説明

作業車

【課題】直進状態と旋回状態とに切り換え自在な操向手段を備えて、直線状の作業経路に沿って走行する直進走行と前記直線状の作業経路の終端部から次回の直線状の作業経路に向けて予め定めた設定走行パターンにて走行する経路変更用走行とを繰り返す形態で作業を行う作業車に関する。
【解決手段】作業経路変更用走行を自動で行うように前記操向手段101を切り換え制御する作業行程切換制御を実行する自動旋回制御手段102と、前記作業経路変更用走行の開始を指令する手動操作式の自動旋回指令手段SWとが備えられ、前記自動旋回制御手段102が、前記自動旋回指令手段SWの指令に基づいて前記作業行程切換制御を実行するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直進状態と旋回状態とに切り換え自在な操向手段を備えて、直線状の作業経路に沿って走行する直進走行と前記直線状の作業経路の終端部から次回の直線状の作業経路に向けて予め定めた設定走行パターンにて走行する経路変更用走行とを繰り返す形態で作業を行う作業車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の作業車では、運転者が運転部に備えられている操向用の操作具を手動操作することにより操向手段を切り換え操作しながら、前記直進走行と前記経路変更用走行とを繰り返す形態で作業を行うようになっていた(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2001−224228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来では、例えば圃場内で作業を行うような場合には、圃場内の全ての領域で作業が終了するまで手動操作により運転操作することになるが、圃場での作業の形態として、例えば刈取収穫機を例にとると、図4に示すような形態で作業を行うことがある。
【0005】
すなわち、未刈茎稈群Mの外周部を一定方向に周回しながら順次刈り取る回り刈り形態で作業を行うものである。説明を加えると、矩形状の未刈茎稈群Mの外周部における1辺に沿う直線状の作業経路に沿って作業走行を行い、その作業経路の終端部に到達すると、前記経路変更用走行として、前回の作業経路に略直交する次の作業経路に向かうように車体を略90度向き変更させるように回向させて、次の作業行程に沿って作業走行を行う。このような直線状の作業経路に沿って走行する作業走行と次回の直線状の作業経路に向かうように走行する回向走行とを繰り返す形態で作業を行うことになる。この作業では、車体を略90度向き変更させるように回向させるときは、左側旋回状態での前進走行を行ったのちに走行停止し、且つ、左側旋回状態での後進走行を行ったのちに走行停止させるといった複雑な操作が必要となっていた。つまり、操向手段の切り換え操作に加えて、車体の走行状態を、走行中立状態、前進走行状態及び後進走行状態に切り換え自在な走行状態切換手段の切り換え操作も併せて行う必要がある。
【0006】
又、このような形態の他に、図6に示すような形態で作業を行うこともある。
すなわち、圃場における未刈茎稈の植付条に沿う方向の両端側の2箇所を予め刈り取り旋回用の既刈領域R(枕地)を形成しておき、未刈茎稈を植付条方向に沿って直線状の作業経路に沿って作業走行を行い、前記経路変更用走行として、既刈領域Rにて車体の進行方向を未刈茎稈の条並び方向に変更したのちに未刈茎稈の条並び方向の反対側箇所にまで車体を移動させたのちに車体の進行方向を植付条方向に沿うように変更し、前回とは逆方向に未刈茎稈を植付条方向に沿って直線状の作業経路に沿って作業走行を行うことを繰り返す形態で作業を行うこともある。
【0007】
しかしながら、上記したような経路変更用走行は、圃場内における狭い領域で車体を旋回させる必要があり、畦や未刈茎稈等の他物に車体が接触することがないように注意しながら行わなければならず、運転者にとっては煩わしい操作となっており、特に経験が少ない運転者にとっては大きな負担になるものであった。
【0008】
ところで、この種の作業車では、例えば、GPS位置検出手段やジャイロ装置等の各種のセンサ類を用いて作業車の車体の位置や進行方向等を検出しながら、直進走行と経路変更用走行の夫々を含む状態で圃場内において予め定めた経路に沿って自動走行するように自動操縦にて作業を行うようにすることも提案されているが、例えば、刈取収穫機等、走行しながら未刈茎稈を刈り取る作業を行うような作業車にあっては、直進状態で未刈茎稈を刈り取る作業を行う場合に未刈茎稈が倒伏した状態となっていれば自動での作業走行を良好に行うことが難しくなる場合が多く、自動操縦により誘導走行させる構成は実用上では採用し難いものとなっている。
【0009】
本発明の目的は、経路変更用走行を煩わしさのない状態で行うことを可能にして、運転者の操縦負担を軽減することが可能な作業車を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る作業車は、直進状態と旋回状態とに切り換え自在な操向手段を備えて、直線状の作業経路に沿って走行する直進走行と前記直線状の作業経路の終端部から次回の直線状の作業経路に向けて予め定めた設定走行パターンにて走行する経路変更用走行とを繰り返す形態で作業を行うものであって、その第1特徴構成は、前記作業経路変更用走行を自動で行うように前記操向手段を切り換え制御する作業行程切換制御を実行する自動旋回制御手段と、前記作業経路変更用走行の開始を指令する手動操作式の自動旋回指令手段とが備えられ、前記自動旋回制御手段が、前記自動旋回指令手段の指令に基づいて前記作業行程切換制御を実行するように構成されている点にある。
【0011】
第1特徴構成によれば、手動操作式の自動旋回指令手段にて前記作業経路変更用走行の開始が指令されると、自動旋回制御手段が、直線状の作業経路の終端部から次回の直線状の作業経路に向けて予め定めた設定走行パターンにて走行する経路変更用走行を自動で行うように前記操向手段を切り換え制御する作業行程切換制御を実行するのである。
【0012】
すなわち、運転者が手動操縦にて操向手段を切り換え操作しながら直線状の作業経路に沿って走行する直進走行を行うようにしながら、作業車がその直線状の作業経路の終端部に達したのち、運転者が手動操作式の自動旋回指令手段にて前記作業経路変更用走行の開始が指令することにより自動旋回制御手段が前記経路変更用走行を自動で行うことになるので、運転者は煩わしさのない状態で作業を行うことができる。
【0013】
特に刈取作業を行うような作業車の場合であれば、未刈茎稈が倒伏した状態となっているような場合であっても、運転者が手動操作することにより操向手段を切り換え操作しながら直線状の作業経路に沿って走行する直進走行を行うようにすることで、未刈茎稈を損傷させる等の不利のない良好な状態で作業を行うことが可能となるのであり、このように直進走行は手動で行うことで良好な作業を行えるようにしながら、前記経路変更用走行を自動で行わせることができるので、操作の煩わしさがない状態で良好な作業を行うことが可能となるのである。
【0014】
従って、第1特徴構成によれば、経路変更用走行を煩わしさのない状態で行うことを可能にして、運転者の操縦負担を軽減することが可能な作業車を提供できるに至った。
【0015】
本発明の第2特徴構成は、第1特徴構成に加えて、車体の走行状態を、走行中立状態、前進走行状態及び後進走行状態に切り換え自在な走行状態切換手段が備えられ、
前記自動旋回制御手段が、前記作業行程切換制御として、
1つの直線状の作業経路での車体の向きに対して車体を左旋回状態にて前進走行させたのちに走行停止させ、次に、車体が前記1つの直線状の作業経路と交差する次回の直線状の作業経路に向かう状態になるように左旋回状態にて後進走行させて走行停止させる形態で、前記操向手段及び前記走行状態切換手段を切り換え制御するように構成されている点にある。
【0016】
第2特徴構成によれば、前記自動旋回制御手段が、前記作業行程切換制御として、1つの直線状の作業経路での車体の向きに対して車体を左旋回状態にて前進走行させたのちに走行停止させ、次に、車体が前記1つの直線状の作業経路と交差する次回の直線状の作業経路に向かう状態になるように左旋回状態にて後進走行させて走行停止させる形態で、前記操向手段及び前記走行状態切換手段を切り換え制御することになる。
【0017】
例えば、図4に示すように、作業対象領域である未刈茎稈群の外周部を一定方向に周回しながら順次刈り取る回り刈り形態で作業を行うような場合には、矩形状の未刈茎稈群の外周部における1辺に沿う直線状の作業経路に沿って作業走行を行い、その作業経路の終端部に到達すると、前記経路変更用走行として、前回の作業経路に略直交する次の作業経路に向かうように車体を略90度向き変更させるように回向させて、次の作業行程に沿って作業走行を行うことになる。
【0018】
そこで、このように車体を略90度向き変更させるように回向させるときに、運転者が前記自動旋回指令手段にて指令することにより上記作業行程切換制御を実行することにより、前回の直線状の作業経路での車体の向きに対して車体を左旋回状態にて前進走行させたのちに走行停止させ、次に、車体が前回の直線状の作業経路と交差する次回の直線状の作業経路に向かう状態になるように左旋回状態にて後進走行させて走行停止させる経路変更用走行を自動で行うことができるのである。
【0019】
上述したように前進走行と後進走行と切り換えながら車体を略90度向き変更させるように回向させる経路変更用走行は、手動操縦により行うものでは操作が煩雑となるが、経路変更用走行を自動で行うことにより運転者にとっての操作の煩わしさを軽減するのに特に有効なものとなる。
【0020】
従って、第2特徴構成によれば、運転者にとっての操作の煩わしさを軽減するのに特に有効なものとなる状態で上記経路変更用走行を行うことが可能な作業車を提供できるに至った。
【0021】
本発明の第3特徴構成は、第1特徴構成又は第2特徴構成に加えて、車体の向きの変位量情報を検出するジャイロ装置が備えられ、前記自動旋回制御手段が、前記作業行程切換制御として、前記ジャイロ装置の検出情報に基づいて求められる前記車体の向きの変位量が予め設定された目標変位量になるように前記操向手段を切り換え制御するように構成されている点にある。
【0022】
第3特徴構成によれば、手動操作式の自動旋回指令手段にて前記作業経路変更用走行の開始が指令されると、前記自動旋回制御手段が、ジャイロ装置によって検出される車体の向きの変位量情報から車体の向きの変位量を検出して、その車体の向きの変位量が予め設定された目標変位量になるように前記操向手段を切り換え制御することにより、車体を次回の直線状の作業経路に向けて走行させることが行えなくなる等の不利のない良好な状態で車体を走行させることができるのである。
【0023】
従って、第3特徴構成によれば、次回の直線状の作業経路に向けて走行させることが行えなくなる等の不利のない良好な状態で経路変更用走行を行うことが可能な作業車を提供できるに至った。
【0024】
本発明の第4特徴構成は、第1特徴構成〜第3特徴構成のいずれかに加えて、前記自動旋回制御手段が前記作業行程切換制御を実行している自動旋回運転状態であることを運転者に報知する報知手段が備えられている点にある。
【0025】
第4特徴構成によれば、前記自動旋回制御手段が前記作業行程切換制御を実行している自動旋回運転状態であることが報知手段により報知されるので、運転者は自動で経路変更用走行を行っていることを認識することができる。
【0026】
従って、第4特徴構成によれば、運転者は自動で経路変更用走行を行っていることを認識できるから、運転者が故障であると誤って判断して自動操作と異なる操作を行うことを防止することが可能な作業車を提供できるに至った。
【0027】
本発明の第5特徴構成は、第1特徴構成〜第4特徴構成のいずれかに加えて、前記自動旋回制御手段が、モード切り換え手段の切り換え指令に基づいて、前記手動操作式の自動旋回指令手段の指令に基づいて前記作業行程切換制御を実行する自動入りモードと、前記手動操作式の自動旋回指令手段の指令にかかわらず前記作業行程切換制御を実行しない自動切りモードとに切り換え自在に構成されている点にある。
【0028】
第5特徴構成によれば、前記自動旋回制御手段は、前記モード切り換え手段の切り換え指令に基づいて前記自動入りモードに切り換わっていれば前記自動旋回指令手段の指令に基づいて前記作業行程切換制御を実行するが、前記自動切りモードに切り換わっていなければ、自動旋回指令手段の指令にかかわらず作業行程切換制御を実行しないのである。
【0029】
例えば、圃場等の作業対象領域内で走行する場合等、前記作業行程切換制御を自動で行う必要がある場合には、前記自動入りモードに切り換えおくことで適正に対応できる。又、路上走行等のように作業を行わない状態で走行する等、前記作業行程切換制御を実行する必要がない場合には、前記自動切りモードに切り換えておくことで、運転者が誤って自動旋回指令手段を操作することがあっても、運転者の意思に反して自動的に操向手段が切り換え操作される等の不利のない状態で良好に走行させることができる。
【0030】
従って、第5特徴構成によれば、必要に応じて前記作業行程切換制御を実行する状態と実行しない状態とに切り換えることができ、運転者が作業する上で使い勝手のよい作業車を提供できるに至った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明に係る作業車の実施形態をコンバインに適用した場合について説明する。
図1に示すように、左右一対のクローラ式の走行装置1L、1Rで支持された車体の前部に、刈取昇降シリンダ2にて横軸芯P1周りに駆動昇降自在に刈取部3が支持され、車体の前部の右側に運転部4が備えられ、車体の後部の左側に脱穀部5が備えられ、車体の後部の右側にグレンタンク6が備えられて、作業車としての自脱型のコンバインが構成されている。
【0032】
前記刈取部3は、先端部に付設された分草具7、穀稈の引き起こし装置8、引き起こした穀稈の株元を切断する刈刃9、先端側で刈取穀稈を受け取って脱穀部5のフィードチェーンに受け渡す縦搬送装置10等を備えている。
【0033】
次に、図2に基づいてコンバインの動力伝達系及び制御構成について説明する。
エンジンEの動力が静油圧式の無段変速装置11に伝動され、この無段変速装置11の変速後の出力が、ミッションケース12を介して左右の走行装置1に伝達されている。ミッションケース12には、上記変速後の出力を左右の走行装置1L、1Rに対して各別に断続可能な状態で且つ各走行装置1L、1Rを各別に制動操作可能な左右一対の操向クラッチブレーキ13L、13Rが設けられ、それら各操向クラッチブレーキ13L、13Rに対する圧油の供給を制御して各クラッチの入り切り及びブレーキ操作するための操向用電磁弁14が設けられている。
【0034】
上記無段変速装置11は、その変速用の被操作体11aが運転部4に設けられた変速レバー15に連動連結されて、この変速レバー15による人為操作にて変速することができるように構成されている。又、変速レバー15と無段変速装置11との連係経路中に、変速用電動モータ16が摩擦式伝動機構17を介して連係されており、この変速用電動モータ16の駆動操作によっても無段変速装置11を変速操作することが可能な構成となっている。但し、変速レバー15による変速操作があると摩擦式伝動機構17にて操作が許容され、変速用電動モータ16による変速操作状態にかかわらず変速可能であり、手動優先状態で変速操作可能に構成されている。又、変速用の被操作体11aの操作位置を検出するための変速位置センサS1が設けられている。
【0035】
変速レバー15は車体前後方向に揺動操作自在に設けられ、この変速レバー15が前後操作範囲の中間部に位置する変速中立位置から前方側に操作されると無段変速装置11が前進走行状態に切り換わり且つ前進方向での走行速度が増速し、変速レバー15が変速中立位置から後方側に操作されると無段変速装置11が後進走行状態に切り換わり且つ後進方向での走行速度が増速される構成となっている。
【0036】
又、前記変速用電動モータ16を作動させることによって無段変速装置11を直進状態、前進走行状態及び後進走行状態の夫々に切り換え自在で、且つ、前進走行状態では前進方向での走行速度を増減速可能であり、後進走行状態では後進方向での走行速度を増減速可能な可能となっている。従って、前記無段変速装置11及び前記変速用電動モータ16により、車体の走行状態を、走行中立状態、前進走行状態及び後進走行状態に切り換え自在な走行状態切換手段100が構成されている。
【0037】
運転部4には、刈取部3を昇降操作する刈取昇降指令具と車体が左右に旋回操作する旋回操作指令具とに兼用構成された十字操作式の刈高操向レバー18が設けられている。この刈高操向レバー18は、車体前後方向に揺動自在であって、その前後操作範囲の中間部に位置する中立位置に位置していると刈取部は位置が変化せず、後方側に設定量以上揺動すると刈取部3が上昇し、前方側に設定量以上揺動すると刈取部3が下降する構成となっている。又、刈高操向レバー18は左右方向にも揺動自在で、左右方向の中央の直進位置にあると車体が直進走行状態となり、その直進位置から左方向に揺動すると左旋回状態に切り換わり、右方向に揺動すると右旋回状態に切り換わるように構成されている。又、刈高操向レバー18は、前後方向並びに左右方向夫々において中立位置に復帰付勢される構成となっている。
尚、変速レバー15は運転部4の左側に配置されており運転者が左手で操作する状態で設けられ、刈高操向レバー18は運転部4の右側に配置されており運転者が右手で操作する状態で設けられている。
【0038】
図2に示すように、刈高操向レバー18の左右方向の操作位置を検出する操向用ポテンショメータ19と、刈高操向レバー18を後方側に揺動操作するとオンする刈取上昇スイッチ20と、刈高操向レバー18を前方側に揺動操作するとオンする刈取下降スイッチ21とが設けられ、それらの検出情報がマイクロコンピュータを備えて構成される制御装置Hに入力される。そして、制御装置Hは、それらの検出情報に基づいて、刈取昇降シリンダ2に対する圧油供給状態を切り換える昇降用電磁弁22、及び、前記左右の操向クラッチブレーキ13L、13Rに対する圧油の供給を制御してその作動状態を操作するための操向用電磁弁14を制御する構成となっている。
【0039】
説明を加えると、制御装置Hは、前記操向用ポテンショメータ19の検出情報に基づいて、刈高操向レバー18が直進位置から左方向に揺動操作したことが検出されると、左側の操向クラッチブレーキ13Lに対する圧油の供給を制御して、直進位置からのレバー操作量が小であるときはクラッチ切り状態すなわち伝動遮断状態となり、レバー操作量が大になるとクラッチを切り且つ左側の走行装置1Lを制動する制動状態になるように操向用電磁弁14を制御する。又、刈高操向レバー18が直進位置から右方向に揺動操作したことが検出されると、左側の操向クラッチブレーキ13Lの場合と同様に、右側の操向クラッチブレーキ13Rに対する圧油の供給を切り換えるように操向用電磁弁14を制御する。
【0040】
前記左右の操向クラッチブレーキ13L、13Rのいずれかの一方が伝動遮断状態になると、左右の走行装置1R、1Lの速度差により車体が緩やかに旋回する緩旋回状態になり、いずれか一方が制動状態になると左右の走行装置1R、1Lの速度差が大きくなり車体が急旋回する急旋回状態になる。従って、操向用電磁弁14及び前記左右の操向クラッチブレーキ13L、13Rにより直進状態と旋回状態とに切り換え自在な操向手段101を構成する。
【0041】
前記制御装置Hは、刈取上昇スイッチ20がオンすると刈取昇降シリンダ2が上昇操作するように昇降用電磁弁22を切り換え、刈取下降スイッチ21がオンすると刈取昇降シリンダ2が下降操作するように昇降用電磁弁22を切り換えるように制御する。又、前記制御装置Hは、刈取作業中においては、刈取部3に備えられる接地式の刈高センサS5の検出値が設定値に維持されるように昇降用電磁弁22を切り換え制御する構成となっている。
【0042】
エンジンEの動力が、手動操作式の脱穀クラッチレバー23を操作することで入り切り操作自在な脱穀クラッチ24を介して断続自在に脱穀部5に伝達される構成となっており、脱穀クラッチレバー23の入り操作に伴ってオン作動する脱穀スイッチS2が設けられている。又、エンジンEの回転速度を検出する回転検出センサS3と、ミッションケース12の入力軸に伝動される無段変速装置11の出力回転数に比例するパルスを計数して走行距離を検出するためのロータリーエンコーダS4とが設けられている。尚、エンジンEの回転速度は、エンジン始動後、図示しないアクセルレバー等によって上昇操作されて作業用の設定回転速度にセットされる。又、前記無段変速装置11の変速後の出力が図示しない刈取クラッチ及び一方向回転クラッチを介して刈取部3に伝達される構成となっており、刈取部3は無段変速装置11が前進状態であるときにのみ駆動され、後進状態に切り換わると刈取部3は駆動停止状態となる。
【0043】
圃場において未刈茎稈を刈り取る刈取作業を行うときは、図4に示すように、未刈茎稈群Mの外周部を一定方向に周回しながら順次刈り取る回り刈り形態で作業を行うことになる。つまり、矩形状の未刈茎稈群Mの外周部における1辺に沿う直線状の作業経路に沿って作業走行を行い、その作業経路の終端部に到達すると、それに略直交する次の作業経路に向かうように車体を略90度向き変更させるように回向させて、次の作業経路に沿って作業走行を行う。このような直線状の作業経路に沿って走行する直進走行と、次回の直線状の作業経路に向かうように予め定めた設定走行パターンにて走行する経路変更用走行とを繰り返す形態で作業を行うことになる。
【0044】
このコンバインでは、運転者は、直線状の作業経路に沿って車体を直進走行させながら未刈茎稈を刈り取る刈取作業を行うときは、刈高操向レバー18及び変速レバー15を操作しながら手動にて運転操作するが、直線状の作業経路での作業が終了してその作業経路に対して略直交する次の直線状の作業経路に向かうように車体を向き変更すべき位置に来たときに、前記作業経路変更用走行の開始を指令する手動操作式の自動旋回指令手段としての自動操向指令スイッチSWを操作すると、刈高操向レバー18及び変速レバー15から手を離した状態で自動で前記経路変更用走行を実行可能な構成となっている。
【0045】
すなわち、前記作業経路変更用走行を自動で行うように前記操向手段101を切り換え制御する作業行程切換制御を実行する自動旋回制御手段102が備えられ、この自動旋回制御手段102が、前記自動操向指令スイッチSWの指令に基づいて前記作業行程切換制御を実行するように構成されている。説明を加えると、前記作業行程切換制御として、1つの直線状の作業経路での車体の向きに対して車体を左旋回状態にて前進走行させたのちに走行停止させ、次に、車体が前記1つの直線状の作業経路と交差する次回の直線状の作業経路に向かう状態になるように左旋回状態にて後進走行させて走行停止させる形態で、前記操向手段101及び前記走行状態切換手段100を切り換え制御するように構成されている。
【0046】
以下、具体的な構成について以下に説明を加える。
図2に示すように、車体の方位変位量情報の一例としての縦軸芯周りでの車体の角速度変位を検出するジャイロ装置25が備えられおり、前記制御装置Hが、このジャイロ装置25にて検出される縦軸芯周りでの角速度を積分することにより車体の方位変位量を演算にて求めることができる。又、制御装置Hは、前記ロータリーエンコーダS4の検出情報に基づいて車体の走行距離を演算にて求めることができるように構成され、前記ジャイロ装置25及び前記ロータリーエンコーダS4の検出情報に基づいて上記したような作業行程切換制御を実行するように構成されている。従って、制御装置Hを利用して前記自動旋回制御手段102が構成されている。
【0047】
又、制御装置Hは、脱穀スイッチS2がオンしていること、及び、エンジンEの回転速度が設定回転速度以上の作業状態に対応する回転速度にまで上昇していることが検出されると作業状態であると判別し、少なくともいずれか一方の条件が満たされていないと作業状態でないと判別するように構成され、作業状態であると判別すると、自動操向指令スイッチSWの指令に基づいて前記作業行程切換制御を実行する自動入りモードに切り換わり、作業状態でないと判別すると、自動操向指令スイッチSWの指令にかかわらず前記作業行程切換制御を実行しない自動切りモードに切り換わるように構成されている。従って、脱穀スイッチS2、回転検出センサS1、及び、制御装置Hによりモード切り換え手段104が構成されている。
【0048】
そして、前記自動旋回制御手段102が前記作業行程切換制御を実行している自動旋回運転状態であることを運転者に報知する報知手段としての表示ランプ26が運転者が目視可能な状態で運転部4に備えられている。
【0049】
次に、前記制御装置Hによる自動制御動作について具体的に説明する。
すなわち、図3に示すように、脱穀スイッチS2及び回転検出センサS1の検出情報に基づいて作業状態であると判別している状態であれば前記自動入りモードに切り換わり、自動操向指令スイッチSWが手動にてオン操作されて自動操向指令が指令されると、前記表示ランプ26を点灯させて運転者に作業行程切換制御を実行していることを報知する(ステップ1、2、3)。図5に示すように、運転者は、直進状態での作業走行が終了してから少し走行した地点ptにて自動操向指令スイッチSWを操作することになる。
【0050】
そして、左旋回状態で且つ車体を前進走行させるように操向用電磁弁14及び変速用電動モータ16を制御する(ステップ4)。すなわち、左側の操向クラッチブレーキ13Lを急旋回状態にするように操向用電磁弁14を制御し、予め設定されている旋回用の車速にて車体を前進させるように変速位置センサS1の検出情報に基づいて変速用電動モータ16を制御する。ジャイロ装置25の検出情報に基づいて車体の向きの変位量を演算にて求めて、制御を開始してからの車体の向きの変位量が予め設定された目標変位量(左側に45度向き変更)になると、左旋回状態での前進走行を停止させる(ステップ5、6)。
【0051】
その後、ロータリーエンコーダS4の検出情報に基づいて、直進状態で後進走行を開始してからの走行距離を演算にて求めて、その走行距離が設定距離に達すると、左旋回状態での後進走行に切り換える(ステップ7、8、9)。すなわち、左側の操向クラッチブレーキ13Lを急旋回状態にするように操向用電磁弁14を制御し、予め設定されている旋回用の車速にて車体を後進させるように変速位置センサS1の検出情報に基づいて変速用電動モータ16を制御する。ジャイロ装置の検出情報に基づいて車体の向きの変位量を演算にて求めて車体の向きの変位量が予め設定された目標変位量(左側に45度向き変更)になると、言い換えると制御の開始時点から左側に90度向き変更した状態になると、左旋回状態での後進走行を停止させ、表示ランプ26を消灯して運転者に作業行程切換制御の実行が終了したことを報知して制御を終了する(ステップ10、11、12)。その後は、運転者が刈高操向レバー18及び変速レバー15を手動にて操作しながら次回の直線状の作業経路に沿って走行することになる。
【0052】
そして、上記したような直線状の作業経路に沿って走行する作業走行と次回の直線状の作業経路に向かうように走行する経路変更用走行とを繰り返す形態で作業を行うことになり、前記経路変更用走行を自動で行うことにより、運転者の操作負担を軽減することができる。
【0053】
〔別実施形態〕
以下、別実施形態を列記する。
【0054】
(1)上記実施形態では、前記制御装置は、前記脱穀スイッチ及び前記回転検出センサの検出情報に基いて作業状態であるか否かを判別し、作業状態であれば自動入りモードに切り換わり、作業状態でなければ自動切りモードに切り換わる構成としたが、このような構成に代えて、前記モード切り換え手段として、前記制御装置の制御モードを自動入りモードと自動切りモードとに切り換えを指令するための手動操作式のモード切換スイッチを備える構成としてもよい。
【0055】
(2)上記実施形態では、前記自動旋回制御手段が、前記作業行程切換制御として、1つの直線状の作業経路での車体の向きに対して車体を左旋回状態にて前進走行させたのちに走行停止させ、次に、車体が前記1つの直線状の作業経路と交差する次回の直線状の作業経路に向かう状態になるように左旋回状態にて後進走行させて走行停止させる形態で、前記操向手段及び前記走行状態切換手段を切り換え制御する構成を例示したが、このような構成に代えて、次のような往復刈り形態にて作業を行う構成でもよい。
【0056】
図6に示すように、圃場における未刈茎稈群Mの植付条に沿う方向の両端側の2箇所を予め刈り取って旋回用の既刈領域R(枕地)を形成しておき、未刈茎稈を植付条方向に沿って直線状の作業経路に沿って作業走行を行い、前記経路変更用走行として、既刈領域Rにて車体の進行方向を未刈茎稈の条並び方向に変更したのちに未刈茎稈の条並び方向の反対側箇所にまで車体を移動させたのちに車体の進行方向を植付条方向に沿うように変更し、前回とは逆方向に未刈茎稈を植付条方向に沿って直線状の作業経路に沿って作業走行を行うことを繰り返す形態で作業を行うように、前記操向手段及び前記走行状態切換手段を切り換え制御する構成するものでもよい。そして、この構成では、制御装置が圃場内においてどのような経路で走行を行うかについて予め経路情報を入力しておく必要がある。このときの経路の記憶情報としては、GPS等を用いた絶対位置情報によるマップデータ、あるいは、自動旋回指令手段により指令された位置からの走行距離情報と回向時の方位変位量情報との組み合わせ等の種々の情報を用いることができる。
【0057】
(3)上記実施形態では、前記報知手段として表示ランプを用いたが、表示ランプに代えて、あるいは、表示ランプに加えてブザー等の音声のより報知する音声式報知手段を用いる構成としてもよい。
【0058】
(4)上記実施形態では、車体の向きの変位量情報を検出するジャイロ装置が備えられ、前記自動旋回制御手段が前記ジャイロ装置の検出情報に基づいて求められる前記車体の向きの変位量が予め設定された目標変位量になるように前記操向手段を切り換え制御する構成としたが、このような構成に代えて、GPS衛星から送信される電波を受信して設定時間間隔で車体の位置情報を求めるGPS位置情報算出手段を備えて、このGPS位置情報算出手段の検出情報に基いて前記操向手段を切り換え制御する構成としてもよく、又、GPS位置情報算出手段の検出情報と前記ジャイロ装置の検出情報とを夫々用いて前記操向手段を切り換え制御する構成としてもよい。
【0059】
(5)上記実施形態では、前記操向手段が、左右一対の操向クラッチブレーキを切り換え操作することで直進状態と旋回状態とに切り換える構成としたが、このような構成に代えて、エンジンから左右の走行装置に対する伝動経路中に、いずれか一方の走行装置を同方向に駆動しながら他方の走行装置より減速させる減速用のクラッチ、いずれか一方の走行装置を他方の走行装置とは逆向きに駆動する逆転クラッチ等を備えて、それらのクラッチを選択的に使用して直進状態と旋回状態とに切り換えるような構成としてもよく、又、左右の走行装置を各別に変速操作自在な左右一対の無段変速装置を備えて、それらの出力の速度差により直進状態と旋回状態とに切り換えるような構成としてもよい。
【0060】
(6)上記実施形態では、作業車がコンバインである場合について説明したが、本発明は、例えば田植え用作業車、農用トラクター等、各種作業車にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】作業車の全体側面図
【図2】伝動構成及び制御構成を示すブロック図
【図3】制御ブロック図
【図4】作業状態を示す平面図
【図5】経路変更用走行を示す平面図
【図6】作業状態を示す平面図
【符号の説明】
【0062】
25 ジャイロ装置
100 走行状態切換手段
101 操向手段
102 自動旋回制御手段
104 モード切り換え手段
SW 自動旋回指令手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直進状態と旋回状態とに切り換え自在な操向手段を備えて、直線状の作業経路に沿って走行する直進走行と前記直線状の作業経路の終端部から次回の直線状の作業経路に向けて予め定めた設定走行パターンにて走行する経路変更用走行とを繰り返す形態で作業を行う作業車であって、
前記作業経路変更用走行を自動で行うように前記操向手段を切り換え制御する作業行程切換制御を実行する自動旋回制御手段と、前記作業経路変更用走行の開始を指令する手動操作式の自動旋回指令手段とが備えられ、
前記自動旋回制御手段が、前記自動旋回指令手段の指令に基づいて前記作業行程切換制御を実行するように構成されている作業車。
【請求項2】
車体の走行状態を、走行中立状態、前進走行状態及び後進走行状態に切り換え自在な走行状態切換手段が備えられ、
前記自動旋回制御手段が、前記作業行程切換制御として、
1つの直線状の作業経路での車体の向きに対して車体を左旋回状態にて前進走行させたのちに走行停止させ、次に、車体が前記1つの直線状の作業経路と交差する次回の直線状の作業経路に向かう状態になるように左旋回状態にて後進走行させて走行停止させる形態で、前記操向手段及び前記走行状態切換手段を切り換え制御するように構成されている請求項1記載の作業車。
【請求項3】
車体の向きの変位量情報を検出するジャイロ装置が備えられ、
前記自動旋回制御手段が、前記作業行程切換制御として、前記ジャイロ装置の検出情報に基づいて求められる前記車体の向きの変位量が予め設定された目標変位量になるように前記操向手段を切り換え制御するように構成されている請求項1又は2記載の作業車。
【請求項4】
前記自動旋回制御手段が前記作業行程切換制御を実行している自動旋回運転状態であることを運転者に報知する報知手段が備えられている請求項1〜3のいずれか1項に記載の作業車。
【請求項5】
前記自動旋回制御手段が、
モード切り換え手段の切り換え指令に基づいて、前記手動操作式の自動旋回指令手段の指令に基づいて前記作業行程切換制御を実行する自動入りモードと、前記手動操作式の自動旋回指令手段の指令にかかわらず前記作業行程切換制御を実行しない自動切りモードとに切り換え自在に構成されている請求項1〜4のいずれか1項に記載の作業車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−232783(P2009−232783A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−84557(P2008−84557)
【出願日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】