説明

人工魚礁

【課題】 木材同士を連結させることがなく、太さや長さの異なる木材を魚礁の一部として有効に利用することができる人工魚礁を提供することを課題とする。
【解決手段】 木材を収容可能に構成された内部空間が外部と連通するように開口部が形成された魚礁本体と、前記開口部を覆うように魚礁本体に取り付けられて、内部空間を外部と連通させた状態で内部空間に収容された木材が開口部から流出するのを防止する流出防止手段とを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材を利用した人工魚礁に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートや鋼材などから構成された構造物を水中(例えば、海中)に設置して、人工魚礁とすることが知られている。該人工魚礁は、水中に設置されることで魚礁性を有する魚や藻類などの水中生物の住処となると共に、このような水中生物を捕食する中型又は大型の他の水中生物も周辺に集めることができる。このため、人工魚礁の周辺には、様々な種類の水中生物が生息することとなり、水中生物の保護を図ると共に漁場の形成を図ることが可能となっている。
【0003】
ところで、近年、山村地域の過疎化、木材価値の低下などの要因により、森林の有する機能(水源涵養、土砂流出防止、二酸化炭素の固定など)を維持するために必要な間伐が行えない状況となっており、健全な森林を育てることが困難となっている。また、間伐を行うことがきても、間伐材を有効利用することが困難な状況でもあるため、大半が産業廃棄物として処理されており、環境汚染の要因ともなっている。
上記とは別に、建築資材として使用された木材に関しても、廃棄後、一部はリサイクルされるものの、リサイクルプラントの処理能力やコストなどが要因となって、大半が間伐材と同様に産業廃棄物として処理されている。
【0004】
このため、間伐材、建設廃材などの木材を有効利用すべく、人工魚礁として利用する方法が提案されている。例えば、複数の木材をボルトなどを用いて井桁状に連結することで、木材間に隙間を形成し、水中に設置した際に魚礁として機能するように構成されたものが知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、前記木材を人工魚礁として利用する他の方法としては、略全体が網状体で形成された容器(かご状体)に複数の木材を収容し、斯かるかご状体を従来から用いられている人工魚礁に取り付けることで、木材を人工魚礁の一部として利用する方法が知られている(非特許文献1参照)。
【0006】
上記のように木材を人工魚礁として用いることで、木材を餌とする水中生物が人工魚礁に集まると共に、木材の表面にも藻類などが付着し易いため、コンクリートや鋼材のみから人工魚礁が形成されている場合よりも蝟集効果の高いものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−295839号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】魚礁への間伐材利用の手引き(水産庁漁港漁場整備部 平成18年3月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のような人工魚礁は、木材同士がボルトなどで連結されているため、木材が水流や水中生物の影響によって劣化した際に、連結部分が崩壊し、木材同士が離散してしまう場合がある。また、特許文献1のような人工魚礁を作製する際には、太さや長さが略等しい木材を多数用いる必要があるが、間伐材、建設廃材などは、太さや長さが異なるものが多く存在しているため、このような木材を有効に利用することが困難となっている。
【0010】
また、人工魚礁は、複数個を重ねたり連結したりして用いる場合もあるが、非特許文献1のような人工魚礁では、かご状体が従来の人工魚礁に取り付けられているため、かご状体が邪魔になって複数個を重ねたり連結したりすることが困難となる場合がある。更に、前記かご状体は、木材を収容するために構成されたものであり、魚礁として機能するように構成されたものではないため、木材が劣化して崩壊し、木材自体の魚礁としての機能が失われた後には、かご状体自体が魚礁として機能しなくなってしまう虞がある。
【0011】
そこで、本発明は、木材同士を連結したり、かご状体を取り付けたりすることなく太さや長さの異なる木材を魚礁の一部として有効に利用することができると共に、木材が劣化して崩壊した後にも、魚礁としての機能を維持することができる人工魚礁を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明にかかる人工魚礁は、木材を収容可能に構成された内部空間が外部と連通するように開口部が形成された魚礁本体と、前記開口部を覆うように魚礁本体に取り付けられて、内部空間を外部と連通させた状態で内部空間に収容された木材が開口部から流出するのを防止する流出防止手段とを備えることを特徴とする。
【0013】
斯かる構成によれば、内部空間を外部と連通させた状態で魚礁本体の開口部を覆うように流出防止手段が取り付けられていることで、水中生物が流出防止手段を通過して内部空間に出入りすることができると共に、内部空間に収容された複数の木材が外部へ流出してしまうのを防止することができる。これにより、木材同士を連結することなく木材同士が離散してしまうのを防止することができるため、木材の劣化によって木材同士が離散して魚礁としての機能が低下してしまうのを抑制することができる。
【0014】
また、複数の木材を内部空間に配置するだけでよいため、様々な太さや長さの木材を用いることができ、太さや長さの影響を受けることなく様々な種類の木材を人工魚礁の一部として有効利用することができる。
【0015】
また、内部空間に木材を収容することができるため、木材を収容する部材や連結する部材を別途用意する必要がなく、容易に人工魚礁の一部として木材を利用することができる。
【0016】
また、魚礁本体自体も魚礁としての機能を果たすため、木材が劣化して崩壊し、木材自体が魚礁として機能しなくなった後にも、魚礁としての機能を維持することができる。
【0017】
また、前記内部空間(即ち、魚礁本体の内側)に木材が収容可能であるため、かご状体を用いる必要がなく、複数の人工魚礁同士を重ねたり連結したりして使用することができる。これにより、木材を収容した状態の人工魚礁と木材を収容していない状態の人工魚礁同士とを連結して用いることができる。
【0018】
また、前記流出防止手段は、魚礁本体に取り付けられて水中に設置された状態において、前記内部空間に収容された木材が崩壊して前記開口部から流出しなくなるまで強度が維持され、且つ、前記魚礁本体よりも早く強度が低下するように構成されていることが好ましい。
【0019】
斯かる構成によれば、前記流出防止手段が水中で、前記内部空間に収容された木材が崩壊して前記開口部から流出しなくなるまで強度が維持されるように構成されていることで、木材が水中生物や水分の含浸などの影響によって経時的に劣化して崩壊し、前記開口部から流出しなくなるまでは、開口部が流出防止手段によって覆われているため、内部空間に木材を留めることができ、魚礁としての機能の低下を抑制することができる。
【0020】
更に、流出防止手段が前記魚礁本体よりも早く強度が低下するように構成されていることで、木材が崩壊した後に流出防止手段が崩壊し、開口部の少なくとも一部から流出防止手段が取り除かれた状態となる。このため、開口部から内部空間への水中生物の侵入が容易なものとなり、木材が崩壊して魚礁としての機能を果たさなくなった後も長期に亘って魚礁としての機能を得ることができる。
【0021】
また、前記流出防止手段の耐用年数は、魚礁本体の耐用年数の1/2〜1/3であることが好ましい。
【0022】
前記耐用年数とは、流出防止手段及び魚礁本体が水中に設置された際の形状が保持される年数を意味するものであり、流出防止手段の耐用年数が魚礁本体の耐用年数の1/2〜1/3であることで、魚礁本体よりも先に流出防止手段が崩壊し、開口部の少なくとも一部から流出防止手段が取り除かれた状態となる。これにより、流出防止手段を通過することができなかった水中生物も開口部から内部空間へ侵入することが可能となり、様々な大きさの水中生物に対して魚礁としての機能を得ることができる。
【0023】
また、前記流出防止手段は、少なくとも開口部を覆う領域が網状に形成されていることが好ましい。
【0024】
斯かる構成によれば、前記流出防止手段が網状に形成されていることで、網目の大きさによって内部空間に侵入可能な水中生物を選択することができる。
【発明の効果】
【0025】
以上のように、本発明によれば、木材同士を連結したり、かご状体を取り付けたりすることなく太さや長さの異なる木材を魚礁の一部として有効に利用することができると共に、木材が劣化して崩壊した後にも、魚礁としての機能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態に係る魚礁本体を示した斜視図。
【図2】同実施形態に係る魚礁本体に流出防止手段が取り付けられた状態を示した斜視図。
【図3】同実施形態に係る魚礁本体の内部空間に木材が収容されて魚礁本体に流出防止手段が取り付けられた状態を示した斜視図。
【図4】他の実施形態に係る魚礁本体の内部空間に木材が収容されて魚礁本体に流出防止手段が取り付けられた状態を示した斜視図。
【図5】複数の人工魚礁が組み合わされて、大型の人工魚礁を形成した状態を示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明にかかる実施形態について図1〜3を参照しながら説明する。
【0028】
本実施形態にかかる人工魚礁1は、内部に木材を収容可能に構成されており、木材と共に水中に設置されるものである。前記木材としては、特に限定されるものではなく、間伐材、流木、建築廃材などを用いることができる。例えば、間伐材を用いる場合、直径が15〜20cm程度の太さのものを用いることが好ましく、長さとしては、1.5〜4m程度のものを用いることが好ましい。このような間伐材は、耐久性に優れると共に、施工性の面でも優れたものとなる。前記木材は、耐久性を向上させる目的で、シリコンやセメントによって断面を被覆してもよく、全体に合成樹脂を浸透させてもよい。
【0029】
前記人工魚礁1は、木材を収容可能に構成された内部空間Aを備えると共に、該内部空間Aが外部と連通するように開口部Bが形成された魚礁本体2を備えるものである。該魚礁本体2は、図1に示すように、複数の柱状体2a(本実施形態では、4本の柱状体2a)が互いに対向するように配置されると共に、隣り合う柱状体2a同士が梁状体2bによって連結されている。また、本実施形態では、魚礁本体2の上端部には、複数の柱状体2aの上端部を連結するように天面部2cが備えられている。また、魚礁本体2は、人工魚礁1が水中に設置された状態において、後述する流出防止手段Bよりも長期間に亘って強度が維持されるように構成されている。具体的には、魚礁本体2は、水中に設置された状態における耐用年数が30年以上となるように構成されたものである。
なお、前記魚礁本体2は、魚礁本体2のみが水中に設置された場合であっても、魚礁としての機能(蝟集効果や餌料効果など)を備えるように構成されたものである。
【0030】
前記複数の柱状体2aは、互いに対向するように配置された状態で、平面視において多角形状の頂点部に位置するように配置されている。本実施形態では、4つの柱状体2aが平面視における四角形状の頂点部に配置され、隣り合う柱状体2a同士の間隔が全て等しくなるように配置されている。
【0031】
前記柱状体2aは、人工魚礁1が水中に配置された状態で、略垂直となるように構成されている。柱状体2aの長さとしては、特に限定されるものではなく、設置される水深に応じて適宜選択することができる。例えば、水深に対して10%程度の高さとなるように各柱状体2aを形成することが好ましい。
【0032】
また、前記柱状体2aは、人工魚礁1が水中に設置された状態で、後述する流出防止手段Bよりも長期間に亘って強度が維持されるように構成されている。例えば、各柱状体2aは、鋼材(具体的には、L形鋼)を用いて形成されることが好ましい。
【0033】
前記梁状体2bは、隣り合う一対の柱状体2aを連結するように、該一対の柱状体2a間に張り渡されたものである。本実施形態では、梁状体2bは、柱状体2aの長手方向に沿って間隔空けて複数並設されている。並設された梁状体2b同士の間隔としては、特に限定されるものではなく、内部空間Aに出入り可能とする水中生物の大きさに応じて適宜設定することが好ましく、例えば、50〜70cm程度であることが好ましい。
【0034】
そして、複数の柱状体2aと複数の梁状体2bとによって囲まれた領域に内部空間Aが形成される。本実施形態では、上下方向に沿って角柱状の内部空間Aが形成されている。さらに、並設された一対の梁状体2bと、該一対の梁状体2bの両端部に連結された一対の柱状体2aとによって開口部Bが形成される。
【0035】
前記梁状体2bは、人工魚礁1が水中に設置された状態で、後述する流出防止手段Bよりも長期間に亘って強度が維持されるように構成されている。具体的には、梁状体2bは、鋼材を用いて形成され、板状のものや断面形状がL字型のものなどを交互に配置して用いることができる。
【0036】
前記天面部2cは、板状の形状を有し、外周部に複数の柱状体2aの上端部が連結されている。つまり、天面部2cの下方領域に内部空間Aが形成されている。本実施形態では、天面部2cは、平面視において四角形状の板状の形状を有し、各角部に4つの柱状体2aの上端部が連結されている。これにより、魚礁本体2は、外観視において角柱状となっており、前記開口部Bが魚礁本体2の側面に複数形成されている。
【0037】
また、天面部2cは、人工魚礁1が水中に設置された状態で、後述する流出防止手段Bよりも長期間に亘って強度が維持されるように構成されている。具体的には、天面部2cは、鋼材を用いて形成されている。
【0038】
上記の魚礁本体2(柱状体2a、梁状体2b、天面部2c)を構成する鋼材としては、「JIS G 3101 2004」に規定されている一般構造用圧延鋼材「SS400」等を用いることができる。斯かる鋼材がL型鋼である場合には、断面形状においてL字状に交わる2辺のそれぞれの長さが70〜120mm程度であることが好ましく、厚みが5〜10mm程度であることが好ましい。また、斯かる鋼材が平型鋼である場合には、厚みが5〜15mm程度であることが好ましい。
尚、一般に、水深20mを超える海中(概ね水深20mまで)における鋼材の腐食速度は、該鋼材片面につき0.1〜0.2mm/年と考えられており、海底泥層中では0.03mm/年と考えられている。
したがって、使用する鋼材の厚み(mm)を、設置する水深に対応する腐食速度(mm/年)で除することにより、該魚礁本体の耐用年数を求めることができる。流出防止手段についても同様である。
【0039】
前記魚礁本体2には、図2に示すように、内部空間Aに収容される木材が前記開口部Bから外側に流出するのを防止する流出防止手段3が開口部Bを覆うよう取り付けられる。本実施形態では、開口部Bが形成されている魚礁本体2の側面を覆うように流出防止手段3が取り付けられている。さらに、本実施形態では、魚礁本体2には、内部空間Aを略水平に仕切るように仕切手段3’が取り付けられている。なお、本実施形態では、仕切手段3’よりも下方に位置する開口部Bを覆うように流出防止手段3が取り付けられている。
【0040】
前記流出防止手段3は、複数の棒状体から構成されている。具体的には、流出防止手段3は、複数の棒状体が格子状に連結されて網状に形成されたものである。このため、開口部Bを覆うように流出防止手段3が魚礁本体2に取り付けられた状態であっても、内部空間Aが外部と連通した状態となり、流出防止手段3を通過して水中生物が内部空間Aに出入り可能なる。
【0041】
流出防止手段3の網目の大きさとしては、特に限定されるものではなく、木材の流出を効果的に防止でき、且つ、内部空間Aに水中生物が出入り可能となる大きさであればよい。つまり、内部空間Aに出入り可能とさせる水中生物の大きさに応じて適宜選択することが好ましく、例えば、一辺が40〜60mmの四角形状の網目であることが好ましい。
【0042】
前記流出防止手段3は、人工魚礁1が水中に設置された状態で、前記内部空間に収容された木材が崩壊して前記開口部から流出しなくなるまで強度が維持されるように構成され、且つ、前記魚礁本体よりも早く強度が低下するように構成されている。具体的には、流出防止手段3の耐用年数は、魚礁本体2の耐用年数の1/2〜1/3程度となるように構成されており、10年以上30年未満であることが好ましい。
尚、海中における鋼材の腐食速度は上記のような値であるが、鋼材の厚みが耐用年数に比例するものと考えられるため、通常、流出防止手段の厚み又は直径を魚礁本体の厚み又は直径の1/2〜1/3程度とすることにより、流出防止手段の耐用年数が魚礁本体2の耐用年数の1/2〜1/3程度となるようなるように構成される。
【0043】
前記流出防止手段3は、金属製の棒状体を用いて形成されている。該棒状体としては、断面の直径が2.0〜3.0mmであるものを用いることができ、例えば、JIS G 3551に規定する丸鉄線溶接金網(直径:2.6mm、網目:50×50mm)を用いることが好ましい。斯かる流出防止手段3は、水中において5〜10年程度で崩壊し、魚礁本体2の開口部Bを覆った状態から少なくとも一部が取り除かれた状態となるように構成されることが好ましい。つまり、前記木材としては、人工魚礁1の内部に収容されて水中に設置された状態で、水中生物や水流によって劣化して5年未満で崩壊し、開口部Bから外部へ流出しなくなるように構成されたものを用いることができる。
【0044】
前記仕切手段3’は、前記流出防止手段3と同様に、複数の棒状体が格子状に連結されて網状に形成されたものである。これにより、内部空間Aが仕切手段3’によって仕切られた状態であっても仕切手段3’を通過して水中生物が内部空間Aに出入り可能となる。網目の大きさとしては、特に限定されるものではないが、内部空間Aに収容される木材の断面形状よりも小さくなるように構成されている。これにより、仕切手段3’よりも下方の内部空間Aに木材を収容することで、人工魚礁1が水中に設置された際に浮力によって木材が上方へ移動してしまうのを防止することが可能となる。なお、仕切手段3’を構成する棒状体は、流出防止手段3と同様の素材を用いて形成されることが好ましい。
【0045】
次に、図3に示すように、前記内部空間Aに複数の木材Wが収容されて人工魚礁1が水中に設置された状態について説明する。内部空間Aには、複数の木材Wが起立した状態で収容される。そして、内部空間A内の各木材Wが水流や浮力の影響によって内部空間A内を移動してしまわないように各木材Wの動きが規制されることが好ましい。具体的には、内部空間Aの略全体が木材Wによって占められるように内部空間Aに木材Wを収容することで、各木材Wが移動可能な空間を減少させることで木材Wの移動が規制されることが好ましい。また、木材Wは、浮力によって上方に浮き上がろうとするが、仕切手段3’が取り付けられているため、仕切手段3’よりも下方に保持された状態となる。
【0046】
このように、内部空間A内の各木材Wの移動が規制されることで、木材W同士の間に形成された隙間や木材Wの表面に水中生物が住み着き易くなり、良好な蝟集効果を得ることができる。また、本実施形態では、仕切手段3’よりも上方の開口部Bには流出防止手段3が取り付けられていないため、流出防止手段3を通過できない大きさの水中生物も仕切手段3’よりも上方の開口部Bから魚礁本体2の内側に出入り可能であるため、仕切手段3’を境に異なる大きさの水中生物の蝟集効果を得ることができる。
【0047】
また、木材Wは、水流や水中生物の影響により、劣化(腐食)して次第に崩壊することとなるが、流出防止手段3が開口部Bを覆っていると共に、各木材Wが仕切手段3’の下方に位置しているため、木材Wを内部空間Aに留めることが可能となる。これにより、木材Wが人工魚礁1の外部へ流出してしまい広範囲に散らばってしまうのを防止することができ、魚礁効果(蝟集効果や餌料効果など)が低下してしまうのを抑制することができる。また、崩壊した木材Wに浮力が残っている場合、木材Wが人工魚礁1の外部へ流出してしまうと、水面に浮上して流木となり、船舶などと接触して事故となる虞があるが、上述のように木材Wを内部空間Aに留めることが可能であるため、上記のような事故の虞を抑制することができる。
【0048】
また、前記内部空間Aに収容された木材Wが崩壊して前記開口部から流出しなくなるまで前記流出防止手段3及び仕切手段3’の強度が維持され、且つ、流出防止手段3及び仕切手段3’の強度が前記魚礁本体2よりも早く低下することで、前記木材Wが完全に崩壊して内部空間Aから消失した後には、流出防止手段3及び仕切手段3’も崩壊し、水中には魚礁本体2のみが水中に残ることとなる。このため、開口部Bが広く開口することとなり、網状の流出防止手段3や仕切手段3’を通過することができなかった水中生物も内部空間Aに出入り可能となる。これにより、流出防止手段3や仕切手段3’が取り付けられていた状態とは異なる大きさの水中生物の蝟集効果を得ることができる。
【0049】
以上のように、本実施形態にかかる人工魚礁によれば、木材同士を連結したり、かご状体を取り付けたりすることなく太さや長さの異なる木材を魚礁の一部として有効に利用することができると共に、木材が劣化して崩壊した後にも、魚礁としての機能を維持することができる。
【0050】
即ち、前記人工魚礁1は、魚礁本体2の開口部Bを覆うように流出防止手段3が取り付けられていることで、内部空間Aに収容された複数の木材Wが外部へ流出してしまうのを防止することができる。これにより、木材W同士を連結することなく木材W同士の離散を防止することができる。このため、木材Wの劣化によって木材W同士が離散して魚礁としての機能が低下してしまうのを抑制することができる。
【0051】
また、複数の木材Wを内部空間Aに収容するだけでよいため、様々な太さや長さの木材Wを用いることができ、太さや長さの影響を受けることなく様々な種類の木材Wを人工魚礁の一部として有効利用することができる。
【0052】
また、内部空間Aに木材Wを収容することができるため、木材Wを収容する部材や連結する部材を別途用意する必要がなく、容易に人工魚礁の一部として木材Wを利用することができる
【0053】
また、魚礁本体2自体も魚礁としての機能をはたすため、木材Wが劣化して崩壊し、魚礁として機能しなくなった後にも魚礁としての機能を維持することができる。
【0054】
また、前記流出防止手段3が水中で、前記内部空間Aに収容された木材Wが崩壊して前記開口部Bから流出しなくなるまで強度が維持されるように構成されていることで、木材Wが水中生物や水分の含浸などの影響によって経時的に劣化して崩壊し、前記開口部Bから流出しなくなるまでは、開口部Bが流出防止手段3によって覆われているため、内部空間Aに木材Wを留めることができ、魚礁としての機能の低下を抑制することができる。
【0055】
更に、流出防止手段3が前記魚礁本体2よりも早く強度が低下するように構成されていることで、木材Wが崩壊した後に流出防止手段3が崩壊し、開口部Bの少なくとも一部から流出防止手段3が取り除かれた状態となる。このため、開口部Bから内部空間Aへの水中生物の侵入が容易なものとなり、木材Wが崩壊して魚礁としての機能を果たさなくなった後も長期に亘って魚礁としての機能を得ることができる。
【0056】
また、前記人工魚礁1は、前記流出防止手段3が網状に形成されていることで、網目の大きさによって内部空間Aに侵入可能な水中生物を選択することができる。
【0057】
なお、本発明にかかる人工魚礁は、上記実施形態に限定されるものではなく種々の変更が可能である。
【0058】
例えば、上記実施形態では、内部空間Aに木材Wを起立状態で収容しているが、これに限定されるものではなく、木材Wの長さや内部空間Aの形状によっては、各木材Wを水平状態で内部空間Aに収容してもよい。又は、起立状態及び水平状態を組み合わせてもよく、無作為に内部空間Aに木材Wを収容してもよい。
【0059】
また、上記実施形態では、流出防止手段3が網状に形成されているが、これに限定されるものではなく、開口部Bの開口面を複数の棒状体が縦断又は横断するように配置されて流出防止手段を構成してもよい。
【0060】
上記実施形態では、内部空間Aが仕切手段3’によって上下に仕切られているが、これに限定されるものではなく、全ての開口部Bを流出防止手段3によって覆うことで、仕切手段3’を備えずに人工魚礁を構成してもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、魚礁本体2の全体が鋼材を用いて形成されているが、これに限定されるものではなく、コンクリートを用いて魚礁本体20が形成されてもよい。例えば、図4に示すように、コンクリート製の4本の柱状体20aが互いに対向するように配置され、隣り合う柱状体20aの上端部同士及び下端部同士がコンクリート製の梁状体20bによって連結されることで魚礁本体20が形成されてもよい。斯かる魚礁本体20は、内部空間Aを備える六面体の各面に開口部Bを備えるものとなる。このため、内部空間Aに木材Wを収容し、開口部Bを覆うように流出防止手段3を取り付けた状態(人工魚礁10が形成された状態)で、水中に設置した際に、様々な方向から水中生物が内部空間Aに出入り可能となる。
【0062】
上記の人工魚礁1,10は、これら自体が魚礁として機能するものであるが、複数個を平面的及び/又は立体的に連結して用いても良い。例えば、図5に示すように、複数の人工魚礁1を平面的且つ立体的に連結して、より高さと幅のある大型の人工魚礁を構成してもよい。斯かる場合、各人工魚礁1のうち、所定の位置に配置された人工魚礁1にのみ、木材Wを収容するようにし、木材Wを収容しない位置では魚礁本体2のみが配置されてもよい。また、鋼材を用いて構成された人工魚礁1と、コンクリートを用いて構成された人工魚礁10’とを組み合わせて大型の人工魚礁を構成するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…人工魚礁、2…魚礁本体、2a…柱状体、2b…梁状体、2c…天面部、3…流出防止手段、3’…仕切手段、A…内部空間、B…開口部、W…木材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材を収容可能に構成された内部空間が外部と連通するように開口部が形成された魚礁本体と、前記開口部を覆うように魚礁本体に取り付けられて、内部空間を外部と連通させた状態で内部空間に収容された木材が開口部から流出するのを防止する流出防止手段とを備えることを特徴とする人工魚礁。
【請求項2】
前記流出防止手段は、前記魚礁本体に取り付けられて水中に設置された状態において、前記内部空間に収容された木材が崩壊して前記開口部から流出しなくなるまで強度が維持され、且つ、前記魚礁本体よりも早く強度が低下するように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の人工魚礁。
【請求項3】
前記流出防止手段の耐用年数は、魚礁本体の耐用年数の1/2〜1/3であることを特徴とする請求項1又は2に記載の人工魚礁。
【請求項4】
前記流出防止手段は、少なくとも開口部を覆う領域が網状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の人工魚礁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−155940(P2011−155940A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−21969(P2010−21969)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】