作業機械のびびり抑制方法及び装置
【課題】簡単な工程及び構成で、びびりの発生を可及的に阻止することができ、高精度な加工作業を効率的に遂行可能にする。
【解決手段】作業機械のびびり抑制方法は、バイト22又はワークWの回転が開始される際に発生する振動を検出する工程と、前記回転開始時から検出される前記振動が閾値を超えたか否かを判断する工程と、前記振動が前記閾値を越えたと判断された際、前記振動をフーリエ級数展開により解析し、主軸18の回転数を調整する工程とを有している。
【解決手段】作業機械のびびり抑制方法は、バイト22又はワークWの回転が開始される際に発生する振動を検出する工程と、前記回転開始時から検出される前記振動が閾値を超えたか否かを判断する工程と、前記振動が前記閾値を越えたと判断された際、前記振動をフーリエ級数展開により解析し、主軸18の回転数を調整する工程とを有している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、加工工具を介してワークに加工処理を施す際に、びびりが発生することを抑制するための作業機械のびびり抑制方法及び装置に関する。
【背景技術】
一般的に、加工工具を介してワークに加工処理を施すために、各種の工作機械が使用されている。例えば、ボーリング加工は、中ぐり用バイト(刃先)が設けられたボーリングツールを工作機械の回転主軸(スピンドル)に取り付け、前記ボーリングツールを高速で回転させながら下穴に沿って順次繰り出すことにより、その刃先加工径で所定の位置に高精度な孔部を加工するものである。
この種の作業機械では、主軸や加工工具やワークに、切削抵抗による撓みが発生し易い。そして、この撓みに起因して加工工具やワークに振動が惹起され、この振動がびびり(所謂、再生びびりを含む)となって加工に表れる場合がある。
上記のびびりを抑えるために、従来から種々の方法が採用されている。例えば、特許文献1に開示されているように、切削工具、被削部材または機械加工装置のびびり振動の周波数を検出するびびり振動検出手段と、検出されたびびり振動の周波数に基づき、びびり振動を低減するための前記切削工具または被削部材の回転数を演算する演算手段とを備えている。
さらに、びびり振動のタイプを特定するびびり振動特定手段と、前記切削工具または被削部材の回転数を変更する回転数変更手段とを備え、前記びびり振動特定手段は、前記回転数変更手段により前記回転手段の回転数が変更させられたときのびびり振動の周波数の変化に基づき、びびり振動の特定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】 特開2007−44852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の特許文献1では、実際にびびりが発生した後、びびり振動を低減するための切削工具または被削部材の回転数を演算している。従って、被削部材には、びびりの影響が発生し易く、高精度な加工処理が遂行されないおそれがある。
さらに、再生びびりか摩擦びびりかを判別する際には、びびり振動周波数が、主軸の回転数を変化させたことによって変化したか否かにより行われている。このため、実際に主軸の回転数を変化させる作業が必要であり、工程が煩雑化するとともに、時間がかかるという問題がある。
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単な工程及び構成で、びびりの発生を可及的に阻止することができ、高精度な加工作業が効率的に遂行可能な作業機械のびびり抑制方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明は、加工工具を介してワークに加工処理を施す際に、びびりが発生することを抑制するための作業機械のびびり抑制方法に関するものである。
このびびり抑制方法は、加工工具又はワークの回転が開始される際に発生する振動を検出する工程と、前記回転開始時から検出される前記振動が閾値を超えたか否かを判断する工程と、前記振動が前記閾値を越えたと判断された際、前記振動をフーリエ級数展開により解析し、周波数×60÷刃数(又はその逓倍)の演算式から、機械主軸の回転数を調整する工程とを有している。
また、このびびり抑制方法は、閾値が機械主軸の空転時の振動であることが好ましい。
さらに、このびびり抑制方法は、フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、ピーク周波数を算出することが好ましい。
さらにまた、このびびり抑制方法は、フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、第1の周波数毎にピーク周波数を算出する工程と、算出された前記ピーク周波数の前後を、前記第1の周波数を細分化した第2の周波数毎にピーク周波数を算出する工程とを有することが好ましい。
また、このびびり抑制方法は、フーリエ級数展開により算出される周波数成分から高調波成分を削除した状態で、算出された前記周波数成分と閾値とを比較することが好ましい。
さらに、このびびり抑制方法は、フーリエ級数展開により算出される周波数成分が、再生びびりによる振動であるか否かを判断する工程を有することが好ましい。
さらにまた、本発明は、加工工具を介してワークに加工処理を施す際に、びびりが発生することを抑制するための作業機械のびびり抑制装置に関するものである。
このびびり抑制装置は、加工工具又はワークの回転が開始される際に発生する振動を検出する振動検出機構と、回転開始時から検出される前記振動が閾値を超えたか否かを判断する判断機構と、前記振動が前記閾値を越えたと判断された際、前記回転開始時から検出される前記振動をフーリエ級数展開により解析し、周波数×60÷刃数(又はその逓倍)の演算式から、機械主軸の回転数を調整する演算機構とを備えている。
また、このびびり抑制装置は、閾値が機械主軸の空転時の振動であることが好ましい。
さらに、このびびり抑制装置は、演算機構が、フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、ピーク周波数を算出することが好ましい。
さらにまた、このびびり抑制装置は、演算機構が、フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、第1の周波数毎にピーク周波数を算出した後、算出された前記ピーク周波数の前後を、前記第1の周波数を細分化した第2の周波数毎にピーク周波数を算出することが好ましい。
また、このびびり抑制装置は、演算機構が、フーリエ級数展開により算出される周波数成分から高調波成分を削除した状態で、算出された前記周波数成分と閾値とを比較することが好ましい。
さらに、このびびり抑制装置は、演算機構が、フーリエ級数展開により算出される周波数成分が、再生びびりによる振動であるか否かを判断することが好ましい。
【発明の効果】
本発明に係る作業機械のびびり抑制方法及び装置では、回転開始時から振動を検出し、前記振動をフーリエ級数展開により解析している。フーリエ級数展開は、演算がシンプルであり、迅速な処理が可能なため、即時性が良好に向上し、実際にびびりが成長する前に、びびり振動を予兆することができる。
従って、回転開始と共に振動がゼロから成長する再生びびりを可及的早期に予兆の段階で認識することが可能になる。これにより、実際にびびりによる影響が生じる前に、機械主軸の回転数を調整することができ、再生びびりの発生を確実に抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施形態に係る作業機械のびびり抑制装置の概略説明図である。
【図2】 前記びびり抑制装置を構成するびびり抑制コントローラの説明図である。
【図3】 前記びびり抑制装置によるびびり制御方法を説明するフローチャートの前段である。
【図4】 前記フローチャートの後段である。
【図5】 空転時の振動と切削時の振動との説明図である。
【図6】 閾値設定のフローチャートである。
【図7】 主軸回転数が安定領域にある際の説明図である。
【図8】 安定加工時の説明図である。
【図9】 安定加工時の高調波が除去された状態の説明図である。
【図10】 主軸回転数が安定境界にある際の説明図である。
【図11】 びびり予兆時のピーク説明図である。
【図12】 本発明の第2の実施形態に係る作業機械のびびり抑制装置の概略説明図である。
【図13】 本発明の第3の実施形態に係る作業機械のびびり抑制装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る作業機械のびびり抑制装置10は、工作機械12に適用される。
この工作機械12は、ハウジング14内にベアリング16を介して回転可能に設けられるスピンドル(主軸)18と、前記スピンドル18に着脱自在なボーリングバー(加工工具)20とを備え、前記ボーリングバー20の先端に中ぐり用バイト22が装着されている。作業テーブル24上には、ワークWが載置されている。
びびり抑制装置10は、ボーリングバー20の回転が開始される際に発生する振動を検出するためにハウジング14の側部に装着される加速度センサ(振動検出機構)26と、前記ボーリングバー20の回転開始時から検出される前記振動をフーリエ級数展開により解析し、主軸18の回転数を調整して機械制御装置28に更新値を出力するびびり抑制コントローラ30とを備える。機械制御装置28は、工作機械12を制御するものであり、制御操作盤32に接続される。
振動検出機構は、加速度センサ26の他に、音波により振動音を取得するマイクロフォン34が使用される。なお、加速度センサ26は、ハウジング14に代えて、ワークW側、例えば、作業テーブル24に取り付けてもよい。
図2に示すように、びびり抑制コントローラ30は、加速度センサ26等により検出された機械的振動(加工振動)をアンプ及びフィルタ回路36により増幅して取り込むびびり抑制演算ユニット(演算機構)38を備える。
びびり抑制演算ユニット38には、振動の監視状態から演算処理を開始するための閾値(後述する)を指示するための指示ユニット40、主軸18の回転数やバイト22の刃数等の加工条件を入力するための加工条件入力ユニット42、加工状態等を外部に表示するための表示ユニット44及び後述する演算処理により調整される主軸回転数を出力するための更新値出力ユニット46とが接続される。更新値出力ユニット46は、工作機械12の工作機械制御装置28に更新された主軸回転数を自動的に出力する。
このように構成されるびびり抑制装置10によるびびり抑制方法について、図3以降に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。
図1に示すように、工作機械12では、ボーリングバー20を取り付けたスピンドル18が回転駆動されるとともに、ワークWの下穴Waに沿って繰り出される。そして、ボーリングバー20がワークWの下穴Wa側に相対的に移動する。このため、ボーリングバー20が回転し、このボーリングバー20に装着されたバイト22を介して下穴Waを構成する内壁面にボーリング加工が施される。
びびり抑制装置10は、スピンドル18が回転駆動を開始すると同時に(ステップS1)、加速度センサ26(及び/又はマイクロフォン34)による加工振動の監視が開始される(ステップS2)。びびり抑制演算ユニット38では、アンプ及びフイルタ回路36を介して取り込まれる加工振動が、予め自動設定された閾値、例えば、主軸18の空転時の振動を超えたか否かが判断される(ステップS3)。
ここで、機械加工を開始する前に主軸18の空転時の振動と、切削時の振動とは、実際上、図5に示すように、変化する。そして、主軸18の空転時の振動を許容値として振動解析の閾値を演算しておく。具体的には、図6に示すように、スピンドル18の空転が開始されると(ステップS31)、この空転時の振動が読み込まれる(ステップS32)。加工条件入力ユニット42では、閾値(振動振幅)の設定演算が行われ、空転許容値の閾値が設定される(ステップS33)。
次いで、加工振動が閾値を超えたと判断されると(ステップS3中、YES)、ステップS4に進んで、前記加工振動のフーリエ変換(フーリエ級数展開)による演算解析が行われる。具体的には、時間振動f(t)は、
f(t)=Σ(ajcos2πJt+bjsin2πJt)で表される。なお、ajは、周波数Jの余弦調和成分フーリエ係数であり、bjは、周波数Jの正弦調和成分フーリエ係数である。
そして、周波数Jに対するフーリエ係数は、aj=1/2T∫f(t)cos(2πJt)dt、及びbj=1/2T∫f(t)sin(2πJt)dtに基づいて、フーリエ級数展開を行う。なお、積分区間は、0〜Tであり、この積分区間Tは、周期1/Jの整数倍とする。
ここで、フーリエ級数展開によるリアルタイム性(即時性)の向上を図るため、実際にびびりの生じる振動数、例えば、20Hz〜4000Hzに限定し、解析のためのデータ数を最小限にする。
さらに、ステップS5に進んで、得られたフーリエ係数に基づいて、パワースペクトルP(J)(最大振動振幅)が、P(J)=aj2+bj2から算出される。
次いで、ステップS6に進んで、周波数ピークの粗検索が行われる。粗検索とは、フーリエ級数展開処理された振動信号のパワースペクトルのピークを大まかに走査し、その中のピーク値を検索することをいう。具体的には、20Hz〜4000Hz間の周波数域を10Hz(第1の周波数)毎に走査する。
ピーク値がない場合には(ステップS7中、NO)、ステップS2に戻って、振動監視処理が行われる。一方、ピーク値があると判断されると(ステップS7中、YES)、ステップS8に進んで、粗検索されたピーク値の精検索が行われる。精検索とは、粗検索されたピーク値の前後数+Hzを、1Hz(第2の周波数)毎に走査する。
そして、ステップS9に進み、ピーク値がない場合には(ステップS9中、NO)、ステップS2に戻って、振動監視処理が行われる。一方、ピーク値があると判断されると(ステップS9中、YES)、ステップS10に進んで、パワー最大の周波数ピーク(基本波)が検索される。
ここで、機械振動をフーリエ級数展開すると、基本周波数成分とその高調波成分(2次高調波、3次高調波等)とが算出される。高調波成分は、基本周波数の整数倍の周波数であり、本来の基本周波数がもっている振動の物理的な原因と結びついていない不要な信号である。このため、ステップS11で、高調波成分が存在していると判断された際には(ステップS11中、YES)、ステップS12に進んで、この高調波を削除する。これにより、振動原因と結びつく基本波のみが得られる。
通常、工作機械12により安定加工が行われていると、図7及び図8に示すように、主軸18の回転数は、安定領域にある。なお、図7は、主軸18の回転数に対してびびりが発生する限界切り込みの変化を示しており、安定限界が部分的に高くなる、所謂、安定ポケットが存在している。すなわち、主軸18の回転数を、びびりの振動数×60÷刃数又はその整数分の一に一致させれば、びびり振動が抑制される。
一方、図8に示すように、算出される周波数成分は、例えば、基本周波数成分(スピンドル18の空転時の回転数)A、びびりの成長する前の振動成分B、2次高調波成分C及び3次高調波成分Dを含んでいる。なお、基本周波数成分Aは、加工条件入力ユニット42に予め入力された数値であり、その数値を変更指示しない。
そこで、高調波の削除処理は、先ず取り込んだ振動周波数をフーリエ級数展開した後、パワースペクトルに変換し、そのデータの中からパワーピークの一番高い周波数を選び出す。次に、これを基本波として、その整数倍の周波数を高調波とするとともに、この高調波を算出したパワースペクトルのピーク値と比較をする。
比較は、周波数ピークの低い方から順番に行い、一致するものがあれば、それを削除していく処理とする。その結果、高調波(2次高調波成分C及び3次高調波成分D)が削除された基本周波数成分のみが残ることとなり、これは取りも直さず振動の物理的な原因と結びついた振動周波数のみが検出されたことになる(図9参照)。
この高調波成分の除去の処理により、びびりでない場合の所謂、偽信号等を取り去る事ができるので、信号解析の信頼性を高めることができる。これは、検出の安全処置の役割もはたすもので、特に振動をマイクロフォン34により検出する場合に有効である。
同様にして、パワー最大の次なる周波数ピーク(基本波)が検索され(ステップS13)、次なるピークがないと判断されると(ステップS14中、YES)、ステップS15に進み、びびり振動か否かの判定を行う。
第1の実施形態では、実用的な振動範囲内(例えば、20Hz〜4000Hz)で行うため、その振動数は、主軸18の回転数の振動数(高調波を含む)、それに使うバイト22の刃数を乗じた振動数(高調波を含む)及び加工に伴うびびり振動数が含まれる。
そこで、予め主軸18の回転数とバイト22の刃数等が、びびり抑制演算ユニット38に入力されている。従って、主軸18の回転数の振動数及びバイト22の刃数を乗じた振動数に該当しない振動は、びびり振動数あるいはその予兆となる。このため、これらの一連の処理を、機械加工開始時点から常時行なえば、機械振動の中からびびり振動の予兆を自動的に算出することとなる。
具体的には、高調波成分を削除した演算周波数のピーク値が、事前に加工条件として入力した主軸18の回転数の振動数(回転数÷60)、又はバイト22刃数の振動数(回転数×刃数÷60)と一致するかどうかの比較を行う(ステップS16及びステップS17)。
ここで、演算周波数のピーク値が、これらの事前入力情報値と一致すると(ステップS16及び17中、YES)、それは主軸18が回転加工をするのに伴い発生する加工力の変動、又はバイト22の切れ刃が断続的に切削を繰り返すことによる強制振動と判断して(ステップS18)、振動監視に戻る(ステップS19)。
一方、この条件に合致しない演算周波数ピークが検出されたら(ステップS16及び17中、NO)、それを再生びびりの振動数と判断し(ステップS20)、主軸18の回転数を調整するための機械回転数変更の指示へと進む(ステップS21)。
例えば、ワークWの切削性が低い場合や、前記ワークWの肉厚が薄く、加工が進むのに伴って加工状態が変わり易い場合、加工の進行に伴ってびびりが発生し易い。
このようなびびり振動の予兆の段階が、図10及び図11に示されている。すなわち、経時変化による安定境界のシフトにより、主軸18の回転数は、安定ポケット法の境界上に移動する。この状態になると、加工中の主軸18の回転は安定していても、特定の周波数の振動振幅が大きくなってくる。これが、びびりの予兆の振動が現れた状態である。さらにそのまま加工を続けると、びびりの振動は増大を続け、予兆が有害な振動に成長してしまう。
ここで、第1の実施形態では、びびり振動を抑制するために、加工状態をリアルタイムに監視し、びびりの予兆振動が発生した場合に、その振動数をもって安定ポケット法に基づく、周波数×60÷刃数(又はその逓倍)の演算を行う。これにより、主軸18の更新回転数が算出され、それは自動的に安定ポケット法の中心回転数を現すことになる。
次いで、びびり抑制演算ユニット38は、算出された主軸18の更新回転数を表示ユニット44に表示するとともに、機械の回転数変更信号(例えば、主軸18の回転数の外部からのオーバーライド指示)として、更新値出力ユニット46から工作機械制御装置28へ自動フィードバック出力する。このため、工作機械12は、指示された主軸18の回転数に直ちに変更され、有害なびびりが出ない切削加工が可能となる。
このように、主軸18の回転開始時から、すなわち、びびりのない状態での加工開始の時点(=監視開始指示時点)より、リアルタイムで加工の振動を監視している。そして、びびりの予兆振動に基づいて、直ちに安定ポケット法によるびびりが発生しない最適な加工回転数へと、主軸18の回転数が変更され、びびりは予兆の間に抑制されることになる。
これにより、この方式を採用することにより、安定ポケット法の安定領域の主軸18の回転数で加工が開始された時も、また加工の経時変化(例えば、加工箇所の変化、ワークWの肉厚変化等)によって安定領域がシフトし、主軸18の回転数が安定ポケット法の安定境界領域に移動したとしても、さらにまた主軸18の回転数が安定ポケット法の不安定領域に移動したとしても、それらの振動から直ちに演算を開始して、主軸18の回転数を安定ポケット法の安定領域の中心回転数へ移動されることができる。すなわち、この指示に基づいて、工作機械12の主軸18の回転数を直ちに変更すれば、それは自動的にびびりが発生しない安定領域の中心回転数に変更された状態となる。
この場合、第1の実施形態では、回転開始時から振動を検出し、前記振動をフーリエ級数展開により解析している。フーリエ級数展開は、演算がシンプルであり、迅速な処理が可能なため、即時性が良好に向上し、実際にびびりが成長する前に、びびり振動を予兆の段階で認識することができる。
従って、回転開始と共に振動がゼロから成長する再生びびりを可及的早期に予兆することが可能になる。これにより、実際にびびりによる影響が生じる前に、主軸18の回転数を調整することができ、再生びびりの発生を確実に抑制することが可能になるという効果が得られる。
しかも、主軸18の空転時の振動を許容値として、閾値が演算されている。このため、実際の加工時に加工振動を監視し、空転許容値の閾値以上の振動が検出された際には、びびり振動の予兆としてより迅速に検知することが可能になる。
図12は、本発明の第2の実施形態に係る作業機械のびびり抑制装置50の概略説明図である。
なお、第1の実施形態に係るびびり抑制装置10と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第3の実施形態においても同様に、その詳細な説明は省略する。
第1の実施形態に係るびびり抑制装置10では、びびり抑制演算ユニット38が、主軸18の回転数の変更指示を表示ユニット44に表示するとともに、更新値出力ユニット46が、工作機械12の工作機械制御装置28に更新された主軸回転数を自動的に出力している。
これに対して、びびり抑制装置50では、主軸18の回転数の変更指示を表示ユニット44に表示する一方、工作機械12の主軸18の回転数の変更(例えば、主軸回転数変更のオーバーライド値の変更)は、オペレータが制御操作盤32をマニュアル操作することにより行われる。このため、自動更新の際に用いられている指示信号を受けてそれを主軸18の回転数変更へフィードバックできるシステムが不要になる。
図13は、本発明の第3の実施形態に係る作業機械のびびり抑制装置60の概略説明図である。
びびり抑制装置60は、ボーリングバー20の回転が開始される際に発生する振動を検出するために、ハウジング14にX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の3方向の振動をそれぞれ検出する加速度センサ(振動検出機構)62、64及び66を備える。
機械振動は、方向性を有しており、例えば、X軸方向の振動が発生し易い一方、Z軸方向には発生し難い等、固有の特性を持っている。機械振動をびびりの予兆のようにごく小さい内に検出する場合は、いずれの方向の振動でも、それを感度よく検出する必要がある。
そこで、第3の実施形態では、直交するX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の3方向に加速度センサ62、64及び66を取り付けている。このため、振動取得の精度を有効に向上させることができ、びびり振動の予兆を一層確実且つ迅速に検出することが可能になる。
なお、加速度センサ62、64及び66をワークW側に取り付ける場合も同様である。また、加速度センサ62、64及び66を直接ハウジング14に取り付けずに、機械振動を音波の伝達として拾うマイクロフォンを使っても同様の効果が達成できる。その際、加速度センサ62、64及び66と同様に、マイクロフォンを複数設置することにより、振動の取得の精度を上げることも可能である。
【符号の説明】
10、50、60…びびり抑制装置 12…工作機械
14…ハウジング 18…スピンドル
20…ボーリングバー 22…バイト
26、62、64、66…加速度センサ
28…機械制御装置 30…びびり抑制コントローラ
32…制御操作盤 34…マイクロフォン
38…びびり抑制演算ユニット 40…指示ユニット
42…加工条件入力ユニット 44…表示ユニット
46…更新値出力ユニット
【技術分野】
本発明は、加工工具を介してワークに加工処理を施す際に、びびりが発生することを抑制するための作業機械のびびり抑制方法及び装置に関する。
【背景技術】
一般的に、加工工具を介してワークに加工処理を施すために、各種の工作機械が使用されている。例えば、ボーリング加工は、中ぐり用バイト(刃先)が設けられたボーリングツールを工作機械の回転主軸(スピンドル)に取り付け、前記ボーリングツールを高速で回転させながら下穴に沿って順次繰り出すことにより、その刃先加工径で所定の位置に高精度な孔部を加工するものである。
この種の作業機械では、主軸や加工工具やワークに、切削抵抗による撓みが発生し易い。そして、この撓みに起因して加工工具やワークに振動が惹起され、この振動がびびり(所謂、再生びびりを含む)となって加工に表れる場合がある。
上記のびびりを抑えるために、従来から種々の方法が採用されている。例えば、特許文献1に開示されているように、切削工具、被削部材または機械加工装置のびびり振動の周波数を検出するびびり振動検出手段と、検出されたびびり振動の周波数に基づき、びびり振動を低減するための前記切削工具または被削部材の回転数を演算する演算手段とを備えている。
さらに、びびり振動のタイプを特定するびびり振動特定手段と、前記切削工具または被削部材の回転数を変更する回転数変更手段とを備え、前記びびり振動特定手段は、前記回転数変更手段により前記回転手段の回転数が変更させられたときのびびり振動の周波数の変化に基づき、びびり振動の特定を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【特許文献1】 特開2007−44852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の特許文献1では、実際にびびりが発生した後、びびり振動を低減するための切削工具または被削部材の回転数を演算している。従って、被削部材には、びびりの影響が発生し易く、高精度な加工処理が遂行されないおそれがある。
さらに、再生びびりか摩擦びびりかを判別する際には、びびり振動周波数が、主軸の回転数を変化させたことによって変化したか否かにより行われている。このため、実際に主軸の回転数を変化させる作業が必要であり、工程が煩雑化するとともに、時間がかかるという問題がある。
本発明はこの種の問題を解決するものであり、簡単な工程及び構成で、びびりの発生を可及的に阻止することができ、高精度な加工作業が効率的に遂行可能な作業機械のびびり抑制方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
本発明は、加工工具を介してワークに加工処理を施す際に、びびりが発生することを抑制するための作業機械のびびり抑制方法に関するものである。
このびびり抑制方法は、加工工具又はワークの回転が開始される際に発生する振動を検出する工程と、前記回転開始時から検出される前記振動が閾値を超えたか否かを判断する工程と、前記振動が前記閾値を越えたと判断された際、前記振動をフーリエ級数展開により解析し、周波数×60÷刃数(又はその逓倍)の演算式から、機械主軸の回転数を調整する工程とを有している。
また、このびびり抑制方法は、閾値が機械主軸の空転時の振動であることが好ましい。
さらに、このびびり抑制方法は、フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、ピーク周波数を算出することが好ましい。
さらにまた、このびびり抑制方法は、フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、第1の周波数毎にピーク周波数を算出する工程と、算出された前記ピーク周波数の前後を、前記第1の周波数を細分化した第2の周波数毎にピーク周波数を算出する工程とを有することが好ましい。
また、このびびり抑制方法は、フーリエ級数展開により算出される周波数成分から高調波成分を削除した状態で、算出された前記周波数成分と閾値とを比較することが好ましい。
さらに、このびびり抑制方法は、フーリエ級数展開により算出される周波数成分が、再生びびりによる振動であるか否かを判断する工程を有することが好ましい。
さらにまた、本発明は、加工工具を介してワークに加工処理を施す際に、びびりが発生することを抑制するための作業機械のびびり抑制装置に関するものである。
このびびり抑制装置は、加工工具又はワークの回転が開始される際に発生する振動を検出する振動検出機構と、回転開始時から検出される前記振動が閾値を超えたか否かを判断する判断機構と、前記振動が前記閾値を越えたと判断された際、前記回転開始時から検出される前記振動をフーリエ級数展開により解析し、周波数×60÷刃数(又はその逓倍)の演算式から、機械主軸の回転数を調整する演算機構とを備えている。
また、このびびり抑制装置は、閾値が機械主軸の空転時の振動であることが好ましい。
さらに、このびびり抑制装置は、演算機構が、フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、ピーク周波数を算出することが好ましい。
さらにまた、このびびり抑制装置は、演算機構が、フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、第1の周波数毎にピーク周波数を算出した後、算出された前記ピーク周波数の前後を、前記第1の周波数を細分化した第2の周波数毎にピーク周波数を算出することが好ましい。
また、このびびり抑制装置は、演算機構が、フーリエ級数展開により算出される周波数成分から高調波成分を削除した状態で、算出された前記周波数成分と閾値とを比較することが好ましい。
さらに、このびびり抑制装置は、演算機構が、フーリエ級数展開により算出される周波数成分が、再生びびりによる振動であるか否かを判断することが好ましい。
【発明の効果】
本発明に係る作業機械のびびり抑制方法及び装置では、回転開始時から振動を検出し、前記振動をフーリエ級数展開により解析している。フーリエ級数展開は、演算がシンプルであり、迅速な処理が可能なため、即時性が良好に向上し、実際にびびりが成長する前に、びびり振動を予兆することができる。
従って、回転開始と共に振動がゼロから成長する再生びびりを可及的早期に予兆の段階で認識することが可能になる。これにより、実際にびびりによる影響が生じる前に、機械主軸の回転数を調整することができ、再生びびりの発生を確実に抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施形態に係る作業機械のびびり抑制装置の概略説明図である。
【図2】 前記びびり抑制装置を構成するびびり抑制コントローラの説明図である。
【図3】 前記びびり抑制装置によるびびり制御方法を説明するフローチャートの前段である。
【図4】 前記フローチャートの後段である。
【図5】 空転時の振動と切削時の振動との説明図である。
【図6】 閾値設定のフローチャートである。
【図7】 主軸回転数が安定領域にある際の説明図である。
【図8】 安定加工時の説明図である。
【図9】 安定加工時の高調波が除去された状態の説明図である。
【図10】 主軸回転数が安定境界にある際の説明図である。
【図11】 びびり予兆時のピーク説明図である。
【図12】 本発明の第2の実施形態に係る作業機械のびびり抑制装置の概略説明図である。
【図13】 本発明の第3の実施形態に係る作業機械のびびり抑制装置の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
図1に示すように、本発明の第1の実施形態に係る作業機械のびびり抑制装置10は、工作機械12に適用される。
この工作機械12は、ハウジング14内にベアリング16を介して回転可能に設けられるスピンドル(主軸)18と、前記スピンドル18に着脱自在なボーリングバー(加工工具)20とを備え、前記ボーリングバー20の先端に中ぐり用バイト22が装着されている。作業テーブル24上には、ワークWが載置されている。
びびり抑制装置10は、ボーリングバー20の回転が開始される際に発生する振動を検出するためにハウジング14の側部に装着される加速度センサ(振動検出機構)26と、前記ボーリングバー20の回転開始時から検出される前記振動をフーリエ級数展開により解析し、主軸18の回転数を調整して機械制御装置28に更新値を出力するびびり抑制コントローラ30とを備える。機械制御装置28は、工作機械12を制御するものであり、制御操作盤32に接続される。
振動検出機構は、加速度センサ26の他に、音波により振動音を取得するマイクロフォン34が使用される。なお、加速度センサ26は、ハウジング14に代えて、ワークW側、例えば、作業テーブル24に取り付けてもよい。
図2に示すように、びびり抑制コントローラ30は、加速度センサ26等により検出された機械的振動(加工振動)をアンプ及びフィルタ回路36により増幅して取り込むびびり抑制演算ユニット(演算機構)38を備える。
びびり抑制演算ユニット38には、振動の監視状態から演算処理を開始するための閾値(後述する)を指示するための指示ユニット40、主軸18の回転数やバイト22の刃数等の加工条件を入力するための加工条件入力ユニット42、加工状態等を外部に表示するための表示ユニット44及び後述する演算処理により調整される主軸回転数を出力するための更新値出力ユニット46とが接続される。更新値出力ユニット46は、工作機械12の工作機械制御装置28に更新された主軸回転数を自動的に出力する。
このように構成されるびびり抑制装置10によるびびり抑制方法について、図3以降に示すフローチャートに沿って、以下に説明する。
図1に示すように、工作機械12では、ボーリングバー20を取り付けたスピンドル18が回転駆動されるとともに、ワークWの下穴Waに沿って繰り出される。そして、ボーリングバー20がワークWの下穴Wa側に相対的に移動する。このため、ボーリングバー20が回転し、このボーリングバー20に装着されたバイト22を介して下穴Waを構成する内壁面にボーリング加工が施される。
びびり抑制装置10は、スピンドル18が回転駆動を開始すると同時に(ステップS1)、加速度センサ26(及び/又はマイクロフォン34)による加工振動の監視が開始される(ステップS2)。びびり抑制演算ユニット38では、アンプ及びフイルタ回路36を介して取り込まれる加工振動が、予め自動設定された閾値、例えば、主軸18の空転時の振動を超えたか否かが判断される(ステップS3)。
ここで、機械加工を開始する前に主軸18の空転時の振動と、切削時の振動とは、実際上、図5に示すように、変化する。そして、主軸18の空転時の振動を許容値として振動解析の閾値を演算しておく。具体的には、図6に示すように、スピンドル18の空転が開始されると(ステップS31)、この空転時の振動が読み込まれる(ステップS32)。加工条件入力ユニット42では、閾値(振動振幅)の設定演算が行われ、空転許容値の閾値が設定される(ステップS33)。
次いで、加工振動が閾値を超えたと判断されると(ステップS3中、YES)、ステップS4に進んで、前記加工振動のフーリエ変換(フーリエ級数展開)による演算解析が行われる。具体的には、時間振動f(t)は、
f(t)=Σ(ajcos2πJt+bjsin2πJt)で表される。なお、ajは、周波数Jの余弦調和成分フーリエ係数であり、bjは、周波数Jの正弦調和成分フーリエ係数である。
そして、周波数Jに対するフーリエ係数は、aj=1/2T∫f(t)cos(2πJt)dt、及びbj=1/2T∫f(t)sin(2πJt)dtに基づいて、フーリエ級数展開を行う。なお、積分区間は、0〜Tであり、この積分区間Tは、周期1/Jの整数倍とする。
ここで、フーリエ級数展開によるリアルタイム性(即時性)の向上を図るため、実際にびびりの生じる振動数、例えば、20Hz〜4000Hzに限定し、解析のためのデータ数を最小限にする。
さらに、ステップS5に進んで、得られたフーリエ係数に基づいて、パワースペクトルP(J)(最大振動振幅)が、P(J)=aj2+bj2から算出される。
次いで、ステップS6に進んで、周波数ピークの粗検索が行われる。粗検索とは、フーリエ級数展開処理された振動信号のパワースペクトルのピークを大まかに走査し、その中のピーク値を検索することをいう。具体的には、20Hz〜4000Hz間の周波数域を10Hz(第1の周波数)毎に走査する。
ピーク値がない場合には(ステップS7中、NO)、ステップS2に戻って、振動監視処理が行われる。一方、ピーク値があると判断されると(ステップS7中、YES)、ステップS8に進んで、粗検索されたピーク値の精検索が行われる。精検索とは、粗検索されたピーク値の前後数+Hzを、1Hz(第2の周波数)毎に走査する。
そして、ステップS9に進み、ピーク値がない場合には(ステップS9中、NO)、ステップS2に戻って、振動監視処理が行われる。一方、ピーク値があると判断されると(ステップS9中、YES)、ステップS10に進んで、パワー最大の周波数ピーク(基本波)が検索される。
ここで、機械振動をフーリエ級数展開すると、基本周波数成分とその高調波成分(2次高調波、3次高調波等)とが算出される。高調波成分は、基本周波数の整数倍の周波数であり、本来の基本周波数がもっている振動の物理的な原因と結びついていない不要な信号である。このため、ステップS11で、高調波成分が存在していると判断された際には(ステップS11中、YES)、ステップS12に進んで、この高調波を削除する。これにより、振動原因と結びつく基本波のみが得られる。
通常、工作機械12により安定加工が行われていると、図7及び図8に示すように、主軸18の回転数は、安定領域にある。なお、図7は、主軸18の回転数に対してびびりが発生する限界切り込みの変化を示しており、安定限界が部分的に高くなる、所謂、安定ポケットが存在している。すなわち、主軸18の回転数を、びびりの振動数×60÷刃数又はその整数分の一に一致させれば、びびり振動が抑制される。
一方、図8に示すように、算出される周波数成分は、例えば、基本周波数成分(スピンドル18の空転時の回転数)A、びびりの成長する前の振動成分B、2次高調波成分C及び3次高調波成分Dを含んでいる。なお、基本周波数成分Aは、加工条件入力ユニット42に予め入力された数値であり、その数値を変更指示しない。
そこで、高調波の削除処理は、先ず取り込んだ振動周波数をフーリエ級数展開した後、パワースペクトルに変換し、そのデータの中からパワーピークの一番高い周波数を選び出す。次に、これを基本波として、その整数倍の周波数を高調波とするとともに、この高調波を算出したパワースペクトルのピーク値と比較をする。
比較は、周波数ピークの低い方から順番に行い、一致するものがあれば、それを削除していく処理とする。その結果、高調波(2次高調波成分C及び3次高調波成分D)が削除された基本周波数成分のみが残ることとなり、これは取りも直さず振動の物理的な原因と結びついた振動周波数のみが検出されたことになる(図9参照)。
この高調波成分の除去の処理により、びびりでない場合の所謂、偽信号等を取り去る事ができるので、信号解析の信頼性を高めることができる。これは、検出の安全処置の役割もはたすもので、特に振動をマイクロフォン34により検出する場合に有効である。
同様にして、パワー最大の次なる周波数ピーク(基本波)が検索され(ステップS13)、次なるピークがないと判断されると(ステップS14中、YES)、ステップS15に進み、びびり振動か否かの判定を行う。
第1の実施形態では、実用的な振動範囲内(例えば、20Hz〜4000Hz)で行うため、その振動数は、主軸18の回転数の振動数(高調波を含む)、それに使うバイト22の刃数を乗じた振動数(高調波を含む)及び加工に伴うびびり振動数が含まれる。
そこで、予め主軸18の回転数とバイト22の刃数等が、びびり抑制演算ユニット38に入力されている。従って、主軸18の回転数の振動数及びバイト22の刃数を乗じた振動数に該当しない振動は、びびり振動数あるいはその予兆となる。このため、これらの一連の処理を、機械加工開始時点から常時行なえば、機械振動の中からびびり振動の予兆を自動的に算出することとなる。
具体的には、高調波成分を削除した演算周波数のピーク値が、事前に加工条件として入力した主軸18の回転数の振動数(回転数÷60)、又はバイト22刃数の振動数(回転数×刃数÷60)と一致するかどうかの比較を行う(ステップS16及びステップS17)。
ここで、演算周波数のピーク値が、これらの事前入力情報値と一致すると(ステップS16及び17中、YES)、それは主軸18が回転加工をするのに伴い発生する加工力の変動、又はバイト22の切れ刃が断続的に切削を繰り返すことによる強制振動と判断して(ステップS18)、振動監視に戻る(ステップS19)。
一方、この条件に合致しない演算周波数ピークが検出されたら(ステップS16及び17中、NO)、それを再生びびりの振動数と判断し(ステップS20)、主軸18の回転数を調整するための機械回転数変更の指示へと進む(ステップS21)。
例えば、ワークWの切削性が低い場合や、前記ワークWの肉厚が薄く、加工が進むのに伴って加工状態が変わり易い場合、加工の進行に伴ってびびりが発生し易い。
このようなびびり振動の予兆の段階が、図10及び図11に示されている。すなわち、経時変化による安定境界のシフトにより、主軸18の回転数は、安定ポケット法の境界上に移動する。この状態になると、加工中の主軸18の回転は安定していても、特定の周波数の振動振幅が大きくなってくる。これが、びびりの予兆の振動が現れた状態である。さらにそのまま加工を続けると、びびりの振動は増大を続け、予兆が有害な振動に成長してしまう。
ここで、第1の実施形態では、びびり振動を抑制するために、加工状態をリアルタイムに監視し、びびりの予兆振動が発生した場合に、その振動数をもって安定ポケット法に基づく、周波数×60÷刃数(又はその逓倍)の演算を行う。これにより、主軸18の更新回転数が算出され、それは自動的に安定ポケット法の中心回転数を現すことになる。
次いで、びびり抑制演算ユニット38は、算出された主軸18の更新回転数を表示ユニット44に表示するとともに、機械の回転数変更信号(例えば、主軸18の回転数の外部からのオーバーライド指示)として、更新値出力ユニット46から工作機械制御装置28へ自動フィードバック出力する。このため、工作機械12は、指示された主軸18の回転数に直ちに変更され、有害なびびりが出ない切削加工が可能となる。
このように、主軸18の回転開始時から、すなわち、びびりのない状態での加工開始の時点(=監視開始指示時点)より、リアルタイムで加工の振動を監視している。そして、びびりの予兆振動に基づいて、直ちに安定ポケット法によるびびりが発生しない最適な加工回転数へと、主軸18の回転数が変更され、びびりは予兆の間に抑制されることになる。
これにより、この方式を採用することにより、安定ポケット法の安定領域の主軸18の回転数で加工が開始された時も、また加工の経時変化(例えば、加工箇所の変化、ワークWの肉厚変化等)によって安定領域がシフトし、主軸18の回転数が安定ポケット法の安定境界領域に移動したとしても、さらにまた主軸18の回転数が安定ポケット法の不安定領域に移動したとしても、それらの振動から直ちに演算を開始して、主軸18の回転数を安定ポケット法の安定領域の中心回転数へ移動されることができる。すなわち、この指示に基づいて、工作機械12の主軸18の回転数を直ちに変更すれば、それは自動的にびびりが発生しない安定領域の中心回転数に変更された状態となる。
この場合、第1の実施形態では、回転開始時から振動を検出し、前記振動をフーリエ級数展開により解析している。フーリエ級数展開は、演算がシンプルであり、迅速な処理が可能なため、即時性が良好に向上し、実際にびびりが成長する前に、びびり振動を予兆の段階で認識することができる。
従って、回転開始と共に振動がゼロから成長する再生びびりを可及的早期に予兆することが可能になる。これにより、実際にびびりによる影響が生じる前に、主軸18の回転数を調整することができ、再生びびりの発生を確実に抑制することが可能になるという効果が得られる。
しかも、主軸18の空転時の振動を許容値として、閾値が演算されている。このため、実際の加工時に加工振動を監視し、空転許容値の閾値以上の振動が検出された際には、びびり振動の予兆としてより迅速に検知することが可能になる。
図12は、本発明の第2の実施形態に係る作業機械のびびり抑制装置50の概略説明図である。
なお、第1の実施形態に係るびびり抑制装置10と同一の構成要素には同一の参照符号を付して、その詳細な説明は省略する。また、以下に説明する第3の実施形態においても同様に、その詳細な説明は省略する。
第1の実施形態に係るびびり抑制装置10では、びびり抑制演算ユニット38が、主軸18の回転数の変更指示を表示ユニット44に表示するとともに、更新値出力ユニット46が、工作機械12の工作機械制御装置28に更新された主軸回転数を自動的に出力している。
これに対して、びびり抑制装置50では、主軸18の回転数の変更指示を表示ユニット44に表示する一方、工作機械12の主軸18の回転数の変更(例えば、主軸回転数変更のオーバーライド値の変更)は、オペレータが制御操作盤32をマニュアル操作することにより行われる。このため、自動更新の際に用いられている指示信号を受けてそれを主軸18の回転数変更へフィードバックできるシステムが不要になる。
図13は、本発明の第3の実施形態に係る作業機械のびびり抑制装置60の概略説明図である。
びびり抑制装置60は、ボーリングバー20の回転が開始される際に発生する振動を検出するために、ハウジング14にX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の3方向の振動をそれぞれ検出する加速度センサ(振動検出機構)62、64及び66を備える。
機械振動は、方向性を有しており、例えば、X軸方向の振動が発生し易い一方、Z軸方向には発生し難い等、固有の特性を持っている。機械振動をびびりの予兆のようにごく小さい内に検出する場合は、いずれの方向の振動でも、それを感度よく検出する必要がある。
そこで、第3の実施形態では、直交するX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の3方向に加速度センサ62、64及び66を取り付けている。このため、振動取得の精度を有効に向上させることができ、びびり振動の予兆を一層確実且つ迅速に検出することが可能になる。
なお、加速度センサ62、64及び66をワークW側に取り付ける場合も同様である。また、加速度センサ62、64及び66を直接ハウジング14に取り付けずに、機械振動を音波の伝達として拾うマイクロフォンを使っても同様の効果が達成できる。その際、加速度センサ62、64及び66と同様に、マイクロフォンを複数設置することにより、振動の取得の精度を上げることも可能である。
【符号の説明】
10、50、60…びびり抑制装置 12…工作機械
14…ハウジング 18…スピンドル
20…ボーリングバー 22…バイト
26、62、64、66…加速度センサ
28…機械制御装置 30…びびり抑制コントローラ
32…制御操作盤 34…マイクロフォン
38…びびり抑制演算ユニット 40…指示ユニット
42…加工条件入力ユニット 44…表示ユニット
46…更新値出力ユニット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工工具を介してワークに加工処理を施す際に、びびりが発生することを抑制するための作業機械のびびり抑制方法であって、
前記加工工具又は前記ワークの回転が開始される際に発生する振動を検出する工程と、
前記回転開始時から検出される前記振動が閾値を超えたか否かを判断する工程と、
前記振動が前記閾値を越えたと判断された際、前記振動をフーリエ級数展開により解析し、周波数×60÷刃数(又はその逓倍)の演算式から、機械主軸の回転数を調整する工程と、
を有することを特徴とする作業機械のびびり抑制方法。
【請求項2】
請求項1記載のびびり抑制方法において、前記閾値は、前記機械主軸の空転時の振動であることを特徴とする作業機械のびびり抑制方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のびびり抑制方法において、前記フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、ピーク周波数を算出することを特徴とする作業機械のびびり抑制方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のびびり抑制方法において、前記フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、第1の周波数毎にピーク周波数を算出する工程と、
算出された前記ピーク周波数の前後を、前記第1の周波数を細分化した第2の周波数毎にピーク周波数を算出する工程と、
を有することを特徴とする作業機械のびびり抑制方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のびびり抑制方法において、前記フーリエ級数展開により算出される周波数成分から高調波成分を削除した状態で、算出された前記周波数成分と前記閾値とを比較することを特徴とする作業機械のびびり抑制方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のびびり抑制方法において、前記フーリエ級数展開により算出される周波数成分が、再生びびりによる振動であるか否かを判断する工程を有することを特徴とする作業機械のびびり抑制方法。
【請求項7】
加工工具を介してワークに加工処理を施す際に、びびりが発生することを抑制するための作業機械のびびり抑制装置であって、
前記加工工具又は前記ワークの回転が開始される際に発生する振動を検出する振動検出機構と、
回転開始時から検出される前記振動が閾値を超えたか否かを判断する判断機構と、
前記振動が前記閾値を越えたと判断された際、前記回転開始時から検出される前記振動をフーリエ級数展開により解析し、周波数×60÷刃数(又はその逓倍)の演算式から、機械主軸の回転数を調整する演算機構と、
を備えることを特徴とする作業機械のびびり抑制装置。
【請求項8】
請求項7記載のびびり抑制装置において、前記閾値は、前記機械主軸の空転時の振動であることを特徴とする作業機械のびびり抑制装置。
【請求項9】
請求項7又は8記載のびびり抑制装置において、前記演算機構は、前記フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、ピーク周波数を算出することを特徴とする作業機械のびびり抑制装置。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載のびびり抑制装置において、前記演算機構は、前記フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、第1の周波数毎にピーク周波数を算出した後、算出された前記ピーク周波数の前後を、前記第1の周波数を細分化した第2の周波数毎にピーク周波数を算出することを特徴とする作業機械のびびり抑制装置。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1項に記載のびびり抑制装置において、前記演算機構は、前記フーリエ級数展開により算出される周波数成分から高調波成分を削除した状態で、算出された前記周波数成分と前記閾値とを比較することを特徴とする作業機械のびびり抑制装置。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載のびびり抑制装置において、前記演算機構は、前記フーリエ級数展開により算出される周波数成分が、再生びびりによる振動であるか否かを判断することを特徴とする作業機械のびびり抑制装置。
【請求項1】
加工工具を介してワークに加工処理を施す際に、びびりが発生することを抑制するための作業機械のびびり抑制方法であって、
前記加工工具又は前記ワークの回転が開始される際に発生する振動を検出する工程と、
前記回転開始時から検出される前記振動が閾値を超えたか否かを判断する工程と、
前記振動が前記閾値を越えたと判断された際、前記振動をフーリエ級数展開により解析し、周波数×60÷刃数(又はその逓倍)の演算式から、機械主軸の回転数を調整する工程と、
を有することを特徴とする作業機械のびびり抑制方法。
【請求項2】
請求項1記載のびびり抑制方法において、前記閾値は、前記機械主軸の空転時の振動であることを特徴とする作業機械のびびり抑制方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載のびびり抑制方法において、前記フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、ピーク周波数を算出することを特徴とする作業機械のびびり抑制方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のびびり抑制方法において、前記フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、第1の周波数毎にピーク周波数を算出する工程と、
算出された前記ピーク周波数の前後を、前記第1の周波数を細分化した第2の周波数毎にピーク周波数を算出する工程と、
を有することを特徴とする作業機械のびびり抑制方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のびびり抑制方法において、前記フーリエ級数展開により算出される周波数成分から高調波成分を削除した状態で、算出された前記周波数成分と前記閾値とを比較することを特徴とする作業機械のびびり抑制方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のびびり抑制方法において、前記フーリエ級数展開により算出される周波数成分が、再生びびりによる振動であるか否かを判断する工程を有することを特徴とする作業機械のびびり抑制方法。
【請求項7】
加工工具を介してワークに加工処理を施す際に、びびりが発生することを抑制するための作業機械のびびり抑制装置であって、
前記加工工具又は前記ワークの回転が開始される際に発生する振動を検出する振動検出機構と、
回転開始時から検出される前記振動が閾値を超えたか否かを判断する判断機構と、
前記振動が前記閾値を越えたと判断された際、前記回転開始時から検出される前記振動をフーリエ級数展開により解析し、周波数×60÷刃数(又はその逓倍)の演算式から、機械主軸の回転数を調整する演算機構と、
を備えることを特徴とする作業機械のびびり抑制装置。
【請求項8】
請求項7記載のびびり抑制装置において、前記閾値は、前記機械主軸の空転時の振動であることを特徴とする作業機械のびびり抑制装置。
【請求項9】
請求項7又は8記載のびびり抑制装置において、前記演算機構は、前記フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、ピーク周波数を算出することを特徴とする作業機械のびびり抑制装置。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載のびびり抑制装置において、前記演算機構は、前記フーリエ級数展開により、周期(1/周波数)の整数倍の積分区間で、第1の周波数毎にピーク周波数を算出した後、算出された前記ピーク周波数の前後を、前記第1の周波数を細分化した第2の周波数毎にピーク周波数を算出することを特徴とする作業機械のびびり抑制装置。
【請求項11】
請求項7〜10のいずれか1項に記載のびびり抑制装置において、前記演算機構は、前記フーリエ級数展開により算出される周波数成分から高調波成分を削除した状態で、算出された前記周波数成分と前記閾値とを比較することを特徴とする作業機械のびびり抑制装置。
【請求項12】
請求項7〜11のいずれか1項に記載のびびり抑制装置において、前記演算機構は、前記フーリエ級数展開により算出される周波数成分が、再生びびりによる振動であるか否かを判断することを特徴とする作業機械のびびり抑制装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−247316(P2010−247316A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−113056(P2009−113056)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000102865)エヌティーエンジニアリング株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000102865)エヌティーエンジニアリング株式会社 (13)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]