一体に形成されている。他の構成は上記実施形態と同様である。
【0037】
図6に示すように、中間バンド211の幅をWc、各外側バンド215の幅をWsとすると、第2実施例に係る二重巻きブレーキバンド205において、外側バンド215、215の合計幅に対する中間バンド211の幅の比率R(%)は、式(1)の値が次の値となるように形成されている。すなわち、
(1) R=(Wc/2Ws)×100=75(%)
【0038】
つまり、中間バンド211の幅は、各外側バンド215の幅の1.5倍となるように形成されている。この幅の比率による構成は、第1実施例のものよりは中間バンド211は幅が広く、外側バンド215、215は幅が狭くなっており、従来のものと比較すると、中間バンド211は幅が狭く、外側バンド215、215は幅が広くなっている。外側バンド215、215は、従来のものよりそれぞれ幅が広く構成されているで、第1実施例ほどではないが、それぞれの剛性が高くなっている。そうすると、非制動時のドラム27の回転に対する引き摺りトルクの大きさは、図4のグラフによると、次のようになる。
【0039】
まず、ドラム27が正転するときは、外側バンド215、215は剛性が高めであるためドラム27に近づく方向に引き込まれにくくなり、ドラム27と外側バンド215、215側の摩擦材217との隙間の減少を抑えることができる。すなわち、引き摺りトルクは小さくなる。ただし、第1実施例のものほどは剛性が高くないので、第1実施例のものほどは引き摺りトルクは小さくならない。一方ドラム27が逆転するときは、中間バンド211の幅は従来のものより狭くなっているので、中間バンド211はドラム27に近づく方向に引き込まれ、引き摺りトルクは大きくなる。ただし、第1実施例のものより中間バンド211の幅は広いので、第1実施例のものほどは引き摺りトルクは大きくならない。
【0040】
したがって、本実施例におけるバンド幅の比率の二重巻きブレーキバンド205は、実機においてドラム27の回転方向が正転の割合が、第1実施例ほどではないが比較的高い箇所に適用すれば、実機の運転時の引き摺りトルクをより効果的に低減することができる。
【0041】
(第3実施例)
図7は、第3実施例に係る二重巻きブレーキバンドを内径側から見た展開図である。
第3実施例に係る二重巻きブレーキバンド305は、環状の中間バンド311と、環状の一対の同一幅の外側バンド315、315とを主要構成部材としている。中間バンド311の一方側の端部である自由端には、外側バンド315、315のそれぞれの一方側の端部である自由端が軸方向に並んだ状態で連結プレート13を介して溶接接合されている。中間バンド311の内周面および外側バンド315、315の内周面には摩擦材317が貼着されている。摩擦材317は、中間バンド311側も外側バンド315、315側も同一の材質で構成され、一体に形成されている。他の構成は上記実施形態と同様である。
【0042】
図7に示すように、中間バンド311の幅をWc、各外側バンド315の幅をWsとすると、第1実施例に係る二重巻きブレーキバンド305において、外側バンド315、315の合計幅に対する中間バンド311の幅の比率R(%)は、式(1)の値が次の値となるように形成されている。すなわち、
(1) R=(Wc/2Ws)×100=105(%)
【0043】
つまり、中間バンド311の幅は、各外側バンド315の幅の2.1倍となるように形成されている。この幅の比率による構成は、従来のものと比較すると、中間バンド311は幅が広く、外側バンド315、315は幅が狭くなっている。中間バンド311は幅が広く構成されているで、その分剛性が高くなっている。本実施例における非制動時のドラム27の回転に対する引き摺りトルクの大きさは、図4のグラフによれば、次のようになる。
【0044】
図4のグラフに示すように、中間バンド311および外側バンド315、315の幅を本実施例のように構成すると、ドラム27が正転するときの外側バンド315、315が引き込まれることによる引き摺りトルクと、ドラム27が逆転するときの中間バンド311が引き込まれることによる引き摺りトルクとは、ほぼ同じ大きさとなっている。したがって、本実施例におけるバンド幅の比率の二重巻きブレーキバンド305は、実機において、ドラム27の回転方向が正転と逆転とがほぼ同じ割合の箇所に適用すれば、実機の運転時の引き摺りトルクをより効果的に低減することができる。
【0045】
(第4実施例)
図8は、第4実施例に係る二重巻きブレーキバンドを内径側から見た展開図である。
第4実施例に係る二重巻きブレーキバンド405は、環状の中間バンド411と、環状の一対の同一幅の外側バンド415、415とを主要構成部材としている。中間バンド411の一方側の端部である自由端には、外側バンド415、415のそれぞれの一方側の端部である自由端が軸方向に並んだ状態で連結プレート13を介して溶接接合されている。中間バンド411の内周面および外側バンド415、415の内周面には摩擦材417が貼着されている。摩擦材417は、中間バンド411側も外側バンド415、415側も同一の材質で構成され、一体に形成されている。他の構成は上記実施形態と同様である。
【0046】
図8に示すように、中間バンド411の幅をWc、各外側バンド415の幅をWsとすると、第4実施例に係る二重巻きブレーキバンド405において、外側バンド415、415の合計幅に対する中間バンド411の幅の比率R(%)は、式(1)の値が次の値となるように形成されている。すなわち、
(1) R=(Wc/2Ws)×100=150(%)
【0047】
つまり、中間バンド411の幅は、各外側バンド415の幅の3倍となるように形成されている。この幅の比率による構成は、従来のものと比較すると、中間バンド411は幅が広く、外側バンド415、415は幅が狭くなっている。中間バンド411は幅が広く構成されているで、その分剛性が高くなっている。そうすると、非制動時のドラム27の回転に対する引き摺りトルクの大きさは、図4のグラフによると、次のようになる。
【0048】
まず、ドラム27が正転するときは、外側バンド415、415の幅はそれぞれ狭くなっているので、外側バンド415、415はドラムに近づく方向に引き込まれ、引き摺りトルクは大きくなる。一方ドラム27が逆転するときは、中間バンド411は剛性が高いためドラム27に近づく方向に引き込まれにくくなり、ドラム27と中間バンド411側の摩擦材417との隙間の減少を抑えることができる。すなわち、引き摺りトルクは小さくなる。したがって、本実施例におけるバンド幅の比率の二重巻きブレーキバンド405は、実機においてドラム27の回転方向が逆転の割合が高い箇所に適用すれば、実機の運転時の引き摺りトルクをより効果的に低減することができる。
【0049】
以上、各実施例で説明したように、二重巻きバンドブレーキ装置の二重巻きブレーキバンドにおける外側バンドの合計幅に対する中間バンドの幅の比率を、実機におけるドラムの回転方向の傾向に合わせて、式(1)の値が50(%)から150(%)の間の値となるように構成すれば、効果的に引き摺りトルクを低減することができる。
【0050】
なお、実機におけるドラムの回転方向が、正転の割合が60%を超え、70%以下の場合、外側バンドの合計幅に対する中間バンドの幅の比率Rを、式(1)の値が、80(%)≦R<90(%)となるように構成するのが好ましい。また、正転の割合が70%を超え、80%以下の場合は、外側バンドの合計幅に対する中間バンドの幅の比率Rを、式(1)の値が、60(%)≦R<80(%)となるように構成するのが好ましい。さらに、正転の割合が80%を超える場合は、外側バンドの合計幅に対する中間バンドの幅の比率Rを、式(1)の値が、50(%)≦R<60(%)となるように構成するのが好ましい。
【0051】
また、実機におけるドラムの回転方向が、逆転の割合が60%を超え、70%以下の場合、外側バンドの合計幅に対する中間バンドの幅の比率Rを、式(1)の値が、110(%)<R≦120(%)となるように構成するのが好ましい。また、逆転の割合が70%を超え、80%以下の場合は、外側バンドの合計幅に対する中間バンドの幅の比率Rを、式(1)の値が、120(%)<R≦140(%)となるように構成するのが好ましい。さらに、逆転の割合が80%を超える場合は、外側バンドの合計幅に対する中間バンドの幅の比率Rを、式(1)の値が、140(%)<R≦150(%)となるように構成するのが好ましい。
【0052】
また、実機におけるドラムの回転方向が、正転と逆転とがほぼ同じ割合(正転の割合が40〜60%)の場合、外側バンドの合計幅に対する中間バンドの幅の比率Rを、式(1)の値が、90(%)<R≦110(%)となるように構成するのが好ましい。
【0053】
以上で具体的実施例の説明を終えるが、本発明の態様は上記実施形態および各実施例に限定されるものではない。例えば、上記実施形態および各実施例は、本発明を自動車用自動変速機に内装される二重巻きバンドブレーキ装置に適用したものであるが、産業用機械に用いられる二重巻きバンドブレーキ装置に適用しても良い。また、二重巻きブレーキバンド装置の具体的形状等についても、本発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 二重巻きバンドブレーキ装置
3 本体ケーシング
5、105、205、305、405 二重巻きブレーキバンド
7 アンカピン
9 アクチュエータ
11、111、211、311、411 中間バンド
13 連結プレート
15、115、215、315、415 外側バンド
17、117、217、317、417 摩擦材
21 アンカブラケット
23 アプライピン
25 アプライブラケット
27 ドラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内径側に摩擦面が形成された環状の中間バンドと、
前記中間バンドの自由端にそれぞれの自由端が対向した状態で連結されると共に、それぞれの内径側に摩擦面が形成された環状の一対の外側バンドと、
前記一対の外側バンドの作用端側に固着され、本体ケーシング側に係止されるアンカブラケットと、
前記中間バンドの作用端側に固着され、前記中間バンドおよび前記一対の外側バンドが縮径する方向の力をアクチュエータにより受けるアプライブラケットとを構成要素とする二重巻きブレーキバンドを有し、
当該二重巻きブレーキバンドに内嵌した回転体の制動に供される二重巻きバンドブレーキ装置であって、
前記中間バンドの幅寸法をWcとし、前記一対の外側バンドの一方側の幅寸法をWsとしたとき、前記中間バンドおよび前記一対の外側バンドが次式の条件を満たすように構成されていることを特徴とする二重巻きバンドブレーキ装置。
50(%)≦(Wc/2Ws)×100(%)≦150(%)
(ただし、(Wc/2Ws)×100=100(%)を除く。)
【請求項2】
内径側に摩擦面が形成された環状の中間バンドと、
前記中間バンドの自由端にそれぞれの自由端が対向した状態で連結されると共に、それぞれの内径側に摩擦面が形成された環状の一対の外側バンドと、
前記一対の外側バンドの作用端側に固着され、本体ケーシング側に係止されるアンカブラケットと、
前記中間バンドの作用端側に固着され、前記中間バンドおよび前記一対の外側バンドが縮径する方向の力をアクチュエータにより受けるアプライブラケットとを構成要素とする二重巻きブレーキバンドを有し、
当該二重巻きブレーキバンドに内嵌した回転体の制動に供される二重巻きバンドブレーキ装置における前記回転体の回転に対する前記二重巻きブレーキバンドの抵抗の大きさを調節する方法であって、
前記中間バンドの幅寸法をWcとし、前記一対の外側バンドの一方の幅寸法をWsとしたとき、前記中間バンドおよび前記一対の外側バンドを次式の条件を満たすように構成することで前記抵抗の大きさを調節することを特徴とする、二重巻きバンドブレーキ装置の回転体に対する前記二重巻きブレーキバンドの抵抗の大きさを調節する方法。
50(%)≦(Wc/2Ws)×100(%)≦150(%)
(ただし、(Wc/2Ws)×100=100(%)を除く。)

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−2321(P2012−2321A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139976(P2010−139976)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000102784)NSKワーナー株式会社 (149)
【Fターム(参考)】