説明

低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子及びその製造方法

【課題】低密度シリカナノ中空粒子及びその製造方法において、塗料等を始めとする材料中に混入等をすることによって、極めて低い熱伝導率を得るために有効であること。
【解決手段】炭酸カルシウム2を結晶成長させた(S10)後に、熟成(S11)、脱水し(S12)、固体微粉末状とした後、エタノールに分散させ(S13)、シリコンアルコキシド及びアンモニアを添加して、ゾル−ゲル法によりシリカをコーティングする(S14)。このようにして作製したシリカコーティング粒子3を洗浄した(S15)後に、水に分散させて(S16)、塩酸を添加して内部の炭酸カルシウム2を溶解させて流出させることによって(S17)、流出孔を有する立方体状形態のシリカ殻からなるナノ中空粒子4が形成され、乾燥した(S18)後に、加熱工程において400℃で加熱し流出した孔を塞ぐことによって(S19)、低密度シリカナノ中空粒子1が製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、30nmから200nmまでの範囲内の外径を有するナノ中空粒子であって、密度の低いシリカ殻によって構成される低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子(以下、「低密度シリカナノ中空粒子」ともいう。)及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジー研究の一環として、数百ナノメートル以下の粒子径を有する微粒子についての応用研究が盛んに行われている。その一例として、特許文献1に記載の高分散シリカナノ中空粒子及びそれを製造する方法の発明がある。このシリカナノ中空粒子は、緻密なシリカ殻からなるナノ中空粒子であって、細孔分布において2nm〜20nmの細孔が検出されないものであり、炭酸カルシウムを調製する第1工程、それにシリカをコーティングする第2工程、炭酸カルシウムを溶解させてシリカナノ中空粒子とする第3工程によって製造される。
【0003】
この特許文献1に係る高分散シリカナノ中空粒子は、中空で、かつ、シリカ殻が薄いため、断熱性及び透明性に優れ、特許文献2に示されるように、塗料・フィルム・合成繊維中に均一に分散させることによって、断熱塗料・断熱フィルム・断熱繊維を得ることができて幅広い技術分野に応用することができ、その他にも、多方面に亘る応用が期待されている。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の高分散シリカナノ中空粒子においては、略30nm〜略300nmの外径を有する微小粒子であるため、凝集を起こし易く、水・有機溶剤等の溶媒中においても、溶融状態の有機合成樹脂に混入する場合においても、直ちに凝集して数μm〜数十μmの大きさの巨大凝集粒子(二次粒子)となってしまい、塗料・フィルム・合成繊維中に数十nm〜数百nmの大きさの微細凝集粒子として均一に分散させることは、実際上は困難であるため、シリカナノ中空粒子の有する断熱性・透明性・低比誘電率といった優れた特性を充分に発現させることができなかった。
【0005】
一方、本発明者らが、有機合成樹脂としてのアクリルウレタン樹脂中にシリカナノ中空粒子を混入した塗料を塗布してなる塗膜について、熱伝導率を測定したところ、極めて小さい熱伝導率の値が得られた。しかしながら、有限要素法(finite element method:FEM)によって膜内伝熱シミュレーションを行なって、理論値としての熱伝導率を算出して検討したところ、理論値は測定値の約10倍もの大きな値となり、結果として、シリカナノ中空粒子のシリカ殻の密度を小さくすることが、極めて低い熱伝導率を得るために有効であることが判明した。すなわち、有限要素法の解析結果によれば、シリカナノ中空粒子を混入した塗膜の熱伝導率に最も大きく影響するのはシリカ殻の密度であり、シリカ殻の密度が小さくなればなるほど、塗膜の熱伝導率もより低くなることが明らかとなった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−263550号公報
【特許文献2】特開2007−070458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び特許文献2のいずれにおいても、このような密度の低いシリカ殻を有するシリカナノ中空粒子及びその製造方法についての知見はなく、低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子の製造方法は確立されていなかった。
【0008】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであって、塗料等を始めとする材料中に混入等をすることによって、極めて低い熱伝導率を得るために有効である低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明に係る低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子(低密度シリカナノ中空粒子)は、顕微鏡法により測定した外径が30nm〜200nmの範囲内であるシリカ殻からなるナノ中空粒子であって、前記シリカ殻は複数のミクロ細孔を有しており、前記シリカ殻の前記ミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度が0.5g/cm3 〜1.9g/cm3 の範囲内、より好ましくは0.5g/cm3 〜1.4g/cm3 の範囲内であるものである。
【0010】
ここで、「顕微鏡法」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて粒子を実際に観察して、粒子の各部分の大きさを求める方法をいう。また、「ミクロ細孔」とは、孔径が2nm以下であって窒素分子が通過可能な大きさの微細孔を意味するものである。
【0011】
請求項2の発明に係る低密度シリカナノ中空粒子は、請求項1の構成において、顕微鏡法により測定した外径が8nm〜85nmの範囲内の乾燥粉末としての炭酸カルシウム微粒子を溶媒に分散させて、該炭酸カルシウム微粒子の表面にゾル−ゲル法でシリカ殻を形成し、酸水溶液によって分散系の水素イオン濃度指数をpH2〜pH3の範囲内としてシリカ被覆炭酸カルシウム微粒子の内部の前記炭酸カルシウム微粒子を溶解させて、前記シリカ殻のみからなるナノ中空粒子を200℃〜500℃の温度範囲、より好ましくは350℃〜400℃の温度範囲で加熱して得たものである。
【0012】
ここで、「ゾル−ゲル法」とは、一般に『溶液からゾル及びゲルの状態を経た後、加熱してガラスを作る方法。アルコキシドを出発原料に用いることが多い。』(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」777頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)であり、本明細書及び特許請求の範囲においては、テトラエトキシシラン(TEOS)を始めとするシリコンアルコキシドを塩基性条件下で水と反応させて、SiO2 分子が重縮合したゲル状のシリカ殻を形成する方法をいう。なお、このゲル状のシリカ殻は、炭酸カルシウムを溶解させた後に、200℃〜500℃の温度範囲で加熱されることによって、ガラス状のシリカ殻となる。
【0013】
請求項3の発明に係る低密度シリカナノ中空粒子は、請求項1または請求項2の構成において、顕微鏡法により測定した前記シリカ殻の厚さが3nm〜10nmの範囲内であるものである。ここで、「顕微鏡法」とは、走査型電子顕微鏡(SEM)または透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて粒子を実際に観察して、粒子の各部分の大きさを求める方法をいう。
【0014】
請求項4の発明に係る低密度シリカナノ中空粒子の製造方法は、ミクロ細孔を有し顕微鏡法により測定した外径が30nm〜200nmの範囲内であるシリカ殻からなるナノ中空粒子の製造方法であって、所定の大きさの外径を有する乾燥粉末としての炭酸カルシウム微粒子を溶媒に分散させて、該炭酸カルシウム微粒子の表面にゾル−ゲル法でシリカ殻を形成するシリカ被覆形成工程と、酸水溶液によって分散系の水素イオン濃度指数をpH2〜pH3の範囲内としてシリカ被覆炭酸カルシウム微粒子の内部の前記炭酸カルシウム微粒子を溶解させて、前記シリカ殻のみからなるナノ中空粒子とする炭酸カルシウム溶解工程と、前記シリカ殻のみからなるナノ中空粒子を200℃〜500℃の温度範囲で加熱する加熱工程とを具備するものである。
【0015】
ここで、「ゾル−ゲル法」とは、上述の如く、本明細書及び特許請求の範囲においては、テトラエトキシシラン(TEOS)を始めとするシリコンアルコキシドを塩基性条件下で水と反応させて、SiO2 分子が重縮合したゲル状のシリカ殻を形成する方法をいう。なお、このゲル状のシリカ殻は、炭酸カルシウム溶解工程を経て、200℃〜500℃の温度範囲で加熱されることによって、ガラス状のシリカ殻となる。
【0016】
請求項5の発明に係る低密度シリカナノ中空粒子の製造方法は、請求項4の構成において、前記シリカ殻のミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度が0.5g/cm3 〜1.9g/cm3 の範囲内、より好ましくは0.5g/cm3 〜1.4g/cm3 の範囲内であるものである。
【0017】
請求項6の発明に係る低密度シリカナノ中空粒子の製造方法は、請求項4または請求項5の構成において、顕微鏡法により測定した前記炭酸カルシウム微粒子の前記所定の大きさが20nm〜80nmの範囲内であり、顕微鏡法により測定した前記シリカ殻の厚さが3nm〜10nmの範囲内であるものである。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明に係る低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子は、顕微鏡法により測定した外径が30nm〜200nmの範囲内であるシリカ殻からなるナノ中空粒子であって、ミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度が0.5g/cm3 〜1.9g/cm3 の範囲内であることから、例えば、有機合成樹脂中に混入した塗料を塗布して塗膜を形成することによって、0.027W/(m・K)前後の極めて小さい熱伝導率の塗膜を得ることができる。
【0019】
ミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度が0.5g/cm3 未満であると、シリカ殻の強度が小さ過ぎて塗料等を始めとする材料中に混入する際に中空粒子が破壊され、小さい熱伝導率を得ることができない。一方、シリカ殻の密度が1.9g/cm3 を超えると、低密度シリカナノ中空粒子による熱伝導率の低減効果が得られない。したがって、ミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度は、0.5g/cm3 〜1.9g/cm3 の範囲内であることが必要である。
【0020】
ここで、ミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度が0.5g/cm3 〜1.4g/cm3 の範囲内であることによって、より確実に極めて小さい熱伝導率を得ることができるため、より好ましい。シリカ殻の密度が0.5g/cm3 未満であると、シリカ殻の強度が小さいことから、塗料等を始めとする材料中に混入する際に中空粒子が破壊されてしまう可能性があり、確実に小さい熱伝導率を得ることができない。一方、シリカ殻の密度が1.4g/cm3 を超えると、低密度シリカナノ中空粒子による熱伝導率の低減効果が小さくなってしまう。
【0021】
このようにして、塗料等を始めとする材料中に混入等をすることによって、極めて低い熱伝導率を得るために有効である低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子となる。
【0022】
請求項2の発明に係る低密度シリカナノ中空粒子は、顕微鏡法により測定した外径が8nm〜85nmの範囲内の乾燥粉末としての炭酸カルシウム微粒子を溶媒に分散させて、炭酸カルシウム微粒子の表面にゾル−ゲル法でシリカ殻を形成し、酸水溶液によって分散系の水素イオン濃度指数をpH2〜pH3の範囲内としてシリカ被覆炭酸カルシウム微粒子の内部の炭酸カルシウム微粒子を溶解させて、シリカ殻のみからなるナノ中空粒子を200℃〜500℃の温度範囲で加熱して得たものである。
【0023】
ここで、炭酸カルシウム微粒子乾燥粉末の外径が8nm〜85nmの範囲内に限定されるのは、炭酸カルシウム粉末の外径が8nm未満または85nmを超えると、得られたシリカナノ中空粒子を塗料等に混入した場合に、低い熱伝導率を得ることができないためである。また、酸水溶液によって水素イオン濃度指数をpH2未満まで下げると、シリカ殻が低密度に保持されずに高密度になってしまう。一方、水素イオン濃度指数がpH3を上回った状態においては、内部の炭酸カルシウム微粒子を完全に溶解させることができない。
【0024】
このとき、炭酸カルシウムが溶解した溶液がシリカ殻内から流出するために、シリカ殻に微細な貫通孔が形成されるが、その後にシリカ殻のみからなるナノ中空粒子を加熱することによって、これらの微細な貫通孔が塞がれるとともに、200℃〜500℃、より好ましくは350℃〜400℃の温度範囲で加熱することによって、密度が1.9g/cm3 以下の低密度のシリカ殻からなるナノ中空粒子となる。かかる低密度シリカナノ中空粒子は、材料中に混入した場合等に極めて低い熱伝導率を示し、低熱伝導体を形成するのに有効であることが知られている。
【0025】
ここで、加熱工程における加熱温度が350℃未満であると、シリカ殻の強度が小さくなって、塗料等を始めとする材料中に混入する際に中空粒子が破壊される可能性がある。また、加熱温度が200℃未満であると、炭酸カルシウムが溶解した溶液が流出した微細孔を塞ぐことができない。一方、加熱工程における加熱温度が400℃を超えると、シリカ殻の密度が高くなる傾向があり、密度が1.9g/cm3 以下の低密度のシリカ殻からなるナノ中空粒子が得られない可能性がある。更に、加熱工程における加熱温度が500℃を超えると、シリカ殻の密度が1.9g/cm3 を超えてしまう。
【0026】
したがって、加熱工程における加熱温度は200℃〜500℃の範囲内である必要があり、更に加熱工程における加熱温度は、350℃〜400℃の範囲内であることがより好ましい。
【0027】
請求項3の発明に係る低密度シリカナノ中空粒子は、顕微鏡法により測定したシリカ殻の厚さが3nm〜10nmの範囲内であることから、低密度シリカナノ中空粒子においては、シリカ殻の厚さが小さくなるにしたがってシリカ殻の密度もより小さくなるという傾向があるため、請求項1または請求項2に係る発明の効果に加えて、シリカ殻の密度がより小さくなって、より確実に極めて小さい熱伝導率を得ることができるという作用効果が得られる。なお、シリカ殻の厚さが3nm未満になると、シリカ殻の強度が小さくなって、塗料等を始めとする材料中に混入する際に中空粒子が破壊されてしまう可能性があり、確実に小さい熱伝導率を得ることができない。
【0028】
請求項4の発明に係る低密度シリカナノ中空粒子の製造方法においては、シリカ被覆形成工程において乾燥粉末としての炭酸カルシウム微粒子の表面に、ゾル−ゲル法でシリカ殻となるシリカ被膜が形成され、炭酸カルシウム溶解工程で、酸水溶液によって分散系の水素イオン濃度指数をpH2〜pH3の範囲内として、内部の炭酸カルシウム微粒子が溶解させられて、シリカ殻のみからなるナノ中空粒子とされる。ここで、水素イオン濃度指数をpH2未満まで下げると、シリカ殻が低密度に保持されずに高密度になってしまう。一方、水素イオン濃度指数がpH3を上回った状態では、内部の炭酸カルシウム微粒子を溶解させることができない。
【0029】
このとき、炭酸カルシウムが溶解した溶液がシリカ殻内から流出するために、シリカ殻に微細な貫通孔が形成されるが、加熱工程においてシリカ殻のみからなるナノ中空粒子を加熱することによって、これらの微細な貫通孔が塞がれるとともに、200℃〜500℃、より好ましくは350℃〜400℃の温度範囲で加熱することによって、密度が1.9g/cm3 以下の低密度のシリカ殻からなるナノ中空粒子となる。かかる低密度シリカナノ中空粒子は、材料中に混入した場合等に極めて低い熱伝導率を示し、低熱伝導体を形成するのに有効であることが知られている。
【0030】
ここで、加熱工程における加熱温度が350℃未満であると、シリカ殻の強度が小さくなって、塗料等を始めとする材料中に混入する際に中空粒子が破壊される可能性がある。また、加熱温度が200℃未満であると、炭酸カルシウムが溶解した溶液が流出した微細孔を塞ぐことができない。一方、加熱工程における加熱温度が400℃を超えると、シリカ殻の密度が高くなる傾向があり、密度が1.9g/cm3 以下の低密度のシリカ殻からなるナノ中空粒子が得られない可能性がある。更に、加熱工程における加熱温度が500℃を超えると、シリカ殻の密度が1.9g/cm3 を超えてしまう。
【0031】
したがって、加熱工程における加熱温度は200℃〜500℃の範囲内である必要があり、更に加熱工程における加熱温度は、350℃〜400℃の範囲内であることがより好ましい。
【0032】
このようにして、塗料等を始めとする材料中に混入等をすることによって、極めて低い熱伝導率を得るために有効である低密度シリカナノ中空粒子の製造方法となる。
【0033】
請求項5の発明に係る低密度シリカナノ中空粒子の製造方法においては、ミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度が0.5g/cm3 〜1.9g/cm3 の範囲内であることから、かかる低密度シリカナノ中空粒子は、材料中に混入した場合に極めて低い熱伝導率を示し、低熱伝導体を形成するのに有効であることが知られており、より確実に極めて低い熱伝導率を得るために有効である低密度シリカナノ中空粒子の製造方法となる。
【0034】
ミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度が0.5g/cm3 未満であると、シリカ殻の強度が小さ過ぎて塗料等を始めとする材料中に混入する際に中空粒子が破壊され、小さい熱伝導率を得ることができない。一方、シリカ殻の密度が1.9g/cm3 を超えると、低密度シリカナノ中空粒子による熱伝導率の低減効果が得られない。したがって、ミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度は、0.5g/cm3 〜1.9g/cm3 の範囲内であることが必要である。
【0035】
ここで、シリカ殻の密度が0.5g/cm3 〜1.4g/cm3 の範囲内であることによって、より確実に極めて小さい熱伝導率を得ることができるため、より好ましい。シリカ殻の密度が0.5g/cm3 未満であると、シリカ殻の強度が小さいことから、塗料等を始めとする材料中に混入する際に中空粒子が破壊されてしまう可能性があり、確実に小さい熱伝導率を得ることができない。一方、シリカ殻の密度が1.4g/cm3 を超えると、低密度シリカナノ中空粒子による熱伝導率の低減効果が小さくなってしまう。
【0036】
請求項6の発明に係る低密度シリカナノ中空粒子の製造方法は、顕微鏡法により測定した炭酸カルシウム微粒子の所定の大きさが20nm〜80nmの範囲内であり、顕微鏡法により測定したシリカ殻の厚さが3nm〜10nmの範囲内であることから、30nm〜200nmの範囲内の外径を有する低密度シリカナノ中空粒子を、より確実に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は本発明の実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子の製造方法を示すフローチャートである。
【図2】図2(a)は本発明の実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子の製造に用いられるシリカ殻からなるナノ中空粒子の製造工程を示す模式図、(b)は窒素を用いたBET法による比表面積測定における窒素分子の吸着の様子を示す模式図である。
【図3】図3は同程度の粒径を有するシリカの中実粒子と本発明の実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子について、BET法による比表面積測定を実施した際の吸着量を示すグラフである。
【図4】図4(a)は本発明の実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子の比表面積の求め方を説明するための模式図、(b)は比表面積の値を用いて本発明の実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子のシリカ殻の密度を求めるためのグラフである。
【図5】図5は本発明の実施の形態3に係る低密度シリカナノ中空粒子の製造方法を示すフローチャートである。
【図6】図6(a)は本発明の実施の形態3の実施例1に係る低密度シリカナノ中空粒子を混入した塗料の熱伝導率を算出する方法の説明図、(b)は実施例2に係る低密度シリカナノ中空粒子を混入した塗料の熱伝導率を算出する方法の説明図、(b)は比較例1に係るシリカナノ中空粒子を混入した塗料の熱伝導率を算出する方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明に係る低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子及びその製造方法を実施するためには、乾燥粉末としての炭酸カルシウム微粒子を製造または入手する必要がある。なお、炭酸カルシウム微粒子の大きさは、顕微鏡法により測定した外径が8nm〜85nmの範囲内であることが好ましい。炭酸カルシウム微粒子乾燥粉末の顕微鏡法により測定した外径が8nm未満または85nmを超えると、得られたシリカナノ中空粒子を塗料等に混入した場合に、低い熱伝導率を得ることができないためである。
【0039】
かかる炭酸カルシウム微粒子乾燥粉末を製造する方法としては、例えば、水系で結晶を成長させる方法がある。この方法で生成する炭酸カルシウムの結晶はカルサイトであり六方晶系であるが、合成条件を制御することにより、あたかも立方晶系であるかのような形状、即ち「立方体状形態」に成長させることができる。ここで、「立方体状形態」とは、立方体に限らず面で囲まれた立方体に似た形状をいう。
【0040】
水系で結晶を成長させる方法としては、特段に限定されるものではなく、水酸化カルシウムのスラリーに炭酸ガスを導入して炭酸カルシウムを沈殿させる方法や、塩化カルシウムなどの可溶性カルシウム塩の水溶液に炭酸ナトリウムなどの可溶性炭酸塩を添加して炭酸カルシウムを沈殿させる方法などが適用できる。この際、目的とする外径が8nm〜85nmの範囲内である炭酸カルシウムを得るには、比較的低温でかつ炭酸カルシウムの沈殿反応の速度を速めることが望ましい。例えば、水酸化カルシウムスラリーに炭酸ガスを導入する方法においては、炭酸ガスを導入する際の液温を30℃以下とし、また炭酸ガスを導入する速度を、水酸化カルシウム100g当り、1.0L/min以上とすることが好適である。
【0041】
また、乾燥粉末としての炭酸カルシウム微粒子を入手する方法としては、市販の炭酸カルシウム微粒子を購入して使用することができる。例えば、林化成株式会社の微粒子炭酸カルシウムや、白石工業株式会社の合成炭酸カルシウム、等を使用することができる。
【0042】
また、乾燥粉末としての炭酸カルシウム微粒子の表面に、ゾル−ゲル法でシリカ殻をコーティングするためのシリコンアルコキシドとしては、テトラエトキシシラン(TEOS)を始めとする種々のシリコンアルコキシドを用いることができ、より具体的には、例えば多摩化学工業株式会社のエチルシリケート(製品名「高純度正珪酸エチル」:テトラエトキシシラン(TEOS))、信越化学工業株式会社の機能性シランの中のアルコキシシラン(製品名「KBE−04」:テトラエトキシシラン(TEOS))、等を使用することができる。
【0043】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各実施の形態において、同一の記号及び同一の符号は同一または相当する機能部分を意味し、実施の形態相互の同一の記号及び同一の符号は、それら実施の形態に共通する機能部分であるから、ここでは重複する詳細な説明を省略する。
【0044】
実施の形態1
まず、本発明の実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子について、図1乃至図4を参照して説明する。
【0045】
図1は本発明の実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子の製造方法を示すフローチャートである。図2(a)は本発明の実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子の製造に用いられるシリカ殻からなるナノ中空粒子の製造工程を示す模式図、(b)は窒素を用いたBET(Brunauer-Emmett-Teller)法による比表面積測定における窒素分子の吸着の様子を示す模式図である。ここで、BET(Brunauer-Emmett-Teller)法とは、粒子表面に吸着占有面積の分かった分子を液体窒素の温度で吸着させ、その量から試料の比表面積を求める方法であって、窒素等の不活性気体の低温物理吸着によるものである。
【0046】
図3は同程度の粒径を有するシリカの中実粒子と本発明の実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子について、BET法による比表面積測定を実施した際の吸着量を示すグラフである。図4(a)は本発明の実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子の比表面積の求め方を説明するための模式図、(b)は比表面積の値を用いて本発明の実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子のシリカ殻の密度を求めるためのグラフである。
【0047】
最初に、本発明に係るシリカ殻からなるナノ中空粒子の製造方法の概略について、図1のフローチャート及び図2(a)の模式図を参照して説明する。図1及び図2(a)に示されるように、最初にコア粒子となる炭酸カルシウム微粒子2を、結晶成長によって製造する(ステップS10)。ここで生成させる炭酸カルシウムの結晶2はカルサイトであり六方晶系であるが、合成条件を制御することにより、あたかも立方晶系であるかのような形状、即ち「立方体状形態」に成長させることができる。ここで、「立方体状形態」とは、立方体に限らず面で囲まれた立方体に似た形状をいう。
【0048】
この炭酸カルシウム2の外径が8nm〜85nmとなるように結晶成長させた後に、熟成して(ステップS11)、脱水し(ステップS12)、乾燥状態の固体微粉末状の炭酸カルシウム微粒子2とした後、エタノールに分散させる(ステップS13)。そして、シリコンアルコキシド及びアンモニアを添加することによって、ゾル−ゲル法により炭酸カルシウム(CaCO3 )微粒子2にシリカ(SiO2 )をコーティングする(ステップS14)。ここで、シリコンアルコキシドとしては、信越化学工業株式会社の製品名「KBE−04」テトラエトキシシラン(TEOS)を使用し、アンモニアとしては、28重量%のアンモニア水を使用した。
【0049】
このようにして作製したシリカコーティング粒子3を洗浄した(ステップS15)後に、水に分散させて(ステップS16)、塩酸を添加して内部の炭酸カルシウム2を溶解させて流出させることによって(ステップS17)、流出孔を有する立方体状形態のシリカ殻からなるナノ中空粒子4が形成される。最後に、乾燥した(ステップS18)後に、加熱工程において400℃で加熱し溶解した炭酸カルシウム2が流出した孔を塞ぐことによって(ステップS19)、低密度のシリカ殻からなるナノ中空粒子(低密度シリカナノ中空粒子)1が製造される。
【0050】
低密度シリカナノ中空粒子1の中空部分の内径は、コア粒子の炭酸カルシウム微粒子2の外径である10nm〜80nmであり、低密度シリカ殻1aの厚さは3nm〜10nmであるため、シリカナノ中空粒子1の外径は30nm〜100nmとなる。なお、低密度シリカ殻1aのミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度は、後述するように、1.1g/cm3 である(アモルファスシリカの密度は2.2g/cm3 )。
【0051】
次に、このようにして製造した本実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子1の、低密度シリカ殻1aの密度の算出方法について、図2(b)乃至図4を参照して説明する。上述したように、本実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子1においては、400℃で焼成することによって溶解した炭酸カルシウム2が流出した孔を塞いでいるため、2nmを超える大きさの細孔は存在していないが、2nm以下の大きさのミクロ細孔が存在している。
【0052】
ここで、「ミクロ細孔」とは、孔径が2nm以下であって窒素分子が通過可能な大きさの微細孔を意味するものである。この事実は、図2(b)及び図3に示されるように、シリカの中実粒子と低密度シリカナノ中空粒子1とについてのBET法による比表面積の測定において確認された。
【0053】
すなわち、窒素分子を用いたBET法による比表面積の測定において、図2(b)に示されるように、窒素分子は2nm以下の大きさのミクロ細孔1bを通過するため、低密度シリカナノ中空粒子1の低密度シリカ殻1aの外表面にも内表面にも吸着して、結果的に、同程度の大きさのシリカの中実粒子に比較して、2倍以上の窒素分子が吸着することになる。
【0054】
したがって、図3に示されるように、シリカの中実粒子に対する窒素吸着量をX軸に、低密度シリカナノ中空粒子1に対する窒素吸着量をY軸にとり、相対圧力(P/P0)を変化させてプロットすると、Y=2.71X+3.63の直線となり、中実粒子に比較して2.71倍の窒素分子が吸着していることが分かった。そして、この直線のY軸との切片である「3.63」が、図2(b)に示されるように、窒素分子が通過する2nm以下の大きさのミクロ細孔1bの存在を裏付けている。つまり、このミクロ細孔1bを埋める分の窒素分子の吸着量が、Y軸との切片となって表れるものである。
【0055】
そこで、この窒素分子が外表面にも内表面にも吸着するという現象を利用して、低密度シリカ殻1aの密度ρを算出する。図4(a)に示されるように、立方体状形態の低密度シリカナノ中空粒子1を、内径L,シリカ殻厚さdの中空立方体で近似すると、この立方体の外表面積は6×(L+2d)2 で、内表面積は6×L2 であるから、全表面積は6×{(L+2d)2 +L2 }となる。
【0056】
一方、シリカ殻1aの体積は中空立方体の体積から中空部分の体積を差し引いたものであるから、{(L+2d)3 −L3 }となる。よって、シリカ殻1aの密度ρを用いると、低密度シリカナノ中空粒子1の質量は、ρ×{(L+2d)3 −L3 }となる。したがって、比表面積は、表面積/粒子質量=6×{(L+2d)2 +L2 }/ρ{(L+2d)3 −L3 }で表される。
【0057】
このように、比表面積は、シリカ殻厚さdの関数となるので、密度ρをパラメータとして、横軸にシリカ殻厚さdをとり、縦軸に比表面積をとって計算値をプロットすると、密度ρ=2.2g/cm3 ,ρ=1.1g/cm3 の場合には、それぞれ図4(b)に示されるような反比例曲線となる。
【0058】
このグラフ上に、シリカ殻厚さdの異なる低密度シリカナノ中空粒子1の、窒素を用いたBET法による比表面積の実測値を当てはめると、図4(b)に示されるように、アモルファスシリカの密度であるρ=2.2g/cm3 の曲線には当てはまらず、その半分の密度のρ=1.1g/cm3 の曲線にほぼ当てはまることが明らかになった。また、シリカ殻厚さdが小さくなるにしたがって、密度ρが小さいほうへシフトしていくことが分かった。
【0059】
このようにして、本実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子1においては、図1に示されるフローチャートにしたがって製造されることによって、塗料等を始めとする材料中に混入等をすることによって、極めて低い熱伝導率を得るために有効である低密度のシリカ殻を有するナノ中空粒子となる。
【0060】
実施の形態2
次に、本発明の実施の形態2に係る低密度シリカナノ中空粒子について、図1を参考にして説明する。本実施の形態2に係る低密度シリカナノ中空粒子の製造方法は、上記実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子1とほぼ同様である。
【0061】
異なるのは、図1に示されるフローチャートの加熱工程(ステップS19)における加熱温度が200℃と低いことである。これによって、上記実施の形態1に係る低密度シリカナノ中空粒子1の密度ρ=1.1g/cm3 のよりも更に低い密度ρ=0.6g/cm3 の低密度シリカナノ中空粒子を得ることができる。
【0062】
実施の形態3
次に、本発明の実施の形態3に係る低密度シリカナノ中空粒子について、図5及び図6を参照して説明する。
【0063】
図5は、本発明の実施の形態3に係る低密度シリカナノ中空粒子の製造方法を示すフローチャートである。図6(a)は本発明の実施の形態3の実施例1に係る低密度シリカナノ中空粒子を混入した塗料の熱伝導率を算出する方法の説明図、(b)は実施例2に係る低密度シリカナノ中空粒子を混入した塗料の熱伝導率を算出する方法の説明図、(b)は比較例1に係るシリカナノ中空粒子を混入した塗料の熱伝導率を算出する方法の説明図である。
【0064】
図5に示されるように、本実施の形態3においては、まず炭酸カルシウムの乾燥粉末(走査型電子顕微鏡により観察した一次粒子径が50nm〜80nm)5と、テトラエトキシシラン(TEOS)6と、アンモニア水7とをエタノール水溶液に分散させる(ステップS20)。このとき、炭酸カルシウム乾燥粉末5を十分に分散させるため、超音波をかけながら、20℃で100分間反応させた。これによって、炭酸カルシウム乾燥粉末5の周囲にシリカ殻がコーティングされたシリカコーティング粒子8が生成する。
【0065】
ここで、炭酸カルシウムの乾燥粉末5としては、白石工業株式会社の合成炭酸カルシウムを使用し、テトラエトキシシラン(TEOS)6としては、信越化学工業株式会社の製品名「KBE−04」を使用し、アンモニア水7としては、濃度28重量%のアンモニア水試薬を使用した。
【0066】
生成したシリカコーティング粒子8は、エタノール水溶液中に分散しているので、これに塩酸水溶液(ごく薄い希塩酸)を少しずつ添加して、水素イオン濃度指数をpH3に調整して1時間攪拌する(ステップS21)。これによって、コーティングされたシリカ殻の密度を低密度に保ったまま、内部の炭酸カルシウム乾燥粉末5を溶解させて流出させ、流出孔(細孔)を有するシリカ殻からなるナノ中空粒子9が形成される。後は、遠心分離(3000rpm)によって脱水して乾燥し(ステップS22)、400℃で1時間加熱焼成して流出孔(細孔)を塞ぐことによって(ステップS23)、本実施の形態3に係る低密度シリカナノ中空粒子10が得られる。
【0067】
ここで、炭酸カルシウム乾燥粉末5とテトラエトキシシラン(TEOS)6の重量比が低密度シリカナノ中空粒子10のミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度に及ぼす影響について調べるため、実施例1として炭酸カルシウム乾燥粉末5とテトラエトキシシラン6とをほぼ同重量用いた配合、実施例2として炭酸カルシウム乾燥粉末5よりもテトラエトキシシラン6を少なくした配合について、製造試験及び評価を実施した。比較のため、比較例1として炭酸カルシウム乾燥粉末5よりもテトラエトキシシラン6を多くした配合についても製造・評価した。実施例1,2及び比較例1の配合内容を表1の上段に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1の上段に示されるように、実施例1は炭酸カルシウム乾燥粉末(26.25重量部)とテトラエトキシシラン(26.25重量部)とを同重量部配合しており、実施例2は炭酸カルシウム乾燥粉末(26.27重量部)よりもテトラエトキシシラン(21.02重量部)を少なく配合している。これに対して、比較例1では炭酸カルシウム乾燥粉末(26.23重量部)よりもテトラエトキシシラン(31.48重量部)を多く配合している。その他の配合成分であるエタノール(262.30重量部〜262.77重量部)、水(52.46重量部〜52.54重量部)、アンモニア水(10.49重量部〜10.51重量部)の配合量は実施例1,2及び比較例1のいずれもほぼ同重量部である。なお、アンモニア水の濃度は28重量%である。
【0070】
これらの各配合について、図5のフローチャートにしたがって低密度シリカナノ中空粒子10を製造し、そのミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度を、上述した実施の形態1と同様に、窒素分子を用いたBET法による比表面積の測定値とシリカ殻の厚さとの関係から算出した。各配合のシリカ殻の密度を、表1の下段に示す。表1の下段に示されるように、実施例1は1.54g/cm3 、実施例2は1.73g/cm3 と、いずれも低密度のシリカ殻からなるシリカナノ中空粒子10が得られた。
【0071】
これに対して、比較例1は2.12g/cm3 であり、アモルファスシリカの2.2g/cm3 と殆ど変らず、低密度のシリカ殻を得ることができなかった。このように、低密度シリカナノ中空粒子10を確実に製造するためには、炭酸カルシウム乾燥粉末5に対してテトラエトキシシラン(TEOS)6を同重量以下の配合とすることが好ましく、特にほぼ同重量ずつ配合することがより好ましいことが明らかとなった。
【0072】
更に、低密度シリカナノ中空粒子10を塗料等の材料中に混入することによって極めて低い熱伝導率が得られることを再確認するために、実施例1,2及び比較例1の各配合に係るシリカナノ中空粒子を、それぞれアクリルウレタン系樹脂塗料(グランデックス社製)中に固形分重量比で10%混合し、ステンレス製円板(直径60mm)の表面に約10μm,約20μm,約30μm,約40μmと膜厚を変化させて塗布し、レーザ式熱伝導率測定機によって塗膜付きの試料の全熱抵抗を測定し、塗膜の膜厚との相関関係から熱伝導率を算出した。
【0073】
実施例1の配合に係るシリカナノ中空粒子をアクリルウレタン系樹脂塗料中に混合し、ステンレス製円板の表面に膜厚を変化させて塗布した塗膜付きの試料の膜厚と、レーザ式熱伝導率測定機によって測定した試料の全熱抵抗との関係を、表2に示す。なお、全熱抵抗の測定は、各試料について2回ずつ実施した。
【0074】
【表2】

【0075】
表2に示されるように、塗膜付きの試料の膜厚が厚くなるにしたがって全熱抵抗の値も増大するが、この実施例1の配合に係る試料の場合には、その増大の幅が大きいため、塗膜の熱抵抗が大きいこと、すなわち塗膜の熱伝導率が小さいことが予想される。
【0076】
また、実施例2の配合に係るシリカナノ中空粒子をアクリルウレタン系樹脂塗料中に混合し、ステンレス製円板の表面に膜厚を変化させて塗布した塗膜付きの試料の膜厚と、レーザ式熱伝導率測定機によって測定した試料の全熱抵抗との関係を、表3に示す。なお、全熱抵抗の測定は、各試料について2回ずつ実施した。
【0077】
【表3】

【0078】
表3に示されるように、この実施例2の配合に係る試料の場合には、塗膜付きの試料の膜厚が厚くなっても、全熱抵抗の値は殆ど変化していない。したがって、実施例2の配合に係る試料の塗膜は、実施例1の配合に係る試料に比べて塗膜の熱抵抗が小さいこと、すなわち塗膜の熱伝導率が大きいことが予想される。
【0079】
これに対して、比較例1の配合に係るシリカナノ中空粒子をアクリルウレタン系樹脂塗料中に混合し、ステンレス製円板の表面に膜厚を変化させて塗布した塗膜付きの試料の膜厚と、レーザ式熱伝導率測定機によって測定した試料の全熱抵抗との関係を、表4に示す。なお、全熱抵抗の測定は、各試料について2回ずつ実施した。
【0080】
【表4】

【0081】
表4に示されるように、比較例1の配合に係る試料の場合にも、塗膜付きの試料の膜厚が厚くなっても、全熱抵抗の値は殆ど変化していない。したがって、比較例1の配合に係る試料の塗膜は、実施例1の配合に係る試料に比べて塗膜の熱抵抗が小さいこと、すなわち塗膜の熱伝導率が大きいことが予想される。これらの表2乃至表4に示されるデータを、グラフにプロットすることによって、各配合に係る塗膜の熱伝導率の値を求めることができる。
【0082】
具体的には、図6に示されるように、レーザ式熱伝導率測定機によって測定した塗膜付き試料の全熱抵抗を横軸に、塗膜の膜厚を縦軸にとって、膜厚の異なる試料ごとにプロットし、最小2乗法によってこれらのプロットに最もフィットする直線を求めて、その直線の傾きから熱伝導率を算出することができる。すなわち、図6の横軸をx軸、縦軸をy軸とした場合に、最小2乗法によって求めた直線をy=ax+b(a,bは実数)で表した場合の係数aが、熱伝導率となる。なお、塗膜の膜厚=0の場合の全熱抵抗の値は、ステンレス製円板のみの全熱抵抗を測定したものである。
【0083】
ここで、「最小2乗法」とは、一般に『観測値y1,……,ynとその理論モデルから導かれる値との偏差平方和を最小にするように、理論モデルのパラメターを推定する方法。』(長倉三郎他編「岩波理化学辞典(第5版)」506頁,1998年2月20日株式会社岩波書店発行)であり、本実施の形態においては、全熱抵抗をx、塗膜の膜厚をyとした場合に、データをプロットしたものの理論モデルである直線y=ax+bに対する偏差平方和を最小にするように、係数a,bを決定する方法をいう。
【0084】
図6(a)に示されるように、本実施の形態3の実施例1に係るシリカナノ中空粒子をアクリルウレタン系樹脂塗料に混合した塗膜の熱伝導率は、レーザ式熱伝導率測定機によって測定した塗膜の全熱抵抗に対して塗膜の膜厚をプロットしたデータから、最小2乗法によって求めた直線の傾きaより、約0.019W/m・Kと算出される。同様にして、図6(b)に示されるように、本実施の形態3の実施例2に係るシリカナノ中空粒子をアクリルウレタン系樹脂塗料に混合した塗膜の熱伝導率は、約0.037W/m・Kと算出される。
【0085】
また、図6(c)に示されるように、比較例1に係るシリカナノ中空粒子をアクリルウレタン系樹脂塗料に混合した塗膜の熱伝導率は、約0.046W/m・Kと算出される。以上の算出結果を、表1の下段にまとめて示す。
【0086】
表1の下段に示されるように、実施例1に係る低密度シリカナノ中空粒子10を混入した塗膜は、0.019W/m・Kと、極めて低い熱伝導率を有することが判明した。また、実施例2に係る低密度シリカナノ中空粒子10を混入した塗膜は、0.037W/m・Kと、やはり低い熱伝導率を示した。
【0087】
これに対して、比較例1に係るシリカナノ中空粒子を混入した塗膜は、0.046W/m・Kとなり、アクリルウレタン系樹脂塗料そのものの熱伝導率(0.143W/m・K)よりは大きく低減されているものの、実施例1,2に比べると熱伝導率の低減効果は小さいことが明らかになった。
【0088】
このようにして、本実施の形態3に係る低密度シリカナノ中空粒子10においては、図5に示されるフローチャートにしたがって製造されることによって、塗料等を始めとする材料中に混入等をすることによって、極めて低い熱伝導率を得るために有効である低密度のシリカ殻を有するナノ中空粒子となる。
【0089】
上記各実施の形態においては、シリコンアルコキシドとして信越化学工業株式会社の製品名「KBE−04」テトラエトキシシラン(TEOS)を使用した場合について説明したが、テトラエトキシシランとしては、多摩化学工業株式会社の製品名「高純度正珪酸エチル」等のその他の製品を用いることもできる。また、テトラエトキシシラン以外のメチルトリメトキシシランやメチルトリエトキシシラン等のシリコンアルコキシドを用いても良い。
【0090】
本発明を実施するに際しては、低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子(低密度シリカナノ中空粒子)のその他の部分の構成、成分、形状、数量、材質、大きさ、製造方法等についても、低密度シリカナノ中空粒子の製造方法のその他の工程についても、上記各実施の形態に限定されるものではない。
【0091】
なお、本発明の実施の形態で挙げている数値は、その全てが臨界値を示すものではなく、ある数値は実施に好適な適正値を示すものであるから、上記数値を若干変更してもその実施を否定するものではない。
【符号の説明】
【0092】
1,10 低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子
2 コア粒子(炭酸カルシウム)
3 シリカコーティング粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡法により測定した外径が30nm〜200nmの範囲内であるシリカ殻からなるナノ中空粒子であって、
前記シリカ殻は複数のミクロ細孔を有しており、前記シリカ殻の前記ミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度が0.5g/cm3 〜1.9g/cm3 の範囲内であることを特徴とする低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子。
【請求項2】
顕微鏡法により測定した外径が20nm〜80nmの範囲内である乾燥粉末としての炭酸カルシウム微粒子を溶媒に分散させて、該炭酸カルシウム微粒子の表面にゾル−ゲル法でシリカ殻を形成し、酸水溶液によって分散系の水素イオン濃度指数をpH2〜pH3の範囲内としてシリカ被覆炭酸カルシウム微粒子の内部の前記炭酸カルシウム微粒子を溶解させて、前記シリカ殻のみからなるナノ中空粒子を200℃〜500℃の温度範囲で加熱して得たことを特徴とする請求項1に記載の低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子。
【請求項3】
顕微鏡法により測定した前記シリカ殻の厚さが3nm〜10nmの範囲内であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子。
【請求項4】
ミクロ細孔を有し顕微鏡法により測定した外径が30nm〜200nmの範囲内であるシリカ殻からなるナノ中空粒子の製造方法であって、
所定の大きさの外径を有する乾燥粉末としての炭酸カルシウム微粒子を溶媒に分散させて、該炭酸カルシウム微粒子の表面にゾル−ゲル法でシリカ殻を形成するシリカ被覆形成工程と、
酸水溶液によって分散系の水素イオン濃度指数をpH2〜pH3の範囲内としてシリカ被覆炭酸カルシウム微粒子の内部の前記炭酸カルシウム微粒子を溶解させて、前記シリカ殻のみからなるナノ中空粒子とする炭酸カルシウム溶解工程と、
前記シリカ殻のみからなるナノ中空粒子を200℃〜500℃の温度範囲で加熱する加熱工程と
を具備することを特徴とする低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子の製造方法。
【請求項5】
前記シリカ殻の前記ミクロ細孔を除いたシリカ殻のみの密度が0.5g/cm3 〜1.9g/cm3 の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子の製造方法。
【請求項6】
顕微鏡法により測定した前記炭酸カルシウム微粒子の前記所定の大きさが20nm〜80nmの範囲内であり、顕微鏡法により測定した前記シリカ殻の厚さが3nm〜10nmの範囲内であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の低密度シリカ殻からなるナノ中空粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−215490(P2010−215490A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2732(P2010−2732)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度採択課題,独立行政法人科学技術振興機構,「ナノシリカ中空粒子内包断熱薄膜用塗料の開発および実用化研究」委託研究,産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(504067365)グランデックス株式会社 (37)
【Fターム(参考)】