説明

便座リフトアップ装置及びそれを具備した便座装置

【課題】便座装置を十分に上昇させ、便器本体の後部上面を容易に掃除することができる便座リフトアップ装置及びそれを具備した便座装置を提供する。
【解決手段】便座リフトアップ装置10は、便座4及び便座4を回動自在に軸支する便座支持部材6を有する便座装置3を昇降可能に便器本体1の上面に取り付ける。便座リフトアップ装置10は、便座支持部材6の底面に取り付けられ、垂直下方に延びる軸部材20と、便器本体1の後部上面に垂直方向に貫設された取付孔1Hに固定され、軸部材20が上下動可能に貫通する貫通孔32を有する筒部材30と、軸部材20の外周面と筒部材30の内周面との間に配置され、弾性力により軸部材20を上昇させる弾性部材40とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は便座リフトアップ装置及びそれを具備した便座装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図1に従来の便座リフトアップ装置が開示されている。この便座リフトアップ装置は、軸部材、筒部材及び圧縮コイルバネを備えている。軸部材は、円柱状であり、便座を回動自在に軸支する便座支持部材の底面に取り付けられ、垂直下方に延びている。筒部材は円筒状であり、上端部の外周縁には外側に拡がる鍔部が形成されている。また、筒部材の外周面には螺子山が形成されている。筒部材は、便器本体の後部上面に垂直方向に貫設された取付孔に対して上方から挿入され、下端からねじ込まれたナットにより取付孔に固定されている。筒部材の下端開口は蓋部材により閉鎖されている。筒部材の内周面は軸部材を上下方向に移動可能に保持している。筒部材の下部に形成された軸部材の下端面と蓋部材の上面との間の空間に圧縮コイルバネが収納されている。この圧縮コイルバネの弾性力により軸部材は上方へ付勢されている。
【0003】
この便座リフトアップ装置では、圧縮コイルバネの弾性力により軸部材を上昇させ、便座を回動自在に軸支する便座支持部材を上昇させることができる。このため、この便座リフトアップ装置により便座装置を便器本体から上昇させ、それにより便座支持部材と便器本体の後部上面との間に生じた隙間を利用して便器本体の後部上面を掃除することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−5100号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の便座リフトアップ装置では、圧縮コイルバネの長さが短いため、便座装置の上昇量が小さい。このため、便座装置が上昇して生じた便座支持部材と便器本体の後部上面との間の隙間に雑巾などの掃除具を挿入し難く、便器本体の後部上面の掃除がし難い。そこで、便座装置の上昇量を大きくするためには、伸張量が大きい長い圧縮コイルバネを利用することが考えられる。この場合、軸部材の下端面と蓋部材の上面との間の空間を長くしたり、軸部材の長さを長くしたりしなければならない。このため、便器本体の取付孔の下方に突出する筒部材が長くなる。また、筒部材を取付孔に固定するためにはナットを筒部材の下方からねじ込むために挿入する空間も必要である。このようなことから、筒部材の下方の空間の上下方向の長さを長くしなければならない。しかし、便器本体の取付孔の下方の空間の上下方向の長さを長くすることができなかったり、既存の便器では便器本体の取付孔の下方の空間の上下方向の長さが短かったりする場合がある。この場合には、このような便座リフトアップ装置を利用することができず、便座装置を十分に上昇させることができない。
【0006】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、便座装置を十分に上昇させ、便器本体の後部上面を容易に掃除することができる便座リフトアップ装置及びそれを具備した便座装置を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の便座リフトアップ装置は、便座及び便座を回動自在に軸支する便座支持部材を有する便座装置を昇降可能に便器本体の上面に取り付ける便座リフトアップ装置であって、
前記便座支持部材の底面に取り付けられ、垂直下方に延びる軸部材と、
前記便器本体の後部上面に垂直方向に貫設された取付孔に固定され、前記軸部材が上下動可能に貫通する貫通孔を有する筒部材と、
前記軸部材の外周面と前記筒部材の内周面との間に配置され、弾性力により軸部材を上昇させる弾性部材とを備えていることを特徴とする。
【0008】
この便座リフトアップ装置では、軸部材を上昇させる弾性部材が軸部材の外周面と筒部材の内周面との間に配置されている。つまり、弾性部材を軸部材にオーバーラップさせて筒部材内に収納するため、筒部材を長くしなくても長い弾性部材を採用することができる。長い弾性部材を採用することによって、弾性部材の伸張量を大きくすることができ、便座装置の上昇量を大きくすることができる。このため、便座装置を上昇させた際、便座支持部材と便器本体の後部上面との間の隙間を大きくすることができる。
【0009】
したがって、本発明の便座リフトアップ装置では、便座装置を十分に上昇させ、便器本体の後部上面を容易に掃除することができる。
【0010】
前記貫通孔は、下部の内径が前記軸部材の外径より僅かに大きく形成され、その内周面が軸部材の軸方向への上下動を案内し、上部の内径が下部の内径よりも大きく形成され、その内周面と軸部材の外周面との間に前記弾性部材が収納され得る。この場合、貫通孔の下部の内周面によって軸部材の軸方向への上下動を案内されるため、便座装置の昇降を安定して行なうことができる。
【0011】
前記軸部材は、前記筒部材よりも長く形成され、筒部材の下端よりも下方に突出した下端部に設けられ、筒部材の下面に係止する係止部を有し得る。この場合、軸部材が上昇した際、筒部材の下面に係止部が係止するため、軸部材が筒部材から抜けてしまうことを防止することができる。このため、便座装置が上昇した際、便座装置が便器本体から外れてしまうことを防止することができる。また、便座装置を上昇させた状態でも、軸部材は筒部材を貫通し、筒部材に保持されるため、便座装置の上昇状態を安定させることができる。さらに、軸部材を上昇させ、筒部材の下端から下方に突出する軸部材の長さを短くすることにより、筒部材の下方の空間の上下方向の長さを長くすることができるため、筒部材の下方からナットをねじ込み易く、取付孔に筒部材を容易に取り付けることができる。
【0012】
前記筒部材の下端部は強磁性体からなり、前記係止部は磁力を有し得る。この場合、軸部材が上昇すると、軸部材の下端部に設けられた係止部が筒部材の下端部に磁着する。このため、便座装置の上昇状態を弾性部材の弾性力のみでなく、係止部の磁力によっても保持することができ、便座装置の上昇状態を安定させることができる。
【0013】
前記筒部材を前記取付孔に固定することにより便器本体の後部上面に固定される下プレートと、前記軸部材の上端部に連結され、軸部材の上下動とともに上下動可能であり、前記便座支持部材が取り付けられる上プレートとを備え、前記下プレート及び前記上プレートに設けられ、前記弾性部材の弾性力に抗して下プレートと上プレートとを重ね合わせた状態に保持するロック機構を有し得る。この場合、ロック機構が弾性部材の弾性力に抗して下プレートと上プレートとを重ね合わせた状態に保持することにより、便座装置が便器本体の上面に載置されるため、便座装置の通常の使用が可能となる。
【0014】
前記弾性部材は中心軸部に前記軸部材が貫通した圧縮コイルバネであり、
軸部材の上端部に連結されて軸部材とともに上下動し、圧縮コイルバネの外周を覆う円筒状のカバー部材を備え得る。この場合、カバー部材が圧縮コイルバネの外周を覆うため、圧縮コイルバネを形成する線材間に埃などが溜まることを防止することができる。このため、圧縮コイルバネの伸縮を長期にわたり良好に行なうことができるため、便座装置の昇降を良好に行なうことができる。
【0015】
前記上プレートの左右両端部に前後方向に延びる平板状の挿入片が形成されており、前記便座支持部材の底面に形成された内方及び後方に向けて開口する一対の挿入溝に挿入片が挿入され係止した状態で上プレートに便座支持部材が取り付けられ得る。この場合、便器本体の後部上面に取り付けられた便座リフトアップ装置の前方から便座支持部材を後方へスライドさせることにより、挿入溝へ挿入片を挿入させ係止させることができる。このように、便器本体の上面に取り付けられた便座リフトアップ装置に対して便座装置を容易に取り付けることができる。また、挿入溝を有する便座装置であれば、便座リフトアップ装置を介して、便器本体に後付けしたり、交換したりすることができる。
【0016】
前記ロック機構は、前記便座支持部材に設けられたレバー部材により解除可能であり得る。この場合、便座支持部材のレバー部材を操作することにより、ロック機構を容易に解除することができ、便座装置を上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例の便座リフトアップ装置により便器本体に取り付けられた便座装置の上昇状態を示す側面図である。
【図2】実施例の便座リフトアップ装置により便器本体に取り付けられた便座装置の下降状態を示す側面図である。
【図3】実施例の便座リフトアップ装置の分解斜視図である。
【図4】実施例の便座リフトアップ装置の便器本体への取付けを示す断面図である。
【図5】実施例の便座リフトアップ装置の平面図である。
【図6】実施例の便座リフトアップ装置と便座装置との取付けを示す斜視図である。
【図7】実施例の便座リフトアップ装置により便器本体に取り付けられた便座装置の下降状態を示す図5における矢視X−X断面図である。
【図8】実施例の便座装置が取り付けられた便座リフトアップ装置の平面図であり、(A)は便座装置の取付け状態を示し、(B)ロック機構の解除状態を示す。
【図9】実施例の便座リフトアップ装置により便器本体に取り付けられた便座装置の上昇状態を示す図5における矢視X−X断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の便座リフトアップ装置及びそれを具備した便座装置を具体化した実施例を図面を参照しつつ説明する。
【実施例】
【0019】
実施例の便座リフトアップ装置10は、図1及び図2に示すように、便器本体1の上面に便座装置3を昇降可能に取り付けることができる。便器本体1は後端部上面に洗浄タンク2を載置している。便座装置3は、便座4と、便蓋5と、便座4及び便蓋5を回動自在に軸支する便座支持部材6を有している。便座支持部材6には、前端部の下面から斜め前方下方に突出可能な局部洗浄ノズルNなどを有する局部洗浄装置が組み込まれている。
【0020】
便座リフトアップ装置10は、図3及び図4に示すように、軸部材20、筒部材30、弾性部材である圧縮コイルバネ40、カバー部材50、上プレート60及び下プレート70を備えている。
【0021】
軸部材20は、第1円柱部20Aと、第1円柱部20Aの下端に同軸上に延びて形成され、第1円柱部20Aよりも小径の第2円柱部20Bと、第1円柱部20Aの上端に形成され、第1円柱部20Aよりも外側に広がる円盤状の鍔部20Cとから形成されている。軸部材20には、鍔部20Cの上面から軸上に螺子孔が形成されている。
【0022】
筒部材30は軸方向に貫通する貫通孔32を有する円筒形である。筒部材30は、外周面に螺子山が形成されており、パッキン36を挿通可能であり、ナット35をねじ込み可能である。筒部材30の上端には正方形の鍔部31が形成されている。鍔部31の上面には軸部材20の鍔部20Cが嵌まり込む凹部31Aが形成されている。鍔部31の下面には、各辺の中央部から内側に延びる凸条部31Bが形成されている。筒部材30の貫通孔32は、鍔部31側である上部を形成する第1孔部32Aと、第1孔部32Aの下方に連続して下部を形成する第2孔部32Bとから構成されている。第1孔部32Aと第2孔部32Bとは同軸上に形成されている。第1孔部32Aの内径は第2孔部32Bの内径よりも大きく形成されている。第2孔部32Bの内径は軸部材20の第2円柱部20Bの外径より僅かに大きく形成されており、その内周面が軸部材20の軸方向への上下動を案内する。このため、軸部材20の軸方向への上下動を安定して行なうことができる。筒部材30は鉄製である。
【0023】
軸部材20の軸方向の長さは筒部材30の軸方向の長さよりも長く形成されている。このため、筒部材30の貫通孔32に上方から挿入された軸部材20は、下端部が筒部材30の貫通孔32の下端開口から突出する。貫通孔32の下端開口から突出した軸部材20の下端面には、リング状の磁石24Mと、磁石24Mを挟持する一対のワッシャー24WとがボルトB1により固定され、係止部24が形成されている。係止部24の外径は第2孔部32Bの内径よりも大きく形成されている。このため、軸部材20が上昇すると、係止部24は筒部材30の下面に係止するとともに磁石24Mの磁力により磁着する。
【0024】
圧縮コイルバネ40は中心軸部に軸部材20が貫通している。圧縮コイルバネ40は、軸部材20とともに筒部材30の第1孔部32Aに上方から挿入されている。圧縮コイルバネ40は、上端が軸部材20の鍔部20Cの下面に当接し、下端が筒部材30の貫通孔32の第1孔部32Aと第2孔部32Bとの境界部に形成された段部33に当接した状態で、軸部材20の外周面と筒部材30の内周面との間に配置されている。このように圧縮コイルバネ40は軸部材20にオーバーラップして筒部材30内に収納されている。このため筒部材30を長くしなくても圧縮コイルバネ40を長くすることができ、圧縮コイルバネ40の伸張量を大きくすることができる。圧縮コイルバネ40が伸張した状態では、筒部材30の上方に軸部材20の第1円柱部20Aの大半が突出する。
【0025】
カバー部材50は、円筒体であり、上端部の4方向に軸部材20の鍔部20Cに係止するコ字状の爪部51が形成されている。爪部51が軸部材20の鍔部20Cの外周縁を挟み込むように係止することにより、カバー部材50が鍔部20Cに連結されている。このため、カバー部材50は軸部材20とともに軸方向に上下動可能である。カバー部材50は、軸部材20が貫通した圧縮コイルバネ40の外周を覆いつつ、筒部材30の第1孔部32Aに上方から挿入されている。カバー部材50は、圧縮コイルバネ40の弾性力により軸部材20とともに上昇しても、下部が筒部材30の第1孔部32Aに挿入される長さを有している。このため、圧縮コイルバネ40が伸張することにより、筒部材30の上方に位置する圧縮コイルバネ40は露出しない。よって、圧縮コイルバネ40を形成する線材間に埃などが溜まることを防止することができ、圧縮コイルバネ40の伸縮を長期にわたり良好に行なうことができる。
【0026】
上プレート60は、上面プレート61と上固定プレート62とを有している。上面プレート61は平板状であり、左右両端部には前後方向に延びる挿入片63が形成されている。左右の各挿入片63の内側には前後方向に延び、ワッシャーWが嵌まり込む長円形の一対の凹部64が形成されている。左右各凹部64の左右中心部には前後方向に延び、ボルトB1が挿通可能な第1長孔64Hが貫設されている。凹部64より内側には一対の第1切欠部65が形成されている。各第1切欠部65は、後述する上固定プレート62に形成された第1挿入溝67A及び係止溝67Bが上方に開口するように切り欠かれている。第1切欠部65より内側である上面プレート61の中央部には、前方に開放された第2切欠部66が形成されている。第2切欠部66は、後述する上固定プレート62に形成された第2挿入溝68が上方に開口し、かつ後述する下プレート70に設けられたロック部材80の一部を上方に露出させ、ロック部材80を上方から操作可能に切り欠かれている。
【0027】
上固定プレート62の左右幅は上面プレート61に形成された左右各凹部64の間隔よりも小さく形成されている。このため、上固定プレート62の上面に上面プレート61がボルトB2により固定された際、上面プレート61の各凹部64及び各挿入片63は、上固定プレート62の左右上端より外側に位置している。上固定プレート62の左右両端部には、前方及び上方に開口し、前後方向に延びる一対の第1挿入溝67Aが形成されている。各第1挿入溝67Aの右側面は後部が左斜め後方に屈曲している。上固定プレート62には、各第1挿入溝67Aの後端部に連続して右方向に延び、上方に開口する係止溝67Bが形成されている。上固定プレート62の前部中央には、前方、後方及び上方に開口した第2挿入溝68が形成されている。第2挿入溝68の後部には上下方向に貫通する開口部69が形成されている。開口部69を形成する前側壁には水平方向に延びる平板状の第1係止棚部81Aが形成され、後側壁には水平方向に延びる平板状の第2係止棚部82Aが形成されている。開口部69は、後述する下固定プレート71に設けられたロック部材80を収納する収納部75を下方から挿入可能に形成されている。
【0028】
上プレート60は、上固定プレート62の上面に上面プレート61がボルトB2により固定されて構成されている。上面プレート61に形成された一対の凹部64にワッシャーWが載置され、ワッシャーWを介して左右の第1長孔64Hに上方からボルトB1が挿通されている。第1長孔64Hを挿通したボルトB1が軸部材20の鍔部20Cの上面から下方に延びる螺子孔にねじ込まれ、軸部材20が上面プレート61の下面に固定されている。上プレート60に対する軸部材20の固定位置は、前後方向に延びる第1長孔64Hにより前後方向に調整可能である。このため、上プレート60を後述する下プレート70に対して重ね合わせ状態に下降させることができる。上プレート60の左右下面に固定された一対の軸部材20には、前述したように圧縮コイルバネ40、カバー部材50、筒部材30及び係止部24が組み付けられている。
【0029】
下プレート70は、下固定プレート71と下面プレート72とを有している。下固定プレート71は、上固定プレート62が嵌まりこむ中央部73と、中央部の左右に設けられ、前後方向に延びる溝部74とを有している。溝部74の底面の左右中央部には前後方向に延びる第2長孔74Hが設けられている。溝部74の左右幅は、筒部材30の鍔部31の一片よりも僅かに大きく形成され、第2長孔74Hの左右幅は筒部材30の径よりも僅かに大きく形成されている。このため、筒部材30は第2長孔74Hに挿通されると、筒部材30の鍔部31が第2長孔74Hの左右縁部の上面に係止する。第2長孔74Hの左右縁部の上面には複数の凸部74Cが所定間隔毎に配置されている。凸部74C間に筒部材30の鍔部31の下面に形成された凸条部31Bが嵌まりこむため、筒部材30に対して下プレート70を前後方向にずれなくすることができる。各溝部74の下面には、前後方向に延びる2本の滑り止め用のパッキン77が貼着されている。
【0030】
下固定プレート71の中央部73には、ロック部材80を収納する収納部75が形成されている。ロック部材80は、左右に延びる略四角柱形であり、中央部に前方及び上方に開口する第1凹部83が設けられている。第1凹部83を形成する右壁部83Rよりも右側には上方及び右方に開口する第2凹部84が設けられている。第2凹部84には、右壁部83Rの右側面に左端を当接させて圧縮コイルバネ85が収納される。ロック部材80の前面の左側には水平方向に延びる第1係止爪81Bが形成され、後面の右側には水平方向の延びる第2係止爪82Bが形成されている。第1係止爪81B及び第2係止爪82Bの左側上面は左下方に向けて傾斜する傾斜面である。収納部75は、横長四角柱形の空洞部を形成しており、下方に開口している。また、収納部75の前面には前面開口部76Fが形成され、上面には前面開口部76Fに連続した上面開口部76Tが形成されている。さらに、収納部75の後面には後面開口部76Bが形成されている。
【0031】
ロック部材80は下方開口から収納部75に挿入され、収納される。ロック部材80は、収納部75内で左右方向に移動可能であり、圧縮コイルバネ85の弾性力により左方向に付勢される。収納部75にロック部材80を収納した状態で、下面プレート72をボルトB2により下固定プレート71の下面に固定する。これにより、収納部75の下方開口は閉鎖される。この状態で、収納部75の前面開口部76Fからロック部材80の第1係止爪81Bが突出し、後面開口部76Bから第2係止爪82Bが突出している。また、上面開口部76Tには、第1凹部83及び第2凹部84の左側の一部が露出している。
【0032】
下プレート70に対して上プレート60を下降させると、上固定プレート62に形成された第1係止棚部81Aがロック部材82に形成された第1係止爪81Bの左側上面に当接し、第2係止棚部82Aが第2係止爪82Bの左側上面に当接する。上プレート60をさらに下降させると、第1係止棚部81A及び第2係止棚部82Aが第1係止爪81B及び第2係止爪82Bの左側上面の傾斜面に沿うように下降するため、ロック部材80は圧縮コイルバネ85の弾性力に抗して右方向に移動する。そして、上プレート60が完全に下降し、上プレート60と下プレート70とが重ね合わせた状態になると、第1係止棚部81A及び第2係止棚部82Aは第1係止爪81B及び第2係止爪82Bの下方に位置する。このため、ロック部材80は圧縮コイルバネ85の弾性力により左方向に移動する。これにより、第1係止棚部81Aは第1係止爪81Bに係止し、第2係止棚部82Aは第2係止爪82Bに係止する。このように第1係止棚部81A、第2係止棚部82A、第1係止爪81B及び第2係止爪82Bにより、上プレート60と下プレート70とを重ね合わせた状態に保持するロック機構が構成されている。
【0033】
上プレート60と下プレート70とを重ね合わせた状態でロック部材80を圧縮コイルバネ85の弾性力に抗して右方向に移動させると、第1係止棚部81Aと第1係止爪81Bとの係止が解除され、第2係止棚部82Aと第2係止爪82Bとの係止も解除される。これにより、軸部材20の外周面と筒部材30の内周面との間に配置された圧縮コイルバネ40の弾性力により、上プレート60は下プレート70に対して上方へ移動する。
【0034】
このように構成された便座リフトアップ装置10を利用して便器本体1の上面へ便座装置3を取り付ける手順を説明する。
【0035】
便器本体1には、洗浄タンク2よりも前方の後部上面に左右方向に所定間隔を有する一対の取付孔1Hが設けられている。先ず、各取付孔1Hと下プレート70に設けられた各第2長孔74Hとが重なるように下プレート70を便器本体1の後部上面に載置する。この際、各第2長孔74Hが前後方向に延びているため、便器本体1の大きさ及び形状に応じて、下プレート70を前後方向に移動させ、便器本体1の後部上面の適宜位置に下プレート70を載置する。
【0036】
次に、図4に示すように、各第2長孔74H及び各取付孔1Hに対して上方から筒部材30を挿入する。各筒部材30には、上プレート60に連結され、下方に延びる一対の軸部材20が貫通している。また、圧縮コイルバネ40の弾性力により、筒部材30に対して軸部材20は上昇し、軸部材20の下端に形成された係止部24が筒部材30の下面に係止するとともに磁着している。このため、取付孔1Hを貫通した筒部材30の下端から下方には係止部24しか突出していないため、パッキン36及びナット35を下端から挿入することができる下方空間Sを確保することができる。
【0037】
次に、各取付孔1Hの下端開口から突出した筒部材30の下端からパッキン36を挿入し、ナット35をねじ込む。これにより、便器本体1の後部上面への便座リフトアップ装置10の取付けが完了する。
【0038】
次に、図5に示すように、圧縮コイルバネ40の弾性力に抗して上プレート60を下降させ、ロック機構により上プレート60と下プレート70とを重ねあわせ状態に保持する。つまり、第1係止棚部81Aを第1係止爪81Bに係止させ、第2係止棚部82Aを第2係止爪82Bに係止させる。
【0039】
次に、図6に示すように、便器本体1の後部上面に取り付けられた便座リフトアップ装置10に便座装置3を取り付ける。便器本体1の便座支持部材6の底面には、重ねあわせ状態の上プレート60と下プレート70とを収納可能な凹部9が設けられている。凹部9は後方及び下方に向けて開口している。凹部9の左右両端の上縁部には内方及び後方に向けて開口する一対の挿入溝8が形成されている。挿入溝8は上プレート60の挿入片63を挿入し係止可能である。また、便座支持部材6にはレバー部材7が組み込まれている。レバー部材7の一端部は下方に屈曲した操作爪7Cが設けられている。操作爪7Cの外側面は便座支持部材6の側面に露出している。レバー部材7は左右方向にスライド可能に便座支持部材6に組み付けられている。レバー部材7は圧縮コイルバネS1により右方向に付勢され、圧縮コイルバネS2により左方向に付勢され、左右どちらにも移動可能な中間位置に保持されている。レバー部材7には、下方に延び、凹部9内に突出した一対の係止片7Aと、解除片7Bとが設けられている。係止片7Aは、上プレート60の第1挿入溝67Aに挿入され、係止溝67Bに係止可能である。解除片7Bは、上プレート60の第2挿入溝68に挿入され、下プレート70に組み込まれたロック部材80の第1凹部83内に挿入可能である。
【0040】
このような構成を具備する便座支持部材6を便座リフトアップ装置10より前側の便器本体1の上面に載置し、ロック機構により重ねあわせ状態に保持された上プレート60と下プレート70とを凹部9に収納するように便座装置3を後方にスライドさせる。すると、図7及び図8(A)に示すように、上プレート60の挿入片63が便座支持部材6に形成された挿入溝8に挿入され係止する。また、上プレート60の挿入溝67Aに前方から挿入された係止片7Aが係止溝67Bに係止する。これにより、便座装置3は上方及び前後方向への移動が阻止され、便器本体1への取付けが完了する。このように、便器本体1の上面に取り付けられた便座リフトアップ装置10に対して便座装置3を容易に取り付けることができる。
【0041】
便座装置3を便器本体1から取り外す際には、レバー部材7の操作爪7Cを左方向に引き出す。これにより、係止片7Aが左方向に移動するため、係止溝67Bの係止が解除され、便座装置3を前方へスライドさせることができる。このようにして、便座装置3を便器本体1から取り外すことができる。このように、便座支持部材6が上述した構成を具備するものであれば、便座リフトアップ装置10を介して、便器本体1に後付けしたり、交換したりすることができる。
【0042】
便座装置3を便器本体1の上面から上昇させる際には、図8(B)示すように、レバー部材7の操作爪7Cを右方向に押し込む。これにより、解除片7Bが右方向に移動し、ロック部材80の第1凹部83の右壁部83Rに当接してロック部材80を右方向に移動させる。これにより、第1係止棚部81Aと第1係止爪81Bとの係止が解除され、第2係止棚部82Aと第2係止爪82Bとの係止も解除される。そして、図9に示すように、軸部材20の外周面と筒部材30の内周面との間に配置された圧縮コイルバネ40の弾性力により、便座装置3が便器本体1の上面から上昇する。このように、ロック機構を容易に解除させることができ、便座装置3を上昇させることができる。
【0043】
この便座リフトアップ装置10は、圧縮コイルバネ40を軸部材20にオーバーラップさせて筒部材30内に収納しているため、筒部材30を長くしなくても圧縮コイルバネ40を長くすることができる。このため、圧縮コイルバネ40の伸張量を大きくすることができるため、便座装置3の上昇量を大きくすることができる。
【0044】
したがって、実施例の便座リフトアップ装置10では、便座装置3を十分に上昇させ、便器本体1の後部上面を容易に掃除することができる。
【0045】
また、便座装置3を上昇させた状態では、軸部材20の下端に形成された係止部24が筒部材30の下面に係止するとともに磁着している。このため、便座装置3を上昇させた際に便座装置3が便器本体1から外れてしまうことを防止することができる。また、便座装置3の上昇状態を圧縮コイルバネ40の弾性力のみでなく、係止部24の磁石24Mの磁力によっても保持することができるため、便座装置3の上昇状態を安定させることができる。また、筒部材30の貫通孔32の第2孔部32Bの内周面が軸部材20の第2円柱部20Bを保持しているため、便座装置3の上昇状態を安定させることができる。さらに、カバー部材50が圧縮コイルバネ40の外周を覆っているため、圧縮コイルバネ50を形成する線材間に埃などが溜まることが防止され、便座装置の昇降を良好に行なうことができる。
【0046】
また、上昇した便座装置3を便器本体1の上面に下降させるには、便座支持部材6の上面を押えて便座装置3を下降させる。これにより、ロック機構の第1係止棚部81Aを第1係止爪81Bに係止させ、第2係止棚部82Aを第2係止爪82Bに係止させることができる。つまり、圧縮コイルバネ40の弾性力に抗して上プレート60と下プレート70とを重ね合わせた状態に保持させることができ、便座装置3を便器本体1の上面に載置させ、通常の使用を可能にすることができる。
【0047】
また、便座装置3が便器本体1に対して昇降させる際、筒部材30の貫通孔32の第2孔部32Bの内周面が軸部材20の第2円柱部20Bの軸方向への上下動を案内しているため、便座装置3の昇降を安定して行なうことができる。
【0048】
本発明は、上記記載及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例では上プレートを介して便座装置を取り付けていたが、軸部材の上端部を便座装置の下面に直接取り付けてもよい。
(2)実施例では筒部材を鉄製にし、軸部材の係止部が磁着するようにしていたが、下端部に強磁性体をインサートした樹脂製の筒部材にしてもよい。
(3)実施例では局部洗浄装置が組み込まれた便座装置であったが、他の機能が組み込まれた便座装置であってもよい。例えば、脱臭装置、空気清浄装置、音楽再生装置、芳香装置等を便座装置に組み込んでもよい。
(4)実施例では便蓋を有する便座装置であったが、便蓋を有さない便座装置であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の便座リフトアップ装置は局部洗浄機能付き便座装置などの便座装置に利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
1…便器本体
1H…取付孔
3…便座装置
4…便座
6…便座支持部材
7…レバー部材
8…挿入溝
10…便座リフトアップ装置
20…軸部材
24…係止部
30…筒部材
32…貫通孔
40…圧縮コイルバネ(弾性部材)
50…カバー部材
60…上プレート
63…挿入片
70…下プレート
81A、81B、82A、82B…ロック機構(81A…第1係止棚部、81B…第1係止爪、82A…第2係止棚部、82B…第2係止爪)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
便座及び便座を回動自在に軸支する便座支持部材を有する便座装置を昇降可能に便器本体の上面に取り付ける便座リフトアップ装置であって、
前記便座支持部材の底面に取り付けられ、垂直下方に延びる軸部材と、
前記便器本体の後部上面に垂直方向に貫設された取付孔に固定され、前記軸部材が上下動可能に貫通する貫通孔を有する筒部材と、
前記軸部材の外周面と前記筒部材の内周面との間に配置され、弾性力により軸部材を上昇させる弾性部材とを備えていることを特徴とする便座リフトアップ装置。
【請求項2】
前記貫通孔は、下部の内径が前記軸部材の外径より僅かに大きく形成され、その内周面が軸部材の軸方向への上下動を案内し、上部の内径が下部の内径よりも大きく形成され、その内周面と軸部材の外周面との間に前記弾性部材が収納されていることを特徴とする請求項1記載の便座リフトアップ装置。
【請求項3】
前記軸部材は、前記筒部材よりも長く形成され、筒部材の下端よりも下方に突出した下端部に設けられ、筒部材の下面に係止する係止部を有していることを特徴とする請求項1又は2記載の便座リフトアップ装置。
【請求項4】
前記筒部材の下端部は強磁性体からなり、前記係止部は磁力を有していることを特徴とする請求項3記載の便座リフトアップ装置。
【請求項5】
前記筒部材を前記取付孔に固定することにより便器本体の後部上面に固定される下プレートと、前記軸部材の上端部に連結され、軸部材の上下動とともに上下動可能であり、前記便座支持部材が取り付けられる上プレートとを備え、
前記下プレート及び前記上プレートに設けられ、前記弾性部材の弾性力に抗して下プレートと上プレートとを重ね合わせた状態に保持するロック機構を有していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の便座リフトアップ装置。
【請求項6】
前記弾性部材は中心軸部に前記軸部材が貫通した圧縮コイルバネであり、
軸部材の上端部に連結されて軸部材とともに上下動し、圧縮コイルバネの外周を覆う円筒状のカバー部材を備えていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の便座リフトアップ装置。
【請求項7】
前記上プレートの左右両端部に前後方向に延びる平板状の挿入片が形成されており、前記便座支持部材の底面に形成された内方及び後方に向けて開口する一対の挿入溝に挿入片が挿入され係止した状態で上プレートに便座支持部材が取り付けられることを特徴とする請求項5又は6記載の便座リフトアップ装置。
【請求項8】
前記ロック機構は、前記便座支持部材に設けられたレバー部材により解除可能であることを特徴とする請求項5乃至7のいずれか1項記載の便座リフトアップ装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項記載の便座リフトアップ装置を具備していることを特徴とする便座装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−56056(P2011−56056A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−209239(P2009−209239)
【出願日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】