説明

位置補正機能付き作業機械

【課題】高い剛性を維持するとともに、ツールホルダに取り付けられる道具を、前記ツールホルダの径方向にミクロンオーダで高精度に位置補正することを可能にする。
【解決手段】工作機械10を構成するツールホルダ20は、スピンドル16に固着される基台部22と、道具、例えば、ボーリングバー24が取り付けられる道具取り付け部26と、前記基台部22と前記道具取り付け部26とを連結する弾性変形部28と、前記ツールホルダ20に対して、前記スピンドル16の回転方向に交差する径方向に移動可能な作動軸部材30と、前記作動軸部材30の移動動作を、前記道具取り付け部26の軸方向に対する傾動動作に変換させる変換機構32と、前記作動軸部材30を前記径方向に移動させる移動機構34とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、スピンドルと一体的に回転可能なツールホルダに、道具が取り付けられる位置補正機能付き作業機械に関する。
【背景技術】
一般的に、ツールホルダに取り付けられた道具、例えば、加工工具を介してワークに加工処理を施す工作機械(作業機械)が種々使用されている。例えば、エンジンブロックを構成するシリンダのボーリング加工は、内筒径寸法をミクロンオーダで高精度に加工する必要がある。
ところが、例えば、自動車のエンジンでは、量産工程で同一の刃先により加工を行うと、CBN工具等の硬質工具であっても、前記刃先に摩耗が発生する。従って、工具の刃先は、摩耗により加工径が小さくなるため、一定の穴径を維持するように、補正機能を有する補正ツールホルダが採用されている。
例えば、特許文献1に開示されている工作機の刃先位置調整装置が知られている。この特許文献1は、ワークに対して、X、Y、Z軸駆動モータを制御して、スピンドル先端の刃具による加工を行う工作機であって、スピンドルをスピンドルヘッドに回転自在に支持し、スピンドルには先端に工具ホルダを着脱自在に装着し、その工具ホルダは、スピンドル回転軸心から偏心した位置に調整軸を回転自在に備え、その調整軸を回動することで、工具ホルダに半径方向に位置変位可能に設けてある刃具の半径方向刃先位置を調整するように構成されている工作機において、工作機の固定側に調整軸と係脱する回転阻止部材を設け、スピンドルヘッドを、前記X、Y軸駆動モータでスピンドル軸線と直交するX、Y軸方向に移動するようにし、回転阻止部材に調整軸を係止した状態で、スピンドルヘッドをX、Y軸方向に制御して調整軸の軸線回りにスピンドルを旋回させる制御手段を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】 特開2002−36009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の特許文献1では、工具ホルダ本体にスリットが設けられており、弾性変形することによって刃先位置を調整するように構成されている。このため、工具ホルダ自体の剛性が低下するという問題がある。
本発明はこの種の加工装置において、高い剛性を維持するとともに、ツールホルダに取り付けられる道具を、前記ツールホルダの径方向にミクロンオーダで高精度に位置補正することが可能な位置補正機能付き作業機械を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明に係る位置補正機能付き作業機械は、スピンドルと一体的に回転可能なツールホルダを備えている。このツールホルダは、スピンドルに固着される基台部と、道具が取り付けられる道具取り付け部と、前記基台部と前記道具取り付け部とを連結する弾性変形部と、前記ツールホルダに対して、前記スピンドルの回転方向に交差する径方向に移動可能な作動軸部材と、前記作動軸部材の移動動作を、前記道具取り付け部の前記軸方向に対する傾動動作に変換させる変換機構と、前記作動軸部材を前記径方向に移動させる移動機構とを備えている。
そして、弾性変形部は、径方向に互いに平行に設けられる第1及び第2貫通孔と、前記第1及び第2貫通孔に連通し且つそれぞれ径方向外方に延在して外部に開放される第1及び第2スリットとを設けている。
一方、移動機構は、作動軸部材の両端に設けられる2つの第1ピストンを有する油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータに油圧経路を介して連通するとともに、前記第1ピストンよりも小径な第2ピストンを設け、前記第2ピストンの移動作用下に前記第1ピストンを径方向に移動させる油圧発生部とを備えている。
また、基台部、道具取り付け部、弾性変形部、作動軸部材、変換機構及び移動機構は、同一のハウジングに設けられることが好ましい。
さらに、道具取り付け部は、道具が取り付けられる先端部に平坦形状の取り付け面を設けることが好ましい。
さらにまた、油圧発生部は、ツールホルダの外部から第2ピストンを押圧して前記第2ピストンの移動作用下に一定量の油を油圧アクチュエータに供給するために、前記第2ピストンに設けられる押圧部と、前記押圧部を前記ツールホルダの外部に向かって付勢するスプリングとを備えることが好ましい。
さらに、油圧アクチュエータは、各第1ピストンにより形成される第1油圧室及び第2油圧室を有し、油圧発生部は、第1の油圧経路を介して前記第1油圧室に連通し、作動軸部材を径方向の一方に移動させる第1の油圧発生部と、第2の油圧経路を介して前記第2油圧室に連通し、前記作動軸部材を前記径方向の他方に移動させる第2の油圧発生部とを備えることが好ましい。
さらにまた、第1油圧室及び第2油圧室は、第1の油圧路及び第2の油圧路を介して油タンクに連通するとともに、第1の前記油圧路は、第1の油圧発生部が操作される際に閉塞される一方、第2の前記油圧路は、第2の油圧発生部が操作される際に閉塞されることが好ましい。
また、変換機構は、各第1ピストンに設けられ、径方向外方に向かって道具取り付け部から離間する方向に傾斜する2つのテーパ部材と、前記道具取り付け部に、前記テーパ部材に対向して設けられる2つの接触部材とを備えることが好ましい。
さらに、道具取り付け部には、各接触部材を各テーパ部に押圧させる与圧ねじが螺合することが好ましい。
さらにまた、この作業機械は、油圧発生部を外部から操作する操作機構を備え、前記操作機構は、第2ピストンを押圧する押圧部材と、前記押圧部材を第2ピストンに向かって付勢するスプリングとを備えることが好ましい。
また、この作業機械は、ツールホルダ内に設けられ、作動軸部材の原点位置を検出する位置検出センサと、前記ツールホルダに着脱自在であり、前記位置検出センサからの信号を受けて前記作動軸部材が原点位置に配置されたか否かを表示する表示部とを備えることが好ましい。
【発明の効果】
本発明に係る位置補正機能付き作業機械では、油圧発生部を構成する第2ピストンが押圧(操作)されると、この油圧発生部内の油圧が加圧される。加圧された油圧は、油圧経路を通って油圧アクチュエータに送られる。
その際、油圧アクチュエータを構成する第1ピストンは、第2ピストンよりも大径に設定されている。このため、第1ピストンには、第2ピストンとの面積比による油圧の増圧分が作用し、前記第2ピストンが比較的小さな力で押圧されても、前記第1ピストンには、油圧を介して大きな力が作用する。
従って、変換機構と弾性変形部との間に大きな摩擦力が作用していても、第2ピストンを比較的小さな力で押圧することにより、前記変換機構を所望の量だけ確実に補正移動させることができる。これにより、高い剛性を維持するとともに、ツールホルダに取り付けられる道具を、前記ツールホルダの径方向にミクロンオーダで高精度に位置補正することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施形態に係る位置補正機能付き作業機械である工作機械の斜視説明図である。
【図2】 前記工作機械の要部断面説明図である。
【図3】 前記工作機械を構成するツールホルダの正面断面説明図である。
【図4】 前記ツールホルダの他の正面断面説明図である。
【図5】 前記工作機械を構成する操作機構の説明図である。
【図6】 ボーリングバーの補正を説明する側面図である。
【図7】 前記ボーリングバーの補正を説明する正面図である。
【図8】 手動操作による補正の動作説明図である。
【図9】 補正動作による前記ボーリングバーの移動量の確認を行う際の説明図である。
【図10】 ツールホルダの原位置検出構造の説明図である。
【発明を実施するための形態】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る位置補正機能付き作業機械である工作機械10は、本体部12を備え、この本体部12には、主軸ハウジング14がX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に摺動可能に装着される。図2に示すように、主軸ハウジング14には、スピンドル(主軸)16がベアリング18を介して回転可能に設けられ、前記スピンドル16には、ツールホルダ(補正ツールホルダ)20が着脱自在に取り付けられる。
ツールホルダ20は、スピンドル16に固着される基台部22と、道具、例えば、ボーリングバー24が取り付けられる道具取り付け部26と、前記基台部22と前記道具取り付け部26とを連結する弾性変形部28と、前記ツールホルダ20に対して、前記スピンドル16の回転方向に交差する径方向(矢印A方向)に移動可能な作動軸部材30と、前記作動軸部材30の移動動作を、前記道具取り付け部26の軸方向(矢印B方向)に対する傾動動作に変換させる変換機構32と、前記作動軸部材30を前記径方向に移動させる移動機構34とを備え、これらが同一のハウジング35に設けられる。
道具取り付け部26は、先端部に平坦形状の取り付け面26aを有し、前記取り付け面26aにボーリングバー24の平坦面24aが当接して配置される。ボーリングバー24は、取り付けインロウ部24bを設けるとともに、図示しないボルトを介して取り付け面26aに固定される。
弾性変形部28は、ツールホルダ20の直径方向近傍に位置し、径方向に互いに平行に設けられる第1及び第2貫通孔36a、36bを有する。弾性変形部28は、第1及び第2貫通孔36a、36bに連通し且つそれぞれ径方向外方に延在して外部に開放される第1及び第2スリット38a、38bを設ける。
作動軸部材30は、基台部22の小径柱体部に直径方向に貫通形成される孔部40に摺動自在に嵌合するロッド部42を備える。ロッド部42の矢印A方向両端には、大径ピストン(第1ピストン)44a、44bが一体成形される。
変換機構32は、各大径ピストン44a、44bの一方の端部側に設けられるテーパ部材46a、46bを備える。テーパ部材46a、46bは、径方向外方に向かって道具取り付け部26から離間する方向にそれぞれ同一の角度だけ傾斜するテーパ面48a、48bを有する。
道具取り付け部26には、テーパ部材46a、46bに対向して2つの接触部材50a、50bが配設されるとともに、前記接触部材50a、50bを前記テーパ部材46a、46bに押圧させる与圧ねじ51a、51bが螺合する。
図3及び図4に示すように、移動機構34は、作動軸部材30に設けられる大径ピストン44a、44bを有する油圧シリンダ部(油圧アクチュエータ)52を備える。油圧シリンダ部52は、大径ピストン44a、44bにより第1油圧室52a及び第2油圧室52bが形成される。第1油圧室52aは、第1の油圧経路54aを介して第1の油圧発生部56aに連通する一方、第2油圧室52bは、第2の油圧経路54bを介して第2の油圧発生部56bに連通する。
第1の油圧発生部56aは、図4に示すように、大径ピストン44aよりも小径な小径ピストン(第2ピストン)58aを有し、この小径ピストン58aには、ツールホルダ20の外部から前記小径ピストン58aを押圧するためのプッシュボタン(押圧部)60aが設けられる。プッシュボタン60aには、前記プッシュボタン60aをツールホルダ20の外方に向かって、すなわち、ストッパ61aが設けられている原位置に付勢するリターンスプリング62aが当接する。プッシュボタン60aは、停止端面63aに当接することにより、内方への移動距離が規制され、1回の進退動作で押し込められる油量が確実に調整される。
第1油圧室52a及び第2油圧室52bは、第1の油圧路64a及び第2の油圧路64bを介して油タンク66に連通する。第1の油圧路64aは、第1の油圧発生部56aが操作される際に閉塞される一方、第2の油圧路64bは、第2の油圧発生部56bが操作される際に閉塞される。第1の油圧路64a及び第2の油圧路64bは、第3の油圧路64cに合流した後、油タンク66に連通する。
第1の油圧経路54aには、油タンク66からの油の逆流を阻止するためにチェック弁68aが配設されるとともに、第2の油圧経路54bには、前記油タンク66への逆流を阻止するためにチェック弁68bが配設される。油タンク66は、スプリング70に付勢されて摺動自在な摺動壁72を介してタンク室74を形成する。
第2の油圧発生部56bは、上記の第1の油圧発生部56aと同様に構成されており、同一の構成要素には同一の参照数字に符号bを付して、その詳細な説明は省略する。
図1に示すように、ツールホルダ20の外部には、第1及び第2油圧発生部56a、56bを外部から操作する操作機構80を備える。操作機構80は、図5に示すように、支持板部材82にハウジング84が装着されるとともに、前記ハウジング84内には、小径ピストン58a、58bを押圧する押圧ロッド(押圧部材)86が配設される。ハウジング84内には、押圧ロッド86を小径ピストン58a、58bに向かって付勢するスプリング88が設けられる。押圧ロッド86の後端部には、フランジ90が形成される一方、支持板部材82には、前記フランジ90を検出する近接センサ92が取り付けられる。
このように構成される第1の実施形態に係る工作機械10の動作について、以下に説明する。
先ず、第1油圧室52a及び第2油圧室52bと、第1の油圧経路54a及び第2の油圧経路54bと、第1の油圧路64a〜第3の油圧路64cと、油タンク66とには、それぞれ油が充填されている。そして、ボーリングバー24の刃先が磨耗した際には、変換機構32を介して前記ボーリングバー24を径方向外方に位置調整(補正)する。
具体的には、図4に示すように、第1の油圧発生部56aを構成するプッシュボタン60aが、矢印C1方向に押圧されると、第1の油圧経路54a内の油圧が上昇し、油圧シリンダ部52の第1油圧室52aに油が供給される。油圧シリンダ部52は、大径ピストン44aが小径ピストン58aに比べて十分に大きな面積に設定されており、前記大径ピストン44aは、面積比によって上昇された油圧により押し込まれた油量の体積分だけ、矢印A1方向に移動する。
一方、大径ピストン44bは、大径ピストン44aと一体に矢印A1方向に移動する。このため、第2油圧室52bの容積が縮小し、この第2油圧室52bの内部の油圧が上昇し、前記第2油圧室52b内の油は、第2の油圧路64bから第3の油圧路64cを通って油タンク66に導入される。
その際、第1油圧室52aに連通する第1の油圧路64aは、小径ピストン58aにより閉塞されるため、前記第1油圧室52aが油タンク66から遮断されている。このため、第1油圧室52aからの油圧抜けを阻止することができる。
大径ピストン44aが、矢印A1方向に移動すると、ツールホルダ20に装着されている作動軸部材30は、前記大径ピストン44aと一体に径方向(矢印A1方向)に移動する。
図6に示すように、作動軸部材30の端部に連結された変換機構32は、矢印A1方向に移動し、テーパ部材46a、46bのテーパ面48a、48bは、道具取り付け部26を構成する接触部材50a、50bに摺接する。ここで、テーパ面48a、48bは、道具取り付け部26から離間する方向にそれぞれ同一の角度だけ傾斜している。
従って、接触部材50aは、矢印B1方向に移動する一方、接触部材50bは、矢印B2方向に同一距離移動する。これにより、道具取り付け部26は、ボーリングバー24の先端を中心軸線Oから偏心軸線O1に弾性変形し、前記ボーリングバー24は、半径外方に移動して加工径が拡大される。
図3に示すように、プッシュボタン60aへの押し込み力が開放されると、小径ピストン58aは、リターンスプリング62aの弾性力により原位置(ストッパ61aに当接する位置)に復帰する。ここで、第1の油圧経路54aでは、第1油圧室52aに送り込んだ油量が引き戻されようとして、前記第1の油圧経路54a及び前記第1油圧室52aの油圧が一旦低下する。
一方、油タンク66では、スプリング70の付勢作用下に、タンク室74内が一定の油圧に維持されている。従って、第1の油圧経路54aの油圧が低下すると、チェック弁68aが開放されるため、油タンク66内の油は、第1の油圧経路54a及び第1油圧室52aに供給される。さらに、第1の油圧経路54a及び第1油圧室52aは、小径ピストン58aにより閉塞されていた第1の油圧路64aに連通し、第3の油圧路64cを介して油タンク66に連通する。これにより、油圧系内の圧力バランスが原状態に戻り、1回の補正動作が終了する。
図6に示すように、弾性変形部28は、十分に高いバネ定数を有しており、弾性変形が生じた状態では、大径ピストン44aは、一体に組み込まれたテーパ部材46aのテーパ面48aと接触部材50a、及び前記大径ピストン44aの外周面と油圧シリンダ部52の内周面とによる強力な把持力によって確実に保持されている。このため、大径ピストン44aは、小径ピストン58aの押し込みによる高い油圧で、矢印A1方向に寸動摺動した後は、その状態を自己保持する作用がある。
ツールホルダ20を、適切な位置へさらに拡張させる必要がある時は、上記と同様に、小径ピストン58aを所定の回数だけ押し込み、前記ツールホルダ20の先端位置を移動シフトさせた後に、加工を開始すればよい。
ここで、例えば、小径ピストン58aの外径を3mm(直径)、作動軸部材30の大径ピストン44aの外径を35mm(直径)、前記作動軸部材30の軸部外径を10mm(直径)とする。そして、小径ピストン58aが、第1の油圧経路54aと第3の油圧路64cとを遮断した後に、さらに1mmだけ押し込まれると、第1油圧室52aには、7立方mmの油量が送られる。ピストン部の受圧面積は、884平方mmであるので、大径ピストン44aは、矢印A1方向に0.008mmだけ摺動する。
テーパ面48a、48bのテーパ角度を1/30とすると、道具取り付け部26に組み込まれた接触部材50aは、矢印B1方向(軸方向)に0.00026mmだけ変位する(引っ張り)一方、接触部材50bは、矢印B2方向(軸方向)に0.00026mmだけ変位する(圧縮)。例えば、接触部材50a、50bの配置ピッチを50mmとし、ツールホルダ24の弾性変形部28からの突き出し位置を100mmとすると、小径ピストン58aが1回押し込まれると、ツールホルダ24は、0.001mm(直径0.002mm)の径拡大が得られることになる。このように、ツールホルダ24は、ミクロンオーダーの刃先調整が高精度に遂行される。
さらに、第1の実施形態では、小径ピストン58aと大径ピストン44aの面積比は、125倍である。従って、例えば、30Nの力で小径ピストン58aを押すと、大径ピストン44aを押し出す作用力は、3750Nに増力される。しかも、このパワーは、変換機構32にあるテーパ部材46aの1/30のテーパ比で増力拡張されるため、弾性変形部28を強制的に拡張するのに十分なパワーが得られる。
また、ツールホルダ24を径方向内方に戻す際には、図7に示すように、第2の油圧発生部56bを構成するプッシュボタン60bが矢印C1方向に押圧される。このため、第2の油圧経路54b内の油が、油圧シリンダ部52の第2油圧室52bに油が供給される。
その際、第2油圧室52bに連通する第2の油圧路64bは、小径ピストン58bにより閉塞されるため、前記第2油圧室52bが油タンク66から遮断されている。しかも、第2の油圧経路54bの油圧は、油タンク66の油圧よりも高圧になるため、チェック弁68bが閉塞されている。従って、小径ピストン58bの作動により押圧された油の圧は、第2の油圧経路54b及び第2油圧室52b内で上昇する。
ここで、大径ピストン44bは、道具取り付け部26と基台部22との間で協力な弾性力で保持されているが、前記大径ピストン44bは、小径ピストン58bに比べて十分に大きな面積に設定されている。これにより、第2油圧室52bには、面積比によって上昇した非常に高い油圧が発生し、押し込まれた油量の堆積分だけ、大径ピストン44bが矢印A2方向に移動する。大径ピストン44bが、矢印A2方向に移動すると、ロッド部42を介して一体の大径ピストン44aも同様に、矢印A2方向に移動する。
このとき、大径ピストン44aの移動によって第1油圧室52aの容積が縮小する。この第1油圧室52a内の油は、第1の油圧経路54a、第1の油圧路64a及び第3の油圧路64cを通って、油タンク66に導入されるため、大径ピストン44bの移動を妨げることがない。
図6に示すように、作動軸部材30の端部に連結された変換機構32は、矢印A2方向に移動し、テーパ部材46a、46bのテーパ面48a、48bは、道具取り付け部26を構成する接触部材50a、50bに摺接する。従って、接触部材50aは、矢印B2方向に移動する一方、接触部材50bは、矢印B1方向に同一距離移動する。これにより、道具取り付け部26は、強制的に弾性変形した状態から戻され、ボーリングバー24の先端が、偏心軸線O1から中心軸線O側(半径内方)に移動して加工径が縮小される。
プッシュボタン60bへの押し込み力が開放されると、図4に示すように、小径ピストン58bは、リターンスプリング62bの弾性力により原位置(ストッパ61bに当接する位置)に復帰する。ここで、小径ピストン58bの戻り動作により、第2の油圧経路54bでは、第2油圧室52bに送り込んだ油量が引き戻されようとして、前記第2油圧室52b及び前記第2の油圧経路54bの油圧が一旦低下する。
一方、油タンク66では、スプリング70の付勢作用下に、タンク室74内が一定の油圧に維持されている。従って、第2の油圧経路54bの油圧が低下すると、チェック弁68bが開放されるため、油タンク66内の油は、第2油圧室52b及び第2の油圧経路54bに供給される。さらに、第2の油圧経路54b及び第2油圧室52bは、小径ピストン58bにより閉塞されていた第2の油圧路64bに連通し、第3の油圧路64cを介して油タンク66に連通する。これにより、油圧系内の圧力バランスが原状態に戻り、1回の補正動作が終了する。
上記の第1の油圧発生部56a及び第2の油圧発生部56bは、工作機械10のプログラム制御(NC制御)に沿って、操作機構80により自動的に操作される。工作機械10のスピンドル16は、オリエンテーション機能により特定位相でツールホルダ20の回転をロックすることが可能である。
そこで、オリエンテーション時において、ツールホルダ20の小径ピストン58a又は58bの軸動作方向と、押圧ロッド86の摺動軸とを同一方向に設置し、前記ツールホルダ20のいずれかのプッシュボタン60a、60bが前記押圧ロッド86により押されるように設定する。
なお、第1の油圧発生部56a及び第2の油圧発生部56bでは、同様に制御されるため、以下に前記第1の油圧発生部56aについてのみ説明し、前記第2の油圧発生部56bの説明は省略する。
ここで、プラス補正動作(拡径補正動作)を自動運転で行なうには、オリエンテーション後、図5に示すように、小径ピストン58aの軸と押圧ロッド86の軸とをNC制御により合わせて、ツールホルダ20を矢印X1方向に移動させる。そして、押圧ロッド86は、プッシュボタン60aに当接し、前記プッシュボタン60aが停止端面63aに当接するまで押し込まれ、その先端に設けられている小径ピストン58aをストロークエンドまで押し込ませる。これにより、一定量の油が押し込まれてプラス補正が行なわれる。
その際、押圧ロッド86の後方は、スプリング88により支持されている。このスプリング88は、小径ピストン58aの摺動作用力に対し、十分に強い剛性を有している。このため、小径ピストン58aをストロークエンドまで押し込むことができる。一方、プログラムエラー等でストロークエンド以上にツールホルダ20が矢印X1方向へ摺動した場合は、スプリング88が縮小し、その強制力を吸収する。従って、プログラムミス等があっても、安全弁としてスプリング88が機能するため、ツールホルダ20と押圧ロッド86との衝突を吸収することが可能になる。
また、押圧ロッド86とスプリング88とを、自動補正の動作確認として使うことができる。この形態では、プッシュボタン60aが停止端面63aに当接するまで、ツールホルダ20が矢印X1方向に押し込まれ、さらに一定量(距離L)だけ押し込まれる。これにより、スプリング88が縮小し、押圧ロッド86のフランジ90が近接スイッチ92の感知域に至る。この近接スイッチ92の作動を確認することにより、補正動作が確実に行われたことが確認できる。
さらにまた、第1の油圧発生部56a(第2の油圧発生部56bも同様)を手動操作により制御することも可能である。図8に示すように、ツールホルダ20の側面にあるプッシュボタン60aを、リターンスプリング62aの作用とストッパ61aで決まる待機状態(無負荷状態)位置から矢印D方向のストロークエンドまで押し込むことにより、一回の作動油量が決まる。手動による補正動作は、Tレンチ等や細長いアーバーT等を用いてプッシュボタン60aを押すことで行われる。
作動油量と補正移動量(=寸動量)は、相関関係を有しており、補正量は、小径ピストン58aを一回押す度に動く量と、その押す回数との積で決定される。例えば、一回の押し込みで補正量が2μm(直径)だけ動くとすると、6μm(直径)の補正をするには、プッシュボタン60aを3回押せばよい。
また、図9に示すように、ツールホルダ20をツールプリセッタ94上に載置し、ボーリングバー24の刃先にダイヤルゲージ96を配置させた状態で、プッシュボタン60a又は60bを押せば、補正動作による前記ボーリングバー24の移動量が確認される。
すなわち、ツールホルダ20をツールプリセッタ94上に載置して加工径のプリセット作業をする場合、プッシュボタン60a、60bは、軽い力で人の手で簡単に押せるので、プリセット作業に特別な機器を使う必要がなく、大変便利である。
ところで、ツールホルダ20をプリセットする際には、補正移動をスタートする基準となる正確なマーク位置(所謂、原位置)が設けられることが好ましい。プッシュボタン60a、60bを押し込む回数だけの管理では、補正移動を何回も繰り返していると、スタートする位置が少しずつ変わり、当初の位置からずれるおそれがある。
図10に示すように、工作機械10は、ツールホルダ20内に設けられ、作動軸部材30の原点位置を検出するマイクロスイッチ(位置検出センサ)100a、100bと、前記ツールホルダ20に着脱自在であり、前記マイクロスイッチ100a、100bからの信号を受けて前記作動軸部材30が原点位置に配置されたか否かを表示するポータブル型のランプユニット(表示部)102とを備える。
ツールホルダ20の側面には、平面状のコンタクト面を持つ絶縁体104a、104bが設けられ、前記絶縁体104a、104bに2つの導電性のコンタクトピン106a、106bが埋設される。コンタクトピン106a、106bからは、それぞれ2本の電線108a、108bが取り出され、同じくツールホルダ20内に取り付けてあるマイクロスイッチ100a、100bの2つの端子と結線される。
マイクロスイッチ100a、100bには、コンタクト端110a、110bが設けられる。このコンタクト端110a、110bは、作動軸部材30が径方向動作のストローク限界近傍に至ると、外周カバーリング部109に組み込まれた動作限界検出端111a、111bに接触する。マイクロスイッチ100a、100bは、ミクロン単位でオン/オフすることができる。
ランプユニット102は、絶縁体104a、104bに対向する平面を有するとともに、このランプユニット102には、電線(図示せず)により結ばれた乾電池112とLEDランプ114と2本の摺動ピン116とが設けられる。摺動ピン116は、スプリング118を介して進退可能である。ランプユニット102は、マグネット120を介してツールホルダ20の側面に摺動ピン116とコンタクトピン106a又はコンタクトピン106bと密着した状態で、保持される。
このような構成において、ツールホルダ20の作動軸部材30が、矢印A2方向に移動して補正のスタート位置に至ると、マイクロスイッチ100bのコンタクト端110bは、矢印A2方向に移動してマイクロスイッチ100bのコンタクト端110bが動作限界検出端111bに接触して、ONされる。このため、ポータブルランプユニット102の電気回路と電気結合ができ、LEDランプ114が点灯する。この点灯により、スタート位置が正確に確認できる。
一方、ツールホルダ20の作動軸部材30が矢印A1方向へ移動すると、マイクロスイッチ100bがOFFになり、LEDランプ114が消える。このように、LEDランプ114のONとOFFとによって、スタート位置が外部から正確に確認することが可能になる。
【符号の説明】
10…工作機械 16…スピンドル
20…ツールホルダ 22…基台部
24…ボーリングバー 26…道具取り付け部
28…弾性変形部 30…作動軸部材
32…変換機構 34…移動機構
44a、44b…大径ピストン 46a、46b…テーパ部材
48a、48b…テーパ面 50a、50b…接触部材
52…油圧シリンダ部 52a、52b…油圧室
54a、54b…油圧経路 56a、56b…油圧発生部
58a、58b…小径ピストン 60a、60b…プッシュボタン
62a、62b…リターンスプリング 64a〜64c…油圧路
66…油タンク 68a、68b…チェック弁
70…スプリング 80…操作機構
86…押圧ロッド
100a、100b…マイクロスイッチ 102…ランプユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピンドルと一体的に回転可能なツールホルダを備え、
前記ツールホルダは、前記スピンドルに固着される基台部と、
道具が取り付けられる道具取り付け部と、
前記基台部と前記道具取り付け部とを連結する弾性変形部と、
前記ツールホルダに対して、前記スピンドルの回転方向に交差する径方向に移動可能な作動軸部材と、
前記作動軸部材の移動動作を、前記道具取り付け部の前記軸方向に対する傾動動作に変換させる変換機構と、
前記作動軸部材を前記径方向に移動させる移動機構と、
を備え、
前記弾性変形部は、前記径方向に互いに平行に設けられる第1及び第2貫通孔と、
前記第1及び第2貫通孔に連通し且つそれぞれ径方向外方に延在して外部に開放される第1及び第2スリットと、
を設ける一方、
前記移動機構は、前記作動軸部材の両端に設けられる2つの第1ピストンを有する油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータに油圧経路を介して連通するとともに、前記第1ピストンよりも小径な第2ピストンを設け、前記第2ピストンの移動作用下に前記第1ピストンを前記径方向に移動させる油圧発生部と、
を備えることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項2】
請求項1記載の作業機械において、前記基台部、前記道具取り付け部、前記弾性変形部、前記作動軸部材、前記変換機構及び前記移動機構は、同一のハウジングに設けられることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項3】
請求項1記載の作業機械において、前記道具取り付け部は、前記道具が取り付けられる先端部に平坦形状の取り付け面を設けることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の作業機械において、前記油圧発生部は、前記ツールホルダの外部から前記第2ピストンを押圧して該第2ピストンの移動作用下に一定量の油を前記油圧アクチュエータに供給するために、前記第2ピストンに設けられる押圧部と、
前記押圧部を前記ツールホルダの外部に向かって付勢するスプリングと、
を備えることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の作業機械において、前記油圧アクチュエータは、前記各第1ピストンにより形成される第1油圧室及び第2油圧室を有し、
前記油圧発生部は、第1の前記油圧経路を介して前記第1油圧室に連通し、前記作動軸部材を前記径方向の一方に移動させる第1の油圧発生部と、
第2の前記油圧経路を介して前記第2油圧室に連通し、前記作動軸部材を前記径方向の他方に移動させる第2の油圧発生部と、
を備えることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項6】
請求項5記載の作業機械において、前記第1油圧室及び前記第2油圧室は、第1の油圧路及び第2の油圧路を介して油タンクに連通するとともに、
第1の前記油圧路は、第1の前記油圧発生部が操作される際に閉塞される一方、
第2の前記油圧路は、第2の前記油圧発生部が操作される際に閉塞されることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の作業機械において、前記変換機構は、前記各第1ピストンに設けられ、径方向外方に向かって前記道具取り付け部から離間する方向に傾斜する2つのテーパ部材と、
前記道具取り付け部に、前記テーパ部材に対向して設けられる2つの接触部材と、
を備えることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項8】
請求項7記載の作業機械において、前記道具取り付け部には、各接触部材を各テーパ部に押圧させる与圧ねじが螺合することを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の作業機械において、前記油圧発生部を外部から操作する操作機構を備え、
前記操作機構は、前記第2ピストンを押圧する押圧部材と、
前記押圧部材を前記第2ピストンに向かって付勢するスプリングと、
を備えることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の作業機械において、前記ツールホルダ内に設けられ、前記作動軸部材の原点位置を検出する位置検出センサと、
前記ツールホルダに着脱自在であり、前記位置検出センサからの信号を受けて前記作動軸部材が原点位置に配置されたか否かを表示する表示部と、
を備えることを特徴とする位置補正機能付き作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−698(P2011−698A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−162209(P2009−162209)
【出願日】平成21年6月17日(2009.6.17)
【出願人】(000102865)エヌティーエンジニアリング株式会社 (13)
【Fターム(参考)】