説明

体内伝導音マイクロフォン、信号処理装置、コミュニケーションインタフェースシステム、採音方法

非可聴つぶやき音をできるだけ忠実に取得しようとする際に、主として液体である体内軟部組織の皮膚表面と気体である空気空間との界面での音響インピーダンスの不整合に起因する高域の減衰を抑制する。人間の乳様突起直下の体表にマイクロフォンを装着させ、声帯の規則振動を用いない発話行動(口の動き)に伴って調音される非可聴つぶやき音の肉伝導の振動音を、硬化したシリコーンゴム等を
介してコンデンサマイクロフォン部で採取することにより、音響インピーダンスの不整合に起因する高域の減衰を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明はマイクロフォン、信号処理装置、コミュニケーションインタフェースシステム、採音方法に関し、特に発声器官の運動に伴う共振フィルタ特性変化により調音された、声帯の規則振動を伴わず、周囲の人に聞かせる意図を有しない、ごく少量の呼吸量(呼気量および吸気量)を伴う、非可聴な呼吸音が体内軟部組織(肉など)を伝導(以下、「肉伝導」と呼ぶ)する振動音(以下、「非可聴つぶやき音(non−audible murmur;NUM)」と呼ぶ)を採取するマイクロフォン、これを利用した信号処理装置、コミュニケーションインタフェースシステム、採音方法に関する。
【背景技術】
携帯電話の急速な普及は、電車やバスなどの公共交通機関における通話マナーの問題を引き起こしている。携帯電話においても過去のアナログ電話とインタフェースの基本的構造は同じであって、空気伝導の音声を拾うため、周囲に人がいる環境で携帯電話により通話をすると、周囲の人に迷惑をかけるという不具合がある。電車内で他人の携帯電話による会話を聞かされることの不快感は誰もが経験することであろう。
それと共に、これも空気伝導の本質的欠点として、周囲の人に通話内容を聴取されてしまい、情報が漏洩する危険性もあり、パブリシティーコントロールの困難性は避けられない。
また、相手が背景雑音の大きな場所で通話している場合、空気伝導であるため、背景雑音が混入した相手の音声を聴取しにくいという問題もある。
一方、音声認識は、約30年の歴史をもって積み重ねられてきた技術であり、大語彙連続音声認識などにより、その認識率もディクテーションで単語認識率が90%以上を越えるまでになっている。音声認識は、ウェアラブルコンピュータなどの個人用携帯情報端末やロボットに対して、特別な修得技術が不要で誰にでも使える入力方法であり、また、長年人間の文化として慣れ親しんできた音声言語文化を直接情報発信に利用する方法として有望視されてきた。
しかし、古くはアナログ電話の時代より、また、音声認識の技術開発が始まった当初から、音声入力技術が対象としてきたのは、常に口から離れた位置にある外部マイクロフォンから採取した音であった。高指向性マイクロフォンを用いたり、ノイズの削減にハードウェア的、ソフトウェア的工夫が積み上げられているとはいっても、今日に至るまで、全く変わらず、口から放射され、空気伝導して、外部マイクロフォンに到達した音声を常に分析対象としてきた。
この空気伝導した通常音声を分析対象としてきた音声認識は、長い開発の歴史を持ち、扱いやすい製品も開発され、実際にコマンド認識だけではなく、ディクテーションにおいてさえ、静穏環境で十分実用になる精度を持っているにもかかわらず、一部カーナビゲーションでの利用を除いて、現実の場面でコンピュータやロボットへの入力に使用されている場面に遭遇することは少ない。
この理由として考えられるのは、まず空気伝導の根本的な欠点として、外部背景雑音の混入が避けられないことがある。静穏環境のオフィスでさえ、さまざまな雑音が予期せぬ場面で発生し、誤認識を誘発する。ロボットの体表などに集音装置がある場合、音声として一旦発してしまった情報は、背景雑音の影響により、誤認識され、危険な命令に変換されてしまう場合が考えられる。
逆に、静穏環境で使用するときに問題となるのが、音声を発することは、周囲への騒音となるということである。オフィス内で各人が音声認識を用いようとすると、部屋を分割しないと難しく、現実問題として使用は困難である。
また、これと関係して日本文化の特徴として、「あまり口に出して言わない」「口に出すのは照れくさい」という傾向も、音声認識の普及を阻む一要因と考えられる。
個人用携帯情報端末を屋外や乗り物内で使用する機会が飛躍的に増える将来を考えると、この欠点は本質的に重要な問題である。
音声認識技術の研究開発は、現在のようなグローバルなネットワーク環境や個人携帯端末を想定して始められたものではなかった。今後ますます無線化・ウェアラブル化が一般的になることを考えると、個人用携帯情報端末で音声認識結果の目視と修正を行ってから、情報を無線・有線で送った方が、はるかに安全である。
上記のように、外部マイクロフォンで採取した空気伝導の通常音声信号をパラメータ化して分析対象とする携帯電話や音声認識においては、雑音混入性、雑音発生性、情報漏洩性、修正困難性など分析対象自体がもつ欠点がある。
これらを根本的に改善して、現在および近未来的に用いられる個人用携帯情報端末において、簡便で訓練の必要が無く、人間の長い文化習慣に則った新しい入力方法およびそれを実現するデバイスの提供が望まれている。
ところで、通常音声信号を空気伝導以外の手段で採取する方法として、骨伝導による方法が知られている。骨伝導の原理は、声帯を振動させて発声する際に、声帯の振動が頭蓋骨に伝導し、さらに渦巻き状の蝸牛(内耳)に伝導し、蝸牛内部のリンパ液の振動により生成される電気信号が聴覚神経に送られて脳が音を認識するというものである。
音が頭蓋骨を伝導する、骨伝導の原理を利用した骨伝導スピーカーは、音をバイブレータによる振動に変換し、バイブレータを耳、耳の周囲の骨、こめかみ、乳様突起などに接触させて、頭蓋骨に伝えることにより、背景雑音の大きな環境で、あるいは鼓膜や耳小骨に異常がある難聴者、高齢者でも聞き取りやすくする目的で利用されている。
例えば、特開昭59−191996号公報(以下、特許文献1と称する)には、バイブレータを頭蓋骨の乳様突起上に接触させて、骨伝導と空気伝導の両方を利用した聴音器に関する技術が開示されている。しかし、特許文献1に開示されている技術は、人間の発声を採取する方法について開示したものではない。
特開昭50−113217号公報(以下、特許文献2と称する)には、口から放射され空気伝導した音をマイクロフォンで採取した音と喉仏の上に装着されたマイクロフォンで採取した音を、それぞれ、イヤフォンと頭蓋骨の乳様突起上に装着されたバイブレータから聞く音響再生装置に関する技術が開示されている。しかし、特許文献2に開示されている技術は、乳様突起直下にマイクロフォンを装着して、人間の発声を採取する方法について開示したものではない。
特開平4−316300号公報(以下、特許文献3と称する)には、イヤフォン型マイクロフォンとそれを利用した音声認識に関する技術が開示されている。特許文献3に開示されている技術では、声帯を規則振動させて発声した音声および歯咬音などの体内音声の、口腔から鼻腔を経て、さらに耳管および鼓膜を介して外耳道と耳甲介腔とからなる外耳に伝わった振動を採取する。これにより、雑音混入性、雑音発生性、情報漏洩性、修正困難性を回避でき、つぶやき程度の小さな声でも明瞭に採取できると主張している。しかしながら、特許文献3に開示されている技術では、声帯を規則振動させない非可聴つぶやき音が採取可能であることは明示していない。
特開平5−333894号公報(以下、特許文献4と称する)には、声帯を規則振動させて発声した音声および歯咬音などの人体信号を検出する振動センサーを具備した、イヤフォン型マイクロフォンとそれを利用した音声認識に関する技術が開示されている。特許文献4に開示されている技術では、振動センサーを固定する部位として、耳孔、耳周辺、頭部の表面、顔面の表面を明示している。この振動センサーにより採取された人体振動は、マイクロフォンが採取した信号の中から、発声者本人が発声した時間区間の信号のみを抽出類別し、抽出類別された信号を音声認識装置に入力する目的でのみ利用されている。しかしながら、特許文献4に開示されている技術では、人体振動そのものを音声認識装置の入力として、また、携帯電話の通話に利用できることを明示していない。ましてや、声帯を規則振動させない非可聴つぶやき音を、音声認識装置の入力として、また、携帯電話の通話に利用できることを明示していない。
特開昭60−22193号公報(以下、特許文献5と称する)には、通常の空気伝導を採取するマイクロフォン信号の中から、喉仏に装着する喉マイクロフォンやイヤフォン型骨伝導マイクロフォンが人体振動を検出した時間区間のみの信号を抽出類別し、抽出類別された信号を音声認識装置に入力する技術が開示されている。しかしながら、特許文献5に開示されている技術では、人体振動そのものを音声認識装置の入力として、また、携帯電話の通話に利用できることを明示していない。ましてや、声帯を規則振動させない非可聴つぶやき音を、音声認識装置の入力として、また、携帯電話の通話に利用できることを明示していない。
特開平2−5099号公報(以下、特許文献6と称する)には、通常の空気伝導を採取するマイクロフォン信号を、喉に装着する喉マイクロフォンや振動センサーが声帯の規則振動を検出した時間区間を有声、声帯の規則振動を検出しないが一定レベル以上のエネルギーを有する時間区間を無声、エネルギーが一定レベル以下の時間区間を無音と判定する技術が開示されている。しかしながら、特許文献6に開示されている技術では、人体振動そのものを音声認識装置の入力として、また、携帯電話の通話に利用できることを明示していない。ましてや、声帯を規則振動させない非可聴つぶやき音を、音声認識装置の入力として、また、携帯電話の通話に利用できることを明示していない。
ところで、Y.Nakajimaらによる文献“Non−audible Murmur Recognition input Interface Using Stethoscopic Microphone Attached to the Skin,”Proc.ICASSP,Singapore,Singapore,vol.V,pp.708−711,2003.(以下、非特許文献1と称する)には、聴診器型コンデンサマイクロフォンにより、非可聴つぶやきを検出する方法が開示されている。この方法では、携帯電話などの遠隔会話メディアによる通話や音声認識によるコマンド制御ならびに文字やデータなどの情報入力などの分野において、周囲の人が可聴な、空気伝導により伝わる音声(声帯を規則振動させて周囲の人に聞かせる意図を有して多量の呼気量を伴う通常音声、声帯を規則振動させるが周囲の人に聞かせる意図を有しない少な目の呼気量を伴うつぶやき声、声帯を規則振動させて周囲の人に聞かせる意図を有して少な目の呼気量を伴う小声、声帯を規則振動させないが周囲の人に聞かせる意図を有して少な目の呼気量を伴うささやき声を含む)を口から離れた位置にあるマイクロフォンにより採取するのではなく、マイクロフォンを、耳介の後下方部の、頭蓋骨の乳様突起(耳の後ろのやや骨の出っ張った部分)直下の、胸鎖乳突筋上の皮膚(以下、「乳様突起直下」と略する)に装着し、発声器官の運動に伴う共振フィルタ特性変化により調音された、声帯の規則振動を伴わず、周囲の人に聞かせる意図を有しない、ごく少量の呼吸量(呼気量および吸気量)を伴う、非可聴な呼吸音の体内軟部組織(肉など)を伝導(以下、「肉伝導」と呼ぶ)する振動音(以下、「非可聴つぶやき音」と呼ぶ)を採取する。
こうすることにより、音響的な背景雑音の混入がなく、周囲の人に非可聴なため発声内容が聴取されず、情報漏洩のコントロールが可能で、オフィスなどの静穏環境を損なうことなく、音声情報の伝達や入力を可能とし、コンピュータ、携帯電話ひいてはウェアラブルコンピュータなどの個人用携帯情報端末の新たな入力インタフェースを実現できる。
しかしながら、非特許文献1では、体内軟部組織上の皮膚表面とコンデンサマイクロフォンとの間に、空気空間が存在し、主として液体である体内軟部組織の皮膚表面と気体である空気空間との界面で音響インピーダンスの不整合があるために、高域が減衰し、2kHz以上の帯域のスペクトルを得ることは困難であった。
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は耳介の後下方部の、頭蓋骨の乳様突起直下の、胸鎖乳突筋上の皮膚表面から、非可聴つぶやきをできるだけ忠実に取得しようとする際に、主として液体である体内軟部組織の皮膚表面と気体である空気空間との界面での音響インピーダンスの不整合に起因する高域の減衰を抑制し、2kHz以上の帯域のスペクトルを得ることのできる体内伝導音マイクロフォン、信号処理装置、コミュニケーションインタフェースシステム、採音方法を提供することである。
【発明の開示】
本発明によるマイクロフォンは、耳介の後下方部の、頭蓋骨の乳様突起直下の、胸鎖乳突筋上の皮膚表面に装着され、発声器官の運動に伴う共振フィルタ特性変化により調音された、声帯の規則振動を伴わない、外部からは非可聴な呼吸音の体内軟部組織を伝導する振動音である非可聴つぶやき音、及び、可聴だが声帯を規則振動させないささやき声、小声、つぶやき声などを含む声帯の規則振動を用いて発声する音声、歯咬音、舌打ち音などの入力音声、の少なくとも一方を採取するマイクロフォンであって、一対の振動板電極を有するコンデンサマイクロフォン部と、体内軟部組織の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有し前記皮膚表面から前記コンデンサマイクロフォンへ前記入力音声を伝導する接触部と、を含むことを特徴とする。このように構成すれば、音響インピーダンスの不整合に起因する高域の減衰を抑制することができる。
また、前記接触部は、硬化したシリコーンゴムによって形成されていることが望ましい。体内軟部組織の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有する硬化したシリコーンゴムを採用することにより、音響インピーダンスの不整合に起因する高域の減衰を抑制し、2kHz以上の帯域のスペクトルを得ることができる。
そして、前記硬化したシリコーンゴムは、前記コンデンサマイクロフォン部を被覆するとともに、マイクロフォン内部全体に充填されていることが望ましい。このように構成すれば、成型し易く、マイクロフォンをより安価に実現できる。
前記硬化したシリコーンゴムの硬度は、30(ShoreA)以下であることが望ましい。このような硬度のシリコーンゴムを採用すれば、良好な特性が得られる。
前記硬化したシリコーンゴムは、付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物であり、シリカ微粉末は10から60重量部、オルガノハイドロジェンポリシロキサンは1から60重量部であることが望ましい。このような組成のシリコーンゴムを用いれば、良好な特性が得られる。
ところで、前記接触部の形状は、前記コンデンサマイクロフォン部から前記皮膚表面へ向かうに従って断面積が徐々に小さくなる形状であっても良い。このような形状の接触部を採用することにより、乳様突起直下の適切な皮膚表面部位に確実に接触することができ、非可聴つぶやき音を確実に伝導することができる。
また、前記接触部の形状は、前記コンデンサマイクロフォン部から前記皮膚表面へ向かうに従って断面積が徐々に大きくなる形状であっても良い。このような形状の接触部を採用することにより、皮膚表面に接する面積が広いので、同一サイズのコンデンサマイクロフォンを使用した場合でも、体内軟部組織を伝導する非可聴つぶやき音をより大きな振幅で取得できる。
前記コンデンサマイクロフォン部は、前記接触部内に埋没して設けられていても良い。コンデンサマイクロフォン全体を接触部の中に完全に埋没させれば、さらに外部雑音の混入を防ぐことができる。
前記接触部よりも固く、かつ、該接触部の前記皮膚表面と接する面以外の部分を覆う補強部と、前記接触部と前記補強部との境界面に設けられ前記非可聴つぶやき音を反射する反射体と、を更に含んでいても良い。このような構成により、体内軟部組織を伝導する非可聴つぶやき音が反射体内面で内側に反射し、コンデンサマイクロフォンの振動板電極に集中するので、非可聴つぶやき音をより大きな振幅で取得できる。
前記コンデンサマイクロフォン部の上下が反転していても良い。このような構成により、体内軟部組織を伝導する非可聴つぶやき音が反射体内面で内側に反射し、コンデンサマイクロフォンの振動板電極に集中するので、非可聴つぶやき音をより大きな振幅で取得できる。
前記反射体は、パラボラ形状すなわち放物線に沿った形状を有していても良い。このような構成により、反射体内側で内側に反射した非可聴つぶやき音が、より振動板電極に集中し易く、より大きな振幅で取得できる。
なお、眼鏡、ヘッドフォン、耳かけ型イヤフォン、帽子、ヘルメットなど、人間の頭部に装着する頭部装着物と一体に構成されていても良い。頭部装着物とマイクロフォンとを一体化することにより、マイクロフォンを違和感なく装着できる。
本発明による信号処理装置は、耳介の後下方部の、頭蓋骨の乳様突起直下の、胸鎖乳突筋上の皮膚表面に装着され、発声器官の運動に伴う共振フィルタ特性変化により調音された、声帯の規則振動を伴わない、外部からは非可聴な呼吸音の体内軟部組織を伝導する振動音である非可聴つぶやき音、及び、可聴だが声帯を規則振動させないささやき声、小声、つぶやき声などを含む声帯の規則振動を用いて発声する音声、歯咬音、舌打ち音などの入力音声、の少なくとも一方を採取するマイクロフォンであって、一対の振動板電極を有するコンデンサマイクロフォン部と、体内軟部組織の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有し前記皮膚表面から前記コンデンサマイクロフォンへ前記入力音声を伝導する接触部と、を含むマイクロフォンからの入力信号を信号処理することを特徴とする。このような信号処理装置を用いれば、音響インピーダンスの不整合に起因する高域の減衰を抑制することができる。
本発明によるコミュニケーションインタフェースシステムは、上記信号処理装置による信号処理結果をコミュニケーションに使用するようにしたことを特徴とする。このようなコミュニケーションインタフェースシステムを用いれば、音響インピーダンスの不整合に起因する高域の減衰を抑制しつつコミュニケーションを行うことができる。
本発明による採音方法は、発声器官の運動に伴う共振フィルタ特性変化により調音された、声帯の規則振動を伴わない、外部からは非可聴な呼吸音の体内軟部組織を伝導する振動音である非可聴つぶやき音、及び、可聴だが声帯を規則振動させないささやき声、小声、つぶやき声などを含む声帯の規則振動を用いて発声する音声、歯咬音、舌打ち音などの入力音声、の少なくとも一方をマイクロフォンで採音する採音方法であって、
前記マイクロフォンは、
音響インピーダンスが体内軟部組織の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスにマッチングされた接触部を介して前記皮膚表面から一対の振動板電極を有するコンデンサマイクロフォンへ前記入力音声を伝導させ、
耳介の後下方部の、頭蓋骨の乳様突起直下の、胸鎖乳突筋上の皮膚表面に装着されていることを特徴とする。このような採音方法を用いれば、音響インピーダンスの不整合に起因する高域の減衰を抑制することができる。
要するに本発明は、非可聴つぶやき音を、コミュニケーションに利用するものである。声帯を規則振動させずに発声された非可聴つぶやき音は、舌や口唇、顎、軟口蓋など調音器官の発話運動により、通常の声帯を規則振動させる音声とほぼ同様に、その共振フィルタ特性の変化により調音されるとともに、肉伝導する。
本発明では、乳様突起直下に、マイクロフォンを密着して装着させる。これによって採取した、非可聴つぶやき音の肉伝導の振動音を増輻して聴取すると、ささやき声に似た人間の音声として弁別理解可能である。しかも、通常環境では半径1m以内の他人にも聴取されない。この空気伝導ではない、非可聴つぶやき音の肉伝導の振動音を分析・パラメータ化の対象とする。
増幅されたこの肉伝導の振動音は、それ自体が人間に聴取理解可能であるため、そのまま、携帯電話の通話に用いることができる。また、モーフィング処理した音声に加工した後、携帯電話の通話に用いることもできる。
また、従来音声認識で使用されてきた隠れマルコフモデル(Hidden Markov Model;以下、HMMと略称することがある)の技術を利用し、通常音声の音響モデルを非可聴つぶやき音の肉伝導の振動音の音響モデルに置き換えることにより、音声認識が可能であるため、一種の無音声の認識を実現でき、個人携帯情報端末の新たな入力方法として利用可能である。
このように本発明は、非可聴つぶやき音を、人間対人間、人間対コンピュータの新たなコミュニケーションとして提案している。しかも皮膚表面からコンデンサマイクロフォンへ非可聴つぶやき音を伝導する接触部を採用しているので、音響インピーダンスの不整合に起因する高域の減衰を抑制し、2kHz以上の帯域のスペクトルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明によるマイクロフォンを用いたコミュニケーションインタフェースシステムを携帯電話システムに適用した場合の構成を示すブロック図である。
図2は、本発明によるマイクロフォンを用いたコミュニケーションインタフェースシステムを音声認識システムに適用した場合の構成を示すブロック図である。
図3は、非可聴つぶやき用マイクロフォンのスペクトログラムを示す図である。
図4は、超音波イメージングによる音響インピーダンスの計測例を示す図である。
図5は、本発明によるマイクロフォンの第1の実施例の構成を示す断面図である。
図6は、図5のマイクロフォンについてのスペクトログラムを示す図である。
図7は、本発明によるマイクロフォンの第2の実施例の構成を示す断面図である。
図8は、本発明によるマイクロフォンの第3の実施例の構成を示す断面図である。
図9は、図8のマイクロフォンについてのスペクトログラムを示す図である。
図10は、本発明によるマイクロフォンの第4の実施例の構成を示す断面図である。
図11は、図10のマイクロフォンについてのスペクトログラムを示す図である。
図12は、本発明によるマイクロフォンの第5の実施例の構成を示す断面図である。
図13は、本発明によるマイクロフォンの第6の実施例の構成を示す断面図である。
図14は、本発明によるマイクロフォンの第7の実施例の構成を示す断面図である。
図15は、図14のマイクロフォンについてのスペクトログラムを示す図である。
図16は、図14のマイクロフォンの接触部について、感度の良い硬度の検討方法を示す図である。
図17は、図16による検討方法の検討結果を示す図である。
図18は、本発明によるマイクロフォンの装着位置を示す図である。
図19は、本発明によるマイクロフォンの装着位置を示す図である。
図20は、眼鏡とマイクロフォンとを一体化した例を示す図である。
図21は、ヘッドフォンとマイクロフォンとを一体化した例を示す図である。
図22は、耳かけ型イヤフォンとマイクロフォンとを一体化した例を示す図である。
図23は、帽子とマイクロフォンとを一体化した例を示す図である。
図24は、ヘルメットとマイクロフォンとを一体化した例を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。以下の説明において参照する各図では、他の図と同等部分は同一符号によって示されている。
なお、日本語の場合、発声のほとんどは、呼吸の呼気を利用して行われる。そこで、以下は、呼気を利用した非可聴つぶやき音を対象とした場合について説明するが、吸気を利用した非可聴つぶやき音を対象とした場合も同様に実施できる。また、非可聴つぶやき音は、他人に聞かせることを前提としていない。この点、積極的に他人に聞かせようとしているささやき声とは異なる。そして本発明では、非可聴つぶやき音を、空気伝導は利用せずに、肉伝導によりマイクロフォンで採取することに特徴がある。
(携帯電話システム)
図1は、本発明のマイクロフォンを用いたコミュニケーションインタフェースシステムの概略構成図である。
マイクロフォン1−1を、乳様突起直下1−2に接着して装着し、イヤフォン1−3又はスピーカーを耳孔に装着する。マイクロフォン1−1は略円筒形であり、その一方の底面には後述する接触部が設けられている。この接触部が乳様突起直下1−2の皮膚の表面に接触した状態でマイクロフォン1−1を使用する。マイクロフォン1−1及びイヤフォン1−3は、携帯電話機1−4と有線もしくは無線の通信手段で接続されている。イヤフォン1−3の代わりにスピーカーを用いても良い。
無線ネットワーク1−5は、例えば、無線基地局51a及び51bと、基地局制御装置52a及び52bと、交換機53a及び53bと、通信網50とを含んで構成されている。本例では、携帯電話機1−4が無線基地局51aと無線通信し、かつ、携帯電話機1−6が無線基地局51bと無線通信することにより、携帯電話機1−4と携帯電話機1−6との間で通話が可能となる。
人間が、声帯の規則振動を用いずに発声した非可聴つぶやき音は、舌や口唇、顎、軟口蓋など調音器官の発話運動により、通常の声帯を規則振動させて発声する音声とほぼ同様に、その共振フィルタ特性の変化により調音されるとともに、肉伝導の振動音として乳様突起直下1−2に到達する。
乳様突起直下1−2に到達した、非可聴つぶやき音1−7の振動音は、そこに装着されているマイクロフォン1−1により採取され、マイクロフォン内のコンデンサマイクロフォンによって電気信号となり、この信号が有線もしくは無線の通信手段により、携帯電話機1−4に送信される。
携帯電話機1−4に送信された、非可聴つぶやき音の振動音は、無線ネットワーク1−5を介して、通話相手の持つ携帯電話機1−6に送信される。
一方、通話相手の音声は、携帯電話機1−6、無線ネットワーク1−5、携帯電話機1−4を経由して、有線もしくは無線の通信手段により、イヤフォン1−3又はスピーカーに送信される。なお、携帯電話1−4から直接、聴く場合はイヤフォン1−3は必要ない。
これにより、通話相手と会話することが出来る。この際、非可聴つぶやき音1−7を発声しているため、例えば半径1m以内の他人にも聴取されない。また、半径1m以内の他人の迷惑になることもない。
要するに、本例では、マイクロフォンと、信号処理装置としての携帯電話機とを組み合わせて、コミュニケーションインタフェースシステムを構成している。
(音声認識システム)
図2は、本発明のマイクロフォンを用いたコミュニケーションインタフェースシステムの概略構成図である。
図1の場合と同様に、マイクロフォン1−1を頭蓋骨の耳介の後下方部の、乳様突起直下1−2の体表に接着して装着する。
人間が、「こんにちは」と発声した非可聴つぶやき音1−7は、舌や口唇、顎、軟口蓋など調音器官の発話運動により、通常の声帯を規則振動させる音声とほぼ同様に、その共振フィルタ特性の変化により調音されるとともに、肉伝導して、振動音として乳様突起直下1−2に到達する。
乳様突起直下1−2に到達した、「こんにちは」の非可聴つぶやき音1−7の振動音は、マイクロフォン1−1により採取され、有線もしくは無線の通信手段により、個人用携帯情報端末2−3に送信される。
個人用携帯情報端末2−3に送信された、「こんにちは」の非可聴つぶやき音の振動音は、個人用携帯情報端末2−3に内蔵された音声認識機能により、「こんにちは」と音声認識される。
音声認識結果である「こんにちは」の文字列は、有線・無線ネットワーク2−4を介して、コンピュータ2−5、ロボット2−6などに送信される。
コンピュータ2−5、ロボット2−6などは、それに対する音声や画像の応答を生成し、それらを有線・無線ネットワーク2−4を介して、個人用携帯情報端末2−3に返信する。
個人用携帯情報端末2−3は、音声合成や画像表示の機能を利用して、人間に対しそれらの情報を出力する。
この際、非可聴つぶやき音を発声しているため、半径1m以内の他人にも聴取されない。
要するに、本例では、マイクロフォンと、信号処理装置としての個人用携帯情報端末とを組み合わせて、コミュニケーションインタフェースシステムを構成している。
(マイクロフォンの構成)
皮膚表面から肉伝導により伝搬する微少な振動を感知するためには、まず集音装置であるマイクロフォンの工夫が不可欠であった。医療用膜型聴診器を用いた実験で、頭部のある部位に聴診器を当てると、呼吸音が聴取可能であり、これに発話運動が加わると、声帯の規則振動を用いて発した音声と同様に、非可聴つぶやき音の呼吸音が声道の共振フィルタ特性で調音されて、ささやき声に似た音声が聴取弁別可能であることがわかった。このため、この膜型聴診器の微小密閉空間の反響を応用した方法が有効であると考えた。
ただし、主として液体である体内軟部組織の皮膚表面と気体である空気空間との界面で音響インピーダンスの不整合が生じると、マイクロフォン自体の感度が良くても、図3に示されているように、2kHz未満のスペクトルしか得られない。また、微小反響空間が空気の空間であると、外部雑音が混入しやすい。
外部雑音の影響を受けにくくするため、皮膚から直接コンデンサマイクロフォンの振動板電極に非可聴つぶやきの振動を伝えることができれば、上記の音響インピーダンスの不整合を解消することができ、2kHz以上のスペクトルを得ることも可能になると考えられる。そのためには、微小反響空間を体内軟部組織に近い音響インピーダンスを持つ生体適合性物質で充填すれば良いと考えられる。音響インピーダンスが、人間の軟部組織に近く、生体適合性に優れた材質として、シリコーンゴム、ポリエーテルゴム、多硫化ゴム、アルギン酸塩、寒天などのゲル状弾性高分子化合物がある。
その中でも硬化したシリコーンゴムは歯科補綴物作成に必要な口腔内模型作製に使用される型取材(以下、印象材と記す)としてよく利用され、硬度弾性の調整がしやすい材質である。
硬化したシリコーンゴムとしては、具体的には、有機過酸化物硬化型オルガノポリシロキサン組成物、付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物、或いは、室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物を用いればよい。
有機過酸化物硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、一般に以下の組成を主成分とする。
(A)下記平均組成式(1)
SiO(4−n)/2 (1)
(但し、式中Rは、同一又は異種の置換又は非置換の一価炭化水素基であり、nは1.98〜2.02の正数である。)で示されるオルガノポリシロキサン100重量部
(B)シリカ微粉末1〜100重量部
(C)有機過酸化物触媒量
付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、一般に以下の組成を主成分とする。
(D)下記平均組成式(1)
SiO(4−n)/2 (1)
(但し、式中Rは、同一又は異種の置換又は非置換の一価炭化水素基であり、nは1.98〜2.02の正数である。)で示され、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を含有するオルガノポリシロキサン100重量部
(E)シリカ微粉末10〜60重量部
(F)下記平均組成式(2)
SiO(4−e−f)/2 (2)
(式中、Rは、炭素数1〜10の置換又は非置換の一価炭化水素基である。また、eは0.7〜2.1、fは0.001〜1.0で、かつe+fは0.8〜3.0を満足する正数である。)で示されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン1〜60重量部
(G)付加反応触媒触媒量
室温硬化型オルガノポリシロキサン組成物は、一般に以下の組成を主成分とする。
(H)下記平均組成式(3):
HO[Si(RO]H(3)
(式中、Rは、非置換又は置換の1価炭化水素基であり、nは15以上の整数である)で表されるジオルガノポリシロキサン100重量部、
(I)下記平均組成式(4):
(RSi(OR4−m(4)
(式中、Rは独立に、非置換又は置換の1価炭化水素基であり、mは0、1又は2である)で表されるオルガノシラン又はその部分加水分解物0.1〜20重量部、
(J)シリカ微粉末1〜100重量部
(K)室温硬化触媒触媒量
硬化したシリコーンゴムの無機充填材としては、上記のシリカ微粉末の他に、石英、クリストバライト、珪藻土、溶融石英、ガラス繊維、二酸化チタン、ケイ酸マグネシウムなどを目的に応じて用いればよい。
発明者は、図4に示されているように、3種類の硬度の異なる硬化したシリコーンゴムを腹壁にあてがい、超音波イメージング装置で、硬化したシリコーンゴムと腹壁との音響インピーダンスの差を観察した。同図中の「ソフトシリコーン」は、人間の軟部組織の柔らかさに近い硬化したシリコーンゴムの場合の特性である。また、同図では、「ソフトシリコーン」より硬い硬化したシリコーンゴムを「エラスティックシリコーン」、さらに硬い硬化したシリコーンゴムを「ハードシリコーン」と表記している。同図から分かるように、人間の軟部組織に近い音響インピーダンスを有するのは、人間の軟部組織の柔らかさに近い「ソフトシリコーン」であった。「エラスティックシリコーン」や「ハードシリコーン」の場合は、明白な黒い陰が観察でき、音響インピーダンスの不整合により、硬化したシリコーンゴム表面で超音波がほぼ反射している様子が分かる。
そこで、ソフトシリコーンゴムを採用し、微小反響空間に充填すれば、非可聴つぶやきの体内伝導音は、人間の体内軟部組織に近い音響インピーダンスを有するソフトシリコーンゴムを伝導し、音響インピーダンスの不整合を起こすことなく、コンデンサマイクロフォンで取得できると考えられる。
シリコーンゴム組成物の摂氏23度における粘度は、100cP以上、通常100〜10,000,000cP、特に1,000〜10,000cPであることが好ましい。硬化したシリコーンゴムとしては、付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物が好ましく、(E)シリカ微粉末のより好ましい範囲は10から60重量部、(F)オルガノハイドロジェンポリシロキサンのより好ましい範囲は1から60重量部である。なお、硬化したシリコーンゴムの硬度は、30(ShoreA)以下であることが好ましい。
さらに、ゲル状の柔らかい物質には、可塑性が高いので肌に当てたときに変形して隙間をなくし空気を追い出す利点があるので、残存空気による上記音響インピーダンスの不整合の問題を回避できる。さらに、ゲル状の柔らかい物質は、接触性のジリジリしたノイズも吸収して消音できる。
図5は、本発明の骨子となるマイクロフォン1−1の第1の実施例の構成を示す断面図である。同図に示されているマイクロフォン1−1は、コンデンサマイクロフォン部3の集音部分に硬化したソフトシリコーンゴムの接触部1aが設けられ、コンデンサマイクロフォン部3の集音部分以外の部分が硬質のフレーム1eに収容された構成である。
コンデンサマイクロフォン部3は、2枚の振動板電極3a及び3bと、受信した振動音を電気信号として導出するためのリード線1gとを有している。
硬化したソフトシリコーンゴムの接触部1aは、皮膚4aの表面に接触する部分であり、本例ではコンデンサマイクロフォン部3から皮膚4aの表面へ向かうに従って断面積が徐々に小さくなる形状になっている。このような形状を実現するには、最初にその形状の型を作成しておき、作成した型にシリコーンゴム素材を硬化促進剤と共に注入すれば良い。このような形状の接触部1aを採用することにより、乳様突起直下の適切な皮膚表面部位に確実に接触することができ、非可聴つぶやき音を確実に伝導することができる。
フレーム1eとコンデンサマイクロフォン部3との間の外部雑音防音空間1fには空気が存在している。硬質のフレーム1eでコンデンサマイクロフォン部3を包囲し、外部雑音防音空間1fを設けることにより、外部雑音の混入を防ぐことができる。なお、フレーム1eの素材には、レジンなどの固い素材を使用すれば良い。
皮膚4aは、耳介の後下方部の、頭蓋骨の乳様突起直下の、胸鎖乳突筋上の皮膚である。この皮膚4aの内部には、口腔4b、粘液4c、結合組織・脂肪4d、筋肉4e、血管4f、骨4g、が存在する。
このような構成を採用すれば、コンデンサマイクロフォン部3を構成する2枚の振動板電極の内の1枚である、振動板電極3bと、皮膚4aの表面との間に、接触部1aが設けられていることになる。そして、この接触部1aにより、口腔4bからコンデンサマイクロフォン部3へ非可聴つぶやき音が伝導される。本例の接触部1aは、体内軟部組織の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有する、硬化したソフトシリコーンゴムによって形成されているので、非可聴つぶやき音を伝導する際、音響インピーダンスの不整合に起因する高域の減衰を抑制することができる。
図6は、図5の硬化したシリコーンゴム伝導型コンデンサマイクロフォンについてのスペクトログラムを示す図である。同図に示されているように、狙い通り2kHz以上のスペクトルが得られていることが分かる。
図7は、マイクロフォン1−1の第2の実施例の構成を示す断面図である。同図に示されている第2の実施例によるマイクロフォン1−1が、図5に示されている第1の実施例の場合と異なる点は、硬化したソフトシリコーンゴムの略円板型の接触部1bが、コンデンサマイクロフォン部3から皮膚4a表面へ向かうに従って断面積が徐々に大きくなる形状になっている点である。このような形状の接触部1bを実現するには、最初にその形状の型を作成しておき、作成した型にシリコーンゴム素材を硬化促進剤と共に注入すれば良い。このような形状の接触部1bを採用することにより、皮膚表面に接する面積が広いので、同一サイズのコンデンサマイクロフォンを使用した場合でも、体内軟部組織を伝導する非可聴つぶやき音をより大きな振幅で取得できる。
図8は、マイクロフォン1−1の第3の実施例の構成を示す断面図である。同図に示されている第3の実施例によるマイクロフォン1−1が、図5に示されている第1の実施例、図7に示されている第2の実施例の場合と異なる点は、コンデンサマイクロフォン部3の全体が、硬化したソフトシリコーンゴムの接触部1cの中に埋没した構成になっている点である。このような頂点部分の無い円錐形状の接触部1cを実現するには、最初にその形状の型を作成しておき、作成した型の内部にコンデンサマイクロフォン部3を載置し、その上からシリコーンゴム素材を硬化促進剤と共に注入すれば良い。このような形状の接触部1cを採用することにより、皮膚表面に接する面積が広いので、同一サイズのコンデンサマイクロフォンを使用した場合でも、体内軟部組織を伝導する非可聴つぶやき音をより大きな振幅で取得できる。また、コンデンサマイクロフォン全体を硬化したソフトシリコーンゴムの中に完全に埋没させているので、図7に示されている第2の実施例の場合に比べて、さらに外部雑音の混入を防ぐことができる。図9は、本実施例で得られるスペクトログラムを示す図である。同図に示されているように、本実施例によれば、2kHz以上のスペクトルが得られている。
図10は、マイクロフォン1−1の第4の実施例の構成を示す断面図である。
同図に示されている第4の実施例によるマイクロフォン1−1が、図8に示されている第3の実施例の場合と異なる点は、硬化したソフトシリコーンゴムによる略円錐形状の接触部1dの廻りに補強部1hが設けられ、さらに接触部1dと補強部1hとの境界面に反射板1iが設けられている点である。また、補強部1hの上には、振動を吸収する吸収体1j、吸収体1k、が順に積層されている。そして、上記の構成全体が、振動を反射する反射体1mによって覆われている。
吸収体1jは、例えば、鉛製の板とする。吸収体1kは、AV(audio−visual)機器振動防止用の特殊合成ゴム製の板とする。反射体1mは、レジンを用いて形成する。
反射板1iは、例えば、金属によって形成する。この反射板1iは、接触部1dによって伝導されてくる非可聴つぶやき音を反射する反射体として作用する。
同図の構成によれば、第3の実施例において外部雑音防音空間であった部分に硬化したハードシリコーンゴムによる補強部1hが設けられ、硬化したソフトシリコーンゴムによる接触部1dと硬化したハードシリコーンゴムによる補強部1hとの境界に金属による反射板1iが設けられている。このような構成により、体内軟部組織から接触部1dに伝導されてくる非可聴つぶやき音が反射板1i内面で内側に反射し、コンデンサマイクロフォン部3の振動板電極3a及び3bの部分に集中することになる。したがって、非可聴つぶやき音をより大きな振幅で取得できる。図11は、本実施例で得られるスペクトログラムを示す図である。同図に示されているように、本実施例によれば、2kHz以上のスペクトルが得られている。
図12は、マイクロフォン1−1の第5の実施例の構成を示す断面図である。
同図に示されている第5の実施例によるマイクロフォン1−1が、図10に示されている第4の実施例の場合と異なる点は、コンデンサマイクロフォン部3の上下が反転し、振動板電極3aよりも振動板電極3bの方が反射板1iに近い位置に設けられている点である。このような構成にすれば、体内軟部組織を伝導する非可聴つぶやき音が反射板1iの内面で内側に反射し、コンデンサマイクロフォン部3の振動板電極3a及び3bに集中するので、非可聴つぶやき音をより大きな振幅で取得できる。本実施例においても、2kHz以上のスペクトルが得られる。
図13は、マイクロフォン1−1の第6の実施例の構成を示す断面図である。
同図に示されている第6の実施例によるマイクロフォン1−1が、図12に示されている第5の実施例の場合と異なる点は、金属による反射板1iの内面がパラボラアンテナ形状すなわち放物線に沿った形状を有している点である。反射板1iの内面をこのような形状にすれば、反射板1iの内面で内側に反射した非可聴つぶやき音を、コンデンサマイクロフォン部3の振動板電極3a及び3bの部分により強く集中させることができる。このため、非可聴つぶやき音をより大きな振幅で取得できる。本実施例においても、2kHz以上のスペクトルが得られる。
図14は、マイクロフォン1−1の第7の実施例の構成を示す断面図である。
同図に示されている第7の実施例によるマイクロフォン1−1が、図8に示されている第3の実施例の場合と異なる点は、接触部と同一の硬化したソフトシリコーンゴムが外部雑音防音空間1fにも充填され、コンデンサマイクロフォン部3の全体が接触部1nの中に埋没した構成になっている点である。つまり、硬化したシリコーンゴムは、コンデンサマイクロフォン部3を被覆するとともに、マイクロフォン1−1の内部全体に充填されていることになる。この第7の実施例の構成では、第3の実施例を実現する際に必要となる、頂点部分の無い円錐形状の型が不要になるため、成型し易く、マイクロフォン1−1をより安価に実現できる。
また、硬化したソフトシリコーンゴムによる接触部1nのみで、マイクロフォンとしての形状を維持できる場合には、フレーム1eは不要である。本実施例においても、図15に示されているように、2kHz以上のスペクトルが得られる。なお、同図は、「あらゆる現実をすべて自分のほうへねじまげたのだ」という文章を発声した場合のスペクトルデータである。
ところで、発明者は、図14に示されているマイクロフォンの接触部1nについて、感度の良い硬度を検討した。この際、硬度の異なる接触部1nを用意した。本例では、硬度6、硬度26、硬度43、の3種類の接触部1nを用意し、図16に示されているように、図1の場合と同様に、マイクロフォン1−1を頭蓋骨の耳介の後下方部の、乳様突起直下1−2の体表に接着して装着した。
また、3種類の硬度による接触部1nを有するマイクロフォン1−1の他に、標準マイクロフォン1−7を用意し、装着者の正面に設置した。標準マイクロフォン1−7には、小野測器社製計測用マイクロフォンを用いた。そして、騒音計の入力レベルが約60dB(A)となるように「あ」、「い」、「う」と発声したとき、標準マイクロフォン1−7及びマイクロフォン1−1の入力レベルを比較した。この際、標準マイクロフォン1−7の入力レベルを0dBとして、3種類の接触部1nを有する各マイクロフォン1−1の入力レベルを正規化して比較した。
この比較結果が図17に示されている。同図を参照すると、「あ」、「い」、「う」の発声それぞれにおいて、硬度6の場合、相対感度が高いことがわかる。また、それに次いで硬度26の場合も相対感度が高い。このため、大略硬度30以下程度であれば、高い感度が得られると思われる。
以上のように構成された第1〜第7の実施例によるマイクロフォンは、軽量で低コストである。また、携帯型音楽機器のヘッドフォンよりも耳を覆わないため、装着しても特に気になるようなことはない。
(マイクロフォンの装着位置)
次に、マイクロフォンの装着位置は、図18及び図19において二重丸(◎)で示されている位置である。
(応用例)
以上は、マイクロフォンのみを乳様突起直下に装着する場合について説明したが、これではマイクロフォンが外部から露出するので、見た目に違和感がある。そこで、マイクロフォンを、眼鏡、ヘッドフォン、耳かけ型イヤフォン、帽子、ヘルメットなど、人間の頭部に装着する頭部装着物と一体に構成しても良い。
例えば、図20に示されているように、眼鏡31の、耳に掛けるつる部31aの端部に、マイクロフォン1−1を設けても良い。
また、図21に示されているように、ヘッドフォン32の、耳あて部32a内に、マイクロフォン1−1を設けても良い。同様に、図22に示されているように、耳かけ型イヤフォン33の、耳に掛けるつる部33aの端部に、マイクロフォン1−1を設けても良い。
さらに、図23に示されているように、帽子34とマイクロフォン1−1とを一体に構成してもよい。同様に、図24に示されているように、ヘルメット35とマイクロフォン1−1とを一体に構成してもよい。これらとマイクロフォンとを一体化することにより、作業現場や工事現場で違和感なくマイクロフォンを使用でき、たとえ周囲の雑音が大きい場合でも、良好な通話が可能となる。
以上のように、各種の頭部装着物とマイクロフォンとを一体化すれば、マイクロフォンを違和感なく装着できる。しかもマイクロフォンの配置を工夫すれば、マイクロフォンを乳様突起直下に、適切に装着できる。
さらに、本発明のマイクロフォンを携帯電話機などに内蔵させても良い。この場合、そのマイクロフォン部分を乳様突起直下の、胸鎖乳突筋上の皮膚表面に押し当てれば、非可聴つぶやき音を利用した通話が可能となる。
上記では、非可聴つぶやき音を対象として説明したが、声帯の規則振動を伴い、非可聴つぶやきよりも大きなエネルギーを有する通常音声に対しても、本願発明が適用可能であることは言うまでもない。
上記では、体内軟部組織に近い音響インピーダンスを有する物質として、硬化したシリコーンゴムを挙げたが、同様の生体適合性及び音響インピーダンスを有する他の物質でも実現可能であることは言うまでもない。
上記では、マイクロフォン素子として、コンデンサマイクロフォンを使用したが、その他にも、ダイナミックマイクロフォン、圧電素子、MEMS(マイクロ・エレクトロ・メカニカル・システム)によるシリコンマイクロフォンにも本願発明が適用可能であることは言うまでもない。
本発明は、携帯電話、音声認識機能を有する機器、声帯を取り除く等の事情で声帯を振動させた通常発声のできなくなった障害者向けの機器におけるソフトウェア、サービスの分野で好適に利用できる。
本発明により、声を出さない携帯電話での通話や、声を出さない音声認識装置の利用が可能となる。
すなわち、携帯電話での通話やコンピュータならびに個人用携帯情報端末への情報入力が、新たな技術習得なしに、生来収得した音声言語文化で培われた調音器官の発話運動のみで可能となる。
しかも、周囲の背景雑音の混入がなく、また、静穏環境を壊すこともない。特に、音声言語のパブリシティーがコントロール可能となり、周囲への情報漏洩を気にしなくても済む。
また、通常音声認識においても、この採音方法により雑音混入が大幅に軽減できる。
目の前や口元にマイクロフォンを装着する煩わしさや携帯電話を片手で耳に当てる動作から解放されて、目立ちにくい耳介後下方部へのマイクロフォン装着のみとなり、場合によっては髪の毛に隠れるという利点もある。
通常音声を発しない、新たな言語コミュニケーション文化が生まれる可能性があるとともに、音声認識技術全体の実生活への普及を大きく促進すると考える。また、声帯などを除去した人や、声帯の規則振動を用いた発声に障害のある人にも最適に利用できる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】

【図21】

【図22】

【図23】

【図24】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
耳介の後下方部の、頭蓋骨の乳様突起直下の、胸鎖乳突筋上の皮膚表面に装着され、発声器官の運動に伴う共振フィルタ特性変化により調音された、声帯の規則振動を伴わない、外部からは非可聴な呼吸音の体内軟部組織を伝導する振動音である非可聴つぶやき音、及び、可聴だが声帯を規則振動させないささやき声、小声、つぶやき声などを含む声帯の規則振動を用いて発声する音声、歯咬音、舌打ち音などの入力音声、の少なくとも一方を採取するマイクロフォンであって、一対の振動板電極を有するコンデンサマイクロフォン部と、体内軟部組織の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有し前記皮膚表面から前記コンデンサマイクロフォンへ前記入力音声を伝導する接触部と、を含むことを特徴とするマイクロフォン。
【請求項2】
前記接触部は、硬化したシリコーンゴムによって形成されていることを特徴とする請求の範囲第1項記載のマイクロフォン。
【請求項3】
前記硬化したシリコーンゴムは、前記コンデンサマイクロフォン部を被覆するとともに、マイクロフォン内部全体に充填されていることを特徴とする請求の範囲第2項記載のマイクロフォン。
【請求項4】
前記硬化したシリコーンゴムの硬度は、30(ShoreA)以下であることを特徴とする請求の範囲第2項又は第3項記載のマイクロフォン。
【請求項5】
前記硬化したシリコーンゴムは、付加反応硬化型オルガノポリシロキサン組成物であり、シリカ微粉末は10から60重量部、オルガノハイドロジェンポリシロキサンは1から60重量部であることを特徴とする請求の範囲第2項又は第3項記載のマイクロフォン。
【請求項6】
前記接触部の形状は、前記コンデンサマイクロフォン部から前記皮膚表面へ向かうに従って断面積が徐々に小さくなる形状であることを特徴とする請求の範囲第1項から第5項までのいずれか1項に記載のマイクロフォン。
【請求項7】
前記接触部の形状は、前記コンデンサマイクロフォン部から前記皮膚表面へ向かうに従って断面積が徐々に大きくなる形状であることを特徴とする請求の範囲第1項から第5項までのいずれか1項に記載のマイクロフォン。
【請求項8】
前記コンデンサマイクロフォン部は、前記接触部内に埋没して設けられていることを特徴とする請求の範囲第1項から第7項までのいずれか1項に記載のマイクロフォン。
【請求項9】
前記接触部よりも固く、かつ、該接触部の前記皮膚表面と接する面以外の部分を覆う補強部と、前記接触部と前記補強部との境界面に設けられ前記非可聴つぶやき音を反射する反射体と、を更に含むことを特徴とする請求の範囲第8項記載のマイクロフォン。
【請求項10】
前記コンデンサマイクロフォン部の上下が反転していることを特徴とする請求の範囲第9項記載のマイクロフォン。
【請求項11】
前記反射体は、パラボラ形状すなわち放物線に沿った形状を有していることを特徴とする請求の範囲第10項記載のマイクロフォン。
【請求項12】
眼鏡、ヘッドフォン、耳かけ型イヤフォン、帽子、ヘルメットなど、人間の頭部に装着する頭部装着物と一体に構成されていることを特徴とする請求の範囲第1項から第11項までのいずれか1項に記載のマイクロフォン。
【請求項13】
耳介の後下方部の、頭蓋骨の乳様突起直下の、胸鎖乳突筋上の皮膚表面に装着され、発声器官の運動に伴う共振フィルタ特性変化により調音された、声帯の規則振動を伴わない、外部からは非可聴な呼吸音の体内軟部組織を伝導する振動音である非可聴つぶやき音、及び、可聴だが声帯を規則振動させないささやき声、小声、つぶやき声などを含む声帯の規則振動を用いて発声する音声、歯咬音、舌打ち音などの入力音声、の少なくとも一方を採取するマイクロフォンであって、一対の振動板電極を有するコンデンサマイクロフォン部と、体内軟部組織の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスを有し前記皮膚表面から前記コンデンサマイクロフォンへ前記入力音声を伝導する接触部と、を含むマイクロフォンからの入力信号を信号処理することを特徴とする信号処理装置。
【請求項14】
請求の範囲第13項記載の信号処理装置による信号処理結果をコミュニケーションに使用するようにしたことを特徴とするコミュニケーションインタフェースシステム。
【請求項15】
発声器官の運動に伴う共振フィルタ特性変化により調音された、声帯の規則振動を伴わない、外部からは非可聴な呼吸音の体内軟部組織を伝導する振動音である非可聴つぶやき音、及び、可聴だが声帯を規則振動させないささやき声、小声、つぶやき声などを含む声帯の規則振動を用いて発声する音声、歯咬音、舌打ち音などの入力音声、の少なくとも一方をマイクロフォンで採音する採音方法であって、
前記マイクロフォンは、
音響インピーダンスが体内軟部組織の音響インピーダンスに近い音響インピーダンスにマッチングされた接触部を介して前記皮膚表面から一対の振動板電極を有するコンデンサマイクロフォンへ前記入力音声を伝導させ、
耳介の後下方部の、頭蓋骨の乳様突起直下の、胸鎖乳突筋上の皮膚表面に装着されていることを特徴とする採音方法。

【国際公開番号】WO2005/067340
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【発行日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516922(P2005−516922)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000444
【国際出願日】平成17年1月11日(2005.1.11)
【出願人】(301075189)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】