説明

人工授精用培地及び同人工授精用培地を用いた人工授精方法

【課題】人工授精の授精率を向上させるための培地、および効率的な人工受精方法の提供。
【解決手段】甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地、および該培地を用いて卵子と精子とを授精人工授精方法。さらに、甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地を用いて精子を培養し、培養した精子を前記甘草エキス水溶液とともに卵子を培養した人工授精用培地に添加して、精子と卵子とを授精させる人工授精方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工授精用培地及び同人工授精用培地を用いた人工授精方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、優良な家畜の安定的な生産や希少動物の保護や不妊治療などのために、動物の雄から採取した精子と雌から採取した卵子とを人工的に授精させる人工授精が行われている。
【0003】
この人工授精において、精子や卵子や授精卵は、人工授精用培地を用いて培養されている(たとえば、特許文献1、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−346596号公報
【非特許文献1】Toru Takeo,et al,BIOLOGY OF REPRODUCTION 78,546-551(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来より、人工授精においては、貴重な精子や卵子を用いて人工的に授精させることから、その授精率を向上させて効率良く人工授精を行えるようにすることが望まれている(非特許文献1参照。)。
【0006】
そのため、本発明者らは、既存の人口授精用培地を用いた人工授精において、授精率を向上させる培養条件を鋭意研究し、本発明を成すに至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に係る本発明は、甘草(licorice、リコリス)エキス水溶液を含有することを特徴とする人工授精用培地を提供するものである。
【0008】
また、請求項2に係る本発明は、甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地を用いて卵子と精子とを授精させることを特徴とする人工授精方法を提供するものである。
【0009】
また、請求項3に係る本発明は、甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地を用いて精子を培養し、培養した精子を前記甘草エキス水溶液とともに卵子を培養した人工授精用培地に添加して精子と卵子とを授精させることを特徴とする人工授精方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明では、人工授精において甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地を用いることで、授精率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】検体と授精率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明に係る人工授精用培地及び同人工授精用培地を用いた人工授精方法について説明する。
【0013】
本発明では、動物から採取した精子を人工授精用培地で培養する。
【0014】
その際に、単に既存(公知)の人工授精用培地を用いて精子を培養してもよく、また、甘草の根から抽出した粉末状の甘草エキスを水に溶かして甘草エキス水溶液を生成し、その甘草エキス水溶液を既存(公知)の人工授精用培地に添加して、甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地を用いて精子を培養するようにしてもよい。
【0015】
また、本発明では、動物から採取した卵子を人工授精用培地で培養する。
【0016】
その際に、単に既存(公知)の人工授精用培地を用いて卵子を培養してもよく、また、精子と同様に、甘草の根から抽出した粉末状の甘草エキスを水に溶かして甘草エキス水溶液を生成し、その甘草エキス水溶液を既存(公知)の人工授精用培地に添加して、甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地を用いて卵子を培養するようにしてもよい。
【0017】
そして、本発明では、人工授精用培地で培養した精子と卵子とを同一の人工授精用培地で培養して、精子と卵子とを授精させるようにする。
【0018】
その際に、精子と卵子とを一緒に培養する人工授精用培地として、甘草の根から抽出した粉末状の甘草エキスを水に溶かした甘草エキス水溶液を添加した人工授精用培地を用いて培養するようにしてもよい。
【0019】
或いは、甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地を用いて精子を培養し、卵子を培養した既存の人工授精用培地に精子とともに甘草エキス水溶液をも添加し、甘草エキス水溶液が添加された既存の人工授精用培地を用いて卵子を培養するようにしてもよい。
【0020】
このように、本発明は、基本的には既存の人口授精用培地を用いて既存の人口授精方法によって動物の精子と卵子とを人工的に授精させるものであるが、既存の人口授精用培地に甘草エキス水溶液を添加して、甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地を用いて精子や卵子や授精卵の培養を行うようにしたものである。
【0021】
甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地でマウス(BALB/cA)の精子を培養した後に、培養した精子を甘草エキス水溶液とともにマウス(BALB/cA)の卵子を培養した人工授精用培地に添加して精子と卵子とを授精させた場合の試験結果を表1及び図1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
この試験では、比較のために、甘草エキス水溶液を添加していない人工授精用培地と甘草エキス水溶液を添加した人工授精用培地とを用いて同一のマウス(検体A〜検体E)から採取した精子と卵子とを人工的に授精させて行った。
【0024】
その結果、検体Aでは、甘草エキス水溶液を添加していない人工授精用培地を用いた場合には、授精率が0.0%であったのに対して、甘草エキス水溶液を添加した人工授精用培地を用いた場合には、授精率が15.6%に向上した。同様に、検体Bでは、8.0%から31.3%に、検体Cでは、43.5%から84.0%に、検体Dでは、18.5%から38.1%に、検体Eでは、4.2%から47.1%に向上した。
【0025】
このように、甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地を用いた場合には、いずれの検体でも授精率が著しく増加することがわかった。なお、甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地を用いて精子及び卵子又は卵子のみを培養しても同様に授精率を向上させることができる。
【0026】
以上に説明したように、本発明では、人工授精において甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地を用いることで、授精率を向上させることができる。
【0027】
そのため、甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地を用いて動物から採取した貴重な精子と卵子とを人工的に授精させることで、優良な家畜の安定的な生産や希少動物の保護や不妊治療などを行うことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘草エキス水溶液を含有することを特徴とする人工授精用培地。
【請求項2】
甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地を用いて卵子と精子とを授精させることを特徴とする人工授精方法。
【請求項3】
甘草エキス水溶液を含有する人工授精用培地を用いて精子を培養し、培養した精子を前記甘草エキス水溶液とともに卵子を培養した人工授精用培地に添加して精子と卵子とを授精させることを特徴とする人工授精方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−239456(P2012−239456A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−115766(P2011−115766)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(399015388)学校法人九州文化学園 (4)
【Fターム(参考)】