説明

付着物の除去方法

【課題】外周部が付着物に覆われた水平部材が設けられた中空構造体内であっても複数の空間に区分けして付着物を除去することが可能な付着物の除去方法を提供する。
【解決手段】複数の昇降空間が左右方向に並設された内部空間を形成して前後方向にて対向する2つの部位間に設けられた水平部材の外周部を覆う付着物の除去方法であって、中空構造体内を、付着物が先に除去される先作業空間と、後で除去される後作業空間とに区画する壁本体を対向する2つの部位に保持させる壁本体保持工程と、付着物、及び、対向する2つの部位と、壁本体の周縁部と、の間を閉塞する閉塞工程と、先作業空間側にて付着物を除去する先処理工程と、閉塞部材を、付着物が除去された水平部材と壁本体の周縁部との間を閉塞すべくもり換えるもり換え工程と、もり換え工程の後に、後作業空間側にて付着物を除去する後処理工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばエレベーター等が設けられる、建物の中空空間内に存在する水平部材を覆う付着物を除去する付着物の除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建物の中空空間としては、たとえば鉛直方向に長い内部空間内を乗りかごが上下昇降するように構成されたエレベーターシャフトがある。エレベーターには、複数台の乗りかごが左右に並列配置された、いわゆる多連式のエレベーターがあり、多連式のエレベーターのエレベーターシャフト内には、乗りかご毎に、互いに独立して昇降動作を行えるように昇降空間が設けられている。
また、エレベーターシャフト内には、鉄骨架構の耐火被覆目的で施工されたアスベストがそのまま鉄骨に付着状態で残存していることがあり、このようなアスベストは、飛散前に一刻も早く除去等の無害化処理を施す必要がある。
エレベーターシャフト内の付着物を取る方法として、例えば、付着物として綿ゴミ等の塵埃を清掃する方法は知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−145448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、建屋内のアスベストを除去する際には、養生シート等により隔離密閉された作業空間を形成し、その中で除去作業を行うことが義務付けられている。ところが、上述のような多連式のエレベーターの場合にエレベーターシャフト全体を隔離密閉すると、全てのエレベーターが使えなくなってしまい著しく不便となる。このため、少なくとも1台のエレベーターは稼働状態のままで除去作業ができるように昇降空間毎に隔離密閉することが望ましい。
しかしながら、多連式のエレベーターの場合に、左右方向に隣接する2つの昇降空間の間隔が狭く、また、それら2つの昇降空間の間に複数の梁や中間ビーム等の水平部材が設けられている場合もある。このように隣接する2つの昇降空間の間にてエレベーターシャフト全体を隔離密閉しなければ、隣接する昇降空間の一方にて付着物を除去し、他方にてエレベーターを稼働することができないという課題がある。
【0005】
本発明はかかる従来の課題に鑑みて成されたもので、その目的とするところは、外周部が付着物に覆われた水平部材が設けられた中空構造体内であっても複数の空間に区分けして付着物を除去することが可能な付着物の除去方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために本発明の付着物の除去方法は、物体を上下昇降する複数の昇降空間が左右方向に並設された内部空間を有する中空構造体内の前記昇降空間の間にて、前記内部空間を形成して前後方向にて対向する2つの部位間に設けられ、外周部が付着物に覆われた水平部材の、前記付着物を除去する付着物の除去方法であって、
前記水平部材は、上下方向に間隔を隔てて複数設けられており、
上下方向に互いに間隔を隔てて配置された2本の前記水平部材の間に、各々の前記水平部材を覆う前記付着物との間、及び、前記対向する2つの部位との間に空隙を設けるとともに、前記中空構造体内を、
前記付着物が先に除去される先作業空間と、後で除去される後作業空間とに区画する壁本体を前記対向する2つの部位に保持させる壁本体保持工程と、
前記水平部材を覆っている前記付着物、及び、前記対向する2つの部位と、前記壁本体の周縁部と、の間を閉塞部材にて閉塞する閉塞工程と、
前記先作業空間側にて前記付着物を除去する先処理工程と、
前記閉塞部材を、前記先処理工程にて前記付着物が除去された前記水平部材と前記壁本体の周縁部との間を閉塞すべくもり換えるもり換え工程と、
前記もり換え工程の後に、前記後作業空間側にて前記付着物を除去する後処理工程と、
を有することを特徴とする付着物の除去方法である。
【0007】
このような付着物の除去方法によれば、壁本体にて、先作業空間と後作業空間とを区画するとともに、閉塞部材にて水平部材を覆っている付着物、及び、対向する2つの部位と、壁本体の周縁部と、の間を閉塞した後に、先作業空間側の付着物を除去するので、除去された付着物が先作業空間外に飛散することを防止することが可能である。このとき、除去された付着物は後作業空間にも飛散しないので、後作業空間は先作業空間での付着物を除去する作業に拘わらず使用することが可能である。
【0008】
また、先作業空間側にて先に付着物を除去した先処理工程後に、閉塞部材をもり換えて、付着物が除去された水平部材と壁本体の周縁部との間を閉塞した後に、後作業空間側にて付着物を除去するので、除去された付着物が先作業空間に飛散しない。このため、先作業空間は後作業空間での付着物を除去する作業に拘わらず使用することが可能である。このように、外周部が付着物に覆われた水平部材が設けられた中空構造体内であっても複数の空間に区分けして付着物を除去することが可能な付着物の除去方法を提供することが可能である。
【0009】
かかる付着物の除去方法であって、前記対向する2つの部位は、いずれも不燃固化物であり、前記壁本体を、前記不燃固化物に設けられたアンカーに保持させることが望ましい。
このような付着物の除去方法によれば、壁本体を、例えば鉄筋コンクリートやALC板等のセメント組成物及びプラスターボード等の不燃固化物でなり対向する2つの部材に設けられたアンカーで保持させるので、壁本体を水平部材の間に確実に保持させることが可能である。特に、水平部材側には保持させないので、付着物に触れることなく壁本体を形成することが可能である。
【0010】
かかる付着物の除去方法であって、前記水平部材を覆っている前記付着物の表面に飛散防止シートを設け、前記付着物と、前記壁本体の周縁部と、の間を閉塞する前記閉塞部材は、前記飛散防止シートに当接させることが望ましい。
このような付着物の除去方法によれば、付着物の表面に設けた飛散防止シートに、付着物と壁本体の周縁部との間を閉塞する閉塞部材を当接させるので、閉塞部材は直接付着物に触れない。このため、閉塞部材を設ける際にも付着物が飛散することを防止することが可能である。
【0011】
かかる付着物の除去方法であって、前記アンカーは、前記不燃固化物の、前記飛散防止シートが設けられている部分に設けることが望ましい。
不燃固化物は付着物にて覆われてはいないが、付着物に覆われた水平部材と同じ中空構造体内に設けられているので、水平部材に付着物を付着させた際に、不燃固化物にも付着物が飛散している虞がある。このため、上記のように不燃固化物の、飛散防止シートが設けられている部分にアンカーを設けることにより、たとえ不燃固化物の表面に付着物が付着していたとしても、当該付着物の飛散を防止することが可能である。
【0012】
かかる付着物の除去方法であって、前記閉塞部材は、前記先処理工程時には、前記先作業空間側から固定されており、前記もり換え工程にて、前記後作業空間側から固定することが望ましい。
このような付着物の除去方法によれば、先作業空間にて除去する際には閉塞部材が先作業空間側から固定されているので、先作業空間での除去作業が終了したときには、先作業空間側から閉塞部材を取り外すことが可能であり、後作業空間側にて除去する際には閉塞部材をもり換えて閉塞部材が後作業空間側から固定されているので、後作業空間での除去作業が終了したときには、後作業空間側から閉塞部材を取り外すことが可能である。このため、閉塞部材をもり換えることにより効率良く付着物を除去することが可能である。
【0013】
かかる付着物の除去方法であって、前記閉塞部材は、上下方向において閉塞する幅を調整可能であることが望ましい。
水平部材と壁本体の周縁部との間の空隙は、付着物が除去される前と後とでは、上下方向における幅が相違する。このため、壁本体の上下に位置する水平部材との間を閉塞する閉塞部材が上下方向において閉塞する幅を調整可能であれば、たとえ先作業空間側の付着物の除去により空隙が広くなったとしても、後作業空間側にて除去する際に、閉塞部材により閉塞される幅を調整することにより、先処理工程にて広がった空隙を閉塞して区画することが可能である。
【0014】
かかる付着物の除去方法であって、前記閉塞部材は、前記壁本体に固定される壁本体固定部材と、前記水平部材側に当接されて前記壁本体固定部材と接合される当接固定部材と、を有し、前記壁本体固定部材と前記当接固定部材とは、前記水平部材と前記壁本体との間の空隙に対応させて接合することが望ましい。
このような付着物の除去方法によれば、水平部材と壁本体の周縁部との間を閉塞する閉塞部材が、壁本体に固定される壁本体固定部材と、水平部材側に当接されて壁本体固定部材と接合される当接固定部材とを有しているので、水平部材と壁本体との間の空隙の幅が変化したとしても、当接固定部材を水平部材側に当接させた状態で、壁本体固定部材と接合することにより、変化した幅に対応させて閉塞することが可能である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、外周部が付着物に覆われた水平部材が設けられた中空構造体内であっても複数の空間に区分けして付着物を除去することが可能な付着物の除去方法を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本実施形態の仕切り壁が設けられたエレベーターシャフトを説明するためのイメージ図である。
【図2】本実施形態の仕切り壁が設けられる中空構造体を説明するための平断面の概略図である。
【図3】本実施形態に係る付着物の除去方法の手順を示すフロー図である。
【図4】本実施形態に係る付着物の除去方法において上下に位置する鉄骨梁間に設けられた下地を説明するための縦断面図である。
【図5】本実施形態に係る付着物の除去方法において鉄筋コンクリート造の柱とALC板の側壁との間に設けられた壁本体を示す平断面図である。
【図6】本実施形態に係る付着物の除去方法において鉄筋コンクリート造の柱とALC板の側壁とにアンカーで支持された下地を示す正面図である。
【図7】上下に位置する鉄骨梁間に設けられた壁本体を示す縦断面図である。
【図8】上下の鉄骨梁を被覆しているアスベストと壁本体との間を閉塞部材にて閉塞した状態を示す縦断面図である。
【図9】本実施形態に係る付着物の除去方法において鉄筋コンクリート造の柱とALC板の側壁に設けられた仕切り壁を示す正面図である。
【図10】先作業空間側のアスベストを除去した状態を示す縦断面図である
【図11】側部閉塞部材、壁本体固定部材及び当接固定部材を壁本体から取り外して後作業空間側からもり換えた状態を示す縦断面図である。
【図12】アスベストが除去された鉄骨梁の先作業空間側にロックウールが施された状態を示す縦断面図である。
【図13】後作業空間側から設けられた仕切り壁を示す縦断面図である。
【図14】後作業空間側のアスベストを除去した状態を示す縦断面図である。
【図15】アスベストの除去及び耐火被覆の復旧が完了した状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態の付着物の除去方法の一例について図を用いて詳細に説明する。
本実施形態においては、除去すべき付着物が付着した中空構造体の内部空間の一例として、エレベーターシャフトを例に挙げて説明する。
【0018】
図1は、本実施形態の仕切り壁が設けられたエレベーターシャフトを説明するためのイメージ図である。図2は、本実施形態の仕切り壁が設けられる中空構造体を説明するための平断面の概略図である。
【0019】
本実施形態の付着物の除去方法は、中空構造体10の内部空間の一例としてのエレベーターシャフトEVS内において、水平部材としての鉄骨梁22を覆う耐火被覆として既に吹き付けられている付着物としてのアスベスト31(図4)を除去する方法であるが、アスベスト31に対する無害化処理と、無害化処理した部分に、アスベスト31と異なる新設付着物としてのロックウール46(図12)を耐火被覆として施す耐火被覆処理も含めて説明する。なお、鉄骨梁22は、剥き出しの鉄筋コンクリート(RC)造の柱23と剥き出しのALC(Autoclaved Light weight Concrete)板の側壁28との間に設けられている。
【0020】
以下の説明では、図に示すように、互いに直交する三方向をそれぞれ、エレベーターシャフト内を乗りかごが昇降する方向を上下方向(鉛直方向)、乗りかごに乗り降りするための開口が設けられた壁面に沿う方向を左右方向(水平方向)、及び、乗りかごに対して奥行き方向となる方向を前後方向(水平方向)として説明する。
【0021】
===エレベーターEVについて===
エレベーターEVは、図1に示すように、ビル等の建物の一部に区画されたエレベーターシャフトEVSと、このエレベーターシャフトEVS内を鉛直方向に沿って上下昇降可能に案内された乗りかご13と、エレベーターシャフトEVSの上方の機械室MR内に配置されて、つり合い重りWを備えた吊りロープRを用いて前記乗りかご13を吊り下げつつ上下昇降する巻き上げ機19と、を備えている。
【0022】
このエレベーターEVは、図2に示すように、所謂3連式のエレベーターEVであり、エレベーターシャフトEVS内には、3つの乗りかご13が左右方向に並列して設けられており、各乗りかご13は、それぞれに対応して機械室MRに設置された各巻き上げ機19によって、各昇降空間TR(TRL、TRC、TRR)に沿って独立に昇降動作をする。
【0023】
エレベーターシャフトEVSは、鉛直方向に長い直方体形状の空間である。詳しくは、鉄骨梁22と柱23と中間ビームとが組まれて構築された柱梁架構の一部が階床間に設けられている鉄骨梁22と、ALC板等のコンクリートパネルの側壁28とで鉛直方向に長い略直方体形状に区画されてエレベーターシャフトEVSの柱梁架構が構築されている。また、このエレベーターシャフトEVSには左右方向に並列して設けられた3つの乗りかご13の昇降空間TRのうち左の昇降空間(TRL)と中央の昇降空間(TRC)との間に、エレベーターシャフトEVSの前側すなわち出入口側に設けられた、不燃固化物としてのALC板の側壁28と、後側に設けられた、不燃固化物としての鉄筋コンクリート造の柱23との間に、アスベスト31にて被覆されたH形鋼でなる鉄骨梁22が設けられている。すなわち、鉄骨梁22が設けられている対向する2つの部位は、柱23と対向するALC板でなる側壁28と、鉄筋コンクリート造の柱23である。ここで、不燃固化物は、ALC板や鉄筋コンクリートの柱に限るものではないが、不燃固化物には、少なくともアスベスト31は含有されていない。
【0024】
また、エレベーターシャフトEVSの四方の側壁28の上端及び下端には、それぞれ、上スラブ下面10a及び下スラブ上面10bを有しており、これにより、エレベーターシャフトEVS内は、概ね上下前後左右の六方の全てが閉じた略閉空間になっている。
【0025】
なお、四方の側壁28のうちの前方の側壁28には、各乗りかご13及び建物の各階フロアーに対応させてエレベーターEVの乗り場出入口28aが開口形成されているとともに、各乗り場出入口28aには、左右にスライドする開閉扉29が設けられている。よって、乗りかご13の無い状態において前記開閉扉29が開くと、エレベーターシャフトEVS内は、建物側の空間であるエレベーターホールEVHと連通状態になる。
【0026】
ところで、上述からわかるように、エレベーターシャフトEVS内には、鉄筋コンクリート造の柱23と側壁28との間に鉄骨梁22が設けられている。このような鉄骨部材に対しては、建築基準法上、鉄骨が露出しないように耐火被覆が必須であり、以前はその素材として上記のようなアスベスト31が使用されていた。このため、現在も既存のエレベーターシャフトEVS内にはアスベストが露出していることがある。
【0027】
このようなアスベストに対しては、例えば、既存エレベーターEVの設備更新工事等に併せて、無害化処理が行われる。無害化処理としては、アスベストを剥がす等の物理的に取り除く除去処理や、薬液塗布等により塗布部分の表面を固めてその場にアスベストを封じ込める封じ込め処理、更には、板材等でアスベストの付着部分を囲って外に露出しないようにする囲い込み処理等が挙げられる。
【0028】
そして、何れの処理を行うにせよ、その処理作業時には、周囲にアスベストが飛散しないように、その作業空間WSを隔離密閉養生することが義務付けられている。
【0029】
しかし、上述したような3連式等の多連式エレベーターEVの場合にエレベーターシャフトEVS全体を隔離密閉養生すると、全てのエレベーターEVが使えなくなり著しく不便となるので、少なくとも1台のエレベーターEVを稼働状態としたままで無害化処理が実施できることが望ましい。
【0030】
このため、エレベーターシャフトEVS内を水平方向の左右に仕切って、前記作業空間WSを乗りかご13単位、つまり昇降空間TR単位(エレベーターEV単位)で密閉区画することが求められている。しかしながら、エレベーターシャフトEVS内の隣接する昇降空間の間は狭く、特に本実施形態のエレベーターシャフトEVSのように鉄骨梁22が設けられている場合には、水平方向において鉄骨梁22の外側には、昇降空間を密閉区画する、例えば隔壁を設けるスペースを確保することが難しい。また、隣接する昇降空間TRの間に配置された鉄骨梁22が処理すべき付着物で覆われているため、鉄骨梁22に隔壁を取り付けることが難しい。
【0031】
そこで、本実施形態の仕切り壁30は、鉄骨梁22が設けられた中空構造体10内であっても複数の空間に密閉区画することが可能な仕切り壁30により前記作業空間WS外の乗りかご13(昇降空間TR、エレベーターEV)の稼働を確保している。
【0032】
==本実施形態に係る付着物の除去方法を含む付着物の処理方法===
図3は、本実施形態に係る付着物の除去方法の手順を示すフロー図である。図4は、本実施形態に係る付着物の除去方法において上下に位置する鉄骨梁間に設けられた下地を説明するための縦断面図である。図5は、本実施形態に係る付着物の除去方法において鉄筋コンクリート造の柱とALC板の側壁との間に設けられた壁本体を示す平断面図である。図6は、本実施形態に係る付着物の除去方法において鉄筋コンクリート造の柱とALC板の側壁とにアンカーで支持された下地を示す正面図である。
【0033】
本実施形態では、3つの乗りかご13が左右に並列して設けられた3連式のエレベーターEVのエレベーターシャフトEVS内にて、最も左の昇降空間TRLと中央の昇降空間TRCとの間に設けられているRC造の柱23と、柱23と対向するALC板の側壁28との間にて、上下に設けられた鉄骨梁22を被覆しているアスベスト31の除去等を行うこととして説明する。本実施形態の付着物の除去方法は、図3に示すような手順にて行われる。
【0034】
上下に配置された鉄骨梁22に被覆されているアスベスト31の除去処理を行う場合には、まず、後作業空間WSAとなる、最も左の昇降空間TRLと、先作業空間WSBとなる中央の昇降空間TRCとの間に仕切り壁30を設置する。
【0035】
仕切り壁30は、最も左側の昇降空間TRLと中央の昇降空間TRCとの間にて各階床間に設けられている鉄骨梁22の間に設置する。以下の説明では、仕切り壁の設置方法を明確にすべく鉄骨梁22、RC造の柱(以下、柱という)23及びALC板の側壁28の周辺を主に説明する。また、中央側の昇降空間TRCを先に処理を行う先作業空間WSBといい、左の昇降空間TRLを先作業空間WSBより後に処理を行う後作業空間WSAという。
【0036】
仕切り壁30を設置する際には、まず、処理対象の昇降空間TR(ここでは先作業空間WSB)に位置する乗りかご13や吊りロープR等を取り外す。そして、図1に示すように中空構造体10の上スラブ下面10aから、処理対象の昇降空間TR内に吊りワイヤー73を垂下する。また、エレベーターシャフトEVSの下スラブ上面10b上に、作業ゴンドラ71を搬入するとともに、吊りワイヤー73の下端を作業ゴンドラ71の巻き上げ機75にセットする。これにより、作業ゴンドラ71は、処理対象のエレベーターEVの昇降空間TRにおいて使用可能な状態となる。作業者はこの作業ゴンドラ71を移動させつつアスベスト31の除去処理及び耐火被覆処理を実行する。また、エレベーターシャフトEVS内には作業空間内を換気すべく作業空間内の空気を吸い込む集塵機を備えておく。
【0037】
仕切り壁30を設置する際には、まず、図4に示すように、仕切り壁30が形成される位置を想定し、アスベスト31にて被覆された上下の鉄骨梁22、柱23及び側壁28にて囲まれる空間の内周面に飛散防止シート38を貼着する。
【0038】
この作業は、飛散防止シート38が貼着される箇所に、HEPAフィルター付きの掃除機の吸引口を向けて吸引しつつ作業を進める。このとき貼着する飛散防止シート38の幅は、形成される仕切り壁30の幅より十分広くしておく。
【0039】
次に、柱23と側壁28との対向する面において飛散防止シート38が貼着されている位置に、各々柱23及び側壁28と対向させて軽量形鋼材32を鉛直方向に沿わせて取り付ける。
【0040】
柱23と側壁28とに取り付ける軽量形鋼材32は、断面がコ字状をなし、上下の鉄骨梁22を被覆しているアスベスト31の表面間の間隔より約400mm短い長さに形成されている。また、コ字状すなわち溝状をなす軽量形鋼材(以下、縦軽量形鋼材という)32の底に相当する部分には、適宜間隔にて、後述するアンカー24が貫通される取付孔(不図示)が設けられている。
【0041】
縦軽量形鋼材32を柱23と側壁28とに取り付ける際には、図5に示すように、まず、柱23と側壁28との対向する面に、飛散防止シート38の上から上下方向に、縦軽量形鋼材32の取付孔の間隔と合わせてネジ棒でなる複数のアンカー24を螺合し、ナット25にて緩み止めしておく。また、柱23と側壁28の表面から約30mmの位置に縦軽量形鋼材32の位置決め兼固定用ナット25を螺合しておく。
【0042】
次に、コ字状をなす2本の縦軽量形鋼材32の開放された側が互いに対向するように配置し、取付孔に位置決め兼固定用ナット25が螺合されているアンカー24を挿入し、さらに固定用ナット25を螺合させて縦軽量形鋼材32を固定する。この状態にて、柱23と側壁28に支持された縦軽量形鋼材32の上端部と上の鉄骨梁22を被覆しているアスベスト31の表面に貼着された飛散防止シート38との距離と、下端部と下の鉄骨梁22を被覆しているアスベスト31の表面に貼着された飛散防止シート38との距離とがほぼ等しくなるように配置されている。
【0043】
次に、柱23と側壁28に支持された縦軽量形鋼材32の、対向している開放された部分間に、断面がC字状をなす軽量形鋼材(以下、横軽量形鋼材という)33を、横軽量形鋼材33の両端部を挿入させて配置し、ビスにて縦軽量形鋼材32に固定して、仕切り壁30の下地35を形成する。本実施形態おいては、縦軽量形鋼材32の上端部及び下端部と、それらの間に3本の横軽量形鋼材33をほぼ等間隔に設け、上端部及び下端部に配置される横軽量形鋼材33は開放された側が互いに対向するように配置されている。このため、最上及び最下に配置されたC字状、すなわち、溝状をなす横軽量形鋼材33の底に相当する部分は、鉄骨梁22に被覆されているアスベスト31に貼着された飛散防止シート38と対面するように配置される。このように、縦軽量形鋼材32と横軽量形鋼材33とを接合した下地35は、図6に示すように、柱23と側壁28に支持されている。
【0044】
次に、形成した下地35の、先作業空間WSB側、すなわち、中央の昇降空間TRC側から下地35の全面にペットシート36を、例えば両面テープ等にて貼着する。
【0045】
図7は、上下に位置する鉄骨梁間に設けられた壁本体を示す縦断面図である。
次に、図7に示すように、ペットシート36が貼着された下地35に、中央の昇降空間TRC側からガルバリウム鋼板37をビス止めする。このとき、ガルバリウム鋼板37は、下地35の面積より狭いので、複数枚のガルバリウム鋼板37を互いの端部同士が互いに重なり合うようにし、下地35の全面を覆うように下地35にビス止めする。ガルバリウム鋼板37には長手方向に沿う凹部が所定の間隔で複数設けられているが、隣接するガルバリウム鋼板37は、互いの端部に設けられた凹部同士が重なるように配置される。ここで、柱23及び側壁28にアンカー24を設ける作業からガルバリウム鋼板37をビス止めする作業までが壁本体保持工程S1に相当する。
【0046】
次に、図5に示すように、柱23及び側壁28と縦軽量形鋼材32及びガルバリウム鋼板37とが一体となった壁本体34との間を閉塞するために閉塞部材としての側部閉塞部材40を壁本体34に固定する。側部閉塞部材40は、壁本体34にビス止めされる縦固定板部40aと、縦固定板部40aの先端からほぼ直角に延出された側面当接板部40bとを有する、L字状をなす板金部材である。この側部閉塞部材40は、図5に示すように、柱23及び側壁28に貼着された飛散防止シート38に側面当接板部40bを当接させた状態で縦固定板部40aを壁本体34にビス止めする。このとき、縦固定板部40aを壁本体34の先作業空間WSB側、すなわち、中央の昇降空間TRC側のガルバリウム鋼板37に当接させるとともに、側面当接板部40bを縦固定板部40aより後作業空間WSA側、すなわち、左の昇降空間TRL側に位置させておく。また、側部閉塞部材40の上下方向の幅は、上下の鉄骨梁22の間隔より十分に狭いので、柱23及び側壁28と壁本体34との間を閉塞するためには、側部閉塞部材40を複数用い、上下に互いに隣り合う側部閉塞部材40は、互いの一部が重なり合うように配置して壁本体34にビス止めされる。
【0047】
図8は、上下の鉄骨梁を被覆しているアスベストと壁本体との間を閉塞部材にて閉塞した状態を示す縦断面図である。
次に、図8に示すように、上下の鉄骨梁22を被覆しているアスベスト31と縦軽量形鋼材32及びガルバリウム鋼板37とを有する壁本体34との間を閉塞するために閉塞部材としての上下閉塞部材41を壁本体34に固定する。上下閉塞部材41は、壁本体34の上部に取り付ける場合と下部に取り付ける場合とでは、上下の向きが相違するだけなので、ここでは主に上部に取り付ける場合を例に挙げて説明する。
【0048】
上下閉塞部材41は、ガルバリウム鋼板37と下地35とが一体となった壁本体34の端部にビス止めされる壁本体固定部材42と、アスベスト31に貼着された飛散防止シート38または鉄骨梁22に当接されて壁本体固定部材42にビス止めされる当接固定部材43とを有する板金部材である。
【0049】
壁本体固定部材42は、壁本体34の一方側の面の端部に当接されてビス止めされる壁面固定部42aと、壁面固定部42aの縁から延出されて最上位置の横軽量形鋼材33の上面または最下位置の横軽量形鋼材33の下面に沿わされる水平連結部42bと、水平連結部42bの縁から壁面固定部42aとは反対側に延出された上下延出部42cとが各々ほぼ直角をなすように設けられている。
【0050】
当接固定部材43は、壁本体固定部材42にビス止めされる横固定板部43aと、横固定板部43aの先端からほぼ直角に延出された平面当接板部43bとを有する、L字状をなす板金部材である。
【0051】
上下閉塞部材41を取り付ける際には、まず、壁本体固定部材42の水平連結部42bを横軽量形鋼材33の上面に沿わせた状態で壁面固定部42aをガルバリウム鋼板37に当接させてビス止めしておく。そして、当接固定部材43は、図8に示すように、アスベスト31に貼着された飛散防止シート38に平面当接板部43bを当接させた状態で横固定板部43aを壁本体固定部材42の上下延出部42cにビス止めする。このとき、横固定板部43aを壁本体34の先作業空間WSB側、すなわち、中央の昇降空間TRC側のガルバリウム鋼板37に当接させるとともに、平面当接板部43bを横固定板部43aより後作業空間WSA側、すなわち、左の昇降空間TRL側に位置させておく。
【0052】
また、壁本体固定部材42及び当接固定部材43の水平方向の幅は、柱23及び側壁28との間隔より十分に狭いので、上下の鉄骨梁22を被覆しているアスベスト31と壁本体34との間を閉塞するためには、壁本体固定部材42及び当接固定部材43を複数用い、水平方向に互いに隣り合う壁本体固定部材42及び当接固定部材43は、互いの一部が重なり合うように配置して壁本体34にビス止めされる。
【0053】
側部閉塞部材40、壁本体固定部材42及び当接固定部材43の壁本体34への取り付け後には、側部閉塞部材40と、柱23及び側壁28の飛散防止シート38との当接部分、当接固定部材43と上下の鉄骨梁22を被覆しているアスベスト31の飛散防止シート38との当接部分に中央の昇降空間TRC側からシール材39を充填する。
【0054】
その後、中央の昇降空間TRC側から、仕切り壁30の全面を覆い、仕切り壁30の縁部が当接されている飛散防止シート38の全周にわたるように、ペットシート36より剛性が低い養生シート50を貼着する。このとき、ペットシート36を用いても良いが、剛性が低い養生シート50の方が仕切り壁30の表面に沿い易いため、作業空間をより広く確保することが可能である。ここで、側部閉塞部材40及び上下閉塞部材41を取り付けシール材39を充填した後に養生シート50を貼着する作業が閉塞工程S2に相当する。
【0055】
図9は、本実施形態に係る付着物の除去方法において鉄筋コンクリート造の柱とALC板の側壁に設けられた仕切り壁を示す正面図である。
この状態にて、図9に示すような先作業空間WSBと後作業空間WSAとを仕切り密閉区画する仕切り壁30が完成する。ここで、シール材39の充填、及び、先作業空間WSB側から壁本体34を覆う養生シート50の貼着も閉塞工程に含まれる。
【0056】
仕切り壁30により先作業空間WSBと後作業空間WSAとが密閉状態に仕切られた後に、後作業空間WSAでは乗りかご13を昇降させてエレベーターEVを稼働させつつ先作業空間WSBにてドライアイスブラスト工法によりアスベスト31の除去処理を実行する(先処理工程S3)。
【0057】
アスベスト31の除去処理の際には、まず、先作業空間WSBに対する乗り場出入口28a等の隙間をポリエチレンシート等で密閉養生する。また、下スラブ上面10bには、その全面に亘り養生シート50を敷いて覆い、集塵機を稼働させ、作業空間WS内を負圧状態にしておく。
【0058】
次に、先作業空間WSBである中央の昇降空間TRC側にて、作業ゴンドラ71に乗りながら先作業空間WSBにて鉄骨梁22を被覆しているアスベスト31の付着部分へと接近し、先作業空間WSB側のアスベスト31をけれん棒等により掻き落とし、残ったアスベスト31を、ドライアイスブラスト装置を用いて除去していく。そして、アスベスト31が除去されて露出した部分に液体状の飛散防止剤を吹き付ける。
【0059】
図10は、先作業空間側のアスベストを除去した状態を示す縦断面図である。図11は、側部閉塞部材、壁本体固定部材及び当接固定部材を壁本体から取り外して後作業空間側からもり換えた状態を示す縦断面図である。
図10に示すように、先作業空間WSBのアスベスト31を除去した後に、先作業空間WSBから、仕切り壁30全体を覆う養生シート50を剥がすとともに、側部閉塞部材40、壁本体固定部材42及び当接固定部材43を壁本体34から取り外し、後作業空間WSA側からもり換える(もり換え工程S4)。
【0060】
この場合には、図11に示すように。側部閉塞部材40を、柱23及び側壁28に貼着された飛散防止シート38に側面当接板部40bを当接させた状態で縦固定板部40aを壁本体34に後作業空間WSA側からビス止めする。このとき、縦固定板部40aを壁本体34の後作業空間WSA側、すなわち、下地35の左の昇降空間TRL側の面に当接させると共に、側面当接板部40bを縦固定板部40aより先作業空間WSB側、すなわち、中央の昇降空間TRC側に位置させておく。
【0061】
また、壁本体固定部材42の水平連結部42bを横軽量形鋼材33の上面に沿わせた状態で壁面固定部42aを下地35の左の昇降空間TRL側の面に当接させてビス止めしておく。そして、当接固定部材43は、図11に示すように、アスベスト31が除去されて露出した鉄骨梁22に平面当接板部43bを当接させた状態で横固定板部43aを壁本体固定部材42の上下延出部42cにビス止めする。
【0062】
側部閉塞部材40、壁本体固定部材42及び当接固定部材43の壁本体34への取り付け後には、側部閉塞部材40と柱23及び側壁28の飛散防止シート38との当接部分、当接固定部材43と露出された上下の鉄骨梁22との当接部分に左の昇降空間TRL側からシール材39を充填する。その他の、側部閉塞部材40、壁本体固定部材42及び当接固定部材43の、もり換え時における手順は、先作業空間WSBから取り付ける場合と同じである。
【0063】
図12は、アスベストが除去された鉄骨梁の先作業空間側にロックウールが施された状態を示す縦断面図である。
側部閉塞部材40、壁本体固定部材42及び当接固定部材43を先作業空間WSBから後作業空間WSA側にもり換えた後、図12に示すように、先作業空間WSBの飛散防止剤が吹き付けられた部分に、新たな耐火被覆材としてロックウール46を吹き付けて先作業空間WSBでのアスベストの処理が完了する。
【0064】
次に、後作業空間WSA側のアスベストの除去処理を実行する。
後作業空間WSA側での処理に当たっては、中央の昇降空間TRCにてエレベーターEVを稼働させるため、まず、中央の昇降空間TRCの場合と同様に左の昇降空間TRLの乗りかご13や吊りロープR等を取り外す。そして、既にアスベスト31の除去処理が完了した中央の昇降空間TRCから吊りワイヤー73、作業ゴンドラ71、作業ゴンドラ71の巻き上げ機75、集塵機等を取り外して左の昇降空間TRLにセットする。また、中央の昇降空間TRCには、乗りかご13や吊りロープR等をセットして、エレベーターEVを稼働させる。
【0065】
図13は、後作業空間側から設けられた仕切り壁を示す縦断面図である。
次に、図13に示すように、左の昇降空間TRL側から、仕切り壁30の全面を覆い、仕切り壁30の縁部が当接されている左右の飛散防止シート38及び上下の鉄骨梁22にわたるように養生シート50を貼着する。
【0066】
図14は、後作業空間側のアスベストを除去した状態を示す縦断面図である。
次に、後作業空間WSAである左の昇降空間TRL側にて、作業ゴンドラ71に乗りながら後作業空間WSAにて鉄骨梁22を被覆しているアスベスト31の付着部分へと接近し、後作業空間WSA側のアスベスト31をけれん棒等により掻き落とし、残ったアスベスト31を、ドライアイスブラスト装置を用いて除去することにより図14に示すような状態となる(後処理工程S5)。
【0067】
図15は、アスベストの処理が完了した状態を示す縦断面図である。
後作業空間WSAにてアスベスト31の除去が終了したら、図15に示すように、アスベスト31が除去されて露出した部分に液体状の飛散防止剤を吹き付け、飛散防止剤が吹き付けられた部分に、新たな耐火被覆材としてロックウール46を吹き付ける。
【0068】
ロックウール46の吹き付けが終了した後、壁本体34、養生シート50、側部閉塞部材40、壁本体固定部材42及び当接固定部材43、即ち、仕切り壁30を撤去する。このとき当接固定部材43は、先作業空間WSBにて吹き付けたロックウール46と、後作業空間WSAにて吹き付けたロックウール46との間から引き抜くように撤去する。当接固定部材43を撤去した後には、図15に示すように、先作業空間WSBにて吹き付けたロックウール46と、後作業空間WSAにて吹き付けたロックウール46との間に当接固定部材43の厚み分の隙間が生じるので、この隙間にロックウール46を充填して補修する。図15では、隙間にロックウール46が充填された状態を示している。ロックウール46の補修が完了すると、左側の昇降空間TRLと、中央の昇降空間TRCにおけるアスベスト31の処理が完了する。
【0069】
本実施形態のアスベスト31の除去方法によれば、壁本体34にて、先作業空間WSBと後作業空間WSAとを区画するとともに、上下閉塞部材41にて鉄骨梁22を覆っているアスベスト31、及び、対向する柱23及び側壁28と、壁本体34の周縁部と、の間を閉塞した後に、先作業空間WSB側のアスベスト31を除去するので、除去されたアスベスト31が外部に飛散することを防止することが可能である。このとき、除去されたアスベスト31は後作業空間WSAに飛散しないので、後作業空間WSAは先作業空間WSBでのアスベスト31の除去作業に拘わらず使用することが可能である。また、先作業空間WSB側にて先にアスベスト31を除去した先処理工程S3後に、閉塞部材40、41をもり換えて、アスベスト31が除去された鉄骨梁22と壁本体34の周縁部との間を閉塞した後に、後作業空間WSA側にてアスベスト31を除去するので、除去されたアスベスト31が先作業空間WSBに飛散しない。このため、先作業空間WSBは後作業空間WSAでのアスベスト31の除去作業に拘わらず使用することが可能である。このように、外周部がアスベスト31に覆われた鉄骨梁22が設けられた中空構造体10内であっても複数の空間に区分けしてアスベスト31を除去することが可能なアスベスト31の除去方法を提供することが可能である。
【0070】
また、壁本体34を、不燃固化物でなる対向する柱23及び側壁28に設けられたアンカー24で保持させるので、壁本体34を鉄骨梁22の間に確実に保持させることが可能である。特に、鉄骨梁22側には保持させないので、アスベスト31に触れることなく壁本体34を形成することが可能である。
【0071】
また、アスベスト31の表面に設けた飛散防止シート38に、アスベスト31と壁本体34の周縁部との間を閉塞する上下閉塞部材41を当接させるので、上下閉塞部材41は直接アスベスト31に触れない。このため、上下閉塞部材41を設ける際にもアスベスト31が飛散することを防止することが可能である。
【0072】
柱23及び側壁28はアスベスト31にて覆われてはいないが、アスベスト31に覆われた鉄骨梁22と同じ中空構造体10内に設けられているので、鉄骨梁22にアスベスト31を付着させた際に、柱23及び側壁28にもアスベスト31が飛散している虞がある。このため、上記のように柱23及び側壁28の表面に設けられた飛散防止シート38の上からアンカー24を設けることにより、たとえ柱23及び側壁28の表面にアスベスト31が付着していたとしても、当該アスベスト31の飛散も防止することが可能である。
【0073】
また、先作業空間WSBにて除去する際には側部閉塞部材40及び上下閉塞部材41が先作業空間WSB側から固定されているので、先作業空間WSBでの除去が終了したときには、先作業空間WSB側から側部閉塞部材40及び上下閉塞部材41を取り外すことが可能であり、後作業空間WSA側にて除去する際には側部閉塞部材40及び上下閉塞部材41をもり換えて側部閉塞部材40及び上下閉塞部材41が後作業空間WSA側から固定されているので、後作業空間WSAでの各処理が終了したときには、後作業空間WSA側から側部閉塞部材40及び上下閉塞部材41を取り外すことが可能である。このため、側部閉塞部材40及び上下閉塞部材41をもり換えることにより効率良くアスベスト31を除去することが可能である。
【0074】
また、先作業空間WSBにてアスベスト31を除去した後に、側部閉塞部材40及び上下閉塞部材41をもり換えておくので、アスベスト31が除去されて生じた空隙を、もり換えた上下閉塞部材41にて閉塞することが可能である。このため、後作業空間WSA側にてアスベスト31を除去する時にも先作業空間WSBと後作業空間WSAとを互いに閉塞した状態で区画して作業することが可能である。
【0075】
また、鉄骨梁22と壁本体34の周縁部との間の空隙は、アスベスト31が除去される前と後とでは、上下方向における空隙の幅が相違する。このため、壁本体34の上下に位置する鉄骨梁22との間を閉塞する上下閉塞部材41が上下方向において閉塞する幅を調整可能であれば、たとえ先作業空間WSB側のアスベスト31の除去により空隙が広くなったとしても、後作業空間WSA側にて除去する際に、上下閉塞部材41により閉塞される幅を調整することにより、先処理工程S3にて広がった空隙を閉塞して区画することが可能である。
【0076】
また、アスベスト31と壁本体34の周縁部との間を閉塞する上下閉塞部材41が、壁本体34に固定される壁本体固定部材42と、鉄骨梁22側に当接されて壁本体固定部材42と接合される当接固定部材43とを有しているので、当接固定部材43をアスベスト31側に当接させた状態で、壁本体固定部材42と接合することにより、鉄骨梁22と壁本体34との間の空隙に対応させて確実に閉塞することが可能である。
【0077】
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
【0078】
上述の実施形態では、中空構造体10の内部空間の一例としてエレベーターシャフトEVSを示したが、何等これに限るものではなく、多連式のタワーパーキング(立体駐車場とも言い、タワー状構造物の内部空間に、複数の自動車を上下昇降するための無端の周回軌道を設けたもの)を中空構造体として、これに適用しても良い。すなわち、タワーパーキングの内部空間には、複数の周回軌道が水平方向の左右に並列に設けられており、各周回軌道は、それぞれ独立に周回運動可能である。
【0079】
本実施形態においては。水平部材を鉄骨梁22としたが、これに限らず例えば中間ビームであっても構わない。
【0080】
上記実施形態においては、鉄骨梁22が柱23と側壁28との間に設けられている例について説明したが、鉄骨梁22との水平部材は柱同士または側壁同士など、セメント組成物やプラスターボード等の不燃固化物でなる部位の間に設けられているものであれば構わない。
【0081】
また、本実施形態においては、アスベスト31を除去した鉄骨梁22に施す新たな耐火被覆材をロックウール46としたが、これに限らず、例えば耐火材をシートにて被覆してマット状に形成した巻き付け耐火被覆材、たとえば、ニチアス株式会社製マキベエ(登録商標)を用いても良い。この場合には、マット状の部材をビス止めするので施工性が良く、施工後には塵がほとんど発生しない。また、先作業空間WSBにて取り付けた耐火被覆材と、後作業空間WSAにて取り付けた耐火被覆材との間の隙間は、耐火材を被覆しているシールを重ねて固定するだけなので、更に施工性に優れている。
【0082】
上述の実施形態では、養生シート50は一枚ものであるように説明したが、これに限らず、養生シート50を適宜なサイズの複数のシートから構成し、これらを粘着テープ等によって繋ぎ合わせて上記の仕切り壁30の大きさまで大きくしても良い。また、ガルバリウム鋼板37のような壁部材を重ね合わせただけで十分な密閉空間が形成できれば、養生シートは必ずしも設けなくてもよい。また、重ね合わせた壁部材の継ぎ目にシール材を充填しても良い。
【0083】
また、下地35に取り付けて空間を仕切る壁部材は、ガルバリウム鋼板37に限るものではなく、設置するエレベーターシャフトEVSに合わせた板材であれば構わない。例えば、隣接する昇降空間にて乗りかごが高速にて昇降するエレベーターの場合には、仕切り壁が高い風圧を受けるので、壁面材として剛性の高い板材を用いることが望ましい。また、軽量形鋼材32を角パイプ材としたが、これに限るものではなく、設置するエレベーターシャフトEVSに合わせた鋼材であれば構わない。この場合にも、隣接する昇降空間にて乗りかごが高速にて昇降するエレベーターの場合には、仕切り壁が高い風圧を受けるので、下地材として剛性の高い鋼材を用いることが望ましい。その他の使用材についても同様である。
【0084】
上述の実施形態では、エレベーターシャフトEVS内に乗りかご13が無い状態でアスベストの除去を行う場合を例示したが、エレベーターシャフトEVS内に乗りかご13が在る状態でアスベスト除去を行っても良い。
【0085】
上述の実施形態では、エレベーターシャフトEVS内に作業ゴンドラ71を持ち込んでアスベストの処理作業を行っていたが、各エレベーターEV(昇降空間TR)が具備する乗りかご13を作業ゴンドラ71の代わりに使用しても良い。すなわち、乗りかご13の屋根面に作業者が乗って処理作業を行っても良い。
【0086】
上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0087】
10 中空構造体、10a 上スラブ下面、10b 下スラブ上面、
19 巻き上げ機、22 鉄骨梁、23 柱(対向する2つの部位の一方)、
24 アンカー、25 ナット、28 側壁(対向する2つの部位の他方)、
28a 乗り場出入口、29 開閉扉、30 仕切り壁、31 アスベスト、
32 縦軽量形鋼材、33 横軽量形鋼材、34 壁本体、35 下地、
36 ペットシート、37 ガルバリウム鋼板、38 飛散防止シート、
39 シール材、40 側部閉塞部材、40a 縦固定板部、
40b 側面当接板部、41 上下閉塞部材、42 壁本体固定部材、
42a 壁面固定部、42b 水平連結部、42c 上下延出部、
43 当接固定部材、43a 横固定板部、43b 平面当接板部、
46 ロックウール、50 養生シート、71 ゴンドラ、73 ワイヤー、
75 巻き上げ機、
EV エレベーター、EVH エレベーターホール、EVS エレベーターシャフト、
MR 機械室、R ロープ、TR 昇降空間、TRC 中央の昇降空間、
TRL 左の昇降空間、TRR 右の昇降空間、
WS 作業空間、WSA 後作業空間、WSB 先作業空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体を上下昇降する複数の昇降空間が左右方向に並設された内部空間を有する中空構造体内の前記昇降空間の間にて、前記内部空間を形成して前後方向にて対向する2つの部位間に設けられ、外周部が付着物に覆われた水平部材の、前記付着物を除去する付着物の除去方法であって、
前記水平部材は、上下方向に間隔を隔てて複数設けられており、
上下方向に互いに間隔を隔てて配置された2本の前記水平部材の間に、各々の前記水平部材を覆う前記付着物との間、及び、前記対向する2つの部位との間に空隙を設けるとともに、前記中空構造体内を、前記付着物が先に除去される先作業空間と、後で除去される後作業空間とに区画する壁本体を前記対向する2つの部位に保持させる壁本体保持工程と、
前記水平部材を覆っている前記付着物、及び、前記対向する2つの部位と、前記壁本体の周縁部と、の間を閉塞部材にて閉塞する閉塞工程と、
前記先作業空間側にて前記付着物を除去する先処理工程と、
前記閉塞部材を、前記先処理工程にて前記付着物が除去された前記水平部材と前記壁本体の周縁部との間を閉塞すべくもり換えるもり換え工程と、
前記もり換え工程の後に、前記後作業空間側にて前記付着物を除去する後処理工程と、
を有することを特徴とする付着物の除去方法。
【請求項2】
請求項1に記載の付着物の除去方法であって、
前記対向する2つの部位は、いずれも不燃固化物であり、
前記壁本体を、前記不燃固化物に設けられたアンカーに保持させることを特徴とする付着物の除去方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の付着物の除去方法であって、
前記水平部材を覆っている前記付着物の表面に飛散防止シートを設け、
前記付着物と、前記壁本体の周縁部と、の間を閉塞する前記閉塞部材は、前記飛散防止シートに当接させることを特徴とする付着物の除去方法。
【請求項4】
請求項3に記載の付着物の除去方法であって、
前記アンカーは、前記不燃固化物の、前記飛散防止シートが設けられている部分に設けることを特徴とする付着物の除去方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の付着物の除去方法であって、
前記閉塞部材は、前記先処理工程時には、前記先作業空間側から固定されており、
前記もり換え工程にて、前記後作業空間側から固定することを特徴とする付着物の除去方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の付着物の除去方法であって、
前記閉塞部材は、上下方向において閉塞する幅を調整可能であることを特徴とする付着物の除去方法。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の付着物の除去方法であって、
前記閉塞部材は、前記壁本体に固定される壁本体固定部材と、
前記水平部材側に当接されて前記壁本体固定部材と接合される当接固定部材と、
を有し、
前記壁本体固定部材と前記当接固定部材とは、前記水平部材と前記壁本体との間の空隙に対応させて接合することを特徴とする付着物の除去方法。

【図3】
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【図4】
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【図7】
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【図15】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−86911(P2013−86911A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−228171(P2011−228171)
【出願日】平成23年10月17日(2011.10.17)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】