説明

個包装肥料及び緑化資材、並びにそれらに係る方法

【課題】
可溶性のリン又はリン化合物を含有する、タールが除去された炭化物を利用した個包装肥料及び該個包装肥料を用いた施肥方法を提供すること。該炭化物を利用した緑化資材及び該緑化資材を用いた緑化方法を提供すること。
【解決手段】
可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化物を含む肥料1と、該肥料1を少なくとも内包する生分解性フィルム2と、を備えた個包装肥料A、及び、該個包装肥料Aを用いた施肥方法、を提供する。また、植物の種子3と、可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化物を含む肥料1と、前記植物の種子3及び前記肥料1を少なくとも内包する生分解性フィルム2と、を備えた緑化資材Bを提供する。前記可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化物は、例えば、炭化原料を数段階に分けて炭化処理することにより得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個包装肥料及び緑化資材、並びにそれらに係る方法に関する。より詳細には、可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化物を含む肥料と、前記肥料を内包する生分解性フィルムと、を備えた個包装肥料及び緑化資材、並びに、それらに係る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理などに用いられている活性汚泥法によって発生する汚泥、糞尿などの畜産廃棄物、食品産業廃棄物などの有機汚泥は、脱水・焼却などの処理を行ったのち、埋め立て処理されることが多かった。
【0003】
それに対し、近年、環境負荷の軽減などの観点から、有機汚泥の減量化又は有効活用が試みられている。例えば、有機汚泥を有効活用する技術として、汚泥を炭化処理する方法が提案されている。
【0004】
汚泥を炭化処理することにより得られる汚泥炭化物は、主に炭素と無機物から構成され、化学的に安定した性質を持ち、多孔質な構造を持つ。また、保水性、保気性、微生物担性などの性質を持つため、脱水助剤、脱臭剤、土壌改良材などへの利用に適している。
【0005】
特許文献1から特許文献4は、有機汚泥の炭化処理に関する先行文献である。特許文献5及び特許文献6は、生分解性樹脂で被覆した肥料に関する先行文献である。
【特許文献1】特開2002−1395号公報
【特許文献2】特開平10−290998号公報
【特許文献3】特開平6−144977号公報
【特許文献4】特開平7−242408号公報
【特許文献5】特開2000−26184号公報
【特許文献6】特開2002−284594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の汚泥炭化物等は、炭化処理工程において、リンが不溶化してしまうため、有効な肥料として利用することが難しかった。即ち、植物は、水溶性のリン又はリン化合物しか吸収できないため、リンが不溶化した汚泥炭化物は、肥料に適さないという問題があった。
【0007】
また、汚泥などの炭化原料を炭化処理する場合、原料中の有機化合物が熱分解する際に、タールが発生するという問題があった。即ち、タールは植物に対して毒性を示すため、タールを含有する炭化物は、肥料に適さないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、可溶性のリン又はリン化合物を含有し、タールが除去された炭化物を利用する個包装肥料及び該個包装肥料を用いた施肥方法を提供すること、並びに、前記炭化物を利用する緑化資材及び該緑化資材を用いた緑化方法を提供すること、を主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、まず、可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化物を含む肥料と、前記肥料を少なくとも内包する生分解性フィルムと、を備えた個包装肥料、及び、該個包装肥料を用いた施肥方法、を提供する。
【0010】
前記可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化物は、例えば家畜糞又は汚泥脱水ケーキなどの炭化原料を数段階に分けて炭化処理することにより得られる。具体的には、炭化原料を乾燥後、400℃〜600℃の低温度域で炭化及びタール除去する工程を含む炭化処理方法によって、可溶性のリン又はリン化合物を含有し、タールが除去された炭化物を得ることができる。なお、炭化原料としては、食品残渣、鶏糞その他の家畜糞、動物死骸、植物残渣等を用いてもよい。
【0011】
この炭化物は、可溶性のリン又はリン化合物を含有し、かつ、タールが除去されているため、肥料として用いることができる。即ち、植物の発芽・成長に必須なリン成分を含有し、植物に有害なタールを含有しないため、肥料として好適である。
【0012】
また、この炭化物は、原料の有機汚泥に含まれていた無機成分を多く保持しているため、植物に必須な微量元素、即ち、カルシウム、マグネシウム、硫黄、鉄、マンガン、亜鉛、銅、ホウ素、モリブデン、塩素などを含有する。従って、この炭化物を含む肥料は、植物の発芽・成長に好適である。なお、重金属などの植物に有害な元素は、公知の除去技術により、排除することができる。
【0013】
さらに、炭化物は多孔質な構造を持つため、前記肥料成分の流出を防ぎ、前記肥料成分を長期間残留させることができるという利点がある。即ち、本発明に係る肥料は、施肥効果を長期間持続できる。
【0014】
加えて、炭化物は、微生物担体としての機能を持ち、また、炭化物に各種元素が含有しているため、微生物の増殖に好適である。従って、本発明に係る肥料は、土壌中の微生物に好適な環境を提供できるという利点がある。さらに、炭化物に含まれる成分組成を調整することにより、特定の微生物の増殖を促し、土壌組成を改良することもできる。
【0015】
その他、炭化物は、多孔質な構造を持ち、保水性・保気性に優れるため、酸素及び水を保持しやすい。従って、本発明に係る肥料は、酸素及び水に富んだ、植物に好適な環境を提供できるという利点がある。
【0016】
一方、本発明に係る生分解性フィルムは、前記肥料を内包し、前記肥料の散乱・散逸を防止する。また、生分解性フィルムは、水や土壌中の微生物により分解されるため、本発明に係る個包装肥料自体による環境汚染を防止できる。
【0017】
加えて、生分解性フィルムは、分解性の異なるものが種々市販されているため、目的に適した生分解性フィルムを選択して用いることにより、肥効時期を調節することができるという利点がある。
【0018】
次に、本発明では、植物の種子と、可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化物を含む肥料と、前記植物の種子及び前記肥料を少なくとも内包する生分解性フィルムと、を備えた緑化資材を提供する。
【0019】
植物の種子と前記肥料をセットにして、生分解性フィルムに内包することにより、その植物の発芽・成長を促進できる。従って、例えば、本発明に係る緑化資材を散布することにより、裸地を効率的に緑化できる。
【0020】
なお、本発明に係る緑化資材は、軽量であり、落下速度も遅いため、空中散布など、外からの圧力・衝撃が強い散布方法を適用できるという利点がある。また、生分解性不織布を生分解性フィルムに内包させることにより、植物の種子・肥料などの破損を有効に防止できる。
【0021】
以下、定義づけを行う。本発明において、「個包装」は、所定数量の肥料を一単位として包装することである。「汚泥脱水ケーキ」は、下水処理などに用いられている活性汚泥法等によって発生する汚泥、産業排水由来の汚泥、糞尿などの畜産廃棄物、食品産業廃棄物などの有機汚泥に脱水処理を施したものを広く包含する。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、下水処理などに用いられている活性汚泥法等によって発生する汚泥、産業排水由来の汚泥、糞尿などの畜産廃棄物、食品産業廃棄物などの有機汚泥に脱水処理を施した汚泥脱水ケーキ等から得られた炭化物を、肥料として有効利用することができる。また、この炭化物肥料を生分解性フィルムに所定量包んで個包装化することによって、肥効時期や発芽時期等の調整が容易になるので、土壌への施肥、裸地の緑化、土壌の改良等に広く利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
まず、本発明に係る個包装肥料Aの好適な形態の一例を、図1を用いて説明する。
【0024】
図1に示す個包装肥料Aは、可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化物を含む肥料1と、肥料1を少なくとも内包する生分解性フィルム2と、を備える。
【0025】
個包装肥料Aの外形は、包装物(肥料1など)の形状・量などにより異なる。例えば、個包装肥料Aの外形を略平面形状又は略扁平形状にした場合、大量の個包装肥料Aを重ねて小さなスペースに詰め込むことができるため、運搬を容易にし、散布労力などを軽減することができる。また、上空から散布する場合、個包装肥料Aの外形を略平面形状又は略扁平形状にすることにより、落下の際の個包装肥料Aの空気抵抗を大きくできるため、落下速度を遅くすることができる。
【0026】
肥料1は、可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化物を含むものであればよく、例えば、前記炭化物に、他の有機成分・無機成分、植物成長促進剤、土壌改良剤などが添加されていてもよい。可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化肥料の好適な製造工程の一例については、後述する。
【0027】
肥料1の形態は、特に限定されない。例えば、炭団・豆炭のような形状や、フレーク状、ペレット状、グラニュール状、タブレット状、粉状などの形態のものを用いることができる。また、生分解性フィルム2に内包する肥料1の量・個数は、目的に応じて、適宜定めることができる。
【0028】
生分解性フィルム2としては、例えば、PHB(ポリヒドロキシブチレート)、PCL(ポリカプロラクトン)、PBS(ポリブチレンサクシネート)、PLA(ポリ乳酸)、PVA(ポリビニルアルコール)などの樹脂若しくはそれらを適宜組み合わせた樹脂からなるフィルムを用いることができる。これらの物質は、水・微生物などにより分解されるため、個包装肥料Aの散布による自然環境の汚染を防止できる。
【0029】
生分解性フィルム2は、包装物(肥料1など)を被包できればよく、形態は特に限定されない。例えば、袋状の生分解性フィルムを用いる場合、袋内に包装物を入れ、袋の開口部をシール、締結などして密封する。また、2枚のシート状の生分解性フィルムを用いる場合、2枚の生分解性フィルムの間に包装物を挟み、フィルムの周縁をシールして密封する。その他、生分解性フィルムにギャザーやエンボス加工を施してもよい。
【0030】
生分解性フィルム2は、水に対する溶解性の異なる種々のフィルムが市販されているため、目的に応じて、適した溶解性を持つ生分解性フィルムを選択することにより、分解時期(タイミング)を調整できる。例えば、個包装肥料Aの散布後、早期に生分解性フィルム2を分解させたい場合は、水に対する溶解性の高い生分解性フィルムを選択して用いることにより、分解時期を早くすることができる。従って、本発明に係る個包装肥料Aを用いることにより、肥効時期を調整できる。なお、生分解性フィルム2の水に対する溶解性の調節は、分子量(重合度)・けん化度の調節、塩類・低分子化合物などの添加、他の生分解性プラスチックとの混合、などにより行うことができる。
【0031】
なお、生分解性フィルム2は、水に溶解した場合粘着性を持つため、分解後生じる粘着性により、内包した包装物(肥料1など)を、散布した箇所に付着させることができる。そのため、散布後の包装物の流出を防ぎ、それらを散布箇所に固定・定着させることができる。また、生分解性フィルム2は、分解後、それ自体が植物の栄養分となるという利点がある。
【0032】
次に、本発明に係る緑化資材Bの好適な形態の一例を、図1を用いて説明する。
【0033】
図2に示す緑化資材Bは、植物の種子3と、可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化物を含む肥料1と、前記植物の種子3及び肥料1を少なくとも内包する生分解性フィルム2と、を備える。肥料1及び生分解性フィルム2は、前記と同様である。
【0034】
植物の種子3と肥料1をセットにして、生分解性フィルム2で被包することにより、緑化資材Bを散布するだけで簡易に植物を栽培することができ、緑化資材B散布後の、その植物の発芽・生長を促進できる。その他、植物を栽培する際に、肥料を施したり、植物の生育に好適な成分を与えたりする労力を軽減できる。
【0035】
また、生分解性フィルム2で植物の種子を被包し、生分解性フィルム2が分解するまで、植物の種子3の発芽を防止できるという利点がある。従って、適した溶解性を持つ生分解性フィルムを選択することにより、発芽時期を調整できる。
【0036】
次に、図3のフロー図を用いて、炭化肥料の好適な製造工程の一例について説明する。
【0037】
まず、図3中の符号Rは、炭化肥料の原料の一例である「脱水汚泥ケーキ」を示している。この脱水汚泥ケーキRは、有機性汚泥を脱水処理したものが広く含まれる。例えば、下水などの排水や廃水を活性汚泥法によって処理したときに生ずる最終汚泥や余剰汚泥などの汚泥を脱水処理したもの、あるいは食品産業廃棄物、畜産廃棄物、製紙工場から排出される廃棄物、植物性産業廃棄物などからなる有機性汚泥を脱水処理したものが含まれる。
【0038】
一般に、含水率が、例えば70〜80%程度とされた脱水汚泥ケーキRは、搬送コンベアなどによって前処理工程Pへ移される。この前処理工程Pは、脱水汚泥ケーキRを水分15重量%程度、望ましくは水分10重量%以下に乾燥する工程である。
【0039】
次に、前処理工程Pを担う乾燥炉などの乾燥装置から排出された乾燥物Xを、続いて、第一炭化工程P1へ移行させる。この第一炭化工程Pを担う炭化装置としては、バッチ式又は連続式の外熱式回転炉などの炭化炉を適宜採用することができる。炭化の温度条件は、400〜600℃、より好適には400〜500℃、特に好適には500℃程度に設定し、例えば、約1〜2時間かけて炭化処理を行う。
【0040】
この温度条件は、一般的な汚泥の炭化温度である800〜1000℃よりもかなり低温域であるので、多孔質な炭化物を得ることができ、かつ汚泥中に含まれているリン又はリン化合物、カリウムなどの無機成分を可溶性の状態に確実に維持することができる。即ち、これらの無機成分を、植物が利用可能な肥料有効成分として機能する状態に保持することができる。
【0041】
但し、上記第一炭化工程Pにおける温度条件は、従来、いわゆる「燻炭」を製造するときに採用される程度の低温条件に相当又は近似するものであるから、第一炭化工程Pから得られる一次炭化物Yには、植物に有害なタール成分が含まれている。このため、この段階での一次炭化物Yは、まだ、肥料や土壌改良材などへの使用には適さない。
【0042】
そこで、目的の最終製造物である汚泥炭化物中のタール成分をできるだけ少なくするために、この第一炭化工程Pの過程において、該工程Pを担う一次炭化装置(図示せず。)内からタール成分を含む乾留ガスGを抜き取り、該工程Pの過程で、炭化物に対する乾留ガスGの接触量をできるだけ低減しておくようにする。
【0043】
第一炭化工程Pでの乾留ガスGの抜き取り位置は、一次炭化装置の入り口側が望ましい(この点、後述の第二炭化工程Pでも同様)。この一次炭化装置内で発生した乾留ガスGを、該装置の入り口側に吸引などして集め、除去することによって(即ち、向流式)、炭化がより進行する前記装置内の後半側における乾留ガスG量を有効に減少させる。この結果、後続の炭化工程(ここでは、第二炭化工程P)へ持ち込まれる、第一炭化工程Pで発生したタール成分の量を、有効に減少させることができる。
【0044】
その上で、前記第一炭化工程Pから得られる一次炭化物Yを、スクリューコンベアなどの手段を介して、この第一炭化工程Pを担う炭化装置とは別個独立に配置された二次炭化装置(図示せず。)へ移送し、第二炭化工程Pを行うようにする。
【0045】
この第二炭化工程Pを担う二次炭化装置についても、前記一次炭化装置同様に、バッチ式又は連続式の外熱式回転炉などの炭化炉を適宜採用することができる。また、炭化の温度条件についても、第一炭化工程Pと同様に、400〜600℃、より好適には400〜500℃を採用し、特に好適には500℃程度を採用する。また、炭化時間についても、上記第一炭化工程Pと同様に、例えば、約1〜2時間かけて行うようにする。
【0046】
なお、第二炭化工程Pの炭化温度条件は、上記第一炭化工程Pの炭化温度条件と同一でもよいが、これよりも低い温度条件を採用することによって、省エネルギーを達成することも可能である。
【0047】
この第二炭化工程Pも上記第一炭化工程Pと同等の低温の条件を採用したため、汚泥中に含まれているリン又はリン化合物、更にはカリウムなどの無機成分を可溶性の状態に維持することができる。即ち、これらの無機成分を、植物が利用可能な肥料有効成分として機能する状態に保持することができる。
【0048】
また、この第二炭化工程Pは、二回目の炭化処理を行う工程であるとともに、該工程Pを担う二次炭化装置内へ一次炭化物Yとともに持ち込まれたタール及び該工程Pの過程で新たに発生したタールを、乾留ガスGとして除去するための工程としても機能する。
【0049】
第二炭化工程Pから得られる二次炭化物Yは、炭化がより進行した状態にあり、かつタールが除去されている。この二次炭化物Yを搬送コンベアなどによって冷却工程Pに移送して、ハンドリングし易い温度まで冷却し、汚泥炭化肥料Zとする。
【0050】
なお、この方法により製造した汚泥炭化肥料は、上記の通り、可溶性のリン又はリン化合物、カリウムなど植物に有効な成分を含み、植物に有害なタール成分を含まないため、肥料又は土壌改良材として用いることができる。また、汚泥炭化肥料は、多孔質であり、それ自体に植物の根が根付きやすいという利点がある。その他、汚泥炭化肥料を用いることには、活性汚泥や畜産廃棄物などを有効利用でき、環境負荷を軽減できるという利点がある。
【0051】
次に、本発明に係る個包装肥料Aの好適な形態の別の一例を、図4を用いて説明する。なお、以下の形態は、緑化資材Bにも適用可能である。
【0052】
図4に示す個包装肥料Aは、可溶性のリン又はリン化合物を含有した汚泥炭化物を含む肥料1と、肥料1を少なくとも内包する生分解性フィルム2と、クッションとしての機能を持つ生分解性不織布4とから構成されている。肥料1及び生分解性フィルム2の構成・機能は、前記と同様である。
【0053】
生分解性不織布4の材質は、特に限定されないが、軟質系のものが、クッション性を有しやすい点、及び、柔軟性に富む点から好ましい。軟質系の生分解性樹脂としては、例えば、PES(ポリエチレンサクシネート)、PCL(ポリカプロラクトン)、PBS(ポリブチレンサクシネート)、及びそれらを組み合わせた樹脂などがある。
【0054】
これらの生分解性樹脂からなる不織布は、クッション性を持つため、個包装肥料Aへの外からの圧力・衝撃などから、包装物(肥料1など)を保護できる。また、これらの生分解性不織布は、構成する繊維が柔軟性に富み、ある程度伸縮自在であるため、植物の成長(芽・幹の太さ)にあわせて、不織布の繊維の隙間Mの大きさを自在に拡げることができるという利点もある。
【0055】
生分解性不織布4の形態は、特に限定されない。例えば、袋状の生分解性不織布を用いて包装物を被包してもよいし、2枚の生分解性不織布の間に包装物を挟みこむような形態にしてもよい。生分解性不織布4を用いることにより、包装物(肥料1など)の破砕を防止できる。
【0056】
また、生分解性不織布2は柔軟性に富むため、個包装肥料Aが散布した箇所に定着した後、不織布の繊維の隙間Mから、植物が発芽・成長できる。その他、生分解性の不織布を用いることにより、植生基材A自体による自然環境の汚染を防止できるという利点がある。
【0057】
なお、図4では、不織布の繊維の隙間Mを格子状に記載したが、不織布の繊維の隙間Mの形状は、格子状に限定されず、また、規則的な形状に限定されない。
【0058】
次に、図5を用いて、複数の個包装肥料Aを分離可能に接合した実施形態の一例について、以下説明する。
【0059】
図5中、各個包装肥料Aは、図4と同様、肥料1と、生分解性フィルム2と、生分解性不織布4とから構成されている。
【0060】
なお、図5では、4つの個包装肥料A、A、A、Aを2個ずつ2列に並べて接合しているが、本発明は、図5のように接合している場合に狭く限定されず、どのような配列で接合している場合も包含される。また、本発明は、複数が接合している場合に狭く限定されない。
【0061】
図5では、複数の植生基材A、A、A、Aが、接合部5を介して接合している。接合部5は、分離可能な構成にすることが好ましい。例えば、接合部5にミシン目を形成することにより、ミシン目に沿って、各個包装肥料Aを容易に分離できる。なお、ミシン目の形成は、例えば、個包装肥料A製造時において、生分解性フィルム2を熱圧着などで密封する際に、同時に行うことができる。
【0062】
個包装肥料Aを製造する際には、複数の個包装肥料Aを接合させた状態で生産することにより、大量生産が可能になり、製造コストを低く抑えることができる。また、個包装肥料Aを運搬する際にも、複数の個包装肥料Aを接合させた状態にすることにより、複数の個包装肥料Aを同時に扱うことができる。加えて、省スペース化を図ることができ、コンパクトに運送用箱などに収納できるため、運搬労力を軽減できる。
【0063】
なお、個包装肥料Aを散布する際には、目的に応じて、複数の個包装肥料Aを接合させた状態で散布してもよいし、各個包装肥料Aを分離後、それぞれを散布してもよい。
【0064】
続いて、本発明に係る方法について、以下、説明する。
【0065】
<個包装肥料Aを用いた施肥方法について>
本発明に係る個包装肥料Aを散布することにより、施肥を行うことができる。また、適した生分解性フィルム2を用いることにより、施肥時期、肥効時期を調整できる。
【0066】
本発明に係る個包装肥料Aの散布方法は、特に限定されないが、例えば、ヘリコプターなどを用いて上空から散布する、散布箇所に並べて配置する、などの方法を用いることができる。
【0067】
ヘリコプターなどを用いて上空から散布する場合、次のような利点がある。個包装肥料Aは、軽量でかつ落下時の空気抵抗が大きいため、落下速度が遅く、上空から散布しても、内容物(肥料1など)が破損・破砕しないという利点がある。また、人や車などの入りにくい奥地などにも植生基材を散布できる、短時間で広い範囲に散布可能である、散布労力を大幅に削減できる、などの利点がある。
【0068】
<緑化資材Bを用いた緑化方法について>
本発明に係る緑化資材を散布することにより、裸地などを緑化できる。また、適した生分解性フィルム2を用いることにより、発芽時期を調整できる。発芽時期の調整は、例えば、積雪など気候条件により、散布時期が限定される場合に、有用である。なお、緑化資材Bの散布方法は、前記と同様である。
【実施例1】
【0069】
本発明者は、まず、炭化肥料の原料の一例である汚泥脱水ケーキ中のリン成分と炭化処理温度との関係を検証するための「試験1」を行った。
【0070】
使用した汚泥脱水ケーキは、前橋市六供町下水処理場から採取した汚泥脱水ケーキを1kg単位でそれぞれ、300℃、400℃、500℃、600℃、700℃、800℃の各温度条件で炭化処理したサンプル、並びに汚泥自然乾燥サンプル(対照区)における、全リン(T-P)、クエン酸可溶性リン(C−P)、可溶性リン(S−P)、水溶性リン(W−P)を、肥料分析法に基づいて測定した。その測定結果を次の「表1」に示す。なお、表1中の数値の単位は、mg/(汚泥脱水ケーキ)1kgである。
【0071】
【表1】

【0072】
この表1に示すように、700℃、800℃の高温条件では、汚泥乾燥物と比較して、クエン酸可溶性リンは23%前後まで低下し、可溶性リンも55%以下に低下している。温度600℃は、可溶性リンは、72%程度の低下に留まっており良好であるが、クエン酸可溶性リンは30%程度まで低下している。
【0073】
従って、炭化効率も併せて考えれば、400〜600℃、特に、400〜500℃の範囲の温度設定により炭化処理を行うのが好適と考えられる。
【0074】
次に、群馬県・県央水質浄化センターで採取した汚泥脱水ケーキを、図3に示す工程に準拠する方法に基づいて炭化処理して、汚泥炭化物(試料1及び試料2)を得て、この汚泥炭化物の肥料成分組成を分析する「試験2」を行なった。なお、炭化処理の温度条件は500℃に設定した。この汚泥炭化物の肥料成分組成を分析した結果を、次の「表2」に示す。なお、表2中のILは、強熱減量(ignition loss)、ECは、電気伝導度(electric conductivity)をそれぞれ示す。
【0075】
【表2】

【0076】
前掲の「表2」に示された汚泥炭化物を用いて、植害発生の有無を検証するための「試験3」を行った。
【0077】
具体的には、腐植質黒ボク土壌を土壌酸度が小松菜の生育に影響がない状態に矯正し、窒素、リン、カリ等の肥料成分が小松菜の正常な生育が保てる量、より詳しくは、試験容器の土壌に対して窒素成分とリン酸成分及びカリ成分をそれぞれ100ミリグラム添加し、更に本発明によって得られた汚泥炭化物を全リン酸として試験容器の土壌に対して1000ミリグラムまでの範囲で添加して、内径11.3cm、高さ6.5cmのプラスチック製有底ポットに収容し、小松菜の種子を播いて、発芽障害を含む生育障害の有無を検証した。
【0078】
本試験3の結果を以下の「表3」、「表4」に示す。なお、「表3」は発芽率を示し、「表4」は21日間栽培した小松菜の乾燥重量と異常生育の有無を示している。
【0079】
【表3】



【0080】
【表4】

【0081】
前掲の「表3」並びに「表4」に示したとおり、本発明によって得られた汚泥炭化物を大量に施用した場合でも、全く植害は観察されなかった。従って、本発明によって得られた汚泥炭化物は、植物に有害なタールや重金属の量が少ないことが明らかになったことから、この汚泥炭化物は、肥料や緑化材料などに利用することができる。
【0082】
次に、汚泥炭化物の施用量と小松菜のリン酸含有率の関係を調べるための「試験4」を行なった。
【0083】
具体的には、資材無施用においてリン酸欠乏のために生育が阻害される条件の土壌において、本発明によって得られる汚泥炭化物の施用量を増加させて、増施した場合に起こる植物に対する生育改善効果を検証すると同時に小松菜のリン酸含有率に対する影響を調べた。
【0084】
より詳しくは、具体的には有効態リン酸が乾燥土壌100グラム当たり1mg以下しか存在しない栽培履歴のない淡色黒ボク土壌(赤土)に対して、窒素成分とカリ成分を試験容器当たり100mg添加し、リン酸成分以外の因子が小松菜の生育に何らの影響も与えない状態に調整した上で、内径11.3cm、高さ6.5cmのプラスチック製有底ポットに収容し、小松菜の種子を播いて3週間栽培した。この時、本発明によって得られる汚泥炭化物の施用量を、試験容器に収容する乾燥土壌100g当たりリン酸成分で10mg、20mg、40mg,80mg、160mgに設定した。
【0085】
本試験4の結果を、以下の「表5」に示す。この「表5」は3週間栽培した小松菜の乾物重量を示している。また、地上部のリン酸含有率と汚泥炭化物の施用量の関係を調べた結果を「表6」に示す。図6は、この「表6」に示す結果を示す図面代用グラフである。
【0086】
【表5】



【0087】
【表6】

【0088】
この「試験4」の結果からわかるように、汚泥炭化物の施用量が増加するにつれて、試験栽培した小松菜の乾燥重量やリン酸含有率が増加していることが明らかであるから、この汚泥炭化物に含まれるリン又はリン化合物は、植物に利用される可溶性の状態であることが確認できた。
【0089】
即ち、炭化処理の過程を経ても、肥料有効成分としてリン又はリン化合物が残留しているので、これを汚泥炭化肥料や緑化材料などに利用することができることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、有機汚泥、食品残渣、植物残渣、家畜糞等の再利用手段として利用することができる。また、本発明に係る個包装肥料及び緑化資材は、上空から散布可能であり、広い範囲の施肥、緑化事業、土壌改良等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明に係る個包装肥料Aの構成を示す模式図。
【図2】本発明に係る緑化資材Bの構成を示す模式図。
【図3】汚泥炭化肥料の好適な製造工程の一例を示すフロー図。
【図4】本発明に係る個包装肥料Aの別の形態を示した模式図。
【図5】複数の個包装肥料Aを分離可能に接合した実施形態の一例を示す模式図。
【図6】実施例1中の、試験4、「表6」の結果を示す図面代用グラフ。
【符号の説明】
【0092】
1 肥料
2 生分解性フィルム
3 植物の種子
4 生分解性不織布
A 個包装肥料
B 緑化資材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化物を含む肥料と、
前記肥料を少なくとも内包する生分解性フィルムと、
を備えた個包装肥料。
【請求項2】
前記可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化物は、炭化原料を数段階に分けて炭化処理することにより得られたものであることを特徴とする請求項1記載の個包装肥料。
【請求項3】
前記可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化物は、炭化原料を乾燥後、400℃〜600℃の低温度域で炭化及びタール除去する工程を含む炭化処理方法によって得られたものであることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の個包装肥料。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項記載の個包装肥料を用いた施肥方法。
【請求項5】
植物の種子と、
可溶性のリン又はリン化合物を含有した炭化物を含む肥料と、
前記植物の種子及び前記肥料を少なくとも内包する生分解性フィルムと、
を備えた緑化資材。
【請求項6】
請求項5記載の緑化資材を、裸地に散布することを特徴とする緑化方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−56760(P2006−56760A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−242814(P2004−242814)
【出願日】平成16年8月23日(2004.8.23)
【出願人】(000240293)
【Fターム(参考)】