交流信号の位相検出方法
【課題】電力系統の電圧等、予め周波数の範囲が判っている1相以上の交流信号の位相検出方法を提供する。
【解決手段】次の(a)〜(f)のステップを繰り返し実行する。内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)を生成する(ステップ(a))。交流信号f(t)と内部信号g(t)の差ΔV(t)を算出する(ステップ(b))。θi(t)がg(t)の負の傾きの区間内にあるとき式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、θi(t)がg(t)の正の傾きの区間内にあるとき式ΔV’(t)=-ΔV(t)によってΔV’(t)を算出する(ステップ(c))。ΔV’(t)をf(t)の周期の正整数倍の時間にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出する(ステップ(d))。ΔV’’(t)を偏差とするθi(t)のフィードバック制御に基づいて、θi(t)の位相制御量Δθ(t)を算出する(ステップ(e))。θi(t)と位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出する(ステップ(f))。
【解決手段】次の(a)〜(f)のステップを繰り返し実行する。内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)を生成する(ステップ(a))。交流信号f(t)と内部信号g(t)の差ΔV(t)を算出する(ステップ(b))。θi(t)がg(t)の負の傾きの区間内にあるとき式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、θi(t)がg(t)の正の傾きの区間内にあるとき式ΔV’(t)=-ΔV(t)によってΔV’(t)を算出する(ステップ(c))。ΔV’(t)をf(t)の周期の正整数倍の時間にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出する(ステップ(d))。ΔV’’(t)を偏差とするθi(t)のフィードバック制御に基づいて、θi(t)の位相制御量Δθ(t)を算出する(ステップ(e))。θi(t)と位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出する(ステップ(f))。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力系統の電圧等、予め周波数の範囲が判っている1相以上の交流信号の位相検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電力系統の1相(単相)の交流信号の位相検出方法として、ゼロクロスポイント検出法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
図11は、このゼロクロスポイント法を説明するための波形図である。
図11の方法によれば、(A)および(B)に示すように、電力系統の交流信号および内部信号として電圧信号が用いられ、(C)〜(E)に示すように、まず、各ゼロクロス検出器で検出した交流電圧および内部電圧の各ゼロクロスポイントの時間差から位相差を検出する。
そして、(F)に示すように、位相差をゼロにするように、内部電圧の内部位相をフィードバック制御して、交流電圧の位相を検出する。
【0004】
しかしながら、この方法では、上記交流電圧にノイズや波形歪みがあると誤差を生じやすく、誤差を軽減するためには適切に設計したローパスフィルタ等のフィルタが必要になる。
また、この方法では、フィードバック制御を交流電圧のゼロクロスポイント毎に行うが、ゼロクロスポイント間には交流電圧の半周期分または一周期分の時間差があるため、交流電圧の急峻な変化に対する応答性が悪いという問題があった。
【0005】
そして、このような問題を解消するために、交流電圧をdq変換することによって、位相を検出する方法が提案されている(例えば、特許文献1の図2参照)。
【0006】
図12は、このdq変換法のブロック図である。
図12の方法によれば、まず、3相の交流電圧vU、vV、vWが、dq変換回路11に入力されて、互いに直交する出力信号V1α、V1βに変換される。その後、dq変換回路11の出力信号V1α、V1βと、正弦波信号発生器13および余弦波信号発生器14の各出力信号(フィードバック信号)V2α、V2βとが、演算回路12に入力される。
演算回路12は、これらの出力信号V1α、V1β、V2α、V2βに基づいて所定の演算を行うことにより、位相差Δθを出力する。演算回路12によって出力された位相差Δθは、フィードバック制御回路15を介して、VCO(電圧制御発振回路)16に入力される。
そして、VCO16は、フィードバック制御回路15によってフィードバック制御された所定周波数のパルス信号を出力する。
このパルス信号は、カウンタ17で計数されて、位相θとして検出されるとともに、正弦波信号発生器13および余弦波信号発生器14に入力されて疑似2相に変換される。
このように、演算回路12によって出力された位相差Δθは、フィードバック制御回路15、VCO16、カウンタ17、正弦波信号発生器13および余弦波信号発生器14によって、当該位相差Δθがゼロになるようにフィードバック制御される。このようにして、3相交流の交流信号の各相の瞬時値から、その時々の位相を得ることができる。
【0007】
この方法によれば、ゼロクロス検出器が不要になり、応答性も改善されるが、高い演算性能を持つ演算装置が必要であるため、結果としてコストアップにつながっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】パワーエレクトロニクス機器の制御技術調査専門委員会著「パワーエレクトロニクス機器の制御技術」、電気学会技術報告第1084号、15頁、図3.30
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許3776275号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、簡単なハードウェアで実現可能であり、応答性に優れた、1相以上の交流信号の位相検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、電力系統の1相以上の交流信号f(t)の位相検出方法であって、iを任意の整数として以下のステップ(a)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする方法を提供する。すなわち、
(a)内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)を生成するステップ
(b)前記交流信号f(t)と前記内部信号g(t)の差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出するステップ
(c)前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の負の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の正の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するか、
または、
前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の負の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の正の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するステップ
(d)前記ΔV’(t)を前記交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出するステップ
(e)前記ΔV’’(t)を偏差とする、前記内部位相θi(t)のフィードバック制御に基づいて、前記内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を算出するステップ
(f)前記内部位相θi(t)と前記位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップ
この方法によれば、内部信号を生成し、交流信号と内部信号との差ΔV(t)を算出し、内部位相θi(t)が内部信号g(t)の傾きが正の区間内にあるのか負の区間内にあるのかで場合分けして、ΔV(t)からΔV’(t)を算出し、ΔV’(t)に関する移動平均値ΔV’’(t)を算出し、ΔV’’(t)を偏差とする内部信号のフィードバック制御によって内部位相の位相制御量Δθ(t)を算出し、内部位相としての位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップを、順次繰り返し実行するように構成した。
したがって、内部信号を生成し、交流信号と内部信号との差から内部位相に関する移動平均値を求めてフィードバック制御するだけの、簡単な計算処理を実行するだけで良く、簡単な演算装置で実現可能で、応答性に優れた、電力系統の1相以上の交流信号の位相検出を行うことができる。
【0012】
上記目的を達成するため、また、本発明は、電力系統の1相以上の交流信号f(t)の位相検出方法であって、iを任意の整数として以下のステップ(a)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする方法を提供する。すなわち、
(a)内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)=VR×cosθi(t)を生成するステップ
(b)前記交流信号f(t)と前記内部信号g(t)の差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出するステップ
(c)任意の整数をmとし、
2mπ<θi(t)≦(2m+1)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、(2m+1)π<θi(t)≦(2m+2)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するか、
または、
2mπ<θi(t)≦(2m+1)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、(2m+1)π<θi(t)≦(2m+2)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するステップ
(d)前記ΔV’(t)を前記交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出するステップ
(e)前記ΔV’’(t)を偏差とする、前記内部位相θi(t)のフィードバック制御に基づいて、前記内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を算出するステップ
(f)前記内部位相θi(t)と前記位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップ
この方法によれば、余弦(cos)関数の内部信号を生成し、交流信号と内部信号との差ΔV(t)を算出し、内部位相θi(t)が2mπ<θi(t)≦(2m+1)πを満たすのか満たさないのかで場合分けして、ΔV(t)からΔV’(t)を算出し、ΔV’(t)に関する移動平均値ΔV’’(t)を算出し、ΔV’’(t)を偏差とする内部信号のフィードバック制御によって内部位相の位相制御量Δθ(t)を算出し、内部位相としての位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップを、順次繰り返し実行するように構成した。
したがって、余弦(cos)関数の内部信号を生成し、交流信号と内部信号との差から内部位相に関する移動平均値を求めてフィードバック制御するだけの、簡単な計算処理を実行するだけで良く、簡単な演算装置で実現可能で、応答性に優れた、電力系統の1相以上の交流信号の位相検出を行うことができる。
【0013】
上記構成において、(a’)前記ステップ(a)の後、前記交流信号f(t)の実効値演算に基づいて、前記内部信号g(t)のVRを、前記交流信号f(t)の振幅に一致または近づけるように振幅VR’に変換して、変換された内部信号g(t)’=VR’×cosθi(t)を生成するステップ、をさらに含み、前記ステップ(b)を、前記交流信号f(t)と前記変換された内部信号g(t)’の差ΔV(t)=f(t)−g(t)’を算出するステップ(b’)とし、前記ステップ(a)、(a’)、(b’)、(c)〜(f)を繰り返し実行することが好ましい。
この方法によれば、余弦(cos)関数の内部信号を生成した後、交流信号の実効値演算に基づいて内部信号の振幅が交流信号の振幅に一致または近づくように振幅変換した内部信号を生成し、交流信号と振幅変換された内部信号との差ΔV(t)を算出し、内部位相θi(t)が2mπ<θi(t)≦(2m+1)πを満たすのか満たさないのかで場合分けして、ΔV(t)からΔV’(t)を算出し、ΔV’(t)に関する移動平均値ΔV’’(t)を算出し、ΔV’’(t)を偏差とする内部信号のフィードバック制御によって内部位相の位相制御量Δθ(t)を算出し、内部位相としての位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップを、順次繰り返し実行するように構成した。
したがって、上記と同様の効果が得られる上に、交流信号および内部信号の各振幅が互いに大きく異なる場合であっても、内部信号の振幅が交流信号の振幅に一致または近づくように、内部信号が振幅変換されるので、交流信号と内部信号との差を精度良く検出でき、交流信号の位相を高精度に検出できる。
【0014】
上記目的を達成するため、また、本発明は、電力系統の1相以上の交流信号f(t)の位相検出方法であって、iを任意の整数として以下のステップ(a)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする方法を提供する。すなわち、
(a)内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)=VR×sinθi(t)を生成するステップ
(b)前記交流信号f(t)と前記内部信号g(t)の差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出するステップ
(c)任意の整数をmとし、
1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、1/2×(2m+3)π<θi(t)≦1/2×(2m+5)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するか、
または、
1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、1/2×(2m+3)π<θi(t)≦1/2×(2m+5)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するステップ
(d)前記ΔV’(t)を前記交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出するステップ
(e)前記ΔV’’(t)を偏差とする、前記内部位相θi(t)のフィードバック制御に基づいて、前記内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を算出するステップ
(f)前記内部位相θi(t)と前記位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップ
この方法によれば、正弦(sin)関数の内部信号を生成し、交流信号と内部信号との差ΔV(t)を算出し、内部位相θi(t)が1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πを満たすのか満たさないのかで場合分けして、ΔV(t)からΔV’(t)を算出し、ΔV’(t)に関する移動平均値ΔV’’(t)を算出し、ΔV’’(t)を偏差とする内部信号のフィードバック制御によって内部位相の位相制御量Δθ(t)を算出し、内部位相としての位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップを、順次繰り返し実行するように構成した。
したがって、正弦(sin)関数の内部信号を生成し、交流信号と内部信号との差から内部位相に関する移動平均値を求めてフィードバック制御するだけの、簡単な計算処理を実行するだけで良く、簡単な演算装置で実現可能で、応答性に優れた、電力系統の1相以上の交流信号の位相検出を行うことができる。
【0015】
上記構成において、(a’)前記ステップ(a)の後、前記交流信号f(t)の実効値演算に基づいて、前記内部信号g(t)のVRを、前記交流信号f(t)の振幅に一致または近づけるように振幅VR’に変換して、変換された内部信号g(t)’=VR’×sinθi(t)を生成するステップ、をさらに含み、前記ステップ(b)を、前記交流信号f(t)と前記変換された内部信号g(t)’の差ΔV(t)=f(t)−g(t)’を算出するステップ(b’)とし、前記ステップ(a)、(a’)、(b’)、(c)〜(f)を繰り返し実行することが好ましい。
この方法によれば、正弦(sin)関数の内部信号を生成した後、交流信号の実効値演算に基づいて内部信号の振幅が交流信号の振幅に一致または近づくように振幅変換した内部信号を生成し、交流信号と振幅変換された内部信号との差ΔV(t)を算出し、内部位相θi(t)が1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πを満たすのか満たさないのかで場合分けして、ΔV(t)からΔV’(t)を算出し、ΔV’(t)に関する移動平均値ΔV’’(t)を算出し、ΔV’’(t)を偏差とする内部信号のフィードバック制御によって内部位相の位相制御量Δθ(t)を算出し、内部位相としての位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップを、順次繰り返し実行するように構成した。
したがって、上記と同様の効果が得られる上に、交流信号および内部信号の各振幅が互いに大きく異なる場合であっても、内部信号の振幅が交流信号の振幅に一致または近づくように、内部信号が振幅変換されるので、交流信号と内部信号との差を精度良く検出でき、交流信号の位相を高精度に検出できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電力系統の電圧等、予め周波数の範囲が判っている交流信号について、該交流信号と同一の位相であると仮定される位相で、交流信号の振幅と近い振幅の内部信号を生成し、交流信号と内部信号の差に関する移動平均値を算出し、移動平均値を偏差とするフィードバック制御によって内部信号の内部位相と交流信号の位相の誤差を修正し続けることにより交流信号の位相を算出するステップを、順次繰り返し実行するように構成した。
したがって、内部信号と交流信号の差を内部信号の内部位相に応じて場合分けして移動平均するだけの、簡単な計算処理を実行するだけで良く、低コストで応答性に優れた交流信号の位相検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施例による方法のフローチャートである。
【図2】本発明の第1実施例による方法のブロック図である。
【図3】内部信号の一例を示すグラフである。
【図4】本発明の第2実施例による方法のフローチャートである。
【図5】本発明の第2実施例による方法のブロック図である。
【図6】本発明の第3実施例による方法のフローチャートである。
【図7】本発明の第3実施例による方法のブロック図である。
【図8】本発明の第4実施例による方法のフローチャートである。
【図9】本発明の第5実施例による方法のフローチャートである。
【図10】シミュレーション結果を示すグラフである。
【図11】従来のゼロクロスポイント法を説明するための波形図である。
【図12】従来のdq変換法のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施例について図面を参照しながら説明する。
【0019】
(第1実施例)
図1は本発明の第1実施例による方法のフローチャートであり、図2は本発明の第1実施例による方法のブロック図である。
図1および図2に示すように、この実施例では、電力系統の電圧等、予め周波数の範囲が判っている1相以上の交流信号f(t)を、
【数1】
とし、内部信号g(t)を
【数2】
とし、交流信号f(t)の位相φ(t)を検出する。
なお、内部信号g(t)の振幅(実効値)は、交流信号f(t)と同一レベルであることが原則であるが、定格値±15%等の近接レベルでもよい。内部信号g(t)と交流信号f(t)の振幅差が倍、または半分程度であれば、本発明の位相検出が可能である。
【0020】
本発明によれば、内部信号発生器4を用いて、まず内部信号g(t)として、内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)を生成する(ステップ(a))。
【0021】
そして、減算器1を用いて、交流信号f(t)と内部信号g(t)との差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出する(ステップ(b))。
【0022】
次に、乗算器2を用いて、内部位相θi(t)が内部信号g(t)の負の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、内部位相θi(t)が内部信号g(t)の正の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出する(ステップ(c))。または、このステップ(c)において、内部位相θi(t)が内部信号g(t)の負の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、内部位相θi(t)が内部信号g(t)の正の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するようにしてもよい。
ここで、交流信号および内部信号は、一般的に、図3(A)、(B)に示されるような余弦波信号または正弦波信号であるが、例えば図3(C)、(D)に示されるような三角波信号、方形波信号であってもよい。
さらに、内部信号g(t)の負の傾きの区間、正の傾きの区間とは、それぞれ、図3(A)〜(D)の区間I、区間IIに示される区間を意味する。
【0023】
次に、ΔV’(t)を、
【数3】
によって、交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間(nTS)にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出する(ステップ(d))。
【0024】
次に、ΔV’’(t)を偏差とする、内部位相θi(t)の一般的なフィードバック制御(例えば、PI制御等)に基づいて、内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を、例えば、
【数4】
により算出する(ステップ(e))。
【0025】
その後、加算器3を用いて、内部位相θi(t)と位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出する(ステップ(f))。
そして、上述のステップ(a)〜(f)を順次繰り返し実行する。
この方法によって、時間tの経過とともに内部位相を位相φ(t)に徐々に一致させて、交流信号f(t)の位相φ(t)を検出することができる。
【0026】
(第2実施例)
図4は本発明の第2実施例による方法のフローチャートであり、図5は本発明の第2実施例による方法のブロック図である。第2実施例は、内部信号を余弦(cos)関数で生成している点のみが第1実施例と異なる。
図4および図5に示すように、この実施例では、電力系統の電圧等、予め周波数範囲の判っている1相以上の交流信号f(t)を、
【数5】
とし、内部信号g(t)を
【数6】
とし、交流信号f(t)の位相φ(t)を検出する。
【0027】
本発明によれば、余弦波信号発生器4’を用いて、まず内部信号g(t)として、g(t)=VR×cosθi(t)を生成する(ステップ(a))。
【0028】
そして、減算器1を用いて、交流信号f(t)と内部信号g(t)との差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出する(ステップ(b))。
【0029】
次に、任意の整数をmとし、乗算器2を用いて、2mπ<θi(t)≦(2m+1)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、(2m+1)π<θi(t)≦(2m+2)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出する(ステップ(c))。または、このステップ(c)において、2mπ<θi(t)≦(2m+1)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、(2m+1)π<θi(t)≦(2m+2)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するようにしてもよい。
【0030】
次に、ΔV’(t)を、
【数7】
によって、交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間(nTS)にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出する(ステップ(d))。
【0031】
次に、ΔV’’(t)を偏差とする、内部位相θi(t)の一般的なフィードバック制御(例えば、PI制御等)に基づいて、内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を、例えば、
【数8】
により算出する(ステップ(e))。
【0032】
その後、加算器3を用いて、内部位相θi(t)と位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出する(ステップ(f))。
そして、上述のステップ(a)〜(f)を順次繰り返し実行する。
この方法によって、時間tの経過とともに内部位相を位相φ(t)に徐々に一致させて、交流信号f(t)の位相φ(t)を検出することができる。
【0033】
(第3実施例)
図6は本発明の第3実施例による方法のフローチャートであり、図7は本発明の第3実施例による方法のブロック図である。第3実施例は、ステップ(a)の後にステップ(a’)を追加している点、ステップ(b)をステップ(b’)に置き換えている点のみが第2実施例と異なる。したがって、これらの点に関してのみ、簡単に説明する。
【0034】
図6および図7に示すように、ステップ(a)の後、交流信号f(t)の実効値演算に基づいて、内部信号g(t)のVRを、交流信号f(t)の振幅に一致または近づけるようにVR’に変換して、変換された内部信号g(t)’=VR’×cosθi(t)を生成する(ステップ(a’))。
具体的には、交流信号f(t)の実効値VS・rmsを、
【数9】
によって求め、内部信号g(t)のVRを、
【数10】
によってVR’に変換して、変換された内部信号g(t)’=VR’×cosθi(t)を生成することが好ましい。
【0035】
そして、ステップ(b)を、減算器1を用いて、交流信号f(t)と変換された内部信号g(t)’との差ΔV(t)=f(t)−g(t)’を算出するステップ(b’)とし、ステップ(a)、(a’)、(b’)、(c)〜(f)を繰り返し実行する。
この方法によって、時間tの経過とともに内部位相を位相φ(t)に徐々に一致させて、交流信号f(t)の位相φ(t)を検出することができる。
【0036】
(第4実施例)
図8は本発明の第4実施例による方法のフローチャートである。第4実施例は、内部信号g(t)を余弦(cos)関数でなく正弦(sin)関数としている点のみが第2実施例と異なる。したがって、この点に関してのみ、簡単に説明する。
この場合、ステップ(a)において、内部信号g(t)として、g(t)=VR×sinθi(t)を生成する。そして、ステップ(c)において、任意の整数をmとし、乗算器2を用いて、1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、1/2×(2m+3)π<θi(t)≦1/2×(2m+5)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するか、または、1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、1/2×(2m+3)π<θi(t)≦1/2×(2m+5)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出する。したがって、第4実施例においても上記第1実施例〜第3実施例と同様の効果が得られる。
【0037】
(第5実施例)
図9は本発明の第5実施例による方法のフローチャートである。第5実施例は、内部電圧g(t)を余弦(cos)関数でなく正弦(sin)関数としている点のみが第3実施例と異なる。したがって、第5実施例においても上記第1実施例〜第4実施例と同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0038】
(シミュレーション結果)
本発明の効果を調べるために、第3実施例による方法を用いて、交流信号および内部信号を電圧信号とした場合のシミュレーションを行った。
【0039】
このシミュレーションでは、任意の時刻をt=0.000125×n[sec](nは正整数)とし、上記(5)式においてVS=1.1[V]、TS=1/60[sec]、fS=60[Hz]と設定し、上記(6)式においてVR=1[V]と設定し、上記(7)式においてn=1と設定した。
そして、時刻t=0.075[sec]までは、内部電圧g(t)を交流電圧f(t)に同期させ、時刻t=0.075[sec]において、交流電圧f(t)の位相を半周期だけ変化させて、その後時刻t=0.15[sec](n=1200)まで、交流電圧f(t)の位相の検出状態を調べた。
【0040】
図10は、シミュレーション結果を示すグラフである。
図10(A)のグラフ中、横軸は時刻t[sec]、縦軸は電圧[V]、実線で示した曲線は交流電圧f(t)、点線で示した曲線は内部電圧g(t)=cosθ(t)をそれぞれ表している。
図10(B)のグラフ中、横軸は時刻t[sec]、縦軸は電圧[V]、2点鎖線で示した曲線はVS・rms、実線で示した曲線はVR、点線で示した曲線はVR’をそれぞれ表している。
図10(C)のグラフ中、横軸は時刻t[sec]、縦軸は電圧差の大きさ[V]、太い実線で示した曲線はΔV(t)、細い実線で示した曲線はΔV(t)’、点線で示した曲線はΔV(t)’’をそれぞれ表している。
図10(D)のグラフ中、横軸は時刻t[sec]、縦軸は位相の大きさ[p.u]、実線で示した曲線はΔθ(t)、点線で示した曲線はθ(t)をそれぞれ表している。
【0041】
図10に示すように、時刻t=0.075[sec]の直後においては、内部電圧cosθ(t)が交流電圧f(t)よりも半周期位相がずれ、その結果、ΔV(t)、ΔV(t)’、ΔV(t)’’が大きく変動する。
しかしながら、その後、本発明の方法によって、ΔV’’(t)を偏差とする内部位相θi(t)のフィードバック制御に基づいて位相制御量Δθ(t)を算出し、内部位相θi(t)を変化させて交流電圧f(t)の位相と一致させることによって、交流電圧f(t)の位相を検出できていることが分かる。
なお、時刻t=0.105[sec]付近で、内部電圧g(t)は交流電圧f(t)にすでに同期しており、応答性が良いことも分かる。
【0042】
本発明によれば、電力系統の電圧等、予め周波数の範囲が判っている交流信号について、該交流信号と同一の位相であると仮定される位相で、交流信号の振幅と近い振幅の内部信号を生成し、交流信号と内部信号の差に関する移動平均値を算出し、移動平均値を偏差とするフィードバック制御によって内部信号の内部位相と交流信号の位相の誤差を修正し続けることにより交流信号の位相を算出するステップを、順次繰り返し実行するだけの構成とした。したがって、内部信号と交流信号の差を内部信号の内部位相に応じて場合分けして移動平均するだけの、簡単な計算処理を実行するだけで良く、低コストで応答性に優れた交流信号の位相検出を行うことができる。
また、本発明によれば、演算が比較的少なく、演算能力の小さい演算装置ですみ、コストダウンを図ることができる。
なお、上記演算システムは、ソフトウェアで構成しているが、ハードウェア/ソフトウェアのいずれか、または両者を適宜組み合わせて構成することができる。
また、交流信号に含まれるノイズを移動平均演算にて除去すると同時に、移動平均処理の積分時間を交流信号の整数倍とすることにより、高調波を効果的に除去することができ、ローパスフィルタ等のフィルタを不要とすることもできる。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明の構成はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0044】
例えば、交流信号f(t)は、予め周波数の範囲が判っているものであれば、電圧信号、電流信号またはその他の関連信号であってもよい。
また、本発明に係る方法を多相の電力系統の各相の交流信号に適用することもできる。
さらに、本発明に係る方法の基本原理を上記(1)式〜(10)式に示すような形でアナログ的に説明したが、コンピュータ等によるデジタル演算を利用しても本発明に係る方法を実現できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、簡単なハードウェアで実現可能で、応答性に優れた、交流信号の位相検出を行うことができる点で極めて有用であり、電力系統の系統連係を行う瞬時電圧低下補償装置、太陽光発電システムのパワーコンディショナー(パワコン)、太陽光・蓄電池付き電気自動車充電器等において、産業上の利用可能性がある。
例えば、瞬時電圧低下発生時にインバータとして動作する瞬時電圧低下補償装置において、本発明の方法を用いて、電力系統の交流信号の位相と、当該補償装置のインバータ出力の位相を同期させることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 減算器
2 乗算器
3 加算器
4 内部信号発生器
4’ 余弦信号発生器
5 乗算器
11 dq変換回路
12 演算回路
13 正弦波信号発生器
14 余弦波信号発生器
15 フィードバック制御回路
16 VCO(電圧制御発振回路)
17 カウンタ
【技術分野】
【0001】
本発明は電力系統の電圧等、予め周波数の範囲が判っている1相以上の交流信号の位相検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電力系統の1相(単相)の交流信号の位相検出方法として、ゼロクロスポイント検出法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
図11は、このゼロクロスポイント法を説明するための波形図である。
図11の方法によれば、(A)および(B)に示すように、電力系統の交流信号および内部信号として電圧信号が用いられ、(C)〜(E)に示すように、まず、各ゼロクロス検出器で検出した交流電圧および内部電圧の各ゼロクロスポイントの時間差から位相差を検出する。
そして、(F)に示すように、位相差をゼロにするように、内部電圧の内部位相をフィードバック制御して、交流電圧の位相を検出する。
【0004】
しかしながら、この方法では、上記交流電圧にノイズや波形歪みがあると誤差を生じやすく、誤差を軽減するためには適切に設計したローパスフィルタ等のフィルタが必要になる。
また、この方法では、フィードバック制御を交流電圧のゼロクロスポイント毎に行うが、ゼロクロスポイント間には交流電圧の半周期分または一周期分の時間差があるため、交流電圧の急峻な変化に対する応答性が悪いという問題があった。
【0005】
そして、このような問題を解消するために、交流電圧をdq変換することによって、位相を検出する方法が提案されている(例えば、特許文献1の図2参照)。
【0006】
図12は、このdq変換法のブロック図である。
図12の方法によれば、まず、3相の交流電圧vU、vV、vWが、dq変換回路11に入力されて、互いに直交する出力信号V1α、V1βに変換される。その後、dq変換回路11の出力信号V1α、V1βと、正弦波信号発生器13および余弦波信号発生器14の各出力信号(フィードバック信号)V2α、V2βとが、演算回路12に入力される。
演算回路12は、これらの出力信号V1α、V1β、V2α、V2βに基づいて所定の演算を行うことにより、位相差Δθを出力する。演算回路12によって出力された位相差Δθは、フィードバック制御回路15を介して、VCO(電圧制御発振回路)16に入力される。
そして、VCO16は、フィードバック制御回路15によってフィードバック制御された所定周波数のパルス信号を出力する。
このパルス信号は、カウンタ17で計数されて、位相θとして検出されるとともに、正弦波信号発生器13および余弦波信号発生器14に入力されて疑似2相に変換される。
このように、演算回路12によって出力された位相差Δθは、フィードバック制御回路15、VCO16、カウンタ17、正弦波信号発生器13および余弦波信号発生器14によって、当該位相差Δθがゼロになるようにフィードバック制御される。このようにして、3相交流の交流信号の各相の瞬時値から、その時々の位相を得ることができる。
【0007】
この方法によれば、ゼロクロス検出器が不要になり、応答性も改善されるが、高い演算性能を持つ演算装置が必要であるため、結果としてコストアップにつながっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】パワーエレクトロニクス機器の制御技術調査専門委員会著「パワーエレクトロニクス機器の制御技術」、電気学会技術報告第1084号、15頁、図3.30
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許3776275号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、簡単なハードウェアで実現可能であり、応答性に優れた、1相以上の交流信号の位相検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、本発明は、電力系統の1相以上の交流信号f(t)の位相検出方法であって、iを任意の整数として以下のステップ(a)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする方法を提供する。すなわち、
(a)内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)を生成するステップ
(b)前記交流信号f(t)と前記内部信号g(t)の差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出するステップ
(c)前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の負の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の正の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するか、
または、
前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の負の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の正の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するステップ
(d)前記ΔV’(t)を前記交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出するステップ
(e)前記ΔV’’(t)を偏差とする、前記内部位相θi(t)のフィードバック制御に基づいて、前記内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を算出するステップ
(f)前記内部位相θi(t)と前記位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップ
この方法によれば、内部信号を生成し、交流信号と内部信号との差ΔV(t)を算出し、内部位相θi(t)が内部信号g(t)の傾きが正の区間内にあるのか負の区間内にあるのかで場合分けして、ΔV(t)からΔV’(t)を算出し、ΔV’(t)に関する移動平均値ΔV’’(t)を算出し、ΔV’’(t)を偏差とする内部信号のフィードバック制御によって内部位相の位相制御量Δθ(t)を算出し、内部位相としての位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップを、順次繰り返し実行するように構成した。
したがって、内部信号を生成し、交流信号と内部信号との差から内部位相に関する移動平均値を求めてフィードバック制御するだけの、簡単な計算処理を実行するだけで良く、簡単な演算装置で実現可能で、応答性に優れた、電力系統の1相以上の交流信号の位相検出を行うことができる。
【0012】
上記目的を達成するため、また、本発明は、電力系統の1相以上の交流信号f(t)の位相検出方法であって、iを任意の整数として以下のステップ(a)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする方法を提供する。すなわち、
(a)内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)=VR×cosθi(t)を生成するステップ
(b)前記交流信号f(t)と前記内部信号g(t)の差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出するステップ
(c)任意の整数をmとし、
2mπ<θi(t)≦(2m+1)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、(2m+1)π<θi(t)≦(2m+2)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するか、
または、
2mπ<θi(t)≦(2m+1)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、(2m+1)π<θi(t)≦(2m+2)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するステップ
(d)前記ΔV’(t)を前記交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出するステップ
(e)前記ΔV’’(t)を偏差とする、前記内部位相θi(t)のフィードバック制御に基づいて、前記内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を算出するステップ
(f)前記内部位相θi(t)と前記位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップ
この方法によれば、余弦(cos)関数の内部信号を生成し、交流信号と内部信号との差ΔV(t)を算出し、内部位相θi(t)が2mπ<θi(t)≦(2m+1)πを満たすのか満たさないのかで場合分けして、ΔV(t)からΔV’(t)を算出し、ΔV’(t)に関する移動平均値ΔV’’(t)を算出し、ΔV’’(t)を偏差とする内部信号のフィードバック制御によって内部位相の位相制御量Δθ(t)を算出し、内部位相としての位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップを、順次繰り返し実行するように構成した。
したがって、余弦(cos)関数の内部信号を生成し、交流信号と内部信号との差から内部位相に関する移動平均値を求めてフィードバック制御するだけの、簡単な計算処理を実行するだけで良く、簡単な演算装置で実現可能で、応答性に優れた、電力系統の1相以上の交流信号の位相検出を行うことができる。
【0013】
上記構成において、(a’)前記ステップ(a)の後、前記交流信号f(t)の実効値演算に基づいて、前記内部信号g(t)のVRを、前記交流信号f(t)の振幅に一致または近づけるように振幅VR’に変換して、変換された内部信号g(t)’=VR’×cosθi(t)を生成するステップ、をさらに含み、前記ステップ(b)を、前記交流信号f(t)と前記変換された内部信号g(t)’の差ΔV(t)=f(t)−g(t)’を算出するステップ(b’)とし、前記ステップ(a)、(a’)、(b’)、(c)〜(f)を繰り返し実行することが好ましい。
この方法によれば、余弦(cos)関数の内部信号を生成した後、交流信号の実効値演算に基づいて内部信号の振幅が交流信号の振幅に一致または近づくように振幅変換した内部信号を生成し、交流信号と振幅変換された内部信号との差ΔV(t)を算出し、内部位相θi(t)が2mπ<θi(t)≦(2m+1)πを満たすのか満たさないのかで場合分けして、ΔV(t)からΔV’(t)を算出し、ΔV’(t)に関する移動平均値ΔV’’(t)を算出し、ΔV’’(t)を偏差とする内部信号のフィードバック制御によって内部位相の位相制御量Δθ(t)を算出し、内部位相としての位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップを、順次繰り返し実行するように構成した。
したがって、上記と同様の効果が得られる上に、交流信号および内部信号の各振幅が互いに大きく異なる場合であっても、内部信号の振幅が交流信号の振幅に一致または近づくように、内部信号が振幅変換されるので、交流信号と内部信号との差を精度良く検出でき、交流信号の位相を高精度に検出できる。
【0014】
上記目的を達成するため、また、本発明は、電力系統の1相以上の交流信号f(t)の位相検出方法であって、iを任意の整数として以下のステップ(a)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする方法を提供する。すなわち、
(a)内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)=VR×sinθi(t)を生成するステップ
(b)前記交流信号f(t)と前記内部信号g(t)の差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出するステップ
(c)任意の整数をmとし、
1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、1/2×(2m+3)π<θi(t)≦1/2×(2m+5)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するか、
または、
1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、1/2×(2m+3)π<θi(t)≦1/2×(2m+5)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するステップ
(d)前記ΔV’(t)を前記交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出するステップ
(e)前記ΔV’’(t)を偏差とする、前記内部位相θi(t)のフィードバック制御に基づいて、前記内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を算出するステップ
(f)前記内部位相θi(t)と前記位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップ
この方法によれば、正弦(sin)関数の内部信号を生成し、交流信号と内部信号との差ΔV(t)を算出し、内部位相θi(t)が1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πを満たすのか満たさないのかで場合分けして、ΔV(t)からΔV’(t)を算出し、ΔV’(t)に関する移動平均値ΔV’’(t)を算出し、ΔV’’(t)を偏差とする内部信号のフィードバック制御によって内部位相の位相制御量Δθ(t)を算出し、内部位相としての位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップを、順次繰り返し実行するように構成した。
したがって、正弦(sin)関数の内部信号を生成し、交流信号と内部信号との差から内部位相に関する移動平均値を求めてフィードバック制御するだけの、簡単な計算処理を実行するだけで良く、簡単な演算装置で実現可能で、応答性に優れた、電力系統の1相以上の交流信号の位相検出を行うことができる。
【0015】
上記構成において、(a’)前記ステップ(a)の後、前記交流信号f(t)の実効値演算に基づいて、前記内部信号g(t)のVRを、前記交流信号f(t)の振幅に一致または近づけるように振幅VR’に変換して、変換された内部信号g(t)’=VR’×sinθi(t)を生成するステップ、をさらに含み、前記ステップ(b)を、前記交流信号f(t)と前記変換された内部信号g(t)’の差ΔV(t)=f(t)−g(t)’を算出するステップ(b’)とし、前記ステップ(a)、(a’)、(b’)、(c)〜(f)を繰り返し実行することが好ましい。
この方法によれば、正弦(sin)関数の内部信号を生成した後、交流信号の実効値演算に基づいて内部信号の振幅が交流信号の振幅に一致または近づくように振幅変換した内部信号を生成し、交流信号と振幅変換された内部信号との差ΔV(t)を算出し、内部位相θi(t)が1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πを満たすのか満たさないのかで場合分けして、ΔV(t)からΔV’(t)を算出し、ΔV’(t)に関する移動平均値ΔV’’(t)を算出し、ΔV’’(t)を偏差とする内部信号のフィードバック制御によって内部位相の位相制御量Δθ(t)を算出し、内部位相としての位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップを、順次繰り返し実行するように構成した。
したがって、上記と同様の効果が得られる上に、交流信号および内部信号の各振幅が互いに大きく異なる場合であっても、内部信号の振幅が交流信号の振幅に一致または近づくように、内部信号が振幅変換されるので、交流信号と内部信号との差を精度良く検出でき、交流信号の位相を高精度に検出できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電力系統の電圧等、予め周波数の範囲が判っている交流信号について、該交流信号と同一の位相であると仮定される位相で、交流信号の振幅と近い振幅の内部信号を生成し、交流信号と内部信号の差に関する移動平均値を算出し、移動平均値を偏差とするフィードバック制御によって内部信号の内部位相と交流信号の位相の誤差を修正し続けることにより交流信号の位相を算出するステップを、順次繰り返し実行するように構成した。
したがって、内部信号と交流信号の差を内部信号の内部位相に応じて場合分けして移動平均するだけの、簡単な計算処理を実行するだけで良く、低コストで応答性に優れた交流信号の位相検出を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施例による方法のフローチャートである。
【図2】本発明の第1実施例による方法のブロック図である。
【図3】内部信号の一例を示すグラフである。
【図4】本発明の第2実施例による方法のフローチャートである。
【図5】本発明の第2実施例による方法のブロック図である。
【図6】本発明の第3実施例による方法のフローチャートである。
【図7】本発明の第3実施例による方法のブロック図である。
【図8】本発明の第4実施例による方法のフローチャートである。
【図9】本発明の第5実施例による方法のフローチャートである。
【図10】シミュレーション結果を示すグラフである。
【図11】従来のゼロクロスポイント法を説明するための波形図である。
【図12】従来のdq変換法のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施例について図面を参照しながら説明する。
【0019】
(第1実施例)
図1は本発明の第1実施例による方法のフローチャートであり、図2は本発明の第1実施例による方法のブロック図である。
図1および図2に示すように、この実施例では、電力系統の電圧等、予め周波数の範囲が判っている1相以上の交流信号f(t)を、
【数1】
とし、内部信号g(t)を
【数2】
とし、交流信号f(t)の位相φ(t)を検出する。
なお、内部信号g(t)の振幅(実効値)は、交流信号f(t)と同一レベルであることが原則であるが、定格値±15%等の近接レベルでもよい。内部信号g(t)と交流信号f(t)の振幅差が倍、または半分程度であれば、本発明の位相検出が可能である。
【0020】
本発明によれば、内部信号発生器4を用いて、まず内部信号g(t)として、内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)を生成する(ステップ(a))。
【0021】
そして、減算器1を用いて、交流信号f(t)と内部信号g(t)との差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出する(ステップ(b))。
【0022】
次に、乗算器2を用いて、内部位相θi(t)が内部信号g(t)の負の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、内部位相θi(t)が内部信号g(t)の正の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出する(ステップ(c))。または、このステップ(c)において、内部位相θi(t)が内部信号g(t)の負の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、内部位相θi(t)が内部信号g(t)の正の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するようにしてもよい。
ここで、交流信号および内部信号は、一般的に、図3(A)、(B)に示されるような余弦波信号または正弦波信号であるが、例えば図3(C)、(D)に示されるような三角波信号、方形波信号であってもよい。
さらに、内部信号g(t)の負の傾きの区間、正の傾きの区間とは、それぞれ、図3(A)〜(D)の区間I、区間IIに示される区間を意味する。
【0023】
次に、ΔV’(t)を、
【数3】
によって、交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間(nTS)にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出する(ステップ(d))。
【0024】
次に、ΔV’’(t)を偏差とする、内部位相θi(t)の一般的なフィードバック制御(例えば、PI制御等)に基づいて、内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を、例えば、
【数4】
により算出する(ステップ(e))。
【0025】
その後、加算器3を用いて、内部位相θi(t)と位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出する(ステップ(f))。
そして、上述のステップ(a)〜(f)を順次繰り返し実行する。
この方法によって、時間tの経過とともに内部位相を位相φ(t)に徐々に一致させて、交流信号f(t)の位相φ(t)を検出することができる。
【0026】
(第2実施例)
図4は本発明の第2実施例による方法のフローチャートであり、図5は本発明の第2実施例による方法のブロック図である。第2実施例は、内部信号を余弦(cos)関数で生成している点のみが第1実施例と異なる。
図4および図5に示すように、この実施例では、電力系統の電圧等、予め周波数範囲の判っている1相以上の交流信号f(t)を、
【数5】
とし、内部信号g(t)を
【数6】
とし、交流信号f(t)の位相φ(t)を検出する。
【0027】
本発明によれば、余弦波信号発生器4’を用いて、まず内部信号g(t)として、g(t)=VR×cosθi(t)を生成する(ステップ(a))。
【0028】
そして、減算器1を用いて、交流信号f(t)と内部信号g(t)との差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出する(ステップ(b))。
【0029】
次に、任意の整数をmとし、乗算器2を用いて、2mπ<θi(t)≦(2m+1)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、(2m+1)π<θi(t)≦(2m+2)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出する(ステップ(c))。または、このステップ(c)において、2mπ<θi(t)≦(2m+1)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、(2m+1)π<θi(t)≦(2m+2)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するようにしてもよい。
【0030】
次に、ΔV’(t)を、
【数7】
によって、交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間(nTS)にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出する(ステップ(d))。
【0031】
次に、ΔV’’(t)を偏差とする、内部位相θi(t)の一般的なフィードバック制御(例えば、PI制御等)に基づいて、内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を、例えば、
【数8】
により算出する(ステップ(e))。
【0032】
その後、加算器3を用いて、内部位相θi(t)と位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出する(ステップ(f))。
そして、上述のステップ(a)〜(f)を順次繰り返し実行する。
この方法によって、時間tの経過とともに内部位相を位相φ(t)に徐々に一致させて、交流信号f(t)の位相φ(t)を検出することができる。
【0033】
(第3実施例)
図6は本発明の第3実施例による方法のフローチャートであり、図7は本発明の第3実施例による方法のブロック図である。第3実施例は、ステップ(a)の後にステップ(a’)を追加している点、ステップ(b)をステップ(b’)に置き換えている点のみが第2実施例と異なる。したがって、これらの点に関してのみ、簡単に説明する。
【0034】
図6および図7に示すように、ステップ(a)の後、交流信号f(t)の実効値演算に基づいて、内部信号g(t)のVRを、交流信号f(t)の振幅に一致または近づけるようにVR’に変換して、変換された内部信号g(t)’=VR’×cosθi(t)を生成する(ステップ(a’))。
具体的には、交流信号f(t)の実効値VS・rmsを、
【数9】
によって求め、内部信号g(t)のVRを、
【数10】
によってVR’に変換して、変換された内部信号g(t)’=VR’×cosθi(t)を生成することが好ましい。
【0035】
そして、ステップ(b)を、減算器1を用いて、交流信号f(t)と変換された内部信号g(t)’との差ΔV(t)=f(t)−g(t)’を算出するステップ(b’)とし、ステップ(a)、(a’)、(b’)、(c)〜(f)を繰り返し実行する。
この方法によって、時間tの経過とともに内部位相を位相φ(t)に徐々に一致させて、交流信号f(t)の位相φ(t)を検出することができる。
【0036】
(第4実施例)
図8は本発明の第4実施例による方法のフローチャートである。第4実施例は、内部信号g(t)を余弦(cos)関数でなく正弦(sin)関数としている点のみが第2実施例と異なる。したがって、この点に関してのみ、簡単に説明する。
この場合、ステップ(a)において、内部信号g(t)として、g(t)=VR×sinθi(t)を生成する。そして、ステップ(c)において、任意の整数をmとし、乗算器2を用いて、1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、1/2×(2m+3)π<θi(t)≦1/2×(2m+5)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するか、または、1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、1/2×(2m+3)π<θi(t)≦1/2×(2m+5)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出する。したがって、第4実施例においても上記第1実施例〜第3実施例と同様の効果が得られる。
【0037】
(第5実施例)
図9は本発明の第5実施例による方法のフローチャートである。第5実施例は、内部電圧g(t)を余弦(cos)関数でなく正弦(sin)関数としている点のみが第3実施例と異なる。したがって、第5実施例においても上記第1実施例〜第4実施例と同様の効果が得られることは言うまでもない。
【0038】
(シミュレーション結果)
本発明の効果を調べるために、第3実施例による方法を用いて、交流信号および内部信号を電圧信号とした場合のシミュレーションを行った。
【0039】
このシミュレーションでは、任意の時刻をt=0.000125×n[sec](nは正整数)とし、上記(5)式においてVS=1.1[V]、TS=1/60[sec]、fS=60[Hz]と設定し、上記(6)式においてVR=1[V]と設定し、上記(7)式においてn=1と設定した。
そして、時刻t=0.075[sec]までは、内部電圧g(t)を交流電圧f(t)に同期させ、時刻t=0.075[sec]において、交流電圧f(t)の位相を半周期だけ変化させて、その後時刻t=0.15[sec](n=1200)まで、交流電圧f(t)の位相の検出状態を調べた。
【0040】
図10は、シミュレーション結果を示すグラフである。
図10(A)のグラフ中、横軸は時刻t[sec]、縦軸は電圧[V]、実線で示した曲線は交流電圧f(t)、点線で示した曲線は内部電圧g(t)=cosθ(t)をそれぞれ表している。
図10(B)のグラフ中、横軸は時刻t[sec]、縦軸は電圧[V]、2点鎖線で示した曲線はVS・rms、実線で示した曲線はVR、点線で示した曲線はVR’をそれぞれ表している。
図10(C)のグラフ中、横軸は時刻t[sec]、縦軸は電圧差の大きさ[V]、太い実線で示した曲線はΔV(t)、細い実線で示した曲線はΔV(t)’、点線で示した曲線はΔV(t)’’をそれぞれ表している。
図10(D)のグラフ中、横軸は時刻t[sec]、縦軸は位相の大きさ[p.u]、実線で示した曲線はΔθ(t)、点線で示した曲線はθ(t)をそれぞれ表している。
【0041】
図10に示すように、時刻t=0.075[sec]の直後においては、内部電圧cosθ(t)が交流電圧f(t)よりも半周期位相がずれ、その結果、ΔV(t)、ΔV(t)’、ΔV(t)’’が大きく変動する。
しかしながら、その後、本発明の方法によって、ΔV’’(t)を偏差とする内部位相θi(t)のフィードバック制御に基づいて位相制御量Δθ(t)を算出し、内部位相θi(t)を変化させて交流電圧f(t)の位相と一致させることによって、交流電圧f(t)の位相を検出できていることが分かる。
なお、時刻t=0.105[sec]付近で、内部電圧g(t)は交流電圧f(t)にすでに同期しており、応答性が良いことも分かる。
【0042】
本発明によれば、電力系統の電圧等、予め周波数の範囲が判っている交流信号について、該交流信号と同一の位相であると仮定される位相で、交流信号の振幅と近い振幅の内部信号を生成し、交流信号と内部信号の差に関する移動平均値を算出し、移動平均値を偏差とするフィードバック制御によって内部信号の内部位相と交流信号の位相の誤差を修正し続けることにより交流信号の位相を算出するステップを、順次繰り返し実行するだけの構成とした。したがって、内部信号と交流信号の差を内部信号の内部位相に応じて場合分けして移動平均するだけの、簡単な計算処理を実行するだけで良く、低コストで応答性に優れた交流信号の位相検出を行うことができる。
また、本発明によれば、演算が比較的少なく、演算能力の小さい演算装置ですみ、コストダウンを図ることができる。
なお、上記演算システムは、ソフトウェアで構成しているが、ハードウェア/ソフトウェアのいずれか、または両者を適宜組み合わせて構成することができる。
また、交流信号に含まれるノイズを移動平均演算にて除去すると同時に、移動平均処理の積分時間を交流信号の整数倍とすることにより、高調波を効果的に除去することができ、ローパスフィルタ等のフィルタを不要とすることもできる。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明の構成はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0044】
例えば、交流信号f(t)は、予め周波数の範囲が判っているものであれば、電圧信号、電流信号またはその他の関連信号であってもよい。
また、本発明に係る方法を多相の電力系統の各相の交流信号に適用することもできる。
さらに、本発明に係る方法の基本原理を上記(1)式〜(10)式に示すような形でアナログ的に説明したが、コンピュータ等によるデジタル演算を利用しても本発明に係る方法を実現できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、簡単なハードウェアで実現可能で、応答性に優れた、交流信号の位相検出を行うことができる点で極めて有用であり、電力系統の系統連係を行う瞬時電圧低下補償装置、太陽光発電システムのパワーコンディショナー(パワコン)、太陽光・蓄電池付き電気自動車充電器等において、産業上の利用可能性がある。
例えば、瞬時電圧低下発生時にインバータとして動作する瞬時電圧低下補償装置において、本発明の方法を用いて、電力系統の交流信号の位相と、当該補償装置のインバータ出力の位相を同期させることができる。
【符号の説明】
【0046】
1 減算器
2 乗算器
3 加算器
4 内部信号発生器
4’ 余弦信号発生器
5 乗算器
11 dq変換回路
12 演算回路
13 正弦波信号発生器
14 余弦波信号発生器
15 フィードバック制御回路
16 VCO(電圧制御発振回路)
17 カウンタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統の1相以上の交流信号f(t)の位相検出方法であって、iを任意の整数として以下のステップ(a)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする位相検出方法。
(a)内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)を生成するステップ
(b)前記交流信号f(t)と前記内部信号g(t)の差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出するステップ
(c)前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の負の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の正の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するか、
または、
前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の負の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の正の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するステップ
(d)前記ΔV’(t)を前記交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出するステップ
(e)前記ΔV’’(t)を偏差とする、前記内部位相θi(t)のフィードバック制御に基づいて、前記内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を算出するステップ
(f)前記内部位相θi(t)と前記位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップ
【請求項2】
電力系統の1相以上の交流信号f(t)の位相検出方法であって、iを任意の整数として以下のステップ(a)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする位相検出方法。
(a)内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)=VR×cosθi(t)を生成するステップ
(b)前記交流信号f(t)と前記内部信号g(t)の差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出するステップ
(c)任意の整数をmとし、
2mπ<θi(t)≦(2m+1)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、(2m+1)π<θi(t)≦(2m+2)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するか、
または、
2mπ<θi(t)≦(2m+1)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、(2m+1)π<θi(t)≦(2m+2)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するステップ
(d)前記ΔV’(t)を前記交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出するステップ
(e)前記ΔV’’(t)を偏差とする、前記内部位相θi(t)のフィードバック制御に基づいて、前記内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を算出するステップ
(f)前記内部位相θi(t)と前記位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップ
【請求項3】
(a’)前記ステップ(a)の後、前記交流信号f(t)の実効値演算に基づいて、前記内部信号g(t)のVRを、前記交流信号f(t)の振幅に一致または近づけるように振幅VR’に変換して、変換された内部信号g(t)’=VR’×cosθi(t)を生成するステップ、をさらに含み、
前記ステップ(b)を、
(b’)前記交流信号f(t)と前記変換された内部信号g(t)’の差ΔV(t)=f(t)−g(t)’を算出するステップ、とし、
前記ステップ(a)、(a’)、(b’)、(c)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする請求項2に記載の位相検出方法。
【請求項4】
電力系統の1相以上の交流信号f(t)の位相検出方法であって、iを任意の整数として以下のステップ(a)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする位相検出方法。
(a)内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)=VR×sinθi(t)を生成するステップ
(b)前記交流信号f(t)と前記内部信号g(t)の差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出するステップ
(c)任意の整数をmとし、
1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、1/2×(2m+3)π<θi(t)≦1/2×(2m+5)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するか、
または、
1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、1/2×(2m+3)π<θi(t)≦1/2×(2m+5)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するステップ
(d)前記ΔV’(t)を前記交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出するステップ
(e)前記ΔV’’(t)を偏差とする、前記内部位相θi(t)のフィードバック制御に基づいて、前記内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を算出するステップ
(f)前記内部位相θi(t)と前記位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップ
【請求項5】
(a’)前記ステップ(a)の後、前記交流信号f(t)の実効値演算に基づいて、前記内部信号g(t)のVRを、前記交流信号f(t)の振幅に一致または近づけるように振幅VR’に変換して、変換された内部信号g(t)’=VR’×sinθi(t)を生成するステップ、をさらに含み、
前記ステップ(b)を、
(b’)前記交流信号f(t)と前記変換された内部信号g(t)’の差ΔV(t)=f(t)−g(t)’を算出するステップ(b’)、とし、
前記ステップ(a)、(a’)、(b’)、(c)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする請求項4に記載の位相検出方法。
【請求項1】
電力系統の1相以上の交流信号f(t)の位相検出方法であって、iを任意の整数として以下のステップ(a)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする位相検出方法。
(a)内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)を生成するステップ
(b)前記交流信号f(t)と前記内部信号g(t)の差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出するステップ
(c)前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の負の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の正の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するか、
または、
前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の負の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、前記内部位相θi(t)が前記内部信号g(t)の正の傾きの区間内にあるとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するステップ
(d)前記ΔV’(t)を前記交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出するステップ
(e)前記ΔV’’(t)を偏差とする、前記内部位相θi(t)のフィードバック制御に基づいて、前記内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を算出するステップ
(f)前記内部位相θi(t)と前記位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップ
【請求項2】
電力系統の1相以上の交流信号f(t)の位相検出方法であって、iを任意の整数として以下のステップ(a)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする位相検出方法。
(a)内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)=VR×cosθi(t)を生成するステップ
(b)前記交流信号f(t)と前記内部信号g(t)の差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出するステップ
(c)任意の整数をmとし、
2mπ<θi(t)≦(2m+1)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、(2m+1)π<θi(t)≦(2m+2)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するか、
または、
2mπ<θi(t)≦(2m+1)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、(2m+1)π<θi(t)≦(2m+2)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するステップ
(d)前記ΔV’(t)を前記交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出するステップ
(e)前記ΔV’’(t)を偏差とする、前記内部位相θi(t)のフィードバック制御に基づいて、前記内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を算出するステップ
(f)前記内部位相θi(t)と前記位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップ
【請求項3】
(a’)前記ステップ(a)の後、前記交流信号f(t)の実効値演算に基づいて、前記内部信号g(t)のVRを、前記交流信号f(t)の振幅に一致または近づけるように振幅VR’に変換して、変換された内部信号g(t)’=VR’×cosθi(t)を生成するステップ、をさらに含み、
前記ステップ(b)を、
(b’)前記交流信号f(t)と前記変換された内部信号g(t)’の差ΔV(t)=f(t)−g(t)’を算出するステップ、とし、
前記ステップ(a)、(a’)、(b’)、(c)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする請求項2に記載の位相検出方法。
【請求項4】
電力系統の1相以上の交流信号f(t)の位相検出方法であって、iを任意の整数として以下のステップ(a)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする位相検出方法。
(a)内部位相θi(t)を有する内部信号g(t)=VR×sinθi(t)を生成するステップ
(b)前記交流信号f(t)と前記内部信号g(t)の差ΔV(t)=f(t)−g(t)を算出するステップ
(c)任意の整数をmとし、
1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、1/2×(2m+3)π<θi(t)≦1/2×(2m+5)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するか、
または、
1/2×(2m+1)π<θi(t)≦1/2×(2m+3)πのとき、式ΔV’(t)=−ΔV(t)によってΔV’(t)を算出し、1/2×(2m+3)π<θi(t)≦1/2×(2m+5)πのとき、式ΔV’(t)=ΔV(t)によってΔV’(t)を算出するステップ
(d)前記ΔV’(t)を前記交流信号f(t)の周期の正整数倍の時間にわたって移動平均して、移動平均値ΔV’’(t)を算出するステップ
(e)前記ΔV’’(t)を偏差とする、前記内部位相θi(t)のフィードバック制御に基づいて、前記内部位相θi(t)の位相制御量Δθ(t)を算出するステップ
(f)前記内部位相θi(t)と前記位相制御量Δθ(t)の位相和θi+1(t)=θi(t)+Δθ(t)を算出するステップ
【請求項5】
(a’)前記ステップ(a)の後、前記交流信号f(t)の実効値演算に基づいて、前記内部信号g(t)のVRを、前記交流信号f(t)の振幅に一致または近づけるように振幅VR’に変換して、変換された内部信号g(t)’=VR’×sinθi(t)を生成するステップ、をさらに含み、
前記ステップ(b)を、
(b’)前記交流信号f(t)と前記変換された内部信号g(t)’の差ΔV(t)=f(t)−g(t)’を算出するステップ(b’)、とし、
前記ステップ(a)、(a’)、(b’)、(c)〜(f)を繰り返し実行することを特徴とする請求項4に記載の位相検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−247852(P2011−247852A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−124231(P2010−124231)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】
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