説明

亜鉛基合金

【課題】高強度で且つ優れた靭性及び耐摩耗性を有する亜鉛基合金を提供する。
【解決手段】Alを3.5重量%以上4.5%重量%以下、Cuを3.0重量%以上4.0重量%以下、Mgを0.01重量%以上0.08重量%以下、Caを0.005重量%以上0.1重量%以下で含有し、所望によりSrを0.005重量%以上0.1重量%以下で含有し、残部がZnと不可避物質とからなる亜鉛基合金。該亜鉛基合金からなるダイカスト品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛基合金に関する。より詳細に、本発明は、高強度で、優れた靭性及び耐摩耗性を有し、且つダイカストに好適な、亜鉛基合金に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛基合金は、低融点材料として、古くから知られている合金である。亜鉛基合金は、主にダイカストに用いられている。亜鉛基合金ダイカスト品の代表例として、自動車ブレーキピストン、シートベルト巻取り金具、自動車ラジエータグリルモール、キャブレターなどの自動車用機構部品や、歯車などの産業用機械部品や、VTRドラムケースなどが挙げられる。また、亜鉛基合金は、クラッチなどの摩擦材用基材、アルカリ電池負極活物質、防錆塗料、メッキなどにも用いられる。
【0003】
このような亜鉛基合金として、例えば、特許文献1には、アルミニウムを12〜30重量%、銅を6〜20重量%、及びマグネシウムを0.01〜0.1重量%で含有し、残部が亜鉛と不可避不純物とからなるダイカスト用高強度亜鉛基合金が提案され、具体的にはZn−Al−Cu−Mg合金が開示されている。
特許文献2には、0.1重量%以下のLi、0.1重量%以下のBe、0.1重量%以下のNa、0.1重量%以下のMg、25重量%以下のAl、0.1重量%以下のSi、0.1重量%以下のK、0.1重量%以下のCa、0.1重量%以下のTi、0.1重量%以下のV、0.1重量%以下のMn、0.1重量%以下のFe、0.1重量%以下のCo、0.1重量%以下のNi、15重量%以下のCu、1重量%以下のCd、1重量%以下のIn、1重量%以下のSn及び1重量%以下のSbからなる群から選ばれた少なくとも1種の合金元素を含み、亜鉛及び各合金元素について分子軌道法により算出したs軌道エネルギーレベルMk及び各合金元素のモル分率と合金の所定の機械特性Mpとが所定の検量線を満足することを特徴とする亜鉛基合金が提案され、具体的にはZn−Al−Cu合金が開示されている。
また、特許文献3には、Ni、Cu、Si、Ti、Sb、Ag、Cr、Be、Ca、Co、Na、K、In、Li、SrおよびMgから選ばれる1種または2種以上の添加元素および残部がZnからなる防錆塗料用の亜鉛基合金粉末が提案され、具体的には、Zn−Ni−Mg合金、Zn−Al−Ni合金、Zn−Mg−Cr合金、Zn−Mg合金、およびZn−Al−Mg合金が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−49572号公報
【特許文献2】特開平7−278707号公報
【特許文献3】特公昭63−6115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献などに具体的に記載されている亜鉛基合金は、機械的強度または防錆性の点では満足が得られるものの、靭性や耐摩耗性の点において劣ることがあった。
本発明は、このような従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、高強度で且つ優れた靭性及び耐摩耗性を有する亜鉛基合金を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、Znに、所定量のAl、Cu、Mg、Ca、更に所望によりSrを添加して溶製することによって、高強度で且つ優れた靭性及び耐摩耗性を有する亜鉛基合金が得られることを見出した。本発明は、この知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0007】
即ち、本発明は、以下のものを包含する。
(1) Alを3.5重量%以上4.5%重量%以下、Cuを3.0重量%以上4.0重量%以下、Mgを0.01重量%以上0.08重量%以下、およびCaを0.005重量%以上0.1重量%以下で含有し、且つ残部がZnと不可避物質とからなる亜鉛基合金。
(2) Alを3.5重量%以上4.5%重量%以下、Cuを3.0重量%以上4.0重量%以下、Mgを0.01重量%以上0.08重量%以下、Caを0.005重量%以上0.1重量%以下、およびSrを0.005重量%以上0.1重量%以下で含有し、残部がZnと不可避物質とからなる亜鉛基合金。
(3) ダイカスト用である前記(1)に記載の亜鉛基合金。
(4) 前記(1)または(2)に記載の亜鉛基合金からなるダイカスト品。
【発明の効果】
【0008】
本発明の亜鉛基合金は、高強度で且つ優れた靭性及び耐摩耗性を有する。本発明の亜鉛基合金を用いて得られるダイカスト品は、高い強度と優れた靭性とを兼ね備えているので、不具合発生時においても機械的な破壊を生じ難くい。更に、本発明に係るダイカスト品は、優れた耐摩耗性を有するので、軸受けや歯車などに好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の亜鉛基合金は、Al、Cu、Mg、およびCaを含有し、且つ残部がZnと不可避物質とからなるものである。
本発明に係る好ましい亜鉛基合金は、上記の元素以外にSrをさらに含有するものである。
【0010】
本発明の亜鉛基合金におけるAlの含有量は、3.5重量%以上4.5重量%以下、好ましくは3.5重量%以上4.0重量%以下である。
Alを上記範囲で含有させると、共晶(β相)を形成し、融点を低下させ鋳造性が良好となる。また、初晶(α相)内に固溶し、析出時効に伴う硬化によって、引張強度、硬度及び耐摩耗性が向上する。Al含有量が3.0重量%未満では、その効果が乏しく、逆に4.5重量%を超えると、靭性が低下し、鋳造性が劣化することがある。
【0011】
本発明の亜鉛基合金におけるCuの含有量は、3.0重量%以上4.0重量%以下、好ましくは3.0重量%以上3.8重量%以下である。
Cuを上記範囲で含有させると、初晶(α相)及び共晶(β相)内に固溶し、析出時効に伴う硬化によって、引張強度及び硬度が向上する。更に、硬質のε相(Zn−Cu系金属間化合物)を形成及び分散するため、耐摩耗性が向上する。Cu含有量が3.0重量%未満では、その効果が乏しく、逆に4.0重量%を超えると金属間化合物が粗大となり、靭性を低下させ、鋳造性が劣化することがある。
【0012】
本発明の亜鉛基合金におけるMgの含有量は、0.01重量%以上0.08重量%以下、好ましくは0.02重量%以上0.06重量%以下である。
Mgを上記範囲で含有させると、強度と硬度及び耐摩耗性とが向上する。また、粒間腐食を抑制する効果がある。Mg含有量が0.01重量%未満では、その効果が乏しく、逆に0.08重量%を超えると、靭性が劣化することがある。
【0013】
本発明の亜鉛基合金におけるCaの含有量は、0.005重量%以上0.1重量%以下、好ましくは0.005重量%以上0.06重量%以下である。
Caを上記範囲で含有させると、強度と硬度及び耐摩耗性とが向上する。Ca含有量が0.005重量%以上で、更にCuと共存させることで、Zn−Cu−Ca系金属間化合物が形成されるため、その効果が顕著になる。しかし、Ca含有量が0.1重量%を超えると、金属間化合物が粗大となり、靭性を低下させ、鋳造性が劣化することがある。
【0014】
本発明の亜鉛基合金には、さらにSrを含ませることが好ましい。Srの含有量は、好ましくは0.005重量%以上0.1重量%以下、より好ましくは0.005重量%以上0.06重量%以下である。
Srを上記範囲で含有させると、靭性及び耐摩耗性が向上する。Sr含有量が0.005重量%以上で、更にCaと共存させることで、Zn−Cu−Ca系金属間化合物が微細に形成されるため、その効果が顕著になる。しかし、Sr含有量が0.1重量%を超えると、Zn−Sr系金属間化合物が形成され、靭性が劣化することがある。
【0015】
本発明の亜鉛基合金は、前記の含有量となるように、Al、Cu、MgおよびCa、並びに必要に応じてSrを、Znに添加して、溶製することによって得ることができる。溶製方法としては、特に限定されない。例えば、溶解炉で、上記元素を含む金属または金属酸化物の、粉粒、インゴットまたはブリケットを、所定量で、混ぜ合わせ、溶解して溶湯を得、これを凝固させる方法が挙げられる。
【0016】
本発明の亜鉛基合金は、ダイカストに好適である。ダイカストとは、合金を溶融し、鋳型に注入して、鋳造品を成形することをいう。
ダイカスト法は加工の自由度及び寸法精度に優れており、肉厚変化の大きなものや薄肉形状のものを製造することに有効である。また、溶湯を金型に高速度で加圧注入し、急冷凝固するため、組織が緻密(微細化)になり、高い強度を得ることができる。更に、鋳造速度が速く、一度の注入による多数個の製造も可能であることから、他の製造法よりも量産性に優れ、自動化による大量生産も可能である。
【0017】
ダイカストに用いられる装置としては、溶湯をスリーブに入れ、プランジャーチップで圧力を加えてキャビティーに注入するものがある。この装置にはコールドチャンバー式とホットチャンバー式とがあるが、本発明ではいずれも用いることができる。
コールドチャンバー式ダイカスト装置は、大型製品の製造が可能である。また、高圧での鋳造が可能で急冷効果も高いため、高強度の成形物が得られる。
ホットチャンバー式ダイカスト装置は鋳造速度に優れ、低い温度での溶解(鋳造)が可能なため、低コストの成形物が得られる。また、鋳造欠陥となるような酸化物及び空気の巻き込みが少ないため、高品質の成形物が得られる。
【0018】
また、ダイカスト品に要求される性能に応じて、真空ダイカスト、層流ダイカスト、スクイズダイカスト、酸素雰囲気ダイカスト、半溶融ダイカストなどの特殊ダイカストで行うこともできる。
【0019】
本発明の亜鉛基合金から得られるダイカスト品は、高強度で且つ優れた靭性及び耐摩耗性を有するので、幅広い用途で使用できる。例えば、自動車ブレーキピストン、シートベルト巻取り金具、自動車ラジエータグリルモール、キャブレターなどの自動車やオートバイの機構部品;軸受け、歯車などの産業用機械部品;VTRドラムケース;自動販売機、ロッカー、家などの鍵;携帯電話、測定器などの精密機械部品;装飾金具、ミニカーなどの玩具などが挙げられる。
【実施例】
【0020】
以下に、実施例及び比較例を示し、本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明の範囲は以下の実施例によってなんら限定されるものではない。
【0021】
(実施例1〜12及び比較例1〜10)
表1に示す各成分組成よりなる亜鉛基合金を溶解法により溶製した。
尚、比較例1の成分組成は亜鉛合金ZDC1(JIS H 5301)に相当するものである。比較例2の成分組成は亜鉛合金ZDC2(JIS H 5301)に相当するものである。
【0022】
次いで、得られた亜鉛基合金のそれぞれについて、コールドチャンバー式ダイカスト装置(型締力125トン)を使用して、500〜550℃(平均530℃)の鋳造温度でダイカストして、ダイカスト成形物を得た。
鋳型には、ASTM規格の引張試験片(平行部φ6.4mm、標点間距離50mm、長さ230mm)、硬度測定用試験片(幅13mm、厚さ7mm、長さ55mm)、および衝撃値測定用試験片(幅6.4mm、厚さ6.4mm、長さ60mm)が得られるキャビティ寸法を有するものを用いた。なお、鋳型は熱間ダイス鋼SKD61製である。
【0023】
ダイカスト成形物について、以下の方法で、強度特性、靭性、および耐摩耗性を評価した。その結果を表2に示す。
【0024】
1) 引張試験片寸法のダイカスト成形物について、精密万能試験機(島津製作所社製; オートグラフAG−50kNIS)を用いて、0.2%耐力、引張強度および破断伸びを測定した。
2) 硬度測定用試験片寸法のダイカスト成形物について、ビッカース硬度計(マツザワ社製 VK−M)を用いて、硬度を測定した。
3) 衝撃値測定用試験片寸法のダイカスト成形物について、シャルピー衝撃試験機(前川試験機製作所社製; MC−10)を用いて、衝撃値を測定した。
4) 引張試験片寸法のダイカスト成形物から、所定の摩耗試験片を削り出した。この摩耗試験片について、摩擦摩耗試験機(オリエンテック社製 EMF−III−F)を用いて、摩耗減量を測定した。該摩耗試験は、ピン・オン・ディスク形式で、潤滑下(潤滑油を一定量滴下)にて、相手材としてダイス鋼SKD11を用い、摺動速度0.5m/s、摺動距離6,000m、荷重50kgfの条件で行った。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
表2に示すように、本発明に係る実施例1〜12の亜鉛基合金は、高強度で且つ靭性に優れ、しかも、優れた耐摩耗性を兼ね備えていることがわかる。
一方、比較例1、2、3、5、7、9の亜鉛基合金は、靭性に優れるものの、強度特性及び耐摩耗性に劣っていた。
また、比較例4、6、8、10の亜鉛基合金は、強度特性及び耐摩耗性に優れるものの、靭性が不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Alを3.5重量%以上4.5%重量%以下、Cuを3.0重量%以上4.0重量%以下、Mgを0.01重量%以上0.08重量%以下、およびCaを0.005重量%以上0.1重量%以下で含有し、残部がZnと不可避物質とからなる亜鉛基合金。
【請求項2】
Alを3.5重量%以上4.5%重量%以下、Cuを3.0重量%以上4.0重量%以下、Mgを0.01重量%以上0.08重量%以下、Caを0.005重量%以上0.1重量%以下、およびSrを0.005重量%以上0.1重量%以下で含有し、残部がZnと不可避物質とからなる亜鉛基合金。
【請求項3】
ダイカスト用である請求項1または2に記載の亜鉛基合金。
【請求項4】
請求項1または2に記載の亜鉛基合金からなるダイカスト品。

【公開番号】特開2011−162827(P2011−162827A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25883(P2010−25883)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(391004458)日曹金属化学株式会社 (2)