説明

使用済セラミック部材の処理方法、再生セラミック部材、及び使用済セラミック部材の再生方法

【課題】貴金属が担持された使用済みのセラミック部材を処理することにより、資源節約と製品コスト低減とを両立し得る新規な触媒処理技術を確立する。
【解決手段】貴金属が担持された使用済セラミック部材の処理方法であって、使用済セラミック部材を未粉砕状態のまま、塩酸及び硝酸を含有する媒体とともに耐圧容器に導入する導入工程と、耐圧容器を密封して加熱する水熱処理工程と、冷却後、耐圧容器から処理された使用済セラミック部材と貴金属を含有する液体成分とを回収する回収工程と、を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貴金属が担持された使用済セラミック部材の処理方法、当該処理方法を実行して得られる再生セラミック部材、及びカーボンが付着した使用済セラミック部材の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリン価格の高騰や環境意識の高まりから、燃費性能及び環境性能に優れたディーゼルエンジン車が見直されている。一般に、ディーゼルエンジン車は、ガソリンエンジン車よりも燃焼効率が良く、燃費性能に優れている。またディーゼルエンジン車は、ガソリン車に比べて燃料が安価である。このため、長距離移動の機会が多い欧州では、ディーゼルエンジン車は広く普及している。日本国内においても、最近「クリーンディーゼル」と呼ばれる厳しい排出ガス規制に適合したディーゼルエンジン車が販売され始め、注目を浴びている。
【0003】
ディーゼルエンジン車は、カーボンを主成分とする粒子状物質(PM)を多く排出する。粒子状物質は、カーボンからなる黒煙(スス)が主成分である。このため、ディーゼルエンジン車には排気ガスを高度に浄化する触媒技術が必要不可欠となる。排気ガス中の粒子状物質を除去する技術として、ディーゼル・パーキュレート・フィルター(DPF)と称される触媒(浄化装置)が知られている。DPFは、ディーゼルエンジン車の排気管に装着されるフィルターの一種である。DPFは多孔質の無機材料で構成され、複数の管状のセルを集束させた集合体である。この集合体を構成する各セルは、一端部及び他端部が交互に閉鎖されている。すなわち、DPFを複数のセルの集合体として一端部側又は他端部側から見ると、セルの閉鎖部が交互に規則正しく反転した(言い換えると、各セルの一方のみが交互に規則正しく外部に開放した)市松模様状の特殊な構造を有している。この特殊構造により、セルの一方側(一端部側)の開口部から排気ガスとともに粒子状物質が進入すると、当該粒子状物質はセルの内部でトラップされる。トラップされた粒子状物質は、排気ガスの熱による自然着火、又はヒーターによる加熱着火によって燃焼し、二酸化炭素に分解される。生成した二酸化炭素はセルの壁部を通過して隣接するセルに移動し、反対側(他端部側)の開口部から排出される。
【0004】
粒子状物質を二酸化炭素に分解するためには、高温環境下での分解反応が必要となる。このため、DPFにはセラミック等の従来の触媒材料よりも高性能な素材が求められる。本発明者らは、DPFに適した素材として、熱伝導性、耐熱性、機械的強度、化学的安定性等に優れた炭化珪素(SiC)の焼結体を触媒担体としてすでに実用化している。また、DPFには、粒子状物質を効率よく二酸化炭素に分解する目的で、貴金属が含有されている。貴金属は、例えば、γアルミナに担持させた状態で、触媒担体の表面及び内部に存在させることができる。
【0005】
ディーゼルエンジン車の廃車等に伴ってDPFを廃棄する場合、DPFから貴金属を回収することが望ましい。廃棄される使用済みのDPFから貴金属を効率よく回収できれば、限りある資源を節約できるとともに、製品コストを大きく低減することができる。また、DPFから貴金属を回収後は、DPFの基材であるSiC焼結体も再利用されることが望ましい。SiC焼結体は、前述のように、熱伝導性、耐熱性、機械的強度、化学的安定性等に優れているため、カスケード利用が可能である。
【0006】
使用済みの触媒から貴金属を回収する代表的な技術として、乾式処理法及び湿式処理法が知られている。乾式処理法は、貴金属を含む触媒を、溶融状態にした他の金属(例えば、溶融銅)に接触させることにより当該他の金属に貴金属を吸着させ、これを濃縮して貴金属を回収する方法である。乾式処理法の一例として、特許文献1が挙げられる。特許文献1では、白金を含有する触媒を、銅材料、フラックス成分、及び還元剤とともに加熱溶融することによって比重差のあるスラグ系酸化物とメタル溶湯とに分離し、当該メタル溶湯中に白金を吸収させている。
【0007】
湿式処理法は、貴金属を含む触媒を硝酸や硫酸等の酸で処理することにより、貴金属をイオンの状態で酸液中に抽出する方法である。湿式処理法の一例として、特許文献2が挙られる。特許文献2では、酸液による二段階抽出を行っている。予め触媒を粉砕しておき、初めに一段目として濃硫酸により白金以外の成分を抽出し、次いで二段目として塩酸又は王水により白金を抽出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−277792号公報
【特許文献2】特開2001−335855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
資源の無駄をなくし、製品コストを低減するためには、使用済触媒から貴金属を効率よく回収すると同時に、貴金属回収後の触媒担体を再利用することが望まれている。この点、特許文献1では、使用済触媒が溶融状態にされるため、触媒担体は完全に消滅し、スラグ化することになる。従って、触媒担体を再利用することはできない。また、メタル溶湯から白金を分離する際には別の分離工程が必要となり、このときの回収効率はよいとは言えない。
【0010】
特許文献2は、酸抽出を行い易いように触媒を粉砕しており、そもそも触媒担体の再利用を想定していない。また、二段階抽出は大変な手間が掛かる割には白金回収効率の向上はあまり期待できない。さらに、酸液の使用量も多くなるため、処理コスト及び製品コスト増大の原因となり得る。
【0011】
このように、現状においては、使用済触媒から貴金属を効率よく回収しつつ、貴金属回収後の触媒担体の再利用を可能とする触媒処理技術は未だ十分に開発されていない。本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、貴金属が担持された使用済みのセラミック部材を処理することにより、資源節約と製品コスト低減とを両立し得る新規な触媒処理技術を確立することを目的とする。また、本発明は、当該触媒処理技術を応用し、使用済みのセラミック部材をそのまま再生することを可能にする触媒再生技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明に係る使用済セラミック部材の処理方法の特徴構成は、
貴金属が担持された使用済セラミック部材の処理方法であって、
前記使用済セラミック部材を未粉砕状態のまま、塩酸及び硝酸を含有する媒体とともに耐圧容器に導入する導入工程と、
前記耐圧容器を密封して加熱する水熱処理工程と、
冷却後、前記耐圧容器から処理された前記使用済セラミック部材と前記貴金属を含有する液体成分とを回収する回収工程と、
を包含することにある。
【0013】
使用済セラミック部材から貴金属を効率よく回収すると同時に、貴金属回収後の使用済セラミック部材を再利用するためには、使用済セラミック部材が元の形状と強度とを維持したまま、当該使用済セラミック部材から貴金属のみを抽出する必要がある。
この点、本構成の使用済セラミック部材の処理方法によれば、導入工程において、使用済セラミック部材を未粉砕状態のまま、塩酸及び硝酸を含有する媒体とともに耐圧容器に導入している。つまり、使用済セラミック部材は、破壊されずに耐圧容器中で当初の形状と強度とを保っている。また、水熱処理工程では、耐圧容器を密封して加熱している。つまり、使用済セラミック部材は、塩酸及び硝酸を含有する媒体の存在下で高圧加熱されることになる。未破壊の使用済セラミック部材について水熱処理を行うと、使用済セラミック部材に含まれる貴金属は貴金属錯イオンの形態で酸液中に溶出するが、セラミック成分は酸液中に溶出することなく、しかも使用済セラミック部材には均等な圧力がかかるだけであるから、使用済セラミック部材が大きなダメージを受けることはない。
従って、本構成の使用済セラミック部材の処理方法を実行すれば、使用済セラミック部材に含まれる貴金属を効率よく回収しながら、処理された使用済セラミック部材を破壊する虞がない。このため、貴金属回収後の使用済セラミック部材を有効に再利用(カスケード利用)することが可能となる。
【0014】
本発明に係る使用済セラミック部材の処理方法では、前記導入工程において、前記硝酸と前記貴金属との比率(硝酸/貴金属)が化学量論比で300以上となるように、前記使用済セラミック部材及び前記媒体の導入量を調製することが好ましい。
【0015】
本構成の使用済セラミック部材の処理方法によれば、硝酸と貴金属との比率(硝酸/貴金属)を化学量論比で300以上とすることにより、使用済セラミック部材に含まれる貴金属を約95%以上の高効率で回収することが可能となる。
【0016】
本発明に係る使用済セラミック部材の処理方法では、前記導入工程において、前記塩酸と前記貴金属との比率(塩酸/貴金属)が化学量論比で50以上となるように、前記使用済セラミック部材及び前記媒体の導入量を調製することが好ましい。
【0017】
本構成の使用済セラミック部材の処理方法によれば、塩酸と貴金属との比率(塩酸/貴金属)を化学量論比で50以上とすることにより、使用済セラミック部材に含まれる貴金属を約95%以上の高効率で回収することが可能となる。
【0018】
本発明に係る使用済セラミック部材の処理方法では、前記水熱処理工程において、処理時間を1時間以上とすることが好ましい。
【0019】
本構成の使用済セラミック部材の処理方法によれば、水熱処理の時間を1時間以上とすることにより、使用済セラミック部材に含まれる貴金属を約95%以上の高効率で回収することが可能となる。
【0020】
本発明に係る使用済セラミック部材の処理方法では、前記水熱処理工程において、処理温度を150℃以上とすることが好ましい。
【0021】
本構成の使用済セラミック部材の処理方法によれば、水熱処理の温度を150℃以上とすることにより、使用済セラミック部材に含まれる貴金属を約95%以上の高効率で回収することが可能となる。
【0022】
本発明に係る使用済セラミック部材の処理方法では、前記使用済セラミック部材は、炭化珪素を含むことが好ましい。
【0023】
本構成の使用済セラミック部材の処理方法によれば、これまで廃棄されていた高価な炭化珪素を含むセラミック部材を有効に再利用(カスケード利用)することができる。
【0024】
本発明に係る使用済セラミック部材の処理方法では、前記貴金属は、白金を含むことが好ましい。
【0025】
本構成の使用済セラミック部材の処理方法によれば、白金を含有する使用済セラミック部材から高価な白金を有効に回収することができる。
【0026】
本発明に係る使用済セラミック部材の処理方法では、前記使用済セラミック部材は、壁部により隔てられた複数のセルが軸方向に並設されたハニカムユニットを少なくとも一つ備えたハニカム構造体であることが好ましい。
【0027】
本構成の使用済セラミック部材の処理方法によれば、自動車の排気ガス浄化用触媒等に使用されるハニカム構造体を処理し、これを有効に再利用(カスケード利用)することができる。
【0028】
本発明に係る使用済セラミック部材の処理方法では、前記ハニカム構造体は、その軸方向から見たとき、各セルの一端部及び他端部が交互に目封じされている目封じ部を備えたハニカムフィルタであることが好ましい。
【0029】
本構成の使用済セラミック部材の処理方法によれば、例えば、ディーゼルエンジン車の排気ガス浄化用触媒等に使用されるDPFを処理し、これを有効に再利用(カスケード利用)することができる。
【0030】
本発明に係る使用済セラミック部材の処理方法では、前記ハニカム構造体のうち、前記目封じ部を含む両端部を切除する切除工程を包含することが好ましい。
【0031】
本構成の使用済セラミック部材の処理方法によれば、ハニカム構造体のうち、目封じ部を含む両端部を切除することにより、軸方向から見て全てのセルが貫通した構造を有する触媒担体が得られるので、この触媒担体を他の用途にも有効に再利用(カスケード利用)することができる。
【0032】
本発明に係る使用済セラミック部材の処理方法では、前記ハニカム構造体は、その軸方向から見たとき、各セルの一端部及び他端部が共に開放されている開口部を備えた触媒担体であることが好ましい。
【0033】
本構成の使用済セラミック部材の処理方法によれば、ハニカム構造体の構成するセルは、軸方向から見たとき、各セルの一端部及び他端部が共に開放されているので、これを触媒担体として有効に再利用(カスケード利用)することができる。
【0034】
本発明に係る使用済セラミック部材の処理方法では、前記回収工程において得られた水熱処理後の前記使用済セラミック部材に、ゼオライト皮膜を形成する皮膜形成工程を包含することが好ましい。
【0035】
本構成の使用済セラミック部材の処理方法によれば、水熱処理後の使用済セラミック部材に、ゼオライト皮膜を形成することにより、再生触媒として他の用途に有効に再利用(カスケード利用)することができる。
【0036】
上記課題を解決するための本発明に係る再生セラミック部材の特徴構成は、
上述した使用済セラミック部材の処理方法を実行して得られることにある。
【0037】
本構成の再生セラミック部材によれば、使用済セラミック部材に含まれる貴金属を効率よく回収した後、再生された使用済セラミック部材は破壊されずに元の形状と強度とを維持しているので、これを他の用途に有効に再利用(カスケード利用)することが可能となる。
【0038】
上記課題を解決するための本発明に係る使用済セラミック部材の再生方法の特徴構成は、
カーボンが付着した使用済セラミック部材の再生方法であって、
前記使用済セラミック部材を未粉砕状態のまま、過酸化水素水を含有する媒体とともに耐圧容器に導入する導入工程と、
前記耐圧容器を密封して加熱する水熱処理工程と、
冷却後、前記耐圧容器から再生された前記使用済セラミック部材と前記カーボンを含有する液体成分とを回収する回収工程と、
を包含することにある。
【0039】
カーボンが付着した使用済セラミック部材を再生し、再利用可能とするためには、使用済セラミック部材が元の形状と強度とを維持したまま、当該使用済セラミック部材からカーボンのみを除去する必要がある。
この点、本構成の使用済セラミック部材の再生方法によれば、導入工程において、使用済セラミック部材を未粉砕状態のまま、過酸化水素を含有する媒体とともに耐圧容器に導入している。つまり、使用済セラミック部材は、破壊されずに耐圧容器中で当初の形状と強度とを保っている。また、水熱処理工程では、耐圧容器を密封して加熱している。つまり、使用済セラミック部材は、過酸化水素を含有する媒体の存在下で高圧加熱されることになる。未破壊の使用済セラミック部材について水熱処理を行うと、使用済セラミック部材に付着しているカーボンは酸液中に溶出するが、セラミック成分は酸液中に溶出することなく、しかも使用済セラミック部材には均等な圧力がかかるだけであるから、使用済セラミック部材が大きなダメージを受けることはない。
従って、本構成の使用済セラミック部材の再生方法を実行すれば、使用済セラミック部材に付着しているカーボンを効率よく除去しながら、再生された使用済セラミック部材を破壊する虞がない。このため、カーボン除去後の使用済セラミック部材を有効に再利用(カスケード利用)することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、ディーゼルエンジンにおけるDPFの使用状態を示す概略図である。
【図2】図2は、DPFの詳細な構造を示す説明図である。
【図3】図3は、使用済DPFの処理条件による白金溶解率の変化を示すグラフである。
【図4】図4は、(a)SiC、(b)ゼオライト、(c)5日間ゼオライト皮膜形成処理をしたSiC、及び(d)20日間ゼオライト皮膜形成処理をしたSiCにおけるX線回折測定の測定結果を示すグラフである。
【図5】図5は、触媒担体の表面にゼオライト被膜を形成した再生触媒の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図6】図6は、硝酸で酸化した触媒担体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図7】図7は、硝酸で酸化した触媒担体の表面にゼオライト皮膜を形成した再生触媒の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図8】図8は、酸化していない触媒担体の表面にゼオライト皮膜を形成した再生触媒の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図9】図9は、使用済DPFの処理条件による再生触媒の残存遊離炭素量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態を図1〜図9を参照して説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態や図面に記載される構成に限定されることを意図しない。
本明細書及び図面では、処理対象物及び再生対象物である使用済セラミック部材として、ディーゼルエンジンの排気ガスの処理に用いられるディーゼル・パーキュレート・フィルター(DPF)を例に挙げ、本発明の「使用済セラミック部材の処理方法」、「再生セラミック部材」、及び「使用済セラミック部材の再生方法」を説明するが、処理対象物及び再生対象物は、例えば、ガソリンエンジンの排気ガス(NOx、CO、HC)の浄化に使用される三元触媒であっても構わない。
以下の説明では、セラミック部材のうち、後述するセルに目封じ部が存在するものをDPFと規定し、目封じ部が存在しないものを触媒担体と規定する。触媒担体は、例えば、排気ガス中の有害物質(NOx、CO、HC)を浄化(改質)するために使用されるものである。
【0042】
〔DPFの構造〕
図1は、ディーゼルエンジン20におけるDPF100の使用状態を示す概略図である。図2は、DPF100の詳細な構造を示す説明図である。ディーゼルエンジン20は、ピストンで圧縮された高圧の気筒内に軽油を噴射し、圧縮着火によって軽油を燃焼させ、そのエネルギーで駆動力を発生させる内燃機関である。ディーゼルエンジン20の燃焼によって発生する排気ガスには、背景技術の項目で説明したように、カーボンを主成分とする粒子状物質(PM)が多く含まれている。この粒子状物質を除去するため、ディーゼルエンジン20にはDPF100が装着される。図1に示すように、ディーゼルエンジン20のエキゾーストマニホルド21の下流側とマフラー(図示せず)につながる排気管23の上流側との間にケーシング22が接続される。ケーシング22は一部が拡径した円筒形状の管部材であり、この中に円柱形状のDPF100が収容される。なお、ケーシング22の内部には、DPF100とともに別の触媒を設けることも可能である。
【0043】
DPF100は、無機材料を含む多孔質のセラミック部材(焼結体)に貴金属を担持して構成される。無機材料としては、SiC、窒化珪素、アルミナ、コーディエライト、ムライト、金属等が挙げられる。このうち、SiCが、熱伝導性、耐熱性、機械的強度、化学的安定性等に優れているため、セラミック部材として用いるのに好ましい。担持する貴金属としては、白金、パラジウム、ロジウム等が挙げられる。このうち、白金が好適に使用される。なお、貴金属は、実際にはγアルミナに担持させた状態で、セラミック部材の表面に存在している。
【0044】
セラミック部材は、次のように構成される。先ず、複数のセル10と呼ばれる細かな管状体を、それらの軸を揃えて上下左右に規則正しく並設し、セル10どうしが壁部13で隔てられた直方体状のユニット(ハニカムユニット)15を形成する。図2に示すように、ユニット15を一端側から見ると、開口部10aを有する一つのセル10の上下左右が目封じされた目封じ部10bとなっている。一方、図1には示していないが、ユニット15を他端側から見ると、上記開口部10aを有する一つのセル10の反対側は目封じされた目封じ部10bとなっており、当該目封じ部10bの上下左右は開口部10aとなっている。すなわち、ユニット15を構成する各セル10は、一端部及び他端部が交互に目封じされており、ユニット15を複数のセル10の集合体として一端部側又は他端部側から見ると、セル10の目封じ部10bが交互に規則正しく反転した(言い換えると、各セル10の一方のみが交互に規則正しく外部に開放した)市松模様状の特殊な構造を有している。
【0045】
ユニット15は複数作製され、耐熱性の接着剤を用いて、最終形状となる円柱形を包含するサイズになるまで積層され、図示しない直方体状のハニカム構造体とされる。ハニカム構造体が完成したら、ダイヤモンドカッター等を用いて所望の円柱形状に切削加工される。円柱形状に加工されたハニカム構造体は、セル10同士を仕切る壁部13が破壊された部分をコーティング剤で埋めて円滑な外周面に仕上げられる。これにより、円柱形状のDPF100が完成する。
【0046】
完成したDPF100は、ケーシング22に収容し、固定され、排気ガスの浄化に供される。ディーゼルエンジン20を駆動すると、ディーゼルエンジン20から排出された排気ガスは、エキゾーストマニホルド21を経て、ケーシング22内部のDPF100に流入する。このとき、DPF100を構成するセル10の一方側(一端部側)の開口部10aから排気ガスとともに粒子状物質Pが進入する。さらに、エンジン内部が削られて発生した微細な金属微粒子、燃え残った燃料や潤滑油の成分(SOF)、軽油燃料中の硫黄分に由来する硫黄化合物(サルフェート)等(以下、アッシュAと称する)も粒子状物質Pと一緒に侵入する。ところが、セル10の他方側は目封じ部10bとなっているため、粒子状物質P及びアッシュAはセル10の内部で一旦トラップされる。この状態を図2中の拡大図に示す。セル10を構成するSiC粒子11は、その表面が白金を含有するγアルミナ12でコーティングされており、互いに焼結されることで、150〜200μm程度の厚みを有する壁部13を形成している。セル10の壁部13は、気体は通過させるが粒子状物質PやアッシュAは通過させない孔径10〜20μm程度の微細孔を備えた多孔質体となっている。トラップされた粒子状物質PやアッシュAがDPF100の内部にある程度蓄積すると、これを図示しないヒーターによって加熱し、燃焼させる。あるいは、排気ガスの熱による自然着火により、燃焼させる。燃焼した粒子状物質Pは主に二酸化炭素に分解され、トラップされていたセル10の壁部13の微細孔を通過し、隣接するセル10に移動する。隣接するセル10の反対側(他端部側)は開口しているので、当該開口部10aから下流の排気管23へと排出される。
【0047】
〔使用済DPFの処理〕
上述のように、DPFは(i)排気ガスの流入、(ii)粒子状物質等のトラップ、(iii)粒子状物質等の燃焼、(iv)二酸化炭素の排出、の各工程が繰り返される。従って、DPFはある程度の耐久性を有している。ところが、DPFを長期間に亘って使用し続けると、貴金属を担持している多孔質SiC焼結体が破損することがある。この場合、DPFを新品に交換し、破損したDPFは使用済DPFとして廃棄されることになる。また、多孔質SiC焼結体が破損しなくても、ディーゼルエンジン車が廃車になると、DPFも使用されなくなり、結果的に使用済DPFとして廃棄されることになる。しかしながら、使用済DPFには高価な白金が含まれており、これを廃棄することは、コスト、資源、環境の観点から好ましいことではない。また、DPFの素材であるSiCは、熱伝導性、耐熱性、機械的強度、化学的安定性等に優れているため、DPF以外の別の用途での利用(カスケード利用)にも十分に耐え得るものである。そこで、使用済DPFを有効利用するため、本発明では、以下に説明する処理方法を実行する。
【0048】
本発明の処理方法は、担体としてのセラミック部材(多孔質SiC焼結体)に白金が担持された使用済のDPFを、白金と触媒担体とに分別するものである。初めに、使用済DPF(使用済セラミック部材)を未粉砕状態のまま、塩酸及び硝酸を含有する混酸(媒体)とともに耐圧容器に導入する(導入工程)。混酸は、王水(塩酸:硝酸=3:1)の他、塩酸及び硝酸の配合比率が王水とは異なるものを使用しても構わない。塩酸及び硝酸の配合比率を、塩酸:硝酸=3:1〜1:5とすることができ、例えば、使用済DPF中の白金担持量(理論値)を1とした場合、塩酸:硝酸=100:500となる混酸を使用することができる。耐圧容器は、腐食防止のため、内部をグラスライニングやフッ素樹脂コーティング等で保護されたものを使用する。使用済DPFを未粉砕状態とするのは、処理後の触媒担体を大きく加工することなく略そのままの状態で使用するためである。使用済DPFは、破壊されずに耐圧容器中で当初の形状と強度とを保っている。
【0049】
次に、耐圧容器を密封して加熱する(水熱処理工程)。水熱処理工程は、オートクレーブを用いて実行することができる。水熱処理工程の間、使用済DPFは、塩酸及び硝酸を含有する媒体の存在下で高圧加熱されることになる。未破壊の使用済DPFについて水熱処理を行うと、使用済DPFに含まれる白金は、式(1)のように、白金錯イオンの形態で酸液中に溶出する。
3Pt + 4HNO + 18HCl →
3H[PtCl] + 4NO + 8HO ・・・ (1)
白金を直接担持しているγアルミナについても、式(2)のように、アルミニウムイオンとなって酸液中に溶出する。
Al + 6H → 2Al3+ + 3H ・・・ (2)
使用済DPFにカーボンが付着している場合、式(3)のように、二酸化炭素に酸化されて放出される。
C + 4HNO → CO + 4NO + 2HO ・・・ (3)
水熱処理工程では、炭化珪素成分は溶出せず、しかも使用済DPFには均等な圧力がかかるだけであるから、使用済DPFが大きなダメージを受けることはない。
【0050】
冷却後、耐圧容器から固形物である処理された使用済DPFと白金を含有する液体成分とを回収する(回収工程)。液体成分については、還元剤や白金よりイオン化傾向の大きい金属を添加することで、白金を金属として得ることができる。使用済DPFについては、当初の複数の管状のセルを集束させた集合体であって、セルの目封じ部が交互に規則正しく反転した市松模様状の特殊構造を維持しているため、洗浄及び乾燥後、そのまま再利用(カスケード利用)することができる。回収した使用済DPFをユニット単位に解体し、使用目的に合うように再度組み立て直して再利用することも可能である。これらの際、必要に応じて、使用済DPFを構成するハニカム構造体のうち、目封じ部を含む両端部(例えば、図2のDPF100における点線位置)を切除し(切除工程)、軸方向から見て管状のセルの全てが貫通状態になった触媒担体を形成することもできる。このようにして得られた触媒担体もSiC焼結体の多孔質構造がそのまま残存しているため、例えば、悪臭成分を吸着する消臭材等の基材として好適に利用することができる。
【0051】
本発明の処理方法は、使用済DPFを未粉砕状態のまま、塩酸及び硝酸を含有する媒体とともに耐圧容器に導入する導入工程と、耐圧容器を密封して加熱する水熱処理工程とを実行することに特徴があるが、上記導入工程及び水熱処理工程における最適条件を探るため、確認試験を実施した。試験では、水熱処理工程を2回繰り返し、1回目の水熱処理後に得られた濾液の濃度をF1、2回目の水熱処理後に得られた濾液の濃度をF2とした。確認試験における試験条件及び試験結果を以下の表1〜表5に示す。これらの表では、同一の試験については、同一の試験No.を付してある。また、酸液への白金の溶解効率は、式(4)より求められる。
溶解効率 = F1×液量/(F1×液量+F2×液量) ・・・ (4)
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
図3は、使用済DPFの処理条件による白金溶解率の変化を示すグラフである。本実施形態では、酸液への白金溶解率の変化について、(a)硝酸/白金比率(化学量論比)、(b)塩酸/白金比率(化学量論比)、(c)水熱処理時間、(d)水熱処理温度、の各影響を確認した。なお、導入工程において耐圧容器に導入する媒体は、試薬として市販されている濃硝酸(約69%)と濃塩酸(約35%)との混酸である。図3(a)は、表1及び表2に示す試験No.1〜6のデータを元に、横軸に硝酸/白金比率(化学量論比)を、縦軸に白金溶解率をとってプロットしたグラフである。図3(a)のグラフより、耐圧容器に導入する混酸中の硝酸と白金との比率(化学量論比)が100を超えると酸液への白金溶解率が徐々に上昇し、300以上では白金溶解率が約95%以上となった。図3(b)は、表3に示す試験No.7〜10のデータを元に、横軸に塩酸/白金比率(化学量論比)を、縦軸に白金溶解率をとってプロットしたグラフである。図3(b)のグラフより、より、耐圧容器に導入する混酸中の塩酸と白金との比率(化学量論比)が25を超えると酸液への白金溶解率が急激に上昇し、50以上では白金溶解率が約95%以上となった。図3(c)は、表4に示す試験No.11〜15のデータを元に、横軸に水熱処理時間を、縦軸に白金溶解率をとってプロットしたグラフである。図3(c)のグラフより、水熱処理の開始直後から酸液への白金溶解率が上昇し、水熱処理時間が1時間以上になると白金溶解率が約95%以上となった。図3(d)は、表5に示す試験No.14、16〜18のデータを元に、横軸に水熱処理温度を、縦軸に白金溶解率をとってプロットしたグラフである。図3(d)のグラフより、水熱処理温度の上昇に伴って酸液への白金溶解率も徐々に上昇し、水熱処理温度が150℃以上になると白金溶解率が約95%以上となった。
【0058】
上記結果より、導入工程において、硝酸/白金比率が化学量論比で300以上となるように、あるいは、塩酸/白金比率が化学量論比で50以上となるように、使用済DPF及び媒体(硝酸と塩酸との混酸)の導入量を調製すれば、使用済DPFに含まれる白金を効率よく回収し得ることが判明した。導入工程における上限値は、硝酸/白金比率については化学量論比で600以下、塩酸/白金比率については化学量論比で200以下である。これらの上限値を超えて使用済DPF及び媒体(硝酸と塩酸との混酸)の導入量を調製しても、白金溶解率は殆ど変わらず、酸液が無駄になるばかりか、廃酸処理コストの増加にもつながるため好ましくない。また、水熱処理工程において、水熱処理時間を1時間以上、あるいは、水熱処理温度を150℃以上とすれば、使用済DPFに含まれる白金を効率よく回収し得ることが判明した。水熱処理工程における上限値は、水熱処理時間については30時間以下、水熱処理温度については250℃以下である。これらの上限値を超えて水熱処理を行っても、白金溶解率は殆ど変わらず、エネルギーコストの増加を招くため好ましくない。また、水熱処理温度が250℃を超える場合は、耐圧容器が浸食されるおそれもある。最も好適な処理条件は、使用済触媒と混酸(硝酸1.5M及び塩酸10M)とを導入し、水熱処理時間を24時間、水熱処理温度を200℃として、水熱処理を実施する。この条件下では、白金回収効率は略100%であった。
【0059】
〔触媒担体へのゼオライト皮膜形成〕
回収工程により回収された水熱処理後の使用済DPFは、再生触媒として別の用途に利用(カスケード利用)することが可能である。本実施形態では、特に、使用済DPFを構成するハニカム構造体のうち、目封じ部を含む両端部を切除して触媒担体を形成し、この触媒担体(多孔質SiC焼結体)にゼオライトの被膜を形成すること(皮膜形成工程)を試みた。ゼオライトは、二酸化ケイ素を基本骨格とし、一部のケイ素原子を他の原子で置換した環状の分子構造を有する。ゼオライトは、多数の微細孔を有しており、当該微細孔の内部に特定の物質を選択的に取り込むことができるため、触媒、モレキュラーシーブ、吸着材料等に広く利用されている。本実施形態では、触媒担体となるSiC、被膜となるゼオライト、及びSiC表面にゼオライト被膜を形成したものについて、X線回折測定を行った。測定には、株式会社リガク製の「RIGAKU RINT−2500」を使用し、X線源としてCuKαを使用した。図4(a)にSiCのX線回折測定結果のグラフを、図4(b)にゼオライトのX線回折測定結果のグラフを示す。ゼオライトは、2θ=22.8°及び23.2°に特徴的なピークを有する。
【0060】
SiC表面にゼオライト被膜を形成するべく、さらなる水熱処理をオートクレーブによって実施した。具体的には、本発明の使用済セラミック部材の処理方法により得られた使用済DPFを洗浄・乾燥し、目封じ部を含む両端部を切除して触媒担体を形成し、これをSi源としてのコロイダルシリカ(シリカゲルを3重量%含有する懸濁液)、テトラプロピルアンモニウム水酸化物(TPAOH)、フッ化水素(HF)、及び適量の水とともにオートクレーブに導入した。その後、オートクレーブを密封し、10rpmで回転させながら、200℃で5〜20日間に亘って水熱処理を行った。試験条件を以下の表6に示す。
【0061】
【表6】

【0062】
試験No.101〜104の何れの条件においても、水熱処理を行うことにより、触媒担体の表面が10員酸素環構造を有するゼオライト(MFI)で被膜された再生触媒(再生セラミック部材)が得られた。再生触媒のX線回折測定結果のグラフを図4(c)及び図4(d)に示す。5日間処理(c)及び20日間処理(d)の何れにおいても、ゼオライト特有の2θ=22.8°及び23.2°のピークが現れ、SiCの表面にゼオライト被膜が形成されていることが確認された。触媒担体の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を図5に示す。(a)が5日間処理して得られた触媒担体(倍率2300倍)であり、(b)が10日間処理して得られた触媒担体(倍率900倍)である。比較的平滑なSiCの表面に観察される柱状の結晶がゼオライトである。図5(a)及び(b)を比較すると、水熱処理の時間が長くなるにつれ、SiCの表面により多くのゼオライト被膜が形成されることが確認された。従って、ゼオライト皮膜の膜厚は、水熱処理時間を変更することで、ある程度調整可能である。また、コロイダルシリカの添加量を変更することでも、ゼオライト皮膜の膜厚調整は可能と考えられる。
【0063】
ところで、SiCの表面に強固なゼオライト被膜を形成するためには、SiCの表面に強力なSi−O結合を形成することが有効であると考えられる。Si−O結合の形成には、SiCに対して酸化処理を行うことが必要となる。酸化処理は、例えば、硝酸や硫酸等の酸性液体による酸化、塩素やオゾン等の酸化性ガスによる酸化、プラズマ放電やコロナ放電等の放電酸化を利用することができる。本実施形態では、触媒担体となる多孔質SiC焼結体の表面に対し、硝酸を用いて酸化処理を行うことを試みた。酸化処理は、2mol/Lの硝酸水溶液を使用し、150℃で24時間に亘って実施した。図6に、硝酸で酸化した触媒担体の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。(a)は倍率を2000倍、(b)は倍率を4000倍、(c)及び(d)は倍率を14000倍にして観察した写真である。図6(a)〜(d)より、酸化処理によって触媒担体の一部がエッチングされていることが確認されたが、外見上、酸化処理前と比べて特に大きな変化は見られなかった。
【0064】
図7に、硝酸で酸化した触媒担体の表面にゼオライト被膜を形成した再生触媒の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。(a)は倍率を2500倍、(b)は倍率を1800倍、(c)は倍率を3000倍、(d)は倍率を8000倍にして観察した写真である。ゼオライト被膜の形成は、Si源としてコロイダルシリカを用いた上述の水熱処理によって行った。図7(a)〜(d)より、酸化処理を行ったSiCに対してゼオライト被膜の形成を試みると、比較的均一なゼオライト被膜が形成されることが確認された。また、ゼオライト被膜は比較的安定しており、SiCの表面にSi−O結合が形成されていると予測される。
【0065】
比較のため、図8に、酸化していない触媒担体の表面にゼオライト被膜を形成した再生触媒の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。(a)は倍率を5000倍、(b)は倍率を9000倍、(c)は倍率を3300倍にして観察した写真である。図8(a)〜(c)より、酸化処理を行わない場合でも、SiCの表面にゼオライト被膜を形成することは可能であるが、全体的に被膜形成量が少なく、ムラがあった。また、ゼオライト被膜は脆くなっており、SiCの表面にSi−O結合は殆ど存在していないと予測される。
【0066】
このように、触媒担体の表面にゼオライト被膜を形成するに際し、SiCに対して予め酸化処理を行っておくことで、より強固なゼオライト被膜の形成が可能となることが示唆された。ゼオライト被膜が形成された触媒担体は、そのままの状態で利用(カスケード利用)することができる。また、処理及び皮膜形成を行った触媒を一旦ユニット単位に分解し、これを再度組み立て直すことにより、目的とする再生触媒として使用しても構わない。このようにして得られた再生触媒は、別の用途(例えば、吸着材、消臭材、消音材等)に再利用(カスケード利用)することができる。
【0067】
〔使用済DPFの再生〕
上記実施形態では、多孔質SiC焼結体に白金が担持された使用済DPFを、DPFと白金を含有する液体成分とに分別する処理を行っていたが、分別をすることなく、触媒再生のみを行うことも可能である。本実施形態では、使用済DPFに付着したカーボンを除去し、元の触媒の状態に再生する触媒再生方法について説明する。
【0068】
初めに、カーボンが付着した使用済DPFを未粉砕状態のまま、過酸化水素水を含有する媒体とともに耐圧容器に導入する(導入工程)。過酸化水素水は、市販されている約30%濃度のものを使用することができる。耐圧容器は、腐食防止のため、内部をグラスライニングやフッ素樹脂コーティング等で保護されたものを使用する。使用済DPFを未粉砕状態とするのは、処理後の触媒担体を大きく加工することなく略そのままの状態で使用するためである。使用済DPFは、破壊されずに耐圧容器中で当初の形状と強度とを保っている。
【0069】
次に、耐圧容器を密封して加熱する(水熱処理工程)。水熱処理工程は、オートクレーブを用いて実行することができる。水熱処理工程の間、使用済DPFは、過酸化水素水を含有する媒体の存在下で高圧加熱されることになる。未破壊の使用済DPFについて水熱処理を行うと、使用済DPFに付着していた一部のカーボンは、式(5)のように、二酸化炭素に酸化されて放出される。
C + 2H → CO + 2HO ・・・ (5)
また、使用済DPFにタール状に付着している炭素成分は、アッシュとともに分解し、粉末固形状残渣となって耐圧容器底部に沈殿する。水熱処理工程では、炭化珪素成分は酸液中に溶出せず、しかも使用済DPFには均等な圧力がかかるだけであるから、使用済DPFが大きなダメージを受けることはない。また、DPF中の白金もそのまま存在している。
【0070】
ここで、上記導入工程及び水熱処理工程における最適条件を探るため、確認試験を実施した。試験では、使用済DPFに含まれる炭素量の変化について、(a)水熱処理時間、(b)水熱処理温度、(c)過酸化水素と炭素との化学量論比としての比率(H/C)、の各影響を確認した。ちなみに、再生触媒に要求される残存遊離炭素量は、0.5%以下である。図9は、使用済DPFの処理条件による再生触媒の残存遊離炭素量の変化を示すグラフである。図9(a)〜(c)より、再生触媒中の残存遊離炭素量が0.5%以下となる条件として、(a)水熱処理時間を約13時間以上とする、(b)水熱処理温度を約190℃以上とする、(c)過酸化水素と炭素との比率(H/C)を約1以上とする、ことが示唆された。各処理条件における上限値は、水熱処理時間については30時間以下、水熱処理温度については250℃以下、過酸化水素と炭素との比率(H/C)については8以下である。これらの上限値を超えて水熱処理を行っても、残存遊離炭素量は既に十分低減されており、むしろエネルギーコストや廃酸処理コストの増加を招くため好ましくない。また、水熱処理温度が250℃を超える場合は、耐圧容器が浸食されるおそれもある。なお、最も好適な処理条件は、水熱処理時間を24時間、水熱処理温度を200℃、過酸化水素と炭素との比率(H/C)を3以上とした場合であった。この場合、再生触媒中の残存遊離炭素量は略ゼロとなった。
【0071】
水熱処理工程が完了したらオートクレーブを冷却し、耐圧容器から固形物である再生触媒とカーボンを含有する液体成分とを回収する(回収工程)。液体成分は廃棄されるが、活性が残っている場合は次回の水熱処理に再利用しても構わない。再生触媒は、当初の複数の管状のセルを集束させた集合体であって、セルの目封じ部が交互に規則正しく反転した市松模様状の特殊構造を維持しており、さらに、表面に白金が担持されている。このため、洗浄及び乾燥後、そのまま再利用(カスケード利用)することができる。再生触媒は、再びDPFとして使用することも当然可能であるが、DPFは過酷な環境下で使用される部品であるため、製品寿命等を考慮し、他の用途に利用される場合が多い。例えば、再生触媒をユニット単位に解体し、使用目的に合うように再度組み立て直して再利用することができる。この際、必要に応じて、再生触媒の両端を切除し、複数の管状のセルを貫通状態にしても構わない。このような再生触媒は、顧客のニーズに合致した多品種少量生産が可能であり、例えば、ガス改質触媒、石油精製用触媒、脱煙触媒、各種フィルター、吸着材、消臭材、消音材等に好適に利用することができる。
【0072】
〔別実施形態〕
触媒担体の表面にゼオライト被膜を形成するに際し、上記実施形態ではSi源としてコロイダルシリカを使用したが、これに代えて、液体ケイ素化合物を使用することも可能である。例えば、有機ケイ素化合物の一つであるシランアルコキシドは、反応前は低粘度の液体であるため、SiC表面の微細孔に浸入し易い。そこで、SiCの表面をシランアルコキシドによって十分に濡らした状態とし、この状態でゾル−ゲル反応(加水分解)を行えば、SiCの表面に均一なSiO膜を形成することが原理的に可能となる。シランアルコキシドとしては、テトラメトキシシラン(TMOS)、テトラエトキシシラン(TEOS)等が使用可能である。また、液体ケイ素化合物として、水ガラス、シランカップリング剤等を使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の使用済セラミック部材の処理方法、再生セラミック部材、及び使用済セラミック部材の再生方法は、ディーゼルエンジン車の排気ガスの浄化に使われているDPFの処理及び再生に好適に利用することができる。また、他の触媒(例えば、ガソリンエンジンの排気ガス(NOx、CO、HC)の浄化に使用される三元触媒、燃料電池用のガス改質触媒、石油精製用触媒等)の処理及び再生にも利用することができる。
【符号の説明】
【0074】
10 セル
10a 開口部
10b 閉鎖部
11 SiC粒子
12 γアルミナ
13 壁部
15 ユニット
20 ディーゼルエンジン
21 エキゾーストマニホルド
22 ケーシング
23 排気管
100 ディーゼル・パーティキュレート・フィルター(DPF)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属が担持された使用済セラミック部材の処理方法であって、
前記使用済セラミック部材を未粉砕状態のまま、塩酸及び硝酸を含有する媒体とともに耐圧容器に導入する導入工程と、
前記耐圧容器を密封して加熱する水熱処理工程と、
冷却後、前記耐圧容器から処理された前記使用済セラミック部材と前記貴金属を含有する液体成分とを回収する回収工程と、
を包含する使用済セラミック部材の処理方法。
【請求項2】
前記導入工程において、前記硝酸と前記貴金属との比率(硝酸/貴金属)が化学量論比で300以上となるように、前記使用済セラミック部材及び前記媒体の導入量を調製する請求項1に記載の使用済セラミック部材の処理方法。
【請求項3】
前記導入工程において、前記塩酸と前記貴金属との比率(塩酸/貴金属)が化学量論比で50以上となるように、前記使用済セラミック部材及び前記媒体の導入量を調製する請求項1又は2に記載の使用済セラミック部材の処理方法。
【請求項4】
前記水熱処理工程において、処理時間を1時間以上とする請求項1〜3の何れか一項に記載の使用済セラミック部材の処理方法。
【請求項5】
前記水熱処理工程において、処理温度を150℃以上とする請求項1〜4の何れか一項に記載の使用済セラミック部材の処理方法。
【請求項6】
前記使用済セラミック部材は、炭化珪素を含む請求項1〜5の何れか一項に記載の使用済セラミック部材の処理方法。
【請求項7】
前記貴金属は、白金を含む請求項1〜6の何れか一項に記載の使用済セラミック部材の処理方法。
【請求項8】
前記使用済セラミック部材は、壁部により隔てられた複数のセルが軸方向に並設されたハニカムユニットを少なくとも一つ備えたハニカム構造体である請求項1〜7の何れか一項に記載の使用済セラミック部材の処理方法。
【請求項9】
前記ハニカム構造体は、その軸方向から見たとき、各セルの一端部及び他端部が交互に目封じされている目封じ部を備えたハニカムフィルタである請求項8に記載の使用済セラミック部材の処理方法。
【請求項10】
前記ハニカム構造体のうち、前記目封じ部を含む両端部を切除する切除工程を包含する請求項9に記載の使用済セラミック部材の処理方法。
【請求項11】
前記ハニカム構造体は、その軸方向から見たとき、各セルの一端部及び他端部が共に開放されている開口部を備えた触媒担体である請求項8に記載の使用済セラミック部材の処理方法。
【請求項12】
前記回収工程において得られた水熱処理後の前記使用済セラミック部材に、ゼオライト皮膜を形成する皮膜形成工程を包含する請求項1〜11の何れか一項に記載の使用済セラミック部材の処理方法。
【請求項13】
請求項1〜12の何れか一項に記載の使用済セラミック部材の処理方法を実行して得られる再生セラミック部材。
【請求項14】
カーボンが付着した使用済セラミック部材の再生方法であって、
前記使用済セラミック部材を未粉砕状態のまま、過酸化水素水を含有する媒体とともに耐圧容器に導入する導入工程と、
前記耐圧容器を密封して加熱する水熱処理工程と、
冷却後、前記耐圧容器から再生された前記使用済セラミック部材と前記カーボンを含有する液体成分とを回収する回収工程と、
を包含する使用済セラミック部材の再生方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図9】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−188724(P2012−188724A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55542(P2011−55542)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【出願人】(000000158)イビデン株式会社 (856)
【Fターム(参考)】