説明

位相特性推定装置並びにそれを備えた位相補正装置及び信号発生装置並びに位相特性推定方法

【課題】試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性を推定して位相特性の平坦化に資することができる位相特性推定装置並びにそれを備えた位相補正装置及び信号発生装置並びに位相特性推定方法を提供する。
【解決手段】信号発生装置1は、互いに異なる周波数の2つのCWを合成した合成CWを出力する信号出力部10と、合成CWを直交変調して直交変調信号を出力する直交変調器16と、直交変調信号の電力レベルを調整するレベル調整器20と、位相特性を推定する位相特性推定器30とを備え、位相特性推定器30は、合成CWの振幅値に基づいて隣接間位相差を算出する位相差算出部31と、隣接間位相差のデータに基づいて所定の周波数帯域における位相特性を推定する位相特性推定部33とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯通信端末や放送関連機器等の電子通信装置に対する特性試験において供給される変調試験信号の位相特性を推定する位相特性推定装置並びにそれを備えた位相補正装置及び信号発生装置並びに位相特性推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子通信装置等において送受信される信号は一般に搬送波信号をベースバンド信号で変調した変調信号である。したがって、各種電子通信装置の特性試験を行う際には、信号発生装置で変調試験信号を発生させ、この変調試験信号を被試験装置に供給して、被試験装置の出力信号を測定装置で測定することにより、被試験装置の各種特性を評価することができる。
【0003】
従来、この種の変調試験信号を発生する装置としては、例えば、特許文献1に記載された波形生成装置が知られている。特許文献1記載のものは、波形情報を記憶した複数の波形情報記憶手段と、各波形情報記憶手段から波形情報を読み出して各波形の振幅を所望の振幅にして出力する振幅制御手段と、所望の振幅にされた複数の波形を合成する合成演算手段と、合成した複数の波形の信号を変調する変調器とを有する。
【0004】
この構成により、特許文献1記載のものは、複数の変調試験信号間の位相差や連続性を保ちつつ、リアルタイムで振幅比率を変更しながら希望の波形を出力することができるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−29862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、電子通信装置等の特性試験においては、通信情報量の増加に対応するため、より広範な周波数範囲にわたって変調試験信号を発生できる信号発生器が求められるようになってきた。
【0007】
しかしながら、特許文献1記載の従来の技術では、合成対象である複数の変調試験信号間において位相差や振幅比率を一定にできるものではあったが、試験対象の周波数範囲全体にわたって変調試験信号の位相特性を平坦化することはできなかった。
【0008】
そのため、従来は、例えばネットワークアナライザを信号発生装置に接続し、基準の変調試験信号と各変調試験信号との間の位相差を予め求め、複数の変調試験信号間での位相特性が平坦となるよう補正して被試験装置を試験する構成となっていた。その結果、従来技術による試験では、試験工程が煩雑となって試験時間が長時間化していた。
【0009】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性を推定することができる位相特性推定装置並びに位相特性の平坦化を図ることができる位相補正装置及び信号発生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の請求項1に係る位相特性推定装置は、位相特性の推定対象の周波数範囲に含まれる予め定められた複数の周波数信号のうち、周波数が互いに異なる2つの周波数信号を合成した合成信号を出力する信号出力手段(10、50)と、前記合成信号を変調した変調信号を出力する変調信号出力手段(16)と、前記変調信号の出力開始時における位相を示す初期位相を求めて前記2つの周波数信号間の位相差を算出する位相差算出手段(31)と、前記位相差算出手段が算出した位相差に基づいて前記周波数範囲の位相特性を推定する位相特性推定手段(33)とを備えた構成を有している。
【0011】
この構成により、本発明の請求項1に係る位相特性推定装置は、位相差算出手段が、2つの周波数信号が合成されて生成された変調信号の初期位相に基づいて2つの周波数信号間の位相差を算出するので、試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性を推定することができる。
【0012】
本発明の請求項2に係る位相特性推定装置は、前記信号出力手段は、予め定められた1つの基準周波数の基準周波数信号と、前記基準周波数とは異なる周波数の複数の異周波数信号とのうち、周波数が互いに隣接する2つの周波数信号を合成した合成信号を出力するものであり、前記位相特性推定手段は、前記基準周波数信号に隣接する異周波数信号と前記基準周波数信号との間の位相差を基準として前記周波数範囲の位相特性を推定するものである構成を有している。
【0013】
この構成により、本発明の請求項2に係る位相特性推定装置は、位相特性推定手段が、基準周波数信号に隣接する異周波数信号と基準周波数信号との間の位相差を基準として周波数範囲の位相特性を推定するので、試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性を推定することができる。
【0014】
本発明の請求項3に係る位相特性推定装置は、前記信号出力手段は、予め定められた1つの基準周波数の基準周波数信号と、前記基準周波数とは異なる周波数の複数の異周波数信号のいずれか1つの信号とを合成した合成信号を出力するものであり、前記位相特性推定手段は、前記基準周波数信号と前記各異周波数周波数信号との間の位相差に基づいて前記周波数範囲の位相特性を推定するものである構成を有している。
【0015】
この構成により、本発明の請求項3に係る位相特性推定装置は、位相特性推定手段が、基準周波数信号と各異周波数周波数信号との間の位相差に基づいて周波数範囲の位相特性を推定するので、試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性を推定することができる。
【0016】
本発明の請求項4に係る位相特性推定装置は、前記周波数範囲が複数に分割された分割周波数範囲ごとに、予め定められた1つの基準周波数の基準周波数信号と、前記基準周波数とは異なる周波数の複数の異周波数信号のいずれか1つの信号とを合成した合成信号を出力するものであり、前記位相特性推定手段は、前記分割周波数範囲ごとの、前記基準周波数信号と前記各異周波数信号との間の位相差に基づいて前記周波数範囲の位相特性を推定するものである構成を有している。
【0017】
この構成により、本発明の請求項4に係る位相特性推定装置は、位相特性推定手段が、分割周波数範囲ごとの、基準周波数信号と各異周波数信号との間の位相差に基づいて周波数範囲の位相特性を推定するので、試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性を推定することができる。
【0018】
本発明の請求項5に係る位相補正装置は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の位相特性推定装置と、前記位相特性推定手段が推定した位相特性に基づいて、前記周波数範囲内の周波数を有する入力信号の位相特性を補正する位相補正手段(40)とを備えた構成を有している。
【0019】
この構成により、本発明の請求項5に係る位相補正装置は、位相特性推定手段が推定した位相特性に基づいて入力信号の位相特性を補正して位相特性の平坦化を図ることができる。
【0020】
本発明の請求項6に係る位相補正装置は、前記位相補正手段は、前記入力信号の位相特性を補正するデジタルフィルタ(42)と、前記位相特性推定手段が推定した位相特性に基づいて前記デジタルフィルタのフィルタ定数を設定するフィルタ定数設定部(41)とを備えた構成を有している。
【0021】
この構成により、本発明の請求項6に係る位相補正装置は、デジタルフィルタにより入力信号の位相特性を補正することによって、位相特性の平坦化を図ることができる。
【0022】
本発明の請求項7に係る信号発生装置は、請求項5又は請求項6に記載の位相補正装置と、前記位相特性推定装置が前記位相特性を推定するモードを示す位相推定モードと、前記位相補正装置が位相補正した信号を出力するモードを示す信号出力モードとを切り替えるモード切替手段(13)と、予め定められた周波数の搬送波信号を生成して前記変調信号出力手段に出力する搬送波信号生成手段(15)とを備え、前記信号出力手段は、前記位相補正モードにおいて前記合成信号を出力し、前記信号出力モードにおいて前記変調信号出力手段が前記搬送波信号を変調するベースバンド信号を出力するものである構成を有している。
【0023】
この構成により、本発明の請求項7に係る信号発生装置は、位相推定モードにおいて推定した位相特性に基づいて位相特性を補正した変調信号を信号出力モードにおいて出力することができる。
【0024】
本発明の請求項8に係る位相特性推定方法は、位相特性の推定対象の周波数範囲に含まれる予め定められた複数の周波数信号のうち、周波数が互いに異なる2つの周波数信号を合成した合成信号を出力する合成信号出力ステップ(S22、S23)と、前記合成信号を変調した変調信号を出力する変調信号出力ステップ(S24)と、前記変調信号の出力開始時における位相を示す初期位相を求めて前記2つの周波数信号間の位相差を算出する位相差算出ステップ(S27)と、前記位相差算出ステップにおいて算出した位相差に基づいて前記周波数範囲の位相特性を推定する位相特性推定ステップ(S31)とを含む構成を有している。
【0025】
この構成により、本発明の請求項8に係る位相特性推定方法は、変調信号の初期位相に基づいて試験対象の周波数範囲の位相特性を推定するので、試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性を推定することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性を推定することができるという効果を有する位相特性推定装置並びにそれを備えた位相補正装置及び信号発生装置を提供することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る信号発生装置の第1実施形態におけるブロック構成図である。
【図2】本発明に係る信号発生装置の第1実施形態における隣接間位相差の説明図である。
【図3】本発明に係る信号発生装置の第1実施形態において、2つのCW間の位相差を求める手順の説明図である。
【図4】本発明に係る信号発生装置の第1実施形態において、初期位相が正又は負の場合の検波信号を示す図である。
【図5】本発明に係る信号発生装置の第1実施形態において、全体的な動作を示すフローチャートである。
【図6】本発明に係る信号発生装置の第1実施形態において、位相推定モードでの動作を示すフローチャートである。
【図7】本発明に係る信号発生装置の第1実施形態において、推定位相特性のデータと、デジタルフィルタの位相特性とを例示した図である。
【図8】本発明に係る信号発生装置の第1実施形態において、信号出力モードでの動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明に係る信号発生装置の第2実施形態における基準間位相差の説明図である。
【図10】本発明に係る信号発生装置の第2実施形態において、位相推定モードでの動作を示すフローチャートである。
【図11】本発明に係る信号発生装置の第3実施形態における基準間位相差の説明図である。
【図12】本発明に係る信号発生装置の第3実施形態において、位相推定モードでの動作を示すフローチャートである。
【図13】本発明に係る信号発生装置の他の態様における信号出力部のブロック構成図である。
【図14】本発明に係る信号発生装置の他の態様において、第1実施形態に対応した信号出力部における、複数の合成信号データの波形例を示す図である。
【図15】本発明に係る信号発生装置の他の態様において、第2実施形態に対応した信号出力部における、複数の合成信号データの波形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
【0029】
(第1実施形態)
まず、本発明に係る信号発生装置の第1実施形態における構成について説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施形態における信号発生装置1は、信号出力部10、モード切替スイッチ13、デジタルアナログ変換器(以下「DAC」という。)14、局部発振器15、直交変調器16、増幅器17、制御部18、レベル調整器20、位相特性推定器30、位相補正部40を備えている。信号出力部10は、波形データ記憶部11と信号合成部12とを含む。この信号出力部10は、本発明に係る信号出力手段を構成する。
【0031】
この信号発生装置1は、位相特性推定器30によって位相特性を推定するモードを示す位相推定モードと、位相補正部40によって変調試験信号の位相特性を補正して被試験装置(図示せず)に出力するモードを示す信号出力モードとを有する。
【0032】
波形データ記憶部11は、デジタル値の波形データを記憶する第1メモリ11a及び第2メモリ11bを備えている。デジタル値の波形データは、例えば、図示しないDSP(Digital Signal Processor)によって生成される。なお、第1メモリ11a及び第2メモリ11bが記憶する波形データは、互いに同一の波形データであってもよいし、互いに異なる波形データであってもよい。
【0033】
第1メモリ11a及び第2メモリ11bは、それぞれ、所定周波数のI相成分(同相成分)及びQ相成分(直交成分)のベースバンドのCW(Continuous Wave)波形データと、被試験装置を試験するために用意されたI相成分及びQ相成分のベースバンドの波形データ(以下、単に「試験波形データ」という。)とを予め記憶するようになっている。
【0034】
また、第1メモリ11a及び第2メモリ11bは、位相推定モードにおいて、制御部18が出力する波形指定信号に基づいて、制御部18が指定した、互いに異なる周波数のCW波形データをそれぞれ出力するようになっている。
【0035】
さらに、第2メモリ11bは、信号出力モードにおいて、制御部18が出力する波形指定信号に基づいて、制御部18が指定した試験波形データを出力するようになっている。なお、第2メモリ11bに代えて第1メモリ11aが、信号出力モードにおいて、制御部18が指定した波形データを出力する構成であってもよい。
【0036】
信号合成部12は、位相推定モードにおいて、第1メモリ11a及び第2メモリ11bが出力する、互いに異なる周波数のCWを合成し、合成CWを出力するようになっている。その結果、位相推定モードにおいて、信号合成部12より後段の各要素は、信号合成部12が出力する合成CWを処理することとなる。
【0037】
モード切替スイッチ13は、制御部18が出力するスイッチ動作信号に基づいて、入力及び出力を切り替えるようになっている。具体的には、モード切替スイッチ13は、位相推定モードにおいては、実線で示したように、信号合成部12とDAC14とを接続する。一方、モード切替スイッチ13は、信号出力モードにおいては、破線で示したように、第2メモリ11bを、後述するデジタルフィルタ42を介してDAC14に接続する。なお、モード切替スイッチ13は、本発明に係るモード切替手段を構成する。
【0038】
DAC14は、モード切替スイッチ13が出力する信号をデジタル値からアナログ値に変換し、アナログ値に変換した信号を直交変調器16に出力するようになっている。
【0039】
局部発振器15は、制御部18が出力する局発制御信号に基づいて、所定周波数の局部発振信号を生成し、直交変調器16に出力するようになっている。この局部発振器15は、本発明に係る搬送波信号生成手段を構成する。
【0040】
直交変調器16は、位相推定モードにおいては、局部発振器15からの局部発振信号を合成CW波形データにより直交変調し、直交変調信号を増幅器17に出力するようになっている。一方、直交変調器16は、信号出力モードにおいては、局部発振器15からの局部発振信号を、第2メモリ11bが出力する試験波形データにより直交変調し、直交変調信号を増幅器17に出力するようになっている。そして、直交変調器16は、直交変調とともにベースバンドからRFへの周波数変換を行っている。なお、直交変調器16は、本発明に係る変調信号出力手段を構成する。
【0041】
増幅器17は、直交変調器16が出力する直交変調信号を増幅し、レベル調整器20に出力するようになっている。
【0042】
制御部18は、例えばマイクロコンピュータによって構成されており、装置全体の制御を行うようになっている。また、制御部18は、図示のように、波形指定信号、スイッチ(SW)動作信号、局発制御信号及びトリガ信号を出力するようになっている。以下、これらの信号について説明する。
【0043】
まず、波形指定信号は、位相推定モード及び信号出力モードにおいて、波形データ記憶部11に出力させる波形データを制御部18が指定するための制御信号である。
【0044】
特に、位相推定モードにおいて、制御部18は、位相特性推定器30に位相特性を推定させるためのCWの周波数を図2に示すように指定して波形データ記憶部11に出力指示する。
【0045】
図2において、周波数fからf(iは1以上の整数)までの周波数範囲を位相特性の推定対象の周波数範囲とし、この周波数範囲をi等分している。また、互いに隣接する周波数信号間の位相差(以下「隣接間位相差」という。)をθで示している。ここで、例えば周波数fを位相特性推定の基準周波数とし、周波数fからfまでの周波数範囲で隣接間位相差をそれぞれ求めれば、周波数fの信号の位相を基準として周波数範囲全体の位相特性を推定することができる。
【0046】
なお、周波数範囲を分割する際の周波数間隔は、試験内容に応じて適宜決めることができる。また、図示の例では、周波数範囲を等間隔で分割しているが、これに限定されない。例えば、位相差が比較的大きくなると予想される周波数近傍では、隣接周波数の間隔を他の周波数間隔よりも狭めるのが好ましい。また、図2においては、周波数範囲の最小周波数である周波数fを位相特性推定の基準周波数としたが、本発明はこれに限定されない。
【0047】
図1に戻り、スイッチ動作信号は、位相推定モードと信号出力モードとをモード切替スイッチ13に切り替えさせるため、制御部18がモード切替スイッチ13に出力する制御信号である。
【0048】
また、局発制御信号は、位相推定モード及び信号出力モードにおいて、局部発振器15が生成する局部発振信号の周波数を指定するため、制御部18が局部発振器15に出力する制御信号である。
【0049】
トリガ信号は、位相推定モードにおいて、後述するように、レベル変調器20が出力する変調信号の初期位相に基づいて、位相差算出部31が位相差を算出するので、レベル変調器20の信号出力タイミングと、位相差算出部31の位相差算出タイミングとを同期させるため、制御部18が位相差算出部31に出力する制御信号である。
【0050】
レベル調整器20は、可変アッテネータ21、検波器22、アナログデジタル変換器(以下「ADC」という。)23、レベル制御部24、DAC25を備えている。
【0051】
可変アッテネータ21は、レベル制御部24からの減衰量設定信号に従って、増幅器17の出力信号の電力レベルを減衰するための減衰量が設定されるようになっている。所定の電力レベルに減衰された信号は、検波器22及び被試験装置に出力される。
【0052】
検波器22は、可変アッテネータ21の出力信号を検波し、ADC23に出力するようになっている。
【0053】
ADC23は、検波器22が検波したアナログ値の信号をデジタル値の信号に変換するようになっている。
【0054】
レベル制御部24は、ADC23の出力信号の信号レベルを検出し、検出した信号レベルに基づいて、可変アッテネータ21の出力信号の電力値が例えば−10dBmの電力値となるよう、デジタル値の減衰量設定信号をDAC25に出力するようになっている。
【0055】
DAC25は、レベル制御部24の減衰量設定信号をデジタル値からアナログ値に変換して可変アッテネータ21に出力するようになっている。
【0056】
位相特性推定器30は、位相差算出部31、位相差記憶部32、位相特性推定部33を備えている。この位相特性推定器30は、信号出力部10、直交変調器16とともに、本発明に係る位相推定装置を構成する。
【0057】
位相差算出部31は、ADC23からの合成CWの振幅成分に基づいて、第1メモリ11a及び第2メモリ11bが順次出力する、互いに異なる周波数のCWの位相差を順次算出するようになっている。この位相差算出部31は、本発明に係る位相特性推定手段を構成する。
【0058】
具体的には、図2に示したように、第1メモリ11a及び第2メモリ11bが、それぞれ、周波数f及びf、f及びf、・・・、fi−1及びfのCWを順次出力した場合、位相差算出部31は、隣接間位相差θ、θ、・・・、θを順次算出するようになっている。この算出方法については後述する。
【0059】
位相差記憶部32は、位相差算出部31が算出した隣接間位相差θ〜θのデータを順次記憶するようになっている。
【0060】
位相特性推定部33は、位相差記憶部32が記憶した隣接間位相差のデータに基づいて、所定の周波数帯域における位相特性を推定するようになっている。位相特性推定部33が推定した推定位相特性のデータは、位相補正部40に出力される。なお、位相特性推定部33は、本発明に係る位相特性推定手段を構成する。
【0061】
位相補正部40は、フィルタ定数設定部41、デジタルフィルタ42を備えている。この位相補正部40は、本発明に係る位相補正手段を構成する。
【0062】
フィルタ定数設定部41は、推定位相特性のデータに基づいて、デジタルフィルタ42を通過する信号の位相特性が平坦になるよう、デジタルフィルタ42のフィルタ定数を設定するようになっている。
【0063】
デジタルフィルタ42は、フィルタ定数設定部41によってフィルタ定数が設定されることにより、信号出力モードにおいて入力する信号の位相特性を平坦化して出力するようになっている。
【0064】
次に、本実施形態における位相特性推定器30が位相特性を推定する原理について説明する。
【0065】
まず、[数1]及び[数2]に示すように、周波数がf及びf(f>f)の2つのCWを想定する。ここで、Aは各CWの振幅、tは時間を示す。また、θは2つのCW間の位相差である。
【0066】
【数1】

【0067】
【数2】

【0068】
次に、上記2つのCWを合成すると合成波S(t)は[数3]で示される。[数3]に示すように、合成波S(t)の振幅成分には位相差θが含まれている。
【0069】
【数3】

【0070】
[数3]において合成波S(t)の振幅成分をAs(t)と表すと、この振幅成分As(t)は次式で示される。
【0071】
【数4】

【0072】
レベル調整器20の検波器22(図1参照)においては直交変調信号に対して電力の検波が行われるため、[数4]に示した振幅成分As(t)を電力に換算すると[数5]が得られる。
【0073】
【数5】

【0074】
[数5]において、(f−f)は2つのCWの周波数差、すなわち「うねり」を示しており、位相差θは電力P(t)の余弦波成分の初期位相に相当する。したがって、図1において、検波器22が出力する検波信号の電力カーブから初期位相を推定することにより、位相差θが求まることがわかる。以下、検波信号の初期位相をθexと表して説明する。
【0075】
初期位相θexが未知である検波信号の電力Pex(t)は[数6]で表される。
【0076】
【数6】

【0077】
初期位相θexを求めるためには、[数6]に示した検波信号と、その検波信号と同じ周波数で位相ずれのない余弦信号、すなわち、cos(2πft)とを掛け合わせ、得られた電力を周期範囲で積分するという方法が考えられる。この電力を推定電力Pestと表すと、推定電力Pestは[数7]により得られる。
【0078】
【数7】

【0079】
[数7]より、[数8]が得られる。
【数8】

【0080】
[数8]により、初期位相θexを求めることができるので、2つのCW間の位相差θが求まる。ただし、[数8]で初期位相θexが求まるのは、0≦θex<πの範囲の場合である。
【0081】
次に、本実施形態における信号発生装置1における位相特性の推定について以下に示す。
【0082】
まず、第1メモリ11a及び第2メモリ11bは、それぞれ、[数1]及び[数2]で示した2つのCWを信号合成部12に出力する。そして、信号合成部12は、この2つのCWを合成する。
【0083】
次に、図3(a)に示すように、検波器22が検波した合成CWの1周期についてm個のサンプリングを行って、離散的な電力値のデータ列P(n)を取得する。ここで、サンプリング周波数をfs、サンプリング周期をTsで表すと、n番目のサンプリング点における時刻tは[数9]で示される。ただし、nは、0から(m−1)までの整数である。また、mは[数10]で示される。
【0084】
【数9】

【0085】
【数10】

【0086】
図3(a)において、Pは、検波信号の平均電力値である。平均電力値Pは、[数11]により算出することができる。
【0087】
【数11】

【0088】
次に、[数12]により、図3(a)に示したデータ列P(n)を図3(b)に示すデータ列P(n)に変換する。このデータ列P(n)は、原点に対して対称な余弦信号を離散的に表したものである。
【0089】
【数12】

【0090】
ところで、データ列P(n)と周波数が同じで位相ずれがなく、振幅が1のデータ列P(n)は[数13]で表され、図3(c)に示す。
【0091】
【数13】

【0092】
次に、[数14]に示すように、データ列P(n)とデータ列P(n)とを掛け合わせ、検波信号の1周期範囲で積分して推定電力値Pestを算出する。
【0093】
【数14】

【0094】
次に、[数15]により、初期位相θexを求める。
【0095】
【数15】

【0096】
初期位相θexは、正又は負のいずれかの値を有する。そのため、[数15]により求めたθexのみでは、検波信号の波形が、図4に示す2つの波形A又はBのいずれかであるかが不明である。そこで、[数16]及び[数17]にそれぞれ示す余弦信号と、検波器22が出力する検波信号との相関を計算し、相関係数が高い方の初期位相θexを、2つのCW間の隣接間位相差θとする。なお、相関を求める際、計算対象の信号点としては、n=0からn=(m−1)までの1周期分としてもよいが、例えばn=0からn=2までの3点程度でもよい。
【0097】
【数16】

【0098】
【数17】

【0099】
次に、本実施形態における信号発生装置1の動作について、図1に示したブロック構成図を適宜参照しながら説明する。
【0100】
最初に、信号発生装置1の全体的な動作について、図5に示すフローチャートを用いて説明する。
【0101】
制御部18は、位相推定モード及び信号出力モードにおいて使用する所定データを入力する(ステップS11)。ここで、所定データとしては、例えば、試験対象の周波数範囲、位相特性を推定する基準周波数、隣接間位相差を求めるための各周波数、発生する信号波形、局部発周波数等のデータである。これらのデータは、利用者が例えばキーボードを操作することにより制御部18に入力される。
【0102】
続いて、制御部18は、モード切替スイッチ13を動作させて位相推定モードに設定する(ステップS12)。その結果、信号合成部12とDAC14とが直列に接続された状態となる。
【0103】
次に、制御部18は、位相推定モードでの動作を行う(ステップS20)。
【0104】
位相推定モードでの動作が終了すると、制御部18は、モード切替スイッチ13を動作させて信号出力モードに設定する(ステップS13)。その結果、第2メモリ11bとデジタルフィルタ42とDAC14とが直列に接続された状態となる。
【0105】
そして、制御部18は、信号出力モードでの動作を行う(ステップS40)。
【0106】
次に、図5に示したステップS20における位相推定モードでの動作について、図6に示すフローチャートを用いて説明する。なお、位相特性の推定対象の周波数範囲と、周波数範囲の分割数iは、予め設定されているものとする。
【0107】
まず、制御部18は、周波数の番号を示す変数Iに1を代入する(ステップS21)。
【0108】
続いて、制御部18は、周波数fI−1及びfIのCW波形データ(デジタル値)を、それぞれ、第1メモリ11a及び第2メモリ11bから信号合成部12に出力させる(ステップS22)。この動作は、制御部18が波形指定信号を第1メモリ11a及び第2メモリ11bに出力することによって実行される。
【0109】
次に、信号合成部12は、周波数fI−1のCWと周波数fIのCWとを合成し(ステップS23)、合成CWをDAC14に出力する。
【0110】
DAC14は、デジタル値の合成CWをアナログ値の合成CWに変換し、直交変調器16に出力する。
【0111】
直交変調器16は、局部発振器15が出力する局部発振信号に基づいて、合成CWの直交変調及び周波数変換を行って(ステップS24)、直交変調信号を増幅器17に出力する。なお、局部発振器15の周波数は、ステップS11(図5参照)において入力した局部発周波数のデータに基づいて制御部18によって設定されている。
【0112】
増幅器17は、直交変調信号を所定の増幅率で増幅し、レベル調整器20に出力する。レベル調整器20は、可変アッテネータ21の減衰量を所定の固定値に設定して直交変調信号を減衰する(ステップS25)。
【0113】
具体的には、レベル調整器20において、レベル制御部24は、制御部18からの指示に基づき、可変アッテネータ21の減衰量が所定の固定値となるようなデジタル値の減衰量設定信号をDAC25に出力する。DAC25は、入力したデジタル値の減衰量設定信号をアナログ値の信号に変換して、可変アッテネータ21に出力する。この減衰量を所定の固定値とするための減衰量設定信号の値は、適切な位相推定が可能となる値を計算や実験により求めて決定しておく。可変アッテネータ21は、増幅器17の出力信号のレベルを所定の固定値だけ減衰し、検波器22に出力する。検波器22は、入力信号を検波してADC23に出力する。なお、減衰量に所定の固定値を用いる代わりに、位相推定を行う直前に波形データ記憶部11から単一のCW信号を出力し、レベル調整器20においてそのCW信号でレベル調整を行い、その場合の減衰量設定信号の値を固定値として用いてもよい。
【0114】
ADC23の出力信号は、位相特性推定器30の位相差算出部31にも出力される。位相差算出部31は、ADC23から入力した直交変調信号に基づき、周波数fI−1及びfIのCWについて前述の[数15]により初期位相差θexを求める(ステップS26)。
【0115】
そして、位相差算出部31は、[数16]及び[数17]にそれぞれ示す余弦信号と、検波器22が出力する検波信号(ADC23の出力信号)との相関を計算し、相関係数が高い方の初期位相θexを、2つのCW間の隣接間位相差θとする(ステップS27)。この隣接間位相差θのデータは、位相差記憶部32によって記憶される(ステップS28)。
【0116】
制御部18は、I=iか否かを判断する(ステップS29)。ステップS29において、I=iと判断されなかった場合は、Iを"1"だけ増加し(ステップS30)、ステップS22に戻る。
【0117】
一方、ステップS29において、I=iと判断された場合、すなわち、位相差算出部31が隣接間位相差θ〜θを求めた場合は、位相特性推定部33は、位相差記憶部32から隣接間位相差θ〜θのデータを読み出して、周波数fの信号の位相を基準として周波数範囲全体(f〜f)の位相特性を推定する(ステップS31)。
【0118】
位相特性推定部33が推定した位相特性のデータは、フィルタ定数設定部41に出力され、フィルタ定数設定部41は、この位相特性のデータに基づいてデジタルフィルタ42のフィルタ定数を設定する(ステップS32)。
【0119】
図7は、位相特性推定部33が推定した推定位相特性Cと、フィルタ定数設定部41によってフィルタ定数が設定されたデジタルフィルタ42の位相特性Dとを模式的に例示したものである。図7に示すように、デジタルフィルタ42の位相特性Dが推定位相特性Cを相殺するよう、フィルタ定数設定部41がデジタルフィルタ42のフィルタ定数を設定することにより、デジタルフィルタ42を通過する信号の位相特性が平坦化されることとなる。なお、位相特性推定部33は、位相差算出部31が算出した隣接間位相差に基づき、例えば補間処理によって、周波数範囲全体の位相特性を推定する。
【0120】
次に、図5に示したステップS40における信号出力モードでの動作を、図8に示すフローチャートを用いて説明する。
【0121】
まず、制御部18は、波形指定信号を第2メモリ11bに出力し、第2メモリ11bが記憶している波形データ(デジタル値)のうち所定の試験波形データを第2メモリ11bに出力させる(ステップS41)。
【0122】
次に、デジタルフィルタ42は、モード切替スイッチ13を介して試験波形データを入力し、この試験波形データの位相特性を平坦化する(ステップS42)。
【0123】
次に、DAC14は、デジタルフィルタ42が出力する試験波形データをアナログ値の試験波形データに変換し、直交変調器16に出力する。
【0124】
直交変調器16は、局部発振器15が出力する局部発周波数の局発信号に基づいて、試験波形データの直交変調を行って(ステップS43)、直交変調信号を増幅器17に出力する。なお、局部発振器15の周波数は、ステップS11(図5参照)において入力された局部発周波数のデータに基づいて制御部18によって設定されている。
【0125】
増幅器17は、直交変調信号を所定の増幅率で増幅し、レベル調整器20に出力する。レベル調整器20は、直交変調信号の電力レベルが例えば−10dBmとなるよう、可変アッテネータ21の減衰値を可変して電力レベルを調整する(ステップS44)。具体的には、レベル調整器20において、可変アッテネータ21は、増幅器17の出力信号レベルを、レベル制御部24から減衰量設定信号に基づいて所定値に減衰し、検波器22に出力する。検波器22は、入力信号を検波してADC23に出力する。ADC23は、入力したアナログ値の信号をデジタル値の信号に変換して、レベル制御部24に出力する。レベル制御部24は、入力信号のレベルに基づき、可変アッテネータ21に出力信号のレベルが制御部18から指示された値(例えば−10dBm)となるようなデジタル値の減衰量設定信号をDAC25に出力する。DAC25は、入力したデジタル値の減衰量設定信号をアナログ値の信号に変換して、可変アッテネータ21に出力する。このようにレベル調整器20で微細なレベル調整が行われた後、不図示のステップアッテネータによって大まかなレベル調整(例えば5dB単位)が行われる。そして、所定の電力レベルに調整した直交変調信号を被試験装置に出力する(ステップS45)。
【0126】
以上のように、本実施形態における信号発生装置1は、隣接間位相差θ〜θを求めて試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性を推定する位相特性推定器30を備えるので、試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性を推定することができる。
【0127】
また、本実施形態における信号発生装置1は、位相特性推定器30が推定した推定位相特性に基づいて位相特性を補正する位相補正部40を備えるので、試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性の平坦化を図ることができる。
【0128】
また、本実施形態における信号発生装置1は、従来とは異なり、位相特性の推定のためにネットワークアナライザ等の解析機器を必要としないので、設備費を大幅に節減することができるとともに、より容易な操作で位相特性の推定や補正を行うことができる。
【0129】
(第2実施形態)
本実施形態における信号発生装置は、前述の第1実施形態における信号発生装置1(図1参照)と構成は同じであるが、位相差の求め方が第1実施形態と異なる。本実施形態における制御部18は、位相推定モードにおいて、位相特性推定器30に位相特性を推定させるためのCWの周波数を図9に示すように指定して波形データ記憶部11に指示する。
【0130】
図9において、周波数fからf(iは1以上の整数)までの周波数範囲を位相特性の推定対象の周波数範囲とし、この周波数範囲をi等分している。また、周波数fを位相特性推定の基準周波数とし、周波数fの基準周波数信号と他の異周波数信号間の位相差(以下「基準間位相差」という。)をθで示している。したがって、位相差算出部31が、周波数fからfまでの周波数範囲で基準間位相差をそれぞれ求めれば、位相特性推定部33は、周波数fの基準周波数信号の位相を基準として周波数範囲全体の位相特性を推定することができる。
【0131】
次に、本実施形態における位相推定モードでの動作を、図1に示すブロック構成図、図10に示すフローチャートを用いて説明する。なお、第1実施形態における位相推定モードでの動作のフローチャート(図6参照)と異なるステップを中心に説明する。また、位相特性の推定対象の周波数範囲と、周波数範囲の分割数iは、予め設定されているものとする。
【0132】
まず、制御部18は、周波数の番号を示す変数Iに1を代入する(ステップS21)。
【0133】
続いて、制御部18は、例えば、周波数fのCW波形データを第1メモリ11aから、周波数fIのCW波形データを第2メモリ11bから、それぞれ、信号合成部12に出力させる(ステップS51)。この動作は、制御部18が波形指定信号を第1メモリ11a及び第2メモリ11bに出力することによって実行される。
【0134】
ステップS23〜ステップS26の処理後、位相差算出部31は、[数16]及び[数17]にそれぞれ示す余弦信号と、検波器22が出力する検波信号との相関を計算し、相関係数が高い方の初期位相θexを、2つのCW間の基準間位相差θとする(ステップS52)。この基準間位相差θのデータは、位相差記憶部32によって記憶される(ステップS53)。
【0135】
位相差算出部31が基準間位相差θ〜θを算出した後、ステップS31において、位相特性推定部33は、位相差記憶部32から基準間位相差θ〜θのデータを読み出して、周波数範囲全体(f〜f)の位相特性を推定することとなる。
【0136】
なお、本実施形態における信号発生装置の信号出力モードでの動作は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0137】
以上のように、本実施形態における信号発生装置は、基準間位相差θ〜θを求めて試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性を推定する位相特性推定器30を備えるので、試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性を推定することができる。
【0138】
また、本実施形態における信号発生装置は、位相特性推定器30が推定した推定位相特性に基づいて位相特性を補正する位相補正部40を備えるので、試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性の平坦化を図ることができる。
【0139】
(第3実施形態)
本実施形態における信号発生装置は、前述の第1実施形態における信号発生装置1(図1参照)と構成は同じであるが、位相差の求め方が第1実施形態と異なる。本実施形態における制御部18は、位相推定モードにおいて、位相特性推定器30に位相特性を推定させるためのCWの周波数を図11に示すように指定して波形データ記憶部11に指示する。
【0140】
図11において、周波数fからfi+j(i、jは1以上の整数)までの周波数範囲を位相特性の推定対象の周波数範囲とし、この周波数範囲を(i+j)等分している。また、周波数fからfまでを第1分割周波数範囲、周波数fからfi+jまでを第2分割周波数範囲としている。さらに、第1分割周波数範囲における基準周波数を周波数f、第2分割周波数範囲における基準周波数を周波数fとし、周波数範囲全体の基準周波数を周波数fとしている。
【0141】
第1分割周波数範囲において、基準周波数である周波数fの基準周波数信号と他の異周波数信号間の基準間位相差をθで示している。また、第2分割周波数範囲において、基準周波数である周波数fの基準周波数信号と他の異周波数信号間の基準間位相差をθi+jで示している。
【0142】
したがって、位相差算出部31が、分割周波数範囲ごとに基準間位相差をそれぞれ求めれば、位相特性推定部33は、周波数fの基準周波数信号の位相を基準として周波数範囲全体の位相特性を推定することができる。位相特性の推定対象の周波数範囲を複数に分割することにより、分割しない場合よりも基準間位相差の精度を向上させることができ、試験対象の周波数範囲の広範化を図ることができる。
【0143】
次に、本実施形態における位相推定モードでの動作を、図1に示すブロック構成図、図12に示すフローチャートを用いて説明する。なお、第1実施形態における位相推定モードでの動作のフローチャート(図6参照)と異なるステップを中心に説明する。また、位相特性の推定対象の周波数範囲と、周波数範囲の分割数i、jは、予め設定されているものとする。
【0144】
まず、制御部18は、第1分割周波数範囲における周波数の番号を示す変数Iに1を代入する(ステップS21)。
【0145】
続いて、制御部18は、例えば、周波数fのCW波形データを第1メモリ11aから、周波数fIのCW波形データを第2メモリ11bから、それぞれ、信号合成部12に出力させる(ステップS61)。この動作は、制御部18が波形指定信号を第1メモリ11a及び第2メモリ11bに出力することによって実行される。
【0146】
次に、第2実施形態のフローチャート(図10参照)におけるステップS23〜S26、S52、S53と同等の処理を実行する(ステップS62)。
【0147】
制御部18は、I=iか否かを判断する(ステップS29)。ステップS29において、I=iと判断されなかった場合は、Iを"1"だけ増加し(ステップS30)、ステップS61に戻る。
【0148】
一方、ステップS29において、I=iと判断された場合、すなわち、位相差算出部31が第1分割周波数範囲の基準間位相差θ〜θを求めた場合は、制御部18は、第2分割周波数範囲における周波数の番号を示す変数Mに1を代入する(ステップS63)。
【0149】
続いて、制御部18は、例えば、周波数fのCW波形データを第1メモリ11aから、周波数fi+MのCW波形データを第2メモリ11bから、それぞれ、信号合成部12に出力させる(ステップS64)。この動作は、制御部18が波形指定信号を第1メモリ11a及び第2メモリ11bに出力することによって実行される。
【0150】
次に、第2実施形態のフローチャート(図10参照)におけるステップS23〜S26、S52、S53と同等の処理を実行する(ステップS65)。
【0151】
制御部18は、M=jか否かを判断する(ステップS66)。ステップS66において、M=jと判断されなかった場合は、Mを"1"だけ増加し(ステップS67)、ステップS64に戻る。
【0152】
一方、ステップS66において、M=jと判断された場合、すなわち、位相差算出部31が第2分割周波数範囲の基準間位相差θi+1〜θi+jを求めた場合は、位相特性推定部33は、位相差記憶部32から基準間位相差θ〜θi+jのデータを読み出して、周波数範囲全体(f〜fi+j)の位相特性を推定する(ステップS31)。
【0153】
位相特性推定部33が推定した位相特性のデータは、フィルタ定数設定部41に出力され、フィルタ定数設定部41は、この位相特性のデータに基づいてデジタルフィルタ42のフィルタ定数を設定する(ステップS32)。
【0154】
なお、本実施形態における信号発生装置の信号出力モードでの動作は、第1実施形態と同様であるので説明を省略する。
【0155】
以上のように、本実施形態における信号発生装置は、試験対象の周波数範囲を2つに分割し、分割した周波数範囲ごとに基準間位相差を求めて周波数範囲全体にわたって位相特性を推定する位相特性推定器30を備えるので、試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性を推定することができる。
【0156】
また、本実施形態における信号発生装置は、位相特性推定器30が推定した推定位相特性に基づいて位相特性を補正する位相補正部40を備えるので、試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性の平坦化を図ることができる。
【0157】
なお、前述の実施形態では、試験対象の周波数範囲を2つに分割する例を挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、試験対象の周波数範囲を3つ以上に分割する構成としてもよい。
【0158】
(他の態様)
次に、前述の第1実施形態乃至第3実施形態の他の態様について説明する。
【0159】
信号発生装置1は、図1における信号出力部10の代わりに図13に示す信号出力部50を備える構成としてもよい。信号出力部50は、波形データ記憶部51を備えている。波形データ記憶部51は、デジタルのベースバンド信号データを記憶するようになっており、そのベースバンド信号データとして、位相推定モードで出力される合成信号のデータである合成信号データと、信号出力モードで出力される試験波形データを記憶している。合成信号データは、位相推定モードで必要な複数i個だけ記憶されている。
【0160】
ここで、第1実施形態に対応した信号出力部50における、複数の合成信号データの波形を図14に示す。図14(a)に示した合成信号データは、0[Hz]とfb1[Hz]の2つのCW信号が合成されたものになっており、fb1=f−f(図2参照)の関係を満たしている。同様に、図14(b)の場合はfb1[Hz]とfb2[Hz]の2つのCW信号が合成されたもので、fb2=f−f(図2参照)の関係を満たしており、図14(c)の場合はfb(i−1)[Hz]とfbi[Hz]の2つのCWが合成されたもので、fbi=f−f(図2参照)の関係を満たしている。
【0161】
位相推定モードにおいて、これらの合成信号が出力されてDAC14でアナログ値に変換され、直交変調器16で直交変調する際、発振周波数f[Hz]の局部発振器15によって周波数変換される。これにより、出力される合成信号のデータが図14(a)の場合、直交変調器16の出力信号は、f[Hz]とf[Hz]の2つのCW信号が合成されたものになる。同様に、図14(b)の場合はf[Hz]とf[Hz]、図14(c)の場合はfi−1[Hz]とf[Hz]の2つのCW信号が合成されたものが直交変調器16から出力される。このようにして、信号出力部50は、複数i個の合成信号データを順次出力することにより、位相推定モードにおいて必要な信号(図2参照)を出力することができる。
【0162】
次に、第2実施形態に対応した信号出力部50における、複数の合成信号データの波形を図15に示す。図15(a)に示した合成信号データは、0[Hz]とfb1[Hz]の2つのCW信号が合成されたものになっており、fb1=f−f(図9参照)の関係を満たしている。同様に、図15(b)の場合は0[Hz]とfb2[Hz]の2つのCW信号が合成されたもので、fb2=f−f(図9参照)の関係を満たしており、図15(c)の場合は0[Hz]とfbi[Hz]の2つのCW信号が合成されたもので、fbi=f−f(図9参照)の関係を満たしている。そして、前述の図14の合成信号データに対する説明と同様に、複数i個の合成信号データを順次出力することにより、位相推定モードにおいて必要な信号(図9参照)を出力することができる。なお、第3実施形態についても、複数(i+j)個の合成信号データを記憶した波形データ記憶部51を備える信号出力部50により対応可能である。
【0163】
前述のように信号出力部50を構成することにより、信号合成部12とモード切替スイッチ13の入力側の切替機能とが不要となるので、より簡易な構成で位相推定を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0164】
以上のように、本発明に係る位相特性推定装置並びにそれを備えた位相補正装置及び信号発生装置並びに位相特性推定方法は、試験対象の周波数範囲全体にわたって位相特性を推定することができるという効果を有し、携帯通信端末や放送関連機器等の電子通信装置に対する特性試験において供給される変調試験信号の位相特性を推定する位相特性推定装置並びにそれを備えた位相補正装置及び信号発生装置並びに位相特性推定方法として有用である。
【符号の説明】
【0165】
1 信号発生装置
10、50 信号出力部(信号出力手段)
11、51 波形データ記憶部
11a 第1メモリ
11b 第2メモリ
12 信号合成部
13 モード切替スイッチ(モード切替手段)
14、25 DAC
15 局部発振器(搬送波信号生成手段)
16 直交変調器(変調信号出力手段)
17 増幅器
18 制御部
20 レベル調整器
21 可変アッテネータ
22 検波器
23 ADC
24 レベル制御部
30 位相特性推定器
31 位相差算出部(位相差算出手段)
32 位相差記憶部
33 位相特性推定部(位相特性推定手段)
40 位相補正部(位相補正手段)
41 フィルタ定数設定部
42 デジタルフィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位相特性の推定対象の周波数範囲に含まれる予め定められた複数の周波数信号のうち、周波数が互いに異なる2つの周波数信号を合成した合成信号を出力する信号出力手段(10、50)と、
前記合成信号を変調した変調信号を出力する変調信号出力手段(16)と、
前記変調信号の出力開始時における位相を示す初期位相を求めて前記2つの周波数信号間の位相差を算出する位相差算出手段(31)と、
前記位相差算出手段が算出した位相差に基づいて前記周波数範囲の位相特性を推定する位相特性推定手段(33)とを備えたことを特徴とする位相特性推定装置。
【請求項2】
前記信号出力手段は、予め定められた1つの基準周波数の基準周波数信号と、前記基準周波数とは異なる周波数の複数の異周波数信号とのうち、周波数が互いに隣接する2つの周波数信号を合成した合成信号を出力するものであり、
前記位相特性推定手段は、前記基準周波数信号に隣接する異周波数信号と前記基準周波数信号との間の位相差を基準として前記周波数範囲の位相特性を推定するものであることを特徴とする請求項1に記載の位相特性推定装置。
【請求項3】
前記信号出力手段は、予め定められた1つの基準周波数の基準周波数信号と、前記基準周波数とは異なる周波数の複数の異周波数信号のいずれか1つの信号とを合成した合成信号を出力するものであり、
前記位相特性推定手段は、前記基準周波数信号と前記各異周波数周波数信号との間の位相差に基づいて前記周波数範囲の位相特性を推定するものであることを特徴とする請求項1に記載の位相特性推定装置。
【請求項4】
前記信号出力手段は、前記周波数範囲が複数に分割された分割周波数範囲ごとに、予め定められた1つの基準周波数の基準周波数信号と、前記基準周波数とは異なる周波数の複数の異周波数信号のいずれか1つの信号とを合成した合成信号を出力するものであり、
前記位相特性推定手段は、前記分割周波数範囲ごとの、前記基準周波数信号と前記各異周波数信号との間の位相差に基づいて前記周波数範囲の位相特性を推定するものであることを特徴とする請求項1に記載の位相特性推定装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の位相特性推定装置と、
前記位相特性推定手段が推定した位相特性に基づいて、前記周波数範囲内の周波数を有する入力信号の位相特性を補正する位相補正手段(40)とを備えたことを特徴とする位相補正装置。
【請求項6】
前記位相補正手段は、前記入力信号の位相特性を補正するデジタルフィルタ(42)と、
前記位相特性推定手段が推定した位相特性に基づいて前記デジタルフィルタのフィルタ定数を設定するフィルタ定数設定部(41)とを備えたことを特徴とする請求項5に記載の位相補正装置。
【請求項7】
請求項5又は請求項6に記載の位相補正装置と、
前記位相特性推定装置が前記位相特性を推定するモードを示す位相推定モードと、前記位相補正装置が位相補正した信号を出力するモードを示す信号出力モードとを切り替えるモード切替手段(13)と、
予め定められた周波数の搬送波信号を生成して前記変調信号出力手段に出力する搬送波信号生成手段(15)とを備え、
前記信号出力手段は、前記位相補正モードにおいて前記合成信号を出力し、前記信号出力モードにおいて前記変調信号出力手段が前記搬送波信号を変調するベースバンド信号を出力するものであることを特徴とする信号発生装置。
【請求項8】
位相特性の推定対象の周波数範囲に含まれる予め定められた複数の周波数信号のうち、周波数が互いに異なる2つの周波数信号を合成した合成信号を出力する合成信号出力ステップ(S22、S23)と、
前記合成信号を変調した変調信号を出力する変調信号出力ステップ(S24)と、
前記変調信号の出力開始時における位相を示す初期位相を求めて前記2つの周波数信号間の位相差を算出する位相差算出ステップ(S27)と、
前記位相差算出ステップにおいて算出した位相差に基づいて前記周波数範囲の位相特性を推定する位相特性推定ステップ(S31)とを含むことを特徴とする位相特性推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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