説明

低温域での喫食に適したレトルト食品

【課題】加熱調理せずに低温域(通常冷蔵〜常温といわれる5〜25℃)で原料の風味特徴が発揮されて良好な食味を呈し、低温域での喫食に適したレトルト食品を提供すること。
【解決手段】脂肪酸組成の工夫、融点を調整した油脂を選択する、澱粉系原料、野菜及び
果実のペ−ストに炒め玉ねぎをコミトロ−ルで処理したものを粘性材として含む、
といった手段で粘性を調整することで加熱調理せずに低温域での喫食に適した新
規なレトルト食品を提供した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルト食品に関し、更に詳しくは、加熱調理せずに低温域(通常冷蔵〜常
温といわれる5〜25℃程度)での喫食に適した新規なレトルト食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のレトルトカレーやシチュー等のレトルト食品は、一般に比較的安価でコクのあるラードやヘッドなど動物性油脂を用い、小麦粉や澱粉等と炒めて小麦粉ルウを作る。これらに調味料、香辛料、乳製品等を加え加熱調理したソースに具材を加えた流動性のあるペースト状の食品をレトルトパウチ等の容器に封入し、加圧加熱殺菌処理していた。これら動物性油脂は常温では固体かペースト状の為、食べると口触りが悪く、ざらつき感等を感じる場合が多かった。感覚的な面でも、常温でこのような油分が多く、口解けの必ずしもよくない食品を食すると、「気持ちが悪い」という感想を訴える人が多い。
また、レトルト食品とは開封さえしなければ半永久的に食べられるといわれるほど賞味期限が極めて長いものであるが、実際には何ヶ月も保存するうちに成分の分離がおこることもある。これは見た目的にも好ましくない。
【0003】
以上のような複数の理由から、従来品では、たとえばレトルトから直接絞り出してスプレッドのようにそのままパンに塗って食する、あるいは常温で海苔の佃煮のようにご飯に載せて食べる、さらにはマヨネーズのようにサラダにかけて食べるというような使用方法は考えもされなかった。これらの問題点は、喫食時にレトルトのままお湯の中で温めてから開封し絞り出せば解消するのであるが、食シーンにおいても即食性が尊ばれる現代においては、スプレッド、海苔の佃煮、マヨネーズのように「載せて」あるいは「つけて」使用するにあたって加熱行程が必須であることは、大きなディスアドバンテージであった。ましてやレトルトから絞り出して電子レンジで加熱しなければ喫食に適さないようでは、もはや即食性があるとはいえない
【特許文献1】特開平9-206036号公報
【特許文献2】特開平9-20607号公報
【特許文献3】特開2001-299291号公報
【特許文献4】特開平9-285277号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、低温域(通常冷蔵〜常温といわれる5〜25℃程度)において原料の風味特徴が発揮されて良好な食味や食感を呈し、また、長期間の保存においても成分の分離析出などによる食感や外観の劣化を伴わず、低温域(通常冷蔵〜常温といわれる5〜25℃程度)で絞り出してからすぐに喫食することに適したレトルト食品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は上記課題に鑑み検討を重ねた結果、低温域(通常冷蔵〜常温といわれる5
〜25℃程度)で喫食するためのレトルト食品の好ましい態様として、
1)油脂の脂肪酸組成がリノール酸、オレイン酸で50%以上、融点が5℃以下の油脂であるもの
2)澱粉系原料を、流動性を有するソースの0〜10重量%、好ましくは1〜5%、野菜及び/又は果実のペーストを10〜30重量%含有させること
3)炒め玉ねぎをコミトロールで処理し目開き0.38mmのメッシュで通過させ、粘度3000cp以下に処理し、粒度を調整したものを粘性材として含み、粘性を調整したもの
というような手段により、品温5〜25℃程度における物性、風味、搾り出し、取り出し易さの悪さに対応することを特徴とする、加熱調理せずに低温域での喫食に適したレトルト食品を発明した。
とりわけ3)に示す、炒め玉ねぎをコミトロール処理し、メッシュを通過させて粘度、粒度処理を行うプロセスは好ましい製品を作る上で重要である。
【発明の効果】
【0006】
本発明を実施することにより、スプレッド、海苔の佃煮、マヨネーズのように常温で絞り出してごはん、パン、サラダ等にかけて食することができる油脂含有レトルト食品が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明で対象とするレトルト食品は、少なくとも油脂及び澱粉系原料を含み、調味料、香辛料、乳製品、野菜ペースト等を加え、これらを水に分散及び溶解してなるソース部に適宜、肉や野菜等の具材を加えた調理済みの食品であって、カレー、ハヤシ、ソース類、スープ類、これらの類似品が例示される。尚、分散には乳化も含まれる。
【0008】
本発明で用いる油脂は、低温域(0〜10℃程度)で液状のものが好ましい。このうち、脂肪酸組成がリノール酸、オレイン酸を50%以上含み、融点が5℃以下の油脂を使用し、澱粉系原料(例えば小麦粉)を、具材を除くソース部の重量%に対し0〜10重量%、好ましくは1〜5%、野菜(例えば、たまねぎ、ニンニクなどの香味野菜)や果実(例えばバナナ、りんごなど)のペーストを10〜30重量%含むことで5〜25℃の粘度を100〜5000cpに調整することができる。この粘度設定は油脂を多く含む食品を常温で喫食しても不快感がないようにする上で重要である。また、油脂は風味、コクなどをソースに付与するのにも使用され得る。油脂類としては、流動性を有するソースの1〜10重量%程度使用することができる。
【0009】
澱粉系原料としては、小麦粉、小麦澱粉、コーンパウダー、コーンスターチ、ワキシコーンスターチ、ポテトフレーク、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、米粉、米澱粉、甘藷澱粉等を用いることができる。澱粉は耐熱性、耐酸性、耐老化性、機械耐性等を付与する為、エーテル化、エステル化、リン酸架橋等の化学処理を施したいわゆる化工澱粉や、加熱処理等の物理的処理をした湿熱加熱澱粉やアルファー化澱粉等も用いることができる。とろみを抑えてコク味を付与するために前記澱粉の分解物であるデキストリン等を用いることができる。澱粉系原料は、流動性を有するソースの0〜10重量%程度、好ましくは1〜5重量%使用することができる。
【0010】
又、澱粉系原料のみならず、炒め玉ねぎをコミトロールで処理し目開き0.38mmを通過させ、粘度を3000cp以下に処理したものやその他の野菜、果実等のペーストを粘性材として含み、粘性を調整したものを用いることができる。単に澱粉系原料で粘度調節を行ったものより、炒め玉ねぎをコミトロール処理したもののほうが、粘度付けにおいてはより好ましい。
【0011】
調味料としては、グルタミン酸ナトリウムなどのアミノ酸類、5-イノシン酸類、5-イノシン
酸二ナトリウム、5-グアニル酸二ナトリウムなどの核酸、コハク酸やコハク酸二ナトリウムなどの有機酸、食塩、砂糖、ブイヨン、などが挙げられる。調味料は流動性を有するソースの
20.0重量%程度以下使用することができる。
香辛料としては、ターメリック、カルダモン、フェンネル、シナモン、フェネグリーク、クミ
ン、コリアンダー、クローブ、アニス、ナツメッグ、メース、スターアニス、胡椒、唐辛子、ディ
ル、キャラウェイ、タイム、セージ、ローレル、マジョラム、タラゴン、セロリシード、パセリ、
花椒、バジル、セボリ、パプリカ、しょうが、陳皮、オニオン、ガーリック等が挙げられ、これら
を単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。また、カレー粉などの複合香辛
料、香辛料抽出物、ハーブ類を使用することもできる。香辛料は流動性を有するソースの5重量%以下程度使用することができる。
【0012】
乳製品としては生乳、牛乳、脱脂乳、加工乳などの乳、生クリーム、チーズ、濃縮ホエイ、濃縮乳、全粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、チーズパウダー、などが挙げられる。乳製品をソースの20重量%以下程度使用することができる。
野菜ペーストとしては、玉ねぎ、にんじん、ジャガイモ、トマト、コーン、ブロッコリー、ホウレン草などが挙げられる。又、果実ペーストとしては、バナナ、りんご、マンゴ、オレンジ等が挙げられ、これらの野菜、果実ペーストをソースの10〜30重量%、好ましくは15〜25重量%使用することができる。
【0013】
ソースに加える具としては、玉ねぎ、にんじん、ジャガイモ、マッシュルームなどが挙げられ、これらはダイスカット品、スライス品が好ましく使用される。また、これら以外に肉類(牛肉、鶏肉、豚肉のブロック、スライス、ミンチ肉)などが挙げられる。
本発明のレトルト食品としては品温5〜25℃における粘度を100〜5000cpのものが好ましく、より好ましくは品温5〜25℃における粘度を200〜3000cpであることが望ましい。上記粘度域に調整することにより、低温域において滑らかで口蝕りの良い物性が得られる。尚、以上の本発明の説明において、記述の粘度は、B型粘度計(R100型粘度計、東機産業製)により測定したものである。又、原料の含有量並びにレトルト食品の粘度は、具材を除いたソース部におけるものを指す。
【0014】
更に、本発明では以上の低温域で喫食するためのレトルト食品を調整するためのレトルト食品用原料ソースを提供する。上記基材とは、必要により肉、野菜等の具材を加えて加圧加熱殺菌処理して本発明のレトルト食品を調整するための原料ソースである。
又、上記原料ソースを柔軟性のある容器や小袋やスティック状の袋状のレトルトパウチに入れておけば、押し出す、搾り出す等の操作で容易に喫食に適したものとなる。
本発明のレトルト食品の加圧加熱殺菌は、例えば0.15Mpa〜0.25Mpa、110℃〜125℃、15〜40分間の条件下で実施することができ、例えばレトルト釜にて122℃15分間加熱することで殺菌することができる。
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより一層具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0015】

製品に表1の配合にてソース(カレーソース)を配合した。
【0016】
【表1】

【0017】
カレーソースの全原料100重量%に対し、各原料を以下の表2に記載の量で使用した。
【0018】
【表2】

【0019】
比較例の説明
(実施例2)実施例が、炒め玉ねぎをコミトロールで処理し目開き0.38mmのメッシュで通過させ、粘度3000cp以下に処理したもの(ソテーオニオンペースト(コロイド処理品))を用いているのに対し、これを5MMカットソテーオニオンに置き換えたもの。
(実施例3)実施例に比較して小麦粉を増量し、ソースの5%以上加えたもの。
(比較例1)実施例2のコーン油をラードに置き換えたもの。
(実施例4)実施例3のコーン油をラードに置き換えたもの。
(実施例5)実施例1のコーン油をラードに置き換えたもの。
【0020】
(1)
小麦粉ルウの調整・・原料Aグループと原料Bグループを蒸気ジャケット付き撹拌ニーダーにて120℃まで加熱して小麦粉ルウとする。
(2)
カレーソースの調整・・粉末原料CグループとペーストDグループ、水を加え撹拌しながら加熱し、95℃達温でソースの粘度を3000cpに調整し、カレーソースとした。
(3)
レトルトカレーの調整・・牛ミンチ7gとにんじん 5gの具材をレトルトパウチに充填後、撹拌ニーダーから充填機に移送されたカレーソースを小袋に88g充填し、ヒートシールにて密封した上記パウチ詰めカレーをスプレー式のレトルト釜にて122℃15分加熱し、レトルトカレーを製造した。
(4)
レトルトカレーの品質評価・・レトルト殺菌した3日後、上記レトルトカレーをお湯で温めずに常温で官能パネラー5名で試食した。実施例1サンプルは風味、物性ともに良好であったが、実施例2−5は試食評価結果がカレー感が弱い、口触りが、後口のざらつきなどの点において、それぞれ実施例1よりはいくぶん評価が低かった。比較例1サンプルは、レトルトパウチより取り出すことが極めて困難だった。
(5)
保存テスト結果・・5℃ 6ヶ月保存で実施例4、比較例1サンプルは小麦粉の老化によるソース部の固化と離水の現象が若干、見られた。
【0021】
試食評価結果を表3に示す。
【0022】
【表3】




【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも油脂を含み澱粉系原料と野菜、及び又は果実のペーストで粘性を付与し、加水加熱した調理済みの食品であって、加熱調理せずに低温域(通常冷蔵〜常温といわれる5〜25℃程度)で喫食に適したレトルト食品。
【請求項2】
油脂の脂肪酸組成がリノール酸、オレイン酸で50%以上、融点が5℃以下の
油脂である請求項1のレトルト食品。
【請求項3】
炒め玉ねぎをコミトロールで処理し目開き0.38mmのメッシュで通過させ、粘度3000cp以下に処理したものを粘性材として含み、粘性を調整した請求項1又は2のレトルト食品。
【請求項4】
レトルトパウチの形態が小袋、又はスティック状で容易に取り出し易く、絞り
やすい形状の請求項1〜4のいずれかに記載のレトルト食品。
【請求項5】
レトルト食品がカレー、シチュー、ハヤシである請求項1〜5のいずれかに記
載のレトルト食品。
【請求項6】
請求項1〜6記載のレトルト食品を調整するためのソース。

【公開番号】特開2009−273391(P2009−273391A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−126676(P2008−126676)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】