作動油温度制御装置
【課題】所望とする過冷却解除が可能で、潜熱蓄熱材の放熱特性をよくし、作動油との間に良好な熱交換を可能とすること。
【解決手段】作動油Oが循環する循環経路に配設された潜熱蓄熱材容器50に収容された潜熱蓄熱材51は作動油Oとの間の熱交換を行う。潜熱蓄熱材容器50の長手方向に複数個または長手方向に沿って線状に配設した過冷却解除手段60の動作によって、過冷却状態にあった潜熱蓄熱材51の過冷却を解き、その潜熱を利用して、潜熱蓄熱材51との熱交換により急激に作動油Oの温度上昇を行う。この温度上昇は、潜熱蓄熱材容器50の長手方向に対し、過冷却解除手段60を複数個または長手方向に沿って線状に配設したものであるから、過冷却状態にある潜熱蓄熱材51を略同時に、その過冷却を解くものであるから、急激に作動油Oの温度上昇を行うことができる。
【解決手段】作動油Oが循環する循環経路に配設された潜熱蓄熱材容器50に収容された潜熱蓄熱材51は作動油Oとの間の熱交換を行う。潜熱蓄熱材容器50の長手方向に複数個または長手方向に沿って線状に配設した過冷却解除手段60の動作によって、過冷却状態にあった潜熱蓄熱材51の過冷却を解き、その潜熱を利用して、潜熱蓄熱材51との熱交換により急激に作動油Oの温度上昇を行う。この温度上昇は、潜熱蓄熱材容器50の長手方向に対し、過冷却解除手段60を複数個または長手方向に沿って線状に配設したものであるから、過冷却状態にある潜熱蓄熱材51を略同時に、その過冷却を解くものであるから、急激に作動油Oの温度上昇を行うことができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートマチックトランスミッションフルード(Automatic Transmission Fluid:以下、単に『ATF』という)、エンジン作動油等の作動油の温度を所望の温度に制御して粘度、流動性、酸化安定性等を、最適に制御する作動油温度制御装置に関するものである。特に、自動車、建設機械、農業機械、産業機械、電車等の車両用に好適な作動油温度制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の潜熱蓄熱材(過冷却物質)の過冷却現象を利用した技術としては、高温のATFから熱量を吸収し、その発生する潜熱を利用して、低温始動時に過冷却を解除してATFを暖める技術がある。
即ち、オートマチックトランスミッション(Automatic Transmission:自動変速機)内には、潤滑及び駆動を目的するATFが使用され、オイルパンからオイルポンプによって汲み上げられたATFが、クラッチ、潤滑用としてバルブボディで制御されている。冬季など外気温が低いと、ATFの油温が低くなり、粘性が上昇する。粘性の上昇によって、流動性が下がり、同じ制御油圧でも、油圧力や流量に差が出てくる結果となり、自動変速機の変速フィーリングを良くするためのチューニングに、時間及びノウハウを要しているのが現状である。
一方、低温始動時の油温を上げる方法には、オイルウォーマ等の別部品によって暖める方法もあるが、複雑なシステムとなり、コスト高となる。
【0003】
この種の公知技術としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載の技術がある。
特許文献1は、エンジンのオイルパンまたはオイル潤滑経路に設けられ、エンジンオイルを昇温させる発熱デバイスであって、過冷却による潜熱の大きい過冷却物質を封入した発熱デバイス本体を備えると共に、発熱デバイス本体に、発熱デバイス本体中の発熱前の過冷却物質に発熱開始のトリガをかけるトリガ部材と、発熱デバイス本体中の発熱後の過冷却物質を液化させるヒータとが内蔵され、エンジンオイルのオイル温度を上げることで、燃焼生成物を蒸発できるものである。
【0004】
また、特許文献2は、作動流体が循環する循環経路に前記作動流体が常に流動する部分に、前記作動流体との熱交換によって相転移を生じ得る潜熱蓄熱材を含む蓄熱体が設けられているから、循環経路を常に循環する作動流体は、該循環経路に設けられた蓄熱体と常に熱交換を行う。これにより、作動流体温度が蓄熱体を構成する潜熱蓄熱材の相転移温度よりも高い場合には、該蓄熱体の潜熱蓄熱材は、作動流体から相転移に伴う潜熱を吸熱することで作動流体の温度を低下させる。また、作動流体温度が蓄熱体を構成する潜熱蓄熱材の相転移温度よりも低い場合には、上記の如く吸熱した潜熱蓄熱材からの相転移に伴う潜熱の放熱によって作動流体の温度を上昇させることができる。
したがって、通常運転時のATFの温度変動幅が小さく、設計に考慮が必要なATFの粘度変化の許容範囲を小さくすることができるので、複数のコントロールバルブの設計、開発(調整や適合等)を容易に行うことが可能となる。また、高負荷運転時の熱を蓄熱材熱交換器に吸収させるため、冷却系の運転負荷を低減することができ、適用された自動車の燃費向上に寄与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−50122号公報
【特許文献2】特開2007−303557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の技術は、過冷却による潜熱の大きい過冷却物質を封入した発熱デバイス本体を備えると共に、前記発熱デバイス本体に発熱前の過冷却物質に発熱開始のトリガをかけるトリガ部材と、発熱デバイス本体中の発熱後の過冷却物質を液化させるヒータとが内蔵され、エンジンオイルのオイル温度を上げることによって、燃焼生成物を蒸発できるものである。
特許文献1に記載された技術では、トリガ制御部からの制御信号と水温センサからの冷却水温データとを受け、所望の条件のもとでヒータに制御信号を出力し、ヒータを駆動させるものであるから、ヒータが必要不可欠であり、また、エンジンオイルのオイル温度を上げるには、ヒータ制御が主流になり、過冷却物質を封入した発熱デバイス本体の関与が陰になってしまう。
【0007】
また、特許文献2の技術は、作動油であるATFが循環する循環経路を構成するオイルパンに蓄熱体である蓄熱材熱交換器が設けられ、当該蓄熱材熱交換器は、高温のATFとの熱交換によって固相から液相に相転移して該ATFから融解熱を吸熱し、低温のATFとの熱交換によって液相から固相に相転移して該ATFに凝固熱を放熱する潜熱蓄熱材を含んで構成されていますが、破過冷却装置は特許文献2の図9、図12、図14に示されているように、蓄熱材熱交換器の一部に設けられているに過ぎない。また、蓄熱材熱交換器についても、例えば、液状の潜熱蓄熱材が充填された1つ若しくは複数の容器、または潜熱蓄熱材を封入した多数のマイクロカプセルとして構成されているに過ぎない。
殊に、潜熱蓄熱材を含んで構成されている蓄熱材熱交換器が、複数の容器または多数のマイクロカプセルとして構成できるものであれば、その破過冷却装置として如何様に構成されるかが大きな問題となるが、それに対しても開示するものがない。
即ち、蓄熱材熱交換器が必要性に応じて如何に急激に温度上昇できるかが問題であるが、それについて開示するものがない。
特に、自動車、建設機械、農業機械、産業機械、電車等の車両においては、所定の知識を有するものが操作するものであるが、それらに好適な技術を開示するものがない。
【0008】
そこで、本発明は、このような点に鑑みてなしたものであり、所望とする過冷却解除が可能で、潜熱蓄熱材の放熱特性をよくし、作動油との間に良好な熱交換を可能とした作動油温度制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1にかかる作動油温度制御装置は、作動油が循環する循環経路に配設され、前記作動油との間に熱交換を自在とし、かつ、前記作動油との間の熱交換によって相転移を生じる潜熱蓄熱材を収容してなる潜熱蓄熱材容器を、その一方向の垂直断面を略円形または略楕円形、略半円形、略半楕円形、または略三角形以上の略多角形のうちの1つの形状とし、かつ、前記一方向に複数個または前記一方向に沿って線状に過冷却解除手段を配設したものである。なお、「略」とは完全に直線または曲線で形成されているものだけでなく、直線に曲線が含まれ、または曲線に直線が含まれて近似する形状に形成されていることを意味し、単純な基本的形状でないことを意味する。
ここで、上記潜熱蓄熱材は、前記潜熱蓄熱材容器に収納され、前記作動油との間の熱交換によって相転移を生じる過冷却物質であればよい。
また、上記潜熱蓄熱材容器は、前記作動油との間の熱交換によって相転移を生じる潜熱蓄熱材を収容し、特定の一方向に対する垂直断面を略円形または略楕円形、略半円形、略半楕円形、または略三角形以上の略多角形のうちの1つとしたものであればよい。特に、断面形状が略三角形以上の略多角形とは、複雑な断面であってもよいことを意味する。
そして、上記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材を収容した前記潜熱蓄熱材容器に収容され、前記一方向に複数個または前記一方向に沿って線状に配設したものである。
なお、本発明における前記一方向とは、特段の断りがない場合には、上面から見た二次元平面の特定の方向を意味するものであり、断面の一方向とは、断面の一辺が他辺より長い長さまたは短い長さを意味するものである。
【0010】
請求項2にかかる作動油温度制御装置の前記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材にエネルギを与えるエネルギ発生源を備え、前記エネルギ発生源は前記一方向に複数個配設され、または前記一方向に沿った線状を有するものである。
ここで、上記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材容器の潜熱蓄熱材中に配設して前記潜熱蓄熱材に結晶化を促す起点(トリガ)を与えるものであり、エネルギ発生源からのエネルギがトリガとなる。そして、前記潜熱蓄熱材の結晶化が発明者等の実験では、物質によって若干の違いがあるものの、材料の違いがあっても、約6mm/s程度で結晶化されることになり、その容器の形態によって応答性を設定することができる。
【0011】
請求項3にかかる作動油温度制御装置の前記エネルギ発生源は、振動、攪拌、変位、変形、熱、電気の何れか1以上を前記潜熱蓄熱材に与えるものである。
ここで、上記エネルギ発生源としては、振動、攪拌、変位、変形、熱、電気の何れか1以上からなる発生源であれば良い。
【0012】
請求項4にかかる作動油温度制御装置の前記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材容器の外部から電磁気学的に結合して前記潜熱蓄熱材容器の内部の前記潜熱蓄熱材に振動、撹拌、変位、変形の何れか1以上を付与するものである。
ここで、上記潜熱蓄熱材容器の外部から電磁気学的に結合して前記潜熱蓄熱材容器の内部の前記潜熱蓄熱材に振動、撹拌、変位、変形の何れか1以上を付与するとは、前記潜熱蓄熱材容器の外部から誘導して内部に存在する潜熱蓄熱材に対して振動、撹拌、変位、変形を生じさせて、過冷却を解くものである。
【0013】
請求項5の発明の作動油温度制御装置の前記過冷却解除手段は、前記一方向に長い電極とする。ここで、前記一方向に長い電極は、前記一方向に配設した単数の電極または前記一方向に配設した複数個の電極であってもよい。
【0014】
請求項6にかかる作動油温度制御装置の前記潜熱蓄熱材容器は、その長手方向に1以上の略屈曲部を形成したものである。
ここで、上記潜熱蓄熱材容器としての前記一方向に1以上の略屈曲部を形成とは、全体が湾曲等の正確な屈曲でなくても、また、複数の屈曲箇所が存在してもよいことを意味する。何れにせよ、前記一方向の距離を伝熱のため及び潜熱蓄熱材の膨張収縮のために長くしたものであればよい。
【0015】
請求項7にかかる作動油温度制御装置の前記潜熱蓄熱材容器は、略螺旋形状を有するものである。
ここで、上記略螺旋形状とは、直線方向に中心軸を有するものでだけではなく、中心軸が所定の角度で互いに交わらない傾斜した螺旋も含むものである。この略螺旋とは前記一方向の距離を長くしたものであればよい。
【0016】
請求項8にかかる作動油温度制御装置の前記潜熱蓄熱材容器は、前記作動油に伝える熱伝導の良好な金属材料をインサート成形してなるものである。
ここで、上記潜熱蓄熱材容器は、熱伝導の良好な金属材料を前記潜熱蓄熱材容器にインサート成形し、前記潜熱蓄熱材から熱エネルギを引き出すことが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明の作動油温度制御装置によれば、作動油が循環する循環経路に配設され、前記作動油との間の熱交換を自在とし、かつ、前記作動油との間の熱交換によって相転移を生じる潜熱蓄熱材を収容し、一方向に対する垂直断面を略円形または略楕円形、略半円形、略半楕円形、または略三角形以上の略多角形のうちの1つとした潜熱蓄熱材容器には、前記一方向に過冷却解除手段を複数個配設または前記一方向に沿って線状に配設したものである。
したがって、作動油が循環する循環経路に配設された潜熱蓄熱材容器に収容された潜熱蓄熱材は前記作動油との間の熱交換を行う。そして、潜熱蓄熱材容器の一方向に複数個または前記一方向に沿って線状に配設した過冷却解除手段の動作によって、過冷却状態にあった潜熱蓄熱材の過冷却を解き、その潜熱を利用して、前記潜熱蓄熱材との熱交換により急激に作動油の温度上昇を行う。この温度上昇は、潜熱蓄熱材容器の前記一方向に対し、過冷却解除手段を複数個または前記一方向に沿って線状に配設したものであるから、過冷却状態にある潜熱蓄熱材を略同時に、その過冷却を解くことにより、急激に作動油の温度上昇を行うことができる。
このように、作動油温度が潜熱蓄熱材の相転移温度よりも高い場合には、潜熱蓄熱材は作動油から相転移に伴う潜熱を吸熱することで作動油の温度を低下させ、作動油温度が潜熱蓄熱材の相転移温度よりも低い場合には、吸熱した潜熱蓄熱材からの相転移に伴う潜熱の放熱によって作動流体の温度を上昇させることができる。
よって、潜熱蓄熱材の放熱特性をよくし、作動油との間に良好な熱交換を可能とすることができる。
【0018】
請求項2の発明の作動油温度制御装置の前記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材にエネルギを与えるエネルギ発生源を備え、前記エネルギ発生源は前記一方向に複数個配設され、または前記一方向に沿った線状を有しているものであるから、請求項1に記載の効果に加えて、過冷却の解除が速やかに行われ、潜熱蓄熱材の相転移に伴う潜熱の放熱によって作動油の温度を上昇させることができる。前記潜熱蓄熱材の結晶化が発明者等の実験では、材料に違いがあっても、約6mm/s程度で進行し、その熱伝導の速度は、その容器の形態によって決定されるから、作動油の温度上昇に対する応答性を良くすることができる。
【0019】
請求項3の発明の作動油温度制御装置の前記エネルギ発生源は、振動、攪拌、変位、変形、熱、電気の何れか1以上を前記潜熱蓄熱材に与えるものであるから、請求項2に記載の効果に加えて、単純な回路構成で過冷却解除でき、かつ、その面積及び前記一方向が適宜設定できるので、設計自由度が高く、潜熱蓄熱材の相転移に伴う潜熱の放熱によって作動油の温度を上昇させることができる。
【0020】
請求項4の発明の作動油温度制御装置の前記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材容器の外部から電磁気学的に結合して前記潜熱蓄熱材容器の内部の前記潜熱蓄熱材に振動、撹拌、変位、変形の何れか1以上を付与するものであるから、請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の効果に加えて、前記潜熱蓄熱材容器の外部から電磁気学的に結合して前記潜熱蓄熱材容器の内部の前記潜熱蓄熱材に振動、撹拌、変位、変形の何れか1以上のエネルギを付与するものであるから、前記潜熱蓄熱材容器の内部の前記潜熱蓄熱材に不純物が入り込む可能性をなくし、長期間安定した動作が期待できる。
【0021】
請求項5の発明の作動油温度制御装置の前記過冷却解除手段は、前記一方向に長い電極とし、請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の効果に加えて、簡単な構造で前記潜熱蓄熱材に熱または電気のエルギを付与できる。
【0022】
請求項6の発明の作動油温度制御装置の前記潜熱蓄熱材容器は、前記一方向に略屈曲部を形成したものであるから請求項1乃至請求項5の何れか1つに記載の効果に加えて、その表面積を大きくし、作動油に対する供給熱量を大きくすることができる。また、前記潜熱蓄熱材の膨張・収縮も前記潜熱蓄熱材容器の略屈曲部によって吸収することができる。
【0023】
請求項7の発明の作動油温度制御装置の前記潜熱蓄熱材容器は、略螺旋形状を有するものであるから、請求項1乃至請求項6の何れか1つに記載の効果に加えて、その表面積を大きくし、作動油に対する供給熱量を大きくすることができる。また、前記潜熱蓄熱材の膨張・収縮も前記潜熱蓄熱材容器の略螺旋形状によって吸収することができる。
【0024】
請求項8の発明の作動油温度制御装置の前記潜熱蓄熱材容器は、前記作動油に伝える熱伝導の良好な金属材料をインサート成形してなるものであるから、請求項1乃至請求項7の何れか1つに記載の効果に加えて、前記潜熱蓄熱材容器内の前記潜熱蓄熱材の温度をインサートされた金属材料によって効率よく作動油に熱を伝えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置をATに用いた場合のオイルパンと変速機ケースの構成を断面で示した説明図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置の図1の切断線A−Aによる断面図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置をオイルパンの開口側のオイルストレーナの上から底面を見た平面図である。
【図4】図4は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置をオイルパンの開口側からオイルストレーナを除いて底面を見た平面図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材の結晶加速度を測定した原理図で、(a)は長さ方向、(b)は長さ方向に対する直角方向の速度の測定説明図である。
【図6】図6は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する制御回路装置のブロック回路図である。
【図7】図7は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する制御回路装置が制御するフローチャートである。
【図8】図8は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材の温度特性図である。
【図9】図9は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例1の断面の説明図で、図9(a)は潜熱蓄熱材容器の長さ方向の断面図、図9(b)は潜熱蓄熱材容器内部の構造を示す要部平面図である。
【図10】図10は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例2の断面の説明図である。
【図11】図11は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例3の断面の説明図である。
【図12】図12は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例4の断面の説明図である。
【図13】図13は本発明の実施の形態2にかかる作動油温度制御装置の図1の切断線A−Aによる断面図に相当するものである。
【図14】図14は本発明の実施の形態2にかかる作動油温度制御装置をオイルパンの開口側から内側底面を除いて底面を見た平面図である。
【図15】図15は本発明の実施の形態2にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例5の断面の説明図である。
【図16】図16は本発明の実施の形態2にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例5の斜視図である。
【図17】図17は本発明の実施の形態2にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例6の断面の説明図である。
【図18】図18は本発明の実施の形態2にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例7の断面の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態及び実施例について、図面に基づいて説明する。なお、実施の形態及び実施例において、図中、同一記号及び同一符号は、同一または相当する機構部分であるから、ここでは重複する説明を省略する。
【0027】
[実施の形態1]
本発明の作動油温度制御装置を実施する場合、ここで説明する実施例のATFに限定されることなく、内燃機関冷却用のオイル、特殊車両等の油圧機器に使用可能なオイルにも適用されるものである。そこで、これらのオイルを本発明では作動油として表現することとする。即ち、この作動油温度制御装置は、オートマチックトランスミッション(Automatic Transmission:AT)の作動油、連続可変トランスミッション(Continuously Variable Transmission:CVT)の作動油、ハイブリッドカー(Hybrid Car:HV)の駆動ユニットに使用する作動油、内燃機関の冷却用の作動油、特殊車両等の油圧機器に使用可能な作動油温度制御装置に関するものである。
即ち、民需に限らず、自動車、建設機械、農業機械、産業機械、電車等の車両用に好適な作動油温度制御装置として使用するものである。また、本発明の作動油にはエンジンオイル等の潤滑油を含むものである。
【0028】
図1乃至図4において、変速機構を収納する変速機ケース1には、その収容部1aに図示しない自動変速機構が収容されている。作動油Oを貯留するオイルパン2は、底部21とその底部21の外周から上方に延びた壁部22を備え、底部21と壁部22によって囲まれた空間内に作動油Oを貯留するものである。底部21には機械的強度及びオイルパン2内の作動油Oの流れが滞ることなく、また、図示しないオイルポンプによって吸引するオイルストレーナ4のオイル吸口41に気泡が入り難くし、作動油Oの回り込みが容易な構造とされている。
【0029】
バルブボディ(V/B)3は、車両用自動変速機の変速機、クラッチ、トルクコンバータ等の制御を行う複数のバルブを収容するもので、通常、変速機構の直下で、オイルストレーナ4の上部に配設される。本実施の形態においても、バルブボディ3にオイルストレーナ4が、ボルト44で取り付けられている。
【0030】
オイルストレーナ4は、オイルパン2内に収容され、オイルパン2内に貯留された作動油Oを図示しないオイルポンプによって吸引するオイル吸口41を有し、作動油Oをフィルタ42で濾過し、その濾過した作動油Oはオイル吐出口46、図示しないオイルポンプを経て、車両用自動変速機の変速機、クラッチ、トルクコンバータ、それらの制御を行う複数のバルブに供給される。
【0031】
オイルストレーナ4のオイル吸ロ41の開口面積よりもその平面積を広くし、オイルパン2の内壁との間に作動油Oの通る隙間を形成している。
【0032】
このように構成された変速機構を収納する変速機ケース1、作動油を貯留するオイルパン2、バルブボディ3、オイルポンプによって吸引するオイル吸口41を有するオイルストレーナ4の構成は、オイルパン2と変速機ケース1で囲まれる空間内において、オイルレベルOLまで作動油Oを収容している。通常のエンジンが駆動している状態では、図示しないオイルポンプに対してオイルストレーナ4のオイル吸ロ41から、途切れることなく作動油Oが供給される。
【0033】
更に、本発明の実施の形態1の作動油温度制御装置のオイルパン2の構造について詳述する。
図1乃至図4において、オイルパン2は合成樹脂の射出成型品からなり、その底部21には後述する潜熱蓄熱材容器50が形成される。潜熱蓄熱材容器50はオイルパン2と一体に成形してもよいし、2色成形または金属板等でインサート成形してもよい。また、潜熱蓄熱材容器50を別に形成した後、オイルパン2の底部21に螺着、接着等により取り付けることもできる。オイルパン2の壁部22にも潜熱蓄熱容器50aが形成されている。潜熱蓄熱材容器50aはオイルパン2の長手方向の長さに略一致させるように延長したもので、本実施の形態では、左右側面に2列形成している。底部21と壁部22の潜熱蓄熱材容器50と潜熱蓄熱材容器50aは、共に同一容積としてもよいし、大小関係を設けてもよい。本実施の形態では、底部21側と壁部22側の潜熱蓄熱材容器50は、略同一容量としている。
なお、壁部22の潜熱蓄熱材容器50aの上面は、傾斜させ、作動油Oが内側に戻る構造となっている。また、車両の揺れに対してオイルレベルOLが変化し難いように、バルブボディ3との間隔を設定している。
【0034】
潜熱蓄熱材容器50は、底部21の作動油Oの流れを考慮し、オイルパン2の長さ方向、即ち、車両の走行方向に延ばした形状で、本実施の形態では、底部21に7列形成している。この7列は、オイルストレーナ4のオイル吸ロ41の付近でその断面積が狭くなっている。この断面積が狭くなっている箇所は、作動油導入部50Aで、オイルストレーナ4のオイル吸ロ41に作動油Oを導く際の、作動油Oの流体抵抗を小さくし、作動油Oの量を確保している。
【0035】
作動油導入部50Aは、7列の潜熱蓄熱材容器50の断面が細くなっていてもよいし、完全に2分割し、オイル吸口41の近傍範囲(潜熱蓄熱材容器50の断面が細くなっている範囲)を除いて2箇所に潜熱蓄熱材容器50を配してもよい。即ち、オイルストレーナ4のオイル吸ロ41に作動油Oが供給され易く、作動油Oが集まり易い構造であればよい。本実施の形態では、車両の走行方向に対し、並行する方向及び直角方向の流れを可能としている。勿論、オイルストレーナ4のオイル吸ロ41に対する作動油Oの流れは、7列の潜熱蓄熱材容器50の断面が細くなっている位置または2分割されている位置に流すだけではなく、オイルストレーナ4の下面が整流板として機能し、オイル吸ロ41に作動油Oを導くことができる。しかし、更に流体抵抗を小さくするために、7列の潜熱蓄熱材容器50の断面を小さくし、または潜熱蓄熱材容器50を2分割することで作動油Oの流体抵抗を小さくしている。
【0036】
これら底部21に形成された潜熱蓄熱材容器50、また、壁部22に形成された潜熱蓄熱材容器50は、上記実施の形態の7列、2列に限定されるものではなく、任意の本数とすることができる。
【0037】
なお、この潜熱蓄熱材容器50の材料としては、ポリエチレン、フッ素樹脂、ステンレス鋼、酸化アルミニウム等の耐食性を有し、化学的安定性がある材料であれば使用できる。
【0038】
本実施の形態において、潜熱蓄熱材容器50は、酢酸ナトリウムが収容された筒状の容器となっている。この長手方向に直交する垂直断面は、略円形または略楕円形、略半円形、略半楕円形または略三角形以上の略多角形のうちの1つとすることができる。前述の略三角形以上の略多角形とは、複雑な形状のものを意味する。
【0039】
図2に示すように、本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、潜熱蓄熱材51の過冷却状態を解く過冷却解除手段60が、その長手方向に沿って配列されている。具体的には、過冷却解除手段60は、図2の表裏方向に長い図示しない長方形状の圧電素子(ピエゾ素子)からなり、駆動電圧の印加によって面の厚み方向(図2中上下方向)に変化する。この圧電素子の電極は、図示しない基板に形成したプリント回路を介して電気的に接続されており、基板は潜熱蓄熱材容器50の底面に接合されている。なお、圧電素子の構成は図9で詳述する。
【0040】
したがって、過冷却解除手段60である圧電素子に駆動電圧を断続的に印加すると、圧電素子の厚みが断続的に変化し、潜熱蓄熱材にエネルギを与え、それによって潜熱蓄熱材が過冷却にあるときに結晶化をスタートさせるトリガとする。即ち、潜熱蓄熱材51の結晶化が開始される刺激とする。結晶化が開始されると、その結晶化の進行に伴って過冷却解除手段60である圧電素子の駆動エネルギを停止させる。
なお、本実施例の過冷却解除手段60である圧電素子は、平面略長方形状の圧電素子からなるものであるが、円形の圧電素子を1枚または複数枚使用することもできる。
【0041】
本発明を実施する場合の潜熱蓄熱材51は、本実施の形態で使用している酢酸ナトリウム水和物に限定されるものではなく、必要とする融点に応じた物質が選択可能であり、例えば、塩化カルシウム水和物、硫酸ナトリウム水和物、チオ硫酸ナトリウム水和物、酢酸ナトリウム水和物、塩化カルシウム六水塩、炭酸ナトリウム水和物、炭酸水素カリウム水溶液、硫酸ナトリウム十水塩、ペンタエリスリトール、マンニトール、エリスリトール、スレイトールなどの多価アルコール類、各種融点のパラフィン類の使用が可能であり、また、混合物としても使用できる。
【0042】
因みに、発明者らは、図5(a)に示すように、直径約20mm、長さ約150mmの合成樹脂からなる透明容器Aを作成し、その両端に端部相互間で衝突を行う衝撃棒Bを配設した。衝撃棒B相互間の衝撃により、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化のトリガとした。この実験により、潜熱蓄熱材51の材料の殆どが長さ方向に約6mm/s程度で結晶化が進行するのが確認された。
【0043】
また、発明者らは、図5(b)に示すように、直径約20mm、長さ約150mmの合成樹脂からなる透明容器Aを作成し、その中心に振動線Cを配設することにより、その振動線Cの振動刺激により、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をスタートするトリガとするものである。この実験により、潜熱蓄熱材51の材料の殆どが長さ方向に対して直角の方向に約6mm/s程度で結晶化が進行することも確認された。
【0044】
また、図6は、本実施の形態の作動油温度制御装置を制御する制御装置である。
制御部100は、マイクロコンピュータ等からなるプログラム制御される回路である。また、その出力のドライバ101は、過冷却解除手段60の種類に応じた駆動回路で、矩形波の発生、交流または直流等の発生等を制御する。温度更新メモリ103は、温度センサ104が測定する作動油Oの温度上昇から潜熱蓄熱材51の温度上昇を推定するものであり、直接、潜熱蓄熱材51の温度を検出してもよいが、本実施の形態では、作動油Oの温度を検出した。イグニッションスイッチ105の出力が制御部100に入力され、また、制御部100の出力として、イグニッションスイッチ105の投入からエンジンの駆動が遅れることを示すエンジンスタート表示106に入力されている。
【0045】
図7は、本実施の形態の作動油温度制御装置をプログラム制御する制御部100の制御プログラムである。図8の潜熱蓄熱材の温度特性図を参照しながら、その動作を説明する。
まず、ステップS1でイグニッションスイッチ105が投入されたとき、イグニッションスイッチ105の投入を判断して、このプログラムの処理を開始する。イグニッションスイッチ105の投入が確認されると、ステップS2でエンジンを駆動する。ステップS3で前回エンジンの駆動時に作動油Oの温度Tが何度まで上昇したかを判断する。少なくとも、潜熱蓄熱材融点温度Tn(厳格には、潜熱蓄熱材融点温度+作動油Oの温度差を是正した温度)を上回っているかを判断し、作動油Oの温度Tがそれ以上となっていれば、充分な融解熱を受け、過冷却状態となっていると判断する。勿論、通常の設計では、作動油Oの現在の温度Tが自己で過冷却状態を解除する破過冷却温度Txを下回るようには設定されていないが、長距離輸送等で作動油Oの現在の温度Tが自己で過冷却状態を解除する破過冷却温度Txを下回っているかを判断の要件に加えることもできる。
【0046】
組み付けを完了した初回では、過冷却状態になっていないから、前回エンジンの駆動時に作動油Oの温度Tが潜熱蓄熱材融点温度Tnを上回っていない。したがって、そのままエンジンを駆動した状態で、ステップS7でそのときの作動油Oの温度Tの上昇を更新登録する。ステップS8でエンジンの停止が確認されるまで、ステップS7及びステップS8のルーチンの処理を行う。
【0047】
次回以降のエンジンスタートで、ステップS3で前回エンジンの駆動時に作動油Oの温度Tが、潜熱蓄熱材融点温度Tnを上回っていると判断したとき、ステップS4でドライバ101を介して過冷却解除手段60を動作させ、ステップS5で3秒間の経過を判断し、過冷却解除手段60を3秒間だけ動作させ、ステップS6で過冷却解除手段60を停止させる。ステップS7で作動油Oの温度Tの上昇を更新登録し、駆動時の作動油の最高温度を記録する。ステップS8でエンジンの停止が確認されるまで、ステップS7及びステップS8のルーチンの処理を行う。
【0048】
このように、最初にエンジンが始動されると、オートマチックトランスミッションにおいては、作動油Oが変速機構、オイルパン2を含む作動流路を循環する。そして、通常運転状態になると、作動油Oはその温度が車両運転状態の下限最低温度Tsよりも高い温度に上昇する。この場合、図8の細矢印で示すように、作動油Oの温度上昇に伴って潜熱蓄熱材51が熱交換されて昇温する。潜熱蓄熱材51が潜熱蓄熱材融点温度Tnに達すると潜熱蓄熱材51が融解される。このとき潜熱蓄熱材51は、オイルパン2内の作動油Oとの熱交換によって、潜熱蓄熱材51の融解に要する潜熱(融解熱)を作動油Oから吸熱する。これによって、潜熱蓄熱材51が完全に液化するまでは、潜熱蓄熱材融点温度Tnで略一定であり、作動油Oは冷却され(熱が奪われ)、作動油Oの温度を潜熱蓄熱材51の潜熱蓄熱材融点温度Tn付近の温度に維持する。潜熱蓄熱材51が完全に液化した状態では、潜熱蓄熱材51の融解熱相当の熱が潜熱蓄熱材51に蓄えられる。
【0049】
また、図8の太矢印に示すように、潜熱蓄熱材51が液相の状態にあるとき、エンジンの停止等で作動油Oの温度が低下すると、作動油Oの降温に伴って液相の潜熱蓄熱材51が降温される。例えば、潜熱蓄熱材51は運転終了後に作動油Oと共に降温して自らの温度が潜熱蓄熱材融点温度Tnを下回っても、凝固することなく液相、即ち、融解熱の蓄熱状態を維持する。
そして、潜熱蓄熱材51が運転終了後に作動油Oと共に降温し、自らの温度が破過冷却温度Txを下回らない限り、潜熱蓄熱材51は液相状態で融解熱の蓄熱状態を維持する。なお、破過冷却温度Txは、通常の使用状態でその温度以下の温度にならないような材料及び温度が選択されている。
【0050】
次に、自動車の始動を行うとき、イグニッションスイッチ105の投入により、まず、過冷却解除手段60を数秒以内作動させる。すると、潜熱蓄熱材51は図8に示されるように、潜熱蓄熱材51は、直ちに凝固して作動油Oとの熱交換によって蓄熱した熱量である凝固熱を放熱する。これにより、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51が加熱されて昇温され、オートマチックトランスミッションの暖機が促進される。
【0051】
そして、作動油Oが変速機構、オイルパン2を含む作動流路を循環し、通常運転状態になると、作動油Oはその温度が潜熱蓄熱材融点温度Tnになると潜熱蓄熱材51が融解される。潜熱蓄熱材51は、オイルパン2内の作動油Oとの熱交換によって、潜熱蓄熱材51の融解に要する潜熱(融解熱)を作動油Oから吸熱し、潜熱蓄熱材51が完全に液化するまでは、潜熱蓄熱材融点温度Tnで略一定となる。作動油Oは冷却され(熱が奪われ)、作動油Oの温度を潜熱蓄熱材51の潜熱蓄熱材融点温度Tn付近の温度に維持するが、潜熱蓄熱材51が完全に液化した状態では、潜熱蓄熱材51の融解熱相当の熱が潜熱蓄熱材51に蓄えられる。
【0052】
前述のように、イグニッションスイッチ105の投入により、過冷却解除手段60を数秒以内作動させると、潜熱蓄熱材51は直ちに凝固を開始し、作動油Oに対し運転時に作動油Oとの熱交換によって蓄熱した熱量である凝固熱を放熱する。これにより、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51が加熱されて昇温され、オートマチックトランスミッションの暖機が促進される。
勿論、自動車等のオートマチックトランスミッションに限らず、建設機械、農業機械、産業機械、電車等の車両用に好適な作動油温度制御装置としても使用できる。
【0053】
[実施例1]
図9において、本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、断面が略4角形の筒状であり、潜熱蓄熱材51の過冷却状態を解く過冷却解除手段60が、その長手方向に沿って配列されている。具体的には、過冷却解除手段60は、円板状の圧電素子61からなり、駆動電圧の印加によって面の厚み方向に変化する。圧電素子61は、電極共用導電基板65とその電極共用導電基板65に絶縁物64を介して形成したプリント回路63を介して電極61aとの間が電気的に接続されており、電極共用導電基板65は潜熱蓄熱材容器50の底面に接合されている。
【0054】
したがって、過冷却解除手段60である円板状の圧電素子61の電極61aと電極共用導電基板65に駆動電圧を断続的に印加すると、圧電素子61の厚みが断続的に変化し、潜熱蓄熱材容器50が内蔵する潜熱蓄熱材51にエネルギを与え、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をトリガし、潜熱蓄熱材51の結晶化が開始される刺激となる。この際、印加されるパルスが短いと圧電素子61は潜熱蓄熱材51に振動エネルギを与え、パルスが長いと変位(変形)エネルギを与える。結晶化が開始されると、その結晶化の進行に伴って圧電素子61の駆動エネルギ(電圧の印加)を停止させる。したがって、圧電素子61がエネルギ発生源である。
【0055】
なお、本実施例の圧電素子61は、円板状の圧電素子61からなるものであるが、潜熱蓄熱材容器50の長手方向に長い圧電素子を1枚または複数枚使用することもできる。
特に、複数枚使用する場合は、3枚以上を潜熱蓄熱材容器50の長手方向の両端とその間に一定の距離を離して配置すると効率的な結晶化が図れる。
【0056】
[実施例2]
図10において、本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、断面が円形の円筒状を有し、潜熱蓄熱材51の過冷却状態を解く過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)が、その長手方向に沿って配設されている。具体的には、過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)は、環状の圧電素子61からなり、駆動電圧の印加によって径方向に変化する。圧電素子61の電極は、潜熱蓄熱材容器50の厚み側に埋設されている。ここで、nは過冷却解除手段60の個数を表し、個数nは2以上、好ましくは3以上であり、潜熱蓄熱材容器50の長さに応じて適宜設定される。
【0057】
したがって、過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)である環状の圧電素子61に駆動電圧を断続的に印加すると、圧電素子61の径が断続的に変化し、潜熱蓄熱材51にエネルギを与える。これによって潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化のトリガとなり、潜熱蓄熱材51の結晶化が開始される刺激となる。結晶化が開始されると、その結晶化が進行するから、数秒間以内に駆動を停止させる。
特に、環状の圧電素子61の使用は、潜熱蓄熱材容器50の内周面側から結晶化をスタートさせるから、潜熱蓄熱材容器50の熱エネルギを早くから直接取り出すことができる。
【0058】
[実施例3]
図11において、本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、断面が円形の円筒状を有し、潜熱蓄熱材51が収容されている。また、潜熱蓄熱材51が過冷却状態にあるとき、その過冷却状態を解く過冷却解除手段60が、その長手方向に沿って配設されている。具体的には、過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)は、円板状の圧電素子61からなり、駆動電圧の印加によって面の厚み方向に変化する。圧電素子61の電極61aは、配置補助部材62を介して、潜熱蓄熱材容器50の厚み内に埋設されている。
ここで、配置補助部材62は潜熱蓄熱材容器50の内周に係合するリング状の外周部を有し、この外周部の直径方向に圧電素子61を固定する固定部が設けられ、圧電素子61はこの固定部の中央に固定される。圧電素子61の配置は、その面が潜熱蓄熱材容器50の長さ方向に対して直角の方向に面している。
【0059】
したがって、過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)である環状の圧電素子61に駆動電圧を断続的に印加すると、圧電素子61の厚みが断続的に変化し、潜熱蓄熱材51にエネルギを与え、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をスタートするトリガとなり、潜熱蓄熱材51の結晶化が開始される刺激となる。結晶化が開始されると、その結晶化の進行に伴って圧電素子61の駆動エネルギを停止させる。このとき、圧電素子61の配置が、その面が潜熱蓄熱材容器50の長さ方向に対して直角の方向に面しているから、過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)相互間の方向、即ち、長さ方向に対しては、潜熱蓄熱材容器50の周囲と圧電素子61の相互間の間隙が狭くなり、連続性が強調されるからスムーズに結晶化が進行できる。
【0060】
[実施例4]
図12において、本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、潜熱蓄熱材51の過冷却状態を解く過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)が、その長手方向に沿って配設されている。具体的には、過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)が電極66,67で形成されている。この電極66,67は、本実施例では、対向する円形電極としているが、本発明を実施する場合、電極66と電極67の対向電極の替わりに潜熱蓄熱材容器50の長手方向に延びる一本の電線とすることもでき、電極66または電極67を1枚の面状の電極とすることもできる。ここで、過冷却解除手段60に複数の電極66、67を使用した場合または一本の電線を使用した場合、チューブ状の潜熱蓄熱材容器50はオイルパン2の中に直線状や屈曲させてジグザグ状に配することができるだけでなく螺旋状に配することもできる。ここで、過冷却解除手段60は電極66、67をn個備えている。これら電極66、67の個数は2個以上であって、潜熱蓄熱材容器50の長手方向の長さに応じて適宜設定されるが、3個以上に設定されると潜熱蓄熱材容器50の両端部と内部(中央部)から潜熱蓄熱材51を効率的に結晶化させることができ好ましい。
【0061】
電極66と電極67には、電力が供給される。この電気は瞬間的には、潜熱蓄熱材51に対し、分子の動きを刺激するエネルギを与え、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をスタートするトリガとなり、潜熱蓄熱材51の結晶化が開始される刺激となる。
ここで、電極66、67に供給された電気は直接潜熱蓄熱材51に電気エネルギとして与えられるだけでなく、電極66、67が供給された電気によって発熱することで熱エネルギとして与えることもできる。結晶化が開始されると、その結晶化は、約6mm/s程度で進行するが、印加電圧は、数秒以上とし、潜熱蓄熱材51の結晶化を早めることができる。したがって、電極66、67または一本の電線がエネルギ発生源となる。
【0062】
[実施の形態2]
図13において、変速機構を収納する変速機ケース1には、その収容部1aに図示しない自動変速機構が収容されている。作動油Oを貯留するオイルパン2は、底部21とその底部21の外周から上方に延びた壁部22からなり、その内部で作動油Oを貯留するものであり、更に、底部21には機械的強度及びオイルパン2内の作動油Oの流れが滞ることなく、また、図示しないオイルポンプによって吸引するオイルストレーナ4のオイル吸口41に気泡が入り難くし、作動油Oの回り込みが容易な構造とされている。
バルブボディ3は、車両用自動変速機の変速機、クラッチ、トルクコンバータ等の制御を行う複数のバルブを収容するもので、通常、変速機構の直下で、オイルストレーナ4の上部に配設される。
【0063】
オイルストレーナ4は、オイルパン2内に収容され、オイルパン2内に貯留された作動油Oを図示しないオイルポンプによって吸引するオイル吸口41を有し、作動油Oをフィルタ42で濾過し、その濾過した作動油Oは図示しないオイルポンプを経て、車両用自動変速機の変速機、クラッチ、トルクコンバータ、それらの制御を行う複数のバルブに供給される。
【0064】
このように構成された変速機構を収納する変速機ケース1、作動油を貯留するオイルパン2、バルブボディ3、オイルポンプによって吸引するオイル吸口41を有するオイルストレーナ4の構成は、オイルパン2と変速機ケース1で囲まれる空間内において、オイルレベルOLまで作動油Oを収容し、図示しないオイルポンプに対してオイルストレーナ4のオイル吸ロ41から、途切れることなく作動油Oが供給される。
【0065】
更に、本発明の実施の形態2の作動油温度制御装置のオイルパン2の構造について詳述する。
図13及び図14において、オイルパン2は合成樹脂の射出成形品からなり、その底部21に、後述する潜熱蓄熱材容器50が単一の空間として形成されている。潜熱蓄熱材容器50は底部21の作動油Oを貯留する側に位置する外側底面27と、この外側底面27に対向するように配された内側底面26で単一の空間として形成されている。そして、外側底面27には略長方形の共通する電極65に搭載された圧電素子61が必要数配設されており、共通する電極65は潜熱蓄熱材容器50の底面に接合されている。
【0066】
本実施の形態では、圧電素子61が同時に駆動するように、圧電素子61の電極61aはジャンパー線67で並列接続された回路構成としている。作動油Oが流れる奥行き方向に対して圧電素子61の間隔を100mm以下とし、かつ、その直角方向にも圧電素子61の間隔を50mm以下とするものである。つまり、直線状に複数個(本実施の形態では8個)の圧電素子61を100mm間隔で配した過冷却解除手段60は、50mm間隔で複数個(本実施の形態では5個)並列してオイルパン2の底部21に配設されている。
【0067】
外側底面27に対向する内側底面26は一定間隔ごとに外側底面27に向かって折り曲がり外側底面27に対し凸状になっている。このように内側底面26が凸状に折り曲がることで内側底面26と一定の幅を持って形成された潜熱蓄熱材容器50のオイルストレーナ4に面する上部には、屈曲により形成された溝26aを有し、オイルストレーナ4に面する表面積が広くなる。したがって、内側底面26の上面である潜熱蓄熱材容器50の上面には、表面積を広くする溝26aが形成されている。この溝26aはオイルストレーナ4のオイル吸ロ41に向かって作動油Oが流れるように、奥行き方向(図13の紙面の表面から裏面方向)及びその直角方向に所定の間隔を置いて形成されている。
【0068】
即ち、オイルパン2は、潜熱蓄熱材容器50の底面となる底部21と壁部22を射出成型し、次いで、その内面に圧電素子61が搭載された共通する電極65を所望の間隔で配置接合し、その後、射出成形によって形成した内側底面26を含む潜熱蓄熱材容器50の上部を一体に接合したものである。潜熱蓄熱材容器50には、別に形成した図示しない供給口から潜熱蓄熱材51が供給され、空気を引き入れないように封止される。
【0069】
このように構成された本発明の実施の形態2の作動油温度制御装置において、潜熱蓄熱材容器50を形成する内側底面26と外側底面27は、図13のように、溝26aを13列、その直角方向の列の図示しない溝に限定されるものではなく、任意の本数とすることができ、かつ、一方のみの溝26aとすることもできる。本実施の形態の底部21に形成された潜熱蓄熱材容器50は、本実施形態では1つの容器としているが、これに限られるものでなく、2以上の容器に分割して配置することもできる。本発明を実施する場合の圧電素子61等で構成される過冷却解除手段60は、一方向に配設した複数個の電極61aを表裏の対とする構成、または一方向に長い電極65を表裏の対とする構成とし、かつ、それを複数列形成した構成とすることもできる。
【0070】
[実施例5]
本実施の形態の潜熱蓄熱材容器50の断面形状は、後述する過冷却解除手段60の形状によって左右される。図15に示す本実施例では、潜熱蓄熱材容器50の長さ方向にシャフト71を配設するものであるため、それを中心として所定の形状とするものであるが、後述する撹拌部材72(72-1、・・・、72-n)の大きさを特定するものではないので、任意の断面形状を選択可能である。
【0071】
本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、潜熱蓄熱材51として酢酸ナトリウム水和物が収容されている。また、潜熱蓄熱材51が過冷却状態にあるとき、その過冷却状態を解く過冷却解除手段60が、その中心の長手方向に複数個、または、その長手方向に沿って配設されている。具体的には、過冷却解除手段60は、シャフト71及びそれに配設した撹拌部材72並びにカプラ73、モータ74から構成されている。
【0072】
シャフト71はアルミニウムまたはステンレスからなる棒材を、曲がり難くするために、圧縮成形して、中心から略放射状に伸びる断面形状を有する構造としている。その周囲は合成樹脂で丸棒になるように形成されている。また、両方の端部71a、71bは円錐状でその先端がコーン状に略尖軸を形成している。一方の端部71aは潜熱蓄熱材容器50に設けた軸受70aに嵌合されている。他方の端部71bは潜熱蓄熱材容器50に設けた軸受70bに嵌合されている。
【0073】
シャフト71には、エネルギ発生源としての撹拌部材72(72-1、・・・、72-n)が所定の間隔で配設されている。本実施の形態の撹拌部材72の間隔は、100mm以下とするものである。即ち、発明者等の実験では、前記潜熱蓄熱材51の結晶化が物質によって若干の違いがあるものの、殆どが約6mm/s程度で結晶化が進行する事実から、長さ方向の両方向に同時に結晶化が進行するとすれば、撹拌部材72の間隔を100mm以下とすることは、両側の撹拌部材72から結晶化がスタートするので、10秒以下の8〜9秒程度で結晶化が完了することになる。しかし、作動油Oの温度上昇は、タイムラグのためにそれより遅くなるが、10秒以下で結晶化が完了することにより、応答性をよくすることができる。
【0074】
図15及び図16に示すように、シャフト71の一方の端部71b側には、円板状の永久磁石73bが配設されている。円板状の永久磁石73bは同様に円板状の永久磁石73aを対向させ、その着磁を対向させている。即ち、円板状の永久磁石73a、73bの厚み方向に着磁させてもよいし、直径方向に着磁させてもよい。何れにせよ、円板状の永久磁石73aの回転が円板状の永久磁石73bの回転となるように、磁気結合を行うカプラ73を構成するものであればよい。
円板状の永久磁石73aは、モータ74の出力軸74aに接続されている。即ち、出力軸74aはセレーション加工またはローレット加工が施され、モータ74の出力軸74aで円板状の永久磁石73aが回転するようになっている。
【0075】
円板状の永久磁石73aの回転は、カプラ73を構成する円板状の永久磁石73bの回転となり、撹拌部材72(72-1、・・・、72-n)の回転は、潜熱蓄熱材51に攪拌エネルギを与え、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をスタートするトリガとなり、潜熱蓄熱材51の結晶化をトリガする刺激を与える。結晶化が開始されると、その結晶化は、後述するように、約6mm/s程度で進行するから、回転開始から1〜2秒間のモータ74の駆動で負荷が増大する。したがって、モータ74は回転開始から3秒間経過後に停止させる。
【0076】
ここで、撹拌部材72(72-1、・・・、72-n)を円柱棒状とし、撹拌部材72の攪拌エネルギが大きくなるようにしたものであるが、更に、板状とすることもできるし、放射状に2本以上の配設とすることもできる。また、円盤状または円盤状の表面に突起を形成したものとすることもできる。勿論、モータ74の回転数によっては、撹拌部材72(72-1、・・・、72-n)を針状部材とすることもできる。そして、可撓性のものとすることができる。或いは、回転の開始時に流体抵抗により、スナップ動作を行わせるようにすることもできる。
【0077】
[実施例6]
図17において、本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、潜熱蓄熱材51が収容されている。また、潜熱蓄熱材51の過冷却状態を解く過冷却解除手段60は、その長手方向に沿って配設されている。具体的には、過冷却解除手段60は、線材81及びそれに配設した撹拌部材82(82-1、・・・、82-n)並びにスプリング83(83a,83b)、吸引部材84、電磁石85から構成されている。なお、吸引部材84及び電磁石85は、磁気的なカプラ86を構成する。
【0078】
ステンレス線または鉄線からなる線材81は、その両方の端部にスプリング83a,83bが接続され、スプリング83a,83bの他端は潜熱蓄熱材容器50に埋設されており、線材81はスプリング83a,83bによって張力が加えられた状態で配設されている。線材81には、撹拌部材82(82-1、・・・、82-n)が所定の間隔で配設されている。撹拌部材82の間隔は100mm以下としている。
【0079】
線材81の一方の端部には、円板状の軟鉄等の磁性体からなる吸引部材84が配設され、この吸引部材84の内部にスプリング83bが収容されている。円板状の吸引部材84は同様に円板状の電磁石85の着磁を対向させている。このとき、電磁石85は、円板状の永久磁石からなる吸引部材84の厚み方向に着磁させてもよいし、直径方向に着磁させてもよい。何れにせよ、円板状の電磁石85に磁界を発生させたとき、円板状の吸引部材84を吸引してスプリング83aを伸張させると共に、スプリング83bを収縮させ、磁界の発生を停止させるとスプリング83aの収縮とスプリング83bの伸張により吸引部材84が電磁石85から離間することで吸引部材84が往復動となるように、磁気結合を行うカプラ86を構成し、電磁石85のオン・オフ駆動または交流駆動するものであればよい。
【0080】
円板状の電磁石85のオン・オフは、カプラ86を構成する円板状の吸引部材84の往復動となり、撹拌部材82(82-1、・・・、82-n)の移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)を往復動させる。この移動部材82a(82a-1、・・・、72a-n)の移動は、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をスタートするトリガとなり、潜熱蓄熱材51の結晶化が開始される刺激を与える。結晶化が開始されると、その結晶化は、約6mm/s程度で進行するから、3秒経過後、電磁石85の駆動を停止させる。
【0081】
ここで、移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)を円板状とし、撹拌部材82(82-1、・・・、82-n)の攪拌エネルギが大きくなるようにしたものであるが、更に、棒状とすることもできるし、放射状に複数本の配設とすることもできる。また、円盤状または円盤状の表面に突起を形成したものとすることもできる。
特に、本実施例では、当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)を設けて、電磁石85が吸引部材84を吸引するとそれによって移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)を図17の右方向に移動させ、当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)に衝突し、移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)の移動が停止させられる。このとき、電磁石85が吸引部材84を高速で吸引するから、移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)が当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)と衝突し、大きなエネルギを潜熱蓄熱材51に付与する。電磁石85が吸引部材84の吸引を解いたときに移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)が当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)と衝突するようにしてもよい。つまり、この場合は移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)と当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)がエネルギ発生源となる。
【0082】
したがって、電磁石85が吸引部材84を吸引するとそれによって移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)を移動させる攪拌エネルギによって、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をスタートするトリガとし、潜熱蓄熱材51の結晶化を開始する刺激とすることができる。
また、移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)を当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)に衝突させると、衝突エネルギが付加されて、更に大きなエネルギによって、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をスタートするトリガとし、潜熱蓄熱材51の結晶化を開始する刺激とすることができる。
【0083】
[実施例7]
図18において、本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、潜熱蓄熱材51の過冷却状態を解く過冷却解除手段60が、その長手方向に沿って配設されている。具体的には、過冷却解除手段60は、線材91並びにそれらの両端に接続したスプリング93(93a,93b)、攪拌部材92として機能する駆動磁石92A、攪拌部材92として機能する従動部材92Bから構成されている。なお、駆動磁石92A及び電磁石95は、磁気的なカプラ96を構成する。
【0084】
ステンレス線または鉄線からなる線材91は、その両方の端部にスプリング93a,93bが接続され、スプリング93a,93bの他端は潜熱蓄熱材容器50に埋設されており、線材91はスプリング93a,93bによって張力が加えられた状態で配設されている。線材91には、撹拌部材92(92-1、・・・、92-n)、詳しくは、永久磁石で構成された撹拌部材92A(92A-1、92A-2)、強磁性体以外で構成された撹拌部材92B(92B-1、・・・、92B-n)が所定の間隔で配設されている。撹拌部材92の間隔は100mm以下とするものである。
【0085】
線材91の一方の端部には、円板状の強磁性体からなる2個の撹拌部材92A(92A-1、92A-2)が配設されている。円板状の撹拌部材92Aは潜熱蓄熱材容器50の外に配設された電磁石95を対向させている。このとき、撹拌部材92Aの着磁は、円板状の攪拌部材92Aの厚み方向に着磁させ、撹拌部材92A-1と撹拌部材92A-2の対向面を反発する磁性配置とし、電磁石95は撹拌部材92A-1と撹拌部材92A-2の間になるように円板状の撹拌部材92Aの外周面に対向している。このようにすることにより、電磁石95と撹拌部材92Aの一方とは吸引力が働き、撹拌部材92Aの他方とは反発力が働いて撹拌部材92Aが移動し、この移動に伴いスプリング93は伸張と収縮が起こる。電磁石95の磁力を停止し、または磁性を反転させると撹拌部材92Aは逆の方向に移動する。
即ち、円板状の永久磁石からなる撹拌部材92A(92A-1、92A-2)の磁界が電磁石95との相互作用による吸引・反発により往復動となるように、磁気結合を行うカプラ96を構成し、電磁石95のオン・オフ駆動または交流駆動するものであればよい。
【0086】
電磁石95のオン・オフ駆動または交流駆動は、カプラ96を構成する円板状の撹拌部材92A(92A-1、92A-2)の往復動となり、撹拌部材92A(92A-1、92A-2)及び撹拌部材92B(92B-1、・・・、92B-n)を往復動させる。この撹拌部材92A(92A-1、92A-2)及び撹拌部材92B(92B-1、・・・、92B-n)の移動は、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化するトリガとなり、潜熱蓄熱材51の結晶化が開始される刺激を与える。結晶化が開始されると、その結晶化は、約6mm/s程度で進行するから、3秒経過後、電磁石95の駆動を停止させる。
【0087】
ここで、撹拌部材92A(92A-1、92A-2)及び撹拌部材92B(92B-1、・・・、92B-n)は円板状とし、撹拌部材82の攪拌エネルギが大きくなるようにしたものであるが、更に、その円板状には複数個の円形窓94を形成し、撹拌部材82の攪拌をより複雑に大きくしている。また、円板状または円板状の表面に突起を形成したものとすることもできる。勿論、本実施例においても、実施例6と同様、当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)を設けて、電磁石95が撹拌部材92A(92A-1、92A-2)を吸引・反発すると、それによって撹拌部材92が移動し、当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)に衝突し、撹拌部材92A(92A-1、92A-2)及び撹拌部材92B(92B-1、・・・、92B-n)の移動が停止させられる。このとき、撹拌部材92A(92A-1、92A-2)及び撹拌部材92B(92B-1、・・・、92B-n)が撹拌部材92A(92A-1、92A-2)及び撹拌部材92B(92B-1、・・・、92B-n)と衝突し、大きなエネルギを潜熱蓄熱材51に付与する。
【0088】
[実施の形態のまとめ]
上記実施の形態の作動油温度制御装置は、作動油Oが循環する循環経路に配設され、作動油Oとの間の熱交換を自在とし、かつ、作動油Oとの間の熱交換によって相転移を生じる酢酸ナトリウム水和物等の潜熱蓄熱材51を収容し、その長手方向に対し直交する垂直断面を略円形または略楕円形、略半円形、略半楕円形、または略三角形以上の略多角形のうちの1つとした潜熱蓄熱材容器50と、潜熱蓄熱材容器50に配設され、潜熱蓄熱材51が過冷却状態にあるとき、その過冷却状態を解くためにその長手方向に複数個配設され、または長手方向に沿った線状の過冷却解除手段60を具備するものである。
【0089】
この作動油温度制御装置によれば、作動油Oが循環する循環経路に配設された潜熱蓄熱材容器50に収容された潜熱蓄熱材51は作動油Oとの間の熱交換を行う。そして、潜熱蓄熱材容器50の長手方向に複数個配設され、または長手方向に沿った線状の過冷却解除手段60の動作によって、過冷却状態にあった潜熱蓄熱材51の過冷却を解き、その潜熱を利用して、潜熱蓄熱材51との熱交換により急激に作動油Oの温度上昇を行う。この温度上昇は、潜熱蓄熱材容器50の長手方向に対し、過冷却解除手段60を複数個または長手方向に沿って線状の過冷却解除手段60を配設したものであるから、過冷却状態にある潜熱蓄熱材51を略同時に、その過冷却を解くことができ、効率的に作動油Oの温度上昇を行うことができる。ここで、作動油温度が潜熱蓄熱材51の相転移温度よりも高い場合には、潜熱蓄熱材51は作動油Oから相転移に伴う潜熱を吸熱することで作動油Oの温度を低下させ、作動油温度が潜熱蓄熱材51の相転移温度よりも低い場合には、吸熱した潜熱蓄熱材51からの相転移に伴う潜熱の放熱によって作動流体の温度を上昇させることができる。
よって、潜熱蓄熱材51の放熱特性をよくし、作動油Oとの間に良好な熱交換を可能とすることができる。
【0090】
上記実施の形態の作動油温度制御装置の潜熱蓄熱材51は、潜熱蓄熱材容器50に収納され、作動油Oとの間の熱交換によって相転移を生じる過冷却物質であればよい。
例えば、塩化カルシウム水和物、硫酸ナトリウム水和物、チオ硫酸ナトリウム水和物、酢酸ナトリウム混合物、塩化カルシウム六水塩水和物、炭酸ナトリウム水和物、炭酸水素カリウム水溶液、硫酸ナトリウム十水和物等の水和物、ペンタエリスリトール、マンニトール、エリスリトール、スレイトールなどの多価アルコール類、各種融点のパラフィン類の使用が可能であり、また、混合物として使用できるものもある。
【0091】
また、上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、作動油Oとの間の熱交換によって相転移を生じる潜熱蓄熱材51を収容するものであればよい。そして、上記実施の形態の過冷却解除手段60は、潜熱蓄熱材51を収容した潜熱蓄熱材容器50に収容され、その長手方向に複数個または長手方向に沿って線状に配設したものであればよい。なお、本発明における長さ方向とは、断りがない場合には、上面から見た二次元平面の一辺が他辺より長い長さを意味するものであり、断面の長さ方向とは、断面の一辺が他辺より長い長さを意味するものである。
【0092】
上記実施の形態の過冷却解除手段60は、その長手方向に複数個の圧電素子61、電磁石等を用いた機械的手段を配設した構成とすることができ、過冷却解除の進行速度に影響されることなく、過冷却解除でき、潜熱蓄熱材51の相転移に伴う潜熱の放熱によって作動油Oの温度を上昇させることができる。
ここで、過冷却解除手段60のうち機械的手段を用いたエネルギ発生源としては前述したもの以外に、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51中に配設した耐圧袋を油圧や空圧によって膨らますことで潜熱蓄熱材51に変位を与えるもの、潜熱蓄熱材容器50を袋体としてその袋体に圧力を加えて内部の潜熱蓄熱材51に変形を与えるものがある。また、振動源としては、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51中に配置した金属棒、金属板等を潜熱蓄熱材容器50の外部の電磁気学的な誘導等によって潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51に振動を加えるものがある。
【0093】
上記実施の形態の過冷却解除手段60は、その長手方向に配設した複数個の電極または長手方向に長い電極を用いた電気的手段を配設した構成とすることができ、単純な回路構成で過冷却解除でき、かつ、その面積及び長さが適宜設定できるので、設計自由度が高く、潜熱蓄熱材51の相転移に伴う潜熱の放熱によって作動油Oの温度を上昇させることができる。
過冷却解除手段60としての電極は、潜熱蓄熱材51に電気的な刺激または熱的な刺激を加えるものであり、電気的な刺激の場合、潜熱蓄熱材51が導電体(電解質)であることが望ましい。この際、直流で刺激すると電気分解を起こす可能性があるので、交流の使用が望ましい。この際の電極の大きさは、潜熱蓄熱材容器50の長さ方向に長い電極とすることができるし、潜熱蓄熱材容器50の長さ方向に複数個配設することもできる。
【0094】
上記実施の形態の過冷却解除手段60は、潜熱蓄熱材容器50の外部から潜熱蓄熱材容器50の内部の内部部材と電磁気学的に結合して、潜熱蓄熱材容器50の内部の潜熱蓄熱材51に振動、攪拌、変位、変形の何れか1以上を付与するものである。したがって、潜熱蓄熱材容器50の外部から電磁気学的に結合して潜熱蓄熱材容器50の内部の潜熱蓄熱材51に振動、移動、変位、変形の何れか1以上を付与するものであるから、潜熱蓄熱材容器50の内部の潜熱蓄熱材51に不純物が入り込む可能性をなくし、長期間安定した動作が期待できる。
【0095】
ここで、潜熱蓄熱材容器50の外部から電磁気学的に結合して潜熱蓄熱材容器50の内部の潜熱蓄熱材51に振動、移動、変位、変形の何れか1以上を付与するとは、潜熱蓄熱材容器50の外部から誘導して内部に存在する潜熱蓄熱材51に対して振動、移動、変位、変形を生じさせて、過冷却を解くものである。
【0096】
上記実施の形態の過冷却解除手段60の潜熱蓄熱材51の結晶化をトリガするエネルギ発生源は、その長手方向に100mm以下の間隔に配設したものである。特に、潜熱蓄熱材51の結晶化が発明者等の実験では、約6mm/s程度で進行することから、100mm以下の間隔とは、両側から結晶化が進むと8〜9秒で全体が結晶化されることになり、応答性をよくすることができる。しかし、その熱伝導の速度は、その容器の形態によって決定されるから、温度の応答性からも100mm以下の間隔、例えば、50mm、30mmであれば、作動油の温度上昇に対する応答性を良くすることができる。
【0097】
上記実施の形態の過冷却解除手段60の長手方向に対する直角方向は、その厚みを100mm以下としたものである。故に、厚み方向の広がりは潜熱蓄熱材51の結晶化の速度約6mm/s程度で進行するが、現実的には、トリガの面等の関係で、通常は過冷却解除手段60が中心に設定されるから、潜熱蓄熱材51が結晶化する距離は厚みの半分以下となり、上下の間隔が半分以下となり、8秒程度で厚み方向の放熱及び熱伝導が開始され、初期の段階で潜熱蓄熱材容器の外方向の伝熱経路を形成するから、作動油の温度上昇に対する応答性を良くすることができる。
【0098】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、その長手方向に1以上の略屈曲部を形成してなる実施例とすることができる。即ち、潜熱蓄熱材容器50は、その長手方向に略屈曲部を形成することになるから、その表面積を大きくし、作動油Oに対する伝熱量を増大することができる。また、潜熱蓄熱材51の膨張収縮による潜熱蓄熱材容器50へのダメージを抑制する効果が期待できる。
このように、潜熱蓄熱材容器50に1以上の略屈曲部を形成したものでは、全体が湾曲等の正確な屈曲でなくても、また、複数の屈曲箇所が存在してもよいものである。
【0099】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、略螺旋形状に形成した実施例とすることができる。特に、表面積を大きくし、作動油Oに対する伝熱速度を速くすることができる。
このように、略螺旋形状の潜熱蓄熱材容器50とは、直線方向に中心軸を有するものでだけではなく、中心軸が所定の角度で互いに交わらない傾斜した螺旋も含むものである。即ち、この略螺旋とはその長手方向の距離を長くしたものであればよい。
【0100】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、可撓性のある合成樹脂の密閉容器とすることができる。即ち、可撓性のある合成樹脂の密閉容器とした潜熱蓄熱材容器50は、潜熱蓄熱材容器50の外部から機械的な外力を加え、かつ、その長さ方向の過冷却状態の解除を行うことができ、過冷却状態の解除の進行速度を速くすることができる。
ここで、可撓性のある合成樹脂の密閉容器とは、外的振動、圧力によって潜熱蓄熱材容器50内の潜熱蓄熱材51に対して振動、移動、変位、変形を生じさせて、過冷却を解くことができる。また、潜熱蓄熱材容器50内に不純物が入らないので長寿命とすることができる。
【0101】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、少なくとも内面を平滑面とし、かつ、合成樹脂の密閉容器とすることができる。即ち、潜熱蓄熱材容器50の内面が平滑面であると、潜熱蓄熱材51が刺激を受け難くなり、過冷却状態を維持しやすくなる。
ここで、潜熱蓄熱材容器50は、その内面が平滑面であるから、潜熱蓄熱材51が刺激を受け難いので、過冷却状態になりやすい。即ち、潜熱蓄熱材容器50の形態は、過冷却状態になりやすい形状を維持するものであればよい。
【0102】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、表面積を広く形成し、かつ、熱伝導の良好な金属材料をインサート成形した実施例とすることができる。即ち、潜熱蓄熱材51と作動油Oとの熱交換効率を上げることができる。
特に、潜熱蓄熱材容器50としては、熱交換効率から云えば、表面積を広く形成し、かつ、熱伝導の良好な金属材料をインサート成形し、潜熱蓄熱材51から熱エネルギを引き出すことのできる構成が望ましい。
【0103】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、その内部に気体が存在しない状態に潜熱蓄熱材51を充填したものであるから、潜熱蓄熱材容器50の内部の気体が移動することにより、潜熱蓄熱材51がその刺激を受け、過冷却状態を解除するという、意図しない過冷却状態の解除が発生し難い。即ち、上記潜熱蓄熱材容器50の内部に気体が存在しない状態に潜熱蓄熱材51を充填するのは、気体の移動によって過冷却状態を解除しないようにするものであるから、過冷却状態を維持できるものであればよい。
【0104】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、作動油Oを供給する供給口側に配設したものである。このように潜熱蓄熱材容器50を、作動油Oを供給する供給口に配設したものでは、特定の機構で使用する作動油Oの温度を初期状態から適温に近づけるように早急に上昇させることができ、潜熱蓄熱材容器50に収納された潜熱蓄熱材51の潜熱を高効率で利用することができる。
特に、作動油Oを供給する供給口に配設した潜熱蓄熱材容器50は、特定の機構に作動油を供給する供給口側に潜熱蓄熱材容器50を配設し、そこで、潜熱蓄熱材51が潜熱蓄熱材容器50に収納され、作動油Oと相転移を生じる過冷却物質との間の熱交換によって特定の機構で使用する作動油の温度を適温まで早急に上昇させるものである。
【0105】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51の容積は、特定機能の作動油Oの全体容積に対して1対9乃至1対1の比率で潜熱蓄熱材51の容積を小さくした実施例とすることができる。
したがって、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51の容積が、特定機能の作動油O全体に対して1対9乃至1対1の比率の容積では、特定の機構で使用する作動油Oの温度を潜熱蓄熱材51によって希望する温度まで上昇させることができ、更に、特定機能の作動油Oの動作中の温度を所望の温度の範囲に導くことができる。
即ち、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51の容積が、特定機能の作動油O全体に対して1対9乃至1対1の比率で潜熱蓄熱材51の容積を小さくしたものとは、特定の機構で使用する作動油Oの温度を適温まで早急に上昇させることができ、特定機能の作動油の温度を所望の温度に近似させることができる。
【0106】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51の容積は、特定機能の作動油Oの全体容積に対して1対9乃至1対1の比率内で、潜熱蓄熱材容器50を独立して制御自在な複数個とした実施例とすることができる。即ち、特定機能の作動油O全体容積に対して1対9乃至1対1の比率内で、潜熱蓄熱材51の容積を小さくし、潜熱蓄熱材容器50を独立して制御自在な複数個としたものであるから、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51の全容積が、特定機能の作動油O全体に対して1対9乃至1対1の比率の容積を占め、特定の機構で使用する作動油Oの初期温度を潜熱蓄熱材51によって希望する温度まで上昇させることができ、特定機能の作動油Oの動作温度を所望の温度の範囲に導くことができる。また、複数分割させた潜熱蓄熱材容器50を有するから、目的に応じて潜熱蓄熱材容器50のトリガを制御することにより、所望の制御が可能になる。特に、目的の温度上昇、予備、主制御及び副次的制御に使用することができる。
【0107】
即ち、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51の容積を、特定機能の作動油O全体に対して1対9乃至1対1の比率に設定することで、特定の機構で使用する作動油Oの温度を適温まで上昇させることができ、特定機能の作動油Oの温度を所望の温度に近似させることができる。また、複数分割させた潜熱蓄熱材容器50を有するから、目的に応じて潜熱蓄熱材容器50のトリガを制御することにより、所望の制御が可能になる。
【0108】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51を貯留する貯留空間内に、気体を内部に気密収容した緩衝材を収容し、潜熱蓄熱材51の結晶化する場合の体積変化をその緩衝材で吸収するように構成すると、潜熱蓄熱材容器50を膨張率の小さい材料で形成できる。特に、潜熱蓄熱材容器50を機械的強度が小さく、割れやすい材料や剛性が小さく変形しやすい材料で形成したときに効果的になる。
また、潜熱蓄熱材容器50は、潜熱蓄熱材容器50を形成する材料として内部に気密収容させて形成することもできる。潜熱蓄熱材51の結晶化する場合の体積変化を潜熱蓄熱材容器50で吸収し、潜熱蓄熱材容器50を膨張率の小さい材料で形成できる。特に、潜熱蓄熱材容器50の機械的強度の選択自由度の高いときに効果的になる。
この場合、内部に気密収容させた部分は、熱伝導が悪くなり、断熱性が上がるため、作動油Oとの熱交換に影響が出ない部分、例えば、作動油Oが接しない部分に限定することで熱交換の効率を落とすことなく体積変化を吸収することができる。
【符号の説明】
【0109】
O 作動油
2 オイルパン
3 バルブボディ
4 オイルストレーナ
21 底部
22 壁部
41 オイル吸ロ
42 フィルタ
50 潜熱蓄熱材容器
51 潜熱蓄熱材
60 過冷却解除手段
61 圧電素子
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートマチックトランスミッションフルード(Automatic Transmission Fluid:以下、単に『ATF』という)、エンジン作動油等の作動油の温度を所望の温度に制御して粘度、流動性、酸化安定性等を、最適に制御する作動油温度制御装置に関するものである。特に、自動車、建設機械、農業機械、産業機械、電車等の車両用に好適な作動油温度制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の潜熱蓄熱材(過冷却物質)の過冷却現象を利用した技術としては、高温のATFから熱量を吸収し、その発生する潜熱を利用して、低温始動時に過冷却を解除してATFを暖める技術がある。
即ち、オートマチックトランスミッション(Automatic Transmission:自動変速機)内には、潤滑及び駆動を目的するATFが使用され、オイルパンからオイルポンプによって汲み上げられたATFが、クラッチ、潤滑用としてバルブボディで制御されている。冬季など外気温が低いと、ATFの油温が低くなり、粘性が上昇する。粘性の上昇によって、流動性が下がり、同じ制御油圧でも、油圧力や流量に差が出てくる結果となり、自動変速機の変速フィーリングを良くするためのチューニングに、時間及びノウハウを要しているのが現状である。
一方、低温始動時の油温を上げる方法には、オイルウォーマ等の別部品によって暖める方法もあるが、複雑なシステムとなり、コスト高となる。
【0003】
この種の公知技術としては、例えば、特許文献1及び特許文献2に記載の技術がある。
特許文献1は、エンジンのオイルパンまたはオイル潤滑経路に設けられ、エンジンオイルを昇温させる発熱デバイスであって、過冷却による潜熱の大きい過冷却物質を封入した発熱デバイス本体を備えると共に、発熱デバイス本体に、発熱デバイス本体中の発熱前の過冷却物質に発熱開始のトリガをかけるトリガ部材と、発熱デバイス本体中の発熱後の過冷却物質を液化させるヒータとが内蔵され、エンジンオイルのオイル温度を上げることで、燃焼生成物を蒸発できるものである。
【0004】
また、特許文献2は、作動流体が循環する循環経路に前記作動流体が常に流動する部分に、前記作動流体との熱交換によって相転移を生じ得る潜熱蓄熱材を含む蓄熱体が設けられているから、循環経路を常に循環する作動流体は、該循環経路に設けられた蓄熱体と常に熱交換を行う。これにより、作動流体温度が蓄熱体を構成する潜熱蓄熱材の相転移温度よりも高い場合には、該蓄熱体の潜熱蓄熱材は、作動流体から相転移に伴う潜熱を吸熱することで作動流体の温度を低下させる。また、作動流体温度が蓄熱体を構成する潜熱蓄熱材の相転移温度よりも低い場合には、上記の如く吸熱した潜熱蓄熱材からの相転移に伴う潜熱の放熱によって作動流体の温度を上昇させることができる。
したがって、通常運転時のATFの温度変動幅が小さく、設計に考慮が必要なATFの粘度変化の許容範囲を小さくすることができるので、複数のコントロールバルブの設計、開発(調整や適合等)を容易に行うことが可能となる。また、高負荷運転時の熱を蓄熱材熱交換器に吸収させるため、冷却系の運転負荷を低減することができ、適用された自動車の燃費向上に寄与することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平06−50122号公報
【特許文献2】特開2007−303557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の技術は、過冷却による潜熱の大きい過冷却物質を封入した発熱デバイス本体を備えると共に、前記発熱デバイス本体に発熱前の過冷却物質に発熱開始のトリガをかけるトリガ部材と、発熱デバイス本体中の発熱後の過冷却物質を液化させるヒータとが内蔵され、エンジンオイルのオイル温度を上げることによって、燃焼生成物を蒸発できるものである。
特許文献1に記載された技術では、トリガ制御部からの制御信号と水温センサからの冷却水温データとを受け、所望の条件のもとでヒータに制御信号を出力し、ヒータを駆動させるものであるから、ヒータが必要不可欠であり、また、エンジンオイルのオイル温度を上げるには、ヒータ制御が主流になり、過冷却物質を封入した発熱デバイス本体の関与が陰になってしまう。
【0007】
また、特許文献2の技術は、作動油であるATFが循環する循環経路を構成するオイルパンに蓄熱体である蓄熱材熱交換器が設けられ、当該蓄熱材熱交換器は、高温のATFとの熱交換によって固相から液相に相転移して該ATFから融解熱を吸熱し、低温のATFとの熱交換によって液相から固相に相転移して該ATFに凝固熱を放熱する潜熱蓄熱材を含んで構成されていますが、破過冷却装置は特許文献2の図9、図12、図14に示されているように、蓄熱材熱交換器の一部に設けられているに過ぎない。また、蓄熱材熱交換器についても、例えば、液状の潜熱蓄熱材が充填された1つ若しくは複数の容器、または潜熱蓄熱材を封入した多数のマイクロカプセルとして構成されているに過ぎない。
殊に、潜熱蓄熱材を含んで構成されている蓄熱材熱交換器が、複数の容器または多数のマイクロカプセルとして構成できるものであれば、その破過冷却装置として如何様に構成されるかが大きな問題となるが、それに対しても開示するものがない。
即ち、蓄熱材熱交換器が必要性に応じて如何に急激に温度上昇できるかが問題であるが、それについて開示するものがない。
特に、自動車、建設機械、農業機械、産業機械、電車等の車両においては、所定の知識を有するものが操作するものであるが、それらに好適な技術を開示するものがない。
【0008】
そこで、本発明は、このような点に鑑みてなしたものであり、所望とする過冷却解除が可能で、潜熱蓄熱材の放熱特性をよくし、作動油との間に良好な熱交換を可能とした作動油温度制御装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1にかかる作動油温度制御装置は、作動油が循環する循環経路に配設され、前記作動油との間に熱交換を自在とし、かつ、前記作動油との間の熱交換によって相転移を生じる潜熱蓄熱材を収容してなる潜熱蓄熱材容器を、その一方向の垂直断面を略円形または略楕円形、略半円形、略半楕円形、または略三角形以上の略多角形のうちの1つの形状とし、かつ、前記一方向に複数個または前記一方向に沿って線状に過冷却解除手段を配設したものである。なお、「略」とは完全に直線または曲線で形成されているものだけでなく、直線に曲線が含まれ、または曲線に直線が含まれて近似する形状に形成されていることを意味し、単純な基本的形状でないことを意味する。
ここで、上記潜熱蓄熱材は、前記潜熱蓄熱材容器に収納され、前記作動油との間の熱交換によって相転移を生じる過冷却物質であればよい。
また、上記潜熱蓄熱材容器は、前記作動油との間の熱交換によって相転移を生じる潜熱蓄熱材を収容し、特定の一方向に対する垂直断面を略円形または略楕円形、略半円形、略半楕円形、または略三角形以上の略多角形のうちの1つとしたものであればよい。特に、断面形状が略三角形以上の略多角形とは、複雑な断面であってもよいことを意味する。
そして、上記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材を収容した前記潜熱蓄熱材容器に収容され、前記一方向に複数個または前記一方向に沿って線状に配設したものである。
なお、本発明における前記一方向とは、特段の断りがない場合には、上面から見た二次元平面の特定の方向を意味するものであり、断面の一方向とは、断面の一辺が他辺より長い長さまたは短い長さを意味するものである。
【0010】
請求項2にかかる作動油温度制御装置の前記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材にエネルギを与えるエネルギ発生源を備え、前記エネルギ発生源は前記一方向に複数個配設され、または前記一方向に沿った線状を有するものである。
ここで、上記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材容器の潜熱蓄熱材中に配設して前記潜熱蓄熱材に結晶化を促す起点(トリガ)を与えるものであり、エネルギ発生源からのエネルギがトリガとなる。そして、前記潜熱蓄熱材の結晶化が発明者等の実験では、物質によって若干の違いがあるものの、材料の違いがあっても、約6mm/s程度で結晶化されることになり、その容器の形態によって応答性を設定することができる。
【0011】
請求項3にかかる作動油温度制御装置の前記エネルギ発生源は、振動、攪拌、変位、変形、熱、電気の何れか1以上を前記潜熱蓄熱材に与えるものである。
ここで、上記エネルギ発生源としては、振動、攪拌、変位、変形、熱、電気の何れか1以上からなる発生源であれば良い。
【0012】
請求項4にかかる作動油温度制御装置の前記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材容器の外部から電磁気学的に結合して前記潜熱蓄熱材容器の内部の前記潜熱蓄熱材に振動、撹拌、変位、変形の何れか1以上を付与するものである。
ここで、上記潜熱蓄熱材容器の外部から電磁気学的に結合して前記潜熱蓄熱材容器の内部の前記潜熱蓄熱材に振動、撹拌、変位、変形の何れか1以上を付与するとは、前記潜熱蓄熱材容器の外部から誘導して内部に存在する潜熱蓄熱材に対して振動、撹拌、変位、変形を生じさせて、過冷却を解くものである。
【0013】
請求項5の発明の作動油温度制御装置の前記過冷却解除手段は、前記一方向に長い電極とする。ここで、前記一方向に長い電極は、前記一方向に配設した単数の電極または前記一方向に配設した複数個の電極であってもよい。
【0014】
請求項6にかかる作動油温度制御装置の前記潜熱蓄熱材容器は、その長手方向に1以上の略屈曲部を形成したものである。
ここで、上記潜熱蓄熱材容器としての前記一方向に1以上の略屈曲部を形成とは、全体が湾曲等の正確な屈曲でなくても、また、複数の屈曲箇所が存在してもよいことを意味する。何れにせよ、前記一方向の距離を伝熱のため及び潜熱蓄熱材の膨張収縮のために長くしたものであればよい。
【0015】
請求項7にかかる作動油温度制御装置の前記潜熱蓄熱材容器は、略螺旋形状を有するものである。
ここで、上記略螺旋形状とは、直線方向に中心軸を有するものでだけではなく、中心軸が所定の角度で互いに交わらない傾斜した螺旋も含むものである。この略螺旋とは前記一方向の距離を長くしたものであればよい。
【0016】
請求項8にかかる作動油温度制御装置の前記潜熱蓄熱材容器は、前記作動油に伝える熱伝導の良好な金属材料をインサート成形してなるものである。
ここで、上記潜熱蓄熱材容器は、熱伝導の良好な金属材料を前記潜熱蓄熱材容器にインサート成形し、前記潜熱蓄熱材から熱エネルギを引き出すことが望ましい。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明の作動油温度制御装置によれば、作動油が循環する循環経路に配設され、前記作動油との間の熱交換を自在とし、かつ、前記作動油との間の熱交換によって相転移を生じる潜熱蓄熱材を収容し、一方向に対する垂直断面を略円形または略楕円形、略半円形、略半楕円形、または略三角形以上の略多角形のうちの1つとした潜熱蓄熱材容器には、前記一方向に過冷却解除手段を複数個配設または前記一方向に沿って線状に配設したものである。
したがって、作動油が循環する循環経路に配設された潜熱蓄熱材容器に収容された潜熱蓄熱材は前記作動油との間の熱交換を行う。そして、潜熱蓄熱材容器の一方向に複数個または前記一方向に沿って線状に配設した過冷却解除手段の動作によって、過冷却状態にあった潜熱蓄熱材の過冷却を解き、その潜熱を利用して、前記潜熱蓄熱材との熱交換により急激に作動油の温度上昇を行う。この温度上昇は、潜熱蓄熱材容器の前記一方向に対し、過冷却解除手段を複数個または前記一方向に沿って線状に配設したものであるから、過冷却状態にある潜熱蓄熱材を略同時に、その過冷却を解くことにより、急激に作動油の温度上昇を行うことができる。
このように、作動油温度が潜熱蓄熱材の相転移温度よりも高い場合には、潜熱蓄熱材は作動油から相転移に伴う潜熱を吸熱することで作動油の温度を低下させ、作動油温度が潜熱蓄熱材の相転移温度よりも低い場合には、吸熱した潜熱蓄熱材からの相転移に伴う潜熱の放熱によって作動流体の温度を上昇させることができる。
よって、潜熱蓄熱材の放熱特性をよくし、作動油との間に良好な熱交換を可能とすることができる。
【0018】
請求項2の発明の作動油温度制御装置の前記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材にエネルギを与えるエネルギ発生源を備え、前記エネルギ発生源は前記一方向に複数個配設され、または前記一方向に沿った線状を有しているものであるから、請求項1に記載の効果に加えて、過冷却の解除が速やかに行われ、潜熱蓄熱材の相転移に伴う潜熱の放熱によって作動油の温度を上昇させることができる。前記潜熱蓄熱材の結晶化が発明者等の実験では、材料に違いがあっても、約6mm/s程度で進行し、その熱伝導の速度は、その容器の形態によって決定されるから、作動油の温度上昇に対する応答性を良くすることができる。
【0019】
請求項3の発明の作動油温度制御装置の前記エネルギ発生源は、振動、攪拌、変位、変形、熱、電気の何れか1以上を前記潜熱蓄熱材に与えるものであるから、請求項2に記載の効果に加えて、単純な回路構成で過冷却解除でき、かつ、その面積及び前記一方向が適宜設定できるので、設計自由度が高く、潜熱蓄熱材の相転移に伴う潜熱の放熱によって作動油の温度を上昇させることができる。
【0020】
請求項4の発明の作動油温度制御装置の前記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材容器の外部から電磁気学的に結合して前記潜熱蓄熱材容器の内部の前記潜熱蓄熱材に振動、撹拌、変位、変形の何れか1以上を付与するものであるから、請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の効果に加えて、前記潜熱蓄熱材容器の外部から電磁気学的に結合して前記潜熱蓄熱材容器の内部の前記潜熱蓄熱材に振動、撹拌、変位、変形の何れか1以上のエネルギを付与するものであるから、前記潜熱蓄熱材容器の内部の前記潜熱蓄熱材に不純物が入り込む可能性をなくし、長期間安定した動作が期待できる。
【0021】
請求項5の発明の作動油温度制御装置の前記過冷却解除手段は、前記一方向に長い電極とし、請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の効果に加えて、簡単な構造で前記潜熱蓄熱材に熱または電気のエルギを付与できる。
【0022】
請求項6の発明の作動油温度制御装置の前記潜熱蓄熱材容器は、前記一方向に略屈曲部を形成したものであるから請求項1乃至請求項5の何れか1つに記載の効果に加えて、その表面積を大きくし、作動油に対する供給熱量を大きくすることができる。また、前記潜熱蓄熱材の膨張・収縮も前記潜熱蓄熱材容器の略屈曲部によって吸収することができる。
【0023】
請求項7の発明の作動油温度制御装置の前記潜熱蓄熱材容器は、略螺旋形状を有するものであるから、請求項1乃至請求項6の何れか1つに記載の効果に加えて、その表面積を大きくし、作動油に対する供給熱量を大きくすることができる。また、前記潜熱蓄熱材の膨張・収縮も前記潜熱蓄熱材容器の略螺旋形状によって吸収することができる。
【0024】
請求項8の発明の作動油温度制御装置の前記潜熱蓄熱材容器は、前記作動油に伝える熱伝導の良好な金属材料をインサート成形してなるものであるから、請求項1乃至請求項7の何れか1つに記載の効果に加えて、前記潜熱蓄熱材容器内の前記潜熱蓄熱材の温度をインサートされた金属材料によって効率よく作動油に熱を伝えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置をATに用いた場合のオイルパンと変速機ケースの構成を断面で示した説明図である。
【図2】図2は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置の図1の切断線A−Aによる断面図である。
【図3】図3は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置をオイルパンの開口側のオイルストレーナの上から底面を見た平面図である。
【図4】図4は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置をオイルパンの開口側からオイルストレーナを除いて底面を見た平面図である。
【図5】図5は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材の結晶加速度を測定した原理図で、(a)は長さ方向、(b)は長さ方向に対する直角方向の速度の測定説明図である。
【図6】図6は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する制御回路装置のブロック回路図である。
【図7】図7は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する制御回路装置が制御するフローチャートである。
【図8】図8は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材の温度特性図である。
【図9】図9は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例1の断面の説明図で、図9(a)は潜熱蓄熱材容器の長さ方向の断面図、図9(b)は潜熱蓄熱材容器内部の構造を示す要部平面図である。
【図10】図10は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例2の断面の説明図である。
【図11】図11は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例3の断面の説明図である。
【図12】図12は本発明の実施の形態1にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例4の断面の説明図である。
【図13】図13は本発明の実施の形態2にかかる作動油温度制御装置の図1の切断線A−Aによる断面図に相当するものである。
【図14】図14は本発明の実施の形態2にかかる作動油温度制御装置をオイルパンの開口側から内側底面を除いて底面を見た平面図である。
【図15】図15は本発明の実施の形態2にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例5の断面の説明図である。
【図16】図16は本発明の実施の形態2にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例5の斜視図である。
【図17】図17は本発明の実施の形態2にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例6の断面の説明図である。
【図18】図18は本発明の実施の形態2にかかる作動油温度制御装置で使用する潜熱蓄熱材容器の実施例7の断面の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態及び実施例について、図面に基づいて説明する。なお、実施の形態及び実施例において、図中、同一記号及び同一符号は、同一または相当する機構部分であるから、ここでは重複する説明を省略する。
【0027】
[実施の形態1]
本発明の作動油温度制御装置を実施する場合、ここで説明する実施例のATFに限定されることなく、内燃機関冷却用のオイル、特殊車両等の油圧機器に使用可能なオイルにも適用されるものである。そこで、これらのオイルを本発明では作動油として表現することとする。即ち、この作動油温度制御装置は、オートマチックトランスミッション(Automatic Transmission:AT)の作動油、連続可変トランスミッション(Continuously Variable Transmission:CVT)の作動油、ハイブリッドカー(Hybrid Car:HV)の駆動ユニットに使用する作動油、内燃機関の冷却用の作動油、特殊車両等の油圧機器に使用可能な作動油温度制御装置に関するものである。
即ち、民需に限らず、自動車、建設機械、農業機械、産業機械、電車等の車両用に好適な作動油温度制御装置として使用するものである。また、本発明の作動油にはエンジンオイル等の潤滑油を含むものである。
【0028】
図1乃至図4において、変速機構を収納する変速機ケース1には、その収容部1aに図示しない自動変速機構が収容されている。作動油Oを貯留するオイルパン2は、底部21とその底部21の外周から上方に延びた壁部22を備え、底部21と壁部22によって囲まれた空間内に作動油Oを貯留するものである。底部21には機械的強度及びオイルパン2内の作動油Oの流れが滞ることなく、また、図示しないオイルポンプによって吸引するオイルストレーナ4のオイル吸口41に気泡が入り難くし、作動油Oの回り込みが容易な構造とされている。
【0029】
バルブボディ(V/B)3は、車両用自動変速機の変速機、クラッチ、トルクコンバータ等の制御を行う複数のバルブを収容するもので、通常、変速機構の直下で、オイルストレーナ4の上部に配設される。本実施の形態においても、バルブボディ3にオイルストレーナ4が、ボルト44で取り付けられている。
【0030】
オイルストレーナ4は、オイルパン2内に収容され、オイルパン2内に貯留された作動油Oを図示しないオイルポンプによって吸引するオイル吸口41を有し、作動油Oをフィルタ42で濾過し、その濾過した作動油Oはオイル吐出口46、図示しないオイルポンプを経て、車両用自動変速機の変速機、クラッチ、トルクコンバータ、それらの制御を行う複数のバルブに供給される。
【0031】
オイルストレーナ4のオイル吸ロ41の開口面積よりもその平面積を広くし、オイルパン2の内壁との間に作動油Oの通る隙間を形成している。
【0032】
このように構成された変速機構を収納する変速機ケース1、作動油を貯留するオイルパン2、バルブボディ3、オイルポンプによって吸引するオイル吸口41を有するオイルストレーナ4の構成は、オイルパン2と変速機ケース1で囲まれる空間内において、オイルレベルOLまで作動油Oを収容している。通常のエンジンが駆動している状態では、図示しないオイルポンプに対してオイルストレーナ4のオイル吸ロ41から、途切れることなく作動油Oが供給される。
【0033】
更に、本発明の実施の形態1の作動油温度制御装置のオイルパン2の構造について詳述する。
図1乃至図4において、オイルパン2は合成樹脂の射出成型品からなり、その底部21には後述する潜熱蓄熱材容器50が形成される。潜熱蓄熱材容器50はオイルパン2と一体に成形してもよいし、2色成形または金属板等でインサート成形してもよい。また、潜熱蓄熱材容器50を別に形成した後、オイルパン2の底部21に螺着、接着等により取り付けることもできる。オイルパン2の壁部22にも潜熱蓄熱容器50aが形成されている。潜熱蓄熱材容器50aはオイルパン2の長手方向の長さに略一致させるように延長したもので、本実施の形態では、左右側面に2列形成している。底部21と壁部22の潜熱蓄熱材容器50と潜熱蓄熱材容器50aは、共に同一容積としてもよいし、大小関係を設けてもよい。本実施の形態では、底部21側と壁部22側の潜熱蓄熱材容器50は、略同一容量としている。
なお、壁部22の潜熱蓄熱材容器50aの上面は、傾斜させ、作動油Oが内側に戻る構造となっている。また、車両の揺れに対してオイルレベルOLが変化し難いように、バルブボディ3との間隔を設定している。
【0034】
潜熱蓄熱材容器50は、底部21の作動油Oの流れを考慮し、オイルパン2の長さ方向、即ち、車両の走行方向に延ばした形状で、本実施の形態では、底部21に7列形成している。この7列は、オイルストレーナ4のオイル吸ロ41の付近でその断面積が狭くなっている。この断面積が狭くなっている箇所は、作動油導入部50Aで、オイルストレーナ4のオイル吸ロ41に作動油Oを導く際の、作動油Oの流体抵抗を小さくし、作動油Oの量を確保している。
【0035】
作動油導入部50Aは、7列の潜熱蓄熱材容器50の断面が細くなっていてもよいし、完全に2分割し、オイル吸口41の近傍範囲(潜熱蓄熱材容器50の断面が細くなっている範囲)を除いて2箇所に潜熱蓄熱材容器50を配してもよい。即ち、オイルストレーナ4のオイル吸ロ41に作動油Oが供給され易く、作動油Oが集まり易い構造であればよい。本実施の形態では、車両の走行方向に対し、並行する方向及び直角方向の流れを可能としている。勿論、オイルストレーナ4のオイル吸ロ41に対する作動油Oの流れは、7列の潜熱蓄熱材容器50の断面が細くなっている位置または2分割されている位置に流すだけではなく、オイルストレーナ4の下面が整流板として機能し、オイル吸ロ41に作動油Oを導くことができる。しかし、更に流体抵抗を小さくするために、7列の潜熱蓄熱材容器50の断面を小さくし、または潜熱蓄熱材容器50を2分割することで作動油Oの流体抵抗を小さくしている。
【0036】
これら底部21に形成された潜熱蓄熱材容器50、また、壁部22に形成された潜熱蓄熱材容器50は、上記実施の形態の7列、2列に限定されるものではなく、任意の本数とすることができる。
【0037】
なお、この潜熱蓄熱材容器50の材料としては、ポリエチレン、フッ素樹脂、ステンレス鋼、酸化アルミニウム等の耐食性を有し、化学的安定性がある材料であれば使用できる。
【0038】
本実施の形態において、潜熱蓄熱材容器50は、酢酸ナトリウムが収容された筒状の容器となっている。この長手方向に直交する垂直断面は、略円形または略楕円形、略半円形、略半楕円形または略三角形以上の略多角形のうちの1つとすることができる。前述の略三角形以上の略多角形とは、複雑な形状のものを意味する。
【0039】
図2に示すように、本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、潜熱蓄熱材51の過冷却状態を解く過冷却解除手段60が、その長手方向に沿って配列されている。具体的には、過冷却解除手段60は、図2の表裏方向に長い図示しない長方形状の圧電素子(ピエゾ素子)からなり、駆動電圧の印加によって面の厚み方向(図2中上下方向)に変化する。この圧電素子の電極は、図示しない基板に形成したプリント回路を介して電気的に接続されており、基板は潜熱蓄熱材容器50の底面に接合されている。なお、圧電素子の構成は図9で詳述する。
【0040】
したがって、過冷却解除手段60である圧電素子に駆動電圧を断続的に印加すると、圧電素子の厚みが断続的に変化し、潜熱蓄熱材にエネルギを与え、それによって潜熱蓄熱材が過冷却にあるときに結晶化をスタートさせるトリガとする。即ち、潜熱蓄熱材51の結晶化が開始される刺激とする。結晶化が開始されると、その結晶化の進行に伴って過冷却解除手段60である圧電素子の駆動エネルギを停止させる。
なお、本実施例の過冷却解除手段60である圧電素子は、平面略長方形状の圧電素子からなるものであるが、円形の圧電素子を1枚または複数枚使用することもできる。
【0041】
本発明を実施する場合の潜熱蓄熱材51は、本実施の形態で使用している酢酸ナトリウム水和物に限定されるものではなく、必要とする融点に応じた物質が選択可能であり、例えば、塩化カルシウム水和物、硫酸ナトリウム水和物、チオ硫酸ナトリウム水和物、酢酸ナトリウム水和物、塩化カルシウム六水塩、炭酸ナトリウム水和物、炭酸水素カリウム水溶液、硫酸ナトリウム十水塩、ペンタエリスリトール、マンニトール、エリスリトール、スレイトールなどの多価アルコール類、各種融点のパラフィン類の使用が可能であり、また、混合物としても使用できる。
【0042】
因みに、発明者らは、図5(a)に示すように、直径約20mm、長さ約150mmの合成樹脂からなる透明容器Aを作成し、その両端に端部相互間で衝突を行う衝撃棒Bを配設した。衝撃棒B相互間の衝撃により、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化のトリガとした。この実験により、潜熱蓄熱材51の材料の殆どが長さ方向に約6mm/s程度で結晶化が進行するのが確認された。
【0043】
また、発明者らは、図5(b)に示すように、直径約20mm、長さ約150mmの合成樹脂からなる透明容器Aを作成し、その中心に振動線Cを配設することにより、その振動線Cの振動刺激により、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をスタートするトリガとするものである。この実験により、潜熱蓄熱材51の材料の殆どが長さ方向に対して直角の方向に約6mm/s程度で結晶化が進行することも確認された。
【0044】
また、図6は、本実施の形態の作動油温度制御装置を制御する制御装置である。
制御部100は、マイクロコンピュータ等からなるプログラム制御される回路である。また、その出力のドライバ101は、過冷却解除手段60の種類に応じた駆動回路で、矩形波の発生、交流または直流等の発生等を制御する。温度更新メモリ103は、温度センサ104が測定する作動油Oの温度上昇から潜熱蓄熱材51の温度上昇を推定するものであり、直接、潜熱蓄熱材51の温度を検出してもよいが、本実施の形態では、作動油Oの温度を検出した。イグニッションスイッチ105の出力が制御部100に入力され、また、制御部100の出力として、イグニッションスイッチ105の投入からエンジンの駆動が遅れることを示すエンジンスタート表示106に入力されている。
【0045】
図7は、本実施の形態の作動油温度制御装置をプログラム制御する制御部100の制御プログラムである。図8の潜熱蓄熱材の温度特性図を参照しながら、その動作を説明する。
まず、ステップS1でイグニッションスイッチ105が投入されたとき、イグニッションスイッチ105の投入を判断して、このプログラムの処理を開始する。イグニッションスイッチ105の投入が確認されると、ステップS2でエンジンを駆動する。ステップS3で前回エンジンの駆動時に作動油Oの温度Tが何度まで上昇したかを判断する。少なくとも、潜熱蓄熱材融点温度Tn(厳格には、潜熱蓄熱材融点温度+作動油Oの温度差を是正した温度)を上回っているかを判断し、作動油Oの温度Tがそれ以上となっていれば、充分な融解熱を受け、過冷却状態となっていると判断する。勿論、通常の設計では、作動油Oの現在の温度Tが自己で過冷却状態を解除する破過冷却温度Txを下回るようには設定されていないが、長距離輸送等で作動油Oの現在の温度Tが自己で過冷却状態を解除する破過冷却温度Txを下回っているかを判断の要件に加えることもできる。
【0046】
組み付けを完了した初回では、過冷却状態になっていないから、前回エンジンの駆動時に作動油Oの温度Tが潜熱蓄熱材融点温度Tnを上回っていない。したがって、そのままエンジンを駆動した状態で、ステップS7でそのときの作動油Oの温度Tの上昇を更新登録する。ステップS8でエンジンの停止が確認されるまで、ステップS7及びステップS8のルーチンの処理を行う。
【0047】
次回以降のエンジンスタートで、ステップS3で前回エンジンの駆動時に作動油Oの温度Tが、潜熱蓄熱材融点温度Tnを上回っていると判断したとき、ステップS4でドライバ101を介して過冷却解除手段60を動作させ、ステップS5で3秒間の経過を判断し、過冷却解除手段60を3秒間だけ動作させ、ステップS6で過冷却解除手段60を停止させる。ステップS7で作動油Oの温度Tの上昇を更新登録し、駆動時の作動油の最高温度を記録する。ステップS8でエンジンの停止が確認されるまで、ステップS7及びステップS8のルーチンの処理を行う。
【0048】
このように、最初にエンジンが始動されると、オートマチックトランスミッションにおいては、作動油Oが変速機構、オイルパン2を含む作動流路を循環する。そして、通常運転状態になると、作動油Oはその温度が車両運転状態の下限最低温度Tsよりも高い温度に上昇する。この場合、図8の細矢印で示すように、作動油Oの温度上昇に伴って潜熱蓄熱材51が熱交換されて昇温する。潜熱蓄熱材51が潜熱蓄熱材融点温度Tnに達すると潜熱蓄熱材51が融解される。このとき潜熱蓄熱材51は、オイルパン2内の作動油Oとの熱交換によって、潜熱蓄熱材51の融解に要する潜熱(融解熱)を作動油Oから吸熱する。これによって、潜熱蓄熱材51が完全に液化するまでは、潜熱蓄熱材融点温度Tnで略一定であり、作動油Oは冷却され(熱が奪われ)、作動油Oの温度を潜熱蓄熱材51の潜熱蓄熱材融点温度Tn付近の温度に維持する。潜熱蓄熱材51が完全に液化した状態では、潜熱蓄熱材51の融解熱相当の熱が潜熱蓄熱材51に蓄えられる。
【0049】
また、図8の太矢印に示すように、潜熱蓄熱材51が液相の状態にあるとき、エンジンの停止等で作動油Oの温度が低下すると、作動油Oの降温に伴って液相の潜熱蓄熱材51が降温される。例えば、潜熱蓄熱材51は運転終了後に作動油Oと共に降温して自らの温度が潜熱蓄熱材融点温度Tnを下回っても、凝固することなく液相、即ち、融解熱の蓄熱状態を維持する。
そして、潜熱蓄熱材51が運転終了後に作動油Oと共に降温し、自らの温度が破過冷却温度Txを下回らない限り、潜熱蓄熱材51は液相状態で融解熱の蓄熱状態を維持する。なお、破過冷却温度Txは、通常の使用状態でその温度以下の温度にならないような材料及び温度が選択されている。
【0050】
次に、自動車の始動を行うとき、イグニッションスイッチ105の投入により、まず、過冷却解除手段60を数秒以内作動させる。すると、潜熱蓄熱材51は図8に示されるように、潜熱蓄熱材51は、直ちに凝固して作動油Oとの熱交換によって蓄熱した熱量である凝固熱を放熱する。これにより、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51が加熱されて昇温され、オートマチックトランスミッションの暖機が促進される。
【0051】
そして、作動油Oが変速機構、オイルパン2を含む作動流路を循環し、通常運転状態になると、作動油Oはその温度が潜熱蓄熱材融点温度Tnになると潜熱蓄熱材51が融解される。潜熱蓄熱材51は、オイルパン2内の作動油Oとの熱交換によって、潜熱蓄熱材51の融解に要する潜熱(融解熱)を作動油Oから吸熱し、潜熱蓄熱材51が完全に液化するまでは、潜熱蓄熱材融点温度Tnで略一定となる。作動油Oは冷却され(熱が奪われ)、作動油Oの温度を潜熱蓄熱材51の潜熱蓄熱材融点温度Tn付近の温度に維持するが、潜熱蓄熱材51が完全に液化した状態では、潜熱蓄熱材51の融解熱相当の熱が潜熱蓄熱材51に蓄えられる。
【0052】
前述のように、イグニッションスイッチ105の投入により、過冷却解除手段60を数秒以内作動させると、潜熱蓄熱材51は直ちに凝固を開始し、作動油Oに対し運転時に作動油Oとの熱交換によって蓄熱した熱量である凝固熱を放熱する。これにより、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51が加熱されて昇温され、オートマチックトランスミッションの暖機が促進される。
勿論、自動車等のオートマチックトランスミッションに限らず、建設機械、農業機械、産業機械、電車等の車両用に好適な作動油温度制御装置としても使用できる。
【0053】
[実施例1]
図9において、本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、断面が略4角形の筒状であり、潜熱蓄熱材51の過冷却状態を解く過冷却解除手段60が、その長手方向に沿って配列されている。具体的には、過冷却解除手段60は、円板状の圧電素子61からなり、駆動電圧の印加によって面の厚み方向に変化する。圧電素子61は、電極共用導電基板65とその電極共用導電基板65に絶縁物64を介して形成したプリント回路63を介して電極61aとの間が電気的に接続されており、電極共用導電基板65は潜熱蓄熱材容器50の底面に接合されている。
【0054】
したがって、過冷却解除手段60である円板状の圧電素子61の電極61aと電極共用導電基板65に駆動電圧を断続的に印加すると、圧電素子61の厚みが断続的に変化し、潜熱蓄熱材容器50が内蔵する潜熱蓄熱材51にエネルギを与え、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をトリガし、潜熱蓄熱材51の結晶化が開始される刺激となる。この際、印加されるパルスが短いと圧電素子61は潜熱蓄熱材51に振動エネルギを与え、パルスが長いと変位(変形)エネルギを与える。結晶化が開始されると、その結晶化の進行に伴って圧電素子61の駆動エネルギ(電圧の印加)を停止させる。したがって、圧電素子61がエネルギ発生源である。
【0055】
なお、本実施例の圧電素子61は、円板状の圧電素子61からなるものであるが、潜熱蓄熱材容器50の長手方向に長い圧電素子を1枚または複数枚使用することもできる。
特に、複数枚使用する場合は、3枚以上を潜熱蓄熱材容器50の長手方向の両端とその間に一定の距離を離して配置すると効率的な結晶化が図れる。
【0056】
[実施例2]
図10において、本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、断面が円形の円筒状を有し、潜熱蓄熱材51の過冷却状態を解く過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)が、その長手方向に沿って配設されている。具体的には、過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)は、環状の圧電素子61からなり、駆動電圧の印加によって径方向に変化する。圧電素子61の電極は、潜熱蓄熱材容器50の厚み側に埋設されている。ここで、nは過冷却解除手段60の個数を表し、個数nは2以上、好ましくは3以上であり、潜熱蓄熱材容器50の長さに応じて適宜設定される。
【0057】
したがって、過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)である環状の圧電素子61に駆動電圧を断続的に印加すると、圧電素子61の径が断続的に変化し、潜熱蓄熱材51にエネルギを与える。これによって潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化のトリガとなり、潜熱蓄熱材51の結晶化が開始される刺激となる。結晶化が開始されると、その結晶化が進行するから、数秒間以内に駆動を停止させる。
特に、環状の圧電素子61の使用は、潜熱蓄熱材容器50の内周面側から結晶化をスタートさせるから、潜熱蓄熱材容器50の熱エネルギを早くから直接取り出すことができる。
【0058】
[実施例3]
図11において、本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、断面が円形の円筒状を有し、潜熱蓄熱材51が収容されている。また、潜熱蓄熱材51が過冷却状態にあるとき、その過冷却状態を解く過冷却解除手段60が、その長手方向に沿って配設されている。具体的には、過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)は、円板状の圧電素子61からなり、駆動電圧の印加によって面の厚み方向に変化する。圧電素子61の電極61aは、配置補助部材62を介して、潜熱蓄熱材容器50の厚み内に埋設されている。
ここで、配置補助部材62は潜熱蓄熱材容器50の内周に係合するリング状の外周部を有し、この外周部の直径方向に圧電素子61を固定する固定部が設けられ、圧電素子61はこの固定部の中央に固定される。圧電素子61の配置は、その面が潜熱蓄熱材容器50の長さ方向に対して直角の方向に面している。
【0059】
したがって、過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)である環状の圧電素子61に駆動電圧を断続的に印加すると、圧電素子61の厚みが断続的に変化し、潜熱蓄熱材51にエネルギを与え、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をスタートするトリガとなり、潜熱蓄熱材51の結晶化が開始される刺激となる。結晶化が開始されると、その結晶化の進行に伴って圧電素子61の駆動エネルギを停止させる。このとき、圧電素子61の配置が、その面が潜熱蓄熱材容器50の長さ方向に対して直角の方向に面しているから、過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)相互間の方向、即ち、長さ方向に対しては、潜熱蓄熱材容器50の周囲と圧電素子61の相互間の間隙が狭くなり、連続性が強調されるからスムーズに結晶化が進行できる。
【0060】
[実施例4]
図12において、本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、潜熱蓄熱材51の過冷却状態を解く過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)が、その長手方向に沿って配設されている。具体的には、過冷却解除手段60(60-1、・・・、60-n)が電極66,67で形成されている。この電極66,67は、本実施例では、対向する円形電極としているが、本発明を実施する場合、電極66と電極67の対向電極の替わりに潜熱蓄熱材容器50の長手方向に延びる一本の電線とすることもでき、電極66または電極67を1枚の面状の電極とすることもできる。ここで、過冷却解除手段60に複数の電極66、67を使用した場合または一本の電線を使用した場合、チューブ状の潜熱蓄熱材容器50はオイルパン2の中に直線状や屈曲させてジグザグ状に配することができるだけでなく螺旋状に配することもできる。ここで、過冷却解除手段60は電極66、67をn個備えている。これら電極66、67の個数は2個以上であって、潜熱蓄熱材容器50の長手方向の長さに応じて適宜設定されるが、3個以上に設定されると潜熱蓄熱材容器50の両端部と内部(中央部)から潜熱蓄熱材51を効率的に結晶化させることができ好ましい。
【0061】
電極66と電極67には、電力が供給される。この電気は瞬間的には、潜熱蓄熱材51に対し、分子の動きを刺激するエネルギを与え、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をスタートするトリガとなり、潜熱蓄熱材51の結晶化が開始される刺激となる。
ここで、電極66、67に供給された電気は直接潜熱蓄熱材51に電気エネルギとして与えられるだけでなく、電極66、67が供給された電気によって発熱することで熱エネルギとして与えることもできる。結晶化が開始されると、その結晶化は、約6mm/s程度で進行するが、印加電圧は、数秒以上とし、潜熱蓄熱材51の結晶化を早めることができる。したがって、電極66、67または一本の電線がエネルギ発生源となる。
【0062】
[実施の形態2]
図13において、変速機構を収納する変速機ケース1には、その収容部1aに図示しない自動変速機構が収容されている。作動油Oを貯留するオイルパン2は、底部21とその底部21の外周から上方に延びた壁部22からなり、その内部で作動油Oを貯留するものであり、更に、底部21には機械的強度及びオイルパン2内の作動油Oの流れが滞ることなく、また、図示しないオイルポンプによって吸引するオイルストレーナ4のオイル吸口41に気泡が入り難くし、作動油Oの回り込みが容易な構造とされている。
バルブボディ3は、車両用自動変速機の変速機、クラッチ、トルクコンバータ等の制御を行う複数のバルブを収容するもので、通常、変速機構の直下で、オイルストレーナ4の上部に配設される。
【0063】
オイルストレーナ4は、オイルパン2内に収容され、オイルパン2内に貯留された作動油Oを図示しないオイルポンプによって吸引するオイル吸口41を有し、作動油Oをフィルタ42で濾過し、その濾過した作動油Oは図示しないオイルポンプを経て、車両用自動変速機の変速機、クラッチ、トルクコンバータ、それらの制御を行う複数のバルブに供給される。
【0064】
このように構成された変速機構を収納する変速機ケース1、作動油を貯留するオイルパン2、バルブボディ3、オイルポンプによって吸引するオイル吸口41を有するオイルストレーナ4の構成は、オイルパン2と変速機ケース1で囲まれる空間内において、オイルレベルOLまで作動油Oを収容し、図示しないオイルポンプに対してオイルストレーナ4のオイル吸ロ41から、途切れることなく作動油Oが供給される。
【0065】
更に、本発明の実施の形態2の作動油温度制御装置のオイルパン2の構造について詳述する。
図13及び図14において、オイルパン2は合成樹脂の射出成形品からなり、その底部21に、後述する潜熱蓄熱材容器50が単一の空間として形成されている。潜熱蓄熱材容器50は底部21の作動油Oを貯留する側に位置する外側底面27と、この外側底面27に対向するように配された内側底面26で単一の空間として形成されている。そして、外側底面27には略長方形の共通する電極65に搭載された圧電素子61が必要数配設されており、共通する電極65は潜熱蓄熱材容器50の底面に接合されている。
【0066】
本実施の形態では、圧電素子61が同時に駆動するように、圧電素子61の電極61aはジャンパー線67で並列接続された回路構成としている。作動油Oが流れる奥行き方向に対して圧電素子61の間隔を100mm以下とし、かつ、その直角方向にも圧電素子61の間隔を50mm以下とするものである。つまり、直線状に複数個(本実施の形態では8個)の圧電素子61を100mm間隔で配した過冷却解除手段60は、50mm間隔で複数個(本実施の形態では5個)並列してオイルパン2の底部21に配設されている。
【0067】
外側底面27に対向する内側底面26は一定間隔ごとに外側底面27に向かって折り曲がり外側底面27に対し凸状になっている。このように内側底面26が凸状に折り曲がることで内側底面26と一定の幅を持って形成された潜熱蓄熱材容器50のオイルストレーナ4に面する上部には、屈曲により形成された溝26aを有し、オイルストレーナ4に面する表面積が広くなる。したがって、内側底面26の上面である潜熱蓄熱材容器50の上面には、表面積を広くする溝26aが形成されている。この溝26aはオイルストレーナ4のオイル吸ロ41に向かって作動油Oが流れるように、奥行き方向(図13の紙面の表面から裏面方向)及びその直角方向に所定の間隔を置いて形成されている。
【0068】
即ち、オイルパン2は、潜熱蓄熱材容器50の底面となる底部21と壁部22を射出成型し、次いで、その内面に圧電素子61が搭載された共通する電極65を所望の間隔で配置接合し、その後、射出成形によって形成した内側底面26を含む潜熱蓄熱材容器50の上部を一体に接合したものである。潜熱蓄熱材容器50には、別に形成した図示しない供給口から潜熱蓄熱材51が供給され、空気を引き入れないように封止される。
【0069】
このように構成された本発明の実施の形態2の作動油温度制御装置において、潜熱蓄熱材容器50を形成する内側底面26と外側底面27は、図13のように、溝26aを13列、その直角方向の列の図示しない溝に限定されるものではなく、任意の本数とすることができ、かつ、一方のみの溝26aとすることもできる。本実施の形態の底部21に形成された潜熱蓄熱材容器50は、本実施形態では1つの容器としているが、これに限られるものでなく、2以上の容器に分割して配置することもできる。本発明を実施する場合の圧電素子61等で構成される過冷却解除手段60は、一方向に配設した複数個の電極61aを表裏の対とする構成、または一方向に長い電極65を表裏の対とする構成とし、かつ、それを複数列形成した構成とすることもできる。
【0070】
[実施例5]
本実施の形態の潜熱蓄熱材容器50の断面形状は、後述する過冷却解除手段60の形状によって左右される。図15に示す本実施例では、潜熱蓄熱材容器50の長さ方向にシャフト71を配設するものであるため、それを中心として所定の形状とするものであるが、後述する撹拌部材72(72-1、・・・、72-n)の大きさを特定するものではないので、任意の断面形状を選択可能である。
【0071】
本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、潜熱蓄熱材51として酢酸ナトリウム水和物が収容されている。また、潜熱蓄熱材51が過冷却状態にあるとき、その過冷却状態を解く過冷却解除手段60が、その中心の長手方向に複数個、または、その長手方向に沿って配設されている。具体的には、過冷却解除手段60は、シャフト71及びそれに配設した撹拌部材72並びにカプラ73、モータ74から構成されている。
【0072】
シャフト71はアルミニウムまたはステンレスからなる棒材を、曲がり難くするために、圧縮成形して、中心から略放射状に伸びる断面形状を有する構造としている。その周囲は合成樹脂で丸棒になるように形成されている。また、両方の端部71a、71bは円錐状でその先端がコーン状に略尖軸を形成している。一方の端部71aは潜熱蓄熱材容器50に設けた軸受70aに嵌合されている。他方の端部71bは潜熱蓄熱材容器50に設けた軸受70bに嵌合されている。
【0073】
シャフト71には、エネルギ発生源としての撹拌部材72(72-1、・・・、72-n)が所定の間隔で配設されている。本実施の形態の撹拌部材72の間隔は、100mm以下とするものである。即ち、発明者等の実験では、前記潜熱蓄熱材51の結晶化が物質によって若干の違いがあるものの、殆どが約6mm/s程度で結晶化が進行する事実から、長さ方向の両方向に同時に結晶化が進行するとすれば、撹拌部材72の間隔を100mm以下とすることは、両側の撹拌部材72から結晶化がスタートするので、10秒以下の8〜9秒程度で結晶化が完了することになる。しかし、作動油Oの温度上昇は、タイムラグのためにそれより遅くなるが、10秒以下で結晶化が完了することにより、応答性をよくすることができる。
【0074】
図15及び図16に示すように、シャフト71の一方の端部71b側には、円板状の永久磁石73bが配設されている。円板状の永久磁石73bは同様に円板状の永久磁石73aを対向させ、その着磁を対向させている。即ち、円板状の永久磁石73a、73bの厚み方向に着磁させてもよいし、直径方向に着磁させてもよい。何れにせよ、円板状の永久磁石73aの回転が円板状の永久磁石73bの回転となるように、磁気結合を行うカプラ73を構成するものであればよい。
円板状の永久磁石73aは、モータ74の出力軸74aに接続されている。即ち、出力軸74aはセレーション加工またはローレット加工が施され、モータ74の出力軸74aで円板状の永久磁石73aが回転するようになっている。
【0075】
円板状の永久磁石73aの回転は、カプラ73を構成する円板状の永久磁石73bの回転となり、撹拌部材72(72-1、・・・、72-n)の回転は、潜熱蓄熱材51に攪拌エネルギを与え、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をスタートするトリガとなり、潜熱蓄熱材51の結晶化をトリガする刺激を与える。結晶化が開始されると、その結晶化は、後述するように、約6mm/s程度で進行するから、回転開始から1〜2秒間のモータ74の駆動で負荷が増大する。したがって、モータ74は回転開始から3秒間経過後に停止させる。
【0076】
ここで、撹拌部材72(72-1、・・・、72-n)を円柱棒状とし、撹拌部材72の攪拌エネルギが大きくなるようにしたものであるが、更に、板状とすることもできるし、放射状に2本以上の配設とすることもできる。また、円盤状または円盤状の表面に突起を形成したものとすることもできる。勿論、モータ74の回転数によっては、撹拌部材72(72-1、・・・、72-n)を針状部材とすることもできる。そして、可撓性のものとすることができる。或いは、回転の開始時に流体抵抗により、スナップ動作を行わせるようにすることもできる。
【0077】
[実施例6]
図17において、本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、潜熱蓄熱材51が収容されている。また、潜熱蓄熱材51の過冷却状態を解く過冷却解除手段60は、その長手方向に沿って配設されている。具体的には、過冷却解除手段60は、線材81及びそれに配設した撹拌部材82(82-1、・・・、82-n)並びにスプリング83(83a,83b)、吸引部材84、電磁石85から構成されている。なお、吸引部材84及び電磁石85は、磁気的なカプラ86を構成する。
【0078】
ステンレス線または鉄線からなる線材81は、その両方の端部にスプリング83a,83bが接続され、スプリング83a,83bの他端は潜熱蓄熱材容器50に埋設されており、線材81はスプリング83a,83bによって張力が加えられた状態で配設されている。線材81には、撹拌部材82(82-1、・・・、82-n)が所定の間隔で配設されている。撹拌部材82の間隔は100mm以下としている。
【0079】
線材81の一方の端部には、円板状の軟鉄等の磁性体からなる吸引部材84が配設され、この吸引部材84の内部にスプリング83bが収容されている。円板状の吸引部材84は同様に円板状の電磁石85の着磁を対向させている。このとき、電磁石85は、円板状の永久磁石からなる吸引部材84の厚み方向に着磁させてもよいし、直径方向に着磁させてもよい。何れにせよ、円板状の電磁石85に磁界を発生させたとき、円板状の吸引部材84を吸引してスプリング83aを伸張させると共に、スプリング83bを収縮させ、磁界の発生を停止させるとスプリング83aの収縮とスプリング83bの伸張により吸引部材84が電磁石85から離間することで吸引部材84が往復動となるように、磁気結合を行うカプラ86を構成し、電磁石85のオン・オフ駆動または交流駆動するものであればよい。
【0080】
円板状の電磁石85のオン・オフは、カプラ86を構成する円板状の吸引部材84の往復動となり、撹拌部材82(82-1、・・・、82-n)の移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)を往復動させる。この移動部材82a(82a-1、・・・、72a-n)の移動は、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をスタートするトリガとなり、潜熱蓄熱材51の結晶化が開始される刺激を与える。結晶化が開始されると、その結晶化は、約6mm/s程度で進行するから、3秒経過後、電磁石85の駆動を停止させる。
【0081】
ここで、移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)を円板状とし、撹拌部材82(82-1、・・・、82-n)の攪拌エネルギが大きくなるようにしたものであるが、更に、棒状とすることもできるし、放射状に複数本の配設とすることもできる。また、円盤状または円盤状の表面に突起を形成したものとすることもできる。
特に、本実施例では、当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)を設けて、電磁石85が吸引部材84を吸引するとそれによって移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)を図17の右方向に移動させ、当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)に衝突し、移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)の移動が停止させられる。このとき、電磁石85が吸引部材84を高速で吸引するから、移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)が当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)と衝突し、大きなエネルギを潜熱蓄熱材51に付与する。電磁石85が吸引部材84の吸引を解いたときに移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)が当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)と衝突するようにしてもよい。つまり、この場合は移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)と当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)がエネルギ発生源となる。
【0082】
したがって、電磁石85が吸引部材84を吸引するとそれによって移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)を移動させる攪拌エネルギによって、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をスタートするトリガとし、潜熱蓄熱材51の結晶化を開始する刺激とすることができる。
また、移動部材82a(82a-1、・・・、82a-n)を当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)に衝突させると、衝突エネルギが付加されて、更に大きなエネルギによって、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化をスタートするトリガとし、潜熱蓄熱材51の結晶化を開始する刺激とすることができる。
【0083】
[実施例7]
図18において、本実施例の潜熱蓄熱材容器50は、潜熱蓄熱材51の過冷却状態を解く過冷却解除手段60が、その長手方向に沿って配設されている。具体的には、過冷却解除手段60は、線材91並びにそれらの両端に接続したスプリング93(93a,93b)、攪拌部材92として機能する駆動磁石92A、攪拌部材92として機能する従動部材92Bから構成されている。なお、駆動磁石92A及び電磁石95は、磁気的なカプラ96を構成する。
【0084】
ステンレス線または鉄線からなる線材91は、その両方の端部にスプリング93a,93bが接続され、スプリング93a,93bの他端は潜熱蓄熱材容器50に埋設されており、線材91はスプリング93a,93bによって張力が加えられた状態で配設されている。線材91には、撹拌部材92(92-1、・・・、92-n)、詳しくは、永久磁石で構成された撹拌部材92A(92A-1、92A-2)、強磁性体以外で構成された撹拌部材92B(92B-1、・・・、92B-n)が所定の間隔で配設されている。撹拌部材92の間隔は100mm以下とするものである。
【0085】
線材91の一方の端部には、円板状の強磁性体からなる2個の撹拌部材92A(92A-1、92A-2)が配設されている。円板状の撹拌部材92Aは潜熱蓄熱材容器50の外に配設された電磁石95を対向させている。このとき、撹拌部材92Aの着磁は、円板状の攪拌部材92Aの厚み方向に着磁させ、撹拌部材92A-1と撹拌部材92A-2の対向面を反発する磁性配置とし、電磁石95は撹拌部材92A-1と撹拌部材92A-2の間になるように円板状の撹拌部材92Aの外周面に対向している。このようにすることにより、電磁石95と撹拌部材92Aの一方とは吸引力が働き、撹拌部材92Aの他方とは反発力が働いて撹拌部材92Aが移動し、この移動に伴いスプリング93は伸張と収縮が起こる。電磁石95の磁力を停止し、または磁性を反転させると撹拌部材92Aは逆の方向に移動する。
即ち、円板状の永久磁石からなる撹拌部材92A(92A-1、92A-2)の磁界が電磁石95との相互作用による吸引・反発により往復動となるように、磁気結合を行うカプラ96を構成し、電磁石95のオン・オフ駆動または交流駆動するものであればよい。
【0086】
電磁石95のオン・オフ駆動または交流駆動は、カプラ96を構成する円板状の撹拌部材92A(92A-1、92A-2)の往復動となり、撹拌部材92A(92A-1、92A-2)及び撹拌部材92B(92B-1、・・・、92B-n)を往復動させる。この撹拌部材92A(92A-1、92A-2)及び撹拌部材92B(92B-1、・・・、92B-n)の移動は、潜熱蓄熱材51が過冷却にあるときに結晶化するトリガとなり、潜熱蓄熱材51の結晶化が開始される刺激を与える。結晶化が開始されると、その結晶化は、約6mm/s程度で進行するから、3秒経過後、電磁石95の駆動を停止させる。
【0087】
ここで、撹拌部材92A(92A-1、92A-2)及び撹拌部材92B(92B-1、・・・、92B-n)は円板状とし、撹拌部材82の攪拌エネルギが大きくなるようにしたものであるが、更に、その円板状には複数個の円形窓94を形成し、撹拌部材82の攪拌をより複雑に大きくしている。また、円板状または円板状の表面に突起を形成したものとすることもできる。勿論、本実施例においても、実施例6と同様、当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)を設けて、電磁石95が撹拌部材92A(92A-1、92A-2)を吸引・反発すると、それによって撹拌部材92が移動し、当接片82b(82b-1、・・・、82b-n)に衝突し、撹拌部材92A(92A-1、92A-2)及び撹拌部材92B(92B-1、・・・、92B-n)の移動が停止させられる。このとき、撹拌部材92A(92A-1、92A-2)及び撹拌部材92B(92B-1、・・・、92B-n)が撹拌部材92A(92A-1、92A-2)及び撹拌部材92B(92B-1、・・・、92B-n)と衝突し、大きなエネルギを潜熱蓄熱材51に付与する。
【0088】
[実施の形態のまとめ]
上記実施の形態の作動油温度制御装置は、作動油Oが循環する循環経路に配設され、作動油Oとの間の熱交換を自在とし、かつ、作動油Oとの間の熱交換によって相転移を生じる酢酸ナトリウム水和物等の潜熱蓄熱材51を収容し、その長手方向に対し直交する垂直断面を略円形または略楕円形、略半円形、略半楕円形、または略三角形以上の略多角形のうちの1つとした潜熱蓄熱材容器50と、潜熱蓄熱材容器50に配設され、潜熱蓄熱材51が過冷却状態にあるとき、その過冷却状態を解くためにその長手方向に複数個配設され、または長手方向に沿った線状の過冷却解除手段60を具備するものである。
【0089】
この作動油温度制御装置によれば、作動油Oが循環する循環経路に配設された潜熱蓄熱材容器50に収容された潜熱蓄熱材51は作動油Oとの間の熱交換を行う。そして、潜熱蓄熱材容器50の長手方向に複数個配設され、または長手方向に沿った線状の過冷却解除手段60の動作によって、過冷却状態にあった潜熱蓄熱材51の過冷却を解き、その潜熱を利用して、潜熱蓄熱材51との熱交換により急激に作動油Oの温度上昇を行う。この温度上昇は、潜熱蓄熱材容器50の長手方向に対し、過冷却解除手段60を複数個または長手方向に沿って線状の過冷却解除手段60を配設したものであるから、過冷却状態にある潜熱蓄熱材51を略同時に、その過冷却を解くことができ、効率的に作動油Oの温度上昇を行うことができる。ここで、作動油温度が潜熱蓄熱材51の相転移温度よりも高い場合には、潜熱蓄熱材51は作動油Oから相転移に伴う潜熱を吸熱することで作動油Oの温度を低下させ、作動油温度が潜熱蓄熱材51の相転移温度よりも低い場合には、吸熱した潜熱蓄熱材51からの相転移に伴う潜熱の放熱によって作動流体の温度を上昇させることができる。
よって、潜熱蓄熱材51の放熱特性をよくし、作動油Oとの間に良好な熱交換を可能とすることができる。
【0090】
上記実施の形態の作動油温度制御装置の潜熱蓄熱材51は、潜熱蓄熱材容器50に収納され、作動油Oとの間の熱交換によって相転移を生じる過冷却物質であればよい。
例えば、塩化カルシウム水和物、硫酸ナトリウム水和物、チオ硫酸ナトリウム水和物、酢酸ナトリウム混合物、塩化カルシウム六水塩水和物、炭酸ナトリウム水和物、炭酸水素カリウム水溶液、硫酸ナトリウム十水和物等の水和物、ペンタエリスリトール、マンニトール、エリスリトール、スレイトールなどの多価アルコール類、各種融点のパラフィン類の使用が可能であり、また、混合物として使用できるものもある。
【0091】
また、上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、作動油Oとの間の熱交換によって相転移を生じる潜熱蓄熱材51を収容するものであればよい。そして、上記実施の形態の過冷却解除手段60は、潜熱蓄熱材51を収容した潜熱蓄熱材容器50に収容され、その長手方向に複数個または長手方向に沿って線状に配設したものであればよい。なお、本発明における長さ方向とは、断りがない場合には、上面から見た二次元平面の一辺が他辺より長い長さを意味するものであり、断面の長さ方向とは、断面の一辺が他辺より長い長さを意味するものである。
【0092】
上記実施の形態の過冷却解除手段60は、その長手方向に複数個の圧電素子61、電磁石等を用いた機械的手段を配設した構成とすることができ、過冷却解除の進行速度に影響されることなく、過冷却解除でき、潜熱蓄熱材51の相転移に伴う潜熱の放熱によって作動油Oの温度を上昇させることができる。
ここで、過冷却解除手段60のうち機械的手段を用いたエネルギ発生源としては前述したもの以外に、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51中に配設した耐圧袋を油圧や空圧によって膨らますことで潜熱蓄熱材51に変位を与えるもの、潜熱蓄熱材容器50を袋体としてその袋体に圧力を加えて内部の潜熱蓄熱材51に変形を与えるものがある。また、振動源としては、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51中に配置した金属棒、金属板等を潜熱蓄熱材容器50の外部の電磁気学的な誘導等によって潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51に振動を加えるものがある。
【0093】
上記実施の形態の過冷却解除手段60は、その長手方向に配設した複数個の電極または長手方向に長い電極を用いた電気的手段を配設した構成とすることができ、単純な回路構成で過冷却解除でき、かつ、その面積及び長さが適宜設定できるので、設計自由度が高く、潜熱蓄熱材51の相転移に伴う潜熱の放熱によって作動油Oの温度を上昇させることができる。
過冷却解除手段60としての電極は、潜熱蓄熱材51に電気的な刺激または熱的な刺激を加えるものであり、電気的な刺激の場合、潜熱蓄熱材51が導電体(電解質)であることが望ましい。この際、直流で刺激すると電気分解を起こす可能性があるので、交流の使用が望ましい。この際の電極の大きさは、潜熱蓄熱材容器50の長さ方向に長い電極とすることができるし、潜熱蓄熱材容器50の長さ方向に複数個配設することもできる。
【0094】
上記実施の形態の過冷却解除手段60は、潜熱蓄熱材容器50の外部から潜熱蓄熱材容器50の内部の内部部材と電磁気学的に結合して、潜熱蓄熱材容器50の内部の潜熱蓄熱材51に振動、攪拌、変位、変形の何れか1以上を付与するものである。したがって、潜熱蓄熱材容器50の外部から電磁気学的に結合して潜熱蓄熱材容器50の内部の潜熱蓄熱材51に振動、移動、変位、変形の何れか1以上を付与するものであるから、潜熱蓄熱材容器50の内部の潜熱蓄熱材51に不純物が入り込む可能性をなくし、長期間安定した動作が期待できる。
【0095】
ここで、潜熱蓄熱材容器50の外部から電磁気学的に結合して潜熱蓄熱材容器50の内部の潜熱蓄熱材51に振動、移動、変位、変形の何れか1以上を付与するとは、潜熱蓄熱材容器50の外部から誘導して内部に存在する潜熱蓄熱材51に対して振動、移動、変位、変形を生じさせて、過冷却を解くものである。
【0096】
上記実施の形態の過冷却解除手段60の潜熱蓄熱材51の結晶化をトリガするエネルギ発生源は、その長手方向に100mm以下の間隔に配設したものである。特に、潜熱蓄熱材51の結晶化が発明者等の実験では、約6mm/s程度で進行することから、100mm以下の間隔とは、両側から結晶化が進むと8〜9秒で全体が結晶化されることになり、応答性をよくすることができる。しかし、その熱伝導の速度は、その容器の形態によって決定されるから、温度の応答性からも100mm以下の間隔、例えば、50mm、30mmであれば、作動油の温度上昇に対する応答性を良くすることができる。
【0097】
上記実施の形態の過冷却解除手段60の長手方向に対する直角方向は、その厚みを100mm以下としたものである。故に、厚み方向の広がりは潜熱蓄熱材51の結晶化の速度約6mm/s程度で進行するが、現実的には、トリガの面等の関係で、通常は過冷却解除手段60が中心に設定されるから、潜熱蓄熱材51が結晶化する距離は厚みの半分以下となり、上下の間隔が半分以下となり、8秒程度で厚み方向の放熱及び熱伝導が開始され、初期の段階で潜熱蓄熱材容器の外方向の伝熱経路を形成するから、作動油の温度上昇に対する応答性を良くすることができる。
【0098】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、その長手方向に1以上の略屈曲部を形成してなる実施例とすることができる。即ち、潜熱蓄熱材容器50は、その長手方向に略屈曲部を形成することになるから、その表面積を大きくし、作動油Oに対する伝熱量を増大することができる。また、潜熱蓄熱材51の膨張収縮による潜熱蓄熱材容器50へのダメージを抑制する効果が期待できる。
このように、潜熱蓄熱材容器50に1以上の略屈曲部を形成したものでは、全体が湾曲等の正確な屈曲でなくても、また、複数の屈曲箇所が存在してもよいものである。
【0099】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、略螺旋形状に形成した実施例とすることができる。特に、表面積を大きくし、作動油Oに対する伝熱速度を速くすることができる。
このように、略螺旋形状の潜熱蓄熱材容器50とは、直線方向に中心軸を有するものでだけではなく、中心軸が所定の角度で互いに交わらない傾斜した螺旋も含むものである。即ち、この略螺旋とはその長手方向の距離を長くしたものであればよい。
【0100】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、可撓性のある合成樹脂の密閉容器とすることができる。即ち、可撓性のある合成樹脂の密閉容器とした潜熱蓄熱材容器50は、潜熱蓄熱材容器50の外部から機械的な外力を加え、かつ、その長さ方向の過冷却状態の解除を行うことができ、過冷却状態の解除の進行速度を速くすることができる。
ここで、可撓性のある合成樹脂の密閉容器とは、外的振動、圧力によって潜熱蓄熱材容器50内の潜熱蓄熱材51に対して振動、移動、変位、変形を生じさせて、過冷却を解くことができる。また、潜熱蓄熱材容器50内に不純物が入らないので長寿命とすることができる。
【0101】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、少なくとも内面を平滑面とし、かつ、合成樹脂の密閉容器とすることができる。即ち、潜熱蓄熱材容器50の内面が平滑面であると、潜熱蓄熱材51が刺激を受け難くなり、過冷却状態を維持しやすくなる。
ここで、潜熱蓄熱材容器50は、その内面が平滑面であるから、潜熱蓄熱材51が刺激を受け難いので、過冷却状態になりやすい。即ち、潜熱蓄熱材容器50の形態は、過冷却状態になりやすい形状を維持するものであればよい。
【0102】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、表面積を広く形成し、かつ、熱伝導の良好な金属材料をインサート成形した実施例とすることができる。即ち、潜熱蓄熱材51と作動油Oとの熱交換効率を上げることができる。
特に、潜熱蓄熱材容器50としては、熱交換効率から云えば、表面積を広く形成し、かつ、熱伝導の良好な金属材料をインサート成形し、潜熱蓄熱材51から熱エネルギを引き出すことのできる構成が望ましい。
【0103】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、その内部に気体が存在しない状態に潜熱蓄熱材51を充填したものであるから、潜熱蓄熱材容器50の内部の気体が移動することにより、潜熱蓄熱材51がその刺激を受け、過冷却状態を解除するという、意図しない過冷却状態の解除が発生し難い。即ち、上記潜熱蓄熱材容器50の内部に気体が存在しない状態に潜熱蓄熱材51を充填するのは、気体の移動によって過冷却状態を解除しないようにするものであるから、過冷却状態を維持できるものであればよい。
【0104】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50は、作動油Oを供給する供給口側に配設したものである。このように潜熱蓄熱材容器50を、作動油Oを供給する供給口に配設したものでは、特定の機構で使用する作動油Oの温度を初期状態から適温に近づけるように早急に上昇させることができ、潜熱蓄熱材容器50に収納された潜熱蓄熱材51の潜熱を高効率で利用することができる。
特に、作動油Oを供給する供給口に配設した潜熱蓄熱材容器50は、特定の機構に作動油を供給する供給口側に潜熱蓄熱材容器50を配設し、そこで、潜熱蓄熱材51が潜熱蓄熱材容器50に収納され、作動油Oと相転移を生じる過冷却物質との間の熱交換によって特定の機構で使用する作動油の温度を適温まで早急に上昇させるものである。
【0105】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51の容積は、特定機能の作動油Oの全体容積に対して1対9乃至1対1の比率で潜熱蓄熱材51の容積を小さくした実施例とすることができる。
したがって、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51の容積が、特定機能の作動油O全体に対して1対9乃至1対1の比率の容積では、特定の機構で使用する作動油Oの温度を潜熱蓄熱材51によって希望する温度まで上昇させることができ、更に、特定機能の作動油Oの動作中の温度を所望の温度の範囲に導くことができる。
即ち、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51の容積が、特定機能の作動油O全体に対して1対9乃至1対1の比率で潜熱蓄熱材51の容積を小さくしたものとは、特定の機構で使用する作動油Oの温度を適温まで早急に上昇させることができ、特定機能の作動油の温度を所望の温度に近似させることができる。
【0106】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51の容積は、特定機能の作動油Oの全体容積に対して1対9乃至1対1の比率内で、潜熱蓄熱材容器50を独立して制御自在な複数個とした実施例とすることができる。即ち、特定機能の作動油O全体容積に対して1対9乃至1対1の比率内で、潜熱蓄熱材51の容積を小さくし、潜熱蓄熱材容器50を独立して制御自在な複数個としたものであるから、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51の全容積が、特定機能の作動油O全体に対して1対9乃至1対1の比率の容積を占め、特定の機構で使用する作動油Oの初期温度を潜熱蓄熱材51によって希望する温度まで上昇させることができ、特定機能の作動油Oの動作温度を所望の温度の範囲に導くことができる。また、複数分割させた潜熱蓄熱材容器50を有するから、目的に応じて潜熱蓄熱材容器50のトリガを制御することにより、所望の制御が可能になる。特に、目的の温度上昇、予備、主制御及び副次的制御に使用することができる。
【0107】
即ち、潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51の容積を、特定機能の作動油O全体に対して1対9乃至1対1の比率に設定することで、特定の機構で使用する作動油Oの温度を適温まで上昇させることができ、特定機能の作動油Oの温度を所望の温度に近似させることができる。また、複数分割させた潜熱蓄熱材容器50を有するから、目的に応じて潜熱蓄熱材容器50のトリガを制御することにより、所望の制御が可能になる。
【0108】
上記実施の形態の潜熱蓄熱材容器50の潜熱蓄熱材51を貯留する貯留空間内に、気体を内部に気密収容した緩衝材を収容し、潜熱蓄熱材51の結晶化する場合の体積変化をその緩衝材で吸収するように構成すると、潜熱蓄熱材容器50を膨張率の小さい材料で形成できる。特に、潜熱蓄熱材容器50を機械的強度が小さく、割れやすい材料や剛性が小さく変形しやすい材料で形成したときに効果的になる。
また、潜熱蓄熱材容器50は、潜熱蓄熱材容器50を形成する材料として内部に気密収容させて形成することもできる。潜熱蓄熱材51の結晶化する場合の体積変化を潜熱蓄熱材容器50で吸収し、潜熱蓄熱材容器50を膨張率の小さい材料で形成できる。特に、潜熱蓄熱材容器50の機械的強度の選択自由度の高いときに効果的になる。
この場合、内部に気密収容させた部分は、熱伝導が悪くなり、断熱性が上がるため、作動油Oとの熱交換に影響が出ない部分、例えば、作動油Oが接しない部分に限定することで熱交換の効率を落とすことなく体積変化を吸収することができる。
【符号の説明】
【0109】
O 作動油
2 オイルパン
3 バルブボディ
4 オイルストレーナ
21 底部
22 壁部
41 オイル吸ロ
42 フィルタ
50 潜熱蓄熱材容器
51 潜熱蓄熱材
60 過冷却解除手段
61 圧電素子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動油が循環する循環経路に配設され、前記作動油との間の熱交換を自在とし、かつ、前記作動油との間の熱交換によって相転移を生じる潜熱蓄熱材を収容し、その一方向に対する垂直断面を略円形または略楕円形、略半円形、略半楕円形、または略三角形以上の略多角形のうちの1つとした潜熱蓄熱材容器と、
前記潜熱蓄熱材容器に配設され、前記潜熱蓄熱材が過冷却状態にあるとき、その過冷却状態を解くことが自在な、前記一方向に複数個または前記一方向に沿って線状に配設した過冷却解除手段と
を具備することを特徴とする作動油温度制御装置。
【請求項2】
前記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材にエネルギを与えるエネルギ発生源を備え、前記エネルギ発生源は前記一方向に複数個配設され、または前記一方向に沿った線状として配設されていることを特徴とする請求項1に記載の作動油温度制御装置。
【請求項3】
前記エネルギ発生源は、振動、攪拌、変位、変形、熱、電気の何れか1以上を前記潜熱蓄熱材に与えることを特徴とする請求項2に記載の作動油温度制御装置。
【請求項4】
前記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材容器の外部から前記潜熱蓄熱材容器の内部の内部部材と電磁気学的に結合して、前記潜熱蓄熱材容器の内部の前記潜熱蓄熱材に振動、撹拌、変位、変形の何れか1以上を付与することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の作動油温度制御装置。
【請求項5】
前記過冷却解除手段は、前記一方向に配設した複数個の電極または前記一方向に長い電極としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の作動油温度制御装置。
【請求項6】
前記潜熱蓄熱材容器は、前記一方向に1以上の略屈曲部を形成してなることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1つに記載の作動油温度制御装置。
【請求項7】
前記潜熱蓄熱材容器は、略螺旋形状に形成してなることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1つに記載の作動油温度制御装置。
【請求項8】
前記潜熱蓄熱材容器は、前記作動油に伝える熱伝導の良好な金属材料をインサート成形してなることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1つに記載の作動油温度制御装置。
【請求項1】
作動油が循環する循環経路に配設され、前記作動油との間の熱交換を自在とし、かつ、前記作動油との間の熱交換によって相転移を生じる潜熱蓄熱材を収容し、その一方向に対する垂直断面を略円形または略楕円形、略半円形、略半楕円形、または略三角形以上の略多角形のうちの1つとした潜熱蓄熱材容器と、
前記潜熱蓄熱材容器に配設され、前記潜熱蓄熱材が過冷却状態にあるとき、その過冷却状態を解くことが自在な、前記一方向に複数個または前記一方向に沿って線状に配設した過冷却解除手段と
を具備することを特徴とする作動油温度制御装置。
【請求項2】
前記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材にエネルギを与えるエネルギ発生源を備え、前記エネルギ発生源は前記一方向に複数個配設され、または前記一方向に沿った線状として配設されていることを特徴とする請求項1に記載の作動油温度制御装置。
【請求項3】
前記エネルギ発生源は、振動、攪拌、変位、変形、熱、電気の何れか1以上を前記潜熱蓄熱材に与えることを特徴とする請求項2に記載の作動油温度制御装置。
【請求項4】
前記過冷却解除手段は、前記潜熱蓄熱材容器の外部から前記潜熱蓄熱材容器の内部の内部部材と電磁気学的に結合して、前記潜熱蓄熱材容器の内部の前記潜熱蓄熱材に振動、撹拌、変位、変形の何れか1以上を付与することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の作動油温度制御装置。
【請求項5】
前記過冷却解除手段は、前記一方向に配設した複数個の電極または前記一方向に長い電極としたことを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1つに記載の作動油温度制御装置。
【請求項6】
前記潜熱蓄熱材容器は、前記一方向に1以上の略屈曲部を形成してなることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1つに記載の作動油温度制御装置。
【請求項7】
前記潜熱蓄熱材容器は、略螺旋形状に形成してなることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れか1つに記載の作動油温度制御装置。
【請求項8】
前記潜熱蓄熱材容器は、前記作動油に伝える熱伝導の良好な金属材料をインサート成形してなることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れか1つに記載の作動油温度制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2011−75050(P2011−75050A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228361(P2009−228361)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000100780)アイシン化工株式会社 (171)
【Fターム(参考)】
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