説明

仕口補強用具

【課題】外力が作用した場合の仕口部の挙動の仕方を更に詳しく分析し、その挙動に対してより機能的に適合し得る仕口補強用具を開発し、より円滑なエネルギ吸収が可能な仕口補強用具を提供する。
【解決手段】部材2,3どうしを接合する仕口部に対して取付けられる両側の取付部4,5と、それらの取付部を連結する連結部6とから構成され、前記連結部6に蛇腹状の変形部7を設けた仕口補強用具において、その蛇腹状の屈曲線として、仕口部の内側の隅部Cを通る直線に沿う方向の内側屈曲線と、その内側屈曲線の両側に配設され、仕口部の内側の隅部Cから外側へ離間した部位Eを通る直線に沿う方向の外側屈曲線とを組合わせることにより、外力の方向によって生じる仕口部における変形の中心部の変化に対応してより機能的に適合し得る屈曲変形を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土台や梁材などの水平部材と柱材などの垂直部材とを接合する場合のように部材どうしを接合する仕口部に対して適用する、とりわけ木造建築物の仕口部の補強に好適な仕口補強用具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の仕口補強用具に関しては、両側の取付部の間に蛇腹状の連接部を介在させて略L字状に一体的に形成し、前記蛇腹状の連接部の変形により外力を吸収するとともに、その変形によって蓄積した弾発力により仕口部を元の状態に復元することにより木造建築物の倒壊を防止する従来技術や、略L字状に一体的に形成された両側の取付部を備えるとともに、それらの取付部相互間に設けた補強部材の緩衝効果とバネ弾性による復元力を活用して木造建築物の倒壊を防止する従来技術などが知られている。しかしながら、これらの従来の補強用具の場合には、外力を吸収する板面が両側の取付面に沿った状態にあったため、それらの取付面に直交する方向の外力に対しては、取付部相互間の角度変化を介して有効に機能し得るものの、取付面に対して斜めの方向から作用する当該補強用具をねじる方向の成分を含む外力の場合には、補強用具の板面に沿った方向にも外力が作用することから、その点で効果的に機能することはできなかった。
【0003】
そこで、本出願人においても、仕口部に斜め方向から作用する当該補強用具をねじる方向の成分を含む外力に対しても効果的に機能し得るとともに、より円滑で効率的なエネルギ吸収が可能な仕口補強用具を提供するため、図5及び図6に例示したように、仕口補強用具101を仕口部を構成する接合部材102,103に対して取付ける両側の取付部104,105とそれらの取付部を連結する連結部106とから構成し、その連結部106に設ける変形部107を、仕口部の内側の隅部Cを中心としてほぼ放射状に延びる複数の屈曲線Lに沿って交互に屈曲して蛇腹状に形成し、各屈曲部の高さが前記隅部Cに近い方から外側へ向けて漸増するように構成した仕口補強用具を提案した(特許文献1)。本発明は、この従来技術の改良発明に関するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−31630号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述のとおり前記従来技術の改良発明に関するものであり、外力が作用した場合の前記仕口部の挙動の仕方を更に詳しく分析し、その挙動に対してより機能的に適合し得る仕口補強用具を開発し、より円滑なエネルギ吸収が可能な仕口補強用具を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
図1及び図2は本発明において着目した外力が作用した場合の仕口部の基本的な挙動原理を示した概略説明図である。図1に示したように、仕口補強用具1を適用した仕口部を構成する接合部材2,3に対して圧縮方向の外力Fcが作用した場合には、それらの接合部材2,3間の内側の隅部Cを中心に前記接合部材2,3間の角度を縮小する方向に回転モーメントが作用し、仕口部の変形も前記内側の隅部Cを中心に生じることになる。これに対し、図2に示したように、逆に接合部材2,3に対して引張方向の外力Ftが作用した場合には、それらの接合部材2,3の外側の隅部Dを中心に前記接合部材2,3間の角度を拡大する方向に回転モーメントが作用し、仕口部の変形も前記外側の隅部Dを中心に生じることになる。ここで、とりわけ重要な注目点は、仕口部を構成する接合部材2,3に対して作用する外力の方向によって、接合部材2,3間に生じる変形の中心部がそれらの接合部材2,3間の内側の隅部Cから外側の隅部Dへ変化するということである。
【0007】
しかして、外力が比較的小さく仕口部の変形が小さい場合には、仕口補強用具1の蛇腹部の変形量も小さいことから、仕口部に生じる変形の中心部が前記内側の隅部Cから外側の隅部Dへ変化しても充分対応できる。これに対し、外力が大きくなり仕口部の変形量が増大すると、仕口補強用具1の蛇腹部の変形量も大きくなることから、特に蛇腹部を形成する全ての屈曲線が前記内側の隅部Cに焦点を結ぶ従来の屈曲形態の場合に、図2に示したように仕口部の変形中心が外側の隅部Dへ変化した場合には、その蛇腹部の焦点である前記隅部Cに近い屈曲部分から先に伸びきり、その応力集中によって十分な機能が阻害されるという技術的問題がある。
【0008】
そこで、本発明では、上述した、仕口部を構成する接合部材に対して作用する外力の方向によって接合部材間に生じる変形の中心部がそれらの接合部材間の内側の隅部Cから外側の隅部Dへ変化する点に着目し、部材どうしを接合する仕口部に対して取付けられる両側の取付部と、それらの取付部を連結する連結部とから構成され、前記連結部に、複数の屈曲線に沿って交互に屈曲して蛇腹状に形成した変形部を設けた仕口補強用具において、前記屈曲線として、前記仕口部の内側の隅部Cを通る直線に沿う方向の内側屈曲線と、その内側屈曲線の両側に配設され、前記仕口部の内側の隅部Cから外側へ離間した部位を通る直線に沿う方向の外側屈曲線とを組合わせることにより、外力の方向によって生じる仕口部における変形の中心部の変化に対応してより機能的に適合し得る屈曲変形を可能とし、これにより円滑なエネルギ吸収を実現するという技術手段を採用した。つまり、本発明によれば、前記技術手段の採用により、圧縮方向の外力が作用して仕口部における変形の中心部が前記仕口部の内側の隅部Cにある場合には、前者の内側屈曲線に沿って屈曲された屈曲部がより機能的に適合した形態で屈曲変形し得るとともに、逆に引張方向の外力が作用して仕口部における変形の中心部が前記仕口部の外側の隅部Dにある場合には、後者の外側屈曲線に沿って屈曲された屈曲部がより機能的に適合した形態で屈曲変形し得ることから、双方の方向の外力に対して、全体的により機能的に適合した屈曲変形が可能となり、延いては円滑なエネルギ吸収を実現できる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る仕口補強用具よれば、次の効果を得ることができる。
(1)外力の方向による仕口部の変形中心部の変化に対応してより機能的に適合した形態の屈曲変形が可能となり、延いては円滑なエネルギ吸収を実現することができる。
(2)変形部の屈曲変形が内側屈曲線と外側屈曲線に沿った屈曲部に分散され、仕口部の変形中心部の変化に対応してより機能的に適合した形態で屈曲変形するので、変形量の偏在が縮小されて平均化し得ることから、仕口補強用具としての性能を向上できる。
(3)両側の取付部を連結する連結部に設ける変形部を複数の屈曲線に沿って交互に屈曲して蛇腹状に形成したので、仕口部に対して斜め方向から作用するねじり方向の成分を含む外力に対しても効果的に機能することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】外力が作用した場合の仕口部の基本的な挙動原理を示した概略説明図である。
【図2】他の方向の外力が作用した場合の仕口部の基本的な挙動原理を示した概略説明図である。
【図3】本発明の一実施例の適用状態を示した正面図である。
【図4】同実施例の要部を拡大して示した要部拡大図である。
【図5】従来の仕口補強用具の適用状態を示した正面図である。
【図6】同仕口補強用具を示したA矢視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、とりわけ木造建築物において土台や梁材などの水平部材と柱などの垂直部材を接合した仕口部に適用する仕口補強用具として好適ではあるが、これに限定されるものではなく、他の構造形式にも広く適用することが可能である。また、本発明に係る仕口補強用具は、金属製からなる形態が一般的であるが、硬質樹脂製等の他の形態も可能である。この仕口補強用具を構成する両側の取付部は、断面形状を略コ字状や略L字状に形成することにより剛性を高めることが可能であるが、平板状のものや他の断面形状のものも可能である。前記連結部は、仕口補強用具を構成する両側の取付部相互間を連結するように構成される。断面形状が略コ字状の取付部を採用した場合は、両側の取付部の対向する一方の側辺部相互間を連結するようにしてもよいし、双方の側辺部相互間を連結するようにしてもよい。また、その連結部に形成される変形部は、複数の屈曲線に沿って交互に屈曲することにより蛇腹状に形成される。それらの屈曲線としては、前記仕口部の内側の隅部Cを通る直線に沿う方向の内側屈曲線と、その内側屈曲線の両側に配設され、前記仕口部の内側の隅部Cから外側へ離間した部位を通る直線に沿う方向の外側屈曲線とを組合わせて採用する。これにより、上述のように外力の方向によって生じる仕口部における変形の中心部の変化に対応してより機能的に適合し得る屈曲変形が可能となり、延いては円滑なエネルギ吸収が可能となる。なお、各屈曲部の高さが前記隅部に近い方から外側へ向けて漸増するように構成され、適度の弾性及び塑性の性質をもち、当該仕口部を破壊に至らないように弾性限界以上の応力にも対応し得る形態のものが望ましい。因みに、前記屈曲線の本数や間隔、前記内側屈曲線及び外側屈曲線の基準となる仕口部の内側の隅部Cとその隅部Cから外側へ離間した部位との間の間隔の大きさや方向に関しては、場合に応じて任意の選定が可能である。また、蛇腹状の折返し部の高さや幅の大きさ、屈曲角度などの屈曲部の具体的形態に関する選定を通じて、外力に対する変形の仕方やバネ特性を勘案しながら前記変形部の具体的形態を設定することも可能である。
【実施例】
【0012】
図3は本発明の一実施例に係る仕口補強用具の適用状態を示した正面図、図4はその要部拡大図である。図示のように、本実施例に係る仕口補強用具1は、両側に仕口部を構成する接合部材2,3に対して取付ける取付部4,5を備え、それらの取付部4,5間を連結部6で連結することにより、全体形状が略L字状に形成されている点で、図5及び図6に例示した従来の仕口補強用具と基本的に同様の構成からなる。因みに、この仕口補強用具1の全体形状は、接合部材2,3間の接合角度に応じてL字状以外の形状も可能である。
【0013】
前記取付部4,5間を連結する連結部6の中間部には、複数の屈曲線に沿って交互に屈曲して蛇腹状に形成される変形部7が設けられている。因みに、この変形部7は、本実施例のように、連結部6の中間部に部分的に形成したものでもよいし、連結部6の全体に形成したものでもよい。なお、図中8はブレースなどの連結具用の挿通孔である。
【0014】
本実施例に係る前記仕口補強用具1の場合には、図4の要部拡大図に示したように、変形部7を蛇腹状に屈曲形成する際の基準線となる前記屈曲線に関し、接合部材2,3によって構成される仕口部の内側の隅部Cを通る直線に沿う方向の3本の内側屈曲線La〜Lcと、その内側屈曲線La〜Lcの両側に配設され、前記仕口部の内側の隅部Cから外側へ離間した部位Eを通る直線に沿う方向の2本の外側屈曲線Ld,Leとを組合わせた形態を採用している点で、前記従来技術にはない特徴を有する。これにより、図1のように圧縮方向の外力Fcが作用して仕口部における変形の中心部が内側の隅部Cにある場合には、内側屈曲線La〜Lcに沿って屈曲された屈曲部がより機能的に適合した形態で屈曲変形し得るとともに、逆に図2のように引張方向の外力Ftが作用して仕口部における変形の中心部が外側の隅部Dにある場合には、外側屈曲線Ld,Leに沿って屈曲された屈曲部がより機能的に適合した形態で屈曲変形し得ることになる。その結果、全ての屈曲線Lが内側の隅部Cを通る直線に沿う方向に設定された従来の屈曲形態と比較し、双方の方向の外力に対して、全体的により機能的に適合した屈曲変形が可能となり、延いてはより円滑なエネルギ吸収を実現することが可能になる。
【0015】
しかして、外力が比較的小さく仕口部の変形が小さい場合には、仕口補強用具1の変形部7における変形量も小さいことから、仕口部に生じる変形の中心部が前記内側の隅部Cから外側の隅部Dへ変化しても、前記屈曲線La〜Leに沿うそれぞれの屈曲部における屈曲変形で充分に対応できる。これに対し、外力が大きくなり仕口部の変形量が増大した場合には、全ての屈曲線Lが内側の隅部Cを通る直線に沿う方向に設定された従来の屈曲形態では、仕口部の変形中心が外側の隅部Dへ変化した場合に、前述のように、その蛇腹部の焦点である前記隅部Cに近い屈曲部分から先に伸びきり、その応力集中によって十分な機能が阻害されるという技術的問題があるが、本発明の屈曲形態によれば、外側屈曲線Ld,Leに沿って屈曲された屈曲部によって、より機能的に適合した屈曲形態が実現されることから、前記技術的問題が大きく緩和されることになる。なお、本実施例では、前記屈曲線La〜Leを中央に位置する内側屈曲線Laを中心に左右対称に設定した場合を例示したが、適用する仕口部に生じる変形の中心部に関する移動先、すなわち本実施例でみれば、外側の隅部Dの位置に合わせて、外側屈曲線Ld,Leの焦点としての前記部位Eを当該隅部D側へ偏在させることも有効である。
【符号の説明】
【0016】
1:仕口補強用具、2:水平部材、3:垂直部材、4,5:取付部、6:連結部、7:変形部、8:挿通孔、La〜Lc:内側屈曲線、Ld,Le:外側屈曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材どうしを接合する仕口部に対して取付けられる両側の取付部と、それらの取付部を連結する連結部とから構成され、前記連結部に、複数の屈曲線に沿って交互に屈曲して蛇腹状に形成した変形部を設けた仕口補強用具において、前記屈曲線として、前記仕口部の内側の隅部Cを通る直線に沿う方向の内側屈曲線と、その内側屈曲線の両側に配設され、前記仕口部の内側の隅部Cから外側へ離間した部位を通る直線に沿う方向の外側屈曲線とを組合わせることにより、外力の方向によって生じる仕口部における変形の中心部の変化に対応してより機能的に適合し得る屈曲変形を可能にしたことを特徴とする仕口補強用具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−226083(P2011−226083A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94323(P2010−94323)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000000446)岡部株式会社 (277)