説明

保水構造体

【課題】水の蒸発潜熱による冷却効果が高い保水構造体を提供する。
【解決手段】保水用セラミックス23をネットよりなる袋22に収容して保水材パッケージ21とする。この保水材パッケージ21を屋上や地表のアスファルト面又はコンクリート面等に敷き並べる。保水材パッケージ21の積重段数を異ならせることにより、蒸発面積を大きくする。好ましくは、保水材パッケージ21を階段状に積重する。保水用セラミックス23は、焼結された多孔質セラミックスよりなり、全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの気孔よりなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の屋上等に適用される、保水用セラミックスを用いた保水構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質セラミックスよりなるブロック状の保水体を建物の屋上に敷設し、散水用の給水パイプを旋回させて保水体に散水し、建物の冷却を図るシステムが特開平8−312018に記載されている。
【0003】
特開2002−364130には、屋上にパーライト等の軽量人工土壌材を敷き込み、その上に砂利を敷設してヒートアイランド現象を防ぐことが記載されている。同公報の図5には、軽量人工土壌材を不織布の袋に詰めることが記載されている。
【0004】
特開平8−73282の0005段落には、粘土、吸水性ポリマー及び水を混練し、成形した後、電子レンジで乾燥し、次いで1100℃で2時間焼成する多孔質セラミックスの製造方法が記載されている。同号公報には、吸水した吸水性ポリマーの粒径が0.1〜2.0mmであると記載されている(請求項4)。このように、吸水性ポリマーの粒径が大きいと、多孔質セラミックスの気孔も粗大となり、多孔質セラミックスの保水性は高くない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−312018
【特許文献2】特開2002−364130
【特許文献3】特開平8−73282
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1では、保水体の上面は平坦であり、大気との接触面積が小さく、水の蒸散による冷却効果が低い。
【0007】
特許文献2では、軽量人工土壌材の上に砂利を敷いているので、軽量人工土壌材からの水の蒸散が抑制されてしまい、冷却効果が低い。
【0008】
本発明は、屋上等に配材した保水用セラミックスから水が蒸散し易く、効率の良い冷却効果を得ることができる保水構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の保水構造体は、通気性及び通水性を有した収容材内に保水用セラミックスを収容してなる保水材パッケージを建造物又は地表に配列してなる保水構造体であって、少なくとも一部の保水材パッケージの配置高さが他の保水材パッケージの配置高さと異なることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2の保水構造体は、請求項1において、前記保水材パッケージが一段又は多段に積重されており、保水材パッケージの積重段数が重なることにより保水材パッケージの配置高さが他の保水材パッケージの配置高さと異なるものとなっていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3の保水構造体は、少なくとも一部の前記保水材パッケージの1個当りの高さが他の保水材パッケージの1個当りの高さと異なることにより保水材パッケージの配置高さが他の保水材パッケージの配置高さと異なるものとなっていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項4の保水構造体は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記収容材は孔あきの袋又は孔あきのケースよりなることを特徴とするものである。
【0013】
請求項5の保水構造体は、高さの異なる保水用セラミックスが建造物又は地表に配列され、少なくとも一部の保水用セラミックスの上端のレベルが他の保水用セラミックスの上端のレベルと異なっていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項6の保水構造体は、請求項5において、隣接する保水用セラミックスの上端のレベル同士の差の平均値が1〜30cmであることを特徴とするものである。
【0015】
請求項7の保水構造体は、請求項1ないし6のいずれか1項において、該保水用セラミックスは、その全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの気孔よりなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の第1態様の保水構造体では、ネットなどの通気性及び通水性を有した収容材内に保水用セラミックスを収容してなる保水材パッケージを建造物又は地表面に配列し、少なくとも一部の保水材パッケージの配置高さを他の保水材パッケージと異ならせている。このため、保水材パッケージと大気との接触面積が大きく、保水材パッケージ内の保水用セラミックスから水が効率よく蒸散するようになり、冷却効果が高いものとなる。
【0017】
なお、保水用セラミックスを収容材内に収容して保水材パッケージとすることにより、保水用セラミックスを屋上等に敷き込むときの作業性が向上する。
【0018】
また、保水材パッケージの積重段数を異ならせることによって、保水材パッケージの配置高さを容易に異ならせることができる。或いは、少なくとも一部の保水材パッケージの1個当りの高さが他の保水材パッケージの1個当りの高さと異なることにより保水材パッケージの配置高さが他の保水材パッケージの配置高さと異なるものとすることができる。
【0019】
本発明の第2態様では、高さの異なる保水用セラミックスを建造物又は地表に配列させ、少なくとも一部の保水用セラミックスの上端のレベルを他の保水用セラミックスの上端のレベルと異ならせているので、背高の大きい保水用セラミックスと大気との接触面積が大きくなり、水が効率よく蒸散するようになるので、冷却効果が向上する。
【0020】
なお、隣接する保水用セラミックスの上端のレベルの差を大きくすることにより、冷却効果が向上する。
【0021】
本発明にあっては、保水用セラミックスは、全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの気孔よりなることが好ましい。このように比較的微細な気孔を多量に有する保水用セラミックスは保水性が高いと共に、表面の比表面積も大きく、水の蒸発性がよい。従って、降雨や散水によって素早く多量の水を吸水し、都市型洪水を防止することができる。また、この孔径の気孔は、超微細というものではなく、凍結するときには、気孔内の水が凍結時の水の体積膨張に伴って保水用セラミックス外に速やかに押し出されるので、凍結融解が繰り返されても、割れるおそれが殆どない。
【0022】
保水した保水用セラミックスからは、上記の通り、水の蒸発により大きな潜熱が奪われる。そのため、この保水用セラミックスを建物の屋上や庭などに敷き詰めた本発明の保水構造体は、建物や庭などの冷却効果に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施の形態に係る保水構造体の断面図である。
【図2】図1のII−II線断面図である。
【図3】実施の形態に係る保水構造体の平面図である。
【図4】別の実施の形態に係る保水構造体を示す断面図である。
【図5】図4の実施の形態で用いられる保水用セラミックスの斜視図である。
【図6】実施例及び比較例における試験方法の説明図であり、(a)図は平面図、(b)図は(a)図のB−B線断面図である。
【図7】実験例1〜5の保水用セラミックスの気孔の孔径分布図である。
【図8】実験例6〜10の保水用セラミックスの気孔の孔径分布図である。
【図9】(a)図は、試験体1を示す模式的な断面図、(b)図は試験体1〜3のスラブ下温度の経時変化を示すグラフである。
【図10】試験体1,3のスラブ表面温度の経時変化を示すグラフである。
【図11】(a)図は試験体4を示す模式的な断面図、(b)図は試験体4,5の上方大気温度の経時変化を示すグラフである。
【図12】ケース1〜3の初期及び維持費用を比較するグラフである。
【図13】保水用セラミックスと芝生の試験期間内の蒸散・吸水量を対比して示すグラフである。
【図14】保水用セラミックスと芝生の蒸散量と吸水量の累計を対比して示すグラフである。
【図15】実験例における試験方法の説明図であり、パレット上の保水用セラミックスの積重状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0025】
[第1の実施の形態]
第1図〜第3図に第1の実施の形態を示す。第1図は実施の形態に係る保水構造体の断面図、第2図は第1図のII−II線断面図、第3図は保水構造体の平面図である。
【0026】
第1,2図の通り、地表に打設されたコンクリート面やアスファルト等の防水面又は建物の屋上面等よりなる対象面20上に保水材パッケージ21が配列されている。
【0027】
保水材パッケージ21は、ネットよりなる袋22内に多孔質セラミックス製の保水用セラミックス23を充填したものである。保水材パッケージ21の上方には散水パイプ(図示略)が設けられている。
【0028】
なお、保水用セラミックスの上面の温度を放射温度計や熱電対などの温度センサによって検知し、この温度が所定の上限温度(例えば50℃)以上になったときに散水パイプから水を流出させ、所定の下限温度(例えば45℃)以下になったときにこの水の流出を停止するように構成してもよい。
【0029】
保水用セラミックス23としては、平均粒径が5〜100mm特に10〜50mmであることが好ましい。この大きさのものは、製造が容易であると共に、ネット袋に詰め易い。粒状体の形状は球形、楕円球形(例えばラグビーボール状)、立方体、直方体、錘形、円盤形状、柱状体、ドーナツ形など任意である。この多孔質セラミックスの好ましい物性、製造方法については後述する。
【0030】
ネットの材質としては、合成樹脂、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、金属ワイヤなどが例示される。ガラス繊維を合成樹脂で被覆した複合繊維や、金属ワイヤを合成樹脂で被覆した被覆ワイヤなども用いることができる。
【0031】
ネットの目開きは、収容した保水用セラミックスが抜け出ない範囲でなるべく大きいことが望ましい。
【0032】
保水材パッケージ21の含水時の重量は最大でも60kgであることが、建築躯体への負担の点からして好適である。
【0033】
この実施の形態では、対象面20上に保水材パッケージ21を1段のみ敷設した部分と、2段以上積重した部分とが存在するように保水材パッケージ21を配列している。
【0034】
第1図のように、対象面の一方向にあっては、保水材パッケージ21は、1段積み→2段積み→3段積み→2段積み→1段積みのように階段状に配列されている。
【0035】
また、この一方向と直交する方向にあっても、第2図(a)の通り、保水材パッケージ21は、1段積み→2段積み→3段積み→2段積み→1段積みのように階段状に配列されている。
【0036】
このように保水材パッケージ21を一方向(例えば東西方向)及びそれと直交方向(例えば南北方向)のいずれにおいても階段状に配列した場合の積重段数分布を第3図に示す。
【0037】
第3図中の符号1,2,3は積重ねの段数を示している。
【0038】
かかる保水材パッケージ積重構造を有した保水構造体にあっては、保水材パッケージを均一段数に配列した場合に比べて保水材パッケージと大気との接触面積が大きく、水の蒸散性に優れ、冷却効果が高い。
【0039】
なお、第2図(a)及び第3図では、前記一方向と、それと直交方向とで保水材パッケージ21の積重パターンは同一となっているが、第2図(b)のように、前記直交方向における積重パターンが前記一方向の積重パターン(第1図)と異なっていてもよい。
【0040】
第2図(b)では、2段積み→3段積み→2段積み→3段積みの積重パターンとなっている。もちろん、第2図(b)以外の積重パターンとしてもよい。図示はしないが、一部の保水材パッケージの1個当りの高さを他のものと異ならせることにより、保水材パッケージの上面の高さを異ならせてもよい。この場合、保水材パッケージの積み段数は1段のみでもよく、2段以上でもよい。保水材パッケージの1個当りの高さは2種類でもよく、それ以上でもよい。3種類の高さの異なる保水材パッケージを同種又は異種の組み合わせで積み重ねることで、保水材パッケージの配置高さが他の保水材パッケージの配置高さと異なるようにしてもよい。
【0041】
[第2の実施の形態]
上記第1の実施の形態では保水材パッケージを用いているが、本発明では、第4図のように、対象面20上に高さの異なる柱状の保水用セラミックス25を配列してもよい。
【0042】
第4図では、柱軸方向の高さが低、中、高の3個の保水用セラミックス25を、隣接するもの同士が高さの異なるものとなるように配列している。保水用セラミックス25の上方には散水パイプ(図示略)が設けられている。
【0043】
このように高さの異なる柱状の保水用セラミックスを配列すると、高さの高い保水用セラミックスは低い保水用セラミックスよりも上方に突出することにより大気との接触面積が大きなものとなり、水の蒸散が活発となり、冷却効果が向上する。
【0044】
第4図では3種類の高さの異なる保水用セラミックスが用いられているが、2種類又は4種類以上の高さの異なる保水用セラミックスを用いてもよい。また、少なくとも一部において保水用セラミックスを2段以上積み重ねることにより、保水用セラミックスの上端のレベルを異ならせてもよく、この場合、積み重ねる保水用セラミックスの高さは同一でもよく、異なっていてもよい。本発明では、3種類の高さの異なる保水用セラミックスを同種又は異種の組み合わせで積み重ねることで、保水用セラミックスの配置高さが他の保水用セラミックスの配置高さと異なるようにしてもよい。
【0045】
なお、隣接する保水用セラミックス25同士の高さの差は2cm以上例えば5〜20cm程度が好適である。
【0046】
最も高さの小さい保水用セラミックス25の高さは1〜15cm程度が好適である。保水用セラミックス25の水平断面積は4〜900cm程度が好適である。
【0047】
この柱状の保水用セラミックスとしては、第5図(a),(b)に示す保水用セラミックス26,27のように、柱軸方向に貫通する孔径1〜50mm程度の通気孔26a,27aを有したものであってもよい。
【0048】
この通気孔26a,27aを設けたことにより、保水用セラミックス26,27の深奥部に吸蔵された水も蒸発し易いものとなる。また、保水用セラミックス26,27に降雨が掛ったときに雨水が保水用セラミックスの深奥部にまで吸収され易い。
【0049】
なお、第5図(a)の保水用セラミックス26は柱軸部に1本の通気孔26aを有している。第5図(b)の保水用セラミックス27は複数本の通気孔27aを有している。保水用セラミックスは円柱形に限らず、楕円柱形、角柱形などであってもよい。また、柱状に限らず立方体形状や球状でもよい。また、タイルのような盤状ないし皿状でもよい。また、通気孔は省略されてもよい。多孔質セラミックスの好適な気孔径、材料、製造方法等については後述する。
【0050】
第4図では、保水用セラミックス25は、隣接するもの同士を当接させて密に配列されているが、相互間に若干(例えば5〜100mm)の間隙をあけて配列されてもよい。本発明では、保水材パッケージと保水用セラミックスを併用してもよい。
【0051】
次に、保水用セラミックスを構成する多孔質セラミックスの好適な気孔径、材料、組成及び製造方法等について説明する。
【0052】
[保水用セラミックスの気孔径]
本発明で用いる保水用セラミックスは、その保水用セラミックスの全体積の53〜70%好ましくは55〜68%が、孔径1〜100μm、好ましくは15〜40μmの微細気孔よりなることが好ましい。上述の通り、このように微細な気孔を多量に含むことにより、保水用セラミックスの保水性及び水の蒸発性が良好となる。
【0053】
より好ましくは、この孔径1〜100μmの気孔の60%以上、例えば70〜95%が孔径10〜50μm、好ましくは15〜40μmの気孔よりなる。
特に、本発明で用いる保水用セラミックスは、その保水用セラミックスの全体積の10〜70%、特には15〜50%が孔径15〜40μmの微細気孔よりなることが好ましい。
【0054】
この保水用セラミックスの全気孔率は、55〜80%であることが好ましい。保水用セラミックスの全気孔率が55%未満では、全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの微細気孔の保水用セラミックスの実現し得ず、80%よりも大きいと、強度が不足し、敷設材料としての実用性が損なわれる。
【0055】
なお、本発明では、気孔の孔径の測定は、水銀ポロシメータを用い、JIS R 1655に従って行われる。
【0056】
上記孔径の気孔内の水は、凍結時に保水用セラミックス外に押し出され易く、凍結融解作用を繰り返し受けても、保水用セラミックスが割れることは殆どない。
【0057】
本発明で用いる保水用セラミックスには、その一部又は全面に光触媒コーティング液を塗布して光触媒効果を付与してもよく、これにより、光触媒による浄化作用で、保水用セラミックスの耐汚染性を高めることができる。
【0058】
[セラミックスの組成]
この保水用セラミックスを構成するセラミックスの組成は
SiO:50〜80wt%とりわけ55〜70wt%
Al:10〜30wt%とりわけ15〜25wt%
NaO及びKOの合計:1〜10wt%とりわけ3〜7wt%
であることが好ましい。
【0059】
かかるソーダ・カリを多く含むアルミノ珪酸塩系セラミックスは、親水性であり、保水用セラミックスの保水性及び水の蒸発性が良好となる。
【0060】
なお、湿潤状態にある保水用セラミックスに藻が発生することを防止するために、CuOを保水用セラミックス中に0.1〜1.5wt%程度配合してもよい。
【0061】
[保水用セラミックスの製造方法]
次に保水用セラミックスの好適な製造方法について説明する。
【0062】
この保水用セラミックスを製造するには、窯業系原料、アルミナセメント及び粉末状吸水性ポリマー並びに好ましくは更に炭酸リチウムを乾式混合し、次いで水を添加して混合し、その後、成形、乾燥及び焼成する。この際の配合割合は、好ましくは、
窯業系原料:75〜95wt%、特に80〜95wt%
アルミナセメント:3〜15wt%、特に5〜15wt%
吸水性ポリマー:0.5〜10wt%、特に1〜5wt%
炭酸リチウム:10wt%以下、特に1〜10wt%、とりわけ1〜5wt%
である。
【0063】
なお、水の混合割合は、水以外の全原料の合計重量に対して130〜170wt%程度であって、吸水性ポリマーに対して80〜150倍程度とすることが、取り扱い性、成形性、吸水性ポリマーの吸水膨張性、その後の乾燥、焼成効率の面から好ましい。
【0064】
窯業系原料としては、カリ長石、粘土、珪砂などの1種又は2種以上を用いることができるが、これに限定されない。これらの窯業系原料をSiO、Al、NaO+KOの割合が前述となるように選択して用いる。
【0065】
アルミナセメントとしては、JISに定めるものを用いることができる。
【0066】
このアルミナセメントは、硬化が速いので、水を添加して混合し、成形すると、短時間のうちにハンドリングできる程度の成形体が得られる。
【0067】
粉末状吸水性ポリマーとしては、粒径10〜50μm特に20〜30μm程度のものが好適である。
【0068】
吸水性ポリマーとしては、ポリアクリル酸塩系、酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合体ケン化物、でんぷん・アクリル酸グラフト共重合体など、各種のものを1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0069】
この混合物を成形するには、定量充填機、鋳込成型機、押出成形機、ハニカム成形機などを用いることができるが、これに限定されない。
【0070】
この成形体を好ましくは80〜250℃で5〜40時間特に6〜12時間加熱して乾燥した後、好ましくは1050〜1200℃特に1100〜1150℃で0.2〜20時間特に0.3〜2時間焼成して焼結体とする。この焼成には、ローラーハースキルン、トンネルキルン、シャトルキルン等を用いることができる。
【0071】
[保水用セラミックスの応用例及びその効果]
保水用セラミックスは、気孔径及びその割合が厳密に制御された多孔質セラミックスであり、雨水を吸水することにより治水し、また、吸水した水を日射によって蒸散させる性能を有する。
【0072】
従って、保水用セラミックスを、ビル屋上や個人住宅又は公共施設の通路、広場、庭等に敷設することにより、以下のA,Bのような環境対策を図ることができる。
【0073】
A.個別ビルの環境対策
A−1.ビルの省エネ・CO削減:
保水用セラミックスをビル屋上に敷設することにより、保水用セラミックスによる雨水の治水・蒸散で、屋上スラブ温度を下げ、階下の空調の使用電力量を減らすことができる。
【0074】
また、屋上に設置された空調室外機の周辺温度を下げ、全階の空調の運転効率を向上させ、使用電力量を減らすこともできる。特に、屋上階の夏場の空調の使用電力量を大きく低減することができる。
【0075】
この結果、COの排出量の削減も可能となる。
【0076】
A−2.ビルの屋上緑化の代替:
保水用セラミックスは、芝生等の植物と同様の保水、冷却の性能を有すると共に、高耐久・長寿命かつ自然降雨を利用する維持管理不要な材料であるため、屋上緑化代替の有力候補となる。
【0077】
現状の屋上緑化は維持に手間が掛かり、管理費も高いが、保水用セラミックスによれば、この問題を解決できる。
【0078】
A−3.ビルの屋上防水層のメンテナンス経費削減:
保水用セラミックスは、熱伝導率が0.2W/m・K程度の低熱伝導性で断熱性が高いので、これをビル屋上に敷設することにより、屋上スラブ温度を一定に保つことができる。また、紫外線も防ぐことができる。
【0079】
現状では10年程度で防水層の補修が必要とされるが、保水用セラミックスを適用することにより、このメンテナンス頻度を低減できる。
【0080】
B.都市の環境対策
B−1.ヒートアイランド対策:
保水用セラミックスは、ビル屋上を占有する各種機器(室外機・熱源など)の下にも敷設できるので、本発明の保水用セラミックスを各所に敷設することにより、都市の蒸散面積を増やし、街区全体の温度をより一層低減することができる。
【0081】
例えば、東京都の緑被率は現在23%で更なる向上がなされない状況であるが、本発明の保水用セラミックスの適用で蒸散面積を50%まで上げれば、夏場の外気温度を27℃とすることも可能である。
【0082】
また、保水用セラミックスは、芝生と比較して高い蒸散能力があるので、芝生に比べて単位面積当たりの温度低減効果も高い。
【0083】
B−2.ゲリラ豪雨対策:
保水用セラミックスは、芝生と比較して高い治水能力があるので、ビル屋上に可能な限り敷設すれば、ゲリラ豪雨のピークカットが期待できる。
【0084】
B−3.資源の再利用
保水用セラミックスは、従来、廃棄物とされていた長石キラを主原料(例えば原料の90%)として製造することができる。長石キラはタイル原料の長石を採掘する時の副産物であり、従来は廃棄物とされていたものである。
【0085】
以下に、多孔質セラミックスによる上記A,Bの効果を示す実験例ないしは試算例を挙げる。
【0086】
<A−1.ビルの省エネ・CO削減>
第9図(a)に示すように、底部及び4側面が断熱材11で構成された箱型容器内にコンクリートスラブ12を敷設し、その上に、多孔質セラミックス(例えば、後掲の実験例2と同様にして製造された多孔質セラミックス)13を厚さ10cmに敷設し、試験体1とした。多孔質セラミックスの敷設面積は1mである。なお、底部断熱材11とコンクリートスラブ12との間には、温度センサ14を設けた。
【0087】
別に、この多孔質セラミックスの代りに芝生を植えたものを試験体2とし、多孔質セラミックスを敷設しなかったものを試験体3とした。
【0088】
これらの試験体1〜3を並べて置き、気温と、各試験体の温度センサ14の測定温度の経時変化を調べ、結果を第9図(b)に示した。
【0089】
なお、第9図(b)のグラフ中、吸水期間は、降雨のあった期間であり、それ以外は、曇ないし晴天であった。
【0090】
第9図(b)より明らかなように、多孔質セラミックスを敷設した試験体1は、敷設なしの試験体3に対してスラブ下温度で最大−8℃の温度低減効果があった。しかも、試験体1の蒸散効果は、芝生を植えた試験体2よりも大きいものであった。
【0091】
この結果から、多孔質セラミックスによる雨水の治水・蒸散で、屋上スラブ温度を下げ、階下の空調の使用電力量を減らすことができることが分かる。
【0092】
次に、第9図(a)に示すと同様に多孔質セラミックス13を敷設すると共に温度センサ14を設けた試験体1と、多孔質セラミックスを敷設していない試験体3により、屋上スラブ表面温度の変化を模擬するものとして、1日24時間の温度センサ14の測定温度を調べ、結果を第10図に示した。
【0093】
なお、多孔質セラミックス、コンクリートスラブ及び土の一般的な熱伝導率は以下に示す通りである。
【0094】
多孔質セラミックス :0.20W/m・K
コンクリートスラブ :0.15W/m・K
土 :0.63W/m・K
【0095】
第10図より明らかなように、屋上スラブの表面温度の一日の変化量は、多孔質セラミックスを敷設した試験体1では2℃であるのに対して、敷設していない試験体3では15℃だった。この結果から、多孔質セラミックスを敷設することにより、日射によるスラブへの熱負荷が軽減されることが分かる。
【0096】
次に、第11図(a)に示すように、底部及び4側面が断熱材11で構成された箱型容器内にコンクリートスラブ12を敷設し、その上に、多孔質セラミックス(例えば、後掲の実験例2と同様にして製造された多孔質セラミックス)13を厚さ10cmに敷設し、試験体4とした。多孔質セラミックスの敷設面積は1mである。多孔質セラミックスの敷設面の上方1cmの位置に温度センサ14を設けた。
【0097】
別に、多孔質セラミックスを敷設しなかったものを試験体5とした。この試験体5ではコンクリートスラブ12の上方1cmの位置に温度センサ14を設けた。
【0098】
これらの試験体4,5を並べて置き、1日24時間の温度センサ14の測定温度の変化を調べ、結果を第11図(b)に示した。
【0099】
第11図(b)より明らかなように、多孔質セラミックスを敷設した試験体4と敷設していない試験体5とでは、1cm上方の大気温度として、最大5℃の差があった。
【0100】
この結果から、多孔質セラミックスを敷設することにより、屋上に設置された空調室外機の周辺温度を下げ、全階の空調の運転効率を向上させ、使用電力量を減らすことができることが分かる。
【0101】
<A−2.ビルの屋上緑化の代替及びA−3.ビルの屋上防水層のメンテナンス経費削減>
多孔質セラミックスをビル屋上に敷設した場合(ケース1)と、これを敷設していない従来仕様(ケース2)と、芝生や低木を植えた屋上緑化の場合(ケース3)とで、単位面積当たりの初期費用(敷設ないし植栽費用)と20年間の維持(メンテナンス)費用を試算し、その比較結果を第12図に示した。
【0102】
第12図に示されるように、多孔質セラミックスは初期費用のみでその後の維持管理は殆ど不要である。一方、多孔質セラミックスを敷設しない従来仕様のケース2では、防水層の補修等の維持費がかかり、結果として、本発明品と同等である。
【0103】
屋上緑化のケース3では、初期費用に加えて、剪定、刈込み、芝刈り、施肥、除草、病害虫防除、灌漑装置の点検、その他の総合点検等の維持費用がかさみ、第12図に示す費用以外にも灌漑設備による散水のための運転に必要な電気代及び水道代がかかる。
【0104】
これらの結果から、前述の如く、多孔質セラミックスは、治水・蒸散において、芝生等植物の性能と同等であると共に、高耐久・長寿命かつ自然降雨を利用した維持管理不要なものである上に、屋上緑化に比較して、初期費用は1/2、維持費用も格段に安く、屋上緑化代替の有力候補となることが分かる。
【0105】
<B−1.ヒートアイランド対策>
東京都23区内のビル屋上全てに多孔質セラミックスを敷設すると、治水・蒸散に機能する都市の蒸散面積を10%増加させることができる。
【0106】
現在、ビルの屋上12は機器類(室外機・熱源など)が設置されているが、多孔質セラミックスは、ビル屋上の各種機器の下にも敷設できるので、都市の蒸散面積を増やし、街区全体の温度を大幅に低減することができる。
【0107】
多孔質セラミックスと芝生の治水・蒸散の繰り返し試験結果を示す第14図から明らかなように、多孔質セラミックスは、芝生の約2倍の蒸散能力があるため、上記の10%の都市の蒸散面積の増加は、芝生に替算すれば、2倍の20%の都市の蒸散面積の増加となり、更なる有効性が明らかである。
【0108】
<B−2・ゲリラ豪雨対策>
多孔質セラミックスと芝生について、10月2日〜10月16日の15日間にわたる期間の単位体積当たりの蒸散量と吸水量の累計を比較した第13図より明らかなように、多孔質セラミックスは芝生よりも2倍以上の吸水・蒸散量を有する。
【0109】
ビル屋上に多孔質セラミックスを10cmの厚さで50kmの面積に敷設すると180万mもの治水ができ、東京都23区で3mm/hrのゲリラ豪雨のピークカットを図ることができる。
【0110】
<B−3.資源の再利用>
多孔質セラミックスは、例えば、従来廃棄物とされていた長石キラ90重量%と、その他の材料10重量%で製造することができる。単位面積当たりの多孔質セラミックスの重量を40kg/mとすると、5000mの敷設に必要となる長石キラの量は、
5000(m)×40(kg/m)×0.9÷1000=180ton
となる。
【0111】
即ち、多孔質セラミックスを敷設面積として1日に5000m生産すると、必要な廃棄物(長石キラ)原料は、180ton/日であり、廃棄物の有効利用効果は極めて大きい。
【0112】
以下、上記配合の多孔質セラミックスが保水性及び蒸散性に優れていることを示す実験結果について説明する。下記の実験例1〜5は本発明の好ましい組成を用いた多孔質セラミックスであり、実験例6〜10はそれ以外の組成の多孔質セラミックスである。
【0113】
なお、以下の実験例で用いた原料は次の通りである。
【0114】
カリ長石:愛知県瀬戸産 長石
8号珪砂:勝野窯業製
長石キラ:愛知県瀬戸産 長石
吸水性ポリマー:三洋化成株式会社製
(篩によって粒径20μmアンダー(吸水性ポリマーA)、粒径
20〜50μm(吸水性ポリマーB)、粒径50〜100μm
(吸水性ポリマーC)に分級した。)
アルミナセメント:ラファージュ株式会社製
炭酸リチウム:試薬特級
CuO:試薬特級
【0115】
[実験例1〜10]
水以外の原料を表1の割合で秤量し、ミキサ(ホソカワミクロン製ナウタミキサ)で乾式にて攪拌混合した。次いで、水を表1の割合でこの混合粉末に添加し、混練した。これを直径70mm、最大厚さ15mmの略円盤形状に成形し、80℃にて24時間乾燥した。これをローラーハースキルン(最高焼成温度は表1に示す通り。炉通過時間は60分)にて焼成し、多孔質セラミックスを製造した。
【0116】
各多孔質セラミックスについて成分分析を行うと共に特性測定を行った。結果を表1、表2に示す。
【0117】
なお、気孔率は、水銀ポロシメータ(Quantachrome株式会社製)を用いて測定した。気孔の孔径分布を第7図及び第8図に示す。
【0118】
保水量は、次のようにして測定した。
【0119】
多孔質セラミックスを105℃で乾燥した後、放冷し、秤量し、重量(W)を求める。次いで、20℃の水中に24時間浸漬した後、引き上げ、表面水を湿った布で拭き取り、飽水状態とする。この試料を秤量し、重量(W)を求める。また、この飽水状態の多孔質セラミックスをメスシリンダー中の水中に投入し、体積(V)を求める。保水量(g/cm)を(W−W)/Vにより算出する。
【0120】
強度は10cm×10cm×0.5cmのサンプルを作り3点曲げ試験(JTトーシ株式会社、50kNデジタル曲げ試験機)によって測定した。
【0121】
凍結融解性能は、上記飽水状態の多孔質セラミックスを−20℃に75分保持して凍結させた後、30℃に90分保持して融解させる凍結・融解サイクルを200サイクル繰り返し、破損の程度を観察することによって調べ、非常に良好(◎)、良好(○)、やや不良(△)、不良(×)で評価した。
【0122】
蒸散性能は、水を深さ5mmに張った平たい容器内に、乾燥した多孔質セラミックスを置き、30分吸水させた後、引き上げ、この30分間の吸水量を上記保水量の測定方法と同様にして求める。体積については保水量測定時の体積を用いる。この30分間の吸水量(g/cm)を蒸散性能とする。
【0123】
蒸散効果持続日数は、蒸発の潜熱による冷却効果の持続日数であり、次のようにして測定した。
【0124】
第6図に示す通り、厚さ150mmの再生ポリプロピレン樹脂製パレット1の上に、厚さ100mmの発泡スチロール板よりなる正方形状の囲枠2を載せ、容器とする。この容器の一辺は1000mm、深さは830mmである。容器の外周面にアルミ箔を張ってある。
【0125】
この容器内に厚さ500mmに発泡スチロール板3を敷き詰め、その上面の5箇所に温度センサT〜Tを配置する。
【0126】
この発泡スチロール板3の上に厚さ180mm、比重2.2のコンクリート板4を載せる。このコンクリート板4の上に飽水状態の多孔質セラミックス5(第6図(b)にのみ図示)を50kg堆積させる。堆積厚さは約10cm程度である。以上の作業は、気温20℃、湿度60%RHの屋内で行う。この容器を35℃、60%RHの恒温恒湿室中に放置し、温度センサの検出温度が35℃に上昇するまでの日数を測定する。これを蒸散効果持続日数とする。
【0127】
また、各実験例で得られた多孔質セラミックスについて、吸水性を調べるために、第15図に示すように、5個の多孔質セラミックス31〜35を用意し、水をはったパレット30上に、最下段の多孔質セラミックス35がその底部から1mm程度水に浸かるようにして、5段積み重ね、この状態で1時間放置した後、最上段の多孔質セラミックス31の重量変化から、この多孔質セラミックス31の吸水率(吸水前の多孔質セラミックスの重量に対する吸水した水の重量の割合)を算出した。
【0128】
【表1】

【0129】
【表2】

【0130】
[考察]
表1の通り、上記の好ましい組成よりなる実験例1〜5の多孔質セラミックスは、蒸発性能及び蒸発効果持続日数に優れ、耐凍結融解性能、吸水性も良好である。
【0131】
これに対し、上記の好ましい組成に属さない、実験例6〜10のうち実験例6は、気孔の孔径が過大であるため、蒸発性能及び蒸発効果持続日数、吸水性に劣る。
【0132】
実験例7は、気孔の孔径が過度に小さいため、凍結融解性能、吸水性に劣る。
【0133】
実験例8は、気孔率が80%と過度に大きいため、強度及び凍結融解性能、吸水性に劣る。
【0134】
実験例9,10は、保水量が低いため、蒸発効果持続日数が短く、吸水性も悪い。
【符号の説明】
【0135】
1,30 パレット
2 囲枠
3 発泡スチロール板
4 コンクリート板
5,13,31,32,33,34,35 多孔質セラミックス
11 断熱材
12 コンクリートスラブ
14 温度センサ
20 対象面
21 保水材パッケージ
22 袋
23,25,26,27 保水用セラミックス
26a,27a 通気孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通気性及び通水性を有した収容材内に保水用セラミックスを収容してなる保水材パッケージを建造物又は地表に配列してなる保水構造体であって、
少なくとも一部の保水材パッケージの配置高さが他の保水材パッケージの配置高さと異なることを特徴とする保水構造体。
【請求項2】
請求項1において、前記保水材パッケージが一段又は多段に積重されており、保水材パッケージの積重段数が重なることにより保水材パッケージの配置高さが他の保水材パッケージの配置高さと異なるものとなっていることを特徴とする保水構造体。
【請求項3】
請求項1において、少なくとも一部の前記保水材パッケージの1個当りの高さが他の保水材パッケージの1個当りの高さと異なることにより保水材パッケージの配置高さが他の保水材パッケージの配置高さと異なるものとなっていることを特徴とする保水構造体。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記収容材は孔あきの袋又は孔あきのケースよりなることを特徴とする保水構造体。
【請求項5】
高さの異なる保水用セラミックスが建造物又は地表に配列され、少なくとも一部の保水用セラミックスの上端のレベルが他の保水用セラミックスの上端のレベルと異なっていることを特徴とする保水構造体。
【請求項6】
請求項5において、隣接する保水用セラミックスの上端のレベル同士の差の平均値が1〜30cmであることを特徴とする保水構造体。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項において、該保水用セラミックスは、その全体積の53〜70%が孔径1〜100μmの気孔よりなることを特徴とする保水構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2010−281178(P2010−281178A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137404(P2009−137404)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】