説明

亜鉛系メッキ鋼板

【課題】 亜鉛系メッキ鋼板の表面に形成させるための、硬質且つ高融点でしかも接着性および化成処理性にも優れた皮膜の化学成分組成と付着量を特定する。
【解決手段】 Fe−Ni−O系皮膜であって、付着量を金属元素の合計で10〜1500mg/m2 を共通条件とし、皮膜の、■酸素含有量を0.5〜30wt.%未満にするか、■酸素含有量を0.5〜30wt.%未満、且つFe/Fe+Ni(濃度比率)を0超〜0.9にするか、■酸素含有量を0.5〜30wt.%未満、且つFe/Fe+Niを0.05〜1.0未満にするか、■酸素含有量を0.5〜10wt.%、且つFe/Fe+Niを0.05〜0.9の範囲内にする。特に、プレス成形性およびスポット溶接性に優れたものを得るためには、皮膜の付着量を金属元素で10〜1200mg/m2 、且つ酸素含有量を0.5〜10wt.%でFe/Fe+Niを0.05〜0.9にする。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、亜鉛系メッキ鋼板の改良に関するものであり、特に、プレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性の内、少なくともプレス成形性に優れ、且つ、用途に応じて適宜、スポット溶接性、接着性および化成処理性に優れた、亜鉛系メッキ鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】亜鉛系メッキ鋼板は種々の優れた特徴を有するために、各種の防錆鋼板として広く使用されている。この亜鉛系メッキ鋼板を自動車用防錆鋼板として使用するためには、耐食性、塗装適合性等のほかに、車体製造工程において要求される性能として、プレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性に優れていることが重要である。
【0003】しかし、亜鉛系メッキ鋼板は、一般に、冷延鋼板に比べてプレス成形性が劣るという欠点を有する。これは亜鉛系メッキ鋼板とプレス金型との摺動抵抗が、冷延鋼板の場合に比較して大きいことが原因である。即ち、この摺動抵抗が大きいので、ビードと亜鉛系メッキ鋼板との摺動抵抗が著しく大きい部分で、亜鉛系メッキ鋼板がプレス金型に流入しにくくなり、鋼板の破断が起こりやすくなる。
【0004】亜鉛系メッキ鋼板のプレス成形性を向上させる方法としては、一般に、高粘度の潤滑油を塗布する方法が広く用いられている。しかしこの方法では、潤滑油の高粘性のために、塗装工程で脱脂不良による塗装欠陥が発生したり、また、プレス時の油切れにより、プレス性能が不安定になる等の問題がある。従って、亜鉛系メッキ鋼板のプレス成形性が改善されることが強く要請されている。
【0005】一方、亜鉛系メッキ鋼板は、スポット溶接時に電極である銅が溶融した亜鉛と反応して脆い合金層を形成しやすいために、銅電極の損耗が激しく、その寿命が短く、冷延鋼板に比べて連続打点性が劣るという問題がある。
【0006】更に、自動車車体の製造工程においては、車体の防錆、制振等の目的で各種の接着剤が使用されるが、近年になって亜鉛系メッキ鋼板の接着性は冷延鋼板の接着性に比較して劣ることが明らかになってきた。
【0007】上述した問題を解決する方法として、特開昭53−60332号公報および特開平2−190483号公報は、亜鉛系メッキ鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布酸化処理、または加熱処理を施すことにより、ZnOを主体とする酸化膜を生成させて溶接性、または加工性を向上させる技術(以下、先行技術1という)を開示している。
【0008】特開平4−88196号公報は、亜鉛系メッキ鋼板の表面に、リン酸ナトリウム5〜60g/lを含むpH2〜6の水溶液中にメッキ鋼板を浸漬するか、電解処理、また、上記水溶液を散布することにより、P酸化物を主体とした酸化膜を形成して、プレス成形性および化成処理性を向上させる技術(以下、先行技術2という)を開示している。
【0009】特開平3−191093号公報は、亜鉛系メッキ鋼板の表面に電解処理、浸漬処理、塗布処理、塗布酸化処理または加熱処理により、Ni酸化物を生成させることによりプレス成形性および化成処理性を向上させる技術(以下、先行技術3という)を開示している。
【0010】特開昭58−67785号公報は、亜鉛系メッキ鋼板の表面に、限定しないが、例えば、電気メッキまたは化学メッキにより、NiおよびFe等の金属を生成させて耐食性を向上させる技術(以下、先行技術4という)を開示している。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した先行技術には、下記問題がある。先行技術1は、上述した各種処理により、メッキ層表面にZnOを主体とする酸化物を生成させる方法であるため、通常の溶接性および加工性は向上するが、プレス金型とメッキ鋼板との摺動抵抗の低減効果は少なく、プレス成形性の改善効果は少なく、また、ZnO主体の酸化膜がメッキの表面に存在すると、接着性が劣化するという問題を有する。
【0012】先行技術2は、P酸化物を主体とした酸化膜を亜鉛系メッキ鋼板の表面に形成する方法であるため、プレス成形性および化成処理性の改善効果は大きいが、スポット溶接性、接着性は劣化するという問題を有する。
【0013】先行技術3は、Ni酸化物単相の皮膜を生成させる方法であるため、プレス成形性は向上するが、一方、接着性が低下するという問題がある。
【0014】先行技術4は、Ni等の金属のみを生成させる方法であるため、耐食性は向上するが、皮膜の金属的性質が強いためプレス成形性およびスポット溶接性の改善効果が十分ではない。更に、金属の接着剤に対する濡れ性が低く、十分な接着性が得られないという問題がある。
【0015】従って、この発明の目的は、上述した問題を解決して、プレス金型との摺動抵抗が小さいことを基本条件とし、且つ、融点が高く、しかも良好な接着性を示す化学成分組成を有する皮膜を亜鉛系メッキ鋼板のメッキ層の表面に形成させることにより、プレス成形性に優れていることを前提とし、用途に応じて適宜、スポット溶接性、接着性および化成処理性に優れた亜鉛系メッキ鋼板を提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】本発明者等は、上述した問題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、亜鉛系メッキ鋼板のメッキ層の表面に、Fe−Ni−O系の適正な皮膜を形成することにより、プレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性を改善することができることを見出した。
【0017】即ち、従来の亜鉛系メッキ鋼板は、プレス成形性において、冷延鋼板に比較して劣る。それは、亜鉛系メッキ鋼板とプレス金型との摺動抵抗が大きいからである。その原因は、高面圧下において、低融点の亜鉛と金型とが凝着現象を起こすためである。これを防ぐためには、亜鉛系メッキ鋼板のメッキ層の表面に、亜鉛または亜鉛合金メッキ層より硬質で、且つ高融点の皮膜を形成することが有効である。この発明におけるFe−Ni−O系皮膜は、硬質且つ高融点であるから、亜鉛系メッキ鋼板の表面にFe−Ni−O系皮膜を形成させることにより、プレス成型時におけるメッキ層表面とプレス金型との摺動抵抗が低下し、亜鉛系メッキ鋼板がプレス金型へ滑り込み易くなり、プレス成形性が向上する。
【0018】従来の亜鉛系メッキ鋼板は、スポット溶接における連続打点性において、冷延鋼板と比較して劣る。その原因は、溶接時に溶融した亜鉛と電極の銅とが接触して溶融し、脆い合金層を生成するために、電極の劣化が激しくなることにある。従って、亜鉛系メッキ鋼板の連続打点性を改善する方法としては、メッキ表面に、高融点の皮膜を形成することが有効とされている。本発明者らは、亜鉛系メッキ鋼板のスポット溶接性を改善するために、各種の皮膜について検討した結果、Ni酸化物皮膜が特に有効であることを見出した。この理由の詳細は明らかではないが、NiがZnと反応し高融点のZn−Ni合金を形成すること、Ni酸化物が非常に高融点であり、また、半導体的性質を持つために電気伝導度が各種皮膜の中でも高いことが理由として考えられる。
【0019】従来の亜鉛系メッキ鋼板の接着性が、冷延鋼板に比較して劣ることは知られていたが、その原因は明らかになっていなかった。そこで、本発明者らは、その原因について調査した結果、鋼板表面の酸化皮膜の組成により接着性が支配されていることが明らかになった。すなわち、冷延鋼板の場合には、鋼板表面の酸化皮膜はFe酸化物が主体であるのに対し、亜鉛系メッキ鋼板の場合には、Zn酸化物が主体である。この酸化皮膜の組成により接着性が異なっており、Zn酸化物はFe酸化物に比べて接着性が劣っていた。従って、本発明のように亜鉛系メッキ鋼板の表面にFe酸化物を含有する皮膜を形成することによって、接着性を改善することが可能である。
【0020】従来の亜鉛系メッキ鋼板の化成処理性が、冷延鋼板に比較して劣るのは、鋼板表面のZn濃度が高いために、形成されるリン酸塩皮膜結晶が粗大で不均一となること、および、リン酸塩結晶の質が異なることに起因する。鋼板表面のZn濃度が高い場合には、リン酸塩結晶はホパイトが主体となり、塗装後の温水2次密着性に劣る。これはリン酸塩皮膜中のFe濃度が低いため、塗装後湿潤環境下に曝されると化成処理皮膜が復水し、鋼板との密着力を失うことが原因である。
【0021】化成処理被膜の復水を抑制するためには、リン酸塩結晶中にFeおよびNi等の金属を含有させることが有効である。この発明のFe−Ni−O系皮膜を形成することにより、化成処理の際に皮膜中のNiおよびFeがリン酸塩結晶中に取り込まれ、良好な密着性を有する化成処理皮膜となり、また、緻密で均一なリン酸塩の結晶が形成され、温水2次密着性のみならず耐食性も向上することが判明した。
【0022】上述したように、亜鉛系メッキ鋼板の表面に、少なくとも、NiおよびFeの金属、並びに、NiおよびFeの酸化物を含む混合皮膜(以下、「Fe−Ni−O系皮膜」という)が適正に形成されていることにより、亜鉛系メッキ鋼板は、プレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性において優れたものが得られることを知見した。即ち、上述したFe−Ni−O系皮膜がメッキ層の表面に形成されていることが、この発明の必須要件である。
【0023】この発明は、上述した知見に基づいてなされたものであって、この発明の亜鉛系メッキ鋼板は、少なくとも1方の面のメッキ層表面に、Fe−Ni−O系皮膜を形成した亜鉛系メッキ鋼板であって、前記Fe−Ni−O系皮膜の付着量は、前記Fe−Ni−O系皮膜中の金属元素の合計量換算で、10〜1500mg/m2 の範囲内にあり、更に、前記Fe−Ni−O系皮膜の酸素含有量は、0.5〜30wt.%未満の範囲内にあることに特徴を有するもの(以下、「第1発明」という)である。
【0024】この発明の亜鉛系メッキ鋼板は、少なくとも1方の面のメッキ層表面に、Fe−Ni−O系皮膜を形成した亜鉛系メッキ鋼板であって、前記Fe−Ni−O系皮膜の付着量は、前記Fe−Ni−O系皮膜中の金属元素の合計量換算で、10〜1500mg/m2 の範囲内にあり、更に、前記Fe−Ni−O系皮膜中のFe含有量(wt.%)とNi含有量(wt.%)との和に対する前記Fe含有量(wt.%)の比率は、0超〜0.9の範囲内にあり、且つ、前記Fe−Ni−O系皮膜の酸素含有量は、0.5〜30wt.%未満の範囲内にあることに特徴を有するもの(以下、「第2発明」という)である。
【0025】この発明の亜鉛系メッキ鋼板は、少なくとも1方の面のメッキ層表面に、Fe−Ni−O系皮膜を形成した亜鉛系メッキ鋼板であって、前記Fe−Ni−O系皮膜の付着量は、前記Fe−Ni−O系皮膜中の金属元素の合計量換算で、10〜1500mg/m2 の範囲内にあり、更に、前記Fe−Ni−O系皮膜中のFe含有量(wt.%)とNi含有量(wt.%)との和に対する前記Fe含有量(wt.%)の比率は、0.05〜1.0未満の範囲内にあり、且つ、前記Fe−Ni−O系皮膜の酸素含有量は、0.5〜30wt.%未満の範囲内にあることに特徴を有するもの(以下、「第3発明」という)である。
【0026】この発明のプレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性に優れた亜鉛系メッキ鋼板は、少なくとも1方の面のメッキ層表面に、Fe−Ni−O系皮膜を形成した亜鉛系メッキ鋼板であって、前記Fe−Ni−O系皮膜の付着量は、前記Fe−Ni−O系皮膜中の金属元素の合計量換算で、10〜1500mg/m2 の範囲内にあり、更に、前記Fe−Ni−O系皮膜中のFe含有量(wt.%)とNi含有量(wt.%)との和に対するFe含有量(wt.%)の比率は、0.05〜0.9の範囲内にあり、且つ、前記Fe−Ni−O系皮膜の酸素含有量は、0.5〜10wt.%の範囲内にあることに特徴を有するもの(以下、「第4発明」という)である。
【0027】この発明のより一層望ましいプレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性に優れた亜鉛系メッキ鋼板は、第4発明の亜鉛系メッキ鋼板において、前記Fe−Ni−O系皮膜の付着量が、前記Fe−Ni−O系皮膜中の金属元素の合計量換算で、10〜1200mg/m2 の範囲内にあり、前記Fe−Ni−O系皮膜中の前記Fe含有量(wt.%)と前記Ni含有量(wt.%)との和に対する前記Fe含有量(wt.%)の比率は、0.1〜0.3の範囲内にあることに特徴を有するもの(以下、「第5発明」という)である。
【0028】
【発明の実施の形態】次に、この発明の亜鉛系メッキ鋼板のメッキ層の表面に形成されたFe−Ni−O系皮膜の付着量およびその組成を上述したように限定した理由を述べる。
【0029】〔Fe−Ni−O系皮膜の付着量〕前述したように、Fe−Ni−O系皮膜の形成によりプレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性が向上する。しかしながら、Fe−Ni−O系皮膜の付着量が、皮膜中金属の合計量換算で10mg/m2 未満では、プレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性の向上効果が得られない。
【0030】一方、その付着量が、前記合計量換算で1500mg/m2 を超えると、前記諸効果が飽和し、更に、リン酸塩結晶の生成が抑制されて、化成処理性が劣化する。化成処理性を良好にするためには、前記合計量換算値は、1200mg/m2 以下であることが望ましい。従って、Fe−Ni−O系皮膜の付着量を、皮膜中金属の合計量換算で、10〜1500mg/m2 の範囲内、望ましくは、10〜1200mg/m2 の範囲内に限定すべきである。
【0031】〔Fe−Ni−O系皮膜の酸素含有量〕Fe−Ni−O系皮膜に適正量の酸素が含有されることにより、プレス成形性およびスポット溶接性が改善される。しかしながら、Fe−Ni−O系皮膜の酸素含有量が、0.5wt.%未満では、皮膜の金属的性質が強くなるためプレス成形性およびスポット溶接性の改善効果が発揮されない。一方、その酸素含有量が、10wt.%を超えると、酸化物の量が多くなり過ぎるため、リン酸塩結晶の生成が抑制されて、化成処理性が劣化する。但し、化成処理性に優れていることを要しない用途には、その酸素含有量の上限値は不要である。しかしながら、酸素含有量が30wt.%を超えると、Fe−Ni−O系皮膜は全量酸化物で構成されて皮膜中に金属単体が存在しなくなることになる。これでは、少なくとも、NiおよびFeの金属、並びに、NiおよびFeの酸化物を含む混合皮膜、即ち、Fe−Ni−O系皮膜の存在というこの発明の必須要件を満たさない。従って、化成処理性を問題にしない場合であっても、皮膜の酸素含有量を30wt.%未満にすべきである。
【0032】従って、プレス成形性、または、プレス成形性およびスポット溶接性を良好にするためには、Fe−Ni−O系皮膜の酸素含有量を、0.5〜30wt.%未満の範囲内にすべきであり、また、プレス成形性、スポット溶接性および化成処理性を良好にするためには、Fe−Ni−O系皮膜の酸素含有量を、0.5〜10wt.%の範囲内にすべきである。
【0033】〔Fe−Ni−O系皮膜中のFe含有量とNi含有量との和に対するFe含有量の比率〕Fe−Ni−O系皮膜中に適正量のFeが含有されることにより、接着性が改善される。これは、接着性は、表面電位が高い金属ほど良好であり、Feは最も表面電位が高い金属に属する。従って、Feを多く含有するほど、接着性は改善される。しかしながら、Fe−Ni−O系皮膜中のFe含有量(wt.%)とNi含有量(wt.%)との和に対するFe含有量(wt.%)の比率(以下、「皮膜中Fe/Fe+Ni」という)が、0.05wt.%未満では、接着性の改善効果が発揮されない。但し、接着性に優れていることを要しない用途には、皮膜中Fe/Fe+Niの下限値は不要である。しかしながら、皮膜中Fe/Fe+Niが、0(零)では、Fe−Ni−O系皮膜中に酸化物が存在しなくなることになる。これでは、少なくとも、NiおよびFeの金属、並びに、NiおよびFeの酸化物を含む混合皮膜、即ち、Fe−Ni−O系皮膜の存在というこの発明の必須要件を満たさない。従って、接着性を問題にしない場合であっても、皮膜中Fe/Fe+Niを、0(零)超えにすべきである。一方、皮膜中Fe/Fe+Niが、0.9を超えると、皮膜中に存在するNi含有量が減少するため、溶接時に形成される高融点のZn−Ni合金の比率が少なくなり、そのため電極の劣化がはげしくなり、スポット溶接性の改善効果が発揮されない。但し、スポット溶接性に優れていることを要しない用途には、皮膜中Fe/Fe+Niの上限値は不要である。しかしながら、皮膜中Fe/Fe+Niが、1.0では、Fe−Ni−O系皮膜中にNiが存在しなくなることになる。これでは、少なくとも、NiおよびFeの金属、並びに、NiおよびFeの酸化物を含む混合皮膜、即ち、Fe−Ni−O系皮膜の存在というこの発明の必須要件を満たさない。従って、スポット溶接性を問題にしない場合であっても、皮膜中Fe/Fe+Niを、1.0未満にすべきである。
【0034】従って、接着性を良好にするためには、Fe−Ni−O系皮膜中Fe/Fe+Niを、0.05〜1.0未満の範囲内にすべきであり、また、スポット溶接性を良好にするためには、皮膜中Fe/Fe+Niを、0(零)超〜0.9の範囲内にすべきである。
【0035】なお、皮膜中Fe/Fe+Niが、0.1〜0.3の範囲内であると、接着性が一層向上するので、接着性を良好にするためには、皮膜中Fe/Fe+Niを0.1〜0.3の範囲内にすることが望ましい。
【0036】亜鉛系メッキ鋼板は、用途により具備すべき所定の特性(プレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性の4性質)を要する。従って、上述したFe−Ni−O系皮膜を表面に形成させた亜鉛系メッキ鋼板の性質の内、どの性質をいかなる水準にするかに応じて、Fe−Ni−O系皮膜の付着量、並びに、その酸素含有量および皮膜中Fe/Fe+Niの適正な範囲を決定すべきである。この適正な範囲は、上述したところから、下記の通りである。
【0037】〔特性が所定値を満たすのに必要な、Fe−Ni−O系皮膜の付着量、並びに、その酸素含有量および皮膜中Fe/Fe+Ni〕
Fe−Ni−O系皮膜を表面に形成させた亜鉛系メッキ鋼板を、■プレス成形性に優れたものとするためには、付着量:10〜1500mg/m2 、且つ、皮膜の酸素含有量:0.5〜30wt.%未満、■プレス成形性およびスポット溶接性に優れたものとするためには、付着量:10〜1500mg/m2 、皮膜の酸素含有量:0.5〜30wt.%未満、皮膜中Fe/Fe+Ni:0超〜0.9、■プレス成形性および接着性に優れたものとするためには、付着量:10〜1500mg/m2 、皮膜の酸素含有量:0.5〜30wt.%未満、皮膜中Fe/Fe+Ni:0.05〜1.0未満、■プレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性に優れたものとするためには、付着量:10〜1500mg/m2 、皮膜の酸素含有量:0.5〜10wt.%、皮膜中Fe/Fe+Ni:0.05〜0.9を満たすべきである。そして、■上記■において、更に、プレス成形性および接着性に優れたものとするためには、付着量:10〜1200mg/m2 、皮膜の酸素含有量:0.5〜10wt.%、皮膜中Fe/Fe+Ni:0.1〜0.3を満たすべきである。
【0038】なお、Fe−Ni−O系皮膜中には、下層のメッキ皮膜中に含まれるZn、Co、Mn、Mo、Al、Ti、Sn、W、Si、PbおよびTa等成分元素が取り込まれた酸化物、水酸化物または金属単体が含まれていても、上述した効果は奏される。
【0039】本発明において用いられる亜鉛系メッキ鋼板とは、母材である鋼板上に溶融メッキ法、電気メッキ法、または気相メッキ法等の方法の1種以上の方法でメッキ層を形成させた鋼板である。亜鉛系メッキ層の化学成分組成は、純亜鉛のほか、Fe、Ni、Co、Mn、Cr、Al、Mo、Ti、Si、W、Sn、Pb、NbおよびTa等の金属もしくは酸化物、または、有機物等の内、一種または二種以上を所定量含有する単層または複層のメッキ層からなるものであればよい。また、前記メッキ層にSiO2 、Al2 3 等の微粒子を含有してもよい。その他、亜鉛系メッキ鋼板として、メッキ層の成分元素は同じであって組成の異なる複数の層からなる複層メッキ鋼板や、メッキ層の構成元素は同じであってメッキ層の厚さ方向に組成を連続的に変化させた機能傾斜メッキ鋼板を使用することも可能である。
【0040】また、本発明における、上層としてのFe−Ni−O系皮膜は、その形成方法により限定されるものではなく、置換メッキ、酸化剤含有の水溶液への浸漬による方法、酸化剤含有の水溶液中での陰極電解処理および陽極電解処理、所定の水溶液の吹付け、ロール塗布等、レーザーCVD、光CVD、真空蒸着、並びに、スパッタ蒸着法等の気相メッキ法を採用することができる。
【0041】上述したFe−Ni−O系皮膜は、亜鉛系メッキ鋼板の少なくとも1方の面のメッキ層表面に形成されているので、車体製造工程のどのような工程において、どのような車体部分に使用される鋼板であるかに応じて、その皮膜を1方の面あるいは両面に形成されたものを適宜選択することができる。
【0042】
【実施例】次に、本発明を実施例により更に詳細に説明する。本発明の範囲内の亜鉛系メッキ鋼板(以下、「本発明供試体」という)、および本発明の範囲外の亜鉛系メッキ鋼板(以下、「比較用供試体」という)を、次に述べる方法で調製した。
【0043】先ず、Fe−Ni−O系皮膜を形成処理する前の亜鉛系メッキ鋼板(以下、「原板」という)を調製した。調製された原板は、下記7つのメッキ種からなり、メッキの方法、メッキ組成およびメッキ付着量に応じて記号を付した。
【0044】GA:合金化溶融亜鉛メッキ鋼板(10wt.%Fe、残部Zn)であり、付着量は両面共に60g/m2 である。
GI:溶融亜鉛メッキ鋼板であり、付着量は両面共に90g/m2 である。
EG:電気亜鉛メッキ鋼板であり付着量は両面共に40g/m2 である。
Zn−Fe:電気Zn−Fe合金メッキ鋼板(15wt.%Fe)であり、付着量は両面共に40g/m2 である。
Zn−Ni:電気Zn−Ni合金メッキ鋼板(12wt.%Ni)であり、付着量は両面共に30g/m2 である。
Zn−Cr:電気Zn−Cr合金メッキ鋼板(4wt.%Cr)であり、付着量は両面共に20g/m2 である。
Zn−Al:溶融Zn−Al合金メッキ鋼板(5wt.%Al)であり、付着量は両面共に60g/m2 である。
【0045】このようにして調製された原板(亜鉛系メッキ鋼板)のメッキ層の表面に、Fe−Ni−O系皮膜を次の3種類の形成方法の何れかにより形成した。
〔形成方法A〕酸化剤を含有させた硫酸鉄と硫酸ニッケルの混合溶液中で、原板を陰極電解処理することにより、原板の表面に所定のFe−Ni−O系皮膜を形成させた。ここで、硫酸ニッケル濃度は100g/lで一定とし、硫酸鉄濃度を種々の所定値に変化させ、また、pHは2.5で一定、浴温は50℃で一定、酸化剤として過酸化水素を用い、濃度を種々の所定値に変化させて皮膜の酸素含有量を調整した。
〔形成方法B〕塩化ニッケル濃度120g/lおよび種々の所定濃度の塩化鉄を含有する水溶液を原板に噴霧し、空気とオゾンとの混合雰囲気中でFe−Ni−O系皮膜の酸素含有量を調整しながら乾燥させることにより、原板の表面に所定のFe−Ni−O系皮膜を形成させた。
〔形成方法C〕塩化ニッケル濃度120g/lおよび種々の所定濃度の塩化鉄を含有し、pH=2.5〜3.5、浴温が50℃の水溶液中に原板を浸漬処理した。浸漬時間の調整により、Fe−Ni−O系皮膜の付着量を種々の所定値に変化させた。また、pHの調整により、Fe−Ni−O系皮膜の酸素含有量を種々の所定値に変化させた。また、酸素含有量を調整するために適宜、水溶液中に所定の酸化剤を添加し、そして、所定の酸化性雰囲気中で加熱処理する等の方法で、原板の表面に所定のFe−Ni−O系皮膜を形成させた。
【0046】上述した形成方法により所定のFe−Ni−O系皮膜を、所定の原板の表面に形成させることにより、本発明供試体および比較用供試体を得た。本発明供試体および比較用供試体の調製は、2次に分けて行ない、第1次試験(「実施例1」)では、第1〜5発明についての実施例を、そして、第2次試験(「実施例2」)では、主に、第5発明についての実施例を目的として行なった。
【0047】各供試体のFe−Ni−O系皮膜について、皮膜の付着量、皮膜中Fe/Fe+Ni、および、皮膜の酸素含有量を下記のようにして測定した。
【0048】〔皮膜の付着量、および、膜中Fe/Fe+Ni〕
メッキ種が、GI、EG、Zn−Cr、Zn−Alの供試体については、Fe−Ni−O系皮膜を、下層のメッキ皮膜(Zn系メッキ、以下同じ)の表層部と共に希塩酸により溶解剥離させ、ICP法によりFe、Niおよび金属の定量分析を行なうことによって、Fe−Ni−O系皮膜の付着量および組成を測定した。次いで、皮膜中Fe/Fe+Niを算定した。メッキ種が、GA、Zn−Fe、Zn−Niの供試体については、下層のメッキ皮膜中にFe−Ni−O系皮膜中の成分元素を含むので、ICP法では上層のFe−Ni−O系皮膜中成分元素と下層のメッキ皮膜中成分元素とを完全に分離することは困難である。そこで、ICP法により下層のメッキ皮膜中に含まれていないFe−Ni−O系皮膜の成分元素のみを定量分析した。更に、Arイオンスパッタした後、XPS法によりFe−Ni−O系皮膜中各成分元素の測定を皮膜表面から繰り返すことによって、メッキ皮膜中の深さに対する各成分元素の組成分布を測定した。この測定方法においては、下層のメッキ皮膜中に含まれていないFe−Ni−O系皮膜の成分元素が最大濃度である深さと、その元素が検出されなくなった深さの半分の位置との間隔を、Fe−Ni−O系皮膜の厚さとした。そして、ICP法の結果とXPS法の結果とから、Fe−Ni−O系皮膜の付着量および組成を算定した。次いで、皮膜中Fe/Fe+Niを算定した。
〔皮膜の酸素含有量〕皮膜の酸素含有量は、オージェ電子分光法(AES)による深さ方向分析結果から求めた。
【0049】〔実施例1〕表1〜表3に、第1次試験で調製された、本発明供試体No.1〜52、および、比較用供試体No.1〜15についての、原板の亜鉛系メッキ種、および、原板へのFe−Ni−O系皮膜の形成方法をそれぞれ符号で示し、Fe−Ni−O系皮膜の付着量、皮膜中Fe/Fe+Ni、および皮膜の酸素含有量を示す。
【0050】
【表1】


【0051】
【表2】


【0052】
【表3】


【0053】表1〜表3の各供試体について、プレス成形性の評価を供試体とビードとの摩擦係数で、スポット溶接性の評価を連続打点性試験における連続打点数で、接着性の評価を供試体の表面同士を接着させた後の剥離強度で、そして、化成処理性の評価をリン酸塩結晶の形成状態で行なった。各評価試験方法は下記の通りであり、その結果を、同表に併記した。
【0054】〔摩擦係数測定試験〕プレス成形性を評価するために、各供試体の摩擦係数を、下記装置により測定した。図1は、摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、供試体から採取した摩擦係数測定用試料1が試料台2に固定され、試料台2は、水平移動可能なスライドテ−ブル3の上面に固定されている。スライドテ−ブル3の下面には、これに接したロ−ラ4を有する上下動可能なスライドテ−ブル支持台5が設けられ、これを押上げることにより、ビ−ド6による摩擦係数測定用試料1への押付荷重Nを測定するための第1ロ−ドセル7が,スライドテ−ブル支持台5に取付けられている。上記押付力を作用させた状態で、スライドテ−ブル3の水平移動方向の一方の端部には、スライドテ−ブル3を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロ−ドセル8が、スライドテ−ブル3の一方の端部に取付けられている。なお、潤滑油として、日本パーカライジング社製ノックスラストHNを試料1の表面に塗布して試験を行なった。
【0055】供試体とビ−ドとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。但し、押付荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテ−ブル3の水平移動速度):100cm/minとした。
【0056】図2は、使用したビ−ドの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビ−ド6の下面が試料1の表面に押しつけられた状態で摺動する。その下面形状は、幅10mm、摺動方向長さ3mmの平面を有し、その前後面の幅10mmの各々の線に4.5mmRをもつ筒面の1/4筒面が同図のように接している。なお、この寸法・形状のビードを、タイプAと呼ぶことにする。
【0057】〔連続打点性試験〕スポット溶接性を評価するために、各供試体について連続打点性試験を行なった。同じNO.の供試体を2枚重ね、それを両面から1対の電極チップで挟み、加圧通電して電流を集中させた抵抗溶接(スポット溶接)を、下記溶接条件で連続的に実施した。
・電極チップ:先端径6mmのド−ム型、・加圧力:250kgf、・溶接時間:0.2秒、・溶接電流:11.0KA、・溶接速度:1点/sec。
連続打点性の評価としては、スポット溶接時に、2枚重ねた溶接母材(供試体)の接合部に生じた溶融凝固した金属部(形状:碁石状、以下、ナゲットという)の径が、4×t1/2 (t:1枚の板厚)未満になるまでに連続打点溶接した打点数を用いた。なお、上記打点数を以下、電極寿命という。
【0058】〔接着性試験〕各供試体から次の接着性試験用試験体を調製した。図3は、その組み立て過程を説明する概略斜視図である。同図に示すように、幅25mm、長さ200mmの2枚の供試体10を、その間に直径0.15mmのスペーサー11を介して、接着剤12の厚さが0.15mmとなるように重ね合わせて接着した試験体13を作成し、150°C×10minの焼き付けを行なう。このようにして調製された前記試験体を図4に示すようにT型に折り曲げ、引張試験機を用いて200mm/minの速度で引張試験をし、試験体が剥離した時の平均剥離強度(n=3回)を測定した。剥離強度は、剥離時の引張荷重曲線の荷重チャ−トから、平均荷重を求め、単位:kgf/25mmで表わした。図4中、Pは引張荷重を示す。なお接着剤は塩ビ系のヘミング用アドヒシブを用いた。
【0059】〔化成処理性試験〕化成処理性を評価するために、次の試験を行なった。各供試体を、自動車塗装下地用の浸漬型リン酸亜鉛処理液(日本パ−カライジング社製PBL3080)で通常の条件で処理し、その表面にリン酸亜鉛皮膜を形成させた。このようにして形成されたリン酸亜鉛皮膜の結晶状態を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した。その結晶状態により3段階に区分した。評価区分の符号とその内容は、次の通りである。
○:リン酸亜鉛皮膜の結晶が緻密で小さい。
△:リン酸亜鉛皮膜の結晶がやや粗大で大きい。
×:リン酸亜鉛皮膜の結晶が粗大である。
【0060】表1および表2の本発明供試体の試験結果から、下記事項が明らかである。
■ Fe−Ni−O系皮膜の付着量が、10〜1500mg/m2 の範囲内にあり、且つ、皮膜の酸素含有量が、0.5〜30wt.%未満の範囲内にあるもの(本発明供試体No.1〜52)、即ち、この第1発明の範囲内の亜鉛系メッキ鋼板は、すべて、摩擦係数が小さく、従って、プレス成形性に優れている。
■ Fe−Ni−O系皮膜の付着量が、10〜1500mg/m2 の範囲内にあり、且つ、皮膜中Fe/Fe+Niが、0超〜0.9の範囲内にあり、しかも、皮膜の酸素含有量が、0.5〜30wt.%未満の範囲内にあるもの(本発明供試体No.1〜46、48、49および51)、即ち、この第2発明の範囲内の亜鉛系メッキ鋼板は、すべて、摩擦係数が小さくしかも連続打点数が多く、従って、プレス成形性およひスポット溶接性に優れている。
■ Fe−Ni−O系皮膜の付着量が、10〜1500mg/m2 の範囲内にあり、且つ、皮膜中Fe/Fe+Niが、0.05〜1.0未満の範囲内にあり、しかも、皮膜の酸素含有量が、0.5〜30wt.%未満の範囲内にあるもの(本発明供試体No.1〜45、47、48、50、51および52)、即ち、この第3発明の範囲内の亜鉛系メッキ鋼板は、すべて、摩擦係数が小さくしかも接着後剥離強度が強く、従って、プレス成形性およひ接着性に優れている。
■ Fe−Ni−O系皮膜の付着量が、10〜1500mg/m2 の範囲内にあり、且つ、皮膜中Fe/Fe+Niが、0.05〜0.9の範囲内にあり、しかも、皮膜の酸素含有量が、0.5〜10wt.%の範囲内にあるもの(本発明供試体No.1〜6、12〜45)、即ち、この第4発明の範囲内の亜鉛系メッキ鋼板は、すべて、摩擦係数が小さく、連続打点数が多く、接着後剥離強度が強く、しかも、化成処理の皮膜の結晶が緻密で小さく、従って、プレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性に優れている。
■ Fe−Ni−O系皮膜の付着量が、10〜1200mg/m2 の範囲内にあり、且つ、皮膜中Fe/Fe+Niが、0.1〜0.3の範囲内にあり、しかも、皮膜の酸素含有量が、0.5〜10wt.%の範囲内にあるもの(本発明供試体No.12、14、16、18、25、28、39、40、43および45)、即ち、この第5発明の範囲内の亜鉛系メッキ鋼板は、すべて、摩擦係数が小さく、連続打点数が多く、接着後剥離強度が強く、しかも、化成処理の皮膜の結晶が緻密で小さく、従って、プレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性に優れており、特に、プレス成形性および接着性に優れている。
【0061】表3の比較用供試体の試験結果から、下記事項が明らかである。
■ Fe−Ni−O系皮膜が形成されていないもの(比較用供試体No.1〜7)は、そのメッキ種が、記号:GA、GI、EG、ZnFe、ZnNi、ZnCrまたはZnAlのいずれで表わされる場合であっても、プレス成形性、スポット溶接性および化成処理性に劣っている。
■ Fe−Ni−O系皮膜の付着量が、本発明の範囲外に過少のもの(比較用供試体No.8、9、12および15)も、その皮膜形成のないものと同様、プレス成形性、スポット溶接性および化成処理性に劣っている。
■ Fe−Ni−O系皮膜の付着量が、本発明の範囲外に過多のもの(比較用供試体No.10および13)は、化成処理性に劣っている。
■ 皮膜の付着量のみが本発明の範囲内にあっても、皮膜の酸素含有量が本発明の範囲外に過少であるもの(比較用供試体No.11および14)は、プレス成形性、スポット溶接性および接着性に劣っている。
【0062】上述した事項は、原板の亜鉛系メッキ種が、記号:GA、GI、EG、ZnFe、ZnNi、ZnCrおよびZnAlの内のいずれで表わされる場合であっても、更に、Fe−Ni−O系皮膜の形成方法が、A、BおよびCの内のいずれで表わされる場合であっても変わりはない。
【0063】〔実施例2〕実施例2では、実施例1よりもFe−Ni−O系皮膜の付着量および成分組成の条件を更に追加して詳細な試験をすると共に、プレス成形性の評価試験をより厳しい試験条件で行ない、供試体間の摩擦係数値の有意差を一層明確に評価した。
【0064】表4〜表9に、第2次試験で調製された、各供試体No.201〜312(本発明供試体および比較用供試体の両方を含む)についての、原板の亜鉛系メッキ種、および、原板へのFe−Ni−O系皮膜の形成方法をそれぞれ符号で示し、Fe−Ni−O系皮膜の付着量、皮膜中Fe/Fe+Ni、および皮膜の酸素含有量を示す。
【0065】
【表4】


【0066】
【表5】


【0067】
【表6】


【0068】
【表7】


【0069】
【表8】


【0070】
【表9】


【0071】表4〜表9の各供試体について、上述した実施例1におけると同じ方法により、プレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性の評価を行ない、その結果を、同表に併記した。
【0072】但し、プレス成形性の評価にあたっては、摩擦係数測定試験において、ビードの形状を次のように変更した。即ち、図2におけるビード6の摺動面の試料摺動方向の長さを、3mmから60mmに長くした形状のビードを用いた試験を、すべての供試体について追加した。
【0073】図5は、摺動方向を長くしたビードの形状および寸法を示す概略斜視図である。この寸法・形状のビードをタイプBと呼ぶことにし、図2に示したビードをタイプAと呼ぶことにする。
【0074】表4〜表9中の本発明供試体の試験結果から、下記事項が明らかである。
■ 本発明供試体においては、この第1;第2;第3;第4の各発明の範囲内にあれば、それぞれに応じて、プレス成形性;プレス成形性およびスポット溶接性;プレス成形性および接着性;プレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性に優れている。
■ プレス成形性およびスポット溶接性に及ぼす付着量の影響皮膜の付着量が本発明の範囲内であれば、皮膜の付着量が増加するとともに、プレス成形性およびスポット溶接性が良好になることがわかる(供試体No.204〜216、251〜253、260〜262、269〜271、278〜280、287〜289、296〜298、および、305〜307参照)。
■ プレス成形性および接着性に及ぼすFe/Fe+Niの影響皮膜中Fe/Fe+Niが0.1〜0.3の範囲内において、特に、プレス成形性に優れている(供試体No.223〜230の摩擦係数のビードタイプ:Bの欄を参照)。また、皮膜中Fe/Fe+Niが0.1〜1.0未満の範囲内において、特に、接着性が安定して良好である(供試体No.223〜236、並びに、263〜265、272〜274、281〜283、290〜292、299〜301および310〜312参照)。
【0075】なお、実施例1および実施例2の結果を総合すると、皮膜の付着量と皮膜中Fe/Fe+Niを一層狭い範囲内、即ち、、皮膜の付着量を、10〜1200mg/m2 の範囲内、皮膜中Fe/Fe+Niを、0.1〜0.3の範囲内、且つ、皮膜の酸素含有量を0.5〜10wt.%の範囲内に限定したこの第5発明によれば、特に、プレス成形性および接着性に優れた亜鉛メッキ鋼板が得られることがわかる。
【0076】
【発明の効果】本発明は、以上のように構成したので、亜鉛系メッキ鋼板のメッキ層の表面に形成されたFe−Ni−O系皮膜が、亜鉛または亜鉛合金メッキ層に比べて硬質、且つ、高融点であるために、亜鉛系メッキ鋼板のプレス成形時におけるメッキ層表面とプレス金型との摺動抵抗が低下し、亜鉛系メッキ鋼板がプレス金型へ滑り込み易くなる。また、Fe−Ni−O系皮膜の存在、特に、Niが所定量含有されるめに溶接時に高融点のZn−Ni合金の形成比率が確保されるために、電極の損耗が抑制され、その結果スポット溶接における連続打点性が向上する。更に、接着性の改善に有効な、表面電位の高いFeを所定量含有するので、接着板の剥離強度が向上する。更に、化成処理被膜は、Fe−Ni−O系皮膜中のNiおよびFeがリン酸塩結晶中に取り込まれるので密着性に優れ、且つ、緻密で均一なリン酸塩の結晶形成により温水2次密着性にも優れたものとなる。
【0077】従って、本発明によれば、プレス成形性に優れた亜鉛系メッキ鋼板、プレス成形性およびスポット溶接性に優れた亜鉛系メッキ鋼板、プレス成形性および接着性に優れた亜鉛系メッキ鋼板、並びに、プレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性に優れた亜鉛系メッキ鋼板のいずれをも提供することができる、工業上極めて有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。
【図2】図1中のビ−ドの形状・寸法を示す概略斜視図である。
【図3】接着性試験用試験体の組み立て過程を説明する概略斜視図である。
【図4】接着性試験における剥離強度測定時の引張荷重の負荷を説明する概略斜視図である。
【図5】図1中の他のビ−ドの形状・寸法を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
1 摩擦係数測定用試料、
2 試料台、
3 スライドテ−ブル、
4 ロ−ラ、
5 スライドテ−ブル支持台、
6 ビ−ド、
7 第1ロ−ドセル、
8 第2ロ−ドセル、
9 レ−ル、
10 供試体、
11 スペ−サ−、
12 接着剤、
13 接着試験用試験体、
P 引張荷重、
F 摺動抵抗力。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくとも1方の面のメッキ層表面に、Fe−Ni−O系皮膜を形成した亜鉛系メッキ鋼板であって、前記Fe−Ni−O系皮膜の付着量は、前記Fe−Ni−O系皮膜中の金属元素の合計量換算で、10〜1500mg/m2 の範囲内にあり、更に、前記Fe−Ni−O系皮膜の酸素含有量は、0.5〜30wt.%未満の範囲内にあることを特徴とする亜鉛系メッキ鋼板。
【請求項2】 少なくとも1方の面のメッキ層表面に、Fe−Ni−O系皮膜を形成した亜鉛系メッキ鋼板であって、前記Fe−Ni−O系皮膜の付着量は、前記Fe−Ni−O系皮膜中の金属元素の合計量換算で、10〜1500mg/m2 の範囲内にあり、更に、前記Fe−Ni−O系皮膜中のFe含有量(wt.%)とNi含有量(wt.%)との和に対する前記Fe含有量(wt.%)の比率は、0超〜0.9の範囲内にあり、且つ、前記Fe−Ni−O系皮膜の酸素含有量は、0.5〜30wt.%未満の範囲内にあることを特徴とする亜鉛系メッキ鋼板。
【請求項3】 少なくとも1方の面のメッキ層表面に、Fe−Ni−O系皮膜を形成した亜鉛系メッキ鋼板であって、前記Fe−Ni−O系皮膜の付着量は、前記Fe−Ni−O系皮膜中の金属元素の合計量換算で、10〜1500mg/m2 の範囲内にあり、更に、前記Fe−Ni−O系皮膜中のFe含有量(wt.%)とNi含有量(wt.%)との和に対する前記Fe含有量(wt.%)の比率は、0.05〜1.0未満の範囲内にあり、且つ、前記Fe−Ni−O系皮膜の酸素含有量は、0.5〜30wt.%未満の範囲内にあることを特徴とする亜鉛系メッキ鋼板。
【請求項4】 少なくとも1方の面のメッキ層表面に、Fe−Ni−O系皮膜を形成した亜鉛系メッキ鋼板であって、前記Fe−Ni−O系皮膜の付着量は、前記Fe−Ni−O系皮膜中の金属元素の合計量換算で、10〜1500mg/m2 の範囲内にあり、更に、前記Fe−Ni−O系皮膜中のFe含有量(wt.%)とNi含有量(wt.%)との和に対するFe含有量(wt.%)の比率は、0.05〜0.9の範囲内にあり、且つ、前記Fe−Ni−O系皮膜の酸素含有量は、0.5〜10wt.%の範囲内にあることを特徴とする、プレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性に優れた亜鉛系メッキ鋼板。
【請求項5】 前記Fe−Ni−O系皮膜の付着量は、前記Fe−Ni−O系皮膜中の金属元素の合計量換算で、10〜1200mg/m2 の範囲内にあり、前記Fe−Ni−O系皮膜中の前記Fe含有量(wt.%)と前記Ni含有量(wt.%)との和に対する前記Fe含有量(wt.%)の比率は、0.1〜0.3の範囲内にある、請求項4記載のプレス成形性、スポット溶接性、接着性および化成処理性に優れた亜鉛系メッキ鋼板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平8−158066
【公開日】平成8年(1996)6月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−214018
【出願日】平成7年(1995)7月31日
【出願人】(000004123)日本鋼管株式会社 (1,044)