説明

保護継電装置の故障検出方法及び保護継電装置

【課題】系統電圧の有無に拘わらず、保護継電装置の故障を常時正確に検出できるようにする。
【解決手段】保護継電装置105は、相互に同一構成されると共に並列接続され、電力系統の系統電圧に関連する系統信号を含む所定周波数の信号を増幅して出力する第1、第2アナログ回路107、108と、前記系統信号と区別可能な検査用信号を発生する信号発生部122と、前記系統信号が前記第1、第2アナログ回路107、108に入力されているか否かに基づいて、前記系統信号又は前記検査用信号のいずれか一方を前記第1、第2アナログ回路に入力して前記第1、第2アナログ回路が故障か否かを判定し、前記第1、第2アナログ回路の少なくとも一方が故障している場合には装置が故障であることを通知する制御手段とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護継電装置の故障検出方法及び保護継電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、送電線の地絡事故等、電力系統の事故を検出するためにデジタル保護継電装置が利用されている。デジタル保護継電装置は自身の故障を検出するために、故障検出機能を備えている。
デジタル保護継電装置は、系統電圧を所定レベルの信号に増幅したりノイズを除去して出力するアナログ回路部と、前記アナログ回路部からの信号をデジタル処理することによって電力系統の事故を検出するデジタル処理部を備えている。
アナログ回路部が故障した場合には異常な誤動作を発生する恐れがある。したがって、常時監視機能として、アナログ回路部の故障の有無を検出する機能が設けられている。
【0003】
デジタル保護継電装置の故障検出機能の例をあげると、送電線からの系統電圧を入力変換器を介して系統信号として入力し、前記系統信号を、事故検出用の第1アナログ回路部及び故障検出用として第1アナログ回路部に並列接続され第1アナログ回路部と同一構成された第2アナログ回路部を介してデジタル処理回路部に入力する。第1、第2アナログ回路部の出力信号の差が所定値を超える場合、デジタル処理回路部はアナログ回路部に故障が発生したと判定する。これにより、保護継電装置の故障を検出することが可能になる。
【0004】
ところで、一般には発電機の発電を停止することはあまり行われないが、プラント等では発電機の出力を停止することが普通に行われている。したがって、発電機の発電停止時には系統電圧を利用できなくなる。また、事故等の他の原因によって系統電圧を利用できない場合もある。
前述した保護継電装置では、系統電圧を利用して故障を検出する方式であるため、系統電圧を利用できない場合には保護継電装置自身の故障を検出することができないという問題がある。
【0005】
この問題の解決策として、特許文献1、2に記載されているように、系統周波数の所定数倍の高調波信号を用いて保護継電装置の故障を検出する方式(高調波重畳監視方式)の故障検出機能を備えた保護継電装置が開発されている。
高調波重畳監視方式では、系統電圧に対応する系統信号と、別途発生した検査用の高調波信号(系統周波数の所定数倍の周波数信号)とを重畳して保護継電装置のアナログ回路部に入力する。フィルタ回路によって系統電圧に対応する信号は除去し、高調波信号のみを取り出す。
【0006】
図2は、前記フィルタ回路の一例を示す特性図で、系統周波数が50Hz、検査用の高調波信号の周波数が200Hz(第4高調波)の場合の例である。図2において、フィルタ回路は、系統周波数50Hの信号は殆ど通過しないが、200Hzの高調波信号は殆ど減衰することなく通過するような特性を有している。前記フィルタ回路を介して検出した高調波信号に基づいてアナログ回路部の故障の有無を検出する。
前記高調波重畳監視方式では、高調波信号を用いて故障検出するため、系統電圧の有無に拘わらず、保護継電装置の故障を常時監視することが可能になる。
【0007】
しかしながら、系統信号に検査用の高調波信号を重畳しているため、発電機出力が不安定だった場合、系統周波数が変動することが考えられる。この場合、系統信号が前記フィルタ回路を通過し、監視用の高調波信号と等価な周波数成分を抽出することになり、正確な故障の検出が困難になるという問題がある。
したがって、発電電力の有無に拘わらず、保護継電装置の故障を常時正確に検出することが困難という問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−333742号公報
【特許文献2】特開2004−289975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、系統電圧の有無に拘わらず、保護継電装置の故障を常時正確に検出できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の視点によれば、
相互に同一構成されると共に並列接続され所定周波数の信号を増幅して出力する第1、第2アナログ回路に、電力系統の系統電圧に関連する系統信号を入力し、
前記第1、第2アナログ回路の少なくとも一方の出力信号に基づいて、前記第1、第2アナログ回路に前記系統信号が入力されているか否かを判定し、
前記系統信号が前記第1、第2アナログ回路に入力されていると判定した場合には、前記第1、第2アナログ回路の出力信号の差が所定範囲以内のときは前記第1、第2アナログ回路が正常と判定する共に前記第1、第2アナログ回路の出力信号の差が前記所定範囲外のときは前記第1、第2アナログ回路の少なくとも一方が故障と判定し、
前記系統信号が前記第1、第2アナログ回路に入力されていないと判定した場合には、前記系統信号と区別可能な検査用信号を前記第1、第2アナログ回路に入力し、所定範囲以内の信号を出力している前記第1、第2アナログ回路は正常と判定すると共に前記所定範囲外の信号を出力している前記第1、第2アナログ回路は故障と判定することを特徴とする保護継電装置の故障検出方法が提供される。
【0011】
また、本発明の第2の視点によれば、
相互に同一構成されると共に並列接続され、電力系統の系統電圧に関連する系統信号を含む所定周波数の信号を増幅して出力する第1、第2アナログ回路と、
前記系統信号と区別可能な検査用信号を発生する信号発生手段と、
前記系統信号が前記第1、第2アナログ回路に入力されているか否かを判定し、前記系統信号又は前記検査用信号のいずれか一方を前記第1、第2アナログ回路に入力して前記第1、第2アナログ回路が故障か否かを判定し、前記第1、第2アナログ回路の少なくとも一方が故障している場合には装置が故障であることを通知する制御手段とを備えて成ることを特徴とする保護継電装置が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、系統電圧の有無に拘わらず、保護継電装置の故障を常時正確に検出することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態に係る保護継電装置のブロック図である。
【図2】従来の保護継電装置に使用されているフィルタ回路の特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の実施の形態に係る保護継電装置のブロック図である。
図1において、101は発電機、102は送電線、103は遮断器、105は本発明の実施の形態に係る保護継電装置である。発電機101は発電や発電停止が切り換えて行われるものであれば、プラントで使用される発電機でもよく又、一般事業者や一般家庭向けの発電機でもよい。発電機101が発電する電力の周波数(系統周波数)は、50Hzあるいは60Hzでもよいが、本実施の形態では50Hzとしている。
【0015】
保護継電装置105は、入力変換器106、第1アナログ回路107、第2アナログ回路108、デジタル処理部109、第3フィルタ回路115を備えている。第1、第2アナログ回路107、108は故障検出の対象となるアナログ回路である。デジタル処理部109は第1、第2アナログ回路107、108が故障しているか否か、電力系統に事故が生じているか否かを判定して電力供給の遮断を制御するデジタル回路部である。
【0016】
入力変換器106は、送電線102を介して入力された発電機101の発電電圧(系統電圧)を所定レベルに降圧して、前記系統電圧に対応する信号(系統信号)を出力する。前記系統信号は電力系統の系統電圧を表す信号であり、系統電圧に関連する信号である。
第1アナログ回路107は、送電線102の短絡事故等、電力系統の事故を検出するためのアナログ回路である。第1アナログ回路107と並列に設けられた第2アナログ回路108は、アナログ回路107が故障しているか否かを検査するために設けられたアナログ回路である。
【0017】
第1アナログ回路107は、抵抗R1、R2、R3及び増幅器A1から成る第1増幅回路116、コンデンサC1及び増幅器A2から成る第1フィルタ回路117によって構成されている。第1増幅回路116は入力変換器106からの系統信号をデジタル処理部109の処理に適したレベルに増幅して出力する。第1フィルタ回路117は、高周波ノイズ除去用のローパスフィルタであり、系統周波数及び後述する検査用信号を含む所定周波数の信号が通過するようにカットオフ周波数が定められている。本実施の形態では検査用信号として系統周波数の第4高調波信号(周波数が200Hzの信号)を使用しており、前記カットオフ周波数を150Hzとしている。
【0018】
第2アナログ回路108は第1アナログ回路107と特性が同一になるように同一構成となっている。即ち、第2増幅回路118は第1増幅回路116と同一構成であり、第2フィルタ回路119は第1フィルタ回路117と同一構成である。
第1アナログ回路107の出力部はデジタル処理部109のマルチプレクサ110の第1入力部に接続され、第2アナログ回路108の出力部はマルチプレクサ110の第2入力部に接続されている。また、第3フィルタ回路115の出力部は、マルチプレクサ110の第3入力部に接続されると共に、第1アナログ回路107及び第2アナログ回路108の入力部に接続されている。
【0019】
デジタル処理部109は、マルチプレクサ110、アナログ/デジタル(A/D)変換器111、制御部112、出力部113、デジタル/アナログ(D/A)変換器114を備えている。
マルチプレクサ110は、第1、第2アナログ回路107、108及び第3フィルタ回路115からのアナログ信号を選択的にA/D変換器111に出力する。A/D換器111は、マルチプレクサ110からのアナログ信号をデジタル信号に変換し制御部112に出力する。制御部112は、A/D変換器111の出力信号に対して、後述する処理を行う。
【0020】
制御部112は、フィルタ部120、判定部121、検査用信号をデジタル形式で発生する信号発生部122を有している。フィルタ部120は、系統周波数を判定部121へ通すが検査用信号の周波数は遮断する第1フィルタ部123と、図2に示したフィルタのように系統周波数は遮断するが検査用信号の周波数は判定部121へ通す第2フィルタ部124とを備えている。制御部112はハードウェアによって構成することができるが、中央処理装置(CPU)及びプログラムを用いてソフトウェア構成にすることができる。
【0021】
判定部121は、A/D変換器111の出力信号を、第1フィルタ部123、第2フィルタ部124のいずれか一方を介して受け取り、又は双方を介して時分割的に並列に受け取り、受け取った信号に関して後述するような所定の判定を行うことによって、出力部113のトリップ出力によって遮断器103の開閉制御を行ったり、信号発生部122に検査用信号の発生や停止を行わせる制御等を行う。
【0022】
信号発生部122からのデジタル信号形式の検査用信号は、D/A変換器114によってアナログ信号に変換された後、第3フィルタ回路115に入力される。第3フィルタ回路115は、コンデンサC2及び増幅器A3によって構成されたローパスフィルタであり、D/A変換器114から入力された検査用信号に含まれる高周波成分(歪み成分)を除去し、滑らかな正弦波の検査用信号を第1、第2アナログ回路107、108の入力部及びマルチプレクサ110の第3入力部へ出力する。
【0023】
尚、デジタル処理部109はデジタル処理手段を構成し、制御部112は制御手段を構成し、判定部121は判定手段を構成し、信号発生部122は信号発生手段を構成している。フィルタ部120はフィルタ手段を構成し、第1フィルタ部123は第1フィルタ手段を構成し、第2フィルタ部124は第2フィルタ手段を構成している。また、マルチプレクサ110はマルチプレクサ手段を構成し、A/D変換器111はA/D変換手段を構成し、D/A変換器114はD/A変換手段を構成している。
【0024】
上記のように構成された保護継電装置105の動作を以下に詳細に説明する。
先ず、発電機101が発電している状態において、保護継電装置105が電力系統の事故を検出するときの動作及び保護継電装置105が自身の故障を検出する動作を説明する。
発電機101が発電した電力は、送電線102及び正常時に閉状態にある遮断器103を介して、プラントに配設された各種機器(負荷)に送電される。保護継電装置105には、送電線102を介して系統電圧が入力される。
【0025】
入力変換器106を介して、前記系統電圧に対応する系統信号が第1、第2アナログ回路107、108に入力される。第1、第2アナログ回路107、108は同一構成であるため、これらが正常なときは、第1、第2アナログ回路107、108の出力信号は同一レベルになる。第1、第2アナログ回路107、108の出力信号は、マルチプレクサ110の第1、第2入力部に入力される。
【0026】
マルチプレクサ110は、その第1入力部に入力された第1アナログ回路107の出力信号と、その第2入力部に入力された第2アナログ回路108の出力信号とを、所定周期で時分割的に交互に直列に出力する。マルチプレクサ110から直列に出力された第1、第2アナログ回路の出力信号は、A/D変換器111によってデジタル信号に変換され、制御部112に入力される。
【0027】
制御部112では、判定部121が第1フィルタ部123を介して、デジタル形式の第1、第2アナログ回路107、108の出力信号を受け取ると、両出力信号のレベルの大小を判定する。第1、第2アナログ回路107、108が正常な場合は前記両信号のレベルは同じであり、設計誤差等のバラツキを考慮したとしても前記両信号のレベル差は所定範囲内になる信号である。したがって、判定部121は前記両信号のレベル差が所定範囲内の場合は第1、第2アナログ回路107、108が正常と判定する。
【0028】
また、このときの第1アナログ回路107の出力信号として一定のレベルの信号が得られている場合、即ち第1アナログ回路107の出力信号が所定範囲内にあるときは、正常な系統電圧が得られているため、電力系統に事故が生じていないと判定する。
電力系統に事故が発生すると、入力変換器106に入力される系統電圧が変化し、第1、第2アナログ回路107、108の出力信号のレベルが前記所定範囲外の値となる。この場合も第1、第2アナログ回路107、108の出力信号のレベル差が所定範囲内の場合には、判定部117は第1、第2アナログ回路107、108は正常と判定する。
しかしながら、第1アナログ回路107の出力信号のレベルが前記所定範囲外の値となるため、電力系統に事故が発生したと判定して、出力部113からトリップ出力を発生させて遮断器103を開状態に制御し、発電機101から各種負荷への電力供給を遮断する。
【0029】
一方、第1、第2アナログ回路107、108の一方が故障した場合、第1、第2アナログ回路107、108の出力信号のレベルが相互に異なることになる。判定部121は、マルチプレクサ110、A/D変換器111を介して入力された第1、第2アナログ回路107、108の出力信号の差が前記所定範囲外になる場合、第1、第2アナログ回路107、108のいずれかが故障したと判定して、出力部113から保護継電装置自身が故障であることを通知(装置故障出力)し、早急な復旧が行えるようにしている。
【0030】
尚、第1、第2アナログ回路107、108の双方が同時に故障し、且つ第1、第2アナログ回路の両出力信号のレベル差が前記所定範囲内になるような事態の発生は殆ど有り得ない。したがって、第1、第2アナログ回路107、108の出力信号の差が所定範囲以内のときは正常、前記所定範囲外のときは第1、第2アナログ回路107、108のいずれかが故障したと判定するようにし、第1、第2アナログ回路の少なくとも一方が故障したと判定した場合には、装置故障出力する事で保護装置の復旧を迅速に行い、装置の誤動作、誤不動作による大きな事故へ発展するような事態を防止する。
【0031】
次に、発電機101が発電を停止している状態において、保護継電装置105が自身の故障を検出する動作について説明する。
発電機101が発電を停止している状態では、系統電圧に対応する信号が入力変換器106から出力されない。したがって、第1、第2アナログ回路108の双方の出力信号が所定レベル以下となる。よって、第1、第2アナログ回路107、108からマルチプレクサ110及びA/D変換器111を介して制御部112に入力される信号は、各々、所定値以下の電圧となる。
【0032】
制御部112の判定部121は、第1フィルタ部123を介して得られる第1、第2アナログ回路107、108双方の出力信号が所定値以下になったと判定すると(換言すれば、発電機101の発電が停止したと判定すると)、信号発生部122に、アナログ回路107、108が正常か否かを検査するための信号である検査用信号を発生させる。前記検査用信号は、判定部121が系統電圧と区別することが可能な信号であればどのような信号でも良いが、本実施の形態では、系統周波数の高調波信号(本実施の形態では第4高調波信号、即ち、200Hzの信号)を使用している。
【0033】
信号発生部122から出力される検査用信号は、デジタル信号であり、D/A変換器114によってアナログ信号に変換され、第3フィルタ回路115によって滑らかなアナログ信号に変換された後、第1、第2アナログ回路107、108の各入力部及びマルチプレクサ110の第3入力部に入力される。第3フィルタ回路115から出力される検査用信号は歪み成分が除去された滑らかな正弦波信号である。
第1、第2アナログ回路107、108に入力された前記検査用信号は、第1、第2アナログ回路107、108を介して、マルチプレクサ110の第1、第2入力部に入力される。
【0034】
マルチプレクサ110は、並列に入力された第1アナログ回路107、第2アナログ回路108、第3フィルタ回路115の出力信号を、順に時分割的に所定周期でA/D変換器111に直列に入力する。A/D変換器111は、マルチプレクサ110から直列に順次入力される第1、第2アナログ回路107、108及び第3フィルタ回路115の出力信号を、デジタル信号に変換して順に制御部112へ入力する。
【0035】
制御部112の判定部121は、マルチプレクサ110の第3入力部に入力される信号については、第2フィルタ部124を介して検出するように構成されており、第3フィルタ回路115からマルチプレクサ110の第3入力部へ直接入力されている所定レベル(ノイズレベルよりも十分に大きいレベル)を超える検査用信号(第4高調波信号)を、第2フィルタ部124を介して検出することにより、信号発生部122から検査用信号が供給されていると判定する。
【0036】
判定部121は、検査用信号が供給されていると判定すると、マルチプレクサ110の第1入力部に入力されている第1アナログ回路107の出力信号の検出に際しては、第1フィルタ部123と第2フィルタ部124を所定周期で交互に切り換えて使用し、また、マルチプレクサ110の第2入力部に入力されている第2アナログ回路108の出力信号の検出に際しても、第1フィルタ部123と第2フィルタ部124を所定周期で交互に切り換えて使用して、A/D変換器111の出力信号を検出する。
【0037】
即ち、判定部121は、A/D変換器111の出力信号のうち、第1アナログ回路107の出力信号については第1フィルタ部123と第2フィルタ部124を所定周期で交互に切り換えることによって第1フィルタ部123と第2フィルタ部124の各々から出力される信号を検出し、第2アナログ回路108の出力信号についても第1フィルタ部123と第2フィルタ部124を所定周期で交互に切り換えることによって第1フィルタ部123と第2フィルタ部124の各々から出力される信号を検出する。判定部121は、第3フィルタ回路115からマルチプレクサ110に直接入力される検査用信号については、第2フィルタ部124を介して検出する。
【0038】
判定部121は、A/D変換器111の出力信号に基づいて第3フィルタ回路115からマルチプレクサ110へ検査用信号が直接入力されていることを検出している状態で、第1、第2アナログ回路107、108から出力される検査用信号のレベルがともに所定範囲内であれば、第1、第2アナログ回路107、108はともに正常と判定する。
【0039】
一方、判定部121は、A/D変換器111の出力信号に基づいて第3フィルタ回路115からマルチプレクサ110へ検査用信号が直接入力されていることを検出している状態で、第1、第2アナログ回路107、108から出力される検査用信号の少なくとも一方が所定範囲外の電圧レベルの場合は、前記所定範囲外のレベルの検査用信号を出力している第1アナログ回路107又は第2アナログ回路108は故障していると判定する。
このようにして第1、第2アナログ回路107、108が故障したか否かを検出することができる。
【0040】
判定部121は、第1、第2アナログ回路107、108の少なくとも一方が故障したと判定すると、出力部113から装置故障出力することで継電保護装置105の復旧を迅速に行い得るようにし、保護継電装置105自身の誤動作、誤不動作による大きな事故へ発展するような事態を防止する。
【0041】
発電機101が発電停止状態から発電を再開した場合、第1、第2アナログ回路107、108から系統電圧に対応する系統周波数の信号が出力される。第1、第2アナログ回路107、108の出力信号は、マルチプレクサ110、A/D変換器111介して、第1、第2フィルタ部123、124に入力される。
前述したように、判定部121は、第1、第2フィルタ部123、124を所定周期で交互に切り換えながら、第1、第2アナログ回路107、108の出力信号を検出している。したがって、判定部121は、第1、第2アナログ回路107、108から出力される系統周波数の信号を、第1フィルタ部123を介して検出する。
【0042】
判定部121は、第1、第2アナログ回路107、108の出力信号が所定範囲以内であると判定すると、信号発生部122が検査用信号を発生するのを停止させると共に、第1、第2アナログ回路107、108の出力信号判定にはフィルタ部123のみを用いるように制御する。これにより、前述したように、系統電圧が生じている場合の電力系統の事故検出及び保護継電装置105の故障検出が行われることになる。
以上のようにして、発電機101が発電中か否かに拘わらず、即ち、系統電圧が存在するか否かに拘わらず、常時、保護継電装置105の故障を検出することが可能になる。
【0043】
本発明の実施の形態に係る保護継電装置の故障検出方法は、
相互に同一構成されると共に並列接続され所定周波数の信号を増幅して出力する第1、第2アナログ回路107、108に、電力系統の系統電圧に関連する系統信号を入力し、
第1、第2アナログ回路107、108の少なくとも一方の出力信号に基づいて、第1、第2アナログ回路107、108に前記系統信号が入力されているか否かを判定し、
前記系統信号が第1、第2アナログ回路107、108に入力されていると判定した場合には、第1、第2アナログ回路107、108の出力信号の差が所定範囲以内のときは第1、第2アナログ回路107、108が正常と判定する共に第1、第2アナログ回路107、108の出力信号の差が前記所定範囲外のときは第1、第2アナログ回路107、108の少なくとも一方が故障と判定し、
前記系統信号が第1、第2アナログ回路107、108に入力されていないと判定した場合には、前記系統信号と区別可能な検査用信号を第1、第2アナログ回路107、108に入力し、所定範囲以内の信号を出力している第1、第2アナログ回路107、108は正常と判定すると共に前記所定範囲外の信号を出力している第1、第2アナログ回路107、108は故障と判定することを特徴とするように構成されている。
ここで、第1アナログ回路107の出力信号が所定範囲外のとき(換言すれば、前記出力信号が電力系統に事故が生じたことを表すとき)、前記電力系統から負荷へ供給する電力を遮断するように構成することができる。
したがって、発電機101が発電中か否かに拘わらず、即ち、系統電圧が存在するか否かに拘わらず、常時、保護継電装置105の故障を検出することが可能になる。
【0044】
また、本発明の実施の形態に係る保護継電装置105は、
相互に同一構成されると共に並列接続され、電力系統の系統電圧に関連する系統信号を含む所定周波数の信号を増幅して出力する第1、第2アナログ回路107、108と、
前記系統信号と区別可能な検査用信号を発生する信号発生部122と、
前記系統信号が第1、第2アナログ回路107、108に入力されているか否かを判定し、前記系統信号又は前記検査用信号のいずれか一方を第1、第2アナログ回路107、108に入力して第1、第2アナログ回路107、108が故障か否かを判定し、第1、第2アナログ回路107、108の少なくとも一方が故障している場合には装置が故障であることを通知する制御手段とを備えて成ることを特徴としている。
【0045】
ここで、前記制御手段は、
前記系統信号が第1、第2アナログ回路107、108に入力されていると判定した場合には、第1、第2アナログ回路107、108の出力信号の差が所定範囲以内のときは第1、第2アナログ回路107、108が正常と判定すると共に第1、第2アナログ回路107、108の出力信号の差が当該所定範囲外のときは第1、第2アナログ回路107、108の少なくとも一方が故障と判定し、
前記系統信号が第1、第2アナログ回路107、108に入力されていないと判定した場合には、前記検査用信号を第1、第2アナログ回路107、108に供給し、所定範囲以内の信号を出力している第1、第2アナログ回路107、108は正常と判定すると共に当該所定範囲外の信号を出力している第1、第2アナログ回路107、108は故障と判定するように構成することができる。
【0046】
また、前記制御手段は、前記系統信号が第1、第2アナログ回路107、108に入力されていると判定した場合において、第1アナログ回路107の出力信号を用いて前記電力系統に事故が生じたか否かを判定し、事故が発生したと判定したときは前記電力系統から前記負荷への電力供給を遮断するように構成することができる。
【0047】
また、第1、第2アナログ回路107、108は、各々、前記電力系統の系統周波数を含む所定周波数の信号を増幅して通過するように同一に構成され、
前記検査用信号は前記系統周波数の所定倍数の高調波信号であり、
前記制御手段は、
第1、第2アナログ回路107、108の少なくとも一方から所定電圧を超える信号が出力されている場合には、第1、第2アナログ回路107、108の出力信号の差が所定範囲以内のときは電力系統と負荷間に設けられた遮断器を閉状態に維持すると共に第1、第2アナログ回路107、108の出力信号の差が所定範囲外のときは装置が故障であることを通知し、
第1、第2アナログ回路107、108のいずれからも所定電圧を超える信号が出力されていない場合には、前記検査用信号を第1、第2アナログ回路107、108に入力して、第1、第2アナログ回路107、108双方の出力信号が所定範囲以内のときは前記遮断器を閉状態に維持すると共に第1、第2アナログ回路107、108の少なくとも一方の出力信号が前記所定範囲外のときは装置が故障であることを通知するように構成することができる。
【0048】
したがって、系統電圧の有無に拘わらず、保護継電装置105の故障を常時正確に検出することが可能になる。
尚、本実施の形態では、アナログ回路として、2つのアナログ回路107、108を用いた例を説明したが、複数であればいくつでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
架空送電線や地中送電線の事故検出等を行う保護継電装置及び保護継電装置の故障検出方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0050】
101・・・発電機
102・・・送電線
103・・・遮断器
105・・・保護継電装置
106・・・入力変換器
107・・・第1アナログ回路
108・・・第2アナログ回路
109・・・デジタル処理部
110・・・マルチプレクサ
111・・・A/D変換器
112・・・制御部
113・・・出力部
114・・・D/A変換器
115・・・第3フィルタ回路
116・・・第1増幅回路
117・・・第1フィルタ回路
118・・・第2増幅回路
119・・・第2フィルタ回路
120・・・フィルタ部
121・・・判定部
122・・・信号発生部
123・・・第1フィルタ部
124・・・第2フィルタ部
R1、R2、R3・・・抵抗
A1、A2、A3・・・増幅器
C1、C2・・・コンデンサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に同一構成されると共に並列接続され所定周波数の信号を増幅して出力する第1、第2アナログ回路に、電力系統の系統電圧に関連する系統信号を入力し、
前記第1、第2アナログ回路の少なくとも一方の出力信号に基づいて、前記第1、第2アナログ回路に前記系統信号が入力されているか否かを判定し、
前記系統信号が前記第1、第2アナログ回路に入力されていると判定した場合には、前記第1、第2アナログ回路の出力信号の差が所定範囲以内のときは前記第1、第2アナログ回路が正常と判定する共に前記第1、第2アナログ回路の出力信号の差が前記所定範囲外のときは前記第1、第2アナログ回路の少なくとも一方が故障と判定し、
前記系統信号が前記第1、第2アナログ回路に入力されていないと判定した場合には、前記系統信号と区別可能な検査用信号を前記第1、第2アナログ回路に入力し、所定範囲以内の信号を出力している前記第1、第2アナログ回路は正常と判定すると共に前記所定範囲外の信号を出力している前記第1、第2アナログ回路は故障と判定することを特徴とする保護継電装置の故障検出方法。
【請求項2】
前記第1アナログ回路の出力信号が所定範囲外のとき、前記電力系統から負荷へ供給する電力を遮断することを特徴とする請求項1記載の保護継電装置の故障検出方法。
【請求項3】
相互に同一構成されると共に並列接続され、電力系統の系統電圧に関連する系統信号を含む所定周波数の信号を増幅して出力する第1、第2アナログ回路と、
前記系統信号と区別可能な検査用信号を発生する信号発生手段と、
前記系統信号が前記第1、第2アナログ回路に入力されているか否かを判定し、前記系統信号又は前記検査用信号のいずれか一方を前記第1、第2アナログ回路に入力して前記第1、第2アナログ回路が故障か否かを判定し、前記第1、第2アナログ回路の少なくとも一方が故障している場合には装置が故障であることを通知する制御手段とを備えていことを特徴とする保護継電装置。
【請求項4】
前記制御手段は、
前記系統信号が前記第1、第2アナログ回路に入力されていると判定した場合には、前記第1、第2アナログ回路の出力信号の差が所定範囲以内のときは前記第1、第2アナログ回路が正常と判定すると共に前記第1、第2アナログ回路の出力信号の差が前記所定範囲外のときは前記第1、第2アナログ回路の少なくとも一方が故障と判定し、
前記系統信号が前記第1、第2アナログ回路に入力されていないと判定した場合には、前記検査用信号を前記第1、第2アナログ回路に供給し、所定範囲以内の信号を出力している前記第1、第2アナログ回路は正常と判定すると共に所定範囲外の信号を出力している前記第1、第2アナログ回路は故障と判定することを特徴とする請求項3記載の保護継電装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記系統信号が前記第1、第2アナログ回路に入力されていると判定した場合において、前記第1アナログ回路の出力信号を用いて前記電力系統に事故が生じたか否かを判定し、事故が発生したと判定したときは前記電力系統から前記負荷への電力供給を遮断することを特徴とする請求項3又は4記載の保護継電装置。
【請求項6】
前記第1、第2アナログ回路は、各々、前記電力系統の系統周波数を含む所定周波数の信号を増幅して通過するように同一に構成され、
前記検査用信号は前記系統周波数の所定倍数の高調波信号であり、
前記制御手段は、
前記第1、第2アナログ回路の少なくとも一方から所定電圧を超える信号が出力されている場合には、前記第1、第2アナログ回路の出力信号の差が所定範囲以内のときは電力系統と負荷間に設けられた遮断器を閉状態に維持すると共に前記第1、第2アナログ回路の出力信号の差が所定範囲外のときは装置が故障であることを通知し、
前記第1、第2アナログ回路のいずれからも所定電圧を超える信号が出力されていない場合には、前記検査用信号を前記第1、第2アナログ回路に入力して、前記第1、第2アナログ回路双方の出力信号が所定範囲以内のときは前記遮断器を閉状態に維持すると共に前記第1、第2アナログ回路の少なくとも一方の出力信号が前記所定範囲外のときは装置が故障であることを通知することを特徴とする請求項3乃至5のいずれか一に記載の保護継電装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−222964(P2012−222964A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86373(P2011−86373)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【Fターム(参考)】